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特開2024-121856抗ウイルス性ゼオライト、コーティング組成物、および抗ウイルス性ゼオライトの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121856
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】抗ウイルス性ゼオライト、コーティング組成物、および抗ウイルス性ゼオライトの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/06 20060101AFI20240902BHJP
   C09D 5/14 20060101ALI20240902BHJP
   C09D 199/00 20060101ALI20240902BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20240902BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
A01N59/06 Z
C09D5/14
C09D199/00
C09D7/62
A01P1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029058
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】522184121
【氏名又は名称】日本ペイントコーポレートソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】脇原 徹
(72)【発明者】
【氏名】伊與木 健太
(72)【発明者】
【氏名】木村 優香
(72)【発明者】
【氏名】津本 浩平
(72)【発明者】
【氏名】中木戸 誠
(72)【発明者】
【氏名】一戸 猛志
(72)【発明者】
【氏名】太田 誠一
(72)【発明者】
【氏名】宮前 治広
(72)【発明者】
【氏名】江上 侑希
【テーマコード(参考)】
4H011
4J038
【Fターム(参考)】
4H011AA04
4H011BB18
4H011BC10
4H011BC18
4H011BC19
4H011DA07
4H011DA13
4H011DA14
4H011DC05
4H011DH02
4J038EA011
4J038HA556
4J038JB11
4J038KA02
4J038KA08
4J038KA14
4J038KA22
4J038NA01
4J038NA02
4J038NA03
(57)【要約】
【課題】抗ウイルス性を有し、かつ経時的な変色を抑制できる抗ウイルス性ゼオライト、コーティング組成物、および抗ウイルス性ゼオライトの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明の一の態様によれば、水素イオンを含有し、水素イオンの含有量が、0.1mmol/g以上であり、かつ銀イオン、銅イオン、および亜鉛イオンからなる群から選択される金属イオンの含有量が0.1mmol/g未満である、抗ウイルス性ゼオライトが提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素イオンを含有し、水素イオンの含有量が、0.1mmol/g以上でありかつ銀イオン、銅イオン、および亜鉛イオンからなる群から選択される金属イオンの含有量が0.1mmol/g未満である、抗ウイルス性ゼオライト。
【請求項2】
水素イオンの含有量が、0.1mmol/g以上8.41mmol/g以下である、請求項1に記載の抗ウイルス性ゼオライト。
【請求項3】
下記式(1)に示される骨格構造を有し、
(AlO)-(SiO …(1)
式(1)中、xは2以上100以下である、請求項1または2に記載の抗ウイルス性ゼオライト。
【請求項4】
3次元構造細孔を有する、請求項1または2に記載の抗ウイルス性ゼオライト。
【請求項5】
請求項1または2に記載の抗ウイルス性ゼオライトを、固形分質量として0.1質量%以上10質量%以下で含む、コーティング組成物。
【請求項6】
請求項1記載の抗ウイルス性ゼオライトの製造方法であって、
アンモニウム化合物を含む水溶液中に、原料ゼオライトを浸漬する工程と、
前記水溶液中に浸漬した前記原料ゼオライトを加熱する工程と
を含む、抗ウイルス性ゼオライトの製造方法。
【請求項7】
前記原料ゼオライトが、下記式(1)に示される骨格構造を有し、
(AlO)-(SiO …(1)
式(1)中、xは2以上100以下である、請求項6に記載の抗ウイルス性ゼオライトの製造方法。
【請求項8】
前記原料ゼオライトが、3次元構造細孔を有する、請求項6または7に記載の抗ウイルス性ゼオライトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス性ゼオライト、コーティング組成物、および抗ウイルス性ゼオライトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新型コロナウイルス等の様々なウイルスによる感染症は、人間の生命を脅かすことから、世界的にその対策が急がれている。このような観点から、抗ウイルス性の材料の需要は高まる一方であり、あらゆる製品において抗ウイルス性が求められている。
