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特開2024-122558ニオブシリサイド基合金およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122558
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】ニオブシリサイド基合金およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/18 20060101AFI20240902BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20240902BHJP
   C22C 27/02 20060101ALI20240902BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240902BHJP
【FI】
C22F1/18 F
C22C30/00
C22C27/02 102Z
C22C27/02 103
C22F1/18 G
C22F1/00 630A
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/00 650A
C22F1/00 651B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030156
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】松永 紗英
(72)【発明者】
【氏名】御手洗 容子
(57)【要約】
【課題】優れた高温強度を有するニオブシリサイド基合金およびその製造方法を提供する。
【解決手段】ニオブシリサイド基合金の製造方法は、Siを15~35at%、Zr、TaおよびAlの群から選択される1つ以上の元素を2~30at%含み、残部が実質的にNbおよび不純物からなる合金を1200℃~1500℃の温度で48時間以上熱処理し、熱処理後合金を生成する熱処理工程と、熱処理後合金に含まれるNb母相においてニオブシリサイドが析出するように、熱処理後合金を冷却する冷却工程と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siを15~35at%、Zr、TaおよびAlの群から選択される1つ以上の元素を2~30at%含み、残部が実質的にNbおよび不純物からなる合金を1200℃~1500℃の温度で48時間以上熱処理し、熱処理後合金を生成する熱処理工程と、
前記熱処理後合金に含まれるNb母相においてニオブシリサイドが析出するように、前記熱処理後合金を冷却する冷却工程と、を含む、
ニオブシリサイド基合金の製造方法。
【請求項2】
前記合金は、Siを15~35at%、Zrを5~15at%含み、残部が実質的にNbおよび不純物からなる、
請求項1に記載のニオブシリサイド基合金の製造方法。
【請求項3】
前記合金は、Siを15~35at%、Taを5~30at%含み、残部が実質的にNbおよび不純物からなる、
請求項1に記載のニオブシリサイド基合金の製造方法。
【請求項4】
前記合金は、Siを15~35at%、Alを2~10at%含み、残部が実質的にNbおよび不純物からなる、
請求項1に記載のニオブシリサイド基合金の製造方法。
【請求項5】
Siを15~35at%、Zr、TaおよびAlの群から選択される1つ以上の元素を2~30at%含み、残部が実質的にNbおよび不純物からなり、ニオブ結晶を含む母相と50vol~70vol%のニオブシリサイドとを含むニオブシリサイド基合金であって、
前記ニオブシリサイドの少なくとも一部は、前記ニオブ結晶と整合している、
ニオブシリサイド基合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニオブシリサイド基合金およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タービンエンジンなどの高温にさらされる部品に用いることができる材料を実現するために、ニオブシリサイドをベースとした合金(「ニオブシリサイド基合金」ともいう。)が研究されている。たとえば、非特許文献1には、NbおよびニオブシリサイドとしてNbSiを含むニオブシリサイド基合金が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Bewlay BP, Jackson MR, Subramanian PR, Zhao JC (2003) Metall. Mater. Trans. A, 34(10), 2043-2052
