(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122352
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】濃度制御装置、原料気化システム、濃度制御方法及び濃度制御プログラム
(51)【国際特許分類】
G05D 21/00 20060101AFI20240902BHJP
G05B 11/36 20060101ALI20240902BHJP
G05B 17/02 20060101ALI20240902BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
G05D21/00 A
G05B11/36 N
G05B17/02
H01L21/304 651H
H01L21/304 648G
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029849
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000127961
【氏名又は名称】株式会社堀場エステック
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】瀧尻 興太郎
【テーマコード(参考)】
5F157
5H004
5H309
【Fターム(参考)】
5F157CB14
5F157CD46
5F157CE52
5F157CE82
5F157CF14
5F157CF42
5F157CF44
5F157CF60
5F157CF99
5F157DB37
5F157DC01
5F157DC11
5H004GA01
5H004GA30
5H004GB01
5H004HA04
5H004HB04
5H004KC27
5H004LA03
5H309AA02
5H309BB05
5H309BB16
5H309CC06
5H309DD12
5H309EE03
5H309FF01
5H309GG07
5H309JJ06
(57)【要約】
【課題】高速かつオーバーシュートを抑えた濃度制御を可能とする。
【解決手段】気化タンク2内に収容された液体又は固体の原料にキャリアガスを導入して気化し、それによって生じた原料ガスを供給する原料気化システム100に用いられる濃度制御装置10であって、キャリアガスの流量を制御する流量制御機器5と、原料ガスの濃度を測定する濃度測定部6と、原料ガスの目標濃度値と濃度測定部6の測定濃度値とに基づいて、モデル予測制御により流量制御機器5に入力する流量操作量を制御する流量制御部11とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気化タンク内に収容された液体又は固体の原料にキャリアガスを導入して気化し、それによって生じた原料ガスを供給する原料気化システムに用いられる濃度制御装置であって、
前記キャリアガスの流量を制御する流量制御機器と、
前記原料ガスの濃度を測定する濃度測定部と、
前記原料ガスの目標濃度値と前記濃度測定部の測定濃度値とに基づいて、モデル予測制御により前記流量制御機器に入力する流量操作量を制御する流量制御部とを備える、濃度制御装置。
【請求項2】
前記流量制御部は、前記モデル予測制御の予測モデルとして、前記原料ガス導出路に設けられた前記濃度測定部への到達時間に基づいたむだ時間を含むモデルを用いるものである、請求項1に記載の濃度制御装置。
【請求項3】
前記流量制御部は、前記モデル予測制御の予測モデルに含まれるシステムの時定数よりも前記原料ガスの濃度に関する参照軌道の時定数を遅くしている、請求項1又は2に記載の濃度制御装置。
【請求項4】
液体又は固体の原料が収容される気化タンクと、
前記気化タンクにキャリアガスを供給するキャリアガス供給路と、
前記気化タンクから前記原料が気化した原料ガスを導出する原料ガス導出路と、
請求項1乃至3の何れか一項に記載の濃度制御装置とを備える、原料気化システム。
【請求項5】
気化タンク内に収容された液体又は固体の原料にキャリアガスを導入して気化し、それによって生じた原料ガスを供給する原料気化システムに用いられる濃度制御方法であって、
前記キャリアガスの流量を流量制御機器により制御し、
前記原料ガスの濃度を濃度測定部により測定し、
前記原料ガスの目標濃度値と前記濃度測定部の測定濃度値とに基づいて、モデル予測制御により前記流量制御機器に入力する流量操作量を制御する、濃度制御方法。
【請求項6】
気化タンク内に収容された液体又は固体の原料にキャリアガスを導入して気化し、それによって生じた原料ガスを供給する原料気化システムにおいて前記原料ガスの濃度を制御するものであり、前記キャリアガスの流量を制御する流量制御機器と、前記原料ガスの濃度を測定する濃度測定部とを備える濃度制御装置に用いられる濃度温度制御プログラムであって、
