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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121038
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】ウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/00 20120101AFI20240830BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240830BHJP
   B24B 1/04 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
B24B37/00 E
H01L21/304 601S
B24B1/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027883
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(72)【発明者】
【氏名】邱 暁明
【テーマコード(参考)】
3C049
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C049AA02
3C049AA12
3C049AA17
3C049AC04
3C049CA01
3C049CB03
3C158AA07
3C158AA12
3C158BC02
3C158CA01
3C158CB03
3C158DA15
3C158ED00
5F057AA13
5F057BA12
5F057CA01
5F057DA14
5F057DA24
5F057DA26
(57)【要約】
【課題】板状の基板からくり抜いてウェーハを製造する製造方法において、効率的にウェーハを製造する。
【解決手段】板状の基板からくり抜いてウェーハを製造するウェーハの製造方法であって、基板(60)を保持テーブル(41)の保持面(42)に保持させる保持工程と、保持面に保持された基板の上面(61)とくり抜き具の下面(16)とを接触させ所定の押し付け力で押し付ける位置づけ工程と、基板の上面に砥粒を含む液体(S)を供給し、くり抜き具を鉛直方向に超音波振動させることによって、基板の上面とくり抜き具の下面との間に隙間を形成させ、隙間に砥粒を含む液体を進入させ、くり抜き具を所定の押し付け力を維持し押し付け続けることによって、隙間に進入した砥粒に超音波振動を伝播させ、くり抜き具の下面に対応したくり抜き溝(63)を形成してウェーハ(64)をくり抜く、くり抜き工程と、を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の基板からくり抜いてウェーハを製造するウェーハの製造方法であって、
基板を保持テーブルの保持面に保持させる保持工程と、
該保持面に保持された該基板の上面と、くり抜き具の下面とを接触させ所定の押し付け力で押し付ける位置づけ工程と、
該基板の上面に砥粒を含む液体を供給し、該くり抜き具を鉛直方向に超音波振動させることによって、該基板の上面と該くり抜き具の下面との間に隙間を形成させ、該隙間に該砥粒を含む液体を進入させ、該くり抜き具を所定の押し付け力を維持し押し付け続けることによって、該隙間に進入した該砥粒に該超音波振動を伝播させ、該くり抜き具の下面に対応したくり抜き溝を形成してウェーハをくり抜く、くり抜き工程と、
からなる、ウェーハの製造方法。
【請求項2】
該くり抜き具は、該ウェーハに結晶方位を示すマークを形成するためのマーク形成部を有する、請求項1記載のウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
板状の基板をくり抜いて所定の直径のウェーハを製造するウェーハの製造方法では、切削ブレードで直線の溝を形成した後、リング状の砥石を下端に環状に配置したコアドリルを用いて溝を含む範囲をくり抜いて、溝が結晶方位を示すオリエンテーションフラットとなったウェーハを製造している(例えば、特許文献1、2及び3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-091779号公報