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らは、以下の課題を認識するに至った。非特許文献1に記載のニオブシリサイド基合金の使用温度は、圧力下では1000℃以下に限られ、ニオブシリサイド基合金の高温強度を向上させる余地があるものと考えた。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的の一つは、優れた高温強度を有するニオブシリサイド基合金およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、ニオブシリサイド基合金の製造方法である。この製造方法は、Siを15~35at%、Zr、TaおよびAlの群から選択される1つ以上の元素を2~30at%含み、残部が実質的にNbおよび不純物からなる合金を1200℃~1500℃の温度で48時間以上熱処理し、熱処理後合金を生成する熱処理工程と、熱処理後合金に含まれるNb母相においてニオブシリサイドが析出するように、熱処理後合金を冷却する冷却工程と、を含む。
【0007】
本発明の別の態様は、ニオブシリサイド基合金である。このニオブシリサイド基合金は、Siを15~35at%、Zr、TaおよびAlの群から選択される1つ以上の元素を2~30at%含み、残部が実質的にNbおよび不純物からなる。このニオブシリサイド基合金は、ニオブ結晶を含む母相と50vol~70vol%のニオブシリサイドとを含む。ニオブシリサイドの少なくとも一部は、ニオブ結晶と整合している。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた高温強度を有するニオブシリサイド基合金およびその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】1300℃におけるNb,Si,Zrの三元相図である。
図2】1300℃におけるNb,Si,Taの三元相図である。
図3】1300℃におけるNb,Si,Alの三元相図である。
図4】実施例1に係るサンプルのSEM画像を示す図である。
図5】実施例2に係るサンプルのSEM画像を示す図である。
図6】実施例3に係るサンプルのSEM画像を示す図である。
図7】実施例1および比較例1に係る合金の組成を示す図である。
図8】実施例2および比較例2に係る合金の組成を示す図である。
図9】実施例3および比較例3に係る合金の組成を示す図である。
図10】実施例1,3、比較例1,3および先行技術に係る合金の1300℃における圧縮降伏強度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[背景]
従来、ニッケル基超合金は、その優れた高温強度のため、航空機のジェットエンジンのガスタービンなどの高温にさらされる部品などに用いられる。ニッケル基超合金は、その特有の微細構造により、優れた高温強度を実現している(参考文献1を参照)。具体的には、特に単結晶用のニッケル基超合金は、マトリックス相に立方体状の相が整合した碁盤の目状の構造を有し、これらの相の界面は直線状となっている。ニッケル基超合金がもつような整合した界面の構造は、優れた高温強度を実現する上で重要な点となっている。
参考文献1:Reed, R. C. (2008). The superalloys: fundamentals and applications. Cambridge university press.
【0012】
ところで、ガスタービンなどの高温で燃料からエネルギーを取り出す装置では、運転温度が高いほど、その熱効率が向上し、より少ない燃料で同じエネルギーを取り出すことができる。したがって、持続可能なエネルギーおよび温室効果ガスの削減を実現するためには、運転温度をさらに上げる必要がある。
【0013】
しかしながら、ニッケル基超合金の融点は1350℃程度であり、これに対して、ニッケル基超合金が使用されるガスタービンの現在の運転温度は1100℃程度となっている。このように運転温度は、ニッケル基超合金の90%程度に達しており、運転温度をこれより上げることは難しくなっている。
【0014】
そこで、本発明者らは、ニッケル基超合金の代替として、ニオブシリサイド基合金に着目した。しかしながら、たとえば上述の非特許文献1に記載のニオブシリサイド基合金は、高い融点をもつものの、高温強度が十分でなく、使用できる環境は1000℃以下に限られる。また、ニオブシリサイド基合金には、優れた力学特性および耐酸化特性が必要となる。
【0015】
