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特開2024-121799磁気記録媒体、磁気テープカートリッジおよび磁気記録再生装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121799
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】磁気記録媒体、磁気テープカートリッジおよび磁気記録再生装置
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/70 20060101AFI20240830BHJP
   G11B 5/706 20060101ALI20240830BHJP
   G11B 5/735 20060101ALI20240830BHJP
   G11B 5/738 20060101ALI20240830BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20240830BHJP
   G11B 5/73 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
G11B5/70
G11B5/706
G11B5/735
G11B5/738
G11B5/84 C
G11B5/73
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024020859
(22)【出願日】2024-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2023028748
(32)【優先日】2023-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 理英
【テーマコード(参考)】
5D112
【Fターム(参考)】
5D112AA02
5D112AA05
5D112AA22
5D112BA01
5D112BB02
5D112BB04
(57)【要約】
【課題】摩擦特性に優れかつデブリの発生が少ない磁気記録媒体を提供すること。
【解決手段】磁性層の表面において測定される水に対する接触角は96度以上であり、磁性層の表面において光電子取り出し角10度で行われるX線光電子分光分析によって求められるフッ素濃度Fは1.0原子%以上5.0原子%未満であり、式:ΔC=Cbefore-Cafterによって算出されるΔCは10.0原子%以上30.0原子%以下である磁気記録媒体。Cbeforeは、メタノール抽出処理前に磁性層の表面において光電子取り出し角10度で行われるX線光電子分光分析により得られるC1sスペクトルにおけるC-Hピーク面積率から算出されるC-H由来炭素濃度であり、Cafterは、メタノール抽出処理後のC-H由来炭素濃度である。上記磁気記録媒体を含む磁気テープカートリッジおよび磁気記録再生装置。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有する磁気記録媒体であって、
前記磁性層の表面において測定される水に対する接触角は96度以上であり、
前記磁性層の表面において光電子取り出し角10度で行われるX線光電子分光分析によって求められるフッ素濃度Fは1.0原子%以上5.0原子%未満であり、かつ下記式:
ΔC=Cbefore-Cafter
によって算出されるΔCは10.0原子%以上30.0原子%以下であり、
前記Cbeforeは、メタノール抽出処理前に前記磁性層の表面において光電子取り出し角10度で行われるX線光電子分光分析により得られるC1sスペクトルにおけるC-Hピーク面積率から算出されるC-H由来炭素濃度であり、
前記Cafterは、メタノール抽出処理後に前記磁性層の表面において光電子取り出し角10度で行われるX線光電子分光分析により得られるC1sスペクトルにおけるC-Hピーク面積率から算出されるC-H由来炭素濃度である、磁気記録媒体。
【請求項2】
前記接触角は96度以上110度以下である、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記磁気記録媒体の垂直方向角型比は0.60以上である、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記磁気記録媒体の垂直方向角型比は0.65以上である、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記非磁性支持体と前記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を更に有する、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記非磁性支持体の前記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を更に有する、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
前記磁気記録媒体の総厚は5.2μm以下である、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
前記磁気記録媒体の総厚は5.0μm以下である、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
前記非磁性支持体はポリアミド支持体である、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
前記強磁性粉末は六方晶フェライト粉末である、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項11】
前記六方晶フェライト粉末は六方晶バリウムフェライト粉末である、請求項10に記載の磁気記録媒体。
【請求項12】
前記六方晶フェライト粉末は六方晶ストロンチウムフェライト粉末である、請求項10に記載の磁気記録媒体。
【請求項13】
前記強磁性粉末はε-酸化鉄粉末である、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項14】
磁気テープである、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項15】
前記接触角は96度以上110度以下であり、
前記磁気記録媒体の垂直方向角型比は0.65以上であり、
前記非磁性支持体と前記磁性層との間に非磁性粉末を含む非磁性層を更に有し、
前記非磁性支持体の前記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に非磁性粉末を含むバックコート層を更に有し、
前記磁気記録媒体の総厚は5.0μm以下であり、
前記非磁性支持体はポリアミド支持体であり、
前記強磁性粉末は、六方晶バリウムフェライト粉末、六方晶ストロンチウムフェライト粉末およびε-酸化鉄粉末からなる群から選択され、かつ
前記磁気記録媒体は磁気テープである、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項16】
請求項14または15に記載の磁気テープを含む磁気テープカートリッジ。
【請求項17】
請求項1~15のいずれか1項に記載の磁気記録媒体を含む磁気記録再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体、磁気テープカートリッジおよび磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種データを記録するための記録媒体として、磁気記録媒体が広く用いられている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-180060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特開2021-180060号公報(特許文献1)には、潤滑剤として機能し得る炭素系化合物およびフッ素系化合物を含む磁気記録媒体が開示されている(例えば同公報の実施例参照)。潤滑剤は、磁気記録媒体の磁性層表面と磁気ヘッドとの摺動時の摩擦係数を低減させること、即ち摩擦特性を向上させること、に寄与し得る。したがって、磁気記録媒体の摩擦特性をより向上させるためには、磁気記録媒体に含まれる潤滑剤量を増量させることが考えられる。
【0005】
一方、磁気記録媒体へのデータの記録および記録されたデータの再生は、一般に、磁気記録再生装置(通常、「ドライブ」と呼ばれる。)内で磁気記録媒体を走行させ、磁性層表面と磁気ヘッドとを接触させて摺動させることによって行われる。かかる走行中に磁性層表面と磁気ヘッドとの間に異物が介在することは、走行安定性低下の原因となる。この異物としては、磁気ヘッドとの摺動により磁気記録媒体が削れて発生する削れ屑(「デブリ(debris)」と呼ばれる。)が挙げられる。したがって、デブリ発生を抑制できることは、磁気記録媒体の走行安定性を高めるうえで望ましい。しかし、潤滑剤をより多く含む磁気記録媒体は、デブリがより発生し易い傾向がある。これは、潤滑剤を多く含むことによって磁気記録媒体(例えば磁性層)の強度が低下することが一因と考えられる。
【0006】
かかる状況下、本発明の一態様は、摩擦特性に優れかつデブリの発生が少ない磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、以下の通りである。
[1]非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有する磁気記録媒体であって、
上記磁性層の表面において測定される水に対する接触角(以下、単に「接触角」とも記載する。)は96度以上であり、
上記磁性層の表面において光電子取り出し角10度で行われるX線光電子分光分析によって求められるフッ素濃度F(以下、単に「フッ素濃度F」または「F」とも記載する。)は1.0原子%以上5.0原子%未満であり、かつ下記式:
ΔC=Cbefore-Cafter
によって算出されるΔCは10.0原子%以上30.0原子%以下であり、
上記Cbeforeは、メタノール抽出処理前に上記磁性層の表面において光電子取り出し角10度で行われるX線光電子分光分析により得られるC1sスペクトルにおけるC-Hピーク面積率から算出されるC-H由来炭素濃度であり、
上記Cafterは、メタノール抽出処理後に上記磁性層の表面において光電子取り出し角10度で行われるX線光電子分光分析により得られるC1sスペクトルにおけるC-Hピーク面積率から算出されるC-H由来炭素濃度である、磁気記録媒体。
[2]上記接触角は96度以上110度以下である、[1]に記載の磁気記録媒体。
[3]上記磁気記録媒体の垂直方向角型比は0.60以上である、[1]または[2]に記載の磁気記録媒体。
[4]上記磁気記録媒体の垂直方向角型比は0.65以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[5]上記非磁性支持体と上記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を更に有する、[1]~[4]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[6]上記非磁性支持体の上記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を更に有する、[1]~[5]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[7]上記磁気記録媒体の総厚は5.2μm以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[8]上記磁気記録媒体の総厚は5.0μm以下である、[1]~[7]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[9]上記非磁性支持体はポリアミド支持体である、[1]~[8]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[10]上記強磁性粉末は六方晶フェライト粉末である、[1]~[9]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[11]上記六方晶フェライト粉末は六方晶バリウムフェライト粉末である、[10]に記載の磁気記録媒体。
[12]上記六方晶フェライト粉末は六方晶ストロンチウムフェライト粉末である[10]に記載の磁気記録媒体。
[13]上記強磁性粉末はε-酸化鉄粉末である、[1]~[9]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[14]磁気テープである、[1]~[13]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[15]上記接触角は96度以上110度以下であり、
上記磁気記録媒体の垂直方向角型比は0.65以上であり、
上記非磁性支持体と上記磁性層との間に非磁性粉末を含む非磁性層を更に有し、
上記非磁性支持体の上記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に非磁性粉末を含むバックコート層を更に有し、
上記磁気記録媒体の総厚は5.0μm以下であり、
上記非磁性支持体はポリアミド支持体であり、
上記強磁性粉末は、六方晶バリウムフェライト粉末、六方晶ストロンチウムフェライト粉末およびε-酸化鉄粉末からなる群から選択され、かつ
上記磁気記録媒体は磁気テープである、[1]~[14]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[16][14]または[15]に記載の磁気テープを含む磁気テープカートリッジ。
[17][1]~[15]のいずれかに記載の磁気記録媒体を含む磁気記録再生装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、摩擦特性に優れかつデブリの発生が少ない磁気記録媒体を提供することができる。また、本発明の一態様によれば、かかる磁気記録媒体を含む磁気テープカートリッジおよび磁気記録再生装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[磁気記録媒体]
本発明の一態様は、非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有する磁気記録媒体に関する。上記磁性層の表面において測定される水に対する接触角は96度以上であり、上記磁性層の表面において光電子取り出し角10度で行われるX線光電子分光分析によって求められるフッ素濃度Fは1.0原子%以上5.0原子%未満であり、かつ下記式:
ΔC=Cbefore-Cafter、によって算出されるΔCは10.0原子%以上30.0原子%以下である。上記Cbeforeは、メタノール抽出処理前に上記磁性層の表面において光電子取り出し角10度で行われるX線光電子分光分析により得られるC1sスペクトルにおけるC-Hピーク面積率から算出されるC-H由来炭素濃度であり、上記Cafterは、メタノール抽出処理後に上記磁性層の表面において光電子取り出し角10度で行われるX線光電子分光分析により得られるC1sスペクトルにおけるC-Hピーク面積率から算出されるC-H由来炭素濃度である。
【0010】
本発明者は、上記磁気記録媒体において上記フッ素濃度Fおよび上記ΔCが上記範囲であることがデブリ発生の抑制に寄与し、上記接触角が96度以上であることが上記磁気記録媒体の摩擦特性向上に寄与すると推察している。ただし、本発明は、本明細書に記載されている推察に限定されるものではない。
【0011】
以下、上記磁気記録媒体について、更に詳細に説明する。
【0012】
<接触角>
本発明および本明細書において、磁気記録媒体の磁性層の表面において測定される水に対する接触角は、以下の方法によって求められる値とする。なお、本発明および本明細書において、「磁性層(の)表面」は、磁気記録媒体の磁性層側表面と同義である。
接触角は、液滴法により測定される。具体的には、接触角は、雰囲気温度25℃および相対湿度25%の測定環境において、磁性層表面の測定箇所に水を滴下し、θ/2法によって求められる。測定条件の一例は、実施例の欄において後述する。測定箇所は磁性層表面において無作為に選択した5箇所とし、5箇所においてそれぞれ接触角の測定を行う。こうして得られた5つの測定値の算術平均を、測定対象の磁気記録媒体の磁性層の表面において測定される水に対する接触角とする。角度の単位「度」は、「°」とも表記される。
【0013】
上記接触角は、摩擦特性向上の観点から、96度以上であり、97度以上であることが好ましく、98度以上であることがより好ましく、99度以上であることが更に好ましく、100度以上であることが一層好ましい。上記接触角は、例えば、110度以下、108度以下、106度以下、104度以下、102度以下または100度以下であることができる。磁気記録媒体の摩擦特性向上の観点からは、水に対する接触角の値が大きいことは好ましい。したがって、上記磁気記録媒体の磁性層の表面において測定される水に対する接触角は、ここに例示した値を上回ってもよい。水に対する接触角の値が大きい磁性層表面は、表面自由エネルギーが低いということができる。また、水に対する接触角が大きい磁性層表面は、磁気ヘッドとの摺動時、摺動環境中の水が形成するメニスカス(液体架橋)が摩擦特性に与える影響が少ないということができる。この点は、摺動環境が高湿環境(例えば相対湿度60%以上100%以下)における磁気記録媒体の摩擦特性向上のために特に好ましいと本発明者は考えている。以上の点が、水に対する接触角が96度以上であることが、上記磁気記録媒体が優れた摩擦特性を示すことができる理由であると本発明者は推察している。上記接触角の制御手段については後述する。
【0014】
<光電子取り出し角10度で行われるX線光電子分光分析によって求められる各種濃度>
本発明および本明細書における「フッ素濃度F」は、磁性層の表面において光電子取り出し角10度で行われるX線光電子分光分析によって求められるフッ素濃度である。
本発明および本明細書における「Cbefore」は、メタノール抽出処理前に磁性層の表面において光電子取り出し角10度で行われるX線光電子分光分析により得られるC1sスペクトルにおけるC-Hピーク面積率から算出されるC-H由来炭素濃度である。
本発明および本明細書における「Cafter」は、メタノール抽出処理後に磁性層の表面において光電子取り出し角10度で行われるX線光電子分光分析により得られるC1sスペクトルにおけるC-Hピーク面積率から算出されるC-H由来炭素濃度である。
「X線光電子分光分析」は、一般にESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)またはXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)とも呼ばれる分析法である。以下において、X線光電子分光分析を、ESCAとも記載する。ESCAは、測定対象試料表面にX線を照射すると光電子が放出されることを利用する分析法であり、測定対象試料の表層部の分析法として広く用いられている。ESCAによれば、測定対象の試料表面における分析により取得されるX線光電子分光スペクトルを用いて定性分析および定量分析を行うことができる。試料表面から分析位置までの深さ(以下、「検出深さ」とも記載する。)と光電子取り出し角(take-off angle)との間には、一般に次の式:検出深さ≒電子の平均自由行程×3×sinθ、が成立する。式中、検出深さは、X線光電子分光スペクトルを構成する光電子の95%が発生する深さであり、θは光電子取り出し角である。上記の式から、光電子取り出し角が小さいほど試料表面からの深さが浅い部分が分析でき、光電子取り出し角が大きいほど深い部分が分析できることがわかる。そして光電子取り出し角10度でのESCAによって行われる分析では、通常、試料の表面から深さ数nm程度の位置に亘る極表層部が分析位置になる。したがって、磁気記録媒体の磁性層の表面において、光電子取り出し角10度でESCAによって行われる分析によれば、磁性層の表面から深さ数nm程度の位置に亘る極表層部の組成分析を行うことができる。