前記原料ガスの目標濃度値と前記濃度測定部の測定濃度値とに基づいて、モデル予測制御により前記流量制御機器に入力する流量操作量を制御する流量制御部としての機能をコンピュータに備えさせる、濃度制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃度制御装置、原料気化システム、濃度制御方法及び濃度制御プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスの洗浄工程では、ウエハの乾燥時に発生するウォーターマークの低減が課題となっている。また、乾燥工程では、イソプロピルアルコール(IPA)を窒素などのキャリアガスとともにウエハに吹き付けて乾燥させており、近年ではその濃度管理が重要となっている。また、濃度管理には、原料が収容された気化タンクの温度や窒素などのキャリアガスの流量を一定に制御しているが、プロセスの再現性の要求の高まりから、リアルタイムな濃度の管理が重要となっている。
【0003】
ここで、従来の原料気化システムでは、特許文献1に示すように、例えば非分散赤外吸収分光法(NDIR)を用いた分析計によってIPAの濃度を測定し、PID制御によりキャリアガスの流量を制御するものが考えられている。
【0004】
しかしながら、配管中のガス置換による応答のむだ時間などにより、所望の応答時間を満たすためのPIDの調整が必要であり、実現可能な応答性能の判断が難しく、PIDの調整工数などの増加が問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は上述した問題を解決すべくなされたものであり、応答性能を向上しつつ制御パラメータの調整工数を削減することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明に係る濃度制御装置は、気化タンク内に収容された液体又は固体の原料にキャリアガスを導入して気化し、それによって生じた原料ガスを供給する原料気化システムに用いられる濃度制御装置であって、前記キャリアガスの流量を制御する流量制御機器と、前記原料ガスの濃度を測定する濃度測定部と、前記原料ガスの目標濃度値と前記濃度測定部の測定濃度値とに基づいて、モデル予測制御により前記流量制御機器に入力する流量操作量を制御する流量制御部とを備えることを特徴とする。
【0008】
このような濃度制御装置であれば、モデル予測制御により流量制御機器に入力する流量操作量を制御しているので、従来のPID制御に比べて、応答性能を向上させることができる。また、モデル予測制御では、1回の制御対象の同定実験を行えば良く、PID制御におけるパラメータの最適化が不要となり、大幅に調整工数を短縮することができる。
【0009】
前記流量制御部は、前記モデル予測制御の予測モデルとして、前記原料ガス導出路に設けられた前記濃度測定部への到達時間に基づいたむだ時間を含むモデルを用いるものであることが望ましい。
この構成であれば、原料ガス導出路のガス置換による応答のむだ時間を考慮したモデル予測制御により、高速かつオーバーシュートを抑えた濃度制御が可能となる。
【0010】
前記流量制御部は、前記モデル予測制御の予測モデルに含まれるシステムの時定数よりも前記原料ガスの濃度に関する参照軌道の時定数を遅くしていることが望ましい。
この構成であれば、参照軌道の時定数を制御対象の時定数よりも遅くているので、参照軌道に対して制御対象の予測軌道を一致させるように流量操作量を制御することができる。
【0011】
また、本発明に係る原料気化システムは、液体又は固体の原料が収容される気化タンクと、前記気化タンクにキャリアガスを供給するキャリアガス供給路と、前記気化タンクから前記原料が気化した原料ガスを導出する原料ガス導出路と、上述した濃度制御装置とを備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る濃度制御方法は、気化タンク内に収容された液体又は固体の原料にキャリアガスを導入して気化し、それによって生じた原料ガスを供給する原料気化システムに用いられる濃度制御方法であって、前記キャリアガスの流量を流量制御機器により制御し、前記原料ガスの濃度を濃度測定部により測定し、前記原料ガスの目標濃度値と前記濃度測定部の測定濃度値とに基づいて、モデル予測制御により前記流量制御機器に入力する流量操作量を制御することを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明に係る濃度制御プログラムは、気化タンク内に収容された液体又は固体の原料にキャリアガスを導入して気化し、それによって生じた原料ガスを供給する原料気化システムにおいて前記原料ガスの濃度を制御するものであり、前記キャリアガスの流量を制御する流量制御機器と、前記原料ガスの濃度を測定する濃度測定部とを備える濃度制御装置に用いられる濃度温度制御プログラムであって、前記原料ガスの目標濃度値と前記濃度測定部の測定濃度値とに基づいて、モデル予測制御により前記流量制御機器に入力する流量操作量を制御する流量制御部としての機能をコンピュータに備えさせることを特徴とする。
【0014】
