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特開2024-122502固液相境界算出方法、固液相境界算出装置、固液相境界算出システム、プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122502
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】固液相境界算出方法、固液相境界算出装置、固液相境界算出システム、プログラム
(51)【国際特許分類】
   G16C 20/60 20190101AFI20240902BHJP
【FI】
G16C20/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030069
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】兵頭 一茂
(57)【要約】
【課題】固液相境界を算出できる固液相境界算出方法の提供。
【解決手段】第1物質および第2物質の状態図とした場合に、第1物質から最も近い安定構造物質の候補である第1安定構造物質について、第2物質による置換量を変化させた場合の自由エネルギー変化を示す第1エネルギー変化曲線と、第2物質から最も近い安定構造物質の候補である第2安定構造物質について、第1物質による置換量を変化させた場合の自由エネルギー変化を示す第2エネルギー変化曲線と、を算出する固相エネルギー曲線算出工程と、
液相について、第1物質および第2物質の含有量を変化させた場合の自由エネルギー変化を示す第3エネルギー変化曲線を算出する液相エネルギー曲線算出工程と、
第1エネルギー変化曲線、第2エネルギー変化曲線、および第3エネルギー変化曲線から、固液相境界を算出する固液相境界算出工程と、を含む固液相境界算出方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1物質および第2物質の状態図とした場合に、前記第1物質から最も近い安定構造物質の候補である第1安定構造物質について、前記第2物質による置換量を変化させた場合の自由エネルギー変化を示す第1エネルギー変化曲線と、前記第2物質から最も近い安定構造物質の候補である第2安定構造物質について、前記第1物質による置換量を変化させた場合の自由エネルギー変化を示す第2エネルギー変化曲線と、を算出する固相エネルギー曲線算出工程と、
液相について、前記第1物質および前記第2物質の含有量を変化させた場合の自由エネルギー変化を示す第3エネルギー変化曲線を算出する液相エネルギー曲線算出工程と、
前記第1エネルギー変化曲線、前記第2エネルギー変化曲線、および前記第3エネルギー変化曲線から、固液相境界を算出する固液相境界算出工程と、を含む、固液相境界算出方法。
【請求項2】
前記固相エネルギー曲線算出工程は、
遺伝的アルゴリズムを用いた第一原理計算により、前記第1物質と前記第2物質とを両端とする凸包を作成する凸包作成工程と、
前記凸包を用いて、前記第1安定構造物質および前記第2安定構造物質をそれぞれ抽出する抽出工程と、
前記第1安定構造物質について、前記第2物質による置換量を変化させた際の自由エネルギー変化を示す前記第1エネルギー変化曲線を算出する第1エネルギー変化曲線算出工程と、
前記第2安定構造物質について、前記第1物質による置換量を変化させた際の自由エネルギー変化を示す前記第2エネルギー変化曲線を算出する第2エネルギー変化曲線算出工程と、を含む、請求項1に記載の固液相境界算出方法。
【請求項3】
第1物質および第2物質の状態図とした場合に、前記第1物質から最も近い安定構造物質の候補である第1安定構造物質について、前記第2物質による置換量を変化させた場合の自由エネルギー変化を示す第1エネルギー変化曲線と、前記第2物質から最も近い安定構造物質の候補である第2安定構造物質について、前記第1物質による置換量を変化させた場合の自由エネルギー変化を示す第2エネルギー変化曲線と、を算出する固相エネルギー曲線算出部と、
液相について、前記第1物質および前記第2物質の含有量を変化させた場合の自由エネルギー変化を示す第3エネルギー変化曲線を算出する液相エネルギー曲線算出部と、
前記第1エネルギー変化曲線、前記第2エネルギー変化曲線、および前記第3エネルギー変化曲線から、固液相境界を算出する固液相境界算出部と、を含む、固液相境界算出装置。
【請求項4】
前記固相エネルギー曲線算出部は、
遺伝的アルゴリズムを用いた第一原理計算により、前記第1物質と前記第2物質とを両端とする凸包を作成する凸包作成部と、
前記凸包を用いて、前記第1安定構造物質および前記第2安定構造物質をそれぞれ抽出する抽出部と、
前記第1安定構造物質について、前記第2物質による置換量を変化させた際の自由エネルギー変化を示す前記第1エネルギー変化曲線を算出する第1エネルギー変化曲線算出部と、
前記第2安定構造物質について、前記第1物質による置換量を変化させた際の自由エネルギー変化を示す前記第2エネルギー変化曲線を算出する第2エネルギー変化曲線算出部と、を含む、請求項3に記載の固液相境界算出装置。
【請求項5】
過去に算出した固液相境界、または過去に作成した状態図を保存する保存部と、
ユーザーが指定した条件に基づいて、前記保存部が保存している前記固液相境界または前記状態図のうち、類似したデータを提示するデータ提示部と、をさらに有する、請求項3または請求項4に記載の固液相境界算出装置。
【請求項6】
