(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121419
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】駆動制御装置、液体吐出装置、制御方法および制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B41J 2/015 20060101AFI20240830BHJP
B41J 2/04 20060101ALI20240830BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20240830BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
B41J2/015 101
B41J2/04
B41J2/14 611
B41J2/01 451
B41J2/01 401
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028522
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】平野 裕理
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EB58
2C056EC07
2C056EC37
2C056EC38
2C056FA10
2C056HA01
2C057AF71
2C057AG12
2C057AK07
2C057AL31
2C057AM16
2C057AM17
2C057AN01
2C057AR16
2C057BA08
(57)【要約】
【課題】液体吐出ヘッドの吐出性能の時間変動を抑制する。
【解決手段】液体を吐出するノズルを有するノズル形成部材と、少なくとも一部に弾性を有していてノズルを開閉する弁体と、弁体を移動させるアクチュエータと、を備える液体吐出ヘッドの駆動制御装置であって、駆動制御装置はアクチュエータを駆動する駆動波形を生成して、駆動波形に基づいてアクチュエータに電圧を印加可能であり、駆動波形は、弁体をノズル形成部材に押圧して圧縮することでノズルを閉鎖する閉鎖電圧を弁体の圧縮必要時間以上、アクチュエータに印加する第1期間と、第1期間の後に、弁体がノズル形成部材から離隔することでノズルを開放する開放電圧をアクチュエータに印加する第2期間と、を含み、第2期間では、第2期間の開始時刻からの経過時間に応じて開放電圧が変更される。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するノズルを有するノズル形成部材と、少なくとも一部に弾性を有していて前記ノズルを開閉する弁体と、前記弁体を移動させるアクチュエータと、を備える液体吐出ヘッドの駆動制御装置であって、
前記駆動制御装置は、前記アクチュエータを駆動する駆動波形を生成して、前記駆動波形に基づいて前記アクチュエータに電圧を印加可能であり、
前記駆動波形は、
前記弁体を前記ノズル形成部材に押圧して圧縮することで前記ノズルを閉鎖する閉鎖電圧を前記弁体の圧縮必要時間以上、前記アクチュエータに印加する第1期間と、
前記第1期間の後に、前記弁体が前記ノズル形成部材から離隔して前記ノズルを開放する開放電圧を前記アクチュエータに印加する第2期間と、
を含み、
前記第2期間では、前記第2期間の開始時刻からの経過時間に応じて前記開放電圧が変更される、駆動制御装置。
【請求項2】
前記駆動制御装置は、前記第2期間にて、前記第2期間の開始時刻からの経過時間に応じて前記閉鎖電圧と前記開放電圧との差が大きくなるように前記開放電圧を変更する、請求項1に記載の駆動制御装置。
【請求項3】
前記駆動制御装置は、前記第2期間にて、前記駆動波形として、1周期当たりの開放電圧時間に相当する矩形波の駆動パルス波形を生成する、請求項1または2に記載の駆動制御装置。
【請求項4】
前記駆動制御装置は、前記第2期間にて、前記開放電圧を所定の開放電圧変更間隔で変更する、請求項1または2に記載の駆動制御装置。
【請求項5】
前記駆動制御装置は、前記第2期間にて、変更前の前記開放電圧と、変更後の前記開放電圧との差が前記経過時間に応じて小さくなるように前記開放電圧を変更する、請求項1または2に記載の駆動制御装置。
【請求項6】
前記第2期間の開始時刻からの経過時間をtとし、前記開放電圧をVhとし、前記tが0のときにおける前記開放電圧をVh0とし、所定の定数をAおよびBとするとき、
前記駆動制御装置は、前記Vhを、
Vh=Vh0+A(1-exp(-Bt))
に基づいて設定する、請求項1または2に記載の駆動制御装置。
【請求項7】
前記Aおよび前記Bは、前記弁体の材質および形状に応じて予め設定された値であり、前記駆動制御装置は、前記弁体の材質および形状に関する情報に基づいて前記Aおよび前記Bを設定する、請求項6に記載の駆動制御装置。
【請求項8】
前記駆動制御装置は、前記弁体の弾性率に関する情報に基づいて前記弁体の前記圧縮必要時間を設定する、請求項1または2に記載の駆動制御装置。
【請求項9】
前記第2期間は、
時間的に隣り合っていて前記開放電圧を印可する少なくとも2個の第3期間と、
前記2個の前記第3期間の間にあって前記開放電圧を印可しない第4期間と、
を含み、
前記駆動制御装置は、前記第4期間が前記弁体の回復必要時間以上であり且つ前記圧縮必要時間未満である場合に、前記第4期間にて、前記弁体を前記ノズル形成部材に押し込んで圧縮させる圧縮電圧を前記閉鎖電圧に加える、請求項1または2に記載の駆動制御装置。
【請求項10】
前記第2期間は、
時間的に隣り合っていて前記開放電圧を印可する少なくとも2個の第3期間と、
前記2個の前記第3期間の間にあって前記開放電圧を印可しない第4期間と、
を含み、
前記駆動制御装置は、前記第4期間が前記弁体の回復必要時間未満である場合に、前記経過時間をリセットせず、前記2個の前記第3期間に亘って前記開放電圧を連続的に変更する、請求項1または2に記載の駆動制御装置。
【請求項11】
前記駆動制御装置は、前記第2期間にて、前記弁体と前記ノズル形成部材との間のギャップの平均値が所定の範囲内となるように前記開放電圧を制御する、請求項1または2に記載の駆動制御装置。
【請求項12】
前記駆動制御装置は、画像データを読み込んで、前記画像データを構成する印写パターンを特定し、前記印写パターンの画素数に応じて前記開放電圧を変更する、請求項1または2に記載の駆動制御装置。
【請求項13】
請求項1または2に記載の駆動制御装置と、
前記液体吐出ヘッドと、
を備える、液体吐出装置。
【請求項14】
液体を吐出するノズルを有するノズル形成部材と、少なくとも一部に弾性を有していて前記ノズルを開閉する弁体と、前記弁体を移動させるアクチュエータと、を備える液体吐出ヘッドと、前記アクチュエータに電圧を印加可能な駆動制御装置と、を備える液体吐出装置の制御方法であって、前記液体吐出装置が、
前記アクチュエータを駆動する駆動波形を生成するステップを実行し、
前記駆動波形は、
前記弁体を前記ノズル形成部材に押圧して圧縮することで前記ノズルを閉鎖する閉鎖電圧を前記弁体の圧縮必要時間以上、前記アクチュエータに印加する第1期間と、
前記第1期間の後に、前記弁体が前記ノズル形成部材から離隔することで前記ノズルを開放する開放電圧を前記アクチュエータに印加する第2期間と、
を含み、
前記第2期間では、前記第2期間の開始時刻からの経過時間に応じて前記開放電圧が変更される、制御方法。
【請求項15】
液体を吐出するノズルを有するノズル形成部材と、少なくとも一部に弾性を有していて前記ノズルを開閉する弁体と、前記弁体を移動させるアクチュエータと、を備える液体吐出ヘッドと、前記アクチュエータに電圧を印加可能な駆動制御装置と、を備える液体吐出装置の制御プログラムであって、
前記アクチュエータを駆動する駆動波形を生成するステップをコンピュータに実行させ、
前記駆動波形は、
前記弁体を前記ノズル形成部材に押圧して圧縮することで前記ノズルを閉鎖する閉鎖電圧を前記弁体の圧縮必要時間以上前記アクチュエータに印加する第1期間と、
前記第1期間の後に、前記弁体が前記ノズル形成部材から離隔することで前記ノズルを開放する開放電圧を前記アクチュエータに印加する第2期間と、
を含み、
前記第2期間では、前記第2期間の開始時刻からの経過時間に応じて前記開放電圧が変更される、制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動制御装置、液体吐出装置、制御方法および制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液体を吐出する液体吐出ヘッドの駆動制御装置が知られている。
【0003】
特許文献1には、ニードル弁によりノズル孔を開閉するバルブ式の液体吐出ヘッドが開示されている。ノズル孔を開く際は、ニードル弁の後退速度を、ニードル弁の先端部の合成樹脂の変形戻り速度よりも速くすることで、開栓の瞬間に塗料通路の広さを均一とし、吐出速度の差を無くし、吐出液滴の直進性を保つことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術においては、吐出開始後に弁体の圧縮変形が回復することにより、弁体とノズル形成部材との間の距離が吐出開始からの経過時間によって変動してしまう傾向がある。その結果、吐出滴量等の吐出性能が時間変動する場合がある。
【0005】
そこで、本発明は、上記課題に鑑み、液体吐出ヘッドの吐出性能の時間変動を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一態様によれば、
液体を吐出するノズルを有するノズル形成部材と、少なくとも一部に弾性を有していて前記ノズルを開閉する弁体と、前記弁体を移動させるアクチュエータと、を備える液体吐出ヘッドの駆動制御装置であって、
前記駆動制御装置は、前記アクチュエータを駆動する駆動波形を生成して、前記駆動波形に基づいて前記アクチュエータに電圧を印加可能であり、
前記駆動波形は、
前記弁体を前記ノズル形成部材に押圧して圧縮することで前記ノズルを閉鎖する閉鎖電圧を前記弁体の圧縮必要時間以上、前記アクチュエータに印加する第1期間と、
前記第1期間の後に、前記弁体が前記ノズル形成部材から離隔することで前記ノズルを開放する開放電圧を前記アクチュエータに印加する第2期間と、
を含み、
前記第2期間では、前記第2期間の開始時刻からの経過時間に応じて前記開放電圧が変更される、駆動制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、液体吐出ヘッドの吐出性能の時間変動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係る液体吐出ヘッドの斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係る液体吐出ヘッドのA-A断面図である。
【
図3】第1実施形態に係る液体吐出モジュールの断面図(a)及び拡大図(b)である。
【
図4】第1実施形態に係る液体吐出モジュールの動作図(a)~(f)である。
【
図5】第1実施形態に係る液体吐出モジュールの弁体位置と流量の関係図である。
【
図6】第1実施形態に係る液体供給機構の構成図である。
【
図7】第1実施形態に係る液体吐出装置の全体構成図である。
【
図8】第1実施形態に係る液体吐出装置の制御構成のブロック図である。
【
図9A】第1実施形態に係る電源電圧とアクチュエータ電圧の関係図(a)~(c)である。
【
図9B】第1実施形態に係る電源電圧とアクチュエータ電圧の関係図(d)である。
【
図10】第1実施形態に係る弁体長さの回復量の説明図(a)~(c)である。
【
図11】第1実施形態に係る弁体長さの圧縮必要時間と回復必要時間の説明図である。
【
図12】実施例に係る第1駆動波形を示す模式図である。
【
図13】実施例に係る第1駆動波形の生成フローチャートである。
【
図14】実施例に係る第2駆動波形を示す模式図である。
【
図15】実施例に係る第2駆動波形の生成フローチャートである。
【
図16】実施例に係る第3駆動波形を示す模式図である。
【
図17】実施例に係る第3駆動波形の生成フローチャートである。
【
図18】実施例と比較例における開放電圧、ギャップ、および吐出滴量の比較図である。
【
図19】第2実施形態に係る塗布装置の構成図である。
【
図20】第2実施形態に係る塗布装置の使用例を示す図(a)~(b)である。
【
図21】第3実施形態に係る電極製造方法および電極製造装置を示す図(a)~(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。各図面において、同一構成要素には同一符号を付与し、重複した説明を適宜省略する。各図面の説明において、上下左右等の方向を示す表現は一例であり、実施形態に係る構成要素の方向を制限するものではない。本発明の実施形態に関する用語の定義については、実施形態の最後に説明する。
【0010】
<第1実施形態>
先ず、第1実施形態に係る液体吐出ヘッド10および液体吐出ユニット60について説明する。
【0011】
(液体吐出ヘッドおよび液体吐出ユニットの構成)
図1は第1実施形態に係る液体吐出ヘッド10の斜視図である。液体吐出ヘッド10は液体を吐出する。液体としては、例えば、インク、塗料、および表面処理液等が挙げられる。
【0012】
液体吐出ヘッド10はハウジング11を備える。ハウジング11は金属または樹脂等により形成される。ハウジング11の上側には電気信号の通信用のコネクタ29が設けられる。ハウジング11の左右両側には、液体を液体吐出ヘッド10内に供給するための供給ポート12と、液体を液体吐出ヘッド10から排出するための回収ポート13と、が設けられている。
【0013】
図2は第1実施形態に係る液体吐出ヘッド10のA-A断面図である。液体吐出ヘッド10には複数の弁体17が設けられる。液体吐出ヘッド10はコネクタ29を介して駆動制御装置40に電気的に接続される。駆動制御装置40は複数の弁体17の駆動を制御する。液体吐出ヘッド10および駆動制御装置40は、液体吐出ユニット60を構成する。
