(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121136
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】リチウムマンガン系複合酸化物およびその製造方法、ならびにこれを含むリチウムイオン二次電池用活物質およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20240830BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240830BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240830BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/505
H01M4/525
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028058
(22)【出願日】2023-02-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)ウェブサイトの掲載アドレス https://kiso61.award-con.com/LOGIN.php 掲載日 令和5年1月4日 (2)集会名 第61回セラミックス基礎科学討論会 開催日 令和5年1月7日
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 直哉
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AD06
4G048AE05
4G048AE06
4G048AE07
5H050AA02
5H050BA17
5H050CA09
5H050CA29
5H050CB08
5H050CB12
5H050GA02
5H050HA02
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】Li
2MnO
3型構造を有し、かつ初期のクーロン効率を高めることが可能な、新規なリチウムマンガン系複合酸化物の提供を目的とする。
【解決手段】当該リチウムマンガン系複合酸化物は、一般式(1):Li
1+x(Mn
yM
1-y)
1-xO
2(Mは、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mg、Al、およびTiからなる群から選ばれる2つ以上の元素を表し、xは0≦x≦0.2を満たし、yは0.5≦y<1を満たす)で表される化学組成を有し、かつ単斜晶Li
2MnO
3型構造の単一相で構成され、前記単斜晶Li
2MnO
3型構造のLi層におけるLiの欠損割合が、0%超50%未満である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):Li1+x(MnyM1-y)1-xO2(Mは、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mg、Al、およびTiからなる群から選ばれる2つ以上の元素を表し、xは0≦x≦0.2を満たし、yは0.5≦y<1を満たす)で表される化学組成を有し、かつ
単斜晶Li2MnO3型構造の単一相で構成され、
前記単斜晶Li2MnO3型構造のLi層におけるLiの欠損割合が、0%超50%未満である、
リチウムマンガン系複合酸化物。
【請求項2】
前記化学組成が、
一般式(2):Li1+x(MnyNizTi(1-y-z))1-xO2
(xは0≦x≦0.2を満たし、yは0.5≦y<1を満たし、zは0<z<0.5を満たす)、または
一般式(3):Li1+x(MnyCuαMgβTi(1-y-α-β))1-xO2
(xは0≦x≦0.2を満たし、yは0.5≦y<1を満たし、αおよびβは0<α+β<0.5を満たす)で表される、
請求項1に記載のリチウムマンガン系複合酸化物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法であり、
MnおよびM(Mは、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mg、Al、およびTiからなる群から選ばれる2つ以上の元素を表す)を含み、かつMnおよびMの含有量の合計に対する、Mnの含有量の割合が50モル%以上100モル%未満である前駆体を準備する工程と、
前記前駆体およびリチウム化合物の混合物を調製し、前記混合物を、300℃以上550℃以下かつ酸素濃度が20体積%以上100体積%以下の環境下で焼成する工程と、
を含む、リチウムマンガン系複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記前駆体が、Mnおよび前記一般式(1)においてMで表される元素の複合体の水酸化物である、
請求項3に記載のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記リチウム化合物が、硝酸リチウムである、
請求項3に記載のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載のリチウムマンガン系複合酸化物を含む、
