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特開2024-121801作目配置決定支援方法および作目配置決定支援装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121801
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】作目配置決定支援方法および作目配置決定支援装置
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/02 20240101AFI20240830BHJP
【FI】
G06Q50/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024022341
(22)【出願日】2024-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2023028785
(32)【優先日】2023-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】渡部 博明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英博
(72)【発明者】
【氏名】若林 勝史
(57)【要約】
【課題】複数の作目および複数の生産者による農地管理力および収益力に優れた農地利用を支援する技術を実現する。
【解決手段】作目配置決定支援装置(10)は、圃場条件および作目毎に設定される所定の作業基準を満たす圃場領域の規模を基本単位として設定するとともに、基本単位の規模をもつ圃場領域を小領域として設定する団地規模設定部(13)と、耕作条件および生産要素賦存量を制約条件とし、収益を目的関数とする最適化モデルを用いて、複数の作目および複数の生産者の中から、対象地域全体の収益が所定の目標基準を満たすことができる作目と生産者との組合せの配置を、前記小領域毎に決定する作目配置決定部(16)と、を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象地域の圃場において、圃場条件および作目毎に設定される所定の作業基準を満たす圃場領域の規模を基本単位として設定するとともに、基本単位の規模をもつ圃場領域を小領域として設定する設定工程と、
耕作条件および生産要素賦存量を制約条件とし、収益を目的関数とする最適化モデルを用いて、複数の作目および複数の生産者の中から、前記対象地域全体の収益が所定の目標基準を満たすことができる作目と生産者との組合せの配置を、前記小領域毎に決定する決定工程と、
を包含する、作目配置決定支援方法。
【請求項2】
前記設定工程において設定された前記小領域毎に、作目と生産者との組合せの配置を決定するための前記最適化モデルを構築する最適化モデル構築工程をさらに包含する、
請求項1に記載の作目配置決定支援方法。
【請求項3】
前記対象地域の圃場において、複数筆を前記基本単位毎に集約して、前記小領域を形成する形成工程をさらに包含する、
請求項1に記載の作目配置決定支援方法。
【請求項4】
前記最適化モデルは、線形計画モデルである、
請求項1から3のいずれか1項に記載の作目配置決定支援方法。
【請求項5】
前記作業基準は、単位面積当たりの労働時間、単位面積当たりの収量、単位面積当たりの費用、および、単位面積当たりの農業所得から選択される、
請求項1から3のいずれか1項に記載の作目配置決定支援方法。
【請求項6】
前記対象地域の圃場において、前記小領域毎に決定された作目と生産者との組合せの配置に関して、前記小領域毎の収益、耕作面積および必要労働力を評価する評価工程をさらに包含する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の作目配置決定支援方法。
【請求項7】
前記評価工程において、前記対象地域の圃場において、前記小領域毎の収益、耕作面積および必要労働力を集計し、前記対象地域全体の収益、耕作面積および必要労働力を評価する、
請求項6に記載の作目配置決定支援方法。
【請求項8】
対象地域の圃場において、圃場条件および作目毎に設定される所定の作業基準を満たす圃場領域の規模を基本単位として設定するとともに、基本単位の規模をもつ圃場領域を小領域として設定する設定部と、
耕作条件および生産要素賦存量を制約条件とし、収益を目的関数とする最適化モデルを用いて、複数の作目および複数の生産者の中から、前記対象地域全体の収益が所定の目標基準を満たすことができる作目と生産者との組合せの配置を、前記小領域毎に決定する決定部と、
を備えた、作目配置決定支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作目配置決定支援方法および作目配置決定支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水稲作を基幹作目とし、狭隘な区画規模、広範な畦畔法面等の圃場条件の不利性を抱える中山間水田地帯では、農地維持と収益向上との両立が難しく、農地管理力と収益力とを同時に引き上げることが、困難かつ重要な課題となっている。