【0014】
液体吐出ヘッド10にはノズル形成部材としてのノズル板15が設けられている。ノズル板15はハウジング11に接合される。ノズル板15には液体を吐出する複数のノズル14が設けられる。
【0015】
ハウジング11には流路16が設けられる。流路16は、液体を供給ポート12からノズル板15へ流入し、複数のノズル14が設けられたノズル板15上を経て、回収ポート13から流出する。液体は、矢印a1、矢印a2、及び矢印a3により示される方向へ流路16を流れる。
【0016】
供給ポート12と回収ポート13との間には、液体吐出モジュール20が設けられる。液体吐出モジュール20は流路16の液体をノズル14から吐出する。液体吐出モジュール20の個数はノズル14の個数に対応する。なお、ノズル14および液体吐出モジュール20の個数は制限されない。ノズル14および液体吐出モジュール20の列数は1列ではなく複数列であってもよい。
【0017】
流路16は複数の液体吐出モジュール20に共通の流路として構成される。供給ポート12は、加圧された状態の液体を外部から取り込み、矢印a1の方向に液体を送液して流路16に供給する。流路16は供給ポート12からの液体を矢印a2の方向へ送液して各液体吐出モジュール20に供給する。回収ポート13は液体吐出モジュール20のノズル14から吐出されなかった液体を矢印a3の方向へ排出する。
【0018】
(液体吐出モジュールの構成)
図3は第1実施形態に係る液体吐出モジュール20の断面図(a)及び拡大図(b)である。液体吐出モジュール20は、ノズル14を開閉する弁体17と、弁体17を駆動するアクチュエータ18と、を備える。
【0019】
弁体17は、例えば針状に形成されたニードル弁である。弁体17の径は、封止の観点からノズル14の径よりも大きいことが好ましい。弁体17は先端部に弾性部材17aを備え、ノズル14を十分に封止可能であることが好ましい。或いは、弁体17の全体が弾性部材として構成されてもよい。
【0020】
弾性部材17aは、ノズル板15に押圧された際に圧縮変形可能な樹脂またはゴムである。弾性部材17aは、液体に対して耐溶解性を有することが好ましい。ゴムとしては、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴム等が挙げられる。樹脂としては、フッ素樹脂、塩素化ポリエーテル、フッ素系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等が挙げられる。中でも、耐薬品性、耐摩耗性、および耐熱性に優れた、フッ素ゴム、FFKM(パーフロロエラストマー)、およびPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等が好ましい。
【0021】
弾性部材17aの弾性率としては、弾性部材17aの上下方向の厚さ、弁体17のノズル板15に対する垂直度、ノズル板15の平面度、液体に含まれる顔料またはフィラー等の粒子の大きさ、および封止に必要な変形量等に基づいて適宜選択することができる。例えば、弾性部材17aとしては、液体に含まれる粒子と同程度の範囲で弾性変形するような弾性率を有する材質を選択することが好ましい。本発明の適切な弾性率の範囲は、40MPa~500MPaが好ましい。弾性率が低すぎる場合は、弾性部材17aの変形量が大きくなり、ノズル14を開閉する際の弁体17の移動量を大きくする必要があるため、液体吐出ヘッド10が大型化する。弾性率が高すぎる場合は、液体に含まれる顔料やフィラーが弾性部材17aとノズル板15との間に挟まった場合に、弾性部材17aが十分に変形せず封止不良が発生する。
【0022】
弾性部材17aは、例えば円柱状に形成されて弁体17の先端面に固定される。或いは、弾性部材17aは、弁体17の先端面から弁体17の先端部近傍の側周面まで覆うようにコーティングされてもよい。
【0023】
ノズル14に対する弾性部材17aの対向面には液溜まりとなる凹部が設けられてもよい。凹部の開口径をノズル14の口径よりも大きくすることにより、液体の吐出速度、1回の吐出量、および直進性等の吐出性能を向上させることができる。また、弾性部材17aに対向するノズル14のエッジ部分の摩耗を抑制することができる。
【0024】
弁体17は軸受21によって支持される。弁体17は軸受21によってノズル14の位置へ案内される。弁体17はノズル板15を押圧して圧縮することでノズル14を確実に封止することができる。
【0025】
アクチュエータ18は、例えばジルコニアセラミックス等により形成された圧電素子であるが、発熱抵抗体等の電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、または、振動板と対向電極とにより構成される静電アクチュエータ等であってもよい。本実施形態におけるアクチュエータ18は、チタン酸ジルコン酸鉛を用いた圧電素子が印可電圧に対して伸縮量が大きく、制御性が高いため好ましい。
【0026】
アクチュエータ18は、ハウジング11の内部に形成された駆動機構収容空間23aに収容される。駆動機構収容空間23aと流路16とは2個の封止部材22によって空間が分離されるが、封止部材22の個数は限定されない。封止部材22は駆動機構収容空間23aへの液体の流入を阻止する。封止部材22としては、例えば、Oリング、パッキン等のシール材が挙げられる。
【0027】
アクチュエータ18は、駆動機構収容空間23aで保持部材23によって保持される。保持部材23は、例えば、ゴム、樹脂、または金属等により形成された板ばねである。保持部材23は、アクチュエータ18の先端部を保持する先端部23bと、アクチュエータ18の後端部を保持する後端部23cと、を備えることが好ましい。
【0028】
アクチュエータ18は、保持部材23の先端部23bを介して弁体17に連結される。またアクチュエータ18は、保持部材23の後端部23cを介して規制部材19に固定される。規制部材19は、保持部材23の後端部23cを固定することでアクチュエータ18の固定点として機能する。
【0029】
保持部材23は、アクチュエータ18の作動時にアクチュエータ18の変形方向とは逆方向に変形する逆ばね機構として作用する。保持部材23は、アクチュエータ18の僅かな変形を増幅して弁体17の移動距離を長くすることが可能である。
【0030】
アクチュエータ18を作動させて弁体17を後端方向へ移動させた場合は、弾性部材17aにより閉鎖されていたノズル14が開放状態となり、ノズル14から液体が吐出される。一方、アクチュエータ18を作動させて弁体17を先端方向へ移動させた場合は、弾性部材17aがノズル板15に当接してノズル14が閉鎖状態となり、ノズル14から液体が吐出されなくなる。
【0031】
なお、対象物に対して液体を吐出する間は、液体の吐出効率が低下しないように、回収ポート13からの液体の排出を一時的に行わないようにしてもよい。
【0032】
アクチュエータ18は、電圧印加により収縮するタイプであってもよいし、または電圧印加により伸張するタイプであってもよい。
【0033】
電圧印加により収縮するアクチュエータ18を用いる場合、アクチュエータ18に電圧が印加されていない状態でノズル14の閉鎖が可能な位置を見つけ、規制部材19により保持部材23の固定を行う。
【0034】
駆動制御装置40によってアクチュエータ18に電圧が印加されることにより、アクチュエータ18が収縮して保持部材23を介して弁体17を引っ張る。弁体17がノズル14から離隔してノズル14を開放することにより、流路16に加圧供給された液体がノズル14から吐出される。
【0035】
一方、駆動制御装置40によってアクチュエータ18に電圧が印加されていないときは、弁体17がノズル14を閉鎖する。ノズル14が閉鎖された状態では、流路16に液体が加圧供給されていても、ノズル14から液体が吐出されることはない。
【0036】
電圧印加により伸張するアクチュエータ18を用いる場合、アクチュエータ18に電圧が印加された状態でノズル14の閉鎖が可能な位置を見つけ、規制部材19により保持部材23の固定を行う。
【0037】
駆動制御装置40によってアクチュエータ18に印加される電圧を小さくすることにより、アクチュエータ18が収縮して保持部材23を介して弁体17を引っ張る。弁体17がノズル14から離隔してノズル14を開放することにより、流路16に加圧供給された液体がノズル14から吐出される。
【0038】
一方、駆動制御装置40によってアクチュエータ18に電圧が印加されるときは、弁体17がノズル14を閉鎖する。ノズル14が閉鎖された状態では、流路16に液体が加圧供給されていても、ノズル14から液体が吐出されることはない。
【0039】
駆動制御装置40は、アクチュエータ18に印加される電圧を示す駆動波形を生成する駆動波形発生回路41と、駆動波形の電圧値または電流値を必要な値まで増幅する増幅回路42と、を備える。増幅回路42により増幅された電圧がアクチュエータ18に印加される。
【0040】
駆動制御装置40は、電圧の印加によって弁体17の開閉を制御することで液体吐出ヘッド10からの液体の吐出を制御する。なお、駆動波形発生回路41が十分な値の電圧を印加できる場合には増幅回路42を省略してもよい。
【0041】
駆動波形発生回路41は、アクチュエータ18に印加する電圧の時間経過に伴う波形である駆動パルス波形を生成する。駆動波形発生回路41は、例えばPWM(パルス幅変調)方式等により駆動パルス波形を生成してアクチュエータ18に所望の電圧を印加する。
【0042】
駆動波形発生回路41は、PC(Personal Computer)等の外部装置または装置内部の記憶装置からの画像データを入力し、画像データに基づいて駆動パルス波形を生成する。駆動波形発生回路41は、例えば、画像データに含まれる画素の各色の濃度に応じた液滴サイズに対応する駆動パルス波形を生成する。
【0043】
また駆動波形発生回路41は、吐出開始からの経過時間tに応じてアクチュエータ18に印加する開放電圧Vhを変更した駆動パルス波形を生成する。これにより、弁体17の圧縮変形の回復に起因する弁体17とノズル板15との間の距離(ギャップGAP)の時間変動が抑制される。
【0044】
アクチュエータ18は、駆動波形発生回路41から出力された駆動波形に応じて圧縮または伸張することで、弁体17にノズル14を開閉させる。
【0045】
図4は第1実施形態に係る液体吐出モジュール20の動作図(a)~(f)である。アクチュエータ18の各電極には一対のリード線24が電気的に接続される。第1リード線24aおよび第2リード線24bは駆動制御装置40に電気的に接続される。
【0046】
図4(a)~(c)は電圧印加により圧縮するタイプのアクチュエータ18を用いた液体吐出モジュール20の動作を示している。
【0047】
図4(a)には、ノズル14を閉鎖する閉鎖電圧Vcとして、例えば0Vがアクチュエータ18に印加されており、アクチュエータ18が伸張した状態が示されている。弁体17のノズル板15側の弾性部材17aはノズル板15に最も大きな圧力で接触してノズル14を閉鎖している。
【0048】
すなわち、電圧印加により圧縮するタイプのアクチュエータ18を用いる場合、閉鎖電圧Vcとは、弁体17(弾性部材17a)をノズル板15に最も大きな圧力で押し込んでノズル14を閉鎖するようにアクチュエータ18に印加される最小電圧である。
【0049】
図4(b)には、ノズル14を閉鎖する閉鎖電圧Vcより高く、且つ開放電圧Vhより低い電圧がアクチュエータ18に印加され、アクチュエータ18が圧縮を開始した状態が示されている。弾性部材17aはノズル板15に
図4(a)の状態よりも小さい圧力で接触しているが、依然としてノズル14を閉鎖している。
【0050】
すなわち、ノズル14は閉鎖状態から開放状態へ移行する状態である。ノズル14が閉鎖状態から開放状態へ移行する閾値電圧Vthは、例えばノズル14から吐出される流量に基づいて30Vとして算定することができる。
【0051】
図4(c)には、開放電圧Vhである72Vがアクチュエータ18に印加されており、アクチュエータ18が完全に圧縮した状態が示されている。弾性部材17aはノズル板15から最も離隔してノズル14を閉鎖していない状態であり、加圧供給された液体25がノズル14から吐出される。ここで、弁体17のノズル板15側の端部とノズル板15との距離がギャップGAPである。
【0052】
すなわち、電圧印加により圧縮するタイプのアクチュエータ18を用いる場合、開放電圧Vhとは、弁体17がノズル板15から最も離隔してノズル14を弁体17に開放させるようにアクチュエータ18に印加される最大電圧である。
【0053】
一方、
図4(d)~(f)は電圧印加により伸張するタイプのアクチュエータ18を用いた液体吐出モジュール20の動作を示している。
【0054】
図4(d)には、ノズル14を閉鎖する閉鎖電圧Vcとして、例えば72Vがアクチュエータ18に印加されており、アクチュエータ18が伸張した状態が示されている。弾性部材17aはノズル板15に最も大きな圧力で接触してノズル14を閉鎖している。
【0055】
すなわち、電圧印加により伸張するタイプのアクチュエータ18を用いる場合、閉鎖電圧Vcとは、弁体17(弾性部材17a)をノズル板15に最も大きな圧力で押し込んでノズル14を閉鎖するようにアクチュエータ18に印加される最大電圧である。
【0056】
図4(e)には、ノズル14を閉鎖する閉鎖電圧Vcより低く、且つ開放電圧Veより高い電圧がアクチュエータ18に印加され、アクチュエータ18が圧縮を開始した状態が示されている。弾性部材17aはノズル板15に
図4(d)の状態よりも小さい圧力で接触しているが、ノズル14を依然として閉鎖している。
【0057】
すなわち、ノズル14は閉鎖状態から開放状態へ移行する状態である。ノズル14が閉鎖状態から開放状態へ移行する閾値電圧Vthは、例えばノズル14から吐出される流量に基づいて54Vとして算定することができる。
