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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121295
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】非接触型測距装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 17/34 20200101AFI20240830BHJP
【FI】
G01S17/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028318
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】中村 篤志
(72)【発明者】
【氏名】古敷谷 優介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 文彦
(72)【発明者】
【氏名】張 超
【テーマコード(参考)】
5J084
【Fターム(参考)】
5J084AA05
5J084AB17
5J084AD08
5J084BA03
5J084BA36
5J084BA38
5J084BA51
5J084BA60
5J084BB01
5J084BB20
5J084BB31
5J084BB34
5J084CA08
5J084CA49
5J084CA64
5J084EA07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本開示は、ビート信号の検出時においてビート信号を発生させた周波数が、複製された複数の周波数のうちのどの周波数であるかを特定可能にすることを目的とする。
【解決手段】本開示は、周波数掃引光を被測定物に照射し、前記被測定物で反射されたプローブ光と参照光との干渉によるビート信号の周波数を計測することにより、前記被測定物までの距離を求める非接触型測距装置において、前記参照光又は前記プローブ光の一方を、周波数間隔が非一様な複数の周波数の光に複製する光複製部を備え、前記光複製部で複製された複数の周波数の光を前記参照光又は前記プローブ光の他方と合波することで、複数のビート信号を発生させ、前記複数のビート信号のうちの2以上の周波数を検出することで、前記被測定物までの距離を求める、非接触型測距装置である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数掃引光を被測定物に照射し、前記被測定物で反射されたプローブ光と参照光との干渉によるビート信号の周波数を計測することにより、前記被測定物までの距離を求める非接触型測距装置において、
前記参照光又は前記プローブ光の一方を、周波数間隔が非一様な複数の周波数の光に複製する光複製部を備え、
前記光複製部で複製された複数の周波数の光を前記参照光又は前記プローブ光の他方と合波することで、複数のビート信号を発生させ、
前記複数のビート信号のうちの2以上の周波数を検出することで、前記被測定物までの距離を求める、
非接触型測距装置。
【請求項2】
前記光複製部は、周波数間隔f及び周波数間隔f+Δfの異なる2種類のスペクトルを合波することで、前記複数の周波数の光を生成し、
前記fが、前記Δfの整数倍と異なる、
ことを特徴とする請求項1に記載の非接触型測距装置。
【請求項3】
前記f+Δfが、前記ビート信号の周波数を検出する主干渉計の受信帯域の2倍よりも小さい、
ことを特徴とする請求項2に記載の非接触型測距装置。
【請求項4】
前記fが、前記ビート信号の周波数を検出する主干渉計の受信帯域よりも小さい、
ことを特徴とする請求項2に記載の非接触型測距装置。
【請求項5】
前記周波数間隔fの光強度と、前記周波数間隔f+Δfの光強度と、が異なる、
ことを特徴とする請求項2に記載の非接触型測距装置。
【請求項6】
前記複数の周波数の光及び前記光複製部に入射されなかった前記参照光又は前記プローブ光の遅延時間または周波数をシフトさせることにより、前記複数の周波数の光を測距に利用できるようにする
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の非接触型測距装置。
【請求項7】
周波数掃引光を被測定物に照射し、前記被測定物で反射されたプローブ光と参照光との干渉によるビート信号の周波数を計測することにより、前記被測定物までの距離を求める非接触型測距方法において、
光複製部が、前記参照光又は前記プローブ光の一方を、周波数間隔が非一様な複数の周波数の光に複製する手順を備え、
