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特開2024-122112電気化学センサおよび電気化学センサの製造方法
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  • 特開-電気化学センサおよび電気化学センサの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122112
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】電気化学センサおよび電気化学センサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/30 20060101AFI20240902BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
G01N27/30 Z
G01N27/30 B
G01N27/416 311L
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029472
(22)【出願日】2023-02-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩二
(57)【要約】
【課題】複数のセンサ電極の検出面以外を絶縁しつつ、その場合であっても各センサ電極への被検液の供給を一様かつ連続的に行うことを可能にする。
【解決手段】被検液中の特定成分の濃度測定に用いられる電気化学センサ1であって、複数の開口部31を有する保護部材30と、前記複数の開口部31内に個別に配される複数のセンサ電極20と、前記保護部材30および前記複数のセンサ電極20を支持する支持部材10と、を備え、前記支持部材10が前記保護部材30および前記複数のセンサ電極20を支持した状態にて、前記複数のセンサ電極20における検出面20aと前記保護部材30における表面30aとが面一構造を構成している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検液中の特定成分の濃度測定に用いられる電気化学センサであって、
複数の開口部を有する保護部材と、
前記複数の開口部内に個別に配される複数のセンサ電極と、
前記保護部材および前記複数のセンサ電極を支持する支持部材と、を備え、
前記支持部材が前記保護部材および前記複数のセンサ電極を支持した状態にて、前記複数のセンサ電極における前記支持基板との対向側の検出面と、前記保護部材における前記複数の開口部を除く前記支持基板との対向側の表面とが、面一構造を構成している
電気化学センサ。
【請求項2】
前記保護部材は、前記支持基板上に設定されたセンシング領域の全域を覆うように構成されている
請求項1に記載の電気化学センサ。
【請求項3】
前記保護部材における前記開口部は、当該開口部内に位置する前記センサ電極との間の少なくとも一部に、所定の間隔を開けて離間する空隙を有するように形成されている
請求項1または2に記載の電気化学センサ。
【請求項4】
前記空隙は、前記センサ電極に対して前記被検液を供給した際に、前記空隙内への前記被検液の浸入を抑制するように形成されている
請求項3に記載の電気化学センサ。
【請求項5】
前記センサ電極の底面と前記支持基板の上面との間に、前記空隙に連通する離間領域が形成されている
請求項4に記載の電気化学センサ。
【請求項6】
前記保護部材の底面と前記支持基板の上面との間に、前記空隙に連通する離間領域が形成されている
請求項4に記載の電気化学センサ。
【請求項7】
前記センサ電極は、導電性基板と、前記導電性基板上に設けられて前記検出面を構成する電極膜と、を有しており、
前記電極膜は、多結晶ダイヤモンドまたはダイヤモンドライクカーボンによって形成されている
請求項1に記載の電気化学センサ。
【請求項8】
前記特定成分は、前記被検液中の溶存オゾンである
請求項1または7に記載の電気化学センサ。
【請求項9】
被検液中の特定成分の濃度測定に用いられる電気化学センサであって、
開口部を有する保護部材と、
前記開口部内に配されるセンサ電極と、
前記保護部材および前記センサ電極を支持する支持部材と、を備え、
前記支持部材が前記保護部材および前記センサ電極を支持した状態にて、前記センサ電極における前記支持基板との対向側の検出面と、前記保護部材における前記開口部を除く前記支持基板との対向側の表面とが、面一構造を構成している
電気化学センサ。
【請求項10】
請求項1または9に記載の電気化学センサの製造方法であって、
前記支持基板と前記保護部材とを接合する保護部材接合工程と、
前記保護部材の前記開口部内に位置するように前記センサ電極を配置するセンサ電極接合工程と、
を少なくとも有し、
前記センサ電極接合工程よりも前に前記保護部材接合工程を行う
電気化学センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学センサおよび電気化学センサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性ダイヤモンド電極を利用してオゾン水のオゾン濃度を電気化学的に測定することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/091033号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気化学センサにおいて、電気化学的な測定の信頼性を確保するためには、複数のセンサ電極(例えば、作用電極、対電極、参照電極の三極電極)の電極表面(上面)以外で電気化学反応が生じないように、当該電極表面以外を絶縁することが好ましい。電極表面以外の絶縁は、例えば、センサ電極を囲う保護枠(額縁構造)を利用した空気絶縁によって行えば、電極表面の汚染等を招くことがない。
【0005】
しかしながら、複数のセンサ電極に額縁構造を適用する場合に、それぞれの電極表面や保護枠上面等に段差(凹凸構造)が生じてしまうと、例えば、その凹凸構造の存在により測定対象物質の拡散を妨げてしまう場合があり得る。その場合には、リニアスイープボルタンメトリー(LSV)測定時の電流ピーク高さが十分に得られず、例えば導電性ダイヤモンド電極のようにセンサ電極が高い検出感度を有していても、その特性を活かせなくなることがあり得る。
【0006】
本開示は、複数のセンサ電極の検出面以外を絶縁しつつ、その場合であっても各センサ電極への被検液供給の適切化を図ることができ、これにより電気化学的な測定の高信頼性や高感度等を実現可能にする技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様によれば、
被検液中の特定成分の濃度測定に用いられる電気化学センサであって、
複数の開口部を有する保護部材と、
前記複数の開口部内に個別に配される複数のセンサ電極と、
前記保護部材および前記複数のセンサ電極を支持する支持部材と、を備え、
前記支持部材が前記保護部材および前記複数のセンサ電極を支持した状態にて、前記複数のセンサ電極における前記支持基板との対向側の検出面と、前記保護部材における前記複数の開口部を除く前記支持基板との対向側の表面とが、面一構造を構成している
電気化学センサが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本開示の技術によれば、複数のセンサ電極の検出面以外を絶縁しつつ、その場合であっても各センサ電極への被検液供給の適切化を図ることができ、これにより電気化学的な測定の高信頼性や高感度等が実現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の一実施形態に係る電気化学センサの概略構成例を示す分解斜視図である。
図2図1の電気化学センサにおける要部構成例を示す側断面図である。
図3】本開示の一実施形態に係る電気化学センサの製造方法の手順の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明は例示であって、本開示は例示された態様に限定されるものではない。
【0011】
(1)電気化学センサの構成
本実施形態で説明する電気化学センサは、被検液中の特定成分の濃度測定に用いられるものである。被検液は、例えば、オゾン(O)が水(水道水等)中に溶存するオゾン水である。特定成分は、例えば、オゾン水中に溶存するオゾンである。濃度測定は、例えば、リニアスイープボルタンメトリー(LSV)を利用して行う。つまり、本実施形態における電気化学センサは、オゾン水中のオゾン濃度(O濃度)を、LSVを利用して測定することが可能である。
【0012】
(全体構成)
オゾン水中のオゾン濃度を測定するために、本実施形態に係る電気化学センサは、以下に説明するように構成されている。
図1は、本実施形態に係る電気化学センサの概略構成例を示す分解斜視図である。図2は、図1の電気化学センサにおける要部構成例を示す側断面図である。
図1および図2に示すように、電気化学センサ1は、大別すると、支持基板10と、センサ電極20と、保護部材30と、を備えて構成されている。
【0013】
(支持基板)
支持基板10は、センサ電極20および保護部材30を支持するものであり、長手方向に延びる短冊形のシート状(板状)部材として形成されている。短冊形の少なくとも一端側は、例えば円弧状に成形されていてもよい。支持基板10は、絶縁性を有する材料によって形成されている。絶縁性を有する材料としては、例えば、複合樹脂、セラミック、ガラス、プラスチック、ガラスエポキシ樹脂、不織布、紙、紙エポキシ等が挙げられる。支持基板10を形成する材料は、例えば、可燃性材料、生分解性材料であってもよい。ただし、支持基板10の形成材料は、例えばオゾン水中のO濃度の測定を行っている間、折れ曲がったり破損したりすることがない程度の物理的強度および機械的強度を有しているものとする。本実施形態において、支持基板10は、例えば、ガラスエポキシ樹脂で形成されていることが好ましく、さらには可撓性を有するように構成されていることが好ましい。
