(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121015
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】可動型カテーテル
(51)【国際特許分類】
A61M 25/092 20060101AFI20240829BHJP
【FI】
A61M25/092 500
A61M25/092 510
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024108115
(22)【出願日】2024-07-04
(62)【分割の表示】P 2021508885の分割
【原出願日】2020-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2019055397
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504177284
【氏名又は名称】国立大学法人滋賀医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】谷 徹
(72)【発明者】
【氏名】山田 篤史
(72)【発明者】
【氏名】嶋 辰也
(72)【発明者】
【氏名】米道 渉
(57)【要約】
【課題】操作性および挿入性を両立的に向上し得る可動型カテーテルを提供すること。
【解決手段】遠位端および近位端を有する可撓性のチューブ2を有する可動型カテーテルである。チューブ2は、軸心方向に圧縮力を受けても実質的に柔軟性が変化しない第1チューブ部(シース本体部20)と、該第1チューブ部の遠位端に連続するように接合され、軸心方向に作用する圧縮力の程度に応じて圧縮されて硬質となり、該圧縮力が解除されることにより元に戻って軟質となる多孔質チューブで構成された第2チューブ部(偏向部21)とを備え、第2チューブ部を軸心方向に圧縮する圧縮力および該第2チューブ部を偏向させる偏向力を解除可能に作用させる操作手段(ワイヤW1,W2)を有する。
【選択図】
図2B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内に挿入される遠位端および体外に配置される近位端を備える可撓性のチューブを有する可動型カテーテルであって、
前記チューブは、軸心方向に圧縮力を受けても実質的に柔軟性が変化しないシース本体部と、該シース本体部の遠位端に連続するように配置され、ポリテトラフルオロエチレンを多孔質化して得られた多孔質チューブで構成された偏向部とを備え、
前記偏向部を偏向させる偏向力を解除可能に作用させる操作手段を有する可動型カテーテル。
【請求項2】
前記チューブは、該チューブの管壁内に、該チューブの近位端部から遠位端部に至る互いに離間して配置された少なくとも3本のワイヤ用ルーメンを備え、
前記操作手段は、一端部側の略半分が前記ワイヤ用ルーメンの一つに挿通され、中間部分が前記偏向部の遠位端部で折り返されて、他端部側の略半分が前記ワイヤ用ルーメンの他の一つに挿通され、一端部および他端部が前記シース本体部の近位端に至っている少なくとも2本のワイヤを備える請求項1に記載の可動型カテーテル。
【請求項3】
前記チューブは、該チューブの管壁内に、該チューブの近位端部から遠位端部に至る互いに離間して配置された少なくとも3本のワイヤ用ルーメンを備え、
前記操作手段は、遠位端が前記偏向部の遠位端部に接続され、前記ワイヤ用ルーメンの一つに挿通されて、近位端が前記シース本体部の近位端に至っている少なくとも3本のワイヤを備える請求項1に記載の可動型カテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の治療や検査等を行うために用いられる医療用処置具であるカテーテルに関し、特に、先端部等を自在に偏向することが可能な可動型カテーテル(Steerable Catheter)に関する。
【背景技術】
【0002】
