(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121350
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】エッチング液、基板の処理方法及びシリコンデバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/308 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
H01L21/308 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028399
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】人見 達矢
(72)【発明者】
【氏名】清家 吉貴
【テーマコード(参考)】
5F043
【Fターム(参考)】
5F043AA09
5F043BB02
5F043DD10
(57)【要約】
【課題】シリコン及びシリコン酸化物のそれぞれに対してシリコン-ゲルマニウムを選択的に除去するためのエッチング液、基板の処理方法及びシリコンデバイスの製造方法を提供する。
【解決手段】有機アルカリ、酸化剤、及び水を含むエッチング液であって、24℃において、前記エッチング液のpHが10.00以上13.27以下であり、且つ24℃において、前記エッチング液中の水酸化物イオン濃度が1.0×10-4mol/L以上1.9×10-1mol/L以下であることを特徴とする、シリコン及びシリコン酸化物のそれぞれに対してシリコン-ゲルマニウムを選択的に除去するためのエッチング液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機アルカリ、酸化剤、及び水を含むエッチング液であって、
24℃において、前記エッチング液のpHが10.00以上13.27以下であり、且つ
24℃において、前記エッチング液中の水酸化物イオン濃度が1.0×10-4mol/L以上1.9×10-1mol/L以下であることを特徴とする、シリコン及びシリコン酸化物のそれぞれに対してシリコン-ゲルマニウムを選択的に除去するためのエッチング液。
【請求項2】
前記エッチング液中において、水酸化物イオン濃度(mol/L)に対する酸化剤濃度(mol/L)の比の値が0.50以上である、請求項1に記載のエッチング液。
【請求項3】
前記酸化剤が、過酸化水素、m-クロロ過安息香酸、9-アザノルアダマンタン-N-オキシル、次亜塩素酸塩、及び次亜臭素酸塩からなる群から選択される一種以上である、請求項1又は2に記載のエッチング液。
【請求項4】
さらにシリコンエッチングの抑制剤を含む、請求項1又は2に記載のエッチング液。
【請求項5】
前記シリコンエッチングの抑制剤が、第四級アンモニウムのハロゲン塩、第四級アンモニウムのBF4塩、及びカルボン酸化合物からなる群から選択される一種以上である、請求項4に記載のエッチング液。
【請求項6】
前記シリコンエッチングの抑制剤が、ジカチオン構造を有する化合物である、請求項4に記載のエッチング液。
【請求項7】
前記有機アルカリが、水酸化第四級アンモニウムである、請求項1又は2に記載のエッチング液。
【請求項8】
シリコン、シリコン酸化物、及びシリコン-ゲルマニウムを含む基板の処理方法であって、
請求項1又は2に記載のエッチング液を用いて、シリコン及びシリコン酸化物のそれぞれに対してシリコン-ゲルマニウムを選択的にエッチングするエッチング工程を含む、基板の処理方法。
【請求項9】
前記基板が、さらにシリコン窒化物を含み、
前記エッチング工程が、シリコン窒化物に対してシリコン-ゲルマニウムを選択的にエッチングする工程である、請求項8に記載の基板の処理方法。
【請求項10】
シリコン、シリコン酸化物、及びシリコン-ゲルマニウムを含む基板を用いた、シリコンデバイスの製造方法であって、
請求項1又は2に記載のエッチング液を用いて、シリコン及びシリコン酸化物のそれぞれに対してシリコン-ゲルマニウムを選択的にエッチングするエッチング工程を含む、シリコンデバイスの製造方法。
【請求項11】
前記基板が、さらにシリコン窒化物を含み、
前記エッチング工程が、シリコン窒化物に対してシリコン-ゲルマニウムを選択的にエッチングする工程である、請求項10に記載のシリコンデバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチング液、基板の処理方法及びシリコンデバイスの製造方法に関する。より詳しくは、シリコンデバイスの製造に際して、シリコン-ゲルマニウム(SiGe)をエッチングして微細加工をする際等に用いられるエッチング液に関する。特に、シリコン及びシリコン酸化物のそれぞれに対してシリコン-ゲルマニウムを選択的に除去するためのエッチング液に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン-ゲルマニウムは近年、GAA(Gate all around)と呼ばれる構造のトランジスタを形成する際の材料として用いられている。GAA構造トランジスタでは、エピタキシャル成長により積層したナノシートをチャネルとして用いるためチャネル厚みを高精度に制御しやすく、且つ、チャネルを取り囲むようゲートが配置された構造であるため短チャネル効果による漏洩電流が生じにくい特徴があり、ロジックデバイスの高性能化には欠かせないものとなっている。
GAA構造トランジスタの作製過程では、シリコンとシリコン-ゲルマニウムとが交互に積層された構造から、シリコン-ゲルマニウムのみをエッチングする必要がある。このため、シリコンに対して選択的にシリコン-ゲルマニウムをエッチングできるエッチング液が要求されている。また、GAA構造トランジスタの作製過程におけるシリコン-ゲルマニウムのエッチング工程では、シリコンだけではなく、シリコン酸化物などがエッチング非対象物として同時にエッチング液に接触するような場合もあり、このような場合、シリコン酸化膜などに対しても高いシリコン-ゲルマニウムのエッチング選択比が要求される。
【0003】
シリコンに対して選択的にシリコン-ゲルマニウムをエッチングできるエッチング液として、特許文献1には、水、酸化剤、水混和性有機溶媒、フッ化物イオン源を含むエッチング液が提案されている。また、特許文献2には、酸化剤、有機酸及びフッ素含有化合物を含むエッチング組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-050365号公報
【特許文献2】特開2022-094679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のエッチング液や特許文献2のエッチング組成物(以下、エッチング液とよぶ)によれば、シリコンに対してシリコン-ゲルマニウムを選択的にエッチングすることが可能である。しかしながら、これらのエッチング液がアルカリ源を含まないことと、その組成から、これらのエッチング液はその液性が酸性であると考えられる。さらに、これらのエッチング液は酸化剤とフッ化物イオンとを両方含む。これらの結果、特許文献1及び特許文献2のエッチング液は、シリコン酸化物のエッチング速度を十分に下げることができないものと推定される。従って、上述したシリコン-ゲルマニウムのエッチング工程において、シリコンだけではなく、シリコン酸化物がエッチング非対象物として同時にエッチング液に接触するような用途にこれらのエッチング液を使用する場合、シリコン酸化物に対するシリコン-ゲルマニウムのエッチング選択比に課題が残るものと推定される。
【0006】
そこで、本発明は、シリコン及びシリコン酸化物のそれぞれに対してシリコン-ゲルマ