上記フッ素濃度Fとは、ESCAによって行われる定性分析により検出される全元素の合計(原子基準)100原子%に対して、フッ素原子Fが占める割合である。分析を行う領域は、磁気記録媒体の磁性層の表面の任意の位置の300μm×700μmの面積の領域とする。ESCAによって行われるワイドスキャン測定(パスエネルギー:160eV、スキャン範囲:0~1200eV、エネルギー分解能:1eV/step)により定性分析を実施する。次いで、定性分析により検出された全元素のスペクトルをナロースキャン測定(パスエネルギー:80eV、エネルギー分解能:0.1eV、スキャン範囲:測定するスペクトルの全体が入るように元素毎に設定。)により求める。こうして得られた各スペクトルにおけるピーク面積から、定性分析により検出された全元素に対する各元素の原子濃度(atomic concentration、単位:原子%)を算出する。ここでF1sスペクトルのピーク面積からフッ素濃度も算出される。
上記C-H由来炭素濃度とは、ESCAによって行われる定性分析により検出される全元素の合計(原子基準)100原子%に対して、C-H結合を構成している炭素原子Cが占める割合である。ESCAによって行われるワイドスキャン測定(パスエネルギー:160eV、スキャン範囲:0~1200eV、エネルギー分解能:1eV/step)により定性分析を実施する。次いで、定性分析により検出された全元素のスペクトルをナロースキャン測定(パスエネルギー:80eV、エネルギー分解能:0.1eV、スキャン範囲:測定するスペクトルの全体が入るように元素毎に設定。)により求める。こうして得られた各スペクトルにおけるピーク面積から、各元素の原子濃度(atomic concentration、単位:原子%)を算出する。ここでC1sスペクトルのピーク面積から炭素濃度も算出される。
更に、C1sスペクトルを取得する(パスエネルギー:10eV、スキャン範囲:276~296eV、エネルギー分解能:0.1eV/step)。取得したC1sスペクトルを、ガウス-ローレンツ複合関数(ガウス成分70%、ローレンツ成分30%)を用いる非線形最小二乗法によってフィッティング処理し、C1sスペクトルにおけるC-H結合のピークをピーク分離し、分離されたC-HピークのC1sスペクトルに占める割合(ピーク面積率)を算出する。算出されたC-Hピーク面積率を、上記の炭素濃度に掛け算することにより、C-H由来炭素濃度を算出する。
【0015】
測定対象の磁気記録媒体から2つのサンプル片を切り出す。一方のサンプル片についてはメタノール抽出処理なしで、上記の操作を磁性層表面の異なる位置において3回行って、フッ素濃度およびC-H由来炭素濃度をそれぞれ求める。求められた値の算術平均を、測定対象の磁気記録媒体のフッ素濃度FおよびCbeforeとする。上記の操作の具体的形態を、後述の実施例の欄に示す。
メタノール抽出処理なしで上記の操作が行われるサンプル片のサイズは特に限定されない。メタノール抽出処理が施されるサンプル片のサイズは、磁気テープについては、長さ5cmとする。磁気テープの幅は、通常1/2インチである。1インチ=0.0254メートルである。1/2インチ以外の幅の磁気テープについても、メタノール抽出処理が施されるサンプル片としては、長さ5cmのサンプル片を切り出す。磁気ディスクについては、メタノール抽出処理が施されるサンプル片としては、磁気テープの場合と同様のサイズのサンプル片を切り出せばよい。
【0016】
もう一方のサンプル片については、以下の方法によってメタノール抽出処理を行った後、上記の操作を磁性層表面の異なる位置において3回行ってC-H由来炭素濃度を求める。求められた値の算術平均を、測定対象の磁気記録媒体のCafterとする。
メタノール抽出処理:
本明細書に記載の「室温」は、20~25℃の範囲の温度である。以下の処理は、室温下で行う。以下の処理に関して、「約30mL」とは、25~35mLの範囲を意味する。
フレッシュなメタノールを入れた容器を用意する。フレッシュとは、未使用を意味する。
容器内のメタノール(約30mL)にサンプル片全体を浸漬させる。例えば、幅が1/2インチであって長さが5cmのサンプル片全体を、100mLビーカー内のフレッシュなメタノール(約30mL)中に浸漬させる。
サンプル片全体をメタノール中に浸漬させた状態で、設定温度を60℃にセットしたホットプレート上に上記容器を載せて3時間加熱する。
上記加熱後、サンプル片をメタノールから取り出す。
フレッシュなノルマルヘキサンを入れた容器を用意する。
取り出したサンプル片を洗浄するために、サンプル片全体を容器内のノルマルヘキサン(約30mL)中に浸漬させた状態で30分間静置する。例えば、幅が1/2インチであって長さが5cmのサンプル片全体を、100mLビーカー内のフレッシュなノルマルヘキサン(約30mL)中に浸漬させた状態で、室温下で30分間静置する。
その後、サンプル片をノルマルヘキサンから取り出し、1日以上室温下で乾燥させる。
【0017】
<フッ素濃度F>
フッ素系化合物は、一般に潤滑剤として機能し得る。上記磁気記録媒体について上記のように求められるフッ素濃度Fは、フッ素系化合物の磁性層の極表層部における存在量の指標になり得ると本発明者は考えている。そして本発明者は、フッ素濃度Fが5.0原子%未満であることはデブリ低減に寄与し得ると考えており、フッ素濃度Fが1.0原子%以上であることは摩擦特性向上に寄与し得ると考えている。デブリをより一層低減する観点から、フッ素濃度Fは、4.8原子%以下であることが好ましく、4.6原子%以下であることがより好ましい。摩擦特性の更なる向上の観点からは、フッ素濃度Fは、1.2原子%以上であることが好ましく、1.4原子%以上であることがより好ましく、1.6原子%以上、1.8原子%以上、2.0原子%以上、2.2原子%以上、2.4原子%以上、2.6原子%以上の順に更に好ましい。
フッ素濃度は、磁気記録媒体の形成のために使用されるフッ素系化合物の使用量等によって制御することができる。本発明および本明細書において、「フッ素系化合物」とは、1分子あたり1つ以上のフッ素原子(F)を含有する化合物である。
【0018】
<ΔC>
ΔCは、先に記載の方法によって求められるCbeforeおよびCafterから、下記式:ΔC=Cbefore-Cafter、によって算出される。磁気記録媒体に含まれ得る各種成分の中で、潤滑剤として機能し得る炭素系化合物は、一般にメタノール可溶性成分である。したがって、メタノール抽出前後のC-H由来炭素濃度の差分であるΔCは、潤滑剤として機能し得る炭素系化合物の磁性層の極表層部における存在量の指標になり得ると本発明者は考えている。そして本発明者は、ΔCが30.0原子%以下であることはデブリ低減に寄与し得ると考えており、ΔCが10.0原子%以上であることは摩擦特性向上に寄与し得ると考えている。デブリをより一層低減する観点から、ΔCは、29.0原子%以下であることが好ましく、27.0原子%以下であることがより好ましく、25.0原子%以下であることが更に好ましい。摩擦特性の更なる向上の観点からは、ΔCは、10.5原子%以上であることが好ましく、11.0原子%以上であることがより好ましく、11.5原子%以上、12.0原子%以上、12.5原子%以上、13.0原子%以上、13.5原子%以上、14.0原子%以上、14.5原子%以上、15.0原子以上、15.5原子%以上、16.0原子%以上、16.5原子%以上、20.0原子%以上の順に更に好ましい。
ΔCは、磁気記録媒体の形成のために使用される、潤滑剤として機能し得る炭素系化合物の使用量等によって制御することができる。本発明および本明細書において、「炭素系化合物」とは、1分子あたり1つ以上の炭素原子(C)を含有する化合物である。
【0019】
以下、上記磁気記録媒体について、より詳細に説明する。
【0020】
<磁性層>
(強磁性粉末)
磁性層に含まれる強磁性粉末としては、各種磁気記録媒体の磁性層において用いられる強磁性粉末として公知の強磁性粉末を1種または2種以上組み合わせて使用することができる。強磁性粉末として平均粒子サイズの小さいものを使用することは記録密度向上の観点から好ましい。この点から、強磁性粉末の平均粒子サイズは50nm以下であることが好ましく、45nm以下であることがより好ましく、40nm以下であることが更に好ましく、35nm以下であることが一層好ましく、30nm以下であることがより一層好ましく、25nm以下であることが更に一層好ましく、20nm以下であることがなお一層好ましい。一方、磁化の安定性の観点からは、強磁性粉末の平均粒子サイズは5nm以上であることが好ましく、8nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることが更に好ましく、15nm以上であることが一層好ましく、20nm以上であることがより一層好ましい。
【0021】
六方晶フェライト粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、六方晶フェライト粉末を挙げることができる。六方晶フェライト粉末の詳細については、例えば、特開2011-225417号公報の段落0012~0030、特開2011-216149号公報の段落0134~0136、特開2012-204726号公報の段落0013~0030および特開2015-127985号公報の段落0029~0084を参照できる。
【0022】
本発明および本明細書において、「六方晶フェライト粉末」とは、X線回折分析によって、主相として六方晶フェライトの結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。主相とは、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが帰属する構造をいう。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが六方晶フェライトの結晶構造に帰属される場合、六方晶フェライトの結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。X線回折分析によって単一の構造のみが検出された場合には、この検出された構造を主相とする。六方晶フェライトの結晶構造は、構成原子として、少なくとも鉄原子、二価金属原子および酸素原子を含む。二価金属原子とは、イオンとして二価のカチオンになり得る金属原子であり、ストロンチウム原子、バリウム原子、カルシウム原子等のアルカリ土類金属原子、鉛原子等を挙げることができる。本発明および本明細書において、「六方晶ストロンチウムフェライト粉末」とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がストロンチウム原子であるものをいい、「六方晶バリウムフェライト粉末」とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がバリウム原子であるものをいう。主な二価金属原子とは、この粉末に含まれる二価金属原子の中で、原子%基準で最も多くを占める二価金属原子をいうものとする。ただし、上記の二価金属原子には、希土類原子は包含されないものとする。本発明および本明細書における「希土類原子」は、スカンジウム原子(Sc)、イットリウム原子(Y)、およびランタノイド原子からなる群から選択される。ランタノイド原子は、ランタン原子(La)、セリウム原子(Ce)、プラセオジム原子(Pr)、ネオジム原子(Nd)、プロメチウム原子(Pm)、サマリウム原子(Sm)、ユウロピウム原子(Eu)、ガドリニウム原子(Gd)、テルビウム原子(Tb)、ジスプロシウム原子(Dy)、ホルミウム原子(Ho)、エルビウム原子(Er)、ツリウム原子(Tm)、イッテルビウム原子(Yb)、およびルテチウム原子(Lu)からなる群から選択される。
【0023】
以下に、六方晶フェライト粉末の一形態である六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、更に詳細に説明する。
【0024】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、好ましくは800~1600nmの範囲である。上記範囲の活性化体積を示す微粒子化された六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、優れた電磁変換特性を発揮する磁気記録媒体の作製のために好適である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、好ましくは800nm以上であり、例えば850nm以上であることもできる。また、電磁変換特性の更なる向上の観点から、六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、1500nm以下であることがより好ましく、1400nm以下であることが更に好ましく、1300nm以下であることが一層好ましく、1200nm以下であることがより一層好ましく、1100nm以下であることが更により一層好ましい。六方晶バリウムフェライト粉末の活性化体積についても、同様である。
【0025】
「活性化体積」とは、磁化反転の単位であって、粒子の磁気的な大きさを示す指標である。本発明および本明細書に記載の活性化体積および後述の異方性定数Kuは、振動試料型磁力計を用いて保磁力Hc測定部の磁場スイープ速度3分と30分とで測定し(測定温度:23℃±1℃)、以下のHcと活性化体積Vとの関係式から求められる値である。異方性定数Kuの単位に関して、1erg/cc=1.0×10-1J/mである。
Hc=2Ku/Ms{1-[(kT/KuV)ln(At/0.693)]1/2
[上記式中、Ku:異方性定数(単位:J/m)、Ms:飽和磁化(単位:kA/m)、k:ボルツマン定数、T:絶対温度(単位:K)、V:活性化体積(単位:cm)、A:スピン歳差周波数(単位:s-1)、t:磁界反転時間(単位:s)]
【0026】
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、好ましくは1.8×10J/m以上のKuを有することができ、より好ましくは2.0×10J/m以上のKuを有することができる。また、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のKuは、例えば2.5×10J/m以下であることができる。ただしKuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
【0027】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含んでいてもよく、含まなくてもよい。六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、鉄原子100原子%に対して、0.5~5.0原子%の含有率(バルク含有率)で希土類原子を含むことが好ましい。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一形態では、希土類原子表層部偏在性を有することができる。本発明および本明細書における「希土類原子表層部偏在性」とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により部分溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子表層部含有率」または希土類原子に関して単に「表層部含有率」と記載する。)が、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により全溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子バルク含有率」または希土類原子に関して単に「バルク含有率」と記載する。)と、
希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0
の比率を満たすことを意味する。後述の六方晶ストロンチウムフェライト粉末の希土類原子含有率とは、希土類原子バルク含有率と同義である。これに対し、酸を用いる部分溶解は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部を溶解するため、部分溶解により得られる溶解液中の希土類原子含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部における希土類原子含有率である。希土類原子表層部含有率が、「希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0」の比率を満たすことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。本発明および本明細書における表層部とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面から内部に向かう一部領域を意味する。
【0028】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、希土類原子含有率(バルク含有率)は、鉄原子100原子%に対して0.5~5.0原子%の範囲であることが好ましい。上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることは、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することに寄与すると考えられる。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末が上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることにより、異方性定数Kuを高めることができるためと推察される。異方性定数Kuは、この値が高いほど、いわゆる熱揺らぎと呼ばれる現象の発生を抑制すること(換言すれば熱的安定性を向上させること)ができる。熱揺らぎの発生が抑制されることにより、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の粒子表層部に希土類原子が偏在することが、表層部の結晶格子内の鉄(Fe)のサイトのスピンを安定化することに寄与し、これにより異方性定数Kuが高まるのではないかと推察される。
繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点からは、希土類原子含有率(バルク含有率)は、0.5~4.5原子%の範囲であることがより好ましく、1.0~4.5原子%の範囲であることが更に好ましく、1.5~4.5原子%の範囲であることが一層好ましい。
【0029】
上記バルク含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる含有率である。本発明および本明細書において、特記しない限り、原子について含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められるバルク含有率をいうものとする。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子として1種の希土類原子のみ含んでもよく、2種以上の希土類原子を含んでもよい。2種以上の希土類原子を含む場合の上記バルク含有率は、2種以上の希土類原子の合計について求められる。この点は、本発明および本明細書における他の成分についても同様である。即ち、特記しない限り、ある成分は、1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。2種以上用いられる場合の含有量または含有率とは、2種以上の合計についていうものとする。