体腔、管腔または血管等を通して、各種の臓器(たとえば、胆管、心臓)等の目的組織まで挿入される医療用処置具(たとえば、造影剤注入用カテーテル、電極カテーテル、アブレーションカテーテル、カテーテルシースを含む)として、その挿入や目的組織への接近の容易化等を図るため、体内に挿入されるカテーテルの先端(遠位端)の向きを、体外に配置されるカテーテルの基端(近位端)側に設けられた操作部を操作することにより偏向できるようにした可動型のカテーテルが知られている(たとえば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1に記載のカテーテルは、胆管内の検査のために胆管内にX線造影剤を注入するためなどに用いられる内視鏡用のカテーテルであって、内視鏡を介して十二指腸内まで挿入されたのち、先端部を十二指腸側から十二指腸乳頭に挿入して胆管内に到達させやすいように、体外側から操作ワイヤを操作する(押し出しまたは引っ張る)ことによって、先端部を偏向(湾曲)操作できるようにしたカテーテルである。この特許文献1に記載のカテーテルは、造影剤を注入するためなどに用いられる大径のルーメンとは別に、先端部を偏向操作するための操作ワイヤが挿入されるルーメンを有していて、操作ワイヤはカテーテルの先端部に設けられた先端チップとプラズマ溶接などの手段によって接合されているため、体外側の操作ワイヤを引っ張ることにより、カテーテルの先端部を偏向させることができる。
【0004】
特許文献2に記載の先端可動カテーテルは、心臓に対してカテーテルアブレーション処置を行うためにアブレーションカテーテルを心臓の処置すべき部位まで案内するためなどに用いられるカテーテルであって、アブレーションカテーテルの先端を心臓の所望の位置に案内しやすいように、体外側から操作部を操作することによって、先端部を偏向(湾曲)操作できるようにしたカテーテルである。この特許文献2に記載されたカテーテルを構成するカテーテルチューブは、各種の処置具が挿入されるメインルーメンの他に、その管壁内の互いに180°対向する位置に、一対のワイヤ用ルーメンを有している。そして、カテーテルチューブの先端部の偏向すべき部分は、たとえば先端に行くにしたがってその剛性が段階的に低く設定されており、その先端部に一体的に装着されたリング(プルリング)に、ワイヤ用ルーメンのそれぞれに挿通された一対のワイヤのそれぞれの先端をレーザ溶接などの手段により接続し、該一対のワイヤのそれぞれの基端は操作部に接続してある。そして、その操作部を操作することによって、一方のワイヤを引っ張り、他方のワイヤを弛ませて、チューブ先端の向きを制御できるようにしている。
【0005】
ところで、この種の可動型カテーテルでは、可動部(偏向部)はワイヤの操作により容易かつ自在に偏向(湾曲)させ得る程度の柔軟性を有する必要がある。しかしながら、操作性を考慮して柔軟(軟質)な構成にすると、たとえば胆管等の管腔内の狭窄部を突破(貫通)させるような場合に屈曲や座屈が生じてしまい、挿入性が低下するおそれがある。反対に、操作性を考慮して剛直(硬質)な構成にすると、操作性が犠牲になるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-272675号公報
【特許文献2】特開2014-188039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、操作性および挿入性を両立的に向上し得る可動型カテーテルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る可動型カテーテルは、
体内に挿入される遠位端および体外に配置される近位端を備える可撓性のチューブを有する可動型カテーテルであって、
前記チューブは、軸心方向に圧縮力を受けても実質的に柔軟性が変化しない第1チューブ部と、該第1チューブ部の遠位端に連続するように接合され、軸心方向に作用する圧縮力の程度に応じて圧縮されて硬質となり、該圧縮力が解除されることにより元に戻って軟質となる多孔質チューブで構成された第2チューブ部とを備え、
前記第2チューブ部を軸心方向に圧縮する圧縮力および該第2チューブ部を偏向させる偏向力をそれぞれ解除可能に作用させる操作手段を有する。