第1物質および第2物質の状態図とした場合に、前記第1物質から最も近い安定構造物質の候補である第1安定構造物質について、前記第2物質による置換量を変化させた場合の自由エネルギー変化を示す第1エネルギー変化曲線と、前記第2物質から最も近い安定構造物質の候補である第2安定構造物質について、前記第1物質による置換量を変化させた場合の自由エネルギー変化を示す第2エネルギー変化曲線と、を算出する固相エネルギー曲線算出部と、
液相について、前記第1物質および前記第2物質の含有量を変化させた場合の自由エネルギー変化を示す第3エネルギー変化曲線を算出する液相エネルギー曲線算出部と、
前記第1エネルギー変化曲線、前記第2エネルギー変化曲線、および前記第3エネルギー変化曲線から、固液相境界を算出する固液相境界算出部と、を含む、固液相境界算出システム。
【請求項7】
前記固相エネルギー曲線算出部は、
遺伝的アルゴリズムを用いた第一原理計算により、前記第1物質と前記第2物質とを両端とする凸包を作成する凸包作成部と、
前記凸包を用いて、前記第1安定構造物質および前記第2安定構造物質をそれぞれ抽出する抽出部と、
前記第1安定構造物質について、前記第2物質による置換量を変化させた際の自由エネルギー変化を示す前記第1エネルギー変化曲線を算出する第1エネルギー変化曲線算出部と、
前記第2安定構造物質について、前記第1物質による置換量を変化させた際の自由エネルギー変化を示す前記第2エネルギー変化曲線を算出する第2エネルギー変化曲線算出部と、を含む、請求項6に記載の固液相境界算出システム。
【請求項8】
コンピュータを、
第1物質および第2物質の状態図とした場合に、前記第1物質から最も近い安定構造物質の候補である第1安定構造物質について、前記第2物質による置換量を変化させた場合の自由エネルギー変化を示す第1エネルギー変化曲線と、前記第2物質から最も近い安定構造物質の候補である第2安定構造物質について、前記第1物質による置換量を変化させた場合の自由エネルギー変化である第2エネルギー変化曲線と、を算出する固相エネルギー曲線算出部と、
液相について、前記第1物質および前記第2物質の含有量を変化させた場合の自由エネルギー変化を示す第3エネルギー変化曲線を算出する液相エネルギー曲線算出部と、
前記第1エネルギー変化曲線、前記第2エネルギー変化曲線、および前記第3エネルギー変化曲線から、固液相境界を算出する固液相境界算出部として機能させる、プログラム。
【請求項9】
前記固相エネルギー曲線算出部は、
遺伝的アルゴリズムを用いた第一原理計算により、前記第1物質と前記第2物質とを両端とする凸包を作成する凸包作成部と、
前記凸包を用いて、前記第1安定構造物質および前記第2安定構造物質をそれぞれ抽出する抽出部と、
前記第1安定構造物質について、前記第2物質による置換量を変化させた際の自由エネルギー変化を示す前記第1エネルギー変化曲線を算出する第1エネルギー変化曲線算出部と、
前記第2安定構造物質について、前記第1物質による置換量を変化させた際の自由エネルギー変化を示す前記第2エネルギー変化曲線を算出する第2エネルギー変化曲線算出部と、を含む、請求項8に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固液相境界算出方法、固液相境界算出装置、固液相境界算出システム、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
2種類以上の元素を含有する物質についての固相と液相の相境界である、固液相境界は、例えば該物質について各種用途に用いることの可否等を判断する上で重要な情報となっている。
【0003】
固液相境界は、該物質についての状態図から判定することが可能である。図1に示すある物質Aと物質Bの2元状態図を例にとると、温度Tにおける固液相境界は、物質Bのモル比がそれぞれX1%、X2%、X3%、X4%であることがわかる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】田中功、世古敦人、弓削是貴、小山幸典、大場史康、松永克志、まてりあ 48, 299-302 (2009).
【非特許文献2】A. van de Walle and M. Asta, Modelling and Simulation in Materials Science and Engineering, 10, 521 (2002).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
状態図から固液相境界を読み取ることが可能である。しかし、対象となる物質についての状態図が既に得られているとは限らない。そのような場合、固液相境界は不明であるため、該物質の組成を変化させ、固液相境界を実験等により算出する必要が生じるという問題があった。
【0006】
そこで上記従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、固液相境界を算出できる固液相境界算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
第1物質および第2物質の状態図とした場合に、前記第1物質から最も近い安定構造物質の候補である第1安定構造物質について、前記第2物質による置換量を変化させた場合の自由エネルギー変化を示す第1エネルギー変化曲線と、前記第2物質から最も近い安定構造物質の候補である第2安定構造物質について、前記第1物質による置換量を変化させた場合の自由エネルギー変化を示す第2エネルギー変化曲線と、を算出する固相エネルギー曲線算出工程と、
液相について、前記第1物質および前記第2物質の含有量を変化させた場合の自由エネルギー変化を示す第3エネルギー変化曲線を算出する液相エネルギー曲線算出工程と、
