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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121590
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】位置推定システム
(51)【国際特許分類】
   G01C 21/28 20060101AFI20240830BHJP
   G08G 1/00 20060101ALN20240830BHJP
【FI】
G01C21/28
G08G1/00 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028768
(22)【出願日】2023-02-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 電気通信回線を通じた発表:ウェブサイトのアドレス https://ieeexplore.ieee.org/document/9723583 ウェブサイト上の公開日 令和4年3月1日
(71)【出願人】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129654
【弁理士】
【氏名又は名称】大池 達也
(72)【発明者】
【氏名】安藤 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】椋本 博学
(72)【発明者】
【氏名】長尾 知彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 道治
【テーマコード(参考)】
2F129
5H181
【Fターム(参考)】
2F129AA05
2F129BB01
2F129BB20
2F129BB23
2F129BB33
2F129BB48
2F129BB66
5H181AA27
5H181BB04
5H181CC12
5H181CC17
5H181CC24
5H181FF05
5H181FF27
5H181LL09
(57)【要約】
【課題】磁気マーカを利用して車両位置を推定する一方、デッドレコニングによる車両位置の推定精度が向上された位置推定システムを提供すること。
【解決手段】位置推定システム1は、磁気マーカ10を基準として車両の位置を測位する磁気ポジショニング回路153と、車両の内界から取得される内界情報に基づくデッドレコニングにより車両の位置を推定するデッドレコニング回路151と、磁気ポジショニング回路153により測位された車両の位置と、デッドレコニング回路151により推定された車両の位置と、に基づき、車両の位置を含む状態量を推定するフィルタリング回路157と、を備え、状態量は、車両のヨー角と車両の移動方向との角度的なずれである横滑り角を変数に含む状態方程式により表すことができ、横滑り角は、定常円旋回の近似式により推定される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気マーカが配置された床面あるいは路面を移動する車両の位置を推定するシステムであって、
前記磁気マーカを検出する検出部と、
該検出部により検出された磁気マーカを基準として車両の位置を測位する磁気ポジショニング部と、
車両の内界から取得される内界情報に基づくデッドレコニングにより車両の位置を推定するDR部と、
前記磁気ポジショニング部により測位された車両の位置と、前記DR部により推定された車両の位置と、に基づき、車両の位置を含む状態量を推定する状態推定部と、を備え、
該状態推定部が推定する状態量は、車両のヨー角と車両の移動方向との角度的なずれである横滑り角を変数に含む状態方程式により表すことができ、
前記横滑り角は、定常円旋回の近似式により推定される物理量である車両用の位置推定システム。
【請求項2】
請求項1において、前記定常円旋回の近似式は、車両の重心位置が変数として含まれる近似式であり、
前記状態量には、車両の位置のほか、少なくとも、車両の重心位置が含まれる車両用の位置推定システム。
【請求項3】
請求項1において、車両は、操舵方向が固定された左右の車輪を備え、前記内界情報は、左右の車輪速であり、
前記定常円旋回の近似式は、車両の重心位置、前記左右の車輪速、及び左右の車輪の車幅方向の距離であるトレッド幅、を変数として含む式である車両用の位置推定システム。
【請求項4】