【0030】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、含まれる希土類原子は、希土類原子のいずれか1種以上であればよい。繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点から好ましい希土類原子としては、ネオジム原子、サマリウム原子、イットリウム原子およびジスプロシウム原子を挙げることができ、ネオジム原子、サマリウム原子およびイットリウム原子がより好ましく、ネオジム原子が更に好ましい。
【0031】
希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、偏在の程度は限定されるものではない。例えば、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は1.0超であり、1.5以上であることができる。「表層部含有率/バルク含有率」が1.0より大きいことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。また、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は、例えば、10.0以下、9.0以下、8.0以下、7.0以下、6.0以下、5.0以下、または4.0以下であることができる。ただし、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、上記の「表層部含有率/バルク含有率」は、例示した上限または下限に限定されるものではない。
【0032】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の部分溶解および全溶解について、以下に説明する。粉末として存在している六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、部分溶解および全溶解する試料粉末は、同一ロットの粉末から採取する。一方、磁気記録媒体の磁性層に含まれている六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、磁性層から取り出した六方晶ストロンチウムフェライト粉末の一部を部分溶解に付し、他の一部を全溶解に付す。磁性層からの六方晶ストロンチウムフェライト粉末の取り出しは、例えば、特開2015-91747号公報の段落0032に記載の方法によって行うことができる。
上記部分溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認できる程度に溶解することをいう。例えば、部分溶解により、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子について、粒子全体を100質量%として10~20質量%の領域を溶解することができる。一方、上記全溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認されない状態まで溶解することをいう。
上記部分溶解および表層部含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。ただし、下記の試料粉末量等の溶解条件は例示であって、部分溶解および全溶解が可能な溶解条件を任意に採用できる。
試料粉末12mgおよび1mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度70℃のホットプレート上で1時間保持する。得られた溶解液を0.1μmのメンブレンフィルタでろ過する。こうして得られたろ液の元素分析を誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)分析装置によって行う。こうして、鉄原子100原子%に対する希土類原子の表層部含有率を求めることができる。元素分析により複数種の希土類原子が検出された場合には、全希土類原子の合計含有率を、表層部含有率とする。この点は、バルク含有率の測定においても、同様である。
一方、上記全溶解およびバルク含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。
試料粉末12mgおよび4mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度80℃のホットプレート上で3時間保持する。その後は上記の部分溶解および表層部含有率の測定と同様に行い、鉄原子100原子%に対するバルク含有率を求めることができる。
【0033】
磁気記録媒体に記録されたデータを再生する際の再生出力を高める観点から、磁気記録媒体に含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、希土類原子を含むものの希土類原子表層部偏在性を持たない六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含まない六方晶ストロンチウムフェライト粉末と比べてσsが大きく低下する傾向が見られた。これに対し、そのようなσsの大きな低下を抑制するうえでも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末は好ましいと考えられる。一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のσsは、45A・m/kg以上であることができ、47A・m/kg以上であることもできる。一方、σsは、ノイズ低減の観点からは、80A・m/kg以下であることが好ましく、60A・m/kg以下であることがより好ましい。σsは、振動試料型磁力計等の磁気特性を測定可能な公知の測定装置を用いて測定することができる。本発明および本明細書において、特記しない限り、質量磁化σsは、磁場強度15kOeで測定される値とする。単位Oe(エルステッド)のSI単位A/mへの換算係数は10/4πである。
【0034】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の構成原子の含有率(バルク含有率)に関して、ストロンチウム原子含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば2.0~15.0原子%の範囲であることができる。一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、この粉末に含まれる二価金属原子がストロンチウム原子のみであることができる。また他の一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、ストロンチウム原子に加えて1種以上の他の二価金属原子を含むこともできる。例えば、バリウム原子および/またはカルシウム原子を含むことができる。ストロンチウム原子以外の他の二価金属原子が含まれる場合、六方晶ストロンチウムフェライト粉末におけるバリウム原子含有率およびカルシウム原子含有率は、それぞれ、例えば、鉄原子100原子%に対して、0.05~5.0原子%の範囲であることができる。
【0035】
六方晶フェライトの結晶構造としては、マグネトプランバイト型(「M型」とも呼ばれる。)、W型、Y型およびZ型が知られている。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、いずれの結晶構造を取るものであってもよい。結晶構造は、X線回折分析によって確認することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によって、単一の結晶構造または2種以上の結晶構造が検出されるものであることができる。例えば一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によってM型の結晶構造のみが検出されるものであることができる。例えば、M型の六方晶フェライトは、AFe1219の組成式で表される。ここでAは二価金属原子を表し、六方晶ストロンチウムフェライト粉末がM型である場合、Aはストロンチウム原子(Sr)のみであるか、またはAとして複数の二価金属原子が含まれる場合には、上記の通り原子%基準で最も多くをストロンチウム原子(Sr)が占める。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の二価金属原子含有率は、通常、六方晶フェライトの結晶構造の種類により定まるものであり、特に限定されるものではない。鉄原子含有率および酸素原子含有率についても、同様である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、少なくとも、鉄原子、ストロンチウム原子および酸素原子を含み、更に希土類原子を含むこともできる。更に、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、これら原子以外の原子を含んでもよく、含まなくてもよい。一例として、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、アルミニウム原子(Al)を含むものであってもよい。アルミニウム原子の含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば0.5~10.0原子%であることができる。繰り返し再生における再生出力低下をより一層抑制する観点からは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子を含み、これら原子以外の原子の含有率が、鉄原子100原子%に対して、10.0原子%以下であることが好ましく、0~5.0原子%の範囲であることがより好ましく、0原子%であってもよい。即ち、一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子以外の原子を含まなくてもよい。上記の原子%で表示される含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる各原子の含有率(単位:質量%)を、各原子の原子量を用いて原子%表示の値に換算して求められる。また、本発明および本明細書において、ある原子について「含まない」とは、全溶解してICP分析装置により測定される含有率が0質量%であることをいう。ICP分析装置の検出限界は、通常、質量基準で0.01ppm(parts per million)以下である。上記の「含まない」とは、ICP分析装置の検出限界未満の量で含まれることを包含する意味で用いるものとする。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一形態では、ビスマス原子(Bi)を含まないものであることができる。
【0036】
金属粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、強磁性金属粉末を挙げることもできる。強磁性金属粉末の詳細については、例えば特開2011-216149号公報の段落0137~0141および特開2005-251351号公報の段落0009~0023を参照できる。
【0037】
ε-酸化鉄粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、ε-酸化鉄粉末を挙げることもできる。本発明および本明細書において、「ε-酸化鉄粉末」とは、X線回折分析によって、主相としてε-酸化鉄の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークがε-酸化鉄の結晶構造に帰属される場合、ε-酸化鉄の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。ε-酸化鉄粉末の製造方法としては、ゲーサイトから作製する方法、逆ミセル法等が知られている。上記製造方法は、いずれも公知である。また、Feの一部がGa、Co、Ti、Al、Rh等の置換原子によって置換されたε-酸化鉄粉末を製造する方法については、例えば、J. Jpn. Soc. Powder Metallurgy Vol. 61 Supplement, No. S1, pp. S280-S284、J. Mater. Chem. C, 2013, 1, pp.5200-5206等を参照できる。ただし、上記磁気記録媒体の磁性層において強磁性粉末として使用可能なε-酸化鉄粉末の製造方法は、ここで挙げた方法に限定されない。
【0038】
ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、好ましくは300~1500nmの範囲である。上記範囲の活性化体積を示す微粒子化されたε-酸化鉄粉末は、優れた電磁変換特性を発揮する磁気記録媒体の作製のために好適である。ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、好ましくは300nm以上であり、例えば500nm以上であることもできる。また、電磁変換特性の更なる向上の観点から、ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、1400nm以下であることがより好ましく、1300nm以下であることが更に好ましく、1200nm以下であることが一層好ましく、1100nm以下であることがより一層好ましい。
【0039】
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。ε-酸化鉄粉末は、好ましくは3.0×10J/m以上のKuを有することができ、より好ましくは8.0×10J/m以上のKuを有することができる。また、ε-酸化鉄粉末のKuは、例えば3.0×10J/m以下であることができる。ただしKuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し、好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
【0040】
磁気記録媒体に記録されたデータを再生する際の再生出力を高める観点から、磁気記録媒体に含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、一形態では、ε-酸化鉄粉末のσsは、8A・m/kg以上であることができ、12A・m/kg以上であることもできる。一方、ε-酸化鉄粉末のσsは、ノイズ低減の観点からは、40A・m/kg以下であることが好ましく、35A・m/kg以下であることがより好ましい。
【0041】
本発明および本明細書において、特記しない限り、強磁性粉末等の各種粉末の平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡を用いて、以下の方法により測定される値とする。
粉末を、透過型電子顕微鏡を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントするかディスプレイに表示する等して粉末を構成する粒子の写真を得る。得られた粒子の写真から目的の粒子を選びデジタイザーで粒子の輪郭をトレースし粒子(一次粒子)のサイズを測定する。一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。
以上の測定を、無作為に選択した500個の粒子について行う。こうして得られた500個の粒子の粒子サイズの算術平均を、粉末の平均粒子サイズとする。上記透過型電子顕微鏡としては、例えば日立製透過型電子顕微鏡H-9000型を用いることができる。また、粒子サイズの測定は、公知の画像解析ソフト、例えばカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて行うことができる。後述の実施例の欄に記載の平均粒子サイズは、特記しない限り、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H-9000型、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて測定された値である。本発明および本明細書において、粉末とは、複数の粒子の集合を意味する。例えば、強磁性粉末とは、複数の強磁性粒子の集合を意味する。また、複数の粒子の集合とは、集合を構成する粒子が直接接触している形態に限定されず、後述する結合剤、添加剤等が、粒子同士の間に介在している形態も包含される。粒子との語が、粉末を表すために用いられることもある。
【0042】
粒子サイズ測定のために磁気記録媒体から試料粉末を採取する方法としては、例えば特開2011-048878号公報の段落0015に記載の方法を採用することができる。
【0043】
本発明および本明細書において、特記しない限り、粉末を構成する粒子のサイズ(粒子サイズ)は、上記の粒子写真において観察される粒子の形状が、
(1)針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粒子を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、
(2)板状または柱状(ただし、厚みまたは高さが板面または底面の最大長径より小さい)の場合は、その板面または底面の最大長径で表され、
(3)球形、多面体状、不定形等であって、かつ形状から粒子を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものをいう。
【0044】
また、粉末の平均針状比は、上記測定において粒子の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粒子の(長軸長/短軸長)の値を求め、上記500個の粒子について得た値の算術平均を指す。ここで、特記しない限り、短軸長とは、上記粒子サイズの定義で(1)の場合は、粒子を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚みまたは高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、特記しない限り、粒子の形状が特定の場合、例えば、上記粒子サイズの定義(1)の場合、平均粒子サイズは平均長軸長であり、同定義(2)の場合、平均粒子サイズは平均板径である。同定義(3)の場合、平均粒子サイズは、平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)である。
【0045】
磁性層における強磁性粉末の含有率(充填率)は、磁性層の全質量に対して、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。磁性層において強磁性粉末の充填率が高いことは、記録密度向上の観点から好ましい。
【0046】
(結合剤)
上記磁気記録媒体は塗布型の磁気記録媒体であることができ、磁性層に結合剤を含むことができる。結合剤とは、1種以上の樹脂である。結合剤としては、塗布型磁気記録媒体の結合剤として通常使用される各種樹脂を用いることができる。例えば、結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を共重合したアクリル樹脂、ニトロセルロース等のセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルキラール樹脂等から選ばれる樹脂を単独で用いるか、または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、および塩化ビニル樹脂である。これらの樹脂は、ホモポリマーでもよく、コポリマー(共重合体)でもよい。これらの樹脂は、後述する非磁性層および/またはバックコート層においても結合剤として使用することができる。以上の結合剤については、特開2010-24113号公報の段落0028~0031を参照できる。また、結合剤は、電子線硬化型樹脂等の放射線硬化型樹脂であってもよい。放射線硬化型樹脂については、特開2011-048878号公報の段落0044~0045を参照できる。
