(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121540
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】フェノキシ樹脂、樹脂組成物、硬化物、繊維強化プラスチック及び積層板並びにフェノキシ樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 63/42 20060101AFI20240830BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240830BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20240830BHJP
C08G 59/40 20060101ALI20240830BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20240830BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
C08G63/42
C08L63/00 A
C08L67/00
C08G59/40
C08J5/24 CFC
B32B27/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028692
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100226894
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 夏詩子
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 圭太
(72)【発明者】
【氏名】長谷 修一郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 亮
(72)【発明者】
【氏名】切替 徳之
【テーマコード(参考)】
4F072
4F100
4J002
4J029
4J036
【Fターム(参考)】
4F072AA07
4F072AB10
4F072AD23
4F072AD42
4F072AL13
4F100AB17
4F100AB33
4F100AK25A
4F100AK33A
4F100AK36A
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4F100AT00B
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4F100EJ08
4F100JA07A
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4F100JK06
4F100JK07
4F100YY00A
4J002BG043
4J002CC033
4J002CC163
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4J029AA01
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4J029AB07
4J029AD01
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4J029CB03A
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4J029HA01
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4J036AA01
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4J036DD07
4J036FB07
4J036FB11
4J036JA08
4J036JA11
4J036KA01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高弾性及び接着性に優れたフェノキシ樹脂、このフェノキシ樹脂と硬化剤とを含む樹脂組成物、高弾性及び接着性に優れたその硬化物、繊維強化プラスチック並びに電気・電子回路用積層板を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表され、重量平均分子量が10,000~200,000であるフェノキシ樹脂。
式中、Zは独立に2価の基であり、少なくとも1つは式(1a)で表されるエステル含有基である。nは繰り返し数であり、その平均値は5以上1000以下である。Xは2つ以上の酸素原子を含む2価の複素多環基であり、Yは2価の環式炭化水素基である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表され、重量平均分子量が10,000~200,000であるフェノキシ樹脂。
【化1】
式中、Zは独立に2価の基であり、少なくとも1つは式(1a)で表されるエステル含有基である。Gは水素原子又はグリシジル基である。nは繰り返し数であり、その平均値は5以上1000以下である。Xは2つ以上の酸素原子を含む2価の複素多環基であり、Yは独立に2価の環式炭化水素基である。
【請求項2】
上記Xが下記式(3a)又は式(3b)で表される2価の複素多環基を含む請求項1に記載のフェノキシ樹脂。
【化2】
式中、Aは独立に、炭素数1~6のアルキレン基、又はベンゼン環もしくはナフタレン環のいずれかの芳香族環基である。
【請求項3】
上記Zが下記式(1b)で表される2価の基を含む請求項1に記載のフェノキシ樹脂。
【化3】
式中、Z
1は式(1c)で表される2価の基である。mは繰り返し数であり、その平均値は0以上6以下である。Arは独立に、ベンゼン環又はナフタレン環のいずれかの芳香族環基であり、これらの芳香族環は、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基、炭素数7~12のアラルキル基、炭素数6~12のアリールオキシ基、炭素数7~12のアラルキルオキシ基、炭素数2~12のアルケニル基、又は炭素数2~12のアルキニル基のいずれかを置換基として有してもよい。Rは、単結合、炭素数1~21の炭化水素基、-CO-、-O-、-S-、-SO
2-、又は-C(CF
3)
2-から選ばれる2価の基である。kは0、1、又は2である。
【請求項4】
請求項1に記載のフェノキシ樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物。
【請求項5】
硬化剤が、アクリル酸エステル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、酸無水物化合物、アミン系化合物、イミダゾール系化合物、アミド系化合物、カチオン重合開始剤、有機ホスフィン類、ホスホニウム塩、テトラフェニルボロン塩、ヒドラジド系化合物、ハロゲン化ホウ素アミン錯体、ポリメルカプタン系化合物、イソシアネート化合物、ポリイソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、及び活性エステル系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
フェノキシ樹脂の固形分100質量部に対し、硬化剤を固形分として0.1~100質量部を含む請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1に記載のフェノキシ樹脂、エポキシ樹脂及び硬化剤を含み、フェノキシ樹脂とエポキシ樹脂との固形分の質量比が、99/1~1/99である樹脂組成物。
【請求項8】
フェノキシ樹脂とエポキシ樹脂の固形分の合計100質量部に対し、硬化剤を固形分として0.1~100質量部を含む請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
硬化剤が、アクリル酸エステル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、酸無水物化合物、アミン系化合物、イミダゾール系化合物、アミド系化合物、カチオン重合開始剤、有機ホスフィン類、ホスホニウム塩、テトラフェニルボロン塩、ヒドラジド系化合物、ハロゲン化ホウ素アミン錯体、ポリメルカプタン系化合物、イソシアネート化合物、ポリイソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、及び活性エステル系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項4~9のいずれか1項に記載の樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
【請求項11】
請求項4~9のいずれか1項に記載の樹脂組成物を用いてなる繊維強化プラスチック。
【請求項12】
請求項4~9のいずれか1項に記載の樹脂組成物の硬化物で構成された絶縁層を備える積層板。
【請求項13】
請求項1に記載のフェノキシ樹脂を製造する方法であって、下記一般式(4)で表される2官能エポキシ樹脂と、下記一般式(5)で表されるジカルボン酸化合物とを反応させることを特徴とするフェノキシ樹脂の製造方法。
【化4】
式中、Z
2は式(1b)で表される2価の基を含む2価の基であり、G
1はグリシジル基である。X、Yは式(1a)のX、Yと同義である。Z
1は式(1c)で表される2価の基である。mは繰り返し数であり、その平均値は0以上6以下である。Arは独立に、ベンゼン環又はナフタレン環のいずれかの芳香族環基であり、これらの芳香族環は、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基、炭素数7~12のアラルキル基、炭素数6~12のアリールオキシ基、炭素数7~12のアラルキルオキシ基、炭素数2~12のアルケニル基、又は炭素数2~12のアルキニル基のいずれかを置換基として有してもよい。Rは、単結合、炭素数1~21の炭化水素基、-CO-、-O-、-S-、-SO
2-、又は-C(CF
3)
2-から選ばれる2価の基である。kは0、1、又は2である。
【請求項14】
請求項1に記載のフェノキシ樹脂を製造する方法であって、下記一般式(6)で表される2官能エポキシ樹脂と、下記一般式(7)で表される2官能フェノール化合物とを反応させることを特徴とするフェノキシ樹脂の製造方法。
【化5】
式中、X、Yは式(1a)のX、Yと同義であり、G
1はグリシジル基である。Z
2は式(1b)で表される2価の基を含む2価の基である。Z
1は式(1c)で表される2価の基である。mは繰り返し数であり、その平均値は0以上6以下である。Arは独立に、ベンゼン環又はナフタレン環のいずれかの芳香族環基であり、これらの芳香族環は、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基、炭素数7~12のアラルキル基、炭素数6~12のアリールオキシ基、炭素数7~12のアラルキルオキシ基、炭素数2~12のアルケニル基、又は炭素数2~12のアルキニル基のいずれかを置換基として有してもよい。Rは、単結合、炭素数1~21の炭化水素基、-CO-、-O-、-S-、-SO
2-、又は-C(CF
3)
2-から選ばれる2価の基である。kは0、1、又は2である。
【請求項15】