リチウムイオン二次電池用活物質。
【請求項7】
請求項6に記載のリチウムイオン二次電池用活物質を含む正極を有する、
リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムマンガン系複合酸化物およびその製造方法、ならびにこれを含むリチウムイオン二次電池用活物質およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ノートパソコン、スマートフォン等に搭載される二次電池として有用なリチウムイオン二次電池は、電気自動車やプラグインハイブリッド車のバッテリー、電力負荷平準化システム等のシステム構成電源としても重要視され、現在、積極的に開発が進められている。
【0003】
上記リチウムイオン二次電池の正極用活物質として、リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)、リチウムマンガン酸化物(LiMn2O4)等、様々なものが検討されている。これらの中でも特に、Li2MnO3型構造(空間群C/2m)を有するリチウムマンガン系酸化物が、高価なコバルト等の量を少なくでき、かつ比較的高容量を実現可能であることから注目されている。
【0004】
例えば、一般式:xLi2MnO3・(1-x)LiMO2(MはNi、Co、Mn、Cr等を表す)で表されるリチウムマンガン系複合酸化物が非特許文献1~3等にて報告されている。これらのリチウムマンガン系複合酸化物は焼成法によって比較的容易に合成することが可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Haijin Yu, et al., "High-Energy Cathode Materials Li2MO3-LiMO2) for Lithium-Ion Batteries", J. Phys. Chem. Lett., 2013, Vol. 4, pp. 1268-1280
【非特許文献2】Michael Thackeray et al., "Li2MO3-stabilized LiMO2(M=Mn, Ni, Co) electrodes for lithium ion batteries", J. Mater. Chem., 2007, Vol. 17, pp. 3112-3125
【非特許文献3】Atsushi Ito, et al., "A new approach to improve the high-voltage cyclic performance of Li-rich layered cathode material by electrochemical pre-treatment", J. Power Sources, 2008, Vol. 183, pp. 344-346
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1にも示されているように、Li2MnO3型構造を有するリチウムマンガン系複合酸化物は、初期のクーロン効率が低いという課題がある。これは、初回充電時に不可逆な反応が生じるためである。
【0007】
そこで本発明は、Li2MnO3型構造を有し、かつ初期のクーロン効率を高めることが可能な、新規なリチウムマンガン系複合酸化物やその製造方法、ならびにこれを含むリチウムイオン二次電池用活物質およびリチウムイオン二次電池方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は、一般式(1):Li1+x(MnyM1-y)1-xO2(Mは、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mg、Al、およびTiからなる群から選ばれる2つ以上の元素を表し、xは0≦x≦0.2を満たし、yは0.5≦y<1を満たす)で表される化学組成を有し、かつ単斜晶Li2MnO3型構造の単一相で構成され、前記単斜晶Li2MnO3型構造のLi層におけるLiの欠損割合が、0%超50%未満である、リチウムマンガン系複合酸化物を提供する。
【0009】
また、本発明は、上記記載のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法であり、MnおよびM(Mは、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mg、Al、およびTiからなる群から選ばれる2つ以上の元素を表す)を含み、かつMnおよびMの含有量の合計に対する、Mnの含有量の割合が50モル%以上100モル%未満である前駆体を準備する工程と、前記前駆体およびリチウム化合物の混合物を調製し、前記混合物を、300℃以上550℃以下かつ酸素濃度が20体積%以上100体積%以下の環境下で焼成する工程と、を含む、リチウムマンガン系複合酸化物の製造方法を提供する。
【0010】
本発明はさらに、上記リチウムマンガン系複合酸化物を含む、リチウムイオン二次電池用活物質を提供する。
【0011】