【0003】
現在、抗ウイルス性を有するゼオライトの開発が進んでいる。抗ウイルス性を有するゼオライトであれば、半永久的に抗ウイルス性を得ることができる。現在知られている抗ウイルス性を有するゼオライトは、抗ウイルス性を呈する銀イオン等の金属イオンを含むものである(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-109847号公報
【特許文献2】国際公開第2005/037296号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、抗ウイルス性を有するゼオライト中に有効に抗ウイルス性を発揮できる量で金属イオンを含ませると、金属イオンの酸化によりゼオライトが経時的に変色してしまうという問題がある。この経時的な変色は、特にゼオライトが銀イオンを含む場合に顕著に生じる。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものである。すなわち、抗ウイルス性を有し、かつ経時的な変色を抑制できる抗ウイルス性ゼオライト、コーティング組成物、および抗ウイルス性ゼオライトの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]水素イオンを含有し、水素イオンの含有量が、0.1mmol/g以上であり、かつ銀イオン、銅イオン、および亜鉛イオンからなる群から選択される金属イオンの含有量が0.1mmol/g未満である、抗ウイルス性ゼオライト。
【0008】
[2]水素イオンの含有量が、0.1mmol/g以上8.41mmol/g以下である、上記[1]に記載の抗ウイルス性ゼオライト。
【0009】
[3]下記式(1)に示される骨格構造を有し、
(AlO)-(SiO …(1)
式(1)中、xは2以上100以下である、上記[1]または[2]に記載の抗ウイルス性ゼオライト。
【0010】
[4]3次元構造細孔を有する、上記[1]ないし[3]のいずれか一項に記載の抗ウイルス性ゼオライト。
【0011】
[5]上記[1]ないし[4]のいずれか一項に記載の抗ウイルス性ゼオライトを、固形分質量として0.1質量%以上10質量%以下で含む、コーティング組成物。
【0012】
[6]上記[1]ないし[4]のいずれか一項に記載の抗ウイルス性ゼオライトの製造方法であって、
アンモニウム化合物を含む水溶液中に、原料ゼオライトを浸漬する工程と、
前記水溶液中に浸漬した前記原料ゼオライトを加熱する工程と
を含む、抗ウイルス性ゼオライトの製造方法。
【0013】
[7]前記原料ゼオライトが、下記式(1)に示される骨格構造を有し、
(AlO)-(SiO …(1)
式(1)中、xは2以上100以下である、上記[6]に記載の抗ウイルス性ゼオライトの製造方法。
【0014】
[8]前記原料ゼオライトが、3次元構造細孔を有する、上記[6]または[7]に記載の抗ウイルス性ゼオライトの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、抗ウイルス性を有し、かつ経時的な変色を抑制できる抗ウイルス性ゼオライト、そのような抗ウイルス性ゼオライトを含むコーティング組成物、そのような抗ウイルス性ゼオライトの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係る抗ウイルス性ゼオライト、コーティング組成物、およびその製造方法について説明する。
【0017】
<抗ウイルス性ゼオライト>
抗ウイルス性ゼオライトは、水素イオンを含有し、水素イオンの含有量が、0.1mmol/g以上であり、かつ銀イオン、銅イオン、および亜鉛イオンからなる群から選択される金属イオン(以下、この金属イオンを「特定の金属イオン」と称することもある。)の含有量が0.1mmol/g未満となっている。
【0018】
抗ウイルス性ゼオライトのゼオライト種としては、特に限定されないが、例えば、FAU型ゼオライト(X型ゼオライト、Y型ゼオライト)、MFI型ゼオライト、MOR型ゼオライト、FER型ゼオライト、CHA型ゼオライト、LTL型ゼオライト、BEA型ゼオライト等が挙げられる。これらの中でも、良好な抗ウイルス性を示す観点から、Y型ゼオライト、MFI型ゼオライト、MOR型ゼオライト、BEA型ゼオライトが好ましい。
【0019】
抗ウイルス性ゼオライトは、下記式(1)に示される骨格構造を有していることが好ましい。
(AlO)-(SiO …(1)
式(1)中、xは2以上100以下である。xが2以上であれば、十分な安定性があり、また100以下であれば、十分な酸点を有する。xの下限は、2.6以上または3以上であることがより好ましく、xの上限は、50以下、30以下、または10以下であることがより好ましい。