請求項3において、前記状態量には、車両の位置のほか、少なくとも、車両の重心位置及び前記トレッド幅が含まれる車両用の位置推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の位置を推定するための位置推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、道路に間隔を空けて配設された磁気マーカを利用し、車両の位置を測位する磁気ポジショニングシステムが提案されている(例えば下記の特許文献1参照。)。このシステムでは、車両が検出した磁気マーカを基準として車両位置が測位される。例えば、このシステムでは、磁気マーカに対する車両の横ずれ量が計測され、その磁気マーカの敷設位置から横ずれ量の分だけ、位置的にずらすことで車両位置が測位される。
【0003】
下記の特許文献1のシステムは、磁気ポジショニングにより車両位置を測位する機能のほか、デッドレコニング(Dead Reckoning、自律航法、推測航法、慣性航法)により車両位置を推定する機能を備えている。デッドレコニングは、例えば車輪速やヨーレートなどの車両の内界情報に基づき、車両が移動した先の位置を推定する手法である。車輪速やヨーレートなどの内界情報を利用するデッドレコニングであれば、いずれかの磁気マーカを検出した後、新たな磁気マーカを検出するまでの期間においても車両位置の推定が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-125136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁気マーカを利用する磁気ポジショニングシステムでは、磁気マーカを検出後、新たな磁気マーカを検出するまでの期間における車両位置の推定精度の確保が重要であり、自動走行などの高度な車両制御を実現するためには、デッドレコニングによる車両位置の推定精度を高める必要がある。
【0006】
本発明は、前記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、磁気マーカを利用して車両位置を推定する一方、デッドレコニングによる車両位置の推定精度が向上された位置推定システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、磁気マーカが配置された床面あるいは路面を移動する車両の位置を推定するシステムであって、
前記磁気マーカを検出する検出部と、
該検出部により検出された磁気マーカを基準として車両の位置を測位する磁気ポジショニング部と、
車両の内界から取得される内界情報に基づくデッドレコニングにより車両の位置を推定するDR部と、
前記磁気ポジショニング部により測位された車両の位置と、前記DR部により推定された車両の位置と、に基づき、車両の位置を含む状態量を推定する状態推定部と、を備え、
該状態推定部が推定する状態量は、車両のヨー角と車両の移動方向との角度的なずれである横滑り角を変数に含む状態方程式により表すことができ、
前記横滑り角は、定常円旋回の近似式により推定される物理量である車両用の位置推定システムにある。
【発明の効果】
【0008】
本発明の位置推定システムでは、磁気ポジショニング部により観測された車両の位置と、DR部により推定された車両の位置と、に基づき、車両の位置を含む状態量が推定される。本発明の位置推定システムでは、定常円旋回の近似式により横滑り角が推定されると共に、横滑り角を変数とする状態方程式により状態量が表される。
【0009】
本発明の位置推定システムでは、車両の位置を推定するに当たって横滑り角が利用される。車両のヨー角と車両の移動方向との角度的なずれである横滑り角を利用すれば、デッドレコニングによる位置推定の精度向上を図ることができる。特に、本発明の位置推定システムでは、横滑り角が定常円旋回の近似式により推定される。定常円旋回の近似式による横滑り角であれば、車両の位置を含む状態量の推定に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1における、位置推定システムの説明図。
図2】実施例1における、磁気マーカの斜視図。
図3】実施例1における、車両の構成を示すブロック図。
図4】実施例1における、位置推定システムの構成を示すブロック図。
図5】実施例1における、磁気マーカを通過する際の前後方向の磁気計測値の変化を示すグラフ。
図6】実施例1における、磁気マーカの真上に磁気検出ユニットが位置するとき、各磁気センサCnによる車幅方向の磁気計測値の分布の近似曲線を示すグラフ。
図7】実施例1における、磁気ポジショニングによる処理内容の説明図。
図8】実施例1における、位置推定アルゴリズムのブロック図。
図9】実施例1における、位置推定処理の流れを示すフロー図。
図10】実施例2における、車両の構成を示すブロック図。
図11】実施例2における、位置推定アルゴリズムのブロック図。
図12】実施例3における、位置推定アルゴリズムのブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
