(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121336
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】ポリエステル系フィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028381
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】大原 明宏
(72)【発明者】
【氏名】小井土 俊介
【テーマコード(参考)】
4F071
【Fターム(参考)】
4F071AA45
4F071AA46
4F071AA48
4F071AA84
4F071AA86
4F071AF13Y
4F071AF31Y
4F071AF35Y
4F071AF61Y
4F071AG28
4F071AH12
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
(57)【要約】
【課題】
低リタデーション特性を有し、かつ、室温における耐屈曲性にも優れるポリエステル系フィルムを提供することにある。
【解決手段】
延伸固有複屈折が0.0350以下である樹脂組成物(X)を主成分として含み、長手方向(MD)及び幅方向(TD)それぞれの折り曲げヒステリシスロスの平均値が0.20以下である、ポリエステル系フィルムである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
延伸固有複屈折が0.0350以下である樹脂組成物(X)を主成分として含み、
長手方向(MD)及び幅方向(TD)それぞれの折り曲げヒステリシスロスの平均値が0.20以下である、ポリエステル系フィルム。
【請求項2】
融解エンタルピーが、5~50J/gである、請求項1に記載のポリエステル系フィルム。
【請求項3】
複屈折が、0.01000以下である、請求項1に記載のポリエステル系フィルム。
【請求項4】
面内リタデーションが、500nm以下である、請求項1に記載のポリエステル系フィルム。
【請求項5】
150℃、30分間加熱したときの熱収縮率が、長手方向(MD)と幅方向(TD)のいずれも-10~10%である、請求項1に記載のポリエステル系フィルム。
【請求項6】
前記樹脂組成物(X)が、少なくとも1種のジカルボン酸成分と少なくとも1種のジオール成分との重縮合によって得られるポリエステル成分を含有し、前記ジオール成分としてビスフェノールA及び1,4-シクロヘキサンジメタノールを含む、請求項1に記載のポリエステル系フィルム。
【請求項7】
前記樹脂組成物(X)が、ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンテレフタレート以外の樹脂を含む、請求項1に記載のポリエステル系フィルム。
【請求項8】
全ジオール成分中に、前記ビスフェノールAを5~50モル%含有し、前記1,4-シクロヘキサンジメタノールを50~95モル%含有する、請求項6に記載のポリエステル系フィルム。
【請求項9】
前記樹脂組成物(X)が、さらに、ポリカーボネート成分を含有する、請求項6に記載のポリエステル系フィルム。
【請求項10】
前記ポリエチレンテレフタレート以外の樹脂として、ポリアリレートを含有する、請求項7に記載のポリエステル系フィルム。
【請求項11】
前記樹脂組成物(X)が、さらに相溶化剤を含有する、請求項10に記載のポリエステル系フィルム。
【請求項12】
少なくとも一方向に延伸してなる、請求項1に記載のポリエステル系フィルム。
【請求項13】
フレキシブルディスプレイ用である、請求項1に記載のポリエステル系フィルム。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載のポリエステル系フィルムを搭載したフレキシブルディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、耐熱性、耐候性、機械的強度、透明性、耐薬品性、ガスバリア性などの性質に優れており、かつ、価格的にも入手し易いことから、汎用性が高く、現在、飲料・食品用容器や包装材、成形品、フィルムなどに広く利用されている樹脂である。ポリエステル樹脂の主なものはポリエチレンテレフタレートであり、機械特性、耐薬品性などに優れていて幅広い用途があるが、耐屈曲性などに難点がある。
【0003】
一方で、近年、電子機器などの小型化、軽量化に伴い、フレキシブル基板やフレキシブルプリント回路が用いられる傾向にある。その流れに伴い、ディスプレイ用途においてもフレキシブル性の要求が高まり、復元性に優れ、繰り返しの折り曲げ耐性(耐屈曲性)に優れるフィルムが強く求められている。
【0004】
また、液晶ディスプレイ、タッチパネル、OLED(Organic Light Emitting Diode)等の各種光学用部材として用いられるフィルムには、例えば、偏光下において、光干渉に伴う干渉色や虹ムラの発生を抑制できることが求められる。
かかる問題に対する解決策として、リタデーションを特定の範囲に制御する方法が挙げられるが、フィルムの異方性を低くして、長手方向(MD)と幅方向(TD)の物性バランスを保つことができる点で、フィルムのリタデーションを低く制御することが望ましい。
【0005】
例えば特許文献1には、量産性に優れており、繰り返し折り曲げた後に折りたたみ部分で表示される画像に乱れを生じるおそれがない折りたたみ型ディスプレイの提供のために、折りたたみ部にクラックが発生することのない、折りたたみ型ディスプレイ用ポリエステルフィルムが開示されている。
【0006】
特許文献2には、折りたたみ型ディスプレイ用ポリエステルフィルムとして、高温領域で折りたたみ部に折り跡が発生することのないフィルムが開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、ポリエステルフィルムの応力に対するひずみ率および結晶化度を特定の範囲に調整することにより、柔軟性と外観特性とを同時に向上させ得るポリエステルフィルムおよびこれを含むフレキシブルディスプレイ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-9349号公報
【特許文献2】国際公開第2021-215349号公報
【特許文献3】特開2021-66882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1~3に開示されるポリエステルフィルムでは、室温における耐屈曲性が不十分な場合があり、また、光干渉に伴う干渉色や虹ムラの発生を抑制しつつ、フィルムの長手方向(MD)と幅方向(TD)の物性バランスを保つためにフィルムのリタデーションを低く制御することは検討されていない。
【0010】
特に、特許文献1に開示されているフィルムは、長手方向(MD)の耐屈曲性には優れているものの、幅方向(TD)の耐屈曲性が不十分であるため、フィルムの方向によって折り曲げ特性の制約を受けることになり、ディスプレイの製造工程や加工工程において、その都度、フィルムの方向を揃えて製造する必要があるなど、作業負荷が増大する場合がある。また、リタデーションが高いため、干渉を防止することはできても、フィルムの異方性を低くすることができず、上述のように、折り曲げ方向による折り曲げ特性などに差が生じ、ディスプレイによっては適用が困難な場合がある。
【0011】
本発明で解決しようとする課題は、上記の問題点を解決し、低リタデーション特性を有し、かつ、室温における耐屈曲性にも優れるポリエステル系フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。本発明は、その一態様において以下の[1]~[14]を要旨とする。
[1]延伸固有複屈折が0.0350以下である樹脂組成物(X)を主成分として含み、長手方向(MD)及び幅方向(TD)それぞれの折り曲げヒステリシスロスの平均値が0.20以下である、ポリエステル系フィルム。
[2]融解エンタルピーが、5~50J/gである、上記[1]に記載のポリエステル系フィルム。
[3]複屈折が、0.01000以下である、上記[1]又は[2]に記載のポリエステル系フィルム。
[4]面内リタデーションが、500nm以下である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載のポリエステル系フィルム。
[5]150℃、30分間加熱したときの熱収縮率が、長手方向(MD)と幅方向(TD)のいずれも-10~10%である、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載のポリエステル系フィルム。
[6]前記樹脂組成物(X)が、少なくとも1種のジカルボン酸成分と少なくとも1種のジオール成分との重縮合によって得られるポリエステル成分を含有し、前記ジオール成分としてビスフェノールA及び1,4-シクロヘキサンジメタノールを含む、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載のポリエステル系フィルム。
