(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121164
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】気分状態改善用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20240830BHJP
A61K 31/353 20060101ALI20240830BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240830BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20240830BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20240830BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K31/353
A61P25/00
A61P25/22
A61P25/24
A23L2/52
A23L2/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028116
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 里香
(72)【発明者】
【氏名】夏目 みどり
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 佳緒里
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 健太郎
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018MD08
4B018MD57
4B018ME01
4B018ME14
4B117LC04
4B117LK06
4B117LL01
4B117LL02
4B117LL03
4B117LL09
4C086AA01
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4C086BA08
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4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA12
(57)【要約】
【課題】新規な気分状態改善用組成物の提供。
【解決手段】本発明によれば、カカオフラバノールを有効成分として含んでなる、気分状態改善用組成物が提供される。前記組成物は好ましくは更年期女性に摂取させ、より好ましくは閉経前の更年期女性に摂取させる組成物である。前記組成物は好ましくは、食品である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カカオフラバノールを有効成分として含んでなる、気分状態改善用組成物。
【請求項2】
気分状態改善が、活気および活力の向上、抑うつおよび落ち込みの改善、疲労および無気力の改善、緊張および不安の改善並びに総合的な気分状態の改善からなる群から選択される1以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
活気および活力の向上に使用するための、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
更年期女性に摂取させるための、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
更年期女性が閉経前である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
単位摂取形態である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項7】
1個または複数個の単位摂取形態が、ヒト1日当たりの有効摂取量のカカオフラバノールを含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
ヒト1日当たりのカカオフラバノールの有効摂取量がエピカテキン当量で50~2000mgである、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
食品である、請求項1または2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気分状態改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
気分状態の悪化は、外的な要因(例えば、労働、人間関係、環境変化)による肉体的または精神的ストレス、および内的な要因(例えば、ホルモンバランスの変化、加齢)によって生じ、QOLを著しく低下させる。特に女性の気分状態は、外的な要因によるストレスに加えて、内的な要因、すなわち女性ホルモンの影響を強く受ける。特に女性ホルモンの一種であるエストロゲンの分泌量の乱れや枯渇により、精神活動を司る自律神経系が乱れ、女性の心身の不調をもたらす。なかでも閉経前後5年間の更年期女性では、エストロゲンの分泌が減少したり、反動によって過剰に分泌されたりすることにより、気分状態に関する不調が強く現れる。
