(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121343
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】含ニッケル硫化物の浸出方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20240830BHJP
C22B 3/06 20060101ALI20240830BHJP
C22B 3/08 20060101ALI20240830BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
C22B23/00 101
C22B3/06
C22B3/08
C22B3/44 101B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028392
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】岸田 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】大島 一真
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛
(72)【発明者】
【氏名】高井良 優作
(72)【発明者】
【氏名】大原 秀樹
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA19
4K001BA02
4K001BA06
4K001DB02
4K001DB03
4K001DB04
4K001DB14
4K001DB24
(57)【要約】
【課題】ニッケル及び/又はコバルトを含有する硫化物の浸出方法において、硫化物からのニッケル及び/又はコバルトの浸出速度を向上させ、より安定的に浸出することができる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、ニッケル及び/又はコバルトを含有する硫化物の浸出方法であって、硫化物に、金属体が共存する状態で、酸溶液を加えることによりニッケル及び/又はコバルトを浸出する工程を含み、その工程では、硫化物に対する金属体のモル比(金属体/硫化物)が0.05以上5.0以下となる量の金属体を共存させて浸出する。金属体としては、銅及び/又は鉄を含むものであることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル及び/又はコバルトを含有する硫化物の浸出方法であって、
前記硫化物に、金属体が共存する状態で、酸溶液を加えることによりニッケル及び/又はコバルトを浸出する工程を含み、
前記工程では、前記硫化物に対する前記金属体のモル比(金属体/硫化物)が0.05以上5.0以下となる量の該金属体を共存させて浸出する、
含ニッケル硫化物の浸出方法。
【請求項2】
前記硫化物は、ニッケル及び/又はコバルトと硫黄との元素比が等倍もしくは硫黄の方が多い形態の硫化物を含む、
請求項1に記載の含ニッケル硫化物の浸出方法。
【請求項3】
前記金属体は、銅及び/又は鉄を含む、
請求項1に記載の含ニッケル硫化物の浸出方法。
【請求項4】
前記硫化物は、ニッケル酸化鉱石を硫酸により浸出して得られる水溶液に硫化剤を添加して生成された硫化物である、
請求項1に記載の含ニッケル硫化物の浸出方法。
【請求項5】
前記硫化物からニッケル及び/又はコバルトを浸出した後に得られる硫化物と、未反応の金属体とからなる浸出残渣を、繰り返して浸出に供する、
請求項1に記載の含ニッケル硫化物の浸出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物の浸出方法に関するものであり、より詳しくは、ニッケルやコバルトを含有する硫化物(含ニッケル硫化物)を効率的に浸出させる浸出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルの製錬方法としては、例えば特許文献1に記載されているように、ニッケル硫化物であるニッケルマット等の原料に塩素ガスを吹き込んで塩素浸出し、浸出されたニッケルを電解採取することにより、電気ニッケルを製造する方法が実用化されている。この方法は工程がシンプルであるうえ、浸出時に銅イオンを介在させることで、塩素ガスによる浸出反応性を向上させることができ、さらに電解採取により発生した塩素ガスを浸出に再利用することができるため、経済的に優位な方法である。なお、特許文献1に記載されているニッケルマットとは、例えばニッケル硫化鉱石を炉で熔解して不純物と分離する工程や、硫黄と共に熔解する工程等からなる乾式溶錬法で製造される。
【0003】