本発明者らは、ニオブシリサイド基合金の微細構造がその材料の特性を改善する上で重要な点であることに認識するに至った。ただし、非特許文献1に記載のニオブシリサイド基合金のように、NbとNbSiとの整合しない界面をもつ構造が一旦形成されると、その構造を変化または制御することは難しい。
【0016】
[実施形態]
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0017】
(ニオブシリサイド基合金)
本発明の一実施形態に係るニオブシリサイド基合金は、主としてニオブ結晶を含む母相(以下、単に「Nb母相」ともいう。)と50vol~70vol%のニオブシリサイドとを含む。ニオブシリサイドは、たとえばNbSiまたはNbSiなどであってよい。ニオブシリサイドの少なくとも一部は、ニオブシリサイド基合金において、Nb母相に含まれるニオブ結晶と整合している。
【0018】
ニオブシリサイド基合金がニオブシリサイドを50vol%以上含むことにより、ニッケル基超合金と比べて遜色のない高い強度を実現できる。ニオブシリサイド基合金に含まれるニオブシリサイドの量を70vol%以下とすることにより、ニオブシリサイド基合金が脆くなることを抑制できる。また、本実施形態に係るニオブシリサイド基合金では、ニオブシリサイドが部分的にNb母相のニオブ結晶と整合している。このため、上述したニッケル基超合金のような整合界面をニオブシリサイド基合金において実現でき、ニオブシリサイド基合金が優れた高温強度を有するようになる。なお、本明細書では、AがBと部分的に整合していることを「AがBと半整合している」ともいう。
【0019】
本発明の一実施形態に係るニオブシリサイド基合金は、Siを15~35at%、Zr、TaおよびAlの群から選択される1つ以上の元素(以下、「第3元素」ともいう。)を2~30at%含み、残部が実質的にNbおよび不純物からなる。ニオブシリサイド基合金に含まれる第3元素を2at%以上とすることにより、ニオブシリサイド基合金に含まれるNb母相のニオブ結晶またはニオブシリサイドの結晶構造にひずみが生じる。そのひずみによってニオブシリサイドをニオブ結晶と少なくとも部分的に整合させることができる。また、ニオブシリサイド基合金に含まれる第3元素を30at%以下とすることにより、ニオブシリサイド基合金が脆くなることを抑制できる。
【0020】
ニオブシリサイド基合金は、Siを15~35at%、Zrを5~15at%(具体的には、Zrは、5at%を超え、15at%に満たない。)含み、残部が実質的にNbおよび不純物からなってよい。また、ニオブシリサイド基合金は、Siを15~35at%、Taを5~30at%(具体的には、Taは、5at%を超え、30at%に満たない。)含み、残部が実質的にNbおよび不純物からなってよい。さらに、ニオブシリサイド基合金は、Siを15~35at%、Alを2~10at%(具体的には、Alは、2at%を超え、10at%に満たない。)含み、残部が実質的にNbおよび不純物からなってよい。
【0021】
(ニオブシリサイド基合金の製造方法)
本発明の一実施形態に係るニオブシリサイド基合金の製造方法は、Si、第3元素およびNbなどを含む合金を準備する準備工程と、準備した合金を熱処理して熱処理後合金を生成する熱処理工程と、熱処理後合金を冷却し、熱処理後合金を冷却する冷却工程と、を含む。
【0022】
準備工程において準備する合金は、Siを15~35at%、Zr、TaおよびAlの群から選択される1つ以上の元素を2~30at%含み、残部が実質的にNbおよび不純物からなる。準備工程では、これらの元素を含む原料を用いて、各種の方法を用いて合金を作製する。合金を作製する方法は、特に限定されるものではないが、たとえば真空アーク溶解、インベストメント鋳造、ブリッジマン鋳造、粉末冶金またはレーザ粉末床溶融結合などを含んでよい。
【0023】
合金は、Siを15~35at%、Zrを5~15at%(具体的には、Zrは、5at%を超え、15at%に満たない。)含み、残部が実質的にNbおよび不純物からなってよい。合金に含まれるZrを5~15at%とすることにより、後の工程において、Nb母相にNbSiおよびNbSiを析出させることができる。NbSiを析出させることにより、ニオブシリサイドをより確実にNb母相のニオブ結晶と整合させることができる。また、ニオブシリサイド基合金においてNbSiが存在することにより、ニオブシリサイド基合金の高温強度をより向上させることができる。
【0024】
合金は、Siを15~35at%、Taを5~30at%(具体的には、Taは、5at%を超え、30at%に満たない。)含み、残部が実質的にNbおよび不純物からなってよい。合金がTaを含むことにより、後の工程において、Taによってニオブ結晶またはニオブシリサイドの結晶格子に歪みが生じ、固溶強化をより促進することができる。
