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特開2024-122161加熱剥離型粘着剤組成物およびこれを用いた粘着シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122161
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】加熱剥離型粘着剤組成物およびこれを用いた粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 201/00 20060101AFI20240902BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20240902BHJP
   C09J 133/04 20060101ALI20240902BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240902BHJP
   C09J 4/02 20060101ALI20240902BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20240902BHJP
【FI】
C09J201/00
C09J11/04
C09J133/04
C09J11/06
C09J4/02
C09J7/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029543
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】坂田 聡史
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 博秋
(72)【発明者】
【氏名】中村 健史
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4J004AA10
4J004AB01
4J004FA08
4J040DF061
4J040EC002
4J040EF181
4J040EF281
4J040HA136
4J040JA09
4J040JB09
4J040KA03
4J040KA12
4J040KA16
4J040LA03
4J040MA02
4J040MA10
4J040MB03
4J040MB05
4J040MB09
4J040NA19
4J040PA20
(57)【要約】
【課題】本発明は、加熱剥離時に生じる部品への熱ダメージを低減し、直接加熱よりも短時間で剥離でき、界面で容易に剥離できると共に剥離後に粘着剤を容易に除去できるためリサイクル性が高い加熱剥離型粘着剤組成物およびそれを用いた粘着シートを提供する。
【解決手段】重合性基を有する化合物と磁性フィラーとを少なくとも含有する、加熱剥離型粘着剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性基を有する化合物と磁性フィラーとを少なくとも含有する、加熱剥離型粘着剤組成物。
【請求項2】
前記重合性基がエチレン性不飽和基である、請求項1に記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
【請求項3】
前記重合性基が(メタ)アクリル基である、請求項1に記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
【請求項4】
前記重合性基を有する化合物がウレタン(メタ)アクリレートである、請求項1に記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
【請求項5】
さらにバインダー樹脂を含む、請求項1に記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
【請求項6】
前記バインダー樹脂が(メタ)アクリル系樹脂である、請求項5に記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
【請求項7】
前記(メタ)アクリル系樹脂がカルボキシ基含有モノマーを共重合成分として含有する、請求項6に記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
【請求項8】
前記カルボキシ基含有モノマーがアクリル酸モノマーである、請求項7に記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
【請求項9】
さらに架橋剤を含む、請求項5に記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
【請求項10】
前記架橋剤がイソシアネート系化合物および/またはエポキシ系化合物である、請求項9に記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
【請求項11】
前記磁性フィラーの平均粒子径が100nm以上1000nm未満である、請求項1に記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
【請求項12】
前記磁性フィラーが多面体形状である、請求項1に記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
【請求項13】
前記磁性フィラーが六面体または八面体である、請求項1に記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
【請求項14】
前記磁性フィラーがマグネタイトである、請求項1に記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
【請求項15】
前記磁性フィラーの含有量が1質量%以上である、請求項1に記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
【請求項16】
さらに熱重合開始剤を含む、請求項1に記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
【請求項17】
前記熱重合開始剤の10時間半減期温度が80~130℃である、請求項16に記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の加熱剥離型粘着剤組成物からなる粘着層を備える粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通常使用の範囲では十分な剥離強度を有し、加熱処理時にのみ剥離強度が低下する加熱剥離型粘着剤組成物と、その粘着剤組成物を架橋してなる粘着層を備える粘着シートにおいて、特定の磁性フィラーを配合することで、誘導加熱によって発熱することを可能にした技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、家電製品をはじめ、各種プラスチック製品や金属製品等のリサイクル率向上の機運がますます高まっている。これらの製品は、通常、多数の部品を接合もしくは接着して製造されていることから、リサイクル率向上のためには、接合もしくは接着された各部品を、リサイクル時に分離、解体して、材質物に分別することが重要である。
【0003】
これらの部品の接着には、接着工程の簡便化を図るために、粘着シートが多用されている。そして、このような粘着シートとしては、通常、部品接着の信頼性の観点から、強粘着性のものが多く使われるが、このことは、解体時に強い力をかける必要があることを意味し、解体時に、接着部ではなく部品側の破壊を招いたり、部品側に粘着剤が糊残りして部品のリサイクルに支障をきたしたりして、種々の望ましくない挙動をもたらす傾向にある。したがって、使用時は強固に接着しているが、解体時には部品の破壊を伴うことなく、簡便に短時間で界面剥離できる粘着剤が求められている。