上記Xが下記式(3a)又は式(3b)で表される2価の複素多環基を含む請求項13又は14に記載のフェノキシ樹脂の製造方法。
【化6】
式中、Aは独立に、炭素数1~6のアルキレン基、又はベンゼン環もしくはナフタレン環のいずれかの芳香族環基である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高弾性及び接着性に優れたフェノキシ樹脂に関するものである。また、該フェノキシ樹脂と硬化剤とを含む樹脂組成物、その硬化物、及び該樹脂組成物を用いてなる繊維強化プラスチック及び積層板に関するものである。また、該フェノキシ樹脂の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は耐熱性、接着性、耐薬品性、耐水性、機械的強度及び電気特性等に優れていることから、塗料、土木、接着、電気材料用途等の分野で広く使用されている。そして種々の方法で高分子量化することで製膜性が付与される。その高分子量化されたエポキシ樹脂はフェノキシ樹脂と称される。特にビスフェノールA型のフェノキシ樹脂は、主に塗料用ワニスのベース樹脂、フィルム成形用のベース樹脂としてや、エポキシ樹脂ワニスに添加して流動性の調整や硬化物としたときの靭性改良、接着性改良の目的に使用される。また、リン原子や臭素原子を骨格中に有するものは、エポキシ樹脂組成物や熱可塑性樹脂に配合される難燃剤として使用されている。
【0003】
特に、土木、産業機器及び航空宇宙等に利用される繊維強化プラスチックの母材となるフェノキシ樹脂には高弾性及び他素材との接着性が要求される。
【0004】
このような要求に対して、特殊な置換基をフェノキシ樹脂の構造中に導入することで接着性を向上させる方法が提案されている。特許文献1には、フェノキシ樹脂の構造中にビスフェノールS骨格を導入することで、優れた接着性示すことが開示されている。しかし、この方法ではフェノキシ樹脂に対して優れた接着性を付与できるものの、高弾性は改善されないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、高弾性及び接着性に優れたフェノキシ樹脂、該フェノキシ樹脂と硬化剤とを含む樹脂組成物、高弾性及び接着性に優れたその硬化物、並びに該樹脂組成物からなる繊維強化プラスチックを提供することである。
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明者はフェノキシ樹脂について鋭意検討した結果、特定の構造を有するフェノキシ樹脂が、高弾性及び接着性に優れることを見出し、更にこれを含む樹脂組成物を硬化させた硬化物が高弾性及び接着性に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表され、重量平均分子量が10,000~200,000であるフェノキシ樹脂である。
【化1】
式中、Zは独立に2価の基であり、少なくとも1つは式(1a)で表されるエステル含有基である。Gは水素原子又はグリシジル基である。nは繰り返し数であり、その平均値は5以上1000以下である。Xは2つ以上の酸素原子を含む2価の複素多環基であり、Yは独立に2価の環式炭化水素基である。
【0009】
また、本発明のフェノキシ樹脂は、上記Xとして、下記式(3a)又は式(3b)で表される2価の複素多環基を含むことがよい。
【化2】
式中、Aは独立に、炭素数1~6のアルキレン基、又はベンゼン環もしくはナフタレン環のいずれかの芳香族環基である。
【0010】
また、本発明のフェノキシ樹脂は、上記Zとして、下記式(1b)で表される2価の基を含むことがよい。
【化3】
式中、Z
1は式(1c)で表される2価の基である。mは繰り返し数であり、その平均値は0以上6以下である。Arは独立に、ベンゼン環又はナフタレン環のいずれかの芳香族環基であり、これらの芳香族環は、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基、炭素数7~12のアラルキル基、炭素数6~12のアリールオキシ基、炭素数7~12のアラルキルオキシ基、炭素数2~12のアルケニル基、又は炭素数2~12のアルキニル基のいずれかを置換基として有してもよい。Rは、単結合、炭素数1~21の炭化水素基、-CO-、-O-、-S-、-SO
2-、又は-C(CF
3)
2-から選ばれる2価の基である。kは0、1、又は2である。
【0011】
また、本発明は、上記フェノキシ樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物である。
上記フェノキシ樹脂の固形分100質量部に対し、硬化剤を固形分として0.1~100質量部を含むことがよい。
【0012】
また、本発明は、上記フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂及び硬化剤を含み、フェノキシ樹脂とエポキシ樹脂との固形分の質量比が、99/1~1/99である樹脂組成物である。
上記フェノキシ樹脂とエポキシ樹脂の固形分の合計100質量部に対し、硬化剤を固形分として0.1~100質量部を含むことがよい。
【0013】
また、上記の樹脂組成物に配合される硬化剤が、アクリル酸エステル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、酸無水物化合物、アミン系化合物、イミダゾール系化合物、アミド系化合物、カチオン重合開始剤、有機ホスフィン類、ホスホニウム塩、テトラフェニルボロン塩、ヒドラジド系化合物、ハロゲン化ホウ素アミン錯体、ポリメルカプタン系化合物、イソシアネート化合物、ポリイソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、及び活性エステル系硬化剤からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、上記樹脂組成物を硬化してなる硬化物であり、上記樹脂組成物を用いてなる繊維強化プラスチックである。
【0015】
また、本発明は、上記のフェノキシ樹脂を製造する方法であって、下記一般式(4)で表される2官能エポキシ樹脂と、下記一般式(5)で表されるジカルボン酸化合物とを反応させることを特徴とするフェノキシ樹脂の製造方法である。
【化4】
式中、Z
2は式(1b)で表される2価の基を含む2価の基であり、G
1はグリシジル基である。X、Yは式(1a)のX、Yと同義である。Z
1は式(1c)で表される2価の基である。m、Ar、R、kは前記と同様である。
【0016】
また、本発明は、上記のフェノキシ樹脂を製造する方法であって、下記一般式(6)で表される2官能エポキシ樹脂と、下記一般式(7)で表される2官能フェノール化合物とを反応させることを特徴とするフェノキシ樹脂の製造方法である。
【化5】
式中、X、Yは式(1a)のX、Yと同義であり、G
1はグリシジル基である。Z
2は式(1b)で表される2価の基を含む2価の基である。Z
1は式(1c)で表される2価の基である。m、Ar、R、kは前記と同様である。
【0017】
上記製造方法において、Xは下記式(3a)又は式(3b)で表される2価の複素多環基を含むことが好ましい。
【化6】
式中、Aは独立に、炭素数1~6のアルキレン基、又はベンゼン環もしくはナフタレン環のいずれかの芳香族環基である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高弾性及び接着性に優れたフェノキシ樹脂を提供することができる。また、このフェノキシ樹脂を用いた樹脂組成物で、高弾性及び接着性に優れた硬化物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例1のフェノキシ樹脂のGPCチャートである。
【
図2】実施例1のフェノキシ樹脂のIRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のフェノキシ樹脂は、本発明の製造方法で有利に得ることができる。本明細書において、本発明の樹脂組成物を硬化してなる硬化物を「本発明の硬化物」と、本発明のフェノキシ樹脂の製造方法を「本発明の製造方法」と称することがある。
【0021】
本発明のフェノキシ樹脂は、下記一般式(1)で表される重量平均分子量(Mw)が10,000~200,000であるフェノキシ樹脂であり、2つ以上の酸素原子を含む2価の複素多環基(式(1a)のX基)とエステル結合基を有する。
【化7】
【0022】
一般式(1)において、Zは独立に2価の基であり、少なくとも1つは下記式(1a)で表されるエステル含有基である。この基は、2つ以上の酸素原子を含む2価の複素多環基を有するジカルボン酸化合物から末端の2つの水素原子を除いた残骨格に由来する。
【化8】
【0023】
式(1a)において、Xは2つ以上の酸素原子を含む2価の複素多環基であり、下記式(3a)又は式(3b)で表される2価の複素多環基が望ましい。
【化9】
式中、Aは独立に、炭素数1~6のアルキレン基、又はベンゼン環もしくはナフタレン環のいずれかの芳香族環基である。
【0024】
一般式(1a)において、Yは独立に2価の環式炭化水素基であり、炭素数1~20の炭化水素基を置換基として有することが好ましい。2価の環式炭化水素基としては、例えば、シクロブタニレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、メチルシクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基、ノルボルニレン基、メチルノルボルニレン基、デカヒドロナフチレン基、ビシクロヘキシレン基、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられる。好ましくは、反応操作の容易性等から、メチルシクロヘキシレン基である。
【0025】
一般式(1)において、Zは2価の基であり、式(1a)で表されるエステル含有基以外では、下記式(1b)で表される2価の基を含む基であることが好ましい。これらの基は2官能エポキシ樹脂から2つのグリシジルオキシ基を除いた残骨格に由来する。
【化10】
【0026】
式(1b)において、Z
1は下記式(1c)で表される2価の基である。
【化11】
【0027】
式(1c)において、Arは独立に、ベンゼン環又はナフタレン環のいずれかの芳香族環基である。これらの芳香族環は、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基、炭素数7~12のアラルキル基、炭素数6~12のアリールオキシ基、炭素数7~12のアラルキルオキシ基、炭素数2~12のアルケニル基、又は炭素数2~12のアルキニル基のいずれかを置換基として有してもよい。
【0028】
炭素数1~12のアルキル基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、シクロヘプチル基、メチルシクロヘキシル基、n-オクチル基、シクロオクチル基、n-ノニル基、3,3,5-トリメチルシクロヘキシル基、n-デシル基、シクロデシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、シクロドデシル基等が挙げられる。
【0029】
