(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121780
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】変性シリコーン樹脂、樹脂組成物、塗料、及び樹脂硬化膜
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20240830BHJP
C09D 183/06 20060101ALI20240830BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20240830BHJP
C08L 83/06 20060101ALI20240830BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
C08L83/07
C09D183/06
C08L83/05
C08L83/06
B32B27/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216841
(22)【出願日】2023-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2023028506
(32)【優先日】2023-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】西口 公二
(72)【発明者】
【氏名】佐野 温子
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AK52A
4F100AT00B
4F100BA02
4F100BA07
4F100CA02A
4F100EH46A
4F100GB07
4F100GB31
4F100GB41
4F100JA07A
4F100JB06
4F100JB13A
4F100JK09
4F100JL09
4J002CP04X
4J002CP14W
4J002DD046
4J002FD206
4J002GF00
4J002GH01
4J002GN00
4J002GP00
4J038DL031
4J038GA03
4J038KA03
4J038KA06
4J038KA08
4J038NA01
4J038NA03
4J038PB09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】耐候性に優れる変性シリコーン樹脂を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される、変性シリコーン樹脂である。
[一般式(1)中、R
1~R
12は、それぞれ独立に、炭素原子数1~20の飽和脂肪族炭化水素基、若しくは炭素原子数6~11の芳香族炭化水素基を示し、lは1~160の整数、mは1~270の整数、nは1~160の整数を示す。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される、変性シリコーン樹脂。
【化1】
[一般式(1)中、R
1~R
12は、それぞれ独立に、炭素原子数1~20の飽和脂肪族炭化水素基、又は炭素原子数6~11の芳香族炭化水素基を示し、lは1~160の整数、mは1~270の整数、nは1~160の整数を示す。]
【請求項2】
前記一般式(1)において、nに対するlの比率が0.002%以上である、請求項1に記載の変性シリコーン樹脂。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の変性シリコーン樹脂と、溶媒とを含む樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の樹脂組成物を含む塗料。
【請求項5】
請求項3に記載の樹脂組成物を基材に塗布して硬化してなる樹脂硬化膜。
【請求項6】
下記一般式(1)で表される変性シリコーン樹脂と、下記一般式(2)で表される化合物とを含む、樹脂組成物。
【化2】
[一般式(1)中、R
1~R
12は、それぞれ独立に、炭素原子数1~20の飽和脂肪族炭化水素基、又は炭素原子数6~11の芳香族炭化水素基を示し、lは1~160の整数、mは1~270の整数、nは1~160の整数を示す。]
【化3】
[一般式(2)中、oは5~200の整数を示す。]
【請求項7】