【特許文献2】特開2020-066107号公報
【特許文献3】特開2020-188102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来のウェーハの製造方法は、溝を形成する加工と、くり抜き加工という2つの加工を行っており、加工工程が多く製造に時間がかかるという問題があった。また、溝形成用の切削ブレードやくり抜き加工用のコアドリルといった工具は消耗品であるため、交換する時間がかかるという問題がある。さらに、コアドリルを用いたくり抜き加工を行った後で、ウェーハの外周部を研磨加工などで仕上げる必要があり、くり抜き後の加工にも時間と手間を要していた。
【0005】
また、ウェーハの結晶方位を示すマークとして、ウェーハの外周部にノッチを形成することがある。従来の製造方法では、ノッチを有するウェーハを製造する場合にも、くり抜き加工とは別にノッチを形成するための工程が必要であり、上記のオリエンテーションフラットを有するウェーハをくり抜き加工で製造する場合と同様の問題があった。
【0006】
したがって、板状の基板からくり抜いてウェーハを製造する製造方法において、加工工程を少なくすることと、工具の交換作業を無くして効率的にウェーハを製造するという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、板状の基板からくり抜いてウェーハを製造するウェーハの製造方法であって、基板を保持テーブルの保持面に保持させる保持工程と、該保持面に保持された該基板の上面と、くり抜き具の下面とを接触させ所定の押し付け力で押し付ける位置づけ工程と、該基板の上面に砥粒を含む液体を供給し、該くり抜き具を鉛直方向に超音波振動させることによって、該基板の上面と該くり抜き具の下面との間に隙間を形成させ、該隙間に該砥粒を含む液体を進入させ、該くり抜き具を所定の押し付け力を維持し押し付け続けることによって、該隙間に進入した該砥粒に該超音波振動を伝播させ、該くり抜き具の下面に対応したくり抜き溝を形成してウェーハをくり抜く、くり抜き工程と、からなることを特徴とする。
【0008】
該くり抜き具は、該ウェーハに結晶方位を示すマークを形成するためのマーク形成部を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のウェーハの製造方法によれば、板状の基板の上面に砥粒を含む液体を供給して、くり抜き具の押し付けと超音波振動を利用して加工を行うので、くり抜き具の下面の形状に対応した形状のウェーハをくり抜くことができ、加工工程を少なくすると共に、工具の交換作業を無くして、効率的にウェーハを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】くり抜き加工装置の構成を示す斜視図である。
図2】くり抜き加工装置の構成を示す斜視図である。
図3】本実施形態のウェーハの製造方法の各工程を説明する図である。
図4】基板保持機構を示す斜視図である。
図5】基板保持機構に保持した基板から端材を取り出した状態の斜視図である。
図6】基板保持機構に保持した基板から製造後のウェーハを取り出した状態の斜視図である。
図7】くり抜き具の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
添付図面を参照して、本実施形態のウェーハの製造方法について説明する。図1及び図2は、本実施形態の製造方法で使用されるくり抜き加工装置10の構成を示している。図3は、本実施形態のウェーハの製造方法の各工程を示している。図4から図6は、ウェーハ製造時に基板を保持する保持テーブル41を備えた基板保持機構40の具体例を示している。図7は、くり抜き加工装置10の変形例であるくり抜き具70を示している。
【0012】
図1及び図2を参照して、くり抜き加工装置10の構成を説明する。各図面に示すX軸方向、Y軸方向、Z軸方向は互いに垂直な方向であり、Z軸方向がくり抜き加工装置10における鉛直方向(上下方向)である。くり抜き加工装置10が備えるくり抜き具11は、Z軸方向の最下部にくり抜き部12を備えている。