結合剤として使用される樹脂の平均分子量は、重量平均分子量として、例えば10,000以上200,000以下であることができる。本発明および本明細書における重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、下記測定条件により測定された値をポリスチレン換算して求められる値である。後述の実施例の欄に記載の重量平均分子量は、下記測定条件によって測定された値をポリスチレン換算して求めた値である。結合剤は、強磁性粉末100.0質量部に対して、例えば1.0~30.0質量部の量で使用することができる。
GPC装置:HLC-8120(東ソー社製)
カラム:TSK gel Multipore HXL-M(東ソー社製、7.8mmID(Inner Diameter)×30.0cm)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
【0047】
(硬化剤)
結合剤として使用可能な樹脂とともに硬化剤を使用することもできる。硬化剤は、一形態では加熱により硬化反応(架橋反応)が進行する化合物である熱硬化性化合物であることができ、他の一形態では光照射により硬化反応(架橋反応)が進行する光硬化性化合物であることができる。硬化剤は、磁性層形成工程の中で硬化反応が進行することにより、少なくとも一部は、結合剤等の他の成分と反応(架橋)した状態で磁性層に含まれ得る。この点は、他の層を形成するために用いられる組成物が硬化剤を含む場合に、この組成物を用いて形成される層についても同様である。好ましい硬化剤は、熱硬化性化合物であり、ポリイソシアネートが好適である。ポリイソシアネートの詳細については、特開2011-216149号公報の段落0124~0125を参照できる。硬化剤は、磁性層形成用組成物中に、結合剤100.0質量部に対して例えば0~80.0質量部、磁性層の強度向上の観点からは好ましくは50.0~80.0質量部の量で使用することができる。
【0048】
(添加剤)
磁性層には、必要に応じて1種以上の添加剤が含まれていてもよい。添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して使用することができる。または、公知の方法で合成された化合物を添加剤として使用することもできる。添加剤は任意の量で使用することができる。添加剤の一例としては、上記の硬化剤が挙げられる。また、磁性層に含まれる添加剤としては、非磁性粉末(例えば無機粉末、カーボンブラック等)、潤滑剤、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤等を挙げることができる。分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061および0071を参照できる。分散剤を非磁性層形成用組成物に添加してもよい。非磁性層形成用組成物に添加し得る分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061を参照できる。また、磁性層に含まれ得る非磁性粉末としては、研磨剤として機能することができる非磁性粉末、磁性層表面に適度に突出する突起を形成する突起形成剤として機能することができる非磁性粉末(例えばカーボンブラック、非磁性コロイド粒子等)等が挙げられる。例えば研磨剤については、特開2004-273070号公報の段落0030~0032を参照できる。研磨剤としては、BET(Brunauer-Emmett-Teller)法によって測定された比表面積(以下、「BET比表面積」と記載する。)が14m/g以上40m/g以下の研磨剤を使用することが好ましい。突起形成剤の平均粒子サイズは、好ましくは30~200nmの範囲であり、より好ましくは50~100nmの範囲である。
【0049】
脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド
上記磁気記録媒体は、脂肪酸、脂肪酸エステルおよび脂肪酸アミドからなる群から選ばれる成分の1種以上を非磁性支持体上の磁性層側の部分に含むことができる。上記磁性層側の部分には、脂肪酸、脂肪酸エステルおよび脂肪酸アミドから選ばれる成分が1種のみ含まれてもよく、2種または3種が含まれていてもよい。また、脂肪酸として1種のみまたは2種以上の脂肪酸が含まれてもよい。この点は、脂肪酸エステルおよび脂肪酸アミドについても同様である。本発明および本明細書において、「非磁性支持体上の磁性層側の部分」とは、非磁性支持体上に直接磁性層を有する磁気記録媒体については磁性層であり、非磁性支持体と磁性層との間に後述する非磁性層を有する磁気記録媒体については、磁性層および/または非磁性層である。「非磁性支持体上の磁性層側の部分」を、単に「磁性層側の部分」とも記載する。磁気記録媒体の磁性層側の表面上に存在していることも、磁性層側の部分に含まれることに包含される。
脂肪酸、脂肪酸エステルおよび脂肪酸アミドは、一般にメタノール可溶性成分であって先に記載のメタノール抽出処理によって抽出され得る成分であり、かつ潤滑剤として機能し得る成分である。潤滑剤は、一般に流体潤滑剤と境界潤滑剤とに大別される。そして脂肪酸エステルは流体潤滑剤として機能し得る成分と言われているのに対し、脂肪酸および脂肪酸アミドは、境界潤滑剤として機能し得る成分といわれている。そしてΔCは、主に、境界潤滑剤として機能し得る脂肪酸および脂肪酸アミドからなる群から選ばれる成分の1種以上の磁性層の極表層部における存在量の指標になり得ると本発明者は考えている。
【0050】
脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘン酸、エルカ酸、エライジン酸等を挙げることができ、ステアリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸等が好ましく、ステアリン酸がより好ましい。脂肪酸は、金属塩等の塩の形態で磁性層に含まれていてもよい。
脂肪酸エステルとしては、例示した上記各種脂肪酸のエステル等を挙げることができる。具体例としては、例えば、ミリスチン酸ブチル、パルミチン酸ブチル、ステアリン酸ブチル(ブチルステアレート)、ネオペンチルグリコールジオレエート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンジステアレート、ソルビタントリステアレート、オレイン酸オレイル、ステアリン酸イソセチル、ステアリン酸イソトリデシル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸イソオクチル、ステアリン酸アミル、ステアリン酸ブトキシエチル等を挙げることができる。
脂肪酸アミドとしては、例示した上記各種脂肪酸のアミドを挙げることができる。具体例としては、例えば、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド等を挙げることができる。
脂肪酸と脂肪酸の誘導体(アミド、エステル等)については、脂肪酸誘導体の脂肪酸由来部位は、併用される脂肪酸と同様または類似の構造を有することが好ましい。例えば、一例として、脂肪酸としてステアリン酸を用いる場合にステアリン酸アミドおよび/またはステアリン酸エステルを併用することは好ましい。
【0051】
脂肪酸、脂肪酸エステルおよび脂肪酸アミドからなる群から選ばれる成分の1種以上を磁性層側の部分に含む磁気記録媒体は、一形態では、上記成分の1種以上を含む磁性層形成用組成物を用いて磁性層を形成することによって製造することができる。また、一形態では、上記成分の1種以上を含む非磁性層形成用組成物を用いて非磁性層を形成することによって、上記成分の1種以上を磁性層側の部分に含む磁気記録媒体を製造することができる。また、一形態では、上記成分の1種以上を含む非磁性層形成用組成物を用いて非磁性層を形成し、かつ上記成分の1種以上を含む磁性層形成用組成物を用いて磁性層を形成することによって、上記成分の1種以上を磁性層側の部分に含む磁気記録媒体を製造することができる。非磁性層は、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド等の潤滑剤として機能し得る成分を保持し磁性層に供給する役割を果たすことができる。非磁性層に含まれる脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド等の潤滑剤は、磁性層に移行し磁性層に存在し得る。
【0052】
脂肪酸含有量について、磁性層形成用組成物の脂肪酸含有量は、強磁性粉末100.00質量部あたり、0.50~3.00質量部であることが好ましい。
【0053】
脂肪酸エステル含有量について、磁性層形成用組成物の脂肪酸エステル含有量は、強磁性粉末100.00質量部あたり、例えば0~10.00質量部であり、好ましくは1.00~7.00質量部である。
【0054】
磁性層形成用組成物の脂肪酸アミド含有量は、強磁性粉末100.0質量部あたり、例えば0~1.00質量部であり、好ましくは0.10~1.00質量部である。
【0055】
非磁性層形成用組成物の脂肪酸含有量は、非磁性粉末100.0質量部あたり、0.50~3.00質量部であることが好ましい。非磁性層形成用組成物の脂肪酸エステル含有量は、非磁性粉末100.0質量部あたり、例えば0~10.00質量部であり、好ましくは0~7.00質量部である。非磁性層形成用組成物の脂肪酸アミド含有量は、非磁性粉末100.0質量部あたり、例えば0~1.00質量部であり、好ましくは0.10~1.00質量部である。
【0056】
フッ素系化合物
一形態では、上記磁気記録媒体は、磁性層側の部分にフッ素系化合物を1種以上含むことができる。フッ素系化合物としては、市販の化合物または公知の方法によって合成可能な化合物の1種を使用することができ、2種以上を任意の割合で混合して使用することもできる。フッ素原子は、例えば、-CF、-CHF等、-CHF等の含フッ素置換基等の各種形態でフッ素系化合物に含まれ得る。また、フッ素系化合物としては、架橋構造を形成可能な反応性基(以下において、「架橋基」と記載する。)を有する化合物が好ましい。架橋基としては、エポキシ基、イソシアネート基等を挙げることができる。更に、後述の架橋基を挙げることもできる。例えば、こうしたフッ素系化合物の架橋基と磁性層に含まれる他の成分(例えば結合剤)との間で直接架橋構造が形成されることによって、フッ素系化合物のアンカリング効果が得られると推察される。この点は、フッ素濃度Fが5.0原子%未満であってΔCが20.0原子%以下である上記磁気記録媒体の磁性層の表面において測定される水に対する接触角を96度以上とすることに寄与し得ると、本発明者は考えている。
【0057】
フッ素濃度Fが5.0原子%未満であってΔCが20.0原子%以下である上記磁気記録媒体の磁性層の表面において測定される水に対する接触角を96度以上に制御するうえで好ましいフッ素系化合物の具体例としては、下記式[1]で表される繰り返し単位を1質量%以上99質量%以下と架橋基含有繰り返し単位を1質量%以上95質量%以下の範囲で含有する架橋基含有含フッ素ポリスチレン誘導体を挙げることができる。かかる架橋基含有含フッ素ポリスチレン誘導体は、架橋基の少なくとも一部が架橋反応して形成される架橋体の形態で上記磁気記録媒体に含まれ得る。
【0058】
【化1】
【0059】
式[1]中、Yは水素原子または炭素数が6以下のアルキル基を表し、Qは少なくとも1個のエーテル結合を含有し炭素原子の合計数が5個以下の2価の基を表し、Rfは少なくとも1個のエーテル基を含有する炭素原子の合計数が25個以下の1個の水素原子を含んでもよい1価のパーフルオロエーテル基を表す。zは1~3の範囲の整数である。Qの芳香核への結合位置は、芳香核とポリマー主鎖の結合位置に対して、オルト位、メタ位またはパラ位のいずれでもよい。式[1]中の芳香核に結合している水素原子の一部またはすべてはフッ素原子で置換されていてもよい。
【0060】
以下、式[1]について、更に詳細に説明する。
【0061】
式[1]中のYは、水素原子または炭素数が6以下のアルキル基である。炭素数が6以下のアルキル基は、直鎖アルキル基および分岐アルキル基のいずれであってもよく、具体的には、メチル基、エチル基、n(normal)-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert(tertiary)-ブチル基、イソブチル基、sec(secondary)-ブチル基、n-アミル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。Yとしては、水素原子および炭素数が4以下のアルキル基が好ましく、水素原子およびメチル基が特に好ましい。
【0062】
式[1]中のQは、少なくとも1個のエーテル結合を含有し炭素原子の合計数が5個以下の2価の基であって、例えば、下記式[2]で表される2価の基が挙げられる。
【0063】
【化2】
【0064】
式[2]中、aは0または1であり、bは0または1~3の範囲の整数である。式[2]の右側の結合の手はRfと結合する手である。
【0065】
Qとしては、例えば、-O-、-OCH-、-OCHCH-、-OCHCHCH-、-OCHCHCHCH-、-OCH(CH)CH-、-OCHCH(CH)-、-OCHCH(OH)CH-、-OCHCH(OH)CHOCH-、-CHO-、-CHOCH-、-CHOCHCH-、-CHOCHCHCH-,-CHOCHCHCHCH-、-CHOCHCH(CH)OCH-、-OCHCHOCH-、-OCHCHOCHCH-、-CHOCHCHOCH-、-CHOCHCHOCHCH-等が挙げられる(各基の右側の結合の手はRfと結合する手である)。
【0066】
上記の中で、-O-、-OCH-、-OCHCH-、-CHOCH-および-CHOCHCH-は、ポリマーが合成しやすいため好ましく、-O-、-OCH-および-CHOCH-がより好ましく、化学的安定性が特に優れているという点で-O-が特に好ましい。
【0067】
式[1]中のRfは、少なくとも1個のエーテル結合を含有しかつ1個の水素原子を含んでもよい1価のパーフルオロエーテル基であり、Rf中の炭素原子の合計数は25個以下である。Rf中の[炭素原子の合計数/エーテル結合の数]の比は、通常は2.0以上9.0以下であり、好ましくは2.2以上8.0以下であり、より好ましくは3.3以上6.0以下、特に好ましくは3.5以上5.0以下である。
【0068】
Rfの例としては、例えば、下記式[3]で表される基が挙げられる。
【0069】
【化3】
【0070】
式[3]中、Rfは炭素数が7以下のパーフルオロアルキル基であり、Rfは炭素数4以下の直鎖または分岐構造のパーフルオロアルキレン基から選ばれる1種または複数種のパーフルオロアルキレン基であり、Rfは炭素数3以下のパーフルオロアルキレン基、または炭素数3以下のパーフルオロアルキレン基の1個のフッ素原子が水素原子で置換された構造のポリフルオロアルキレン基であり、Lは0または1~10の範囲の整数である。
【0071】
Rfとしては、炭素数が7以下の直鎖または分岐構造のパーフルオロアルキル基が挙げられ、好ましくは炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基であり、より好ましくは炭素数が3以下のパーフルオロアルキル基である。
【0072】
Rfの具体例としては、CF-、CFCF-、CFCFCF-、(CFCF-、CFCFCFCF-、CFCFCFCFCF-、CFCFCFCFCFCF-およびCFCFCFCFCFCFCF-が挙げられる。これらのうちCFCFCF-、CFCFCFCF-およびCFCFCFCFCFCF-が好ましく、合成が容易である点等から特にCFCFCF-が好ましい。
【0073】
Rfは、炭素数が4以下の直鎖または分岐構造のパーフルオロアルキレン基から選ばれる1種または複数種のパーフルオロアルキレン基である。Rf中の炭素数は通常は1~4の範囲であり、好ましくは1~3の範囲であり、特に好ましくは3である。
【0074】
Rfの具体例としては、-CF(CF)CF-、-CF(CF)-、-CF-、-CFCF-、-CFCFCF-、-CFCFCFCF-および-CFCF(CF)CF-が挙げられる。これらのうち-CF(CF)CF-、-CF-、-CFCF-および-CFCFCF-が好ましく、合成が容易である点等から特に-CF(CF)CF-および-CFCFCF-が好ましい。Rfの具体例の各基の右側の結合の手は、式[3]中の(RfO)単位において酸素原子と結合する手である。
【0075】
式[3]中のLは、0または1~10の範囲の整数であり、好ましくは0または1~6の範囲の整数であり、より好ましくは0または1~3の範囲の整数であり、更に好ましくは0または1~2の範囲の整数であり、特に好ましくは0または1である。
【0076】
式[3]中の(RfO)セグメントにおいて、Rfが複数種のパーフルオロアルキレン基から構成される場合には、-CF(CF)CFO-CFCFCFO-CF(CF)CFO-・・・のように、相違する種類のRfがランダムに混在して並んでいてもよいし、同じ種類のRfが複数個ずつ並んでいてもよい。
【0077】
Rfが複数種のパーフルオロアルキレン基からなる場合の(RfO)の具体例としては、例えば下記式[4]で表される基が挙げられる。
【0078】
-[CF(CF)CFO]n1-[CFCFCFO]n2-[CFCFO]n3-[CFO]n4 [4]
【0079】
式[4]中、n1、n2、n3およびn4は、それぞれ独立に0または1~6の範囲の整数である。n1、n2、n3およびn4の和(n1+n2+n3+n4)は、式[3]中のLと同じである。
【0080】
Rfは、炭素数3以下のパーフルオロアルキレン基、または炭素数3以下のパーフルオロアルキレン基の1個のフッ素原子が水素原子で置換された構造のポリフルオロアルキレン基である。
【0081】
Rfの具体例としては、-CF-、-CFCF-、-CF(CF)-、-CFCFCF-、-CF(CF)CF-、-CFCF(CF)-、-CHFCF-、-CFCHFCF-等が挙げられる。これらのうち、-CFCF-、-CF(CF)-および-CHFCF-が好ましく、合成が容易である点等から、特に-CHFCF-が好ましい。Rfの具体例の各基の右側の結合の手はQと結合する手である。
【0082】
Rfの具体例としては、例えば、下記式[R-1]で表される基、下記式[R-2]で表される基、下記式[R-3]で表される基および下記式[R-4]で表される基が挙げられる。
【0083】
【化4】
【0084】
【化5】
【0085】
【化6】
【0086】
【化7】
【0087】
式[R-1]で表される基の具体例としては、CFCFCFOCHFCF-、CFCFCFOCF(CF)CFOCHFCF-、CFCFCFOCF(CF)CFOCF(CF)CFOCHFCF-およびCFCFCFOCF(CF)CFOCF(CF)CFOCF(CF)CFOCHFCF-が挙げられる。
【0088】
また、式[R-2]、式[R-3]または式[R-4]で表される基の具体例としては、上記の式[R-1]で表される基の具体例として挙げられた各構造の末端CHFCF基が、それぞれCF(CF)基、CFCF基またはCFCHFCFに置き替わった構造の基が挙げられる。
【0089】
また、Rfは、式[R-1]、式[R-2]、式[R-3]または式[R-4]のそれぞれの基における末端基CFCFCF基を炭素数が1~7、好ましくは1~6の直鎖または分岐のパーフルオロアルキル基に置き換えた構造であってもよい。かかるパーフルオロアルキル基の例としては、CF-、CFCF-、(CFCF-、CFCFCFCF-、CFCFCFCFCF-およびCFCFCFCFCFCF-が挙げられる。
【0090】
式[1]中のzは1~3の範囲の整数であり、合成が容易である点からはzが1の場合がより好ましい。
【0091】
式[1]におけるQの芳香核への結合位置は、芳香核とポリマー主鎖の結合位置に対してオルト位、メタ位またはパラ位のいずれでもよく、合成が容易である点および原料が入手しやすい点からはパラ位が好ましい。
【0092】
式[1]中の芳香核に結合している水素原子の一部またはすべてはフッ素原子で置換されていてもよい。合成が容易である点からは、フッ素原子で置換されていないものがより好ましい。