【0014】
支持基板10における一方の主面上(具体的にはセンサ電極20の配置面側)には、その一端側(例えば端縁が円弧状に成形された側)に、センサ電極20が配置される領域となる電極パッド11が設けられている。電極パッド11は、後述するセンサ電極20の数に対応するように、複数箇所(例えば三箇所)に離間して配されている。また、同主面上における他端側には、後述する測定装置(例えばポテンショスタット)と電気的に接続するための接続端子12が設けられている。接続端子12についても、電極パッド11と同様に、センサ電極20の数に対応して複数(例えば三つ)が設けられている。そして、同主面上には、一端側で電極パッド11と電気的に接続するとともに、他端側で接続端子12と電気的に接続する配線(電気配線)13が設けられている。配線13も、電極パッド11および接続端子12と同様に、センサ電極20の数に対応して複数(例えば三本)が設けられており、それぞれが互いに離間して配設されている。このような配線13を介することで、各電極パッド11と各接続端子12とは、それぞれが個別に対応しつつ導通が確保されることになる。つまり、支持基板10上には、センサ電極20毎に割り当てられた電極パッド11、配線13および接続端子12が設けられており、電極パッド11および接続端子12のそれぞれが配線13を介して個別に電気的に接続されるようになっている。
【0015】
電極パッド11、接続端子12および配線13の形成材料としては、例えば、銅(Cu)、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、これらの合金、これらの酸化物、カーボン(C)、または、これらを積層したもの等が挙げられる。
【0016】
支持基板10の主面上において、配線13は、保護部材30が配置される領域部分、および、接続端子12が形成された領域部分を除き、絶縁保護膜14によって覆われている。絶縁保護膜14は、例えば、絶縁性の樹脂材料(例えばポリエチレンテレフタレート(PET))、ゾルダーレジスト、絶縁性の粘着シート、絶縁性の接着剤等によって形成することができる。
【0017】
(センサ電極)
センサ電極20は、支持基板10の電極パッド11上に配されて、オゾン水中におけるオゾンの濃度測定用電極として機能するものである。そのために、センサ電極20は、被検液であるオゾン水と接触する検出面を有する自立体として構成されている。ここでいう「自立体」とは、支持なしで自立可能な固体のことを意味し、例えば、平板、円盤、立方体、直方体、多面体等の形状を呈している。このように、センサ電極20が支持基板10上に形成された薄膜ではなく、支持基板10とは別体として構成された自立体であることで、可撓性の支持基板10を用いたり、チップ状のセンサ電極20を容易に大量生産したりすることができる。
【0018】
センサ電極20は、オゾン水中のオゾン濃度の測定を三電極法によって行う場合であれば、作用電極21、対電極22、参照電極23の三つの電極によって構成される。つまり、センサ電極20は、作用電極21、対電極22、参照電極23の三極からなるセンサである。
【0019】
これら作用電極21、対電極22および参照電極23(以下、これらを「各電極21,22,23」とも称する。)は、それぞれを同一形状で構成することができる。ここでいう「同一形状」とは、それぞれが同一のチップ平面形状であること、すなわち電極として機能する検出面が同一の平面形状および面積であり、各平面形状が描く図形が合同であることを意味する。チップ平面形状は、例えば支持基板10の長手方向に沿って配された長辺を有する長方形状とすることができるが、これに限定されるものではなく、正方形状や円形状であっても構わない。
【0020】
各電極21,22,23のそれぞれの平面積は、特に限定されるものではないが、例えば1mm以上、好ましくは4mm以上、より好ましくは10mm以上、さらに好ましくは20mm以上であり、好ましくは100mm以下、より好ましくは50mm以下である。ここでいう「平面積」とは、支持基板10の主面に対して垂直方向上方から各電極21,22,23を見た際の面積であり、オゾン水中のオゾンの検出に寄与する面(検出面)の面積に相当する。
各電極21,22,23の平面積が1mm以上であれば、各電極21,22,23を精度よく安定して容易に作製することができ、ハンドリング性の低下および実装安定性の低下を抑制することもできる。
各電極21,22,23の平面積が100mm以下であれば、電気化学センサ1の大型化を回避できる、すなわち、小型の電気化学センサ1を得やすくなる。さらには、各電極21,22,23の平面積が50mm以下であることで、高感度の電気化学センサ1を得ながら、電気化学センサ1の大型化を確実に回避できる。
【0021】
各電極21,22,23の支持基板10上における配置は、特に限定されるものではないが、例えば、それぞれを対称性を有した位置に配することが考えられる。対称性を有した位置としては、以下のようなものが挙げられる。
具体的には、各電極21,22,23を、支持基板10の長手方向に沿って延びる仮想線(ただし不図示)を対象軸として、線対称の位置に配置する。その場合には、各電極21,22,23のうちの一つ(例えば、電極21)の平面形状における重心点または中心点が仮想線上に位置するとともに、他の二つ(例えば、電極22,23)が仮想線を挟んで対称な位置に振り分けられて位置することになる。
また、上述した線対称の位置であることに加えて、各電極21,22,23について、支持基板10における所定の基準点(ただし不図示)を中心として、それぞれを三回対称の位置に配置するようにしてもよい。所定の基準点は、上述した仮想線上に予め設定された仮想的な点である。また、三回対称とは、基準点を中心にして120°回転させる度に、少なくとも図形(例えば、各電極21,22,23の平面形状)の基準点(例えば、各電極21,22,23の重心点または中心点)が重なることになる対称性のことである。三回対称であれば、各電極21,22,23の重心点または中心点を結ぶ線が正三角形を描くことになる。
【0022】
本実施形態においては、各電極21,22,23について、例えば、支持基板10の先端側端縁(例えば円弧状に成形された端縁)の近傍における仮想線上に作用電極21が配置され、それよりも先端側端縁から離れる側において仮想線を挟んで対称な位置に振り分けられるように対電極22および参照電極23が配置されている。このような配置によって、作用電極21、対電極22および参照電極23は、それぞれが線対称で、かつ、三回対称となる位置に配されることになる。
【0023】
なお、本実施形態では、各電極21,22,23について、最も支持基板10の先端側を作用電極21として機能させ、その両側のそれぞれを対電極22、参照電極23として機能させる場合を例に挙げるが、必ずしもこのような配置態様に限定されるものではない。つまり、作用電極21、対電極22、参照電極23の配置をどのようにするかは、特定の態様に限定されるものではない。
また、各電極21,22,23の機能(すなわち、どの位置にて作用電極21、対電極22または参照電極23として機能させるか)についても、必ずしも固定的なものである必要はなく、状況に応じて適宜(例えば経時的に)入れ替えることを可能にしてもよい。ただし、機能の入れ替えに対応する場合には、上述した対称性を有した位置に各電極21,22,23が配置されていることが望ましい。
【0024】
以上のように配置された各電極21,22,23について、少なくとも作用電極21および対電極22、好ましくは参照電極23を含む三極の全ては、それぞれ、ホウ素ドープダイヤモンド電極(以下、「BDD電極」とも称する。)によって構成することができる。つまり、好ましくは、作用電極21、対電極22および参照電極23の三極は、BDD電極とすることができる。ただし、少なくとも作用電極21および対電極22がBDD電極であれば、参照電極23は、例えば、銀(Ag)電極または表面を塩化銀(AgCl)としたAg電極等の金属電極であってもよい。
【0025】
BDD電極は、ホウ素を高濃度ドープしてダイヤモンド膜に高導電性を持たせたものを電気化学用電極として用いるものであり、ここではチップ化して使用する。
本実施形態において、BDD電極は、多結晶ダイヤモンド膜等で構成された電極膜24と、導電性基板(以下、単に「基板」とも称する。)25とを備えており、これらが積層されたチップ状の電極(電極チップ)である。そして、基板25の裏面(すなわち電極膜24が設けられた面とは反対側の面)から導通をとる縦型電極として構成されている。
【0026】
電極膜24は、多結晶ダイヤモンドで構成されている。具体的には、電極膜24は、ドーパントとしてのホウ素(B)元素を含むダイヤモンド結晶、すなわち、p型の導電性を有するダイヤモンド結晶で構成される多結晶膜(多結晶ダイヤモンド膜)である。ダイヤモンド結晶とは、炭素(C)原子がダイヤモンド結晶構造と呼ばれるパターンで配列している結晶である。また、電極膜24は、Bがドープされたダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)膜であってもよい。電極膜24におけるB濃度は、二次イオン質量分析(Secondary Ion Mass Spectrometry(SIMS))で測定でき、例えば1×1019cm-3以上5×1022cm-3以下とすることができる。
【0027】
電極膜24は、基板25が有する二つの主面のうちいずれか一方の主面上に設けられている。本明細書では、電極膜24が設けられる基板25の主面を、「基板25の結晶成長面」とも称する。電極膜24は、基板25の結晶成長面全域にわたって設けられている。電極膜24は、表面(露出面)で、所定の電気化学反応(例えば、オゾンの酸化還元反応)を生じさせる。