【0013】
くり抜き部12は、下端が開口したカップ型であり、Z軸方向に延びる仮想の中心軸Pを囲むように形成された円筒部13及び平坦部14と、円筒部13及び平坦部14の上端を塞ぐ天井部15と、を備えている。円筒部13は中心軸Pを中心とする円筒形状であり、平坦部14はX軸方向及びZ軸方向に延在する平板形状である。平坦部14は、後述するウェーハ64に結晶方位を示すマーク(オリエンテーションフラット66)を形成するためのマーク形成部である。円筒部13及び平坦部14の下端は面一になっており、くり抜き部12の下面16を形成している。図2に示すように、下面16は、円筒部13が形成する円弧部分と、平坦部14が形成する直線部分と、を組み合わせた形状を有している。
【0014】
図2に示すように、くり抜き部12の内周面に沿ってスラリー供給溝17が形成されている。くり抜き部12の外側にはスラリー導入部18が設けられている。くり抜き部12に形成した通路を介してスラリー供給溝17とスラリー導入部18とが連通している。
【0015】
スラリー導入部18は、供給管路19を介してスラリー供給源20に接続される。スラリー供給源20には、砥粒(遊離砥粒)を含む液体(以下の説明ではスラリーSと呼ぶ)が貯留されている。スラリー供給源20に貯留したスラリーSは供給管路19を経由してスラリー導入部18へ送られ、スラリー供給溝17にスラリーSが供給される。
【0016】
くり抜き具11は、くり抜き部12の天井部15からZ軸方向の上方に延設される柱状の支持部21を備えている。支持部21の上部に圧電素子22が設けられており、圧電素子22へ給電する電源23を備える。圧電素子22は電圧を加えると超音波振動を発生する振動子であり、電源23から圧電素子22への電力供給によって、くり抜き具11をZ軸方向(鉛直方向)に超音波振動させる。
【0017】
くり抜き具11は、昇降機構30を介してZ軸方向へ移動させることができる。昇降機構30は、Z軸方向に立設されたベース板部31と、ベース板部31の前面に設けられてZ軸方向へ延在する一対のガイドレール32と、一対のガイドレール32の間に位置してZ軸方向へ延在するボールネジ33と、ボールネジ33を回転させるモータ34と、一対のガイドレール32に沿ってZ軸方向へ移動可能に支持された昇降部35と、を備えている。昇降部35は、図示を省略する螺合部でボールネジ33に螺合している。モータ34を駆動してボールネジ33を回転させると、螺合部を介して昇降部35に力が伝わり、昇降部35がガイドレール32に案内されてZ軸方向に昇降する。昇降部35から突出する支持板部36が、支持部21に接続してくり抜き具11を支持しており、昇降部35の昇降に伴ってくり抜き具11が昇降する。
【0018】
図3を参照して、くり抜き加工装置10を用いたウェーハの製造方法について説明する。以下に説明する各部の動作は、制御部(図示略)の制御によって実行される。制御の主体を明記していない場合、制御部の制御に基づいて各部が動作しているものとする。なお、図3に示す保持テーブル41の詳細な構造については、図4から図6を参照して後に説明する。
【0019】
<保持工程>
まず、保持テーブル41の上面である保持面42に基板60を載置して保持させる保持工程を行う。保持工程での基板60の保持は、任意の構造で行うことができる。例えば、詳細は後述するが、保持テーブル41に接続する吸引源からの吸引力を作用させて基板60を保持することが可能である。さらに、基板60をリング状のフレームで支持し、フレームを固定するクランプを保持テーブル41に備えてもよい。また、基板60の下面62を直接に保持面42に載置してもよいし、あるいは、基板60の下面62を覆うテープを設けて保持面42がテープを介して基板60を保持してもよい。
【0020】
<位置づけ工程>
続いて、位置づけ工程を行う。図3(A)に示すように、位置づけ工程では、基板60の上方でくり抜き具11をX軸方向及びY軸方向の所定の位置に位置づけた上で、昇降機構30によってくり抜き具11をZ軸方向で下降させ、保持面42に保持された基板60の上面61と、くり抜き具11の下面16とを接触させて、所定の押し付け力で押し付ける。
