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  • 特開-Cu回収方法 図1
  • 特開-Cu回収方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121126
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】Cu回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 15/00 20060101AFI20240830BHJP
   C22B 9/10 20060101ALI20240830BHJP
   C22B 1/00 20060101ALI20240830BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20240830BHJP
   C22B 21/00 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
C22B15/00
C22B9/10 101
C22B1/00 601
C22B7/00 F
C22B21/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028042
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000241485
【氏名又は名称】豊田通商株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519016181
【氏名又は名称】豊通スメルティングテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【弁理士】
【氏名又は名称】井川 浩文
(72)【発明者】
【氏名】箕浦 琢真
(72)【発明者】
【氏名】八百川 盾
(72)【発明者】
【氏名】日比 加瑞馬
(72)【発明者】
【氏名】松本 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】荒川 理恵
(72)【発明者】
【氏名】高野 航
(72)【発明者】
【氏名】筒井 亮作
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA09
4K001AA38
4K001BA22
4K001BA23
4K001CA01
4K001EA04
4K001GA19
(57)【要約】
【課題】スクラップ等の再生原料からからCuを効率的に回収できる方法を提供する。
【解決手段】本発明は、Al基材とCu基材が混在した再生原料を、Al基溶湯上に形成した溶融塩へ入れる処理工程を備えるCu回収方法である。そのAl基溶湯に含まれるMgを0.2質量%以下にすると、CuがAl基溶湯に効率的に溶け込んで回収され得る。再生原料は、例えば、熱交換器等を裁断して得られた片材からなる。溶融塩には、例えば、塩化ナトリウムと塩化カリウムの混合塩を用いることができる。処理工程後のAl基溶湯からCuを析出させて回収してもよいし、そのAl基溶湯をそのまま再生Al合金またはその原料として利用してもよい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al基材とCu基材が混在した再生原料を、Al基溶湯上に形成した溶融塩へ入れる処理工程を備え、
該Al基溶湯全体に対してMgを0.2質量%以下にして、Cuを該Al基溶湯に溶け込ませて回収するCu回収方法。
【請求項2】
前記再生原料は、その全体に対するMg含有量が0.2質量%以下である請求項1に記載のCu回収方法。
【請求項3】
前記再生原料は、裁断された片材からなる請求項1に記載のCu回収方法。
【請求項4】
前記溶融塩は、混合塩からなる請求項1に記載のCu回収方法。
【請求項5】
前記処理工程後のAl基溶湯を再生Al合金として利用する請求項1~4のいずれかに記載のCu回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生原料から銅(Cu)を回収する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
環境意識の高揚に伴い、循環型社会の構築が図られている。その一環として金属資源の再生利用(リサイクル)が進められている。その一例として、Cuの回収方法に関連する記載が下記の文献にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-110026
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、Al基溶湯(Al-0.7%Mg)とその上に設けた溶融塩層(NaCl+KCl+MgCl)とそれらの接触界面を架橋する黒鉛棒(電極)とを用いて、溶融塩層へ添加した酸化銅(CuO)からCuを黒鉛棒に析出させて回収している。