前記光複製部で複製された複数の周波数の光を前記参照光又は前記プローブ光の他方と合波することで、複数のビート信号を発生させ、
前記複数のビート信号のうちの2以上の周波数を検出することで、前記被測定物までの距離を求める、
非接触型測距方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、周波数掃引光を用いた非接触型測距装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
正確な測距技術は大規模構造物の形状測定のような計測において重要な技術である。このような応用は多数存在し、パラボラアンテナや建築物のような人工物の形状測定、氷床の厚み計測や森林の高さ測定に代表される自然形成物の測定、等がある。特に、建物等のヘルスモニタリングや防災を目的とした大規模構造物の計測では、遠方の測定物の位置や形状を高精細に測定する需要が存在する。
【0003】
LiDAR(Light Detection And Ranging:光による検知と測距)は、レーザ光を使って被測定物までの光路長を計測する非接触型測距技術である。このような技術において、周波数変調連続波(FMCW)型LiDARは単一光源で測距を行い、速度・振動検知の能力がある。FMCW型LiDARでは、周波数を掃引し、戻り光との干渉により生じる周波数差(ビート周波数、IF)を距離に換算する。100nmの掃引帯域を有する光源を用いれば約12μmの分解能が実現できる。
【0004】
しかしながら、FMCW型LiDARでは、測定距離は光源のコヒーレンス長により数十mに限定されている。また、得られるビート周波数が受信帯域を上回る計測はできない。これは、受信帯域が一定である限り、周波数の掃引速度と測定距離の積に上限が生じることを意味する。すなわち、受信帯域が一定ならば、測定距離又は周波数の掃引速度のいずれかを犠牲にしなければならないという課題がある。なお、測定の繰り返し周波数(リフレッシュレート)は周波数の掃引速度に比例するため、周波数の掃引速度を犠牲にすることは、リフレッシュレートを犠牲することになる。以上2つの要因により、FMCW型LiDARは専ら数十m程度以内の比較的短距離の測距に限定されていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】永田崇弘 他,“波長掃引型光周波数コムを用いた周波数変調連続波型光距離計”,2022年度(第73回)電気・情報関連学会中国支部連合大会,R22-11-04.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
単一光源を用いる簡便な測距装置において、周波数の掃引速度を低下させることなく測定距離の延長を実現するための技術が提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。非特許文献1では、参照光又はプローブ光の一方を異なる複数の周波数の光に複製し、参照光又はプローブ光の他方と合波する。これにより、複数の周波数のビート信号を発生させ、そのうちの受信帯域に入ったビート周波数を検出する。
【0007】
しかし、非特許文献1では、複数の周波数の光が生成され、ビート信号の検出時においてビート信号を発生させた周波数がどの周波数であるかを特定することができなかった。そこで、本開示は、ビート信号の検出時においてビート信号を発生させた周波数が、複製された複数の周波数のうちのどの周波数であるかを特定可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本開示は、参照光又はプローブ光の一方の周波数の光を複製し、複製した複数の周波数の光と参照光又はプローブ光の他方とを干渉させる。この複製の際に、複製した複数の周波数の間隔が非一様となるようにする。
【0009】
具体的には、本開示に係る非接触型測距装置は、周波数掃引光を被測定物に照射し、前記被測定物で反射されたプローブ光と参照光との干渉によるビート信号の周波数を計測することにより、前記被測定物までの距離を求める非接触型測距装置において、本開示に係る非接触型測距方法を実行する。
【0010】
本開示に係る非接触型測距装置は、
前記参照光又は前記プローブ光の一方を、周波数間隔が非一様な複数の周波数の光に複製する光複製部を備え、
前記光複製部で複製された複数の周波数の光を前記参照光又は前記プローブ光の他方と合波することで、複数のビート信号を発生させ、
前記複数のビート信号のうちの2以上の周波数を検出することで、前記被測定物までの距離を求める。
【0011】
本開示に係る非接触型測距方法は、