従来、車両の速度、舵角が一定という仮定の下に、二輪モデルをさらに展開する定常円旋回の議論が知られている。しかし、現実の走行では、速度及び舵角が一定であるという仮定は成り立たない。一方、車両が低速で、速度変化も舵角変化も小さい場合、ある程度の短い時間であれば、速度及び舵角を一定と見做すことが可能である(準定常)。本発明の位置推定システムでは、このように速度及び舵角を一定と見做すことができる状況において、定常円旋回の近似式により横滑り角を演算している。
【0012】
本発明の実施の形態につき、以下の実施例を用いて具体的に説明する。
(実施例1)
本例は、車両位置(車両の位置)を精度高く推定するための位置推定システム1に関する例である。この内容について、図1図9を用いて説明する。
【0013】
本例の位置推定システム1は、図1のごとく、路面の磁気マーカ10を利用してデッドレコニングによる車両位置の推定精度を向上できるように構成されたシステムである。位置推定システム1は、拡張カルマンフィルタ(Extended Kalman Filter、EKF)による状態推定を含む位置推定アルゴリズムを採用している。本例では、車両2としてバスを例示する。
【0014】
位置推定システム1が推定する車両位置は、例えば、車両2(図1)の車線維持走行や自動走行などの運転支援制御を実現するための車両ECU20に入力される。車両ECU20は、位置推定システム1が推定した車両位置を利用し、車両2の走行制御を実行する。車両ECU20は、例えば、予め設定された経路に沿って車両2を走行させるよう、図示しないエンジンスロットルアクチュエータやステアリングアクチュエータやブレーキアクチュエータ等を制御する。
【0015】
本例の構成では、車両2が走行する経路1Rに沿うよう、磁気マーカ10が2m間隔で配設されている。磁気マーカ10(図2)は、例えば、直径30mm、高さ28mmの柱状の磁石10Mよりなり、路面に穿設された収容孔(図示略)に収容されて埋設される。各磁気マーカ10の上向きの端面(磁石10Mの端面)には、無線タグ10Tが取り付けられている。磁石10M(磁気マーカ10)は、磁気双極子モーメントが軸方向に沿っている永久磁石であり、両端面が異なる磁極性を呈する。本例では、例えば、N極が上向きとなるように各磁気マーカ10が埋設される。
【0016】
無線タグ10Tは、アンテナパターンが印刷された樹脂製のフィルムシートに、ICチップが表面実装されたシート状の電子部品である。無線タグ10Tは、外部給電により動作し、予め記憶しているタグ情報を無線出力する。タグ情報は、磁気マーカ10の敷設位置(マーカ位置)、および隣り合う磁気マーカ10を結ぶ絶対方位(マーカ方位)、を含む情報である。
【0017】
位置推定システム1は、図3及び図4のごとく、ヨーレート等を計測するIMU(Inertial Measurement Unit)17、磁気マーカ10を検出する磁気センサユニット11F・R、左右の後輪202に取り付けられた車輪速センサ12L・R、操舵輪である前輪201に取り付けられた操舵角センサ13、無線タグ10Tとの間で無線通信を実行するタグリーダ14、位置推定アルゴリズムを実行する演算ユニット15、等を含めて構成されている。
【0018】
ここで、IMU17、車輪速センサ12L・R、操舵角センサ13は、車両2の内界情報であるヨーレート、車輪速、操舵輪の舵角などを取得するための内界センサの一例である。磁気センサユニット11F・R、タグリーダ14は、磁気マーカ10を利用して車両位置、車両方位を測位する磁気ポジショニング部を構成するデバイスである。この磁気ポジショニング部は、車両2の外界情報を取得する外界センサの一例をなす。
【0019】
操舵角センサ13は、操舵輪である前輪201が操舵された角度である舵角を検出するセンサである。
【0020】
車輪速センサ12L・R(図3図4)は、後輪202の回転速度(車輪速)を計測するセンサである。車輪速センサ12L・Rは、車輪速の計測信号であるセンサ信号を出力する。車輪速センサ12L・Rは、前輪(操舵輪)201ではなく、操舵方向が固定された後輪202に取り付けられている。車輪速センサ12Lは、左の後輪202に取り付けられ、車輪速センサ12Rは、右の後輪202に取り付けられている。
【0021】
磁気センサユニット11F・Rは、磁気マーカ10を検出する検出部の一例である。磁気センサユニット11Fと磁気センサユニット11Rとは、取付位置を除く仕様が共通している。磁気センサユニット11Fは、車両2の前後方向における前側に配置されている。磁気センサユニット11Rは、後ろ側に配置されている。車両2の前後方向における磁気センサユニット11F・Rの離間距離であるセンサスパンは2mである。センサスパン2mは、経路1Rに沿って配設された磁気マーカ10の間隔と一致している。磁気センサユニット11F・Rによれば、道路方向に隣り合う磁気マーカ10を同時に検出可能である。