【0003】
これまでに外的な要因である強制水泳によって生じる肉体的・精神的ストレスによる気分状態を改善する素材として、カカオ抽出物が提案されている(特許文献1)。しかしながら、ホルモンバランスの変化や加齢等の内的な要因が関与する気分状態の悪化、特に更年期女性の気分状態、を改善するための素材として、満足できるものは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新規な気分状態改善用組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは今般、カカオフラバノールをヒト対象に摂取させることにより、気分状態を改善できることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0007】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]カカオフラバノールを有効成分として含んでなる、気分状態改善用組成物および気分状態改善剤。
[2]気分状態改善が、活気および活力の向上、抑うつおよび落ち込みの改善、疲労および無気力の改善、緊張および不安の改善並びに総合的な気分状態の改善からなる群から選択される1以上である、上記[1]に記載の組成物および剤。
[3]活気および活力の向上に使用するための、上記[1]に記載の組成物および剤。
[4]更年期女性に摂取させるための、上記[1]~[3]のいずれかに記載の組成物および剤。
[5]更年期女性が閉経前である、上記[4]に記載の組成物および剤。
[6]単位摂取形態である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の組成物おおび剤。
[7]1個または複数個の単位摂取形態が、ヒト1日当たりの有効摂取量のカカオフラバノールを含む、上記[6]に記載の組成物および剤。
[8]ヒト1日当たりのカカオフラバノールの有効摂取量がエピカテキン当量で50~2000mgである、上記[7]に記載の組成物および剤。
[9]食品である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の組成物および剤。
【0008】
本明細書において、上記[1]~[9]の組成物を「本発明の組成物」ということがある。また、本明細書において、上記[1]~[9]の剤を「本発明の剤」ということがある。
【0009】
本発明によれば、長期間にわたって継続的に摂取しても副作用の懸念がなく、安全性が高い、気分状態改善用組成物が提供できる点で有利である。
【発明の具体的説明】
【0010】
本発明の組成物および剤はカカオフラバノールを有効成分とするものである。
【0011】
本発明において「カカオフラバノール」は、カカオに含まれるフラバノール、すなわち、カカオ由来フラバノールを意味する。したがって、典型的には、カカオの植物体またはその加工品から抽出(粗抽出を含む)あるいは精製(粗精製を含む)したカカオのフラバノール抽出物または精製物を本発明の有効成分として使用することができる。ここで、カカオフラバノールを構成する成分としては、カテキン、エピカテキン等の一量体や、カテキン等が重合してなるプロシアニジンB2、プロシアニジンB5、プロシアニジンC1、シンナムタンニンA2等のオリゴマー(二量体以上六量体以下)が挙げられる。本発明においてはまた、カカオフラバノールを含有する加工品(例えば、カカオマス、脱脂カカオマス、ココアパウダー、カカオ豆粉砕品等のカカオ豆加工品)をカカオフラバノールとして本発明の組成物および剤に含有させることができる。本発明の組成物および剤においてはまた、上記の様々な形態のカカオフラバノールを単独あるいは組み合わせて使用することができる。
【0012】
本発明において、カカオフラバノールの原料や、カカオフラバノールを含有する加工品となりうるカカオの植物体またはその加工品としては、カカオ樹皮、カカオ葉、カカオ豆、カカオニブ、カカオシェル、カカオマス、脱脂カカオマス、ココアパウダー等、植物体の各種部位またはカカオ豆加工品を挙げることができる。カカオマスはカカオ豆を磨砕したものであり、脱脂カカオマスはカカオマスから油脂を除去することにより得ることができる。油脂の除去方法は特に制限されず、圧搾等の公知の方法に従って行うことができる。脱脂カカオマスを粉砕すればココアパウダーとなる。また、カカオの植物体またはその加工品を原料として抽出を行う場合は、抽出効率の観点から、磨砕、粉砕等の微粒化処理が施されているカカオニブ、カカオマスまたはココアパウダーを用いるのが好ましい。なお、本発明においては、カカオの植物体には、意図してあるいは意図せずにカカオの植物体以外の物も含めることができる。また、カカオの植物体またはその加工品を原料として抽出を行う際にも、意図してあるいは意図せずにカカオの植物体以外の物も含めることができる。さらに、カカオマスやココアパウダーにも、意図してあるいは意図せずにカカオの植物体以外の物も含めることができる。