【0009】
本発明に係る可動型カテーテルによれば、操作手段を適宜に操作して、第2チューブ部に圧縮力をなるべく作用させずに軟質な状態を維持したまま、第2チューブ部に偏向力を作用させることにより、第2チューブ部を偏向させることができ、このとき第2チューブ部は軟質な状態であるから、良好な操作性を実現することができる。一方、たとえば胆管等の体内管腔内の狭窄部を突破(貫通)させるような場合には、操作手段を適宜に操作して、第2チューブ部に圧縮力を作用させて硬質な状態とすることにより、屈曲や座屈が生じることを抑制することができ、挿入性を向上することができる。したがって、操作性および挿入性を両立的に向上し得る可動型カテーテルを提供することができる。
【0010】
本発明に係る可動型カテーテルにおいて、前記チューブは、該チューブの管壁内に、該チューブの近位端部から遠位端部に至る互いに離間して配置された少なくとも3本のワイヤ用ルーメンを備え、前記操作手段は、一端部側の略半分が前記ワイヤ用ルーメンの一つに挿通され、中間部分が前記第2チューブ部の遠位端部で折り返されて、他端部側の略半分が前記ワイヤ用ルーメンの他の一つに挿通され、一端部および他端部が前記第1チューブ部の近位端に至っている少なくとも2本のワイヤを備えることができる。第2チューブ部に圧縮力が作用するように各ワイヤ間で同じ引張力で全てのワイヤ(またはワイヤ用ルーメンの配置に応じた適宜な一部のワイヤ)のそれぞれの両端部(一端部および他端部)を引っ張ることにより、第2チューブ部を硬質な状態とさせ得る。また、第2チューブ部に偏向力が作用するように各ワイヤ間で引張力に差をつけて引っ張る(または一部のワイヤのみ引っ張る)ことにより、該引張力の差に応じて第2チューブ部を偏向させ得る。
【0011】
本発明に係る可動型カテーテルにおいて、前記チューブは、該チューブの管壁内に、該チューブの近位端部から遠位端部に至る互いに離間して配置された少なくとも3本のワイヤ用ルーメンを備え、前記操作手段は、遠位端が前記第2チューブ部の遠位端部に接続され、前記ワイヤ用ルーメンの一つに挿通されて、近位端が前記第1チューブ部の近位端に至っている少なくとも3本のワイヤを備えることができる。第2チューブ部に圧縮力が作用するように各ワイヤ間で同じ引張力で全てのワイヤ(またはワイヤ用ルーメンの配置に応じた適宜な一部のワイヤ)のそれぞれの近位端を引っ張ることにより、第2チューブ部を硬質な状態とさせ得る。また、第2チューブ部に偏向力が作用するように各ワイヤ間で引張力に差をつけて引っ張る(または一部のワイヤのみ引っ張る)ことにより、該引張力の差に応じて第2チューブ部を偏向させ得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態の可動型カテーテルの外観構成を示す図である。
【
図2C】
図2Cは、
図2Bの可動型カテーテルの遠位端部を一対のワイヤ用ルーメンのそれぞれの軸心を通る面で切断した断面図である。
【
図3】
図3は、
図1の可動型カテーテルの遠位端部を拡大して示す図であり、偏向部の動作を説明するための図である。
【
図4A】
図4Aは、
図2Bの可動型カテーテルのワイヤ用ルーメンに挿通するワイヤの数を増やした場合を示す斜視図である。
【
図4B】
図4Bは、
図4Aの可動型カテーテルの遠位端部をその軸心に直交する面で切断した断面図である。
【
図4C】
図4Cは、
図4Aの可動型カテーテルの遠位端部を一対のワイヤ用ルーメンのそれぞれの軸心を通る面で切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。本実施形態の可動型カテーテルとしてのカテーテルシース(可動型シース)は、たとえば、カテーテルアブレーションを行う際に、心電を検出するための電極カテーテルや患部を焼灼するためのアブレーションカテーテル等に先行して挿入され、これらの電極カテーテルやアブレーションカテーテル等を案内するカテーテルである。以下では、本発明が適用される可動型カテーテルとして、カテーテルシースを例に説明するが、電極カテーテルやアブレーションカテーテル、胆管内の検査のために胆管内にX線造影剤を注入するためなどに用いられる可動型内視鏡用カテーテル、その他の可動型カテーテルにも本発明を適用することができる。