ニウムを選択的に除去するためのエッチング液、基板の処理方法及びシリコンデバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を行った。その結果、有機アルカリ、酸化剤、及び水を含み、かつpH及び水酸化物イオン濃度が所定の範囲であるエッチング液を用いることで、シリコン-ゲルマニウムをエッチングしつつシリコン及びシリコン酸化物のエッチングを抑制でき、シリコン及びシリコン酸化物のそれぞれに対するシリコン-ゲルマニウムのエッチング選択比を高めることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
項1 有機アルカリ、酸化剤、及び水を含むエッチング液であって、
24℃において、前記エッチング液のpHが10.00以上13.27以下であり、且つ
24℃において、前記エッチング液中の水酸化物イオン濃度が1.0×10-4mol/L以上1.9×10-1mol/L以下であることを特徴とする、シリコン及びシリコン酸化物のそれぞれに対してシリコン-ゲルマニウムを選択的に除去するためのエッチング液。
項2 前記エッチング液中において、水酸化物イオン濃度(mol/L)に対する酸化剤濃度(mol/L)の比の値が0.50以上である、項1に記載のエッチング液。
項3 前記酸化剤が、過酸化水素、m-クロロ過安息香酸、9-アザノルアダマンタン-N-オキシル、次亜塩素酸塩、及び次亜臭素酸塩からなる群から選択される一種以上である、項1又は2に記載のエッチング液。
項4 さらにシリコンエッチングの抑制剤を含む、項1~3のいずれか一項に記載のエッチング液。
項5 前記シリコンエッチングの抑制剤が、第四級アンモニウムのハロゲン塩、第四級アンモニウムのBF4塩、及びカルボン酸化合物からなる群から選択される一種以上である、項4に記載のエッチング液。
項6 前記シリコンエッチングの抑制剤が、ジカチオン構造を有する化合物である、項4又は5に記載のエッチング液。
項7 前記有機アルカリが、水酸化第四級アンモニウムである、項1~6のいずれか一項に記載のエッチング液。
項8 シリコン、シリコン酸化物、及びシリコン-ゲルマニウムを含む基板の処理方法であって、
項1~7のいずれか一項に記載のエッチング液を用いて、シリコン及びシリコン酸化物のそれぞれに対してシリコン-ゲルマニウムを選択的にエッチングするエッチング工程を含む、基板の処理方法。
項9 前記基板が、さらにシリコン窒化物を含み、
前記エッチング工程が、シリコン窒化物に対してシリコン-ゲルマニウムを選択的にエッチングする工程である、項8に記載の基板の処理方法。
項10 シリコン、シリコン酸化物、及びシリコン-ゲルマニウムを含む基板を用いた、シリコンデバイスの製造方法であって、
項1~7のいずれか一項に記載のエッチング液を用いて、シリコン及びシリコン酸化物のそれぞれに対してシリコン-ゲルマニウムを選択的にエッチングするエッチング工程を含む、シリコンデバイスの製造方法。
項11 前記基板が、さらにシリコン窒化物を含み、
前記エッチング工程が、シリコン窒化物に対してシリコン-ゲルマニウムを選択的にエッチングする工程である、項10に記載のシリコンデバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シリコン及びシリコン酸化物のそれぞれに対するシリコン-ゲルマニウムのエッチング選択比が高いエッチング液、基板の処理方法及びシリコンデバイスの製造方法が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
【0011】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。さらに、数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。
【0012】
1.エッチング液
本発明のエッチング液は、シリコン及びシリコン酸化物のそれぞれに対してシリコン-ゲルマニウムを選択的に除去するためのエッチング液である。したがって、シリコンデバイスの製造等に際してシリコン-ゲルマニウムのエッチングに用いることができる(すなわち、シリコン-ゲルマニウムエッチング液である)。
【0013】
上記シリコンデバイス等の製造においては、エッチング液などの処理液が金属を含んでいると、それが被処理体(エッチング対象のシリコン面に限らない)に影響を与え、シリコンデバイスの品質が低下する場合が多い。
【0014】
そのため本発明のエッチング液は、金属を含んでいないことが好ましい。エッチング液における金属の含有量は不純物レベル以下であることがより好ましく、エッチング液は金属を実質的に含まないことがさらに好ましい。ただし、エッチング液は金属を含んでいてもよい。ここでいう金属には、単体金属などの非イオン性メタル(粒子性メタル)や、金属イオン(イオン性メタル)が含まれる。
例えば、金属の含有量の合計が重量基準で1ppm以下であることが好ましく、1ppb以下であることがさらに好ましい。下限は特に限定されず、金属の含有量の合計は例えば0ppm以上1ppm以下、0ppb以上1ppb以下であってよい。
Ag、Al、Ba、Ca、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、K、Li、Mg、Mn、Na、Ni、Pb及びZnの含有量がいずれも重量基準で1ppm以下であることが好ましく、1ppb以下であることがさらに好ましい。下限は特に限定されず、上記各金属の含有量は、例えば重量基準で0ppm以上1ppm以下、0ppb以上1ppb以下であってよい。
なおここに列記した各金属は、半導体製造に用いる薬液において、品質に影響を与えうると目されている金属である。すなわち、各金属の含有量が上記範囲であることによって、エッチング液の品質を高めることができる。
【0015】
さらに、上記金属の中でFe、Cu、Mn、Cr、Znから選択されるいずれか一つの金属が重量基準で0.01ppt以上1.00ppb以下であることが好ましく、0.01ppt以上0.50ppb以下であることがより好ましく、0.01ppt以上0.20ppb以下であることがさらに好ましく、0.01ppt以上0.1ppb以下であることが特に好ましい。
【0016】
エッチング液は、有機アルカリを含む。有機アルカリを含むことによって水酸化物イオンが生じ、エッチング液中の金属含有量を抑えながら、エッチング液のpH及び水酸化物
イオン濃度を調整することができる。
【0017】
当該有機アルカリは特に限定されないが、例えば水酸化オニウム、有機アミン等が挙げられる。水酸化オニウムとしては、水酸化第一級アンモニウム、水酸化第二級アンモニウム、水酸化第三級アンモニウム、水酸化第四級アンモニウムのような水酸化アンモニウム、水酸化ホスホニウム、水酸化スルホニウム、多重結合を含む水酸化イミニウム、水酸化ジアゼニウム等が挙げられる。中でも、水酸化アンモニウムが好ましく、酸化剤に対する安定性が良好であり、エッチング液の経時的な安定性を高めることができる観点から、水酸化第四級アンモニウムがより好ましい。
当該水酸化第四級アンモニウムとしては例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化エチルトリメチルアンモニウム、水酸化プロピルトリメチルアンモニウム、水酸化ブチルトリメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化トリメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウム、水酸化ジメチルビス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、水酸化メチルトリス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、水酸化フェニルトリメチルアンモニウム、及び水酸化ベンジルトリメチルアンモニウムからなる群から選択される一種以上を用いることができる。
