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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012122
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】物品及び物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/28 20060101AFI20240118BHJP
   A63B 53/10 20150101ALI20240118BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20240118BHJP
   A63B 102/32 20150101ALN20240118BHJP
【FI】
B32B5/28 A
A63B53/10 A
F16F15/02 Q
A63B102:32
【審査請求】未請求
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109437
(22)【出願日】2023-07-03
(31)【優先権主張番号】P 2022114138
(32)【優先日】2022-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】盛 弘之
(72)【発明者】
【氏名】佐々 喜紀
【テーマコード(参考)】
2C002
3J048
4F100
【Fターム(参考)】
2C002MM02
3J048BD04
3J048BD05
3J048BD07
4F100AD11A
4F100AD11C
4F100AG00A
4F100AG00C
4F100AK01B
4F100AK03B
4F100AK11B
4F100AK11J
4F100AK25A
4F100AK25C
4F100AK27B
4F100AK27J
4F100AK28B
4F100AK28J
4F100AK29B
4F100AK29J
4F100AL02B
4F100AL05B
4F100AL07B
4F100AN02B
4F100BA03
4F100DG03A
4F100DG03C
4F100DH01A
4F100DH01C
4F100DH02A
4F100DH02C
4F100EH171
4F100EH17B
4F100EJ08A
4F100EJ08C
4F100EJ172
4F100EJ422
4F100GB32
4F100GB87
4F100JB13A
4F100JB13C
4F100JH02
(57)【要約】
【課題】FRPを用いた物品において、振動減衰性、音響特性及び靭性のうち、少なくとも一つが改善された物品を提供する。
【解決手段】第一の繊維強化プラスチック層と、第二の繊維強化プラスチック層との間に、損失正接(Tanδ)が周波数100Hzと4,000Hzの間の全範囲で20℃において0.2以上である重合体組成物の層を有する、物品。第一のプリプレグと第二のプリプレグとを、損失正接(Tanδ)が周波数100Hzと4,000Hzの間の全範囲で20℃において0.2以上である重合体組成物からなるシートを介して積層し、加熱及び加圧する工程を有する、物品の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の繊維強化プラスチック層と、第二の繊維強化プラスチック層との間に、損失正接(Tanδ)が周波数100Hzと4,000Hzの間の全範囲で20℃において0.2以上である重合体組成物の層を有する、物品。
【請求項2】
前記第一の繊維強化プラスチック層及び前記第二の繊維強化プラスチック層の少なくとも一方が、硬化した熱硬化性樹脂を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記第一の繊維強化プラスチック層及び前記第二の繊維強化プラスチック層のいずれもが、硬化した熱硬化性樹脂を含む、請求項2に記載の物品。
【請求項4】
前記第一の繊維強化プラスチック層及び前記第二の繊維強化プラスチック層の少なくとも一方が不連続繊維を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の物品。
【請求項5】
前記第一の繊維強化プラスチック層と前記第二の繊維強化プラスチック層のいずれもが不連続繊維を含む、請求項4に記載の物品。
【請求項6】
前記第一の繊維強化プラスチック層及び前記第二の繊維強化プラスチック層の少なくとも一方が、炭素繊維及びガラス繊維から選ばれる1種以上の繊維を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の物品。
【請求項7】
前記重合体組成物が極性基を有する重合体を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の物品。
【請求項8】
前記重合体組成物が極性基を有する重合体を含む、請求項6に記載の物品。
【請求項9】
前記重合体組成物がアクリロニトリルブタジエンゴムを含む、請求項7に記載の物品。
【請求項10】
前記重合体組成物がアクリロニトリルブタジエンゴムを含む、請求項8に記載の物品。
【請求項11】
前記重合体組成物が下記成分(a)と下記成分(b)を含む熱可塑性重合体組成物である、請求項7に記載の物品。
成分(a):ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)と、3,4結合を有するイソプレン及び/又は1,2結合を有するイソプレンを含む共役ジエン重合体ブロック(B)とからなる(A)-(B)-(A)トリブロック共重合体、及び/又は該トリブロック共重合体の水素添加物
成分(b):極性基を有するポリオレフィン
【請求項12】
前記重合体組成物が下記成分(a)と下記成分(b)を含む熱可塑性重合体組成物である、請求項8に記載の物品。
成分(a):ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)と、3,4結合を有するイソプレン及び/又は1,2結合を有するイソプレンを含む共役ジエン重合体ブロック(B)とからなる(A)-(B)-(A)トリブロック共重合体、及び/又は該トリブロック共重合体の水素添加物
成分(b):極性基を有するポリオレフィン
【請求項13】
前記極性基を有するポリオレフィンが無水マレイン酸変性ポリオレフィンを含む、請求項11に記載の物品。
【請求項14】
前記極性基を有するポリオレフィンが無水マレイン酸変性ポリオレフィンを含む、請求項12に記載の物品。
【請求項15】
バットである、請求項1~3のいずれか一項に記載の物品。
【請求項16】
自動車ルーフパネルである、請求項1~3のいずれか一項に記載の物品。
【請求項17】
第一のプリプレグと第二のプリプレグとを、損失正接(Tanδ)が周波数100Hzと4,000Hzの間の全範囲で20℃において0.2以上である重合体組成物からなるシートを介して積層し、加熱及び加圧する工程を有する、物品の製造方法。
【請求項18】
前記第一のプリプレグ及び前記第二のプリプレグの少なくとも一方が熱硬化性樹脂を含む、請求項17に記載の物品の製造方法。
【請求項19】
前記第一のプリプレグ及び前記第二のプリプレグのいずれもが熱硬化性樹脂を含む、請求項18に記載の物品の製造方法。
【請求項20】
前記第一のプリプレグ及び前記第二のプリプレグの少なくとも一方が不連続繊維を含む、請求項17~19のいずれか一項に記載の物品の製造方法。
【請求項21】
前記第一のプリプレグと前記第二のプリプレグのいずれもが不連続繊維を含む、請求項20に記載の物品の製造方法。
【請求項22】
前記第一のプリプレグ及び前記第二のプリプレグの少なくとも一方が、炭素繊維及びガラス繊維から選ばれる1種以上の繊維を含む、請求項17~19のいずれか一項に記載の物品の製造方法。
【請求項23】
前記重合体組成物が極性基を有する重合体を含む、請求項17~19のいずれか一項に記載の物品の製造方法。
【請求項24】
前記重合体組成物がアクリロニトリルブタジエンゴムを含む、請求項23に記載の物品の製造方法。
【請求項25】
前記重合体組成物が下記成分(a)と下記成分(b)を含む熱可塑性重合体組成物である、請求項23に記載の物品の製造方法。
成分(a):ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)と、3,4結合を有するイソプレン及び/又は1,2結合を有するイソプレンを含む共役ジエン重合体ブロック(B)とからなる(A)-(B)-(A)トリブロック共重合体、及び/又は該トリブロック共重合体の水素添加物
成分(b):極性基を有するポリオレフィン
【請求項26】
前記極性基を有するポリオレフィンが無水マレイン酸変性ポリオレフィンを含む、請求項25に記載の物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化プラスチック層の間に重合体組成物の層を有する物品と、この物品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチック(以下、FRPと称す)は、軽量かつ高強度で耐蝕性に優れ、成形の自由度が金属に比べて高いことから、バスタブ、タンク、ボード、パイプ、建材、産業資材、自動車用部品など、広い分野の物品に使用されている。特に、近年、軽量化に優れることから、強化繊維として炭素繊維を用いたFRPは、航空部材をはじめ、ゴルフシャフト、テニスラケット等のスポーツ・レジャー用品、船舶部材などの工業材料などの物品に使用され、その軽量性と強度の特性を活かして自動車用部品としても実用化されはじめている。
【0003】
FRPの成形方法の一つに、シートモールディングコンパウンド(以下、SMCと称す)のようなプリプレグを用いたプレス成形法がある。この方法は、生産性が高く、複雑な形状の成形品を得ることができることから、広く用いられている。
【0004】
FRPを用いた物品において、市場が求めている要求を満足させるために、FRPとその他の材料とを積層する技術が知られている。
例えば、特許文献1には、耐衝撃性の改善されたFRP成形品を提供することを課題として、SMCの間に弾性体を配して金型に仕込み、プレス成形して得られるFRP複合構造物が提案されている。
また、特許文献2には、FRPの軽量性を損なうことなく、平滑な表面を有するFRP部材を得ることができる技術を提供することを課題として、FRPの少なくとも片面に、特定の引張弾性率範囲である低弾性率表面層を介して、特定の引張弾性率範囲である高弾性率表面層を配設する技術が提案されている。