【0058】
図4(f)には、開放電圧Vhである0Vがアクチュエータ18に印加され、アクチュエータ18が完全に圧縮した状態が示されている。弁体17はノズル板15から離隔してノズル14を閉鎖していない状態であり、加圧供給された液体25がノズル14から吐出される。ここで、弁体17のノズル板15側の端部とノズル板15との距離がギャップGAPである。
【0059】
すなわち、電圧印加により伸張するタイプのアクチュエータ18を用いる場合、開放電圧Vhとは、弁体17がノズル板15から最も離隔してノズル14を弁体17に開放させるようにアクチュエータ18に印加される最小電圧である。
【0060】
図4(a)~(f)の各々の状態は、駆動制御装置40がアクチュエータ18に対する印加電圧を設定することにより操作可能である。なお、
図4(a)、
図4(b)、
図4(d)および
図4(e)に示すようにノズル14が閉鎖した状態を「閉鎖状態」と称する。また、
図4(c)および
図4(f)に示すようにノズル14が開放した状態を「開放状態」と称する。
【0061】
液体吐出モジュール20の組み立て時には、液体25の封止を確実にするため、弁体17がノズル板15に最も大きな圧力で接触している状態から電圧操作をしても、依然として封止状態が維持されるように規制部材19を用いて弁体17を位置決めする。
【0062】
また、弁体17とノズル板15との間の隙間は、例えば15μmを中心値として、±0.1μmの範囲となるように、開放電圧Vhを制御する。斯かる制御を行うことで吐出滴量Mjのばらつきを1%以下に制御することができる。なお、電圧範囲は、所望の吐出滴量Mjの範囲に応じて適宜調整される。
【0063】
ここで、弁体17の位置とノズル14から吐出する流量との関係の一例について説明する。
図5は第1実施形態に係る液体吐出モジュール20の弁体位置と流量の関係図である。
【0064】
例えば弁体17の位置が1μmずれると、単位時間当たりの流量が大きく変化するため、部品加工または弁体17の位置決めにおいては、サブミクロンオーダーの非常に高い精度が求められる。
【0065】
しかしながら、実際には部品加工または弁体17の位置決めにおいて精度を求めるのは非常に困難であり、弁体17をノズル板15に押し込んで弁体17の長さが飽和した状態(それ以上圧縮できない状態)で弁体17を位置決めする。
【0066】
しかし、吐出デューティ比(1周期当たりの開放電圧時間÷駆動周期)が比較的大きい場合には、弁体17の圧縮変形の回復量が無視できなくなる。すなわち、1周期分の弁体17とノズル板15との間のギャップの平均値が吐出開始からの経過時間によって変化してしまう。その結果、駆動開始からの経過時間によって吐出滴量等の吐出性能が時間変動してしまう。
【0067】
そこで、駆動波形発生回路41は、アクチュエータ18の非駆動時間に弁体17を所定時間以上圧縮することで弁体17の潰れ量を揃えてから、駆動開始からの経過時間に応じて開放電圧Vhを設定するように制御する。
【0068】
(液体吐出装置の構成)
次に、液体吐出装置の構成について説明する。
図6は第1実施形態に係る液体供給機構30の構成図である。液体吐出装置100は、液体供給機構30を備える。液体供給機構30は、複数の液体吐出ヘッド10の各々から吐出する各色の液体25を収容する密閉容器としてのタンク31を備える。
【0069】
なお、第1液体吐出ヘッド10a~第4液体吐出ヘッド10dを総称する場合は液体吐出ヘッド10と称し、第1液体25a~第4液体25dを総称する場合は液体25と称し、第1タンク31a~第4タンク31dを総称する場合はタンク31と称する。
【0070】
液体吐出ヘッド10の供給ポート12(
図1または
図2を参照)と、タンク31とは、それぞれチューブ32を介して接続される。タンク31は、エアーレギュレータ33を備えるパイプ34を介してコンプレッサ35に接続される。コンプレッサ35がタンク31に加圧空気を供給することにより、液体吐出ヘッド10の内部の液体25は加圧状態になり、ノズル14を弁体17に開放させればノズル14から液体25が吐出する。
【0071】
ここで、コンプレッサ35、エアーレギュレータ33を備えるパイプ34、タンク31、およびチューブ32は、液体吐出ヘッド10に対して液体25を加圧供給する液体供給機構30を構成する。
【0072】
図7は第1実施形態に係る液体吐出装置100の構成図である。
図7では、理解を容易にするため、液体供給機構30を省略している。
【0073】
液体吐出装置100は、液体が吐出される対象物Sに対向して設置される。液体吐出装置100は、例えば、X軸レール101と、X軸レール101と交差するY軸レール102と、X軸レール101およびY軸レール102と交差するZ軸レール103を備える。
【0074】
Y軸レール102はX軸レール101がY方向に移動可能となるようにX軸レール101を保持する。X軸レール101はZ軸レール103がX方向に移動可能となるようにZ軸レール103を保持する。Z軸レール103はキャリッジ71がZ方向に移動可能となるようにキャリッジ71を保持する。キャリッジ71は液体吐出ヘッド10および駆動制御装置40と共に液体吐出ユニット60を構成する。
【0075】
液体吐出装置100には、X軸レール101をY軸レール102に沿ってY方向に駆動するY方向駆動アクチュエータ82が設けられる。また液体吐出装置100には、Z軸レール103をX軸レール101に沿ってX方向に動かすX方向駆動アクチュエータ72が設けられる。さらに液体吐出装置100には、キャリッジ71をZ軸レール103に沿ってZ方向に駆動する第1Z方向駆動アクチュエータ92と、キャリッジ71に対してヘッド保持体70をZ方向に駆動する第2Z方向駆動アクチュエータ93と、を備える。
【0076】
キャリッジ71は液体吐出ヘッド10を保持するヘッド保持体70を備える。キャリッジ71は第1Z方向駆動アクチュエータ92からの動力によりZ軸レール103に沿ってZ方向へ移動する。またヘッド保持体70は第2Z方向駆動アクチュエータ93からの動力によりキャリッジ71に対してZ方向へ移動する。
【0077】
X方向駆動アクチュエータ72、Y方向駆動アクチュエータ82、第1Z方向駆動アクチュエータ92、および第2Z方向駆動アクチュエータ93は、例えば電動モータ等の電動アクチュエータである。
【0078】
液体吐出装置100は、キャリッジ71をX軸、Y軸およびZ軸の方向に動かしながら、ヘッド保持体70に設けられた液体吐出ヘッド10から液体25を吐出し、対象物Sに描画を行う。キャリッジ71およびヘッド保持体70のZ方向への移動は、Z方向と平行である必要はなく、少なくともZ方向の成分を含んでいれば斜め方向への移動であってもよい。
【0079】
なお、液体が吐出される対象物Sの表面形状は平面として示されているが、平面に限定されない。対象物Sの表面形状は、車またはトラック等の車体、あるいは航空機の機体等のように曲率半径の大きい面または鉛直面に対して傾斜した面等であってもよい。
【0080】
また、ライン型インクジェットプリンタの場合のように、キャリッジ71、各軸レールおよび各方向駆動アクチュエータは必ずしも必須の構成要素ではない。
【0081】
(液体吐出装置の制御構成)
次に、液体吐出装置100の制御構成について説明する。
図8は第1実施形態に係る液体吐出装置100の制御構成のブロック図である。
【0082】
液体吐出装置100は、コントローラ901と、ヘッド駆動制御部902と、を備えるが、ヘッド駆動制御部902のみを備える構成であってもよい。コントローラ901は、有線または無線を通じてPC903等の外部装置と通信可能である。
【0083】
PC903は、RIP部9031(Routing Information Protocol)と、レンダリング部9032と、を備える。なお、RIP部9031とレンダリング部9032は、PC903に設けられるのではなく、コントローラ901のシステム制御部9011に設けられてもよい。
【0084】
RIP部9031は、カラープロファイルまたはユーザの設定に応じて画像処理を行う機能を有する。レンダリング部9032は、対象物Sに描画する画像データを、スキャン毎(例えばキャリッジ71が1回のX軸方向への移動で描画する単位毎)の画像データに分解する機能を有する。
【0085】
PC903には、入力装置9033が接続される。入力装置9033としては、キーボード、マウス、およびタッチパネル等が挙げられる。入力装置9033は、対象物Sに描画する画像データ、座標データの設定、描画モードの選択等のユーザからの入力を受け付ける。
【0086】
コントローラ901は、システム制御部9011と、画像データ格納部9012と、メモリ制御部9013と、吐出周期信号生成部9014と、キャリッジ制御部9015と、を備える。
【0087】
システム制御部9011は、PC903から画像データまたは制御指令を受信し、液体吐出装置100全体の動作を制御する。画像データ格納部9012は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、またはHDD(Hard Disk DriVe)等の記憶装置を備え、PC903から受信した画像データ等を格納する。
【0088】
メモリ制御部9013は、システム制御部9011からの制御指令に基づき、画像データ格納部9012への画像データ等の書き込み、画像データ格納部9012からの画像データ等の読み出しを行う。
【0089】
吐出周期信号生成部9014は、エンコーダセンサ109の出力信号と、PC903から受信した画像データの解像度を示す情報とに基づき、液体の吐出周期信号を生成する。吐出周期信号には、例えばキャリッジ71が1回のX軸方向への移動で描画する単位毎(スキャン毎)の周期パルスが含まれる。
【0090】
エンコーダセンサ109は、例えば、液体吐出装置100のX軸レール101に沿って設置されたリニアエンコーダのスリットを光学的に検出して出力信号を発生する。なお、エンコーダセンサ109は、少なくともキャリッジ71のX方向の位置を検知できる構成であればよく、リニアエンコーダ方式に限るものではない。例えばエンコーダセンサ109は、X方向駆動アクチュエータ72の一例であるモータの回転をカウントするロータリーエンコーダ方式であってもよい。
【0091】
キャリッジ制御部9015は、エンコーダセンサ109の出力信号に基づきキャリッジ71の位置または速度等を算出して、X方向駆動アクチュエータ72の速度を制御する。
【0092】
以上のようにコントローラ901は、システム制御部9011、画像データ格納部9012、メモリ制御部9013、吐出周期信号生成部9014、およびキャリッジ制御部9015等を備える。
【0093】
コントローラ901は、プロセッサ等の演算処理装置およびメモリ等の記憶装置を有し、記憶装置内に事前に記録されているプログラムを演算処理装置が実行することで、これら各機能部を実現する。
【0094】
ヘッド駆動制御部902は、駆動制御装置40の一例であり、液体吐出ヘッド10の駆動を制御する。なお、駆動制御装置40は、コントローラ901およびヘッド駆動制御部902を含んで構成されてもよい。
【0095】
ヘッド駆動制御部902は、
図3で示したように、駆動波形発生回路41と、増幅回路42と、を備える。駆動波形発生回路41は、駆動波形データ格納部9021と、駆動波形生成部9022と、を備える。増幅回路42は、電圧増幅部9024と、電流増幅部9025と、を備える。
【0096】
駆動波形データ格納部9021は、例えばフラッシュメモリ等の不揮発性メモリを備え、アクチュエータ18を駆動するための駆動波形制御データを格納する。駆動波形制御データには、アクチュエータ18の駆動波形を制御するための各種データが含まれる。
【0097】
駆動波形制御データには、例えば、駆動周期T(1滴分の駆動波形長に相当)、1周期当たりの開放電圧時間OPT、液圧P、および開放電圧変更間隔nT(nは開放電圧変更間隔係数)等の駆動波形の設定値が含まれる。
【0098】
駆動波形生成部9022は、例えばマイクロコンピュータを主体に構成される。マイクロコンピュータは、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、およびD/Aコンバータ等を備える。マイクロコンピュータは、ROM等に記憶されているプログラムをRAMにロードし、プログラムをCPUで実行させることにより、各種制御を実行する。
【0099】
マイクロコンピュータは、例えばPWM方式により、アクチュエータ18に印加される電圧を示す駆動波形を生成する。なお、駆動波形生成部9022は、FPGA(Field Programmable Gate Array)またはASIC(Application Specific Integrated Circuit)等を用いて駆動波形を生成してもよい。
【0100】
駆動波形生成部9022は、駆動波形を生成することでアクチュエータ18に印加する電圧を制御する。例えばPWM方式の場合、駆動波形生成部9022は、駆動パルスのデューティ比を変更することにより、アクチュエータ18に印加する電圧を調節する。
【0101】
具体的には、駆動波形生成部9022は、コントローラ901からの画像データと、駆動波形データ格納部9021からの駆動波形制御データと、に基づき、吐出周期信号生成部9014からの吐出周期信号を契機として駆動波形を生成する。
【0102】
例えば、駆動波形生成部9022は、コントローラ901から画像データを読み込み、画像データを構成する印写パターン(吐出滴で形成される画素の集合)をラベリングする。
【0103】
次いで駆動波形生成部9022は、印写パターンを構成する画素値に基づいて、印写パターン毎にアクチュエータ18の駆動条件(駆動周期T、1周期当たりの開放電圧時間OPT、液圧P、および開放電圧変更間隔nT等)を決定し駆動波形制御データを作成する。
【0104】