炭素数1~12のアルコキシ基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペントキシ基、イソペントキシ基、ネオペントキシ基、t-ペントキシ基、シクロペントキシ基、n-ヘキシロキシ基、イソヘキシロキシ基、シクロヘキシロキシ基、n-ヘプトキシ基、シクロヘプトキシ基、メチルシクロヘキシロキシ基、n-オクチロキシ基、シクロオクチロキシ基、n-ノニロキシ基、3,3,5-トリメチルシクロヘキシロキシ基、n-デシロキシ基、シクロデシロキシ基、n-ウンデシロキシ基、n-ドデシロキシ基、シクロドデシロキシ基等が挙げられる。
【0030】
炭素数6~12のアリール基としては、例えば、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、エチルフェニル基、スチリル基、キシリル基、n-プロピルフェニル基、イソプロピルフェニル基、メシチル基、エチニルフェニル基、ナフチル基、ビニルナフチル基等が挙げられる。
【0031】
炭素数7~12のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、メチルベンジル基、ジメチルベンジル基、トリメチルベンジル基、フェネチル基、2-フェニルイソプロピル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
【0032】
炭素数6~12のアリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、o-トリルオキシ基、m-トリルオキシ基、p-トリルオキシ基、エチルフェノキシ基、スチリルオキシ基、キシリルオキシ基、n-プロピルフェノキシ基、イソプロピルフェノキシ基、メシチルオキシ基、エチニルフェノキシ基、ナフチルオキシ基、ビニルナフチルオキシ基等が挙げられる。
【0033】
炭素数7~12のアラルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ基、メチルベンジルオキシ基、ジメチルベンジルオキシ基、トリメチルベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基、1-フェニルエトキシ基、2-フェニルイソプロポキシ基、ナフチルメトキシ基等が挙げられる。
【0034】
炭素数2~12のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-メチルビニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1,3-ブタジエニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘキサジエニル基、シンナミル基、ナフチルビニル基等が挙げられる。
【0035】
炭素数2~12のアルキニル基としては、例えば、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、1,3-ブタジイニル基、フェニルエチニル基、ナフチルエチニル基等が挙げられる。
【0036】
式(1c)において、Rは、単結合、炭素数1~21の2価の炭化水素基、-CO-、-O-、-S-、-SO2-、又は-C(CF3)2-から選ばれる2価の基である。
【0037】
炭素数1~21の2価の炭化水素基としては、炭素数1~21のアルキレン基又は炭素数6~21のアリーレン基が好ましく、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、例えば、-CH2-、-C(CH3)2-、-CH(CH3)-、-CHPh-、-C(CH3)Ph-、-C(CH3)(C2H5)-、-C(Ph)2-、-C2H4-、-C3H6-、-C4H8-、1,1-シクロペンチレン基、1,1-シクロヘキシレン基、1,1-シクロヘプチレン基、メチル-1,1-シクロヘキシレン基、1,1-シクロノニレン基、1,1-シクロオクチレン基、3,3,5-トリメチル-1,1-シクロヘキシレン基、1,1-シクロデシレン基、1,1-シクロドデシレン基、1,2-シクロペンチレン基、1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロペンチレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基、1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基、1,2-キシリレン基、1,4-キシリレン基、テトラヒドロジシクロペンタジエニレン基、テトラヒドロトリシクロペンタジエニレン基、1,1-フルオレンジイル基等が挙げられるが、これらに限定されない。Phはフェニル基(-C6H5)を示し、全炭素数が21以下であればフェニル基は置換基を有してもよい。
【0038】
式(1c)において、kは0、1、又は2であり、0又は1が好ましい。
【0039】
式(1b)において、mは繰り返し数であり、その平均値は0以上6以下であり、0以上3以下が好ましい。
【0040】
一般式(1)において、nは繰り返し数であり、その平均値の範囲は5以上1000以下である。成形性及び取り扱い性の観点から、好ましくは7以上800以下であり、より好ましくは10以上600以下である。n数はエポキシ当量の2倍値を平均分子量として算出することができる。また、n数はゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により得られた数平均分子量(Mn)より算出することができる。
【0041】
本発明のフェノキシ樹脂のMwは10,000以上200,000以下である。ここで、Mwが10,000より小さいと、製膜性や機械物性(特に強度)が低下する恐れがあり好ましくない。Mwが200,000より大きいと溶剤溶解性及び樹脂との相溶性が低下する恐れがあり、樹脂の取り扱いが困難となる場合があり好ましくない。Mwは、15,000~160,000が好ましく、20,000~120,000がより好ましく、30,000~150,000が更に好ましい。繊維強化プラスチック用途等では、Mwは30,000~150,000が好ましい。
なお、フェノキシ樹脂のMwは実施例に記載のGPC法により測定することができる。
【0042】
本発明のフェノキシ樹脂のエポキシ当量は、特に限定されないが、2,000~50,000g/eq.の範囲が好ましい。この範囲であれば、本発明のフェノキシ樹脂はそれ自体が硬化反応に関与し、架橋構造に組み込まれることが可能である。
【0043】
本発明のフェノキシ樹脂は、2つ以上の酸素原子を含む2価の複素多環基(式(1a)のX基)と前記Yとしての2価の環式炭化水素基とを、エステル結合を介したエステル含有基(式(1a))として有することにより、高弾性に優れた効果が得られる。
【0044】
本発明のフェノキシ樹脂の製造方法は、従来知られている方法を用いることができるが、好ましくは、2官能エポキシ樹脂と下記一般式(5)で表されるジカルボン酸化合物とを反応させる製造方法である、いわゆる二段法を使用することがよい。二段法では当該2官能エポキシ樹脂とジカルボン酸化合物との仕込みモル比を適宜調整することで、目的の範囲のものを製造することができる。
【化12】
式中、X、Yは式(1a)のX、Yと同義である。
【0045】
本発明の当該製造方法で使用する2官能エポキシ樹脂は、分子内に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂であればよい。これらの2官能エポキシ樹脂は1種のみでも複数種を組み合わせて使用してもよい。特に下記一般式(4)で表される2官能エポキシ樹脂が好ましい。
【化13】
式中、Z
2は2価の基であり、式(1b)で表される2価の基が好ましい。G
1はグリシジル基である。
【0046】
2官能エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールEジグリシジルエーテル、ビスフェノールZジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、ビスフェノールADジグリシジルエーテル、ビスフェノールアセトフェノンジグリシジルエーテル、ビスフェノールトリメチルシクロヘキサンジグリシジルエーテル、ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテル(例えば、ZX-1201(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)等)、ビスクレゾールフルオレンジグリシジルエーテル、テトラメチルビスフェノールAジグリシジルエーテル、テトラメチルビスフェノールFジグリシジルエーテル、テトラ-t-ブチルビスフェノールAジグリシジルエーテル、テトラメチルビスフェノールSジグリシジルエーテル、ジヒドロキシジフェニルエーテルジグリシジルエーテル、チオジフェノールジグリシジルエーテル、テトラブロムビスフェノールAジグリシジルエーテル、等のビスフェノール型エポキシ樹脂や、ビフェノールジグリシジルエーテル、テトラメチルビフェノールジグリシジルエーテル、ジメチルビフェノールジグリシジルエーテル、テトラ-t-ブチルビフェノールジグリシジルエーテル等のビフェノール型エポキシ樹脂や、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、メチルハイドロキノンジグリシジルエーテル、ジブチルハイドロキノンジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、メチルレゾルシンジグリシジルエーテル等のベンゼンジオール型エポキシ樹脂や、ジヒドロキシアントラセンジグリシジルエーテル、ヒドロアントラハイドロキノンジグリシジルエーテル、ジヒドロキシナフタレンジグリシジルエーテル、ビスナフトールフルオレンジグリシジルエーテル、ジフェニルジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0047】
2官能エポキシ樹脂としては、更に、上記2官能エポキシ樹脂の芳香環に水素を添加した2官能エポキシ樹脂や、アジピン酸、コハク酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、ダイマー酸等の種々のジカルボン酸類と、エピハロヒドリンとから製造されるグリシジルエステル型エポキシ樹脂や、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、1,5-ペンタンジオールジグリシジルエーテル、ポリペンタメチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリヘキサメチレングリコールジグリシジルエーテル、1,7-ヘプタンジオールジグリシジルエーテル、ポリヘプタメチレングリコールジグリシジルエーテル、1,8-オクタンジオールジグリシジルエーテル、1,10-デカンジオールジグリシジルエーテル、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールジグリシジルエーテル等の鎖状構造のみからなる(ポリ)アルキレングリコール型エポキシ樹脂や、1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル等の環状構造を有するアルキレングリコール型エポキシ樹脂や、脂肪族環状エポキシ樹脂や、リン含有2官能エポキシ樹脂(例えば、FX-305(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)、ジフェニルホスフィニルハイドロキノンジグリシジルエーテル等)等も挙げられる。