前記一般式(1)で表される変性シリコーン樹脂のポリシロキサンの質量部を100%とした際に、前記一般式(2)で表される化合物を10~100%含む、請求項6に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、変性シリコーン樹脂、樹脂組成物、塗料、及び樹脂硬化膜に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の成形品や基板等の物品の表面に撥水性を付与するため、例えば、撥水材料を含む塗料を物品の表面に塗布して塗膜を形成するといった処理がなされる。近年、自動車に代表されるモビリティ分野において、例えば自動運転のため、LiDAR(Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging)等、レーザー光を用いる光学装置が採用されている。そのような光学装置では、受光センサーを保護する透明カバーには、雨水や汚れの付着によるセンサー検知能力の低下が危惧されることから、高機能・高耐久のコーティング材により保護することが重要であり、十分な撥水性能も必要となる。
【0003】
撥水材料としては、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等が知られている。その中で、フッ素樹脂は、環境汚染の原因物質として問題となることがあり、近年、その使用が規制される懸念が挙がっている。従って、撥水材料としてはシリコーン樹脂を用いることが好ましい。特許文献1には、フッ素を含まないシリコーン樹脂を用いたコーティング用樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のコーティング用樹脂組成物は、粒状物であるため、塗膜表面が凹凸構造になり耐傷付き性に劣ると考えられる。また、粒子による光散乱のため塗膜のヘイズ値(透明性)がやや高いと考えられる。
一方、シリコーン樹脂は、水分が存在する環境下において、構造によっては経時的に撥水性が低下することがある。これは、シリコーン樹脂中のシロキサン結合が加水分解により切断されてシラノール基が増加し、増加したシラノール基により親水性が向上して撥水機能が低下すると推察される。すなわち、シリコーン樹脂を撥水材料として使用した塗料をコーティングしても、水分が存在する環境下においては、経時的に撥水性が低下する懸念がある。また、高温下又は太陽光に晒される環境下では加水分解がより進行しやすい。従って、シリコーン樹脂の耐候性を向上させることは重要である。
【0006】
本開示は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、耐候性に優れる変性シリコーン樹脂、樹脂組成物、塗料、及び樹脂硬化膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、誠意検討により、シリコーン樹脂の側鎖に、撥水性のポリシロキサン骨格の基を導入する、すなわちシリコーン樹脂を所定のポリシロキサンにより変性することにより、耐候性を改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
【0008】
(1)下記一般式(1)で表される、変性シリコーン樹脂。
【化1】
[一般式(1)中、R
1~R
12は、それぞれ独立に、炭素原子数1~20の飽和脂肪族炭化水素基、又は炭素原子数6~11の芳香族炭化水素基を示し、lは1~160の整数、mは1~270の整数、nは1~160の整数を示す。]
【0009】
(2)前記一般式(1)において、nに対するlの比率が0.002%以上である、前記(1)に記載の変性シリコーン樹脂。
【0010】
(3)前記(1)又は(2)に記載の変性シリコーン樹脂と、溶媒とを含む樹脂組成物。
【0011】
(4)前記(3)に記載の樹脂組成物を含む塗料。
【0012】
(5)前記(3)に記載の樹脂組成物を基材に塗布して硬化してなる樹脂硬化膜。
【0013】
(6)下記一般式(1)で表される変性シリコーン樹脂と、下記一般式(2)で表される化合物とを含む、樹脂組成物。
【0014】
【化2】
[一般式(1)中、R
1~R
12は、それぞれ独立に、炭素原子数1~20の飽和脂肪族炭化水素基、又は炭素原子数6~11の芳香族炭化水素基を示し、lは1~160の整数、mは1~270の整数、nは1~160の整数を示す。]
【0015】
【化3】
[一般式(2)中、oは5~200の整数を示す。]
【0016】
(7)前記一般式(1)で表される変性シリコーン樹脂のポリシロキサンの質量部を100%とした際に、前記一般式(2)で表される化合物を10~100%含む、前記(6)に記載の樹脂組成物。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、耐候性に優れる変性シリコーン樹脂、樹脂組成物、塗料、及び樹脂硬化膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】QUV耐候性試験時間の経時での水接触角の変化を示すグラフである。