また、本発明は上記リチウムイオン二次電池用活物質を含む正極を有する、リチウムイオン二次電池も提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、Li2MnO3型構造を有し、かつ初期のクーロン効率を高めることが可能な、新規なリチウムマンガン系複合酸化物およびその製造方法、ならびにこれを用いたリチウムイオン二次電池用活物質およびリチウムイオン二次電池方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1~5で作製したリチウムマンガン系複合酸化物のX線回折パターンを示すグラフである。
【
図2】比較例1~5で作製したリチウムマンガン系複合酸化物のX線回折パターンを示すグラフである。
【
図3】実施例6~8で作製したリチウムマンガン系複合酸化物のX線回折パターンを示すグラフである。
【
図4】比較例6~10で作製したリチウムマンガン系複合酸化物のX線回折パターンを示すグラフである。
【
図5】比較例11~15で作製したリチウムマンガン系複合酸化物のX線回折パターンを示すグラフである。
【
図6】実施例1で作製したリチウムマンガン系複合酸化物のX線リートベルト解析結果を示すグラフである。
【
図7】実施例1~6で作製したリチウムマンガン系複合酸化物の充放電特性を示すグラフである。
【
図8】
図8Aは、実施例9~17、および比較例11で作製したリチウムマンガン系複合酸化物の、一般式(1)のxと、初回充電容量および初回放電容量との関係を表すグラフであり、
図8Bは、当該リチウムマンガン系複合酸化物の一般式(1)のxとクーロン効率との関係を示すグラフであり、
図8Cは、当該リチウムマンガン系複合酸化物の一般式(1)のxとクーロン効率との関係を示すグラフである。
【
図9】実施例18~20で作製したリチウムマンガン系複合酸化物のX線回折パターンを示すグラフである。
【
図10】
図10Aは、実施例18で作製したリチウムマンガン系複合酸化物の充放電特性を示すグラフであり、
図10Bは、実施例21で作製したリチウムマンガン系複合酸化物の充放電特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、「~」で示す数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を含む数値範囲を意味する。
【0015】
1.複合酸化物
本発明は、一般式(1):Li1+x(MnyM1-y)1-xO2(Mは、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mg、Al、およびTiからなる群から選ばれる2つ以上の元素を表し、xは0≦x≦0.2を満たし、yは0.5≦y<1を満たす)で表される化学組成を有し、かつ単斜晶Li2MnO3型構造の単一相で構成される、新規のリチウムマンガン系複合酸化物に関する。
【0016】
本発明者らが鋭意検討したところ、Mnおよび上記Mで表される金属を含む前駆体と、リチウム系化合物とを、酸素存在下、300℃以上550℃以下に加熱して焼成することで、不活性な斜方晶LiMnO2を生成することなく、単斜晶Li2MnO3型構造の単一相で構成されるリチウムマンガン系複合酸化物が得られることが明らかとなった。また、当該リチウムマンガン系複合酸化物では、Li量を従来のリチウムマンガン系複合酸化物より少なくすることが可能であり、これにより、高いクーロン効率を実現できることも明らかとなった。
【0017】
なお、本明細書において、「単斜晶Li2MnO3型構造の単一相で構成される」とは、リチウムマンガン系複合酸化物をX線回折パターンによって分析したときに、80質量%以上が単斜晶Li2MnO3型構造(空間群C2/m)であることを意味する。本発明のリチウムマンガン系複合酸化物における、単斜晶Li2MnO3型構造の割合は、100質量%であることが特に好ましい。リチウムマンガン系複合酸化物が、単斜晶Li2MnO3型構造の単一相で構成され、かつ以下のようにLi層に欠損を有することから、後述の実施例に示すように、初回充電時に不可逆反応が生じ難く、初回のクーロン効率が高まりやすい。
【0018】
単斜晶Li2MnO3型構造では、TM層(4g,2b)とLi層(2c,4h)が、酸化物イオンを介して交互に積層された構造を有するが、本発明のリチウムマンガン系複合酸化物では、単斜晶Li2MnO3型構造のLi層(2c,4h)に欠損が生じている。Liの欠損割合、すなわち「2cサイトおよび4hサイトの総数」に対する、「Liによって占有されていない2cサイトおよび4hサイトの総数」の割合は、0%より大きく50%以下が好ましく、25%以上50%以下がより好ましく、50%程度がさらに好ましい。
【0019】
なお、単斜晶Li2MnO3型構造のTM層(4g,2b)には欠損が少ないことが好ましく、その欠損割合は、10%以下が好ましく、5%以下がさらに好ましい。TM層に欠損が少ないことで、初回充電時の不可逆反応を抑制することが可能になる。
【0020】
ここで、上記一般式(1):Li1+x(MnyM1-y)1-xO2におけるxは、0≦x≦0.2を満たせばよいが、後述の実施例に示すように、xが小さいほど、クーロン効率が高まりやすい。したがって、クーロン効率を高めるという観点では、0≦x≦0.1が好ましく、0≦x≦0.05がより好ましい。一方、リチウムイオン二次電池の放電電圧を高めるという観点では、xが0.2近傍であることが好ましく、0.1≦x≦0.2が好ましく、0.15≦x≦0.2がより好ましい。電極材料(リチウムマンガン系複合酸化物)に求められる特性に応じて、適宜xの値を調整することが好ましい。
