(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122575
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】フッ化物蛍光体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 11/61 20060101AFI20240902BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
C09K11/61
C09K11/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030182
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 洋平
(72)【発明者】
【氏名】市川 諒英
【テーマコード(参考)】
4H001
【Fターム(参考)】
4H001CA02
4H001XA01
4H001XA07
4H001XA09
4H001XA14
4H001XA19
4H001XB11
4H001XB41
4H001XB42
4H001YA25
(57)【要約】
【課題】残光時間を短くすることができるフッ化物蛍光体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】アルカリ金属及びNH
4
+からなる群から選択される少なくとも1種のイオンAと、第14族元素及び第4族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素Mと、Mnと、Fと、を含み、前記元素M、前記Mnの4価のイオン及び前記Fが錯イオンを形成し、Fのモル比を6としたときに、前記イオンAのモル比が、前記錯イオンの電荷の絶対値であり、4価の前記Mnのモル比が0.083以上0.25以下である組成を有し、六方晶系の母体結晶を有する、フッ化物蛍光体である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属及びNH4
+からなる群から選択される少なくとも1種のイオンAと、第14族元素及び第4族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素Mと、Mnと、Fと、を含み、前記元素M、前記Mnの4価のイオン及び前記Fが錯イオンを形成し、Fのモル比を6としたときに、前記イオンAのモル比が、前記錯イオンの電荷の絶対値であり、4価の前記Mnのモル比が0.083以上0.25以下である組成を有し、六方晶系の母体結晶を有する、フッ化物蛍光体。
【請求項2】
前記母体結晶の結晶構造が、空間群P63mcに属する、請求項1に記載のフッ化物蛍光体。
【請求項3】
K2MnF6(空間群P63mc)で表される無機化合物の結晶構造と同一の結晶構造を母体結晶として有する、請求項1に記載のフッ化物蛍光体。
【請求項4】
前記母体結晶の、格子定数a、b、cが、以下の数値を満たす、請求項1又は2に記載のフッ化物蛍光体。
a=5.65±0.01Å
b=5.65±0.01Å
c=9.25±0.02Å
【請求項5】
下記式(I)で表される組成を有する、請求項1又は2に記載のフッ化物蛍光体。
Aw[M1-vMn4+
vF6] (I)
(前記式(I)中、Aは、アルカリ金属及びNH4
+からなる群から選択される少なくとも1種のイオンであり、Mは、第14族元素及び第4族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、vは、0.083≦v≦0.25を満たす数であり、wは、[M1-vMn4+
vF6]で表される錯イオンの電荷の絶対値である。)
【請求項6】
ゼロフォノン線に対応する波長に発光ピークを有する、請求項1又は2に記載のフッ化物蛍光体。
【請求項7】
発光スペクトルにおいて、622nmに発光ピーク波長を有する、請求項6に記載のフッ化物蛍光体。
【請求項8】
アルカリ金属及びNH4
+からなる群から選択される少なくとも1種のイオンAと、第14族元素及び第4族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素Mと、Mnと、フッ化水素の含有量が20質量%以上100質量%以下の範囲内である非水系フッ化水素含有液体と、を含む、非水系溶液を準備することと、
前記非水系溶液と、フッ化水素の含有量が20質量%未満である非水系有機液体と、を接触させて、六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体を析出させることと、を含む、フッ化物蛍光体の製造方法。
【請求項9】
前記非水系溶液を準備することにおいて、前記非水系溶液100質量%に対して、前記イオンAの含有量が3.01質量%以上3.09質量%以下の範囲内であり、前記元素Mの含有量が0.76質量%以上1.00質量%以下の範囲内であり、前記Mnの含有量が0.21質量%以上0.63質量%以下の範囲内であり、残部が前記非水系フッ化水素含有液体である、請求項8に記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
【請求項10】
前記非水系溶液を準備することにおいて、前記非水系フッ化水素含有液体が、窒素含有複素環化合物類、アミン類、尿素類、アミド類、カルバミン酸類、トリアルキルホスフィン類、エーテル類、エステル類、アルコール類及び第4級アンモニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項8又は9に記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
【請求項11】
前記フッ化物蛍光体を析出させることにおいて、前記非水系有機液体が、ニトリル類、ケトン類、アミド類、エーテル類、窒素含有複素環化合物類、アミン類、フルオロ化合物類、エステル類、及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項8又は9に記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
【請求項12】
前記フッ化物蛍光体を析出させることにおいて、前記非水系容液を連続的に撹拌しながら、前記非水系有機液体を滴下して、前記フッ化物蛍光体を析出させる、請求項8に記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
【請求項13】
前記フッ化物蛍光体を析出させることにおいて、前記非水系溶液の撹拌速度が20rpmから1000rpmの範囲である、請求項12に記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
【請求項14】