【
図2】QUV耐候性試験時間の経時での水接触角を示すグラフである。
【
図3】キセノン耐候性試験の経時での水接触角を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲の上限値又は下限値は、別の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、各成分には、特に断らない限り、該当する物質が、1種又は2種以上含まれていてもよい。
本開示において、樹脂組成物中の各成分の含有量は、樹脂組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、樹脂組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0020】
<変性シリコーン樹脂>
本実施形態の変性シリコーン樹脂は、下記一般式(1)で表されることを特徴としている。
【0021】
【化4】
[一般式(1)中、R
1~R
12は、それぞれ独立に、炭素原子数1~20の飽和脂肪族炭化水素基、又は炭素原子数6~11の芳香族炭化水素基を示し、lは1~160の整数、mは1~270の整数、nは1~160の整数を示す。]
【0022】
一般式(1)において、[-Si(R4)O-]を含む構造単位(個数:l)及び[-Si(OH)(R9)O-]を含む構造単位(個数:n)は、ランダム状又はブロック状に配置されているものとする。また、一般式(1)において、上側の分子鎖と下側の分子鎖のそれぞれにl、nが記されているが、上側の分子鎖におけるlと、下側の分子鎖におけるlは、それぞれ、必ずしも同じ数を示すものではない。上側の分子鎖におけるnと、下側の分子鎖におけるnも同様である。
【0023】
本実施形態の変性シリコーン樹脂においては、シリコーン樹脂の側鎖として撥水成分であるポリシロキサンが導入されて変性されている。つまり、側鎖に撥水性のポリシロキサンが結合していることから、外部からの水分のシロキサン結合への到達が阻まれ、加水分解を防止することができる。その結果、シラノール基の増加が抑えられ、撥水性の低下を抑制することができる。すなわち、水分が存在する環境下であっても、側鎖のポリシロキサンがシロキサン結合に水が接触するのを阻害し、加水分解を防止することができる。従って、本実施形態の変性シリコーン樹脂は耐候性に優れる。
【0024】
ここで、撥水性のポリシロキサンによる変性がなされていない、下記構造式(1)で表されるシリコーン樹脂(シラノール基を含む)を用い、耐候性試験前後における水接触角とシラノール基量の変化について検証した結果を示す。
【0025】
【0026】
耐候性試験は、耐候性試験機(株式会社DJK製、QUV)を用い、シリコーン樹脂を、(A)80℃環境下において、紫外線(UVB-313)を24時間照射する環境、及び(B)80℃環境下において、紫外線(UVB-313)を20時間照射し、次いで、結露環境下に50℃で4時間保持というサイクルを繰り返し行う環境に晒し、いずれも所定時間経過後に水接触角を測定した。
図1は、撥水性のポリシロキサンによる変性がなされていないシリコーン樹脂のQUV耐候性試験時間に対する水接触角の変化を示すグラフであり、実線が上記(A)の環境に晒したときの水接触角の変化を示し、破線が上記(B)の環境に晒したときの水接触角の変化を示す。
図1より、撥水性のポリシロキサンによる変性がなされていないシリコーン樹脂は、結露環境下において、経時的に水接触角が低下することが分かる。
【0027】
以上の
図1により、結露環境下、すなわち水分が存在する環境下においては、経時的に水接触角が低下することが分かる。これは、水分存在下において、加水分解によりシロキサン結合が切断され、その結果シラノール基が増加し、水接触角が低下したと推察される。すなわち、水分が存在する環境下においては、経時的に撥水性が低下する。そこで、本実施形態の変性シラノール樹脂においては、そのような撥水性の低下の抑制を図っている。
【0028】
一般式(1)中、R1~R12は、それぞれ独立に、炭素原子数1~20の飽和炭化水素基、炭素原子数6~11の芳香族炭化水素基を示す。また、R1~R12は置換基を有してもよい。
【0029】