光複製部が、前記参照光又は前記プローブ光の一方を、周波数間隔が非一様な複数の周波数の光に複製する手順を備え、
前記光複製部で複製された複数の周波数の光を前記参照光又は前記プローブ光の他方と合波することで、複数のビート信号を発生させ、
前記複数のビート信号のうちの2以上の周波数を検出することで、前記被測定物までの距離を求める。
【0012】
前記光複製部は、周波数間隔f及び周波数間隔f+Δfの異なる2種類のスペクトルを合波することで、前記複数の周波数の光を生成する態様を採用しうる。
ここで、前記fが、前記Δfの整数倍と異なっていてもよい。
また前記隔f+Δfが、前記ビート信号の周波数を検出する主干渉計の受信帯域の2倍よりも小さくてもよい。
また前記fが、前記ビート信号の周波数を検出する主干渉計の受信帯域よりも小さくてもよい。
前記周波数間隔fの光強度と、前記周波数間隔f+Δfの光強度と、が異なっていてもよい。
【0013】
前記複数の周波数の光及び前記光複製部に入射されなかった前記参照光又は前記プローブ光の遅延時間または周波数をシフトさせることにより、前記複数の周波数の光を測距に利用できるようにする態様を採用しうる。
【0014】
なお、上記各開示は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、ビート信号の検出時においてビート信号を発生させた周波数が、複製された複数の周波数のうちのどの周波数であるかを特定可能にすることができる。このため、本開示は、単一光源を用いた簡便な構成にも関わらず、測定速度を低下させることなく、km級の測定距離と数十μm級の分解能とを実現することができ、さらに、測距結果の周期的な曖昧さを緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示に係る非接触型測距装置の構成の一例を示す図である。
図2】従来の参照光及びプローブ光を説明する図であり、(a)は参照光及びプローブ光の周波数を示し、(b)は干渉信号スペクトルを示す。
図3】参照光及びプローブ光の周波数を説明する図である。
図4】ビート周波数の一例を示す。
図5】本開示の光複製部の構成例を示す。
図6】本開示の参照光の周波数を説明する図である。
図7】本開示の参照光の周波数を説明する図である。
図8】本開示の参照光及び試験光の周波数を説明する図である。
図9】本開示のビート周波数の一例を示す。
図10】本開示の参照光の周波数を説明する図である。
図11】本開示のビート周波数の一例を示す。
図12】測定対象の距離を算出するフローの一例を示す。
図13】本開示の参照光の周波数を説明する図である。
図14】本開示のビート周波数の一例を示す。
図15】本開示の光複製部の構成例を示す。
図16】本開示の参照光の周波数を説明する図である。
図17】本開示の参照光の周波数を説明する図である。
図18】本開示のビート周波数の一例を示す。
図19】測定対象の距離を算出するフローの一例を示す。
図20】本開示の光複製部の構成例を示す。
図21】本開示の参照光の周波数を説明する図である。
図22】本開示の参照光の周波数を説明する図である。
図23】本開示の参照光の周波数を説明する図である。
図24】本開示のビート周波数の一例を示す。
図25】測定対象の距離を算出するフローの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0018】
(第1の実施形態)
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1にFWCW型LiDAR方式をベースとした本開示の非接触型測距装置の実施形態を示す。1は周波数掃引光源、2は光を分波または合波するカプラ、3は光サーキュレータ、4はレンズ、5は被測定物、6は遅延器、7は光複製部、8は光90度ハイブリッド、9はバランス型フォトデテクタ、10はADコンバータ、11はコンピュータ等の演算部、12はRFシンセサイザである。
【0019】
光複製部7は、参照光を異なる複数の周波数の光に複製する。光90度ハイブリッド8、バランス型フォトデテクタ9-1及び9-2、ADコンバータ10-1は、本開示の光検出部として機能する主干渉計20を構成する。以下、「光検出部の受信帯域」を「受信帯域」と略記する。
【0020】
周波数掃引光源1は、周波数が線形に変調されたレーザ光を発振する。その周波数は、一定の掃引速度γ[Hz/s]で、一定の周波数掃引時間ΔTに、周波数掃引幅ΔFにわたり掃引される。本実施形態では、周波数掃引光源1から出力される光をレーザ光として説明するが、コヒーレント光であればこれに限定されない。