【0021】
一方、上記一般式(1)におけるyは、0.5≦y<1であればよいが、コストという観点では、yが大きい、すなわちMnの比率が大きい方が好ましく、0.7≦y<1が好ましく、0.8≦y<1がより好ましい。
【0022】
また、上記一般式(1)におけるM、すなわちLiおよびMn以外の金属元素は、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mg、Al、およびTiからなる群から選ばれる2つ以上の元素であればよい。これらは、2つの元素であってもよく、3つ以上の元素であってもよい。上記の中でも、Mは、Ni、Cu、Mg、およびTiからなる群から選ばれる元素を1つ以上含むことが好ましく、Ni、Cu、Mg、およびTiからなる群から選ばれる元素を2つ、または3つ組み合わせることがより好ましく、NiおよびTiの組み合わせ、またはCu、Mg、Tiの組み合わせが特に好ましい。
【0023】
Mで表される2つ以上の元素の割合(モル比)は特に制限されないが、例えば2つの元素からなる場合には、1:9~9:1が好しく、2:8~8:2がより好ましい。また、3つ以上の元素からなる場合にも、任意の比率とすることができるが、Mで表される元素の合計に対して、各元素が10モル%以上含まれる比率であることが好ましい。
【0024】
上記をふまえると、一般式(1)で表される化学組成は、下記一般式(2)で表される化学組成、または下記一般式(3)で表される化学組成であることが好ましい。
一般式(2):Li1+x(MnyNizTi(1-y-z))1-xO2
(xは0≦x≦0.2を満たし、yは0.5≦y<1を満たし、zは0<z<0.5を満たす)
一般式(3):Li1+x(MnyCuαMgβTi(1-y-α-β))1-xO2
(xは0≦x≦0.2を満たし、yは0.5≦y<1を満たし、αおよびβは0<α+β<0.5を満たす)
【0025】
2.複合酸化物の製造方法
上記リチウムマンガン系複合酸化物の製造方法は特に制限されないが、MnおよびM(Mは、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mg、Al、およびTiからなる群から選ばれる2つ以上の元素を表す)を含み、かつMnおよびMの含有量(モル)の合計に対する、Mnの含有量(モル)の割合が、50モル%以上100モル%未満である前駆体を準備する工程(以下、「前駆体準備工程」とも称する)と、前駆体およびリチウム化合物の混合物を調製し、当該混合物を300℃以上550℃以下、かつ酸素存在下で焼成する工程(以下、「焼成工程」とも称する)と、を含む方法で製造することが好ましい。以下、各工程について説明する。
【0026】
(1)前駆体準備工程
前駆体準備工程では、MnおよびM(Mは、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mg、Al、およびTiからなる群から選ばれる2つ以上の元素を表す)を所定の比率で含む前駆体を準備する。以下、Mが2種類の元素M1、M2である場合を例に説明するが、Mが3種類以上の元素を表す場合も同様である。
【0027】
前駆体準備工程では、Mnを含む化合物(マンガン源)、M1を含む化合物(M1源)、およびM2を含む化合物(M2源)を準備し(以下、マンガン源、M1源、およびM2源をまとめて「金属源」とも称する)、水に溶解させる。
【0028】
各金属源の例には、金属単体や金属酸化物、2価の金属塩が含まれる。2価の金属塩の例には、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、酢酸塩及びこれらの水和物等が含まれる。また、マンガン源の例には、過マンガン酸(VII)カリウム、酢酸マンガン(III)、アセチル酢酸マンガン(III)等、II価以外の価数の化合物も含まれる。なお、各金属源は、複数の化合物を含んでいてもよい。例えば、マンガン源として、塩化マンガン(II)とマンガン単体等とを組み合わせてもよい。
【0029】
上記金属源を、水に溶解させる手順は特に制限されず、金属源どうしを先に混合してから水に溶解させてもよく、金属源ごとに水に溶解させてもよい。水に溶解させる各金属源の量は、水溶液中の各金属(マンガン、M1、およびM2)のモル比が、所望のリチウムマンガン系複合酸化物の、マンガン、M1、およびM2の組成比と同一になるように調整することが好ましい。また、水溶液中の金属源全体の濃度は、0.01~5mol/Lが好ましく、0.1~2.0mol/Lがより好ましい。
【0030】
本工程では、上記金属源の水溶液とアルカリ性化合物を含むアルカリ溶液とを混合し、上記3種の金属(マンガン、M1、およびM2)の塩を生成させて、沈殿(共沈)させる。
【0031】