R1~R12が表す炭素原子数1~20の飽和炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、n-オクチル基、n-デシル基、イソデシル基等のアルキル基が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。
【0030】
R1~R12が表す炭素原子数6~11の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基が挙げられ、中でも、フェニル基が好ましい。他の芳香族炭化水素基としては、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基が挙げられる。
【0031】
本実施形態の変性シリコーン樹脂においては、側鎖の撥水性のポリシロキサンとしてはポリジメチルシロキサンが好ましい。側鎖の原料となるポリジメチルシロキサンは、側鎖、片末端、又は両末端に反応基を有するものであればよく、反応基としては、シリコーン樹脂のケイ素-水素結合と反応させることが可能な、ヒドロキシ基、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基を有するポリジメチルシロキサンが好ましい。
【0032】
一般式(1)中、l、m、nは、それぞれの構造単位の個数を示す。lは1~160の整数であり、1~40が好ましく、1~10がより好ましい。mは1~270の整数であり、10~200が好ましく、20~150がより好ましい。nは1~160の整数であり、20~100が好ましく、40~80がより好ましい。
【0033】
本実施形態の変性シリコーン樹脂においては、変性率が高いほど、加水分解が抑えられ、その結果シラノール基の生成が抑えられるため経時的な撥水性が向上する。すなわち、一般式(1)において、nに対するlの比率は0.002%以上であることが好ましい。ただし、変性率が高いほど、硬化塗膜の架橋密度が低下し、耐傷付き性が低下することから、一般式(1)において、nに対するlの比率は0.010~0.500%であることがより好ましく、0.010~0.200%であることがさらに好ましい。
【0034】
本実施形態の変性シリコーン樹脂は、耐候性に優れ、経時的な撥水性の低下が抑えられるため、本実施形態の樹脂組成物としての使用、塗料の撥水成分としての使用等が可能である。また、使用対象としては、耐候性が求められる移動体外装ボディのトップコートやセンサーレンズの表面コート、建造物の外壁又は窓ガラス、電線又は信号等に有用である。
【0035】
[合成方法]
次いで、本実施形態の変性シリコーン樹脂の合成方法の一例について説明する。本実施形態の変性シリコーン樹脂の合成は、まず、ケイ素-水素結合を有するシロキサン化合物を出発物質とし、ポリシロキサンとして、例えば、両末端ビニル型ポリジメチルシロキサンとを、溶媒下で触媒の存在下に反応させる。この反応により、ケイ素-水素結合部位の一部の水素がビニル基の炭素に結合し、ポリジメチルシロキサンが一部結合したケイ素-水素結合を有するシロキサン化合物が得られる。その後、残りのケイ素-水素結合を水と反応させてシラノール基に変換することで目的の変性シリコーン樹脂が得られる。
以下に反応スキームを示す。なお、以下の反応スキームにおいて、n=n1+n2であり、n1、n2は、それぞれ、一般式(1)おけるl、nに相当する。
【0036】
【0037】
上記反応に際して使用する溶媒としては、アルコール系、エステル系、ラクトン系、エーテル系、ケトン系、アミド系、炭化水素系等の溶媒を用途に応じて使用することができる。このうち、シロキサン化合物及び水のいずれとも相容可能なものとして、アルコール系、エステル系、エーテル系、ケトン系が好ましく、更に好ましくはアルコール系、エーテル系、ケトン系である。
【0038】
触媒としては、カルボニル配位子含有のスズ、鉄、ニッケル、ルテニウム錯体、塩化白金(IV)酸等を使用することができる。このうち、ルテニウム錯体や塩化白金(IV)酸を用いた場合、特に副反応が少なくなるため、より好ましい。
【0039】
ケイ素-水素結合を有するシロキサン化合物と、たとえば末端ビニル型ポリジメチルシロキサンとを反応させるに当たり、温度については、還流条件で溶媒の沸点以下であれば特に制限はない。例えば、反応温度は5~120℃、反応時間は1~48時間とすることができる。副反応によるゲル化を防ぐ観点から、温度は50~90℃、反応時間は4~24時間が好ましい。
【0040】
次いで、得られたポリジメチルシロキサンが一部結合したケイ素-水素結合を有するシロキサン化合物と、水とを反応させるに当たり、温度については、還流条件で溶媒の沸点以下であれば特に制限はない。例えば、反応温度は5~120℃、反応時間は1~48時間とすることができる。副反応によるゲル化を防ぐ観点から、温度は50~90℃、反応時間は4~24時間が好ましい。
