IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-配線部材 図1
  • 特開-配線部材 図2
  • 特開-配線部材 図3
  • 特開-配線部材 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121916
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】配線部材
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/271 20210101AFI20240902BHJP
   A61B 5/273 20210101ALI20240902BHJP
【FI】
A61B5/271
A61B5/273
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029151
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109793
【弁理士】
【氏名又は名称】神谷 惠理子
(72)【発明者】
【氏名】小出 史代
(72)【発明者】
【氏名】荒牧 晋司
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127LL19
4C127LL21
(57)【要約】
【課題】 皮膚表面に形成された電極等と外部デバイスの電極との間の電気信号の授受が、装着者の活動時においても安定的に行われるように改善した配線部材を提供する。
【解決手段】 特定範囲の圧縮弾性率、吸水速度、及び透湿度を有する部材;前記部材の前記第1電極と接する面の一部分に設けられる第1導電部;前記部材の前記第2電極と接する面の一部分に設けられる第2導電部;及び前記第1導電部と前記第2導電部とを電気的に導通させる導通部を備えた配線部材。前記部材は、植物繊維で構成される繊維塊を用いることができる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体表面に形成された電極や導電パターン等の第1電極と、生体外のデバイスに接続されている第2電極との間に介在させて用いられる配線部材であって、
圧縮弾性率が1kPa~20Mpaであり、JIS L1907 滴下法で測定される吸水速度が10秒以下であり、且つ、JIS L1099 A-1法で測定される透湿度が1,000~20,000g/m・24hである部材;
前記部材の前記第1電極と接する面の一部分に設けられる第1導電部;
前記部材の前記第2電極と接する面の一部分に設けられる第2導電部;
前記第1導電部と前記第2導電部とを電気的に導通させる導通部
を備えた配線部材。
【請求項2】
前記第2導電部と、第2電極とを電気的に接続する電線を、さらに備えた請求項1に記載の配線部材。
【請求項3】
前記部材は、植物繊維で構成される繊維塊である請求項1に記載の配線部材。
【請求項4】
前記繊維塊は、綿繊維を含む織布、編布、不織布又はフェルトである請求項3に記載の配線部材。
【請求項5】
前記導通部は、前記第1導電部と第2導電部との接点を含む接続部分である請求項1に記載の配線部材。
【請求項6】
前記第1導電部、第2導電部及び導通部は、連続した導電性布帛の該当部位により構成されている請求項5に記載の配線部材。
【請求項7】
前記第1の電極は、生体の皮膚表面に形成された導電性物質である請求項1~6のいずれか1項に記載の配線部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚表面に形成された電極や導電パターン等と、当該電極や導電パターンからの電気信号を授受する外部デバイスとの間に介在させて使用する配線部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のウエアラブルデバイスの発展に伴い、生体表面とエレクトロニクスデバイスとの間で、直接電気信号を授受させるデバイスの開発が進んでいる。かかるデバイスの発展に伴い、皮膚等の人体の表面に、直接、電極や導電パターン(以下、これらを特段区別しない場合には「電極等」と総称する)を形成する研究も進んでいる。
人体表面(皮膚)に形成される電極等には、皮膚の動きに追随できるように、高い追従性が求められる。
【0003】
皮膚の動きに対する追従性を有し、且つ長期間安定的に使用可能な電子機能部材として、特開2016-112246号(特許文献1)は、開口部を有する基材と、開口部の周囲を外枠として懸架された繊維網と、該繊維網の一側の面及び基材上にも延在するパターニングがされた導電被覆部を備えた電子機能部材を提案している。
