(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121494
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】フライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制する方法、及び自硬性材料
(51)【国際特許分類】
B09B 3/10 20220101AFI20240830BHJP
B09B 5/00 20060101ALI20240830BHJP
C04B 18/10 20060101ALI20240830BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20240830BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20240830BHJP
C04B 24/12 20060101ALI20240830BHJP
C04B 28/26 20060101ALI20240830BHJP
B09B 101/30 20220101ALN20240830BHJP
【FI】
B09B3/10 ZAB
B09B5/00 N
C04B18/10 Z
C04B18/14 Z
C04B22/06 Z
C04B24/12 A
C04B28/26
B09B101:30
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028634
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】甚野 智子
(72)【発明者】
【氏名】田島 孝敏
(72)【発明者】
【氏名】人見 尚
(72)【発明者】
【氏名】田口 信子
(72)【発明者】
【氏名】白井 孝
【テーマコード(参考)】
4D004
4G112
【Fターム(参考)】
4D004AA37
4D004AB03
4D004AC04
4D004BA02
4D004CC07
4D004CC15
4G112MA00
4G112PA27
4G112PA28
4G112PB03
4G112PB20
(57)【要約】
【課題】フライアッシュ及びケイ素混合物を用いる場合に、フライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制しつつ、流動性の低下を抑制する技術を提供する。
【解決手段】未燃炭素を除去した後にメカノケミカル処理を施したフライアッシュと、アルカリ溶液及びケイ素材料を含むケイ素混合物と、チオ尿素とを混合することにより、前記フライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制する方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
未燃炭素を除去した後にメカノケミカル処理を施したフライアッシュと、アルカリ溶液及びケイ素材料を含むケイ素混合物と、チオ尿素とを混合することにより、前記フライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制する方法。
【請求項2】
請求項1に記載のフライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制する方法であって、
前記フライアッシュの質量に対する、前記チオ尿素の混合量が1質量%~3質量%であることを特徴とするフライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制する方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のフライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制する方法であって、
前記重金属は、六価クロムであることを特徴とするフライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制する方法。
【請求項4】
未燃炭素を含まず、且つ、メカノケミカル処理が施されたフライアッシュと、
アルカリ溶液及びケイ素材料を含むケイ素混合物と、
チオ尿素と、
を含む自硬性材料。
【請求項5】
請求項4に記載の自硬性材料であって、
前記フライアッシュの質量に対する、前記チオ尿素の混合量が1質量%~3質量%であることを特徴とする自硬性材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制する方法、及び自硬性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭灰の一種であるフライアッシュは、主に石炭火力発電所から年間1000万t以上発生している。例えば、ボールミル等で摩砕することにより表面を活性化(メカノケミカル処理)したフライアッシュに、水酸化カリウム溶液及びケイ素材料を含むケイ素混合物を添加・混合することで得たコンクリートと同等の圧縮強度を有する自硬性材料を、コンクリートの代わりとして用いることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