【0003】
中山間水田作地帯にみられるような多様な圃場条件を考慮しつつ、農地管理力や収益力の観点から農地の利用形態を、評価および判定した近年の実証的研究が、非特許文献1および2に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】八木(2006)、『農業経済研究』78(1)、pp.12-21
【非特許文献2】森田ら(2009)、『農村計画学会誌』28(3)、pp.141-149
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1および2に記載された技術は、農地の利用形態として考慮される作目およびその生産者は1つであり、複数の作目および複数の生産者を考慮したものではない。実際には、多様な圃場条件(地形上の傾斜度や標高、1筆当たりの面積等)に対応する形で、様々な作目が複数の生産者により生産されており、したがって複数の作目および複数の生産者による農地管理力および収益力に優れた農地利用が求められている。
【0006】
非特許文献1および2に記載された技術では、複数の作目および複数の生産者による農地利用を考慮したものではないため、複数の作目および複数の生産者による利用形態を適切に評価することが困難である。したがって、非特許文献1および2に記載された技術により、複数の作目および複数の生産者による農地管理力および収益力に優れた農地利用を支援することは困難である。
【0007】
本発明の一態様は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、複数の作目および複数の生産者による農地管理力および収益力に優れた農地利用を支援する技術を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る作目配置決定支援方法は、対象地域の圃場において、圃場条件および作目毎に設定される所定の作業基準を満たす圃場領域の規模を基本単位として設定するとともに、基本単位の規模をもつ圃場領域を小領域として設定する設定工程と、耕作条件および生産要素賦存量を制約条件とし、収益を目的関数とする最適化モデルを用いて、複数の作目および複数の生産者の中から、前記対象地域全体の収益が所定の目標基準を満たすことができる作目と生産者との組合せの配置を、前記小領域毎に決定する決定工程と、を包含する。
【0009】
本発明の一態様に係る作目配置決定支援装置は、対象地域の圃場において、圃場条件および作目毎に設定される所定の作業基準を満たす圃場領域の規模を基本単位として設定するとともに、基本単位の規模をもつ圃場領域を小領域として設定する設定部と、耕作条件および生産要素賦存量を制約条件とし、収益を目的関数とする最適化モデルを用いて、複数の作目および複数の生産者の中から、前記対象地域全体の収益が所定の目標基準を満たすことができる作目と生産者との組合せの配置を、前記小領域毎に決定する決定部と、を備えている。
【0010】
本発明の各態様に係る作目配置決定支援装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記作目配置決定支援装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記作目配置決定支援装置をコンピュータにて実現させる作目配置決定支援装置の制御プログラム、およびそれを記録した、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、圃場における作目配置を適切に設定する技術を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一態様に係る作目配置決定支援装置の要部構成の一例を示すブロック図である。
図2】本発明の一態様に係る作目配置決定支援装置が実行する作目配置決定処理の概要を示す図である。
図3】本発明の一態様に係る作目配置決定支援装置が実行する最適団地規模の設定ステップを説明する図である。
図4】本発明の一態様に係る作目配置決定支援装置が実行する最適団地の形成ステップを説明する図である。
図5】本発明の一態様に係る作目配置決定支援装置が実行する作目および生産者配置の最適化モデルの構築ステップを説明する図である。
図6】本発明の一態様に係る作目配置決定支援装置が実行する作目および生産者配置の決定ステップを説明する図である。
図7】本発明の一態様に係る作目配置決定支援装置が実行する作目配置決定処理の一例を示すフローチャートである。
図8】実施例において導出した労働時間の推計値と実測値との関係を表すグラフを示す図である。
図9】実施例において導出した総労働時間関数と平均労働時間関数が描くグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔作目配置決定支援装置10〕