【0093】
式[1]で表される繰り返し単位としては、下記式[1-1]で表される繰り返し単位が好ましく、下記式[1-2]で表される繰り返し単位がより好ましい。
【0094】
【化8】
【0095】
式[1-1]中、Yは水素原子またはメチル基を表し、Qは炭素数が3以下であるエーテル結合を含有する2価の基を表す。Rf01は、Rfa-O-[CF(CF)CFO]m1-[CFCFCFO]m2-[CFCFO]m3-[CFO]m4-Rfc-であって、Rfaは炭素数1~6のパーフルオロアルキル基、m1、m2、m3およびm4はそれぞれ独立に0または1~6の範囲の整数であり、m1、m2、m3およびm4の和(m1+m2+m3+m4)は0または1~6の範囲の整数であり、Rfcは炭素数が3以下の1個の水素原子を含んでもよいパーフルオロアルキレン基を表す。
【0096】
以下、式[1-1]について、更に詳細に説明する。
【0097】
は炭素数が3以下であるエーテル結合を含有する2価の基であり、その具体例としては、例えば、-O-、-OCH-、-CHO-、-OCHCH-、-CHOCH-、-CHOCHCH-等が挙げられる。Qとしては、-O-、-CHOCH-または-OCH-がより好ましく、-O-が特に好ましい。Qの具体例の各基の右側の結合の手は、式[1-1]中のRf01と結合する手である。
【0098】
m1、m2、m3およびm4の和(m1+m2+m3+m4)は、0または1~6の範囲の整数であり、0~3が好ましく、0~2がより好ましく、0または1が特に好ましい。Rfcは炭素数が3以下の1個の水素原子を含んでもよいパーフルオロアルキレン基であり、その具体例としては、例えば、-CFCF-、-CF(CF)-、-CF-、-CFCHFCF-および-CHFCF-が挙げられる。Rfcとしては、-CF(CF)-および-CHFCF-がより好ましく、-CHFCF-が特に好ましい。Rfcの具体例の各基の右側の結合の手は、式[1-1]中のQと結合する手である。
【0099】
式[1-1]におけるQの芳香核への結合位置は、芳香核とポリマー主鎖の結合位置に対してオルト位、メタ位またはパラ位のいずれでもよく、合成が容易である点および原料が入手しやすい点からはパラ位が好ましい。
【0100】
【化9】
【0101】
式[1-2]中、Yは水素原子またはメチル基を表し、Lは0または1~6の範囲の整数であり、Rfaは炭素数1~6のパーフルオロアルキル基を表す。
【0102】
は0または1~6の範囲の整数であり、0~4が好ましく、0~2がより好ましく、0または1が特に好ましい。また、Rfaは、炭素数1~6のパーフルオロアルキル基であり、好ましくは炭素数2~4のパーフルオロアルキル基であり、特に好ましくはCFCFCF-である。
【0103】
式[1]、式[1-1]または式[1-2]で表される繰り返し単位を含む含フッ素ポリスチレン誘導体は、p-ヒドロキシスチレン型の繰り返し単位を含有するポリマー、p-クロロメチルスチレン由来の繰り返し単位を含有するポリマー等の反応性基含有ポリスチレン誘導体と活性末端基を含有するパーフルオロ(ポリ)エーテル化合物またはポリフルオロ(ポリ)エーテル化合物との反応により製造することができる。例えば、p-ヒドロキシスチレン型の繰り返し単位を含有するポリマーとCF=CF-[OCFCF(CF)]L1-ORfa型モノマー(LおよびRfaは式[1-2]におけるものと同じ)の付加反応により式[1-2]の繰り返し単位を含むポリスチレン誘導体を製造することができる。また、CH=CY-Ph-[Q-Rf構造を有するモノマー(Y、Q、Rfおよびzは式[1]におけるものと同じ、Phはフェニレン基の略称)の共重合によっても、式[1]で表される繰り返し単位を含む含フッ素ポリスチレン誘導体を製造することができる。
【0104】
上記架橋基含有含フッ素ポリスチレン誘導体中の式[1](好ましくは式[1-1]、より好ましくは式[1-2])で表される繰り返し単位の含有率は、1質量%以上99質量%以下である。上記架橋基含有含フッ素ポリスチレン誘導体の式[1]で表される繰り返し単位の含有率の下限は、1質量%以上であり、5質量%以上、10質量%以上、30質量%以上または50質量%以上であってもよい。また、上記繰り返し単位の含有率の上限は、99質量%以下であり、90質量%以下、80質量%以下または70質量%以下であってもよい。
【0105】
上記架橋基含有含フッ素ポリスチレン誘導体は、式[1]で表される繰り返し単位の他に、架橋基を含有する繰り返し単位を1質量%以上95質量%以下の範囲で含有する。上記架橋基含有含フッ素ポリスチレン誘導体中の架橋基含有繰り返し単位としては、例えば、活性水素含有基、炭素-炭素多重結合含有基、エポキシ基、イソシアネート基およびアルコキシシラン基の中から選ばれる架橋基の少なくとも1種類を含有する繰り返し単位が好ましい。活性水素含有基の例としては、例えばヒドロキシ基(フェノール性ヒドロキシ基、アルコール性ヒドロキシ基)、アミノ基、チオール基、カルボキシル基等が挙げられる。炭素-炭素多重結合含有基の例としては、例えば、アクリレート基、メタクリレート基、スチレニル基、アリル基、ビニルオキシ基、トリフルオロビニルオキシ基(CF=CFO-基)、マレイミド基等の炭素-炭素二重結合含有基、または、プロパルギル基、エチニル基等の炭素-炭素三重結合含有基等が挙げられる。エポキシ基としては、例えば様々な基に連結したグリシジル基が挙げられる。イソシアネート基としては、脂肪族イソシアネート基または芳香族イソシアネート基が挙げられる。アルコキシシラン基としては、トリアルコキシシラン基、ジアルコキシモノアルキルシラン基、モノアルコキシジアルキルシラン基等が挙げられる。
【0106】
上記架橋基を含有する繰り返し単位中の架橋基は、様々な方式で架橋反応をすることができる。その例としては、例えば以下のような架橋反応を挙げることができる。
【0107】
(i)活性水素型架橋基と多官能性物質との反応で架橋するタイプ(例:活性水素(アルコール、フェノール、アミン、チオール、カルボン酸等)型架橋基と多官能性化合物(多価イソシアネート、多価エポキシ等)との反応による架橋)
【0108】
(ii)高活性架橋基と多官能性物質との反応で架橋するタイプ(例:イソシアネート型架橋基またはエポキシ基型架橋基と多価活性水素化合物(多価アルコール、多価フェノール、多価アミン、多価チオール、多価カルボン酸型化合物)との反応による架橋)
【0109】
(iii)単一種類の架橋基が重合して架橋するタイプ(例:(メタ)アクリレート型架橋基、スチレニル型架橋基、エポキシ型架橋基、オキセタン型架橋基、エピスルフイド型架橋基等。重合方式の例:ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、熱重合、紫外線照射。)
【0110】
上記(メタ)アクリレートには、アクリレートおよびメタクリレートが包含される。
【0111】
(iV)単一種類の架橋基がいくつか連結して架橋するタイプ(例:エチニルまたはプロパルギル型架橋基、アルコキシシラン型架橋基、トリフルオロビニルオキシ型架橋基等)
【0112】
上記架橋基含有含フッ素ポリスチレン誘導体中の架橋基を含有する繰り返し単位の具体例を以下に例示する。ただし、上記架橋基含有含フッ素ポリスチレン誘導体中の架橋基を含有する繰り返し単位は、これらに限定されるものではない。
【0113】
【化10】
【0114】
【化11】
【0115】
【化12】
【0116】
【化13】
【0117】
【化14】
【0118】
【化15】
【0119】
上記架橋基含有含フッ素ポリスチレン誘導体中の架橋基含有繰り返し単位は、様々な方法で導入することができる。
【0120】
例えば、p(パラ)-ヒドロキシスチレン単位を繰り返し単位として含有するポリマーは、p-アセトキシスチレン由来の繰り返し単位を含有するポリマーの加水分解反応等により製造できる。p-ヒドロキシスチレン単位部は、フェノール性の活性水素型架橋基として使用できる。更に、上記p-ヒドロキシスチレン単位は、その高い反応性を利用して様々な架橋基含有繰り返し単位へ容易に変換できる。その例としては、例えば、p-ヒドロキシスチレン単位の-OH基を下記のような様々な種類の架橋基へ変換する例が挙げられる。また、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート等の繰り返し単位を含有する共重合体の脂肪族アルコール基も同様に下記のような様々な種類の架橋基へ変換することができる。
【0121】
【化16】
【0122】
上記架橋基含有含フッ素ポリスチレン誘導体中の架橋基含有繰り返し単位は、各種の架橋基を含有するビニル重合性モノマーと式[1](好ましくは式[1-1]、より好ましくは式[1-2])で表される繰り返し単位を形成するポリスチレン誘導体モノマーとの共重合により導入することもできる。そのような導入が可能な架橋基を含有するビニル重合性(ラジカル重合性、カチオン重合性またはアニオン重合性)モノマーの例を以下に示す。ただし、各種の架橋基を含有するビニル重合性モノマーは、これらに限定されるものではない。また、更にビニル重合性のモノマー中の活性水素基、イソシアネート基等のような活性基を保護基で安定化しておいて共重合した後、保護基を外して活性化する方法も採用可能である。
【0123】
【化17】
【0124】
【化18】
【0125】
【化19】
【0126】
【化20】
【0127】
【化21】
【0128】
上記架橋基含有含フッ素ポリスチレン誘導体中の架橋基含有繰り返し単位の含有率は1質量%以上95質量%以下である。上記架橋基含有含フッ素ポリスチレン誘導体中の架橋基含有繰り返し単位の含有率は、好ましくは、1質量%以上80質量%以下、1質量%以上60質量%以下または1質量%以上50質量%以下の範囲から選ばれる。上記架橋基含有含フッ素ポリスチレン誘導体中の架橋基含有繰り返し単位は1種類であってもよいし、複数種類であってもよい。
【0129】
上記架橋基含有含フッ素ポリスチレン誘導体には、式[1]、式[1-1]または式[1-2]で表される繰り返し単位と架橋基含有繰り返し単位以外に、上記架橋基含有含フッ素ポリスチレン誘導体の架橋基の少なくとも一部が架橋して形成される架橋体の特性を調整するために様々な構造の繰り返し単位を1種類または複数種類含んでいてもよい。
【0130】
例えば、上記架橋基含有含フッ素ポリスチレン誘導体には、式[1]、式[1-1]または式[1-2]で表される繰り返し単位と架橋基含有繰り返し単位以外の繰り返し単位として、ラジカル重合性、カチオン重合性、またはアニオン重合性の各種のモノマー単位を1種類または複数種類が含まれてもよい。重合性モノマーの具体例としては、例えば、αメチルスチレン、p-メチルスチレン、p-アルコキシスチレン、p-アセトキシスチレン、p-ヒドロキシスチレン(脱保護基反応を利用して合成される)等の各種置換スチレン、無置換スチレン、ビニルナフタレン、アセナフチレン、無水マレイン酸またはその誘導体、マレイミド誘導体、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミドとその誘導体、各種(メタ)アクリル酸エステル、含フッ素(メタ)アクリル酸エステル、各種含フッ素オレフィン、各種カルボン酸ビニルまたは各種ビニルエーテル等の様々な重合性モノマーが挙げられる。
【0131】
上記架橋基含有含フッ素ポリスチレン誘導体において、式[1]、式[1-1]または式[1-2]で表される繰り返し単位と架橋基含有繰り返し単位以外の繰り返し単位の含有率は、架橋基含有含フッ素ポリスチレン誘導体の総質量に対して、0質量%以上90質量%以下、0質量%以上60質量%以下または0質量%以上40質量%以下の範囲であることができる。
【0132】
上記式[1]で表される繰り返し単位と架橋基含有繰り返し単位以外の繰り返し単位を含む架橋基含有ポリスチレン誘導体の製造方法としては、例えば、以下の方法を例示できる。ただし、これらに限定されるものではない。
(1)p-ヒドロキシスチレン単位、架橋基含有繰り返し単位と各種モノマー単位からなる共重合体中のフェノール性ヒドロキシ基へのCF=CF-[OCFCF(CF)]L1-ORfaのような活性末端基含有パーフルオロ(ポリ)エーテル化合物(L,Rfaは式[1-2]におけるものと同じ)の付加反応による製造方法。
(2)CH=CY-Ph-[Q-Rf構造を有するモノマー(Y,Q,Rfおよびzは式[1]におけるものと同じ、Phはフェニレン基の略称)、架橋基含有モノマーと各種モノマーとの共重合を利用する製造方法。
【0133】
上記架橋基含有含フッ素ポリスチレン誘導体としては、様々な製造方法で製造される様々な構造およびシークエンスの重合体が使用可能である。例えば、上記架橋基含有含フッ素ポリスチレン誘導体は、ラジカル共重合、カチオン共重合またはアニオン共重合等の様々な共重合方式で製造することができる。更には、そのような共重合で製造された共重合体に含まれる反応活性基を他の種類の反応活性基に変換して所望の架橋反応性を有するポリマーを製造することもできる。また、上記架橋基含有含フッ素ポリスチレン誘導体としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体または星型ポリマー等の様々な構造のポリマーが使用可能である。
【0134】
上記磁気記録媒体の製造のために、フッ素系化合物の1種または2種以上を使用することができる。一形態では、磁性層形成用組成物の成分としてフッ素系化合物を添加することによって(いわゆる磁性層内添)、磁性層側の部分にフッ素系化合物を含む磁気記録媒体を製造することができる。内添とは、内部添加の略称である。また、一形態では、フッ素系化合物を含む塗布液を調製し、この塗布液を磁性層の表面に塗布(いわゆるオーバーコート)することによって、フッ素系化合物を磁性層側の部分に存在させることができる。フッ素濃度Fの値を小さくする観点からは、磁性層内添によって磁気記録媒体を製造することが好ましい。磁性層形成用組成物へのフッ素系化合物の添加量は、例えば、強磁性粉末100.00質量部に対して、0.30質量部以上3.00質量部以下、0.30質量部以上2.00質量部以下または0.50質量部以上1.50質量部以下であることができる。ただし、上記範囲は例示であって、フッ素系化合物の種類等に応じて添加量を調整することができる。
【0135】
磁性層内添によってフッ素系化合物を磁性層に含有させた磁気記録媒体では、以下の方法によって求められる「B」が、60%以上95%以下になり得る。
【0136】
本発明および本明細書における「B」は、TOF-SIMS(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)のラインプロファイル分析によって磁性層の断面の厚み方向の全域について求められるフッ素系化合物由来のフラグメントの積算強度Ftotalと、上記断面の厚み方向の磁性層の表面から中間厚みまでの領域について求められるフッ素系化合物由来のフラグメントの積算強度Fupperと、から下記式1により算出される。
TOF-SIMSのラインプロファイル分析を行うための前処理として、磁気記録媒体の磁性層の断面を含む斜め切削面を形成する。斜め切削面は、磁気記録媒体の磁性層の表面から磁性層に隣接する部分(磁気記録媒体が非磁性層を有する場合には非磁性層、非磁性支持体上に直接磁性層が設けられている場合は非磁性支持体)の少なくとも一部まで切削装置の切刃を切り込ませて斜め切削することによって形成される。こうして形成される斜め切削面には、磁性層の断面と磁性層と隣接する部分の少なくとも一部の断面とが含まれる。斜め切削は、ラインプロファイル分析において磁性層と隣接する部分について長さ100μm以上の領域の分析が可能なように磁性層と隣接する部分が露出されるように行う。磁気記録媒体の磁性層の表面に対する切刃の侵入角度は、例えば0.010~0.200度の範囲とすることができる。後述の実施例については、磁気記録媒体の磁性層の表面に対する切刃の侵入角度を0.115度として斜め切削を行った。切削装置としては、例えば、SAICAS(登録商標)と呼ばれる斜め切削装置を使用することができる。SAICASは、Surface And Interfacial Cutting Analysis Systemの略称であり、SAICAS装置としては、例えばダイプラ・ウィンテス社製SAICAS装置を挙げることができ、後述の実施例については、この装置を使用した。
TOF-SIMSのラインプロファイル分析は、磁性層の表面(未切削部分)の100μm長の領域から上記斜め切削面にわたる連続する領域について行われる。TOF-SIMS装置としては、例えば、ION-TOF社またはアルバックファイ社のTOF-SIMS装置を使用することができる。測定条件について、イオンビーム径は5μmとする。TOF-SIMSの測定モードには、高質量分解能モードと高空間分解能モードとがある。ここでは、測定モードは、一次イオンビームをバンチング(Bunching)して高質量分解能での測定を行う測定モードである高質量分解能モード(バンチングモードとも呼ばれる。)を採用する。ラインプロファイル分析は、測定点の間隔を2μmとして行う。
TOF-SIMSのラインプロファイル分析の分析結果として得られる各種フラグメントの中から、「B」を求めるためのフッ素系フラグメントは、以下のように決定するものとする。磁性層の表面(未切削部分)の100μm長の領域におけるTOF-SIMSのラインプロファイル分析において、フッ素系フラグメントが1つのみ検出された場合には、この検出されたフッ素系フラグメントを、「B」を求めるためのフッ素系フラグメントとして採用する。一方、磁性層の表面(未切削部分)の100μm長の領域におけるTOF-SIMSのラインプロファイル分析において、複数のフッ素系フラグメントが検出された場合には、「B」を求めるためのフッ素系フラグメントとしては、最も高感度に検出されたフッ素系フラグメントを採用する。例えば、後述の実施例については、「B」を求めるためのフッ素系フラグメントとして、COF フラグメントを採用した。また、ラインプロファイル分析が行われた領域から磁性層の断面の領域を特定するためには、磁性層と隣接する部分に含まれる成分の中から1種の成分を選択し、この成分を最も高感度に検出可能なフラグメントを選択する。かかるフラグメントの選択は、公知技術または予備実験の結果に基づき行うことができる。例えば、後述の実施例については、上記成分として、非磁性層の成分であるフェニルホスホン酸を選択し、この成分を最も高感度に検出可能なフラグメントとしてPO フラグメントを選択した。
上記の磁性層の表面(未切削部分)の100μm長の領域について、上記で選択したフッ素系フラグメントのフラグメント強度の算術平均を算出する。以下において、この算術平均を[MF]と呼ぶ。また、磁性層と隣接する部分について、斜め切削面に露出している長さ100μmの領域について、上記で選択したフラグメントのフラグメント強度の算術平均を算出する。以下において、この算術平均を[MN]と呼ぶ。ラインプロファイル分析の結果から、[MF]に対して上記で選択したフッ素系フラグメントのフラグメント強度が1/2倍になる位置を、斜め切削を開始した位置(以下、[M地点]と呼ぶ。)として特定する。また、[MN]に対して上記で選択したフラグメントのフラグメント強度が1/2倍になる位置を、磁性層と磁性層と隣接する部分との界面の位置(以下、[K地点]と呼ぶ。)として特定する。こうして特定された[M地点]と[K地点]との間の領域を磁性層として特定し、[M地点]と[K地点]との中間を、中間厚みの位置(以下、[H地点]と呼ぶ。)として特定する。H地点は、磁性層の厚みをTとすると、磁性層の表面から深さが「T/2」の位置ということができる。
ラインプロファイル分析の結果において、M地点からK地点までの全域(即ち磁性層の断面の厚み方向の全域)について求められる上記で選択したフッ素系フラグメントの積算強度を「Ftotal」とする。また、ラインプロファイル分析の結果において、M地点からH地点までの全域(即ち磁性層の断面の厚み方向の磁性層表面から中間厚みまでの領域)について求められる上記で選択したフッ素系フラグメントの積算強度を「Fupper」とする。こうして求められたFtotalおよびFupperから、下記式1によってBが算出される。測定対象の磁気記録媒体の無作為に選択した3箇所において上記の斜め切削面の形成およびTOF-SIMSのラインプロファイル分析を行って得られたBの値の算術平均を、測定対象の磁気記録媒体のBの値とする。