【0028】
電極膜24は、化学気相成長(Chemical Vapor Deposition(CVD))法や、物理蒸着(Physical Vapor Deposition(PVD))法等により成長させる(堆積させる、合成する)ことができる。CVD法としては、タングステンフィラメントを用いた熱フィラメント(ホットフィラメント)CVD法、プラズマCVD法等が例示され、PVD法としては、イオンビーム法やイオン化蒸着法等が例示される。電極膜24の厚さは、例えば0.5μm以上10μm以下、好ましくは1μm以上6μm以下、より好ましくは2μm以上4μm以下とすることができる。
【0029】
基板25としては、低抵抗材料で構成された平板状の基板が用いられる。基板25として、シリコン(Si)を主元素として構成され、ホウ素(B)等のp型のドーパントを所定濃度で含む基板、例えばp型の単結晶Si基板を用いることができる。基板25として、p型の多結晶Si基板を用いることもできる。基板25におけるB濃度は、例えば5×1018cm-3以上1.5×1020cm-3以下、好ましくは5×1018cm-3以上1.2×1020cm-3以下とすることができる。基板25におけるB濃度が上記範囲内であることにより、基板25の比抵抗を低くしつつ、基板25の製造歩留の低下や性能劣化を回避することができる。
【0030】
基板25の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば、150μm以上1mm以下である。基板25の厚さを上記範囲内とすることで、基板25のハンドリングを安定化させることができる。基板25の厚さの上限は特に限定されないが、現在一般的に市場に流通しているSi基板の厚さは、直径が12インチの単結晶Si基板で775μm程度である。このため、現在の技術における基板25の厚さの上限は例えば775μm程度とすることができる。
【0031】
基板25として、Siを主元素として構成された基板(Si基板)以外の基板を用いることもできる。例えば、基板25として、炭化シリコン基板(SiC基板)等のSiの化合物を用いて構成された基板を用いることもできる。
【0032】
なお、基板25として、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)等を主元素として構成された金属基板を用いることも考えられる。しかしながら、金属基板を用いた場合、リーク電流が生じやすいことから、基板25としてSi基板を用いる方が好ましい。
【0033】
以上のような構成のセンサ電極20(すなわち、作用電極21、対電極22および参照電極23)は、それぞれが、導電性を有する導電性接合材26を介して、支持基板10の電極パッド11上に配置されている。
【0034】
導電性接合材26は、例えば、導電性の粘着シートまたは導電性の接着剤によって構成されている。つまり、本実施形態において、センサ電極20は、例えば導電性の粘着シートまたは導電性の接着剤を用いて、電極パッド11に接合されており、これによりセンサ電極20と電極パッド11とが物理的に接合されるとともに電気的にも接続されるようになっている。なお、導電性接合材26は、導電性を有しつつセンサ電極20と電極パッド11とを接合し得るものであれば、特定の粘着シートまたは接着剤に限定されるものではないが、室温で揮発性を有する分子量が100以上の有機物成分を含有していないことが好ましい。
【0035】
導電性接合材26の電気抵抗率は、例えば、0.1kΩ・m以下であることが好ましい。このような電気抵抗率であれば、センサ電極20と電極パッド11との間の導通を確保する上で非常に好ましいものとなる。
【0036】
導電性接合材26の平面サイズは、電極パッド11の上面(すなわち、導電性接合材26と接触する面)の平面サイズより大きいことが好ましい。ここでいう「平面サイズ」とは、平面形状の大きさ(例えば、四角形における一辺の長さ、円形における径の長さ等)または平面形状の面積の少なくとも一方を意味する。具体的には、例えば、正方形の一辺の長さが1.6mmの大きさの電極パッド11に対して、一辺の長さが1.9mmの大きさの導電性接合材26を用いる。このような構成であれば、電極パッド11上に導電性接合材26を配置する際の位置制御を厳密に行わなくても(許容公差内での位置ズレがあっても)、電極パッド11の上面の全域を導電性接合材26が覆うようにすることができるので、センサ電極20と電極パッド11との重畳面積が損なわれることがなく、その結果としてセンサ電極20と電極パッド11との間の導通を確保する上で非常に好ましいものとなる。
【0037】
その一方で、導電性接合材26の平面サイズは、センサ電極20の底面(例えば、BDD電極であれば、基板25の裏面)の平面サイズより小さいことが好ましい。具体的には、例えば、正方形の一辺の長さが2.0mmの大きさのセンサ電極20に対して、一辺の長さが1.9mmの大きさの導電性接合材26を用いる。このような構成であれば、導電性接合材26を介して電極パッド11上にセンサ電極20を配置した際に、センサ電極20の端縁近傍において、センサ電極20の底面と支持基板10の上面との間に、導電性接合材26の外縁よりも外側に位置する離間領域(空隙)32aが形成されることになる。例えば、導電性接合材26の平面積がセンサ電極20の底面積より小さい場合であれば、離間領域32aは、導電性接合材26の外縁を囲むように、センサ電極20の端縁の全周にわたって連続するように形成される。なお、離間領域32aの存在意義については、詳細を後述する。
【0038】
(保護部材)
保護部材30は、上述した各電極21,22,23と同様に、支持基板10上に配されて用いられるものである。ただし、保護部材30は、各電極21,22,23のそれぞれに対応する平面視形状で形成された複数の開口部31を有している。ここで、「対応する平面視形状」とは、各電極21,22,23の平面視形状と同視できる形状(例えば相似形)のことをいう。そして、保護部材30は、これら複数の開口部31内に各電極21,22,23が個別に位置する状態で、支持基板10上に配されるようになっている。これにより、保護部材30は、支持基板10上に配された際に、各電極21,22,23の検出面20aを露出させつつ、各電極21,22,23を囲うように配置されることになる。
【0039】
保護部材30における各開口部31は、当該開口部31内に位置する電極21,22,23との間の少なくとも一部に、好ましくは電極21,22,23の外縁の全周にわたって、所定の間隔を開けて離間する空隙32を有するように形成されている。なお、空隙32については、詳細を後述する。
【0040】
保護部材30は、絶縁性を有する材料によって形成されている。センサ電極20の機能に悪影響を及ぼさないようにするためである。また、保護部材30は、撥水性を有する材料によって形成されていることが好ましい。撥水性が後述するオゾン水の浸入抑制効果に寄与すると考えられるからである。このような保護部材30の形成材料としては、例えば、ポリイミド(PI)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、PET、撥水コート紙、含侵紙、ユポ紙等が挙げられる。本実施形態において、保護部材30は、例えば、PETによって形成されている。
【0041】
保護部材30は、絶縁性を有する絶縁性接合材33を介して、支持基板10上に配置されている。
【0042】
絶縁性接合材33は、例えば、絶縁性の粘着シートまたは絶縁性の接着剤によって構成されている。つまり、本実施形態において、保護部材30は、例えば絶縁性の粘着シートまたは絶縁性の接着剤を用いて、支持基板10に貼付されており、これにより保護部材30と支持基板10とが物理的に接合されるようになっている。なお、絶縁性接合材33は、絶縁性を有しつつ保護部材30と支持基板10とを接合し得るものであれば、特定の粘着シートまたは接着剤に限定されるものではないが、室温で揮発性を有する分子量が100以上の有機物成分を含有していないことが好ましい。
【0043】
絶縁性接合材33は、保護部材30に対応する平面視形状で形成されている。したがって、保護部材30における複数の開口部31に対応するように、絶縁性接合材33にも複数の開口部(ただし不図示)が形成されている。
【0044】
絶縁性接合材33における各開口部の形成箇所において、当該開口部の平面サイズは、保護部材30における開口部31の平面サイズより大きいことが好ましい。具体的には、例えば、正方形の一辺の長さが2.2mmの保護部材30における開口部31に対して、一辺の長さが2.3mmの大きさの開口部を絶縁性接合材33に形成しておく。このような構成であれば、絶縁性接合材33を介して支持基板10上に保護部材30を配置した際に、保護部材30の底面と支持基板10の上面との間に、保護部材30における開口部31の内壁面よりも外側に位置する離間領域(空隙)32bが形成されることになる。例えば、開口部の平面積が開口部31の平面積より大きい場合であれば、離間領域32bは、開口部31の内壁面に沿って当該開口部31の全周にわたって連続するように形成される。なお、離間領域32bの存在意義については、詳細を後述する。
【0045】
絶縁性接合材33を介して支持基板10上に配される保護部材30は、当該支持基板10の全体を覆う必要はなく、当該支持基板10上に設定されたセンシング領域の全域を覆うように構成されていればよい。「センシング領域」とは、各電極21,22,23の配置箇所を含む支持基板10の先端から所定距離Lの範囲であり、被検液であるオゾン水が供給される主たる領域のことをいう。所定距離Lの範囲には、少なくとも、各電極21,22,23の間(それぞれの配置箇所の内側)の領域を含み、それぞれの配置箇所から外側の方向については、当該配置箇所の外縁から各電極21,22,23の短辺長を超える長さの範囲の領域を含むものとする。