前記フッ化物蛍光体を析出させることにおいて、前記非水系有機液体の滴下速度が、0.1mL/分以上10mL/分以下の範囲内である、請求項12又は13に記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
【請求項15】
前記フッ化物蛍光体を析出させることにおいて、前記非水系溶液と前記非水系有機液体との体積比が9:1から1:9の範囲である、請求項8又は9に記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
【請求項16】
前記フッ化物蛍光体を析出させることにおいて、前記非水系有機液体を接触させるときの前記第非水系溶液の温度が10℃以上40℃以下の範囲内であり、前記非水系溶液と接触させる前の前記非水系有機液体の温度が10℃以上40℃以下の範囲内であり、前記非水系溶液の温度と、前記非水系有機液体の温度の温度差が10℃未満である、請求項8又は9に記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
【請求項17】
析出された前記フッ化物蛍光体が六方晶系の母体結晶を有し、前記フッ化物蛍光体の母体結晶の結晶構造が、空間群P63mcに属し、前記フッ化物蛍光体が、下記式(I)で表される組成を有する、請求項8又は9に記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
Aw[M1-vMn4+
vF6] (I)
(前記式(I)中、Aは、アルカリ金属及びNH4
+からなる群から選ばれる少なくとも1種の第1イオンであり、Mは、第14族元素及び第4族元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の第1元素であり、vは、0.083≦v≦0.25を満たす数であり、wは、[M1-vMn4+
vF6]で表される錯イオンの電荷の絶対値である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化物蛍光体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化物結晶は、優れた透過性を有する。賦活元素を含むフッ化物結晶は、光源からの励起光を波長変換する蛍光体として使用されている。発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)やレーザーダイオード(LD:Liser Diode)等の発光素子を励起光源として、フッ化物蛍光体を組み合わせた発光装置が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、賦活元素として4価のマンガン(Mn4+)を用い、フッ化水素を含む水溶液中で、K2SiF6:Mn4+で表される組成を有するフッ化物蛍光体を得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発光素子と蛍光体を用いた発光装置では、残光が課題となる場合がある。例えば、このような発光装置を液晶表示装置のバックライトとして使用した場合、液晶自体の応答速度が遅いため、残光の時間が長いと、動きのある画像を表示したときに、動きに従って光の尾をひくような画像になり、画像が切り替わっても赤色が残っているような印象を受ける場合がある。なお、残光の課題はバックライト用途に限られず、他の用途でも課題となる場合がある。
そこで、残光時間を短くすることができるフッ化物蛍光体及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を包含する。
本発明の第一の態様は、アルカリ金属及びNH4
+からなる群から選択される少なくとも1種のイオンAと、第14族元素及び第4族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素Mと、Mnと、Fと、を含み、前記元素M、前記Mnの4価のイオン及び前記Fが錯イオンを形成し、Fのモル比を6としたときに、前記イオンAのモル比が、前記錯イオンの電荷の絶対値であり、4価の前記Mnのモル比が0.083以上0.25以下である組成を有し、六方晶系の母体結晶を有する、フッ化物蛍光体である。
【0007】
本発明の第二の態様は、アルカリ金属及びNH4
+からなる群から選ばれる少なくとも1種のイオンAと、第14族元素及び第4族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素Mと、Mnと、フッ化水素の含有量が20質量%以上100質量%以下の範囲内である非水系フッ化水素含有液体と、を含む非水系溶液を準備することと、
前記非水系溶液と、フッ化水素の含有量が20質量%未満である非水系有機液体と、を接触させて、六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体を析出させることと、を含むフッ化物蛍光体の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
上述の態様により、残光時間を短くすることができるフッ化物蛍光体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】フッ化物蛍光体の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】フッ化物蛍光体を用いた発光装置の一例を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、実施例1から5に係るフッ化物蛍光体のXRDスペクトル、比較例1に係るフッ化物蛍光体のXRDスペクトル、及び六方晶系のフッ化物(h-K
2SiF
6)及び立方晶系のフッ化物(c-K
2SiF
6)のXRDスペクトルを示す図である。
【
図4】実施例1に係り、六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体の発光スペクトルを示す図である。
【
図5】比較例1に係り、立方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体の発光スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に係るフッ化物蛍光体及びその製造方法を実施形態に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は、以下のフッ化物蛍光体及びその製造方法に限定されない。なお、色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係等は、JIS Z8110に従う。
【0011】
フッ化物蛍光体は、アルカリ金属及びNH4