【0021】
カプラ2-1は、周波数掃引光源1から入力された光を2つに分岐し、一方をプローブ光として光サーキュレータ3に入力し、他方を参照光として光複製部7に入力する。光サーキュレータ3は、カプラ2-1からのプローブ光をレンズ4に入力する。また、光サーキュレータ3は、レンズ4からの光を光90度ハイブリッド8に入力する。レンズ4は、周波数掃引光源1からのプローブ光を平面波に変換する。また、レンズ4は、被測定物5からの反射されたプローブ光を集光して光サーキュレータ3に入力する。本開示では、被測定物5で反射されたプローブ光を試験光と称する場合がある。
【0022】
光複製部7は、参照光を異なる複数の周波数の光に複製する。光複製部7は、生成した複数の参照光を、主干渉計20の参照光として光90度ハイブリッド8に入力する。被測定物5により反射されたプローブ光は、レーザ光(参照光)と光90度ハイブリッド8において干渉する(主干渉計)。主干渉計20では、被測定物5から反射されたプローブ光の参照光に対する遅延時間を測定することができる。演算部11は、この遅延時間を用いて測距を行う。図1では、演算部11を主干渉計20に含まれる構成としているが、主干渉計20と演算部11は別々でもよい。
【0023】
具体的には、光90度ハイブリッド8は、参照光と被測定物5からの反射光とを合波したビート信号の同相成分Iを生成し、バランス型フォトデテクタ9-1に入力する。また、光90度ハイブリッド8は、90度位相シフトさせた参照光と被測定物からの反射光とを合波したビート信号の直交成分Qを生成し、バランス型フォトデテクタ9-2に入力する。
【0024】
バランス型フォトデテクタ9-1は、光90度ハイブリッド8からの入力に基づき、ビート信号の同相成分Iのアナログ電気信号を取得し、ADコンバータ10-1に入力する。バランス型フォトデテクタ9-2は、光90度ハイブリッド8からの入力に基づき、ビート信号の直交成分Qのアナログ電気信号を取得し、ADコンバータ10-1に入力する。ADコンバータ10-1は、バランス型フォトデテクタ9-1から入力されるビート信号の同相成分Iのアナログ電気信号及びバランス型フォトデテクタ9-2から入力されるビート信号の直交成分Qのアナログ電気信号をデジタル信号に変換し、演算部11に入力する。
【0025】
ここで、光複製部7を備えない従来のFMCW型LiDARにおける参照光とプローブ光の干渉について図2を用いて説明する。すなわち、従来のFMCW型LiDARは、図1の主干渉計において、カプラ2-1からの参照光が光90度ハイブリッド8に直接入力される構成である。従来のFMCW型LiDARでは、カプラ2-1からの参照光と、参照光に対して被測定物5までの距離を往復した分だけ遅延したプローブ光とが到着し、その周波数差に相当する周波数を持つビート信号が発生する。以下、ビート信号の周波数をビート周波数IFとする。このビート周波数IFは、被測定物5から反射されたプローブ光の参照光に対する遅延時間に比例するため、測距ができる。
【0026】
ビート信号は、具体的には、光90度ハイブリッド8から出力されるビート信号のI相成分およびQ相成分を用いて複素数表示で式(1)のように表される。
(数1)
I+jQ=exp(jγτt) (1)
【0027】
演算部11は、ADコンバータ10-1から入力されるハイブリッド信号の同相成分I及び直交成分Qに基づき、式(1)からビート信号の位相を求める。ここで、τは、参照光とプローブ光との光経路差に相当するプローブ光の参照光に対する遅延時間であり、γτがビート周波数IFである。
【0028】
一般に、FMCW型LiDARの距離分解能Δzは、周波数掃引幅ΔFを用いて以下のように表される。
(数2)
Δz=c/(2ΔF) (2)
【0029】
つまり、距離分解能Δzを向上するには、周波数掃引幅ΔFを大きくする必要がある。かつ、ビート周波数IFは被測定物5までの距離により変動する遅延時間τと掃引速度γに比例する。そのため、仮に受信帯域が一定であるならば、掃引速度γと距離との積に対して限界が生じることになる。具体的には、従来のFMCW型LiDARでは、図2(B)に示すように、ビート周波数IFが受信帯域外となるビート信号は検知できず、受信帯域による測定距離の限界が生じる。なお、繰り返し周波数(リフレッシュレート)は、掃引速度γに比例するため、掃引速度γが制限されれば、リフレッシュレートも制限されることになる。
【0030】
本開示では、この受信帯域による測定距離の限界を排除するため、参照光経路に、すなわち、カプラ2-1と光90度ハイブリッド8との間に、前述した光複製部7を導入する。
【0031】