[7]前記樹脂組成物(X)が、ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンテレフタレート以外の樹脂を含む、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載のポリエステル系フィルム。
[8]全ジオール成分中に、前記ビスフェノールAを5~50モル%含有し、前記1,4-シクロヘキサンジメタノールを50~95モル%含有する、上記[6]に記載のポリエステル系フィルム。
[9]前記樹脂組成物(X)が、さらに、ポリカーボネート成分を含有する、上記[6]又は[8]に記載のポリエステル系フィルム。
[10]前記ポリエチレンテレフタレート以外の樹脂として、ポリアリレートを含有する、上記[7]に記載のポリエステル系フィルム。
[11]前記樹脂組成物(X)が、さらに相溶化剤を含有する、上記[10]に記載のポリエステル系フィルム。
[12]少なくとも一方向に延伸してなる、上記[1]~[11]のいずれか1つに記載のポリエステル系フィルム。
[13]フレキシブルディスプレイ用である、上記[1]~[12]のいずれか1つに記載のポリエステル系フィルム。
[14]上記[1]~[13]のいずれか1つに記載のポリエステル系フィルムを搭載したフレキシブルディスプレイ。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリエステル系フィルムは、低リタデーション特性を有し、かつ、室温における耐屈曲性にも優れる。
したがって、本発明のポリエステル系フィルムは、特にフレキシブルディスプレイ用に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】折り曲げヒステリシスロスの測定方法を示す図である。
【
図3】折り曲げ試験の折り曲げ幅-荷重のプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0016】
<<ポリエステル系フィルム>>
本発明のポリエステル系フィルム(以下、「本フィルム」とも称する。)は、延伸固有複屈折が0.0350以下である樹脂組成物(X)を主成分として含み、長手方向(MD)及び幅方向(TD)それぞれの折り曲げヒステリシスロスの平均値が0.20以下である。
【0017】
本フィルムは、単層構造であっても積層(多層)構造であってもよい。本フィルムが積層構造の場合、本フィルムは2層構造、3層構造などでもよいし、本発明の要旨を逸脱しない限り、4層又はそれ以上の多層であってもよい。積層する層数は、特に限定されないが、10層以下であることが好ましい。10層以下であれば、各層の厚みが十分となるため、製膜時の積層性が十分となり、フローマーク等が発生しにくくなり、フィルムの品質が十分保たれる。
中でも、本フィルムの製造コストを抑える観点からは、単層構造又は2層以上3層以下の積層構造であることが好ましい。
【0018】
また、本フィルムは、無延伸フィルム(シート)であっても延伸フィルムであってもよい。中でも、一軸方向又は二軸方向に延伸された延伸フィルムであることが好ましい。その中でも、力学特性のバランスや平面性に優れる点、薄膜化の観点、及びリタデーションを低く制御しやすい点で、二軸延伸フィルムであることがより好ましい。
【0019】
本フィルムは、樹脂組成物(X)を主成分とすることが好ましい。また、本フィルムが積層構造の場合にあっては、各層の主成分が樹脂組成物(X)であることが好ましい。
なお、「主成分」とは、各層を構成する成分のうち最も含有割合の多い成分を意味し、例えば各層を構成する成分のうち50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上(100質量%を含む)を占める成分である。
【0020】
本フィルムは、ポリエステルを主成分樹脂とすることが好ましい。また、本フィルムが積層構造の場合にあっては、各層の主成分樹脂がポリエステルであることが好ましい。
なお、「主成分樹脂」とは、各層を構成する樹脂のうち最も含有割合の多い樹脂を意味し、例えば各層を構成する樹脂のうち50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上(100質量%を含む)を占める樹脂である。
【0021】
<樹脂組成物(X)>
樹脂組成物(X)の延伸固有複屈折は、0.0350以下である。
前記延伸固有複屈折とは、延伸による高分子鎖の配向がほとんど緩和しない程度の延伸条件にて延伸したときの延伸倍率に対する複屈折の傾きのことであり、延伸による複屈折への影響を評価するための指標とすることができる。
本発明においては、フィルムのリタデーションを低く制御したい場合には、固有複屈折が低い樹脂を用いることが好ましく、中でも延伸条件による影響が少ないことがより好ましい。したがって、当該延伸固有複屈折が、0.0350を超える場合には、延伸に対する複屈折が高くなり、リタデーションを低く制御することが難しいといえる。
【0022】
低リタデーション特性を得る観点から、当該延伸固有複屈折は、0.0350以下であり、好ましくは0.0330以下、より好ましくは0.0310以下、さらに好ましくは0.0290以下である。また、延伸固有複屈折は小さければ小さいほど良く、下限値は特に制限されないが、0.0010程度である。
例えば、一般的な結晶性ポリエステル樹脂において、延伸固有複屈折は通常0.0380~0.0800程度である。
なお、延伸固有複屈折は、実施例の方法にて算出した値である。
【0023】
低リタデーション特性を有し、かつ、室温における耐屈曲性にも優れるポリエステル系フィルムを提供するための前記樹脂組成物(X)としては、延伸固有複屈折を小さくするためには、ローレンツ・ローレンツの式から分極率の高い結合が主鎖の伸びきり方向に存在しない、あるいは分極率の高い結合が主鎖の伸びきり方向と垂直方向に存在する設計がよく、折り曲げヒステリシスロスを小さくするためには、高分子鎖の剛直性を低くすることが好ましい。
【0024】
前記樹脂組成物(X)の特に好ましい態様として、以下の第1及び第2態様が挙げられる。
【0025】
(第1態様)
第1態様の樹脂組成物(X)は、少なくとも1種のジカルボン酸成分と、少なくとも1種のジオール成分との重縮合によって得られるポリエステル成分を含有する。
なお、ポリエステル成分は、第1態様の樹脂組成物(X)を構成する単一のポリエステルに由来していてもよいし、異なるポリエステル、すなわち複数のポリエステルに由来していてもよい。
【0026】
前記ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸、2,4-フランジカルボン酸、3,4-フランジカルボン酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、3,3’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸;p-オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸等が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
前記ジオール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ダイマージオール、ビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF若しくはビスフェノールSなどのビスフェノール化合物若しくはその誘導体又はそれらのエチレンオキサイド付加物)等が挙げられる。これらのジオール成分は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
なお、通常、エチレングリコールを原料の1つとしてポリエステルを製造(重縮合)する場合、エチレングリコールからジエチレングリコールが副生する。本明細書においては、このジエチレングリコールを副生ジエチレングリコールと称する。エチレングリコールからのジエチレングリコールの副生量は、重縮合の様式等によっても異なるが、エチレングリコールのうち5モル%以下程度である。本発明においては、5モル%以下のジエチレングリコールを副生ジエチレングリコールとした上で、前記副生ジエチレングリコールもエチレングリコールに包含されるものとし、共重合成分とは区別される。一方、ジエチレングリコールの含有量によっては、より具体的にはジエチレングリコールが5モル%を超えて含有されている場合には、ジエチレングリコールは副生ジエチレングリコールとしてではなく、共重合成分として扱う。
【0029】
前記ポリエステル成分は、耐屈曲性を向上させる観点から、高分子鎖の剛直性が低いポリマーを使用することが好ましい。
具体的には、前記ジオール成分として、ビスフェノールA及び1,4-シクロヘキサンジメタノールを含むことが好ましい。