なお、濃度制御プログラムは、電子的に配信されるものであってもよいし、CD、DVD又はフラッシュメモリ等のプログラム記録媒体に記録されたものであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
このように本発明によれば、応答性能を向上しつつ制御パラメータの調整工数を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る原料気化システムの構成を模式的に示す図である。
【
図2】同実施形態のモデル予測制御の仕組みを示す図である。
【
図3】キャリアガスをステップ状に流した場合の原料ガス(IPA)の濃度の応答結果を示す図である。
【
図4】従来のPID制御により濃度制御を行う制御ブロック図である。
【
図5】従来のPID制御による濃度制御の実験結果を示す図である。
【
図6】従来のPID制御においてPIDパラメータを調整した後の実験結果を示す図である。
【
図7】同実施形態のMPCによる濃度制御を行うアルゴリズムを示す図である。
【
図8】同実施形態のMPCによる濃度制御の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る濃度制御装置を組み込んだ原料気化システムの一実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に示すいずれの図についても、わかりやすくするために、適宜省略し又は誇張して模式的に描かれている。同一の構成要素については、同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0018】
<1.原料気化システム100の基本構成>
本実施形態の原料気化システム100は、例えば乾燥工程等の半導体製造プロセスを行う半導体製造装置に用いられるものであり、例えば乾燥工程を行うチャンバに濃度制御された原料ガスを供給するものである。
【0019】
具体的に原料気化システム100は、
図1に示すように、例えばイソプロピルアルコール(IPA)等の液体又は固体の原料が収容される気化タンク2と、気化タンク2に例えば窒素(N
2)等のキャリアガスを供給するキャリアガス供給路3と、気化タンク2から原料が気化した原料ガスを導出する原料ガス導出路4と、キャリアガス供給路3に設けられた第1流量制御機器5と、原料ガス導出路4に設けられた濃度測定部6とを備えている。
【0020】
ここで、第1流量制御機器5は、流量センサと、流体制御バルブとを有するマスフローコントローラである。流量センサは、差圧式のものや熱式のものなどが考えられる。また、流体制御バルブは、流量センサの測定流量値と、後述の第1流量制御部11により出力される流量操作量qC SETとに基づいて、バルブ制御部(不図示)によりその弁開度が制御される。
【0021】
また、濃度測定部6は、非分散赤外吸収分光法(NDIR)を用いたものである。具体的に濃度測定部6は、原料ガスが導入される測定セルと、当該測定セルに赤外光を照射する赤外光源と、測定セルを通過した赤外光を検出する赤外線検出器と、赤外線検出器により検出された光強度信号に基づいて原料ガスの濃度を算出する濃度演算部とを有している。
【0022】
なお、第1流量制御機器5、濃度測定部6及び後述する第1流量制御部11により、本発明に係る濃度制御装置10が構成される。
【0023】
本実施形態では、原料ガス導出路4に原料ガスを希釈するための希釈ガスを供給する希釈ガス供給路7が接続されており、当該希釈ガス供給路7には、希釈ガスの流量を制御する第2流量制御機器8が設けられている。
【0024】
ここで、第2流量制御機器8は、流量センサと、流体制御バルブとを有するマスフローコントローラである。流量センサは、差圧式のものや熱式のものなどが考えられる。また、流体制御バルブは、流量センサの測定流量値と、後述の第2流量制御部12により出力される流量操作量qD SETとに基づいて、バルブ制御部(不図示)によりその弁開度が制御される。
【0025】
そして、原料気化システム100は、濃度測定部6により測定された原料ガスの濃度測定値cOUT及び目標濃度値cSETに基づいて、第1流量制御機器5を制御して、原料ガスの濃度cOUTを制御する制御装置CTLを有している。また、本実施形態の制御装置CTLは、気化タンク2に供給するキャリアガスの流量qCと、希釈ガス供給路7から原料ガス導出路4に供給する希釈ガスの流量qDとの合計流量(qC+qD)が一定になるように制御する。
【0026】
<2.制御装置CTLの具体的構成>
本実施形態の制御装置CTLは、CPU、メモリ、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ、各種入出力機器を備えたいわゆるコンピュータである。そして、メモリに格納されている濃度制御プログラムが実行されて、各種機器が協働することによって、第1流量制御機器5の動作を制御する第1流量制御部11と、第2流量制御機器8の動作を制御する第2流量制御部12としての機能を発揮する。
【0027】