【0013】
カカオフラバノールはカカオの植物体またはその加工品から公知の抽出方法により抽出することができ、カカオフラバノール含有組成物を調製することができる。抽出溶媒は、特に限定されるものではないが、水、熱水、酸またはエタノール等のアルコールを用いることが好ましい。また、カカオの植物体またはその加工品を原料とする精製方法は、合成吸着剤、イオン交換樹脂、限外ろ過、活性白土処理等の公知の方法を使用することができ、特に限定されるものではない。
【0014】
本発明においてカカオフラバノール含有量は、後記実施例に記載の通り、AOAC2012.24法にて定めるHPLC法により測定することができる。測定に当たっては一量体であるエピカテキンを標準物質としてエピカテキン当量としてフラバノール含有量を算出することができる。
【0015】
本発明において、カカオフラバノールの一量体~六量体の総質量に対する一量体のカカオフラバノール含有量の下限値は、15質量%または18質量%とすることができ、好ましくは20質量%または25質量%である。また上記含有量の上限値は、45質量%または42質量%とすることができ、好ましくは40質量%または35質量%である。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記含有量の範囲は、例えば、15~45質量%、18~42質量%、20~40質量%または25~35質量%とすることができる。
【0016】
本発明において、カカオフラバノールの一量体~六量体の総質量に対する二量体のカカオフラバノール含有量の下限値は、18質量%または21質量%とすることができ、好ましくは23質量%または28質量%である。また上記含有量の上限値は、48質量%または45質量%とすることができ、好ましくは43質量%または38質量%である。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記含有量の範囲は、例えば、18~48質量%、21~45質量%、23~43質量%または28~38質量%とすることができる。
【0017】
本発明において、カカオフラバノールの一量体~六量体の総質量に対する三量体のカカオフラバノール含有量の下限値は、2質量%または5質量%とすることができ、好ましくは7質量%または12質量%である。また上記含有量の上限値は、32質量%または29質量%とすることができ、好ましくは27質量%または22質量%である。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記含有量の範囲は、例えば、2~32質量%、5~29質量%、7~27質量%または12~22質量%とすることができる。
【0018】
本発明において、カカオフラバノールの一量体~六量体の総質量に対する四量体のカカオフラバノール含有量の下限値は、1質量%または2質量%とすることができ、好ましくは5質量%または7質量%である。また上記含有量の上限値は、25質量%または20質量%とすることができ、好ましくは17質量%または15質量%である。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記含有量の範囲は、例えば、1~25質量%、2~17質量%、5~20質量%または7~25質量%とすることができる。
【0019】
本発明において、カカオフラバノールの一量体~六量体の総質量に対する五量体のカカオフラバノール含有量の下限値は、0.5質量%または1質量%とすることができ、好ましくは2質量%または3質量%である。また上記含有量の上限値は、20質量%または15質量%とすることができ、好ましくは12質量%または10質量%である。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記含有量の範囲は、例えば、0.5~20質量%、1~15質量%、2~12質量%または3~10質量%とすることができる。
【0020】
本発明において、カカオフラバノールの一量体~六量体の総質量に対する六量体のカカオフラバノール含有量の下限値は、0.1質量%または0.2質量%とすることができ、好ましくは0.5質量%または0.7質量%である。また上記含有量の上限値は、17質量%または12質量%とすることができ、好ましくは9質量%または7質量%である。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記含有量の範囲は、例えば、0.1~17質量%、0.2~12質量%、0.5~9質量%または0.7~7質量%とすることができる。
【0021】
