(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121814
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】エチレン-ビニルエステル系共重合体の製造方法およびエチレン-ビニルアルコール系共重合体
(51)【国際特許分類】
C08F 210/02 20060101AFI20240830BHJP
C08F 218/08 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
C08F210/02
C08F218/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024026221
(22)【出願日】2024-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2023028303
(32)【優先日】2023-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】河島 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】小西 洋平
(72)【発明者】
【氏名】矢野 友健
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AA02P
4J100AG04Q
4J100CA04
4J100DA01
4J100DA04
4J100FA03
4J100FA19
4J100JA59
(57)【要約】
【課題】低圧下での重合が可能で、生産性が良好となるエチレン-ビニルエステル系共重合体の製造方法を提供する。また、異種結合が少なく、成形加工性が良好なエチレン-ビニルアルコール系共重合体を提供する。
【解決手段】エチレンおよびビニルエステル系モノマーをラジカル重合開始剤の存在下に共重合するに際し、重合溶媒としてジアルキルカーボネートを使用するするエチレン-ビニルエステル系共重合体の製造方法。およびそれをケン化して得られるエチレン-ビニルアルコール系共重合体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンおよびビニルエステル系モノマーをラジカル重合開始剤の存在下に共重合するに際し、重合溶媒としてジアルキルカーボネートを使用する、エチレン-ビニルエステル系共重合体の製造方法。
【請求項2】
前記ジアルキルカーボネートのアルキル基の炭素数が1~4である、請求項1記載のエチレン-ビニルエステル系共重合体の製造方法。
【請求項3】
前記ジアルキルカーボネートが、ジメチルカーボネートおよびジエチルカーボネートの少なくとも一方である、請求項1または2に記載のエチレン-ビニルエステル系共重合体の製造方法。
【請求項4】
エチレン単位、ビニルアルコール単位、およびビニルエステル単位を含むエチレン-ビニルアルコール系共重合体において、前記単位の合計に対する前記エチレン単位の比率が25~45モル%であり、前記共重合体の重合体末端におけるメチロール単位の比率が0.05モル%以下であり、前記共重合体の210℃、荷重2160gでのメルトフローレートが4.5以下である、エチレン-ビニルアルコール系共重合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低圧下での重合が可能で、生産性が良好となるエチレン-ビニルエステル系共重合体の製造方法に関するものである。また、成形加工性が良好で高いガスバリアが期待できるエチレン-ビニルアルコール系共重合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エチレン-ビニルアルコール系共重合体は、エチレンとビニルエステル系モノマーとの共重合体であるエチレン-ビニルエステル系共重合体をケン化させることにより得られる熱可塑性樹脂である。上記ビニルエステル系モノマーは、経済的な面から、一般的には酢酸ビニルが用いられる。
【0003】
ここでエチレンとビニルエステル系モノマーとの共重合体であるエチレン-ビニルエステル系共重合体を製造するに際し、従来より、重合溶媒としてメタノール、t-BuOH等の炭素数4以下のアルコールや、炭素数4以下のアルコールを主とする混合溶媒等が使用されている。
【0004】
例えば特許文献1では、ビニルアルコール系共重合体の製造方法において、重合溶媒としてアルコールまたはアルコールを主とする混合溶媒、具体的にはメタノールを使用することが開示されている。また、例えば、特許文献2では、エチレン-ビニルエステル系共重合体の製造方法において、重合溶媒として酢酸メチルを使用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61-197603号公報
【特許文献2】特開昭42-22055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、重合溶媒としてメタノールや酢酸メチルを用いた場合、得られるエチレン-ビニルエステル系共重合体の分子量が低いという問題があった。また、重合開始剤を減らしてエチレン-ビニルエステル系共重合体の分子量を上げようとすると、重合速度が低下し生産性が下がってしまう。一方で、建設費コストダウンの目的から、反応圧力の低圧化を図ること、すなわち、低圧下での重合が可能で、生産性が良好なエチレン-ビニルエステル系共重合体の製造方法が求められている。
また、成形加工性やガスバリア性が良好なエチレン-ビニルアルコール系共重合体も求められている。
【0007】