フェノキシ樹脂の耐熱性の向上のためには、ジヒドロキシナフタレンジグリシジルエーテル、ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテル、ビスクレゾールフルオレンジグリシジルエーテル、ビスナフトールフルオレンジグリシジルエーテルが好ましく、ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテル、ビスクレゾールフルオレンジグリシジルエーテル、ビスナフトールフルオレンジグリシジルエーテル等のフルオレン環構造を有する2官能エポキシ樹脂がより好ましい。難燃性付与のためには、テトラブロムビスフェノールAジグリシジルエーテル、リン含有2官能エポキシ樹脂が好ましく、リン含有2官能エポキシ樹脂がより好ましい。
【0048】
本発明の当該製造方法に用いられる一般式(5)で表されるジカルボン酸化合物は、例えば、一般式(5)中のX基に結合した2つのヒドロキシ基を有するジオール化合物を、一般式(5)中のY基に結合した環状カルボン酸無水物との開環反応でカルボキシ化して得られる。
【0049】
2つ以上の酸素原子を含む2価の複素多環基(X)としては、式(3a)及び(3b)以外の基として、下記式(3c)~(3e)で表される2価の基であってもよい。
【化14】
式(3e)において、R
1はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~11の炭化水素基であり、R
2はそれぞれ独立に炭素数1~11の炭化水素基であり、iはそれぞれ独立に0~3の整数である。
【0050】
上記ジオール化合物としては、例えば、イソソルビド、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、4,4’-(2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン-3,9-ジイル)ビスフェノール等が挙げられる。
フェノキシ樹脂の高弾性化のためには、イソソルビド、4,4’-(2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン-3,9-ジイル)ビスフェノールが好ましい。これらのジオール化合物は、1種のみでも複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0051】
上記環状カルボン酸無水物としては、無水フタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、メチル化無水ヘキサヒドロフタル酸、無水ナジック酸、水素化無水ナジック酸等が挙げられる。フェノキシ樹脂の弾性率向上のためには、無水ヘキサヒドロフタル酸、メチル化無水ヘキサヒドロフタル酸が好ましい。これらの環状カルボン酸無水物は、1種のみでも複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0052】
一般式(5)で表されるジカルボン酸化合物の使用量は、2官能エポキシ樹脂1.00モルに対して、0.90~1.1モルが好ましく、0.95~1.05モルがより好ましく、0.96~1.00モルが更に好ましく、0.97~0.99モルが特に好ましい。ジカルボン酸化合物の配合量がこの範囲内であれば、得られるフェノキシ樹脂の分子量が十分伸長するので好ましい。また、得られるフェノキシ樹脂としての反応性の点では末端基にエポキシ基を多く存在することが望ましいため、ジカルボン酸化合物の配合量は1.00モル未満が好ましい。
【0053】
本発明の当該製造方法に用いられる2官能エポキシ樹脂は、例えば、2官能フェノール化合物と、エピハロヒドリンとを、アルカリ金属化合物存在下で反応させて得られるエポキシ樹脂等が挙げられる。
エピハロヒドリンとしては、例えば、エピクロルヒドリンやエピブロモヒドリン等が挙げられる。
【0054】
2官能フェノール化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールE、ビスフェノールZ、ビスフェノールS、ビスフェノールAD、ビスフェノールアセトフェノン、ビスフェノールトリメチルシクロヘキサン、ビスフェノールフルオレン、ビスクレゾールフルオレン、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラ-t-ブチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールS、ジヒドロキシジフェニルエーテル、ジヒドロキシジフェニルメタン、ビス(ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、チオジフェノール、ジヒドロキシスチルベン等のビスフェノール類や、ビフェノール、テトラメチルビフェノール、ジメチルビフェノール、テトラ-t-ブチルビフェノール等のビフェノール類や、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、ジブチルハイドロキノン、レゾルシン、メチルレゾルシン等のベンゼンジオール類や、ジヒドロキシアントラセン、ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロアントラハイドロキノン等の類や10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10-(2,7-ジヒドロキシ-1-ナフチル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10-(1,4-ジヒドロキシ-2-ナフチル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-8-ベンジル-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10-(2,7-ジヒドロキシ-1-ナフチル)-8-ベンジル-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、ジフェニルホスフィニルヒドロキノン、ジフェニルホスフェニル-1,4-ジオキシナフタリン、1,4-シクロオクチレンホスフィニル-1,4-フェニルジオール、1,5-シクロオクチレンホスフィニル-1,4-フェニルジオール等のリン含有フェノール類が挙げられる。
アルカリ金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物や、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化カリウム等のアルカリ金属塩や、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等のアルカリ金属アルコキシドや、酢酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム等の有機酸のアルカリ金属塩や、アルカリ金属フェノキシド、水素化ナトリウム、水素化リチウム等が挙げられる。
【0055】
原料2官能エポキシ樹脂を得るための2官能フェノール化合物とエピハロヒドリンとの反応には、2官能フェノール化合物中の官能基に対して0.80~1.20倍モル、好ましくは0.85~1.05倍モルのアルカリ金属化合物が用いられる。これより少ないと残存する加水分解性塩素の量が多くなり好ましくない。アルカリ金属化合物としては、水溶液、アルコール溶液又は固体の状態で使用される。
【0056】
エポキシ化反応に際しては、2官能フェノール化合物に対しては過剰量のエピハロヒドリンが使用される。通常、2官能フェノール化合物中の官能基1モルに対して、1.5~15倍モルのエピハロヒドリンが使用されるが、好ましくは2~10倍モル、より好ましく5~8倍モルである。これより多いと生産効率が低下し、これより少ないとエポキシ樹脂の高分子量体の生成量が増え、フェノキシ樹脂の原料に適さなくなる場合がある。
【0057】
エポキシ化反応は、通常、120℃以下の温度で行われる。反応の際、温度が高いと、いわゆる難加水分解性塩素量が多くなり高純度化が困難になる場合がある。好ましくは100℃以下であり、更に好ましくは85℃以下の温度である。
【0058】
2官能フェノール化合物とエピハロヒドリンを反応させると、mは0より大きくなるのが通常である。mを0とするためには、公知の方法で製造したエポキシ樹脂を蒸留、晶析等の手法で高度に精製するか、又は2官能フェノール化合物をアリル化した後に、オレフィン部分を酸化することでエポキシ化する方法がある。
【0059】
本発明の製造方法において、触媒を用いてもよく、その触媒としては、エポキシ基とカルボキシ基との反応を進めるような触媒能を持つ化合物であればどのようなものでもよい。例えば、第3級アミン、環状アミン類、イミダゾール類、有機リン化合物、第4級アンモニウム塩等が挙げられる。また、これらの触媒は単独でも、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0060】
第3級アミンとしては、例えば、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリ-n-ブチルアミン、トリエタノールアミン、ベンジルジメチルアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
環状アミン類としては、例えば、1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン-5(DBN)、N-メチルモルホリン、ピリジン、N,N-ジメチルアミノピリジン(DMAP)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
イミダゾール類としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
有機リン化合物としては、例えば、トリ-n-プロピルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(p-トリル)ホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリ(t-ブチル)ホスフィン、トリス(p-メトキシフェニル)ホスフィン、パラメチルホスフィン、1,2-ビス(ジメチルホスフィノ)エタン、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン等のホスフィン類や、テトラメチルホスホニウムブロミド、テトラメチルホスホニウムヨージド、テトラメチルホスホニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド、トリメチルシクロヘキシルホスホニウムクロリド、トリメチルシクロヘキシルホスホニウムブロミド、トリメチルベンジルホスホニウムクロリド、トリメチルベンジルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、トリフェニルメチルホスホニウムブロミド、トリフェニルメチルホスホニウムヨージド、トリフェニルエチルホスホニウムクロリド、トリフェニルエチルホスホニウムブロミド、トリフェニルエチルホスホニウムヨージド、トリフェニルベンジルホスホニウムクロリド、トリフェニルベンジルホスホニウムブロミド等のホスホニウム塩類等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