前記第1エネルギー変化曲線、前記第2エネルギー変化曲線、および前記第3エネルギー変化曲線から、固液相境界を算出する固液相境界算出工程と、を含む、固液相境界算出方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、固液相境界を算出できる固液相境界算出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、状態図の一例である。
図2図2は、本開示の一態様に係る固液相境界算出方法のフローチャートである。
図3図3は、固相エネルギー曲線算出工程のフローチャートである。
図4図4は、凸包のイメージ図である。
図5図5は、固液相境界算出工程における操作の説明図である。
図6図6は、本開示の一態様に係る固液相境界算出装置のハードウェア構成図である。
図7図7は、本開示の一態様に係る固液相境界算出装置の機能を示すブロック図である。
図8図8は、本開示の一態様に係る固液相境界算出装置の固相エネルギー曲線算出部の構成の説明図である。
図9図9は、本開示の一態様に係る固液相境界算出システムの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す)に係る固液相境界算出方法、固液相境界算出装置、固液相境界システム、プログラムの具体例を、以下に図面を参照しながら説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
[固液相境界算出方法]
本実施形態の固液相境界算出方法は、図2に示したフローチャート20に沿って実施でき、以下の固相エネルギー曲線算出工程(S21)と、液相エネルギー曲線算出工程(S22)と、固液相境界算出工程(S23)と、を含むことができる。
【0011】
なお、本明細書において、固液相境界とは、固相と、液相との境界を意味し、例えば予め設定した温度において、第1物質と第2物質との含有割合を変化させた場合に、固相と、液相と、の状態変化が起きる組成を意味する。ここでいう固相と、液相との状態変化が起きる組成には、固相、固相と液相との混合相、および液相の3種類の状態の間での変化が起きる組成を含む。
【0012】
第1物質、第2物質は、それぞれ元素、化合物等から選択されたいずれかとすることができ、本明細書における、状態図は、第1物質、第2物質についての状態図を意味している。
【0013】
以下、各工程について説明する。
(1)固相エネルギー曲線算出工程(S21)
固相エネルギー曲線算出工程(S21)では、第1エネルギー変化曲線と、第2エネルギー変化曲線と、を算出できる。
【0014】
ここで、例えば図1に示すように、第1物質である物質Aおよび第2物質である物質Bの状態図、すなわち、第1物質と第2物質を両端とした状態図としたとする。この場合に、第1エネルギー変化曲線は、第1物質、すなわち図1の左端から最も近い安定構造物質の候補である第1安定構造物質について、第2物質による置換量を変化させた場合の自由エネルギー変化を示す曲線である。
【0015】
第2エネルギー変化曲線は、第2物質、すなわち図1の右端から最も近い安定構造物質の候補である第2安定構造物質について、第1物質による置換量を変化させた場合の自由エネルギー変化を示す曲線である。
【0016】
固相エネルギー曲線算出工程(S21)において、第1エネルギー変化曲線、第2エネルギー変化曲線を算出する具体的な方法は特に限定されない。固相エネルギー曲線算出工程(S21)は、例えば図3に示したフローチャート30に沿って実施できる。固相エネルギー曲線算出工程(S21)は、例えば以下の凸包作成工程(S31)と、抽出工程(S32)と、第1エネルギー変化曲線算出工程(S33)と、第2エネルギー変化曲線算出工程(S34)と、を含むことができる。
(1-1)凸包作成工程(S31)
凸包作成工程(S31)では、図4に示した様な、第1物質と第2物質とを両端とする凸包を作成できる。凸包とは、第1物質中の置換したい元素等を第2換元素で徐々に置換していった場合に現れる最も安定な結晶相を線で結んだものである。例えば図4に示す凸包では、第1物質である物質Aと、第2物質である物質Bとの間にAB、AB、A、ABという結晶相があり、これらの最も生成エンタルピーの低い点間を線41により結んでいる。図4中に示した様に、図4中の左端の点は第1物質である物質Aを、右端の点は第2物質である物質Bを示している。
【0017】
凸包は、例えば遺伝的アルゴリズムを用いた第一原理計算により、第1物質と第2物質とで構成される様々な組成の物質について生成エンタルピーを算出し、該計算結果を図示化することで作成できる。
【0018】
第一原理計算とは、量子力学のシュレディンガー方程式に則して、物質中の電子の運動をコンピュータにより計算する方法を示す。遺伝的アルゴリズムとは、染色体の交叉・突然変異・自然淘汰といった生物の進化を模したアルゴリズムを示す。
【0019】
凸包作成工程では、例えば結晶構造モデルを、遺伝的アルゴリズムを用いて作成、決定できる。そして、決定した結晶構造モデルについて、第一原理計算により生成エンタルピーを算出できる。結晶構造モデルの作成、決定は遺伝的アルゴリズムを用いる形態に限定されず、例えばベイズ最適化等を用いることもできる。
(1-2)抽出工程(S32)
抽出工程(S32)では、凸包作成工程で作成した凸包を用いて、第1物質、第2物質から最も近い安定構造物質の候補である第1安定構造物質、第2安定構造物質を抽出できる。
【0020】
第1物質から最も近い安定構造候補である第1安定構造物質とは、第1物質中の置換したい元素等を第2物質で置換していった場合に、最初に現れる安定な結晶相である。図4を例にとると、第1物質である物質Aから最も近い安定構造物質の候補である第1安定構造はABである。また、第2物質である物質Bから最も近い安定構造物質の候補である第2安定構造は、ABである。