図3に、光複製部7で生成される参照光の一例を示す。本実施形態に係る光複製部7は、カプラ2-1から入力された参照光の周波数を含み、複数の異なる周波数で構成される光周波数コムを生成する。図3に示す光周波数コムでは、理解が容易になるように、参照光Lref1が周波数掃引光源1が周波数を掃引するレーザ光に相当し、各時刻において、参照光Lref1を中心に両側に等間隔に離れた周波数を2つずつ含む計7つの周波数で構成される例を示す。
【0032】
本実施形態に係る光周波数コムは一例であり、周波数の数はこれに限定されない。また、光周波数コムの周波数間隔は等間隔ではなく、異なっていてもよい。なお、図3に示す数程度の複数の周波数を含む光周波数コムの生成を行う光複製部には、光複製部7に限らず、入力された光に対して側波帯を発生させうる任意の手段を採用し得る。
【0033】
本実施形態では、カプラ2-1から入力された参照光が周波数掃引光源1によって線形に掃引されるため、光周波数コムも線形に掃引される。これにより、本開示におけるカプラ2-1からの参照光は、図3に示す周波数掃引された光周波数コムとなって光90度ハイブリッド8に入射する。
【0034】
図4に、本実施形態の主干渉計20が検出するビート周波数の一例を示す。時刻τにおける光周波数コムを構成する参照光Lref1~Lref5とプローブ光Lとのビート周波数IF1~IF5について示す。図4に示すように、被測定物5までの伝搬により遅延を受けたプローブ光は、光周波数コムを構成する参照光のすべてと干渉し、ビート周波数IF1~IF5の複数のビート信号が発生する。
【0035】
周波数が等間隔である図3に示す光周波数コムの周波数間隔をfとすると最小のビート周波数はf/2以下となる。そのため、主干渉計20は少なくともf/2以下を受信帯域とすることが望ましい。光周波数コムの周波数間隔fを狭めると、最小のビート周波数の最大値f/2が低くなるので、受信帯域が狭い主干渉計20でも最小のビート周波数を検出可能となる。なお、周波数間隔が等間隔ではない光周波数コムの場合は、周波数間隔が最大の周波数間隔をfとすれば等間隔の場合と同様に説明できる。
【0036】
図3では、参照光及びプローブ光の一部分を記載しているだけであり、参照光及びプローブ光はさらに高い周波数帯域側にも線形に掃引されているものとする。光複製部7において周波数掃引光源1の周波数掃引幅ΔFよりも十分に広い周波数帯域の光周波数コムを発生すれば、被測定物5が遠方にある場合でも、バランス型フォトデテクタ9-1及び9-2などの受信帯域を拡張することなく、いずれかの光周波数コム成分との干渉を観測することができる。
【0037】
ここで、本開示では、図4に示す複数のビート周波数は、光複製部7により生成した周波数掃引光の周波数に依存する。光複製部7より生成した周波数掃引光は、元の周波数掃引光を周波数方向にシフトした光である。光複製部7では複数の周波数掃引光が生成されるため、ビート周波数IF2を生成させた周波数掃引光に周期的なあいまいさが残る。そこで、本開示では、光複製部7が、周波数間隔が非一様となるように、入射された光を異なる複数の周波数の光に複製する。演算部11は、ビート周波数IF2及びIF3の周波数差やビート周波数IF3及びIF1の周波数差に基づいて、ビート周波数IF2を発生させた参照光の周波数がLref2の周波数であることを判定する。
【0038】
図5に、光複製部7の構成例を示す。本実施形態では、2つの変調器71A及び71Bを用いて、2種類の変調周波数で変調した参照光を生成し、カプラ72Bで合波する。変調器71A及び71Bには、カプラ72Aで1:1に分岐された参照光が入射される。変調器71Aにはシンセサイザ12Aからの変調信号を、変調器71Bにはシンセサイザ12Bからの変調信号を、それぞれ入力する。これにより、周波数間隔fの参照光と、周波数間隔f+Δfの参照光と、が生成される。
【0039】
ここで、fはΔfの整数倍とは異なる値であり、f+Δfは受信帯域BWの2倍より小さくする。すなわち以下の関係を有する。
f+Δf<2×BW (3)
【0040】
図6及び図7に、光複製部7で生成される参照光の一例を示す。図中において破線は変調器71Aからの参照光RAを示し、一点鎖線は変調器71Bからの参照光RBを示す。周波数掃引光源1の周波数fの長波長側と短波長側の両側に変調器71Aからの参照光RAが現れ、その両側に変調器71Bからの参照光RBが現れる。参照光RAとRBとの周波数間隔は、Δf、2Δf、3Δf、4Δf、・・・nΔfのように、周波数fから離れるにしたがって大きくなる。参照光RBとRAとの周波数間隔は、f-Δf、f-2Δf、f-3Δf、f-4Δf、・・・、f-nΔfのように、周波数fから離れるにしたがって小さくなる。