【0020】
抗ウイルス性ゼオライトは、Si/Al比は、2以上100以下が好ましい。Si/Al比が2以上であれば、十分な安定性があり、また100以下であれば、十分な酸点を有する。抗ウイルス性ゼオライトのSi/Al比の下限は、2.6以上または3以上であることがより好ましく、上限は、50以下、30以下、または10以下であることがより好ましい。Si/Al比は、誘導結合プラズマ発光分析(ICP)法によって測定して、求めることができる。
【0021】
抗ウイルス性ゼオライトの平均一次粒子径は、10nm以上250μm以下であることが好ましい。平均一次粒子径が10nm以上であれば、ハンドリングが容易であり、また250μm以下であれば、触感に悪影響を及ぼさない。抗ウイルス性ゼオライトの平均一次粒子径の下限は、20nm以上、30nm以上、または50nm以上であることがより好ましく、上限は、250μm以下、100μm以下、または30μm以下であることがより好ましい。抗ウイルス性ゼオライトの平均一次粒子径は、電界放出型走査電子顕微鏡(装置名「JSM-7000F」、日本電子株式会社製)を用いて、試料の観察を行い、無作為に計測した30個以上の一次粒子の水平フェレ径によって求めることができる。
【0022】
抗ウイルス性ゼオライトは、細孔を有しているが、細孔は、三次元構造細孔を有していてもよい。抗ウイルス性ゼオライトが、三次元構造細孔を有することにより、抗ウイルス成分が有効に拡散することができる。細孔の形状は、窒素吸着測定によって確認することができる。
【0023】
抗ウイルス性ゼオライトは、上記したように水素イオンを0.1mmol/g以上含むが、抗ウイルス性ゼオライト中の水素イオンの含有量は、0.1mmol/g以上8.41mmol/g以下となっていることが好ましい。水素イオンの含有量が0.1mmol/g以上となっていれば、良好な抗ウイルス性を発揮することができ、また8.41mmol/g以下であれば、骨格外にアルミニウムを含まずに調製することができる。水素イオンの含有量の下限は、0.2mmol/g以上、0.3mmol/g以上、または0.4mmol/g以上であることがより好ましく、上限は、8.0mmol/g以下、7.5mmol/g以下、または6.5mmol/g以下であることがより好ましい。水素イオンの含有量は、アンモニアTPD(Temperature Programmed Desorption)法によって測定することができる。
【0024】
抗ウイルス性ゼオライトにおいては、上記したように特定の金属イオンの含有量が0.1mmol/g未満となっている。すなわち、本実施形態に係る抗ウイルス性ゼオライトにおいては、抗ウイルス性を発揮する活性点として特定の金属イオンを用いていないので、含有量が少なくなっている。特定の金属イオンの含有量が、0.1mmol/g未満となっていれば、抗ウイルス性ゼオライトの経時的な変色を抑制できるとともにコスト低減を図ることができる。特定の金属イオンの含有量とは、抗ウイルス性ゼオライトに、特定の金属イオンが2種以上含まれている場合には、特定の金属イオンの合計の含有量を意味するものとする。特定の金属イオンの含有量は、0.05mmol/g未満、0.01mmol/g未満、0.005mmol/g未満、0.001mmol/g未満、0.0005mmol/g未満、または0.0001mmol/g未満であることが好ましい。特定の金属イオン含有量は、ICP法によって測定することができる。
【0025】
抗ウイルス性ゼオライトは、水素イオンを含有し、水素イオンの含有量が、0.1mmol/g以上であり、かつ特定の金属イオンの含有量が0.1mmol/g未満となっていれば、特定の金属イオン以外の金属イオン(例えば、アルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオン)を含んでいてもよい。例えば、抗ウイルス性ゼオライトは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、またはバリウムイオンを含んでいてもよい。
【0026】
<抗ウイルス性ゼオライトの製造方法>
このような抗ウイルス性ゼオライトは、以下のようにして得ることができる。まず、原料ゼオライトを用意する。原料ゼオライトは、銀イオン、銅イオン、および亜鉛イオンからなる群から選択される金属イオンの含有量が0.1mmol/g未満となっている。また、以下の処理によって原料ゼオライトに水素イオンを含有させるので、原料ゼオライトは水素イオンを含んでいないものであるが、原料ゼオライトは、予め水素イオンを含んでいてもよい。原料ゼオライトのゼオライト種、骨格構造、Si/Al比、平均一次粒子径は、抗ウイルス性ゼオライトの欄で説明したゼオライト種、骨格構造、Si/Al比、平均一次粒子径と同様である。
【0027】
原料ゼオライトを用意した後、水中で原料ゼオライトを攪拌して、原料ゼオライトのろ過を3回以上繰り返し、不純物を十分に取り除くことが好ましい。
【0028】