【0021】
従って、凸包作成工程(S31)で作成した第1物質と第2物質とを両端とする凸包を用いることで、凸包中の第1物質、第2物質に最も近接した安定構造物質の候補である第1安定構造物質、第2安定構造物質を抽出、選択できる。
(1-3)第1エネルギー変化曲線算出工程(S33)
第1エネルギー変化曲線算出工程(S33)では、第1安定構造物質について、第2物質による置換量を変化させた際の自由エネルギー変化である第1エネルギー変化曲線を算出できる。
【0022】
自由エネルギーの算出方法は特に限定されない。例えば非特許文献1、2に開示されているように、クラスター展開およびモンテカルロシミュレーションを好適に用いることができる。
【0023】
クラスター展開とは、結晶構造に含まれる原子のペアや三角形、四面体といった「クラスター」の数に従って物質のエネルギーを算出する方法である。
【0024】
モンテカルロシミュレーションとは、シミュレーションや数値計算を、乱数を用いて行う手法である。
【0025】
クラスター展開を用いることで様々な結晶構造のエネルギーを、第一原理計算を行うことなく求めることが可能となり、計算量や計算時間を抑制できる。加えてモンテカルロシミュレーションを用いることで様々な結晶構造のエネルギーの統計平均を効率よく求めることができ、エネルギーの統計平均の熱力学積分から自由エネルギーを算出可能である(非特許文献1を参照)。
【0026】
クラスター展開およびモンテカルロシミュレーションを用いることで、第1安定構造物質について、第2物質による置換量を変化させた際の自由エネルギーを算出できる。なお、第2物質による置換量を変化させた際の自由エネルギーは、第1安定構造物質において、置換したい元素等について、第2物質で置換させ、その置換量を変化させた際の自由エネルギーである。
【0027】
上記説明では、第1安定構造について、第2物質による置換量を変化させた際の自由エネルギーを算出する方法として、クラスター展開およびモンテカルロシミュレーションを用いた例を挙げて説明したが、係る形態に限定されない。上記自由エネルギーの算出には、例えば分子動力学計算、第一原理分子動力学計算、CALPHAD法、クラスター変分法を用いることもできる。
(1-4)第2エネルギー変化曲線算出工程(S34)
第2エネルギー変化曲線算出工程(S34)では、第2安定構造物質について、第1物質による置換量を変化させた際の自由エネルギー変化である第2エネルギー変化曲線を算出できる。
【0028】
第1安定構造物質、第2物質を、それぞれ第2安定構造物質、第1物質に変更している点以外は、第1エネルギー変化曲線算出工程(S33)と同じ手順により実施できるため、説明を省略する。
(2)液相エネルギー曲線算出工程(S22)
液相エネルギー曲線算出工程(S22)は、液相について、第1物質および第2物質の含有量を変化させた場合の自由エネルギー変化である第3エネルギー変化曲線を算出できる。
【0029】
液相の組成は特に限定されず、例えば第1安定構造物質と、第2安定構造物質との間に位置する相を液相とすることができる。すなわち、第1安定構造物質と第2安定構造物質との間で組成が変化するとして、液相についての自由エネルギー変化である第3エネルギー変化曲線を算出できる。
【0030】
第3エネルギー曲線、すなわち液相エネルギー曲線についても、第1安定構造物質、第2物質を、それぞれ第1物質の液相、第2物質の液相に変更している点以外は、第1エネルギー変化曲線算出工程(S33)と同じ手順により実施できるため、説明を省略する。
(3)固液相境界算出工程(S23)
固液相境界算出工程(S23)では、第1エネルギー変化曲線、第2エネルギー変化曲線、および第3エネルギー変化曲線から、固液相境界を算出できる。
【0031】
上記固相エネルギー曲線算出工程、液相エネルギー曲線算出工程により得られた、第1エネルギー変化曲線51、第2エネルギー変化曲線52、第3エネルギー変化曲線53を図示すると、図5に示した図が得られる。
【0032】
図5中、横軸が第2物質の濃度であり、縦軸が自由エネルギーとなる。
【0033】
例えば図5中、第1エネルギー変化曲線51と、第3エネルギー変化曲線53との傾きが等しくなる、共通接線L1と、第1エネルギー変化曲線51、第3エネルギー変化曲線53との接点54、接点55における第2物質の濃度X1、X2が固液相境界になる。
【0034】
また、図5中、第2エネルギー変化曲線52と、第3エネルギー変化曲線53との傾きが等しくなる、共通接線L2と、第2エネルギー変化曲線52、第3エネルギー変化曲線53との接点56、接点57における第2物質の濃度X3、X4が固液相境界になる。
【0035】
このため、上記共通接線L1、L2を引き、第1エネルギー変化曲線51、第2エネルギー変化曲線52、第3エネルギー変化曲線53との接点54~57を求めることで、固液相境界を算出できる。なお、図5中の第2物質の濃度X1~X4は、図1中の第2物質の濃度X1~X4に対応している。
【0036】
図2に示した、固相エネルギー曲線算出工程(S21)、液相エネルギー曲線算出工程(S22)、固液相境界算出工程(S23)は、例えば温度等の条件を変更しながら、繰り返し実施することもできる。例えば温度の条件を変更して繰り返し実施することで、温度変化に伴う固液相境界の変化を算出できる。なお、固相エネルギー曲線算出工程(S21)、液相エネルギー曲線算出工程(S22)は、予め設定した温度条件のもとで実施することができる。
【0037】
固液相境界算出工程で得られた固液相境界における第2物質の濃度X1からX4の一部または全部を固液相境界として出力できる。また固相エネルギー曲線算出工程(S21)から固液相境界算出工程(S23)を、例えば温度等の条件を変更して繰り返し実施することもできる。このように固液相境界の算出を繰り返して実施した場合には、温度等の変化に伴う固液相境界の変化の状態図として出力することもできる。