特許文献3には、炭素繊維強化プラスチックよりなる層と熱可塑性エラストマーよりなる層を含む積層成形体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61-127317号公報
【特許文献2】特開2006-51813号公報
【特許文献3】特開2018-154827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
FRPを用いた物品は、上述のように優れた特性を有する反面、軽量で比剛性が高いため、叩いた時に耳障りな甲高い音が発生することから、用途によっては、耳障りな音の低減やより高い振動減衰性が必要となる場合があることが分かった。
また、FRPには剛性を高めようとすると靭性が低くなるというトレードオフがある。
【0007】
本発明の目的は、FRPを用いた物品において、振動減衰性、音響特性及び靭性のうち、少なくとも一つが改善された物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] 第一の繊維強化プラスチック層と、第二の繊維強化プラスチック層との間に、損失正接(Tanδ)が周波数100Hzと4,000Hzの間の全範囲で20℃において0.2以上である重合体組成物の層を有する、物品。
【0009】
[2] 前記第一の繊維強化プラスチック層及び前記第二の繊維強化プラスチック層の少なくとも一方が、硬化した熱硬化性樹脂を含む、[1]に記載の物品。
【0010】
[3] 前記第一の繊維強化プラスチック層及び前記第二の繊維強化プラスチック層のいずれもが、硬化した熱硬化性樹脂を含む、[2]に記載の物品。
【0011】
[4] 前記第一の繊維強化プラスチック層及び前記第二の繊維強化プラスチック層の少なくとも一方が不連続繊維を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の物品。
【0012】
[5] 前記第一の繊維強化プラスチック層と前記第二の繊維強化プラスチック層のいずれもが不連続繊維を含む、[4]に記載の物品。
【0013】
[6] 前記第一の繊維強化プラスチック層及び前記第二の繊維強化プラスチック層の少なくとも一方が、炭素繊維及びガラス繊維から選ばれる1種以上の繊維を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の物品。
【0014】
[7] 前記重合体組成物が極性基を有する重合体を含む、[1]~[6]のいずれかに記載の物品。
【0015】
[8] 前記重合体組成物がアクリロニトリルブタジエンゴムを含む、[7]に記載の物品。
【0016】
[9] 前記重合体組成物が下記成分(a)と下記成分(b)を含む熱可塑性重合体組成物である、[7]に記載の物品。
成分(a):ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)と、3,4結合を有するイソプレン及び/又は1,2結合を有するイソプレンを含む共役ジエン重合体ブロック(B)とからなる(A)-(B)-(A)トリブロック共重合体、及び/又は該トリブロック共重合体の水素添加物
成分(b):極性基を有するポリオレフィン
【0017】
[10] 前記極性基を有するポリオレフィンが無水マレイン酸変性ポリオレフィンを含む、[9]に記載の物品。
【0018】
[11] バットである、[1]~[10]のいずれかに記載の物品。
【0019】
[12] 自動車ルーフパネルである、[1]~[10]のいずれかに記載の物品。
【0020】
[13] 第一のプリプレグと第二のプリプレグとを、損失正接(Tanδ)が周波数100Hzと4,000Hzの間の全範囲で20℃において0.2以上である重合体組成物からなるシートを介して積層し、加熱及び加圧する工程を有する、物品の製造方法。
【0021】
[14] 前記第一のプリプレグ及び前記第二のプリプレグの少なくとも一方が熱硬化性樹脂を含む、[13]に記載の物品の製造方法。
【0022】
[15] 前記第一のプリプレグ及び前記第二のプリプレグのいずれもが熱硬化性樹脂を含む、[14]に記載の物品の製造方法。
【0023】
[16] 前記第一のプリプレグ及び前記第二のプリプレグの少なくとも一方が不連続繊維を含む、[13]~[15]のいずれかに記載の物品の製造方法。
【0024】
[17] 前記第一のプリプレグと前記第二のプリプレグのいずれもが不連続繊維を含む、[16]に記載の物品の製造方法。
【0025】
[18] 前記第一のプリプレグ及び前記第二のプリプレグの少なくとも一方が、炭素繊維及びガラス繊維から選ばれる1種以上の繊維を含む、[13]~[17]のいずれかに記載の物品の製造方法。
【0026】
[19] 前記重合体組成物が極性基を有する重合体を含む、[13]~[18]のいずれかに記載の物品の製造方法。
【0027】
[20] 前記重合体組成物がアクリロニトリルブタジエンゴムを含む、[19]に記載の物品の製造方法。
【0028】
[21] 前記重合体組成物が下記成分(a)と下記成分(b)を含む熱可塑性重合体組成物である、[19]に記載の物品の製造方法。
成分(a):ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)と、3,4結合を有するイソプレン及び/又は1,2結合を有するイソプレンを含む共役ジエン重合体ブロック(B)とからなる(A)-(B)-(A)トリブロック共重合体、及び/又は該トリブロック共重合体の水素添加物
成分(b):極性基を有するポリオレフィン
【0029】
[22] 前記極性基を有するポリオレフィンが無水マレイン酸変性ポリオレフィンを含む、[21]に記載の物品の製造方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、FRPを用いた物品において、振動減衰性、音響特性及び靭性のうち、少なくとも一つ、好ましくはすべてが改善された物品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1(a)は、実施例1で製造したパネルの振動減衰時間の評価におけるインパルス応答結果を示すチャートであり、図1(b)は、比較例1で製造したパネルの振動減衰時間の評価におけるインパルス応答結果を示すチャートである。
図2】実施例1及び比較例1で製造したパネルの振動減衰量の評価におけるイナータンス測定結果を示すチャートである。
図3】SMC製造装置の構成の一例を示す模式図である。
図4】実施例4及び比較例5~6におけるフラットワイズ引張試験方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に本発明について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明は以下の記載内容に限定されるものではなく、発明の効果が奏される範囲において、任意に変形して実施することができる。
なお、本発明において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0033】
〔物品〕
実施形態に係る物品は、第一の繊維強化プラスチック層と、第二の繊維強化プラスチック層との間に、損失正接(Tanδ)が周波数100Hzと4,000Hzの間の全範囲で20℃において0.2以上である重合体組成物(以下、「重合体組成物(A)」と称す場合がある。)の層を有することを特徴とする。
【0034】
[第一の繊維強化プラスチック層]
第一の繊維強化プラスチック層(以下、「第一のFRP層」と称す場合がある。)は、繊維補強材(fiber reinforcement)と、該繊維補強材に浸み込んだマトリックスとからなる。換言すれば、繊維補強材がマトリックスで含浸されている。
【0035】
マトリックスは樹脂組成物であり、硬化した熱硬化性樹脂組成物であってもよいし、あるいは、熱可塑性樹脂組成物であってもよい。
【0036】
マトリックスが硬化した熱硬化性樹脂組成物である場合、限定するものではないが、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、マレイミド樹脂およびフェノール樹脂から選ばれる一種以上の熱硬化性樹脂の硬化物が含まれ得る。エポキシ樹脂とビニルエステル樹脂は、炭素繊維に対する接着性が良好な硬化物を与えることが知られている。
【0037】
マトリックスが熱可塑性樹脂組成物である場合、限定するものではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリスチレン、ABS樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル、ポリアミド6等のポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルスルフォン、ポリサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、その他、これらの樹脂の変性体から選ばれる一種以上の熱可塑性樹脂が含まれ得る。
【0038】
マトリックスは、上記樹脂成分に加えて各種添加剤、フィラー、着色剤等を含み得る。
【0039】
繊維補強材が含有し得る繊維の例には、限定するものではないが、無機繊維、有機繊維金属繊維および天然繊維が挙げられる。
【0040】
無機繊維の例には、限定するものではないが、炭素繊維、黒鉛繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、タングステンカーバイド繊維、ボロン繊維およびガラス繊維が挙げられる。炭素繊維の典型例としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維およびピッチ系炭素繊維が挙げられる。
有機繊維としては、アラミド繊維、高密度ポリエチレン繊維、ナイロン繊維およびポリエステル繊維が挙げられる。
金属繊維としては、ステンレス繊維および鉄繊維が挙げられる。
天然繊維としては、麻のような植物由来の繊維が挙げられる。
いずれの繊維も、必要に応じて金属被覆することが可能である。
これらの中でも、第一のFRP層の強度等の機械物性を考慮すると、ガラス繊維、炭素繊維が好ましい。その中でも特に、比強度、比剛性が高く、軽量化効果にも優れる観点から、炭素繊維が好ましい。
【0041】
繊維補強材は、1種類の繊維のみから構成されてもよいし、2種以上の繊維を含有してもよい。