その後、アンモニウム化合物を含む水溶液中に、ゼオライトを浸漬する。これにより、原料ゼオライト中のイオン交換可能なイオン(例えば、ナトリウムイオン)と、アンモニウム化合物から供給されるアンモニウムイオン等がイオン交換される。なお、原料ゼオライト中のイオン交換可能なイオンの一部をアンモニウム化合物から供給されるアンモニウムイオン等でイオン交換してもよいが、原料ゼオライト中のイオン交換可能なイオンの全部をアンモニウム化合物から供給されるアンモニウムイオン等でイオン交換してもよい。
【0029】
アンモニウム化合物としては、例えば、水溶液中で、アンモニウムイオン(NH )を供給可能なアンモニウム化合物、ヒドロキシアンモニウムイオンを供給可能なアンモニウム化合物、または有機アンモニウムイオンを供給可能なアンモニウム化合物が挙げられる。有機アンモニウムイオンは、アンモニウムイオンの4つの水素のうち、1以上をアルキル基やヒドロキシアルキル基などの有機基で置換したものである。アンモニウムイオンの4つの水素のうち、1以上をアルキル基で置換したアルキルアンモニウムイオンとしては、例えば、NHCH 、NH(CH 、NH(CH 、N(CH 、NH(C、N(C 、NH(C、またはNH(C等が挙げられる。
【0030】
アンモニウムイオンを供給可能なアンモニウム化合物としては、例えば、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、過塩素酸アンモニウム、チオ硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等が挙げられ、ヒドロキシアンモニウムイオンを供給可能なアンモニウム化合物としては、例えば、塩酸ヒドロキシアンモニウム等が挙げられる。
【0031】
アルキルアンモニウムイオンを供給可能なアンモニウム化合物としては、例えば、塩化メチルアンモニウム、塩化ジメチルアンモニウム、塩化トリメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化エチルアンモニウム、塩化ジエチルアンモニウム、塩化トリエチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、塩化プロピルアンモニウム、塩化ブチルアンモニウム等が挙げられる。
【0032】
原料ゼオライトとアンモニウム化合物を含む水溶液とを接触させる際の、水溶液の温度は、1℃以上100℃以下であることが好ましい。水溶液の温度が1℃以上であれば、効果的にイオン交換を行うことができ、また100℃以下であれば、エネルギーの無駄がない。水溶液の温度の下限は、2℃以上、3℃以上、または4℃以上であることがより好ましく、上限は90℃以下、80℃以下、または70℃以下であることが好ましい。
【0033】
原料ゼオライトとアンモニウム化合物を含む水溶液との接触時間は、0.1時間以上8時間以下であることが好ましい。接触時間が0.1時間以上であれば、十分にアンモニウム化合物から生じるアンモニウムイオン等をゼオライトの細孔内に導入でき、また8時間以下であれば、生産性を向上させることができる。接触時間の下限は、0.2時間以上、0.3時間以上、または0.4時間以上であることがより好ましく、上限は6時間以下、5時間以下、または4時間以下であることが好ましい。
【0034】
上記水溶液のpHは、1以上9以下であることが好ましい。pHが1以上であれば、アンモニウム化合物から生じるアンモニウムイオン等を原料ゼオライトの細孔内に導入することができ、また9以下であれば、原料ゼオライトの溶解を抑制できる。水溶液のpHの下限は、1.5以上、2以上、または2.1以上であることがより好ましく、上限は8.5以下、8以下、または7以下であることがより好ましい。
【0035】
水溶液におけるアンモニア化合物の含有量は、0.01mmol/g以上であることが好ましい。アンモニウム化合物の含有量は、0.01mmol/g以上であれば、十分にアンモニウム化合物から生じるアンモニウムイオン等を効果的に原料ゼオライトの細孔内に導入することできる。アンモニア化合物の含有量の下限は、0.03mmol/g以上、0.04mmol/g以上、または0.05mmol/g以上であることがより好ましい。また、アンモニア化合物の含有量の上限は、コスト抑制の観点から、5mmol/g以上、3mmol/g以上、または1mmol/g以上であってもよい。
【0036】
アンモニウム化合物を含む水溶液中に、原料ゼオライトを浸漬した後、原料ゼオライトを加熱する。これにより、原料ゼオライト中のアンモニウムイオン等が、熱分解して、水素イオンとなるので、上記抗ウイルス性ゼオライトを得ることができる。
【0037】
原料ゼオライトの加熱温度は、300℃以上であることが好ましい。加熱温度が300℃以上であれば、アンモニウムイオン等をプロトン化できる。加熱温度の下限は、350℃以上、375℃以上、または400℃以上であることが好ましい。加熱温度の上限は、ゼオライトの安定性の観点から、800℃以下、600℃以下、または500℃以下であることが好ましい。
【0038】