【0025】
合金は、Siを15~35at%、Alを2~10at%(具体的には、Alは、2at%を超え、10at%に満たない。)含み、残部が実質的にNbおよび不純物からなってよい。合金がAlを含むことにより、作製されるニオブシリサイド基合金の耐酸化性を向上させることができる。
【0026】
図1は、1300℃におけるNb,Si,Zrの三元相図である。図2は、1300℃におけるNb,Si,Taの三元相図である。図3は、1300℃におけるNb,Si,Alの三元相図である。図1図3は、熱力学シミュレーションソフト(Thermo-Calc Software TCHEA5/ High Entropy Alloys Database version 5 )を用いて求めた結果である。図1では、ZrのNbに対する原子量の比率を三角形の底辺で示し、SiのNbに対する原子量の比率を三角形の左上の辺で示している。図2では、TaのNbに対する原子量の比率を三角形の底辺で示し、SiのNbに対する原子量の比率を三角形の左上の辺で示している。図3では、AlのNbに対する原子量の比率を三角形の底辺で示し、SiのNbに対する原子量の比率を三角形の左上の辺で示している。
【0027】
従来、Nb,Si,Zrの三元系について、図1に示す領域S0の組成について研究されてきた。領域S0で存在する相は、NbおよびNbSiである。本発明者らは、これまで研究の対象とされなかった、領域S0よりも中央寄りに位置し、領域S0よりも広い領域S1の組成に着目した。この領域S1では、固溶強化Nb(ssNb)およびNbSiに加えて、NbSiの相が存在する。この領域S1は、Siを15~35at%、Zrを5~15at%含み、残部をNbとした組成を含む。
【0028】
また、Nb,Si,Taの三元系については、固溶強化NbおよびNbSiの相が存在する領域S2に着目した。この領域S2は、Siを15~35at%、Taを5~30at%含み、残部をNbとした組成を含む。
【0029】
さらに、Nb,Si,Alの三元系については、固溶強化Nb、NbSiおよびNbSiが存在する領域S3に着目した。領域S3は、Siを15~35at%、Alを2~10at%含み、残部をNbとした組成を含む。なお、Nb,Si,Alの三元系では、領域S3の隣りに位置する領域S4では、固溶強化NbおよびNbSiが存在する。
【0030】
熱処理工程では、準備工程において準備した合金を1200℃~1500℃の温度で48時間以上熱処理し、熱処理後合金を生成する。合金を1200℃以上で熱処理することすることにより、合金における原子拡散を促進し、現実的な処理時間で原子濃度を均一化することができる。また、合金を1500℃以下で熱処理することにより、合金が溶解することを抑制し、意図しない金属間化合物が生成されることが抑制される。また、合金を48時間以上熱処理することにより、十分な原子拡散を実現できる。
【0031】
冷却工程では、熱処理後合金に含まれるNb母相においてニオブシリサイドが析出するように、熱処理後合金を冷却する。本実施形態に係るニオブシリサイド基合金の製造方法によれば、熱処理後合金が上述した組成を有するため、ニオブシリサイドの少なくとも一部がNb母相のニオブ結晶と整合するように析出する。この少なくとも部分的に整合した構造により、ニオブシリサイド基合金の優れた高温強度を実現できる。
【0032】
[実施例]
次に各実施例および各比較例に係るニオブシリサイド基合金について説明する。作製したニオブシリサイド基合金の各サンプルについて、微細構造をSEM(Scanning Electron Microscope)(日本電子株式会社製、JSM-7900F)の電子反射検出器を用いて観察した。また、各サンプルについて、XRD(X-ray diffraction)測定およびEDX(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)によって、サンプルに含まれる相を同定した。また、各サンプルのニオブシリサイドの相の体積比は、画像処理ソフト(ImageJ)を用いた面積測定により求めた。さらに、各サンプルの1300℃における圧縮降伏強度を試験機(株式会社島津製作所製、AG-I)によって測定した。
【0033】
(実施例1)
実施例1では、Siを25at%、Zrを15at%含み、残部がNbおよび不純物からなる合金のインゴットを作製した。具体的には、所望の組成比となるように原料を混合し、Ar雰囲気中のアーク溶解によって20gのインゴットを作製した。アーク溶解のゲッターにはTi(20g)を用いた。作製したインゴットを放電加工機によってスライスし、1mmの厚みの合金サンプルを得た。この合金サンプルを加熱炉において熱処理(処理温度:1300℃、処理時間:72時間)した。熱処理後の合金サンプルを900℃になるまで、-90℃/分の冷却速度で冷却して、ニオブシリサイド基合金のサンプルを得た。