【0042】
繊維補強材は、連続繊維と短繊維(切断された繊維)のいずれか一方または両方を含み得る。繊維補強材が連続繊維を含むとき、該連続繊維は一方向に引き揃えられていてもよい。繊維補強材は、連続繊維を織物の形態で含んでもよい。繊維補強材は、連続繊維と短繊維のいずれか一方または両方からなる不織布であってもよい。繊維補強材はチョップド繊維からなるマットであってもよい。
【0043】
第一のFRP層における繊維補強材の含有率は、物品の用途、要求特性によっても異なり、特に制限はない。繊維補強材が実質的に炭素繊維のみからなる場合の繊維含有率は、好ましくは40~80質量%、より好ましくは50~70質量%である。繊維補強材の炭素繊維含有率が上記下限以上であれば、繊維補強材による補強効果に優れる。繊維補強材の炭素繊維含有率が上記上限以下であれば、成形性、表面平滑性等に優れる。
【0044】
第一のFRP層の厚みについては、得られる物品の用途、要求特性によっても異なり、特に制限はないが、好ましくは0.5~5.0mm、より好ましくは1.0~2.0mmである。第一のFRP層の厚みが上記下限以上であれば、十分な機械的強度を得ることができ、上記上限以下であれば、物品の薄肉軽量化を図ることができる。
【0045】
[第二の繊維強化プラスチック層]
第二の繊維強化プラスチック層(以下、「第二のFRP層」と称す場合がある。)もまた、第一のFRP層と同様に、繊維補強材(fiber reinforcement)と、該繊維補強材に浸み込んだマトリックスとからなる。換言すれば、繊維補強材がマトリックスで含浸されている。
第二のFRP層においても、マトリックス、繊維補強材等としては、第一のFRP層に用いられるマトリックス、繊維補強材等として上述したものと同様のものを用いることができる。第二のFRP層の好適な繊維補強材含有量や厚みについても第一のFRP層におけると同様である。
【0046】
ただし、第一のFRP層と第二のFRP層とは、同一構成である必要はなく、マトリックスの種類や組成、繊維補強材の種類や含有量、厚み等が異なっていてもよい。
【0047】
得られる物品の反りの抑制等の観点からは、第一のFRP層と第二のFRP層とは同一構成であることが好ましい。
一方、第一のFRP層と第二のFRP層とを異なる構成とすることで、物品の表裏において異なる物性を有するものを得ることができる。
【0048】
[重合体組成物(A)の層]
本発明の物品は、第一のFRP層と、第二のFRP層との間に、損失正接(Tanδ)が周波数100Hzと4,000Hzの間の全範囲で20℃において0.2以上である重合体組成物(A)の層を有する。
【0049】
一般に、重合体組成物の損失正接(Tanδ)は、重合体組成物の振動減衰性と相関があり、損失正接の値が大きい程、振動エネルギーを熱エネルギーに変換する効率が高く、振動減衰性に優れる傾向がある。
このため、第一のFRP層と、第二のFRP層との間に、特定の動的粘弾性を有する重合体組成物の層を配した構造とすることで、FRP物品の振動減衰性を向上させることができる。このとき、重合体組成物の層として、損失正接(Tanδ)が周波数100Hzと4,000Hzの間の全範囲で20℃において0.2以上である重合体組成物(A)の層を配することで、振動に起因する固体伝搬音において、人間にとって耳障りな音の周波数領域といわれている周波数60Hz付近から4000Hz付近の振動を吸収し、良好な音響特性を得ることができる。周波数100Hzと4,000Hzの間に損失正接(Tanδ)が0.2を下回る領域を有する重合体組成物では、振動を吸収する効果が十分でなく、音響特性に劣る場合がある。
【0050】
重合体組成物(A)における損失正接の値は、良好な音響特性を得る観点から、周波数100Hzと4,000Hzの間の全範囲で20℃において0.3以上であることが好ましく、0.35以上であることがより好ましく、0.40以上であることが更に好ましい。
【0051】
重合体組成物の20℃における100Hz~4000Hzの間の損失正接(Tanδ)は、動的粘弾性測定に基づいて作成される損失正接(Tanδ)のマスターカーブから知ることができる。
損失正接(Tanδ)のマスターカーブは、特開平11-304636号公報や特開2021-25891号公報に示されているように、複数の温度における粘弾性特性の周波数分散を粘弾性試験機で測定した後、WLF式(JIS K6394記載の実験式(13))を用いてシフトファクターを求め、このシフトファクターに従って、各測定温度における周波数依存曲線をシフトさせることにより得ることができる。
【0052】
動的粘弾性測定の具体的な条件は、後掲の実施例の項に示す通りである。
後述の通り、重合体組成物(A)はゴムに分類される熱硬化性重合体を含有し得るが、このことは、重合体組成物(A)が常温(15~30℃)でゴム状態であることを意味しない。むしろ、重合体組成物(A)がガラス状態からゴム状態に移行する温度領域の中に、常温を含む温度範囲が含まれることが好ましい。
【0053】
重合体組成物(A)の層の厚みは、物品の用途、要求特性等により異なり、特に制限はないが、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.2mm以上であり、また、好ましくは2.0mm以下、より好ましくは0.5mm以下である。
重合体組成物(A)の層の厚みが上記下限以上であるとき、振動減衰性、音響特性および靭性の少なくともひとつについて、より好ましい改良効果が得られる。また、重合体組成物(A)の層を第一のFRP層と第二のFRP層との間に介在させることで、この層を介在させない場合に比べて、物品の表面平滑性も改善され得る。
重合体組成物(A)の層の厚みが上記上限以下であるとき、第一のFRP層と第二のFRP層による機械的強度を損なうことがなく、また、物品の薄肉軽量化を図ることができる。
同様の観点から、第一のFRP層/重合体組成物(A)の層/第二のFRP層の積層部分において、重合体組成物(A)の層が厚さに占める割合は5~50%、特に10~30%であることが好ましい。
【0054】
重合体組成物(A)が含有する重合体は、熱硬化性であってもよいし、熱可塑性であってもよい。
【0055】
熱硬化性重合体の具体例としては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、水素化ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレン酢酸ビニルゴム、アクリルゴム、ポリウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
熱可塑性重合体としては、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミドが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
これらのうちでも、第一のFRP層や第二のFRP層のマトリックス樹脂に対して、接着性の高い重合体が好適である。
例えば、第一のFRP層及び/又は第二のFRP層のマトリックス樹脂が熱可塑性である場合には、その熱可塑性のマトリックス樹脂を含むFRP層に対する接着性の観点から、重合体組成物(A)が熱可塑性重合体を含有することが望ましい。
【0057】
前記例示した熱硬化性重合体の中では、特に、アクリロニトリルの成分比率の調整により損失正接(Tanδ)の制御がし易いことから、アクリロニトリルブタジエンゴムが好ましい。
重合体組成物(A)が熱可塑性であるとき、特に、極性基を有するポリオレフィンを含有することが好ましく、特に、下記成分(a)と下記成分(b)を含むことが好適である。
成分(a):ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)と、3,4結合を有するイソプレン及び/又は1,2結合を有するイソプレンを含む共役ジエン重合体ブロック(B)とからなる(A)-(B)-(A)トリブロック共重合体、及び/又は該トリブロック共重合体の水素添加物
成分(b):極性基を有するポリオレフィン
【0058】
第一のFRP層及び/又は第二のFRP層のマトリックス樹脂が不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂およびフェノール樹脂から選ばれる1種以上を含む場合には、重合体組成物(A)が、極性基を有する重合体を含有することが好ましい。
極性基を有する重合体は、熱硬化性であってもよいし熱可塑性であってもよい。
極性基を有する熱硬化性重合体としては、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、アクリルゴム、ポリウレタンゴムが挙げられる。
極性基を有する熱可塑性重合体としては、ヘテロ原子含有基を有するポリオレフィン、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミドが挙げられる。
【0059】
第一のFRP層及び/又は第二のFRP層のマトリックス樹脂が不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂およびフェノール樹脂から選ばれる1種以上を含む場合、特に、重合体組成物(A)が下記成分(a)と下記成分(b)を含む熱可塑性重合体組成物であることが好適である。
成分(a):ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)と、3,4結合を有するイソプレン及び/又は1,2結合を有するイソプレンを含む共役ジエン重合体ブロック(B)とからなる(A)-(B)-(A)トリブロック共重合体、及び/又は該トリブロック共重合体の水素添加物
成分(b):極性基を有するポリオレフィン
【0060】
上記成分(a)と成分(b)を含む重合体組成物(A)においては、成分(a)の共役ジエン重合体ブロック(B)の3,4結合を有するイソプレンまたは1,2結合を有するイソプレンの含有率により、損失正接(Tanδ)が周波数100Hzと4,000Hzの間の全範囲で20℃において0.2以上となるように制御することができる。
上記成分(a)と成分(b)を含む重合体組成物(A)は、成分(a)と成分(b)のほか、以下の成分(c)、成分(d)、及び成分(e)を更に含むことができる。
成分(c):水添ブロック共重合体
成分(d):ゴム用炭化水素系軟化剤
成分(e):オレフィン系重合体
【0061】
<成分(a)>