第1流量制御部11は、原料ガスの目標濃度値cSETと濃度測定部6の測定濃度値cOUTとに基づいて、モデル予測制御(Model Predictive Controller:MPC)により第1流量制御機器5に入力する流量操作量qC SETを制御するものである。
【0028】
ここで、モデル予測制御は、
図2に示すように、各時刻で未来の応答を予測しながら最適化を行う制御手法であり、第1流量制御部11の内部に予測モデル(制御対象モデル)を持つことで、制御対象の現時刻からある有限区間に渡る未来の振る舞いを予測するものである。
【0029】
図2において、目標指令r(t)は、原料ガスの目標濃度値c
SETであり、制御入力u(t)は、第1流量制御機器5に入力される流量操作量q
C SETであり、制御出力y(t)は、濃度測定部6により測定される原料ガスの濃度c
OUTである。この制御対象から測定された濃度測定値c
OUTを第1流量制御部11の内部における予測モデルに適用し、最適化器にて現在の時刻から所定の時刻における追従誤差を最小化するように新たな制御入力u(t)を決定する。
【0030】
ここで、第1流量制御部11は、モデル予測制御の予測モデルとして、原料ガス導出路4に設けられた濃度測定部6への到達時間に基づいたむだ時間を含むモデルを用いている。このむだ時間は、気化タンク2から濃度測定部6までの原料ガス導出路4におけるガス置換に伴う応答のむだ時間である。むだ時間の詳細は後述する。
【0031】
また、第1流量制御部11は、モデル予測制御の予測モデルに含まれるシステム(伝達関数)の時定数よりも原料ガスの濃度に関する参照軌道の時定数を遅くしている。システム(伝達関数)の時定数及び参照軌道の時定数の詳細は後述する。
【0032】
第2制御部12は、キャリアガス流量qCと希釈ガス流量qDとの合計流量(qC+qD)が一定となるように、第2流量制御機器8に入力する流量操作量qD SETを制御するものである。具体的に第2流量制御部12は、キャリアガス及び希釈ガスの全流量設定値qT SETと第1流量制御機器5の流量操作量qC SETとの差分(qT SET-qC SET)を第2流量制御機器8の流量操作量qD SET(希釈ガスの設定流量値)とする。
【0033】
以下、従来のPID制御による濃度制御と、本実施形態の制御装置CTLのMPCによる濃度制御の詳細について説明する。
【0034】
<3.制御対象について>
制御対象は、
図1に示すものであり、制御したい物理量は、濃度測定部6により測定される濃度測定値c
OUTと全流量q
T(キャリアガス流量q
Cと希釈ガス流量q
Dの合計流量)である。
【0035】
ここで、流量制御には、マスフローコントローラを用いており、マスフローコントローラの流量の応答性能は、濃度出力の応答より十分高速な応答性を有している。
【0036】
原料ガス(IPA)の濃度cOUTは、濃度測定部6(NDIR)によって測定され、以下の式で示すことができる。操作量としてキャリアガス流量qCを用いるが、その流量が分母にあるため、濃度cOUTは非線形性を有した特性となる。なお、以下の式において、qVは、原料ガス流量である。
【0037】
【0038】
図3に濃度c
OUTの応答結果を示している。ここでは、濃度制御は行わず、キャリアガスをステップ状に流した場合の濃度c
OUTである。キャリアガスの流量は、実際の運用条件に近い200sccmとしている。
【0039】
この実験結果から同定を行い、以下の伝達関数P(s)を求める。この伝達関数P(s)には、むだ時間が約1秒含まれており、このむだ時間が濃度制御の応答調整を困難にしている。
【0040】
【0041】
この伝達関数P(s)は、
図3に示す応答結果に基づいて、以下の一般式の各係数a
1、b
1、b
2、Lを演算することにより求める。なお、係数Lは、むだ時間を示すものである。また、q
Cは
図3におけるキャリアガス流量、q
Vは
図3における原料ガス流量、q
Dは
図3における希釈ガス流量である。
【0042】
【0043】
<4.PID制御による濃度制御>
目標設定として原料ガスの目標濃度値cSETとキャリアガス全流量設定値qT SETの2つの設定が制御装置CTLに入力される。応答については原料ガスの濃度cOUT及びキャリアガス全流量qTを10秒以内に収束させ、出来るだけオーバーシュートを抑えたい。
【0044】
図4にPID制御系のブロック線図を示している。従来法では制御装置CTLがPID制御を行うものであり、キャリアガスの流量目標値q
C SETを演算して原料ガスの濃度c
OUTを制御する。
【0045】
キャリアガス全流量設定値qT SETは、以下の式に示すキャリアガスの流量目標値qC SETと希釈ガスの流量目標値qD SETとの総和となる。よって本制御系の全流量制御はqT SETとqC SETの差分を希釈流量設定qD SETに設定する構成となっている。
【0046】
【0047】
従来法のPID制御による実験結果を
図5に示している。ここでは、原料ガスの目標濃度値(濃度設定)c
SETを1%、目標合計流量値(全流量設定)q
T SETを2000sccmとし、ステップ応答の実験を行った。
【0048】