【0034】
XRD測定を行ったところ、実施例1に係るサンプルは、Nb、NbSiおよびNbSiを含むことがわかった。
【0035】
図4は、実施例1に係るサンプルのSEM画像を示す図である。EDX測定を行ったところ、薄いグレーの部分(たとえば領域100など)がNb母相であり、濃いグレーの部分(たとえば領域102,104など)はニオブシリサイドであることがわかった。面積測定を行ったところ、ニオブシリサイドの体積比は、60vol%であった。
【0036】
図4に示すように、ニオブシリサイドとNb母相との界面の一部は直線状となっている。たとえば、ニオブシリサイドの領域102は、直線状の界面106,108を有する。この界面106,108では、ニオブシリサイドがNb母相のニオブ結晶と整合していると考えられる。なお、NbSiまたはNbSiのいずれもNb母相と整合しているが、NbSiの方がNbSiよりも多く生成されているため、主としてNbSiがニオブ結晶と整合するように生成されているものと考えられる。
【0037】
bccの結晶構造をもつニオブ結晶の(111)面と、hcpの結晶構造をもつニオブシリサイドの(0001)面とは、整合になることが知られている(参考文献2)。本実施例に係るニオブシリサイドは、hcpの結晶構造を有しており、その(0001)面とニオブ結晶の(111)面とが整合していることが推測される。なお、ニオブシリサイドのNbSiおよびNbSiは、いずれもhcpの結晶構造を取り得る。
参考文献2: Svetlov, I. L., Zaitsev, D. V., Kuzmina, N. A., Zavodov, A. V. (2020). The Structure of the Nb-γ-Nb5Si3 Interface in in-situ Nb-Si Eutectic Composites. Physics of Metals and Metallography, 121(3), 254-260.
【0038】
(実施例2)
実施例2では、Siを25at%、Taを25at%含み、残部がNbおよび不純物からなる合金のインゴットを作製したこと以外は、実施例1と同様にしてニオブシリサイド基合金のサンプルを作製した。XRD測定を行ったところ、実施例2に係るサンプルは、Nb、NbSiおよびNbSiを含むことがわかった。
【0039】
図5は、実施例2に係るサンプルのSEM画像を示す図である。実施例2に係るサンプルでは、ニオブシリサイドの領域202,204,206,208の間にNb母相が存在する構造が形成されていることがわかった。図5に示すように、ニオブシリサイドとNb母相との界面の一部は直線状となっている。たとえば、ニオブシリサイドの領域206は、直線状の界面210を有し、ニオブシリサイドの領域208は、直線状の界面212を有する。この界面210,212では、ニオブシリサイドがNb母相のニオブ結晶と整合していると考えられる。
【0040】
(実施例3)
実施例3では、Siを25at%、Alを5at%含み、残部がNbおよび不純物からなる合金のインゴットを作製したこと以外は、実施例1と同様にしてニオブシリサイド基合金のサンプルを作製した。XRD測定を行ったところ、実施例3に係るサンプルは、Nb、NbSiおよびNbSiを含むことがわかった。
【0041】
図6は、実施例3に係るサンプルのSEM画像を示す図である。EDX測定を行ったところ、薄いグレーの部分(たとえば領域300など)がNb母相であり、濃いグレーの部分(たとえば領域302,304など)はニオブシリサイドであることがわかった。このニオブシリサイドは、NbSiまたはNbSiである。面積測定を行ったところ、ニオブシリサイドの体積比は、50vol%であった。
【0042】
図6に示すように、ニオブシリサイドとNb母相との界面の一部は直線状となっている。たとえば、ニオブシリサイドの領域302は、直線状の界面306を有し、ニオブシリサイドの領域304は、直線状の界面308,310を有する。この界面306,308,310では、ニオブシリサイドがNb母相のニオブ結晶と整合していると考えられる。
【0043】
以上のように、実施例1~3では、ニオブシリサイドがNb母相と半整合する構造をもつニオブシリサイド基合金を作製できた。従来の研究では、整合した界面の構造は、ニッケル基超合金には見られていたが、ニオブシリサイド基合金では、このような構造を実現することができていなかった。本願の実施例1~3では、初めてニオブシリサイド基合金で整合した界面をもつ構造を実現できた。