【0005】
ちなみに、その酸化銅に替えて(純)銅片を溶融塩層へ添加すると、銅片は、その形態に応じて、溶融塩層に浮遊分散したり、Al基溶湯の底部に沈降したり、溶融塩とAl基溶湯の界面付近に析出したりする。このような場合、Cuの効率的な回収は困難である。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、再生原料から銅を回収する新たな方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、Al基溶湯のMg濃度によりCuの回収効率が大きく変化することを新たに見出した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0008】
《Cu回収方法》
本発明は、Al基材とCu基材が混在した再生原料を、Al基溶湯上に形成した溶融塩へ入れる処理工程を備え、該Al基溶湯全体に対してMgを0.2質量%以下にして、Cuを該Al基溶湯に溶け込ませて回収するCu回収方法である。
【0009】
本発明によれば、Al基材とCu基材が混在した再生原料から、CuをAl基溶湯に取り込んで効率的に回収することができる。
【0010】
《Al合金/その製造方法》
本発明は、Cuを含むAl合金(溶湯を含む)またはその製造方法としても把握される。Al基溶湯に取り込まれたCuは、例えば、電解析出等により金属銅(単体)等として分離可能である。もっとも、CuはAl合金の代表的な合金元素でもある。このためCuを取り込んだAl基溶湯(処理工程後のAl基溶湯)は、(再生)Al合金(インゴット、溶湯など)またはその原料として利用されてもよい。
【0011】
《その他》
(1)本明細書でいう濃度や組成は、特に断らない限り、対象物(溶湯、基材等)の全体に対する質量割合(適宜「%」で示す。)である。
【0012】
(2)本明細書でいうAl基溶湯は、Alが主成分(50%超)であれば、Mg以外の具体的な組成を問わない。Al基溶湯は実質的に純Al溶湯(Al:98%以上さらには99%以上)でもよい。なお、Al基溶湯は固液共存状態(半溶融状態)でもよい。
【0013】
(3)特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】再生原料からCuを回収する各工程を示す模式図である。
図2】Al基溶湯中のMg濃度とそのAl基溶湯に回収されたCu濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、方法的な構成要素であっても物(例えば、再生Al合金(溶湯))に関する構成要素ともなり得る。
【0016】
《再生原料》
再生原料は、少なくともAl基材とCu基材が混在してなる。再生原料は、例えば、裁断等された片材(シュレッダー片等)からなる。片材の形態(形状、大きさ)は問わないが、その一片の最大長は、例えば0.1~30mm、1~15mm程度である。
【0017】
このような再生原料は、例えば、廃棄される熱交換器や電子・電気機器等が供給源となる。具体的にいうと、Al基材(片)は、例えば、チューブとフィンからなる熱交換器本体、電子基板や放熱板(ヒートシンク)等から得られる。またCu基材(片)は、例えば、熱交換器の配管、基板に設けられる膜状またはワイヤ状の配線(導線)等が供給源となる。
【0018】
Al基材やCu基材片の組成は問わない。Al基材は、純Al材でもAl合金材でもよい。またCu基材も純Cu材でもCu合金材でもよい。但し、再生原料は、その全体に対するMg含有量が0.2質量%(単に「%」という。)以下、0.15%以下さらには0.1%以下であると、Cuの回収が安定して効率的になされ得る。
【0019】
《Al基溶湯》
Al基溶湯は、少なくとも処理工程前(再生原料を添加・投入等する前)に、Mg濃度が0.2%以下、0.2%未満、0.18%以下、0.15%以下、0.1%以下、0.05%以下であるとよい。Mg濃度の下限値は問わないが、敢えていうならMgは0.01%以上、0.03%以上でもよい。本明細書では、適宜、処理工程の開始前(再生原料の添加前)のAl基溶湯を「処理前溶湯」という。
【0020】
処理前溶湯は、純Al溶湯(不可避不純物は含まれ得る。)でもよいし、Cuの回収(溶湯への取り込み)を阻害しない合金元素(Mg以外)を1種以上含んでもよい。
【0021】
Al基溶湯の成分組成は、処理工程中に加えられる再生原料の種類や量、処理工程の時間等に応じて変動し得るが、Mg濃度が上述した範囲に維持管理されると好ましい。もっとも、再生原料中のMg含有量(特にAl基材中のMg濃度)が十分に小さければ(例えば、0.2%以下さらには0.1%以下であれば)、Al基溶湯のMg濃度は処理工程中も低く維持され、Al基溶湯によるCuの回収が安定して効率的になされ得る。