また、駆動波形生成部9022は、駆動開始からの経時時間tに応じた弁体17の長さの回復量D(t)に基づいて所定の開放電圧変更間隔nTで開放電圧Vhを変更し、開放電圧Vhを画素に対応付けた駆動波形制御データを作成する。
【0105】
なお、画素と駆動波形制御データとの紐づけ方、および、開放電圧変更間隔nTの決め方等は、液体25の物性、弁体17の材質および形状、および弁体17とノズル板15との間の距離(ギャップGAP)等に依存するので、予め実験により定めておく。
【0106】
そして、駆動波形生成部9022は、画素と駆動波形制御データとを紐づけた印写画像データを作成する。最後に、駆動波形生成部9022は、吐出周期信号生成部9014からの吐出周期信号を契機として、液体の吐出を行う印写パターンを特定し、特定した印写パターンに含まれる画素および駆動波形制御データに基づいて駆動波形を生成する。
【0107】
駆動波形生成部9022は、生成した駆動波形を電圧増幅部9024に出力する。電圧増幅部9024は、例えばオペアンプを主体に構成される。電圧増幅部9024は、駆動波形の電圧を増幅して電流増幅部9025に送出する。
【0108】
電流増幅部9025は、例えばトランジスタ増幅回路を主体に構成される。電流増幅部9025は、電圧増幅部9024で増幅された駆動波形に基づいて電流を増幅し、アクチュエータ18に所望の電圧を印加する。
【0109】
以上のように、ヘッド駆動制御部902は、駆動波形データ格納部9021、駆動波形生成部9022、電圧増幅部9024、および電流増幅部9025等を備える。ヘッド駆動制御部902で生成された駆動波形により、アクチュエータ18の駆動がチャンネル毎に制御される。なお、ヘッド駆動制御部902は、DC-DCコンバータ(直流-直流変換器)を主体に構成されてもよい。
【0110】
(開放電圧とアクチュエータ電圧との関係)
次に、
図9Aおよび
図9Bを参照して電源電圧とアクチュエータ電圧との関係について説明する。
図9A(a)は液体吐出ヘッド10の電気系の等価回路である。符号V1は電源電圧を示し、符号R1はダンピング抵抗を示し、符号C1はアクチュエータ18としての圧電素子の電気容量を示す。
【0111】
本例では、電源電圧V1の電圧波形を矩形波とし、駆動波形の駆動周波数を2kHzとし、駆動周期における開放電圧時間OPTを300μsとし、ダンピング抵抗R1を150Ωとし、アクチュエータ18の電気容量C1を0.8μFとする。
【0112】
図9A(b)および
図9A(c)は、例えばアクチュエータ18として電圧印加により収縮するタイプの圧電素子を用いた場合の電源電圧V1の波形と、アクチュエータ電圧Vaの波形と、を示している。
【0113】
液体吐出ヘッド10の電気系はRC回路と等価であるので、電源電圧V1の波形とアクチュエータ電圧Vaの波形とは異なる。例えば開放電圧Vhを50Vとした場合、電源電圧V1の波形およびアクチュエータ電圧Vaの波形は
図9A(b)に示すようになる。例えば開放電圧Vhを100Vとした場合、電源電圧V1の波形およびアクチュエータ電圧Vaの波形は
図9A(c)に示すようになる。
【0114】
つまりアクチュエータ電圧Vaの波形は、電源電圧V1の矩形波と比べ、鈍った波形となる。電源電圧V1の波形は、狙いの開放電圧Vhおよび狙いの閉鎖電圧Vcそのものを示す。一方、アクチュエータ電圧Vaの波形は、狙いの開放電圧Vhおよび狙いの閉鎖電圧Vcとは異なる電圧値を示す。
【0115】
以下では、理解を容易にするため、電源電圧V1の波形を「駆動波形」と称するが、駆動波形は、電源電圧V1の波形に限定されないことに留意されたい。例えば、マイクロコンピュータから電源へ出力されるPWM信号等の駆動信号も駆動波形の一例である。
【0116】
なお、アクチュエータ18として電圧印加により伸張するタイプの圧電素子を用いた場合は、電源電圧V1の最大電圧が狙いの閉鎖電圧Vcとなり、電源電圧V1の最小電圧が狙いの開放電圧Vhとなる。従って、電源電圧V1の波形は上下逆さまとなることに留意されたい。
【0117】
また、
図9A(b)および
図9A(c)の破線は、アクチュエータ電圧Vaの1周期当たりの平均値を示している。開放電圧Vhが大きいほど、アクチュエータ電圧Vaの平均値も大きくなる。実際に、立ち上がり時を除いた定常状態では、アクチュエータ電圧Vaの1周期当たりの平均値は開放電圧Vhに比例する。
【0118】
図9B(d)は、開放電圧Vhとアクチュエータ電圧Vaの平均値との関係を示す。開放電圧Vhを変更した場合、アクチュエータ電圧Vaの駆動周期当たりの平均値は開放電圧Vhに比例している。
【0119】
(弁体長さの回復量の算出方法)
ここで、弁体17の長さの回復量について考える。
図10は実施例に係る弁体長さの回復量の説明図(a)~(c)である。
図10(a)および
図10(b)は液体吐出ヘッド10のノズル14の周辺領域をノズル板15に対して垂直に切った断面図である。
【0120】
図10に示す例では、弁体17が先端部に凹部17bを備える。液体吐出ヘッド10の供給ポート12から液圧Pを印加しながら弁体17にノズル14を開閉させることでノズル14から液体25を吐出させる。
【0121】
弁体17が少なくとも一部に弾性を有する場合、弁体17を十分に圧縮した状態から開放すると、弁体17の長さが時間の経過と共に回復する。
【0122】
図10(a)に示すように弁体17を剛体とみなした場合、剛体としての弁体17の先端面のノズル板15からの剛性変位ZR(t)は、次の式(1)に示すようにアクチュエータ電圧Va(t)に比例する。
【0123】
【0124】
式(1)において、u1は比例定数であり、tは駆動開始からの時刻である。式(1)より、駆動波形を矩形波としたときの、ノズル板15からの弁体17の剛性変位ZR(t)の平均値は、次の式(2)に示すように、駆動周期当たりのアクチュエータ電圧Va(t)の平均値に比例することが分かる。
【0125】
【0126】
一方、前述の通り、駆動周期当たりのアクチュエータ電圧Va(t)の平均値は、次の式(3)に示すように開放電圧Vhに比例する。
【0127】
【0128】
式(3)において、u2は比例定数であり、例えば
図9B(d)に示す例では、0.5977である。式(2)および式(3)において、u1・u2=u3とすると、ノズル板15からの弁体17の剛性変位ZR(t)は、次の式(4)により表される。
【0129】
【0130】
比例定数u1と比例定数u2はいずれも事前の実験から得られる量であるので、比例定数u3も既知の量となる。
【0131】
但し、
図10(b)に示すように、弁体17は、剛体ではなく、少なくとも一部に弾性を有する弾性体であるので、弾性体としての弁体17の先端面のノズル板15からの弾性変位ZE(t)の平均値は、次の式(5)により表される。
【0132】
【0133】
式(5)において、D(t)は、駆動開始からの経過時間t後の弁体長さの回復量(粘性ひずみの項)である。但し、弁体17は、駆動開始前に十分圧縮され、駆動直後にノズル板15から瞬間的に離れるものとする。また、弾性ひずみの項はノズル板15からの弁体17の弾性変位ZE(t)に入っているものとする。
【0134】
駆動開始からの経過時間t後の、弁体17のノズル板15からの剛性変位ZE(t)と、ノズル板15からの弁体17の弾性変位ZE(t)との差異が
図10(a)および
図10(b)に示されている。
【0135】
なお、開放電圧Vhが小さ過ぎると、弁体17の長さの回復によって駆動開始からの経過時間tが0より大きくても、弁体17のノズル板15からの弾性体変位ZE(t)が0となる場合がある。しかし、本例では、開放電圧Vhが十分に大きく、駆動開始直後には、弁体17の先端面がノズル板15から瞬間的に離れる場合に限って考える。従って、駆動開始からの経過時間tが0より大きい場合には、ノズル板15からの弁体17の弾性変位ZE(t)は0より大きくなることが保証されている。
【0136】
フォークトモデル(Voigt model)に従って弁体17の長さが回復する場合、弁体17の長さの回復量D(t)は、次の式(6)により表される。
【0137】
【0138】
式(6)において、D(∞)は弁体17の長さが回復しきった時の弁体17の長さの最大回復量であり、Bは正の定数である。弁体17の長さの最大回復量D(∞)、および、定数Bは、いずれも弁体17の物性によって定まるので、事前に実験により取得しておく。
【0139】
式(6)より、弁体17の長さは
図10(c)に示すように回復する。
図10(c)は駆動開始からの経過時間tに応じた弁体17の長さの回復量D(t)のプロファイルである。
【0140】
(開放電圧の算出方法)
式(5)におけるノズル板15からの弁体17の弾性変位ZE(t)は、弁体17とノズル板15との間の距離(ギャップGAP)に対応する。弁体17とノズル板15との間のギャップGAPに応じてキャップ部の流体抵抗Rf1が定まる。流体抵抗Rf1は、次の式(7)により表される。
【0141】
【0142】
式(7)において、ηは液体25の粘度であり、r1は弁体17の凹部17b(弾性部材17a)の内半径であり、r2は弁体17(弾性部材17a)の外半径であり、aは正の定数である。
【0143】
供給ポート12からノズル14までの流体抵抗は、ギャップ部の流体抵抗Rf1と、ノズル14の流体抵抗Rf2と、の和が支配的である。よって、液圧Pを供給ポート12から印加した時のノズル14の体積流量Q(t)は、次の式(8)により表される。式中、ΔPは液圧P-大気圧P0であり、bは正の定数(ノズルの流体抵抗Rf2等)である。
【0144】
【0145】
圧電素子の駆動周期をTとし、駆動開始直後からの経過時間をt(=T,2T,3T,…)とすると、時刻t-Tから時刻tまでのQ(t)の時間積分値が吐出滴量Mj(t)となる。すなわち、駆動周期T当たりの吐出滴量Mjは、次の式(9)に示すようにギャップGAPが含まれる関数の時間積分で表される。
【0146】
【0147】
駆動周期Tに対する開放電圧時間OPTの比である吐出デューティ比が比較的大きく、且つ、駆動中に弁体17がノズル板15に接触しない場合、ギャップGAPの平均値は、式(5)を用いて次の式(10)により表される。
【0148】
【0149】
式(10)から分かるように、開放電圧Vhを一定にしてアクチュエータ18を駆動し続けると、弁体17の長さの回復量D(t)が経過時間tと共に増加し、ギャップGAPの平均値が減少する。すなわち、
図9Aに示すように、定常状態においてアクチュエータ電圧Va(t)は周期Tの連続な周期関数であるため、時刻tにおけるギャップGAP(t)は1周期前のギャップGAP(t-T)よりも小さくなる(GAP(t)<GAP(t-T))。このGAP(t)<GAP(t-T)の関係と式(9)より、時刻tの駆動周期当たりの吐出滴量Mj(t)は、1駆動周期前の吐出滴量Mj(t-T)より小さくなり、Mj(t)<Mj(t-T)の関係となる。その結果、吐出滴量Mjは時間の経過とともに減少してしまう。
【0150】
ここで、式(10)を変形すると、次の式(11)が得られる。
【0151】
【0152】
式(11)に示すように、開放電圧Vhは、狙いのギャップGAPと、弁体17の長さの回復量D(t)と、に応じて設定することができる。すなわち、開放電圧Vhは、式(6)および式(11)から求まる、次の式(12)により設定することができる。
【0153】
【0154】
式(12)において、Vh0は経過時間tが0のときの開放電圧であり、狙いの吐出滴量Mjによって変更される。AおよびBは定数である。定数Aは、弁体17が回復しきった後に狙いの吐出滴量Mjを得るために必要な開放電圧Vhと、経過時間tが0のときの開放電圧Vh0との差を表す値である。定数Bは、弁体17の長さの回復のし易さを表す値である。expは自然対数の底eのべき乗を計算する関数である。定数Aおよび定数Bは、弁体17(すなわち弾性部材17a)の材質および形状に応じて予め定められた値であり、事前に実験により定めておく。
【0155】
駆動波形データ格納部9021は、弁体17の材質および形状に関する情報(例えば、弁体17の部品番号または材質番号等)と、定数Aおよび定数Bとを対応づけたデータベースを格納する。
【0156】
駆動波形生成部9022は、弁体17の材質および形状に関する情報の入力に応じて、駆動波形データ格納部9021のデータベースを参照し、適切な定数Aおよび定数Bを式(12)に設定する。
【0157】
そして駆動波形生成部9022は、アクチュエータ18の非駆動時間trest内に所定の圧縮必要時間tEだけ弁体17を圧縮した上で、式(12)に基づき駆動開始からの経過時間tに応じて開放電圧Vhを変更する。これにより、吐出滴量Mjの時間変動を抑制することが可能となる。
【0158】
式(12)によれば、経過時間tが0のときの開放電圧Vh0、および、定数Aおよび定数Bという比較的少ないパラメータによって開放電圧Vhを正確に変更することができる。ひいては、駆動電圧制御回路または駆動制御プログラムの複雑化を回避することができる。なお、駆動制御装置40は、経過時間tと開放電圧Vhの対応関係を、式(12)を用いて対応付けた対応テーブルを記憶しておいても良い。駆動制御装置40は、このような対応テーブルを用いて、経過時間tに対する開放電圧Vhを設定することができる。
【0159】
(圧縮必要時間および回復必要時間)
次に、弁体17の長さの時間変化について説明する。
図11は第1実施形態に係る弁体の圧縮必要時間tEおよび回復必要時間tsの説明図である。
【0160】
弁体17が少なくとも一部に弾性を有する弾性体である場合、弁体17を押し込む時間が短い程、弁体17の長さの圧縮量(弁体17の潰れ量)が小さくなる。また、弁体17の押し込み時間が長い程、
図11に示すように弁体17の長さが飽和する。
【0161】
ここで、弁体17の圧縮必要時間tEとは、弁体17の長さが飽和した状態(それ以上圧縮できない状態)になるまで押し込むのに掛かる時間を意味する。一方、弁体17の回復必要時間tsとは、駆動周期T程度の時間で弁体17の長さが回復する時間を意味する。
【0162】