(式1)
B=(Fupper/Ftotal)×100
【0137】
以上説明した磁性層は、非磁性支持体表面上に直接、または非磁性層を介して間接的に、設けることができる。
【0138】
<非磁性層>
上記磁気記録媒体は、非磁性支持体表面上に直接磁性層を有していてもよく、非磁性支持体と磁性層との間に非磁性粉末を含む非磁性層を有していてもよい。非磁性層に含まれる非磁性粉末は、無機粉末でも有機粉末でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機粉末としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の粉末が挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2010-24113号公報の段落0036~0039を参照できる。非磁性層における非磁性粉末の含有率(充填率)は、非磁性層の全質量に対して、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。
【0139】
非磁性層は、非磁性粉末を含み、非磁性粉末とともに結合剤を含むこともできる。非磁性層の結合剤、添加剤等のその他詳細は、非磁性層に関する公知技術が適用できる。また、例えば、結合剤の種類および含有量、添加剤の種類および含有量等に関しては、磁性層に関する公知技術も適用できる。
【0140】
上記磁気記録媒体の非磁性層には、非磁性粉末とともに、例えば不純物として、または意図的に、少量の強磁性粉末を含む実質的に非磁性な層も包含されるものとする。ここで実質的に非磁性な層とは、この層の残留磁束密度が10mT以下であるか、保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であるか、または、残留磁束密度が10mT以下であり、かつ保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下である層をいうものとする。非磁性層は、残留磁束密度および保磁力を持たないことが好ましい。
【0141】
<バックコート層>
上記磁気記録媒体は、非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を有することもできる。または、上記磁気記録媒体は、バックコート層を有さない磁気記録媒体であってもよい。バックコート層は、カーボンブラックおよび無機粉末の一方または両方を含有することができる。
【0142】
バックコート層は、非磁性粉末を含み、結合剤を含むことができ、1種以上の添加剤を含むこともできる。バックコート層の結合剤および添加剤については、バックコート層に関する公知技術を適用することができ、磁性層および/または非磁性層の処方に関する公知技術を適用することもできる。例えば、特開2006-331625号公報の段落0018~0020および米国特許第7,029,774号明細書の第4欄65行目~第5欄38行目の記載を、バックコート層について参照できる。
【0143】
<非磁性支持体>
次に、非磁性支持体について説明する。非磁性支持体(以下、単に「支持体」とも記載する。)としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、芳香族ポリアミド等のポリアミド、ポリアミドイミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびポリアミドが好ましい。これらの支持体には、あらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、加熱処理等を行ってもよい。
【0144】
一形態では、上記磁気記録媒体に含まれる支持体は、ポリアミド支持体であることができる。本発明および本明細書において、「ポリアミド」とは、複数のアミド結合を含む樹脂を意味する。ポリアミドは、芳香族ポリアミドであることができる。「芳香族ポリアミド」とは、芳香族骨格および複数のアミド結合を含む樹脂を意味する。芳香族ポリアミドが有する芳香族骨格に含まれる芳香環は特に限定されるものではない。芳香環の具体例としては、例えば、ベンゼン環等を挙げることができる。「ポリアミド支持体」とは、少なくとも1層のポリアミドフィルムを含む支持体を意味する。「ポリアミドフィルム」とは、このフィルムを構成する成分の中で質量基準で最も多くを占める成分がポリアミドであるフィルムをいうものとする。本発明および本明細書における「ポリアミド支持体」には、この支持体に含まれる樹脂フィルムがすべてポリアミドフィルムであるものと、ポリアミドフィルムと他の樹脂フィルムとを含むものとが包含される。ポリアミド支持体の具体的形態としては、単層のポリアミドフィルム、構成成分が同じ2層以上のポリアミドフィルムの積層フィルム、構成成分が異なる2層以上のポリアミドフィルムの積層フィルム、1層以上のポリアミドフィルムおよび1層以上のポリアミドフィルム以外の樹脂フィルムを含む積層フィルム等を挙げることができる。積層フィルムにおいて隣り合う2層の間に接着層等が任意に含まれていてもよい。また、ポリアミド支持体には、一方または両方の表面に蒸着等によって形成された金属膜および/または金属酸化物膜が任意に含まれていてもよい。本発明および本明細書における「芳香族ポリアミド支持体」については、ポリアミド支持体に関する先の記載において、ポリアミドを芳香族ポリアミドに、ポリアミドフィルムを芳香族ポリアミドフィルムに読み替えるものとする。
【0145】
<各種厚み>
磁気記録媒体の総厚は、5.6μm以下であることが好ましく、5.5μm以下であることがより好ましく、5.4μm以下であることが更に好ましく、5.3μm以下であることが一層好ましく、5.2μm以下であることがより一層好ましく、5.0μm以下であることが更に一層好ましく、4.8μm以下であることがなお一層好ましい。近年の情報量の莫大な増大に伴い、磁気記録媒体には記録容量を高めること(高容量化)が求められている。例えばテープ状の磁気記録媒体(即ち磁気テープ)について、高容量化のための手段としては、磁気テープの厚みを薄くし、磁気テープカートリッジ1巻あたりに収容される磁気テープ長を増すことが挙げられる。
また、ハンドリングの容易性の観点からは、磁気記録媒体の総厚は3.0μm以上であることが好ましく、3.5μm以上であることがより好ましく、4.0μm以上であることが更に好ましい。
【0146】
例えば、磁気テープの総厚は、以下の方法によって測定することができる。
磁気テープの任意の部分からサンプル(例えば長さ5~10cm)を10枚切り出し、これらサンプルを重ねて厚みを測定する。測定された厚みを10分の1して得られた値(サンプル1枚当たりの厚み)を、総厚とする。上記厚み測定は、0.1μmオーダーでの厚み測定が可能な公知の測定器を用いて行うことができる。
【0147】
非磁性支持体の厚みは、好ましくは3.0~5.0μmである。
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量、ヘッドギャップ長、記録信号の帯域等に応じて最適化することができ、一般には0.01μm~0.15μmであり、高密度記録化の観点から、好ましくは0.02μm~0.12μmであり、更に好ましくは0.03μm~0.1μmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する二層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。二層以上に分離する場合の磁性層の厚みとは、これらの層の合計厚みとする。
非磁性層の厚みは、例えば0.1~1.5μmであり、0.1~1.0μmであることが好ましく、0.1~0.7μmであることが更に好ましい。
バックコート層の厚みは、0.9μm以下であることが好ましく、0.1~0.7μmであることが更に好ましい。
磁性層の厚み等の各種厚みは、以下の方法により求めることができる。
磁気記録媒体の厚み方向の断面を、イオンビームにより露出させた後、露出した断面において走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡によって断面観察を行う。断面観察において任意の2箇所において求められた厚みの算術平均として、各種厚みを求めることができる。または、各種厚みは、製造条件等から算出される設計厚みとして求めることもできる。
【0148】
<製造工程>
磁性層、非磁性層およびバックコート層を形成するための組成物は、先に説明した各種成分とともに、通常、溶剤を含む。溶剤としては、塗布型磁気記録媒体を製造するために一般に使用される各種有機溶剤の1種または2種以上を用いることができる。具体的には、任意の比率でアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、テトラヒドロフラン等のケトン系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、メチルシクロヘキサノール等のアルコール系溶剤、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、乳酸エチル、酢酸グリコール等のエステル系溶剤、グリコールジメチルエーテル、グリコールモノエチルエーテル、ジオキサン等のグリコールエーテル系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン、クレゾール、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、エチレンクロロヒドリン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素系溶剤、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサン等を使用することができる。中でも、塗布型磁気記録媒体に通常使用される結合剤の溶解性の観点からは磁性層形成用組成物には、ケトン系溶剤の1種以上が含まれることが好ましい。各層形成用組成物における溶剤量は特に限定されるものではなく、通常の塗布型磁気記録媒体の各層形成用組成物と同様にすることができる。
【0149】
各層形成用組成物を調製する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程を含むことができる。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。各層形成用組成物の調製に用いられる各種成分は、どの工程の最初または途中で添加してもよい。また、個々の成分を2つ以上の工程で分割して添加してもよい。
【0150】
各層形成用組成物を調製するためには、公知技術を用いることができる。混練工程では、オープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダ等の強い混練力をもつニーダを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については、特開平1-106338号公報および特開平1-79274号公報に記載されている。また、各層形成用組成物を分散させるためには、分散メディアとして、ガラスビーズおよびその他の分散ビーズからなる群から選ばれる1種以上の分散ビーズを用いることができる。このような分散ビーズとしては、高比重の分散ビーズであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、およびスチールビーズが好適である。これら分散ビーズの粒径(ビーズ径)および充填率は最適化して用いることができる。分散機は公知のものを使用することができる。各層形成用組成物は、塗布工程に付す前に公知の方法によってろ過してもよい。ろ過は、例えばフィルタろ過によって行うことができる。ろ過に用いるフィルタとしては、例えば孔径0.01~3μmのフィルタ(例えばガラス繊維製フィルタ、ポリプロピレン製フィルタ等)を用いることができる。
【0151】
磁性層は、磁性層形成用組成物を、例えば、非磁性支持体上に直接塗布するか、または非磁性層形成用組成物と逐次もしくは同時に重層塗布することにより形成することができる。バックコート層は、バックコート層形成用組成物を、非磁性支持体の磁性層を有する(または磁性層が追って設けられる)側とは反対側に塗布することにより形成することができる。各層形成のための塗布の詳細については、特開2010-24113号公報の段落0051を参照できる。
【0152】
塗布工程後には、乾燥処理、磁性層の配向処理、表面平滑化処理(カレンダ処理)等の各種処理を行うことができる。各種工程については、例えば特開2010-24113号公報の段落0052~0057等の公知技術を参照できる。
【0153】
例えば、磁性層形成用組成物の塗布層には、この塗布層が未乾燥状態にあるうちに配向処理を施すことができる。配向処理については、特開2010-231843号公報の段落0067の記載をはじめとする各種公知技術を適用することができる。例えば、垂直配向処理は、異極対向磁石を用いる方法等の公知の方法によって行うことができる。配向ゾーンでは、乾燥風の温度、風量および/または配向ゾーンにおける上記塗布層を形成した非磁性支持体の搬送速度によって塗布層の乾燥速度を制御することができる。また、配向ゾーンに搬送する前に塗布層を予備乾燥させてもよい。配向条件を強化すると、磁気記録媒体の角型比の値は大きくなる傾向がある。磁気記録媒体の角型比は、配向処理の有無、配向処理の配向条件等によって制御することができる。配向条件としては、配向処理に用いる磁石の強度、磁場印加時間等が挙げられる。
【0154】
また、カレンダ処理については、カレンダ条件を強化すると、磁気記録媒体の磁性層の表面は、より平滑になる傾向がある。カレンダ条件としては、カレンダ圧力、カレンダ温度(カレンダロールの表面温度)、カレンダ速度、カレンダロールの硬度等が挙げられ、カレンダ圧力、カレンダ温度およびカレンダロールの硬度は、これらの値を大きくするほどカレンダ処理は強化され、カレンダ速度は遅くするほどカレンダ処理は強化される。例えば、カレンダ圧力(線圧)は200~500kN/mであることができ、250~350kN/mであることが好ましい。カレンダ温度(カレンダロールの表面温度)は、例えば85~120℃であることができ、90~110℃であることが好ましく、95~110℃であることがより好ましい。カレンダ速度は、例えば50~300m/分であることができ、50~200m/分であることが好ましい。
【0155】
<垂直方向角型比>
一形態では、上記磁気記録媒体の垂直方向角型比は、0.60以上であることができ、0.63以上であることが好ましく、0.65以上であることがより好ましい。垂直方向角型比の最大値は、原理上1.00である。したがって、上記磁気記録媒体の垂直方向角型比は、1.00以下であり、0.95以下、0.90以下、0.85以下、0.80以下、0.75以下または0.70以下であることができる。垂直方向角型比の値が大きいことは、電磁変換特性向上の観点から好ましい。
【0156】
本発明および本明細書において、磁気記録媒体の垂直方向角型比は、磁気記録媒体の垂直方向において測定される角型比である。垂直方向とは、磁気記録媒体の表面と直交する方向であり、厚み方向ということもできる。垂直方向角型比は、垂直方向M-H曲線から求められる。
垂直方向角型比は、振動試料型磁力計において磁気記録媒体に外部磁場を磁場強度-1197kA/m~1197kA/mの範囲で掃引して行われる測定により求められる。磁場強度に関して、単位Oe(エルステッド)のSI単位A/mへの換算係数は10/4πである。-1197kA/m~1197kA/mの範囲は-15kOe~15kOeの範囲と同義である。本発明および本明細書において、振動試料型磁力計を用いて行われる測定は、24℃±1℃の測定温度において行われる。外部磁場の掃引は、測定対象の磁気記録媒体から切り出した測定用試料を用いて、後掲の表5に示す掃引条件にしたがい、各ステップでの平均数=1で行われる。こうして外部磁場を掃引することにより、磁場強度-1197kA/m~1197kA/mの範囲でヒステリシス曲線(「M-H曲線」と呼ばれる。)が得られる。外部磁場の印加方向と測定用試料の表面とが直交するように測定用試料を振動試料型磁力計に配置して行われる測定によって得られるM-H曲線を、「垂直方向M-H曲線」と呼ぶ。上記の「直交」には、本発明が属する技術分野において許容される誤差の範囲を含むものとする。上記誤差の範囲とは、例えば、厳密な直交±10°未満の範囲を意味し、厳密な直交±5°以内であることが好ましく、±3°以内であることがより好ましい。測定値は、振動試料型磁力計のサンプルプローブの磁化をバックグラウンドノイズとして差し引いた値として得るものとする。また、角型比は、反磁界補正なしの角型比である。振動試料型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer)としては、後述の実施例で使用した装置等の公知の装置を用いることができる。測定用試料は、こうして得られるM-H曲線から求められる飽和磁化が5×10-6~10×10-6A・m(5×10-3~10×10-3emu)の範囲のものであればよく、この範囲の飽和磁化が得られる限りサイズおよび形状は限定されない。
【0157】
<磁性層の表面の算術平均粗さRa>
磁性層表面の平滑性の指標としては、磁性層の表面の算術平均粗さRaを挙げることができる。
磁性層の表面がより平滑であるほど、スペーシング損失によって電磁変換特性が低下することを抑制することができる。この点から、磁性層の表面の算術平均粗さRaは、2.20nm以下であることが好ましく、より好ましくは2.00nm以下であり、更に好ましくは1.80nm以下である。磁性層の表面の算術平均粗さRaは、例えば、1.30nm以上であることができる。
【0158】
本発明および本明細書における磁性層の表面の算術平均粗さRaは、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)によって磁性層の表面の面積40μm×40μmの領域において測定される値とする。無作為に選択した3つの異なる測定箇所において、それぞれ測定を5回行う。3つの測定箇所で得られた測定結果の中から、各測定箇所での5回の測定により得られたRaの中で最小値および最大値を除く測定値(したがって1つの測定箇所について3つの測定値、3つの測定箇所について合計9つの測定値)の算術平均を、測定対象の磁気記録媒体の磁性層の表面の算術平均粗さRaとして採用する。後述の実施例の欄に記載の磁性層の表面の算術平均粗さRaは、下記測定条件下での測定によって求められた値である。
AFM(Veeco社製Nanoscope4)をタッピングモードで用いて磁気記録媒体の磁性層の表面の面積40μm×40μmの領域を測定する。探針としてはBRUKER社製RTESP-300を使用し、スキャン速度(探針移動速度)は1画面(512pixel×512pixel)を341秒で測定する速度とする。
【0159】
本発明の一態様にかかる磁気記録媒体は、テープ状の磁気記録媒体(磁気テープ)であることができ、ディスク状の磁気記録媒体(磁気ディスク)であることもできる。例えば磁気テープは、例えば、磁気テープカートリッジに収容され、磁気テープカートリッジが磁気記録再生装置に装着される。磁気記録媒体には、磁気記録再生装置においてヘッドトラッキングを行うことを可能とするために、公知の方法によってサーボパターンを形成することもできる。「サーボパターンの形成」は、「サーボ信号の記録」ということもできる。以下に、磁気テープを例として、サーボパターンの形成について説明する。
【0160】