【0004】
前記繊維網を、ポリビニルアルコール(PVA)等の水溶性樹脂を主成分とする組成物で構成し、皮膚上に載置した電子機能部材に水を吹き付けると、PVA等で構成された繊維網が溶解して接着剤として作用できる。このようにして、皮膚表面に、電極パターン等の導電性物質を、貼付固定できることも知られている(非特許文献1)。
このようにして皮膚上にパターニングされた導電性物質層に対し、外部デバイスの電極や外部デバイスからの配線等を接触させることで、皮膚とデバイスとの間で電気信号の授受を行うことが可能になる。
【0005】
また、国際公開2020/241685号公報(特許文献2)では、ポリエチレン、ポリプロピレン等の疎水性熱可塑性樹脂の網状基材を使用し、かかる基材上に、エレクトロスピニング法によりPVAナノファイバーを主成分とするナノメッシュを形成し、さらに、このナノメッシュ上に、導電性の金属等をコートしたナノメッシュ積層体を提案している。
かかるナノメッシュ積層体を、生体の所望の場所に戴置した後に水やアルコール水溶液を適用すると、溶解したPVAのナノメッシュが接着剤として作用し、皮膚上に、メッシュ状の導電性物質層、すなわち導電回路、配線(電極等)を固定でき、取り扱い性にも優れている。
【0006】
しかしながら、特許文献2で提案されているナノメッシュ積層体を用いて、細かな凹凸面である皮膚表面上に安定的な電極パターンを形成したにもかかわらず、動作を伴う生体の電気信号を、皮膚を介してセンシングする各種センサー電極や配線等に使用した場合、生体からの電気信号を授受する外部デバイスとの電気信号の授受において、電気信号が途切れたり、授受する電気信号にノイズが発生するなど、電気的接続が不安定になる場合があることがわかった。
【0007】
上記問題が、装着者が静止している場合には起こらなかったことから、かかる不安定な電気的接続は、日常生活における装着者の動きに起因すると考えられる。
【0008】
かかる理解の下、特開2022-150229号公報(特許文献3)において、皮膚上に形成される導電性パターン(導電性物質層)と外部デバイスの電極との間に、導電性エラストマーを含む導電性緩衝層を介在させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2016-112246号公報
【特許文献2】国際公開第2020/241685号
【特許文献3】特開2022-150229号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】“皮膚呼吸が可能な皮膚貼り付け型ナノメッシュセンサーの開発に成功”、[online]、東京大学、科学技術振興機構、慶應義塾大学、理化学研究所、[令和5年1月23日検索]、インターネット<URL:http://www.jst.go.jp/pr/announce/20170718/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献3で提案された接続構造は、装着者の活動に伴う皮膚の動きによる接続状態の変化(これによる不安定な接続状態)を、皮膚上の電極、導電性パターンと外部デバイスの電極との間に介在させた導電性緩衝層により吸収することで、両者の接続状態の改善を図るものである。しかしながら、導電性緩衝層の介在によっても、尚も電気信号の授受において、不安定な場合があり、改善が求められている。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、皮膚表面に形成された電極等と、外部デバイスの電極や外部デバイスからの配線との間の電気信号の授受が、装着者の活動時においても安定的に行われるように改善した配線部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
皮膚表面に形成した電極等と、生体から取り出した電気信号を処理する外部デバイスとの間での電気信号の授受について、種々調べた結果、不安定な電気信号の授受は、装着者の静止時にはほとんど発生せず、活動時に不安定になる傾向にあることがわかった。
【0014】
かかる結果から、本発明者らは、日常生活の活動においては、装着者が発汗するため、外部デバイスの電極や外部デバイスからの配線と、皮膚表面に形成された電極等との間に介在した導電性緩衝層、あるいは外部デバイス電極や外部デバイスからの配線と皮膚表面に形成された電極等との接触部分が、汗等の水分の影響を受けた結果、電気信号の授受が不安定になると考えた。