第4級アンモニウム塩としては、例えば、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムヨージド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムヨージド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロリド、フェニルトリメチルアンモニウムクロリド等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
以上に挙げた触媒の中でも、4-(ジメチルアミノ)ピリジン、1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7、1,5-ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン-5、2-エチル-4-メチルイミダゾール、トリス(p-トリル)ホスフィン、テトラブチルホスホニウムブロミド、トリシクロヘキシルホスフィン、トリ(t-ブチル)ホスフィン、トリス(p-メトキシフェニル)ホスフィンが好ましく、特にテトラブチルホスホニウムブロミド、トリス(p-メトキシフェニル)ホスフィンが好ましい。
【0066】
触媒の使用量は、反応固形分中、通常0.001~1質量%であるが、これらの化合物を触媒として使用した場合、得られるフェノキシ樹脂中にこれらの触媒が残渣として残留し、プリント配線板の絶縁特性を悪化させたり、組成物のポットライフを短縮させたりする恐れがあるので、フェノキシ樹脂中の窒素の含有量は、0.5質量%以下が好ましく、0.3質量%以下がより好ましい。また、フェノキシ樹脂中のリンの含有量は、0.5質量%以下が好ましく、0.3質量%がより好ましい。
【0067】
本発明の製造方法において、反応用の溶媒を用いてもよく、その溶媒としては、フェノキシ樹脂を溶解するものであればどのようなものでもよい。例えば、芳香族系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、グリコールエーテル系溶媒、エステル系溶媒等が挙げられる。また、これらの溶媒は1種のみで用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0068】
芳香族系溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0069】
ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、2-ヘプタノン、4-ヘプタノン、2-オクタノン、シクロヘキサノン、アセチルアセトン、ジイソブチルケトン、イソホロン、メチルシクロへキサノン、アセトフェノン等が挙げられる。
【0070】
アミド系溶媒としては、例えば、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、2-ピロリドン、N-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0071】
グリコールエーテル系溶媒としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル類や、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル等のジエチレングリコールモノアルキルエーテル類や、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類や、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル等のエチレングリコールジアルキルエーテル類や、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル等のポリエチレングリコールジアルキルエーテル類や、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル等のプロピレングリコールジアルキルエーテル類や、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジブチルエーテル等のポリプロピレングリコールジアルキルエーテル類や、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類や、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のポリエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類や、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類等が挙げられる。
【0072】
エステル系溶媒としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸ベンジル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、酪酸ブチル、バレロラクトン、ブチロラクトン等が挙げられる。
等が挙げられる。
【0073】
また、その他の溶媒としては、例えば、ジメチルスルフォキシド、スルホラン、ジオキサン等が挙げられる。
【0074】
本発明の製造方法において、反応時の固形分濃度は35~95質量%が好ましい。また、反応途中で高粘性生成物が生じたときは溶媒を追加添加して反応を続けることもできる。反応終了後、溶媒は必要に応じて、除去することもできるし、更に追加することもできる。
【0075】
反応温度は、使用する触媒が分解しない程度の温度範囲で行う。反応温度が高すぎると触媒が分解して反応が停止したり、生成するフェノキシ樹脂が劣化したりする恐れがある。反応温度が低すぎると反応が十分に進まずに目的の分子量にならない恐れがある。そのため反応温度は、好ましくは50~230℃、より好ましくは120~200℃である。また、反応時間は通常1~12時間、好ましくは3~10時間である。アセトンやメチルエチルケトンのような低沸点溶媒を使用する場合には、オートクレーブを使用して高圧下で反応を行うことで反応温度を確保することができる。また、反応熱の除去が必要な場合は、通常、反応熱による使用溶媒の蒸発・凝縮・還流法、間接冷却法、又はこれらの併用により行われる。
【0076】
また、本発明のフェノキシ樹脂の製造方法としては、前記ジカルボン酸化合物の代わりに下記一般式(6)で表されるジグリシジルエステル化合物(2官能エポキシ樹脂)を用い、また、前記2官能エポキシ樹脂の代わりに2官能フェノール化合物を用いて、同様の反応条件で反応させることでも得ることができる。一般式(6)で表されるジグリシジルエステル化合物(2官能エポキシ樹脂)は、前記ジカルボン酸化合物とエピハロヒドリンとの反応により、前述と同様の反応条件で得ることができる。また、2官能フェノール化合物は、制限されないが、特に下記一般式(7)で表される2官能フェノール化合物が好ましい。
【化15】
式中、X、Yは式(1a)のX、Yと同義であり、G
1はグリシジル基である。Z
2は2価の基であり、式(1b)で表される2価の基が好ましい。
【0077】
本発明の樹脂組成物は、少なくとも本発明のフェノキシ樹脂と硬化剤とを含む樹脂組成物である。また、本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、エポキシ樹脂、無機フィラー、カップリング剤、酸化防止剤等の各種添加剤を適宜配合することができる。本発明の樹脂組成物は、各種用途に要求される諸物性を十分に満たす硬化物を与えるものである。
【0078】
本発明のフェノキシ樹脂に硬化剤を配合して樹脂組成物とすることができる。本発明において硬化剤とは、フェノキシ樹脂と架橋反応及び/又は鎖長延長反応に寄与する物質を示す。なお、本発明においては、通常「硬化促進剤」と呼ばれるものであってもフェノキシ樹脂の架橋反応及び/又は鎖長延長反応に寄与する物質であれば、硬化剤とみなすこととする。
【0079】
本発明の樹脂組成物中の硬化剤の含有量は、本発明のフェノキシ樹脂の固形分100質量部に対して、好ましくは固形分で0.1~100質量部である。また、より好ましくは80質量部以下であり、更に好ましくは60質量部以下である。
【0080】
本発明の樹脂組成物において、後述するエポキシ樹脂が含まれる場合には、本発明のフェノキシ樹脂とエポキシ樹脂との固形分の重量比が99/1~1/99である。本発明において、「固形分」とは溶媒を除いた成分を意味し、固体のフェノキシ樹脂やエポキシ樹脂のみならず、半固形や粘稠な液状物のものをも含むものとする。また、「樹脂成分」とは、本発明のフェノキシ樹脂と後述するエポキシ樹脂との合計を意味する。
また、本発明のフェノキシ樹脂と後述するエポキシ樹脂とを使用する場合、これらフェノキシ樹脂とエポキシ樹脂との固形分の合計100質量部に対し、前記の硬化剤を固形分として0.1~100質量部を含むことが好ましく、より好ましくは80質量部以下であり、更に好ましくは60質量部以下である。
【0081】
後述のエポキシ樹脂が含まれる場合を含む本発明の樹脂組成物に使用する硬化剤としては、特に制限はなく一般的にエポキシ樹脂硬化剤として知られているものは全て使用できる。例えば、フェノール樹脂、アミド系化合物、イミダゾール系化合物、活性エステル系化合物、アミン系化合物等が挙げられる。耐熱性を高める観点から好ましいものとして、フェノール樹脂、アミド系化合物、イミダゾール系化合物等が挙げられ、耐水性を高める観点から好ましいものとして、活性エステル系化合物が挙げられる。これらの硬化性剤は単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0082】
フェノール樹脂としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、1,4-ビス(4-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2’-ジヒドロキシビフェニル、10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキサイド、フェノールノボラック、ビスフェノールAノボラック、o-クレゾールノボラック、m-クレゾールノボラック、p-クレゾールノボラック、キシレノールノボラック、ポリ-p-ヒドロキシスチレン、ハイドロキノン、レゾルシン、カテコール、t-ブチルカテコール、t-ブチルハイドロキノン、フルオログリシノール、ピロガロール、t-ブチルピロガロール、アリル化ピロガロール、ポリアリル化ピロガロール、1,2,4-ベンゼントリオール、2,3,4-トリヒドロキシベンゾフェノン、1,2-ジヒドロキシナフタレン、1,3-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,7-ジヒドロキシナフタレン、1,8-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,4-ジヒドロキシナフタレン、2,5-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、2,8-ジヒドロキシナフタレン、上記ジヒドロキシナフタレンのアリル化物又はポリアリル化物、アリル化ビスフェノールA、アリル化ビスフェノールF、アリル化フェノールノボラック、アリル化ピロガロール等が挙げられる。