【0044】
(比較例1~3)
比較例1では、Siを15at%、Zrを2at%含み、残部がNbおよび不純物からなる合金のインゴットを作製したこと以外は、実施例1と同様にしてニオブシリサイド基合金のサンプルを作製した。図7に、実施例1および比較例1に係る合金の組成を示す。
【0045】
比較例2では、Siを15at%、Taを5at%含み、残部がNbおよび不純物からなる合金のインゴットを作製したこと以外は、実施例1と同様にしてニオブシリサイド基合金のサンプルを作製した。図8に、実施例2および比較例2に係る合金の組成を示す。
【0046】
比較例3では、Siを15at%、Alを2at%含み、残部がNbおよび不純物からなる合金のインゴットを作製したこと以外は、実施例1と同様にしてニオブシリサイド基合金のサンプルを作製した。図9に、実施例3および比較例3に係る合金の組成を示す。比較例4に係る合金の組成は、領域S4に含まれる。
【0047】
比較例1~3に係るサンプルをSEM観察したところ、ニオブシリサイドとNb母相との界面において、実施例1~3のような直線状の界面を観察できなかった。
【0048】
図10は、実施例1,3、比較例1,3および先行技術に係る合金の1300℃における圧縮降伏強度を示す図である。先行技術に係る合金は、以下の参考文献3~5に記載の合金である。
参考文献3: Bewlay, B. P., Jackson, M. R., Zhao, J. C., Subramanian, P. R., Mendiratta, M. G., & Lewandowski, J. J. (2003). MRS bulletin, 28(9), 646-653.
参考文献4: Qu, S. Y., Han, Y. F., & Song, L. (2005). In Materials Science Forum (Vol. 475, pp. 737-740). Trans Tech Publications Ltd.
参考文献5: Tang, Y., & Guo, X. (2016). Scripta Materialia, 116, 16-20.
【0049】
図10の縦軸は、1300℃における圧縮降伏強度を示す。図10には、左から順に、比較例1に係るサンプル(Nb-15Si-2Zr)、比較例3に係るサンプル(Nb-15Si-2Al)、実施例3に係るサンプル(Nb-25Si-5Al)、実施例1に係るサンプル(Nb-25Si-15Zr)、参考技術3に記載の合金(Nb-silicide-C)、参考文献4に記載の合金(Nb-30Ti-10Cr-6Al-15Si)および参考文献5に記載の合金(Nb-15Si-22Ti-5Cr-2.5Hf-3Al)の圧縮降伏強度を示す。
【0050】
図10に示すように、比較例1に係るサンプルの圧縮降伏強度は204MPaであり、比較例3に係るサンプルの圧縮降伏強度は65MPaであり、実施例3に係るサンプルの圧縮降伏強度は169MPaであり、実施例1に係るサンプルの圧縮降伏強度は590MPaである。また、参考文献3に記載の合金の圧縮降伏強度は350MPaであり、参考文献4に記載の合金の圧縮降伏強度は140MPaであり、参考文献5に記載の合金の圧縮降伏強度は200MPaである。
【0051】
図10に示すように、実施例1,3のいずれに係るサンプルも、先行技術に係る合金と同程度またはそれを上回る圧縮降伏強度を有する。また、実施例1に係るサンプルは、比較例1に係るサンプルと比べて3倍程度の圧縮降伏強度を有し、実施例3に係るサンプルは、比較例3に係るサンプルと比べて3倍程度の圧縮降伏強度を有する。実施例1,3に係るサンプルは、半整合の組織構造をもつことにより、飛躍的に向上した圧縮降伏強度を実現できたものと考えられる。
【0052】
また、参考文献3~5に係る合金では、NbおよびSiに対して複数の元素を添加することによって図10に示すような圧縮降伏強度が実現される。これに対して、実施例1,3では、1種の第3元素をNb,Siに添加することによって、参考文献3~5に係る合金に匹敵、またはこれらを上回る圧縮降伏強度を実現できた。
【0053】
[補足]
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0054】
100,200,300 Nb母相の領域、102,104,202,204,206,208,302,304 ニオブシリサイドの領域、106,108,210,212,306,308,310 界面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10