使用するアルカリ溶液中のアルカリ性化合物の種類は特に制限されず、その例には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化リチウム一水和物等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;アンモニア等が含まれる。これらの中でも、アルカリ金属水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。アルカリ金属水酸化物を用いることで、得られる前駆体が、水酸化物となる。水酸化物(特に水酸化ナトリウムを用いて形成した水酸化物)を焼成して得られるリチウムマンガン系複合酸化物では、層間が広くなりやすく、より安定な層状構造になりやすい。その結果、後述の実施例に示すように、スピネル化し難く、充放電特性が良好になりやすい。
【0032】
一方、アルカリ溶液中の溶媒は特に制限されず、その例には、水や、水とアルコール(例えばメタノールやエタノール)との混合溶媒が含まれる。水とアルコールとの混合溶媒を使用すると、0℃以下でも沈殿物の生成が可能となる。また、アルコールが還元剤として機能するため、例えば過マンガン酸(VII)カリウム等、高価数のマンガン源の使用も可能となる。水とアルコールとの混合溶媒におけるアルコールの量は、水100質量部に対して10~50質量部が好ましく、20~40質量部がより好ましい。
【0033】
アルカリ溶液中のアルカリ性化合物の濃度は、アルカリ性化合物の種類に応じて適宜選択されるが、0.1~20mol/Lが好ましく、0.3~10mol/Lがより好ましい。また、アルカリ溶液のpHは、通常8以上が好ましく、11以上がより好ましい。
【0034】
ここで、上記金属源の水溶液とアルカリ溶液との混合方法は特に制限されないが、好ましい方法の一例として、アルカリ溶液中に、上記金属源の水溶液を徐々に添加する方法が挙げられる。例えば、送液ポンプ等を利用し、上記金属源の水溶液を、1~10時間、より好ましくは2~5時間かけて、アルカリ溶液に滴下する。このように金属源の水溶液を徐々に滴下することで、均一な沈殿物が得られやすい。
【0035】
なお、上記金属源の水溶液とアルカリ溶液との混合時には、中和熱が発生することを考慮し、恒温槽等によって、温度制御を行うことが好ましい。このときの設定温度は、-20~80℃が好ましく、-10~60℃がより好ましい。
【0036】
本工程では、上記沈殿物の生成後、沈殿物を酸化処理し、前駆体を得る。酸化処理方法は特に制限されないが、均一な試料を得るために、湿式条件下で行うことが好ましい。したがって、上記沈殿物を含む液に、空気または酸素を吹き込む処理(バブリング処理)を行うことが好ましい。酸化処理時の液の温度は0℃以上150℃以下が好ましく、10℃以上100℃以下がより好ましい。また、酸化処理時間は、0.5日以上7日以内が好ましく、1日以上4日以内がより好ましい。
【0037】
上記酸化処理後、蒸留水等で洗浄し、乾燥を行うことが好ましい。乾燥温度は特に制限されないが、例えば80℃程度で行うことができる。
【0038】
(2)焼成工程
焼成工程では、上記前駆体準備工程で得られた前駆体と、リチウム化合物との混合物を調製し、300℃以上550℃以下、かつ酸素存在下で当該混合物を焼成する。
【0039】
リチウム化合物は、リチウムを含む化合物であれば特に制限されない。その例には、炭酸リチウム、水酸化リチウム、水酸化リチウムの水和物、硝酸リチウム、酢酸リチウム等が含まれる。これらの中でも硝酸リチウムが好ましい。硝酸リチウムは、後述の焼成の際に酸素を発生させる。そのため、リチウム化合物として、硝酸リチウムを使用すると、焼成雰囲気に酸素が少なくても、焼成雰囲気に酸素を存在させることができるという利点がある。
【0040】
上記前駆体とリチウム化合物との混合比は、上述の一般式(1)で表される化学組成のリチウムマンガン系複合酸化物のxの値、すなわち、Liと、(Mn+M1+M2)との比、具体的には(1+x):(1-x)に合わせて適宜選択される。
【0041】
なお、上記前駆体およびリチウム化合物は、乾式混合し、そのまま焼成してもよいが、前駆体およびリチウム化合物をより均一に混合する観点で、前駆体、リチウム化合物、および溶媒を含むスラリーを調製し、これを乾燥させてから、焼成することがより好ましい。スラリーを調製する際に使用する溶媒は特に制限されないが、水が好ましい。リチウム化合物が水溶性である場合には、リチウム化合物を水に溶解させた水溶液を調製し、当該水溶液に上記前駆体を添加してスラリー化することが好ましい。一方、リチウム化合物が水に不溶である場合には、リチウム化合物を水に分散した分散液を調製し、当該分散液に上記前駆体を添加してスラリー化することが好ましい。
【0042】
また、スラリーの乾燥温度は特に制限されないが、40℃以上60℃以下で徐々に乾燥させることが、前駆体とリチウム化合物との分離を防ぎやすいという観点で好ましい。スラリーの乾燥後、必要に応じて、粉砕処理を行ってもよい。粉砕処理を行うことで均一に焼成することが可能となる。粉砕は粗大粒子がなくなるように行うことが好ましい。
【0043】
一方、混合物の焼成は、300℃以上550℃以下、かつ酸素存在下で行う。本明細書でいう「酸素存在下」とは、焼成雰囲気に酸素が20%以上存在する状態をいい、上述のように、リチウム化合物として硝酸リチウムを使用する場合には、焼成時にリチウム化合物から酸素が発生するため、焼成雰囲気に必ずしも酸素の追加を要しない場合があるが、リチウム化合物等から酸素が発生しない場合には、焼成を大気中、または酸素濃度を制御した環境下で行うことが好ましい。このときの焼成雰囲気の酸素濃度は20%以上100%以下であればよい。当該酸素濃度で焼成を行うと、得られるリチウムマンガン系複合酸化物がスピネル化し難く、所望のリチウムマンガン系複合酸化物が得られやすくなる。