【0083】
アミド系化合物としては、例えば、ジシアンジアミド及びその誘導体、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0084】
イミダゾール系化合物としては、例えば、2-フェニルイミダゾール、2-エチル-4(5)-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノ-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾールトリメリテイト、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加体、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加体、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、及びエポキシ樹脂と上記イミダゾール類との付加体等が挙げられる。なお、イミダゾール類は触媒能を有するため、一般的には後述する硬化促進剤にも分類されうるが、本発明においては硬化剤として分類するものとする。
【0085】
活性エステル系化合物としては、特許5152445号公報に記載されているような多官能フェノール化合物と芳香族カルボン酸類の反応生成物が挙げられ、市販品では、エピクロンHPC-8000-65T(DIC株式会社製)等があるがこれらに限定されるものではない。
【0086】
本発明の樹脂組成物に使用することのできるその他の硬化剤として、例えば、アクリル酸エステル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、カチオン重合剤、酸無水物、有機ホスフィン類、ホスホニウム塩、テトラフェニルボロン塩、ヒドラジド系化合物、ハロゲン化ホウ素アミン錯体、ポリメルカプタン系化合物、イソシアネート化合物、ポリイソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物等が挙げられる。これらのその他の硬化剤は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
【0087】
本発明の樹脂組成物は、本発明のフェノキシ樹脂以外にエポキシ樹脂を含むことができる。エポキシ樹脂を使用することで、不足する物性を補ったり、種々の物性を向上させたりすることができる。エポキシ樹脂としては、分子内に2個以上のエポキシ基を有するものであることが好ましく、3個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂がより好ましい。例えば、ポリグリシジルエーテル化合物、ポリグリシジルアミン化合物、ポリグリシジルエステル化合物、脂環式エポキシ化合物、その他変性エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は単独で使用してもよく、同一系のエポキシ樹脂を2種類以上併用してもよく、また、異なる系のエポキシ樹脂を組み合わせて使用してもよい。
【0088】
ポリグリシジルエーテル化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂、ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂、ジフェニルスルフィド型エポキシ樹脂、ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ヒドロキノン型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルノボラック型エポキシ樹脂、スチレン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、β-ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレンジオールアラルキル型エポキシ樹脂、α-ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキルフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アルキレングリコール型エポキシ樹脂、脂肪族環状エポキシ樹脂等の各種エポキシ樹脂を使用することができる。
【0089】
ポリグリシジルアミン化合物としては、例えば、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、メタキシレンジアミン型エポキシ樹脂、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン型エポキシ樹脂、イソシアヌレート型エポキシ樹脂、アニリン型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0090】
ポリグリシジルエステル化合物としては、例えば、ダイマー酸型エポキシ樹脂、トリメリット酸型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0091】
脂環式エポキシ化合物としては、セロキサイド2021(株式会社ダイセル製)等の脂肪族環状エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0092】
その他の変性エポキシ樹脂としては、例えば、ウレタン変性エポキシ樹脂、オキサゾリドン環含有エポキシ樹脂、エポキシ変性ポリブタジエンゴム誘導体、カルボキシル基末端ブタジエンニトリルゴム(CTBN)変性エポキシ樹脂、ポリビニルアレーンポリオキシド(例えば、ジビニルベンゼンジオキシド、トリビニルナフタレントリオキシド等)、フェノキシ樹脂等が挙げられる。
【0093】
本発明の樹脂組成物において、本発明のフェノキシ樹脂とエポキシ樹脂とを使用する場合、固形分としてのフェノキシ樹脂及びエポキシ樹脂の全成分中、フェノキシ樹脂の配合量は、好ましくは1~99質量%であり、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは80質量%以上である。
【0094】
本発明の樹脂組成物には、塗膜形成時の取り扱い時に、樹脂組成物の粘度を適度に調整するために溶剤又は反応性希釈剤を配合してもよい。本発明の樹脂組成物において、溶剤又は反応性希釈剤は、樹脂組成物の成形における取り扱い性、作業性を確保するために用いられ、その使用量には特に制限がない。なお、本発明においては「溶剤」という語と前述の「溶媒」という語をその使用形態により区別して使用するが、それぞれ独立して同種のものを用いても異なるものを用いてもよい。
【0095】
本発明の樹脂組成物が含み得る溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類、メタノール、エタノール等のアルコール類、ヘキサン、シクロヘキサン等のアルカン類、トルエン、キシレン等の芳香族類等が挙げられる。以上に挙げた溶剤は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
【0096】
反応性希釈剤としては、例えば、アリルグリシジルエーテル等の単官能グリシジルエーテル類、プロピレングリコールジグリシジルエーテル等の二官能グリシジルエーテル類、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル等の多官能グリシジルエーテル類、グリシジルエステル類、グリシジルアミン類が挙げられる。
【0097】
これらの溶剤又は反応性希釈剤は、不揮発分として90質量%以下で使用することが好ましく、その適正な種類や使用量は用途によって適宜選択される。例えば、プリント配線板用途では、メチルエチルケトン、アセトン、1-メトキシ-2-プロパノール等の沸点が160℃以下の極性溶媒であることが好ましく、その使用量は不揮発分で40~80質量%が好ましい。また、例えば、接着フィルム用途では、例えば、ケトン類、酢酸エステル類、カルビトール類、芳香族炭化水素類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等を使用することが好ましく、その使用量は不揮発分で30~60質量%が好ましい。
【0098】
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、硬化促進剤又は触媒を使用することができる。硬化促進剤又は触媒としては、例えば、イミダゾール系化合物、第3級アミン類、ホスフィン類等のリン化合物、金属化合物、ルイス酸、アミン錯塩等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0099】
硬化促進剤又は触媒の配合量は、使用目的に応じて適宜選択すればよいが、樹脂組成物中のエポキシ樹脂成分100質量部に対して、0.01~15質量部が必要に応じて使用される。好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.05~8質量部、更に好ましいは0.1~5質量部、特に好ましくは0.1~1.0質量部である。硬化促進剤又は触媒を使用することにより、硬化温度を下げることや、硬化時間を短縮することができる。
【0100】
本発明の樹脂組成物には、得られる硬化物の難燃性の向上を目的に、信頼性を低下させない範囲で、公知の各種難燃剤を使用することができる。使用できる難燃剤としては、例えば、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、シリコーン系難燃剤、無機系難燃剤、有機金属塩系難燃剤等が挙げられる。環境に対する観点から、ハロゲンを含まない難燃剤が好ましく、特にリン系難燃剤が好ましい。これらの難燃剤は単独で使用してもよく、同一系の難燃剤を2種類以上併用してもよく、また、異なる系の難燃剤を組み合わせて使用してもよい。
【0101】
本発明の樹脂組成物には、その機能性の更なる向上を目的として、以上で挙げたもの以外の成分(本発明において「その他の成分」と称することがある。)を含んでいてもよい。このようなその他の成分としては、充填材、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、紫外線防止剤、酸化防止剤、カップリング剤、可塑剤、フラックス、揺変性付与剤、平滑剤、着色剤、顔料、分散剤、乳化剤、低弾性化剤、離型剤、消泡剤、イオントラップ剤等が挙げられる。
【0102】
充填材としては、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、ベーマイト、タルク、マイカ、クレー、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、硫酸バリウム、炭素等の無機充填剤や、炭素繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、ポリエステル繊維、セルロース繊維、アラミド繊維、セラミック繊維等の繊維状充填剤や、微粒子ゴム等が挙げられる。