サーボパターンは、通常、磁気テープの長手方向に沿って形成される。サーボ信号を利用する制御(サーボ制御)の方式としては、タイミングベースサーボ(TBS)、アンプリチュードサーボ、周波数サーボ等が挙げられる。
【0161】
ECMA(European Computer Manufacturers Association)―319(June 2001)に示される通り、LTO(Linear Tape-Open)仕様に準拠した磁気テープ(一般に「LTOテープ」と呼ばれる。)では、タイミングベースサーボ方式が採用されている。このタイミングベースサーボ方式において、サーボパターンは、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(「サーボストライプ」とも呼ばれる。)が、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置されることによって構成されている。上記のように、サーボパターンが互いに非平行な一対の磁気ストライプにより構成される理由は、サーボパターン上を通過するサーボ信号読み取り素子に、その通過位置を教えるためである。具体的には、上記の一対の磁気ストライプは、その間隔が磁気テープの幅方向に沿って連続的に変化するように形成されており、サーボ信号読み取り素子がその間隔を読み取ることによって、サーボパターンとサーボ信号読み取り素子との相対位置を知ることができる。この相対位置の情報が、データトラックのトラッキングを可能にする。そのために、サーボパターン上には、通常、磁気テープの幅方向に沿って、複数のサーボトラックが設定されている。
【0162】
サーボバンドは、磁気テープの長手方向に連続するサーボ信号により構成される。このサーボバンドは、通常、磁気テープに複数本設けられる。例えば、LTOテープにおいて、その数は5本である。隣接する2本のサーボバンドに挟まれた領域は、データバンドと呼ばれる。データバンドは、複数のデータトラックで構成されており、各データトラックは、各サーボトラックに対応している。
【0163】
また、一形態では、特開2004-318983号公報に示されているように、各サーボバンドには、サーボバンドの番号を示す情報(「サーボバンドID(identification)」または「UDIM(Unique DataBand Identification Method)情報」とも呼ばれる。)が埋め込まれている。このサーボバンドIDは、サーボバンド中に複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のものを、その位置が磁気テープの長手方向に相対的に変位するように、ずらすことによって記録されている。具体的には、複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のもののずらし方を、サーボバンド毎に変えている。これにより、記録されたサーボバンドIDはサーボバンド毎にユニークなものとなるため、一つのサーボバンドをサーボ信号読み取り素子で読み取るだけで、そのサーボバンドを一意に(uniquely)特定することができる。
【0164】
サーボバンドを一意に特定する方法には、ECMA―319(June 2001)に示されているようなスタッガード方式を用いたものもある。このスタッガード方式では、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置された、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(サーボストライプ)の群を、サーボバンド毎に磁気テープの長手方向にずらすように記録する。隣接するサーボバンド間における、このずらし方の組み合わせは、磁気テープ全体においてユニークなものとされているため、2つのサーボ信号読み取り素子によりサーボパターンを読み取る際に、サーボバンドを一意に特定することも可能となっている。
【0165】
また、各サーボバンドには、ECMA―319(June 2001)に示されている通り、通常、磁気テープの長手方向の位置を示す情報(「LPOS(Longitudinal Position)情報」とも呼ばれる。)も埋め込まれている。このLPOS情報も、UDIM情報と同様に、一対のサーボストライプの位置を、磁気テープの長手方向にずらすことによって記録されている。ただし、UDIM情報とは異なり、このLPOS情報では、各サーボバンドに同じ信号が記録されている。
【0166】
上記のUDIM情報およびLPOS情報とは異なる他の情報を、サーボバンドに埋め込むことも可能である。この場合、埋め込まれる情報は、UDIM情報のようにサーボバンド毎に異なるものであってもよいし、LPOS情報のようにすべてのサーボバンドに共通のものであってもよい。
また、サーボバンドに情報を埋め込む方法としては、上記以外の方法を採用することも可能である。例えば、一対のサーボストライプの群の中から、所定の対を間引くことによって、所定のコードを記録するようにしてもよい。
【0167】
サーボパターン形成用ヘッドは、サーボライトヘッドと呼ばれる。サーボライトヘッドは、上記一対の磁気ストライプに対応した一対のギャップを、サーボバンドの数だけ有する。通常、各一対のギャップには、それぞれコアとコイルが接続されており、コイルに電流パルスを供給することによって、コアに発生した磁界が、一対のギャップに漏れ磁界を生じさせることができる。サーボパターンの形成の際には、サーボライトヘッド上に磁気テープを走行させながら電流パルスを入力することによって、一対のギャップに対応した磁気パターンを磁気テープに転写させて、サーボパターンを形成することができる。各ギャップの幅は、形成されるサーボパターンの密度に応じて適宜設定することができる。各ギャップの幅は、例えば、1μm以下、1~10μm、10μm以上等に設定可能である。
【0168】
磁気テープにサーボパターンを形成する前には、磁気テープに対して、通常、消磁(イレース)処理が施される。このイレース処理は、直流磁石または交流磁石を用いて、磁気テープに一様な磁界を加えることによって行うことができる。イレース処理には、DC(Direct Current)イレースとAC(Alternating Current)イレースとがある。ACイレースは、磁気テープに印加する磁界の方向を反転させながら、その磁界の強度を徐々に下げることによって行われる。一方、DCイレースは、磁気テープに一方向の磁界を加えることによって行われる。DCイレースには、更に2つの方法がある。第一の方法は、磁気テープの長手方向に沿って一方向の磁界を加える、水平DCイレースである。第二の方法は、磁気テープの厚み方向に沿って一方向の磁界を加える、垂直DCイレースである。イレース処理は、磁気テープ全体に対して行ってもよいし、磁気テープのサーボバンド毎に行ってもよい。
【0169】
形成されるサーボパターンの磁界の向きは、イレースの向きに応じて決まる。例えば、磁気テープに水平DCイレースが施されている場合、サーボパターンの形成は、磁界の向きがイレースの向きと反対になるように行われる。これにより、サーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号の出力を、大きくすることができる。特開2012-53940号公報に示されている通り、垂直DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、単極パルス形状となる。一方、水平DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、双極パルス形状となる。
【0170】
[磁気テープカートリッジ]
本発明の一態様は、テープ状の上記磁気記録媒体(即ち磁気テープ)を含む磁気テープカートリッジに関する。
【0171】
上記磁気テープカートリッジに含まれる磁気テープの詳細は、先に記載した通りである。
【0172】
磁気テープカートリッジでは、一般に、カートリッジ本体内部に磁気テープがリールに巻き取られた状態で収容されている。リールは、カートリッジ本体内部に回転可能に備えられている。磁気テープカートリッジとしては、カートリッジ本体内部にリールを1つ具備する単リール型の磁気テープカートリッジおよびカートリッジ本体内部にリールを2つ具備する双リール型の磁気テープカートリッジが広く用いられている。単リール型の磁気テープカートリッジは、磁気テープへのデータの記録および/または再生のために磁気記録再生装置に装着されると、磁気テープカートリッジから磁気テープが引き出されて磁気記録再生装置側のリールに巻き取られる。磁気テープカートリッジから巻き取りリールまでの磁気テープ搬送経路には、磁気ヘッドが配置されている。磁気テープカートリッジ側のリール(供給リール)と磁気記録再生装置側のリール(巻き取りリール)との間で、磁気テープの送り出しと巻き取りが行われる。この間、磁気ヘッドと磁気テープの磁性層側の表面とが接触し摺動することにより、データの記録および/または再生が行われる。これに対し、双リール型の磁気テープカートリッジは、供給リールと巻き取りリールの両リールが、磁気テープカートリッジ内部に具備されている。上記磁気テープカートリッジは、単リール型および双リール型のいずれの磁気テープカートリッジであってもよい。上記磁気テープカートリッジは、本発明の一態様にかかる磁気テープを含むものであればよく、その他については公知技術を適用することができる。
【0173】
[磁気記録再生装置]
本発明の一態様は、上記磁気記録媒体を含む磁気記録再生装置に関する。
【0174】
本発明および本明細書において、「磁気記録再生装置」とは、磁気記録媒体へのデータの記録および磁気記録媒体に記録されたデータの再生の少なくとも一方を行うことができる装置を意味するものとする。かかる装置は、一般にドライブと呼ばれる。上記磁気記録再生装置は、例えば、摺動型の磁気記録再生装置であることができる。摺動型の磁気記録再生装置とは、磁気記録媒体へのデータの記録および/または記録されたデータの再生を行う際に磁性層側の表面と磁気ヘッドとが接触し摺動する装置をいう。例えば、上記磁気記録再生装置は、上記磁気テープカートリッジを着脱可能に含むことができる。
【0175】
上記磁気記録再生装置は磁気ヘッドを含むことができる。磁気ヘッドは、磁気記録媒体へのデータの記録を行うことができる記録ヘッドであることができ、磁気記録媒体に記録されたデータの再生を行うことができる再生ヘッドであることもできる。また、上記磁気記録再生装置は、一形態では、別々の磁気ヘッドとして、記録ヘッドと再生ヘッドの両方を含むことができる。他の一形態では、上記磁気記録再生装置に含まれる磁気ヘッドは、データの記録のための素子(記録素子)とデータの再生のための素子(再生素子)の両方を1つの磁気ヘッドに備えた構成を有することもできる。以下において、データの記録のための素子および再生のための素子を、「データ用素子」と総称する。再生ヘッドとしては、磁気記録媒体に記録されたデータを感度よく読み取ることができる磁気抵抗効果型(MR:Magnetoresistive)素子を再生素子として含む磁気ヘッド(MRヘッド)が好ましい。MRヘッドとしては、AMR(Anisotropic Magnetoresistive)ヘッド、GMR(Giant Magnetoresistive)ヘッド、TMR(Tunnel Magnetoresistive)ヘッド等の公知の各種MRヘッドを用いることができる。また、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドには、サーボ信号読み取り素子が含まれていてもよい。または、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドとは別のヘッドとして、サーボ信号読み取り素子を備えた磁気ヘッド(サーボヘッド)が上記磁気記録再生装置に含まれていてもよい。例えば、データの記録および/または記録されたデータの再生を行う磁気ヘッド(以下、「記録再生ヘッド」とも呼ぶ。)は、サーボ信号読み取り素子を2つ含むことができ、2つのサーボ信号読み取り素子のそれぞれが、隣接する2つのサーボバンドを同時に読み取ることができる。2つのサーボ信号読み取り素子の間に、1つまたは複数のデータ用素子を配置することができる。
【0176】
上記磁気記録再生装置において、磁気記録媒体へのデータの記録および/または磁気記録媒体に記録されたデータの再生は、例えば、磁気記録媒体の磁性層側の表面と磁気ヘッドとを接触させて摺動させることにより行うことができる。上記磁気記録再生装置は、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体を含むものであればよく、その他については公知技術を適用することができる。
【0177】
例えば、データの記録および/または記録されたデータの再生の際には、まず、サーボ信号を用いたトラッキングが行われる。すなわち、サーボ信号読み取り素子を所定のサーボトラックに追従させることによって、データ用素子が、目的とするデータトラック上を通過するように制御される。データトラックの移動は、サーボ信号読み取り素子が読み取るサーボトラックを、テープ幅方向に変更することにより行われる。
また、記録再生ヘッドは、他のデータバンドに対する記録および/または再生を行うことも可能である。その際には、先に記載したUDIM情報を利用してサーボ信号読み取り素子を所定のサーボバンドに移動させ、そのサーボバンドに対するトラッキングを開始すればよい。
【実施例0178】
以下に、本発明を実施例により更に具体的に説明する。ただし本発明は、実施例に示す実施形態に限定されるものではない。以下に記載の「部」および「%」は、特記しない限り、「質量部」および「質量%」を示す。下記工程および評価は、特記しない限り、室温(20~25℃)の大気中で行った。以下に記載の「eq」は、当量(equivalent)であり、SI単位に換算不可の単位である。
【0179】
[強磁性粉末]
表6中、「強磁性粉末」の欄に記載の「BaFe」は、平均粒子サイズ(平均板径)21nmの六方晶バリウムフェライト粉末を示す。
【0180】
表6中、「強磁性粉末」の欄に記載の「SrFe」は、以下のように作製された六方晶ストロンチウムフェライト粉末を示す。
SrCOを1707g、HBOを687g、Feを1120g、Al(OH)を45g、BaCOを24g、CaCOを13g、およびNdを235g秤量し、ミキサーにて混合し原料混合物を得た。
得られた原料混合物を、白金ルツボで溶融温度1390℃で溶融し、融液を撹拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し、融液を約6g/秒で棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ローラーで圧延急冷して非晶質体を作製した。
作製した非晶質体280gを電気炉に仕込み、昇温速度3.5℃/分にて635℃(結晶化温度)まで昇温し、同温度で5時間保持して六方晶ストロンチウムフェライト粒子を析出(結晶化)させた。
次いで六方晶ストロンチウムフェライト粒子を含む上記で得られた結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、この粉砕物を入れたガラス瓶に粒径1mmのジルコニアビーズ1000gと濃度1%の酢酸水溶液を800mL加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った。その後、得られた分散液をビーズと分離させステンレスビーカーに入れた。分散液を液温100℃で3時間静置させてガラス成分の溶解処理を行った後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、炉内温度110℃の加熱炉内で6時間乾燥させて六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の平均粒子サイズは18nm、活性化体積は902nm、異方性定数Kuは2.2×10J/m、質量磁化σsは49A・m/kgであった。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって部分溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子の表層部含有率を求めた。
別途、上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって全溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子のバルク含有率を求めた。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の鉄原子100原子%に対するネオジム原子の含有率(バルク含有率)は、2.9原子%であった。また、ネオジム原子の表層部含有率は8.0原子%であった。表層部含有率とバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は2.8であり、ネオジム原子が粒子の表層に偏在していることが確認された。
【0181】
上記で得られた粉末が六方晶フェライトの結晶構造を示すことは、CuKα線を電圧45kVかつ強度40mAの条件で走査し、下記条件でX線回折パターンを測定すること(X線回折分析)により確認した。上記で得られた粉末は、マグネトプランバイト型(M型)の六方晶フェライトの結晶構造を示した。また、X線回折分析により検出された結晶相は、マグネトプランバイト型の単一相であった。
PANalytical X’Pert Pro回折計、PIXcel検出器
入射ビームおよび回折ビームのSollerスリット:0.017ラジアン
分散スリットの固定角:1/4度
マスク:10mm
散乱防止スリット:1/4度
測定モード:連続
1段階あたりの測定時間:3秒
測定速度:毎秒0.017度
測定ステップ:0.05度
【0182】
表6中、「強磁性粉末」の欄に記載の「ε-酸化鉄」は、以下のように作製されたε-酸化鉄粉末を示す。
純水90gに、硝酸鉄(III)9水和物8.3g、硝酸ガリウム(III)8水和物1.3g、硝酸コバルト(II)6水和物190mg、硫酸チタン(IV)150mg、およびポリビニルピロリドン(PVP)1.5gを溶解させたものを、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、大気雰囲気中、雰囲気温度25℃の条件下で、濃度25%のアンモニア水溶液4.0gを添加し、雰囲気温度25℃の温度条件のまま2時間撹拌した。得られた溶液に、クエン酸1gを純水9gに溶解させて得たクエン酸水溶液を加え、1時間撹拌した。撹拌後に沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄し、炉内温度80℃の加熱炉内で乾燥させた。
乾燥させた粉末に純水800gを加えて再度粉末を水に分散させて分散液を得た。得られた分散液を液温50℃に昇温し、撹拌しながら濃度25%アンモニア水溶液を40g滴下した。50℃の温度を保ったまま1時間撹拌した後、テトラエトキシシラン(TEOS)14mLを滴下し、24時間撹拌した。得られた反応溶液に、硫酸アンモニウム50gを加え、沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄し、炉内温度80℃の加熱炉内で24時間乾燥させ、強磁性粉末の前駆体を得た。
得られた強磁性粉末の前駆体を、大気雰囲気下、炉内温度1000℃の加熱炉内に装填し、4時間の加熱処理を施した。
加熱処理した強磁性粉末の前駆体を、4mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中に投入し、液温を70℃に維持して24時間撹拌することにより、加熱処理した強磁性粉末の前駆体から不純物であるケイ酸化合物を除去した。
その後、遠心分離処理により、ケイ酸化合物を除去した強磁性粉末を採集し、純水で洗浄を行い、強磁性粉末を得た。