成分(a)は、ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)と3,4結合を有するイソプレン及び/又は1,2結合を有するイソプレンを含む共役ジエン重合体ブロック(B)とからなる(A)-(B)-(A)トリブロック共重合体である。
【0062】
ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)を構成する単量体としては、スチレン、t-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、o-、m-、p-メチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンが挙げられ、特にスチレン、α-メチルスチレンが好ましい。
【0063】
成分(a)のビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)の含有率の下限は、引張強さなどの機械物性や耐熱性の観点から、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましい。成分(a)のビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)の含有率の上限は、柔軟性やゴム弾性、また後述の成分(d)のゴム用炭化水素系軟化剤と併用する場合にはブリード抑制の観点から50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、35質量%以下が更に好ましい。
【0064】
共役ジエン重合体ブロック(B)を構成する単量体は、3,4結合を有するイソプレン及び/又は1,2結合を有するイソプレンが挙げられ、ブタジエンを含んでいてもよい。
即ち、ポリイソプレンには、シス-1,4結合、トランス1,4結合、1,2結合、3,4結合の4つのミクロ構造があるが、このうち、1,2結合を有するイソプレン重合体ブロックと、3,4結合を有するイソプレン重合体ブロックであれば、二重結合がブロック共重合体の主鎖ではなく側鎖に存在するようになり、この側鎖二重結合部が炭素数2又は3の側鎖炭化水素基であることで、振動減衰性に寄与していると考えられる。
この側鎖二重結合による振動減衰効果は、水素添加により二重結合が単結合となっても、その炭素鎖により同様に達成される。
これに対して、シス-1,4結合、トランス-1,4結合のイソプレンでは、二重結合が主鎖に組み込まれ、炭素数1の側鎖炭化水素基しか有しないため、炭素数2又は3の側鎖炭化水素基ほどの高い振動減衰効果は得られないと推定される。
【0065】
共役ジエン重合体ブロック(B)中の3,4結合を有するイソプレン及び1,2結合を有するイソプレンの合計の含有率は、振動減衰性の観点から、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることが更に好ましい。
なお、この3,4結合を有するイソプレン及び1,2結合を有するイソプレンの含有率は、13C-NMR測定により求めることができる。
【0066】
成分(a)は、共役ジエン重合体ブロック(B)の炭素-炭素二重結合の一部又は全部が水素添加されている水添ブロック重合体であってもよい。成分(a)が水添ブロック共重合体である場合、その水素添加率は、共役ジエン重合体ブロック(B)の炭素-炭素二重結合の水素添加率で50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、95%以上が更に好ましい。なお、成分(a)において、上述の「水素添加率が50%以上であること」と、上述の「水素添加によりイソプレン部分の二重結合の少なくとも50%が飽和されていること」は同義である。
ここで、水素添加率は13C-NMRにより測定することができる。後述の成分(c)の水素添加率についても同様である。
【0067】
成分(a)の(A)-(B)-(A)トリブロック共重合体の分子構造は、直鎖状、分岐状、放射状あるいはこれらの組み合わせのいずれであってもよい。
【0068】
成分(a)のゲルパーミッションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量の下限は、柔軟性やゴム弾性、また後述の成分(d)のゴム用炭化水素系軟化剤と併用する場合にはブリード抑制の観点から、3万以上が好ましく、5万以上がより好ましい。成分(a)の重量平均分子量の上限は、流動性の観点から30万以下であることが好ましく、25万以下であることがより好ましい。
【0069】
成分(a)の製造方法は、上記構造・物性が得られる限りいかなる方法であってもよい。例えば特公昭40-23798号公報に掲載された方法、リチウム触媒の存在下に不活性溶媒中でブロック重合を行う方法を採用することができる。また、これらのブロック共重合体の水素添加処理は、例えば特公昭42-8704号公報、特公昭43-6636号公報、特開昭59-133203号公報、特開昭60-79005号公報などに掲載された方法により、不活性溶媒中で水素添加触媒の存在下で行うことができる。
【0070】
成分(a)の市販品としては、「ハイブラー(登録商標)」(株式会社クラレ製)等の商品が例示できる。
【0071】
成分(a)は、1種のみを用いてもよく、ブロック構成や物性等の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0072】
<成分(b)>
重合体組成物(A)に含まれる成分(b)の極性基を有するポリオレフィンは、未変性のポリオレフィンを極性を有する化合物で変性することにより得られる。
【0073】
変性剤としての極性を有する化合物としては、α,β-不飽和カルボン酸を好適に用いることができる。α,β-不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸が挙げられる。変性剤としては、これらのα,β-不飽和カルボン酸の誘導体を用いてもよく、誘導体としては、これらのα,β-不飽和カルボン酸の酸無水物、エステルが例示され、更には、酸ハロゲン化物、アミド、イミドなどの誘導体であってもよい。これらの中では、特にマレイン酸又はその無水物が好適である。従って、極性基を有するポリオレフィンは無水マレイン酸変性ポリオレフィンを含有することが好ましい。
【0074】
未変性のポリオレフィンとしては、特に限定されるものではないが、エチレン、プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、2-メチルブテン-1、3-メチルブテン-1、ヘキセン-1、3-メチルペンテン-1、4-メチルペンテン-1、3,3-ジメチルブテン-1、ヘプテン-1、メチルヘキセン-1、ジメチルペンテン-1、トリメチルブテン-1、エチルペンテン-1、オクテン-1、メチルペンテン-1、ジメチルヘキセン-1、トリメチルペンテン-1、エチルヘキセン-1、メチルエチルペンテン-1、ジエチルブテン-1、プトピルペンテン-1、デセン-1、メチルノネン-1、ジメチルオクテン-1、トリメチルヘプテン-1、エチルオクテン-1、メチルエチルヘプテン-1、ジエチルヘキセン-1、ドデセン-1およびヘキサドデセン-1等のα-オレフィンの単独重合体、あるいは、これらのα-オレフィンの任意の二種以上を原料モノマーとする共重合体を挙げることができる。
【0075】
特に好ましいポリオレフィンは、JIS K7210準拠のメルトフローレート(MFR:エチレンを主成分とする重合体においては190℃、21.2N荷重の条件下で測定、プロピレンを主成分とする重合体においては230℃、21.2N荷重の条件下で測定)が0.01~200g/10分、好ましくは0.1~100g/10分であるエチレン系重合体、プロピレン系重合体であり、変性率の制御のしやすさからプロピレン系重合体が好ましい。プロピレン系重合体としては、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・ブテン-1ランダム共重合体が好ましい。
【0076】
エチレン系重合体やプロピレン系重合体は市販の該当品を用いることも可能である。市販のポリエチレンとしては、日本ポリエチレン社のノバテック(登録商標)PE、ENEOS NUC社のLDPE樹脂、旭化成社のサンテック(登録商標)、住友化学社のスミカセン(登録商標)、宇部丸善ポリエチレン社のUBEポリエチレンなどが挙げられる。
市販のポリプロピレンとしては、日本ポリプロ社のノバテック(登録商標)PP、プライムポリマー社のPrime Polypro(登録商標)、住友化学社の住友ノーブレン(登録商標)、サンアロマー社のポリプロピレンブロックコポリマー、LyondellBasell社のMoplen(登録商標)などが挙げられる。
【0077】
本発明で用いる極性基を有するポリオレフィンとしては、α,β-不飽和カルボン酸による変性率が0.1~20質量%であるポリオレフィンが好ましく、この変性率は0.2~10質量%であることがより好ましい。変性率を上記数値範囲とすることで、未反応物や副生成物の混入を抑制し、第一及び第二のFRP層と十分な接着性を有する重合体組成物(A)を製造することができる。
【0078】
なお、極性基を有するポリオレフィンが、α,β-不飽和カルボン酸変性ポリオレフィンである場合、α,β-不飽和カルボン酸による変性率は、例えば、H-NMR、赤外吸収スペクトル、高周波プラズマ発光分析装置を用いたICP発光分析法等により確認することができる。即ち、例えば、α,β-不飽和カルボン酸がマレイン酸である場合、厚さ100μm程度のシート状にプレス成形したサンプル中のマレイン酸特有の吸収、具体的には1900~1600cm-1(C=O伸縮振動帯)のカルボニル特性吸収を測定することにより求めることができる。
このようにして測定されるα,β-不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン中のα,β-不飽和カルボン酸量は、α,β-不飽和カルボン酸変性ポリオレフィンの変性用基材のポリオレフィンにグラフトしたα,β-不飽和カルボン酸量とこのポリオレフィンにグラフトしていないα,β-不飽和カルボン酸成分の合計である。本発明では、上記の測定方法で測定される変性用基材のポリオレフィンにグラフトしたα,β-不飽和カルボン酸とグラフトしていないα,β-不飽和カルボン酸成分の合計をα,β-不飽和カルボン酸量或いは変性率とする。
【0079】
α,β-不飽和カルボン酸変性ポリオレフィンを製造するための変性方法は特に制限はなく、有機溶媒中で反応させる溶液変性法や押出機内において変性させる溶融変性法を採用することができる。