【0021】
くり抜き具11の下面16を基板60の上面61に押し付ける所定の力は、基板60の材質などの条件に応じて変わる。図1に示す昇降機構30のようにボールネジ機構でくり抜き具11を昇降させる場合は、モータ34のトルク制御で一定の押し付け力を維持させる。
【0022】
また、くり抜き具11を昇降させる駆動構造として、ボールネジ機構以外にエアシリンダなどを用いてもよい。例えば、図1と同様にガイドレール32が昇降部35をZ軸方向に案内する構造を備えた上で、ボールネジとモータの代わりにエアシリンダを配置し、エアシリンダのピストンが昇降部35を押し下げるようにする。この場合、供給するエアの圧力の制御によって、エアシリンダのピストンを押し下げる力、つまり、くり抜き具11を基板60に押し付ける力、を一定にすることができる。
【0023】
<くり抜き工程>
続いて、くり抜き工程を行う。くり抜き工程では、スラリー供給源20からくり抜き具11へスラリーSを送出する。図3(A)に示すように、くり抜き具11に送られたスラリーSは、スラリー供給溝17から出て、くり抜き部12の内面を伝って基板60の上面61に供給される。供給されたスラリーSは、くり抜き具11の下面16が基板60の上面61に接する箇所の周辺に溜まる。
【0024】
基板60の上面61にスラリーSが供給された状態で、圧電素子22に通電してくり抜き具11をZ軸方向(鉛直方向)に超音波振動させ、くり抜き具11を下降させ、基板60の上面61にくり抜き具11の下面16を押し付ける。これにより、くり抜き具11の下面16と基板60の上面61との間(隙間)にスラリーSが進入している。そして、Z軸方向(鉛直方向)に超音波振動するくり抜き具11の下面からスラリーSに超音波振動が伝播されることにより、Z軸方向に振動する砥粒によって、基板60が削られる。また、隙間にスラリーSを進入させ続け、くり抜き具11を基板60に押し付ける所定の押し付け力を維持して下方に押し付け続けることによって、隙間に進入したスラリーSに含まれる砥粒にくり抜き具11からの超音波振動を伝播させて、砥粒の振動に応じて基板60が削られる。その結果、図3(B)に示すように、押し付けられるくり抜き具11の下面16の形状に沿って基板60が下方へ彫り込まれていき、下面16に対応したくり抜き溝63が形成される。
【0025】
くり抜き工程の進行中はスラリーSの供給を継続し、くり抜き溝63内のスラリーSが枯渇しないようにする。くり抜き部12の内周部にスラリー供給溝17を設けたことによって、スラリー供給溝17から供給されたスラリーSを、くり抜き部12の外部に散逸させることなく、確実にくり抜き溝63に進入させることができる。そして、くり抜き部12の内側から順次供給されるスラリーSが、くり抜き溝63内のスラリーS(くり抜き加工に用いられた後のスラリーS)を、くり抜き部12の外側に押し出して排出させる流れが形成される。これにより、くり抜き溝63には常に新しいスラリーSが適切に供給されて、効率的にくり抜き加工を進行させることができる。また、くり抜き加工によって基板60が削られて生じた加工屑は、くり抜き溝63内のスラリーSと共にくり抜き部12の外側に排出され、加工箇所付近に加工屑が残りにくくなる。
【0026】
図3(C)に示すように、くり抜き溝63が基板60の下面62に達して基板60の厚みを貫通すると、基板60からのウェーハ64のくり抜きが完了する。なお、くり抜きの完了は、昇降機構30によってくり抜き部12を下降させた距離で管理している。
【0027】
また、保持テーブル41またはくり抜き具11にAE(アコースティック・エミッション)センサを配置し、くり抜きが完了したときの衝撃波をAEセンサで検知して、くり抜きの完了を認識するようにしてもよい。
【0028】
なお、くり抜き具11の下面16からスラリー供給溝17までのZ軸方向の距離は、基板60の厚みよりも大きく設定されており、くり抜きが完了したときにスラリー供給溝17は基板60の上面61よりも上方に位置する。従って、くり抜き加工の開始から完了に至るまで、スラリー供給溝17から基板60の上面61へのスラリーSの供給が妨げられることがない。