原子力発電所の停止、石油価格の高騰等の電力事情から、石炭火力発電所の稼働率向上が要求されており、今後、フライアッシュの発生量も増加すると予想される。フライアッシュにはメカノケミカル処理を施すことが知られているが、ケイ素混合物のアルカリ溶液の作用によるフライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制しつつ、作業性の向上のために流動性の低下を抑制する技術が望まれている。
【0005】
本発明は、フライアッシュ及びケイ素混合物を用いる場合に、フライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制しつつ、流動性の低下を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために本発明は、未燃炭素を除去した後にメカノケミカル処理を施したフライアッシュと、アルカリ溶液及びケイ素材料を含むケイ素混合物と、チオ尿素とを混合することにより、前記フライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制する方法である。
また、未燃炭素を含まず、且つ、メカノケミカル処理が施されたフライアッシュと、アルカリ溶液及びケイ素材料を含むケイ素混合物と、チオ尿素と、を含む自硬性材料である。
本発明の他の特徴については、本明細書の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、フライアッシュ及びケイ素混合物を用いる場合に、フライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制しつつ、流動性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【発明を実施するための形態】
【0009】
未燃炭素を除去した後にメカノケミカル処理を施したフライアッシュと、アルカリ溶液及びケイ素材料を含むケイ素混合物と、チオ尿素とを混合することにより、前記フライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制する方法である。
【0010】
このようなフライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制する方法によれば、フライアッシュ及びケイ素混合物を用いる場合に、当該フライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制しつつ、流動性の低下を抑制することができる。
【0011】
かかるフライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制する方法であって、前記フライアッシュの質量に対する、前記チオ尿素の混合量が1質量%~3質量%であることが好ましい。
【0012】
このようなフライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制する方法によれば、フライアッシュ及びケイ素混合物を用いる場合に、当該フライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制しつつ、流動性の低下を抑制することができる。
【0013】
かかるフライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制する方法であって、前記重金属は、六価クロムであることが好ましい。
【0014】
このようなフライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制する方法によれば、フライアッシュ及びケイ素混合物を用いる場合に、当該フライアッシュに含まれる六価クロムの溶出を抑制しつつ、流動性の低下を抑制することができる。
【0015】
未燃炭素を含まず、且つ、メカノケミカル処理が施されたフライアッシュと、アルカリ溶液及びケイ素材料を含むケイ素混合物と、チオ尿素と、を含む自硬性材料である。
【0016】
このような自硬性材料によれば、自硬性材料のフライアッシュに含まれる重金属が溶出を抑制しつつ、流動性の低下を抑制することができる。
【0017】
かかる自硬性材料であって、前記フライアッシュの質量に対する、前記チオ尿素の混合量が1質量%~3質量%であることが好ましい。
【0018】
このような自硬性材料によれば、自硬性材料のフライアッシュに含まれる重金属が溶出を抑制しつつ、流動性の低下を抑制することができる。
【0019】
<<<本実施形態>>>
本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0020】
==自硬性材料==