【0004】
このような視点から、リサイクル時に熱をトリガーとした易剥離化する粘着剤すなわち易解体接着剤の提案がなされている。例えば、特許文献1には、分解および再結合可能な構造を有する化合物を用いて、熱により剥離する樹脂の提案がなされている。また、特許文献2にはアミノ基を有する樹脂とエチレン性不飽和基を有する化合物の組み合わせにより、熱により剥離する樹脂の提案がなされている。さらに、特許文献3には、アクリル系樹脂およびウレタン(メタ)アクリレート系化合物の組成物をイソシアネート系架橋剤で架橋させた上で、熱により剥離する樹脂を薬液保護用粘着シートに用いる提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2013-519764号公報
【特許文献2】特開2019-156919号公報
【特許文献3】特開2016-204617号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Magn.Soc.Jpn.,33,391-396(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの粘着剤はいずれも間接的に加熱される方式であるため、粘着剤が十分に加熱されて剥離が起こるまでに時間がかかるだけでなく、粘着剤以上に周辺部材が加熱されてしまう問題があり、総じてリサイクル性に課題がある。
【0008】
一方、磁性フィラーは誘導加熱(IH)によって発熱することが知られている。これは磁性フィラーが交流磁場における磁界の反転によるヒステリシス損失に伴い、熱を発生するためである。このような磁性フィラーの発熱性については、非特許文献1に示すように、10~15nmの粒子径において極大化されることが示されている。
【0009】
そこで、本発明ではこのような背景の下において、加熱剥離時に生じる部品への熱ダメージを低減し、直接加熱よりも短時間で剥離でき、界面で容易に剥離できると共に剥離後に粘着剤を容易に除去できるためリサイクル性が高い加熱剥離型粘着剤組成物およびそれを用いた粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
しかるに、本発明者等はかかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、加熱剥離型粘着剤組成物に特定の磁性フィラーを配合し、IHによって加熱可能な設計にしたことで、使用時は強固に接着しながら、解体時には部品の破壊を伴うことなく、短時間で界面剥離できることを可能とし、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明は、以下の態様を有する。
[1]
重合性基を有する化合物と磁性フィラーとを少なくとも含有する、加熱剥離型粘着剤組成物。
[2]
前記重合性基がエチレン性不飽和基である、[1]に記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
[3]
前記重合性基が(メタ)アクリル基である、[1]または[2]に記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
[4]
前記重合性基を有する化合物がウレタン(メタ)アクリレートである、[1]~[3]のいずれかに記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
[5]
さらにバインダー樹脂を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
[6]
前記バインダー樹脂が(メタ)アクリル系樹脂である、[5]に記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
[7]
前記(メタ)アクリル系樹脂がカルボキシ基含有モノマーを共重合成分として含有する、[6]に記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
[8]
前記カルボキシ基含有モノマーがアクリル酸モノマーである、[7]に記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
[9]
さらに架橋剤を含む、[5]~[8]のいずれかに記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
[10]
前記架橋剤がイソシアネート系化合物および/またはエポキシ系化合物である、[9]に記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
[11]
前記磁性フィラーの平均粒子径が100nm以上1000nm未満である、[1]~[10]のいずれかに記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
[12]
前記磁性フィラーが多面体形状である、[1]~[11]のいずれかに記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
[13]
前記磁性フィラーが六面体または八面体である、[1]~[12]のいずれかに記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
[14]
前記磁性フィラーがマグネタイトである、[1]~[13]のいずれかに記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
[15]
前記磁性フィラーの含有量が1質量%以上である、[1]~[14]のいずれかに記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
[16]
さらに熱重合開始剤を含む、[1]~[15]のいずれかに記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
[17]
前記熱重合開始剤の10時間半減期温度が80~130℃である、[16]に記載の加熱剥離型粘着剤組成物。
[18]
[1]~[17]のいずれかに記載の加熱剥離型粘着剤組成物からなる粘着層を備える粘着シート。
【発明の効果】
【0012】
本発明の加熱剥離型粘着剤組成物を用いた粘着シートは、加熱剥離時に生じる部品への熱ダメージを低減し、直接加熱よりも短時間で剥離でき、界面で容易に剥離できると共に剥離後に粘着剤を容易に除去できるためリサイクル性が高いものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0014】
ここで、本発明において、「(メタ)アクリル」とはアクリルあるいはメタクリルを、「(メタ)アクリロイル」とはアクリロイルあるいはメタクリロイルを、「(メタ)アクリレート」とはアクリレートあるいはメタクリレートをそれぞれ意味するものである。
また、本発明において、「シート」とは、特に「フィルム」、「テープ」と区別するものではなく、これらも含めた意味として記載するものである。
そして、本発明において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特に断らない限り「X以上Y以下」を意味しており、「好ましくはXより大きい」または「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