そこで、本発明ではこのような背景の下において、低圧下での重合が可能で、生産性が良好となるエチレン-ビニルエステル系共重合体の製造方法と、成形加工性が良好で、異種結合が少ないエチレン-ビニルアルコール系共重合体とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
しかるに本発明者等は、かかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、エチレンおよびビニルエステル系モノマーをラジカル重合開始剤の存在下に共重合する際の重合溶媒に着目し、重合溶媒としてジアルキルカーボネートを使用することにより、低圧下での重合が可能で、生産性が良好となることを見出した。
また、ジアルキルカーボネートを使用することでエチレン-ビニルアルコール系共重合体は、末端メチロール量が従来既知の溶媒使用時より同等もしくは減少することと分子量が増大することが分かり、このことからエチレン-ビニルアルコール系共重合体の成形加工性が改善することを見出した。
さらに、エチレン-ビニルアルコール系共重合体の異種結合が従来既知の溶媒使用時より同等もしくは少ないことからガスバリア性向上が期待できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
具体的には、従来重合溶媒として用いられてきたメタノールよりエチレン溶解度が高い溶媒を使用すると、溶液中のエチレン濃度が増大し、酢酸ビニルよりエチレンからの連鎖が遅いことから重合度が上がらないはずであるが、ジアルキルカーボネートを重合溶媒として用いると、メタノールよりエチレン溶解度が高いために反応圧力の低圧化を図れるだけでなく、意外なことにメタノールを用いるよりエチレン-ビニルエステル系共重合体の分子量の向上が可能である。これにより、重合開始剤を減らさずとも分子量を上げることができ、重合速度や生産性の低下を防ぐことができることを見出したものである。
【0010】
また、ジアルキルカーボネートを重合溶媒として用いて得られたエチレン-ビニルアルコール系共重合体は、末端メチロール量が従来既知の溶媒使用時より同等もしくは減少することから融点が低下する、分子量が増大することからMFRが低下する。これにより、従来のエチレン-ビニルアルコール系共重合体と比較して成形加工性を調整することができることを見出したものである。
さらに、エチレン-ビニルアルコール系共重合体中の異種結合を従来既知の溶媒使用時より同等もしくは少なくすることができる。これにより、結晶化度が向上し、ガスバリア性向上が期待できることを見出したものである。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の態様を有する。
[1]
エチレンおよびビニルエステル系モノマーをラジカル重合開始剤の存在下に共重合するに際し、重合溶媒としてジアルキルカーボネートを使用する、エチレン-ビニルエステル系共重合体の製造方法。
[2]
前記ジアルキルカーボネートのアルキル基の炭素数が1~4である、[1]記載のエチレン-ビニルエステル系共重合体の製造方法。
[3]
前記ジアルキルカーボネートが、ジメチルカーボネートおよびジエチルカーボネートの少なくとも一方である、[1]または[2]に記載のエチレン-ビニルエステル系共重合体の製造方法。
[4]
エチレン単位、ビニルアルコール単位、およびビニルエステル単位を含むエチレン-ビニルアルコール系共重合体において、前記単位の合計に対する前記エチレン単位の比率が25~45モル%であり、前記共重合体の重合体末端におけるメチロール単位の比率が0.05モル%以下であり、前記共重合体の210℃、荷重2160gでのメルトフローレートが4.5以下である、エチレン-ビニルアルコール系共重合体。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、重合溶媒としてジアルキルカーボネートを使用することで、低圧下での重合が可能で、生産性が良好となる。また、エチレン-ビニルアルコール系共重合体の末端メチロール量が同等か低減すると共に分子量が増大することから成形加工性が改善することができ、異種結合が同等か減少することからガスバリア性向上が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明を実施するための形態の例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が、次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本明細書において、「主とする」とは、対象物中の最も多い構成をさし、通常、対象物中の50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上、殊に好ましくは90質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0015】
また、本明細書において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」または「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)または「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」または「Y未満であることが好ましい」旨の意も包含する。
さらに、「Xおよび/またはY(X,Yは任意の構成)」とは、XおよびYの少なくとも一方を意味するものであって、Xのみ、Yのみ、XおよびY、の3通りを意味するものである。