一方、近年では資源の有効活用として埋蔵量が豊富なラテライト鉱等の低品位ニッケル酸化鉱石の処理技術が開発されている。代表的な製錬法としては、例えば特許文献2に記載されている高圧硫酸浸出法がある。この方法は、ニッケル酸化鉱石を高温高圧雰囲気下で硫酸により浸出し、得られた浸出液から鉄をはじめとする不純物を除去した後、硫化水素ガス等の硫化剤を浸出液中に吹き込んでニッケル硫化物を生成するものである。このようにして得られるニッケル硫化物は、ニッケルとコバルトとを含む混合硫化物(MS:Mixed Sulfide)であり、特許文献1に記載されている方法を利用して精製処理が可能である。
【0004】
しかしながら、MS(ニッケル硫化物)は、ニッケルマットに比べて塩素浸出する際の浸出速度が遅いため、設備が相応して大型化しコストが増加するという問題がある。
【0005】
浸出速度の違いは、それぞれの製造方法に由来するニッケル硫化物の組成によると考えられている。具体的には、特許文献3に示すように、ニッケルマットではNiメタル(Ni0)やNi3S2等の、ニッケルに対する硫黄の存在比がNiの方が多い、すなわちニッケル過多(Niリッチ)なものが主成分として構成されている。それに対して、MSではNiSやNi3S4等の、硫黄がニッケルと等倍もしくは硫黄の方が過多な形態(Sリッチ)となるものが主成分として構成されている。このようなSリッチなニッケル硫化物は、酸に溶解しにくいという問題がある。
【0006】
MS等のニッケル硫化物の溶解性を向上させることにより、増処理や設備の小型化が可能となる等の経済優位性が見込まれることから、様々な取り組みが行われてきた。
【0007】
ここで、特許文献4では、浸出反応速度を向上させることができる硫化物の浸出方法が開示されている。具体的には、Sリッチな金属硫化物を含む硫黄化合物に、標準酸化還元電位が0V以下の銅や鉄等の金属体が共存する状態で、2価の銅イオン(Cu2+)を含む酸を加えて酸化することによりその硫化物を浸出する方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、MS等のニッケル及び/又はコバルトを含有する硫化物においては、硫化物の表面に難溶性物質である単体硫黄(S0)やNiS2等の硫黄化合物が生成して硫化物表面を覆っており、これにより、その硫化物の浸出においては浸出反応が阻害されて浸出速度が遅滞することが、本発明者らの研究により分かった。そのため、MS等のニッケル及び/又はコバルトを含有する硫化物を迅速かつ安定して浸出することは容易ではなく、より一層に効率的にかつ効果的に浸出する方法には改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平07-091599号公報
【特許文献2】特開平6-116660号公報
【特許文献3】特開2003-277067号公報
【特許文献4】特開2021-080553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、ニッケル及び/又はコバルトを含有する硫化物の浸出方法において、硫化物からのニッケル及び/又はコバルトの浸出速度を向上させ、より安定的に浸出することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、ニッケル及び/又はコバルトを含有する硫化物に、所定の金属体を特定のモル比(金属体/硫化物)となるように添加して共存させた状態で、酸溶液を加えて浸出処理を施すことで、その硫化物の浸出速度が向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
(1)本発明の第1の発明は、ニッケル及び/又はコバルトを含有する硫化物の浸出方法であって、前記硫化物に、金属体が共存する状態で、酸溶液を加えることによりニッケル及び/又はコバルトを浸出する工程を含み、前記工程では、前記硫化物に対する前記金属体のモル比(金属体/硫化物)が0.05以上5.0以下となる量の該金属体を共存させて浸出する、含ニッケル硫化物の浸出方法である。
【0013】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記硫化物は、ニッケル及び/又はコバルトと硫黄との元素比が等倍もしくは硫黄の方が多い形態の硫化物を含む、含ニッケル硫化物の浸出方法である。
【0014】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記金属体は、銅及び/又は鉄を含む、含ニッケル硫化物の浸出方法である。
【0015】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記硫化物は、ニッケル酸化鉱石を硫酸により浸出して得られる水溶液に硫化剤を添加して生成された硫化物である、含ニッケル硫化物の浸出方法である。