図1は、本発明の一態様に係る作目配置決定支援装置10の要部構成の一例を示すブロック図である。作目配置決定支援装置10は、複数の作目および複数の生産者による農地管理力および収益力に優れた農地利用を支援する。
【0014】
中山間水田地帯は、地形が急傾斜、1筆当たりの面積が狭い、畦畔法面が広い等の条件が不利な圃場が多く、農地維持と収益性向上とを両立させることが困難である。すなわち、農地面積を維持するためには、圃場条件が不利な水田も耕作せざるを得ず、その分、収益性が低下する。逆に、収益性を向上させるためには、圃場条件が不利な水田の耕作は放棄せざるを得ず、その場合は農地の維持が困難になる。したがって、中山間水田地帯においては、農地を維持するための農地管理力と、収益性を向上させるための収益力とを同時に引き上げるような農地利用を実現することが求められている。
【0015】
作目配置決定支援装置10は、対象地域の圃場における、複数の作目および複数の生産者の最適な配置を含む農地利用計画を提案することにより、農地管理力および収益力に優れた農地利用を支援する。また、作目配置決定支援装置10は、対象地域の圃場における空間的作目配置により実現される農地管理力及び収益力を定量化して評価することにより、農地管理力および収益力を向上させる最適な作目および生産者の配置の実現を支援する。
【0016】
本明細書において、「農地管理力」は、対象地域の農地面積、生産者1人当たりの耕作面積、単位労働時間当たりの耕作面積等により表される。また、「収益力」は、対象地域全体の農業産出額や同農業所得、生産者1人当たりの農業産出額や同農業所得、単位労働時間当たりの農業産出額や同農業所得等により表される。さらに、本明細書において、「作目配置」は、複数の作目のうちのどの作目を、複数の生産者のうちのどの生産者が、どの圃場で生産するのかを表す情報であり得、「空間的作目配置」または「作目および生産者配置」と表現する場合もある。
【0017】
本明細書において、作目配置決定支援装置10による支援または評価の対象となる「地域」は、農林水産省における農林統計上の「旧村」に対応する小地域であり得、「農地」は、小地域内の「筆」または「団地」を含む「圃場」であり得る。「筆」は、法務局により管理されている登記簿謄本において1つの地番が割り振られた農地の単位(例えば、水田1枚)が意図される。「団地」は、筆の集合からなる「小領域」であり、農業機械を用いた耕作作業が中断されずに継続させることができる筆の集合が意図される。
【0018】
同じ小地域内においても、地形上の傾斜度、標高、1筆当たりの面積、日射量、地力、鳥獣害の発生頻度等の圃場条件は多様である。したがって、作目配置決定支援装置10において、団地単位で農地利用を支援および評価することにより、各団地を含む圃場条件に応じた決め細やかな農地利用計画を提案することができる。
【0019】
作目配置決定支援装置10は、入力装置20、出力装置30、および記憶装置40に、相互に通信可能に接続されている。また、作目配置決定支援装置10、入力装置20、出力装置30、および記憶装置40は、それぞれ独立した装置として構成されていてもよいし、これらの少なくとも2つが一体の装置として構成されていてもよい。
【0020】
入力装置20は、ユーザによる作目配置決定支援装置10に対する入力操作を受け付ける。入力装置20は、一例として、作目配置決定支援装置10において、農地利用計画を作成するために用いる各種データの入力を受け付ける。入力装置20は、タッチパネル、キーボード、マウス等のユーザが操作することによって、作目配置決定支援装置10に入力信号を送信する入力装置であり得る。また、入力装置20は、Web APIを介したユーザからの入力を受け付けるものであり得る。
【0021】
出力装置30は、一例として、作目配置決定支援装置10が作成した農地利用計画を出力する。出力装置30による出力の態様は特に限定されない。出力装置30は、例えば、農地利用計画を画像として表示する表示装置、農地利用計画を印刷する印刷装置、又は、農地利用計画を音声として出力する警報装置であってもよい。また、出力装置30は、作目配置決定支援装置10が作成した農地利用計画を表示する、スマートフォンのようなモバイルデバイスのディスプレイであってもよい。さらに、出力装置30は、Web APIを介してユーザに農地利用計画を出力するものであり得る。
【0022】
記憶装置40は、作目配置決定支援装置10にて使用されるプログラムおよびデータを記憶する。記憶装置40は、一例として、入力装置20を介して入力された各種データを記憶している。また、記憶装置40は、一例として、作目配置決定支援装置10において農地利用計画を作成するために用いる入力情報および出力情報を記憶している。また、記憶装置40は、各種データを記憶するデータベースをクラウド又はサーバ上に有していてもよい。
【0023】