そして、段階的に記載されている数値範囲については、ある段階の数値範囲の上限値または下限値を、他の段階の数値範囲の上限値または下限値と任意に組み合わせることができる。また、本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値または下限値は、実施例に示されている値に置き換えることもできる。
【0016】
本発明の一実施形態に係るエチレン-ビニルエステル系共重合体の製造方法(以下、「本製法」という場合がある)は、エチレンおよびビニルエステル系モノマーをラジカル重合開始剤の存在下に共重合するに際し、重合溶媒としてジアルキルカーボネートを使用する。
【0017】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、市場からの入手のしやすさや製造時の不純物の処理効率がよい点から、代表的には酢酸ビニルが用いられる。他のビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等が挙げられ、通常炭素数3~20、好ましくは炭素数4~10、より好ましくは炭素数4~7の脂肪族ビニルエステルを用いることができる。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0018】
上記エチレンおよび上記ビニルエステル系モノマーは、通常はナフサ等の石油由来の原料が用いられているが、シェールガス等天然ガス由来の原料や、さとうきび、テンサイ、トウモロコシ、ジャガイモ等に含まれる糖、デンプン等の成分、またはイネ、麦、キビ、草植物等に含まれるセルロース等の成分から精製した植物由来の原料からのモノマーを用いてもよい。
【0019】
また、本製法においては、エチレンおよびビニルエステル系モノマー以外で、これらと共重合可能な以下に示すコモノマー(「その他のコモノマー」と称する)を本発明の効果を阻害しない範囲(例えば10質量%以下)で、共重合させてもよい。
【0020】
その他のコモノマーとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン類;3-ブテン-1-オール、3-ブテン-1,2-ジオール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1,2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物等の誘導体;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはアルキル基の炭素数1~18のモノまたはジアルキルエステル類;アクリルアミド、アルキル基の炭素数1~18のN-アルキルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類;メタアクリルアミド、アルキル基の炭素数1~18のN-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、2-メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類;N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルアミド類;アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;アルキル基の炭素数1~18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物類;トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類;酢酸アリル、塩化アリル等のハロゲン化アリル化合物類;アリルアルコール、ジメトキシアリルアルコール等のアリルアルコール類;トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のコモノマーが挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0021】
上記ラジカル重合開始剤としては、例えば、アゾ化合物、有機過酸化物等を用いることができる。
【0022】
上記アゾ化合物としては、例えば、2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)(V-65)、2,2’-アゾビス-(2,4,4-トリメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス-(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(V-70)、2,2’-アゾビス-(2-メチルイソブチラート)等が挙げられ、なかでも、AIBNが好ましく用いられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0023】
上記有機過酸化物としては、例えば、t-ブチルパーオキシネオデカノエート(ルぺロックス10)、t-アミルパーオキシネオデカノエート(ルぺロックス546)、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート(ルぺロックス810)、t-オクチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキノエート等のアルキルパーオキシエステル類;ビス-(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシ-ジカーボネート、ジシクロヘキシルパーオキシ-ジカーボネート、ビス(2-エチルヘキシル)ジ-sec-ブチルパーオキシ-ジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシ-ジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類;アセチルパーオキシド、ジベンゾイルパーオキサイド(BPO)、ラウロイルパーオキシド、ジラウロイルパーオキシド、ジデカノイルパーオキシド、ジオクタノイルパーオキシド、ジプロピルパーオキシド等のパーオキシド類等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0024】