中でも、全ジオール成分中に、前記ビスフェノールAを5~50モル%含有し、前記1,4-シクロヘキサンジメタノールを50~95モル%含有することがより好ましい。前記ビスフェノールAの含有量が、前述の範囲を満足すれば、成形加工性に優れる。かかる観点から、前記ビスフェノールAの全ジオール成分中の含有量は、より好ましくは10~40モル%、さらに好ましくは15~30モル%である。また、前記1,4-シクロヘキサンジメタノールの含有量が、前述の範囲を満足すれば、耐屈曲性及び耐熱性のバランスに優れる。かかる観点から、前記1,4-シクロヘキサンジメタノールの全ジオール成分中の含有量は、より好ましくは60~90モル%、さらに好ましくは70~85モル%である。
【0030】
また、前記ポリエステル成分は、耐熱性と溶融成形性を向上させる観点から、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸及びイソフタル酸を含むことが好ましい。
中でも、全ジカルボン酸成分中に、前記テレフタル酸を50~100モル%含有し、前記イソフタル酸を0~50モル%含有することがより好ましい。前記テレフタル酸の全ジカルボン酸成分中の含有量は、より好ましくは60~95モル%、さらに好ましくは70~90モル%である。また、前記イソフタル酸の全ジカルボン酸成分中の含有量は、より好ましくは5~40モル%、さらに好ましくは10~30モル%である。
テレフタル酸及びイソフタル酸の含有量が上記範囲であることで、第1態様の樹脂組成物(X)は耐熱性と溶融成形性に優れる。
【0031】
なお、前記ポリエステル成分は、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸以外のジカルボン酸成分を共重合してもよい。
具体的には、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、3,3’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が好ましい。
また、第1態様の樹脂組成物(X)の耐熱性を損なわないよう、前記ポリエステル成分中のテレフタル酸とイソフタル酸以外のジカルボン酸成分の共重合比率は10モル%以下であることが好ましい。
【0032】
すなわち、前記ポリエステル成分は、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸及びイソフタル酸、ジオール成分としてビスフェノールA及び1,4-シクロヘキサンジメタノールを含むことが最も好ましい。
なお、上述のとおり、ポリエステル成分のジカルボン酸成分及びジオール成分は、ポリエステル成分を構成する単一のポリエステルに由来してもよいし、異なるポリエステルに由来していてもよく、結果としてポリエステル成分中にジカルボン酸成分及びジオール成分として含まれていればよい。
【0033】
第1態様の樹脂組成物(X)に含まれるポリエステル成分の含有割合は、50質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上である。当該ポリエステル成分の含有割合が、50質量%以上であれば、第1態様の樹脂組成物(X)の延伸固有複屈折を所望の値に制御しやすく、ひいては本フィルムの低リタデーション特性を良好とすることができる。
一方、当該ポリエステル成分の含有割合は、95質量%以下が好ましく、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは85質量%以下である。当該ポリエステル成分の含有割合が、95質量%以下であれば、第1態様の樹脂組成物(X)に含まれ得る、他の樹脂の含有量を確保することができるため、本フィルムの耐屈曲性や延伸成形性を優れたものとしやすい。
なお、ここでいうポリエステル成分の含有割合とは、第1態様の樹脂組成物(X)中の全ポリエステルを意味する。
【0034】
第1態様の樹脂組成物(X)は、さらに、ポリカーボネート成分を含有することが好ましい。第1態様の樹脂組成物(X)が、ポリカーボネート成分を含有することで、耐熱性を保持したまま、耐屈曲性を改善することができ、延伸成形性にも優れたものとなる。
前記ポリカーボネート成分は、ビスフェノール系ポリカーボネートが好ましく、ジオール成分に由来する構造単位中50モル%以上、好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上が、ビスフェノールであるものをいう。
ビスフェノール系ポリカーボネートは、単独重合体又は共重合体のいずれであってもよい。また、芳香族ポリカーボネートは、分岐構造であっても、直鎖構造であってもよいし、さらに分岐構造と直鎖構造との混合物であってもよい。
【0035】
前記ビスフェノール系ポリカーボネートの製造方法は、例えば、ホスゲン法、エステル交換及びピリジン法などの公知のいずれかの方法を用いても構わない。
例えば、エステル交換法は、ビスフェノールと炭酸ジエステルとを塩基性触媒、さらにはこの塩基性触媒を中和する酸性物質を添加し、溶融エステル交換縮重合を行う製造方法である。
【0036】
前記ビスフェノールの代表例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、すなわちビスフェノールAが好ましく用いられる。
また、ビスフェノールAの一部又は全部を他のビスフェノールで置き換えてもよい。
【0037】
ビスフェノールの具体例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン(ビスフェノールAP)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールAF)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン(ビスフェノールB)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン(ビスフェノールBP)、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールE)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン(ビスフェノールG)、1,3-ビス(2-(4-ヒ ドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン(ビスフェノールM)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)、1,4-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン(ビスフェノールP)、5,5’-(1-メチルエチリデン)-ビス[1,1’-(ビスフェニル)-2-オール]プロパン(ビスフェノールPH)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(ビスフェノールTMC)、及び、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)などが挙げられる。
【0038】
一方、炭酸ジエステルの代表例としては、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m-クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ビフェニル)カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、及び、ジシクロヘキシルカーボネートなどが挙げられる。これらのうち、特にジフェニルカーボネートが好ましく用いられる。
【0039】
第1態様の樹脂組成物(X)に含まれるポリカーボネート成分の含有割合は、5質量%以上が好ましく、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上である。当該ポリカーボネート成分の含有割合が、5質量%以上であれば、本フィルムの耐屈曲性や延伸成形性を向上させることができる。
一方、当該ポリカーボネート成分の含有割合は、50質量%以下が好ましく、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下、特に好ましくは20質量%以下である。当該ポリカーボネート成分の含有割合が、50質量%以下であれば、第1態様の樹脂組成物(X)に含まれる、上記ポリエステル成分の含有量を確保することができるため、第1態様の樹脂組成物(X)の延伸固有複屈折を所望の値と制御しやすく、ひいては本フィルムの低リタデーション特性を保つことができる。
なお、ここでいうポリカーボネート成分の含有割合とは、第1態様の樹脂組成物(X)中の全ポリカーボネートを意味する。
【0040】
(第2態様)
第2態様の樹脂組成物(X)は、ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンテレフタレート以外の樹脂を含有する。