作目配置決定支援装置10は、制御部(情報処理装置)11を備えている。制御部11は、作目配置決定支援装置10の各部を統括して制御するものであり、一例として、プロセッサおよびメモリにより実現される。この例において、プロセッサはストレージ(不図示)にアクセスし、ストレージに格納されているプログラム(不図示)をメモリにロードし、当該プログラムに含まれる一連の命令を実行する。これにより、制御部11の各部が構成される。当該各部として、制御部11は、取得部12、団地規模設定部(設定部)13、団地形成部14、最適化モデル構築部15、作目配置決定部(決定部)16、および評価部17を備えている。
【0024】
作目配置決定支援装置10は、作目配置決定処理により、農地利用計画を作成し得る。作目配置決定支援装置10により作成される農地利用計画は、各団地で生産する作目、および、当該作目を生産する生産者の、対象地域の圃場における配置を表す作目配置が意図される。作目配置決定支援装置10は、対象地域の圃場における作目配置を団地単位で決定することで、農地利用計画を作成し得る。
【0025】
図2は、作目配置決定支援装置10が実行する作目配置決定処理の概要を示す図である。図2に示すように、作目配置決定支援装置10は、ステップ1の最適団地規模の設定、ステップ2の最適団地の形成、ステップ3の作目および生産者配置の最適化モデルの構築、ならびに、ステップ4の作目および生産者配置の決定、の4つのステップにより、作目配置を作成し得る。各ステップの詳細については、後述する。
【0026】
取得部12は、ユーザから入力された入力データを受け付ける。入力データは、作目配置決定支援装置10による作目配置の決定に用いられるデータであり得る。また、取得部12は、ユーザの指示に基づき、作目配置決定支援装置10による作目配置の決定に用いられるデータを、外部のデータベースやWebサイト上から取得する。取得部12は、一例として、国土交通省国土地理院により提供される地理情報システム(GIS)から作目配置の決定に用いられるデータを取得してもよい。作目配置の決定に用いられるデータは、対象地域の圃場条件、生産作目、生産者数等の情報が含まれ得る。
【0027】
団地規模設定部13は、圃場条件および作目毎に設定される所定の作業基準を満たす圃場領域の規模を基本単位として設定する。団地規模設定部13は、対象地域の圃場において複数筆を集約して形成した小領域である団地の面積を団地規模として、作目配置を決定する領域の基本単位として設定する。団地規模設定部13は、農地管理力および収益力に関する作業基準に基づいて作業を行う際に、基本単位となる団地規模を設定することで、農地管理力および収益力に優れた作目配置を決定するために最適な団地規模を設定することができる。
【0028】
農地を効率よく管理するために、作目および生産者を配置する団地の団地規模は大き過ぎても小さ過ぎても適切ではなく、効率的な農地利用に最適な団地規模が存在する。一例を示せば以下のようになる。いま、水田1haでの水稲作を考えた場合、20aの団地を5つ耕作するより、50aの団地を2つ、あるいは1haの団地1つを耕作する方が、団地間の移動、田植時の苗補給、稲刈時の籾排出の頻度やそれらに要する労働時間が少なく、効率的である。したがって、団地規模が大きいほど単位面積当たりの労働時間は減っていく。しかしながら、団地規模が大き過ぎると、1筆当たりの面積が狭い、畦畔法面が広い、といった条件不利圃場を多く引く受けがちになり、この場合は、単位面積当たりの労働時間は増えていく。このように、農地利用の効率は、設定する団地規模の影響を受けるため、最適な団地規模を表す最適団地規模を設定することが好ましい。
【0029】
団地規模設定部13は、圃場条件および作目毎に設定される所定の作業基準を満たすように、最適団地規模を設定する。このような作業基準は、単位面積当たりの労働時間、単位面積当たりの収量、単位面積当たりの費用、単位面積当たりの農業所得等から選択される。一例として、団地規模設定部13は、圃場条件および作目毎に「単位面積当たりの労働時間が最小」となる団地規模を作業基準とする。
【0030】
団地規模設定部13による最適団地規模の設定について、図3を参照して説明する。図3は、作目配置決定支援装置10が実行する最適団地規模の設定ステップを説明する図である。図3に示す例は、団地規模設定の作業基準が、単位面積当たりの労働時間が最小となる場合を示している。
【0031】
この場合、まず、団地規模設定部13は、1団地当たりの面積(S)と1団地当たりの労働時間(H)との関係を表す総労働時間関数(H=H(S,b,C))を導出する。総労働時間関数は、団地毎の圃場条件(b)および作目(C)を説明変数、団地毎の労働時間Hを被説明変数とする回帰式を推計することにより導出される。回帰式の推計に必要なデータの取得方法の例として、以下の2つの方法が挙げられる。1つ目は、対象地域の圃場で実際の農作業を観察し、団地毎、圃場条件(b)毎、作目(C)毎に労働時間を計測することで取得する方法である。2つ目は、主に作業技術分野の既往研究で示されている圃場1筆毎の労働時間の推計式を利用する方法である。2つ目の方法については、特定の作目ついて、筆の形状を示す各種指標(長短辺比、周辺長、面積等)からその筆での農作業に要する労働時間を推計する式が、いくつかの既往研究で示されている。そして、その式を対象地域の圃場の各筆に適用して筆毎の労働時間を推計し、それを足し合わせていくことで、筆の集合である団地としての労働時間を推計する方法である。なお、以上の、1団地当たりの面積(S)、圃場条件(b)(地形上の傾斜度、標高等)、筆の形状を示す各種指標(長短辺比、周辺長等)は、生産者を含む関係者への聞き取りやそれらが保有している資料、GISなどから取得できる。