上記ラジカル重合開始剤の使用量はビニルエステル系モノマー100質量部に対し通常0.001~1.0質量部、好ましくは0.01~0.5質量部である。重合開始剤の仕込み量により、重合熱の除去を調節すると共に、共重合体の極限粘度等に係わる重合速度の調節を実施する。
【0025】
上記ジアルキルカーボネートとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、メチルシクロプロピル等が挙げられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。なかでも、アルキル基の炭素数が1~4であるジアルキルカーボネートが好ましく、より好ましくはジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートである。
【0026】
上記ジアルキルカーボネートの使用量は、ビニルエステル系モノマー100質量部に対し通常1~120質量部であり、好ましくは10~60質量部であり、より好ましくは20~30質量部である。
【0027】
また、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば全重合溶媒の5質量%以下)で他の重合溶媒を混合してもよい。
【0028】
本製法における重合は、公知の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合等に用いることができるが、なかでも溶液重合に好ましく用いられる。重合方式は、連続式、回分式のいずれであってもよい。
【0029】
上記溶液重合は、通常、重合缶にビニルエステル系モノマー、ラジカル重合開始剤およびジアルキルカーボネート(重合溶媒)を含有させた溶液を投入し、当該溶液を撹拌しながら、エチレンを圧入し加温して重合させることにより行う。エチレン圧は、通常1~4MPa程度である。
【0030】
重合温度は、通常20~90℃、好ましくは40~70℃である。重合時間は、通常1~15時間、好ましくは1~6時間である。連続式重合の場合には重合缶内の平均滞留時間が同程度の時間であることが好ましい。
【0031】
所定の重合率に達したら、重合を停止させる。重合率は、仕込みビニルエステル系モノマーに対して、通常10~90モル%、好ましくは30~80モル%である。また、重合後の溶液中の樹脂分は、通常5~85質量%、好ましくは20~70質量%である。
【0032】
上記重合の停止は、通常、重合禁止剤を添加することにより行われる。重合禁止剤としては、m-ジニトロベンゼン、N,N-ジアルキルヒドロキシルアミン、スチレン誘導体、ハイドロキノン誘導体、キノン誘導体、ピペリジン誘導体、ソルビン酸等の共役ポリエン等を用いることができる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0033】
重合禁止剤の使用量は、通常ビニルエステル系モノマー100質量部に対し通常0.01~4質量部であり、好ましくは0.1~2質量部であり、より好ましくは0.2~1質量部である。
【0034】
重合終了後のエチレン-ビニルエステル系共重合体溶液から、必要に応じて未反応のエチレンガス、未反応のビニルエステル系モノマーを除去することによりエチレン-ビニルエステル系共重合体を回収することができる。
【0035】
上記未反応のエチレンガスは、例えば、蒸発除去等によって除去することができる。また、エチレン-ビニルエステル系共重合体溶液から未反応のビニルエステル系モノマーを除去する方法としては、例えば、ラシヒリングを充填した塔の上部から該エチレン-ビニルエステル系共重合体溶液を一定速度で連続的に供給し、塔下部よりメタノール等の有機溶剤蒸気を吹き込み、塔頂部よりメタノール等の有機溶剤と未反応ビニルエステル系モノマーとの混合蒸気を流出させ、塔底部より未反応ビニルエステル系モノマーを除去したエチレン-ビニルエステル系共重合体溶液を取り出す方法等を採用することができる。
【0036】
本製法により得られるエチレン-ビニルエステル系共重合体は、以下のような組成を有することが好ましい。
【0037】
エチレン-ビニルエステル系共重合体におけるエチレン構造単位の含有量(エチレン含量)は、ISO14663に基づいて測定した値で、通常20~60モル%であり、好ましくは25~50モル%、より好ましくは25~35モル%である。
【0038】
一般に、エチレン-ビニルエステル系共重合体のエチレン含量が25モル%未満であると、得られるエチレン-ビニルアルコール系共重合体は耐水性、吸水性、膨潤性等が良好となる傾向があり、またエチレン含量が45モル%以上であると、得られるエチレン-ビニルアルコール系共重合体は柔軟性が良好で成形性が良好となる傾向があり、さらにエチレン含量が25~45モル%であると、得られるエチレン-ビニルアルコール系共重合体は耐久性、機械的強度が良好となる傾向がある。エチレン含量等の幅を拡張することにより改良された製品として各種用途分野での性能向上に資することが期待される。