【0041】
図8(a)及び図8(b)に、試験光と参照光の関係の一例を示す。測定対象5との距離がゼロの場合、図8(a)に示すように、試験光が参照光RBの一つと重なるようにする。重ならない場合は、試験光と参照光RBの周波数差fを距離算出時に補正すればよい。測定対象5が遠くにあるほど、図8(b)に示すように、試験光の時間τが右側にシフトしていく。
【0042】
周波数掃引光源1の周波数掃引速度がγ(Hz/s)であるとき、時間τは以下で表される。
τ=f/γ (4)
【0043】
測定対象までの距離z(m)は次式を用いて求めることができる。
z=cf/2γ (5)
ただし、cは光速 (m/s)である。
【0044】
図9に、測定されるビート周波数の一例を示す。ビート周波数の受信帯域幅がBWのとき、f+Δfは受信帯域幅BWの2倍より小さくする。すなわち以下が成立するようにする。
(f+Δf)/2<BW (6)
【0045】
図10及び図11に、ビート周波数の測定例を示す。図11に示す(1)~(4)は、試験光が図10に示す(1)~(4)の周波数シフト量である場合のビート周波数のパターンを示す。また周波数nfよりも大きい周波数シフト量の光は、フィルタで除去する。ここで、nは次式を満たす整数とする。
n<f/Δf+1 (7)
【0046】
本実施形態では、試験光のビート周波数に応じて、図11(1)~図11(4)に示すように、一つ又は二つのビート周波数ν又はνが測定される。例えば測定されるビート周波数を小さいものから順にν、νと定義する。測定されるビート周波数の関係は4パターンである。そこで、本実施形態では、図12に示すフローに基づいて、測定対象の距離zを算出する。
【0047】
ビート周波数が1つであるかを判定し(S101)、1つである場合は図11(1)に示すパターン1であると判定する。なお、測定レンジぎりぎりの遠方にある場合もビート周波数が1つしか測定されないが、この場合は測定レンジ外として扱うことができる。
【0048】
ビート周波数が2つ測定されると、それらの周波数差Δνを算出する。
Δν=fのとき、図11(2)に示すパターン2であると判定する。
ΔνがΔf の整数倍のとき、図11(4)に示すパターン4であると判定する。
ΔνがΔf の整数倍でないとき、図11(3)に示すパターン3であると判定する。
【0049】
測定対象までの距離z(m)を算出する際、周波数差fを以下のように設定する。
パターン1又は2のとき、測定されたビート周波数νをfに設定する(S111)。
パターン4のとき、次式を用いてfを設定する(S112)。
=(Δν/Δf)・f-ν (7)
パターン3のとき、次式を用いてfを設定する(S113)。
={(f-Δν)/Δf+1}・f-ν (8)
【0050】
図13及び図14に、f=15MHz、Δf=2MHz、BW=10MHzとした場合の具体的な算出例を示す。本実施形態では、n・f=105であり、これより大きい周波数シフト量の光は、フィルタで除去する。
試験光の周波数シフト量が図13に示す(1)の位置にあるとき、パターン1に相当するため、ステップS111を実行し、fを設定する。
試験光の周波数シフト量が図13に示す(2)の位置にあるとき、Δν=4=2Δfであり、パターン4に相当する。このため、ステップS112を実行し、f=30-νを設定する。
試験光の周波数シフト量が図13に示す(3)の位置にあるとき、Δν=7であり、パターン3に相当するため、ステップS113を実行し、f=75-νを設定する。
【0051】
ビート周波数が2つ見える限界は、102+10=112MHzである。このとき、測定できる最大の距離は、
c/2γ×112×10
=56c/γ×10 (m) (9)
である。ΔT=2ms、ΔF=5GHzである場合、分解能は3cm、測定距離は6720mになる。
【0052】
(第2の実施形態)
図15に、本実施形態の光複製部7の構成例を示す。本実施形態では、カプラ72Bの後段に周波数シフタ75を備える。
【0053】
図16に、参照光と試験光の関係の一例を示す。図16(a)に示すように、試験光は、測定対象までの距離がゼロの時は周波数掃引光源1からの参照光とほぼ一致し、距離が遠くなるほど右側にシフトする。このため、試験光より上側の参照光は使うことができず無駄になる。
【0054】
本実施形態では、図16(b)に示すように、周波数シフタ75により参照光全体の周波数を下側にシフトすることにより、参照光全体を測距に使えるようにする。なお、試験光の周波数を上側にシフトすることで実現しても良い。
【0055】