【0046】
このように、保護部材30がセンシング領域の全域を覆っていれば、そのセンシング領域の上面側(すなわちオゾン水が供給される面側)は、単一の部品である保護部材30の表面30aと、その保護部材30の開口部31内に位置する各電極21,22,23の検出面20aと、これらの間に形成される空隙32と、によって構成される。つまり、センシング領域において、各電極21,22,23の検出面20aの間は、空隙32の部分を除き、段差を有さない保護部材30の表面30aによって全域が覆われることになる。
【0047】
(空隙)
各電極21,22,23の検出面20aと保護部材30の表面30aとの間に形成される空隙32は、他の部材が非含有である空間である。つまり、空隙32内には、何も充填されておらず、空気層(空気絶縁層)が形成されている。
【0048】
上述した離間領域32a,32bが形成される場合に、各離間領域32a,32bは、空隙32に連通するように配される。つまり、離間領域32a,32bには、空隙32と同様に、空気層(空気絶縁層)が形成されることになる。
【0049】
このような空気層が形成されることで、例えば、各電極21,22,23の側面の少なくとも一部は、空隙32内に露出することになる。
【0050】
また、空隙32は、各電極21,22,23に対してオゾン水を供給した際に、当該空隙32内で生じるオゾン水の表面張力および当該空隙32内に閉じ込められる空気の反発力のうち少なくともいずれかによって、当該空隙32内へのオゾン水の浸入を抑制するように形成されている。空隙32内に閉じ込められる空気の反発力は、空隙32内の空気の逃げ道がないことによって生じ得る。このような構成により、各電極21,22,23の側面に対するオゾン水の接触を抑制することができる。
【0051】
オゾン水の浸入抑制効果は、例えば、空隙32の間隔(開口部31と電極21,22,23との間の距離)、空隙32の断面におけるアスペクト比、保護部材30の表面状態等といった様々な要素に依存し得る。
【0052】
本実施形態において、空隙32の間隔は、例えば、50μm以上600μm以下であり、好ましくは100μm以上300μm以下である。空隙32の間隔を50μm以上とすることで、オゾン水の供給時に毛細管現象の発現を抑制して、毛細管現象に起因した空隙32内へのオゾン水の浸入を抑制することができる。さらに空隙32の間隔を100μm以上とすることで、毛細管現象の発現を安定的に抑制することができる。一方で、空隙32の間隔を600μm以下とすることで、オゾン水の供給時に、空隙32内で生じるオゾン水の表面張力および空隙32内に閉じ込められる空気の反発力のうち少なくともいずれかを確保することができる。さらに空隙32の間隔を300μm以下とすることで、上述の表面張力および空気の反発力のうち少なくともいずれかを安定的に確保することができる。なお、実装精度の観点からは、空隙32の間隔は、例えば、50μm以上が好ましい。また、空隙32内に空気を閉じ込める観点からは、開口部31の側壁面を構成する少なくとも1辺は、電極21,22,23の側面から間隔をあけることが好ましい。
【0053】
空隙32の間隔に対する空隙32の高さで求められるアスペクト比は、例えば、1以上が好ましい。具体的には、例えば、空隙32の高さが380μmの場合は、空隙32の間隔は、0以上380μm以下が好ましく、100μmがより好ましい(アスペクト比3.8)。または、例えば、空隙32の高さが200μmの場合は、空隙32の間隔は、0以上200μm以下が好ましく、80μmがより好ましい(アスペクト比2.5)。
【0054】
保護部材30の表面状態については、撥水性を有していることが好ましい。具体的には、保護部材30の形成材料の対水接触角が例えば60°以上であることが好ましい。このような構成により、空隙32内へのオゾン水の浸入を安定的に抑制することができる。
【0055】
なお、空隙32は、電極21,22,23の外縁の全周にわたって形成されていることが好ましいが、必ずしもこれに限定されることはなく、保護部材30の開口部31との間の少なくとも一部に形成されていればよい。少なくとも一部に形成される場合、当該一部以外の部分では、開口部31の内壁面が電極21,22,23の側面と接触していてもよいし、または両者の間に他部材(例えば絶縁性部材)が充填されていてもよい。
【0056】
(センサ電極と保護部材との関係)
保護部材30は、各電極21,22,23を囲うように配置された状態において、当該保護部材30における開口部31を除く支持基板10との対向側の表面30aが、各電極21,22,23の検出面20aに対して、面一構造を構成するようになっている。
【0057】
ここで、「面一構造」とは、主として支持基板10の上面からの高さが各電極21,22,23の検出面20aと保護部材30の表面30aとで同一である構造のことをいい、さらには同一であると見做せる構造をも含む。「同一であると見做せる」とは、完全に同一ではなく段差があっても、その段差の大きさが所定の許容値以下であることをいう。許容し得る段差の大きさとしては、例えば、各電極21,22,23が配置される間隔を距離a、許容し得る最大段差を大きさbとした場合に、好ましくは大きさbは距離aの1/5以下、より好ましくは1/10以下とすることが考えられる。
【0058】
また、「面一構造」については、各電極21,22,23の検出面20aと保護部材30の表面30aとが平行である構造の他に、平行であると見做せる構造をも含む。「平行であると見做せる」とは、それぞれの面が完全に平行ではなく、非平行となる傾きがあっても、その傾きの大きさが許容値以下であることをいう。許容し得る傾きの大きさとしては、例えば、傾きにより発生する上下方向の距離を距離cとした場合に、好ましくは距離cは上記の距離aの1/5以下、より好ましくは1/10以下とすることが考えられる。
【0059】
このような面一構造により、各電極21,22,23のそれぞれの検出面20aと、これらを囲うように配置される一つの保護部材30の表面30aとは、同一の平面を構成するか、または同一の平面を構成すると見做せるようになる。つまり、保護部材30の表面30aは、支持基板10の上面を基準として、各電極21,22,23の検出面20aと同じ高さ(同じと見做せる高さを含む)を有していることになる。
【0060】
このように、各電極21,22,23の検出面20aと保護部材30の表面30aとが面一構造を構成していれば、当該検出面20aと当該表面30aとの間に段差(凹凸構造)が生じてしまうことがない。そのため、静止した状態のオゾン水中におけるオゾン濃度の測定中に各電極21,22,23に対してオゾンが拡散で到達する場合、当該オゾンの拡散を妨げるような障害が存在せず、各電極21,22,23のそれぞれへのオゾンの拡散が一様かつ連続的に行われるようになる。
【0061】
しかも、面一構造を構成する保護部材30の開口部31と各電極21,22,23との間には空隙32が形成されているので、当該空隙32によるオゾン水の浸入抑制効果は維持される。
【0062】
つまり、センシング領域においては、保護部材30の開口部31内に各電極21,22,23を配置する場合であっても、面一構造によって全域にわたり段差(凹凸構造)を生じさせることがなく、また空隙32によるオゾン水の浸入抑制効果が維持されるので、各電極21,22,23に対するオゾン水の供給の適切化が確実に図れるようになる。
【0063】
(2)電気化学センサの製造方法
次に、本実施形態に係る電気化学センサ1の製造方法について説明する。
図3は、本実施形態に係る電気化学センサ1の製造方法の手順の一例を示すフロー図である。
【0064】
図3に示すように、本実施形態に係る電気化学センサ1の製造方法は、少なくとも、準備工程(ステップ101、以下ステップを「S」と略す。)と、接合材配置工程(S102)と、保護部材接合工程(S103)と、センサ電極接合工程(S104)と、を備えている。
【0065】
(準備工程:S101)
準備工程(S101)では、電気化学センサ1の構成部品を用意する。具体的には、一方の主面上に電極パッド11、接続端子12および配線13が形成されてなる支持基板10と、支持基板10上に配置すべき複数のチップ状の電極21,22,23と、各電極21,22,23を接合するための導電性接合材26と、各電極21,22,23に対応する開口部31が形成されてなる保護部材30と、保護部材30を接合するための絶縁性接合材33と、をそれぞれ用意する。
【0066】
これらのうち、支持基板10については、例えば、レジスト塗布、露光、現像、エッチング、レジスト除去等といった各種の公知技術を利用して製造することができる。また、各電極21,22,23についても、例えば、CVDやPVD等の成膜技術やダイシング等の加工技術といった各種の公知技術を利用して製造することができる。
【0067】
導電性接合材26は、例えば、導電性不織布を基材とするシート状の粘着テープを、センサ電極20および電極パッド11に対応する平面形状に切り出すことで、得ることができる。保護部材30は、例えば、絶縁性および撥水性を有する所定厚のPETフィルムを、支持基板10上に設定されたセンシング領域に対応しつつ開口部31を有する平面形状に成形することで、得ることができる。絶縁性接合材33は、例えば、絶縁性を有するPETフィルムを基材とするシート状の粘着テープを、保護部材30に対応する平面形状に切り出すことで、得ることができる。
【0068】
(接合材配置工程:S102)
準備工程(S101)が完了したら、次いで、接合材配置工程(S102)を行う。接合材配置工程(S102)では、導電性接合材26および絶縁性接合材33を配置する。
【0069】