弁体17の圧縮必要時間tEおよび回復必要時間tsは、弁体17の物性(すなわち弾性部材17aの弾性率)に応じて決まるため、事前に実験により定めておく。弁体17の弾性率が大きい場合は、圧縮による歪量が小さく圧縮状態から回復する時間が短いため、圧縮必要時間tEおよび回復必要時間tsは相対的に短くなる。弁体17の弾性率が小さい場合は圧縮による歪量が大きく回復に時間を要するため、圧縮必要時間tEおよび回復必要時間tsは相対的に長くなる。このように、弁体の弾性率から、圧縮必要時間tEおよび回復必要時間tsを設定することができる。
【0163】
駆動波形データ格納部9021は、弁体17(すなわち弾性部材17a)の弾性率に関する情報(例えば、弁体17の設定コード等)と、弁体17の圧縮必要時間tEおよび弁体17の回復必要時間tsとを対応づけたデータベースを格納する。
【0164】
駆動波形生成部9022は、弁体17の弾性率に関する情報の入力に応じて、駆動波形データ格納部9021のデータベースを参照し、弁体17の圧縮必要時間tEおよび弁体17の回復必要時間tsを設定する。そして駆動波形生成部9022は、弁体17の圧縮必要時間tEおよび弁体17の回復必要時間tsに応じて駆動波形を生成する。
【0165】
例えば印写パターンと印写パターンとの間のアクチュエータ18の非駆動時間trestが弁体17の回復必要時間ts以上であり且つ弁体17の圧縮必要時間tE以上である場合は、弁体17の長さが回復または圧縮するのに十分な非駆動時間trestがある。そこで、印写パターン毎に経過時間tを0にリセットし、印写パターン毎の経過時間tに応じて開放電圧Vhを変更することが好ましい。以下では、印写パターン毎の経過時間tに応じて開放電圧Vhを変更する駆動波形を「第1駆動波形」と称する。
【0166】
一方、印写パターンと印写パターンとの間のアクチュエータ18の非駆動時間trestが弁体17の回復必要時間ts未満の場合は、弁体17の長さが回復するのに十分な非駆動時間trestがない。そこで、印写パターン毎に経過時間tをリセットせず、複数の印写パターンに亘る経過時間tに応じて開放電圧Vhを変更していくことが好ましい。以下では、複数の印写パターンに亘る経過時間tに応じて開放電圧Vhを変更する駆動波形を「第2駆動波形」と称する。
【0167】
他方、印写パターンと印写パターンとの間のアクチュエータ18の非駆動時間trestが弁体17の回復必要時間ts以上であるが、圧縮必要時間tE未満である場合は、弁体17の長さが圧縮するには十分な非駆動時間trestがない。そこで、印写パターン毎に開放電圧Vhをリセットし、印写パターン毎の経過時間tに応じて開放電圧Vhを変更すると共に、非駆動時間trest内に弁体17をノズル板15に押し込む追加の圧縮電圧ΔVを閉鎖電圧Vcに加えることが好ましい。以下では、非駆動時間trest内に弁体17をノズル板15に押し込む圧縮電圧ΔVを閉鎖電圧Vcに加える駆動波形を「第3駆動波形」と称する。
【実施例0168】
以下では、実施例により本発明に係る液体吐出ヘッド10の制御方法をさらに具体的に説明するが、本発明の技術は次の実施例により限定されるものではない。
【0169】
第1駆動波形、第2駆動波形、および第3駆動波形を生成する実施例について説明する。なお、アクチュエータ18には、電圧印加により収縮するタイプの圧電素子を用いた。
【0170】
また、実施例における液体吐出ヘッド10の弁体17の弾性部材17aには、弾性率400MPaのPTFEを用いた。
【0171】
開放電圧Vhを印可したときの弁体17とノズル板15との間隔は、15μmを中心に制御した。式(12)の経過時間t=0のときの開放電圧Vh0は、弁体17とノズル板15との間隔から設定でき、本実施例では、70Vに設定した。
【0172】
式(12)の定数Aおよび定数Bは、アクチュエータ18に閉鎖電圧Vc=5Vを圧縮必要時間tE=1秒間だけ印可した後に、開放電圧Vh0を印可した後の変形量を変位計で測定することで、式(6)および式(12)から算出した。本実施例では、定数A=2V,定数B=100/秒の設定とした。
【0173】
液体吐出ヘッド10の駆動条件は、吐出周期T=500μs(吐出周波数2kHz),1吐出周期当たりの吐出量Mj=11ナノリットルとなるように、液体の圧力等の条件を設定した。さらに、圧縮必要時間tE=1s,回復必要時間ts=10ms,及び圧縮電圧ΔV=2Vを、実験データより設定した。
【0174】
(第1駆動波形の構成)
図12は実施例に係る第1駆動波形を示す模式図である。例えば、
図12に示す第1印写パターン,第2印写パターン,・・・を、左から順に液体吐出ヘッド10により形成する場合を考える。
図12の印写パターンの四角の一つ一つは画素を表す。
【0175】
灰色の画素は1駆動周期である1T(Tは駆動周期)分を1滴で形成する画素であり、白色の画素は1駆動周期である1Tだけ吐出なしで形成する画素である。つまり1画素を1滴で形成する場合に限って考えた場合、吐出滴量Mjは1画素毎に出ていく1滴の量となる。なお、本実施形態では、1画素を1駆動周期分(1T)とし、1駆動周期あたり1滴とする例を示すが、画素と駆動周期の関係は任意に設定することができる。同様に、駆動周期と吐出滴の数は、任意に設定することができる。例えば、1画素を2駆動周期とし、1駆動周期あたり2滴の吐出滴とすることで、1画素を4滴で構成しても良い。
【0176】
開放電圧変更間隔を2T(Tは駆動周期)として印写パターンを形成する場合、t=nT,2nT,・・・のタイミングで、式(12)に基づいて開放電圧Vhが変更される。結果として、開放電圧Vhが
図12の中央に示すように2画素毎に階段状に上昇していく第1駆動波形が生成される。なお、nは開放電圧変更間隔係数であり、本例ではn=2である。
【0177】
なお、アクチュエータ18として電圧印加により伸張するタイプの圧電素子を用いた場合、第1駆動波形は、
図12に示す駆動波形の上下逆さまとなって、開放電圧Vhが2画素毎に階段状に下降していく波形となる。
【0178】
ここで、閉鎖電圧Vcを弁体17の圧縮必要時間tE以上、アクチュエータ18に印加する非駆動時間trestが第1期間tp1である。また、第1期間tp1の後、開放電圧Vhをアクチュエータ18に印加する駆動時間が第2期間tp2である。
【0179】
第2期間tp2では、
図12の下部に示すように、駆動波形として、例えば、1周期当たりに開放電圧時間を含む矩形波の駆動パルス波形が印加される。駆動パルス波形を生成する際には、駆動パルス波形の駆動周期T、1周期当たりの開放電圧時間OPT、および開放電圧Vh等が設定される。
【0180】
第2期間tp2では、第2期間tp2の開始時刻(駆動開始)からの経過時間tに応じて閉鎖電圧Vcと開放電圧Vhとの差が大きくなるように開放電圧Vhが変更される。
【0181】
また、式(12)によれば、経過時間tが小さい間は、弁体17の回復量D(t)の変化量が大きく、経過時間tが大きい間は、弁体17の回復量D(t)の変化量が小さくなる傾向がある。従って、変更前の開放電圧Vhと変更後の開放電圧Vhとの差が経過時間tに応じて小さくなるように開放電圧Vhが変更される。
【0182】
以上のように、第1期間tp1では、弁体17の圧縮必要時間tE以上、閉鎖電圧Vcが印加されるので、弁体17の長さを初期化し、弁体17の潰れ量を揃えることができる。一方、第2期間tp2では、駆動開始からの経過時間tに応じて開放電圧Vhが変更されるので、弁体17の長さの回復に伴うギャップGAPの平均値の時間変動が抑制され、吐出滴量Mjの時間変動を抑制することができる。
【0183】
また、時間的に隣り合う2個の第2期間tp2の間の第1期間tp1では、印写パターンと印写パターンとの間の画素数が比較的多く、印写パターン間の非駆動時間trestが弁体17の回復必要時間ts以上であり且つ圧縮必要時間tE以上である。従って、次の第2印写パターンに移る際には、駆動開始からの経過時間tを0にリセットし、開放電圧Vhが初期化される。
【0184】
すなわち、非駆動時間trestにおける弁体17の長さの回復必要時間tsおよび圧縮必要時間tEを考慮することで、次の印写パターンに移る際の吐出滴量Mjの誤差を抑制することができる。
【0185】
(第1駆動波形の生成手順)
次に、第1駆動波形を生成する処理手順について説明する。
図13は実施例に係る第1駆動波形の生成フローチャートである。太い矢印で示される処理手順により、第1駆動波形が生成される。
【0186】
ここで、以下のフローチャートは、駆動波形制御データ(駆動周期T、1周期当たりの開放電圧時間OPT、開放電圧Vh、および開放電圧変更間隔nT等)を作成するための処理手順である。従って、以下のフローチャートにおける「印写開始」、「印加」、および「印写終了」等の用語は、駆動波形を生成するためのアクションに過ぎない。実際に、印写を開始したり、または、駆動波形を印加したりするのではなく、どのタイミングでどのアクションを行うか等を示す駆動波形制御データが作成されるだけである。
【0187】
ステップS10では、駆動制御装置40が所定の圧縮必要時間tE以上、閉鎖電圧Vcを印加する駆動波形制御データを作成する。
【0188】
ステップS11では、駆動制御装置40が印写パターン番号kを初期化する。印写パターン番号kは画像データを構成する印写パターンのラベリング番号に相当する。
【0189】
ステップS12では、駆動制御装置40が駆動開始からの経過時間tを0にリセットする。
【0190】
ステップS13では、駆動制御装置40が印写パターン番号kをインクリメントする。
【0191】
ステップS14では、駆動制御装置40が印写パターンの画素数に応じて吐出滴数Nを更新する。吐出滴数Nとは、1個の印写パターン当たりの連続吐出滴数である。本例では、吐出滴数Nが印写パターンの画素数に相当する。
【0192】
ステップS15では、駆動制御装置40が式(12)に基づいて経過時間tに応じて(すなわち、弁体17の長さの回復量D(t)に応じて)開放電圧Vhを算出する。ここで、駆動制御装置40は、式(12)を用いて開放電圧Vhを直接算出してもよいが、式(12)を用いて予め計算した経過時間tと開放電圧Vhとの対応表(対応テーブル)を記憶しておき、対応表を参照し経過時間tに対応する開放電圧Vhを求めても良い。
【0193】
ステップS16では、駆動制御装置40が開放電圧Vhを変更する。
【0194】
ステップS17では、駆動制御装置40が開放電圧Vhの駆動波形を印加する駆動波形制御データを作成する。
【0195】
ステップS18では、駆動制御装置40が開放電圧変更間隔nTを経過時間tに加算する。
【0196】
ステップS19では、駆動制御装置40により、経過時間tが印写パターンの吐出時間NT以上であるかが判定される。すなわち、対象とする印写パターンに開放電圧Vhの変更タイミングが残っているかが判定される。
【0197】
開放電圧Vhの変更タイミングが残っている場合は(ステップS19のNO)、ステップS15に戻ることで、駆動制御装置40が経過時間tに応じて開放電圧Vhを変更する。
【0198】
開放電圧Vhの変更タイミングが残っていない場合は(ステップS19のYES)、ステップS20において、駆動制御装置40が開放電圧Vhを変更して、開放電圧変更間隔nTに満たない残滴数分の駆動波形を印加する駆動波形制御データを作成する。
【0199】
ステップS21では、駆動制御装置40により、次の印写パターンがあるかが判定される。
【0200】
次の印写パターンがない場合は(ステップS21のNO)、印写を終了する。
【0201】
次の印写パターンがある場合は(ステップS21のYES)、ステップS22において、駆動制御装置40が非駆動時間trestを更新する。
【0202】
ステップS23では、駆動制御装置40により、非駆動時間trestが弁体17の回復必要時間ts未満であるかが判定される。
【0203】
なお、本例では、第1駆動波形の生成手順に限って説明するため、非駆動時間trestは回復必要時間ts以上である(ステップS23のNO)。すなわち、弁体17が回復するのに十分な非駆動時間trestがある。
【0204】
ステップS24では、駆動制御装置40により、非駆動時間trestが弁体17の圧縮必要時間tE以上であるかが判定される。
【0205】
なお、本例では、第1駆動波形の生成手順に限って説明するため、非駆動時間trestは圧縮必要時間tE以上である(ステップS24のYES)。すなわち、弁体17が圧縮するのに十分な非駆動時間trestがある。
【0206】
ステップS25では、駆動制御装置40が非駆動時間trestだけアクチュエータ18を非駆動とする駆動波形制御データを作成する。
【0207】
ステップS26では、駆動制御装置40が次の印写パターンに適した、駆動周期T、1周期当たりの開放電圧時間OPT、開放電圧Vh(経過時間tが0のときの開放電圧Vh0)、および開放電圧変更間隔係数n等の駆動波形制御データを作成する。これにより、次の印写パターンに適した吐出滴量Mjまたはドット密度が実現される。
【0208】
そして、ステップS12に戻り、駆動制御装置40は駆動開始からの経過時間tをリセットする。すなわち、ステップS12~ステップS20の処理手順により、駆動制御装置40は次の印写パターンに応じて開放電圧Vhを変更していく。
【0209】
ステップS21において、次の印写パターンがなくなるまで以上の処理手順が繰り返される。
【0210】
(第2駆動波形の構成)
図14は実施例に係る第2駆動波形を示す模式図である。以下では、第1駆動波形の構成とは異なる箇所について説明する。
【0211】
印写パターンと印写パターンとの間の画素数が比較的少なく、印写パターン間の非駆動時間trestが弁体17の長さの回復必要時間ts未満となる場合がある。非駆動時間trestが弁体17の長さの回復に不十分である場合は、次の第2印写パターンに移っても経過時間tをリセットせず、経過時間tに非駆動時間trestを加算した経過時間tを次の第2印写パターンの開始時刻とすることが好ましい。
【0212】