特に、皮膚表面の凹凸、追随性向上の観点から、電極等がメッシュ状の導電性物質で構成されている場合、前記メッシュ状の導電性物質で構成されている電極等は透湿性を有する。しかしながら、外部デバイスの電極や外部デバイスからの配線と皮膚表面に形成された電極等との間に介在した導電性緩衝層、あるいは外部デバイス電極や外部デバイスからの配線と、皮膚表面に形成された電極等との接触部分では、汗等の水分が即座には蒸発せずに、メッシュの開口部や皮膚表面に貯留される場合があり、貯留した汗等の水分が、外部デバイスの電極間や外部デバイスからの配線間、皮膚表面に形成した電極等間で通電してしまうことすらあり得る。
【0015】
さらには、メッシュ状の導電性物質で構成されている電極等と皮膚表面との密着性は強くないことから、皮膚表面に形成した電極等と外部デバイスの電極や外部デバイスからの配線との摩擦や接触部にたまった汗等の水分により、外部デバイスの電極や外部デバイスからの配線との接触部分において皮膚表面に形成した電極等が摩耗、劣化、断線してしまう場合がある。前記皮膚表面に形成した電極等の劣化等は、皮膚表面に形成した電極等と、外部デバイスの電極や外部デバイスからの配線との不安定な電気的接続の原因となる。
【0016】
また、装着状態における発汗は、前記接触部分における肌の蒸れかぶれ等の原因にもなる。これは装着者にとって不快の原因となるだけでなく、蒸れやかぶれに基づく肌状態の変化が、電気信号の授受にも影響を及ぼす場合もある。
【0017】
本発明者らは、上記推察の下、外部デバイスとの電気信号授受の対象者の日常の動作に伴って生じる電気的接続が不安定となる要因を取り除く又は解決のために検討を進め、安定的に電気信号を授受できる接続状態を提供できる配線部材を案出するに至った。
【0018】
すなわち、本発明の配線部材は、生体表面に形成された電極や導電パターン等の第1電極と、生体外のデバイスに接続されている第2電極との間に介在させて用いられる配線部材であって、圧縮弾性率が1kPa~20Mpaであり、JIS L1907 滴下法で測定される吸水速度が10秒以下であり、且つ、JIS L1099 A-1法で測定される透湿度が1,000~20,000g/m・24hである部材;
前記部材の前記第1電極と接する面の一部分に設けられる第1導電部;
前記部材の前記第2電極と接する面の一部分に設けられる第2導電部;及び
前記第1導電部と前記第2導電部とを電気的に導通させる導通部
を備えている。
前記第2導電部と第2電極とを電気的に接続する電線を、さらに備えていてもよい。
【0019】
前記部材は、植物繊維で構成される繊維塊であることが好ましい。また、前記繊維塊は、綿繊維を含む織布、編布、不織布又はフェルトであることが好ましい。
【0020】
本発明のある実施形態では、前記導通部は、前記第1導電部と第2導電部との接点を含む接続部分であることが好ましい。
また、別の実施形態では、前記第1導電部、第2導電部及び導通部は、連続した導電性布帛の該当部位により構成されていることが好ましい。
【0021】
本発明の配線部材において、前記第1の電極は、生体の皮膚表面に形成された導電性物質層であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の配線部材は、適切なクッション性、吸水性、透湿性を有する部材を備えているので、皮膚表面の動き、凹凸の変化を緩和できるだけでなく、生体の日常活動に起因する、生体皮膚上に配置された導電性物質層と、外部デバイスの電極や外部デバイスからの配線との間における電気的接続状態への影響も低減することができる。
【0023】
特に、装着者が発汗した場合に起因する電気信号の不安定にも対応でき、さらに発汗による蒸れ等も防止できるので、装着者にとっても快適な装着環境を提供することもできる。ひいては、皮膚状態の変化に起因して電気信号が不安定となることを回避できる。
したがって、本発明の配線部材を用いることで、皮膚表面に形成された電極や配線パターンと外部デバイスとを組み合わせて、長時間にわたって生体と外部デバイス間での安定した電気信号の授受が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の配線部材の一実施形態を示す上面図(図1(A))及び側面図(図1(B))である。
図2】本発明の一実施形態の配線部材の使用方法を説明するための模式図である。
図3】本発明の配線部材における通電部の他の実施例を示す模式図である。
図4】本発明の配線部材における通電部の他の実施例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0026】