【0018】
また有機アミンとしては、第一級アミン、第二級アミン、及び第三級アミンからなる群から選択される一種以上が使用できる。
第一級アミンあるいは第二級アミンとしては例えば、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、N,N,N-トリメチルジエチレントリアミン、N,N-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミン、2-(2-アミノエトキシ)エタノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、4-アミノ-1-ブタノール、5-アミノ-1-ペンタノール、6-アミノ-1-ヘキサノール、N-(2-アミノエチル)プロパノールアミン、N-(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、アゼチジン、ピロリジン、ピぺリジン、ヘキサメチレンイミン、ペンタメチレンイミン、及びオクタメチレンイミンからなる群から選択される一種以上を用いることができる。
【0019】
また、第三級アミンとしては、具体的には、2-(ジメチルアミノ)エタノール、3-(ジメチルアミノ)-1-プロパノール、4-ジメチルアミノ-1-ブタノール、2-(ジエチルアミノ)エタノール、トリエチルアミン、メチルピロリジン、メチルピペリジン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン、及び1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノン-5-エンからなる群から選択される一種以上が挙げられる。
【0020】
有機アミンとしては、より好ましくは、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、2-(2-アミノエトキシ)エタノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、4-アミノ-1-ブタノール、5-アミノ-1-ペンタノール、6-アミノ-1-ヘキサノール、N-(2-アミノエチル)プロパノールアミン、ピロリジン、ピぺリジン、ヘキサメチレンイミン、及びペンタメチレンイミンからなる群から選択される一種以上を挙げることができる。さらに好ましくは、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、2-(2-アミノエトキシ)エタノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、ピロリジン、及びピぺリジンからなる群から選択される一種以上を挙げることができる。
【0021】
このような有機アルカリは、各々の持つ公知の特徴に従い、シリコンエッチングの対象や目的に合わせて選択して用いればよい。
酸化剤に対する安定性の観点で、上記の中でもカチオン中にヒドロキシ基を有しない水酸化第四級アンモニウムがより好ましい。当該水酸化第四級アンモニウムとしては、水酸化テトラメチルアンモニウムイオン、水酸化エチルトリメチルアンモニウム、水酸化プロピルトリメチルアンモニウム、水酸化ブチルトリメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、及び水酸化テトラブチルアンモニウムからなる群から選択される一種以上が挙げられる。これらの中でも、高いエッチング速度を示す点で、水酸化テトラメチルアンモニウムイオン、水酸化エチルトリメチルアンモニウム、水酸化プロピルトリメチルアンモニウム、水酸化ブチルトリメチルアンモニウム、及び水酸化テトラエチルアンモニウムからなる群から選択される一種以上が特に好ましい。
【0022】
本発明のエッチング液において、有機アルカリとして用いる化合物は、1種類を単独で使用してもよく、種類の異なるものを複数混合して使用してもよい。
また、エッチング液中の金属の含有量を低減するために、有機アルカリは、金属不純物や不溶性の不純物が可能な限り少ないものを用いることが好ましく、必要に応じて市販品を再結晶、カラム精製、イオン交換精製、濾過処理等により精製して使用できる。アルカリ化合物として水酸化第四級アンモニウムを採用する場合、その種類によっては半導体製造用として極めて高純度なものが製造・販売されており、そのようなものを用いることが好ましい。なお、半導体製造用の高純度水酸化第四級アンモニウムは水溶液などの溶液として販売されているのが一般的である。本発明のエッチング液の製造にあたっては、この溶液をそのまま水や他の成分と混合すればよい。
【0023】
シリコンに対するシリコン-ゲルマニウムの高選択エッチングでは、エッチングによる生成物である水酸化シリコンと水酸化ゲルマニウムの第一酸解離定数(pKa1)が、それぞれ9.86と8.68である。そのため、エッチング液のアルカリ性が低くなるにしたがって、水酸化ゲルマニウムよりも水酸化シリコンの方がよりイオン化しにくくなり、エッチング液への溶解性が低くなる。このため、エッチング液のpHや水酸化物イオン濃度が低い(そのためアルカリ性が低い)ほど、シリコンのエッチング速度がシリコン-ゲルマニウムのエッチング速度に対して相対的に大きく低下する傾向にあり、シリコンに対するシリコン-ゲルマニウムのエッチング選択比が高くなる傾向にある。
一方で、エッチング液のアルカリ性が低すぎると、シリコン-ゲルマニウムのエッチング速度が遅くなり生産性が低下する傾向にある。さらに、エッチング液がフッ化物イオンを含む場合においては、エッチング液中の遊離フッ化水素や二フッ化水素イオンの濃度が上昇し、シリコン酸化物のエッチング速度が上昇する。
【0024】
このため、24℃において、エッチング液のpHは、10.00以上13.27以下である。より好ましくはpHが11.00以上13.27以下、さらに好ましくはpH11.50以上13.27以下である。pHは、後述のガラス電極法により測定した値を指す。
また、24℃において、エッチング液中の水酸化物イオン濃度は、1.0×10-4mol/L以上1.9×10-1mol/L以下である。より好ましくは、1.0×10-3mol/L以上1.9×10-1mol/L以下、さらに好ましくは3.1×10-3以上1.9×10-1mol/L以下である。エッチング液中の水酸化物イオン濃度は、小数第二位まで測定した上記pHと、下記式(1)とを用いて算出する。下記式(1)において、24℃における水のイオン積は1.000×10-14mol2/L2である。
水酸化物イオン濃度(mol/L)=24℃における水のイオン積/10-pH (1
)
【0025】
エッチング液のpH及びエッチング液中の水酸化物イオン濃度が上記範囲であることにより、上述の通り、シリコンに対するシリコン-ゲルマニウムのエッチング選択比が高くなり、さらにシリコン酸化物のエッチングも抑制できるため、シリコン及びシリコン酸化物のそれぞれに対するシリコン-ゲルマニウムのエッチング選択比を高めることができる。また、エッチング液がフッ化物イオンを含む場合においても、シリコン酸化物のエッチングを著しく抑制できる。
これは、エッチング液のpH及びエッチング液中の水酸化物イオン濃度が上記範囲であることにより、フッ化物イオンと遊離フッ化水素との平衡がフッ化物イオン側に傾き、シリコン酸化物のエッチングに寄与する、遊離フッ化水素や二フッ化水素イオンのエッチング液中での濃度が十分低い状態となるためである。