さらに、「Xおよび/またはY(X,Yは任意の構成)」とは、XおよびYの少なくとも一方を意味するものであって、Xのみ、Yのみ、XおよびY、の3通りを意味するものである。
「主成分」とは、その材料の特性に大きな影響を与える成分の意味であり、その成分の含有量は、通常、材料全体の50重量%以上であり、好ましくは60質量%以上、100質量%であってもよい。
【0015】
<<加熱剥離型粘着剤組成物>>
本発明の実施形態の一例に係る加熱剥離型粘着剤組成物(以下、「本粘着剤組成物」と称する)は、重合性基を有する化合物と磁性フィラーを少なくとも含有する。以下、各成分を順に説明する。
【0016】
<重合性基を有する化合物>
重合性基を有する化合物は、重合性基を有するものであればよく、例えば、エチレン性不飽和基を有する化合物等の付加重合を起こす基を有する化合物、あるいはエポキシ基を有する化合物等の開環重合を起こす基を有する化合物等が挙げられる。本粘着剤組成物の好ましい一形態として、重合性基を有する化合物に後記のバインダー樹脂が含まれないことが好ましい。
重合性基を有する化合物は、好ましくは重量平均分子量(Mw)が50,000未満であり、より好ましくは30,000未満であり、さらに好ましくは10,000未満であり、特に好ましくは5,000未満の化合物である。重合性基を有する化合物がこの範囲内であることで、他の有機成分との相溶性が向上し組成物としての品質を担保しやすい傾向がある。
【0017】
かかる重合性基としては、加熱後の剥離性の観点からエチレン性不飽和基を有することが好ましく、バインダー樹脂との相溶性の観点から(メタ)アクリル基を有することがより好ましい。
【0018】
具体的には、重合性基を有する化合物がエチレン性不飽和基を有する化合物(以下、単に「エチレン性不飽和化合物」という場合がある)である場合、エチレン性不飽和化合物は、加熱後の剥離性に優れたものを得るには、通常、エチレン性不飽和基数が、1分子当たり2~15個であることが好ましく、より好ましくは3~12個、さらに好ましくは4~10個である。かかるエチレン性不飽和基数が多すぎると加熱後の架橋密度が大きくなりすぎて、粘着層にクラックが発生しやすくなる傾向にあり、少なすぎると十分な架橋密度が得られないため、加熱後に剥離しにくくなる傾向にある。
【0019】
そして、上記エチレン性不飽和化合物は、バインダー樹脂との相溶性の点で(メタ)アクリレート系化合物であることが好ましく、加熱後の剥離性の点でウレタン(メタ)アクリレート系化合物を用いることが好ましい。
【0020】
上記ウレタン(メタ)アクリレート系化合物は、水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物と多価イソシアネート系化合物との反応物であるウレタン(メタ)アクリレート系化合物であってもよいし、水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物、多価イソシアネート系化合物およびポリオール系化合物の反応物であるウレタン(メタ)アクリレート系化合物であってもよい。
【0021】
また、上記ウレタン(メタ)アクリレート系化合物以外のエチレン性不飽和化合物としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールA型ジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールA型ジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールジシクロペンタンジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、フタル酸ジグリシジルエステルジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性ジアクリレート等のエチレン性不飽和基を2個有する化合物;
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリロイルオキシエトキシトリメチロールプロパン、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性トリアクリレート、カプロラクトン変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化グリセリントリアクリレート等のエチレン性不飽和基を3個有する化合物;
ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、グリセリンポリグリシジルエーテルポリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和基を4個以上有する化合物;
等が挙げられる。
【0022】
これらの重合性基を有する化合物、とりわけエチレン性不飽和化合物は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。そして、上記重合性基を有する化合物、とりわけエチレン性不飽和化合物の含有量は、本粘着剤組成物に対して5~50質量%が好ましく、より好ましくは10~45質量%、さらに好ましくは20~40質量%である。重合性基を有する化合物の含有量が上記下限値以上であると加熱後の剥離に優れる傾向があり、上記上限値以下であると剥離後の被着部材に対する耐汚染性に優れる傾向がある。
【0023】
<磁性フィラー>
磁性フィラーは磁性体であればよい。磁性フィラーの種類は、例えば、鉄およびその酸化物(マグネタイト等)、ニッケルおよびその酸化物、ストロンチウムおよびその酸化物、マンガンおよびその酸化物、マグネシウムおよびその酸化物等を挙げることができる。これらの中でも鉄およびその酸化物、ストロンチウムおよびその酸化物、マンガンおよびその酸化物が好ましく、発熱性の観点から鉄およびその酸化物がより好ましく、入手性の観点からマグネタイトが特に好ましい。
磁性フィラーの色は特に制限はないが、黒色であることが好ましい。
【0024】
磁性フィラーの形状は、特に制限はなく、例えば、球状、六面体形状、八面体形状、針状のいずれでもよい。発熱性の観点から多面体形状であることが好ましく、より好ましくは六面体形状または八面体形状である。
【0025】
磁性フィラーの平均粒子径は、発熱性の観点から100nm以上1000nm未満であることが好ましく、より好ましくは150nm以上であり、さらに好ましくは200nm以上である。
磁性フィラーの平均粒子径の上限値は、成形性(磁性フィラー沈降)の観点から、900nm以下とすることができ、700nm以下とすることができ、500nm以下とすることができる。
【0026】
磁性フィラーは商業的に入手することができる。市販の磁性フィラーとしては、例えば、US3985(US Research Nanomaterials社製);マグネタイトMAT-S、マグネタイトMAT-304、マグネタイトEPT-1000、マグネタイトMTH-310(いずれも戸田工業社製);S001、M001(いずれもパウダーテック社製)等を挙げることができる。
【0027】
磁性フィラーの含有量は、特に制限はないが、本粘着剤組成物(固形分)に対して、発熱性の観点から1質量%以上含むことが好ましく、5質量%以上含むことがより好ましく、10質量%以上含むことがさらに好ましい。
【0028】
成形性の観点から、磁性フィラーを、本粘着剤組成物(固形分)に対して、80質量%以下を含む態様とすることができ、70質量%以下または60質量%以下を含む態様としてもよい。粘度が低い本粘着剤組成物と組み合わせて用いることで、材料組成物の粘度が上がり過ぎないようにすれば、良好な成形性を維持しながら、磁性フィラーの添加量の上限値を高めることができる。