本発明の組成物および剤は、カカオフラバノールを含んでなる組成物の形態で提供することができる。この場合、本発明の組成物および剤は、カカオフラバノールを、例えば、0.1質量%以上、1質量%以上、10質量%以上、50質量%以上または80質量%以上の含有量で含む組成物で提供することができる。また含有量の上限に制限はないが、例えば、本発明の組成物および剤は、カカオフラバノールを、例えば、99質量%以下、90質量%以下、80質量%以下または50質量%以下の含有量で含む組成物で提供することができる。
【0022】
後記実施例に記載されるように、カカオフラバノールは「活気および活力の向上」、「抑うつおよび落ち込みの改善」、「疲労および無気力の改善」、「緊張および不安の改善」、「総合的な気分状態の改善」を含む気分状態の改善効果を有する。したがって、本発明のカカオフラバノールは気分状態の改善のための有効成分として使用することができる。ここで、「気分状態の改善」とは、気分状態をよりよい状態にすることを意味し、気分状態を維持することまたは悪化した気分状態を回復させることを含む意味で用いられるものとする。
【0023】
本発明において気分状態を改善する対象は、ヒトおよび非ヒト哺乳動物(例えば、イヌ、ネコ等の愛玩動物、ウシ、ウマ等の家畜)が挙げられ、好ましくはヒトである。本発明の好ましい態様においては、気分状態を改善する対象を更年期女性とすることができ、さらに好ましくは閉経前の更年期女性である。本発明において気分状態を改善する対象はまた、健常な対象が挙げられる。
【0024】
本発明において「更年期」とは、女性の一生の中で閉経前の約5年間と閉経後の約5年間とを併せた約10年間を指し、成熟期から老年期への移行期をいう。したがって、本発明において「更年期女性」とは、上記期間に該当する女性をいう。また、「閉経前の更年期女性」とは、閉経前5年間の期間に該当する女性をいい、生理不順を基準に判断することができる(後記実施例の選択基準に関する記載参照)。
【0025】
本発明において「活気および活力」は元気さ、躍動感および/または活動のもとになる力を意味する。本発明において「抑うつおよび落ち込み」は自分に対する無価値感、意欲喪失、孤立感、悲しみおよび/または罪悪感を意味する。本発明において「疲労および無気力」は疲労感、意欲減退および/または活力低下を意味する。本発明において「緊張および不安」は神経がたかぶること、落ち着かないことおよび/または身体的緊張を意味する。本発明において「総合的な気分状態」は気分障害、情動的もしくは心理的苦痛および主観的幸福感の全般を意味する。
【0026】
本発明において「活気および活力の向上」とは、活気および活力をよりよい状態にすることを意味し、活気および活力を維持することまたは低下した活気および活力を改善することもしくは回復させること含む。本発明において「抑うつおよび落ち込みの改善」とは、抑うつおよび落ち込みをよりよい状態にすることを意味し、悪化した抑うつ状態および落ち込み状態を回復させること含む。本発明において「疲労および無気力の改善」とは、疲労および無気力をよりよい状態にすることを意味し、悪化した疲労状態および無気力状態を回復させること含む。本発明において「緊張および不安の改善」とは、緊張および不安をよりよい状態にすることを意味し、悪化した緊張状態および不安状態を回復させること含む。本発明において「総合的な気分状態の改善」とは、総合的な気分状態をよりよい状態にすることを意味し、悪化した総合的な気分状態を回復させること含む。
【0027】
本発明において気分状態の改善は、公知の方法により評価することができ、例えば、Profile of mood states 2nd Edition 成人用短縮版(POMS2)により評価することができる。POMS2を使用して気分状態を評価する場合、POMS2は「怒り-敵意」、「混乱-当惑」、「抑うつ-落ち込み」、「疲労-無気力」、「緊張-不安」、「活気-活力」、「友好」および「総合的気分状態」を評価することができるところ、「抑うつおよび落ち込みの改善」は「抑うつ-落ち込み」の、「疲労および無気力の改善」は「疲労-無気力」の、「緊張および不安の改善」は「緊張-不安」の、「活気および活力の向上」は「活気-活力」の、「総合的な気分状態の改善」は「総合的気分状態」の各項目の得点を指標にして評価することができる。本発明の組成物を摂取させた被験者において、「活気-活力」の摂取後の得点が増加した場合に、活気および活力が向上したと評価することができる。本発明の組成物を摂取させた被験者において、「抑うつ-落ち込み」、「疲労-無気力」、「緊張-不安」または「総合的気分状態」の摂取後の得点が低下した場合に、「抑うつおよび落ち込み」、「疲労および無気力」、「緊張および不安」または「総合的な気分状態」が改善されたと評価することができる。
【0028】
本発明の組成物および剤は、医薬品および医薬部外品(例えば医薬組成物)、食品(例えば食品組成物)、飼料(例えば飼料組成物)等の形態で提供することができ、下記の記載に従って実施することができる。
【0029】