また、エッチング液のpH及びエッチング液中の水酸化物イオン濃度が上記範囲であると、シリコン窒化物のエッチングも抑制できるため、シリコン窒化物に対するシリコン-ゲルマニウムのエッチング選択比を高めることもできる。また、エッチング液がフッ化物イオンを含む場合においても、シリコン窒化物のエッチング速度を著しく抑制できる。この理由は、上記のシリコン酸化物のエッチングを著しく抑制できる理由と同様である。
一方、特許文献1及び特許文献2のエッチング液は、その液性が酸性であるため、シリコン窒化物のエッチング速度を十分に下げることができないものと推定される。
【0026】
また、上記に示されているように、本発明のエッチング液はアルカリ性である。エッチング液がアルカリ性であることによって、酸化シリコンなどの微粒子(パーティクル)の表面電荷とエッチング面の表面電荷の両方がマイナスになるため、静電反発により、パーティクルのエッチング面への再付着を防止できる。また、その結果、エッチング後の洗浄工程を省略し得る。従って、本発明のエッチング液を用いれば、高い生産性をもってシリコンデバイス等の製造を行うことが可能となる。
【0027】
エッチング液は、上記の有機アルカリ、酸化剤、及び水を含む。そして、エッチング液中において、水酸化物イオン濃度(mol/L)に対する酸化剤濃度(mol/L)の比の値が0.50以上であることが好ましい。水酸化物イオン濃度に対する酸化剤濃度の比の値が0.50以上であることにより、シリコンのエッチング速度が、シリコン-ゲルマニウムのエッチング速度に対して大きく低下し、シリコンに対するシリコン-ゲルマニウムのエッチング選択比が向上する。
【0028】
このようになる理由は詳らかではないが、以下のように推察している。
酸化剤を含むエッチング液において、酸化剤の含有量を増加させ、シリコン表面の酸化速度を上昇させると、シリコン表面におけるシリコン酸化物の割合が増加し、エッチング速度が低下した。これは、アルカリ水溶液がシリコン酸化物をほとんどエッチングしないためであると考えられる。
また、酸化剤による酸化反応が起こると同時に、酸化されていないシリコン表面については水酸化物イオンによるエッチングが進行するため、水酸化物イオン濃度が上昇するとシリコンのエッチング速度は上昇する傾向にあった。
つまり、シリコンの酸化反応とエッチング反応は競争的に起きるため、シリコンのエッチング速度は、水酸化物イオン濃度に対する酸化剤濃度の比の値(酸化剤濃度/水酸化物濃度)と、負の相関があるものと推察している。一方で、シリコン-ゲルマニウムについては、水酸化物イオン濃度に対する酸化剤濃度の比の値(酸化剤濃度/水酸化物イオン濃度)を増加させた場合、シリコン-ゲルマニウム中の、シリコン原子を起点としたエッチングについては抑制されるものの、酸化ゲルマニウムが水への溶解性を有するため、ゲルマニウム原子を起点としたエッチングは抑制されにくいものと考えられる。このため、水酸化物イオン濃度に対する酸化剤濃度の比の値を増加させることで、シリコン-ゲルマニ
ウムのエッチングに対してシリコンのエッチングを選択的に抑制でき、シリコンに対するシリコン-ゲルマニウムのエッチング選択比が向上するものと推察している。
【0029】
エッチング液において、水酸化物イオン濃度に対する酸化剤濃度の比の値は、シリコンのエッチングに対するシリコン-ゲルマニウムのエッチングの選択性の点で、好ましくは0.50以上、より好ましくは1.2以上、さらに好ましくは10以上である。上限は特に限定されないが、150以下であってよく、80以下であってよい。すなわち、好ましくは例えば、0.50以上150以下、1.2以上80以下、10以上80以下である。
エッチング液の酸化剤濃度は、後述のヨウ素滴定法により測定できる。
【0030】
エッチング液中の有機アルカリの含有量は特に限定されないが、0.001mol/L以上が好ましい。含有量が多い方が、エッチング液のアルカリ性が高くなり、シリコン-ゲルマニウムのエッチング速度が速くなりやすく、シリコンデバイスの生産性を高めることができる。そのため、有機アルカリの含有量は0.010mol/L以上がより好ましく、0.050mol/L以上がさらに好ましく、0.100mol/L以上が特に好ましい。また、上限は特に限定されないが、1.200mol/L以下でよく、1.000mol/L以下でもよく、0.800mol/L以下でもよい。すなわち、好ましくは例えば、0.001mol/L以上1.200mol/L以下、0.010mol/L以上1.000mol/L以下、0.050mol/L以上0.800mol/L以下、0.100mol/L以上0.800mol/L以下が挙げられる。有機アルカリの含有量が上記範囲であることによって、エッチング液のpHや、エッチング液中の水酸化物イオン濃度を上記範囲に調整しやすくなる。
【0031】
エッチング液における酸化剤としては特に限定されないが、過酸化水素、m-クロロ過安息香酸等の過酸化物;9-アザノルアダマンタン-N-オキシル(nor-AZADO)、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPOL)等のN-オキシド化合物;及び次亜塩素酸塩、次亜臭素酸塩等の次亜ハロゲン酸塩からなる群から選択される一種以上が挙げられる。
【0032】
これらの中でも過酸化水素、m-クロロ過安息香酸、nor-AZADO、次亜塩素酸塩、及び次亜臭素酸塩からなる群から選択される一種以上がシリコンのエッチングの抑制効果の点でより好ましく、アルカリ中での酸化還元電位が低い過酸化水素、m-クロロ過安息香酸、及びnor-AZADOからなる群から選択される一種以上がシリコンのエッチングの抑制効果の点でさらに好ましく、取り扱いやすさや入手の容易さ等の点で過酸化水素、及びm-クロロ過安息香酸からなる群から選択される一種以上が特に好ましい。
次亜ハロゲン酸塩としては、非金属塩が好ましい。具体的には第一級アンモニウム塩、第二級アンモニウム塩、第三級アンモニウム塩、第四級アンモニウム塩などの各種アンモニウム塩がより好ましく、中でも第四級アンモニウム塩が特に好ましい。第四級アンモニウム塩をより具体的に例示すると、テトラメチルアンモニウム塩、エチルトリメチルアンモニウム塩、プロピルトリメチルアンモニウム塩、ブチルトリメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、フェニルトリメチルアンモニウム塩、及びベンジルトリメチルアンモニウム塩からなる群から選択される一種以上を使用することができる。
【0033】
本発明のエッチング液において、酸化剤はイオンの形態で存在してもよい。カウンターカチオンとしては非金属カチオンであることが好ましい。具体的には第一級アンモニウムカチオン、第二級アンモニウムカチオン、第三級アンモニウムカチオン、第四級アンモニウムカチオンなどの各種アンモニウムカチオンがより好ましく、中でも第四級アンモニウムカチオンが特に好ましい。
第四級アンモニウムカチオンをより具体的に例示すると、テトラメチルアンモニウムカ
チオン、エチルトリメチルアンモニウムカチオン、プロピルトリメチルアンモニウムカチオン、ブチルトリメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラプロピルアンモニウムカチオン、テトラブチルアンモニウムカチオン、フェニルトリメチルアンモニウムカチオン、及びベンジルトリメチルアンモニウムカチオンからなる群から選択される一種以上を使用することができる。
【0034】