【0029】
<バインダー樹脂>
本粘着剤組成物には、さらにバインダー樹脂を含有させることができる。バインダー樹脂としては、通常、上記重合性基を有する化合物以外の樹脂であり、粘着主剤として使用できる材料であることが好ましい。
例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、天然ゴム系樹脂、合成ゴム系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、スチレンアクリロニトリルコポリマー(AS)系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)系樹脂、ポリアミド系樹脂(ナイロン6、ナイロン66等)、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、フッ素系樹脂等を挙げることができる。なかでも、(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、天然ゴム系樹脂、合成ゴム系樹脂、ポリエステル系樹脂が好ましく、成形性、安全性および入手性等の観点から(メタ)アクリル系樹脂がより好ましい。
これらバインダー樹脂は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
[(メタ)アクリル系樹脂]
バインダー樹脂として(メタ)アクリル系樹脂を用いる場合、共重合成分として、重合性基含有モノマーを含有することが好ましい。上記(メタ)アクリル系樹脂は、共重合成分として重合性基含有モノマーを使用したものである場合には、(メタ)アクリル系樹脂の架橋点となり、基材や被着体との密着性をさらに向上させることができる。
【0031】
上記重合性基含有モノマーとしては、後述の架橋剤と反応することにより架橋点となりうる重合性基を含有するモノマーであることが好ましく、例えば、カルボキシ基含有モノマー、水酸基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、アセトアセチル基含有モノマー、イソシアネート基含有モノマー、グリシジル基含有モノマー等が挙げられる。なかでも、効率的に架橋反応ができる点、さらに本粘着剤組成物においては、耐酸性薬剤と糊残りを少なくする点からカルボキシ基含有モノマー、水酸基含有モノマーが好ましく、より好ましくはカルボキシ基含有モノマーおよび水酸基含有モノマーを含有することである。
【0032】
また、上記カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸モノマー、アクリル酸ダイマー、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、グルタコン酸、イタコン酸、アクリルアミドN-グリコール酸、ケイ皮酸等が挙げられ、なかでもアクリル酸モノマーが好ましく用いられる。
【0033】
本粘着剤組成物は、アクリル酸モノマーを共重合成分の主成分として含有することが好ましく、必要に応じてその他の共重合性モノマーを共重合成分として含有することもできる。
【0034】
上記アクリル酸モノマーの中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーを共重合成分の主成分として含有することが好ましく、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーしては、アルキル基の炭素数が、通常1~20、好ましくは1~12、より好ましくは1~8、さらに好ましくは4~8である。炭素数が上記上限値以下であると、被着体に対する汚染を低減じやすい傾向がある。
【0035】
具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、iso-オクチルアクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、i-ステアリル(メタ)アクリレート等の脂肪族の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の脂環族の(メタ)アクリル酸エステル等:
が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーの中でも、共重合性、粘着物性、取り扱い易さおよび原料入手し易さの点で、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。
【0037】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーの含有量としては、共重合成分の30~99質量%であることが好ましく、より好ましくは40~98質量%、さらに好ましくは50~95質量%である。上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーの含有量が少なすぎると粘着力が低下する傾向にあり、多すぎると粘着力が高くなりすぎる傾向がある。
【0038】
上記水酸基含有モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート等のアクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、カプロラクトン変性2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のカプロラクトン変性モノマー、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のオキシアルキレン変性モノマー、その他、2-アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチルフタル酸等の1級水酸基含有モノマー;
2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のアクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、3-クロロ2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の2級水酸基含有モノマー;
2,2-ジメチル2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の3級水酸基含有モノマー:
を挙げることができる。
【0039】
上記水酸基含有モノマーの中でも、架橋剤との反応性に優れる点で、具体的には、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが好ましく、より好ましくは2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートである。
【0040】
なお、本粘着剤組成物で水酸基含有モノマーを用いる場合、不純物であるジ(メタ)アクリレートの含有割合が、0.5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.2質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下である。下限値は通常0質量%である。
【0041】
上記アミノ基含有モノマーとしては、例えば、t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、エチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0042】