本発明の有効成分であるカカオフラバノールは、ヒトおよび非ヒト動物に経口投与することができる。経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤が挙げられる。これらの製剤は、当分野で通常行われている手法により、薬学上許容される担体を用いて製剤化することができる。薬学上許容される担体としては、賦形剤、結合剤、希釈剤、添加剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられる。
【0030】
本発明において、カカオフラバノールを医薬品または医薬部外品に配合する場合には、医薬品または医薬部外品における含有量は、例えば、その下限値(以上または超える)は0.1質量%、10質量%、20質量%、30質量%とすることができ、その上限値(以下または未満)は95質量%、80質量%、70質量%、50質量%とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、医薬品または医薬部外品におけるカカオフラバノールの含有量(固形分換算)の範囲は、例えば、0.1~95質量%、10~80質量%、20~70質量%とすることができる。なお、医薬品または医薬部外品は医薬組成物の形態で提供することができる。
【0031】
本発明の有効成分であるカカオフラバノールは、ヒトおよび非ヒト動物に経口摂取させることができる。本発明の有効成分を食品(例えば、食品組成物)として提供する場合にはカカオフラバノールを食品に含有させることができ、該食品はカカオフラバノールを有効量含有した食品である。ここで、カカオフラバノールを「有効量含有した」とは、個々の食品において通常喫食される量を摂取した場合に後述するような範囲でカカオフラバノールが摂取されるような含有量をいう。また「食品」とは、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、保健機能食品(例えば、特定保健用食品、栄養機能性食品、機能性表示食品)および特別用途食品(例えば、幼児用食品、妊産婦用食品、病者用食品)を含む意味で用いられる。「食品」の形態は特に限定されるものではなく、例えば、飲料の形態であっても、半液体やゲル状の形態(例えば、流動食)であっても、固形状の形態であってもよい。
【0032】
本発明の食品は、有効成分の配合以外は食品の製造に通常用いられる方法に従って、製造することができる。すなわち、本発明の食品は、液状、固形、粉末等の形態を問わず、カカオフラバノールを各種食品またはその原料に添加して調製することができる。
【0033】
本発明の有効成分であるカカオフラバノールを適用できる食品としては、チョコレートやココアのようにカカオ豆を主原料とする食品はもちろんのこと、カカオフラバノールを含有させることができる食品であれば特に限定されないが、例えば、以下の食品が挙げられる。
・乳製品(例えば、牛乳、発酵乳、加工乳、ヨーグルト、ヨーグルトドリンク、バター、バターソース、マーガリン、チーズ、アイスクリーム、コーヒー用ミルク)
・菓子類(例えば、チョコレート、プリン、ゼリー、グミキャンディー、キャンディー、ドロップ、キャラメル、チューインガム、ペストリー、バタークリーム、カスタードグリーム、シュークリーム、ホットケーキ、パン、ポテトチップス、フライドポテト、ポップコーン、ビスケット、クラッカー、パイ、スポンジケーキ、カステラ、ワッフル、ケーキ、ドーナツ、ビスケット、クッキー等の洋菓子;せんべい、おかき、おこし、まんじゅう、ういろう、あん類、羊羹、水羊羹、あめ等の和菓子;シャーベット等の冷菓)
・飲料(例えば、乳酸飲料、乳酸菌飲料、濃厚乳性飲料、果汁飲料、無果汁飲料、野菜ジュース、果汁入り炭酸飲料、果実着色炭酸飲料、清涼飲料水、ゼリー飲料)
・カレー類およびスープ類(例えば、即席カレー、レトルトカレー、レトルトスープ、レトルトシチュー、缶詰カレー)
・調味料(例えば、みそ、粉末みそ、醤油、粉末醤油、もろみ、魚醤、ソース、ケチャップ、オイスターソース、固形ブイヨン、焼き肉のたれ、カレールー、シチューの素、スープの素、だしの素、ペースト、インスタントスープ、ふりかけ、ドレッシング、マヨネーズ、食酢、三杯酢、粉末すし酢、中華の素、天つゆ、麺つゆ、サラダ油、複合調味料、みりん、新みりん、テーブルシュガー、コーヒーシュガー)
【0034】
本発明の食品をサプリメントとして提供する場合には、カカオフラバノールを含有させる以外は通常のサプリメントの製造方法に従って製造することができる。ここで、サプリメントとしては、カカオフラバノールあるいはそれを含有する原材料に賦形剤、結合剤等を加え、造粒することにより製造された顆粒剤および粉剤;カカオフラバノールあるいはそれを含有する原材料に賦形剤、増粘剤等を加え練り合わせたペースト;カカオフラバノールあるいはそれを含有する原材料に賦形剤、結合剤等を加え練り合わせた後に打錠することにより製造された錠剤;カカオフラバノールあるいはそれを含有する原材料をカプセル等に封入したカプセル剤等が挙げられる。本発明においてはまた、対象が自身で、各種性状(例えば、液状、固形状、粉末状、顆粒状、ペースト状)に調製されたカカオフラバノールを、飲用水、食品、食事等に添加して摂取することもできる。
【0035】