【0032】
そして、団地規模設定部13は、得られた総労働時間関数(H=H(S,b,C))の両辺を、1団地当たりの面積(S)で除すことにより、平均労働時間関数(h=h(S,b,C))を導出する。団地規模設定部13は、平均労働時間関数の接線の傾きが0となる横軸上の点又は線(点の集合)を、最適団地規模(S)として設定する。このように、最適団地規模(S)は、圃場条件(b)および作目(C)毎に設定される。一例として、対象地域内の、一定の圃場条件をもつ地区iにおける作目jの最適団地規模(S*i )が設定される。
【0033】
団地形成部14は、対象地域の圃場において、複数筆を基本単位毎に集約して、団地を形成する。団地形成部14は、対象地域の圃場において、複数筆を最適団地規模の団地に集約して、最適団地を形成する。団地形成部14による最適団地の形成について、図4を参照して説明する。図4は、作目配置決定支援装置10が実行する最適団地の形成ステップを説明する図である。図4に示すように、団地形成部14は、地区iにおける作目jの最適団地規模(S*i )になるように、地区別および作目別に筆の集合を設定して最適団地を形成する。最適団地の形成は、GISから取得した圃場1筆当たりの面積に関するデータを参照して行うこともできる。地区iにおける作目jの最適団地数(N*i )は、A/S*i (A:地区iの全圃場面積)により表される。図4においては、作目数が3つの場合を例として示している。
【0034】
最適化モデル構築部15は、対象地域全体の収益が所定の目標基準を満たすように、作目と生産者との組合せの配置を、前記基本単位毎に決定し得るモデルを構築する。一例として、最適化モデル構築部15は、生産者毎の保有労働力等を制約条件、収益を目的関数として、複数の作目および複数の生産者の中から、対象地域全体の収益が最大となる生産作目と生産者との組合せの配置を、前記基本単位毎に決定するためのモデルを構築する。
【0035】
最適化モデル構築部15が用いる最適化モデルにおいて、目的関数は、対象地域全体の農業所得、同農業付加価値額、同農業粗生産額等の収益であり得る。また、最適化モデルにおける制約条件は、生産者毎の保有労働力、同保有機械の種類や台数等の生産要素賦存量、ならびに、作目別の耕作面積、生産者毎の耕作圃場等、対象地域の事情や計画に合わせた様々な耕作条件であり得る。さらに、最適化モデルにおいて設定されるプロセス毎の利益係数は、生産者別、作目別、団地別の、農業所得、農業付加価値額、農業粗生産額等であり得、これらは生産者別、作目別、団地別の収量や費用に規定される。そして、これら生産者別、作目別、団地別の収量や費用およびプロセス毎に設定される必要労働時間すなわち労働係数は、圃場条件の影響も受けるが、このような圃場条件については、GISから取得して参照することもできる。
【0036】
最適化モデル構築部15は、上述したような制約条件下において、目的関数を最大にするためのプロセスの稼動水準を導出し得るモデルを構築する。プロセスの稼動水準は、一例として、どの生産者が、どの作目を、どの団地で生産すべきかを表す作目配置である。最適化モデル構築部15は、作目配置の最適解を導出し得るモデルを構築する。
【0037】
最適化モデル構築部15で用いるモデルは、線形計画モデルであることが好ましい。線形計画モデルは、目的関数および制約条件が全て線形式により表された最適化問題を解くためのモデルである。線形計画モデルを用いた作目および生産者の最適化について、図5を参照して説明する。図5は、作目配置決定支援装置10が実行する最適化モデル構築ステップを説明する図である。
【0038】
図5は、f人の生産者と3種類の作目、m個の地区よりなる線形計画モデルを考えた場合、そこで設定すべきプロセスを示している。この場合、生産者、作目、および団地について、考えられる全ての組合せがプロセスとして設定されるので、全プロセス数は、図5中段に示した式の通りとなる。このとき構築される線形計画モデルは、上述のような制約条件の下で、上述のような目的関数を最大化するための、各プロセスの稼動水準を求めるためのモデルとなる。例えば、各生産者の保有労働力が決まっている中、対象地域内の農業所得を最大化するには、どの生産者が、どの作目を、どの団地で生産すべきか、すなわち各プロセスの稼動水準を、最適解として導出できるモデルとなる。なお、線形計画モデルの最適解計算で必要となる単体表は、目的関数と制約条件とを行列形式で表現したものだが、適切な制約条件(制約式)を設定することにより、1つの最適団地には、1つの作目と1つの生産者とが対応するように作成され得る。
【0039】