原料ゼオライトの加熱時間は、1時間以上であることが好ましい。加熱時間が1時間以上であれば、アンモニウム化合物から生じるアンモニウムイオン等をプロトン化できる。加熱時間の下限は、1.5時間以上、2時間以上、または3時間以上であることがより好ましい。加熱時間の上限は、エネルギー効率の観点から、24時間以下、12時間以下、または9時間以下であることがより好ましい。
【0039】
また、抗ウイルス性ゼオライトは、以下のように製造してもよい。まず、上記と同様の原料ゼオライトを用意する。原料ゼオライトを用意した後、水素イオンを含む水溶液中に、ゼオライトを浸漬する。これにより、原料ゼオライト中のイオン交換可能なイオンと、水素イオンがイオン交換されるので、水素イオンを有する抗ウイルス性ゼオライトを得ることができる。水素イオンは、硝酸、硫酸、酢酸、過塩素酸、リン酸等から供給可能である。
【0040】
原料ゼオライトと水素イオンを含む水溶液とを接触させる際の、水溶液の温度は、1℃以上100℃以下であることが好ましい。水溶液の温度が1℃以上であれば、原料ゼオライトに水素イオンを導入でき、また100℃以下であれば、エネルギー効率が良い。水溶液の温度の下限は、2℃以上、3℃以上、または4℃以上であることが好ましく、上限は90℃以下、80℃以下、または70℃以下であることが好ましい。
【0041】
原料ゼオライトと水素イオンを含む水溶液との接触時間は、0.1時間以上24時間以下であることが好ましい。接触時間が0.1時間以上であれば、原料ゼオライトに水素イオンを導入でき、また24時間以下であれば、エネルギー効率が良い。接触時間の下限は、0.2時間以上、0.3時間以上、または0.4時間以上であることが好ましく、上限は18時間以下、12時間以下、または9時間以下であることが好ましい。
【0042】
上記水溶液のpHは、1以上9以下であることが好ましい。pHが1以上であれば、原料ゼオライトに水素イオンを導入することができ、また9以下であれば、原料ゼオライトの溶解を抑制できる。水溶液のpHの下限は、1.5以上、2以上、または3以上であることがより好ましく、上限は8.5以下、8以下、または7以下であることがより好ましい。
【0043】
水溶液における水素イオンの含有量は、0.01mmol/g以上であることが好ましい。水素イオンの含有量は、0.01mmol/g以上であれば、原料ゼオライトに水素イオンを導入することができる。水素イオンの含有量の下限は、0.02mmol/g以上、0.03mmol/g以上、または0.04mmol/g以上であることがより好ましい。また、水素イオンの含有量の上限は、水素イオンの導入効率の観点から、5mmol/g以下、3mmol/g以下、または1mmol/g以下であってもよい。
【0044】
本実施形態に係る抗ウイルス性ゼオライトは、種々の分野で利用することが可能である。例えば、抗ウイルス性ゼオライトは、塗料分野、建築分野、または製紙分野で利用することが可能である。塗料分野においては、油性塗料、ラッカー、ワニス、アルキル樹脂系、アミノアルキド樹脂系、ビニル樹脂系、アクリル樹脂系、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系、水エマルション樹脂系、粉体塗料系、塩化ゴム系、フェノール樹脂系などの各種塗料に直接混合し、または塗膜表面にコーティングして、塗膜表面に抗ウイルス性を付与することが可能である。また、建築分野では目地材、壁材、タイルなどに混合し、またはそれらの表面にコーティングして抗ウイルス性を付与することが可能である。製紙分野ではぬれティッシュ、紙包装材、段ボール、敷き紙、鮮度保持紙に抄き込み、またはコーティングすることによってこれらの紙に抗ウイルス性を付与することが可能である。
【0045】
<コーティング組成物>
上記したように抗ウイルス性ゼオライトをコーティングに、すなわちコーティング組成物に含有させて用いることがあるが、コーティング組成物は、抗ウイルス性ゼオライトを、固形分質量として0.1質量%以上10質量%以下で含んでいる。抗ウイルス性ゼオライトの含有量が0.1質量%以上であれば、良好な抗ウイルス性を得ることができ、また10質量%以下であれば、貯蔵安定性の良好なコーティング組成物を得ることができる。固形分質量としての抗ウイルス性ゼオライトの含有量の下限は、0.5質量%以上、1質量%以上、または2質量%以上であることが好ましく、上限は、7質量%以下、6質量%以下、または5質量%以下であることが好ましい。
【0046】
コーティング組成物は、コーティングする抗ウイルス性ゼオライトの他、溶媒、樹脂、着色顔料、体質顔料、水または添加剤を含んでいても良い。溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールが挙げられる。添加剤としては、例えば、骨材、繊維、可塑剤、防腐剤、防黴剤、消泡剤、粘性調整剤、レベリング剤、顔料分散剤、沈降防止剤、たれ防止剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、抗菌剤、吸着剤、光触媒等を、単独あるいは併用して配合することができる。