エッチング液中の酸化剤の含有量は特に限定されないが、0.003mol/L以上が好ましい。含有量が多い方が、エッチング液のエッチング性能が高くなり、シリコン-ゲルマニウムのエッチング速度が速くなりやすく、シリコンデバイスの生産性を高めることができる。そのため、酸化剤の含有量は0.010mol/L以上がより好ましく、0.029mol/L以上がさらに好ましく、0.050mol/L以上が特に好ましく、0.150mol/L以上が殊更好ましい。また、上限は特に限定されないが、1.200mol/L以下でよく、1.000mol/L以下でもよく、0.800mol/L以下でもよい。すなわち、好ましくは例えば、0.003mol/L以上1.200mol/L以下、0.010mol/L以上1.000mol/L以下、0.029mol/L以上0.800mol/L以下、0.050mol/L以上0.800mol/L以下、0.150mol/L以上0.800mol/L以下が挙げられる。
酸化剤の含有量が上記範囲であることによって、水酸化物イオン濃度に対する酸化剤濃度の比の値を上記範囲に調整しやすくなる。
【0035】
上記の通り、エッチング液は水を含む。水を含まない場合、エッチングが進まない。他の成分の種類や量にもよるが、エッチング液における水の含有割合は30.0質量%以上100.0質量%未満が好ましく、50.0質量%以上100.0質量%未満であることがより好ましく、60.0質量%以上100.0質量%未満がさらに好ましく、75.0質量%以上100.0質量%未満が特に好ましい。また他の成分を必要量含有できる限り上限は特に定められないが、通常は99.5質量%以下でよく、99.0質量%もあれば十分である。すなわち、例えば、50.0質量%以上99.5質量%以下、60.0質量%以上99.0質量%以下が挙げられる。また、例えば、エッチング液に含まれる有機アルカリ及び酸化剤以外の残部が水であってよい。さらに、シリコンエッチングの抑制剤や含フッ素化合物のような成分をエッチング液が含む場合は、有機アルカリ、酸化剤及び当該成分以外の残部が水であってもよい。
水としては特に限定されないが、不純物が少ない高純度のものを使用することが好ましい。不純物の多寡は電気抵抗率で評価でき、具体的には、電気抵抗率は、0.10MΩ・cm以上が好ましく、15.00MΩ・cm以上がより好ましく、18.00MΩ・cm以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが、18.25MΩ・cm以下であってよい。すなわち、好ましくは例えば、0.10MΩ・cm以上18.25MΩ・cm以下、15.00MΩ・cm以上18.25MΩ・cm以下、18.00MΩ・cm以上18.25MΩ・cm以下である。
このような不純物の少ない水は、半導体製造用の超純水として容易に製造・入手できる。さらに超純水であれば、電気抵抗率に影響を与えない(寄与が少ない)不純物も著しく少なく、エッチング液の原料としての適性が高い。
【0036】
本発明のシリコン-ゲルマニウムエッチング液は、さらにシリコンエッチングの抑制剤を含んでいてもよい。シリコンエッチングの抑制剤を含んでいても、上記のとおり含有させる酸化剤の濃度を変更することでシリコンに対するシリコン-ゲルマニウムのエッチング選択性を向上させることができる。すなわち、抑制剤を含むことによるシリコンに対するシリコン-ゲルマニウムのエッチング選択性の低下の影響を低減できる。
ただし、強い還元性を有する化合物は、本発明のエッチング液が含有する酸化剤と反応する虞があるばかりでなく、シリコン-ゲルマニウムのエッチング速度を著しく低下させる効果をもつ場合がある。そのためシリコンに対するシリコン-ゲルマニウムのエッチン
グ選択性の低下への影響が大きい場合があり、含有する酸化剤の濃度を変更したとしても、前記選択性の低下の影響を低減しきれない場合がある。したがって、強い還元性を有する化合物は含まれていない方が好ましい。
【0037】
酸化剤を含むエッチング液中では、酸化剤によりシリコン表面が親水化されるため、疎水性相互作用によるシリコン表面への化合物の吸着はほとんど起こらない。したがって、抑制剤は、シリコン表面におけるδ+サイトもしくはδ-サイトに静電的相互作用で吸着しているものと推察される。抑制剤は、このような静電的相互作用によってシリコン表面に吸着することで、シリコンのエッチングを抑制することができる。
したがって、抑制剤として働きうる化合物としては、強く分極した部位をもつノニオン系化合物、アニオン系化合物、カチオン系化合物が挙げられる。具体的には、例えば、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、へプタン酸、オクタン酸、イソプロパン酸、イソブタン酸、イソペンタン酸、イソヘキサン酸、イソへプタン酸、イソオクタン酸、2-シクロブチル酢酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、トリデカン二酸、メチルコハク酸、テトラメチルコハク酸、安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、グルコン酸、グリシン、メチルグリシン、エチルグリシン、アラニン、β-アラニン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、ヒドロキシプロリン、N-メチルプロリン、α-メチルプロリン、及びチロシン等のカルボン酸化合物;
リン酸や、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、ペンチルホスホン酸、ヘプチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、イソプロピルホスホン酸、イソブチルホスホン酸、イソペンチルホスホン酸、イソヘプチルホスホン酸、及びイソオクチルホスホン酸等のホスホン酸化合物のようなリン化合物;
エチレングリコール、プロピレングリコール、及びジプロピレングリコール等のグリコール類や、グリセリン等の複数の水酸基をもつポリオール化合物;
エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、及びジエチレングリコールn-ブチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエステル類、並びに、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、及びジエチレングリコールジエチルエーテル等のアルキレングリコールジアルキルエステル類のような、グリコールエーテル化合物;
テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムクロライド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、デシルトリメチルアンモニウムクロライド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド、デカメトニウムクロライド、デカメトニウムブロミド、1,1’-(デカン-1,10-ジイル)ビス[4-アザ-1-アゾニアビシクロ[2.2.2]オクタン]ジブロミド、及び1,1’-(デカン-1,10-ジイル)ビス[4-アザ-1-アゾニアビシクロ[2.2.2]オクタン]ジクロライドのような、第四級アンモニウムのハロゲン塩や第四級アンモニウムのBF4塩等;
からなる群から選択される一種以上が挙げられる。
【0038】
中でも、1,1’-(デカン-1,10-ジイル)ビス[4-アザ-1-アゾニアビシクロ[2.2.2]オクタン]ジブロミド、及び1,1’-(デカン-1,10-ジイル)ビス[4-アザ-1-アゾニアビシクロ[2.2.2]オクタン]ジクロライドのような、分子内に二つのカチオンを有するジカチオン構造を有する化合物が好ましい。すなわち、シリコンエッチングの抑制剤は、ジカチオン構造を有することが好ましい。ジカチオン構造を有することが好ましい理由について、以下のように推察している。