【0039】
エチレン-ビニルエステル系共重合体における酢酸ビニル転化率は、通常1~90質量%、好ましくは5~80質量%、より好ましくは8~70質量%である。酢酸ビニル転化率は後述する酢酸ビニル転化率測定に準じて測定することができる。
【0040】
エチレン-ビニルエステル系共重合体における重量平均分子量(Mw)は、通常80~700000、好ましくは90~600000、より好ましくは100~500000である。なお、重量平均分子量(Mw)は、後述するGPC測定に準じて測定することができる。
【0041】
エチレン-ビニルエステル系共重合体における分子量分布(Mw/Mn)(PDI)は、通常0.5~10、好ましくは1~6、より好ましくは1.5~5である。なお、PDIは、後述するGPC測定に準じて求めることができる。
【0042】
上記のようにして製造したエチレン-ビニルエステル系共重合体は、目的に応じた用途に用いることができるが、さらにこれをケン化することにより、エチレン-ビニルアルコール系共重合体(以下、「EVOH」と称することがある)を製造することができる。
【0043】
ケン化は、公知の方法により行うことができる。通常、上記未反応ビニルエステル系モノマーを除去したエチレン-ビニルエステル系共重合体溶液に、ケン化用アルカリ触媒を添加することによりケン化反応が開始する。
また、ケン化の方式としては、連続式、回分式いずれも可能である。
上記ケン化用触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アルカリ金属アルコラート等のアルカリ触媒が用いられる。
【0044】
ケン化条件は、使用するケン化用触媒、エチレン-ビニルエステル系共重合体のエチレン含有率、所望のケン化度等により異なる。例えば、回分式の場合の好適なケン化条件は次の通りである。
ケン化反応温度は30~60℃、ケン化用触媒の使用量は通常0.001~0.6当量(ビニルエステル基当り)が好ましい。ケン化時間は、ケン化条件、目的とするケン化度に依存するが、通常1~6時間から選択される。ケン化度は、例えば、JIS K6726(ただし、EVOHは水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液にて)に準じて計測することができる。
【0045】
このようにしてEVOHの溶液またはスラリーが得られる。EVOHの溶液またはスラリーにおけるEVOHの含有率は、10~50質量%程度とすることが好ましい。また、このEVOHの溶液またはスラリーは、溶媒を用いて含有率を調整することも可能であり、溶媒としては、通常、メタノール等のアルコール、水/アルコール混合液が好ましく用いられる。
【0046】
上記EVOHは、さらに、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」が施されていてもよい。
【0047】
以上のようなEVOHは、エチレン由来の構造単位とビニルアルコール構造単位を主とし、必要に応じてケン化されずに残存した若干量のビニルエステル構造単位が通常含まれる。その他のコモノマーを共重合した場合、当該コモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれる。
【0048】
上記EVOHは、エチレン単位、ビニルアルコール単位、およびビニルエステル単位を含むが、かかる前記単位の合計に対する前記エチレン単位の比率は、25~45モル%であり、好ましくは27~40モル%、より好ましくは28~38モル%である。かかる範囲においては、エチレン-ビニルアルコール系共重合体の末端メチロール量が同等か低減すると共に分子量が増大することから成形加工性が改善することができ、異種結合が同等か減少することからガスバリア性向上が期待できる。
【0049】
上記EVOHは、共重合体の重合体末端におけるメチロール単位を含むが、かかる前記メチロールの比率は、0.05モル%以下であり、好ましくは0.04モル%以下であり、より好ましくは0.03モル%以下である。かかる範囲においては、融点低下に起因した成形加工性の改善が期待できる。
【0050】
上記EVOHの210℃、荷重2160gでのメルトフローレートは、4.5以下であり、好ましくは4以下であり、より好ましくは3.5以下である。かかる範囲においては、ノズルやバレル内で流速分布ができにくく、壁面付近まで樹脂が流れるため樹脂の滞留が起きにくい点が期待できる。
【実施例0051】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」とあるのは、質量基準を意味する。
【0052】
[実施例1]
素雰囲気下の誘導撹拌式オートクレーブの胴側に酢酸ビニル460部、ジメチルカーボネート101.8部を加え、内筒管にAIBNのメタノール溶液178質量ppmを加えた。上記誘導撹拌式オートクレーブの胴に内筒管からAIBNを導入した後、67℃、エチレン圧1MPaに昇温昇圧し重合を開始させた。1時間撹拌した後、ソルビン酸1部を加え23℃に冷やして重合を停止させた。減圧乾燥することでエチレン-ビニルエステル系共重合体(粗生成物)を得た。
【0053】
[実施例2]
エチレン圧2MPaを用いた以外は、実施例1と同様にして重合を行った。
【0054】
[実施例3]
エチレン圧4MPaを用いた以外は、実施例1と同様にして重合を行った。
【0055】
[実施例4]