本発明において、カカオフラバノールを日常的に喫食する食品に配合する場合には、食品全体に対するカカオフラバノール含有量(固形分換算)は、例えば、その下限値(以上または超える)は0.1質量%、1質量%、2質量%とすることができ、その上限値(以下または未満)は40質量%、20質量%、10質量%とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、日常的に食する食品におけるカカオフラバノールの含有量の範囲は、例えば、0.1~40質量%、1~20質量%、2~10質量%とすることができる。
【0036】
本発明において、カカオフラバノールをサプリメントとして提供する場合には、サプリメント全体に対するカカオフラバノール含有量(固形分換算)は、例えば、その下限値(以上または超える)は0.1質量%、1質量%、10質量%、20質量%とすることができ、その上限値(以下または未満)は90質量%、80質量%、60質量%、50質量%とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、サプリメントにおけるカカオフラバノールの含有量の範囲は、例えば、0.1~90質量%、1~80質量%、10~50質量%とすることができる。
【0037】
本発明の有効成分を飼料(例えば、ペットフード、家畜飼料)として提供する場合には上記の食品に関する記載に従って実施することができる。
【0038】
本発明の組成物および剤は、他の経口摂取できる組成物や剤と併用することに制限はない。例えば、気分状態改善作用が期待できる素材や組成物と併用することで、気分状態改善作用効果をさらに高めることができる。
【0039】
本発明の有効成分の摂取量は、受容者の性別、年齢および体重、摂取時間、剤形、症状、摂取経路、並びに組み合わせる食品・薬剤等に依存して決定できる。気分状態改善に有効な、カカオフラバノールの成人1日当たりの摂取量の下限値は、例えば、エピカテキン当量で10mg、50mg、100mg、200mg、350mg、500mgまたは600mgとすることができ、その上限値は2000mg、1600mg、1400mg、1200mg、1100mgまたは1000mgとすることができる。これらの上限値および下限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記摂取量の範囲は、例えば、10~2000mg、50~2000mg、100~1500mgまたは200mg~1000mgとすることができる。摂取回数に特に制限はなく、上記有効摂取量を1日1回摂取させても、数回に分けて摂取させてもよい。また、摂取タイミングについても特に制限はなく、対象が摂取しやすい時期に摂取することができる。なお、上記の有効成分の摂取量、摂取回数および摂取タイミング並びに下記の有効成分の摂取態様は、カカオフラバノールを非治療目的および治療目的のいずれで使用する場合にも適用があり、治療目的の場合には摂取は投与に読み替えることができる。
【0040】
本発明の組成物および剤は、気分状態改善に有効な1日分の摂取量のカカオフラバノールを含んでなる組成物(例えば、食品組成物)で提供することができる。この場合、本発明の組成物および剤は、1日分の有効摂取量を摂取できるような形態であってもよく、1日分の有効摂取量が摂取できる限り、その形態は特に限定されない。
【0041】
典型的には本発明の組成物および剤は単位摂取形態で提供することができ、摂取対象は、1個または複数個の単位摂取形態を摂取することで1日分の有効摂取量を摂取することができる。ここで「単位摂取形態」とは、1回分の摂取に適した、所定量の有効成分を含む形態をいい、ブロック状、板状、スティック状、錠剤、カプセルに加工された形態や、包装形態が挙げられる。例えば、カカオフラバノールの1日分の有効摂取量(摂取目安量)を100mgとし、単位摂取形態として20mgのカカオフラバノールを含む板状のチョコレート製品を想定すると、摂取対象は1日当たり5枚の該食品を摂取することが推奨される。
【0042】
本発明の組成物および剤を単位摂取形態で提供する場合、1日分の有効摂取量が摂取できるように摂取量に関する情報を一緒に提供することが望ましい。また、1日分の有効摂取量を複数の単位摂取形態で提供する場合には、摂取の便宜上、1日分の有効摂取量に対応する複数の単位摂取形態をセットで提供することができ、さらには複数日分の有効摂取量に対応する複数の単位摂取形態をセットで提供することもできる。例えば、上記のチョコレート製品の例では、5日分の有効摂取量に相当する25枚の板状のチョコレート製品(個包装されていてもよい)を1セット(容器包装されていてもよい)で提供することができる。
【0043】
本発明の組成物および剤を包装形態で提供する場合、一包装であっても、複数包装であってもよい。包装形態で提供する場合、1日分の有効摂取量が摂取できるように摂取量に関する記載が包装になされているか、または当該記載がなされた文書を一緒に提供することが望ましい。また、1日分の有効摂取量を複数包装で提供する場合には、摂取の便宜上、1日分の有効摂取量の複数包装をセットで提供することもできる。
【0044】