【0022】
図4のごとく、磁気センサユニット11F・Rは、複数の磁気センサCn(nは1~15の整数)や、図示しないCPU等を含む検出処理回路112、等を備えている。磁気マーカ10を検出する検出部の一例をなす磁気センサユニット11F・Rは、棒状の細長い形状を呈している。磁気センサユニット11F・Rでは、10cmの等間隔で15個の磁気センサCnが一直線上に配列されている。磁気センサユニット11F・Rは、いずれも、車幅方向の中央に磁気センサC8が位置する状態で、車幅方向に沿うように車両2に取り付けられる。
【0023】
磁気センサCn(図4)は、公知のMI効果(Magneto Impedance Effect)を利用して磁気を検出するMIセンサである。MI効果は、直線的に組み込まれる感磁体(例えばアモルファスワイヤ等。)のインピーダンスが、その長手方向に作用する磁界の強さに応じて変化するという磁気的な効果である。磁気センサCnでは、互いに直交するように2本の感磁体が組み込まれ、これにより、直交する2軸方向に作用する磁気の検出が可能になっている。本例では、車両2の前後方向及び車幅方向の磁気成分を各磁気センサCnが検出できるよう、磁気センサユニット11F・Rが車両2側に取り付けられている。MIセンサである磁気センサCnは高感度であり、磁気マーカ10が作用する磁気を確実性高く検出できる。
【0024】
磁気センサユニット11F・Rの各検出処理回路112(図4)は、磁気マーカ10を検出するためのマーカ検出処理などを実行する演算回路である。これらの検出処理回路112は、各種の演算を実行する図示しないCPU、図示しないROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などのメモリ素子、等を利用して構成されている。
【0025】
検出処理回路112は、各磁気センサCnが出力するセンサ信号を取得してマーカ検出処理を実行する。マーカ検出処理では、磁気マーカ10の検出に加えて、磁気マーカ10に対する横偏差が計測される。横偏差は、磁気マーカ10に対する車幅方向のずれ量である。本例では、磁気センサC8が位置する磁気センサユニット11F・Rの中央が基準のユニットセンターとして設定され、磁気マーカ10に対するユニットセンターの横偏差が計測される。検出処理回路112がマーカ検出処理の実行に応じて出力するマーカ検出結果には、磁気マーカ10を検出した旨に加えて、磁気マーカ10に対する横偏差の情報が含まれる。
【0026】
タグリーダ14(図3図4)は、磁気マーカ10に保持された無線タグ10Tと無線通信を実行する無線装置である。タグリーダ14は、無線給電により無線タグ10Tを動作させてタグ情報を無線出力させ、そのタグ情報を受信するように構成されている。上記のごとくタグ情報には、少なくとも、磁気マーカ10の敷設位置(マーカ位置)を表す位置情報、及び隣り合う磁気マーカ10を結ぶ絶対方位(マーカ方位)、が含まれている。
【0027】
タグリーダ14は、前側の磁気センサユニット11Fによる磁気マーカ10の検出に応じて無線給電を開始し、これにより無線タグ10Tを動作させる。そして、タグリーダ14は、タグ情報を受信すると、一旦、動作を終了する。このような動作により、タグリーダ14は、前側の磁気センサユニット11Fにより検出された磁気マーカ10に保持された無線タグ10Tからタグ情報を読み出す。
【0028】
演算ユニット15(図3及び図4)は、車両位置を推定する位置推定アルゴリズムを実行するユニットである。演算ユニット15は、各種の演算を実行するCPU(central processing unit)、ROM(read only memory)やRAM(random access memory)などのメモリ素子、などが実装された電子基板(図示略)を備えている。
【0029】
演算ユニット15は、外部との入出力ポートを備えている。演算ユニット15が入出力ポートを介して取得する信号や情報としては、磁気センサユニット11F・Rがそれぞれ出力するマーカ検出結果、タグリーダ14が読み出したタグ情報、車輪速センサ12L・Rや操舵角センサ13のセンサ信号、IMU17が出力するヨーレート、等がある。
【0030】
マーカ検出結果には、上記のごとく、磁気マーカ10を検出した旨、及び磁気マーカ10に対する横偏差、等が含まれる。タグ情報には、上記のごとく、マーカ位置及びマーカ方位の情報が含まれる。マーカ位置は、磁気マーカ10の敷設位置である。マーカ方位は、隣り合う磁気マーカ10を結ぶ絶対方位である。ここで、磁気マーカ10の検出に応じて取得できるタグ情報は、上記のごとく、前側の磁気センサユニット11Fにより検出された磁気マーカ10に保持された無線タグ10Tのタグ情報である。