〔配線部材〕
本発明の配線部材は、生体表面に形成された電極や導電パターン等の第1電極と、生体外のデバイスに接続されている第2電極との間に介在させて用いられる配線部材であって、
圧縮弾性率が1kPa~20Mpaであり、JIS L1907 滴下法で測定される吸水速度が10秒以下であり、且つ、JIS L1099 A-1法で測定される透湿度が1,000~20,000g/m・24hである部材;
前記部材の前記第1電極と接する面の一部分に設けられる第1導電部;
前記部材の前記第2電極と接する面の一部分に設けられる第2導電部;及び
前記第1導電部と前記第2導電部とを電気的に導通させる導通部
を備えた配線部材である。
【0027】
本発明の配線部材の一実施形態について、図1及び図2に基づいて説明する。図1は、本発明一実施形態の配線部材10の構成を示す模式図(図1(A)は上面図、図1(B)は側面図)であり、図2は、当該配線部材10の使用状態の一例を示す図である。
【0028】
図1に示す配線部材10は、部材1として、シート状クッション材を使用し、このシート状クッション材の下面1Aの一部及び上面1Bの一部を覆うように、導電性シート2が貼着されたものである。
導電性シート2において、下面1Aに貼着されている部分が、第1導電部2aであり、上面1Bに貼着されている部分が第2導電部2bである。第1導電部2aと第2導電部2bとが連続した導電性シート2において、第1導電部2aと第2導電部2bとに挟まれた中間部分は、導通部2cを構成している。第2導電部2bには、電線4がハンダ付けされている。
【0029】
図2において、20は生体の例えば前腕で、前腕20の皮膚表面に、生体からの電気信号を取り出すための1対の電極や導電性パターン等の第1電極11、11が形成されている。配線部材10の第1導電部2aは、第1電極11の少なくとも一部と接触している。
また、配線部材10の第2導電部2bは、電線4を介して、外部デバイス12の電極(図示されていない第2電極)に接続されている。
【0030】
部材1は、例えば図2のような使用状態(前腕20の皮膚表面に形成された第1電極11の一部を覆うように、配線部材10を載置)において、生体の活動に伴って生じる振動を吸収緩和することができ、さらには装着者である生体が発汗等による皮膚表面の状態変化を緩和する役割を有することができるものである。
【0031】
部材1は、具体的には、JIS K-7181に準拠する方法で測定される圧縮弾性率が1kPa~20Mpa、好ましくは10MPa以下、特に好ましくは1MPa以下である。これにより、生体の活動に伴って生じる振動を吸収緩和することができ、皮膚表面の動き(凹凸変化)に伴う電極との接続状態の変動を抑制することができる。
【0032】
本実施形態において、かかる圧縮弾性率を有する部材1としては、シート状クッション材1を用いていて、このシート状クッション材1は、さらに、JIS-L1907滴下法で測定される吸水速度が10秒以下、好ましくは8秒以下、特に好ましくは5秒以下であり、JIS-L1099 A-1法で測定される透湿度が1,000~20,000g/m・24h、好ましくは1,500g/m・24h以上、特に好ましくは2,000g/m・24h以上である。
【0033】
生体は、日常の活動を通じて発汗するため、皮膚表面に存在する水分量が変化し得る。装着者の発汗量が大きい場合、第1電極11表面を汗等の水分が覆う場合があり、第1電極11と第2電極との間の界面にも汗等の水分が介在しえる。
しかしながら、本発明の配線部材10は、第1導電部2aが第1電極11と接触し、シート状クッション材1の導電部が設けられていない部分が、第1電極11の一部及び前腕20の第1電極11が形成されていない皮膚面上に接触するように用いられている。シート状クッション材1は、その特性に基づき、皮膚20表面に生じた水分を吸水することで、水滴が皮膚表面に貯留することを回避できる。
【0034】
また、上記シート状クッション材1は、上記範囲の透湿度を有することにより、単に皮膚20表面に生じた水分を吸水するだけでなく、外部へ蒸散させることができる。これにより、装着者が吸水による蒸れで不快感を感じることを回避でき、さらにシート状クッション材1が吸水により湿潤状態となることを回避できる。
【0035】