【0029】
なお、基板60の下面62にテープを備える場合には、くり抜き工程において、テープを貫通させずに基板60を貫通した段階で加工を完了してもよいし、テープを貫通するまで加工を行ってもよい。
【0030】
なお、テープに代えて、基板60より硬い材質の硬質プレートに基板60を載置した状態でくり抜いてもよい。そして、基板60をくり抜き部12が貫通した際に、スラリーSによって硬質プレートの上面を傷つけないように、硬質プレートの上面には、スラリーSを逃がすスラリー逃げ溝が形成されていてもよい。
【0031】
1枚の基板60から複数のウェーハ64を製造する場合は、次の位置づけ工程でくり抜き加工装置10と基板60との相対的な位置を変更してから、再びくり抜き工程を行う。このように位置づけ工程とくり抜き工程を繰り返して、複数のウェーハ64を製造する。
【0032】
図5及び図6に示すように、くり抜き工程を経て製造されたウェーハ64は、くり抜き具11のくり抜き部12の内面に対応した形状になっており、くり抜き部12の円筒部13に沿った円形状の円形外周部65と、くり抜き部12の平坦部14に沿った直線形状のオリエンテーションフラット66と、を有している。オリエンテーションフラット66は、ウェーハ64の結晶方位を示すマークである。
【0033】
以上のように、本実施形態のウェーハの製造方法では、砥粒を含む液体(スラリーS)を供給しながら、くり抜き具11の鉛直方向の動作(昇降機構30を用いた押し付けと、圧電素子22を用いた超音波振動)を行うことにより、基板60からウェーハ64をくり抜く。くり抜き具11は基板60の厚み方向である鉛直方向のみに動作して、くり抜き部12の内面形状を転写した外形のウェーハ64を製造することができるので、くり抜き加工の際にくり抜き具11を複数の方向へ動作させたり回転させたりする必要がない。また、工具としてスラリーSを供給するくり抜き具11のみを用いるので、複数の工具を交換する必要がなく、手間がかからない。また、スラリーSに含まれる砥粒を超音波振動させて基板60にくり抜き溝63を形成するので、くり抜き具11の消耗が少なく工具の交換頻度を軽減できる。従って、加工工程が少なく、優れた加工効率によって、オリエンテーションフラット66を有するウェーハ64を製造することができる。
【0034】
また、リング状の砥石を下端に環状に配置したコアドリルを回転させる構造のくり抜き加工に比べて、本実施形態のくり抜き加工は、ウェーハ64の外周部をきれいに仕上げることができるので、くり抜き加工後にウェーハ64の外周部を仕上げるための加工時間を短縮したり、仕上げのための加工自体を省略したりできる。従って、くり抜き加工後の後加工を含めた総合的な加工時間を短くする効果が得られる。
【0035】
本実施形態では、基板60に対して1つのくり抜き具11の位置を相対的に変化させて複数(4枚)のウェーハ64を順次くり抜いているが、変形例として、1枚の基板60から複数のウェーハ64をくり抜く際に、複数のくり抜き具を配置して、同時に複数のウェーハ64をくり抜くようにしてもよい。
【0036】
また、別の変形例として、くり抜き加工前に、スラリー逃げ溝として基板60に直線状の溝を形成してもよい。その場合、くり抜き具は、上記の平坦部14のようなマーク形成部を備えない円筒状でもよい。そして、直線状の溝(スラリー逃げ溝)が、くり抜き加工後に、オリエンテーションフラットになるようにくり抜き加工を行ってもよい。この変形例においても、くり抜き加工の際にウェーハの外周部をきれいに仕上げることができることや、くり抜き具のシンプルな動作で高精度にウェーハをくり抜くことができること、などにおいて、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0037】