図17及び図18に、ビート周波数の測定例を示す。本実施形態では、fが主干渉計20の受信帯域BWよりも小さい。このとき、試験光のビート周波数に応じて、図18(1)及び図18(2)に示すように、二つ又は三つ以上のビート周波数が測定される。測定されるビート周波数を小さいものから順にν、ν、νと定義する。測定されるビート周波数の関係は5パターンである。
(1)ビート周波数が二つだけ測定され、その差がfである。
(2)ビート周波数が三つ以上測定され、Δν/Δf=a(整数)であり、(f-Δν)/Δf=a-1が成立する。
(3)ビート周波数が三つ以上測定され、Δν/Δf=a(整数)であり、(f-Δν)/Δf=aが成立する。
(4)ビート周波数が三つ以上測定され、Δν/Δf=a(整数)であり、(f-Δν)/Δf=a-1が成立する。
(5)ビート周波数が三つ以上測定され、Δν/Δf=a(整数)であり、(f-Δν)/Δf=aが成立する。
そこで、本実施形態では、図19に示すフローに基づいて、測定対象の距離zを算出する。測定対象までの距離z(m)を算出する際、周波数差fを以下のように設定する。
【0056】
ビート周波数が2つであるかを判定し(S201)、2つである場合は図18(1)に示すパターン1であると判定する。さらに2つのビート周波数ν及びνでの強度I及びIを比較する(S204)。
強度Iが強度Iよりも大きいとき(S204においてYes)、次式を用いてfを設定する(S211)。
=nf-ν (21)
強度Iが強度Iよりも大きいとき(S204においてNo)、次式を用いてfを設定する(S212)。
=nf-ν (22)
【0057】
ビート周波数が3つ以上であるとき(S201においてNo)、ビート周波数ν及びνの差Δνを算出し、Δν/Δfが整数であるかを判定する(S202)。整数の場合、ビート周波数ν及びνの差Δνを算出し、整数aを用いて、(f-Δν)/Δf=a-1が成立するかを判定する(S205)。ステップS205においてYesのときパターン2であると判定し、ステップS205においてNoのときパターン3であると判定する。
パターン2のとき、次式を用いてfを設定する(S213)。
=(n-Δν/Δf)f-ν (23)
パターン3のとき、次式を用いてfを設定する(S214)。
=(n+Δν/Δf)f-ν (24)
【0058】
整数aを用いて、(f-Δν)/Δf=a-1が成立するかを判定する(S203)。ステップS203においてYesのときパターン4であると判定し、ステップS203においてNoのときパターン5であると判定する。
パターン4のとき、次式を用いてfを設定する(S215)。
=(n-Δν/Δf)f-ν (25)
パターン5のとき、次式を用いてfを設定する(S216)。
=(n+Δν/Δf)f-ν (26)
【0059】
したがって、本実施形態では、5パターンのビート周波数の関係に基づいて、周波数差fを適切に設定し、測定対象までの距離zを算出することができる。
【0060】
(第3の実施形態)
図20に、本実施形態の光複製部7の構成例を示す。本実施形態では、カプラ72Bの後段に遅延線76を備える。
【0061】
図21に、参照光と試験光の関係の一例を示す。図21(a)に示すように、試験光は、測定対象までの距離がゼロの時は周波数掃引光源1からの参照光とほぼ一致し、距離が遠くなるほど右側にシフトする。このため、試験光より上側の参照光は使うことができず無駄になる。本実施形態では、図21(b)に示すように、遅延線76により参照光全体を遅延させることにより、参照光全体を測距に使えるようにする。
【0062】
本実施形態でのビート周波数の測定例は第2の実施形態と同様に、5パターンのビート周波数の関係に基づいて、周波数差fを適切に設定し、測定対象までの距離zを算出することができる。
【0063】
(第4の実施形態)
前述の実施形態ではカプラ72Bにおいて参照光RBとRAの結合比が等しい例を示したが、これらの結合比は異なってもよい。本実施形態では、参照光RAとRBの強度比が60%対40%である例を示す。
【0064】
図22に、光複製部7で生成される参照光の一例を示す。図中において破線は変調器71Aからの参照光RAを示し、一点鎖線は変調器71Bからの参照光RBを示す。本実施形態では、周波数間隔fの光強度と周波数間隔f+Δfの光強度とが異なり、参照光RAの強度が参照光RBの強度よりも高い。このため、強度に基づいて、参照光RA及びRBを識別することができる。
【0065】
図23及び図24に、ビート周波数の測定例を示す。図24に示す横軸は全てビート周波数である。測定されるビート周波数を小さいものから順にν、νと定義し、それらの強度をI、Iとする。測定されるビート周波数の関係は7パターンである。そこで、本実施形態では、図25に示すフローに基づいて、測定対象の距離zを算出する。