すなわち、破線で示すように、同一の開放電圧変更曲線(式(12))に従って複数の印写パターンに亘って開放電圧Vhが変更される。結果として、
図14の中央に示すように開放電圧Vhが複数の印写パターンに亘って2画素毎に階段状に上昇していく第2駆動波形となる。
【0213】
なお、アクチュエータ18として電圧印加により伸張するタイプの圧電素子を用いた場合、第2駆動波形は、
図14に示す駆動波形の上下逆さまとなって、開放電圧Vhが2画素毎に階段状に下降していく波形となる。
【0214】
ここで、第2期間tp2は、時間的に隣り合っていて開放電圧Vhをアクチュエータ18に印加する少なくとも2個の第3期間tp3と、2個の第3期間tp3の間にあって閉鎖電圧をアクチュエータ18に印加する第4期間tp4と、を含む。第2駆動波形において、第4期間tp4は弁体17の回復必要時間ts未満となる非駆動時間trestである。
【0215】
第4期間tp4では、
図14の下部に示すように、駆動パルスが生成されない。しかし、時間的に隣り合う2個の第3期間tp3に亘って、第2期間tp2の開始時刻(駆動開始)からの経過時間tに応じて閉鎖電圧Vcと開放電圧Vhとの差が大きくなるように開放電圧Vhが変更される。
【0216】
また、式(12)によれば、経過時間tが小さい間は、弁体17の回復量D(t)の変化量が大きく、経過時間tが大きい間は、弁体17の回復量D(t)の変化量が小さくなる傾向がある。従って、時間的に隣り合う2個の第3期間tp3に亘って、変更前の開放電圧Vhと変更後の開放電圧Vhとの差が経過時間tに応じて小さくなるように開放電圧Vhが変更される。
【0217】
以上のように、非駆動時間trestが弁体17の長さの回復に不十分な場合は、経過時間tをリセットせず、時間的に隣り合う2個の第3期間tp3に亘って開放電圧Vhが連続的に変更される。従って、次の印写パターンに移る際の吐出滴量Mjの誤差を抑制することができる。
【0218】
(第2駆動波形の生成手順)
次に、第2駆動波形を生成する処理手順について説明する。
図15は実施例に係る第2駆動波形の生成フローチャートである。太い矢印で示される処理手順により、第2駆動波形が生成される。以下では、第1駆動波形の生成フローチャートとは異なる箇所について説明する。
【0219】
ステップS23において、駆動制御装置40により、非駆動時間trestが弁体17の回復必要時間ts未満であるかが判定される。本例では、第2駆動波形の生成手順に限って説明するため、非駆動時間trestは回復必要時間ts未満である(ステップS23のYES)。すなわち、弁体17が駆動周期T程度で回復するのに十分な非駆動時間trestがない。
【0220】
ステップS27では、駆動制御装置40が経過時間tに非駆動時間trestを加算する。すなわち、ステップS27は駆動開始からの経過時間tがリセットされないことを意味する。
【0221】
ステップS28では、駆動制御装置40が非駆動時間trestだけアクチュエータ18を非駆動とする駆動波形制御データを作成する。
【0222】
ステップS29では、駆動制御装置40が、次の印写パターンに適した、駆動周期T、1周期当たりの開放電圧時間OPT、および開放電圧変更間隔係数n等の駆動波形制御データを作成する。但し、開放電圧Vhは、経過時間tが0のときの開放電圧Vh0にリセットされない点で、ステップS26の処理とは異なる。
【0223】
そして、ステップS13に戻り、駆動制御装置40は駆動開始からの経過時間tをリセットせずに、印写パターン番号kをインクリメントする。すなわち、ステップS13~ステップS20の処理手順により、駆動制御装置40は次の印写パターンに応じて開放電圧Vhを変更していく。
【0224】
ステップS21において、次の印写パターンがなくなるまで以上の処理手順が繰り返される。
【0225】
(第3駆動波形の構成)
図16は実施例に係る第3駆動波形を示す模式図である。以下では、第1駆動波形の構成とは異なる箇所について説明する。
【0226】
印写パターンと印写パターンとの間の画素数が中程度であり、印写パターン間の非駆動時間trestが弁体17の長さの回復必要時間ts以上であるが、圧縮必要時間tE未満となる場合がある。非駆動時間trestが弁体17の回復に十分であるが、弁体17の圧縮に不十分である場合は、非駆動時間trest内に追加の圧縮電圧ΔVを閉鎖電圧Vcに加えることで、弁体17の押し込み圧力を一時的に強くする制御を行うことが好ましい。
【0227】
すなわち、非駆動時間trestが回復必要時間tsと圧縮必要時間tEとの間にあるとき、追加の圧縮電圧ΔVを加えることで、圧縮電圧ΔVを閉鎖電圧Vcに加えない場合よりも短時間で弁体17の長さを初期化できる。なお、弁体17の長さの初期化とは、ノズル14が十分に封止されるように弁体17の長さが飽和した状態になるまで(それ以上圧縮できない状態)まで弁体17の長さを圧縮することを意味する。
【0228】
なお、弁体17の押し込み圧力を強くする圧縮電圧ΔVは、事前の実験で非駆動時間trestをパラメータとして定めておく。
図11に示すように、弁体17の押し込み時の電圧(閉鎖電圧Vc)が大きい程、圧縮必要時間tEは短くなり、弁体17の長さが初期化するのに必要な押し込み時間が短くて済む。
【0229】
すなわち、印写パターン間の非駆動時間trestが短い程、弁体17の押し込み圧力を強くする必要があり、非駆動時間trestが圧縮必要時間tEに近い場合は、それほど強く弁体17を押し込まなくてよい。非駆動時間trestに応じて追加の圧縮電圧ΔVを加えることで、次の画素を打ち始める時の弁体17の潰し量を揃え、画素間の吐出滴量Mjのばらつきを抑制することができる。
【0230】
但し、圧縮電圧ΔVを非駆動時間trestの関数として調整すると、駆動電圧制御回路または駆動制御プログラムが大規模化ないし複雑化してしまい、動作速度が低下する可能性がある。従って、非駆動時間trestが回復必要時間tsと圧縮必要時間tEとの間にある場合は、閉鎖電圧Vcを事前に定めた圧縮電圧ΔV(≠0V)とし、それ以外の場合は圧縮電圧ΔVを0Vとすることで、構成を単純化することが好ましい。
【0231】
結果として、
図16の中央に示すように、印写パターン間の非駆動時間trestの閉鎖電圧Vcは圧縮電圧ΔVだけ低くなった第3駆動波形となる。
【0232】
なお、アクチュエータ18として電圧印加により伸張するタイプの圧電素子を用いた場合、第3駆動波形は、
図16に示す駆動波形の上下逆さまとなって、非駆動時間trestにおける閉鎖電圧Vcが圧縮電圧ΔVだけ高くなった波形となる。
【0233】
ここで、第2期間tp2は、時間的に隣り合っていて開放電圧Vhをアクチュエータ18に印加する少なくとも2個の第3期間tp3と、2個の第3期間tp3の間にあって閉鎖電圧をアクチュエータ18に印加する第4期間tp4と、を含む。第3駆動波形において、第4期間tp4は、弁体17の回復必要時間ts以上であるが、弁体17の圧縮必要時間tE未満となる非駆動時間trestである。
【0234】
第4期間tp4では、
図16の下部に示すように、例えば、圧縮電圧ΔVを閉鎖電圧Vcに加えた駆動パルスが生成される。
【0235】
以上のように、非駆動時間trestが弁体17の長さの回復に十分であるが、圧縮に不十分な場合は、経過時間tをリセットするが、追加の圧縮電圧ΔVが閉鎖電圧Vcに加えられる。従って、閉鎖電圧Vcを補正しない場合と比べて短い時間で弁体17の長さを初期化することができる。ひいては、次の印写パターンに移る際の弁体17の潰し量を揃えることができ、画素間の吐出滴量Mjのばらつきを抑制することができる。
【0236】
(第3駆動波形の生成手順)
次に、第3駆動波形を生成する処理手順について説明する。
図17は実施例に係る第3駆動波形の生成フローチャートである。太い矢印で示される処理手順により、第3駆動波形が生成される。以下では、第1駆動波形の生成フローチャートとは異なる箇所について説明する。
【0237】
ステップS23およびステップS24において、駆動制御装置40により、非駆動時間trestが、回復必要時間ts未満であるか、および、圧縮必要時間ts以上であるかが判定される。本例では、第3駆動波形の生成手順に限って説明するため、非駆動時間trestは回復必要時間ts以上であり且つ圧縮必要時間tE未満である(ステップS24のNO)。すなわち、弁体17が回復するのに十分な非駆動時間trestがあるが、弁体17が圧縮するのに十分な非駆動時間trestはない。
【0238】
ステップS30では、駆動制御装置40が閉鎖電圧Vcに圧縮電圧ΔVを加える。すなわち、駆動制御装置40は非駆動時間trestにおいて弁体17の押し込み力を一時的に強くする。
【0239】
ステップS25では、駆動制御装置40が非駆動時間trestだけアクチュエータ18を非駆動とする駆動波形制御データを作成する。
【0240】
ステップS26では、駆動制御装置40が次の印写パターンに適した、駆動周期T、1周期当たりの開放電圧時間OPT、開放電圧Vh(経過時間tが0のときの開放電圧Vh0)、および開放電圧変更間隔係数n等の駆動波形制御データを作成する。これにより、次の印写パターンに適した吐出滴量Mjまたはドット密度が実現される。
【0241】
そして、ステップS12に戻り、駆動制御装置40は駆動開始からの経過時間tをリセットする。すなわち、ステップS12~ステップS20の処理手順により、駆動制御装置40は次の印写パターンに応じて開放電圧Vhを変更していく。
【0242】
ステップS21において、次の印写パターンがなくなるまで以上の処理手順が繰り返される。
【0243】
以上により生成される、第1駆動波形,第2駆動波形,及び第3駆動波形のそれぞれを混在させた駆動波形を液体吐出ヘッド10のアクチュエータ18に適用し、吐出滴のばらつきを計測した。その結果、吐出滴の変動量は3σ値で3ナノリットル未満の目標値以内とすることができた。
【0244】
(実施例と比較例の差異)
ここで、以上の実施例と比較例の差異について説明する。
図18は、実施例と比較例における開放電圧Vh(
図18(b))、ギャップGAP(
図18(c))、ギャップGAPの1駆動周期ごとの平均値(
図18(d))および吐出滴量Mj(
図18(e))の比較図である。
図18では、実施例を実線で示し、比較例を破線で示している。
【0245】
駆動開始からの経過時間tに応じて開放電圧Vhを変更しない比較例では、第2期間tp2の開始時刻以降の第2期間tp2に弁体17の長さが回復していくことで、弁体17とノズル板15との間のギャップGAPが時間の経過と共に減少してしまう。そのため
図18(d)に示す通り、駆動周期1周期あたりのギャップGAPの平均値は、駆動周期ごとに徐々に減少してくことになる。駆動周期1周期あたりの吐出滴量Mjは、駆動周期あたりのギャップGAPの平均値に応じて、
図18(e)に示す通り第2期間tp2の開始時刻からの時間経過に応じて減少していく。結果として、時間的に後の画素の吐出滴量Mjほど少なくなってしまう。
【0246】
対照的に、開放電圧Vhの制御を行う実施例では、1周期分のギャップGAPの平均値が時間の経過に伴う変動が所定の範囲内に収まるように開放電圧Vhが制御される。実施例におけるギャップは、
図18(c)に示す通り、開放電圧変更間隔であるnT(n=2)内では比較例と同様にギャップGAPは減少していく。
【0247】
しかし、実施例は、開放電圧変更間隔nTごとに、開放電圧Vhを変更しているので、第2期間tp2の開始からの経過時間t=nTの時点で、t=0と同じギャップGAPとなる。その後、経過時間t=4Tとなる直前までギャップGAPは減少するが、経過時間t=4Tで再度開放電圧Vhが変更されるので、t=0と同じギャップGAPとなる。その結果、
図18(d)に示す通り、駆動周期1周期ごとのギャップGAPの平均値は、開放電圧変更間隔nTごとに初期の状態に戻ることになる。すなわち、駆動周期1周期ごとのギャップGAPの平均値の変動量は比較例に対して十分に小さく、所定の範囲内に収めることができる。駆動周期1周期ごとの吐出滴量Mjは、駆動周期1周期ごとのギャップGAPの平均値に依存する。
【0248】
従って、
図18(e)に示す通り吐出滴量Mj等の吐出性能の時間変動が抑制されている。駆動制御装置40は、時間の経過に伴ってアクチュエータ18が圧縮するように開放電圧Vhを制御することで、1周期分のギャップGAPの平均値が時間の経過に伴う変動が十分に小さく所定の範囲内になるように制御できる。あるいは、駆動制御装置40は、弁体17における非弾性部のノズル板15側の端部が、時間の経過に伴ってノズル板15から離隔するように開放電圧Vhを制御することで、1周期分のギャップGAPの平均値が所定の範囲内になるように制御できる。
【0249】
ここで、所定の範囲とは、駆動周期1周期ごとの吐出滴量Mjの許容されるばらつきから決められる量である。例えば、液体吐出ヘッドの性能を、吐出滴量Mjが±10%以内する場合、吐出滴量Mjを±10%に収めるためのギャップGAPの許容範囲を事前に測定しておき、そのギャップGAPの許容範囲内になるように開放電圧Vhを制御する。このように、駆動周期1周期あたりのギャップGAPの平均値を、事前に設定した所定の許容範囲内に制御することで、吐出滴量Mjの時間経過による変動を仕様内に収めることができる。
【0250】
(作用効果)
以上によれば、次のような作用効果が得られる。閉鎖電圧Vcをアクチュエータ18に印加する第1期間tp1では、弁体17の圧縮必要時間tE以上、閉鎖電圧Vcが印加されるので(第1駆動波形)、弁体17の長さを初期化し、弁体17の潰れ量を揃えることができる。一方、開放電圧Vhをアクチュエータ18に印加する第2期間tp2では、第2期間tp2の開始時刻からの経過時間tに応じて開放電圧Vhが変更されるので(第1駆動波形)、弁体17の長さの回復に伴うギャップGAPの平均値の時間変動が抑制される。よって、吐出滴量Mj等の吐出性能の時間変動を抑制することができる。
【0251】