【0014】
なお、カテーテルアブレーションとは、心臓に生じる不整脈を治療するための治療法であり、その先端部に高周波電極を有するアブレーションカテーテルを血管を経由して心臓内の不整脈の原因となっている心筋組織まで挿入し、該心筋組織またはその近傍を60~70℃程度で焼灼して凝固壊死せしめ、不整脈の回路を遮断する治療法である。
【0015】
まず、
図1および
図2A~
図2Cを参照する。カテーテルシース(可動型カテーテル)1は、シース(チューブ)2、操作部3、グリップ部4、および一対のワイヤ(操作手段)W1,W2を概略備えて構成されている。
【0016】
シース2は、体内に挿入される遠位端および体外に配置される近位端を有する可撓性の中空チューブからなり、近位端側に配置されるシース本体部(第1チューブ部)20および遠位端側に配置される偏向部(第2チューブ部)21から構成されている。シース本体部20は、軸心に沿う方向(軸心方向)に圧縮力を受けても実質的に柔軟性が変化しないように比較的に高い剛性を有するように構成されている。シース本体部20としては、たとえば網状のステンレス鋼等からなるブレード層および複数の樹脂層を含む多層チューブが用いられる。
【0017】
偏向部21は、近位端がシース本体部20の遠位端に連続するように一体的に接合されている。偏向部21の内腔とシース本体部20の内腔とは、互いに連続して接続されており、これらによりメインルーメン22が構成されている。偏向部21は、軸心方向に作用する圧縮力の程度に応じて圧縮されて硬質となり、該圧縮力が解除されることにより元に戻って軟質となる多孔質チューブで構成されている。多孔質チューブは、軸心方向に作用させる圧縮力を調整することによって、その柔軟性を制御することができる。
【0018】
シース本体部20の材質は、可撓性を備えるものであれば特に限定されないが、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーであることが好ましく、たとえば、ポリエーテルブロックアミド共重合体などのポリアミド系エラストマー、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などが用いられる。
【0019】
偏向部21を構成する多孔質チューブの材質としては、限定はされないが、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を用いることが、耐熱性、耐薬品性、耐候性、撥水性等に優れていること等から好ましい。多孔質チューブとしては、PTFEを押し出し成形して得られたチューブを軸心方向に延伸加工することにより製造したものを用いることができる。PTFEを多孔質化することにより、通気性を保持しつつ必要な防水性を得ることができる。また、延伸加工する際の延伸率(延伸の度合い)を適宜に調整することにより、気孔率を調整することができ、圧縮した際の柔軟性の変化を適宜に調整(制御)することが可能である。なお、気孔率を調整することにより、通気性能を変化させることも可能である。
【0020】
シース2の近位端側に取り付けられた操作部3およびグリップ部4には、シース2の近位端側の部分が挿通される挿通孔が形成されていて、グリップ部4の近位端には、シースハブ41aが取り付けられている。
【0021】
シースハブ41aは内腔を有していて、シースハブ41aの近位端側にはグリップ部4内のシース2が、シースハブ41aの内腔とシース2のメインルーメン22とが連通するように取り付けられている。また、シースハブ41aの遠位端側には、止血弁を備えたカテーテル挿入口が形成されている。カテーテルシース1の使用時(処置時)には、上述した電極カテーテルやアブレーションカテーテルがシースハブ41aのカテーテル挿入口から挿入され、シース2のメインルーメン22に案内されて、それぞれの遠位端部が処置すべき心筋組織まで導かれる。また、シースハブ41aの側部には、側注管が形成されていて、その側注管にはチューブ41bを介して三方活栓41cが取り付けられている。三方活栓41cには、たとえばシリンジなどを取り付けて、体内の血液を吸引したり、体内に薬液を送り込んだりすることができる。