抑制剤がジカチオン構造を有していると、カチオンサイトを2つ有することになるため、酸化剤の作用により親水化したシリコン表面、すなわち疎水性相互作用による吸着がほとんど起きない状態のシリコン表面に対しても、2つのカチオンサイトとシリコン表面との静電的相互作用により、強く吸着できる。
また、抑制剤が、分子内に一つのカチオンを有するモノカチオン構造を有する場合には、シリコン表面の結晶面方位毎の立体障害の大きさの違いにより、吸着性にも結晶面異方性が生じる場合がある。特に、Si(100)面のエッチングを抑制しにくい。この点、抑制剤がジカチオン構造を有する場合では、立体障害によりカチオンサイトが吸着しにくい箇所についても、2つのカチオンサイト間の連結基によって反応種の接近が抑制され得るため、各結晶面方位間でのエッチングの抑制効果の差が小さくなりやすい。また、Si(100)面のエッチングについても効率よく抑制できる。
【0039】
エッチング液中の抑制剤の含有量は特に限定されないが、例えば0.0001mol/L以上0.2000mol/L以下、0.0010mol/L以上0.1000mol/L以下が挙げられる。
【0040】
シリコンデバイスの製造においてシリコン-ゲルマニウムをエッチングする際には、二酸化ケイ素のようなシリコン酸化物の部分(面)や窒化ケイ素のようなシリコン窒化物の部分(面)は、エッチング非対象物である場合が多い。しかしながら、エッチング液がフッ化物イオンを含有していると、エッチング非対象物であるシリコン酸化物やシリコン窒化物をエッチングしてしまう場合がある。したがって、エッチング液はフッ化物イオンを含有しないことが好ましい。
しかしながら、本発明のエッチング液はアルカリ性であるため、フッ化物イオンをその他の成分として含有しても、二酸化ケイ素や窒化ケイ素はエッチングされにくい。したがって、エッチング液は、フッ化物イオンを含有していてもよい。フッ化物イオンを含有することで、シリコン-ゲルマニウムエッチング速度を上昇させることができる場合がある。理由は詳らかではないが、フッ化物イオンがシリコン-ゲルマニウムの表面に吸着し、フッ素イオンが吸着した原子とその他の原子とでの分極が大きくなることで、エッチング反応が促進されるものと推察している。
一方で、pHの低下(水酸化物イオン濃度の低下)とともにシリコン酸化物やシリコン窒化物のエッチングが進みやすくなる傾向にある。従って、エッチング液のpHを上記範囲に調整することで、本発明のエッチング液がフッ化物イオンを含有する場合であっても、シリコン酸化物やシリコン窒化物に対するシリコン-ゲルマニウムのエッチング選択性が十分得られる。そのために、エッチング液のpHに応じてフッ化物イオンの濃度を適宜調整することが好ましい。
【0041】
エッチング液中のフッ化物イオンの濃度は、例えばフッ化物イオンを供給する含フッ素化合物の含有量を変更することによって調整することができる。すなわち、エッチング液は、含フッ素化合物を含有していてもよい。
含フッ素化合物の含有量は特に限定されないが、例えば0.01mol/L以上1.00mol/L以下、0.05mol/L以上0.20mol/L以下が挙げられる。
【0042】
含フッ素化合物としては、例えばフッ化水素、アンモニウムフルオリド、テトラメチルアンモニウムフルオリド、テトラブチルアンモニウムフルオリド、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、ヘキサフルオロケイ酸、テトラフルオロホウ酸アンモニウム、ヘキサフルオロリン酸アンモニウム、及びヘキサフルオロケイ酸アンモニウムからなる群から選択される一種以上が挙げられ、中でもテトラメチルアンモニウムフルオリドが好ましい。
【0043】
エッチング液は、配合される全ての成分が溶解している均一溶液であることが好ましい
。さらに、エッチング時の汚染を防ぐという意味で、エッチング液中の200nm以上のパーティクルが100個/mL以下であることが好ましく、50個/mL以下であることがより好ましい。下限は特に限定されないが、0個/mL以上であってよい。例えば、好ましくは0個/mL以上100個/mL以下、0個/mL以上50個/mL以下であってよい。
また、本発明のシリコンエッチング液は、当該シリコンエッチング液の製造上の都合などにより、水素及び酸素等の気体が含まれていてもよい。
【0044】
本発明のエッチング液は、シリコン-ゲルマニウム単結晶膜のようなシリコン-ゲルマニウムをエッチングするエッチング工程を含むシリコンデバイスの製造において、エッチング液として好適に用いることができる。なお、シリコン-ゲルマニウム単結晶膜は、エピタキシャル成長によって作られたものを含む。
【0045】
2.エッチング液の製造方法
本発明のエッチング液の製造方法は特に限定されるものではなく、例えば、有機アルカリと、酸化剤とを所定の濃度となるように水と混合して混合物を得る混合工程、及び得られた混合物を均一になるように溶解させる溶解工程を有していてよい。また、これらの工程を、一つの工程としてもよい。
有機アルカリ、酸化剤及び水などのエッチング液の原材料としては、エッチング液の欄に記載のものを使用することができる。
【0046】
本発明のエッチング液の製造においては、各原材料を混合溶解させたのち、数nm~数十nmのフィルターを通し、パーティクルを除去する工程を有していることも好ましい。必要に応じ、パーティクルを除去する工程は複数回行ってもよい。
【0047】
さらに高純度窒素ガス等の不活性ガスでのバブリングにより、エッチング液中の溶存酸素を減らすなど、その他、半導体製造用薬液の製造において、必要な物性を得るために行われる公知の種々の処理を施すことができる。
【0048】
上記混合工程と溶解工程、さらにエッチング液の保存にあたっては、半導体製造用薬液の内壁として公知である材料、具体的にはポリフルオロエチレンや高純度ポリプロピレンなど、エッチング液中に汚染物質が溶出し難い材料で形成ないしはコーティングなどされた容器や装置を用いることが好ましい。これら容器や装置は、予め洗浄しておくことも好適である。
【0049】
3.シリコンデバイスの製造方法
本発明の第二の実施形態は、シリコン、シリコン酸化物、及びシリコン-ゲルマニウムを含む基板を用いた、シリコンデバイスの製造方法であって、
第一の実施形態のエッチング液を用いて、シリコン及びシリコン酸化物のそれぞれに対してシリコン-ゲルマニウムを選択的にエッチングするエッチング工程を含む、シリコンデバイスの製造方法に関する。以下、第二の実施形態について説明する。
【0050】
第二の実施形態に係るシリコンデバイスの製造方法は、第一の実施形態のエッチング液を用いて、シリコン及びシリコン酸化物のそれぞれに対してシリコン-ゲルマニウムを選択的にエッチングするエッチング工程を含む以外は、シリコンデバイスの製造方法として公知の方法を用いることができる。例えば、ウェハ作製工程、酸化膜形成工程、トランジスタ形成工程、配線形成工程、及びCMP工程からなる群から選択される1種以上の工程を含んでよく、半導体の製造方法に用いられるその他の公知の工程を含んでもよい。
【0051】
第一の実施形態のエッチング液を用いて、シリコン及びシリコン酸化物のそれぞれに対
してシリコン-ゲルマニウムを選択的にエッチングするエッチング工程としては、特に限定されないが、例えば、シリコン、シリコン酸化物、及びシリコン-ゲルマニウムを含む基板に、エッチング液を接触させる接触工程が挙げられる。