続いて、図4から図6を参照して、くり抜き加工の際に基板60を保持する基板保持機構40の具体例について説明する。基板保持機構40は円板状の保持テーブル41を備えている。図4に示すように、保持テーブル41の上面である保持面42には複数の溝が形成されて複数の領域に区画されている。保持面42のうち保持テーブル41の外周面に近い位置には、円環形状の外周溝43が形成されている。外周溝43の内側には、保持面42の直径方向に延びる略垂直な2本の直線溝44が形成されている。2本の直線溝44は保持面42の中心付近で交差(直交)し、各直線溝44の両端は外周溝43に連通している。外周溝43と2本の直線溝44とによって区画される4つの扇状の分割領域が保持面42上に形成される。4つの分割領域の内側には4つのウェーハ吸引溝45が形成されている。各ウェーハ吸引溝45は、くり抜き加工装置10におけるくり抜き具11の下面16の形状と相似形状の溝であり、下面16よりも僅かに小さい。各分割領域のうち、ウェーハ吸引溝45によって囲まれる内側部分がウェーハ保持領域46であり、ウェーハ吸引溝45の外側部分が端材保持領域47である。
【0038】
ウェーハ吸引溝45は、基板60からくり抜かれたウェーハ64に吸引力を付与するための溝であり、吸引の際に吸引力をリークさせないためにウェーハ64の外形(つまり、くり抜き具11の下面16)よりも小さく形成されている。なお、保持面42上に形成するウェーハ吸引溝は、吸引力をリークさせずにウェーハ64を吸引保持可能なものであればよく、くり抜き具11の下面16と相似形状であるウェーハ吸引溝45のような形状には限定されない。例えば、円環形状、直線形状、格子形状などのウェーハ吸引溝を用いることも可能である。
【0039】
外周溝43の底部に吸気穴51が形成されており、吸気穴51は吸気路52を介して吸引源50に接続している。吸気路52の途中に開閉可能な開閉弁53が設けられている。吸引源50を駆動して開閉弁53を開くことによって、吸気穴51から外周溝43及び直線溝44の空気が吸引される。
【0040】
4つのウェーハ吸引溝45の底部にそれぞれ吸気穴54が形成されており、各吸気穴54は吸気路55を介して吸引源50に接続している。各吸気路55の途中に開閉可能な開閉弁56が設けられている。吸引源50を駆動して開閉弁56を開くことによって、各吸気穴54から各ウェーハ吸引溝45の空気が吸引される。
【0041】
保持テーブル41は、X軸移動機構57によってX軸方向へ移動させることができ、Y軸移動機構58によってY軸方向へ移動させることができる。X軸移動機構57とY軸移動機構58の詳細な構造については図示を省略する。一例として、X軸移動機構57は、X軸方向へ延在するガイドレールに沿って移動可能なX軸テーブルを備え、X軸テーブルはボールネジ機構やエアシリンダなどの駆動部によってX軸方向への移動力を受ける。X軸テーブル上にY軸移動機構58が支持される。Y軸移動機構58は、X軸テーブル上に設けられてY軸方向へ延在するガイドレールに沿って移動可能なY軸テーブルを備え、Y軸テーブルはボールネジ機構やエアシリンダなどの駆動部によってY軸方向への移動力を受ける。Y軸テーブル上に保持テーブル41が支持される。
【0042】
X軸移動機構57とY軸移動機構58とを介して支持された保持テーブル41は、くり抜き加工装置10のくり抜き具11の下方に位置し、X軸移動機構57とY軸移動機構58を用いて保持テーブル41を移動させることによって、水平方向におけるくり抜き具11と保持テーブル41との相対的な位置を調整することができる。
【0043】
上記の保持工程では、保持テーブル41の保持面42に基板60を載置し、吸引源50を駆動して開閉弁53及び開閉弁56を開く。外周溝43、直線溝44及びウェーハ吸引溝45に吸引力が作用して、基板60の下面62が保持面42に吸引保持される。
【0044】
保持面42に基板60を吸引保持した状態で、上記の位置づけ工程及びくり抜き工程を行って基板60をくり抜いてウェーハ64を製造する。図4から図6に示す構成例では、1枚の基板60から4つのウェーハ64を製造しており、保持面42上の4つの分割領域に対応する領域でそれぞれ1つずつウェーハ64を形成する。
【0045】