【0080】
このようなα,β-不飽和カルボン酸変性ポリオレフィンは、1種のみを用いてもよく、変性剤としてのα,β-不飽和カルボン酸、変性用基材のポリオレフィンや変性率等の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0081】
変性率の制御のしやすさの観点から、本発明で用いる成分(b)のα,β-不飽和カルボン酸変性ポリオレフィンとして最も好ましいものは、無水マレイン酸変性プロピレン単独重合体である。
【0082】
<成分(c):水添ブロック共重合体>
成分(c)はビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)と共役ジエン重合体ブロック(C)とからなるブロック共重合体の水素添加物であって、好ましくは水素添加により共役ジエン部分の二重結合の少なくとも80%が飽和されており(水素添加率80%以上)、重量平均分子量が8万~100万である水添ブロック共重合体である。
【0083】
ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)を構成するビニル芳香族化合物としては、例えばスチレン、t-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、o-、m-、p-メチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどの1種又は2種以上が挙げられ、特にスチレン、α-メチルスチレンが好ましい。
【0084】
成分(c)のビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)の含有率の下限は、引張強さなどの機械物性や耐熱性の観点から、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上が更に好ましい。成分(c)のビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)の含有率の上限は、柔軟性やゴム弾性、また後述の成分(d)のゴム用炭化水素系軟化剤と併用する場合にはブリード抑制の観点から50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下が更に好ましい。
【0085】
成分(c)の共役ジエン重合体ブロック(C)は、前述の成分(a)の共役ジエン重合体ブロック(B)とは異なるものであり、成分(c)の共役ジエン重合体ブロック(C)を構成する共役ジエン単量体としては、例えばブタジエン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-メチル-1、3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、4,5-ジエチル-1,3-オクタジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエン等の1種又は2種以上、あるいは、イソプレンとこれらの共役ジエン単量体の1種又は2種以上との組み合わせが挙げられる。ただし、イソプレンには、3,4結合を有するイソプレン、1,2結合を有するイソプレンは含まれない。これらのうち、特にブタジエン、或いはブタジエン/イソプレンの2/8~6/4の質量割合の混合物が好ましい。
【0086】
成分(c)は、ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)と共役ジエン重合体ブロック(C)を有する構造であれば特に限定されず、直鎖状、分岐状、放射状等の何れであってもよいが、下記式(1)又は(2)で表されるブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体であることが好ましい。
【0087】
A-(C-A) (1)
(A-C) (2)
(式中、Aはビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)を、Cは共役ジエン重合体ブロック(C)をそれぞれ示し、mは1~5の整数を示し、nは1~5の整数を示す。)
【0088】
式(1)又は(2)において、m及びnは、ゴム的高分子体としての秩序-無秩序転移温度を下げる点では大きい方がよいが、製造のしやすさ及びコストの点では小さい方がよい。
【0089】
成分(c)の水添ブロック共重合体としては、ゴム弾性に優れることから、式(2)で表される水添ブロック共重合体よりも式(1)で表される水添ブロック共重合体の方が好ましく、mが3以下である式(1)で表される水添ブロック共重合体がより好ましく、mが2以下である式(1)で表される水添ブロック共重合体が更に好ましく、mが1である式(1)で表される水添ブロック共重合体が最も好ましい。
【0090】
成分(c)のゲルパーミッションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量の下限は、ゴム弾性や機械的強度、また後述の成分(d)のゴム用炭化水素系軟化剤と併用する場合にはブリード抑制の観点から、8万以上が好ましい。成分(c)の重量平均分子量の上限は、流動性の観点から100万以下であることが好ましく、60万以下であることがより好ましく、40万以下であることが更に好ましい。
【0091】
成分(c)は、成分(a)と同様の方法で製造することができる。
【0092】
なお、成分(c)の水添ブロック共重合体は、カップリング剤残基を介して、重合体分子鎖が延長または分岐されたブロック共重合体であってもよい。この場合に用いられるカップリング剤としては、例えばアジピン酸ジエチル、ジビニルベンゼン、テトラクロロケイ素、ブチルトリクロロケイ素、テトラクロロスズ、ブチルトリクロロスズ、1,2-ジブロモエタン、1,4-クロロメチルベンゼン、ビス(トリクロスシリル)エタン、エポキシ化アマニ油、トリレンジイソシアネート、1,2,4-ベンゼントリイソシアネート等が挙げられる。
【0093】
成分(c)の市販品としては、TSRC社製「TAIPOL(登録商標)」、クレイトンポリマー社製「KRATON(登録商標)-G」、株式会社クラレ製「セプトン(登録商標)」、旭化成ケミカルズ社製「タフテック(登録商標)」が例示できる。
【0094】
成分(c)は、1種のみを用いてもよく、ブロック構成や物性等の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0095】
<成分(d):ゴム用炭化水素系軟化剤>
成分(d)はゴム用炭化水素系軟化剤(以下、「ゴム用炭化水素系軟化剤(d)」と称す場合がある。)である。
【0096】
ゴム用炭化水素系軟化剤(d)としては、重量平均分子量が通常300~2,000、好ましくは500~1,500の炭化水素が使用され、鉱物油系炭化水素または合成樹脂系炭化水素が好適である。なお、ここで、重量平均分子量は、ゲルパーミッションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の分子量である。
【0097】
一般に鉱物油系ゴム用軟化剤は、芳香族炭化水素、ナフテン系炭化水素、パラフィン系炭化水素の混合物である。全炭素量に対し、芳香族炭化水素の炭素の割合が35質量%以上のものは芳香族系オイル、ナフテン系炭化水素の炭素の割合が30から45質量%のものはナフテン系オイル、パラフィン系炭化水素の炭素の割合が50質量%以上のものはパラフィン系オイルと呼ばれる。本発明では、パラフィン系オイルが好適に使用される。
【0098】
ゴム用炭化水素系軟化剤(d)は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0099】
<成分(e):オレフィン系重合体>
重合体組成物(A)は、密着性に影響しない程度に、オレフィン系重合体を含有していてもよく、オレフィン系重合体を配合することで耐熱性を向上させることができる。
【0100】
成分(e)のオレフィン系重合体(以下、「オレフィン系重合体(e)」と称す場合がある。)としては、エチレン、プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、2-メチルブテン-1、3-メチルブテン-1、ヘキセン-1、3-メチルペンテン-1、4-メチルペンテン-1、3,3-ジメチルブテン-1、ヘプテン-1、メチルヘキセン-1、ジメチルペンテン-1、トリメチルブテン-1、エチルペンテン-1、オクテン-1、メチルペンテン-1、ジメチルヘキセン-1、トリメチルペンテン-1、エチルヘキセン-1、メチルエチルペンテン-1、ジエチルブテン-1、プトピルペンテン-1、デセン-1、メチルノネン-1、ジメチルオクテン-1、トリメチルヘプテン-1、エチルオクテン-1、メチルエチルヘプテン-1、ジエチルヘキセン-1、ドデセン-1およびヘキサドデセン-1等のα-オレフィンの単独重合体、あるいは、これらα-オレフィンの任意の二種以上を原料モノマーとする共重合体を挙げることができる。また、エチレンとα-オレフィンまたは酢酸ビニル、エチレンアクリルレート等のビニルモノマーとの共重合体も用いることができる。
【0101】
これらのオレフィン系重合体(e)のうち、耐熱性および相溶性の観点から結晶性を有するプロピレン系重合体が好ましく、プロピレン単独重合体、プロピレン系ブロック共重合体、プロピレン系ランダム重合体が好ましい。
【0102】
オレフィン系重合体(e)のメルトフローレート(MFR:JIS K7210に従い、230℃、21.2N荷重の条件下で測定)は、好ましくは0.01~100g/10分、より好ましくは0.1~70g/分である。MFRが上記下限以上のものを用いることで、流動性に優れ、成形し易い傾向にあり、上記上限以下ものを用いることで、シート成形に望ましい溶融粘度に制御し易くなる。
【0103】
オレフィン系重合体(e)は、1種のみを用いてもよく、単量体組成や物性の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0104】
<各成分の含有量>
上記成分(a)と成分(b)を含む重合体組成物(A)は、成分(a)と成分(b)のほか、成分(c)、成分(d)、成分(e)を含むことができ、成分(a)~(c)を含むことが好ましく、成分(a)~(d)を含むことがより好ましく、成分(a)~(e)を含むことが更に好ましい。
【0105】