【0022】
シース2の遠位端(偏向部21の先端)には、樹脂からなり、遠位端側が半球状にされた略円筒状の先端保護部材29が設けられている。先端保護部材29は、シース2のメインルーメン22と略同径の内腔を有し、シース2(偏向部21)の遠位端部に熱融着等により一体的に接合(固着)されている。ただし、先端保護部材29は省略してもよい。
【0023】
シース2(シース本体部20および偏向部21)の管壁内には、メインルーメン22の外側を取り囲むように、メインルーメン22に略平行する4つのワイヤ用ルーメン(サブルーメン)23a~23dが形成されている。ワイヤ用ルーメン23a~23dは、シース2の近位端部(シース本体部20の近位端部)から遠位端部(偏向部21の遠位端部)に至って形成されている。ワイヤ用ルーメン23a~23dは、シース2の軸心を中心として、メインルーメン22の外側に、互いに略90°の角度ピッチ(角度間隔)で互いに離間して形成されている。
【0024】
ワイヤ用ルーメン23aおよびワイヤ用ルーメン23bには、単一のワイヤW1が挿通されており、ワイヤ用ルーメン23cおよびワイヤ用ルーメン23dには、単一のワイヤW2が挿通されている。本実施形態では、ワイヤW1,W2は、ステンレス鋼等の金属から形成されているが、ワイヤW1,W2は、たとえば樹脂等の他の材料で形成されていてもよい。
【0025】
ワイヤW1は、その一端部側の略半分W1aがワイヤ用ルーメン23aに挿通され、その中間部分W1cがシース2の先端保護部材29が接合される遠位端面で折り返されて、その他端部側の略半分W1bがワイヤ用ルーメン23bに挿通され、その両端部(一端部および他端部)がシース2の近位端側の操作部3に位置するように配置されている。同様に、ワイヤW2は、その一端部側の略半分W2aがワイヤ用ルーメン23cに挿通され、その中間部分W2cがシース2の先端保護部材29が接合される遠位端面で折り返されて、その他端部側の略半分W2bがワイヤ用ルーメン23dに挿通され、その両端部(一端部および他端部)がシース2の近位端側の操作部3に位置するように配置されている。
【0026】
ワイヤW1の両端部ならびにワイヤW2の両端部は、シース2の近位端側に設けられた操作部3の内部においてシース2に設けられた側孔から引き出されて、操作部3(回転操作部材31)にそれぞれ接続されている。操作部3は、回転操作部材31に一体的に設けられた一対の突起状の把持部32,32を有しており、グリップ部4の先端(遠位端)側に設けられた保持部42にねじ込み式のノブ部材5を介して保持されている。
【0027】
回転操作部材31は、
図1に矢印A5で示すように、一対の把持部32,32の両方を近位端側に押圧することにより、同図に符号31’を付して一点鎖線で示すように、近位端側に所定量だけスライドできるように保持部42に保持されている。回転操作部材31は、矢印A5方向への押圧を解除すると、元の位置に戻るように、不図示の付勢手段により付勢されている。
【0028】
図1に示したニュートラル状態では、ワイヤW1およびワイヤW2が両者とも実質的に無張力状態となり、シース2の先端の偏向部21は、
図1および
図3(a)に示す通り、直線状に延びた状態となる。このとき、偏向部21には、軸心方向に圧縮力が作用していないので、圧縮されることなく、偏向部21の軸心方向の寸法はL1となっており、偏向部21を構成する多孔質チューブの性質により、偏向部21は比較的に軟質な状態となっている。
【0029】
ニュートラル状態から、回転操作部材31の把持部32,32を操作して、回転操作部材31を
図1において矢印A1の方向に回転させると、この回転に伴い、ワイヤW1が引っ張られ、ワイヤW2が緩められることにより、先端の偏向部21が
図1および
図3(b)において矢印A3に示すように偏向される。
【0030】