位置づけ工程では、X軸移動機構57及びY軸移動機構58によって保持テーブル41の位置を調整し、保持面42の4つの分割領域の上方にくり抜き具11を順次位置づける。このとき、くり抜き具11の中心軸Pに沿って見た平面視において、当該分割領域内のウェーハ吸引溝45がくり抜き部12の範囲内に収まる位置関係に設定する。これにより、くり抜き具11が基板60をくり抜いたときに、ウェーハ吸引溝45に作用する吸引力をリークさせずにウェーハ64を保持することができる。
【0046】
くり抜き具11と保持テーブル41の相対的な位置が決まったら、昇降機構30を動作させてくり抜き具11を下降させ、保持面42に保持された基板60の上面61と、くり抜き具11の下面16とを接触させて、所定の押し付け力で押し付ける。そして、スラリー供給溝17からスラリーSを供給し、圧電素子22に通電してくり抜き具11をZ軸方向(鉛直方向)に超音波振動させて、基板60に対するくり抜き加工を行う。
【0047】
くり抜き工程を行うと、基板60がくり抜き部12に対応した形状でくり抜かれてウェーハ64が形成される。図5及び図6に示すように、ウェーハ64がくり抜かれた後の基板60の残余部分が端材67となる。端材67は、くり抜かれたウェーハ64に対応する形状の4つの穴68を有している。
【0048】
端材67は、保持面42のうち端材保持領域47に保持される。くり抜き工程では開閉弁53を開いた状態を維持し、外周溝43及び直線溝44に作用する吸引源50の吸引力によって端材67が端材保持領域47に引き付けられて保持される(図6参照)。くり抜き工程後に、開閉弁53を閉じると、外周溝43及び直線溝44に吸引力が作用しなくなり、端材67を保持テーブル41から取り外すことができる(図5参照)。
【0049】
ウェーハ64は、保持面42のうちウェーハ保持領域46に保持される。くり抜き工程では開閉弁56を開いた状態を維持し、ウェーハ吸引溝45に作用する吸引源50の吸引力によってウェーハ64がウェーハ保持領域46に引き付けられて保持される(図5参照)。図5に示すように、ウェーハ64は、保持面42上でウェーハ吸引溝45よりも広い範囲を覆っているため、ウェーハ吸引溝45に作用する吸引力がリークせずにウェーハ64の下面を吸引することができる。くり抜き工程後に、開閉弁56を閉じると、ウェーハ吸引溝45に吸引力が作用しなくなり、ウェーハ64を保持テーブル41から取り外すことができる(図6参照)。
【0050】
くり抜き工程において、各ウェーハ64と端材67に対応する領域がそれぞれ個別に保持面42のウェーハ保持領域46と端材保持領域47に引き付けられて吸引保持されるので、基板60の位置ずれを防いで精度の高いくり抜き加工を行うことができる。また、くり抜き加工後に、各ウェーハ64と端材67とが保持テーブル41上から不用意に脱落することを防止できる。
【0051】
開閉弁53と開閉弁56の動作を適宜制御することによって、くり抜き工程後に端材67とウェーハ64を任意の順序で保持テーブル41から取り外すことができる。例えば、先に開閉弁53を閉じると、図5のように、ウェーハ64を保持面42に吸引保持させた状態で端材67を取り外すことができる。先に開閉弁56を閉じると、図6のように、端材67を保持面42に吸引保持させた状態でウェーハ64を取り外すことができる。
【0052】
続いて、図7を参照して、変形例であるくり抜き具70について説明する。くり抜き具70において、先に説明したくり抜き具11と共通する部分は、くり抜き具11の対応箇所と同じ符号で示して説明を省略する。また、図7に示されていない部分については、くり抜き具11と同様の構成を備えるものとする。
【0053】
くり抜き具70は、Z軸方向の最下部に、下端が開口したカップ型のくり抜き部71を備えている。くり抜き部71は、Z軸方向に延びる中心軸Pを囲むように形成された円筒部72によって大部分が構成されており、円筒部72の周方向の一部に、くり抜き部71の内側に突出するV字型の内側突出部73が設けられている。内側突出部73は、ウェーハ80に結晶方位を示すマーク(ノッチ82)を形成するためのマーク形成部である。円筒部72及び内側突出部73の下端は面一になっており、くり抜き部71の下面74を形成している。くり抜き部71の内周面に沿ってスラリー供給溝75が形成されており、くり抜き加工時に、砥粒を含む液体であるスラリーSがスラリー供給溝75から供給される。