上記成分(a)と成分(b)を含む重合体組成物(A)が更に成分(c)~(e)を含む場合、成分(a)100質量部に対して、成分(c)と成分(d)の合計の含有量が30~500質量部、成分(e)の含有量が3~500質量部であり、成分(c)と成分(d)の合計100質量%に占める成分(c)の割合が20~80質量%で成分(d)の割合が80~20質量%であることが好ましい。
【0106】
また、上記成分(a)と成分(b)を含む重合体組成物(A)は、成分(b)がα,β-不飽和カルボン酸変性ポリオレフィンの場合、α,β-不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン由来のα,β-不飽和カルボン酸含有量が0.01~10質量%となるように、成分(a)と成分(b)、更に必要に応じて用いられる成分(c)~(e)を配合することが好ましい。重合体組成物(A)中のα,β-不飽和カルボン酸含有量を0.01~10質量%とすることで、第一及び第二のFRP層に対する密着性と接着性を十分に得ることができる。上記成分(a)と成分(b)を含む重合体組成物(A)のα,β-不飽和カルボン酸含有量は、より好ましくは0.01~8質量%であり、更に好ましくは0.01~6質量%である。
【0107】
<有機過酸化物>
成分(a)と(b)を含む重合体組成物(A)は、成分(a)と成分(b)を、必要に応じて用いられる成分(c)、(d)、(e)と共に押出機などの混合機を用いて加熱混合することにより製造することができるが、その際に、有機過酸化物や架橋助剤を混合して架橋処理を行っても構わない。
【0108】
有機過酸化物としては、具体的にはジメチルペルオキシド、ジーt-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、n-ブチル-4,4,-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレート、ベンゾイルペルオキシド、p-クロロベンゾイルペルオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド、t-ブチルペルオキシベンゾエート、t-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、t--ブチルクミルペルオキシドが挙げられ、好ましくは、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、n-ブチル-4,4,-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレートである。これらの有機過酸化物は、1種を単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0109】
有機過酸化物は、例えば、成分(a)~成分(e)を含む場合は、それらすべての成分の合計100質量部に対して、通常0.05~3質量部、好ましくは0.1~2質量部の範囲で使用される。
【0110】
これら有機過酸化物による架橋処理に際し、硫黄、p-キノンジオキシム、p,p’-ジベンゾイルキノンジオキシム、N-メチル-N-4-ジニトロソアニリン、ニトロソベンゼン、ジフェニルグアニジン、トリメチロールプロパン-N,N’-m-フェニレンジマレイミドのようなペルオキシ架橋用助剤、ジビニルベンゼン、トリアリルシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アリルメタクリレート等のような多官能性メタクリレートモノマー、ビニルブチラート、ビニルアセテートのような多官能性ビニルモノマーを配合することができる。
【0111】
上記の架橋助剤、多官能性メタクリレートもしくは多官能性ビニルポリマーは、例えば、成分(a)~成分(e)をすべて含む場合は、それらすべての成分の合計量100質量部に対して、通常0.1~5質量部、好ましくは0.2~4質量部で用いられる。
好ましい。
【0112】
<その他の成分>
重合体組成物(A)は、必要に応じて、安定剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、着色剤、充填剤等の各種添加剤や、上記成分(a)、(b)、(c)、(e)以外のその他の熱可塑性樹脂やゴムを配合してもよい。
【0113】
これらのうち、特に安定剤として酸化防止剤を含有することが好ましい。酸化防止剤として、例えばモノフェノール系、ビスフェノール系、トリ以上のポリフェノール系、チオビスフェノール系、ナフチルアミン系、ジフェニルアミン系、フェニレンジアミン系のものが挙げられる。これらの中では、モノフェノール系、ビスフェノール系、トリ以上のポリフェノール系、チオビスフェノール系の酸化防止剤が好ましい。酸化防止剤を配合する場合、その添加量は、重合体組成物(A)において成分(a)~(e)をすべて含む場合は、そのすべての成分の合計100質量部に対して、通常0.01~5質量部、好ましくは0.05~3質量部である。この添加量が0.01質量部未満では酸化防止剤の効果が得られにくく、また5質量部を超えても添加量に見合う向上効果は得られず、コスト面で好ましくない。
【0114】
充填材としては、ガラス繊維、中空ガラス球、炭素繊維、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、チタン酸カリウム繊維、シリカ、金属石鹸、二酸化チタン、カーボンブラック等を挙げることができる。これらは、1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることがきる。
【0115】
上記成分(a)、(b)、(c)、(d)以外の熱可塑性樹脂としては、例えばポリフェニレンエーテル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリオキシメチレンホモポリマー、ポリオキシメチレンコポリマーなどのポリオキシメチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、生分解性樹脂、植物由来原料樹脂を挙げることができる。
また、ゴムとしては、例えばエチレン・プロピレン共重合体ゴム、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムなどのオレフィン系ゴム、ポリブタジエンゴムや、成分(a),(c)以外のスチレン系共重合体ゴムを挙げることができる。
【0116】
<重合体組成物(A)の製造方法>
重合体組成物(A)は、少なくとも成分(a)と成分(b)を必須として、これ以外に成分(c)~(e)や更に必要に応じて有機過酸化物、架橋助剤、各種添加剤を含む材料のブレンド物を通常の押出機やバンバリーミキサー、ミキシングロール、ロール、ブラベンダープラストグラフ、ニーダーブラベンダー等を用いて常法に従って混合又は混練或いは溶融混練することで製造することができる。これらの中でも、押出機、特に二軸押出機を用いることが好ましい。
【0117】
重合体組成物(A)を押出機等で混練して製造する際には、通常80~300℃、好ましくは100~250℃に加熱した状態で溶融混練する動的熱処理を行うことが好ましい。なお、動的熱処理を行う際の処理時間は、特に限定されないが、生産性等を考慮すると、通常0.1~30分である。
【0118】
この動的熱処理は、上記の通り溶融混練によって行うことが好ましく、二軸押出機を用いる場合には、複数の原料供給口を有する二軸押出機の原料供給口(ホッパー)に各成分を供給して動的熱処理を行うことがより好ましい。
【0119】
〔物品の製造方法〕
本発明の物品の製造方法には特に制限はないが、本発明の物品は、例えば、第一のFRP層を形成する第一のプリプレグと、第二のFRP層を形成する第二のプリプレグとを、重合体組成物(A)からなるシートを介して積層し、加熱及び加圧する工程を有する方法により製造することができる。
【0120】
第一のプリプレグ及び第二のプリプレグは、好ましくは熱硬化性プリプレグである。熱硬化性プリプレグは、繊維強化材を未硬化の熱硬化性マトリックスで含浸させたシートであり、一例には、UDプリプレグ、クロスプリプレグ、トウプリプレグ、シートモールディングコンパウンド(SMC)が含まれる。
以下に、SMCの典型的な製造方法を、図3を参照して説明する。
【0121】
繊維強化材パッケージPから連続繊維束10が引き出され、ロータリーカッター110に送られる。
連続繊維束10のフィラメント数は、例えば3000~100000である。フィラメント数が10000以上、とりわけ15000以上、中でも40000以上の連続繊維束は、断続的にスリットを入れることによって、部分的に複数のサブ束に分割してから使用してもよい。サブ束のフィラメント数は、10000未満、5000未満、3000未満などであり得るとともに、500以上、1000以上などであり得る。
【0122】
連続繊維束10はロータリーカッター110により切断されてチョップド繊維束20となる。
チョップド繊維束20の繊維長は、例えば5mm~10cmであり、1cm以上2cm未満、2cm以上3cm未満、3cm以上4cm未満、4cm以上6cm未満などであり得る。
【0123】
ロータリーカッター110の下方を走行する第一キャリアフィルム51の上面に、ドクターブレードを備える塗工機120でマトリックスのペースト40を塗布することによって、第一マトリックス層41が形成されている。
【0124】
連続繊維束の切断により産生したチョップド繊維束20は、第一マトリックス層41の上に落下して堆積し、繊維マット30を形成する。
繊維マット30の目付と、第一マトリックス層41および後述する第二マトリックス層42の厚さは、製造すべきSMCの繊維含有量を考慮して設定される。
【0125】
繊維マット30の形成に続いて、第一キャリアフィルム51の上面側に第二キャリアフィルム52が貼り合わされることにより積層体60が形成される。貼り合わせの前に、第二キャリアフィルム52の一方の面には、ドクターブレードを備える塗工機130でマトリックスのペースト40を塗布することによって、第二マトリックス層42が形成される。
積層体60の形成は、第一キャリアフィルム51と第二キャリアフィルム52の間に、第一マトリックス層41、繊維マット30および第二マトリックス層42が挟まれるように行われる。
【0126】
繊維マット30をマトリックスのペースト40で含浸させるために、積層体60は含浸機140で加圧される。