上記アセトアセチル基含有モノマーとしては、例えば、2-(アセトアセトキシ)エチル(メタ)アクリレート、アリルアセトアセテート等が挙げられる。
【0043】
上記イソシアネート基含有モノマーとしては、例えば、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートやそれらのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0044】
上記グリシジル基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸アリルグリシジル等が挙げられる。
【0045】
これら重合性基含有モノマーは、単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0046】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー、必要に応じてその他の共重合性モノマー等を共重合成分として重合することにより(メタ)アクリル系樹脂を製造する。
【0047】
かかる重合にあたっては、溶液ラジカル重合、懸濁重合、塊状重合、乳化重合等の従来公知の方法により行うことができ、適宜選択することができるが、なかでも溶液ラジカル重合で製造することが、安全に、安定的に、任意のモノマー組成で(メタ)アクリル系樹脂を製造できる点で好ましい。
【0048】
上記溶液ラジカル重合では、例えば、有機溶媒中に、重合性基含有モノマー、重合開始剤を混合あるいは滴下し、還流状態あるいは通常50~98℃で0.1~20時間程度重合すればよい。
【0049】
上記重合反応に用いられる有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の脂肪族アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類等が挙げられる。これらの有機溶媒は、単独でもしくは2種以上併用することができる。
【0050】
これらの有機溶媒の中でも、重合反応のしやすさや連鎖移動の効果や粘着剤組成物の塗工時の乾燥のしやすさ、安全上の点から、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類が好ましく、特には、酢酸エチルを含むことが好ましい。
【0051】
また、かかる溶液ラジカル重合に用いられる重合開始剤としては、例えば、通常のラジカル重合開始剤である2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス-2-メチルブチロニトリル、4,4'-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2'-アゾビス(メチルプロピオン酸)等のアゾ系開始剤、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物等が挙げられ、使用するモノマーに合わせて適宜選択して用いることができる。これらの重合開始剤は、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0052】
このようにして、(メタ)アクリル系樹脂を得ることができる。
【0053】
上記(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、10万~300万であることが好ましく、より好ましくは15万~100万、さらに好ましくは20万~80万である。かかる重量平均分子量が小さすぎると、得られる粘着層の靱性や凝集力が低下する傾向があり、転写性や保持力、硬化後の剪断強度が低下する傾向がある。また、かかる重量平均分子量が大きすぎると、粘度が高くなりすぎて重合時にスケーリングが多くなったり、他の成分との相溶性が低下したり、ハンドリング性が低下したりする傾向がある。
【0054】
また、(メタ)アクリル系樹脂の分散度[重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)]は、10以下であることが好ましく、特に好ましくは7以下、さらに好ましくは5.5以下である。かかる分散度が高すぎると凝集力が低下する傾向がある。なお、分散度の下限は通常1である。
【0055】
上記の(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量は、標準ポリスチレン分子量換算による重量平均分子量であり、高速液体クロマトグラフ(日本Waters社製、「Waters 2695(本体)」と「Waters 2414(検出器)」)に、カラム:Shodex GPC KF-806L(排除限界分子量:2×107、分離範囲:100~2×107、理論段数:10000段/本、充填剤材質:スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、充填剤粒径:10μm)を3本直列に接続して用いることにより測定されるものであり、数平均分子量も同様の方法で測定することができる。また分散度は、上記重量平均分子量と数平均分子量の測定値より求めることができる。
【0056】
上記(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、-70~10℃であることが好ましく、より好ましくは-60~0℃、特に好ましくは-50~-10℃である。上記(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度が低すぎると、加熱後の粘着力が十分に低下しない傾向があり、低すぎると被着部材への汚染性が高くなる傾向がある。
【0057】
なお、上記ガラス転移温度(Tg)は、(メタ)アクリル系樹脂を構成するそれぞれのモノマーをホモポリマーとした際のガラス転移温度および重量分率を、下記のFoxの式に当てはめて算出した値である。
ここで、(メタ)アクリル系樹脂を構成するモノマーをホモポリマーとした際のガラス転移温度は、通常、示差走査熱量計(DSC)により測定されるものであり、JIS K 7121-1987や、JIS K 6240に準拠した方法で測定することができる。
【0058】
【数1】
【0059】
<架橋剤>
本粘着剤組成物には、さらに架橋剤を含有させることができる。架橋剤としては、ポリマー同士を連結し、分子量を増大させる成分であれば特に限定されない。例えば、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、アクリル系化合物、チオール系化合物等が挙げられる。なかでも、かかる架橋剤としては、エポキシ系化合物および/またはイソシアネート系化合物であることが好ましく、より好ましくはエポキシ系化合物である。エポキシ形化合物を「エポキシ系架橋剤」、イソシアネート系化合物を「イソシアネート系架橋剤」と称する場合がある。かかる架橋剤は、バインダー樹脂中の官能基と反応し、架橋構造を形成させるものである。
【0060】
上記エポキシ系架橋剤としては、例えば、ビスフェノールA・エピクロルヒドリン型のエポキシ樹脂、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエリスリトール、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、N,N,O-トリグリシジル-p-アミノフェノール、1,3'-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N',N'-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン等が挙げられる。
【0061】