得られた強磁性粉末の組成を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES:Inductively Coupled Plasma-Optical Emission Spectrometry)により確認したところ、Ga、CoおよびTi置換型ε-酸化鉄(ε-Ga0.28Co0.05Ti0.05Fe1.62)であった。また、先に六方晶ストロンチウムフェライト粉末SrFeに関して記載した条件と同様の条件でX線回折分析を行い、X線回折パターンのピークから、得られた強磁性粉末が、α相およびγ相の結晶構造を含まない、ε相の単相の結晶構造(ε-酸化鉄の結晶構造)を有することを確認した。
得られたε-酸化鉄粉末の平均粒子サイズは12nm、活性化体積は746nm、異方性定数Kuは1.2×10J/m、質量磁化σsは16A・m/kgであった。
【0183】
上記の六方晶ストロンチウムフェライト粉末およびε-酸化鉄粉末の活性化体積および異方性定数Kuは、各強磁性粉末について、振動試料型磁力計(東英工業社製)を用いて、先に記載の方法により求められた値である。
また、質量磁化σsは、振動試料型磁力計(東英工業社製)を用いて磁場強度1194kA/m(15kOe)で測定された値である。
【0184】
[実施例1]
1.アルミナ分散物(研磨剤液)の調製
アルファ化率約65%、BET比表面積20m/gのアルミナ粉末(住友化学社製HIT-80)100.0部に対し、3.0部の2,3-ジヒドロキシナフタレン(東京化成工業社製)、極性基としてSONa基を有するポリエステルポリウレタン樹脂(東洋紡社製UR-4800(極性基量:80meq/kg))の32%溶液(溶剤はメチルエチルケトンとトルエンの混合溶剤)を31.3部、溶剤としてメチルエチルケトンとシクロヘキサノン1:1(質量比)の混合溶液570.0部を混合し、ジルコニアビーズ存在下で、ペイントシェーカーにより5時間分散させた。分散後、メッシュにより分散液とビーズとを分け、アルミナ分散物を得た。
【0185】
2.磁性層形成用組成物の処方
(磁性液)
強磁性粉末(表6参照):100.00部
SONa基含有塩化ビニル共重合体:10.00部
重量平均分子量:70,000、SONa基:0.2meq/g
SONa基含有ポリウレタン樹脂:4.00部
重量平均分子量:70,000、SONa基:0.2meq/g
シクロヘキサノン:150.00部
メチルエチルケトン:170.00部
(研磨剤液)
上記1.で調製したアルミナ分散物:37.40部
(その他成分)
カーボンブラック:0.50部
平均粒子サイズ:80nm
ステアリン酸:表6参照
ステアリン酸アミド:表6参照
ブチルステアレート:6.00部
ポリイソシアネート(東ソー社製コロネート(登録商標)):2.50部
フッ素系化合物:表6参照
(仕上げ添加溶剤)
シクロヘキサノン:300.00部
メチルエチルケトン:140.00部
【0186】
上記フッ素系化合物としては、先に記載の式[1-2]で表される繰り返し単位を1質量%以上99質量%以下と架橋基含有繰り返し単位を1質量%以上95質量%以下の範囲で含有する架橋基含有含フッ素ポリスチレン誘導体を使用した。上記架橋基含有繰り返し単位は、架橋基としてエポキシ基を有する。詳しくは、磁性液調製時、上記架橋基含有含フッ素ポリスチレン誘導体を含有する市販の添加剤(野田スクリーン社製フッ素樹脂添加剤ネオフルオリペール「NFR-325」)を、磁性層形成用組成物に含まれる強磁性粉末100.00部に対する上記添加剤の量が表6に示す値になる量で使用した。
【0187】
3.非磁性層形成用組成物の処方
非磁性無機粉末(α-酸化鉄):100.00部
平均粒子サイズ(平均長軸長):0.15μm、平均針状比:7、BET比表面積:52m/g
カーボンブラック:30.00部
平均粒子サイズ:20nm
SONa基含有塩化ビニル共重合体:20.00部
重量平均分子量:70,000、SONa基:0.2meq/g
SONa基含有ポリウレタン樹脂:100.00部
重量平均分子量:70,000、SONa基:0.2meq/g
トリオクチルアミン:1.00部
フェニルホスホン酸:4.00部
ステアリン酸:表6参照
ステアリン酸アミド:表6参照
ブチルステアレート:3.00部
シクロヘキサノン:450.00部
メチルエチルケトン:450.00部
【0188】
4.バックコート層形成用組成物の処方
カーボンブラック:100.00部
平均粒子サイズ:40nm、DBP(Dibutyl phthalate)吸油量:74cm/100g
銅フタロシアニン:3.00部
ニトロセルロース:25.00部
スルホン酸基含有ポリエステルポリウレタン樹脂(東洋紡製UR-8401):60.00部
ポリエステル樹脂(東洋紡製バイロン500):4.00部
アルミナ粉末(BET比表面積21m/gのα-アルミナ):1.00部
ポリイソシアネート(日本ポリウレタン製コロネートL):15.00部
メチルエチルケトン:600.00部
トルエン:600.00部
【0189】
5.各層形成用組成物の調製
磁性層形成用組成物を、以下の方法により調製した。
上記磁性液の各種成分をホモジナイザーを用いて混合し、その後連続式横型ビーズミルによってビーズ径0.05mmのジルコニアビーズを用いて10分間ビーズ分散して磁性液を調製した。
上記ビーズミルを用いて、上記磁性液を、上記研磨剤液、その他成分および仕上げ添加溶剤と混合した後、バッチ式超音波装置(20kHz、300W)で0.5分間処理(超音波分散)を行った。その後、0.5μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過を行い、磁性層形成用組成物を調製した。
非磁性層形成用組成物を、以下の方法により調製した。
ステアリン酸、ステアリン酸アミドおよびブチルステアレートを除いた各種成分を、バッチ式縦型サンドミルを用いて12時間分散して分散液を得た。分散ビーズとしてはビーズ径0.1mmのジルコニアビーズを使用した。その後、得られた分散液に残りの成分を添加し、ディスパーで撹拌した。こうして得られた分散液を0.5μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過し、非磁性層形成用組成物を調製した。
バックコート層形成用組成物を、以下の方法により調製した。
ポリイソシアネートを除く上記成分をディゾルバー撹拌機に導入し、周速10m/秒で30分間撹拌した後、横型ビーズミル分散機により分散処理を実施した。その後、ポリイソシアネートを添加して、ディゾルバー撹拌機にて撹拌および混合処理を施し、バックコート層形成用組成物を調製した。
【0190】
6.磁気テープの作製
厚み3.6μmの芳香族ポリアミド支持体の表面上に、乾燥後の厚みが0.7μmになるように非磁性層形成用組成物を塗布し乾燥させて非磁性層を形成した。
形成した非磁性層の表面上に、乾燥後の厚みが0.04μmになるように磁性層形成用組成物を塗布して塗布層を形成した。磁場配向は行わなかった。
上記塗布層を乾燥させた後、上記芳香族ポリアミド支持体の非磁性層および磁性層を形成した表面とは反対の表面上に、乾燥後の厚みが0.3μmになるようにバックコート層形成用組成物を塗布し乾燥させた。
その後、金属ロールのみから構成されるカレンダロールによって、速度100m/分、線圧300kg/cm(294kN/m)、カレンダ温度100℃(カレンダロールの表面温度)で表面平滑化処理(カレンダ処理)を行った。
その後、雰囲気温度70℃の環境で36時間熱処理を行った後に1/2インチ(0.0127メートル)幅にスリットし、磁気テープを得た。
上記各層の厚みは、製造条件から算出された設計厚みである。
【0191】
[実施例2~5、8、9、比較例1~5]
表6に示す項目を表6に示すように変更した点以外、実施例1について記載した方法によって磁気テープを作製した。
【0192】
[実施例6]
磁性層形成用組成物を塗布して塗布層を形成した後、この塗布層が未乾燥状態にあるうちに磁場強度0.4Tの磁場を、塗布層の表面に対し垂直方向に印加し垂直配向処理を行い、その後塗布層を乾燥させた点以外、実施例1について記載した方法によって磁気テープを作製した。
【0193】
[実施例7]
芳香族ポリアミド支持体として厚み3.0μmのものを使用した点以外、実施例1について記載した方法によって磁気テープを作製した。
【0194】
[比較例6]
以下の点以外、実施例1について記載した方法によって磁気テープを作製した。
上記架橋基含有含フッ素ポリスチレン誘導体を含有する市販の添加剤(野田スクリーン社製フッ素樹脂添加剤ネオフルオリペール「NFR-325」)を、磁性層形成用組成物に添加せず、カレンダ処理後の磁性層表面に、ワイヤーバーによって塗布し(即ちオーバーコートし)、乾燥させた。オーバーコートで塗布する添加剤量は、磁性層形成用組成物に含まれる強磁性粉末100.00質量部に対して1.00部になる量とした。その後、雰囲気温度70℃の環境で36時間熱処理を行った後に1/2インチ(0.0127メートル)幅にスリットし、磁気テープを得た。
【0195】
[物性評価方法]
(1)フッ素濃度F、ΔC
先に記載した方法によって、詳しくは以下の方法によって、実施例および比較例の各磁気テープについて、フッ素濃度FおよびΔCを求めた。
実施例および比較例の各磁気テープからサンプル片を2つ切り出し、一方のサンプル片についてはメタノール抽出処理なしで、もう一方のサンプル片についてはメタノール抽出処理後に、以下の方法によって磁性層表面(測定領域:300μm×700μm)においてESCA装置を用いてX線光電子分光分析を行った。
【0196】
(メタノール抽出処理)
100mLビーカーにメタノール(富士フイルム和光純薬製特級試薬)を約30mL入れ、そこに、上記で作製された磁気テープ(幅1/2インチ)から長さ5cmに切り出されたサンプル片全体を浸漬させた。設定温度を60℃にセットしたホットプレート上にビーカーをのせて3時間加熱した。その後、サンプル片をメタノールから取り出し、サンプル表面を洗浄するために、ノルマルヘキサン(富士フイルム和光純薬製特級試薬)約30mLが入った100mLビーカーの中にサンプル片を入れてサンプル片全体をノルマルヘキサンに浸漬させた状態で、室温下で30分間静置した。その後、サンプル片をノルマルヘキサンから取り出し、一日以上室温下で乾燥させた。
【0197】
(分析および算出方法)
下記(i)および(ii)の測定は、いずれも表1に示す測定条件にて行った。
【0198】
【表1】
【0199】
(i)ワイドスキャン測定
サンプル片の磁性層表面においてESCA装置によりワイドスキャン測定(測定条件:表2参照)を行い、検出された元素の種類を調べた(定性分析)。
【0200】
【表2】
【0201】
(ii)ナロースキャン測定
上記(i)で検出された全元素について、ナロースキャン測定(測定条件:表3参照)を行った。装置付属のデータ処理用ソフトウエア(Vision2.2.6)を用いて、各元素のピーク面積から検出された各元素の原子濃度(単位:原子%)を算出した。ここでメタノール抽出処理なしのサンプル片についてフッ素濃度を算出した。メタノール抽出処理なしのサンプル片およびメタノール抽出処理後のサンプル片について、それぞれC-H由来炭素濃度は、更に後述する方法でピーク分離を行って算出した。
【0202】
【表3】
【0203】
(iii)C1sスペクトルの取得
表4に記載の測定条件にてC1sスペクトルを取得した。取得したC1sスペクトルについて、装置付属のデータ処理用ソフトウエア(Vision2.2.6)を用いて試料帯電によるシフト(物理シフト)の補正を行った後、同ソフトウエアを用いてC1sスペクトルのフィッティング処理(ピーク分離)を実施した。ピーク分離にはガウス-ローレンツ複合関数(ガウス成分70%、ローレンツ成分30%)を用い、非線形最小二乗法によりC1sスペクトルのフィッティングを行い、C1sスペクトルに占めるC-Hピークの割合(ピーク面積率)を算出した。算出されたC-Hピーク面積率を、上記(ii)で求めた炭素濃度に掛け算することにより、C-H由来炭素濃度を算出した。
【0204】
【表4】
【0205】
以上の操作をメタノール抽出処理なしのサンプル片の磁性層表面の異なる位置において3回行った。こうして得られたフッ素濃度の値の算術平均を、測定対象の磁気テープのフッ素濃度Fとした。また、こうして得られたC-H由来炭素濃度の値の算術平均を、測定対象の磁気テープのCbeforeとした。
メタノール抽出処理後のサンプル片について、以上の操作を磁性層表面の異なる位置において3回行った。こうして得られたC-H由来炭素濃度の値の算術平均を、測定対象の磁気テープのCafterとした。
こうして得られたCbeforeおよびCafterから、式:ΔC=Cbefore-Cafter、によって、測定対象の磁気テープのΔCを求めた。
【0206】
(2)接触角測定
接触角の測定は、雰囲気温度23℃および相対湿度50%の測定環境において行った。
接触角測定装置として、協和界面科学社製「DM700」を用いた。水は、イオン交換後に蒸留した超純水を用いた。超純水をシリンジに入れ、テフロン(登録商標)コートされた針(18G(ゲージ))を付け、接触角測定装置にセットした。実施例および比較例の各磁気テープから切り出したサンプル片の磁性層表面の測定箇所に2.5μLの水を滴下し、θ/2法により接触角を測定した。各サンプル片について、測定箇所は磁性層の表面において無作為に選択した5箇所とし、5箇所でそれぞれ測定された値の算術平均を測定対象の磁気テープの磁性層の表面において測定される水に対する接触角とした。
【0207】
(3)垂直方向角型比
実施例および比較例の各磁気テープから、短辺12mm×長辺32mmのサイズのテープ試料を3つ切り出した。各テープ試料を短辺で1回折り長辺で2回折り、6mm×8mmのサイズに折り畳んだ。こうして折り畳んだ3つのテープ試料を重ねて振動試料型磁力計内に配置した。3つのテープ試料は各テープ試料の方向(テープ試料の長手方向および幅方向)が一致するように重ねた。
振動試料型磁力計として東英工業社製TEM-WF82.5R-152を使用し、測定温度24℃にて外部磁場の掃引を行いヒステリシス曲線(M-H曲線)を得た。垂直方向M-H曲線を得るための測定は、磁場印加方向とテープ試料の表面とが直交するように振動試料型磁力計にテープ試料を配置して行った。外部磁場の掃引は、表5に示す掃引条件にしたがい、各ステップでの平均数=1とし、磁場強度1197kA/mから開始して-1197kA/mまで掃引し再び1197kA/mまで行った。表5に示す掃引条件は、上段から下段の順に順次実施した。合計掃引時間は312秒間であった。また、予め測定用サンプルプローブのみの磁化量の測定を行い、測定時にバックグラウンドノイズとして差し引いた。各テープ試料について、こうして得られた垂直方向M-H曲線から求められた飽和磁化は、いずれも5×10-6~10×10-6A・m(5×10-3~10×10-3emu)の範囲であった。
上記測定により得られた垂直方向M-H曲線から各磁気テープの垂直方向角型比を求めた。
【0208】
【表5】
【0209】
(4)磁性層の表面の算術平均粗さRa
AFMとしてVeeco社製Nanoscope4をタッピングモードで使用し、探針としてはBRUKER社製RTESP-300を使用した。実施例および比較例の各磁気テープの磁性層の表面の面積40μm×40μmの領域を、スキャン速度(探針移動速度)を1画面(512pixel×512pixel)を341秒で測定する速度として測定して、先に記載したように算術平均粗さRaを求めた。
【0210】
(5)磁気テープの総厚
実施例および比較例の各磁気テープの任意の部分からテープサンプル(長さ5cm)を10枚切り出し、これらテープサンプルを重ねて厚みを測定した。厚みの測定は、MARH社製Millimar 1240コンパクトアンプとMillimar 1301誘導プローブのデジタル厚み計を用いて行った。測定された厚みを10分の1して得られた値(テープサンプル1枚当たりの厚み)を、テープ総厚とした。
【0211】
[性能評価方法]
(1)摩擦特性
AFMで40μm×40μmのサイズの領域を測定した時の算術平均粗さRaが15nmで直径が4mmのAlTiC(アルミナチタンカーバイド)製の丸棒に、実施例および比較例の各磁気テープを、磁気テープの幅方向が丸棒の軸方向と平行になるように丸棒に巻き付けて、ラップ角20゜で磁気テープの一方の端に100gの重りを吊り下げ他方の端をロードセルに取り付けた状態で、14mm/秒の速度で磁気テープを1パスあたり45mm摺動させ、合計100パス摺動を繰り返した。この時の1パス目および100パス目の等速で摺動中の荷重をロードセルで検出して測定値を得て、以下の式:
摩擦係数=ln(測定値(g)/100(g))/0.349
に基づいて、1パス目および100パス目の摩擦係数を算出した(式の分母は、ラップ角20゜をラジアン単位に変換したもの)。測定環境は、LTO(Linear Tape-Open)ドライブ等の保証環境内で最も摩擦係数が高くなると考えられる低温高湿環境、具体的には温度が13℃であって相対湿度が80%の環境とした。
評価結果に関して、測定中に磁気テープの磁性層表面と上記丸棒との貼り付きが生じてしまい摩擦係数を評価できなかった場合、評価結果を「E」とした。また、上記ロードセルの測定上限値に相当する摩擦係数は0.80であるため、0.80超の摩擦係数を測定することができない。摩擦係数がロードセルの測定上限値を超えた場合、評価結果を「D」とした。摩擦係数が0.5未満の場合、評価結果を「A」、摩擦係数が0.5以上0.6未満の場合、評価結果を「B」、摩擦係数が0.6~0.8の範囲の場合、評価結果を「C」とした。評価結果がAまたはBの場合、摩擦特性に優れるということができる。
【0212】
(2)デブリ発生度
磁気ヘッドを模擬したガラス製のダミーヘッド(以下、「ガラス製ヘッド」と記載する。)を作製した。このガラス製ヘッドをリールトゥリール試験機に取り付け、ガラス製ヘッドの表面にラップ角2゜で磁気テープが接触するようにパスを調整した。磁気テープを、ガラス製ヘッドにかかる荷重60gf、走行速度6m/秒、走行長1,000mの条件で走行させた。単位に関して、「gf」はグラム重を示し、1N(ニュートン)は約102gfである。
磁気テープと接触した磁気ヘッド表面の付着物の有無および付着の程度を、ガラス製ヘッドを上記表面の裏面側からデジタルマイクロスコープで観察して確認した。以下の評価基準でデブリ発生度を評価した。
(評価基準)
A:ガラス製ヘッドの磁気テープと接触した表面に付着物は全く見られなかった。
B:ガラス製ヘッドの磁気テープと接触した表面に部分的に付着物が見られた。
C:ガラス製ヘッドの磁気テープと接触した表面の全面に付着物が付着していた。
【0213】
以上の結果を表6に示す。
【0214】
【表6】
【0215】
表6に示す結果から、実施例の各磁気テープが摩擦特性に優れかつデブリの発生が少ないことが確認できる。
【0216】
実施例1~9の各磁気テープについて、無作為に選択した3箇所において下記の方法によってBの値を求め、求められた値の算術平均を、各磁気テープのBの値とした。こうして求められた各磁気テープのBの値は、65~85%の範囲であった。
前処理として、ダイプラ・ウィンテス社製SAICAS装置にダイヤモンド切刃を取り付けて使用して先に記載した方法によって斜め切削面の形成を行った。磁気テープの磁性層の表面に対するダイヤモンド切刃の侵入角度は0.115度とした。
TOF-SIMS装置としてアルバックファイ社製TOF-SIMS装置を高質量分解能モードで使用して先に記載した方法によってラインプロファイル分析を行い、先に記載した方法によってFtotalおよびFupperを求めた。ここでフッ素系フラグメントとしては、COF フラグメントを採用した。また、磁性層に隣接する部分である非磁性層の成分としてはフェニルホスホン酸を選択し、この成分のフラグメントとしては、予備実験を行った結果、この成分を最も高感度に検出できることが確認されたフラグメントであるPO フラグメントを採用した。
こうして求められたFtotalおよびFupperから、下記式1によってBを算出した。
(式1)
B=(Fupper/Ftotal)×100
【産業上の利用可能性】
【0217】
本発明は、データストレージ用磁気テープ等の各種磁気記録媒体の技術分野において有用である。