含浸機140を出た積層体60はボビンに巻き取られる。積層体60をボビンごと加温して一定時間保持することによりマトリックスのペースト40を十分に増粘させることで、SMCを得ることができる。
【0127】
上記の繊維マットを含浸させるマトリックスのペーストは、前述の熱硬化性樹脂の他、反応性希釈剤としてのエチレン性不飽和モノマー、増粘剤、重合開始剤、重合禁止剤、低収縮剤、充填剤、着色剤等の添加剤を含んでもよい。
上記手順で製造されるSMCは、繊維補強材が短尺繊維からなるマットであるせいで、成形中に高い流動性を示すので、リブやボスを有する成形品のように複雑な形状を有する成形品を製造するときに好ましく用いることができる。
【0128】
実施形態に係る製造方法で用いられるプリプレグは、スタンパブルシートのような熱可塑性プリプレグであってもよい。
プリプレグは、適当な大きさに切断後、必要に応じて複数数を積層したものが、それぞれ第一のプリプレグ、第二のプリプレグとして実施形態に係る製造方法に用いられる。
【0129】
即ち、第一のプリプレグと第二のプリプレグの間に重合体組成物(A)よりなるシートを介在させて、第一のプリプレグ/重合体組成物(A)からなるシート/第二のプリプレグの積層体とし、これを成形金型内に装填してプレス機で加熱および加圧することにより一体化することで、実施形態に係る物品を得ることができる。
【0130】
プリプレグが熱硬化性のときの加熱加圧条件は、マトリックスに含まれる熱硬化性樹脂の種類によっても異なるが、加熱温度としては、130~160℃の範囲が好ましく、140~150℃の範囲がより好ましい。また、プレス圧力としては0.5~6MPaの範囲が好ましく、1~6MPaの範囲がより好ましい。
【0131】
このようにして製造される物品は、中空形状でも構わない。
また、重合体組成物(A)からなるシートはプリプレグと同じ積層サイズである必要はなく、プリプレグより小さくても大きくても構わない。
また、第一のプリプレグと第二のプリプレグの間に重合体組成物(A)からなるシートを挟み込む位置は、厚み方向の中央である必要はなく、非対称積層になっても構わない。
【0132】
実施形態に係る物品の製造に用いる第一のプリプレグ、第二のプリプレグは、実施形態に係る物品における第一のFRP層、第二のFRP層の繊維補強材含有量が好適範囲内となるように設計される。
第一のプリプレグおよび第二のプリプレグの繊維体積含有率は、10~85%であることが好ましく、30~85%であればより好ましく、40~85%が更に好ましい。プリプレグの繊維体積含有率が10%以上であれば、得られるFRP層の強度、弾性率が十分である場合があり、85%以下であれば、強化繊維同士が接触、擦過して強度が低下することを抑制することができる。ここで、プリプレグの繊維体積含有率は、ASTM D3171に準拠して求める。
【0133】
〔用途〕
実施形態に係る物品は、各種建材、産業資材、自動車部品構造体をはじめ、船舶部品構造体、動力部品構造体、建築部品構造体等の幅広い分野に適用可能である。なかでも軽量化が強く望まれる自動車用途に好適であり、これらの用途、特に自動車ルーフパネルや、バット等のスポーツ用品が挙げられる。
【実施例0134】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0135】
〔原材料〕
以下の実施例及び比較例の物品の製造に用いた原材料は以下の通りである。
【0136】
[繊維強化プラスチック層の材料]
<SMC-1>
短尺炭素繊維からなるランダムマットを、ビニルエステル樹脂を含む樹脂組成物で含浸させたSMC(繊維含有率53質量%)
【0137】
<GMC-1>
短尺ガラス繊維からなるランダムマットを、ビニルエステル樹脂を含む樹脂組成物で含浸させたGMC
【0138】
[スチレン系熱可塑性重合体組成物TPS-1の材料]
<成分(a)>
SEPS-1:スチレンブロック・イソプレンブロック・スチレンブロック共重合体の水素添加物(クラレ(株)製「ハイブラー(登録商標)7125」)
スチレンブロック含有率:20質量%
イソプレンブロック中の3,4結合を有するイソプレン及び1,2結合を有するイソプレンの合計の含有率:約60質量%
水素添加率:98%以上
重量平均分子量:約10万
<成分(b)>
MAH-PP:無水マレイン酸変性ポリプロピレン(プロピレン単独重合体)(三洋化成工業(株)製)
無水マレイン酸含有率(変性率):2.3質量%
<成分(c)>
SEBS-1:スチレンブロック・ブタジエンブロック・スチレンブロック共重合体の水素添加物(TSRC社製「TAIPOL(登録商標)6151」)
スチレンブロック含有率:33質量%
水素添加率:98%以上
重量平均分子量:約26万
<成分(d)>
OIL-1:パラフィン系ゴム用軟化剤(出光興産株式会社製「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW90」)
分子量:540
40℃の動粘度:95.5cSt
流動点:-15℃
引火点:272℃
<成分(e)>
PP-1:プロピレン単独重合体(日本ポリプロ(株)製)
MFR(230℃、21.2N荷重):5g/10分
【0139】
<スチレン系熱可塑性組成物:TPS-1の製造>
SEPS-1を50質量部、MAH-PPを10質量部、SEBS-1を50質量部、OIL-1を50質量部、PP-1を25質量部の配合100質量部に対して、安定剤としてテトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(BASFジャパン社製「イルガノックス(登録商標)1010」)0.1質量部を添加してヘンシェルミキサーで混合し、重量式フィーダーを用いて東芝製二軸押出機「TEM26」にて、200℃、スクリュー回転数400rpmで押出を行って、スチレン系熱可塑性重合体組成物であるTPS-1のペレットを得た。
【0140】
[重合体組成物の層の材料]
重合体組成物1:スチレン系熱可塑性重合体組成物:TPS-1
MFR(230℃、21.2N荷重):10g/分
密度:0.9g/cm
デュロA硬度:60
切断時引張強さ:12MPa
切断時伸び:800%
周波数100~4000Hzの最低Tanδ:0.4
周波数100~4000Hzの最高Tanδ:0.7
【0141】
重合体組成物2:アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)
タイガースポリマー社製 NBR(アクリロニトリルブタンジエンゴム)板(L)<HS70>品番TNKL7007-HP(厚み0.5mm)
デュロA硬度:70(カタログ値)
切断時引張強さ:12.2MPa(カタログ値)
切断時伸び:550%(カタログ値)
周波数100~4000Hzの最低Tanδ:0.5
周波数100~4000Hzの最高Tanδ:0.7
【0142】
重合体組成物3:スチレン系熱可塑性重合体組成物:TPS-2
三菱ケミカル株社製「テファブロック(登録商標)ME5301CS」
MFR(230℃、49N):7g/分
密度:0.89g/cm
デュロA硬度:54
切断時引張強さ:12MPa
切断時伸び:860%
周波数100~4000Hzの最低Tanδ:0.1
周波数100~4000Hzの最高Tanδ:0.1
【0143】
重合体組成物4:オレフィン系熱可塑性重合体組成物:TPV-1
三菱ケミカル株社製「トレックスプレーン(登録商標)3655」
MFR(230℃、49N):10g/分
密度:0.89g/cm
デュロA硬度:66
切断時引張強さ:7MPa
切断時伸び:670%
周波数100~4000Hzの最低Tanδ:0.1
周波数100~4000Hzの最高Tanδ:0.1
【0144】
〔重合体組成物の物性評価方法〕
重合体組成物の物性評価は、以下に示す(1)~(5)の方法で行った。
【0145】
(1)メルトフローレート(MFR)
ISO1133に準拠し、230℃、荷重21.2Nまたは荷重49Nで測定した。
【0146】
(2)密度
ISO1183に準拠して測定した。
【0147】
(3)デュロA硬度
インラインスクリュータイプの射出成形機(東芝機械社製、商品番号:IS130)を用い、射出圧力50MPa、シリンダー温度220℃、金型温度40℃の条件下にて、各重合体組成物を射出成形して、厚さ2mm×幅120mm×長さ80mmのシート状の試験片を成形し、ISO7619に準拠し、硬度(15秒後)を測定した。
ただし、厚み0.5mmのタイガースポリマー社製のNBR板については、JIS K6253に基づき1秒以内に測定したカタログ値を示す。
【0148】
(4)切断時引張強さ/切断時伸び(引張試験)
インラインスクリュータイプの射出成形機(東芝機械社製、商品番号:IS130)を用い、射出圧力50MPa、シリンダー温度220℃、金型温度40℃の条件下にて、各重合体組成物を射出成形して、厚さ2mm×幅120mm×長さ80mmのシートを得た。ISO37に準拠し、試験片打抜刃(TYPE 1A)を用いて、得られたシートからダンベル状の試験片を打ち抜き、この試験片を用いて、ISO37に準拠し、試験速度:500mm/分で測定した。
ただし、厚み0.5mmのタイガースポリマー社製のNBR板については、JIS K6251に基づくカタログ値を示す。
【0149】
(5)周波数100~4000Hzの最低Tanδと最高Tanδ
インラインスクリュータイプの射出成形機(東芝機械社製、商品番号:IS130)を用い、射出圧力50MPa、シリンダー温度220℃、金型温度40℃の条件下にて、各重合体組成物を射出成形して、厚さ2mm×幅120mm×長さ80mmのシートを得た。このシートより、幅10mm×長さ約25mmのシート片をMD方向に打ち抜き、試験片とした。
ただし、厚み0.5mmのタイガースポリマー社製のNBR板については、厚み0.5mm×縦500mm×横500mmのシートから幅10mm×長さ約25mmのシート片を打ち抜き、これを試験片とした。
上記作製した試験片を用いて、測定装置MCR301型粘弾性測定機(アントンパール社製)で、測定モードをねじりとし、窒素雰囲気下で、-20℃、-10℃、0℃、10℃、20℃、周波数0.1~25.1Hz、ひずみ0.1%にて、貯蔵弾性率、損失弾性率、損失正接(Tanδ)を測定した。次いで、温度時間換算則により温度周波数依存性の結果の周波数域を拡張するため、Williams-Landel-Ferryの式(WLF式)に基づき、測定における周波数を変換し、基準温度20℃におけるTanδのマスターカーブを作成した。このマスターカーブから、周波数領域100Hz~4,000Hzの間のTanδの値の最大値と最低値を求めた。
【0150】
〔実施例・比較例〕