【0016】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記硫化物からニッケル及び/又はコバルトを浸出した後に得られる硫化物と、未反応の金属体とからなる浸出残渣を、繰り返して浸出に供する、含ニッケル硫化物の浸出方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ニッケル及び/又はコバルトを含有する硫化物からのニッケル及び/又はコバルトの浸出速度を向上させることができ、より安定的に浸出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例1、比較例1における浸出時間に対する銅/硫化物のモル比とニッケル浸出率の測定結果を示す図である。
【
図2】実施例1における塩化銅(II)を添加する直前での銅(金属体)/硫化物のモル比とニッケル浸出率の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0020】
本実施の形態に係る浸出方法は、硫化物の浸出方法(以下、単に「浸出方法」という)である。より詳しくは、ニッケル硫化物等のニッケル及び/又はコバルトを含有する硫化物を含む硫黄化合物(以下、この硫黄化合物を「硫化物」又は「含ニッケル硫化物」ともいう)から酸溶液によってニッケル及び/又はコバルトを浸出させる方法である。
【0021】
具体的に、この浸出方法は、ニッケル及び/又はコバルトを含有する硫化物(含ニッケル硫化物)に、金属体が共存する状態で、酸溶液を加えることによりニッケル及び/又はコバルトを浸出する工程を含む。そして、その浸出工程では、硫化物に対する金属体のモル比(金属体/硫化物)が0.05以上5.0以下となる量の金属体を共存させて浸出する、ことを特徴とする。
【0022】
本実施の形態に係る浸出方法では、従来から行われてきたように、金属銅等の酸化力を利用するのではなく、還元力を利用して難溶性物を酸浸出可能な形態に還元することでニッケル及び/又はコバルトを溶出させるものであり、浸出速度を向上させて迅速な浸出を可能にすることができる。
【0023】
[浸出対象の硫化物]
浸出対象となる硫化物は、上述したように、ニッケル及び/又はコバルトを含有する硫化物を含む硫黄化合物である。その中でも特に、硫黄リッチな硫化物を好適に用いることができる。具体的には例えば、ニッケル酸化鉱石を高温高圧下で硫酸により浸出して得られる水溶液(浸出液)に、硫化剤を添加して硫化反応を生じさせて生成される、ニッケル及び/又はコバルトを含む混合硫化物(MS)を用いることができる。なお、硫化物を得る際に用いる硫化剤としては、特に限定されず、硫化水素ガスや硫化水素ナトリウム、硫化水素カリウム等の工業的に広く用いられている薬剤を使用することができる。
【0024】
例えば、原料のニッケル酸化鉱石を硫酸で浸出して得られる浸出液に対して硫化処理を施して生成される、ニッケル及び/又はコバルトを含有する硫化物(「MS」とも呼ばれる)は、NiSやNi3S4等の硫黄リッチ(Sリッチ)なニッケル硫化物を含む硫黄化合物である。このような硫黄リッチなニッケル硫化物を主成分として含む硫黄化合物は、塩酸等の酸による浸出速度が遅い。したがって、特に、このような硫黄リッチなニッケル硫化物を含む硫黄化合物を対象とすることで、本実施の形態に係る浸出方法の効果をより有効に発揮させることができる。「硫黄リッチなニッケル硫化物」とは、ニッケル及び/又はコバルトと硫黄との元素比が等倍もしくは硫黄の方が多い形態の硫化物をいう。また、「主成分」とは、含有割合が50質量%以上であることをいう。
【0025】
なお、浸出対象である硫化物は、硫黄リッチなニッケル硫化物に限られない。
【0026】
本明細書において、ニッケルとコバルトは、化学的にほぼ同一挙動を取ることから、以下単に「ニッケル」とのみ称する。例えば、上述したニッケル酸化鉱石の製錬プロセスにより得られるニッケル及び/又はコバルトを含む硫化物についても、単に「ニッケル硫化物」と称する。
【0027】
[金属体]
上述したように、本実施の形態に係る浸出方法では、ニッケル及び/又はコバルトを含有する硫化物を、銅等の金属体が共存する状態下で、酸溶液により浸出する。これによって硫化物の浸出速度を向上させることができる。
【0028】
本発明者による研究の結果、MS等の硫化物においては、硫化物の表面に難溶性物質である単体硫黄(S0)やNiS2等の硫黄化合物が生成して硫化物表面を覆っており、これにより、その硫化物の浸出においては浸出反応が阻害されて浸出速度が遅滞することが分かった。ここで、浸出対象の硫化物において、下記式2に示すような反応によりその表面にNiS2が生成すると考えられる。
NiS+S0 → NiS2 ・・・[式2]
【0029】