【0038】
本実施形態の固液相境界算出方法は、上記固相エネルギー曲線算出工程(S21)や、液相エネルギー曲線算出工程(S22)、固液相境界算出工程(S23)以外に任意の工程を有することもできる。以下、任意の工程について説明する。
(3)任意の工程
(3-1)受付工程
受付工程では、対象とする第1物質と第2物質の情報を受付、取得でき、例えば固相エネルギー曲線算出工程(S21)の前に実施できる。受付工程では、第1物質の結晶構造や、第1物質中の第2物質により置換する元素等、第2物質についての情報を取得できる。結晶構造は例えばCrystallographic Information File (CIF)形式を用いることができる。第2物質は特に制限されず、周期表に存在する元素等とすることができる。
(3-2)判定工程
例えば過去に本実施形態の固液相境界算出方法により、固液相境界を算出していた場合や、状態図が既知の場合に、新たに計算については不要な場合がある。
【0039】
そこで、本実施形態の固液相境界算出方法は、第1物質および第1物質中の置換したい元素等を第2物質で置換する際の固液相境界の算出や、状態図が既に計算されているかを判定する判定工程を有することもできる。
【0040】
具体的には、例えば固相エネルギー曲線算出工程(S21)に供する第1物質、第2物質についての情報を、状態図データベース等と照合して、判定を行うことができる。また、必要に応じて過去の計算結果と照合して、判定することもできる。また、後述するデータ提示工程のように、過去にユーザーが指定した第1物質、第2物質の条件を状態図データベースに保持しておき、固相エネルギー曲線算出工程に供する第1物質、第2物質についての情報と比較することによって、類似した計算結果を提示してもよい。このため、判定工程は、固相エネルギー曲線算出工程(S21)の前に実施でき、例えば受付工程の後に実施することもできる。
【0041】
状態図データベースとは、様々な物質を両端とする状態図が記録されたものである。状態図は実験・計算先行研究で報告されている結晶相間の境界の温度-濃度依存性から作成される。対象の状態図が状態図データベースに存在すれば、該状態図を用いて固液相境界算出工程を実施することもできる。状態図が存在しなければ固相エネルギー曲線算出工程(S21)へ進むことができる。
(3-3)保存工程、データ提示工程
本実施形態の固液相境界算出方法や、他の方法により固液相境界や、状態図を算出、作成した場合には、該算出結果を保存しておくことが好ましい。また、既述の固液相境界算出工程で算出した固液相境界の値が適切であるかを判断するため、保存した固液相境界や、状態図のうち、固液相境界算出工程で用いた第1物質や、第2物質について類似した条件での固液相境界や、状態図のデータが提示されることが好ましい。
【0042】
このため、本実施形態の固液相境界算出方法は、以下の保存工程、およびデータ提示工程と、を有することが好ましい。
【0043】
保存工程は、過去に算出した固液相境界、または過去に作成した状態図を保存できる。
【0044】
データ提示工程は、例えば第2物質を含む、ユーザーが指定した条件に基づいて、保存工程で保存した固液相境界または状態図のうち、類似したデータ提示できる。
【0045】
保存工程では、過去に行った本実施形態の固液相境界算出方法により、もしくは実験等の他の方法により測定、算出した固液相境界や、状態図のデータを保存できる。保存工程では、公知の状態図データベースのデータを取り込み、保存しても良い。なお、保存工程で保存したデータは、既述の判定工程で用いることもできる。
【0046】
保存工程を実施するタイミングは特に限定されず、例えば既述の固相エネルギー曲線算出工程等の前に実施することができる。
【0047】
データ提示工程では、保存工程で保存した、固液相境界や、状態図のデータのうち、例えば既述の受付工程で、ユーザーが入力した第1物質や第2物質について、類似したデータを提示できる。
【0048】
データ提示工程では例えば、保存工程で保存した、固液相境界や、状態図のデータのうち、ユーザーが入力した第2物質と、周期表において、同じ族や、近接位置に配置されている等、類似した特性を有する元素を第2物質として用いたデータを選択して提示できる。また、データ提示工程では、保存工程で保存した、固液相境界や、状態図のデータのうち、第2物質が同じで、第1物質について結晶構造が同じ、または類似しているデータ等を選択して提示できる。類似していると判定する範囲は、予め定めておくことができ、特に限定されるものではない。
【0049】
データ提示工程で、少なくとも第2物質を含む、ユーザーが指定した条件に基づいて、類似したデータを提示し、既述の固液相境界算出工程で算出した固液相境界の値と比較することで、該固液相境界の値が適切であるか検討、判断できる。
【0050】
データ提示工程を実施するタイミングは特に限定されず、受付工程の後の任意のタイミングで実施できる。データ提示工程は、例えば固液相境界算出工程の前に実施しても良く、固液相境界算出工程の後に算出した固液相境界を出力する際にあわせて実施しても良い。
【0051】
以上に説明した本実施形態の固液相境界算出方法によれば、状態図が未知の場合であっても、第1物質と、第2物質との状態図における固液相境界を算出できる。
[固液相境界算出装置]
本実施形態の固液相境界算出装置について説明する。本実施形態の固液相境界算出装置によれば、既述の固液相境界算出方法を実施できる。このため、既に説明した事項は説明を一部省略する。
【0052】