【0044】
焼成温度は300℃以上550℃以下が好ましく、500℃以上550℃以下がより好ましい。後述の実施例で示すように、焼成温度が550℃を超えると、不活性な斜方晶が生じやすくなる。これに対し、焼成温度が550℃であると、単斜晶Li2MnO3型構造の単一相が得られやすくなる。
【0045】
また、焼成時間は、3時間以上10時間以下が好ましく、6時間以上10時間以下がより好ましい。焼成時間を上記範囲とすることで、効率的に所望のリチウムマンガン系酸化物が得られやすくなる。
【0046】
なお、上記焼成後、必要に応じてさらに熱処理を行ってもよい。ただし、このときの温度は、550℃を超えない温度とすることが好ましく、450℃以上550℃以下で行うことがより好ましい。また時間は1時間以上4時間以下が好ましく、2時間以上4時間以下がより好ましい。熱処理を行うことで、サイクル特性をさらに高められることがある。ただし、当該熱処理時に温度を過度に高めると、単斜晶Li2MnO3型構造が変化してしまう可能性があるため、上記温度範囲で行うことが好ましい。またこのときの酸素濃度は特に制限されず、例えば減圧下等、酸素が非常に少ない環境下で熱処理を行ってもよい。
【0047】
3.リチウムイオン二次電池用活物質およびリチウム二次電池
上述のリチウムマンガン系複合酸化物は、リチウムイオン二次電池の活物質、特に正極用の活物質として非常に有用である。上述のように、リチウムマンガン系複合酸化物を正極用の活物質として用いると、一般式(1)におけるxが0近傍である場合には、高いクーロン効率(90%以上)を実現可能である。一方、一般式(1)におけるxが0.2近傍である場合には、高い放電電圧を実現可能である。
【0048】
本発明のリチウムイオン二次電池用活物質は、上述のリチウムマンガン系複合酸化物のみで構成されていてもよいが、他の複合酸化物との混合物等であってもよい。
【0049】
また、本発明のリチウムイオン二次電池は、上記リチウムイオン二次電池用活物質を含む正極を有していればよく、その他の構成は、公知のリチウムイオン二次電池と同様とすることができる。当該リチウムイオン二次電池は、コイン型、ボタン型、円筒型、全固体型等、いずれの構成のリチウムイオン二次電池であってもよい。
【0050】
上記リチウムイオン二次電池用活物質を含む正極は、通常、集電体と、当該集電体上に配置された正極合材層と、を有する。正極合材層は、上述のリチウムマンガン系複合材を含むリチウムイオン二次電池用活物質と、導電剤、および結着剤とを含むことが好ましい。導電剤は公知のものを用いることができ、その例には、アセチレンブラックやケッチェンブラック等が含まれる。また、結着剤の例には、テトラフルオロエチレンやポリフッ化ビニリデン等が含まれる。一方、集電体の種類や形状は、リチウムイオン二次電池の構造に合わせて適宜選択され、その例には、ステンレスメッシュや、アルミメッシュ、アルミ箔等が含まれる。
【0051】
また、上記正極と組み合わせる負極は、リチウムを吸蔵・放出可能であればよく、金属リチウムやリチウム合金であってもよく、黒鉛やMCMB(メソカーボンマイクロビーズ)等の炭素系材料であってもよい。
【0052】
さらに、当該リチウムイオン二次電池の電解質も、公知の電解液、固体電解質等を使用可能である。例えば、過塩素酸リチウム、6フッ化リン酸リチウム等の電解質を、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)等の溶媒に溶解させた電解液等を使用可能である。
【実施例0053】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。しかしながら、本発明の範囲はこれによって何ら制限を受けない。
【0054】
1.結晶構造解析および評価
(1)複合酸化物の調製
・実施例1
塩化マンガン(II)4水和物39.6g、硝酸ニッケル(II)6水和物7.3g、および硫酸チタン(IV)水溶液20g(全量0.25mol、Mn:Ni:Tiモル比=80:10:10)を500mLの蒸留水に加え、完全に溶解させ、Mn-Ni-Ti水溶液(0.5mol/L)を得た。別のビーカーに水酸化ナトリウム水溶液(蒸留水500mLに水酸化ナトリウム50gを溶解させた溶液;2.50mol/L)を調製した。この水酸化ナトリウム水溶液をチタン製ビーカーに入れ、攪拌しつつ恒温漕内に設置し、恒温漕内を20℃に保持した。次いで、この水酸化ナトリウム水溶液に上記Mn-Ni-Ti水溶液を2~3時間かけて徐々に滴下して、Mn-Ni-Ti沈殿物(水酸化物)を形成させた。
【0055】
反応液が完全にアルカリ性(pH11以上)になっていることを確認し、攪拌下に沈殿物を含む反応液に室温で48時間以上酸素を吹き込んで、湿式酸化処理を行い、目的とする前駆体(水酸化物)を得た。当該前駆体を蒸留水で洗浄後、濾別して得られたものを、80℃で乾燥させた。
【0056】