[実施例1]
単層Tダイ成形機((株)GSIクレオス社製)を用いて、シリンダー温度200℃で、重合体組成物1から幅280mm、厚み0.5mmのシートを作製した。
2枚のSMC-1の間に上記シートを挟み、140℃、圧力4MPaにて5分間、加熱および加圧して厚さ4mmのパネルを成形した。このパネルの断面を観察したところ、2つのFRP層に挟まれた重合体組成物1の層の厚さは0.5mmであった。
得られたパネルの物性について、後述の(1)~(4)の方法で評価を行った。
【0151】
[実施例2]
重合体組成物1のシートに代えて重合体組成物2のシートを用いたこと以外は実施例1と同様にしてパネルを成形し、評価を行った。
【0152】
[実施例3、比較例1~4]
実施例3においては、SMC-1に代えてGMC-1を用いたこと以外は実施例1と同様にしてパネルを成形した。
比較例1においては、2枚のSMC-1の間に何も挟まなかったこと以外は実施例1と同様にしてパネルを成形した。
比較例2においては、重合体組成物1のシートに代えて重合体組成物3のシートを用いたこと以外は実施例1と同様にしてパネルを成形した。
比較例3においては、重合体組成物1のシートに代えて重合体組成物4のシートを用いたこと以外は実施例1と同様にしてパネルを成形した。
比較例4においては、2枚のGMC-1の間に何も挟まなかったこと以外は実施例3と同様にしてパネルを成形した。
実施例3および比較例1~4で成形したパネルについて、いずれも実施例1と同様にして評価を行った。
【0153】
〔パネルの評価方法〕
(1)振動減衰性
振動減衰性はハンマリング試験にて得られる加速度/加振力(イナータンス)を算出し、評価した。ハンマリング試験は打撃試験とも呼ばれ、試験対象のパネルをインパルスハンマで加振し、その結果生じる振動を加速度センサーにより計測する試験方法である。
本評価では、得られたパネルの端を糸で吊るし自由支持とし、パネルの中央の位置に加速度センサーを固定し、加速度を測定した。一方、加振力は、加速度の測定開始後、加速度センサーを固定した反対側から力センサーを内蔵したインパルスハンマにより加振した際に力センサーで計測される加振力の値を用いて算出することにより計測出来る。
【0154】
(1)-1 振動減衰時間
振動減衰時間の測定において、インパルスハンマが加振された時にトリガーが掛かるように設定し、0.1秒ごとに加速度の取り込みを開始後、インパルスハンマの加振される前の加速度の検出時間を約0.16秒間とし、加振後の測定終了までの間を約2秒とした。例えば、実施例1及び比較例1のパネルでは、図1(a),(b)に示すインパルス応答結果を得た。
振動減衰時間は、インパルスハンマによる加振後、イナータンスが加振前と同レベルまで下がるまでの時間であり、具体的には、測定が終了するまでの間において、インパルスハンマの加振後のイナータンスが加振前のイナータンスレベルに減衰し0.5秒間連続して減衰状態を維持した最初の時間との差を振動減衰時間とした。この時、加振前の振動と同じレベルの安定した状態の指標として、下記式1のX秒における振動安定指数として算出した。
実施例1~2、比較例1~3のパネルでは、インパルスハンマによる加振前の約0.16秒間の状態振動レベルの振動安定指数の最大値が0.03であったため、加振後において0.5秒間連続して振動安定指数が0.03以内となったときを振動減衰状態とみなし、インパルスハンマにより加振した直後の時間を0として、安定した状態になった最初の時間と差の時間を、振動減衰時間として算出した。
実施例3と比較例4のパネルについては、インパルスハンマによる加振前の振動安定指数の最大値が0.05であったため、加振後において0.5秒間連続して振動安定指数が0.05以内となったときを振動減衰状態とみなし、インパルスハンマにより加振した直後の時間を0として、安定した状態になった最初の時間と差の時間を、振動減衰時間として算出した。
式1:
振動安定指数=絶対値[(X+0.1秒の加速度/加振力)-(X秒の加速度/加振力)]/0.1(秒)
振動減衰時間は短い程振動減衰性に優れる。
【0155】
(1)-2 振動減衰量
加速度センサーで得られた信号をFFTアナライザーにより周波数毎に分解して、周波数毎のイナータンス(単位dB)を得た。
実施例1~2、比較例2~3の固有振動数のピークトップのイナータンス減衰量について、比較例1に対する固有振動数の減衰量について評価を行った。
図2に実施例1と比較例1のハンマリング試験により得られたイナータンス(単位dB)の測定結果を示す。図2の矢印C-1~C-7は、比較例1のハンマリング試験により得られたイナータンス(単位dB)の測定結果における1000~4000Hzの間の7点の固有振動数のピークを示す。比較例1の7点のピークトップのイナータンス(dB)に対して、実施例1~2、比較例2~3は比較例1の個々の固有振動数に相当するピークは、比較例1のピーク位置よりやや低周波数側にシフトするため、個々のピークに対して低周波数側に表れているピークの7点(図2中・)を選択し、比較例1のピークとのイナータンスの差を求め、平均値をピークトップの減衰量として求めた。
このとき、図2の実施例1のように明確なピークが存在しないものついては、図2のE-1~E-7のように、比較例1のピークよりやや低周波側にあるなだらかな曲線の谷と谷の山にあたるイナータンスの最大値をピークトップのイナータンス(dB)として、比較例1のイナータンスとの差の平均値を減衰量として求めた。
例えば、図2の比較例1のC-1のピークに対しては実施例1のE-1のピークを選択し、そのピークトップの差を求めた。同様にC-2に対してE-2、C-7に対してE-7というように7点の差を求め、得られた差を平均し、ピークトップの減衰量を算出した。
同様に比較例4についても、比較例4の1000~4000Hzの固有振動数に相当するピーク6点を選択し、実施例3の各固有振動数のピークトップの差を平均値し、ピークトップの減衰量を算出した。
周波数1000~4000Hzは、振動は空気を伝播し音変換されるもののそのまま同じ周波数に反映する訳ではないが、騒音レベルを測定するためのA特性とよばれる周波数重み付け特性があり、1000Hzを基準としていることから、重み付け特性の影響のない1000Hz~4000Hzの周波数を対象として選定した。
減衰量の数字が大きいほど振動減衰性に優れる。
【0156】
(2)音響特性
(1)のハンマリング試験で使用したパネルを、手の甲側の中指の中手指節関節部分で叩き、人の耳で聞いた音のレベルを下記基準で評価した。
〇:叩いた時、金属音はせず低音がし、ほとんど響かない
△:叩いた時、やや甲高い金属音がし、残響音が少し残る
×:叩いた時、甲高い金属音がし、残響音が残る
【0157】
(3)靭性
得られたパネルを幅25mmで精密切断機により切断し、ASTM D790に準じて曲げ強度と曲げ弾性率を測定し、その測定値から最大曲げひずみを算出した。
最大曲げひずみの数値が大きいほど靭性に優れる。
【0158】
(4)表面平滑性
表面平滑性は、表面の凹凸の平均値を基準線として、その区間の基準線からの距離の平均値である算術平均粗さRaを測定することにより評価した。
パネルの表面を東京精密社製表面粗さ形状測定機サーフコム「TOUCH550」により、JIS B0601による算術平均粗さRaを測定した。評価距離は5mm、測定速度0.6mm/min、カットオフ値0.8mmとした。
Raの値が小さい程、表面平滑性に優れる。
【0159】
[実施例4、比較例5~6]
単層Tダイ成形機((株)GSIクレオス社製)を用いて、シリンダー温度200℃で、重合体組成物1、重合体組成物3、重合体組成物4の各重合体組成物から幅280mm、厚み0.5mmのシートを作製した。
2枚のSMC-1の間に上記の各重合体組成物のシートを挟み、140℃、圧力4MPaにて5分間、加熱および加圧して厚さ4mmのパネルを成形した。このパネルの断面を観察したところ、2つのFRP層に挟まれた重合体組成物1、3、4の層の厚さは0.5mmであった。
得られたパネルの物性について、後述のフラットワイズによる密着性評価方法で評価を行った。
【0160】
〔フラットワイズによる密着性評価方法〕
パネルから25mm角の試験片を切り出した。この試験片の両主表面を紙ヤスリ#120で荒らした後、その主表面のそれぞれに、エポキシ樹脂で含浸させたガラス不織布からなるフィルム接着剤(Solvay社製FM73)を用いて、図4に示すようにアルミニウム治具を接着した。接着前に、アルミニウム治具の接着面も試験片と同様に紙ヤスリ#120で荒らした。フィルム接着剤の硬化条件は120℃
、90分間とした。
【0161】
上記のように両面にそれぞれアルミニウム治具を接着した試験片を用いて、ASTM C297/297M「Standard Test Method for Flatwise Tensile Strength of Sandwich Constructions」を参考にしてフラットワイズ引張試験を行った。引張試験機にはインストロン製万能試験機を使用した。ロードセルの定格容量は100kN
、引張速度は2mm/minであった。
フラットワイズ引張強度は、破断荷重を試験片の面積(25mm×25mm)で割った値である。
試験は3回行い(試験片1、試験片2、試験片3)、3回の測定値の平均値を求めた。
【0162】
〔評価結果〕
実施例1~3及び比較例1~4のパネルの評価結果を下記表1に示す。
実施例4及び比較例5~6にフラットワイズ引張強度の測定結果を表2に示す。
【0163】
【表1】
【0164】
【表2】
【0165】
表1に示すように、第一のFRP層と第二のFRP層の間に重合体組成物(A)の層を有する実施例1~3のパネルは、重合体組成物の層を有さない比較例1および4並びに重合体組成物(A)に該当しない重合体組成物の層を有する比較例2および3と比べ、振動減衰性が高く、音響特性と靭性においても勝っていた。更に、実施例1~3のパネルは、比較例1および4と比べ、表面平滑性が改善されていた。
【0166】
表2に示すように、第一のFRP層と第二のFRP層の間に重合体組成物(A)の層を有する実施例4のパネルは、比較例4および5に比べ、フラットワイズ引張強度が高く、高い密着性が得られていた。
【符号の説明】
【0167】
10 連続繊維束
20 チョップド繊維束
30 繊維マット
40 マトリックス樹脂のペースト
41 第一樹脂層
42 第二樹脂層
51 第一キャリアフィルム
52 第二キャリアフィルム
60 積層体
110 ロータリーカッター
120、130 塗工機
140 含浸機
図1
図2
図3
図4