本実施形態の固液相境界算出装置は、以下の固相エネルギー曲線算出部と、液相エネルギー曲線算出部と、固液相境界算出部と、を有することができる。
【0053】
図6に示したハードウェア構成図に示すように、本実施形態の固液相境界算出装置60は、例えば、情報処理装置(コンピュータ)で構成される。固液相境界算出装置60は、物理的には、演算処理部であるプロセッサ61と、主記憶装置であるメモリ62と、補助記憶装置63と、入出力インタフェース64と、入力装置65と、出力装置66等を含むコンピュータシステムとして構成することができる。これらは、バス67で相互に接続されている。なお、補助記憶装置63や、入力装置65、出力装置66は、外部に設けられていてもよい。
【0054】
プロセッサ61は、CPU(Central Processing Unit)や、GPU(Graphics Processing Unit)等から構成でき、固液相境界算出装置60の全体の動作を制御し、各種の情報処理を行う。プロセッサ61は、メモリ62または補助記憶装置63に格納された、例えば既述の固液相境界算出方法や、プログラム(シュミレーションプログラム)を実行して、固液相境界等を算出できる。
【0055】
メモリ62は、プロセッサ61のワークエリアとして用いられ、主要な制御パラメータや情報を記憶できる。
【0056】
メモリ62は、プログラム(シュミレーションプログラム)等を記憶することができる。
【0057】
補助記憶装置63は、SSD(Solid State Drive)や、HDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置であり、固液相境界算出装置の動作に必要な各種のデータ、ファイル等を格納できる。
【0058】
入出力インタフェース64は、外部のデータ収録サーバ等からの情報を取り込み、他の電子機器に解析情報を出力する通信インタフェースを含む。
【0059】
入力装置65は、タッチパネル、キーボード、表示画面、操作ボタン等のユーザインタフェースである。
【0060】
出力装置66は、モニタディスプレイ等である。出力装置66では、解析画面が表示され、入力装置65等を介した入力操作に応じて画面が更新される。
【0061】
図6に示した固液相境界算出装置60の各機能は、例えばメモリ62等の主記憶装置または補助記憶装置63からプログラム(シミュレーションプログラム)等を読み込ませ、プロセッサ61により実行することにより、メモリ62等におけるデータの読み出しおよび書き込みを行うと共に、入出力インタフェース64および出力装置66を動作させることで実現できる。
【0062】
図7に、本実施形態の固液相境界算出装置60の機能ブロック図を示す。
【0063】
図7に示す固液相境界算出装置60の各部は、固液相境界算出装置60が有するプロセッサ、記憶装置、各種インタフェース等を備えたパーソナルコンピュータ等の情報処理装置において、プロセッサに予め記憶されている例えば既述の固液相境界算出方法や、プログラムを実行することでソフトウェアおよびハードウェアが協働して実現される。
【0064】
各部の構成について以下に説明する。
(A)受付部
受付部71は、処理装置72で実行される処理に関係するユーザーからのコマンドやデータの入力を受け付ける。受付部71としてはユーザーが操作を行い、コマンド等を入力するキーボードやマウス、ネットワークを介して入力を行う通信装置、CD-ROM、DVD-ROM等の各種記憶媒体から入力を行う読み取り装置などが挙げられる。
(B)処理装置
図7に示すように、処理装置72は、固相エネルギー曲線算出部721、液相エネルギー曲線算出部722、固液相境界算出部723を有することができる。
(B-1)固相エネルギー曲線算出部
固相エネルギー曲線算出部721は、第1エネルギー変化曲線と、第2エネルギー変化曲線と、を算出できる。
【0065】
ここで、例えば図1に示すように、第1物質である物質Aおよび第2物質である物質Bの状態図、すなわち、第1物質と第2物質を両端とした状態図としたとする。この場合に、第1エネルギー変化曲線は、第1物質から最も近い安定構造物質の候補である第1安定構造物質について、第2物質による置換量を変化させた場合の自由エネルギー変化を示す曲線である。
【0066】
第2エネルギー変化曲線は、第2物質から最も近い安定構造物質の候補である第2安定構造物質について、第1物質による置換量を変化させた場合の自由エネルギー変化を示す曲線である。
【0067】
固相エネルギー曲線算出部721は、例えば図8に示すように凸包作成部81、抽出部82、第1エネルギー変化曲線算出部83、および第2エネルギー変化曲線算出部84を有することができる。
【0068】
以下、各部について説明する。
(凸包作成部)
凸包作成部81は、遺伝的アルゴリズムを用いた第一原理計算により、第1物質と第2物質とを両端とする凸包を作成できる。
(抽出部)
抽出部82は、凸包を用いて、第1安定構造物質および第2安定構造物質をそれぞれ抽出できる。
(第1エネルギー変化曲線算出部)
第1エネルギー変化曲線算出部83は、第1安定構造物質について、第2物質による置換量を変化させた際の自由エネルギー変化である第1エネルギー変化曲線を算出できる。
(第2エネルギー変化曲線算出部)
第2エネルギー変化曲線算出部84は、第2安定構造物質について、第1物質による置換量を変化させた際の自由エネルギー変化である第2エネルギー変化曲線を算出できる。
【0069】
用語や、各部での操作手順等については、固液相境界算出方法において既に説明したので、説明を省略する。
(B-2)液相エネルギー曲線算出部
液相エネルギー曲線算出部722は、液相について、第1物質および第2物質の含有量を変化させた場合の自由エネルギー変化である第3エネルギー変化曲線を算出する。