【0041】
<樹脂組成物(第1形態)>
第1形態の樹脂組成物は、上述の本実施形態の変性シリコーン樹脂と、溶媒とを含む。第1形態の樹脂組成物は、本実施形態の変性シリコーン樹脂を含むことから、塗料として使用して塗膜を形成した場合、当該塗膜は水分が存在する環境下でも撥水性の低下が抑えられる。すなわち、第1形態の樹脂組成物は耐候性に優れる。
【0042】
溶媒としては、水又はアルコール系、エステル系、ラクトン系、エーテル系、ケトン系、アミド系、炭化水素系等が挙げられる。中でも、アルコール系、エステル系、エーテル系、ケトン系が好ましい。たとえば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、イソブチルアルコール、プロピレングリコールモノメチル-エーテル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、プロピレングリコールモノメチル-エーテルアセテート、ガンマブチロラクトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジメトキシプロパン、1,4-ジオキサン、ジブチルエーテル等が挙げられる。
【0043】
[他の添加剤]
第1形態の樹脂組成物には、その効果を損なわない範囲で、一般に使用されている表面改質材、消泡材、硬化剤、レオロジーコントロール剤、染料、顔料、難燃剤、紫外線吸収剤等の添加剤を使用してもよい。
【0044】
<樹脂組成物(第2形態)>
第2形態の樹脂組成物は、下記一般式(1)で表される変性シリコーン樹脂と、下記一般式(2)で表される化合物とを含む。
【0045】
【0046】
【化8】
[一般式(2)中、oは5~200の整数を示す。]
【0047】
第2形態の樹脂組成物においては、一般式(1)で表される変性シリコーン樹脂と、一般式(2)で表される化合物とを併用することにより、一般式(1)で表される変性シリコーン樹脂のシラノール基と、一般式(2)で表される化合物のシラノール基とが反応して縮合することで、さらに耐候性の向上を図ることができる。
ここで、一般式(1)で表される変性シリコーン樹脂のシラノール基と、一般式(2)で表される化合物のシラノール基とを反応させるに当たり、触媒存在下では常温でよいが、触媒不存在下では加熱を要する。触媒としては、金属触媒、強酸触媒、塩基など、例えばチタン化合物、ジアザビシクロウンデセンなどを用いることができる。触媒不存在下における加熱温度は、40℃以上とすることができ、シラノール基が効率よく反応する100℃以上が更に好ましい。反応時間は硬化方法や温度に応じて様々であるが、一般的には1~48時間程度が好ましい。
【0048】
一般式(2)中、oは5~200の整数を示し、5~100が好ましく、10~50がより好ましい。
【0049】
第2形態の樹脂組成物において、さらなる耐候性の向上を図る観点から、一般式(2)で表される化合物の含有量は、一般式(1)で表されるシリコーン樹脂100質量部に対して、30~100質量部とすることが好ましく、50~100質量部とすることがより好ましく、80~100質量部 とすることがさらに好ましい。
【0050】
第2形態の樹脂組成物は、第1形態の樹脂組成物と同様、一般式(1)で表される変性シリコーン樹脂及び一般式(2)で表される化合物の他に溶媒を含むことが好ましい。使用し得る溶媒及び他の添加剤としては、第1形態の樹脂組成物で使用する溶媒と同様である。そして、第2形態の樹脂組成物においては、本実施形態の変性シリコーン樹脂を含むとともに、一般式(2)で表される化合物を含むことから、より耐候性に優れる。従って、第1形態の樹脂組成物と同様、塗料として使用して塗膜を形成した場合、当該塗膜は水分が存在する環境下でも撥水性の低下が十分に抑えられる。
【0051】
<塗料、樹脂硬化膜>
本実施形態の塗料は、上述の第1形態又は第2形態の樹脂組成物を含む。当該塗料を基材に塗布することにより、塗膜を形成することができる。塗膜とした樹脂組成物は、後述の方法で硬化して樹脂硬化膜を形成することができる。当該基材としては、ガラス、セラミック、ステンレス、アルミ、銅等の無機材料、エポキシ、ベークライト、ポリアクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン等の有機樹脂材料から構成される成分のうち、少なくとも1種類以上含有する材質からなるものが挙げられる。基材は単一組成に限らず、シリコンウエハのような電子関連部材や、上記記載の成分を基材の表面に積層したものでもよい。また、基材の形状は湾曲部や段差部にも適用することができる。