作目配置決定部16は、最適化モデル構築部15が構築した最適化モデルに基づき、作目と生産者との組合せの配置を、対象地域の圃場における最適団地毎に決定する。
【0040】
評価部17は、対象地域の圃場において小領域毎に決定された配置にしたがって、作目配置マップを生成する。評価部17は、対象地域の圃場において、小領域毎に決定された配置にしたがって、小領域毎の収益、耕作面積および必要労働力を評価する。評価部17は、作目配置決定部16において決定された配置において、各最適団地内で得られる収益、耕作面積および必要労働力を定量化し得る。定量化された収益、耕作面積および必要労働力は、当該配置による農地管理力および収益力の評価に用いられ得る。また、評価部17は、対象地域の圃場において、小領域毎の収益、耕作面積および必要労働力を集計し、対象地域全体の収益、耕作面積および必要労働力を評価してもよい。評価部17は、対象地域の圃場における最適団地毎の収益、耕作面積および必要労働力を集計することにより、対象地域全体の収益、耕作面積および必要労働力等を評価し得る。
【0041】
評価部17による作目配置マップの生成(マップ化工程)について、図6を参照して説明する。図6に示すマップ61は、従来の農地利用形態の評価方法を用いて生成された作目配置マップであり、マップ62は、評価部17によるマップ化工程により生成された作目配置マップである。
【0042】
マップ61では、各団地内において異なる作目が異なる生産者により生産されるように配置されており、作目および生産者がモザイク状に配置されている。マップ61において、団地61aには、作目1を生産する生産者1および作目2を生産する生産者2が配置されている。また、団地61bおよび団地61cにおいても同様に、異なる作目および異なる生産者がモザイク状に配置されている。
【0043】
一方、マップ62は、各団地内おいて1つの作目が1つの生産者により生産されるように配置されている。マップ62において、団地62aには、作目1を生産する生産者1のみが配置されている。同様に、団地62bには、作目2を生産する生産者2のみが配置されており、団地62cには、作目3を生産する生産者3のみが配置されている。
【0044】
従来の方法では、複数の作目および複数の生産者を配置することを想定しておらず、また、団地単位ではなく筆単位で配置しているため、作目および生産者について集約した配置を実現することが困難である。マップ61のように作目および生産者がモザイク状に配置されると、非効率であり、農地管理力および収益力が低下する。一方、マップ62は、作目および生産者が同一団地内において集約しているため、効率的な農地利用が可能であり、農地管理力および収益力に優れている。
【0045】
作目配置決定支援装置10は、作目配置の決定を支援することにより、圃場における作目配置を適切に設定する技術を実現する。作目配置決定支援装置10は、農地管理力および収益力に優れた作目配置を決定し得る。これにより、中山間水田地帯のように圃場条件が不利な農地であっても、農地管理力と収益力とを同時に引き上げるような農地利用を実現することができる。
【0046】
作目配置決定支援装置10によれば、作目配置の見直しにおいて、農業所得の最大化や農地維持等の目標、および、労働力賦存量等の制約が異なる様々なシナリオのシミュレーションを行うことができる。このようなシミュレーション結果を農地利用計画の改善に利用することにより、生産者や地権者等の利害関係者間の合意形成の円滑化を図ることができる。
【0047】
さらに、作目配置決定支援装置10によれば、ある作物の必要量を確保するための対象地域の圃場における作目配置を決定し、その必要労働力を定量化することができる。これらの情報を利用することで、複数の団地からなる対象地域の圃場全体を、特産農産物等を生産するための1つの農場として見立てた「一村一農場型ビジネスモデル」等の展開を後押しすることもできる。
【0048】
〔作目配置決定支援方法〕
本発明の一態様に係る作目配置決定支援方法は、対象地域の圃場において、圃場条件および作目毎に設定される所定の作業基準を満たす圃場領域の規模を基本単位として設定するとともに、基本単位の規模をもつ圃場領域を小領域として設定する設定工程と、耕作条件および生産要素賦存量を制約条件とし、前記対象地域全体の収益を目的関数とする最適化モデルを用いて、複数の作目および複数の生産者の中から、前記対象地域全体の収益が所定の目標基準を満たすことができる作目と生産者との組合せの配置を、前記小領域毎に決定する決定工程と、を包含する。作目配置決定支援方法において、各工程は、情報処理装置により実行される。すなわち、作目配置決定支援方法は、作目配置決定支援装置10により実行される作目配置決定処理の一態様であり得る。
【0049】
作目配置決定支援装置10による作目配置決定処理の流れについて、図7を参照して説明する。図7は、本発明の一態様に係る作目配置決定支援装置が実行する作目配置決定処理の一例を示すフローチャートである。図7に示すように、まず、取得部12は、作目配置の決定に用いられるデータを取得する(ステップS11)。次に、団地規模設定部13は、取得部12が取得したデータを用いて、単位面積当たりの労働時間が最小となる団地規模を最適団地規模として設定する(ステップS12、設定工程)。そして、団地形成部14は、対象地域の圃場において、複数筆を集約することにより、団地規模設定部13が設定した最適団地規模をもつ最適団地を形成する(ステップS13、形成工程)。