【0031】
演算ユニット15は、ROMから読み出したソフトウェアプログラムをCPUが実行することにより、以下の各回路としての機能を実現する。
(1)デッドレコニング回路151:車両2の内界情報に基づくデッドレコニングにより車両位置及び車両方位を推定するDR部の一例をなす回路。
(2)磁気ポジショニング回路153:磁気ポジショニングを実行する磁気ポジショニング部の一例をなす回路。磁気ポジショニングは、磁気マーカ10を利用して車両位置及び車両方位を測位する処理である。
(3)パラメータ設定回路155:EKF(Extended Kalman Filter、拡張カルマンフィルタ)のパラメータを設定する回路。本例では、車両パラメータのひとつである重心位置をパラメータとして設定している。
(4)フィルタリング回路157:EKFの観測更新により車両位置の推定精度を高める回路。
【0032】
次に、(a)デッドレコニング、(b)マーカ検出処理、(c)磁気ポジショニング、(d)位置推定アルゴリズム、の内容を順番に説明し、続けて(e)位置推定処理の流れを説明する。
【0033】
(a)デッドレコニング
デッドレコニングは、車両2の内界情報である車速V及び舵角δに基づいて車両位置や車両方位などの状態量を推定する処理である。舵角δは、操舵角センサ13のセンサ信号に基づく物理量であり、操舵輪である前輪201が操舵された角度である。
【0034】
本例では、車両位置(x、y)、車両方位θ、車両パラメータである重心位置lr、を状態量として含む状態ベクトルを数式1のように定義している。なお、本例の位置推定システム1における座標基準点は、車両2の重心位置である。
【数1】
【0035】
本例のデッドレコニングは、車速Vや舵角δやヨーレートγといった内界情報に基づいて状態ベクトルを推定する処理である。本例では、車両2の内界情報が数式2の入力ベクトルにより定義されている。
【数2】
【0036】
本例の構成では、状態ベクトルを推定するために状態方程式が数式3のように定義されている。入力ベクトルは、車速V、舵角δ、ヨーレートγよりなる。状態方程式は、入力ベクトルが作用したとき、(k-1)の時点の過去の状態ベクトルに基づいて(k)の時点の新たな状態ベクトルを推定するための方程式である。
【数3】
ここで、Tsは、例えば10ミリ秒などのサンプリング周期である。
【0037】
数式3の状態方程式中の車速Vは、内界センサである車輪速センサ12L・Rのセンサ信号に基づき、数式4により算出可能である。Vrは、車輪速センサ12Rのセンサ信号に基づく右の後輪202の車輪速である。Vlは、車輪速センサ12Lのセンサ信号に基づく左の後輪202の車輪速である。
【数4】
【0038】
また、状態方程式(数式3)は、車両のヨー角と車両の移動方向との角度的なずれである横滑り角βを変数に含んでいる。特に本例では、定常円旋回の近似式である数式5により横滑り角βを推定している。
【数5】
ここで、Kβoは、横滑り係数である。Ksfは、定常円旋回における車両2の操舵特性を示すスタビリティファクタである。lwは、車両2のホイールベースである。
【0039】
数式5によれば、車両2の速度V及び舵角δから横滑り角βを推定可能である。そのため、横滑り角βの算出に当たってIMUが必須の構成とはならない。さらに、本例では、横滑り角βをオープンループで計算するため、EKFへの組込が可能になっている。
【0040】
(b)マーカ検出処理
マーカ検出処理は、磁気センサユニット11が実行する処理である。なお、磁気センサユニット11F・Rに共通する説明において、磁気センサユニット11と表記している。磁気センサユニット11は、3kHzの周波数でマーカ検出処理を実行する。磁気センサCnは、上記の通り、車両2の前後方向の磁気成分および車幅方向の磁気成分を計測可能である。例えばこの磁気センサCnが、車両2の前後方向に沿って移動して磁気マーカ10の真上を通過するとき、前後方向の磁気計測値は、図5のごとく磁気マーカ10の前後で正負が反転すると共に、磁気マーカ10の真上の位置でゼロを交差するように時間的に変化する。
【0041】
車両2の走行中では、いずれか一の磁気センサCnが検出する前後方向の磁気計測値について、その正負が反転するゼロクロスZc1が生じたとき、磁気センサユニット11が磁気マーカ10の真上に位置すると判断できる。検出処理回路112は、このように前後方向の磁気計測値のゼロクロスZc1が生じた場合、磁気マーカ10を検出したと判断する。
【0042】