【0052】
第1形態又は第2形態の樹脂組成物の塗布方法は特に限定されないが、スプレー塗布、バーコータ塗布、スピンコート塗布等が好ましい。塗布する際の膜厚は特に制限されないが、発泡や硬化不良を防ぐため100μm以下が好ましく、さらに好ましくは50μm以下である。製膜後に重ね塗りにすることで厚膜塗装を行うこともできる。また、塗膜を硬化した際の膜厚は特に制限されないが、100μm以下であってもよく、60μm以下であってもよく、40μm以下であってもよい。
【0053】
第1形態又は第2形態の樹脂組成物は、加熱により硬化することができる。加熱温度としては、作業の簡便性から40℃以上とすることが好ましく、シラノール基が効率よく反応する100℃以上が更に好ましい。反応時間は硬化方法や温度に応じて様々であるが、一般的には1~48時間程度が好ましい、また、硬化速度を速めるために酸触媒又はアルカリ触媒を添加してもよい。
上記の通り、第1形態又は第2形態の樹脂組成物は、加熱により硬化することができるが、用途に応じて樹脂構造中に適宜官能基を導入することで、紫外線硬化や2液硬化を行うこともできる。当該官能基としては、紫外線硬化の場合はアクリロイル基、メタクリロイル基、グリシジル基等が挙げられる。また、2液硬化の場合、一方に反応基としてビニル基、他方に反応基としてヒドロシリル基(Si-H基)を含む構造が挙げられる。
【0054】
第1形態又は第2形態の樹脂組成物は、種々の成形物、例えば、光センサーを保護する透明カバーに対して容易に塗布及び硬化することができるとともに、耐候性を付与することができる。
また、第1形態又は第2形態の樹脂組成物により形成される塗膜の表面は平滑面であり、耐傷性に優れる。
【実施例0055】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
[実施例1]
出発原料として、ポリメチルヒドロシロキサン(ダウ・東レ株式会社、DOWSIL SH 1107 Fluid)を用意した。溶媒としてプロピレングリコールジメチルエーテルを用い、触媒として塩化白金(IV)酸の存在下、ポリメチルヒドロシロキサンと両末端ビニル型ポリジメチルシロキサン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社、XF40-A1987)を60℃に加熱して反応させ、ポリジメチルシロキサンで変性したシリコーン樹脂を得た。次いで、70℃に加熱して水と反応させ、ポリジメチルシロキサンで変性したシラノール基を有するシリコーン樹脂を得た。また、溶媒であるプロピレングリコールジメチルエーテルを用いて、得られたシリコーン樹脂の加熱残分(Nv)が20%になるよう調整した。
なお、ポリヒドロメチルシロキサンと両末端ビニル型ポリジメチルシロキサンの仕込み量をそれぞれ100部と0.2部とすることにより、ポリヒドロメチルシロキサンに対するポリジメチルシロキサンの変性率を0.2%とし、一般式(1)におけるnに対するlの比率が0.002%となるよう調整した。
【0057】
(QUV耐候性試験)
耐候性試験機(株式会社DJK製、QUV)を用い、得られた変性シリコーン樹脂を、80℃環境下において、紫外線(UVB-313)を0.62W/m
2(波長310nm)の照度で20時間照射し、次いで、結露環境下に50℃で4時間保持というサイクルを繰り返し行う環境に晒し、所定時間経過後に水接触角を測定した。測定結果を表1及び
図2に示す。1000時間経過後において、QUV耐候性試験前後の水接触角の変化(減少)は13.7°であった。
【0058】
(温水試験)
Nvを20%に調製した樹脂組成物を基板上に塗布して110℃で2時間加熱して硬化させ、厚さ3~5μmの塗膜を形成した。そして、40℃の温水中に24時間塗膜を静置し、塗膜を取り出してから塗膜表面に残った水滴をエアーで飛ばし、すぐに水接触角を測定した。測定結果を表1に示す。温水試験前後の水接触角の変化(減少)は4.5°であった。
【0059】
(塗布外観)
Nvを20%に調製した樹脂組成物を基板上に塗布して110℃で2時間加熱して硬化させ、厚さ3~5μmの塗膜を形成した。そして、塗膜を目視観察し、表面が均一かつ透明な場合を「良好」、表面の凹凸や、白化が見られる場合を「不良」として評価した。
【0060】
[実施例2]