【0022】
《溶融塩》
溶融塩は、例えば、安定な金属ハロゲン化物(特に塩化物および/または臭化物)を原料とすればよい。ハロゲン化物を構成する金属元素は、例えば、Ca、Na、Li、Sr、K、Mg、Cs、Ba等の一種以上である。Naおよび/またはKのハロゲン化物は、安価で安定しており溶融塩に好適である。
【0023】
溶融塩は、複数種の金属ハロゲン化物が混在した混合塩でもよい。その代表例としてNaClとKClの混合塩がある。溶融塩の配合(成分調整)により、溶融温度、密度等の調整が可能となる。少なくとも溶融塩は、Al基溶湯よりも低密度(比重)であるとよい。なお、溶融塩は、単層に限らず複層でもよい。
【0024】
溶融塩の温度は、少なくともAl基材(片)の溶融温度以上(超)であるとよい。溶融塩は、少なくとも再生原料を浸漬させ得る十分な厚さ(例えば層厚が3mm以上さらには10mm以上)があるよい。
【0025】
《処理工程》
処理工程は、Al基溶湯(処理前溶湯)の湯面を覆う溶融塩(層)へ、再生原料を添加または投入してなされる。再生原料は、連続的に加えられても、断続的に加えられてもよい。処理工程は、Al基溶湯および/または溶融塩を撹拌しつつなされてもよいし、静置した状態でなされてもよい。処理時間(再生原料を添加してからAl基溶湯を取り出すまでの時間)は、例えば、1~180分間さらには10~90分間である。
【0026】
処理工程後のAl基溶湯(適宜「処理後溶湯」という。)の取り出しは、断続的でも連続的でもよい。処理後溶湯は、そのまま利用されてもよいし、成分調整がなされて利用されてもよいし、凝固させて利用されてもよい。
【実施例0027】
本発明の一具体例として、純Alからなるフィンやチューブと純Cuからなる配管とを備える熱交換器のシュレッダー片からCuを回収するような場合を想定して、以下の実験を行なった。これにより、Al基溶湯中のMg濃度とそのAl基溶湯に回収されるCu濃度との関係を明らかにした。このような具体例に基づいて、本発明をより詳しく説明する。
【0028】
《実験》
(1)Al基溶湯
Mg濃度が異なる4種類のAl基溶湯(処理前溶湯)を調製した。各溶湯の具体的な組成は、純Al(Mg0%)、Al-0.2%Mg、Al-0.4%Mg、Al-0.6%Mgとした。Mg濃度は溶湯全体に対するMgの質量割合である。溶湯の原料には、市販の純Alと純Mg(試薬)を用いた。秤量した各原料を黒鉛坩堝(株式会社TYK製)に入れ、720℃(溶解温度)まで炉加熱して完全に溶解させた。こうしてMg濃度が異なるAl基溶湯を50gずつ用意した。
【0029】
(2)溶融塩
ナトリウム塩化物(44g)とカリウム塩化物(56g)との混合塩(100g)をアルミナ坩堝(株式会社ニッカトー製B3)に入れ、720℃(溶解温度)まで炉加熱して完全に溶解させた。こうして混合塩からなる溶融塩(100g)を用意した。溶融塩中のNaClとKClのモル比率は略1となる。
【0030】
(3)処理浴
黒鉛坩堝内のAl基溶湯をアルミナ坩堝の溶融塩へ静かに注いだ。両者の比重差により、Al基溶湯(下層)上に溶融塩(上層)が形成された二層構造の処理浴がアルミナ坩堝に形成された。
【0031】
(4)再生原料
純Al片(Al基材/略1~10mm角)と純Cu片(Cu基材/略1~10mm角)が混在したシュレッダー片(片材)を10g用意した。このシュレッダー片は、実際の廃棄物の裁断片であり、Cu片の混在率(質量割合)はおおよそ9~12%である。
【0032】
(5)処理工程
図1に示すように、先ず、720℃に保持した処理浴上へ、再生原料を少しずつ静かに添加した。撹拌をせず、そのまま30分間静置した。
【0033】
その処理浴を観察すると、再生原料の一部は溶融塩中に微細分散し、残部はAl基溶湯中に溶解した。
【0034】
次に、微細な分散粒子を含む溶融塩だけを処理浴から取り除いた(溶融塩の除去工程)。具体的には、アルミナ坩堝を静かに傾動することで上層の溶融塩のみを流し出して行なった。
【0035】
さらに、アルミナ坩堝の底部に残ったAl基溶湯(処理後溶湯)を、鋳型(ステンレス製分析型)へ注湯し、大気中で自然冷却して凝固させた。こうして、処理工程後のAl基溶湯が凝固した鋳塊を得た。
【0036】
《分析》
各鋳塊中に含まれるCu濃度を蛍光X線分光法(XRF)により分析した。処理前溶湯に含有させたMg濃度と、処理後溶湯が凝固した鋳塊に含まれていたCu濃度との関係を図2に示した。
【0037】
《評価》
図2から明らかなように、処理前のAl基溶湯のMg濃度が低いほど、再生原料から取り込むCu濃度が高くなることが明らかとなった。この傾向は、そのMg濃度が0.2質量%以下(未満)のときに顕著であった。
【0038】
以上から、本発明により、再生原料に含まれるCuがAl基溶湯に取り込んで効率的に回収されることが確認された。
図1
図2