自硬性材料は、所定の温度(例えば、15~40℃)で放置することにより硬化する性質を有する材料である。本実施形態に係る自硬性材料は、少なくともフライアッシュと、ケイ素混合物と、チオ尿素とを含む。本実施形態に係る自硬性材料は、未燃炭素を含まず、且つ、メカノケミカル処理が施されたフライアッシュを用いており、且つ、チオ尿素が混合されていることで、メカノケミカル処理が施されておらず、且つチオ尿素が混合されていない場合よりも重金属の溶出量が減少する。特に、六価クロムの溶出量は、環境基準値(0.05mg/L)以下となる。そして、流動性を有する。また、自硬性材料の硬化体は、セメントコンクリートと同等程度の圧縮強度(5N/mm2以上)が得られる。なお、重金属の溶出量は、JIS K 0058に規定されている溶出方法に基づいて測定した値である。流動性は、使用時の作業性を考慮したものである。流動性が高いほど、作業性が向上するため好ましい。圧縮強度は、JIS A 1216の一軸圧縮試験方法により測定した値である。
【0021】
[フライアッシュ]
フライアッシュは、石炭火力発電所等から排出される石炭灰の一種である。フライアッシュは、主成分が非晶質で構成されたケイ素やアルミニウムであり(Al6Si2O13)、少量のムライトや石英などの結晶鉱物を含んでいる。
【0022】
フライアッシュは、原料である石炭に由来する重金属を含む。重金属は、たとえばカドミウム、鉛、砒素、セレン、水銀、クロム等である。なお、本明細書における重金属には、重金属単体ではなくその化合物やイオンも含まれる。重金属の含有量は、フライアッシュによって異なる。たとえば、ある採炭地で採掘された石炭を使用する火力発電所から排出されたフライアッシュと、別の採炭地で採掘された石炭を使用する火力発電所から排出されたフライアッシュとでは重金属の含有量は大きく異なる場合がある。
【0023】
本実施形態におけるフライアッシュは、石炭火力発電所等から排出された石炭灰(所謂「原灰」)から未燃炭素が除去された後に、メカノケミカル処理が施されている。
【0024】
未燃炭素は、石炭灰に含まれる炭素成分の燃え残りである。未燃炭素の除去方法としては、例えば、加熱、静電分離、浮選等の周知の方法で行うことができる。本実施形態のフライアッシュは、石炭火力発電所等から排出された石炭灰を600℃で加熱することで、未燃炭素を除去している。
【0025】
メカノケミカル処理は、メカノケミカル現象を利用したものである。具体的には、メカノケミカル処理は、衝撃、圧縮、摩砕、粉砕、混合等により、物質に対して機械的エネルギーを与え、当該物質を活性化することをいう。
【0026】
本実施形態に係るメカノケミカル処理の方法としては、特に限定されるものではないが、例えば遊星型ボールミルのようなボールミルを用いた摩砕処理が挙げられる。ボールミルを用いてフライアッシュを摩砕処理することにより、中空のフライアッシュの表面積を増加させるよう研磨する状態となり、フライアッシュを効率よく活性化できる。なお、ボールミルの材料や摩砕処理における回転速度等の条件は、当業者が適宜選択することができる。
【0027】
メカノケミカル処理を行う時間は、例えば、フリッチュ社製遊星型ボールミルP-5を使用する場合、3時間以上が好ましく、6時間程度がより好ましい。また、フライアッシュ50gに対し、上記メカノケミカル処理を6時間行った場合、フライアッシュの電気伝導度は初期の30%程度以下になり、フライアッシュの粒子径は微細(たとえば初期の1/10程度)となる。
【0028】
自硬性材料に対するフライアッシュの質量比は、70~95質量%程度であることが好ましい。
【0029】
[ケイ素混合物]
ケイ素混合物は、フライアッシュ同士を結合させるためのものである。ケイ素混合物は、スラリーとして用いられる。ケイ素混合物は、アルカリ溶液及びケイ素材料を含む。
【0030】
アルカリ溶液は、例えば、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)のようなアルカリを含む溶液である。アルカリのモル濃度は、1~5mol/Lであることが好ましく、1~3mol/Lであることがより好ましい。アルカリ溶液としては、例えば、3mol/LのKOH水溶液を用いることができる。
【0031】
ケイ素材料は、例えば、シリカフュームのようなケイ素微粉末である。ケイ素材料としては、例えば、3mol/Lのアルカリ溶液中のシリカ濃度が管理値で40,000ppm程度のシリカフュームを用いることができる。
【0032】
[チオ尿素]
チオ尿素(CS(NH2)2)は、尿素の酸素原子を硫黄原子に置換した構造を持つ材料である。チオ尿素は、フライアッシュから溶出した重金属を吸着し、不溶化する機能を有する。チオ尿素は、粉末のまま用いてもよいし、水等の溶媒に溶かしたものを用いてもよい。自硬性材料またはフライアッシュに対するチオ尿素の質量比は、フライアッシュから溶出する重金属の量によって決定される。つまり、重金属の溶出量が多いほどチオ尿素の質量比が高くなるよう、チオ尿素を添加してもよい。
【0033】
[その他の添加剤]