また、第2態様の樹脂組成物(X)は、ポリエチレンテレフタレートを主成分とすることが好ましい。ポリエチレンテレフタレートを主成分とすることで、第2態様の樹脂組成物(X)、ひいては本フィルムのコストを下げることができる。
なお、「主成分とする」とは、各層を構成する樹脂のうち最も含有割合の多い樹脂として含有することを意味し、例えば各層を構成する樹脂のうち50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上(100質量%を含む)を占める樹脂として含む。
【0041】
前記ポリエチレンテレフタレートは、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を、ジオール成分としてエチレングリコールを含み、テレフタル酸とエチレングリコールをそれぞれ主成分とするポリエステルである。すなわち、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を50モル%以上、ジオール成分としてエチレングリコールを50モル%以上含むポリエステルである。
特に、本発明で用いるポリエチレンテレフタレートは、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を80モル%以上含むことが好ましく、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。また、ポリエチレンテレフタレートは、ジオール成分としてエチレングリコールを80モル%以上含むことが好ましく、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。中でも、ポリエチレンテレフタレートは、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を100モル%、ジオール成分としてエチレングリコールを100モル%含むポリエステル(ホモポリエチレンテレフタレート)であることが最も好ましい。
【0042】
前記ポリエチレンテレフタレートは、前記ジカルボン酸成分としてテレフタル酸以外のジカルボン酸成分を共重合してもよい。具体的には、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸、2,4-フランジカルボン酸、3,4-フランジカルボン酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、3,3’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸;p-オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸等が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分の含有量は、テレフタル酸を含む全ジカルボン酸成分中20モル%以下であることが好ましく、より好ましくは10モル%以下である。
【0043】
前記ポリエチレンテレフタレートは、前記ジオール成分としてエチレングリコール以外のジオール成分を共重合してもよい。具体的には、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ダイマージオール、ビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF若しくはビスフェノールSなどのビスフェノール化合物若しくはその誘導体又はそれらのエチレンオキサイド付加物)等が挙げられる。これらのジオール成分は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、エチレングリコール以外のジオール成分の含有量は、エチレングリコールを含む全ジオール成分中20モル%以下であることが好ましく、より好ましくは10モル%以下である。
【0044】
なお、通常、エチレングリコールを原料の1つとしてポリエステルを製造(重縮合)する場合、エチレングリコールからジエチレングリコールが副生する。本明細書においては、このジエチレングリコールを副生ジエチレングリコールと称する。エチレングリコールからのジエチレングリコールの副生量は、重縮合の様式等によっても異なるが、エチレングリコールのうち5モル%以下程度である。本発明においては、5モル%以下のジエチレングリコールを副生ジエチレングリコールとした上で、前記副生ジエチレングリコールもエチレングリコールに包含されるものとし、共重合成分とは区別される。一方、ジエチレングリコールの含有量によっては、より具体的にはジエチレングリコールが5モル%を超えて含有されている場合には、ジエチレングリコールは副生ジエチレングリコールとしてではなく、共重合成分として扱う。
【0045】
第2態様の樹脂組成物において、前記ポリエチレンテレフタレート以外の樹脂として、ポリアリレートを含有することが好ましい。ポリアリレートは、芳香族ジカルボン酸成分と二価フェノール成分との重縮合物であり、二価フェノールは一般的に主鎖伸びきり方向と垂直方向にも結合をもつことから、延伸固有複屈折を低下させることが可能である。
【0046】
前記ポリアリレートを構成するジカルボン酸成分としては、二価の芳香族カルボン酸であれば特に制限はないが、中でもテレフタル酸とイソフタル酸の混合物であることが好ましい。
そのテレフタル酸とイソフタル酸の割合(モル%)は、テレフタル酸/イソフタル酸=99/1~1/99が好ましく、90/10~10/90がより好ましく、80/20~20/80がさらに好ましく、70/30~30/70が特に好ましく、60/40~40/60がとりわけ好ましい。ジカルボン酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸の割合が上記範囲であることで、ポリアリレートは耐熱性と押出成形性に優れる。
【0047】
ポリアリレートは、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸以外のジカルボン酸成分を共重合してもよい。
具体的には、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、3,3’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が好ましい。
また、ポリアリレートの耐熱性を損なわないよう、テレフタル酸とイソフタル酸以外のジカルボン酸成分の共重合比率は10モル%以下であることが好ましい。
【0048】
前記ポリアリレートを構成する二価フェノール成分としては、二価のフェノール類であれば特に制限はないが、ビスフェノールA(2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン)、ビスフェノールTMC(1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン)のいずれか、又は、ビスフェノールAとビスフェノールTMCのいずれも含むことが好ましく、ビスフェノールAを含むことがより好ましい。
【0049】
一般に、ビスフェノールAを含むことで押出成形性(流動性)に優れたポリアリレートとなり、分子鎖の屈曲性が向上することから耐屈曲性が改善する。
一方、ビスフェノールTMCを含むことで、ガラス転移温度が向上し、耐熱性に優れるポリアリレートとなる。
押出成形性と耐熱性のバランスを取りたい場合には、ビスフェノールAとビスフェノールTMCのいずれも用いることが好ましい。この場合、ビスフェノールAとビスフェノールTMCの割合(モル%)は、ビスフェノールA/ビスフェノールTMC=99/1~1/99が好ましく、90/10~10/90がより好ましく、80/20~20/80がさらに好ましく、70/30~30/70が特に好ましく、60/40~40/60がとりわけ好ましい。
ビスフェノールAとビスフェノールTMCの割合をかかる範囲にすることにより、耐熱性と溶融成形性のバランスに優れるポリアリレートとなる。
【0050】
ポリアリレートは、二価フェノール成分としてビスフェノールAとビスフェノールTMC以外のビスフェノール類を共重合してもよい。