【0103】
本発明の樹脂組成物には、本発明のフェノキシ樹脂以外の熱可塑性樹脂を併用してもよい。熱可塑性樹脂としては、例えば、本発明以外のフェノキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリテトラフロロエチレン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリビニルホルマール樹脂等が挙げられる。相溶性の面からは本発明以外のフェノキシ樹脂が好ましい。
【0104】
その他の成分としては、キナクリドン系、アゾ系、フタロシアニン系等の有機顔料や、酸化チタン、金属箔状顔料、防錆顔料等の無機顔料や、ヒンダードアミン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系等の紫外線吸収剤や、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系、ヒドラジド系等の酸化防止剤や、ステアリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の離型剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤、顔料分散剤、ハジキ防止剤、消泡剤等の添加剤等が挙げられる。これらのその他の成分の配合量は、樹脂組成物中の全固形分に対して、0.01~20質量%の範囲が好ましい。
【0105】
本発明の樹脂組成物は、上記各成分を均一に混合することにより得られる。本発明のフェノキシ樹脂、硬化剤、更に必要により各種成分の配合された樹脂組成物は、従来知られている方法と同様の方法で容易に硬化物とすることができる。この硬化物は、低吸湿性、誘電特性、耐熱性、密着性等のバランスに優れ、良好な硬化物性を示すものである。ここでいう「硬化」とは熱及び/又は光等により樹脂組成物を意図的に硬化させることを意味するものであり、その硬化の程度は所望の物性、用途により制御すればよい。進行の程度は完全硬化であっても、半硬化の状態であってもよく、特に制限されないが、エポキシ基と硬化剤の硬化反応の反応率として通常5~95%である。
【0106】
本発明の樹脂組成物は、公知のエポキシ樹脂組成物と同様な方法で硬化することによって硬化物を得ることができる。硬化物を得るための方法としては、公知のエポキシ樹脂組成物と同様の方法をとることができ、注型、注入、ポッティング、ディッピング、ドリップコーティング、トランスファ一成形、圧縮成形等や樹脂シート、樹脂付き銅箔、プリプレグ等の形態とし積層して加熱加圧硬化することで積層板とする等の方法が好適に用いられる。その際の硬化温度は通常、80~300℃の範囲であり、硬化時間は通常、硬化時間は10~360分間程度である。この加熱は80~180℃で10~90分の一次加熱と、120~200℃で60~150分の二次加熱との二段処理で行うことが好ましく、また、ガラス転移温度(Tg)が二次加熱の温度を超える配合系においては、更に150~280℃で60~120分の三次加熱を行うことが好ましい。このような二次加熱、三次加熱を行うことで硬化不良を低減することができる。樹脂シート、樹脂付き銅箔、プリプレグ等の樹脂半硬化物を作製する際には、通常、加熱等により形状が保てる程度に樹脂組成物の硬化反応を進行させる。樹脂組成物が溶媒を含んでいる場合には、通常、加熱、減圧、風乾等の手法で大部分の溶媒を除去するが、樹脂半硬化物中に5質量%以下の溶媒を残量させてもよい。
【0107】
本発明の樹脂組成物を用いてなる繊維強化プラスチックで使用する強化繊維は、炭素繊維、アラミド繊維、セルロース繊維等のプラスチックを強化するためのものであり、特に限定されるものではない。また、繊維の形態についても繊維を引きそろえたUDシート、織物、トウ、チョップドファイバー、不織布、抄紙等が挙げられ、特に限定されるものではない。ただし、含浸性の観点から、それぞれの繊維束の厚みは1mm以下、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.2mm以下である。
強化繊維として炭素繊維を用いると、強度、剛性がバランスよく高い複合材料が得られるため、好ましい。炭素繊維としては、PAN系、ピッチ系のいずれでもよいが、PAN系が特に好ましい。
【0108】
上記繊維強化プラスチックは、公知の方法を用いて、上記樹脂組成物と強化繊維とから得られる。強化繊維と樹脂組成物の比率は質量比で、好ましくは5:5~8:2である。強化繊維の比率について、強化繊維が少なすぎると繊維強化材料に求められる強度を十分に満足できない恐れがあり、強化繊維が多すぎるとボイド等の欠陥が生じる恐れがある。
【0109】
本発明の樹脂組成物から得られる繊維強化プラスチックを得るための重合条件としては、重合温度が120~200℃、重合時間が5分~480分であることが好ましい。
【0110】
上記繊維強化プラスチックの重量平均分子量(Mw)は、40,000~200,000である。40,000未満である場合は材料としての強度が確保できない場合がある。また、200,000を超えるとゲル成分が増えてくるため賦形性に劣る場合がある。なお、繊維強化プラスチックのMwは実施例に記載のゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定することができる。
【0111】
本発明の樹脂組成物を用いて得られる積層板について説明する。本発明の積層板は、下記のとおり、本発明の樹脂組成物を用いたプリプレグや絶縁接着シートなどの硬化物から構成される絶縁層を備える。
【0112】
本発明の樹脂組成物を用いて得られるプリプレグについて説明する。シート状基材としては、ガラス等の無機繊維や、ポリエステル等、ポリアミン、ポリアクリル、ポリイミド、ケブラー、セルロース等の有機質繊維の織布又は不織布を使用することができるが、これに限定されるものではない。本発明の樹脂組成物及びシート状基材からプリプレグを製造する方法としては、特に限定するものではなく、例えば上記のシート状基材を、上記の樹脂組成物を溶剤で粘度調整した樹脂ワニスに浸漬して含浸した後、加熱乾燥して樹脂成分を半硬化(Bステージ化)して得られるものであり、例えば100~200℃で1~40分間加熱乾燥することができる。ここで、プリプレグ中の樹脂量は、樹脂分30~80質量%とすることが好ましい。
【0113】
プリプレグや絶縁接着シートを用いて積層板を製造する方法を説明する。プリプレグを用いて積層板を形成する場合は、プリプレグを一枚又は複数枚積層し、片側又は両側に金属箔を配置して積層物を構成し、この積層物を加熱・加圧して積層一体化する。ここで金属箔としては、銅、アルミニウム、真鍮、ニッケル等の単独、合金、複合の金属箔を使用することができる。積層物を加熱加圧する条件としては、樹脂組成物が硬化する条件で適宜調整して加熱加圧すればよいが、加圧の圧量があまり低いと、得られる積層板の内部に気泡が残留し、電気的特性が低下する場合があるため、成型性を満足する条件で加圧することが望ましい。例えば温度を160~220℃、圧力を49.0~490.3N/cm2(5~50kgf/cm2)、加熱時間を40~240分間にそれぞれ設定することができる。
【0114】
更にこのようにして得られた単層の積層板を内層材として、多層板を作成することができる。この場合、まず積層板にアディティブ法やサブトラクティブ法等にて回路形成を施し、形成された回路表面を酸溶液で処理して黒化処理を施して、内層材を得る。この内層材の片面又は両側の回路形成面に、プリプレグや絶縁接着シートにて絶縁層を形成するとともに、絶縁層の表面に導体層を形成して、多層板を形成するものである。
【0115】
絶縁接着シートにて絶縁層を形成する場合は、複数枚の内層材の回路形成面に絶縁接着シートを配置して積層物を形成する。あるいは内層材の回路形成面と金属箔の間に絶縁接着シートを配置して積層物を形成する。そしてこの積層物を加熱加圧して一体成型することにより、絶縁接着シートの硬化物を絶縁層として形成するとともに、内層材の多層化を形成する。あるいは内層材と導体層である金属箔を絶縁接着シートの硬化物を絶縁層として形成するものである。ここで、金属箔としては、内層材として用いられる積層板に用いたものと同様のものを使用することができる。
また加熱加圧成形は、内層材の成型と同様の条件にて行うことができる。積層板に樹脂組成物を塗布して絶縁層を形成する場合は、内層材の最外層の回路形成面樹脂を上記の樹脂組成物を好ましくは5~100μmの厚みに塗布した後、100~200℃で1~90分加熱乾燥してシート状に形成する。一般にキャスティング法と呼ばれる方法で形成されるものである。乾燥後の厚みは5~80μmに形成することが望ましい。このようにして形成された多層積層板の表面に、更にアディティブ法やサブストラクティブ法にてバイアホール形成や回路形成を施して、プリント配線板を形成することができる。
また更にこのプリント配線板を内層材として上記の工法を繰り返すことにより、更に多層の積層板を形成することができるものである。
【0116】
またプリプレグにて絶縁層を形成する場合は、内層材の回路形成面に、プリプレグを一枚又は複数枚を積層したものを配置し、更にその外側に金属箔を配置して積層物を形成する。そしてこの積層物を加熱加圧して一体成型することにより、プリプレグの硬化物を絶縁層として形成するとともに、その外側の金属箔を導体層として形成するものである。
ここで、金属箔としては、内層材として用いられる積層板に用いたものと同様のものを使用することもできる。また加熱加圧成形は、内層材の成型と同様の条件にて行うことができる。このようにして成形された多層積層板の表面に、更にアディティブ法やサブトラクティブ法にてバイアホール形成や回路形成を施して、プリント配線板を成型することができる。
また更にこのプリント配線板を内層材として上記の工法を繰り返すことにより、更に多層の多層板を形成することができる。
【0117】
本発明の樹脂組成物から得られる硬化物や、電気・電子回路用に好適な積層板は、優れた難燃性及び耐熱性を有する。
【実施例0118】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。特に断りがない限り、部は「質量部」を表し、%は「質量%」を表す。分析方法、測定方法を以下に示す。また、各種当量の単位は全て「g/eq.」である。
【0119】
(1)重量平均分子量(Mw):
GPC測定により求めた。具体的には、本体HLC8320GPC(東ソー株式会社製)にカラム(TSKgel SuperH-H、SuperH2000、SuperHM-H、SuperHM-H、以上東ソー株式会社製)を直列に備えたものを使用し、カラム温度は40℃にした。また、溶離液はテトラヒドロフラン(THF)を使用し、1.0mL/分の流速とし、検出器は示差屈折率検出器を使用した。測定試料は固形分で0.1gを10mLのTHFに溶解し、0.45μmのマイクロフィルターでろ過したものを使用し、注入量は50μLとした。標準ポリスチレン(東ソー株式会社製、PStQuick A、PStQuick B、PStQuick C)より求めた検量線より換算して、Mwを求めた。なお、データ処理はGPC8020モデルIIバージョン6.00(東ソー株式会社製)を使用した。
【0120】