このような工程を含むことによって、シリコン酸化物を絶縁膜として使用し、さらにシリコン及びシリコン-ゲルマニウムを交互に積層させた構造を設けたデバイス構造に対してエッチング液を接触させ、該デバイス構造からシリコンのみを選択的に除去することができる。また、絶縁膜であるシリコン酸化物を残したまま、シリコンナノワイヤーをチャネルとして使用したGAA構造を作製することができる。
【0052】
また、エッチング工程は、シリコン及びシリコン酸化物のそれぞれに対してシリコン-ゲルマニウムを選択的にエッチングすることができる限り特に限定されず、基板を水平姿勢に保持する基板保持工程と、当該基板の中央部を通る、鉛直な回転軸線まわりに前記基板を回転させながら、前記基板の主面にエッチング液を供給する処理液供給工程とを含む工程であってよく、複数の基板を直立姿勢で保持する基板保持工程と、処理槽に貯留されたエッチング液に前記基板を直立姿勢で浸漬する工程とを含む工程であってよい。
【0053】
エッチング工程の条件は特に限定されず、例えばエッチング工程におけるエッチング液の温度は、所望のエッチング速度、エッチング後のシリコン-ゲルマニウムの形状や表面状態、生産性等を考慮して、適宜決定すればよい。例えば、20~95℃とすることができ、35~90℃の範囲とするのが好適である。
【0054】
エッチング工程においては、真空下又は減圧下での脱気又は不活性ガスによるバブリングを行いながらエッチングを行うこともできる。このような操作によりエッチング中の溶存酸素の上昇を抑え、あるいは低減できる。また、エッチング工程において、不活性ガスによるバブリングを行わずにエッチングを行うこともできる。不活性ガスによるバブリングを行わないことで、エッチング液中の溶存酸素が増加する。エッチング液中の溶存酸素はシリコン-ゲルマニウムの酸化に寄与するため、シリコン-ゲルマニウムのエッチング速度を上昇させることができる場合がある。一方で、シリコンについては溶存酸素の影響によるエッチング速度の低下が小さく、或いはむしろ上昇する場合もある。従って、溶存酸素の影響によりシリコンのエッチング速度が上昇するような場合、すなわちシリコンに対するシリコン-ゲルマニウムのエッチング速度が低下し得る場合には、不活性ガスによるバブリングを行えばよく、溶存酸素の影響によりシリコンのエッチング速度が維持或いは低下する場合には不活性ガスによるバブリングを行わなければよい。
【0055】
エッチング工程においては、基板をエッチング液に浸漬する等して、エッチング液を基板に接触させるだけでもよいが、基板に一定の電位を印加する電気化学エッチング法を採用することもできる。
【0056】
エッチング工程におけるエッチングの対象物は、上述の通りシリコン、シリコン酸化物、及びシリコン-ゲルマニウムを含む基板である。ここで、シリコン及びシリコン酸化物は、エッチング処理の対象ではないエッチング非対象物である。
シリコン、シリコン酸化物、及びシリコン-ゲルマニウムの態様は特に限定されないが、例えばシリコン膜、シリコン酸化膜、シリコン-ゲルマニウム膜であってよく、シリコンを含んだシリコン-ゲルマニウム単結晶膜が挙げられる。
基板は、エッチング非対象物としてシリコン窒化膜、各種金属膜等も含んでいてもよい。例えば、シリコン及びシリコン-ゲルマニウムを交互に積層したものや、シリコン単結晶上にシリコン-ゲルマニウム膜やシリコン酸化膜、シリコン窒化膜や、さらにはその上にシリコン、又はポリシリコン及びシリコン-ゲルマニウムを成膜したもの、これらの膜を使ってパターン形成された構造体等が挙げられる。
【0057】
シリコンデバイスの製造方法においては、基板がさらにシリコン窒化物を含み、エッチング工程が、シリコン窒化物に対してシリコン-ゲルマニウムを選択的にエッチングする工程であることが好ましい。エッチング工程がこのような工程であることによって、シリコン及びシリコン酸化物に加え、シリコン窒化物に対してもシリコン-ゲルマニウムを選択的に除去することができる。シリコン窒化物に対してシリコン-ゲルマニウムを選択的にエッチングする工程は、特に限定されないが、例えば、シリコン窒化物及びシリコン-ゲルマニウムを含む基板に、エッチング液を接触させる接触工程や、シリコン、シリコン酸化物、シリコン窒化物、及びシリコン-ゲルマニウムを含む基板に、エッチング液を接触させる接触工程が挙げられる。
このような工程を含むことによって、シリコン窒化物を絶縁膜として使用し、さらにシリコン及びシリコン-ゲルマニウムを交互に積層させた構造を設けたデバイス構造に対してエッチング液を接触させ、該デバイス構造からシリコンのみを選択的に除去することができる。また、絶縁膜であるシリコン窒化物を残したまま、シリコンナノワイヤーをチャネルとして使用したGAA構造を作製することができる。
【0058】
4.基板の処理方法
本発明の第三の実施形態は、シリコン、シリコン酸化物、及びシリコン-ゲルマニウムを含む基板の処理方法であって、
第一の実施形態のエッチング液を用いて、シリコン及びシリコン酸化物のそれぞれに対してシリコン-ゲルマニウムを選択的にエッチングするエッチング工程を含む、基板の処理方法に関する。以下、第三の実施形態について説明する。
【0059】
エッチング液を用いて、シリコン及びシリコン酸化物のそれぞれに対してシリコン-ゲルマニウムを選択的にエッチングするエッチング工程としては、シリコンデバイスの製造方法の欄に記載のエッチング工程を用いることができる。
すなわち、基板の処理方法においては、基板がさらにシリコン窒化物を含み、エッチング工程が、シリコン窒化物に対してシリコン-ゲルマニウムを選択的にエッチングする工程であることが好ましい。
また、例えば基板を水平姿勢に保持する基板保持工程と、当該基板の中央部を通る、鉛直な回転軸線まわりに前記基板を回転させながら、前記基板の主面にエッチング液を供給する処理液供給工程とを含む工程や、複数の基板を直立姿勢で保持する基板保持工程と、処理槽に貯留された第一の実施形態のエッチング液に前記基板を直立姿勢で浸漬する工程とを含む方法が挙げられる。
さらに、基板としては、シリコンデバイスの製造方法の欄に記載の基板を用いることができる。
【実施例0060】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
実施例、比較例における評価方法は以下の通りである。
【0062】
(エッチング液のpHの測定方法)
堀場製作所製卓上pHメータF-73、及び堀場製作所製強アルカリ試料用pH電極9632-10Dを用いて、24℃の温度条件下でエッチング液のpHを測定した。
【0063】
(エッチング液の水酸化物イオン濃度)
水酸化物イオン濃度は、上記の測定方法で測定したpHの値から、下記式(1)により算出した。下記式(1)において、24℃における水のイオン積は、1.000×10-14mol2/L2である。
水酸化物イオン濃度(mol/L)=24℃における水のイオン積/10-pH (1)
【0064】
(エッチング液の酸化剤濃度)
ヨウ素滴定法により定量した。具体的には、先ず、エッチング液1gを容器に量り取り、1質量%酢酸水溶液を10g加えた。次いでヨウ化カリウム1gを加え、酸化剤とヨウ化カリウムを反応させた。この時、過酸化水素やm-クロロ過安息香酸等のヨウ化カリウムとの反応が遅い酸化剤を用いた際には、さらに触媒として3質量%モリブデン(VI)酸水溶液を3滴(触媒量)加え反応を促進させた。得られた溶液を攪拌しながら、0.01mol/Lチオ硫酸ナトリウム水溶液を、溶液の色が淡黄色となるまで滴下した。次いで、1質量%でんぷん水溶液を10滴加えてヨウ素でんぷん反応により着色させた後、さらに0.01mol/Lチオ硫酸ナトリウム水溶液を、溶液の色が無色となるまで滴下した。チオ硫酸ナトリウムの滴下量から酸化剤濃度を算出した。
【0065】
(SiGeのエッチング速度の算出方法)