具体的には、ビスフェノールAP(1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン)、ビスフェノールAF(2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン)、ビスフェノールB(2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン)、ビスフェノールBP(ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン)、ビスフェノールC(2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン)、ビスフェノールE(1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン)、ビスフェノールF(ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン)、ビスフェノールG(2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン)、ビスフェノールM(1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン)、ビスフェノールS(ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン)、ビスフェノールP(1,4-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン)、ビスフェノールPH(5,5’-(1-メチルエチリデン)-ビス[1,1’-(ビスフェニル)-2-オール]プロパン)、ビスフェノールZ(1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン)等が挙げられる。
ポリアリレートの耐熱性を損なわないよう、上記化合物の共重合比率は10モル%以下であることが好ましい。
【0051】
ポリアリレートは、前記ポリエチレンテレフタレートとの相溶性を高めるために、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸の混合物を、二価フェノール成分としてビスフェノールA、ビスフェノールTMCのいずれか、又は、ビスフェノールAとビスフェノールTMCの混合物を選択することが好ましい。
【0052】
第2態様の樹脂組成物(X)がポリアリレートを含有する場合は、ポリエチレンテレフタレート100質量部に対して、ポリアリレートを1質量部以上60質量部以下の割合で含むことが好ましい。
第2態様の樹脂組成物(X)中のポリアリレートの当該含有割合が、1質量部以上であれば、第2態様の樹脂組成物(X)の分子鎖屈曲性が向上し、ひいては本フィルムの耐屈曲性が改善する。また、延伸固有複屈折が低下することから、本フィルムに低リタデーション特性を付与できる。一方、当該含有割合が、60質量部以下であれば、第2態様の樹脂組成物(X)の結晶性が維持され、ひいては得られる本フィルムの融解エンタルピーを好適範囲としやすくなる。
以上の観点から、前記ポリアリレートの含有割合は、ポリエチレンテレフタレート100質量部に対して、10質量部以上55質量部以下であることがより好ましく、さらに好ましくは20質量部以上50質量部以下である。
【0053】
本発明に用いるポリアリレートは、押出成形性の向上を目的としてポリカーボネートを混合してもよい。ポリアリレートとポリカーボネートは相溶するため、ポリアリレートに対してポリカーボネートを混合することで、透明性や機械特性を維持したままポリアリレートのガラス転移温度を下げることができ、結果として押出成形性を向上することができる。
なお、かかる場合の上記ポリカーボネートの含有量は、ポリアリレートの含有量として換算する。
【0054】
第2態様の樹脂組成物(X)は、ポリエチレンテレフタレート及びポリアリレートを含有する場合、前記ポリエチレンテレフタレートと前記ポリアリレートは非相溶であるため、さらに、相溶化剤を含有することが好ましい。
第2態様の樹脂組成物(X)が前記相溶化剤を含むことで、フィルム外観の透明性等を向上させることができる。
【0055】
前記相溶化剤としては、前記ポリエチレンテレフタレートと前記ポリアリレートの相溶性を向上できるものであれば特に制限されず、例えばエステル交換(促進)によって相溶性を向上させることができるものが挙げられる。
具体例としては、相溶化剤中にポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート及びエステル交換触媒を含有するものが挙げられる。本来、ポリエチレンテレフタレートとポリアリレートは非相溶であるが、エステル交換触媒を含有させることにより、エステル交換反応によってポリエチレンテレフタレートとポリアリレートを相溶化させることができる。そして、かかる相溶化剤を第2態様の樹脂組成物(X)に含有させることによって、ポリエチレンテレフタレートとポリアリレートの相溶性を向上させることができ、結果としてフィルム外観や透明性が良好なフィルムを得ることができる。
【0056】
相溶化剤中に含まれるポリエチレンテレフタレートの具体的な態様及び好ましい態様は、上記したポリエチレンテレフタレートと同じであり、これらを全て援用することができる。
また、相溶化剤中に含まれるポリアリレートの具体的な態様及び好ましい態様は、上記したポリアリレートと同じであり、これらを全て援用することができる。
【0057】
相溶化剤中のポリエチレンテレフタレートとポリアリレートの割合(質量%)は、相溶性や成形性の観点から、ポリエチレンテレフタレート/ポリアリレート=90/10~10/90が好ましく、80/20~20/80がより好ましく、70/30~30/70がさらに好ましく、65/35~35/65が特に好ましく、65/35~40/60がとりわけ好ましく、65/35~50/50が最も好ましい。
【0058】
前記エステル交換触媒は、従来公知のものを使用することができ、例えば、脂肪族カルボン酸金属塩、より具体的には、酢酸やプロピオン酸等のナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。前記エステル交換触媒の添加量は、ポリエチレンテレフタレートとポリアリレートの合計量100質量部に対して、好ましくは0.01~0.5質量部、より好ましくは0.02~0.3質量部である。
なお、前記エステル交換触媒は、エステル交換開始前から開始直後までの間に添加すればよく、特に制限されない。
【0059】
また、相溶化剤には、成形加工時における熱による変色を抑制するために、有機リン化合物を含有させてもよい。
前記有機リン化合物としては、例えばフォスフェート化合物及び/又はフォスファイト化合物が挙げられ、より具体的には特開2002-302596号公報に記載のものが挙げられる。前記有機リン化合物の添加量は、ポリエチレンテレフタレートとポリアリレートの合計量100質量部に対して、好ましくは0.01~0.5質量部、より好ましくは0.02~0.3質量部である。
【0060】
第2態様の樹脂組成物(X)が相溶化剤を含有する場合は、ポリエチレンテレフタレート100質量部に対して、相溶化剤を1質量部以上50質量部以下の割合で含むことが好ましい。
第2態様の樹脂組成物(X)中の相溶化剤の当該含有割合が、かかる範囲であれば、本フィルムの低リタデーション特性、耐屈曲性を損なうことなく、第2態様の樹脂組成物(X)中のポリエチレンテレフタレートとポリアリレートの相溶性を向上させることができ、フィルム外観の透明性等を向上させることができる。
以上の観点から、前記相溶化剤の含有割合は、ポリエチレンテレフタレート100質量部に対して、5質量部以上48質量部以下であることがより好ましく、さらに好ましくは6質量部以上45質量部以下、特に好ましくは8質量部以上40質量部以下である。
【0061】
(他の樹脂)
前記樹脂組成物(X)には、本発明の効果を損なわない範囲において、上記した以外の他の樹脂を含むことを許容することができる。
他の樹脂としては、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、ポリアミド、ポリアセタール、アクリル、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリメチルペンテン、ポリビニルアルコール、環状オレフィン、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキサイド、セルロース、ポリイミド、ポリウレタン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリビニルアセタール、ポリブタジエン、ポリブテン、ポリアミドイミド、ポリアミドビスマレイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリケトン、ポリサルフォン等が挙げられる。
【0062】
<粒子>
本フィルムには、易滑性の付与及び各工程での傷発生防止を主たる目的として、粒子を配合してもよい。配合する粒子の種類は、易滑性を付与可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の無機粒子、アクリル樹脂、スチレン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等の有機粒子等が挙げられる。さらに、ポリエステルなどのポリマー製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
【0063】