(2)IR(赤外吸光スペクトル):
フーリエ変換型赤外分光光度計(Perkin Elmer Precisely製、Spectrum One FT-IR Spectrometer 1760X)を用い、セルには塩化ナトリウムを使用し、クロロホルムに溶解させたサンプルをセル上に塗布、乾燥させた後、波数500~4000cm-1の透過率を測定した。
【0121】
(3)エポキシ当量:
JIS K7236規格に準拠して測定を行った。具体的には、電位差滴定装置を用い、溶媒としてクロロホルムを使用し、臭素化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液を加え、0.1mol/L過塩素酸-酢酸溶液を用いた。なお、溶媒希釈品(樹脂ワニス)は、不揮発分から固形分換算値としての数値を算出した。
【0122】
(4)不揮発分:
JIS K7235規格に準拠して測定した。乾燥温度は200℃で、乾燥時間は60分間とした。
【0123】
(5)貯蔵弾性率:
DMA測定により求めた。具体的には、乾燥機を用いてコーター(0.4mm厚)を用いてPETフィルム上に塗布した樹脂ワニス又は樹脂組成物を150℃、1時間加熱してフィルム状サンプルを作製し、粘弾性装置DMA7100(株式会社 日立ハイテクサイエンス製)により測定した。測定は、温度25~50℃、窒素雰囲気(流量300mL/分)、引張モード、周波数1GHzにて実施し、30℃における貯蔵弾性率E’で評価した。
【0124】
(6)接着性:
銅箔(三井金属鉱業製 3EC 35#)にコーター(0.4mm厚)を用いて樹脂ワニスを塗布し、オーブンを使用して150℃、30分間乾燥させた。得られたフェノキシ樹脂付き銅箔に軟鋼板(日本テストパネル株式会社製、JIS G3141 SPCC-SB、0.8mm厚、サンドブラスト処理)をのせ、200℃、2.7MPaで120分間ホットプレスし、JIS C6481規格、引きはがし強さの測定を行った。
【0125】
[2官能エポキシ樹脂]
A1:ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、YD-128、エポキシ当量186、m≒0.09)
【化16】
A2:ビフェニル型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、YX4000、エポキシ当量186、m≒0.05)
【化17】
A3:合成例1で得た、イソソルビド型エポキシ樹脂(エポキシ当量=133、m≒0.04)
【化18】
ここで、mは、いずれも前記式(1b)におけるmと同様の意味を有する。
【0126】
[ジカルボン酸化合物]
B1:合成例3で得た、複素多環基含有ジカルボン酸化合物(活性当量=235)
【化19】
B2:合成例4で得た、複素多環基含有ジカルボン酸化合物(活性当量=335)
【化20】
B3:合成例5で得た、ジカルボン酸化合物(活性当量=282)
【化21】
B4:合成例6で得た、複素多環基含有ジカルボン酸化合物(活性当量=171)
【化22】
B5:合成例7で得た、複素多環基含有ジカルボン酸化合物(活性当量=212)
【化23】
【0127】
[2官能フェノール化合物、ジオール化合物]
C1:9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン(東京化成工業株式会社製、水酸基当量175)
【化24】
C2:ビスフェノールA(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、水酸基当量114)
【化25】
C3:イソソルビド(三菱ケミカル株式会社製、水酸基当量73)
【化26】
【0128】
[触媒]
D1:トリス(p-メトキシフェニル)ホスフィン(北興化学工業株式会社製、TPAP)
D2:n-ブチルトリフェニルホスホニウムブロマイド(北興化学工業株式会社製、TPP-BB)
【0129】
[溶媒・溶剤]
S1:シクロヘキサノン
S2:メチルエチルケトン(MEK)
【0130】
[硬化剤]
H1:フェノールノボラック樹脂(アイカ工業株式会社製、ショウノールBRG-557、水酸基当量105)
H2:2-エチル-4-メチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、キュアゾール2E4MZ)
【0131】
合成例1(複素多環基含有エポキシ樹脂A3の合成)
撹拌装置、温度計、窒素ガス導入装置、冷却管及び水分離器を備えた反応装置に、室温下で、イソソルビド(三菱ケミカル株式会社製、水酸基当量73)73部、エピクロロヒドリン1388部、及びエチレングリコールジメチルエーテル278部を仕込み、窒素ガスを流し、撹拌しながら50℃まで昇温した。同温度を保持し、激しく撹拌しながら、99%水酸化ナトリウム60.6部を1時間かけて投入し、さらに同温度で6時間反応を行った。濾過により生成した塩を除き、エピクロロヒドリンを留去した後、トルエン300部に溶解した。80℃まで昇温後、49%水酸化ナトリウム水溶液を3.6部、約80℃の温水を5.2部加えて、同温度で2時間精製反応を行った。その後温水75部を用いて水洗、分液を3回繰り返した後、樹脂溶液を脱水濾過し、トルエンを減圧蒸留除去して、エポキシ樹脂A3を得た。
【0132】
合成例2(複素多環基含有フェノール化合物の合成)
撹拌装置、温度計、窒素ガス導入装置、冷却管及び水分離器を備えた反応装置に、室温下で、4-ヒドロキシベンズアルデヒド244部、ペンタエリスリトール136部、トルエン900部、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)90部、及びp-トルエンスルホン酸3.8部を仕込み、窒素ガスを流し、撹拌しながら、トルエンの還流温度(107~112℃)まで昇温した。還流温度を維持しながら10時間反応を行った。この間に生成した水はトルエンと共に系外へ留去した。反応終了後、系内の温度を80℃に下げ、15%水酸化ナトリウム水溶液4部を添加して、p-トルエンスルホン酸を中和した。次いで、トルエン及びDMFを減圧蒸留留去して、下記式(9)のフェノール化合物を得た。
【化27】
【0133】
合成例3(複素多環基含有ジカルボン酸化合物B1の合成)
撹拌機、温度計、窒素吹き込み管、及び冷却管を備えた反応装置に酸無水物として4-メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(新日本理化株式会社製、リカシッドMH-T、酸無水物当量168)84.0部とイソソルビド(三菱ケミカル株式会社製、水酸基当量73)36.5部との混合物を窒素ガス雰囲気中で撹拌しながら120℃で3時間反応させて複素多環基含有ジカルボン酸化合物B1を120.5部得た。
【0134】
合成例4(複素多環基含有ジカルボン酸化合物B2の合成)
撹拌機、温度計、窒素吹き込み管、及び冷却管を備えた反応装置に酸無水物として4-メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(新日本理化株式会社製、リカシッドMH-T、酸無水物当量168)84.0部と式(9)のフェノール化合物(水酸基当量172)86.0部の混合物とを窒素ガス雰囲気中で撹拌しながら120℃で3時間反応させて複素多環基含有ジカルボン酸化合物B2を170.0部得た。
【0135】
合成例5(ジカルボン酸化合物B3の合成)
撹拌機、温度計、窒素吹き込み管、及び冷却管を備えた反応装置に酸無水物として4-メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(新日本理化株式会社製、リカシッドMH-T、酸無水物当量168)84.0部と2官能フェノール化合物C2(水酸基当量114)57.0部の混合物とを窒素ガス雰囲気中で撹拌しながら120℃で3時間反応させてジカルボン酸化合物B3を141.0部得た。
【0136】
合成例6(複素多環基含有ジカルボン酸化合物B4の合成)
撹拌機、温度計、窒素吹き込み管、及び冷却管を備えた反応装置に酸無水物として無水マレイン酸(富士フィルム和光純薬株式会社製、酸無水物当量98)49.0部とイソソルビド(三菱ケミカル株式会社製、水酸基当量73)36.5部との混合物を窒素ガス雰囲気中で撹拌しながら120℃で3時間反応させてジカルボン酸化合物B4を115.5部得た。
【0137】
合成例7(複素多環基含有ジカルボン酸化合物B5の合成)
撹拌機、温度計、窒素吹き込み管、及び冷却管を備えた反応装置に酸無水物として無水マレイン酸(富士フィルム和光純薬株式会社製、酸無水物当量98)49.0部と式(9)のフェノール化合物(水酸基当量172)86.0部との混合物を窒素ガス雰囲気中で撹拌しながら120℃で3時間反応させてジカルボン酸化合物B5を135.0部得た。
【0138】
実施例1
撹拌装置、温度計、窒素ガス導入装置、冷却管、及び滴下装置を備えたガラス製反応容器に、室温下で、2官能エポキシ樹脂A1を100.0部、複素多環基含有ジカルボン酸化合物B1を120.3部、反応溶媒S1を55部仕込み、窒素ガスを流し撹拌しながら130℃まで昇温し、触媒D1を0.1部添加した後、165℃まで昇温し、同温度で7時間反応を行った。希釈溶剤S1を55部、S2を220部使用して希釈混合して、不揮発分40%のフェノキシ樹脂の樹脂ワニス(R1)を得た。得られたフェノキシ樹脂ワニス(R1)のエポキシ当量は5000であり、Mwは130000であった。貯蔵弾性率は2.4GPaであり、接着性は1.4kN/mであった。測定結果を表1に示す。
得られたフェノキシ樹脂ワニス(R1)のGPC及びIRの各測定結果のチャートを
図1、
図2にそれぞれ示す。
【0139】
実施例2~4、比較例1~8
表1に示す各原料の仕込み量(部)に従い、実施例1と同様操作を行い、フェノキシ樹脂ワニスを得た。得られたフェノキシ樹脂ワニス(R2~R4及びHR1~HR8)について、実施例1と同様の測定を行い、その測定結果を表1に示す。なお、表中の「モル比」は、複素多環基含有ジカルボン酸化合物又は2官能フェノール化合物(ジオール化合物)に対する2官能エポキシ樹脂のモル比を表す。
【0140】
【0141】
実施例5、比較例9
実施例1及び比較例1で得られた各フェノキシ樹脂ワニス(R1、HR1)を12部(固形分値;ワニスで30部)、エポキシ樹脂A2を2部、硬化剤H1を50%MEK溶液で2.5部、及びH2を20%MEK溶液で0.6部を配合して、樹脂組成物を得た。更にこれらを乾燥後の膜厚が150μmとなるよう鉄板に塗布し、乾燥機を用いて150℃、1時間乾燥して、高分子フィルム状の硬化物を得た後、貯蔵弾性率を測定した。その結果を表2に示す。なお、表中の( )値は固形分値を示す。
【0142】
【0143】
表1からわかるように、本発明のフェノキシ樹脂は高弾性及び接着性に優れることがわかる。また、表2からわかるように、本発明の樹脂組成物からなる硬化物は高弾性に優れることがわかる。
本発明のフェノキシ樹脂及び樹脂組成物は、接着剤、塗料、土木用建築材料、電気・電子部品の絶縁材料等、様々な分野に適用可能であり、特に電気・電子分野における絶縁注型、積層材料、封止材料等として有用である。本発明のフェノキシ樹脂及びそれを含む樹脂組成物は、多層プリント配線基板、キャパシタ等の電気・電子回路用積層板、フィルム状接着剤、液状接着剤等の接着剤、半導体封止材料、アンダーフィル材料、3D-LSI用インターチップフィル材料、絶縁シート、プリプレグ、放熱基板等に好適に使用することができる。