このとき、難溶性硫化物で覆われた硫化物を浸出するに際して、銅や鉄等の金属体を添加して共存させた状態で酸浸出に付すことで、共存する金属体が、硫化物の表面に存在して浸出反応を阻害している難溶性硫化物を還元して表面から脱離させ、硫化物が酸と接触しやすい状態を回復させて、これにより、浸出反応が迅速に進行するようになることを見出した。
【0030】
これをより具体的に説明すると、例えば銅のメタル(Cu0)を共存させることで、下記式3に示すように、硫化物の表面に存在する難溶性硫化物のNiS2を還元してNiSが再生されるようになる。また同時に、硫黄を硫化銅として固定する。これらのことにより、硫化物の表面を覆うNiS2の生成を抑制することができる。
2Cu0+NiS2 → Cu2S+NiS ・・・[式3]
【0031】
なお、銅メタルと酸を添加することによって、同時に下記式4に示す反応も生じるため、再生したNiSの浸出も促進される。
2CuO+NiS+2H+ → 2Cu2S+Ni2++H2 ・・・[式4]
【0032】
このように、本実施の形態に係る浸出方法では、金属体を共存させて浸出することで、迅速な浸出を実現することができる。
【0033】
金属体としては、特に限定されないが、硫黄に対して還元性を有するものであり、ニッケルよりもイオン化傾向が大きいものを好適に用いることができる。具体的には、例えば、銅、鉄等が挙げられる。また、単一の金属からなる純金属であることに限られず、2種以上の金属の混合物や合金であってもよい。その中でも特に、入手のし易さや取り扱いの容易さ、さらにコストの観点から、銅及び/又は鉄であることが好ましい。
【0034】
また、金属体としては、例えば、バルク金属や、板状(片状)の金属板、箔状の金属箔、粉状の金属粉等、金属から構成される種々の形状体を用いることができる。その中でも、特に粒径が数百μm程度の粉状のものを用いることが好ましい。なお、浸出速度の観点からは、金属体の粒子径は小さければ小さいほど好ましいが、極端に細かいとコストがかさみ、発熱のリスクや取り扱いが難しくなる等の問題が生じる可能性がある。
【0035】
ここで、金属体の添加量、言い換えると浸出対象の硫化物に対する共存量としては、硫化物に対する金属体のモル比(金属体/硫化物)が0.05以上となるようにする。または、当該モル比(金属体/硫化物)が、好ましくは0.1以上、より好ましくは1.0以上、特に好ましくは2.0以上、となるように金属体を共存させる。
【0036】
また、金属体の共存量の上限は、操業を行うことができる量であればよく、硫化物に対する金属体のモル比(金属体/硫化物)が5.0以下となる量とする。過剰な量の金属体を添加しても、余った金属体(例えば銅)は硫化物の浸出残渣ごと浸出に繰り返すことで、有効に反応に供せられるため問題とならない。
【0037】
このように、硫化物に対する金属体のモル比(金属体/硫化物)が0.05以上5.0以下となる量の金属体を共存させて浸出することで、浸出速度をより向上させることができる。また、硫化物からのニッケルの浸出が中途で停止することを防止できる。なお、硫化物に対する金属体のモル比(金属体/硫化物)において、代表的には硫化物がNiSであるときの換算量として特定することができる。
【0038】
金属体については、例えば、浸出対象の硫化物を純水等の水溶液中に装入した後、その水溶液中に添加することによって、硫化物と共存させるようにすることができる。また、金属体を添加するタイミングとしては、浸出処理に用いる酸溶液を添加する前、あるいは酸溶液を添加するのと同時に、添加することが好ましい。
【0039】
なお、金属体の存在下で硫化物に対して酸溶液による浸出反応を進行させると、上述したように金属体の還元作用によって硫化物の表面の難溶性物質が還元されていく一方で、その金属体は酸化されて溶液中に溶出していくことになる。したがって、継続的に効果を得るためには、金属体が消失しないよう、随時、追加的に金属体を添加していくことが望ましい。
【0040】
[酸浸出]
本実施の形態に係る浸出方法においては、銅粉等の金属体だけを添加しても、硫化物からのニッケルの浸出は進行しない。このため、上記式4に示したように、酸溶液の添加は欠かせない。使用する酸溶液としては、浸出対象とする硫化物を溶解することができるものであれば、特に限定されない。具体的には、工業的に広く用いられており、取り扱いや調達が容易である点から、硫酸溶液や塩酸溶液を用いることが好ましい。
【0041】
なお、ニッケル酸化鉱石を硫酸により浸出して得られる浸出液から硫化剤を添加して生成される硫化物であるニッケル及び/又はコバルトの硫化物(MS)に対する酸浸出においても、硫酸溶液や塩酸溶液を好適に用いることができる。
【0042】
酸溶液の添加のタイミングは、硫化物に対して金属体を添加した後、あるいは金属体の添加と同時に行うことが好ましい。
【0043】
[浸出残渣の繰り返し処理]
本実施の形態に係る浸出方法においては、浸出対象の硫化物からニッケル及び/又はコバルトを浸出した後に得られる硫化物、すなわちニッケルが浸出した後の残存した硫化物と、未反応の金属体とからなる浸出残渣を、繰り返して浸出に供することが好ましい。