本発明の組成物および剤を食品として提供するための包装形態は一定量を規定する形態であれば特に限定されず、例えば、包装紙、袋、パウチ、ソフトバック、紙容器、缶、ボトル、カプセル等の収容可能な容器等が挙げられる。
【0045】
本発明の組成物および剤を食品として提供する場合、その効果をよりよく発揮させるために、少なくとも1週間以上継続的に摂取させることができ、好ましくは2週間以上、より好ましくは1ヶ月以上、さらに好ましくは2ヶ月以上継続的に摂取させることができる。ここで、「継続的に」とは、毎日摂取させること、あるいは少なくとも2日に1回の摂取を続けることを意味する。本発明の組成物および剤を食品として単位摂取形態で提供する場合には、継続的摂取のために一定期間(例えば、1週間または1ヶ月間)の有効摂取量に対応する単位摂取形態をセットで提供してもよい。
【0046】
本発明の食品には気分状態の改善作用を有する旨の表示が付されてもよい。この場合、消費者に理解しやすい表示とするため、本発明の食品には、例えば、以下の一部または全部の表示が付されてもよい。
・本品には、カカオフラバノールが含まれており、40代~50代の女性のネガティブな気分(気分の落ち込み、無気力、緊張、不安等)を緩和する機能がある。
・本品には、カカオフラバノールが含まれており、女性の加齢にともなう活気・活力の低下を軽減する機能がある。
・カカオフラバノールは、一時的に疲れを感じている更年期女性の前向きな気分や生き生きとした生活を維持する機能があることが報告されている。
・カカオフラバノールは、大人女性特有の活気・活力感(積極的な気分、生き生きとした気分、やる気等)の低下を軽減する機能があることが報告されている。
・カカオフラバノールは、一時的に疲れを感じている中高年女性の活気や活力を維持する機能があることが報告されている。
【0047】
本発明の別の面によれば、有効量のカカオフラバノールまたはそれを含んでなる組成物を、それを必要としている対象に摂取させることを含んでなる、気分状態改善方法が提供される。本発明の方法は、本発明の組成物および剤に関する記載に従って実施することができる。
【0048】
本発明の別の面によればまた、気分状態の改善剤の製造のための、気分状態の改善剤としての、あるいは、気分状態の改善方法における、カカオフラバノールまたはそれを含んでなる組成物の使用が提供される。本発明の使用は、本発明の組成物および剤並びに本発明の方法に関する記載に従って実施することができる。
【0049】
本発明のさらに別の面によれば、気分状態の改善に用いるための、カカオフラバノールまたはそれを含んでなる組成物が提供される。これらの発明は、本発明の組成物および剤並びに本発明の方法に関する記載に従って実施することができる。
【0050】
本発明の方法および本発明の使用はヒトを含む哺乳動物における使用であってもよく、治療的使用と非治療的使用のいずれもが意図される。本明細書において、「非治療的」とはヒトを手術、治療または診断する行為(すなわち、ヒトに対する医療行為)を含まないことを意味し、具体的には、医師または医師の指示を受けた者がヒトに対して手術、治療または診断を行う方法を含まないことを意味する。
【実施例0051】
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0052】
例1:カカオフラバノール含有食品が更年期女性の気分状態に与える影響の検証
(1)方法
ア 試験の承認
本試験は、チヨダパラメディカルケアクリニック倫理審査委員会および明治臨床試験審査委員会の承認を受け、ヘルシンキ宣言を遵守して実施した。また、プロトコルはUMIN-CTRに登録した(UMIN000043966)。
【0053】
イ 被験者の選択
対象者は、以下の全ての選択基準に合致し、かつ、全ての除外基準に抵触しない者とした。
【0054】
<選択基準>
1)本試験の目的、内容について十分な説明を受け、同意能力があり、十分に理解した上で自由意思により志願し、文書で参加に同意した者
2)同意取得時に40歳以上60歳未満の健康な女性
3)スクリーニング検査時に日常生活で疲労感を自覚している者
4)BMIが18.6kg/m2以上30kg/m2未満の者
5)月経周期が1週間以上ずれている者(生理不順の者)、または最終月経から無月経の経過が5年以下の者
【0055】
<除外基準>
1)食物アレルギーを有する者
2)カカオを含む食品を摂取できない者
(嗜好上の理由およびカカオ摂取により頭痛等を発症する者が該当)
3)妊娠中または妊娠の予定・可能性のある者、授乳中の者
4)喫煙習慣がある者、および過去1年以内に喫煙習慣があった者
5)卵巣摘出等の外科処置による更年期症状を有する者
6)重篤または進行性の持病や症状を有する者
7)スクリーニング検査時にCOVID-19の感染歴があり、感染後に疲労感が増加していると自覚する者
8)投薬を伴う治療中の慢性的な内科的疾患がある者
9)更年期症状に影響を及ぼす可能性のある医薬品、市販医薬品(OTC)、健康食品(特定保健用食品や機能性表示食品を含む)、サプリメントを1週間に5日以上の頻度で1ヶ月以上に亘って服薬または摂取している者