上記前駆体中の(Mn+Ni+Ti)と、Liのモル比が1:1となるように硝酸リチウムを加え、粉砕後、電気炉に入れ、大気中(酸素濃度21%)、かつ500℃で10時間焼成した。その後、粉末を電気炉から取り出し、粉砕してリチウムマンガン系複合酸化物を得た。
【0057】
・実施例2
上記前駆体中の(Mn+Ni+Ti)と、Liのモル比が0.95:1.05となるように硝酸リチウムを加えた以外は実施例1と同様にリチウムマンガン系複合酸化物を得た。
【0058】
・実施例3
上記前駆体中の(Mn+Ni+Ti)と、Liのモル比が0.90:1.10となるように硝酸リチウムを加えた以外は実施例1と同様にリチウムマンガン系複合酸化物を得た。
【0059】
・実施例4
上記前駆体中の(Mn+Ni+Ti)と、Liのモル比が0.85:1.15となるように硝酸リチウムを加えた以外は実施例1と同様にリチウムマンガン系複合酸化物を得た。
【0060】
・実施例5
上記前駆体中の(Mn+Ni+Ti)と、Liのモル比が0.80:1.20となるように硝酸リチウムを加えた以外は実施例1と同様にリチウムマンガン系複合酸化物を得た。
【0061】
・比較例1~5
上記リチウム化合物および前駆体の混合物の焼成環境を10Pa(酸素濃度20%以下)かつ500℃とした以外は、実施例1~5と同様にリチウムマンガン系複合酸化物を得た。
【0062】
・実施例6~8
上記1、3、および5と同様にリチウムマンガン系複合酸化物を作製し、さらに10Paかつ400℃で2時間、追加で焼成した。
【0063】
・比較例6~10
上記リチウム化合物および前駆体の混合物の焼成環境を大気中(酸素濃度21%)、かつ600℃とした以外は、実施例1~5と同様にリチウムマンガン系複合酸化物を得た。
【0064】
・比較例11~15
上記リチウム化合物および前駆体の混合物の焼成環境を大気中(酸素濃度21%)、かつ700℃とした以外は、実施例1~5と同様にリチウムマンガン系複合酸化物を得た。
【0065】
(2)結晶構造解析
実施例1~8および比較例1~15で得られたリチウムマンガン系複合組成物について、それぞれ粉末X線回折装置により結晶構造を調べた。実施例1~5のリチウムマンガン系複合組成物のX線回折パターンを
図1に示し、比較例1~5のリチウムマンガン系複合組成物のX線回折パターンを
図2に示し、実施例6~8のリチウムマンガン系複合組成物のX線回折パターンを
図3に示す。また、比較例6~10のリチウムマンガン系複合組成物のX線回折パターンを
図4に示し、比較例11~15のリチウムマンガン系複合組成物のX線回折パターンを
図5に示す。
【0066】
図1に示すように、実施例1~5では、いずれもリチウムマンガン系複合組成物が、Li
2MnO
3型構造の単一相であることが確認された。また、追加焼成を行った実施例6~8(
図3)においても、リチウムマンガン系複合組成物が、Li
2MnO
3型構造の単一相であることが確認された。一方、
図2に示すように、10Paで焼成を行った比較例1~5では、スピネル構造が副相として生成していた。
【0067】
一方、
図4および5に示すように、比較例6~9、および比較例11~14では、斜方晶が生成していることが確認された。
【0068】
(3)化学分析
実施例および比較例で作製した複合酸化物の金属量(Li、Mn、Ni、およびTiのモル量)をICP発光分析により求めた。そして、Li1+x(MnyNiaTib)1-xO2における、x、y、a、およびbの値を、各金属のモル量からそれぞれ、以下のように求めた。
x=(2×Li/(Li+Mn+Ni+Ti))-1
y=2×Mn/(Li+Mn+Ni+Ti)
a=2×Ni/(Li+Mn+Ni+Ti)
b=2×Ti/(Li+Mn+Ni+Ti)
その結果、いずれの実施例および比較例においても、y=0.8、a=0.1、b=0.1であった。また、実施例1~5におけるxは、それぞれ0、0.05、0.1、0.15、および0.20であり、実施例6~8、および比較例1~15についても、対応する実施例1~5と同様のxの値となった。
【0069】
(3)リートベルト解析
X線リートベルト解析ソフトRIETAN-FP(Fujio Izumi and Koichi Momma, "Three-Dimensional Visualization in Powder Diffraction", Solid State Phenomena, 2007, Vol. 130, pp. 15-20)を用いて、得られた実施例1の実測パターンと単斜晶単位胞を用いて得られた計算パターンとを比較した結果を
図6に示す。また、実測値と計算値の残差は強度0付近に表記する。
図6に示すように、実測値と計算値の差が小さく、信頼できる解析値が得られたことが確認された。同様に実施例2~5においてもリートベルト解析を行い、実施例1~5で調製した複合組成物がLi
2MnO
3型構造であることを確認した。当該解析によって得られた格子定数(a、b、c、β)や格子体積(V)を、表1に示す。
【0070】
【0071】
(4)充放電特性評価