【0070】
液相エネルギー曲線である、第3エネルギー変化曲線の算出方法については説明したため、説明を省略する。
(B-3)固液相境界算出部
固液相境界算出部723は、第1エネルギー変化曲線、第2エネルギー変化曲線、および第3エネルギー変化曲線から、固液相境界を算出する。
【0071】
固液相境界の算出方法については説明したため、説明を省略する。
(C)出力部
出力部73は、ディスプレイ等を有することができる。固液相境界算出部723で得られた結果を出力できる。
【0072】
具体的には、例えば固液相境界算出部723で得られた固液相境界を出力できる。また、固相エネルギー曲線算出部721、液相エネルギー曲線算出部722、固液相境界算出部723において、例えば温度等の条件を変更して固液相境界の算出を繰り返して実施した場合には、温度等の変化に伴う固液相変化の状態図として出力することもできる。
(D)判定部
本実施形態の固液相境界算出装置は、必要に応じて判定部を有することもできる。
【0073】
判定部は、第1物質および第1物質中の置換したい元素等を第2物質で置換する際の固液相境界や、状態図が既に計算されているかを判定できる。
【0074】
判定方法については固液相境界算出方法において既に説明したので、説明を省略する。
(E)保存部、データ提示部
本実施形態の固液相境界算出装置は、必要に応じて、保存部や、データ提示部を有することもできる。
【0075】
保存部は、過去に算出した固液相境界、または過去に作成した状態図を保存できる。
【0076】
データ提示部は、例えば第2物質等を含む、ユーザーが指定した条件に基づいて、保存部が保存している固液相境界または状態図のうち、類似したデータを提示できる。
【0077】
保存部、データ提示部は、それぞれ既述の固液相境界算出方法において説明した保存工程、データ提示工程を実施でき、既に説明したため、説明を省略する。
【0078】
以上に説明した本実施形態の固液相境界算出装置によれば、状態図が未知の場合であっても、固液相境界を算出できる。
[固液相境界算出システム]
本実施形態の固液相境界算出システムについて説明する。本実施形態の固液相境界算出システムによれば、既述の固液相境界算出方法を実施できる。このため、既に説明した事項は説明を一部省略する。
【0079】
固液相境界算出システムは、固相エネルギー曲線算出部と、液相エネルギー曲線算出部と、固液相境界算出部と、を含むことができる。
(1)固相エネルギー曲線算出部
固相エネルギー曲線算出部と、液相エネルギー曲線算出部と、固液相境界算出部とは、既述の固液相境界算出装置と同様に構成することができる。
【0080】
すなわち、固相エネルギー曲線算出部は、第1エネルギー変化曲線と、第2エネルギー変化曲線と、を算出できる。
【0081】
第1物質である物質Aおよび第2物質である物質Bの状態図、すなわち、第1物質と第2物質を両端とした状態図としたとする。この場合に、第1エネルギー変化曲線は、第1物質から最も近い安定構造物質の候補である第1安定構造物質について、第2物質による置換量を変化させた場合の自由エネルギー変化を示す曲線である。
【0082】
第2エネルギー変化曲線は、第2物質から最も近い安定構造物質の候補である第2安定構造物質について、第1物質による置換量を変化させた場合の自由エネルギー変化を示す曲線である。
【0083】
固相エネルギー曲線算出部は、例えば凸包作成部、抽出部、第1エネルギー変化曲線算出部、および第2エネルギー変化曲線算出部を有することができる。
(凸包作成部)
凸包作成部は、遺伝的アルゴリズムを用いた第一原理計算により、第1物質と第2物質とを両端とする凸包を作成できる。
(抽出部)
抽出部は、凸包を用いて、第1安定構造物質および第2安定構造物質をそれぞれ抽出できる。
(第1エネルギー変化曲線算出部)
第1エネルギー変化曲線算出部は、第1安定構造物質について、第2物質による置換量を変化させた際の自由エネルギー変化を示す第1エネルギー変化曲線を算出できる。
(第2エネルギー変化曲線算出部)
第2エネルギー変化曲線算出部は、第2安定構造物質について、第1物質による置換量を変化させた際の自由エネルギー変化を示す第2エネルギー変化曲線を算出できる。
(2)液相エネルギー曲線算出部
液相エネルギー曲線算出部は、液相について、第1物質および第2物質の含有量を変化させた場合の自由エネルギー変化を示す第3エネルギー変化曲線を算出できる。
(3)固液相境界算出部
固液相境界算出部は、第1エネルギー変化曲線、第2エネルギー変化曲線、および第3エネルギー変化曲線から、固液相境界を算出できる。
【0084】
本実施形態の固液相境界算出システムは、必要に応じて、固液相境界算出装置等で説明した判定部や、保存部、データ提示部等を有することもできる。
【0085】
用語や、各部での操作手順等については、固液相境界算出方法、固液相境界算出装置で既に説明したため、説明を省略する。
【0086】
図9に示すように、本実施形態の固液相境界算出システム90は、例えば第1処理装置91や、第2処理装置92等複数の処理装置を含むことができ、各処理装置はネットワーク93を介してデータの受け渡しを行えるように構成できる。
【0087】
第1処理装置91や第2処理装置92は、例えば情報処理装置(コンピュータ)で構成できる。第1処理装置91、第2処理装置92は、携帯型、および据え置き型のいずれの形態の端末であってもよく、サーバ装置であってもよい。
【0088】
ネットワーク93の種類は特に限定されず、第1処理装置91と第2処理装置92との間でデータの受け渡しを行えるものであればよく、無線、有線を問わない。
【0089】