これと反対に、回転操作部材31の把持部32,32を操作して、回転操作部材31を
図1において矢印A2方向に回転させると、ワイヤW1が緩められ、ワイヤW2が引っ張られることにより、先端の偏向部21が
図1および
図3(b)において矢印A4に示すように偏向される。
【0031】
偏向部21を偏向させた状態で、偏向部21の形状を固定したい場合には、ノブ部材5を時計方向に回転させて締め込むことにより、回転操作部材31が保持部42に押圧されて、回転操作部材31が現在位置で固定され、偏向部21の形状が固定される。偏向部21の形状の固定を解除したい場合(偏向状態を調整したい場合)には、上記と反対に、ノブ部材5を反時計方向に回転させて緩めることにより、回転操作部材31が保持部42に緩く押圧された状態となり、回転操作部材31が回転し得る状態となる。その結果、偏向部21の形状の固定が解除されて、把持部32を把持して回転操作部材31を回転操作することにより偏向部21の偏向状態を調整することができる。
【0032】
次に、
図1に示したニュートラル状態から、把持部32,32の両方を同図に矢印A5で示すように、不図示の付勢手段の付勢力に抗して近位端側に押圧すると、回転操作部材31が近位端側に所定量だけスライドする。この状態では、ワイヤW1,W2の両方が略均等に近位端側(同じ引張力で)に引っ張られて緊張し、その結果、偏向部21の遠位端に緊張したワイヤW1,W2による力が作用する。すなわち、偏向部21の近位端はシース本体部20の遠位端によって実質的に拘束されている(近位端側に移動しない)ため、ワイヤW1,W2による近位端側に引っ張る力により、偏向部21には軸心方向に圧縮力が作用する。この圧縮力により、偏向部21は軸心に沿う方向に圧縮(短縮)されて、
図3(c)に示すように、偏向部21の軸心方向の寸法がL1よりも小さいL2となり、偏向部21を構成する多孔質チューブの性質にしたがって、偏向部21は比較的に硬質な状態となる。
【0033】
把持部32,32に対する押圧力を解除すれば、不図示の付勢手段の付勢力によって、回転操作部材31が遠位端側の元の位置(ニュートラル位置)にスライドし、比較的に軟質な状態に戻すことができる。偏向部21を比較的に硬質とした状態で、これを維持したい場合には、ノブ部材5を時計方向に回転させて締め込むことにより、回転操作部材31が保持部42に押圧されて、回転操作部材31が現在位置で固定される。これを解除したい場合(軟質な状態としたい、あるいは偏向状態を調整したい場合)には、上記と反対に、ノブ部材5を反時計方向に回転させて緩めることにより、回転操作部材31が保持部42に緩く押圧された状態となり、回転操作部材31が元の位置(ニュートラル位置)に戻すことができる。
【0034】
なお、必要があれば、回転操作部材31を近位端側にスライドさせて偏向部21を硬質にした状態で、回転操作部材31を回転させることにより、
図3(d)に示すように、圧縮された状態で、偏向させることも可能である。また、ニュートラル位置(すなわち、偏向部21が軟質な状態)で回転操作部材31を回転させて偏向部21を適宜に偏向させた後に、回転操作部材31を近位端側にスライドさせることにより、
図3(d)に示すように、圧縮して硬質とすることも可能である。また、必要があれば、回転操作部材31をニュートラル位置から近位端側にスライドさせる際に、そのスライド量を適宜調整することにより、偏向部21の柔軟性を変更制御することもできる。
【0035】
上述した実施形態では、偏向部21として、シース2を、軸心方向に圧縮力を受けても実質的に柔軟性が変化しないシース本体部20と、シース本体部20の遠位端に連続するように接合され、軸心方向に作用する圧縮力の程度に応じて圧縮されて硬質となり、該圧縮力が解除されることにより元に戻って軟質となる多孔質チューブで構成された偏向部21とから構成している。そして、シース2の複数のワイヤ用ルーメン23a~23dに挿通されたワイヤW1,W2により、偏向部21を軸心方向に圧縮する圧縮力および偏向部21を偏向させる偏向力を解除可能に作用させるようにしている。
【0036】