自硬性材料は、その機能に影響を及ぼさない範囲で適宜の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば減水剤がある。減水剤は、自硬性材料の充填性や硬化時間を調整するためのものである。
【0034】
なお、減水剤を添加する場合、フライアッシュに対する減水剤の質量比は、1質量%程度であることが好ましい。また、フライアッシュ、ケイ素混合物、及びチオ尿素(B)に対するアルカリ溶液及び減水剤(W)の質量比は、25~45質量%であることが好ましく、30質量%程度であることがより好ましい。
【0035】
従来、フライアッシュとケイ素混合物とを含む自硬性材料について、フライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制することが望まれている。また、フライアッシュに未燃炭素が含まれている場合には、フライアッシュとケイ素混合物との混合によって、硬化が進みやすくなって、流動性が低くなりやすいことから、作業性を低下させてしまう恐れがあるため、流動性の低下を抑制することが望まれている。
【0036】
これに対し、本実施形態の自硬性材料は、未燃炭素を除去した後にメカノケミカル処理を施したフライアッシュと、アルカリ溶液及びケイ素材料を含むケイ素混合物と、チオ尿素と、を含む。なお、チオ尿素について、フライアッシュの質量に対する、チオ尿素の混合量が1質量%~3質量%であることが好ましい。
【0037】
フライアッシュにメカノケミカル処理を施し、且つ、フライアッシュ及びケイ素混合物にチオ尿素を加えることで、フライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制できる。特に、フライアッシュに含まれる重金属のうち、六価クロムの溶出を抑制することができる。また、この自硬性材料に用いられるフライアッシュの未燃炭素が除去されていることで、フライアッシュとケイ素混合物とを混合した場合でも、流動性を維持しやすくなるため、自硬性材料の作業性を向上させやすくなる。
【0038】
つまり、本実施形態の自硬性材料は、フライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制しつつ、流動性の低下を軽減させることができる。従って、地盤等に対してコンクリートの代わりに自硬性材料を使用しやすくなる。また、自硬性材料の硬化物を解体した後、路盤材等に再利用することができる。
【0039】
<<フライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制する方法>>
本実施形態に係る方法は、未燃炭素を除去した後にメカノケミカル処理を施したフライアッシュと、アルカリ溶液及びケイ素材料を含むケイ素混合物と、チオ尿素とを混合することによって、フライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制することができる。フライアッシュに含まれる重金属のうち、特に、六価クロムの溶出を抑制することができる。
【0040】
混合の方法は、ミキサーを用いる方法等、特に限定されない。また、各材料を混合する順番も特に限定されない。たとえば、フライアッシュとチオ尿素をはじめに混合した後、ケイ素混合物を添加してもよいし、3つの材料を一度に混合してもよい。
【0041】
メカノケミカル処理が施されていないフライアッシュ(原灰)に対してケイ素混合物のアルカリ溶液が作用するとフライアッシュに含まれる重金属が溶出しやすい。これに対し、フライアッシュに対してメカノケミカル処理を施して、且つ、チオ尿素を加えることで、重金属の溶出を抑制することができる。すなわち、3つの材料を混合したスラリー(自硬性材料)やその硬化物から重金属が溶出することを抑制することができる。
【0042】
また、フライアッシュに未燃炭素が含まれている場合には、フライアッシュとケイ素混合物とを混合すると、硬化が進みやすく、流動性が低下して、作業性が低下してしまう恐れがある。これに対し、本実施形態においては、ケイ素混合物と混合するフライアッシュが未燃炭素を除去したフライアッシュであることで、フライアッシュとケイ素混合物とを混合した場合でも、流動性を維持しやすくなるため、自硬性材料の作業性を向上させやすくなる。
【0043】
つまり、未燃炭素を除去した後にメカノケミカル処理を施したフライアッシュと、アルカリ溶液及びケイ素材料を含むケイ素混合物と、チオ尿素とを混合することで、フライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制しつつ、流動性の低下を軽減させることができる。従って、地盤等に対してコンクリートの代わりに自硬性材料を使用しやすくなる。また、自硬性材料の硬化物を解体した後、路盤材等に再利用することができる。
【0044】
==実施例==
[重金属の溶出量、流動性、圧縮強度]
フライアッシュに含まれる重金属の溶出量、自硬性材料の流動性、及び自硬性材料の硬化物の圧縮強度について実験を行った。
【0045】
(使用した材料)