【0047】
従来の抗ウイルス性ゼオライトは、上記したように抗ウイルス性を得るために、特定の金属イオンを所定量含有しているが、本発明者らは、驚くべきことに、特定の金属イオンが少ないまたは特定の金属イオンを含まない場合であっても、水素イオンを0.1mmol/g以上含有していれば、抗ウイルス性が得られることを見出した。これは、ウイルスが水素イオンを含有するゼオライトに接触すると、水素イオンがウイルスの表面に作用を及ぼすからであると考えられる。また、水素イオンで抗ウイルス性が得られるので、特定の金属イオンを含有させる必要がなく、特定の金属イオンを含有させることによる経時的な変色も抑制できる。従って、本実施形態によれば、ゼオライトが、水素イオンを含有し、ゼオライトにおける水素イオンの含有量が、0.1mmol/g以上であり、かつゼオライトにおける特定の金属イオンの含有量が0.1mmol/g未満となっているので、抗ウイルス性を有しながら、経時的な変色を抑制できる。また、特定の金属イオンの含有量が少なくなっているので、コスト低減を図ることができる。
【実施例0048】
本発明を詳細に説明するために、以下に実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの記載に限定されない。
【0049】
<実施例1>
まず、FAU型(Y型)ゼオライト(商品名「HSZ-320NAA」、東ソー株式会社製)である原料ゼオライトを用意した。なお、HSZ-320NAAは、平均一次粒径が500nmであり、Naイオンを含んでいた。
【0050】
原料ゼオライトを用意した後、水を用いて良く洗浄し、ろ過により分離後、オーブンを用いて十分に乾燥させた。ビーズミルを用いて粉砕した平均一次粒径が50nmの原料ゼオライト5gと、塩化アンモニウムの濃度が1mmol/gであり、かつpHが5の塩化アンモニウム水溶液30gを混合し、混合水溶液を得た。
【0051】
この混合水溶液を40℃にて3時間撹拌した。そして、混合水溶液中の固体を回収し、オーブンにて2時間乾燥した。この過程を3回繰り返した。得られた固体を400℃にて4時間加熱した。これにより、実施例1に係る抗ウイルス性ゼオライトを得た。
【0052】
<実施例2>
まず、FAU型(Y型)ゼオライト(商品名「HSZ-350HUA」、東ソー株式会社製)である原料ゼオライトを用意した。
【0053】
原料ゼオライトを用意した後、水を用いて良く洗浄し、ろ過により分離後、オーブンを用いて十分に乾燥させた。ビーズミルを用いて粉砕した平均一次粒径が50nmの原料ゼオライト3gと、硝酸アンモニウムの濃度が1.5mmol/gであり、かつpHが3の硝酸アンモニウム水溶液40gを混合し、混合水溶液を得た。
【0054】
この混合水溶液を30℃にて0.5時間撹拌した。そして、混合水溶液中の固体を回収し、得られた固体を300℃にて2時間加熱した。これにより、実施例2に係る抗ウイルス性ゼオライトを得た。
【0055】
<実施例3>
まず、FAU型(Y型)ゼオライト(商品名「HSZ-385HUA」、東ソー株式会社製)である原料ゼオライトを用意した。
【0056】
原料ゼオライトを用意した後、水を用いて良く洗浄し、ろ過により分離後、オーブンを用いて十分に乾燥させた。ビーズミルを用いて粉砕した平均一次粒径が50nmの原料ゼオライト10gと、硝酸の濃度が0.5mmol/gであり、かつpHが2の硝酸50gを混合し、混合水溶液を得た。
【0057】
この混合水溶液を60℃にて2時間撹拌した。そして、混合水溶液中の固体を回収し、得られた固体を350℃にて3時間加熱した。これにより、実施例3に係る抗ウイルス性ゼオライトを得た。
【0058】
<実施例4>
まず、FAU型(Y型)ゼオライト(商品名「HSZ-320HOA」、東ソー株式会社製)である原料ゼオライトを用意した。
【0059】
原料ゼオライトを用意した後、水を用いて良く洗浄し、ろ過により分離後、オーブンを用いて十分に乾燥させた。平均一次粒径が500nmの原料ゼオライト5gと、塩化アンモニウムの濃度が1mmol/gであり、かつpHが5の塩化アンモニウム水溶液30gを混合し、混合水溶液を得た。
【0060】
この混合水溶液を35℃にて6時間撹拌した。そして、混合水溶液中の固体を回収し、オーブンにて3時間乾燥した。得られた固体を400℃にて4時間加熱した。これにより、実施例4に係る抗ウイルス性ゼオライトを得た。
【0061】
<実施例5>
1Lの金属製容器に、ヒドロキシ基含有アクリル樹脂エマルション(pH:8.5、酸価:15、塗料固形分:50質量%、粘度:2000mPa・s)60.0質量部、水道水120質量部を添加して、ディスパーで撹拌した。次いで顔料分散剤(商品名「ポイズ521」、花王株式会社製)6質量部、消泡剤(商品名「SNデフォーマー397」、サンノプコ株式会社製)0.9質量部、粘性剤(商品名「アデカノールUH-420」、ADEKA株式会社製)4.5質量部、酸化チタン60質量部、炭酸カルシウム90質量部、実施例1で得られた抗ウイルス性ゼオライト7.4質量部を順次添加してディスパーで2時間撹拌して、コーティング組成物を得た。