また、第2期間tp2では、開放電圧Vhが所定の開放電圧変更間隔nTで変更される。例えば開放電圧変更間隔nTを短くすると、ギャップGAPの平均値の補正頻度が上がり、吐出滴量Mjの時間変動をより抑制することができる。但し、開放電圧変更間隔nTを短くし過ぎると、駆動波形の制御系に負荷がかかってしまい、液体吐出ヘッド10の動作速度が低下してしまう可能性が高まる。従って、画質(吐出滴量Mjの時間変動の抑制具合)と液体吐出ヘッド10の動作速度のバランスが良くなるような開放電圧変更間隔nTを事前に実験で定めて設定することが好ましい。
【0252】
また、弁体17の材質および形状に関する情報の入力に応じて、開放電圧Vhを算出する式(12)の定数Aおよび定数Bが設定される。従って、弁体17の仕様を変更した場合であっても、弁体17の回復量D(t)に応じて開放電圧Vhを適切に変更することができる。
【0253】
また、弁体17の弾性率に関する情報の入力に応じて、弁体17の圧縮必要時間tEおよび弁体17の回復必要時間tsが設定される。従って、弁体17の仕様を変更した場合であっても、弁体17の圧縮および回復を考慮して開放電圧Vhを適切に変更することができる。
【0254】
また、式(12)によれば、経過時間tが0のときの開放電圧Vh0、および、定数Aおよび定数Bという比較的少ないパラメータによって開放電圧Vhを正確に変更することができる。従って、駆動電圧制御回路または駆動制御プログラムの複雑化を回避することができる。
【0255】
また、開放電圧Vhをアクチュエータ18に印加しない第4期間tp4が弁体17の回復必要時間ts未満である場合は、経過時間tをリセットせず、時間的に隣り合う2個の第3期間tp3に亘って開放電圧Vhが連続的に変更される(第2駆動波形)。従って、次の印写パターンに移る際の吐出滴量Mjの誤差を抑制することができる。
【0256】
また、開放電圧Vhをアクチュエータ18に印加しない第4期間tp4が弁体17の回復必要時間ts以上であり且つ圧縮必要時間tE未満である場合は、第4期間tp4にて追加の圧縮電圧ΔTが閉鎖電圧Vcに加えられる(第3駆動波形)。従って、閉鎖電圧Vcを補正しない場合と比べて短い時間で弁体17の長さを初期化することができる。ひいては、次の印写パターンに移る際の弁体17の潰し量を揃え、画素間の吐出滴量Mjのばらつきを抑制することができる。
【0257】
<第2実施形態>
次に、第1実施形態に係る液体吐出ヘッド10および駆動制御装置40を用いた塗布装置1001について説明する。
【0258】
(塗装装置の構成)
図11は、塗布装置1001の構成の一例を示す図である。
図12(a)は、塗布装置1001の対象物Sへの配置の第1例を示す図である。
図12(b)は、塗布装置1001の対象物Sへの配置の第2例を示す図である。
【0259】
塗布装置1001は、液体吐出ヘッド10と、駆動制御装置40と、を備える。また、塗布装置1001は、図示省略するが、液体供給機構30を備える構成であってもよい。
【0260】
塗布装置1001は、液体吐出ヘッド10の近傍に配設された撮影手段としてのカメラ1004と、液体吐出ヘッド10およびカメラ1004をX方向およびY方向へ移動させるX-Yテーブル1003と、を備える。
【0261】
駆動制御装置40は、所定の制御プログラムに基づいて、X-Yテーブル1003を動作させると共に、液体吐出ヘッド10から液体を吐出させる。塗布装置1001は、液体吐出ヘッド10により吐出された液体を対象物Sに塗布することができる。
【0262】
液体吐出ヘッド10は、複数のノズルから対象物Sの被塗布面に向けて液体を吐出する。ノズルから吐出される液体はX-Y平面に対して略直交する方向に吐出される。複数のノズルの各々から吐出される液体の吐出方向は略平行である。ノズルと対象物Sの被塗布面との距離は、例えば20cm程度である。
【0263】
X-Yテーブル1003は、直線移動機構を備えて形成されたX軸1005と、X軸1005を2つのアームで保持しつつX軸1005をY方向へ移動するY軸1006と、有する。X軸1005のスライダには、液体吐出ヘッド10およびカメラ1004が取り付けられる。
【0264】
Y軸1006にはシャフト1007が設けられる。塗布装置1001はロボットアーム1008を備え、シャフト1007をロボットアーム1008に保持させることで、対象物Sに対して液体吐出ヘッド10を自由に配置できる。
【0265】
例えば、対象物Sが自動車である場合は、ロボットアーム1008が、
図12(a)に示すように対象物Sの上部に配置したり、
図12(b)に示すように対象物Sの横位置に配置したりすることができる。
【0266】
駆動制御装置40は、所定のプログラムに基づいて、ロボットアーム1008の動作を制御するが、他の制御装置がロボットアーム1008の制御を担当してもよい。
【0267】
カメラ1004は、液体吐出ヘッド10の近傍であるX軸1005のスライダに設けられており、X-Y方向に移動しながら対象物Sの被塗布面における所定範囲を一定の微小な間隔により撮影する。カメラ1004は例えばデジタルカメラである。
【0268】
カメラ1004においては、被塗布面の所定範囲を分割した複数の細分割画像の撮影が可能なレンズの仕様または解像度等の仕様が適宜選択される。カメラ1004による被塗布面の複数の細分割画像の撮影は、駆動制御装置40に予め設けられたプログラムに従って連続的且つ自動的に行われる。
【0269】
塗布装置1001は、カメラ1004で撮影した画像を編集するソフトウェアを備え、駆動制御装置40のコンピュータでソフトウェアを実行する。なお、ソフトウェアによる画像の編集は、他のコンピュータが担当してもよい。駆動制御装置40は、ソフトウェアで編集された画像に基づいて液体吐出ヘッド10に印加する電圧を制御する。
【0270】
塗布装置1001は、ロボットアーム1008および液体吐出ヘッド10を有することにより、対象物Sとノズルとの間の距離が長い場合等においても、対象物Sの所望の位置に高精度に液体を塗布することができる。
【0271】
また駆動制御装置40は、閉鎖電圧Vcを弁体17の圧縮必要時間tE以上、液体吐出ヘッド10に印加して弁体17を圧縮した上で、駆動開始からの経過時間tに応じて液体吐出ヘッド10の開放電圧Vhを変更していく。すなわち、駆動制御装置40は、弁体17とノズル板15との間のギャップGAPの平均値が時間の経過に伴って変動しないように開放電圧Vhを制御する。
【0272】
従って、塗布装置1001は、吐出滴量Mj等の吐出性能の時間変動を抑制することができる。ひいては、塗布装置1001は、対象物Sに対して液体をムラなく均一に塗布することが可能である。また、塗布装置1001のダウンタイムが削減されるので、塗布装置1001は対象物Sの生産性の向上に寄与することができる。
【0273】
<第3実施形態>
次に、第1実施形態に係る液体吐出ヘッド10を用いた電極製造方法および電極製造装置について説明する。
【0274】
(電極の製造方法)
図13は、第3実施形態に係る電極製造方法および電極製造装置の模式図である。電極製造装置は、液体吐出ヘッド10を用いて液体組成物を吐出することで電極材料層を有する電極を製造する装置である。
【0275】
<電極材料層形成手段および電極材料層形成工程>
吐出手段としての液体吐出ヘッド10から液体を吐出することにより、対象物上に液体組成物を付与して、液体組成物層を形成することができる。対象物は、電極材料層を形成する対象であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。対象物としては、例えば、電極基体(集電体)、活物質層、または固体電極材料を有する層等が挙げられる。
【0276】
吐出手段及び吐出工程は、対象物に対して電極材料層を形成することが可能であれば、液体組成物を直接的に吐出することで電極材料層を形成する構成であってもよく、液体組成物を間接的に吐出することで電極材料層を形成する構成であってもよい。
【0277】
<他の構成および他の工程>
電極合材層の製造装置における他の構成としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、加熱手段等が挙げられる。電極合材層の製造方法における他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、加熱工程等が挙げられる。
【0278】
<加熱手段および加熱工程>
加熱手段は、吐出手段により吐出された液体組成物を加熱する手段である。加熱工程は、吐出工程で吐出された液体組成物を加熱する工程である。加熱により、液体組成物層を乾燥させることができる。
【0279】
ここで電極の製造方法の一例として、電極基体(集電体)上に活物質を含む電極合材層を形成する電極製造方法を説明する。
【0280】
図13(a)に示すように、電極合材層の製造装置は、吐出工程部110gと、加熱工程部130gと、を備える。吐出工程部110gは、対象物を有する印刷基材4g上に、液体組成物を付与して液体組成物層を形成する。加熱工程部130gは、液体組成物層を加熱して電極合材層を得る。
【0281】
電極合材層の製造装置は、印刷基材4gを搬送する搬送部5を備え、搬送部5は、吐出工程部110gおよび加熱工程部130gの順に印刷基材4gを予め設定された速度で搬送する。搬送部5としては、例えば、搬送ローラ、搬送コンベヤ等が挙げられる。
【0282】
活物質層等の対象物を有する印刷基材4gの製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。
【0283】
吐出工程部110gは、印刷装置281aと、収容容器281bと、供給チューブ281cと、を備える。
【0284】
印刷装置281aは、例えば液体吐出ヘッド10であり、印刷基材4g上に液体組成物を付与する付与工程を実現する。収容容器281bは、例えばタンク31であり、液体組成物を収容する。供給チューブ281cは、例えばチューブ32であり、収容容器281bに貯留された液体組成物を印刷装置281aに供給する。
【0285】
収容容器281bは液体組成物7を収容し、吐出工程部110gは、印刷装置281aから液体組成物7を吐出して、印刷基材4g上に液体組成物7を付与して液体組成物層を薄膜状に形成する。
【0286】
なお、収容容器281bは、電極合材層の製造装置と一体化した構成であってもよいが、電極合材層の製造装置から取り外し可能な構成であってもよい。また収容容器281bは、電極合材層の製造装置と一体化した容器、または、電極合材層の製造装置から取り外し可能な容器に液体組成物7を添加する容器であってもよい。
【0287】
収容容器281bまたは供給チューブ281cは、液体組成物7を安定して貯蔵および供給できるものであれば任意に選択可能である。
【0288】
加熱工程部130gは、加熱装置3aを有し、液体組成物層に残存する溶媒を、加熱装置3aにより加熱して乾燥させて除去する溶媒除去工程を含む。これにより電極合材層を形成することができる。加熱工程部130gは、溶媒除去工程を減圧下で実施してもよい。
【0289】
加熱装置3aとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、基板加熱、IRヒータ、および温風ヒータ等が挙げられ、これらを組み合わせてもよい。また、加熱温度または時間に関しては、液体組成物7に含まれる溶媒の沸点または形成膜厚に応じて適宜選択可能である。
【0290】
図13(b)に示すように、液体吐出装置100は、電極合材層の製造方法を実現する電極製造装置の一例である。液体吐出装置100は、ポンプ310と、2個のバルブ311,312と、を制御することにより、液体組成物が液体吐出ヘッド10、内部タンク307、および送液チューブ308を循環する。
【0291】
また液体吐出装置100には、外部タンク313が設けられる。内部タンク307内の液体組成物が減少した際に、ポンプ310と、3個のバルブ311,312,314と、を制御することにより、外部タンク313から内部タンク307へ液体組成物が供給される。電極合材層の製造装置を用いると、対象物の狙ったところに液体組成物を吐出することができる。
【0292】
電極合材層は、例えば、電気化学素子の構成の一部として、好適に用いることができる。電気化学素子における電極合材層以外の構成としては、特に制限はなく、公知のものを適宜選択することができ、例えば、正極、負極、およびセパレータなどが挙げられる。
【0293】
液体吐出装置100は、閉鎖電圧Vcを弁体17の圧縮必要時間tE以上、液体吐出ヘッド10としての印刷装置281aに印加して弁体17を圧縮した上で、駆動開始からの経過時間tに応じて印刷装置281aの開放電圧Vhを変更していく。すなわち、液体吐出装置100は、弁体17とノズル板15との間のギャップGAPの平均値が時間の経過に伴って変動しないように開放電圧Vhを制御する。
【0294】
従って、印刷装置281aは対象物としての印刷基材4g上に液体組成物層をムラなく均一に付与することが可能である。また、電極製造装置としての液体吐出装置100のダウンタイムが削減されるので、液体吐出装置100は対象物Sの生産性の向上に寄与することができる。
【0295】
以上、好ましい実施の形態について詳説したが、上述した実施の形態に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態に種々の変形および置換を加えることができる。
【0296】
以下、本書における用語の定義について説明する。
【0297】
「液体吐出ヘッド」とは、ノズルから液体を吐出または噴射する機能部品である。吐出される「液体」は、液体吐出ヘッドから吐出可能な粘度または表面張力を有するものであればよく、特に限定されないが、常温、常圧下において、または加熱もしくは冷却により粘度が30mPa・s以下となるものであることが好ましい。
【0298】