ポリジメチルシロキサンの変性率を1%とし、一般式(1)におけるnに対するlの比率が0.011%となるように調整したこと以外は実施例1と同様にして、ポリジメチルシロキサンで変性したシリコーン樹脂を得た。そして、実施例1と同様にしてQUV耐候性試験を行い、所定時間経過後に水接触角を測定した。測定結果を表1及び
図2に示す。QUV1000時間経過後において、QUV耐候性試験前後の水接触角の変化(減少)は9.9°であった。
【0061】
[実施例3]
ポリジメチルシロキサンの変性率を5%とし、一般式(1)におけるnに対するlの比率が0.056%となるように調整したこと以外は実施例1と同様にして、ポリジメチルシロキサンで変性したシリコーン樹脂を得た。そして、実施例1と同様にしてQUV耐候性試験を行い、所定時間経過後に水接触角を測定した。測定結果を表1及び
図2に示す。1000時間経過後において、QUV耐候性試験前後の水接触角の変化(減少)は8.3°であった。
【0062】
[実施例4]
ポリジメチルシロキサンの変性率を10%とし、一般式(1)におけるnに対するlの比率が0.112%となるように調整したこと以外は実施例1と同様にして、ポリジメチルシロキサンで変性したシリコーン樹脂を得た。そして、実施例1と同様にしてQUV耐候性試験を行い、所定時間経過後に水接触角を測定した。測定結果を表1及び
図2に示す。1000時間経過後において、QUV耐候性試験前後の水接触角の変化(減少)は5.5°であった。
【0063】
[実施例5]
実施例4で得られた、ポリジメチルシロキサンで変性したシリコーン樹脂(変性率:10%)100質量部と、プロピレングリコールジメチルエーテルでNv20%に調整した一般式(2)で表される化合物5質量部を混合して樹脂組成物を調製した。次いで、調製した樹脂組成物を基板上に塗布して加熱して硬化させ、塗膜を形成した。形成した塗膜の外観を観察したところ、透明であった。そして、実施例1と同様にしてQUV耐候性試験を行い、所定時間経過後に水接触角を測定した。測定結果を表1及び
図2に示す。1000時間経過後において、QUV耐候性試験前後の水接触角の変化(減少)は3°であった。
【0064】
[実施例6]
プロピレングリコールジメチルエーテルでNv20%に調整した一般式(2)で表される化合物の添加量を10質量部としたこと以外は、実施例5と同様にして樹脂組成物を調製して塗膜を形成した。そして、実施例1と同様にしてQUV耐候性試験を行い、所定時間経過後に水接触角を測定した。測定結果を表1及び
図2に示す。その結果、外観は透明であり、1000時間経過後において、QUV耐候性試験前後の水接触角の変化(減少)は0.8°であった。
【0065】
[比較例1]
末端ビニル型ポリジメチルシロキサンを反応させないこと以外は実施例1と同様にして、シラノール基を有するシリコーン樹脂を得た。そして、実施例1と同様にしてQUV耐候性試験を行い、所定時間経過後に水接触角を測定した。測定結果を表1及び
図2に示す。1000時間経過後において、QUV耐候性試験前後の水接触角の変化(減少)は3024.2°であった。
【0066】
[比較例2]
ポリジメチルシロキサンでの変性部位を持たないシラノール基を有するシリコーン樹脂100質量部と、一般式(2)で表される化合物10質量部と、プロピレングリコールジメチルエーテル440質量部を混合して樹脂組成物を調製して塗膜を形成した。そして、実施例1と同様にしてQUV耐候性試験を行い、所定時間経過後に水接触角の測定を試みた。その結果、塗膜表面に凹凸が発生し、水接触角の正確な値が得られなかった。
【0067】
【0068】
表1及び
図2より、シリコーン樹脂の変性率が高いほど経時に伴う水接触角の変化が小さいことが分かる。すなわち、本実施形態の変性シリコーン樹脂は、経時的に撥水性の低下が小さく、耐候性に優れることが分かる。特に、一般式(2)で表される化合物を用いた実施例5及び6においては、他の実施例よりも経時に伴う水接触角の変化が小さく、より耐候性に優れることが分かる。
【0069】
実施例4~6及び比較例1においては、以下に示す「キセノン耐候性試験」を行った。
【0070】
(キセノン耐候性試験)
耐候性試験機(スガ試験機株式会社製、スーパーキセノンウェザーメーターSX75)を用い、得られた変性シリコーン樹脂を、63℃環境下において、キセノンランプを180W/m
2(波長300~400nm)の照度で102分照射し、次いで、スプレー18分というサイクルを繰り返し行う環境に晒し、所定時間経過後に水接触角を測定した。測定結果を表1及び
図3に示す。
【0071】
表1及び
図2及び
図3の結果から示されるように、実施例5及び6はQUV耐候性試験、キセノン耐候性試験での水接触角の変化が小さく、耐候性に優れていることが分かる。