導電性接合材26については、支持基板10における電極パッド11上に貼付することで、当該支持基板10上への配置を行う。このとき、導電性接合材26の平面サイズが電極パッド11の平面サイズより大きければ、導電性接合材26を配置する際の位置制御を厳密に行わなくても(許容公差内での位置ズレがあっても)、電極パッド11の上面の全域を導電性接合材26が覆うようにすることができる。つまり、許容公差内での位置ズレがあっても、センサ電極20と電極パッド11との重畳面積が損なわれてしまうことがない。したがって、センサ電極20と電極パッド11との間の導通を確保する上では、非常に好ましいものとなる。しかも、電極パッド11の上面の全域を導電性接合材26が覆うことで、後述するセンサ電極接合工程(S104)において、センサ電極20に傾き等が生じることなく電極パッド11上に接合することが実現可能となり、そのセンサ電極20の周りに空隙32を確保する上で非常に好ましいものとなる。
【0070】
また、絶縁性接合材33については、保護部材30を接合した際に支持基板10上に配置されていればよい。したがって、作業の容易さを考慮して、絶縁性接合材33は、支持基板10上ではなく、保護部材30の側に貼付しておく。このとき、絶縁性接合材33に形成された開口部を、保護部材30の開口部31の位置に合わせるようにする。ただし、これに限定されることはなく、絶縁性接合材33を支持基板10上に配置するようにしても構わない。
【0071】
なお、導電性接合材26の配置と絶縁性接合材33の配置とは、どちらを先に行うようにしても構わない。
【0072】
(保護部材接合工程:S103)
接合材配置工程(S102)が完了したら、次いで、保護部材接合工程(S103)を行う。すなわち、保護部材接合工程(S103)を、センサ電極接合工程(S104)よりも前に行う。
【0073】
保護部材接合工程(S103)では、支持基板10上に保護部材30を配置して、絶縁性接合材33を介して支持基板10と保護部材30とを接合する。保護部材30の配置は、当該保護部材30に形成された開口部31内に支持基板10上の電極パッド11および導電性接合材26が位置するように行う。
【0074】
ただし、この時点では、センサ電極20(各電極21,22,23)は、導電性接合材26上に配置されていない。このように、センサ電極接合工程(S104)よりも前に保護部材接合工程(S103)を行うことで、例えば、保護部材30の配置や導電性接合材26または絶縁性接合材33の存在等に起因したセンサ電極20の検出面20aの汚染を抑制することができる。また、例えば、絶縁性接合材33として、粘着テープではなく、熱硬化性の接着材を使用する場合であっても、熱硬化のための加熱処理による悪影響がセンサ電極20に及んでしまうことがない。
【0075】
また、保護部材30の配置にあたり、当該保護部材に予め貼付しておく絶縁性接合材33については、当該絶縁性接合材33における各開口部の平面サイズが保護部材30における各開口部31の平面サイズより大きければ、絶縁性接合材33を貼付する際の位置制御を厳密に行わなくても(許容公差内での位置ズレがあっても)、保護部材30の開口部31内への絶縁性接合材33のはみ出しを抑制することができる。つまり、許容公差内での位置ズレがあっても、開口部31内に絶縁性接合材33がはみ出してしまうことがない。したがって、空隙32の形状や容量等を所望とおりに確保することができるとともに、絶縁性接合材33のはみ出しに起因したセンサ電極20に対する汚染を未然に防止することができる。
【0076】
しかも、絶縁性接合材33における各開口部の平面サイズが保護部材30における各開口部31の平面サイズより大きければ、絶縁性接合材33を介して支持基板10と保護部材30とを接合した際に、保護部材30の底面と支持基板10の上面との間に、離間領域32bが形成される。離間領域32bは、保護部材30の開口部31内にセンサ電極20を配置した際に形成される空隙32に連通する。そして、離間領域32b内には、空隙32と同様に、空気層(空気絶縁層)が形成されることになる。したがって、離間領域32bが存在している場合には、詳細を後述するように、空隙32によるオゾン水の浸入抑制効果について、より一層効果的なものとすることができる。
【0077】
(センサ電極接合工程:S104)
保護部材接合工程(S103)が完了したら、センサ電極接合工程(S104)を行い、センサ電極20(各電極21,22,23)を、導電性接合材26を介して電極パッド11上に接合する。各電極21,22,23の接合は、各電極21,22,23が保護部材30の開口部31内に位置し、かつ、開口部31の内壁面との間に空隙32が形成されるように行う。
【0078】
これにより、各電極21,22,23は、導電性接合材26、電極パッド11および配線13を介して接続端子12と個別に導通することになる。また、各電極21,22,23の接合によって、各電極21,22,23の検出面20aと保護部材30の表面30aとが面一構造を構成することになる。
【0079】
このとき、導電性接合材26の平面サイズが各電極21,22,23の底面の平面サイズより小さければ、導電性接合材26を配置する際の位置制御を厳密に行わなくても(許容公差内での位置ズレがあっても)、保護部材30の開口部31内への導電性接合材26のはみ出しを抑制することができる。つまり、許容公差内での位置ズレがあっても、開口部31内に導電性接合材26がはみ出してしまうことがない。したがって、空隙32の形状や容量等を所望とおりに確保することができるとともに、導電性接合材26のはみ出しに起因したセンサ電極20に対する汚染を未然に防止することができる。
さらには、導電性接合材26の平面サイズが各電極21,22,23の底面の平面サイズより小さいことで、各電極21,22,23の底面と支持基板10の上面との間に、離間領域32aが形成される。離間領域32aは、各電極21,22,23と保護部材30との間に形成される空隙32に連通する。そして、離間領域32a内には、空隙32と同様に、空気層(空気絶縁層)が形成されることになる。したがって、離間領域32aが存在している場合には、詳細を後述するように、空隙32によるオゾン水の浸入抑制効果について、より一層効果的なものとすることができる。
【0080】
以上の各工程(S101~S104)を少なくとも経ることで、電気化学センサ1が製造される。
【0081】
(3)電気化学センサの使用態様
次に、本実施形態に係る電気化学センサ1の使用態様について説明する。
【0082】
本実施形態に係る電気化学センサ1は、電気化学測定装置(以下、単に「測定装置」とも称する)に接続して使用する。さらに、測定装置には、コンピュータ装置が接続されている。なお、測定装置とコンピュータ装置は、一体の装置として構成されていてもよい。
【0083】
測定装置は、例えばポテンショスタットとしての機能を有するもので、電気化学センサ1の接続端子12との接続を通じて、オゾン水に接触する各電極21,22,23における電気化学反応を制御して、その電位・電流を測定するものである。さらに具体的には、測定装置は、各電極21,22,23への印加電圧の制御により、作用電極21と対電極22の間に電圧をかけ、参照電極23の電位を基準にして作用電極21の電位を掃引可能にし、さらには、作用電極21で生じる電気化学反応に応じて作用電極21と対電極22との間を流れる電流値の測定を行う。つまり、測定装置は、三電極法による電気化学測定を、LSVを利用して行うものである。LSVの詳細は、公知技術を利用すればよく、ここではその説明を省略する。
【0084】
コンピュータ装置は、所定プログラムを実行することにより、測定装置における処理動作を制御する制御部として機能するように構成されている。コンピュータ装置が行う制御には、少なくとも電気化学測定処理の制御、すなわち測定装置による電流値の測定結果に基づきオゾン水中のO濃度を測定する処理についての制御が含まれる。なお、コンピュータ装置は、所定プログラムを実行する情報処理機能を有するものであれば、パーソナルコンピュータ装置に代表される据置型のものに限定されず、スマートフォンに代表される携帯型の情報端末装置等であってもよい。
【0085】
これら電気化学センサ1、測定装置およびコンピュータ装置を用いてオゾン水中のO濃度を測定する場合には、電気化学センサ1の各電極21,22,23をオゾン水に接触させた状態にする。具体的には、例えば、少なくとも電気化学センサ1におけるセンシング領域をオゾン水に浸漬させ、これにより各電極21,22,23をオゾン水に接触させる。なお、オゾン水への浸漬を、センシング領域を超えて行うようにしても、絶縁保護膜14が配線13を覆っていることから、漏洩電流等が発生してしまうおそれはない。
【0086】
このとき、被検液であるオゾン水は、電気化学センサ1に対して十分な量を確保することが好ましい。また、オゾン水は、撹拌等をしない静止の状態、すなわち液体の流れが生じていない状態とし、被検液を汲んだ後に時間を置かず測定することが好ましい。被検液を汲んだ後の経過時間が大きくなると、経時的にオゾンが消費されることの影響で、精確な濃度測定ができないおそれが生じるからである。
【0087】
オゾン水への各電極21,22,23の接触に際して、本実施形態に係る電気化学センサ1は、各電極21,22,23の検出面20aと保護部材30の表面30aとが面一構造を構成しているので、当該検出面20aと当該表面30aとの間に段差(凹凸構造)が生じてしまうことがない。
【0088】
したがって、各電極21,22,23の検出面20aと保護部材30の表面30aとが面一構造を構成していれば、例えば、オゾン水中の溶存オゾン濃度の測定時において、段差(凹凸構造)の存在が被検液中に含まれる測定対象物質の拡散を妨げてしまうといったことが生じない。そのため、各電極21,22,23の検出面20aと保護部材30の表面30aとの面一構造によって、各電極21,22,23に対するオゾン水の供給後の状態の適切化が図れ、その結果としてオゾン水中における溶存オゾンの濃度測定に対する信頼性を十分に確保することができる。