例えば「液体」には、水または有機溶媒等の溶媒、染料または顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、および界面活性剤等の機能性付与材料等、を含む溶液、懸濁液、またはエマルジョン等が含まれる。また、例えば「液体」には、DNA、アミノ酸またはタンパク質またはカルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料等、を含む溶液、懸濁液、またはエマルジョン等が含まれる。
【0299】
上記「液体」は、例えば、インクジェット用インク、表面処理液、電子素子または発光素子等の構成要素および電子回路レジストパターンの形成用液、または3次元造形用材料液等の用途で用いることができる。液体を吐出するエネルギー発生源には、積層型圧電素子または薄膜型圧電素子等の圧電アクチュエータ以外にも、発熱抵抗体等の電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極とにより構成される静電アクチュエータ等が含まれる。
【0300】
「液体吐出ユニット」とは、液体吐出ヘッドに機能部品または機構が一体化されたものであり、液体の吐出に関連する部品の集合体である。例えば、「液体吐出ユニット」は、ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、および主走査移動機構の構成の少なくとも一つを液体吐出ヘッドと組み合わせたもの等が含まれる。
【0301】
ここで、一体化とは、例えば、液体吐出ヘッドと機能部品または機構が、締結、接着、または係合等で互いに固定されているもの、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。また、液体吐出ヘッドと、機能部品または機構とが互いに着脱可能に構成されていてもよい。
【0302】
例えば、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとヘッドタンクとが一体化されているものがある。また、チューブ等で互いに接続されて、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。ここで、液体吐出ユニットのヘッドタンクと液体吐出ヘッドとの間にフィルタを含むユニットを追加することもできる。
【0303】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジとが一体化されているものがある。
【0304】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させて、液体吐出ヘッドと走査移動機構とが一体化されているものがある。また、液体吐出ヘッドとキャリッジと主走査移動機構とが一体化されているものがある。
【0305】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに、維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、液体吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構とが一体化されているものがある。
【0306】
また、液体吐出ユニットとして、ヘッドタンクもしくは流路部品が取り付けられた液体吐出ヘッドにチューブが接続されて、液体吐出ヘッドと液体供給機構が一体化されているものがある。このチューブを介して、液体貯留源の液体が液体吐出ヘッドに供給される。
【0307】
主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。また、液体供給機構は、チューブ単体、装填部単体も含むものする。
【0308】
「液体吐出装置」は、液体吐出ヘッドまたは液体吐出ユニットを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて、液体を吐出させる装置である。液体吐出装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中または液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0309】
「液体吐出装置」には、液体が付着可能なものの、給送、搬送または排紙に係わる手段、その他、前処理装置または後処理装置等も含まれる。
【0310】
例えば、「液体吐出装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、または、立体造形物(三次元造形物)を造形するために粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)等が挙げられる。
【0311】
また「液体吐出装置」は、吐出された液体によって文字または図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば「液体吐出装置」には、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、または三次元像を造形するものも含まれる。
【0312】
上記「液体が付着可能なもの」とは、液体が吐出される対象物のことを意味し、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するもの等を意味する。具体例として、「液体が付着可能なもの」には、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、または布等の被記録媒体、電子基板、圧電素子等の電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、または検査用セル等の媒体が含まれる。特に限定しない限り、「液体が付着可能なもの」には、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0313】
上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、またはセラミックス等、液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0314】
また「液体吐出装置」は、液体吐出ヘッドと、液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定されるものではない。具体例として、「液体吐出装置」には、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、または、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置等が含まれる。
【0315】
また「液体吐出装置」としては他にも、用紙の表面を改質する等の目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置等が挙げられる。また「液体吐出装置」には、原材料を溶液中に分散した組成液をノズルから噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置等が含まれる。
【0316】
また実施形態で説明した各種機能部は一つまたは複数の処理回路によって実現することが可能である。「処理回路」には、ソフトウェアで各機能を実行するように構成されたプロセッサが含まれる。また「処理回路」には、各機能を実行するように設計されたASIC(Application Specific Integrated Circuit)またはDSP(Digital Signal Processor)等デバイスが含まれる。また「処理回路」には、FPGA(Field Programmable Gate Array)および従来の回路モジュール等のデバイスが含まれる。
【0317】
また上述した実施形態の説明で用いた序数、数量等の数字は、全て本発明を具体的に説明するために例示するものであり、本発明は例示された数字に制限されない。また、構成要素間の接続関係は、本発明を具体的に説明するために例示するものであり、本発明の機能を実現する接続関係はこれに限定されない。
【0318】
本発明の態様は、例えば以下の通りである。
<1> 液体を吐出するノズルを有するノズル形成部材と、少なくとも一部に弾性を有していて前記ノズルを開閉する弁体と、前記弁体を移動させるアクチュエータと、を備える液体吐出ヘッドの駆動制御装置であって、
前記駆動制御装置は、前記アクチュエータを駆動する駆動波形を生成して、前記駆動波形に基づいて前記アクチュエータに電圧を印加可能であり、
前記駆動波形は、
前記弁体を前記ノズル形成部材に押圧して圧縮することで前記ノズルを閉鎖する閉鎖電圧を前記弁体の圧縮必要時間以上、前記アクチュエータに印加する第1期間と、
前記第1期間の後に、前記弁体が前記ノズル形成部材から離隔することで前記ノズルを開放する開放電圧を前記アクチュエータに印加する第2期間と、
を含み、
前記第2期間では、前記第2期間の開始時刻からの経過時間に応じて前記開放電圧が変更される、駆動制御装置。
<2> 前記駆動制御装置は、前記第2期間にて、前記第2期間の開始時刻からの経過時間に応じて前記閉鎖電圧と前記開放電圧との差が大きくなるように前記開放電圧を変更する、前記<1>に記載の駆動制御装置。
<3> 前記駆動制御装置は、前記第2期間にて、前記駆動波形として、1周期当たりの開放電圧時間に相当する矩形波の駆動パルス波形を生成する、前記<1>または<2>に記載の駆動制御装置。
<4> 前記駆動制御装置は、前記第2期間にて、前記開放電圧を所定の開放電圧変更間隔で変更する、前記<1>から<3>のいずれか一つに記載の駆動制御装置。
<5>前記駆動制御装置は、前記第2期間にて、変更前の前記開放電圧と、変更後の前記開放電圧との差が前記経過時間に応じて小さくなるように前記開放電圧を変更する、前記<1>から<4>のいずれか一つに記載の駆動制御装置。
<6> 前記第2期間の開始時刻からの経過時間をtとし、前記開放電圧をVhとし、前記tが0のときにおける前記開放電圧をVh0とし、所定の定数をAおよびBとするとき、
前記駆動制御装置は、前記Vhを、
Vh=Vh0+A(1-exp(-Bt))
に基づいて設定する、前記<1>から<5>のいずれか一つに記載の駆動制御装置。
<7> 前記Aおよび前記Bは、前記弁体の材質および形状に応じて予め設定された値であり、前記駆動制御装置は、前記弁体の材質および形状に関する情報に基づいて前記Aおよび前記Bを設定する、前記<6>に記載の駆動制御装置。
<8> 前記駆動制御装置は、前記弁体の弾性率に関する情報に基づいて前記弁体の前記圧縮必要時間を設定する、前記<1>から<7>のいずれか一つに記載の駆動制御装置。
<9> 前記第2期間は、
時間的に隣り合っていて前記開放電圧を印可する少なくとも2個の第3期間と、
前記2個の前記第3期間の間にあって前記開放電圧を印可しない第4期間と、
を含み、
前記駆動制御装置は、前記第4期間が前記弁体の回復必要時間以上であり且つ前記圧縮必要時間未満である場合に、前記第4期間にて、前記弁体を前記ノズル形成部材に押し込んで圧縮させる圧縮電圧を前記閉鎖電圧に加える、前記<1>から<8>のいずれか一つに記載の駆動制御装置。
<10> 前記第2期間は、
時間的に隣り合っていて前記開放電圧を印可する少なくとも2個の第3期間と、
前記2個の前記第3期間の間にあって前記開放電圧を印可しない第4期間と、
を含み、
前記駆動制御装置は、前記第4期間が前記弁体の回復必要時間未満である場合に、前記経過時間をリセットせずに、前記2個の前記第3期間に亘って前記開放電圧を連続的に変更する、前記<1>から<9>のいずれか一つに記載の駆動制御装置。
<11> 前記駆動制御装置は、前記第2期間にて、前記弁体と前記ノズル形成部材との間のギャップの平均値が所定の範囲内となるように前記開放電圧を制御する、前記<1>から<10>のいずれか一つに記載の駆動制御装置。
<12> 前記駆動制御装置は、画像データを読み込んで、前記画像データを構成する印写パターンを特定し、前記印写パターンに応じて前記駆動波形を生成する、前記<1>から<11>のいずれか一つに記載の駆動制御装置。
<13> 前記<1>から<12>のいずれか一つに記載の駆動制御装置と、
前記液体吐出ヘッドと、
を備える、液体吐出装置。
<14> 液体を吐出するノズルを有するノズル形成部材と、少なくとも一部に弾性を有していて前記ノズルを開閉する弁体と、前記弁体を移動させるアクチュエータと、を備える液体吐出ヘッドと、前記アクチュエータに電圧を印加可能な駆動制御装置と、を備える液体吐出装置の制御方法であって、前記液体吐出装置が、
前記アクチュエータを駆動する駆動波形を生成するステップを実行し、
前記駆動波形は、
前記弁体を前記ノズル形成部材に押圧して圧縮することで前記ノズルを閉鎖する閉鎖電圧を前記弁体の圧縮必要時間以上、前記アクチュエータに印加する第1期間と、
前記第1期間の後に、前記弁体が前記ノズル形成部材から離隔することで前記ノズルを開放する開放電圧を前記アクチュエータに印加する第2期間と、
を含み、
前記第2期間では、前記第2期間の開始時刻からの経過時間に応じて前記開放電圧が変更される、制御方法。
<15> 液体を吐出するノズルを有するノズル形成部材と、少なくとも一部に弾性を有していて前記ノズルを開閉する弁体と、前記弁体を移動させるアクチュエータと、を備える液体吐出ヘッドと、前記アクチュエータに電圧を印加可能な駆動制御装置と、を備える液体吐出装置の制御プログラムであって、
前記アクチュエータを駆動する駆動波形を生成するステップをコンピュータに実行させ、
前記駆動波形は、
前記弁体を前記ノズル形成部材に押圧して圧縮することで前記ノズルを閉鎖する閉鎖電圧を前記弁体の圧縮必要時間以上、前記アクチュエータに印加する第1期間と、
前記第1期間の後に、前記弁体が前記ノズル形成部材から離隔することで前記ノズルを開放する開放電圧を前記アクチュエータに印加する第2期間と、
を含み、
前記第2期間では、前記第2期間の開始時刻からの経過時間に応じて前記開放電圧が変更される、制御プログラム。