本実施形態の固液相境界算出システム90においては、例えば第1処理装置91を既述の固相エネルギー曲線算出部、液相エネルギー算出部、および固液相境界算出部の一部として機能させ、残部を第2処理装置92により機能させることができる。また、本実施形態の固液相境界算出システム90が有する処理装置は第1処理装置91と、第2処理装置92のみに限定されず、さらに複数の処理装置により、その機能を分担させることもできる。
【0090】
以上に説明した本実施形態の固液相境界算出システムによれば、状態図が未知の場合であっても、固液相境界を算出できる。
[プログラム]
次に、本実施形態のプログラムについて説明する。
【0091】
本実施形態のプログラムは、コンピュータを以下の固相エネルギー曲線算出部、液相エネルギー曲線算出部、固液相境界算出部として機能させることができる。
(1)固相エネルギー算出部
固相エネルギー曲線算出部は、第1エネルギー変化曲線と、第2エネルギー変化曲線と、を算出できる。
【0092】
ここで、例えば図1に示すように、第1物質である物質Aおよび第2物質である物質Bの状態図、すなわち、第1物質と第2物質を両端とした状態図としたとする。この場合に、第1エネルギー変化曲線は、第1物質から最も近い安定構造物質の候補である第1安定構造物質について、第2物質による置換量を変化させた場合の自由エネルギー変化を示す曲線である。
【0093】
第2エネルギー変化曲線は、第2物質から最も近い安定構造物質の候補である第2安定構造物質について、第1物質による置換量を変化させた場合の自由エネルギー変化を示す曲線である。
【0094】
固相エネルギー曲線算出部は、例えば凸包作成部、抽出部、第1エネルギー変化曲線算出部、および第2エネルギー変化曲線算出部を有することができる。
【0095】
(凸包作成部)
凸包作成部は、遺伝的アルゴリズムを用いた第一原理計算により、第1物質と第2物質とを両端とする凸包を作成できる。
(抽出部)
抽出部82は、凸包を用いて、第1安定構造物質および第2安定構造物質をそれぞれ抽出できる。
(第1エネルギー変化曲線算出部)
第1エネルギー変化曲線算出部83は、第1安定構造物質について、第2物質による置換量を変化させた際の自由エネルギー変化を示す第1エネルギー変化曲線を算出できる。
(第2エネルギー変化曲線算出部)
第2エネルギー変化曲線算出部84は、第2安定構造物質について、第1物質による置換量を変化させた際の自由エネルギー変化を示す第2エネルギー変化曲線を算出できる。
(2)液相エネルギー曲線算出部
液相エネルギー曲線算出部は、液相について、第1物質および第2物質の含有量を変化させた場合の自由エネルギー変化を示す第3エネルギー変化曲線を算出する。
【0096】
液相エネルギー曲線である、第3エネルギー変化曲線の算出方法については説明したため、説明を省略する。
(3)固液相境界算出部
固液相境界算出部723は、第1エネルギー変化曲線、第2エネルギー変化曲線、および第3エネルギー変化曲線から、固液相境界を算出する。
【0097】
固液相境界の算出方法については説明したため、説明を省略する。
【0098】
用語や、各部での操作手順等については、固液相境界算出方法において既に説明したので、説明を省略する。
【0099】
本実施形態のプログラムは、必要に応じて、コンピュータを、固液相境界算出装置等で説明した判定部や、保存部、データ提示部として機能させることもできる。
【0100】
本実施形態のプログラムは、例えば既述固液相境界算出装置のメモリ等の主記憶装置または補助記憶装置の各種記憶媒体に記憶させておくことができる。そして、係るプログラムを読み込ませ、プロセッサにより実行することにより、メモリ等におけるデータの読み出しおよび書き込みを行うと共に、入出力インタフェースおよび表示装置を動作させて実行できる。このため、固液相境界算出方法や、固液相境界算出装置等で既に説明した事項については説明を省略する。
【0101】
上述した本実施形態のプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることで提供してもよい。また、本実施形態のプログラムをインターネットなどのネットワークを介して提供、配布するように構成してもよい。
【0102】
本実施形態のプログラムは、CD-ROM等の光ディスクや、半導体メモリ等の記録媒体に格納した状態で流通等させてもよい。
【0103】
以上に説明した本実施形態のプログラムによれば、状態図が未知の場合であっても、固液相境界を算出できる。
【符号の説明】
【0104】
10 状態図
X1~X4 第2物質の濃度
20 フローチャート
S21 固相エネルギー曲線算出工程
S22 液相エネルギー曲線算出工程
S23 固液相境界算出工程
30 フローチャート
S31 凸包作成工程
S32 抽出工程
S33 第1エネルギー変化曲線算出工程
S34 第2エネルギー変化曲線算出工程
41 線
51 第1エネルギー変化曲線
52 第2エネルギー変化曲線
53 第3エネルギー変化曲線
L1、L2 共通接線
54、55、56、57 接点
60 固液相境界算出装置
61 プロセッサ
62 メモリ
63 補助記憶装置
64 入出力インタフェース
65 入力装置
66 出力装置
67 バス
71 受付部
72 処理装置
721 固相エネルギー曲線算出部
722 液相エネルギー曲線算出部
723 固液相境界算出部
73 出力部
81 凸包作成部
82 抽出部
83 第1エネルギー変化曲線算出部
84 第2エネルギー変化曲線算出部
90 固液相境界算出システム
91 第1処理装置
92 第2処理装置
93 ネットワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9