窒素雰囲気下の誘導撹拌式オートクレーブの胴側に酢酸ビニル460部、ジエチルカーボネート98.2部を加え、内筒管にAIBNのメタノール溶液178質量ppmを加えた。上記誘導撹拌式オートクレーブの胴に内筒管からAIBNを導入した後、67℃、エチレン圧1MPaに昇温昇圧し重合を開始させた。1時間撹拌した後、ソルビン酸1部を加え23℃に冷やして重合を停止させた。減圧乾燥することでエチレン-ビニルエステル系共重合体(粗生成物)を得た。結果を後記の表1に示す。
【0056】
[実施例5]
エチレン圧2MPaを用いた以外は、実施例4と同様にして重合を行った。
【0057】
[実施例6]
エチレン圧4MPaを用いた以外は、実施例4と同様にして重合を行った。
【0058】
[比較例1]
窒素雰囲気下の誘導撹拌式オートクレーブの胴側に酢酸ビニル460部、メタノール75.0部を加え、内筒管にAIBNのメタノール溶液178質量ppmを加えた。上記誘導撹拌式オートクレーブの胴に内筒管からAIBNを導入した後、67℃、エチレン圧1MPaに昇温昇圧し重合を開始させた。1時間撹拌した後、ソルビン酸1部を加え23℃に冷やして重合を停止させた。減圧乾燥することでエチレン-ビニルエステル系共重合体(粗生成物)を得た。
【0059】
[比較例2]
エチレン圧2MPaを用いた以外は、比較例1と同様にして重合を行った。
【0060】
[比較例3]
エチレン圧4MPaを用いた以外は、比較例1と同様にして重合を行った。
【0061】
[比較例4]
窒素雰囲気下の誘導撹拌式オートクレーブの胴側に酢酸ビニル460部、エタノール75.0部を加え、内筒管にAIBNのメタノール溶液178質量ppmを加えた。上記誘導撹拌式オートクレーブの胴に内筒管からAIBNを導入した後、67℃、エチレン圧2MPaに昇温昇圧し重合を開始させた。1時間撹拌した後、ソルビン酸1部を加え23℃に冷やして重合を停止させた。減圧乾燥することでエチレン-ビニルエステル系共重合体(粗生成物)を得た。
【0062】
[比較例5]
窒素雰囲気下の誘導撹拌式オートクレーブの胴側に酢酸ビニル460部、酢酸メチル88.4部を加え、内筒管にAIBNのメタノール溶液178質量ppmを加えた。上記誘導撹拌式オートクレーブの胴に内筒管からAIBNを導入した後、67℃、エチレン圧1MPaに昇温昇圧し重合を開始させた。1時間撹拌した後、ソルビン酸1部を加え23℃に冷やして重合を停止させた。減圧乾燥することでエチレン-ビニルエステル系共重合体(粗生成物)を得た。
【0063】
[比較例6]
エチレン圧2MPaを用いた以外は、比較例5と同様にして重合を行った。
【0064】
[比較例7]
エチレン圧4MPaを用いた以外は、比較例5と同様にして重合を行った。
【0065】
[実施例7]
重合時間を2時間に変更した以外は、実施例1と同様にして重合を行った。
【0066】
[実施例8]
重合時間を3時間に変更した以外は、実施例1と同様にして重合を行った。
【0067】
[比較例8]
重合時間を2時間に変更した以外は、比較例1と同様にして重合を行った。
【0068】
[比較例9]
重合時間を3時間に変更した以外は、比較例1と同様にして重合を行った。
【0069】
[比較例10]
重合時間を2時間に変更した以外は、比較例5と同様にして重合を行った。
【0070】
[比較例11]
重合時間を3時間に変更した以外は、比較例5と同様にして重合を行った。
【0071】
[実施例9]
重合時間を3時間に変更した以外は、実施例3と同様にして重合を行った。
【0072】
[実施例10]
重合時間を6時間に変更した以外は、実施例3と同様にして重合を行った。
【0073】
[比較例12]
重合時間を3時間に変更した以外は、比較例3と同様にして重合を行った。
【0074】
[比較例13]
重合時間を6時間に変更した以外は、比較例3と同様にして重合を行った。
【0075】
[比較例14]
重合時間を3時間に変更した以外は、比較例7と同様にして重合を行った。
【0076】
[比較例15]
重合時間を6時間に変更した以外は、比較例7と同様にして重合を行った。
【0077】
[ケン化手順:実施例11]
ナスフラスコに実施例7で得られたエチレン-ビニルエステル共重合体を入れて、所定量のメタノールを加えた。70℃水浴で溶解させて、エバポレーターにて溶媒を留去する操作を3回繰り返すことでポリマー中の残留酢酸ビニルを除いた。
ナスフラスコのポリマーに対して所定量のメタノールを加えて濃度5質量%溶液を調製し、70℃水浴で溶解させた。NaOHをメタノールに2質量%Naとなるように溶解させ、撹拌しながらポリマーに対して少しずつ加えた。還流器を取り付け、70℃まで昇温後、20分間還流下で加熱した。1次ケン化終了後、目標濃度3質量%になるようにメタノールを加え、エバポレーターで加えたメタノール量を留去した。同様の作業で2次ケン化を行った。
析出した固体を濾過で回収した。回収した固体を1Lビーカーに入れ、2.5質量%酢酸メタノール溶液を500mL入れて20分間撹拌しろ過を行うことを、合計2回繰り返した。メタノール500mLに代えて3回洗浄を行った。最後に乾燥させることで、エチレン-ビニルアルコール共重合体を得た。
【0078】
[比較例16]
比較例8で得られたエチレン-ビニルエステル共重合体を用いた以外は、実施例11と同様にケン化してエチレン-ビニルアルコール共重合体を得た。
【0079】
[比較例17]
比較例10で得られたエチレン-ビニルエステル共重合体を用いた以外は、実施例11と同様にケン化してエチレン-ビニルアルコール共重合体を得た。
【0080】
[ケン化手順:実施例12]
ナスフラスコに実施例9で得られたエチレン-ビニルエステル共重合体を入れて、所定量のメタノールを加えた。70℃水浴で溶解させて、エバポレーターにて溶媒を留去する操作を3回繰り返すことでポリマー中の残留酢酸ビニルを除いた。