これらの中でも、N,N,O-トリグリシジル-p-アミノフェノール、1,3'-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N',N'-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン等の窒素原子を含有するエポキシ系架橋剤であることが、円滑に架橋構造を形成させやすい点で好ましく、1,3'-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N',N'-テトラグリシジル-m-キシレンジアミンが、特に好ましい。
【0062】
上記イソシアネート系架橋剤は、イソシアネート基を少なくとも2個含むものであり、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネート等が挙げられ、これらのビウレット体、イソシアヌレート体、さらにはエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油等の低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体等も挙げられる。特にはトリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンのアダクト体が好ましい。
上記架橋剤は、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0063】
そして、その含有量は、通常、バインダー樹脂と重合性基を有する化合物との合計100質量部に対して、0.001~30質量部であることが好ましく、より好ましくは0.01~20質量部、特に好ましくは0.03~15質量部である。架橋剤が上記下限値以上であると、粘着剤組成物から粘着層を形成する際の凝集力を高め、糊残りを低減する傾向があり、上記上限値以下であると、形成される粘着層の柔軟性および粘着力を維持し、被着部材との間に浮きが生じるのを防ぐ傾向がある。
【0064】
なお、本粘着剤組成物で用いる重合性基を有する化合物の一部は、架橋剤的機能を兼ねてもよい。例えば、重合性基を有する化合物として添加したエポキシの一部を粘着剤の架橋に回し、粘着剤化後においてもエポキシを残存させるようにすれば、それを架橋剤として用いることができ熱硬化すれば樹脂の弾性率が上がり、加熱剥離型粘着剤とすることもできる。
【0065】
<熱重合開始剤>
本粘着剤組成物は、熱重合開始剤を含んでもよい。熱重合開始剤は、加熱により硬化反応を開始するものであればよい。熱重合開始剤としては、例えば、有機過酸化物系開始剤、アゾ系開始剤等が挙げられる。
【0066】
これらのうち、加熱時の発生ガスが少ない点で、有機過酸化物系開始剤を用いることが好ましい。そして、これらの熱重合開始剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0067】
上記熱重合開始剤は、その種類によって、加熱による硬化時の反応温度や反応時間が異なることから、10時間半減期温度が70~150℃のものを用いることが好ましく、80~130℃であることがより好ましい。すなわち、10時間半減期温度が上記下限値以上であると、実使用時の安定性に優れる傾向があり、10時間半減期温度が上記上限値以下であると、加熱による易剥離化が容易になる傾向がある。したがって、例えば、1,1'-ジ-(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン(87℃)、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(91℃)、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(95℃)、t-ブチルパーオキシマロン酸(96℃)、t-ブチルパーオキシベンゾエート(99℃)、t-ブチルパーオキシアセテート(102℃)、t-ブチルベンゾイルパーオキシド(104℃)、ジクミルパーオキシド(120℃)、ジ-t-ブチルパーオキシド(128℃)、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド(145℃)等を用いることが好適である。なお、括弧内は10時間半減期温度を示している。
【0068】
上記熱重合開始剤の含有量は、通常、バインダー樹脂と重合性基を有する化合物との合計100質量部に対して、0.01~20質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1~15質量部、特に好ましくは0.2~10質量部である。上記熱重合開始剤が少なすぎると、硬化が不十分になって物性が安定しなくなる傾向がみられ、多すぎてもそれ以上の効果が得られない傾向がみられる。
なお、本粘着剤組成物は、熱剥離条件を高感度化、低温化できる傾向にある点では上記熱重合開始剤を含むことが好ましいが、使用時の安定性を向上させる点では熱重合開始剤を含まないことが好ましい。
ここで、「熱重合開始剤を含まない」とは、意図して熱重合開始剤を含有しないという意味であり、具体的には、バインダー樹脂と重合性基を有する化合物との合計100質量部に対して、熱重合開始剤の含有量が0.001質量部未満であることをいう。
【0069】
<その他の成分>
本粘着剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲(例えば、5質量%以下)において、例えば、バインダー樹脂以外の樹脂、光重合開始剤、帯電防止剤、酸化防止剤、可塑剤、充填剤、顔料、希釈剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、粘着付与剤等の添加剤をさらに含有していてもよい。これらの添加剤は1種を単独でまたは2種以上を併せて用いることができる。特に酸化防止剤は、粘着層の安定性を保つのに有効である。酸化防止剤を配合する場合の含有量は、特に制限はないが、好ましくは0.01~5質量%である。なお、添加剤の他にも、本粘着剤組成物の構成成分の製造原料等に含まれる不純物等が少量含有されていてもよい。
【0070】
このように、本粘着剤組成物は、重合性基を有する化合物、磁性フィラー、必要に応じて適宜の任意成分を混合することにより得ることができる。
【0071】
<別の実施形態>
また、本発明の重合性基を有する化合物と磁性フィラーとを少なくとも含有する本粘着剤組成物の別の実施形態としては、上記重合性基を有する化合物とバインダー樹脂とが同じ化合物である場合がある。かかる化合物としては、例えば、1液型のアクリル、ウレタン、シリコーンゴム等が挙げられる。
【0072】
<<粘着シート>>
本粘着剤組成物を架橋して粘着層とすることにより、本発明の粘着シート(以下、「本粘着シート」と称することがある)を得ることができる。本粘着シートは、金属板、プラスチック板、半導体ウエハ等、各種の接着対象部材(被着部材)同士を貼り合わせて使用に供した後に剥離することを前提とする粘着シートとして有用である。また、一時的に、特定の部材の表面を被覆して保護する等の役割を果たす保護シートや、製造段階で特定の部品同士を仮接着(粘着)する場合の仮接着シートとしても有用である。以下、本粘着シートについて説明する。
【0073】
本粘着シートは、通常、基材シートと、本粘着剤組成物からなる粘着層と、離型フィルムとで構成される。
本粘着シートは、例えばつぎのようにして得ることができる。すなわち、まず、本粘着剤組成物をそのまま、または適当な有機溶媒により濃度調整して流動性を高め、剥離フィルム上または基材シート上に直接塗工する。その後、例えば80~105℃、0.5~10分間加熱処理等により乾燥させ、接着層として基材シートまたは離型フィルムと一体化することにより粘着シートを得ることができる。また、粘着物性のバランスをとるために、乾燥後にさらにエージングを行ってもよい。