【0050】
最適化モデル構築部15は、生産者毎の保有労働力等を制約条件とし、収益を目的関数とする線形計画モデルを用いて、対象地域全体の収益が最大となる作目と生産者との組合せの配置を、最適団地毎に決定するためのモデルを構築する(ステップS14、最適化モデル構築工程)。次に、作目配置決定部16は、最適化モデル構築部15が構築した最適化モデルを利用して、作目と生産者との組合せの配置を最適団地毎に決定する(ステップS15、決定工程)。そして、評価部17は、決定した作目配置をマップ化するとともに、その時に実現する対象地域全体の収益、耕作面積および必要労働力を計算し、マップを含む以上の結果を出力装置30に出力し(ステップS16、評価工程)、処理を終了する。
【0051】
このような構成によれば、農業の維持および発展につながる。このような効果は、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標2「飢餓をゼロに」や目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」等の達成にも貢献するものである。
【0052】
〔ソフトウェアによる実現例〕
作目配置決定支援装置10(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部11に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0053】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0054】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0055】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0056】
また、上記実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0057】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0058】
〔平均労働時間及び団地規模からの最適団地規模の導出方法〕
岡山県内の集落Fにおいて、以下に示すように、水稲作の最適団地規模を導出した。
まず、総労働時間と団地規模(1団地当たりの面積)との関係式である総労働時間関数を導出した。次に、導出した総労働時間関数から平均労働時間関数を導出し、平均労働時間関数が描く、団地規模と平均労働時間との組合せの曲線の形状から、平均労働時間が最低となる団地規模を特定し、最適団地規模として導出した。
【0059】
ここで総労働時間関数は、団地規模(S)と1団地当たりの労働時間(H)との関係を表す関数(H=H(S,b,C))である。集落Fは、農林統計上の地理的範域の最小単位である農業集落であるため、地形的要因に関連する圃場条件(b)は、集落F内で一定と仮定でき、また、分析対象作目は水稲のみのため作目(C)も一定である。したがって、本実施例においては、総労働時間関数を、H=H(S)とした。平均労働時間関数(h=h(S,b,C))についても、同様に、h=h(S)となり、総労働時間関数の両辺をSで除することにより導出した。
【0060】
なお、集落Fの農地は中山間水田であるため、中山間水田特有の多様な筆形状(区画形状)の影響を考慮した、1筆当たりの労働時間を取得し、それらを足し合わせることにより、筆の集合である団地当たりの労働時間を取得した。
【0061】
1筆あたりの労働時間を取得する方法として、集落F内の全ての水田について、実際の農作業を観察し労働時間を実測する方法、又は、圃場1筆毎の労働時間の推計式を利用する方法が挙げられる。本実施例においては、圃場1筆毎の労働時間の推計式を用いて、1筆当たりの労働時間を取得した。圃場1筆毎の労働時間の推計式は、作業技術分野のいくつかの既往研究において、特定の作目ついて、筆の形状を示す各種指標(長短辺比、周辺長、面積等)から、その筆における農作業に要する労働時間を推計する式として提示されている式を用いた。
【0062】
なお、労働時間は、水稲作において、春秋の労働ピークを形成する田植えと稲刈りの合計労働時間とした。田植えの労働時間は、細川ら(細川雅敏・井上久義・内田晴夫(2002)「乗用田植機の作業能率からみた傾斜地水田のまち直し整備」『農業土木学会誌』70(3) 219-222)に記載の下記式(1)を用いて導出した。稲刈りの労働時間は、八木ら(八木洋憲・大呂興平・山下裕作・植山秀紀(2003)「中山間地域における経済的用地分級のための基礎係数の推計」『2003年度日本農業経済学会論文集』:120-122)に記載の下記式(2)により導出した。