【0062】
<比較例1>
FAU型(Y型)ゼオライト(商品名「HSZ-320NAA」、東ソー株式会社製)である原料ゼオライトをそのまま抗ウイルス性ゼオライトとして用いた。
【0063】
<比較例2>
FAU型(Y型)ゼオライト(商品名「HSZ-320NAA」、東ソー株式会社製)である原料ゼオライトを用意した。原料ゼオライトを用意した後、ビーズミルを用いて粉砕した平均一次粒径が50nmの原料ゼオライト2gと、硝酸銀の濃度が0.5mmol/gであり、かつpHが5の硝酸銀水溶液20gを混合し、混合水溶液を得た。
【0064】
この混合水溶液を25℃にて3時間撹拌した。そして、混合水溶液中の固体を回収し、オーブンにて十分に乾燥した。これにより、比較例2に係る抗ウイルス性ゼオライトを得た。
【0065】
<比較例3>
まず、FAU型(Y型)ゼオライト(商品名「HSZ-390HUA」、東ソー株式会社製)である原料ゼオライトを用意した。
【0066】
原料ゼオライトを用意した後、平均一次粒径が400nmの原料ゼオライト10gと、硝酸アンモニウムの濃度が1mmol/gであり、かつpHが6の硝酸アンモニウム水溶液40gを混合し、混合水溶液を得た。
【0067】
この混合水溶液を60℃にて0.5時間撹拌した。そして、混合水溶液中の固体を回収し、得られた固体を300℃にて2時間加熱した。これにより、比較例3に係る抗ウイルス性ゼオライトを得た。
【0068】
<比較例4>
実施例1のゼオライトの代わりに比較例2の抗ウイルス性ゼオライトを用いたこと以外は、実施例5と同様の手順により、コーティング組成物を調製した。
【0069】
<Si/Al比>
実施例1~4および比較例1~3で得られた抗ウイルス性ゼオライトのSi/Al比を測定した。具体的には、まず、抗ウイルス性ゼオライト50mgを2mol/Lの水酸化カリウム溶液に溶解させて、試料溶液を作製した。そして、ICP発光分光分析装置(装置名「iCAP-6300」、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、試料溶液および別途作製した検量線溶液の組成分析を行った。得られた分析結果から、Si/Al比を求めた。
【0070】
<平均一次粒子径>
実施例1~4および比較例1~3で得られた抗ウイルス性ゼオライトの平均一次粒子径を測定した。具体的には、電界放出型走査電子顕微鏡(装置名「JSM-7000F」、日本電子株式会社製)を用いて、ゼオライトの観察を行い、無作為に計測した30個以上の一次粒子の水平フェレ径を測定し、その算術平均値を平均粒径とした。
【0071】
<水素イオン含有量>
実施例1~4および比較例1~3で得られた抗ウイルス性ゼオライトの水素イオン含有量を測定した。測定は500℃×2時間空気中で焼成した後に、マイクロトラック・ベル株式会社製のBELCATIIを用い、アンモニア昇温脱離(Temperature Programmed Desorption、TPD)法により行った。測定に先立ち、ゼオライトを500℃、ヘリウム中で加熱処理して吸着成分を除去した後、ヘリウムとアンモニアの混合気体を流通させることでゼオライトにアンモニアを飽和吸着させた。次にヘリウムガスを流通させて系内に残存するアンモニアを除去した後に、脱離温度200℃以上のアンモニア量を定量することにより水素イオン含有量を求めた。
【0072】
<特定金属イオン含有量>
実施例1~4および比較例1~3で得られた抗ウイルス性ゼオライトの銀イオン、銅イオン、および亜鉛イオンからなる群から選択される金属イオンの含有量を測定した。具体的には、ゼオライト粉末をフッ化水素酸および硝酸で結晶を溶解した後、サーモフィッシャーサイエンティフィック製、Thermo iCAP 6300を用いて、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)により定量した。
【0073】
<抗ウイルス性試験>
実施例1~4および比較例1~3で得られた抗ウイルス性ゼオライトならびに実施例5および比較例4に係るコーティング組成物に対し抗ウイルス性試験を行った。
(実施例1~4および比較例1~3)
実施例1~4および比較例1~3で得られた抗ウイルス性ゼオライト粉末100mgとインフルエンザウイルス(10pfu)バッファー懸濁液100μL、20mM HEPESバッファー(N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N´-(2-エタンスルホン酸)バッファー)900μLを混合し、24時間ローテーターを用いて、攪拌した。10000rpmの条件で5分間遠心分離操作を行ったのち、ウイルス液を回収した。その後0.1%BSA溶液(Bovine Serum Albumin溶液)で10倍ずつ希釈し、希釈系列を作成した。希釈系列中のウイルスをMDCK細胞(MADIN-Darby Canine Kidney細胞)に加えて感染させ、37℃中で2時間かけて感染を行い、余剰のウイルスをリン酸緩衝液(PBS)で洗浄した。その後37℃インキュベータ内で48時間静置し、形成したプラークを数えてウイルス感染価を測定した。その後、抗ウイルス活性値Vを以下の式(i)から算出した。