ナスフラスコのポリマーに対して所定量のメタノールを加えて濃度21質量%溶液を調製し、70℃水浴で溶解させた。NaOHをメタノールに2質量%Naとなるように溶解させ、撹拌しながらポリマーに対して少しずつ加えた。還流器を取り付け、70℃まで昇温後、20分間還流下で加熱した。1次ケン化終了後、目標濃度12.5質量%になるようにメタノールを加え、エバポレーターで加えたメタノール量を留去した。同様の作業で2次ケン化を行った。
水とメタノールの質量割合が14/86になるように少量の水を加え、還流器を取り付け、80℃水浴で加温して析出物を溶解させた。エバポレーターで樹脂分目標20~30質量%になるよう濃縮した。
内容物を氷を敷き詰めたバットに入れて冷却した。固化後はポリマーをハサミで切った。崩した固形物を1Lビーカーに入れ、2.5質量%酢酸水溶液を500mL入れて30分間撹拌しろ過を行うことを、合計3回繰り返した。水1000mLに代えて3回洗浄を行った。最後に乾燥させることで、エチレン-ビニルアルコール共重合体を得た。
【0081】
[比較例18]
比較例12で得られたエチレン-ビニルエステル共重合体を用いた以外は、実施例12と同様にケン化してエチレン-ビニルアルコール共重合体を得た。
【0082】
[比較例19]
比較例14で得られたエチレン-ビニルエステル共重合体を用いた以外は、実施例12と同様にケン化してエチレン-ビニルアルコール共重合体を得た。
【0083】
[実施例13]
実施例3で得られたエチレン-ビニルエステル共重合体を用いた以外は、実施例12と同様にケン化してエチレン-ビニルアルコール共重合体を得た。
【0084】
[比較例20]
比較例3で得られたエチレン-ビニルエステル共重合体を用いた以外は、実施例12と同様にケン化してエチレン-ビニルアルコール共重合体を得た。
【0085】
[比較例21]
比較例7で得られたエチレン-ビニルエステル共重合体を用いた以外は、実施例12と同様にケン化してエチレン-ビニルアルコール共重合体を得た。
【0086】
各物性の測定方法は以下の通りである。
実施例1~6および比較例1~7にて得られたエチレン-ビニルエステル系共重合体の各物性の測定結果を後記の表1に示し、エチレン圧1MPaの系にて重合時間を変化させた実施例7~8および比較例8~11の各物性の評価結果を後記の表2に示し、エチレン圧4MPaの系にて重合時間を変化させた実施例9~10および比較例12~15の各物性の評価結果を後記の表3に示し、実施例11~12および比較例16~19にて得られたエチレン-ビニルアルコール系共重合体の各物性の測定結果を後記の表4に示し、実施例13および比較例20~21にて得られたエチレン-ビニルアルコール系共重合体の各物性の測定結果を後記の表5に示した。
【0087】
<エチレン-ビニルエステル系共重合体のエチレン含量(モル%)>
得られたエチレン-ビニルエステル系共重合体を重クロロホルムに溶解させて、下記の測定条件で1H-NMRを測定することでエチレン含量(モル%)を計算した。
(測定条件)
・装置:Ascend-400(Bruker社製)
・測定温度:25℃
・積算回数:16回
【0088】
<酢酸ビニル転化率(質量%)>
重合終了後、溶液を一部サンプリングし秤量した。また十分に乾燥させた後再度秤量を行った。2回の秤量により不揮発分割合(質量%)を求め、重合で得られたポリマー収量を概算した。このポリマー収量と上記で得られるエチレン含量(モル%)から酢酸ビニルの転化量を求め、酢酸ビニルの仕込み量で割ることで酢酸ビニル転化率を計算した。
【0089】
<エチレン-ビニルエステル系共重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(PDI)>
以下のGPC測定により求めた。
はじめに試料約10mgをガラスバイアル瓶に採取し、安定剤として2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(ジブチルヒドロキシトルエン)(BHT)を含むテトラヒドロフラン(BHT濃度=0.03質量%)を加え、ポリマー濃度が0.1質量%になるように調製した。この溶液を0.45μm前処理フィルター(GLサイエンス社製「クロマトディスク13N」)にて濾過して試料を調製した。つぎにカラムとして、昭和電工社製Shodex HK-404L(4.6×150mm、3.5μm)およびShodex HK-401(4.6×150mm、3μm)を用い、RI検出器を搭載した東ソー社製HLC-8420GPCを使用してGPC測定を行った。
【0090】
測定条件としては、試料溶液注入量:20μL、カラム温度:40℃、溶離液:特級テトラヒドロフラン(安定剤:BHT含む)、流量:0.6mL/minを採用した。
分子量の算出は以下のように行った。すなわち、標準試料として市販の単分散のポリスチレンを使用し、得られた該ポリスチレン標準試料の保持時間と分子量データから較正曲線を作成して、該較正曲線に基づいて重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnおよび分子量分布Mw/Mn(PDI)の算出を行った。なお、ポリスチレン標準品には、東ソー社製F-380、128、80、40、20、10、4、2、1、A-5000、2500、1000およびBHTを使用し、較正曲線の近似式は3次式とした。
【0091】
<エチレン-ビニルアルコール系共重合体のエチレン含量(モル%)>
得られたエチレン-ビニルアルコール系共重合体を重DMSOに溶解させて下記の記載方法で、1H-NMRを測定することでエチレン含量(モル%)を計算した。
(測定条件)
・装置:Ascend-400(Bruker社製)
・測定温度:50℃