これにより、ワイヤW1,W2をニュートラル状態として、偏向部21に圧縮力を作用させずに軟質な状態を維持したまま、ワイヤW1,W2の一方を近位端側に引っ張ることにより、偏向部21を偏向させることができ、このとき偏向部21は軟質な状態であるから、良好な操作性を実現することができる。一方、たとえば胆管等の体内管腔内の狭窄部を突破(貫通)させるような場合には、偏向部21が軟質な状態では、屈曲や座屈が生じて挿入が困難となる場合がある。この場合には、ワイヤW1,W2の両方を同じ引張力で近位端側に引っ張ることにより、偏向部21に圧縮力を作用させて硬質な状態とすることができる。このため、偏向部21に屈曲や座屈が生じることを少なくでき、カテーテルの挿入性を向上することができる。
【0037】
また、上述した実施形態では、一対のワイヤW1,W2により、偏向部21を偏向させるための偏向力と、偏向部21を圧縮させるための圧縮力との両方を作用させるようにしているため、たとえば、偏向力を作用させるためのワイヤと、圧縮力を作用させるためのワイヤとを設ける等、それぞれを別の手段で実現する場合と比較して、構成を簡略にし得る。ただし、それぞれを別の手段で実現しても勿論よい。たとえば、圧縮力を作用させるための手段として、シース2(シース本体部20および偏向部21)の内腔(メインルーメン22)に摺動可能に、メインルーメン22の内径よりも僅かに小さい外径を有する圧縮用チューブを挿通し、該圧縮用チューブの遠位端を偏向部21の遠位端に接続して、シース2に対して、圧縮用チューブを近位端側に引っ張ることにより、偏向部21に圧縮力を作用させるようにしてもよい。なお、この場合、メインルーメンとしての機能は、圧縮用チューブの内腔が担うことになる。
【0038】
さらに、上述した実施形態では、ワイヤW1の一端部側の略半分W1aをワイヤ用ルーメン23aに挿通し、他端側の略半分W1bをワイヤ用ルーメン23bに挿通し、ワイヤW2の一端部側の略半分W2aをワイヤ用ルーメン23cに挿通し、他端側の略半分W2bをワイヤ用ルーメン23dに挿通している。ワイヤW1,W2は、それぞれ偏向部21の遠位端部で折り返されているため、先端チップやプルリングのようなワイヤを固定するための部材を設ける必要がなく、部品点数を削減することができるとともに、ワイヤを固定するための部材のカテーテルチューブに対する装着作業やその部材に対するワイヤの接続作業を行う必要がないので、その製造における作業工数を削減することができる。また、ワイヤを固定するための部材を設けるための領域をカテーテルシース1の構造内に確保する必要がないので、カテーテルシース1としての構造上の制限を少なくすることができ、たとえばシース2(メインルーメン22)の遠位端(先端)の開口面積を大きくすることが可能となる。
【0039】
また、ワイヤW1のワイヤ用ルーメン23aに挿通された略半分W1aとワイヤ用ルーメン23bに挿通された略半分W1bとの両方を引っ張って、偏向部21を偏向するための偏向力を作用させるようにしている。このため、ワイヤ用ルーメン23aとワイヤ用ルーメン23bとの間隔(角度間隔)に応じて、シース2の周方向における比較的に広い範囲に力を作用させることができる。ワイヤW2に関しても同様である。その結果、単一のルーメンに挿通された折り返しのない1本のワイヤを引っ張ることにより偏向操作を行うものと比較して、ワイヤにかかる力が小さくなるので、偏向操作に伴うワイヤ破断のおそれが小さくなる。また、偏向部21を偏向させる際の遠位端部のブレを小さくすることができ、安定した偏向を実現することができる。同様の理由から、偏向部21に安定的に圧縮力を作用させることもできるようになる。
【0040】
ただし、ワイヤ用ルーメン23a~23dのそれぞれに1本ずつワイヤを挿通して、すなわち4本のワイヤを設けて、各ワイヤの遠位端を偏向部21の遠位端にそれぞれ接続する構成としても勿論よい。この場合において、ワイヤ用ルーメンの数およびワイヤの数はそれぞれ3本としてもよいし、5本以上としてもよい。
【0041】