上記要件を充足できるシート状クッション材1としては、織布、編布、不織布、フェルト等の繊維塊を用いることができる。繊維塊を構成する繊維としては、綿、竹、麻などの植物繊維;絹、羊毛、アルパカ、アンゴラ、カシミア、モヘヤなどの動物繊維;レーヨン、キュプラ、ポリノジックなどの再生繊維;アセテート、ジアセテート、トリアセテート、プロミックスなどの半合成繊維;ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリ塩化ビニル、ウレタン、セルロースなどの合成繊維が挙げられる。これらから選択される2種以上の繊維を混合した繊維塊であってもよいし、2種以上の繊維を混紡した糸条体を用いた布帛であってもよい。
これらのうち、好ましくは吸水性に優れた植物繊維、好ましくは綿繊維が用いられる。
【0036】
シート状クッション材1の厚みは、通常0.1mm以上、好ましくは0.5mm以上、さらには1mm以上である。薄すぎると、クッション性が損なわれ、生体表面の振動の吸収、緩和が不十分となる傾向にある。
一方、分厚くなりすぎると、配線部材全体の重量が重くなり、かさ高なものとなることから、通常、20mm以下、好ましくは15mm以下、より好ましくは10mm以下である。
【0037】
シート状クッション材1のサイズは、通常、適用箇所、適用方法に応じて適宜設定される。通常、縦1~100mm、横1~100mm、好ましくは縦80mm以下、横50mm以下、特に好ましくは縦50mm以下、横30mm以下である。
【0038】
シート状クッション材1は、装着者の負担軽減、快適性の観点から、軽量であることが好ましい。具体的には、通常0.01~50g、好ましくは5g以下、特に好ましくは2g以下である。
シート状クッション材1の重量はサイズに依存するが、構成材料となる繊維塊の空孔率、圧縮率や、布帛の繊度、織り方を工夫することで、緩衝部材の嵩密度を調節することができる。
【0039】
導電性シート2は、シートとして導電性を有すればよく、導電性物質で構成されるシート;プラスチックフィルムや非導電性繊維等で構成される布帛に導電性物質をコートした導電性被覆シート;非導電性繊維に導電性物質を被覆した導電性皮膜付き繊維で構成した布帛などを用いることができる。
【0040】
第1導電部2a、第2導電部2bを構成する前記導電性物質としては、金、白金、銀、塩化銀、銅、アルミニウム、ニッケル、錫メッキ銅、錫メッキニッケル、チタン、パラジウム、クロム又はコバルト等の金属あるいはその合金、カーボン(炭素)等が挙げられる。
【0041】
導電性物質で構成されるシートとしては、上記金属で構成される金属箔、上記金属繊維や炭素繊維の織布、不織布などが挙げられる。
【0042】
上記非導電性繊維としては、綿、竹、麻などの植物繊維;絹、羊毛、アルパカ、アンゴラ、カシミア、モヘヤなどの動物繊維;レーヨン、キュプラ、ポリノジックなどの再生繊維;アセテート、ジアセテート、トリアセテート、プロミックスなどの半合成繊維;ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリ塩化ビニル、ウレタンなどの合成繊維;などの繊維を用いることができる。これらは、複数組み合わせて用いてもよい。
【0043】
導電性シート2のサイズは、第1電極11に対する集電機能を充足できるように、第1電極11のサイズに応じて、適宜設定される。
例えば、生体皮膚20に形成された第1電極11(導電性物質層)の幅の1~100%未満にすることが好ましい。導電性物質層11の幅に対し第1導電部2aの幅を小さくし過ぎると、導電性物質層11と第1導電部2aとの接触界面において、電気的接続が不安定になる場合がある。第1導電部2aとの接触界面の幅は導電性物質層11の幅の10%以上にすることが好ましく、とくに好ましくは20%以上である。
一方、導電性物質層11よりも第1導電部の幅が大きくなると、第1導電部が直接肌に触れることになり、肌トラブルを引き起こしやすくなる傾向がある。また、第1導電部が肌に直接触れる面積の方が第1電極である導電性物質層の面積よりも大きくなると、第1導電部で取得した生体信号情報が優位になる傾向がある。
【0044】
生体皮膚20に形成された導電性物質層11と第1導電部2aが接する長さを、導電性物質層11の長さの1~100%未満にすることが好ましい。導電性物質層11の長さに対し第1導電部2aの長さを長くし過ぎると、第1導電部2aにより吸水性および透湿性が低下してしまう傾向がある。これにより汗などの皮膚から生じた水分に起因して導電性物質層11と第1導電部2aとの接触界面における電気的接続が不安定になる場合があるため、第1導電部2aが導電性物質層11と接する長さを、導電性物質層11の長さの80%以下にすることが好ましく、とくに好ましくは50%以下である。
【0045】
導電性シート2の厚みは、通電に必要十分であればよく、特に材料として金属が含まれるので、分厚くなるほど、重くなったり、可撓性の低下の原因となり、取り扱い性が低下する傾向がある。したがって、通常、0.01~10mm、好ましくは5mm以下、特に好ましくは1mm以下である。