【0074】
上記エージングの条件としては、温度は通常、常温(23℃)~70℃、時間は通常、1~30日間であり、具体的には、例えば23℃で1~20日間、23℃で3~10日間、40℃で1~7日間等の条件で行えばよい。
【0075】
上記基材シートの材質としては、例えば、ポリエチレンナフタート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体等のポリエステル系樹脂;
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂;
ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化エチレン等のポリフッ化エチレン樹脂;
ナイロン6、ナイロン6,6等のポリアミド;
ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ビニロン等のビニル重合体;
三酢酸セルロース、セロファン等のセルロース系樹脂;
ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系樹脂;
ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリイミド:
等の合成樹脂が挙げられる。また、アルミニウム、銅、鉄の金属箔、上質紙、グラシン紙等の紙、硝子繊維、天然繊維、合成繊維等からなる織物や不織布が挙げられる。
【0076】
これらの基材シートは、単層体としてまたは2種以上が積層された複層体として用いることができる。これらの中でも、軽量化等の点から、合成樹脂シートが好ましい。
【0077】
さらに、上記離型フィルムとしては、例えば、上記基材シートで例示した各種合成樹脂シート、紙、織物、不織布等に離型処理したものを使用することができる。
【0078】
また、本粘着剤組成物の塗工方法としては、一般的な塗工方法であれば特に限定されることなく、例えば、ロールコーティング、ダイコーティング、グラビアコーティング、コンマコーティング、スクリーン印刷等の方法が挙げられる。
【0079】
本粘着シートの粘着層の厚みは、通常、1~500μmであることが好ましく、より好ましくは3~200μmであり、さらに好ましくは5~100μmである。
【0080】
本粘着シートは、無機材料である磁性フィラーを用いているため、誘導加熱が可能な金属材料(金属フィラー等)を用いる誘導加熱材料よりも安全性が高いことが好ましい。また、人体への電磁波による影響がある高周波数の誘電加熱と比較して、低周波数の誘導加熱に用いられる点でも、本粘着シートは安全性が高い。
【0081】
磁性フィラーは絶縁性で高い安全性を有しつつも安価であることから本粘着シートは多くの分野において有用である。
【0082】
従来、磁性フィラー単体で誘導加熱する場合の知見として、平均粒子径の小さい磁性フィラーのネール緩和による発熱性が、平均粒子径の大きい磁性フィラーのブラウン緩和による発熱性よりも高いことが知られている(非特許文献1:J.Magn.Soc.Jpn.,33,391-396(2009)参照)。実際、平均粒子径が100nm以上1000nm未満の磁性フィラーは、単体で誘導加熱される場合は平均粒子径が10~25nmの磁性フィラーよりも発熱性が低かった。
【0083】
この知見に対し、本発明では、磁性フィラーを熱可塑性樹脂に配合した場合、平均粒子径の小さい磁性フィラーのネール緩和による発熱性よりも、平均粒子径の大きい磁性フィラーのブラウン緩和による発熱性の方が高くなることを見出した。実際、平均粒子径が100nm以上1000nm未満の磁性フィラーは、熱可塑性樹脂に配合された状態で誘導加熱される場合は平均粒子径が10~25nmの磁性フィラーよりも発熱性が高くなる。磁性フィラーを熱可塑性樹脂に配合した場合に従来の知見とは異なる結果が得られる理由は、磁性フィラーを熱可塑性樹脂に配合した場合、ブラウン緩和による振動エネルギーが熱可塑性樹脂との摩擦エネルギーに変換されたためと推測される。
【0084】
本明細書中、高い発熱性とは、誘導加熱によって10℃/s以上の温度上昇速度で発熱することを意味する。
本明細書中、成形性が良好であることは、成形前の組成物において磁性フィラーが沈降しないことを意味する。その結果、磁性フィラーが分散された誘導加熱が可能な形状への成形性が高いことが好ましい。
【0085】
<誘導加熱>
本粘着シートは、誘導加熱により硬化が進行して剥離性を示すものである。上記加熱条件としては、加熱温度が50~250℃であることが好ましく、より好ましくは60~200℃、さらに好ましくは70~150℃、特に好ましくは80~120℃である。加熱温度が低すぎると、剥離性が低下する傾向があり、加熱温度が高すぎても剥離性に差は見られない傾向があるため、エネルギーコストの点から好ましくない。
また、加熱時間は10秒~5時間であることが好ましく、より好ましくは30秒~1時間、さらに好ましくは40秒~30分間、特に好ましくは50秒~10分間である。加熱時間が短すぎると、剥離性が低下する傾向があり、加熱時間が長すぎても剥離性に差は見られない傾向があるため、エネルギーコストの点から好ましくない。
【0086】
本粘着シートは、誘導加熱によって10℃/s以上の温度上昇速度で発熱させることが好ましく、より好ましくは15℃/s以上の温度上昇速度、さらに好ましくは20℃/s以上の温度上昇速度、特に好ましくは30℃/s以上の温度上昇速度である。
【0087】
粘着シートは、誘導加熱によって到達温度(最高到達温度)が80℃以上となることが好ましく、120℃以上となることがより好ましく、150℃以上となることがさらに好ましく、180℃以上となることが特に好ましい。
また、誘導加熱によって到達温度(最高到達温度)に到達するまでの到達時間が25秒以下であることが好ましく、より好ましくは20秒以下、さらに好ましくは15秒以下、特に好ましくは10秒以下である。
【0088】
誘導加熱の周波数は、電子レンジ等の誘電加熱の周波数よりも低いことが好ましく、より好ましくは1000kHz以下、さらに好ましくは400kHz以下、特に好ましくは360kHz以下である。誘導加熱の周波数の下限値は特に制限はないが、例えば50kHz以上とすることができ、100kHz以上としてもよい。
【0089】
誘導加熱の電力は特に制限はなく、例えば、1~20kWとすることができるが、好ましくは3~15kWである。
【0090】
本粘着シートは、電磁波を吸収できる磁性フィラーを利用した誘導加熱により硬化が進行して剥離することから、粘着シートとの間に断熱材が介していても加熱することができる。
【0091】
本粘着シートの具体的な用途としては、誘導加熱(IH)によって接着および剥離可能なIHヒータブル易解体粘着剤あるいは接着剤、シート状にしてパイプ等に巻き付けて凍結防止等に使用するIHヒータブルシート、樹脂成型体の製造ラインにおける搬送フィルムにコーティングすることで乾燥あるいは硬化工程を省エネ化できるIHヒータブルコーティング、磁性フィラーが電磁波を吸収できることを利用したIHヒータブル電磁波吸収シート、熱架橋型ポリマーに磁性フィラーを配合することで製造タクトが短縮可能なIHヒータブル熱架橋型ポリマー、あるいは繊維に配合したIHヒータブル繊維等が挙げられる。なお、IHヒータブルコーティングの場合は、基材上にコーティングの樹脂層を設けた態様が好ましい。
【0092】
また、本粘着シートは粘着剤組成物をフレキシブル原料で調製できるため、両面テープのような感覚で使用でき、作業性が良く、フレキシブル粘着シートとしても有用である。また、フレキシブルディスプレイ用粘着シートにも適用可能である。