【0089】
このような面一構造を活用しつつ各電極21,22,23をオゾン水に接触させる場合において、各電極21,22,23は、保護部材30における開口部31内に位置している。そして、各電極21,22,23と保護部材30との間には、空隙32によって空気層(空気絶縁層)が形成されている。そのため、各電極21,22,23に対してオゾン水が供給された際に、空隙32内に関しては、当該空隙32内で生じるオゾン水の表面張力および当該空隙32内に閉じ込められる空気の反発力のうち少なくともいずれかによって、オゾン水の浸入が抑制される。これにより、供給されるオゾン水は、各電極21,22,23の検出面20aには接触するが、検出面20a以外の箇所(例えば各電極21,22,23の側端面)に対しては接触しない。つまり、各電極21,22,23は、オゾン水が接触すると漏洩電流を生じることで測定の妨げとなる側端面等が、空隙32によるオゾン水の浸入抑制効果によって、空気絶縁されることになる。
【0090】
特に、空隙32に連通するように離間領域32a,32bが形成されている場合には、空隙32によるオゾン水の浸入抑制効果がより一層顕著なものとなる。空隙32内に閉じ込められる空気の反発力は、空隙32内の空気の逃げ道がないことによって生じ得る。その場合に、オゾン水の供給側から見て空隙32の奥側に離間領域32a,32bが存在していれば、これにより閉じ込められる空気の容量が増える一方で、空隙32の開口部分は離間領域32a,32bの形成部分よりも狭いので空気が逃げ難くなる。したがって、オゾン水の浸入抑制効果が高められるのである。
【0091】
しかも、上述した面一構造およびオゾン水浸入抑制効果による空気絶縁は、各電極21,22,23を囲うように保護部材30を配することによって実現される。つまり、各電極21,22,23の間に単一の部品である保護部材30を配するだけで、例えば樹脂封止絶縁の場合のような構成の複雑化を招くことなく、非常に簡素な構成によって、電気化学センサ1により電気化学的な測定を行う際の信頼性を確保することができる。したがって、構成の簡素化による電気化学センサ1の低コスト化が容易に実現可能となり、例えば使い捨て用途の電気化学センサ1に適用して非常に好ましいものとなる。
【0092】
以上のように、各電極21,22,23をオゾン水に接触させた状態とした後は、その状態を維持しつつ、測定装置が、各電極21,22,23への印加電圧の制御により、作用電極21と対電極22の間に電圧をかけ、参照電極23の電位を基準にして作用電極21の電位を掃引し、そのときに作用電極21と対電極22との間を流れる電流値を測定する。
【0093】
そして、測定装置が電流値を測定すると、その後は、その測定値に基づき、コンピュータ装置が、オゾン水中のO濃度を特定するために必要な処理を行う。
【0094】
このとき、少なくとも作用電極21および対電極22がBDD電極であれば、高い検出感度を有したものとなる。つまり、高い検出感度を有するというBDD電極の特性を活かしつつ、オゾン水中のO濃度を測定することができる。
【0095】
以上のような手順でオゾン水中のO濃度を測定する際に、本実施形態に係る電気化学センサ1が使用される。なお、オゾン水中のO濃度の測定後は、例えば、電気化学センサ1が使い捨て用途に対応している場合であれば、使用済みの電気化学センサ1が測定装置から取り外されて破棄される。
【0096】
(4)本実施形態にかかる効果
本実施形態によれば、以下に示す一つまたは複数の効果を奏する。
【0097】
(a)本実施形態において、電気化学センサ1は、各電極21,22,23の検出面20aと保護部材30の表面30aとが面一構造を構成しているので、当該検出面20aと当該表面30aとの間に段差(凹凸構造)が生じてしまうことがない。当該検出面20aと当該表面30aとの間に段差(凹凸構造)が生じていると、オゾン水への各電極21,22,23の接触に際して、段差部に気泡が付着して残り各電極21,22,23の表面が完全にオゾン水で覆われないリスクが生じるが、段差(凹凸構造)を無くしたことでこのようなリスクを低減できる。また、オゾン濃度の測定を実施する際も、段差(凹凸構造)を無くしたことで各電極21,22,23近傍のオゾン水中におけるオゾンの拡散を妨げるような障害が存在せず、各電極21,22,23のそれぞれへのオゾン水の供給後の状態の適切化を図ることができる。これらにより、電気化学的な測定の高信頼性や高感度等を実現することができ、被検液中の測定対象物質の濃度測定に対する信頼性を十分に確保することができる。
【0098】
さらには、各電極21,22,23へのオゾン水の供給に際して、各電極21,22,23と保護部材30との間に空隙32が形成されているので、当該空隙32によるオゾン水の浸入抑制効果が得られる。そのため、各電極21,22,23の検出面20a以外の箇所(例えば各電極21,22,23の側端面)が空気絶縁されることになり、当該検出面20a以外の箇所での漏洩電流の発生を抑制でき、その結果として、オゾン水中のO濃度の測定に関して、測定精度(感度、S/N比)の低下を抑制することが実現可能となる。つまり、この点においても、各電極21,22,23へのオゾン水の供給の適切化が図れるといえる。
【0099】
しかも、上述した面一構造およびオゾン水浸入抑制効果による空気絶縁は、各電極21,22,23を囲うように保護部材30を配することによって実現される。つまり、各電極21,22,23の間に単一の部品である保護部材30を配するだけで、例えば樹脂封止絶縁の場合のような構成の複雑化を招くことなく、非常に簡素な構成によって、電気化学センサ1により電気化学的な測定を行う際の信頼性を確保することができる。したがって、構成の簡素化による電気化学センサ1の低コスト化が容易に実現可能となり、例えば使い捨て用途の電気化学センサ1に適用して非常に好ましいものとなる。
【0100】
(b)本実施形態において、保護部材30は、センシング領域の全域を覆っている。したがって、少なくともセンシング領域においては面一構造によって全域にわたって段差(凹凸構造)を生じさせることがなく、また空隙32によるオゾン水の浸入抑制効果が維持されるので、各電極21,22,23に対するオゾン水の供給の適切化が確実に図れるようになる。
【0101】
(c)本実施形態において、保護部材30における開口部31は、当該開口部31内に位置する各電極21,22,23との間の少なくとも一部に、所定の間隔を開けて離間する空隙32を有するように形成されているので、各電極21,22,23の過剰な汚染を抑制することができる。例えば、各電極21,22,23の検出面20a以外の箇所を絶縁性樹脂で覆うことで絶縁する場合には、絶縁性樹脂自体による汚染や樹脂硬化時の熱で揮発した有機物による汚染等のおそれがあるが、本実施形態においてはそのようなおそれがない。このように、本実施形態においては、空隙32の存在により、保護部材30と各電極21,22,23の過度な接触を抑制することで、保護部材30の形成または設置に起因した各電極21,22,23の汚染を抑制することが可能となる。
【0102】
(d)本実施形態において、空隙32は、当該空隙32内へのオゾン水の浸入を抑制するように形成されている。つまり、オゾン水の浸入抑制効果が得られるように、空隙32の大きさやアスペクト比等が設定されている。したがって、空隙32を配するという非常に簡素な構成で、各電極21,22,23の検出面20a以外の箇所について空気絶縁をすることが実現可能となり、その結果として漏洩電流の発生を安定的に抑制することができ、オゾン水中のO濃度の測定精度(感度、S/N比)の低下を抑制する上で非常に好ましいものとなる。つまり、非常に簡素な構成によって、電気化学センサ1により電気化学的な測定を行う際の信頼性を確保することができる。
【0103】
(e)本実施形態において、空隙32に連通するように離間領域32a,32bが形成されている場合には、空隙32によるオゾン水の浸入抑制効果がより一層顕著なものとなる。つまり、オゾン水の供給側から見て空隙32の奥側に離間領域32a,32bが存在していれば、これにより閉じ込められる空気の容量が増える一方で、空隙32の開口部分は離間領域32a,32bの形成部分よりも狭いので空気が逃げ難くなるので、その結果としてオゾン水の浸入抑制効果が高められるのである。このように、オゾン水の浸入抑制効果が高められることで、各電極21,22,23に対するオゾン水の供給の適切化がより一層確実なものとなる。
しかも、離間領域32a,32bが存在する場合には、開口部31内への導電性接合材26または絶縁性接合材33のはみ出しを抑止し得るので、空隙32の形状や容量等を所望とおりに確保することができるとともに、導電性接合材26または絶縁性接合材33のはみ出しに起因したセンサ電極20に対する汚染を未然に防止することができる。
【0104】
(f)本実施形態において、センサ電極20としてBDD電極を用いた場合には、当該センサ電極20は、導電性基板25と検出面20aを構成する電極膜24とを有し、その電極膜24が多結晶ダイヤモンドまたはDLCによって形成されることになる。そのため、当該センサ電極20は、高い検出感度を有したものとなり、オゾン水中のO濃度の測定精度を向上させる上で好適なものとなる。
【0105】
(g)本実施形態において、センサ電極20は作用電極21、対電極22、参照電極23の三極からなり、これらのうちの少なくとも作用電極21および対電極22がBDD電極である。そのため、LSVを利用した電流測定に寄与する電極である作用電極21および対電極22が、いずれも高い検出感度を有したBDD電極によって構成されることになり、オゾン水中のO濃度の測定精度を向上させる上で好適なものとなる。
【0106】