PIDパラメータを調整した結果、全流量については設定から2秒程度で安定している。しかし、濃度出力には15秒程度の収束時間となった。
【0049】
さらに応答を10秒に到達するように、PIDの調整を行った。
図6にその結果を示す。PID制御では、応答時間を10秒に調整しようとすると、オーバーシュートが大きくなる結果となった。これは、制御対象にむだ時間が含まれていることが原因であると考えられる。
【0050】
<5.MPCによる濃度制御>
次にMPCによる濃度制御について説明する。なお、全流量qTの制御については、従来のPID制御と同様である。
【0051】
図7に第1流量制御部11のMPCのアルゴリズムを示している。ここで、kはサンプリング周期T
sで離散化された時間を表すものとする。
【0052】
予測ホライズン点数(将来を予測する時間)をHPとすると、参照軌道creftraj(k+i|k)(i=1,・・・,HP)は理想的な軌道を示し、その応答時間を時定数Trefによって決定する。
【0053】
【0054】
操作量ΔqC SETを与えた場合の予測軌道c^
OUT(k+i|k)(上付きの記号^は、予測値を表す)は、現在の操作量の下での自由応答cfree(k+i|k)と、上記の数2から計算される単位ステップ応答S(i)から以下の式で表される。
【0055】
【0056】
参照軌道creftraj(k+i|k)と予測軌道c^
OUT(k+i|k)が予測ホライズンの最終n点で一致するようにサンプリング周期Ts毎にΔqC SETを定め、次のサンプリング周期のqC SETを決定する。
【0057】
【0058】
次に、MPCの実装を行い濃度制御の実験を行った。予測軌道の時定数、予測ホライゾン、データ区間は、以下とした。
サンプリング周期TS[s]:0.1
予測軌道の時定数Tref[s]:2
予測ホライゾン点数HP[s]:5
データ区間n:5
【0059】
また、原料ガスの目標濃度値(濃度設定)cSETを1%、目標合計流量値(全流量設定)qT SETを2000sccmで実験を行った。
【0060】
その実験結果を
図8に示す。この
図8から分かるように、MPCによる濃度制御によって、濃度制御の収束時間が約10秒となりオーバーシュートが抑えられている。また全流量も1秒程度で収束しており従来法よりも収束時間を短縮で きている。
【0061】
<6.本実施形態の効果>
このように本実施形態における原料気化システム100によれば、モデル予測制御により第1流量制御機器5に入力する流量操作量qC SETを制御しているので、従来のPID制御に比べて、応答性能を向上させることができる。また、モデル予測制御では、1回の制御対象の同定実験を行えば良く、PID制御におけるパラメータの最適化が不要となり、大幅に調整工数を短縮することができる。
【0062】
また、モデル予測制御の予測モデルとして、原料ガス導出路4に設けられた濃度測定部6への到達時間に基づいたむだ時間を含むモデルを用いているので、原料ガス導出路4のガス置換による応答のむだ時間を考慮したモデル予測制御により、高速かつオーバーシュートを抑えた濃度制御が可能となる。
【0063】
さらに、モデル予測制御の予測モデルに含まれるシステムの時定数よりも原料ガスの濃度に関する参照軌道の時定数を遅くしているので、参照軌道に対して制御対象の予測軌道を一致させるように流量操作量を制御することができる。
【0064】
<7.その他の実施形態>
例えば、前記実施形態の原料はイソプロピルアルコール等の液体原料であったが、固体の原料であっても良い。
【0065】
また、気化方式はバブリングの他に、加熱方式等のその他の気化方式であっても良い。
【0066】
さらに、前記実施形態では、キャリアガス流量と希釈ガス流量との合計流量を一定に制御するものであったが、その合計流量を一定に制御しない構成としても良い。
【0067】
その上、前記実施形態では、希釈ガス供給路を有しており、原料ガスを希釈する構成としているが、希釈ガス供給路を有さない構成としても良い。
【0068】
加えて、モデル予測制御の予測モデルに含まれるシステムの時定数と、原料ガスの濃度に関する参照軌道の時定数とを同じにしても良い。
【0069】
さらに加えて、前記実施形態の濃度制御装置は、半導体製造装置のチャンバに原料ガスを供給するものであったが、その他のチャンバに原料ガスを供給するものであっても良い。
【0070】
また、前記実施形態の濃度制御装置は、原料気化システムに組み込まれたものであったが、原料気化システムとは別の装置(モジュール)としたものであっても良い。
【0071】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0072】
100・・・原料気化システム
10 ・・・濃度制御装置
2 ・・・気化タンク
3 ・・・キャリアガス供給路
4 ・・・原料ガス導出路
5 ・・・第1マスフローコントローラ(第1流量制御機器)
6 ・・・濃度測定部
7 ・・・希釈ガス供給路
8 ・・・第2マスフローコントローラ(第2流量制御機器)
CTL・・・制御装置
11 ・・・第1流量制御部
12 ・・・第2流量制御部