<その他>
また、本フィルムは一般的に配合される添加剤を適宜含むことができる。前記添加剤としては、成形加工性、生産性及び諸物性を改良・調整する目的で添加される、耳などのトリミングロス等から発生するリサイクル樹脂や、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、難燃剤、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、溶融粘度改良剤、架橋剤、滑剤、核剤、可塑剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、及び、着色剤などの添加剤が挙げられる。
【0064】
<<ポリエステル系フィルムの製造方法>>
次に、本フィルムの製造方法について具体的に説明する。
以下の説明は、本フィルムとして二軸延伸フィルムを製造する方法の一例であり、本フィルムはかかる製造方法により製造されるフィルムに限定されるものではない。
【0065】
本発明の実施形態の一例に係る本フィルムの製造方法は、樹脂組成物(X)をフィルム状に成形し、二軸延伸する製造方法である。
【0066】
樹脂組成物(X)を得る方法は特に限定されないが、例えば第2態様の樹脂組成物(X)においては、なるべく簡便に第2態様の樹脂組成物(X)を得るために、押出機を用いて溶融混錬することによって製造するのが好ましい。第2態様の樹脂組成物(X)を構成する原料を均一に混合するために、同方向二軸押出機を用いて溶融混練するのが好ましい。
混練温度は、用いる全ての重合体のガラス転移温度以上であり、かつ結晶性樹脂に対しては、その重合体の結晶融解温度以上であることが好ましい。使用する重合体のガラス転移温度や結晶融解温度に対して、なるべく混練温度が高い方が、重合体の一部のエステル交換反応が生じやすく、相溶性が向上しやすいものの、必要以上に混練温度が高くなると樹脂の分解が起こるため好ましくない。このことから、混練温度は250℃以上330℃以下が好ましく、255℃以上325℃以下がより好ましく、260℃以上320℃以下がさらに好ましく、265℃以上315℃以下が特に好ましい。混練温度がかかる範囲であれば、重合体の分解を生じることなく、相溶性や溶融成形性を向上させることができる。
【0067】
得られた樹脂組成物(X)を、一般の成形法、例えば、押出成形、射出成形、ブロー成形、真空成形、圧空成形、プレス成形等によって成形して二軸延伸フィルムを作製することができる。それぞれの成形方法において、装置及び加工条件は特に限定されない。
本フィルムは、例えば、以下の方法により製造することが好ましい。
【0068】
得られた樹脂組成物(X)より、実質的に無定型で配向していないフィルム(以下、「未延伸フィルム」とも称する。)を押出法で製造する。この未延伸フィルムの製造は、例えば、本フィルムの原料(樹脂組成物(X)等)を押出機により溶融し、フラットダイ又は環状ダイから押出した後、急冷することによりフラット状又は環状の未延伸フィルムとする押出法を採用することができる。この際、場合によって、複数の押出機を使用した積層構成としてもよい。
【0069】
次に、上記の未延伸フィルムを、フィルムの長手方向(MD)及びこれと直角な幅方向(TD)で、延伸効果、フィルム強度等の点から、少なくとも一方向に通常1.1~6.0倍、好ましくは縦横二軸方向に各々1.1~6.0倍の範囲で延伸する。
ここで、本フィルムのリタデーションを低く制御する観点から、二軸延伸する場合には、長手方向(MD)及び幅方向(TD)それぞれの延伸倍率が等倍になるように延伸することが好ましい。
【0070】
二軸延伸の方法としては、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸等、従来公知の延伸方法がいずれも採用できる。例えば、テンター式逐次二軸延伸方法の場合には、未延伸フィルムを、前記樹脂組成物(X)のガラス転移温度をTgとして、Tg~Tg+50℃の温度範囲に加熱し、ロール式縦延伸機によって縦方向に1.1~6.0倍に延伸し、続いてテンター式横延伸機によってTg~Tg+50℃の温度範囲内で横方向に1.1~6.0倍に延伸することにより製造することができる。また、テンター式同時二軸延伸やチューブラー式同時二軸延伸方法の場合は、例えば、Tg~Tg+50℃の温度範囲において、縦横同時に各軸方向に1.1~6.0倍に延伸することにより製造することができる。
【0071】
上記方法により延伸された二軸延伸フィルムは、引き続き熱固定されることが好ましい。熱固定をすることにより常温における寸法安定性を付与することができる。この場合の処理温度は、好ましくは前記樹脂組成物(X)の結晶融解温度Tm-1~Tm-150℃の範囲を選択する。熱固定温度が上記範囲内にあれば、熱固定が十分に行われ、延伸時の応力が緩和され、十分な耐熱性や機械特性が得られ、破断やフィルム表面の白化などのトラブルがない優れたフィルムが得られる。
【0072】
本発明においては、熱固定による結晶化収縮の応力を緩和させる為に、熱固定中に幅方向に0~15%、好ましくは1~10%の範囲で弛緩を行うことが好ましい。弛緩が十分に行われ、フィルムの幅方向に均一に弛緩することにより、幅方向の収縮率が均一になり、常温寸法安定性に優れたフィルムが得られる。また、フィルムの収縮に追従した弛緩が行われる為、フィルムのタルミ、テンター内でのバタツキがなく、フィルムの破断もない。
【0073】
<<ポリエステル系フィルムの物性>>
本フィルムの長手方向(MD)及び幅方向(TD)それぞれの折り曲げヒステリシスロスの平均値は、0.20以下である。
ここで、折り曲げヒステリシスロスとは、屈曲変形に対するエネルギーロスを評価できるものであり、より具体的には、
図1や実施例に記載の方法で評価できる。前記エネルギーロスは、材料に変形を与え元に戻す過程で、材料内で熱として散逸されるエネルギーに相当するため、材料の不可逆的な変形(例えば高分子鎖のコンフォメーションが変形して元に戻らないなど)の程度を表しており、耐屈曲性の指標として評価できる。
【0074】
従来は、耐屈曲性の指標として、JIS K 7312:1996に準じて求められるヒステリシスロス(以下、「引張ヒステリシスロス」とも称する。)が使用されてきた。より具体的には、上記引張ヒステリシスロスは、
図2に示すような応力-ひずみ曲線のプロファイルから、上昇動作で得られた曲線の面積A1(abcda)と、面積A1と下降動作で得られた曲線の面積の差となる面積A2(abcef)を用いて、以下の式(1)にて算出される。
ヒステリシスロス=A2/A1・・・式(1)
【0075】
しかしながら、引張ヒステリシスロスは、引張変形に対するエネルギーロスのみを評価するものである。
一方で、フィルムを折り曲げると、折り曲げの外側(凸側)は引張ひずみ、内側(凹側)は圧縮ひずみとなる。高分子材料の構造変化は、引張と圧縮に対して対称的であるとは限らないため、屈曲変形を与えて、屈曲変形に対するエネルギーロス(折り曲げヒステリシスロス)を評価することで、耐屈曲性をより適切に評価できると考えている。なお、実施例に記載の方法で屈曲変形を与える際の表面ひずみを揃えることで、折り曲げ試験でありながら、フィルム厚みによらず、その耐屈曲性を評価することが可能である。
【0076】
すなわち、上記折り曲げヒステリシスロスが小さければ小さいほど、屈曲変形を与え元に戻す過程において、材料の不可逆的な変形が小さく、元の状態に戻ろうとする復元力が大きい、すなわち耐屈曲性が良好であると評価することができる。前記折り曲げヒステリシスロスは平均値で評価し、ここでいう平均値とは、長手方向(MD)の折り曲げヒステリシスロスと幅方向(TD)の折り曲げヒステリシスロスの平均値を意味する。
よって、長手方向(MD)及び幅方向(TD)それぞれの折り曲げヒステリシスロスの平均値が、0.20を超える場合には、室温における耐屈曲性が不十分な場合がある。優れた耐屈曲性を得る観点から、当該折り曲げヒステリシスロスの平均値は、0.20以下であり、好ましくは0.18以下、より好ましくは0.16以下、さらに好ましくは0.15以下、特に好ましくは0.14以下である。かかる範囲であれば、フィルムの復元力が大きくなって、本フィルムが室温条件下において優れた耐屈曲性を有するといえる。
なお、折り曲げヒステリシスロスの平均値は、小さければ小さいほど良く、0.00以上である。
【0077】
本フィルムは、結晶性を示すことが好ましい。本フィルムが結晶性を示すことで、耐熱性、特にガラス転移温度を超えるような高温領域での耐熱性にも優れたものとなり、ディスプレイ用として好適に使用できる。
より具体的には、本フィルムの融解エンタルピーは、5~50J/gであることが好ましく、より好ましくは10~45J/g、さらに好ましくは15~40J/gである。当該融解エンタルピーが、5J/g以上であれば、本フィルムが高温下でも耐熱性に優れたものとなる。一方、当該融解エンタルピーが、50J/g以下であれば、本フィルムの溶融成形性が良好となる。
【0078】