(h)本実施形態において、センサ電極20は、導電性の粘着シートまたは導電性の接着剤によって構成された導電性接合材26を介して電極パッド11上に接合されている。そのため、センサ電極20の電極パッド11上への接合を容易かつ確実に行うことができる。しかも、電極パッド11上への接合にあたり、ボンディングワイヤ等を要することなく、センサ電極20と電極パッド11との間の導通が確保される。したがって、電気化学センサ1の構成を簡素化する上では非常に好ましいものとなる。さらには、導電性接合材26をセンサ電極20の底面(導電性基板側)に接合するため、センサ電極20の表面(多結晶ダイヤモンド膜側)の全面を電気化学測定のために使うことができる、という利点も得られる。
【0107】
(i)本実施形態において、センサ電極20と電極パッド11との間に介在する導電性接合材26の電気抵抗率は、例えば、0.1kΩ・m以下である。このような電気抵抗率であれば、導電性接合材26を介して接合する場合であっても、センサ電極20と電極パッド11との間の導通を確保する上で非常に好ましいものとなる。
【0108】
(j)本実施形態において、センサ電極20と電極パッド11との間に介在する導電性接合材26の平面サイズは、電極パッド11の上面の平面サイズより大きく、センサ電極20の底面の平面サイズより小さい。このような平面サイズであれば、配置の際の位置制御を厳密に行わなくても(許容公差内での位置ズレがあっても)、センサ電極20と電極パッド11との重畳面積が損なわれることがなく、センサ電極20と電極パッド11との間の導通を確保する上で非常に好ましいものとなる。また、電極パッド11上にセンサ電極20を接合する際に、導電性接合材26の開口部31内へのはみ出しを抑制することができるので、導電性接合材26のはみ出しに起因したセンサ電極20に対する汚染を未然に防止することができる。さらには、センサ電極20の底面と支持基板10の上面との間に、空隙32に連通する離間領域32aが形成されることになるので、空隙32によるオゾン水の浸入抑制効果についてより一層効果的なものとすることができる。
【0109】
(k)本実施形態において、センサ電極20と電極パッド11との間に介在する導電性接合材26は、室温で揮発性を有する分子量が100以上の有機物成分を含有していないものによって構成されている。そのため、導電性接合材26から揮発した有機物によるセンサ電極20の汚染のおそれがなく、センサ電極20の汚染を抑制する上で非常に好ましいものとなる。
【0110】
(l)本実施形態において、保護部材30は、撥水性を有する材料によって形成されている。そのため、空隙32内で生じるオゾン水の表面張力を強くすることができ、その結果として、空隙32内へのオゾン水の浸入を安定的に抑制することが可能となる。
【0111】
(m)本実施形態において、保護部材30は、絶縁性の粘着シートまたは絶縁性の接着剤によって構成された絶縁性接合材33を介して支持基板10上に接合されている。そのため、保護部材30の支持基板10上への接合を容易かつ確実に行うことができる。しかも、保護部材30と同様に、絶縁性接合材33も絶縁性を有していることから、漏洩電流等に対する懸念が生じることもない。
【0112】
(n)本実施形態において、保護部材30と支持基板10との間に介在する絶縁性接合材33における開口部の平面サイズは、保護部材30における開口部31の平面サイズより大きい。このような平面サイズであれば、支持基板10上に保護部材30を接合する際に、絶縁性接合材33の開口部31内へのはみ出しを抑制することができるので、絶縁性接合材33のはみ出しに起因したセンサ電極20に対する汚染を未然に防止することができる。さらには、保護部材30の底面と支持基板10の上面との間に、空隙32に連通する離間領域32bが形成されることになるので、空隙32によるオゾン水の浸入抑制効果についてより一層効果的なものとすることができる。
【0113】
(o)本実施形態において、保護部材30と支持基板10との間に介在する絶縁性接合材33は、室温で揮発性を有する分子量が100以上の有機物成分を含有していないものによって構成されている。そのため、絶縁性接合材33から揮発した有機物によるセンサ電極20の汚染のおそれがなく、センサ電極20の汚染を抑制する上で非常に好ましいものとなる。
【0114】
(p)本実施形態において、支持基板10が可撓性を有していることで、例えば、電気化学センサ1の使用時に過大な負荷が発生した場合でも、支持基板10が折れて破損するといったことがなく、オゾン水中のO濃度測定が継続困難になるといった事態が生じるのを抑制できる。また、例えば、電気化学センサ1の使用後に、支持基板10を畳んだ状態で電気化学センサ1を廃棄するといったことが実現可能となり、利用者にとっての利便性を向上させることができる。
【0115】
(q)本実施形態において、支持基板10上の配線13は、絶縁保護膜14によって覆われている。そのため、電気化学センサ1のオゾン水への浸漬を、その電気化学センサ1におけるセンシング領域を超えて行うようにしても、絶縁保護膜14が配線13を覆っていることから、漏洩電流等が発生してしまうおそれはない。
【0116】
(r)本実施形態において、電気化学センサ1を用いて行う濃度測定の対象となる特定成分は、被検液であるオゾン水中の溶存オゾンである。つまり、本実施形態に係る電気化学センサ1は、オゾン水中のO濃度測定に用いて好適であり、そのO濃度測定ついての信頼性確保が実現可能になる。
【0117】
(s)本実施形態において、電気化学センサ1の製造にあたっては、センサ電極接合工程(S104)よりも前に保護部材接合工程(S103)を行う。そのため、例えば、保護部材30の配置や導電性接合材26または絶縁性接合材33の存在等に起因したセンサ電極20の検出面20aの汚染を抑制することができる。また、例えば、絶縁性接合材33として、粘着テープではなく、熱硬化性の接着材を使用する場合であっても、熱硬化のための加熱処理による悪影響がセンサ電極20に及んでしまうことがない。
【0118】
(5)変形例等
以上、本実施形態について説明したが、本開示の技術的範囲は、上述の実施形態の内容に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0119】
(濃度測定)
上述の実施形態では、オゾン水中のO濃度の測定に際してLSV測定を行う場合を例に挙げたが、必ずしもこれに限定されることはなく、サイクリックボルタンメトリー(cyclic voltammetry:CV)測定であっても構わないし、クロノアンペロメトリー(chronoamperometry:CA)測定でも構わない。
【0120】
また、例えば、上述の実施形態では、被検液がオゾン水であり、濃度測定の対象となる特定成分がオゾン水中の溶存オゾンである場合を例に挙げたが、必ずしもこれに限定されることはなく、電気化学反応を利用して濃度測定を行い得るものであれば、他の種類の被検液および特定成分にも適用可能である。
【0121】
他の種類の被検液および特定成分に適用する場合には、センサ電極20への被検液の供給は、上述の実施形態とは異なる態様で行われてもよい。上述の実施形態では、静止状態のオゾン水中に電気化学センサ1のセンシング領域を浸漬させる場合を例に挙げたが、例えば、被検液が人体から排出される尿であり、その尿中における尿酸が測定対象となる特定成分であれば、被検液である尿をセンシング領域に対して掛け流すことによって、センサ電極20に対する被検液の供給を行うようにしてもよい。その場合であっても、面一構造によって段差(凹凸構造)が生じてしまうことがなければ、供給された被検液が段差によって途切れて不連続になるといったことがなく(例えば、作用電極表面に供給された液滴と、他の電極表面に供給された液滴と、が凹凸構造により途切れてしまうことがなく)、センサ電極20への被検液の供給が一様かつ連続的に行われるので、センサ電極20に対する被検液の供給の適切化が図れるようになる。
【0122】
(センサ電極)
上述の実施形態では、センサ電極20が作用電極21、対電極22、参照電極23の三極からなる場合を例に挙げたが、必ずしもこれに限定されることはない。例えば、作用電極および対電極の三極からなる場合についても、または四つ以上のセンサ電極が配置されている場合についても、三極の場合と全く同様に適用することが可能である。
【0123】
このことは、本開示には、センサ電極の数が特に限定されず、単数の場合も含め、以下に述べる技術的思想も含まれることを意味する。
本開示の一態様には、
被検液中の特定成分の濃度測定に用いられる電気化学センサであって、
開口部を有する保護部材と、
前記開口部内に配されるセンサ電極と、
前記保護部材および前記センサ電極を支持する支持部材と、を備え、
前記支持部材が前記保護部材および前記センサ電極を支持した状態にて、前記センサ電極における前記支持基板との対向側の検出面と、前記保護部材における前記開口部を除く前記支持基板との対向側の表面とが、面一構造を構成している
電気化学センサが含まれる。
【0124】
また、上述の実施形態では、センサ電極20がBDD電極である場合を例に挙げたが、必ずしもこれに限定されることはなく、他種のセンサ電極であっても全く同様に適用することが可能である。ただし、上述の実施形態で説明したように、少なくとも作用電極21および対電極22についてはBDD電極であることが好ましく、参照電極23についてはBDD電極または金属電極(Ag電極等)のいずれかを用いることができる。また、作用電極21については、BDD電極における電極膜24の表面に分子レセプタとなる所定金属等を付着させた修飾電極(修飾センサ)として機能するものであってもよい。
【0125】
さらに、センサ電極20の支持基板10での配置についても、上述の実施形態で挙げた態様に限定されることはなく、必要に応じて適宜変更することが可能である。ここでいう変更には、作用電極21、対電極22、参照電極23としての機能の入れ替えも含む。