【0054】
くり抜き具70を用いたくり抜き加工で形成されるウェーハ80は、くり抜き部71の内面に対応した形状になっており、円筒部72に沿った円形状の円形外周部81と、内側突出部73に沿ったV字形状のノッチ82と、を有している。ノッチ82は、ウェーハ80の結晶方位を示すマークである。
【0055】
以上に説明した通り、本発明のウェーハの製造方法によれば、砥粒を含む液体を供給して、くり抜き具の押し付けと超音波振動を利用して加工を行うので、加工工程を少なくすると共に、工具の交換作業を無くして効率的にウェーハを製造することができる。特に、マーク形成部を備えたくり抜き具の適用によって、直線形状のオリエンテーションフラット66やV字形状のノッチ82のような結晶方位を示すマークを含む形状のウェーハを、くり抜き加工だけで形成することが可能である。
【0056】
また、本発明のウェーハの製造方法は、くり抜き具を鉛直方向に動作させて、くり抜き具の下面に対応した形状のくり抜き溝を基板に形成するので、製造されるウェーハの形状の自由度に優れている。上記実施形態及び変形例のように、円形外周部65、81の一部に直線形状のオリエンテーションフラット66やV字形状のノッチ82を備えたウェーハ64、80を自在に製造することができる。さらに、製造可能なウェーハ形状の自由度の高さを活用して、加工効率を損なうことなく、ウェーハ64、80とは異なる形状のウェーハを製造することもできる。
【0057】
上記の実施形態では、基板60に4つのウェーハ64を製造する場合を示したが、1つの基板から製造されるウェーハの数は4つには限定されない。また、上記の実施形態では、基板60から同じ形状の複数のウェーハ64をくり抜いているが、本発明は、1つの基板から異なる形状のウェーハをくり抜くことを除外するものではない。
【0058】
なお、本発明の実施の形態は上記の実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、本発明の技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、本発明の技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上説明したように、本発明は、板状の基板からくり抜いてウェーハを製造する製造方法において、加工工程を少なくし、工具の交換作業を無くして、効率的にウェーハを製造することができ、多数の小径ウェーハを製造する場合に非常に有用である。
【符号の説明】
【0060】
10 :くり抜き加工装置
11 :くり抜き具
12 :くり抜き部
13 :円筒部
14 :平坦部(マーク形成部)
15 :天井部
16 :くり抜き具の下面
17 :スラリー供給溝
18 :スラリー導入部
19 :供給管路
20 :スラリー供給源
21 :支持部
22 :圧電素子
23 :電源
30 :昇降機構
31 :ベース板部
32 :ガイドレール
33 :ボールネジ
34 :モータ
35 :昇降部
36 :支持板部
40 :基板保持機構
41 :保持テーブル
42 :保持面
43 :外周溝
44 :直線溝
45 :ウェーハ吸引溝
46 :ウェーハ保持領域
47 :端材保持領域
50 :吸引源
51 :吸気穴
52 :吸気路
53 :開閉弁
54 :吸気穴
55 :吸気路
56 :開閉弁
57 :X軸移動機構
58 :Y軸移動機構
60 :基板
61 :基板の上面
62 :基板の下面
63 :くり抜き溝
64 :ウェーハ
65 :円形外周部
66 :オリエンテーションフラット(結晶方位を示すマーク)
67 :端材
68 :穴
70 :くり抜き具
71 :くり抜き部
72 :円筒部
73 :内側突出部(マーク形成部)
74 :くり抜き具の下面
75 :スラリー供給溝
80 :ウェーハ
81 :円形外周部
82 :ノッチ(結晶方位を示すマーク)
S :スラリー(砥粒を含む液体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7