本フィルムの面内リタデーションは、500nm以下であることが好ましく、より好ましくは400nm以下、さらに好ましくは300nm以下、特に好ましくは200nm以下である。当該面内リタデーションが500nm以下であれば、本フィルムが低リタデーション特性を有しているといえ、光干渉に伴う干渉色や虹ムラの発生を抑制することができ、ディスプレイ用として好適に使用できる。また、当該面内リタデーションは低ければ低いほど、フィルムの異方性が低くなるため、フィルムの長手方向(MD)と幅方向(TD)の物性バランスを保つことができ、折り曲げ方向による折り曲げ特性の違いが生じにくくなる。よって、当該面内リタデーションの下限値は、0nm以上であればよいが、10nm以上であってもよく、20nm以上であってもよい。
また、同様の観点から、本フィルムの複屈折は、0.01000以下であることが好ましく、より好ましくは0.00800以下、さらに好ましくは0.00700以下、特に好ましくは0.00600以下、とりわけ好ましくは0.00400以下、最も好ましくは0.00300以下であり、0.00100以上であればよい。
【0079】
本フィルムの150℃、30分間加熱したときの熱収縮率は、長手方向(MD)と幅方向(TD)のいずれも-10~10%であることが好ましく、より好ましくは-5~5%、さらに好ましくは-3~3%、特に好ましくは-2~2%である。当該熱収縮率が-10~10%であることによって、本フィルムは耐熱性、特にガラス転移温度を超えるような高温下での寸法安定性に優れ、ディスプレイ用として実用上好ましく使用することができる。なお、正の数値は収縮を意味し、負の数値は伸びを意味する。
【0080】
本フィルムの上記物性は、それぞれ、使用する樹脂の種類や含有量、延伸倍率、延伸温度及び熱固定温度などの製膜条件によって調整することができる。
【0081】
本フィルムの厚みは、1~250μmであることが好ましく、より好ましくは5~200μm、さらに好ましくは10~150μm、特に好ましくは20~75μmである。1μm以上とすることで、フィルム強度が実用範囲内に保たれる。250μm以下とすることで、ディスプレイ用に好適に用いることができる。
なお、本フィルムの厚みは、延伸条件などによって調整することができる。
【0082】
<<機能層>>
本フィルムの少なくとも片面には、機能層を設けることもできる。本フィルムの少なくとも片面に機能層を有することで、様々な機能が付与される。
【0083】
前記機能層は、ハードコート層、帯電防止層、離型層、易接着層、赤外線遮蔽層、紫外線遮蔽層、印刷層、粘着層、ブリーディング防止層等が挙げられる。なお、前記機能層は1層を単独で設けてもよく、2層以上を積層させてもよい。
前記機能層の形成方法は、特に制限されず、延伸工程中にフィルム表面を処理するインラインコーティングにより設けられてもよく、一旦製造したフィルム上に系外で塗布する、オフラインコーティングを採用してもよく、両者を併用してもよい。
【0084】
<<用途>>
本フィルムは、低リタデーション特性を有し、かつ、室温における耐屈曲性にも優れることから、ディスプレイ用、特にフレキシブルディスプレイ用として好適に用いることができる。
フレキシブルディスプレイとしては、折り畳めるフォルダブルディスプレイ、折り返し曲げが可能なベンダブルディスプレイ、巻き取ることができるローラブルディスプレイ、伸縮されるストレッチャブルディスプレイ等が挙げられる。本フィルムは、中でもフォルダブルディスプレイ用として好ましく用いられる。
なお、上記フォルダブルディスプレイは3つ折りであってもよく、4つ折りであってもよい。
なお、本発明のポリエステル系フィルムを搭載したフレキシブルディスプレイも本発明の範囲内である。
【0085】
また、ディスプレイは、携帯電話、スマートフォン、デジタルカメラ、パソコン等において使用するとよい。
ディスプレイの種類は、特に制限されないが、LCD、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ、LED、FED等が挙げられ、折り曲げ可能なLCD、有機EL、無機ELが好ましい。中でも、層構成を少なくすることができる有機EL、無機ELがより好ましく、色域の広い有機ELがさらに好ましい。
【0086】
本発明において、ディスプレイ用とは、ディスプレイの構成部材であれば、どの部分に用いられてもよく、例えば表示装置の表面側を保護するフィルム(表面保護フィルム)、タッチセンサー用基材フィルム、表示装置の裏面側を保護するフィルム(裏面保護フィルム)等が挙げられる。
【0087】
<<語句の説明>>
本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
本発明において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」あるいは「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【実施例0088】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0089】
<評価方法>
(1)樹脂組成物(X)の延伸固有複屈折
それぞれの樹脂組成物(X)のフィルムに1cm間隔で格子目を書いたフィルムを入口幅200mm、ライン速度3m/minに設定した横延伸機(テンター)に通し、予熱:延伸温度-5℃にて32秒、延伸:樹脂組成物(X)のTg+10℃にて32秒かけて、幅方向(TD)に1.1~5倍の範囲にて所定の倍率まで延伸を行い、熱固定:延伸温度と同一温度で32秒熱処理を行い、一軸延伸フィルムを得た。
得られた一軸延伸フィルムについて、幅方向(TD)の格子目の長さを測定し、延伸前の格子幅で除算することで実延伸倍率を算出した。また、後述する方法にて複屈折を測定し、実延伸倍率と複屈折からXYグラフ(X:実延伸倍率、Y:複屈折)を作成し、その傾きを延伸固有複屈折とした。
【0090】
(2)本フィルムの室温(23℃)条件下での耐屈曲性(折り曲げヒステリシスロス)
測定装置は、最大5N、最小0.01Nの範囲で±1%の精度で測定可能なロードセル(Interface Inc.,SMT OVERLOAD PROTECTED S-TYPE LOAD CELL)を備えた小型卓上試験機(株式会社島津製作所製、EZ-SX)を用いた。試験片は、得られたフィルム(厚み(T)mm)から測定方向の長さ(L:40×T+38)mm、幅(W:20)mmの長方形に切り出したものを用いた。なお、本フィルムの長手方向(MD)が、上記測定方向に一致するようにした。
図1に示すような治具の折り曲げ幅(d)を(40×T+36)mmに調整した後、フィルムの長さ方向を湾曲させて挟み、クロスヘッドスピード40mm/分にて折り曲げ幅(d)を(40×T)mmまで狭めた後(折り曲げ過程)、60秒間その位置で保持し(保持過程)、その後初期位置までクロスヘッドスピード40mm/分にて治具を移動させる(復元過程)折り曲げサイクル試験を行った。
本試験では、一連の試験過程における折り曲げ幅(d)に対する荷重(P)を測定する。X軸に折り曲げ幅(d)、y軸に荷重(P)とした曲線は、
図3に示すようなプロファイルをとる。折り曲げヒステリシスロスLは折り曲げ過程においてフィルムに印加したエネルギーE1と、復元過程においてフィルムから復元されたエネルギーE2から、式(2)により求めた。すべての試験は室温(23℃)で3回行い、平均値を求めた。なお、エネルギーE1、E2は、y=P、x=dとしたときの∫ydxである。
【0091】
【0092】
(3)本フィルムの面内リタデーション(Re)
得られたフィルムについて、位相差測定装置(王子計測機器株式会社製 KOBURA-WR ソフトウェア:KOBRA-RE)を用いて測定波長586.4nmにて室温で面内リタデーション(Re)を測定した。
なお、面内リタデーション(Re)が4000nm以下のフィルムは上記の測定値を採用したが、上記の測定値で4000nmを超えたフィルム、あるいは延伸条件から明らかに4000nmを超える場合や、測定結果に異常が見られるなど、上記測定のエラーにより4000nm以下となったフィルムについては、以下の測定値を採用した。
得られたフィルムについて、セルギャップ検査装置(大塚電子株式会社製 RETS-1100A)を用いて波長589nmにて、アパーチャ径5mmとし23℃で面内リタデーション(Re)を測定した。
【0093】
(4)本フィルムの複屈折(Δn)
得られたフィルムについて、位相差測定装置(王子計測機器株式会社製 KOBURA-WR ソフトウェア:KOBRA-RE)を用いて測定波長586.4nmにて室温で複屈折(Δn)を測定した。
なお、面内リタデーション(Re)が4000nm以下のフィルムは上記の測定値を採用したが、上記の測定値で4000nmを超えたフィルム、あるいは延伸条件から明らかに4000nmを超える場合や、測定結果に異常が見られるなど、上記測定のエラーにより4000nm以下となったフィルムについては、以下の測定値を採用した。