【0046】
以上のような構成を有する導電性シート2は、シート状クッション材1の第一の面(皮膚と接触する側の面)1A及び第二の面(外部デバイスと接続するための電線が設けられる側の面)1Bに設けられるとともに、第一の面1Aに設けられた第1導電部2aと第二の面1Bに設けられた第2導電部2bとが導通するようにシート状クッション材1に取り付けられる。
【0047】
導電性シート2を、シート状クッション材1の所定位置に固定する方法は特に限定しないが、粘着剤、粘着テープ、接着剤を用いる方法が挙げられる。
粘着剤、粘着テープ、接着剤としては、使用する導電性シート2、シート状クッション材1の素材に応じて適宜選択すればよい。エポキシ系やシリコーン系、アクリル系、ウレタン系等の有機系粘着剤、接着剤を用いることもできる。また、これらの有機系バインダーに、銀やニッケル、銅、錫メッキ銅、錫メッキニッケル、アルミニウム、金等の金属粒子等の導電性フィラーを含有させた導電性接着剤や導電性粘着剤を用いてもよい。
【0048】
電線4は、第2導電部2bと外部デバイス12の電極(第2電極)とを電気的接続するための電線である。電線4としては、金、白金、銀、塩化銀、銅、アルミニウム、チタン、パラジウム、クロム又はコバルト等の金属あるいはその合金、カーボン(炭素)等の導電性材料で構成される線材であり、これらの導電材料で構成される導電性繊維であってもよい。
【0049】
図1に示す態様では、導電部2cが、第1導電部2a及び第2導電部2bと連なった1枚のシート状の導電性シートを使用し、導電性シート2を、シート状クッション材1に貼着していたが、これに限定されない。
例えば、図3に示すように、導電性シート2の両端部を、シート状クッション材1を挟持するようにかしめることで、固定してもよい。
【0050】
電線4は、上記導電性材料で構成される線材、導電性繊維の外表面を、ポリ塩化ビニルやフッ素樹脂、架橋ポリエチレン、天然ゴム、合成ゴム等の絶縁材料で覆った被覆電線であってもよい。
【0051】
電線4は、第2導電部2bに電気的接続されるとともに、シート状クッション材1の表面に固定されていることが好ましい。
【0052】
電線4と第2導電部2bに電気的接続する方法は、特に限定しないが、第2導電部2bとのハンダ付け、導電性粘着剤や導電性粘着テープを用いる方法が挙げられる。
【0053】
〔他の実施形態〕
図1に示す配線部材では、導電部2cが、第1導電部2a及び第2導電部2bと連なった1枚のシート状の導電性シートを使用していたが、本発明の配線部材はこれに限定されない。例えば、第1導電部、第2導電部が別体で構成されていて、第1導電部と第2導電部を導通できる接続部を別途形成してもよい。例えば、図4に示すように、第1導電部3aと第2導電部3bとを適宜箇所でスポット溶接することにより、接合部を形成し、導通させてもよい。図4中、3dがスポット溶接により接合された部分で、導通部となる。
【0054】
また、本発明の配線部材において、部材1は、本発明で特定する圧縮弾性率、吸水性、透湿性を有すればよく、上記シート状クッション材と同等の材質、形状に限定はしない。
【0055】
〔使用方法〕
図2は、図1に示す配線部材10の使用の一例を示している。
前腕の皮膚表面20に形成された配線パターン、電極パターン(電極等)11の端部に、配線部材10が載置され、さらに電線4の他端には、外部デバイス12の電極(図示せず)を接続する。
【0056】
皮膚表面20に形成される第1電極11は、例えば特許文献2に開示の方法で形成される導電パターンであり、通常、白金、銀、塩化銀、銅、チタン、パラジウム、クロム又はコバルト等の金属あるいはその合金、カーボン(炭素)等の導電性材料で構成される導電物質層である。
【0057】
特許文献2の方法で形成される第1電極(導電性物質層)は、メッシュ状の導電性物質で構成されている。具体的には、水溶性樹脂のメッシュ層上に導電性物質層を形成したメッシュ積層体を、生体皮膚20上に載置し、該メッシュ積層体と水系媒体とを接触させることで、第1電極11となる、メッシュ状の導電性物質層が皮膚表面に形成される。
【0058】
メッシュ状の導電性物質層で構成される第1電極11は、皮膚の動きに伴う断線リスクを低減できる。
本発明の配線部材10は、シート状クッション材1が吸水性、吸湿性を有するので、生体表面に形成された第1電極11と外部デバイス12の電極(第2電極)との間で、装着者の発汗等により生じた水分を吸収し、さらには蒸散させることができ、生体上に形成した電極から外部デバイス12の電極の電気的接続部分、あるいはメッシュ電極内での電気定接続における汗等による影響を回避できる。よって、長時間にわたる生体センシングや皮膚状態の測定に極めて有効である。