ただし、磁気マーカ10の真上に磁気センサユニット11が位置したときに直ちに磁気マーカ10を検出することは困難である。ゼロクロスZc1よりも時間的に前の期間のみならず、ゼロクロスZc1よりも時間的に後の期間における磁気計測値(前後方向の磁気計測値)の変化を取得できない限り、ゼロクロスZc1を検出できないからである。本例のマーカ検出処理では、磁気センサユニット11が磁気マーカ10の真上を通過した後、例えば、磁気マーカ10から200mm離れるまでの期間における磁気計測値の変化が、ゼロクロスZc1を検出するために必要である。なお、ゼロクロスZc1の検出に要する期間は、磁気マーカのサイズや磁力、磁気センサユニットの取付高さ、等によって異なる。ゼロクロスZc1の検出に要する期間は、必要に応じて適宜、設定可能である。
【0043】
また例えば、磁気センサCnと同じ仕様の磁気センサについて、磁気マーカ10の真上を通過する車幅方向の直線に沿う移動を仮想してみる。この磁気センサによる車幅方向の磁気計測値は、磁気マーカ10を挟んだ両側で正負が反転すると共に、磁気マーカ10の真上の位置でゼロを交差するように変化する。15個の磁気センサCnが車幅方向に配列されている磁気センサユニット11の場合、磁気マーカ10の位置に対して左右、どちらの側に位置する磁気センサCnであるかによって、車幅方向の磁気計測値の正負が異なってくる(図6)。
【0044】
図6は、各磁気センサCnの車幅方向の磁気計測値の分布の近似曲線を例示している。同図の分布では、磁気計測値の正負が反転するゼロクロスZc2が、磁気マーカ10の真上に現れる。磁気マーカ10の車幅方向の位置は、ゼロクロスZc2を挟んで隣り合う2つの磁気センサCnの中間の位置として特定可能である。
【0045】
検出処理回路112は、磁気マーカ10に対する車両2の車幅方向のずれ量である横偏差を計測する。本例では、磁気センサユニット11の中央に当たるユニットセンター(磁気センサC8の位置)が、横偏差の基準点として設定されている。例えば図6の場合、磁気マーカ10に対応するゼロクロスZc2の位置がC9とC10との中間辺りのC9.5に相当する位置となっている。上記のように磁気センサC9とC10の間隔は10cmであるから、磁気マーカ10に対するユニットセンターの横偏差(車幅方向のずれ量)は、(9.5-8)×10cm=15cmとなる。
【0046】
(c)磁気ポジショニング
磁気ポジショニングでは、タグリーダ14が受信したタグ情報、及び磁気センサユニット11F・Rによるマーカ検出結果、に基づいて車両位置及び車両方位が測位される。ここで、上記のごとく、タグ情報には、前側の磁気センサユニット11Fにより検出された磁気マーカ10のマーカ位置(敷設位置)、及び隣り合う磁気マーカ10を結ぶ方向を表すマーカ方位が含まれる。磁気マーカ10が検出されたときのマーカ検出結果には、その磁気マーカ10に対するユニットセンター(磁気センサユニット11Fの中央)の横偏差が含まれている。
【0047】
磁気ポジショニング回路153は、図7のごとく、磁気センサユニット11F・R(検出部)によりそれぞれ計測された横偏差に基づき、マーカ方位dirRに対する車両方位dirVのずれ角を求める。そして、このずれ角を、絶対方位であるマーカ方位dirRに加算することで、車両方位dirVを測位する。ここで、マーカ方位dirRは、タグ情報に含まれる絶対方位の情報である。
【0048】
また、磁気ポジショニング回路153は、タグ情報に係るマーカ位置、すなわち前側の磁気センサユニット11Fにより検出された磁気マーカ10の敷設位置を基準として、マーカ検出結果に係る横偏差の分だけ位置をずらして上記のユニットセンターの位置を特定する。さらに、このユニットセンターの位置を基準として車両位置を測位する。
【0049】
(d)位置推定アルゴリズム
本例の位置推定アルゴリズムは、図8のごとく、拡張カルマンフィルタ(EKF)による状態推定により、車両位置や車両方位などの状態量よりなる状態ベクトル(数式1)を推定するアルゴリズムである。
【0050】
位置推定アルゴリズムは、位置推定のためのEKFを中心として構成されている。EKFには、外界センサの一例をなす磁気ポジショニング部(磁気ポジショニング回路153)による測位結果(車両位置及び車両方位)、及び内界センサの一例をなすIMU17、車輪速センサ12L・R、操舵角センサ13によるセンサ信号が入力される。
【0051】
位置推定アルゴリズムでは、上記の数式3の状態方程式のほか、数式6の観測方程式が定義されている。
【数6】
【0052】
状態方程式(数式3)は、車両位置等の状態量を表す方程式であり、過去の状態から新たな状態を推定するために利用される。観測方程式は、状態に関する観測値を推定するための方程式である。本例の位置推定アルゴリズムでは、上記の磁気ポジショニングにより測位された車両位置および車両方位が観測値として利用される。
【0053】
状態推定部の一例をなすフィルタリング回路157は、磁気ポジショニング回路153による測位された結果(観測値)と、デッドレコニング回路151により推定された車両位置等(状態ベクトル)と、に基づいて観測更新を実行し、車両位置等の推定精度を高める。