得られたフィルムについて、セルギャップ検査装置(大塚電子株式会社製 RETS-1100A)を用いて波長589nmにて、アパーチャ径5mmとし23℃で複屈折(Δn)を測定した。
【0094】
(5)本フィルムの融解エンタルピー(ΔHm)
得られたフィルムについて、DSC8000(パーキンエルマージャパン社製)を用いて、JIS K7121(2012年)に準じて、加熱速度10℃/分の昇温過程における融解エンタルピー(ΔHm)を測定した。
なお、昇温過程において、融解ピークよりも低温側で結晶化による発熱ピークが見られた場合は、結晶化エンタルピー(ΔHc)を算出し、その値を融解エンタルピーから差し引くことで、得られたフィルムの融解エンタルピー(ΔHm)とした。
【0095】
(6)本フィルムの熱収縮率
得られたフィルムを測定方向の長さ120mm、幅10mmの長方形に切り出し、端部から長さ100mmのところに印をつけたものを用いた。これら試験片の端部をクリップで挟んで吊り下げ、150℃で30分間加熱した。冷却後、試験片端部から印までの長さを測定して熱収縮率を求めた。
なお、測定は長手方向(MD)及び幅方向(TD)の両方行った。
【0096】
(7)本フィルムの厚み
得られたフィルムの厚みについては、1/1000mmのダイヤルゲージにて、面内を不特定に5箇所測定し、その平均を厚みとした。
折り曲げヒステリシスロス測定で用いた厚みについては、1/10000mmの厚み計(アンリツ製、K-402B)にて、面内を不特定に5箇所測定し、その平均を厚みとした。
【0097】
<使用した材料>
[樹脂種:ポリエステル系樹脂(a)]
ポリエステル系樹脂(a)として、ポリエステル成分(a-A)とポリカーボネート成分(a-B)から構成され、ポリエステル成分(a-A)の組成が、ジカルボン酸成分:テレフタル酸=85モル%、イソフタル酸=15モル%、ジオール成分:ビスフェノール-A=21モル%、1,4-シクロヘキサンジメタノール=79モル%で構成され、ポリカーボネート成分(a-B)がビスフェノール-A型のポリカーボネート=100%で構成され、ポリエステル成分(a-A)とポリカーボネート成分(a-B)の質量%がそれぞれ80質量%、20質量%のポリエステル系樹脂を用いた。
当該ポリエステル系樹脂(a)のガラス転移温度は114℃、融解エンタルピーは23J/g、融点は272℃であった。
【0098】
[樹脂種:ポリエステル系樹脂(b)]
ポリエステル系樹脂(b)として、ポリエチレンテレフタレート60質量部、ポリアリレート20質量部、相溶化剤20質量部を配合した樹脂を用いた。
当該ポリエステル系樹脂(b)のガラス転移温度は88℃、融解エンタルピーは29J/g、融点は245℃であった。
また、配合したポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート、相溶化剤の詳細は以下のとおりである。
<ポリエチレンテレフタレート>
ジカルボン酸成分:テレフタル酸=100モル%、ジオール成分:エチレングリコール=100モル%
<ポリアリレート>
ジカルボン酸成分:テレフタル酸=50.4モル%、イソフタル酸=49.6モル%、ジオール成分:ビスフェノールA=100モル%
<相溶化剤>
(ポリエチレンテレフタレート成分:60.8質量部)
ジカルボン酸成分:テレフタル酸=100モル%、ジオール成分:エチレングリコール=96.3モル%、ジエチレングリコール=3.7モル%
(ポリアリレート成分:39.2質量部)
ジカルボン酸成分:テレフタル酸=50.1モル%、イソフタル酸=49.9モル%、ジオール成分:ビスフェノールA=100モル%
(エステル交換触媒:酢酸ナトリウム=0.033質量部)
【0099】
[樹脂種:ポリエチレンテレフタレート(c)]
ジカルボン酸成分:テレフタル酸=100モル%、ジオール成分:エチレングリコール=100モル%
【0100】
[樹脂種:ポリエチレンナフタレート(d)]
ジカルボン酸成分:2,6-ナフタレンジカルボン酸=100モル%、ジオール成分:エチレングリコール=100モル%
【0101】
[樹脂種:ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(e)]
ジカルボン酸成分:テレフタル酸=91.8モル%、イソフタル酸=8.2モル%、ジオール成分:1,4-シクロヘキサンジメタノール=100モル%
【0102】
上記樹脂種(a)~(e)の延伸固有複屈折を表1に示す。
【0103】
(実施例1)
ポリエステル系樹脂(a)を、260℃に設定したΦ25mm二軸押出機にて溶融混練し、ギャップ1.0mmのTダイ内からフィルムとして押出し、115℃のキャストロールで引き取り、冷却固化し、厚み約450μmの膜状物(キャストフィルム)を得た。
続いて、得られたキャストフィルムをロール縦延伸機に通し、予熱120℃、延伸温度127℃で長手方向(MD)に2.5倍延伸を行った。続いて、得られた縦延伸フィルムを横延伸機(テンター)に通し、予熱温度120℃、延伸温度127℃、熱固定温度155℃で幅方向(TD)に2.6倍延伸を行い、その後テンター内にて熱固定しながら、幅方向(TD)にフィルムの弛緩処理を3%行い、二軸延伸フィルムを得た。
得られたフィルムについて測定を行った結果を表2に示す。
【0104】
(実施例2、3)
延伸条件や熱固定温度などの製膜条件を表2のように変更した以外は、実施例1と同様の方法で二軸延伸フィルムを得た。
得られたフィルムについて測定を行った結果を表2に示す。
【0105】
(実施例4)
押出機をΦ40mm二軸押出機とし、押出機の設定温度を270℃、延伸条件や熱固定温度などの製膜条件を表2のように変更した以外は、実施例1と同様の方法で二軸延伸フィルムを得た。
得られたフィルムについて測定を行った結果を表2に示す。
【0106】
(実施例5)
ポリエステル系樹脂(b)を、280℃に設定したΦ40mm二軸押出機にて溶融混練し、ギャップ1.0mmのTダイ内からフィルムとして押出し、92℃のキャストロールで引き取り、冷却固化し、厚み約450μmの膜状物(キャストフィルム)を得た。
続いて、得られたキャストフィルムをロール縦延伸機に通し、予熱95℃、延伸温度110℃で長手方向(MD)に3.0倍延伸を行った。続いて、得られた縦延伸フィルムを横延伸機(テンター)に通し、予熱温度127℃、延伸温度130℃、熱固定温度130℃で幅方向(TD)に3.0倍延伸を行い、その後テンター内にて熱固定しながら、幅方向(TD)にフィルムの弛緩処理を3.0%行い、二軸延伸フィルムを得た。
得られたフィルムについて測定を行った結果を表2に示す。
【0107】
(実施例6、7)
延伸条件や熱固定温度などの製膜条件を表2のように変更した以外は、実施例5と同様の方法で二軸延伸フィルムを得た。
得られたフィルムについて測定を行った結果を表2に示す。
【0108】
(実施例8)
縦延伸時の予熱温度を100℃と、延伸条件や熱固定温度などの製膜条件を表2のように変更した以外は、実施例5と同様の方法で二軸延伸フィルムを得た。
得られたフィルムについて測定を行った結果を表2に示す。
【0109】
(比較例1)
ポリエステル樹脂(c)を用いた市販のPETフィルム(三菱ケミカル社製「ダイアホイルT100」、厚み50μm)を比較例1の二軸延伸フィルムとした。
得られたフィルムについて測定を行った結果を表2に示す。
【0110】
(比較例2)
ポリエステル樹脂(d)を用い、表2に記載の延伸条件及び熱固定温度にて、実施例1と同種の方法、すなわち二軸押出機を用いたTダイ法による押出成形、逐次二軸延伸及び熱固定を行い、二軸延伸フィルムを得た。
得られたフィルムについて測定を行った結果を表2に示す。
【0111】
(比較例3)
ポリエステル樹脂(e)を用い、表2に記載の延伸条件及び熱固定温度にて、実施例1と同種の方法、すなわち二軸押出機を用いたTダイ法による押出成形、逐次二軸延伸及び熱固定を行い、二軸延伸フィルムを得た。
得られたフィルムについて測定を行った結果を表2に示す。
【0112】
【0113】
【0114】
本発明のポリエステル系フィルムは、上記実施例1~8から明らかなように、延伸固有複屈折が0.0350以下である樹脂組成物(X)を主成分として含むことで、リタデーションを低く制御することが可能である。
また、本発明のポリエステル系フィルムは、折り曲げヒステリシスロスの平均値が0.20以下と小さいことから、室温条件下での耐屈曲性に優れたものとなる。
さらに、フィルムの融解エンタルピーを5~50J/gとすることで、ガラス転移温度を超えるような高温領域においても良好な耐熱性を有することができる。
本発明のポリエステル系フィルムは、低リタデーション特性を有し、かつ、室温における耐屈曲性にも優れることから、ディスプレイ用、特にフレキシブルディスプレイ用として好適に用いることができる。
したがって、本開示の実施形態は、折り畳んだり、折り返し曲げたり、丸めたり、伸縮したりできるフレキシブルディスプレイパネルの長所を利用したフォルダブルディスプレイ、ベンダブルディスプレイ、ローラブルディスプレイ、ストレッチャブル等のフレキシブルディスプレイ構成部材として有用である。