フライアッシュは、まず、異なる火力発電所から入手した石炭灰(原灰)を600℃で加熱して未燃炭素を除去した「除炭原灰」と、除炭原灰にメカノケミカル処理を施した「除炭MC灰」を用いた。メカノケミカル処理は、除炭原灰に対し、遊星ボールミル(P-5型、フリッチュ社製)を用いて3時間摩砕した。
ケイ素混合物は、シリカフューム(エルケム社製。シリカ濃度の管理値40,000ppm)を3mol/LのKOH水溶液に溶解させたものを用いた。溶解は、転動ミルを用いて行った。
チオ尿素は、昭和化学株式会社製、試薬特級の粉体を用いた。チオ尿素は、フライアッシュに対するチオ尿素の添加割合(質量%)を変えて測定を行う。チオ尿素の質量比は、フライアッシュの質量に対して、1質量%、2質量%、3質量%とした。
減水剤は、シーカメントFF86(日本シーカ社製。「シーカメント」は登録商標)を用いた。
【0046】
配合は、円柱モールド2本分の量を示している。そして、W/B=32.5%の配合とする。Wは、減水剤が混合された上述のKOH水溶液(ケイ素混合物が溶解)であり、KOH水溶液の質量と減水剤の質量との和である。Bは、フライアッシュの質量、又はフライアッシュの質量とチオ尿素の質量との和である。なお、フライアッシュに対して、チオ尿素は内割り配合とする。
【0047】
(供試体及び硬化物の作成方法)
表1には、各実験No.1~No.5について、各フライアッシュ(除炭原灰又は除炭MC灰)、及び各フライアッシュに対して添加するチオ尿素の量が異なる5つの試作体の測定を行った。各実験No.1~No.5における測定は、除炭原灰(実験No.1)又は除炭MC灰(実験No.2~No.5)のいずれかを用いる点、及びチオ尿素の量が異なる点以外は、同じ方法で行う。
各フライアッシュに対し、ケイ素混合物及び減水剤を混合したものを添加し、手練りで約1分間混合し供試体を作製した。
続いて、供試体をφ20mm×h40mmの円柱モールドにバイブレーター(ハンディマッサージャーMD-001、大東電機工業株式会社製)を用いて、気泡を抜きながら充填した。その後、円柱モールドの上部に蓋をかぶせ輪ゴムを用いて固定した。
そして、供試体を充填した円柱モールドを、チャック付きビニール袋に入れ40℃恒温槽で2日養生した後、脱型した。更に、脱型した供試体をむき出しのまま40℃恒温槽で5日間養生して供試体の硬化物を得た。
なお、実験No.3、No.4、及びNo.5においては、予めフライアッシュ(除炭MC灰)とチオ尿素の粉体を混合したものに対し、ケイ素混合物及び減水剤を添加した。具体的には、実験No.3は、除炭MC灰の質量に対して、1質量%を添加し、実験No.4は、除炭MC灰の質量に対して、2質量%を添加し、実験No.5は、除炭MC灰の質量に対して、3質量%を添加した。
【0048】
【0049】
(試験方法)
重金属の溶出量及び圧縮強度については、供試体の硬化物を用いて測定した。具体的に、重金属の溶出量は、JIS K 0058に規定されている溶出方法に基づいて測定した。なお、本実施例においては、重金属のうち、六価クロム、及びセレンの溶出量を測定した。また、圧縮強度については、JIS A 1216の一軸圧縮試験方法により基づいて測定した。一方、流動性については、供試体を円柱モールドに充填する際の作業性に基づいて判断した。
【0050】
(評価)
表1には、六価クロム、セレンの溶出量(mg/l)の数値を示している。
また、圧縮強度について、5N/mm2以上を「〇」とし、2~5N/mm2の場合を「△」とし、5N/mm2より低い場合を「×」とした。
さらに、流動性について、供試体の粘性が低く、供試体を円柱モールドに容易に充填できた場合を「〇」とし、供試体の粘性はある程度高いが、バイブレーターによる振動を充分に与えることで供試体を円柱モールドに充填できた場合を「△」とし、供試体の粘性が高いため、供試体を円柱モールドに充填し難かった場合を「×」とした。評価の結果を表2に示す。
【0051】
(実験結果)
図1は、重金属溶出量の結果を示すグラフである。表1及び
図1に示すように、未燃炭素を除去してメカノケミカル処理を施したフライアッシュ(除炭MC灰)及びケイ素混合物に対し、チオ尿素を添加した場合(実験No.3、No.4、No.5)は、チオ尿素を添加していない場合(実験No.1、No.2)よりも六価クロム、セレンの各溶出量(mg/l)を減少させつつ、操作性を低下させないほどの流動性を維持することができる結果となった。特に、六価クロムの溶出量を環境基準値(0.05mg/l)以下とすることができた(実験No.3、No.4、No.5の結果を参照)。また、フライアッシュに対するチオ尿素の割合が大きくなるほど、セレンの各溶出量(mg/l)がより減少した。以上の結果から、未燃炭素を除去してメカノケミカル処理を施したフライアッシュ及びケイ素混合物に対し、チオ尿素を添加することで、フライアッシュに含まれる重金属の溶出を抑制しつつ、流動性を維持しやすくなることが明らかになった。また、未燃炭素を除去してメカノケミカル処理を施したフライアッシュにチオ尿素を添加した場合について、供試体の硬化物の圧縮強度について、基準を満たすことができた。