【0044】
残存した硫化物には、浸出されなかったニッケル及び/又はコバルトが含まれていることがある。また、浸出残渣には、添加した金属体であって、反応に寄与しなかった銅等の金属体が含まれていることがある。したがって、このような浸出残渣を、次に浸出処理に供する硫化物試料に添加して繰り返し浸出に供するようにすることで、ニッケルの浸出量を高めることができるとともに、金属体を有効に活用することができ、効率的な処理を行うことが可能となる。
【実施例0045】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]
ニッケル、コバルト、及び不純物を含有する硫酸ニッケル溶液に硫化剤として硫化水素ガスを吹き込むことによって生成したニッケル及びコバルトを含む硫化物(以下、単に「ニッケル硫化物」という)を使用し、その硫化物に対して以下のように浸出処理を行った。なお、使用した硫化物は、その硫化物中における硫黄原子の含有割合が50原子%以上であるものであった。下記表1に、ニッケル硫化物における元素成分の質量割合を示す。
【0047】
【0048】
具体的には、容器に230mlの純水を装入し、70℃に昇温した後、ニッケル硫化物2gと、35%塩酸48gとを添加し、さらに平均粒径数百μmの銅粉(シグマアルッドリッチ社製,純度99.5%)を加えて共存させた状態で、温度を維持して撹拌した。
【0049】
60分経過後に、試薬塩化銅(II)13gを一括して添加し、さらに240分間浸出処理を継続した。なお、銅は、標準酸化還元電位が標準水素電極を参照電極とする値で+0.34V(25℃)である。
【0050】
また、添加した銅粉(金属体)は、ニッケル硫化物に含有されるニッケル(コバルトを含む)の量とのCu0/NiSのモル比が0.01、0.05、0.1、0.5、1.0となる量を最初に一括して添加した。
【0051】
浸出処理開始から所定の時間経過ごとに、溶液中のニッケル濃度を測定し、ニッケル浸出率を算出した。なお、ニッケル浸出率は、以下の式5により算出した。
ニッケル浸出率(%)=
(溶液中のニッケル濃度(g/L)×溶液量(L))÷(ニッケル硫化物中のニッケル濃度(%)÷100×ニッケル硫化物の添加量(g))×100
・・・[式5]
【0052】
また、溶液中の酸化還元電位(ORP)を銀・塩化銀電極を参照極に用いて測定した。
【0053】
図1に、浸出時間に対する銅(Cu
0)/硫化物(NiS)のモル比とニッケル浸出率の測定結果のグラフを示す。
図1に示すように、金属体である銅粉を添加して共存させた状態で酸浸出を行うことで、早期に浸出速度が向上し、ニッケル浸出率も銅粉の添加量が増加するのに伴い上昇した。また、金属体を、Cu
0/NiSモル比が0.05以上となるように添加し共存させることで、浸出速度が向上し、ニッケル浸出率が高くなることが分かった。
【0054】
また、
図2に、
図1に示した塩化銅(II)を添加する直前でのCu
0/NiSモル比とニッケル浸出率の関係を抜粋したグラフを示す。
図2に示すように、Cu
0/NiSモル比が0.01以上0.1未満の範囲では、ニッケル浸出率は次第に増加するが不十分であり、Cu
0/NiSモル比が0.1を超えるとほぼ一定のニッケル浸出率となった。
【0055】
この結果から、硫化物からニッケルを効率よく、かつ完全に浸出するためには、金属体をCu0/NiSモル比が1.0以上、すなわち当量以上となるように添加して共存させることが好ましいことが分かった。なお、金属体の共存量の上限は、コストや設備規模等の影響があるものの、概ねCu0/NiSモル比が5.0程度となるようにすることが好ましいといえる。
【0056】
[比較例1]
比較例1では、実施例1と同じニッケル硫化物を使用して以下の浸出処理を行った。具体的には、容器に230mlの純水を装入し、70℃に昇温した後、ニッケル硫化物2gと、35%塩酸48gとを添加し、温度を維持しながら撹拌した。60分経過後に塩化銅(II)13gを一括して添加し、さらに240分間浸出処理を行った。
【0057】
すなわち、比較例1では、実施例1とは異なり、銅粉(金属体)を添加しなかった。
【0058】
実施例1と同様に、浸出処理開始から所定の時間経過ごとに、溶液中のニッケル濃度を測定し、ニッケル浸出率を算出した。なお、ニッケル浸出率は上記式1により算出した。
【0059】
図1に、比較例1における浸出時間に対するニッケル浸出率の測定結果のグラフを示す。実施例1とは異なり、比較例1では金属体である銅粉を添加しなかったことで、浸出速度は殆ど変わらず、ニッケル浸出率も向上しなかった。
【0060】
また、塩化銅を添加したにもかかわらず、その後のニッケル浸出率の変化はほとんど無く、塩化銅の効果は見られなかった。