V=Log10(UV/TV) …(i)
上記式(i)中、TVは、ゼオライト粉末と接触させたインフルエンザウイルスの1mLあたりの感染価(pfu)であり、UVはゼオライト粉末と接触させていないインフルエンザウイルスの1mLあたりの感染価(pfu)である。
そして、以下の基準で抗ウイルス性を評価した。
AA:Vが3以上であった。
A:Vが2以上3未満であった。
B:Vが1以上2未満であった。
C:Vが1未満であった。
【0074】
(実施例5および比較例4)
まず、試験板を作成した。具体的には、実施例5および比較例4で得られたコーティング塗料組成物を、5cm角のガラス板上にはけを用いて乾燥塗布量0.65gとなるように塗装し、室温で7日乾燥して塗膜を形成し、塗膜を有する試験板を作成した。
【0075】
次いで、作成した試験板を用いて、ISO21702に準拠して、5cm角の試験片(抗ウイルス加工品と)に0.4mLのウイルス液を滴下し、4cm角のポリエチレンフィルムで被覆し、試験片を25℃にて24時間静置した。静置後、試験片上のウイルスを洗い出して回収した後、ウイルス感染価を測定した。その後、抗ウイルス活性値Vを以下の式(ii)から算出した。基準板は、抗ウイルス加工が成されていないソーダガラス板を用いた。
V=Log10(UVs/TVs) …(ii)
上記式(ii)中、TVsは試験板あたりのインフルエンザウイルスの感染価(pfu)であり、UVsは基準板あたりのインフルエンザウイルスの感染価(pfu)である。
そして、以下の基準で抗ウイルス性を評価した。
AA:Vが3以上であった。
A:Vが2以上3未満であった。
B:Vが1以上2未満であった。
C:Vが1未満であった。
【0076】
<変色評価>
(1)ゼオライト変色評価
実施例1~4および比較例1~3から得られた抗ウイルス性ゼオライト粉末をガラスセルに入れ、色彩色差計(製品名「CR-400」、コニカミノルタ株式会社製)を用いて色相(L*a*b*色空間)を測定した。次いで、そのゼオライト粉末を500ルクスの蛍光灯(直管蛍光灯(昼白色)、型式「FL20SS」、株式会社東芝製)照射下において25℃で60日間静置して貯蔵した。貯蔵後のゼオライト粉末についても同様に色相を測定した。そして、貯蔵前後の色相の色差ΔE*abを基に以下の評価基準でゼオライト粉末の耐変色性を評価した。
A:色差ΔE*abが5以下であった。
B:色差ΔE*abが5を超えて10以下であった。
C:色差ΔE*abが10を超えていた。
【0077】
(2)塗膜変色評価
実施例5および比較例4から得られたコーティング組成物を、5cm角のガラス板上にはけを用いて乾燥塗布量0.65gとなるように塗装し、室温で7日乾燥して塗膜を形成し、塗膜を有する試験板を作成した。作成した塗膜について、色彩色差計を用いて色相(L*a*b*色空間)を測定した。次いで、その塗膜を500ルクスの蛍光灯(直管蛍光灯(昼白色)、型式「FL20SS」、株式会社東芝製)照射下において25℃で60日間静置して貯蔵した。貯蔵後の塗膜についても同様に色相を測定した。そして、貯蔵前後の色相の色差ΔE*abを基に以下の評価基準で塗膜の耐変色性を評価した。
A:色差ΔE*abが5以下であった
B:色差ΔE*abが5を超えて10以下であった。
C:色差ΔE*abが10を超えていた。
【0078】
以下、結果を表1に示す。なお、表1における水素イオン含有量および特定金属イオン含有量の欄の「-」は、検出限界以下であることを意味する。すなわち、表1において、水素イオン含有量の欄が「-」である場合には、抗ウイルス性ゼオライトにおいて水素イオン含有量が0.1mmol/gよりも充分に小さく、また特定金属イオン含有量の欄が「-」である場合には、抗ウイルス性ゼオライトにおいて特定金属イオン含有量が0.1mmol/gよりも十分に小さいことを意味する。
【表1】
【0079】
以下、結果について述べる。比較例1に係る抗ウイルス性ゼオライトは、水素イオンを含んでいなかったので、抗ウイルス性が低かった。比較例2に係る抗ウイルス性ゼオライトは、銀イオン含有量が0.08mmol/gであったので、抗ウイルス性は良好であったが、経時的な変色が明らかに確認された。比較例3に係る抗ウイルス性ゼオライトは、水素イオン含有量が低かったので、抗ウイルス性が低かった。比較例4に係るコーティング組成物は、比較例2に係る抗ウイルス性ゼオライトを用いていたので、抗ウイルス性は良好であったが、経時的な変色が明らかに確認された。これに対し、実施例1~4に係る抗ウイルス性ゼオライトは、水素イオン含有量が0.1mmol/g以上であり、かつ特定金属イオン含有量が0.1mmol/g未満であったので、抗ウイルス性が良好であり、かつ経時的な変色も確認されなかった。実施例5に係るコーティング組成物は、実施例1に係る抗ウイルスを用いていたので、抗ウイルス性が良好であり、かつ経時的な変色も確認されなかった。