【0054】
(e)位置推定処理
本例の位置推定アルゴリズムによる位置推定処理の流れを、図9のフロー図を参照して説明する。演算ユニット15は、プログラムの実行周期毎に内界センサのセンサ信号を取得し(S11)、デッドレコニングによる車両位置の推定を実行する(S12)。なお、本例の内界センサは、車輪速センサ12L・R、操舵角センサ13及びIMU17である。ステップS11で取得されるセンサ信号は、車輪速センサ12L・Rによる車輪速の計測信号、操舵角センサ13による操舵角δ、IMU17によるヨーレートγである。デッドレコニングによる推定では、車両位置(x、y)と共に車両方位θ(向き)が推定される。
【0055】
また、演算ユニット15は、磁気センサユニット11によるマーカ検出結果を取得し(S13)、磁気マーカ10が検出されたか否かを判断する(S14)。磁気マーカ10が未検出の場合(S14:NO)、ステップS12で推定された車両位置(x、y)がそのまま、位置推定処理の結果として出力される。一方、磁気マーカ10が検出された場合には(S14:YES)、演算ユニット15は、ステップS22、S23を実行することにより、以下に説明する通り、車両位置等の状態量の推定を実行する(状態推定)。
【0056】
演算ユニット15は、磁気マーカ10が検出されると(S14:YES)、マーカ位置やマーカ方位を基準として車両位置(x、y)および車両方位θを測位する(S22、磁気ポジショニング)。そして演算ユニット15は、磁気ポジショニングによって測位された車両位置(x、y)等を観測値としてEKFによる観測更新を実行し、デッドレコニングによる車両位置(x、y)等の状態を推定する(S23、観測更新)。演算ユニット15は、EKFによる観測更新を実行することで、デッドレコニングにより推定された車両位置(x、y)等を補正し、推定精度を高める。観測更新は、周知のカルマンゲインによる補正である。
【0057】
以上のように構成された本例の位置推定システム1は、磁気マーカ10を利用してデッドレコニングによる推定精度の向上を図るシステムである。デッドレコニングにおいては、車両2の横滑り角を考慮した方が精度的に有利である。横滑り角の計算に用いられる車両パラメータである重心位置は、バスの乗客の乗降によって変化するため、リアルタイムに推定する必要がある。
【0058】
パラメータのリアルタイム推定の従来手法としては、例えば、EKFの状態量にパラメータを定義して、EKFで推定する適応オブザーバが知られている。しかしながら、線形オブザーバによって自己位置推定のEKFの外部で横滑り角を算出している場合、その線形オブサーバをモデルとしてEKFに組み込むことができない。そのため、自己位置推定のEKFの状態量に重心位置を定義し、適応オブザーバで推定することが不可能となっている。
【0059】
一方、本例の位置推定システム1では、定常円旋回の近似式を用いて、車両速度および舵角から横滑り角を推定している。そのため、横加速度を計測するIMU等が必要とならない。さらに、本例の位置推定システム1では、オープンループで横滑り角を計算できるので、位置推定のための拡張カルマンフィルタの内部に組み込み可能である。それ故、本例の位置推定システム1では、横滑り角の計算に必要な車両パラメータである重心位置を、位置推定の拡張カルマンフィルタにより推定できる。
【0060】
なお、本例では、車両2としてバスを例示している。車両2は、一般的な乗用車であっても良いし、工場などの施設内を移動する搬送車両等の車両であっても良い。さらには、ドライバーが運転する車両であっても良いし、自律的に移動する車両であっても良く、自動運転によって走行する車両であっても良い。
【0061】
なお、本例では、磁気マーカ10を利用して車両位置等を測位する磁気ポジショニング部(磁気ポジショニング回路153)を外界センサの一例として示している。磁気ポジショニング部に代えて、あるいは加えて、衛星電波を受信して自己位置を測位するGNSS(Global Navigation Satellite System)を外界センサとして採用することも良い。
【0062】
(実施例2)
本例は、実施例1の位置推定システム1に基づき、デッドレコニングの構成を変更した例である。本例のデッドレコニングは、左右の車輪速のみによって車両位置および車両方位を推定するホイールオドメトリによるデッドレコニングである。この内容について、図10図11を参照して説明する。
【0063】
本例の位置推定システム1(図10)は、実施例1の構成に基づき、IMU及び操舵角センサ(図3中の符号17、13)が省略されたシステムである。本例の位置推定アルゴリズム(図11)は、実施例1と同様、拡張カルマンフィルタ(EKF)による状態推定により、車両位置(x、y)や車両方位θなどの状態量よりなる状態ベクトルを推定するアルゴリズムである。