【0126】
(その他)
上述の実施形態で説明した電気化学センサ1の各構成要素は、単なる例示に過ぎず、その機能や作用等が損なわれない範囲で、適宜変更しても構わない。
例えば、導電性接合材26または絶縁性接合材33は、粘着シートではなく、ペースト状の接着剤を用いても構わない。
また、例えば、保護部材30については、撥水性を有する材料によって形成されている場合について説明したが、保護部材30の表面における撥水性は、表面処理を施すことにより生じさせてもよい。
【0127】
上述の実施形態では、電気化学センサ1の製造方法において、準備工程(S101)と、接合材配置工程(S102)と、保護部材接合工程(S103)と、センサ電極接合工程(S104)と、をこの順で実施する場合について説明したが、本開示はこの場合に限られない。電気化学センサ1の製造方法において、準備工程(S101)以降の工程の順序は適宜入れ替えてもよい。
【0128】
(6)本開示の好ましい態様
以下、本開示の好ましい態様について付記する。
【0129】
(付記1)
本開示の一態様によれば、
複数の開口部を有する保護部材と、
前記複数の開口部内に個別に配される複数のセンサ電極と、
前記保護部材および前記複数のセンサ電極を支持する支持部材と、を備え、
前記支持部材が前記保護部材および前記複数のセンサ電極を支持した状態にて、前記複数のセンサ電極における前記支持基板との対向側の検出面と、前記保護部材における前記複数の開口部を除く前記支持基板との対向側の表面とが、面一構造を構成している
電気化学センサが提供される。
【0130】
(付記2)
好ましくは、
前記保護部材は、前記支持基板上に設定されたセンシング領域の全域を覆うように構成されている
付記1に記載の電気化学センサが提供される。
【0131】
(付記3)
好ましくは、
前記保護部材における前記開口部は、当該開口部内に位置する前記センサ電極との間の少なくとも一部に、所定の間隔を開けて離間する空隙を有するように形成されている
付記1または2に記載の電気化学センサが提供される。
【0132】
(付記4)
好ましくは、
前記空隙は、前記センサ電極に対して前記被検液を供給した際に、前記空隙内への前記被検液の浸入を抑制するように形成されている
付記3に記載の電気化学センサが提供される。
【0133】
(付記5)
好ましくは、
前記センサ電極の底面と前記支持基板の上面との間に、前記空隙に連通する離間領域が形成されている
付記4に記載の電気化学センサが提供される。
【0134】
(付記6)
好ましくは、
前記保護部材の底面と前記支持基板の上面との間に、前記空隙に連通する離間領域が形成されている
付記4に記載の電気化学センサが提供される。
【0135】
(付記7)
好ましくは、
前記センサ電極は、導電性基板と、前記導電性基板上に設けられて前記検出面を構成する電極膜と、を有しており、
前記電極膜は、多結晶ダイヤモンドまたはダイヤモンドライクカーボンによって形成されている
付記1に記載の電気化学センサが提供される。
【0136】
(付記8)
好ましくは、
前記複数のセンサ電極は、作用電極、対電極、参照電極の三極からなり、
少なくとも前記作用電極および前記対電極は、前記電極膜が多結晶ダイヤモンドまたはダイヤモンドライクカーボンによって形成されたホウ素ドープダイヤモンド電極である
付記7に記載の電気化学センサが提供される。
【0137】
(付記9)
好ましくは、
前記センサ電極は、導電性を有する粘着シートまたは接着剤によって構成された導電性接合材を介して、前記支持基板に形成された電極パッド上に接合されている
付記1または8に記載の電気化学センサが提供される。
【0138】
(付記10)
好ましくは、
前記導電性接合材の電気抵抗率は、0.1kΩ・m以下である
付記9に記載の電気化学センサが提供される。
【0139】
(付記11)
好ましくは、
前記導電性接合材の平面サイズは、前記電極パッドの上面の平面サイズより大きく、前記センサ電極の底面の平面サイズより小さい
付記9に記載の電気化学センサが提供される。
【0140】
(付記12)
好ましくは、
前記導電性接合材は、室温で揮発性を有する分子量が100以上の有機物成分を含有していないものによって構成されている
付記9に記載の電気化学センサが提供される。
【0141】
(付記13)
好ましくは、
前記保護部材は、撥水性を有する材料によって形成されている
付記1に記載の電気化学センサが提供される。
【0142】
(付記14)
好ましくは、
前記保護部材は、絶縁性を有する粘着シートまたは接着剤によって構成された絶縁性接合材を介して、前記支持基板上に接合されている
付記1または13に記載の電気化学センサが提供される。
【0143】
(付記15)
好ましくは、
前記保護部材における前記複数の開口部に対応するように、前記絶縁性接合材にも複数の開口部が形成されており、
前記絶縁性接合材における開口部の平面サイズは、前記保護部材における開口部の平面サイズより大きい
付記14に記載の電気化学センサが提供される。
【0144】
(付記16)
好ましくは、
前記絶縁性接合材は、室温で揮発性を有する分子量が100以上の有機物成分を含有していないものによって構成されている
付記14に記載の電気化学センサが提供される。
【0145】
(付記17)
好ましくは、
前記支持基板は、可撓性を有するように構成されている
付記1に記載の電気化学センサが提供される。
【0146】
(付記18)
好ましくは、
前記支持基板上には、前記複数のセンサ電極のそれぞれに割り当てられた電気配線と、前記電気配線と個別に接続する接続端子と、が設けられており、
前記電気配線は、前記保護部材の配置領域および前記接続端子の配置領域を除き、絶縁保護膜によって覆われている
付記1に記載の電気化学センサが提供される。
【0147】
(付記19)
好ましくは、
前記特定成分は、前記被検液中の溶存オゾンである
付記1または7に記載の電気化学センサが提供される。
【0148】
(付記20)
本開示の他の一態様によれば、
被検液中の特定成分の濃度測定に用いられる電気化学センサであって、
開口部を有する保護部材と、
前記開口部内に配されるセンサ電極と、
前記保護部材および前記センサ電極を支持する支持部材と、を備え、
前記支持部材が前記保護部材および前記センサ電極を支持した状態にて、前記センサ電極における前記支持基板との対向側の検出面と、前記保護部材における前記開口部を除く前記支持基板との対向側の表面とが、面一構造を構成している
電気化学センサが提供される。
【0149】
(付記21)
本開示のさらに他の一態様によれば、
付記1または20に記載の電気化学センサの製造方法であって、
前記支持基板と前記保護部材とを接合する保護部材接合工程と、
前記保護部材の前記開口部内に位置するように前記センサ電極を配置するセンサ電極接合工程と、
を少なくとも有し、
前記センサ電極接合工程よりも前に前記保護部材接合工程を行う
電気化学センサの製造方法が提供される。
【符号の説明】
【0150】
1…電気化学センサ、10…支持基板、11…電極パッド、12…接続端子、13…配線(電気配線)、14…絶縁保護膜、20…センサ電極、20a…検出面、21…作用電極、22…対電極、23…参照電極、24…電極膜、25…導電性基板、26…導電性接合材、30…保護部材、30a…表面、31…開口部、32…空隙、32a,32b…離間領域、33…絶縁性接合材
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2023-06-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検液中の特定成分の濃度測定に用いられる電気化学センサであって、
複数の開口部を有する保護部材と、
前記複数の開口部内に個別に配される複数のセンサ電極と、
前記保護部材および前記複数のセンサ電極を支持する支持部材と、を備え、
前記支持部材が前記保護部材および前記複数のセンサ電極を支持した状態にて、前記複数のセンサ電極における前記支持部材との対向側の検出面と、前記保護部材における前記複数の開口部を除く前記支持部材との対向側の表面とが、面一構造を構成しており、
前記保護部材における前記開口部は、当該開口部内に位置する前記センサ電極との間の少なくとも一部に、所定の間隔を開けて離間する空隙を有するように形成されている
電気化学センサ。
【請求項2】
前記保護部材は、前記支持部材上に設定されたセンシング領域の全域を覆うように構成されている
請求項1に記載の電気化学センサ。
【請求項3】
前記空隙は、前記センサ電極に対して前記被検液を供給した際に、前記空隙内への前記被検液の浸入を抑制するように形成されている
請求項1または2に記載の電気化学センサ。
【請求項4】
前記センサ電極の底面と前記支持部材の上面との間に、前記空隙に連通する離間領域が形成されている
請求項に記載の電気化学センサ。
【請求項5】
前記保護部材の底面と前記支持部材の上面との間に、前記空隙に連通する離間領域が形成されている
請求項に記載の電気化学センサ。
【請求項6】
前記センサ電極は、導電性基板と、前記導電性基板上に設けられて前記検出面を構成する電極膜と、を有しており、
前記電極膜は、多結晶ダイヤモンドまたはダイヤモンドライクカーボンによって形成されている
請求項1に記載の電気化学センサ。
【請求項7】
前記特定成分は、前記被検液中の溶存オゾンである
請求項1またはに記載の電気化学センサ。
【請求項8】
請求項に記載の電気化学センサの製造方法であって、
前記支持部材と前記保護部材とを接合する保護部材接合工程と、
前記保護部材の前記開口部内に位置するように前記センサ電極を配置するセンサ電極接合工程と、
を少なくとも有し、
前記センサ電極接合工程よりも前に前記保護部材接合工程を行う
電気化学センサの製造方法。