70℃に加熱したエッチング液100mLを用意し、そこへ2cm×1cmサイズのシリコン基板上にシリコン-ゲルマニウム膜(ゲルマニウム含有率25質量%)をエピタキシャル成長させた基板(グローバルネット株式会社製)を10分間浸漬した。エッチング中は1200rpmでエッチング液を攪拌した。
シリコン-ゲルマニウムのエッチング速度(RSiGe、nm/min)は、各基板のエッチング前とエッチング後の膜厚を分光エリプソメーターで測定し、処理前後の膜厚差からシリコン-ゲルマニウムのエッチング量を求め、エッチング時間(10分)で除することにより算出した。
【0066】
(Si(100)、SiO2、及びSiNと、SiGeとのエッチング選択比)
2cm×1cmサイズのシリコン-ゲルマニウム(SiGe)基板上にシリコン(Si)をエピタキシャル成長させた基板(シリコン(100面)膜、グローバルネット株式会社製)を用いた以外は、上記のSiGeのエッチング速度の算出方法と同様にして、シリコンのエッチング速度(R´100、nm/min)を算出した。
また、2cm×1cmサイズのシリコン基板上にシリコン酸化膜をエピタキシャル成長させた基板(グローバルネット株式会社製)を用い、浸漬時間を60分間とした以外は、上記のSiGeのエッチング速度の算出方法と同様にして、シリコン酸化物のエッチング速度(RSiO2、nm/min)を算出した。
さらに、2cm×1cmサイズのシリコン基板上にシリコン窒化膜をエピタキシャル成長させた基板(グローバルネット株式会社製)を用いた以外は、上記のシリコン酸化物のエッチング速度の算出方法と同様にして、シリコン窒化物のエッチング速度(RSiN、nm/min)を算出した。
【0067】
これらの測定結果から、シリコン-ゲルマニウム膜とシリコン(100)、SiO2、及びSiNとのエッチング選択比(RSiGe/R´100、RSiGe/RSiO2、RSiGe/RSiN)を求めた。
【0068】
なお用いた分光エリプソメーターでの膜厚変化の測定下限は0.01nmである。従って、上記方法で把握できるシリコン-ゲルマニウム膜のエッチング速度は、0.001nm/minが下限値となる。
【0069】
<実施例1>
(エッチング液の調製方法)
有機アルカリとして、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液(2.73mol/L)を超純水で希釈して薬液が均一になるように混合した後、酸化剤として、過
酸化水素水を加え、TMAH濃度0.110mol/L、酸化剤(過酸化水素)濃度0.073mol/Lになるようにエッチング液を調製した。そして、70℃で1時間加熱した。得られたエッチング液の24℃でのpHは12.64であり、pHの値を用いて算出した水酸化物イオン濃度は0.044mol/Lであった。水酸化物イオン濃度に対する酸化剤濃度の比の値(酸化剤濃度/水酸化物濃度)は、1.7であった。結果を表1に示す。
得られたエッチング液を用いて、シリコン及びシリコン-ゲルマニウムのエッチング速度を評価した。評価結果を表2に示す。なお、エッチング中は、窒素供給量を0.2L/minとした窒素バブリングを行った。
この実験例では、シリコン-ゲルマニウム膜とシリコン(100)膜とのエッチング選択比(RSiGe/R´100)が5.1であり、シリコン(100)膜に対してシリコン-ゲルマニウム膜を選択的にエッチングできた。
【0070】
<実施例2~3>
TMAH濃度及び過酸化水素濃度を表1に示すように変化させた以外は実施例1と同様にしてエッチング液を調製し、評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0071】
<比較例1~3>
TMAH濃度及び過酸化水素濃度を表1に示すように変化させた以外は実施例1と同様にしてエッチング液を調製し、評価を行った。評価結果を表2に示す。
比較例1~3では、エッチング液のpHが、それぞれ比較例1では13.40、比較例2では13.36、比較例3では13.30であった。いずれの比較例においてもシリコン(100)膜に対するシリコン-ゲルマニウム膜のエッチング選択比(RSiGe/R´100)が1.0未満であり、シリコン(100)膜に対してシリコン-ゲルマニウム膜を選択的にエッチングできていなかった。
【0072】
<実施例4>
TMAH濃度及び過酸化水素濃度を表1に示すように変化させた以外は実施例1と同様にしてエッチング液を調製した。さらに、エッチング中の窒素バブリングを行わなかった以外は実施例1と同様にして、エッチング液の評価を行った。評価結果を表2に示す。
実施例4では、シリコン(100)膜に対するシリコン-ゲルマニウム膜のエッチング選択比(RSiGe/R´100)が4.1であり、シリコン(100)膜に対してシリコン-ゲルマニウム膜を選択的にエッチングできた。
【0073】
<実施例5>
添加剤-1として、ヘキサン酸を表1に記載の割合でエッチング液に加えた以外は実施例4と同様にして、エッチング液を調製し、評価を行った。また、シリコン及びシリコン-ゲルマニウムに加えて、シリコン酸化膜とシリコン窒化膜のエッチング速度を評価した。評価結果を表2に示す。
実施例5では、シリコン(100)膜に対するシリコン-ゲルマニウム膜のエッチング選択比(RSiGe/R´100)が4.0、シリコン酸化膜に対するシリコン-ゲルマニウム膜のエッチング選択比(RSiGe/RSiO2)が19、シリコン窒化膜に対するシリコン-ゲルマニウム膜のエッチング選択比(RSiGe/RSiN)が79であり、非常に優れていた。
【0074】
<実施例6>
添加剤-1として、1,1’-(デカン-1,10-ジイル)ビス[4-アザ-1-アゾニアビシクロ[2.2.2]オクタン]ジブロミド(Additive-A)を表1に記載の割合でエッチング液に加えた以外は実施例4と同様にして、エッチング液を調製し、評価を行った。評価結果を表2に示す。
実施例6では、シリコン(100)膜に対するシリコン-ゲルマニウム膜のエッチング選択比(RSiGe/R´100)が7.3であり、実施例5よりもさらに優れていた。また、シリコン酸化膜に対するシリコン-ゲルマニウム膜のエッチング選択比(RSiGe/RSiO2)が41、シリコン窒化膜に対するシリコン-ゲルマニウム膜のエッチング選択比(RSiGe/RSiN)が185であり、非常に優れていた。
【0075】
<実施例7~8>
添加剤-1として表1に記載の添加剤を、添加剤-2として含フッ素化合物であるTMAF(テトラメチルアンモニウムフルオリド)を、それぞれ表1に記載の割合でエッチング液に加えた以外は実施例4と同様にして、エッチング液を調製し、評価を行った。評価結果を表2に示す。
実施例7では、シリコン(100)膜に対するシリコン-ゲルマニウム膜のエッチング選択比(RSiGe/R´100)が9.1であり、実施例6よりもさらに優れていた。また、シリコン酸化膜に対するシリコン-ゲルマニウム膜のエッチング選択比(RSiGe/RSiO2)が56、シリコン窒化膜に対するシリコン-ゲルマニウム膜のエッチング選択比(RSiGe/RSiN)が134であり、エッチング液がフッ化物イオンを含有しない実験例6と同様、非常に優れていた。
また、実施例8では、シリコン(100)膜に対するシリコン-ゲルマニウム膜のエッチング選択比(RSiGe/R´100)が7.9であり、実施例5よりもさらに優れていた。また、シリコン酸化膜に対するシリコン-ゲルマニウム膜のエッチング選択比(RSiGe/RSiO2)が29、シリコン窒化膜に対するシリコン-ゲルマニウム膜のエッチング選択比(RSiGe/RSiN)が100であり、エッチング液がフッ化物イオンを含有しない実験例5と同様、非常に優れていた。
【0076】
【表1】
表中、Additive-Aは、1,1’-(デカン-1,10-ジイル)ビス[4-アザ-1-アゾニアビシクロ[2.2.2]オクタン]ジブロミドを示す。
【0077】