上述した実施形態では、ワイヤ用ルーメン23aおよびワイヤ用ルーメン23bに挿通されたワイヤW1と、ワイヤ用ルーメン23cおよびワイヤ用ルーメン23dに挿通されたワイヤW2の2本のワイヤを用いているが、
図4A~
図4Cに示すように、ワイヤW3とワイヤW4とを追加して、4本のワイヤを用いる構成としてもよい。
【0042】
すなわち、ワイヤW3は、その一端部側の略半分W3aがワイヤ用ルーメン23aに挿通され、その中間部分W3cがシース2の先端保護部材29が接合される遠位端面で折り返されて、その他端部側の略半分W3bがワイヤ用ルーメン23cに挿通されている。ワイヤW4は、その一端部側の略半分W4aがワイヤ用ルーメン23bに挿通され、その中間部分W4cがシース2の先端保護部材29が接合される遠位端面で折り返されて、その他端部側の略半分W4bがワイヤ用ルーメン23dに挿通されている。このように構成することで、ワイヤW1~W4から適宜1本のワイヤを選択して引っ張ることにより、4方向への偏向が可能となる。また、ワイヤW1~W4から隣合う2本の組み合わせを適宜選択して、それぞれを引っ張る力のバランスを調整することにより、偏向部21を360°任意の方向に偏向し得る。そして、ワイヤW1~W4の全部、またはワイヤW1とW2もしくはワイヤW3とW4を均等に(同じ引張力で)引っ張ることにより、偏向部21を硬質とすることができる。なお、ワイヤW3およびW4を追加したことに対応して、操作部3において回転操作部材31と同様の回転操作部材を追加する等、操作部3の構成を適宜変更する必要がある。
【0043】
また、
図4A~
図4Cに示した例では、ワイヤ用ルーメン23a~23dを4つ設け、ワイヤW1~W4を4本設けた場合を説明したが、たとえば
図5A~
図5Cに示すように、ワイヤ用ルーメンの数を増加または減少させることができ、これに伴い、ワイヤの本数も増加または減少させることができる。
【0044】
すなわち、
図5Aでは、60°の角度ピッチで6つのワイヤ用ルーメン24aを設けるとともに、6本のワイヤW5を設けている。これにより、ワイヤW5を1本ずつ引っ張る場合においては偏向部21を6方向に偏向し得、また、隣合う2本のワイヤW5の組合わせを適宜選択して、それぞれを引っ張る力のバランスを調整することにより、偏向部21を360°任意の方向に偏向し得る。
図5Bでは、120°の角度ピッチで3つのワイヤ用ルーメン25aを設けるとともに、3本のワイヤW6を設けている。これにより、ワイヤW6を1本ずつ引っ張る場合においては偏向部21を3方向に偏向し得、また、隣合う2本のワイヤW6の組合わせを適宜選択して、それぞれを引っ張る力のバランスを調整することにより、偏向部21を360°任意の方向に偏向し得る。
図5Cでは、15°の角度ピッチで24個のワイヤ用ルーメン26aを設けるとともに、24本のワイヤW7を設けている。これにより、ワイヤW7を1本ずつ引っ張る場合において偏向部21を24方向に偏向し得る。これらは例示であって、ワイヤ用ルーメンの数は3本以上であればよく、ワイヤの数は2本以上であればよい。
【0045】
図5A~
図5Cに示した例では、ワイヤ用ルーメンの数とワイヤの数は一致しているが、これらは異なっていてもよく、たとえばワイヤ用ルーメンの数よりもワイヤの数を少なくしてもよい。また、
図5A~
図5Cに示した例では、隣り合う一対のワイヤ用ルーメンにワイヤの両端部を挿通しているが、たとえば間欠的に一対のワイヤ用ルーメンを選択して、これらにワイヤの両端部を挿通してもよい。
【0046】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上述した実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【符号の説明】
【0047】
1…カテーテルシース(可動型カテーテル)
2…シース(チューブ)
20…シース本体部(第1チューブ部)
21…偏向部(第2チューブ部)
22…メインルーメン
23a~23d…ワイヤ用ルーメン
29…先端保護部材
3…操作部
31…回転操作部材
32…把持部
4…グリップ部
42…保持部
5…ノブ部材
W1~W7…ワイヤ(操作手段)