10)同意取得日より前の1か月間に他の臨床試験およびモニター試験(経口摂取や薬物投与を伴う試験に限る)に参加した者
11)その他、試験責任医師または試験分担医師が被験者として不適当と判断した者
【0056】
選択基準5)の「月経周期が1週間以上ずれている者(生理不順の者)」は閉経前の更年期の被験者を選択するため、「最終月経から無月経の経過が5年以下の者」は閉経後の更年期の被験者を選択するための基準とした。
【0057】
文書による同意を得られた試験参加希望者117名にスクリーニング検査を実施した。その結果を基に、全ての選択基準を満たし、かつ、全ての除外基準に抵触しない60名を被験者として選抜し、被験食品摂取群(カカオ群)およびプラセボ食品摂取群(プラセボ群)の2群に、各群30名に割り付けた。被験者には表1および表2に示す項目の測定を実施した。
【0058】
【0059】
【0060】
ウ 試験食品の調製
試験食品として、表3に示す、カカオフラバノールエキスを含有する被験食品およびカカオフラバノールエキスを含有しないプラセボ食品(各1本200mLの飲料)を調製した。
【0061】
【0062】
被験食品に配合したカカオフラバノールエキスは、カカオ豆から公知の方法により抽出した。カカオフラバノールエキス中のカカオフラバノール含有量を、AOAC2012.24法にて定めるHPLC法により定量した。具体的には、70%(v/v)アセトンおよび0.5%(v/v)酢酸を添加して抽出し、HPLC分析に供した。一量体であるエピカテキン(Sigma社)を標準品として用い、一量体、二量体、三量体、四量体、五量体、および六量体それぞれに係数をかけた合計をエピカテキン当量として算出した。HPLCカラムは、Develosil Diol100、φ4.6mm×250mm(野村化学株式会社)を用いた。上記方法で定量した結果、一量体~六量体の各エピカテキン当量は、一量体が0.36mg/mL、二量体が0.40mg/mL、三量体が0.20mg/mL、四量体が0.13mg/mL、五量体が0.07mg/mL、六量体が0.03mg/mLであり、合計1.20mg/mLであった。被験食品1本200mLあたりのカカオフラバノール含有量は、240mgであった。
【0063】
エ 試験方法
被験者にプラセボ対照ランダム化二重盲検並行群間比較試験を実施した。被験食品摂取群(カカオ群)およびプラセボ食品摂取群(プラセボ群)に、各試験食品1本(200mL)を8週間毎日摂取させた。被験者には摂取開始前(摂取前)および摂取8週間後(8週間後)に、Profile of mood states 2nd Edition 成人用短縮版(POMS2)を用いた気分状態の調査を実施した。
【0064】
POMS2は「POMS2 日本語版マニュアル」に基づいて、調査時点での気分状態を、7つの尺度:怒り-敵意(Anger-Hostility; AH)、混乱-当惑(Confusion-Bewilderment; CB)、抑うつ-落ち込み(Depression-Dejection; DD)、疲労-無気力(Fatigue-Inertia; FI)、緊張-不安(Tension-Anxiety; TA)、活気-活力(Vigor-Activity; VA)、友好(Friendliness; F)と、総合的気分状態(Total Mood Disturbance; TMD;ネガティブな気分状態であるほど高得点となり、ポジティブな気分状態であるほど低得点となる)により測定した。
【0065】
(2)結果
結果を表4および表5に示す。
【0066】
【0067】
【0068】
表4にPOMS2の結果を示す。摂取前では、いずれの項目においてもプラセボ群とカカオ群に有意差は認められなかった。8週間後において、カカオ群では、ネガティブな気分の指標である抑うつ-落ち込み(DD)、疲労-無気力(FI)、緊張-不安(TA)は、プラセボ群と比較して、有意に低かった(それぞれP=0.0459、0.0108、0.0184)。カカオ群ではまた、怒り-敵意(AH)もプラセボ群と比較して、低値傾向であった(P=0.0917)。カカオ群ではまた、総合評価結果である総合的気分状態(TMD)は、プラセボ群と比較して、有意に低い値を示した(P=0.0141)。カカオ群ではまた、ポジティブな気分の尺度である活気-活力(VA)の変化量は、プラセボ群と比較して、有意に高かった(P=0.0422)。これらの結果から、カカオフラバノールの摂取は、更年期女性の気分状態を改善すること、すなわち、活気および活力の向上、抑うつおよび落ち込みの改善、疲労および無気力の改善、緊張および不安の改善並びに総合的な気分状態の改善の各作用を奏することが示された。
【0069】
表5にPOMS2の活気-活力(VA)の閉経前後別の結果を示す。閉経前のカカオ群では、8週間後および変化量において、閉経前のプラセボ群と比較して、有意な高値を示した(それぞれP=0.0231、P=0.0182)。この結果から、カカオフラバノールの摂取は、更年期女性のうち、特に閉経前の更年期女性の活気および活力を向上させることが示された。