【0063】
田植えの労働時間=a+b×LOG(面積)+c×(形状係数)・・・・・・(1)
稲刈りの労働時間=d+e×(面積)+f×(短辺長)+g×(周辺長)・・(2)
式(1)及び(2)中、a~gは、推計すべきパラメータを表し、カッコ内は説明変数であり、各筆の値(実測値又はGIS上での計測値)を代入した。LOGは常用対数(底=10)であり、形状係数は、整形圃場の場合は(長辺長/短辺長)であり、不整形圃場の場合は(外周2点間最大長)/面積である。
【0064】
上記式(1)及び(2)のパラメータの推計に必要なデータは、集落Fの生産者の作業を対象とした、タイムスタディを実施して取得した。タイムスタディとは、田植えについては植付や苗補給、稲刈りについては刈取や籾排出といった、作業工程別の所要労働時間を実際の作業観察により記録する方法である。タイムスタディにより取得したデータは、上記式(1)及び(2)のパラメータを推計するための基礎データとした。上記式(1)及び(2)により、分析対象となる水田全116筆について、田植え及び稲刈りに要する労働時間を導出した。
【0065】
総労働時間関数は、各筆を面積が小さい順に並べ、横軸に累積面積(団地規模)、縦軸に累積労働時間(田植え+稲刈り)をとって、各筆のデータをプロットし、回帰式を求めることで導出した。そして、得られた総労働時間関数の両辺を団地規模(S)で除すことにより、平均労働時間関数を導出した。このようにして導出した平均労働時間関数は、平均労働時間(h:単位面積当たりの労働時間)と団地規模(S)との関係式であり、S-h座標平面上に描画することで形状を把握した。そして、hが最も小さいときのSを「単位面積当たりの労働時間が最小」となる団地規模として定義される最適団地規模とした。
【0066】
〔最適団地規模を導出するためのデータの取得〕
田植えのタイムスタディは、2022年5月14~15日及び19~20日に実施した。使用した8条植田植機にカメラ及びGPSを装着し、それらに記録された作業圃場と、植付や苗補給等の工程別の労働時間とを確認及び集計することで、上記式(1)による田植えの労働時間を導出するためのデータセットを取得した。
【0067】
稲刈りのタイムスタディは、2021年9月23~25日に実施した。作業を観察しながら、作業圃場と、4条刈自脱型コンバインを用いた刈取や籾搬出等の工程別の労働時間とを調査票に記録し、その記録に基づき、上記式(2)による稲刈り期の労働時間を導出するためのデータセットを取得した。
【0068】
〔最適団地規模の導出〕
タイムスタディにより取得したデータを用いて、上記式(1)及び(2)により、田植えの労働時間及び稲刈りの労働時間を下記の通り導出した。
【0069】
田植時間(時間/筆)=-1.389+1.603*LOG(面積(a))+0.163*LOG(形状係数) (1’)
稲刈時間(時間/筆)=0.022+0.041・面積(a)+0.005・短辺長(m)+0.0002・周辺長(m) (2’)
上記(1’)及び(2’)により導出した労働時間の推計値と実測値との関係を表すグラフを図8に示す。図8に示すように、労働時間の推計値と実測値とは、高い相関を示し、中山間水田特有の多様な区画形状に応じた労働時間が高い精度で推計できる、労働時間推計式が得られた。
【0070】
導出した労働時間及び団地規模から、上述した方法により総労働時間関数及び平均労働時間関数を導出した。総労働時間関数及び平均労働時間関数をそれぞれ示すグラフを図9に示す。図9に示すグラフには、総労働時間関数H=H(S)を導出するためのデータセットとして用いた、団地規模と総労働時間の組合せのデータも示している。また、上記で述べたように、平均労働時間関数h=h(S)は、総労働時間関数の両辺を団地規模Sで除することにより導出したが、団地毎の総労働時間を当該の団地規模で除することで得らえる平均労働時間のデータも図9に示している。総労働時間関数及び平均労働時間関数は、これらのデータをほぼトレースしており、現実的に有効な関数であった。
【0071】
総労働時間関数が描く曲線の形状は、上に凸の右上がりの曲線になった。つまり、団地規模が大きくなるほど総労働時間は増えるが、その増え方(接線の傾き)は漸減した。その結果、総労働時間関数の両辺を団地規模(S)で除して求められる平均労働時間関数が描く曲線の形状は、L字型となった。
【0072】
ここで、上述した方法により求めた団地規模と平均労働時間との組合せのデータを考慮すると、団地規模がおよそ2haの場合に平均労働時間が最も少なく、それ以上団地規模を拡大しても、平均労働時間はほぼ減少しなかった。したがって、最適団地規模(S)、すなわち単位面積当たりの労働時間が最小となるという意味で最も作業効率のよい団地規模の下限は、およそ2haと判断できる。
【符号の説明】
【0073】
10 作目配置決定支援装置
13 団地規模設定部(設定部)
14 団地形成部
15 最適化モデル構築部
16 作目配置決定部(決定部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9