【0064】
本例の位置推定アルゴリズムにおいて、状態ベクトル(数式1)、車速の算出式(数式4)、観測方程式(数式6)は、実施例1と同様である一方、入力ベクトル(数式7)、状態方程式(数式3)、ヨーレートの算出式(数式8)および横滑り角の算出式(数式9)が実施例1とは異なっている。さらに、本例の位置推定システム1は、後輪202のホイールオドメトリによるデッドレコニングを採用している。そこで、本例では、車輪速センサ12L・Rが取り付けられた後輪202を軸支する後軸の中央(後軸中心という。)を、座標基準点として設定している。
【0065】
【数7】
【数8】
【数9】
数式8及び数式9におけるltは、車輪速を計測する後輪202のトレッド幅である。
【0066】
ここで、車両2の重心の横滑り角(上記の数式5)に基づいて後軸中心の数式9の横滑り角の演算式の導出について説明する。この説明では、重心の横滑り角と、後軸中心の横滑り角との区別のため、重心の横滑り角をβとし、後軸中心の横滑り角をβrとする。定常円旋回の二輪モデルより、後軸中心の横滑り角βrは、重心の横滑り角βに基づき、数式10のように表すことができる。
【数10】
【0067】
定常円旋回の近似式より、ヨーレートγは数式11のようになる。
【数11】
数式10に数式11を代入すれば、数式12が得られる。
【数12】
【0068】
ここで、ホイールオドメトリの場合は操舵角δが不明であるので、数式12を数式11により変形すると数式13を導出できる。
【数13】
【0069】
周知のホイールオドメトリでは、左右の車輪速より数式14のように車速Vを算出でき、左右の車輪速及びトレッド幅ltから数式15のようにヨーレートγを算出できる。
【数14】
【数15】
【0070】
数式13に、数式14、数式15を代入すれば、後軸中心の横滑り角の算出式を数式16のように導出できる。
【数16】
【0071】
本例の位置推定システム1によれば、ホイールオドメトリ(デッドレコニング)による車両位置の推定精度を、磁気マーカ10を利用して高めることが可能である。本例の位置推定システム1では、ヨーレートを計測する必要がない。それ故、車両位置の推定において、温度や経年等に起因するヨーレートセンサのドリフト誤差の影響を受けることがない。
なお、その他の構成及び作用効果については、実施例1と同様である。
【0072】
(実施例3)
本例は、実施例2の位置推定システム1に基づき、車両パラメータである後輪202のトレッド幅ltをパラメータとして設定し、EKFによるパラメータ推定を実行する例である。この内容について、図12を参照して説明する。
【0073】
本例の位置推定システム1(図12)では、車速の算出式(数式4)、観測方程式(数式6)、入力ベクトル(数式7)、ヨーレートの算出式(数式8)および横滑り角の算出式(数式9)が実施例2と同様である一方、状態ベクトル(数式17)および状態方程式(数式18)が、実施例2とは異なっている。
【数17】
【数18】
【0074】
ホイールオドメトリでは、車輪速Vr、Vlとトレッド幅ltとからヨーレートγが算出される。トレッド幅ltは、車両のロールや積載重量によるサスペンションのストローク等に起因して変化する。トレッド幅ltが変化すれば、ヨーレートに影響が生じるため、トレッド幅ltの変化がデッドレコニングの精度に大きく影響を与えることになる。
【0075】
そこで、本例の位置推定システム1では、トレッド幅ltをパラメータとして推定することで、ヨーレートγの推定精度を向上でき、これによりデッドレコニングによる位置推定の精度を向上できる。
なお、その他の構成及び作用効果については実施例2と同様である。
【0076】
以上、実施例のごとく本発明の具体例を詳細に説明したが、これらの具体例は、特許請求の範囲に包含される技術の一例を開示しているにすぎない。言うまでもなく、具体例の構成や数値等によって、特許請求の範囲が限定的に解釈されるべきではない。特許請求の範囲は、公知技術や当業者の知識等を利用して前記具体例を多様に変形、変更あるいは適宜組み合わせた技術を包含している
【符号の説明】
【0077】
1 位置推定システム
10 磁気マーカ
11F・R 磁気センサユニット(検出部)
112 検出処理回路
12L・R 車輪速センサ
13 操舵角センサ
14 タグリーダ
15 演算ユニット
151 デッドレコニング回路(DR部)
153 磁気ポジショニング回路(磁気ポジショニング部)
155 パラメータ設定回路
157 フィルタリング回路(状態推定部)
17 IMU
2 車両
20 車両ECU
201 前輪(操舵輪)
202 後輪
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12