実施例1~6のリチウムマンガン系複合酸化物10mg及びアセチレンブラック粉末5mgを乳鉢でよく混合後、1mgのポリテトラフルオロエチレン粉末を加えて互いを結着させた。これをアルミニウムメッシュ上に圧着して合材電極を作製した。合材電極を120℃で一晩真空乾燥後、露点-80℃以下のグローブボックス内に導入し、負極に金属リチウム、電解液として1M LiPF6を炭酸エチレンと炭酸ジエチルとの混合溶媒(体積比 炭酸エチレン:炭酸ジエチル=1:1)に溶解させたものを用いて、コイン型リチウム二次電池を組み立てた。作製した電池をグローブボックス内より取り出し、充放電試験装置に接続し、充電開始にて30℃、電流密度25mA/gで充放電試験を行った。
【0072】
実施例1~6の複合酸化物を正極活物質としたリチウム二次電池の充放電特性を、それぞれ
図7に示す。また実施例1~5の充放電容特性を、下記表2に示す。
【0073】
【0074】
上記表2に示すように、xが小さいほどクーロン効率が非常に良好であり、特にx=0ではクーロン効率が93%と高かった。また、
図7に示すように、いずれにおいても、4.5Vプラトーが見られた。
【0075】
2.組成とクーロン効率との関係性評価
(1)複合酸化物の調製
上述の実施例1のリチウムマンガン系複合酸化物の調製方法における、硝酸リチウムの量を調整した以外は、実施例1と同様に、10種類の複合酸化物を調製した。得られたリチウムマンガン系複合酸化物について、ICP分析を行い、リチウムの割合(一般式(1)におけるxの値)を特定した。当該xの値を表3に示す。
【0076】
(2)評価
得られた10種類のリチウムマンガン系複合酸化物について、上述の充放電特性評価を行った。測定された初回充填容量(Q1c)、初回放電容量(Q1d)、初回クーロン効率(Q1d/Q1c)、および初回平均放電圧Vaveを下記表3に示す。
【0077】
【0078】
また、xと初回充電容量(Q
1c)および初回放電容量(Q
1d)との関係を
図8Aに示し、xと初回クーロン効率(Q
1d/Q
1c)との関係を
図8Bに示し、xと初回平均放電圧V
aveとの関係を
図8Cに示す。
【0079】
上記表3および
図8Aに示すように、xが大きくなるほど、充電容量(Q
1d)が大きくなった。一方で、xによって放電容量(Q
1d)があまり大きく変化しないため、
図8Bに示すように、クーロン効率を考慮すると、xが小さいほうが好ましいといえた。特に、x=0では、93%のクーロン効率が達成できた。また、初回平均放電電圧は、xによって変化がなかった。
【0080】
3.Li1+x(Mn0.8(Cu,Mg)0.1Ti0.1)1-xO2の評価
(1)複合酸化物の調製
・実施例18
塩化マンガン(II)4水和物25.9g、硝酸銅2.34g、硝酸マグネシウム2.68g、および硫酸チタン(IV)水溶液24g(全量0.25mol、Mn:Cu:Mg:Tiモル比=80:5:5:10)を500mLの蒸留水に加え、完全に溶解させ、Mn-Cu-Mg-Ti水溶液(0.5mol/L)を得た。別のビーカーに水酸化ナトリウム水溶液(蒸留水500mLに水酸化ナトリウム50gを溶解させた溶液;2.50mol/L)を調製した。この水酸化ナトリウム水溶液をチタン製ビーカーに入れ、攪拌しつつ恒温漕内に設置し、恒温漕内を20℃に保持した。次いで、この水酸化ナトリウム水溶液に上記Mn-Cu-Mg-Ti水溶液を2~3時間かけて徐々に滴下して、Mn-Cu-Mg-Ti沈殿物(水酸化物)を形成した。
【0081】
反応液が完全にアルカリ性(pH11以上)になっていることを確認し、攪拌下に沈殿物を含む反応液に室温で48時間以上酸素を吹き込んで湿式酸化処理して、目的とする前駆体(水酸化物)を得た。当該前駆体を蒸留水で洗浄後濾別し得られたものを、80℃で乾燥させた。
【0082】
上記前駆体中の(Mn+Cu+Mg+Ti)とLiのモル比が1:1となるように硝酸リチウムを加え、粉砕後、電気炉に入れ、大気中(酸素濃度21%)、かつ500℃で10時間焼成した。その後、粉末を電気炉から取り出し、粉砕して複合酸化物を得た。
【0083】
・実施例19
上記前駆体中の(Mn+Cu+Mg+Ti)とLiのモル比が0.90:1.10となるように硝酸リチウムを加えた以外は実施例23と同様に複合酸化物を得た。
【0084】
・実施例20
上記前駆体中の(Mn+Cu+Mg+Ti)と、Liのモル比が0.80:1.20となるように硝酸リチウムを加えた以外は実施例1と同様に複合酸化物を得た。
【0085】
・実施例21~23
沈殿物を調製する際に、水酸化ナトリウムの代わりに、炭酸ナトリウムを使用した以外は、実施例18~20と同様に複合酸化物を得た。
【0086】
・評価
実施例18~20で作製したリチウムマンガン系複合酸化物のX線回折パターンを
図9に示す。当該結果から、いずれもLi
2MnO
3型構造の単一相であることが確認された
【0087】
また、実施例18および21で得られたリチウムマンガン系複合酸化物について、上述の実施例1と同様に、充放電特性評価を行った。ただし、50サイクル行った。当該結果を
図10Aおよび
図10Bに示す。
【0088】
図10Aおよび
図10Bの比較から、水酸化ナトリウムを使用して前駆体を調製した実施例18のリチウムマンガン系複合酸化物のほうが、炭酸ナトリウムを使用して前駆体を調製したリチウムマンガン系複合酸化物より、繰り返し充放電を行ったときの4V域の電圧変化が非常に少なくなることが明らかとなった。水酸化物を使用して前駆体を調製することで、得られる複合酸化物のスピネル化を抑制できたと考えられる。