一方、導電性物質層が網目状であると、外部デバイスの電極と外部デバイスとの間に介在させる配線部材との間での接触が点接触となる傾向にあり、部分的な切断やノイズが起こりやすい。本願発明は、このような接触状況を改善できるという点で有用である。
【0059】
電線4を介して接続する外部デバイス12としては、皮膚との間で電気信号を授受し得るデバイスを用いることができる。生体からの情報を検知するデバイスであってもよく、生体に対して電気信号を供与するデバイスであってもよい。
外部デバイス12の種類は特段限定しないが、ウエアラブルデバイスが好ましい。本発明の配線部材と組み合わせて用いることにより、装着状態で動いても、信号の切断や、ノイズの混入が低減される。
【0060】
以上のように、本発明の配線部材を介した接続構造によれば、装着者の動きにより、第1電極で代表される導電性物質層11と配線部材10との間の接触状態が変化してしまうことを防ぐために、配線部材10は導電性物質層11を接した状態で固定することが望ましい。本発明の配線部材10であれば、固定状態が続いても、装着者の動きを妨げず、皮膚に対して刺激を与えず、さらには、汗等の皮膚からの水分により蒸れて装着による不快感を回避できる。
【0061】
したがって、皮膚表面に形成した電極と外部デバイス電極との間に、本発明の配線部材を介在させることにより、両者間での電気信号授受を安定的に行うことができるので、長期間にわたって、生体からの情報をセンシングする測定、外部デバイスに適用できる。よって、生体が発生する様々な生理学的・解剖学的情報(例えば、脈拍、血圧、体温、心拍、呼吸、皮膚抵抗、経皮水分蒸散量、発汗量、肌の水分量、肌の皮脂量など)に加えて、ユーザーの活動に関する情報(例えば、歩数、歩行距離、移動している時間、静止している時間、汗の蒸散量、消費カロリーなど)を測定、モニタリングする外部デバイス装置への適用が可能となる。
【0062】
外部デバイスが、一時的に用いられる測定装置やウエアラブデバイスでない場合、外部デバイスとの接続状態を安定化させるために、配線部材及び電線を、医療用粘着テープ、弾性包帯や伸縮包帯、止血バンド等を利用して、皮膚表面に固定してもよい。
【0063】
なお、本発明の配線部材において、外部デバイスの電極に接続するための電線は必須ではない。例えば、第2導電部と外部デバイス電極が直接接触できる外部デバイスであれば、電線はなくてもよい。
【0064】
外部デバイスは電極を有し、生体上に配置された導電性物質層と該電極が電線4を介して接することで、信号を授受する。外部デバイスの電極の材料は導電性物質層と同一であっても、異なっていてもよい。外部デバイスに設けられる電極対は1対であっても、複数対であってもよい。
【実施例0065】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲が実施例の記載により限定されないことはいうまでもない。なお、実施例中「部」、「%」とあるのは特に断りのない限り重量基準である。
【0066】
〔実施例1〕
1.生体皮膚上への第1電極の形成
特許文献2に記載の金メッシュ電極(4×30mm)を、80%エタノール水溶液を含浸させたコットンを用いて、片腕前腕部の皮膚上に金で構成されるメッシュ状の第1電極を形成した。
【0067】
2.配線部材
綿で構成されるシート状塊(縦25mm、横15mm、厚み6mmの滅菌済みの綿塊(ニチバン株式会社製、圧迫止血用パッドステプティのパッド部を切り出して使用)を、圧縮弾性率が1kPa~20Mpaであり、JIS L1907 滴下法で測定される吸水速度が10秒以下であり、且つ、JIS L1099 A-1法で測定される透湿度が1,000~20,000g/m・24hの要件を充足する部材として用いた。
【0068】
第1導電部、第2導電部及び通電部を構成する材料として、幅4mm、長さ30mm、厚み0.17mmの導電布テープ(株式会社IDクリエイト、難燃性導電布帛の片面に導電性アクリル系粘着剤層が設けられている)を使用し、これを図1に示すように、上記シート状塊の上面の一端部から下面の一端部を覆うように貼付した。皮膚上に形成された第1電極と接触部分となる第1導電部のサイズは、長さ10mm、幅4mmであった。第2導電部側に、リード線をハンダ付けして、電線付き配線部材を作成した。
【0069】
3.配線部材の固定