【0066】
ビート周波数が1つであるかを判定し(S301)、1つである場合は図24(1)に示すパターン1であると判定する。
ビート周波数が2つ測定されると(S301においてNo)、それらの強度を比較する(S302)。I<Iのとき(S302においてYes)、ν及びνの周波数差Δνがfであるかを判定する(S303)。
Δν=fのとき(S303においてYes)、図24(2)に示すパターン2であると判定する。
Δν≠fのとき(S303においてNo)、ΔνがΔfの整数倍であるか否かを判定する(S304)。
ΔνがΔfの整数倍のとき(S304においてYes)、図24(4)に示すパターン4であると判定する。
ΔνがΔfの整数倍でないとき(S304においてNo)、図24(5)に示すパターン5であると判定する。
【0067】
>Iのとき(S302においてNo)、ν及びνの周波数差Δνがfであるかを判定する(S305)。
Δν=fのとき(S305においてYes)、図24(3)に示すパターン3であると判定する。
Δν≠fのとき(S305においてNo)、ΔνがΔfの整数倍であるか否かを判定する(S306)。
ΔνがΔfの整数倍のとき(S306においてYes)、図24(7)に示すパターン7であると判定する。
ΔνがΔfの整数倍でないとき(S306においてNo)、図24(6)に示すパターン6であると判定する。
【0068】
パターン1のとき、次式を用いてfを設定する(S311)。
=nf-ν (31)
パターン2のとき、次式を用いてfを設定する(S312)。
=nf-ν (32)
パターン3のとき、次式を用いてfを設定する(S313)。
=nf-ν (33)
パターン4のとき、次式を用いてfを設定する(S314)。
=(n-Δν/Δf)f-ν (34)
パターン5のとき、次式を用いてfを設定する(S315)。
={n+(f-Δν)/Δf+1)f-ν (35)
パターン6のとき、次式を用いてfを設定する(S316)。
={n-(f-Δν)/Δf-1)f-ν (36)
パターン7のとき、次式を用いてfを設定する(S317)。
=(n-Δν/Δf)f-ν (37)
【0069】
したがって、本実施形態では、7パターンのビート周波数の関係に基づいて、周波数差fを適切に設定し、測定対象までの距離zを算出することができる。
【0070】
なお、上述の全ての実施形態において光複製部7は主干渉計20手前のプローブ光経路、すなわち、光サーキュレータ3と光90度ハイブリッド8との間に配置してもよい。この場合、光複製部7には、被測定物5で反射されたプローブ光が入力される。そのため、光複製部7は、被測定物5で反射されたプローブ光の周波数を含み、複数の異なる周波数で構成される光周波数コムを生成することになる。一方で、参照光は1つの光となる。この場合において、プローブ光に基づく光周波数コムのうち、参照光の周波数と近い周波数の光と参照光との干渉によるビート信号の周波数を計測することで、図1に示す構成と同様の効果を得ることができる。
【0071】
以上のように、光複製部7の導入により、周波数の掃引速度を低下させることなく、受信帯域による測定距離の限界を排除することができる。また光、強度が周波数に対して非一様となるように、入射された光を異なる複数の周波数の光に複製することで、測距結果の周期的な曖昧さを緩和することができる。
【0072】
また、本実施形態に係る主干渉計20では、光90度ハイブリッド8を用いてハードウェアベースで処理する構成としたが、ソフトウェアベースで処理してもよい。
【0073】
本実施形態に係る演算部11はコンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本開示に係る非接触型測距装置及び方法は、情報通信産業に適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1:周波数掃引光源
2:カプラ
3:光サーキュレータ
4:レンズ
5:被測定物
6:遅延器
7:光複製部
8:光90度ハイブリッド
9:バランス型フォトデテクタ
10:ADコンバータ
11:演算部
12、12A、12B:RFシンセサイザ
13、13A、13B:アンプ
20:主干渉計
71A、71B:変調器
72A、72B:カプラ
75:周波数シフタ
76:遅延線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
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図25