【0093】
上記粘着シートの粘着力は、基材シートの種類、被着部材の種類等によっても異なるが、JIS Z0237:2009に記載の方法によりSUS-BA板を被着体として測定される180°ピール強度が、60℃、90%RHで24時間処理した後に10N/25mm以上であり、かつ150℃で2時間処理した後に2N/25mm以下であることが、加熱剥離性を得る上で好ましい。なかでも、上記180°ピール強度が、60℃、90%RHで24時間処理した後に20N/25mm以上であり、かつ150℃で2時間処理した後に1N/25mm以下であることが、効果の上でより好ましい。
【0094】
本粘着シートによれば、優れた加熱剥離性を有する本粘着剤組成物を架橋してなる粘着層を有するため、この粘着シートを被着部材と貼り合わせ、被着部材の表面を一時的に保護したり他の部材と貼り合わせたりした後に、必要に応じて加熱することにより、粘着層を硬化させて粘着力を低下させ、容易に被着部材から剥離することができる。
【0095】
特に、本粘着シートを、リサイクルを前提として、複数の材質の異なる部品を組み合わせて接合一体化した製品の部品同士の接着に用いた場合、この製品のリサイクル時に、その接着部分を加熱するだけで簡単に各部品を分離、解体して、材質別に分別することができるため、リサイクル率の向上に極めて有用である。
【実施例0096】
以下、本発明の実施例について比較例と共に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、「%」、「部」とあるのは、質量基準を意味する。
【0097】
まず、下記のとおり、各配合成分を準備した。
【0098】
[重合性基を有する化合物]
ウレタンアクリレート系化合物:イソホロンジイソシアネートとジペンタエリスリトールペンタアクリレートの反応物であるエチレン性不飽和化合物(A-1)[エチレン性不飽和基:10個、重量平均分子量:2300]
【0099】
[バインダー樹脂の調製]
温度調節機、温度計、撹拌機、滴下ロートおよび還流冷却器を備えた反応器内に、酢酸エチル68部を仕込み、撹拌しながら昇温し、内温が78℃で安定した段階で、共重合成分としてn-ブチルアクリレート70部、メチルメタクリレート20部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート0.1部、アクリル酸9.9部、重合触媒としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.035部を混合溶解させた混合物を2時間にわたって滴下し、還流下で反応させた。次いで、反応開始から3時間後に酢酸エチル23部とAIBN0.034部を溶解させた液を添加し、反応開始から5時間後に酢酸エチル7.6部を投入し反応を終了させ、アクリル樹脂(B-1)溶液〔ガラス転移温度-24.2℃、樹脂分35.0%、粘度8000mPa・s(25℃)〕を得た。
【0100】
[架橋剤]
エポキシ系架橋剤(C-1):テトラッドC(三菱ガス化学社製)
【0101】
[熱重合開始剤]
熱重合開始剤(D-1):パーブチルZ(日油社製、10時間半減期温度104℃)
【0102】
[磁性フィラー]
磁性フィラー(戸田工業社製マグネタイトEPT-1000、平均粒子径280nm、八面体形状)
【0103】
<実施例1>
[粘着剤組成物の調製]
上記エチレン性不飽和化合物(A-1)33部、アクリル系樹脂(B-1)を固形分換算で67部、エポキシ系架橋剤(C-1)0.05部、熱重合開始剤(D-1)1部を混合し、酢酸エチルで希釈して固形分40質量%とすることにより粘着剤組成物を得た。
磁性フィラー(戸田工業社製マグネタイトEPT-1000)に酢酸エチルを40%となるように加え、さらに直径3mmのガラスビーズを加えてペイントシェーカーを用いて20分間撹拌した。撹拌後、ガラスビーズを金属メッシュで除去し、磁性フィラー分散液を得た。
上記粘着剤組成物に上記磁性フィラー分散液を、磁性フィラーが粘着剤組成物に対して40質量%となるように加え、5分間手撹拌を行い、磁性フィラー含有粘着剤組成物を得た。
【0104】
[粘着シートの作製]
上記磁性フィラー含有粘着剤組成物をPETフィルム(三菱ケミカル社製ダイアホイル(登録商標))にキャストし、オーブンで100℃、10分間の条件で乾燥させ、厚み200μmの磁性フィラー含有粘着剤組成物シートを得た。
PETフィルムにキャストした磁性フィラー含有粘着剤組成物シートを0.5mmPMMA板(三菱ケミカル社製アクリライトTM)にハンドローラーを用いて貼り合わせ、「PETフィルム、磁性フィラー含有粘着剤組成物シート、PMMA板」の積層体を得た。
【0105】
このようにして得られた実施例1の粘着シートに対して、下記の方法による加熱および評価を行い、その結果を後記の表1に示した。
【0106】
<加熱方法>
誘導加熱装置(電源:Ambrell社製EASYHEAT8310LI、ワークヘッド:800S(301-0294))にヘリカルコイル(直径30mm、3ターン中心磁場3T)を接続し、上記積層体をPMMA面を下にした状態で、ヘリカルコイルから鉛直上方向に3mm離した状態で設置した。
PETフィルム表面温度を、放射温度計(FLIR社製CPA-T540s)を用いて測定しながら、ヘリカルコイルに周波数344kHz、7kWの条件で電流を流して、80℃、1min加熱した。
【0107】
<評価項目>
[剥離]
PETフィルムの端部を手で把持した状態で上方に引っ張り、磁性フィラー含有粘着剤組成物シートが界面で剥離していれば〇とし、剥離せずに接着した状態であれば×とした。
【0108】
[基材変形]
試験後のPMMA板(基材)において、熱に伴う凹み、シワ、フクレ等の現象が目視で確認できた場合はありとし、確認できなければなしとした。
【0109】
<比較例1>
磁性フィラーを入れなかったこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0110】
<比較例2>
加熱方法として、オーブン(エスペック社製)にサンプルを入れて、150℃、1minで加熱したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0111】
<比較例3>
磁性フィラーを入れなかったこと以外は比較例2と同様の操作を行った。
【0112】
<比較例4>
オーブンを用いて150℃、5minで加熱したこと以外は比較例2と同様の操作を行った。
【0113】
<比較例5>
磁性フィラーを入れなかったこと以外は比較例4と同様の操作を行った。
【0114】
得られた結果を下記表1に示す。
【0115】
【表1】
【0116】
上記表より、本発明で規定する構成を満たす磁性フィラー含有粘着剤組成物シートは、IHによって粘着剤が直接的に加熱されるため、基材へのダメージを与えることなく極めて短時間で界面剥離可能であることを示している(実施例1)。
一方、オーブンによる加熱方式の場合、磁性フィラー含有粘着剤組成物シートは外部からの伝熱によって加熱されるため、短時間では粘着性は失われず、剥離することはないことが分かる(比較例2、3)。
オーブンによる加熱方式においても高温かつ長時間加熱すれば剥離することは可能だが、同時に基材の変形も伴ってしまうことが分かる(比較例4、5)。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の粘着テープは、加熱剥離時に生じる部品への熱ダメージを低減し、直接加熱よりも短時間で剥離でき、界面で容易に剥離できると共に剥離後に粘着剤を容易に除去できるためリサイクル性が高いことから、様々な用途の粘着シートとして大いに期待される。