・積算回数:16回
【0092】
<エチレン-ビニルアルコール系共重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(PDI)>
以下のGPC測定により求めた。
はじめに試料約10mgをガラスバイアル瓶に採取し、5mMのトリフルオロ酢酸ナトリウムを含むヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を加え、ポリマー濃度が0.1質量%になるように調製した。この溶液を開口径0.45μmフィルター(アドバンテック東洋社製「DISMIC 13HP045AN」)にて濾過して試料を調製した。つぎにカラムとして、東ソー社製Tosoh TSKgel guardcolumn SuperH-Lに、HFIP系カラムTosoh TSKgel GMHHR-Mを2本直列接続し、RI検出器を搭載した東ソー社製HLC-8420GPCを使用してGPC測定を行った。
【0093】
測定条件としては、試料溶液注入量:10μL、カラム温度:40℃、溶離液:5mMのトリフルオロ酢酸ナトリウムを含むヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、流量:0.2mL/minを採用した。
分子量の算出は以下のように行った。すなわち、標準試料として市販の単分散のポリメチルメタクリレートを使用し、得られたポリメチルメタクリレート標準試料の保持時間と分子量データから較正曲線を作成して、該較正曲線に基づいて重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnおよび分子量分布Mw/Mn(PDI)の算出を行った。なお、ポリメチルメタクリレート標準品には、アジレント・テクノロジー社製InfinityLab EasiVial PMを使用し、較正曲線の近似式は3次式とした。
【0094】
<エチレン-ビニルアルコール系共重合体のMFR>
得られたエチレン-ビニルアルコール系共重合体について、メルトインデックサを用いて、下記の測定条件で、熱可塑性樹脂の溶融時の流動性を算出した。
(測定条件)
・測定温度:210℃
・荷重:2160g
・サンプル使用量:5g
・予熱:5min
・測定時間:1min
【0095】
<エチレン-ビニルアルコール系共重合体の融点とガラス転移温度>
得られたエチレン-ビニルアルコール系共重合体について、示差走査熱分析計(DSC)を用いて、下記の測定条件で、融点とガラス転移温度を測定した。
(測定条件)
・装置:ThermoPlus EV02(リガク社製)
・温度範囲:-30~210℃
・昇温速度:10℃/分
・掃引回数:2回(融点とガラス転移温度は2回目の昇温時の値を採用した)
【0096】
<エチレン-ビニルアルコール系共重合体の1,2-グリコール結合(モル%)>
得られたエチレン-ビニルアルコール系共重合体を重DMSOに溶解させて、下記の測定条件で1H-NMRを測定することで1,2-グリコール結合(モル%)を計算した。
(測定条件)
・装置:Ascend-400(Bruker社製)
・測定温度:50℃
・積算回数:16回
【0097】
<エチレン-ビニルアルコール系共重合体の末端メチロール量(モル%)>
得られたエチレン-ビニルアルコール系共重合体を重DMSOに溶解させて、下記の測定条件で13C-NMRを測定することで末端メチロール量(モル%)を計算した。
(測定条件)
・装置:AVANCE III HD 400(Bruker社製)
・測定温度:90℃
・積算回数:8162回
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
上記表1~表3の結果より、ジメチルカーボネートまたはジエチルカーボネートを重合溶媒に用いた実施例は、メタノール、エタノールまたは酢酸メチルを重合溶媒に用いた比較例に比べて、エチレン含量は上昇しているにも関わらず分子量が上昇していることがわかった。このようにエチレン含量は上昇しているにも関わらず分子量が上昇していることは、一般に溶液中のエチレン濃度が増大すると共にラジカル重合速度が低下することを踏まえると予想外の効果であった。
【0104】
また、表4の結果より、ジメチルカーボネートを重合溶媒に用いた実施例は、メタノールまたは酢酸メチルを重合溶媒に用いた比較例に比べて、エチレン-ビニルアルコール系共重合体の異種結合量が同等もしくは低減していることがわかった。
【0105】
さらに、表5の結果より、ジメチルカーボネートを重合溶媒に用いた実施例は、メタノールまたは酢酸メチルを重合溶媒に用いた比較例に比べて、エチレン-ビニルアルコール系共重合体の末端メチロール量が同等か低減していることと分子量が高いことが分かり、これに起因して融点とMFRが低下していることがわかった。
本製法によれば、エチレン-ビニルエステル系共重合体の製造に際し低圧下での重合が可能で、生産性が良好であることから、エチレン-ビニルエステル系共重合体をケン化することにより得られるエチレン-ビニルアルコール系共重合体の製造規格(エチレン含量、分子量)の幅を拡張すると共に生産性の向上も大いに期待される。
また、従来技術で用いられていたメタノール溶媒や酢酸メチル溶媒と比較して、エチレン-ビニルアルコール系共重合体の末端メチロール量が同等か低減していることと分子量が増大していることが分かり、これに起因して融点とMFRが低下していることは成形加工性の幅を拡張すると大いに期待される。
さらに、エチレン-ビニルアルコール系共重合体の異種結合量が同等か低減していることはポリマーの結晶性が高いことを意味しており、エチレン-ビニルアルコール系共重合体のガスバリア性向上が期待される。