上記で作製した配線部材の第1導電部を、前腕内側に形成した第1電極と、長さ10mm、幅4mmで接するように載置し、配線部材を、医療用テープ(日東電工株式会社製、優肌絆)および止血バンド(アズワン株式会社製)で、前腕に固定した。
【0070】
〔評価〕
上記のようにして、前腕に固定した配線部材について、下記方法にて評価した。
(1)平時の電気的接続安定性
装着した状態で、発汗しない程度に2時間を過ごした。その間、リード線と皮膚上に形成したメッシュ状の電極との間の導通の有無(汗等の水分による第1導電部と配線部材間の電気的接続の確認)、メッシュ状の電極間の導通の有無(汗等の水分による第1電極間のショートの有無)、皮膚上に形成したメッシュ状の電極それぞれの面内抵抗(第1電極内での導通の確認)を、デジタルマルチメーター(日置電機株式会社製)を用いてモニタリングした。その結果、リード線と皮膚上に形成したメッシュ状の電極との間において安定した導通が得られ、かつ皮膚上に形成したメッシュ状の電極間で導通してしまうようなことも起こらなかった。
【0071】
また、2時間後、配線部材を取り外して、皮膚上に形成したメッシュ状の電極の状態を目視でも確認したところ、摩耗や断線は認められなかった。
リード線と皮膚上に形成したメッシュ状の電極との間において安定した電気的接続が得られたことから、メッシュ状の電極を介して生体との電気信号の授受を行う場合に、前記配線部材を用いることで安定的に電気信号の授受を行うことができるといえる。
【0072】
(2)装着者の汗等の水分による影響
装着者が歩行するなどにより発汗する環境に2時間過ごし、(1)と同様にして、電気的接続の安定性を確認した。
発汗したにもかかわらず、(1)の測定時と同様に、リード線と皮膚上に形成したメッシュ状の電極との間において安定した電気的接続を確認できた。
【0073】
(3)装着感
(2)の試験後、配線部材を取り外し、配線部材が取り付けられていた部分の肌状態を確認したところ、皮膚表面の電極部分に湿分は観察されず、肌トラブルもなかった。また。装着者においてもかゆみがなかったことを確認した。
【0074】
〔比較例1〕
導電布テープに代えて、幅4mm、長さ30mm、厚み0.095mmの銅箔テープ(株式会社IDクリエイト社製)を使用し、これを図1に示すように、上記シート状塊の上面の一端部から下面の一端部を覆うように貼付した。皮膚上に形成された第1電極と接触部分となる第1導電部のサイズは、長さ10mm、幅4mmであった。第2導電部側に、リード線をハンダ付けして、電線付き配線部材を作成し、実施例1と同様にして評価を行った。結果は表1に示すとおりである。
すなわち、平時での電気的接続は安定していたが、発汗するような状況においては、電気的接続の安定性に影響を及ぼした。また、銅箔テープを剥がした後の肌状態を確認したところ、皮膚表面の電極部分には、うっすらと汗の影響と湿分が認められた。また、銅箔テープのエッジ部分が接触していた肌にかゆみおよび赤みが発生していた。
【0075】
【表1】
【0076】
表1から明らかなように、本発明で特定する圧縮弾性率、吸水性、透湿性を有する部材を備えていない配線部材(比較例1)の場合でも、接続の途切れや導電性物質層の摩耗、劣化、断線はなく、安定的に電気信号を送受信することは可能であったが、発汗するような状況では電気的接続が不安定になり、さらに装着者においても不快なものであった。
【0077】
一方、本発明で特定する圧縮弾性率、吸水性、透湿性を有する部材を備えている配線部材(実施例1)を使用した場合、発汗するような動作環境でも、安定的に電気信号の授受を行うことができた。しかも、装着者において不快感はなく、肌トラブルもなかった。
したがって、外部デバイスと生体との電気信号授受に関し、皮膚表面に形成した電極等を利用し、本発明の配線部材を用いることで、装着者の日常生活のQCを保持しつつ、長時間に渡って電気信号をモニタリングすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の配線部材は、装着者が発汗するような活動環境においても、安定的に電気信号を取り出すことができ、しかも装着者に不快感をもたらすことがない。したがって、本発明の配線部材は、ウエアラブルデバイスのように、長時間にわたって装着しながら、生体との間で電気信号を授受してモニタリングする外部デバイスと、生体との間に介在させて用いる配線部材として有用である。
【符号の説明】
【0079】
1 部材(シート状クッション材)
2、3 導電性シート
2a、3a 第1導電部
2b、3b 第2導電部
2c 導通部
3d 導通部(スポット溶接部)
4 電線
10 配線部材
11 第1電極

図1
図2
図3
図4