+からなる群から選択される少なくとも1種のイオンAと、第14族元素及び第4族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素Mと、Mnと、Fと、を含み、元素M、Mnの4価のイオン及びFが錯イオンを形成し、Fのモル比を6としたときに、イオンAのモル比が、錯イオンの電荷の絶対値であり、4価のMnのモル比が0.083以上0.25以下である組成を有し、六方晶系の母体結晶を有する。イオンAは、Rbを除くアルカリ金属及びNH4
+からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。元素Mは、Geを除く第14族元素及び第4族元素からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。以下、本明細書において、前記組成を有し、六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体を、「六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体」とも記載する。
【0012】
例えば、前述の特許文献1に記載されているK2SiF6:Mn4+で表される組成を有するフッ化物蛍光体の母体結晶(K2SiF6)は、立方晶系の母体結晶を有する。立方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体は、立方晶系の母体結晶中で八面体構造を有するSiの一部が賦活元素であるMnに置き換わった構造を有している。蛍光体は、賦活元素からなる発光イオンが励起光を吸収し、基底状態の電子が励起状態に励起され、励起された電子が再び基底状態に遷移する際にその差分のエネルギーを光として放出する。立方晶系の母体結晶は、Mn4+の性質や結晶構造の対称性の高さから、励起状態から基底状態への遷移が禁制となるため、残光時間が長い。励起状態から基底状態への遷移は、フォノンの吸放出による対称性の低下によって促進され、差分のエネルギーが光として放出される。一方、六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体は、立方晶系の母体結晶と比べて、結晶構造の対称性が低いため、フォノンの吸放出による遷移の促進を必要としないゼロフォノン線(Zero Phonone Line,ZPL)によっても発光し、立方晶系の母体結晶と比べて残光時間が短くなる。
【0013】
K2SiF6:Mn4+の発光スペクトルにおいて、1.993eV(622nm)の発光がZPLによる発光である。このZPLを基準として、-0.078eV(648nm)、-0.043eV(636nm)、-0.029eV(631nm)、+0.026eV(614nm)、+0.042eV(609nm)、+0.076eV(599nm)の発光がフォノンの吸放出による発光である。前述の値は、Journal of applied physics,106,013516(2009)などを参照することができる。測定は分光蛍光光度計(例えばFP-8500DS、日本分光株式会社製)を使用して実施できる。立方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体は、フォノンの吸放出による発光のみが生じる。一方、六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体は、ZPLによる発光とフォノンの吸放出による発光の双方が生じる。
【0014】
六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体は、ZPLに対応する波長に発光ピークを有することが好ましい。このZPLにより、励起光を照射したときの残光時間を短くすることができる。
【0015】
六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体は、発光スペクトルにおいて、622nmに発光ピーク波長を有することが好ましい。発光ピーク波長は、発光スペクトルにおいて、1つの発光ピークのピークトップを示す波長をいう。六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体は、発光スペクトルにおいて、複数の発光ピークを有する場合がある。六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体は、発光スペクトルにおいて、最大のピークトップを有する発光ピークに対して最大のピークトップの高さの50%以上の高さのピークトップを有する発光ピークのうち、1つの発光ピークのピークトップの波長が622nmにあれば、622nmに発光ピーク波長を有する。六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体が622nmに発光ピーク波長を有すると、フッ化物蛍光体のZPLの波長と合致し、フッ化物蛍光体がZPLによって発光することができる。フッ化物蛍光体は、分光蛍光光度計(例えばFP-8500DS、日本分光株式会社製)を用いて、発光ピーク波長が460nmである励起光によって、励起されたフッ化物蛍光体の発光スペクトルを測定し、測定した発光スペクトルから発光ピーク波長を求めることができる。
【0016】
フッ化物蛍光体の発光スペクトルにおいて、フォノン遷移に伴う波長である631nmにおける発光強度I631nmに対する、ZPLに相当する波長である622nmにおける発光強度I622nmの強度比I622nm/I631nmが0.1を超えて大きくなると、フッ化物蛍光体に含まれる六方晶系の母体結晶が多いことを示し、残光時間を短くすることができる。強度比I622nm/I631nmが0.2以上でもよく、0.3以上であることが好ましく、0.4以上であることがさらに好ましく、0.5以上であることがよりさらに好ましく、0.6以上であることが特に好ましく、0.7以上であることが特に好ましく、1.0以下でもよい。
【0017】
フッ化物蛍光体の組成において、4価のMnのモル比が0.083以上であると、フッ化物蛍光体は、フッ化物蛍光体中に六方晶系の母体結晶が、全体量に対して27質量%以上含まれることになる。フッ化物蛍光体中の六方晶系の母体結晶の含有量が、全体量に対して4分の1(25質量%)を超えて大きくなると、ZPLによって発光する割合が多くなり、残光時間を短くすることができる。フッ化物蛍光体の組成において、4価のMnのモル比が0.083以上であると、フッ化物蛍光体中の六方晶系の母体結晶は、全体量に対して27質量%以上となり、発光スペクトルにおける強度比I622nm/I631nmが0.1を超えて大きくなり、残光時間を短くすることができる。フッ化物蛍光体の組成において、4価のMnのモル比が0.083以上である、フッ化物蛍光体中の六方晶系の母体結晶の含有量が全体量に対して27質量%以上となり、発光スペクトルにおける強度比I622nm/I631nmが0.37以上となり、残光時間を短くすることができる。フッ化物蛍光体中、4価のMnのモル比が0.12以上であると、フッ化物蛍光体中に含まれる六方晶系の母体結晶の含有量は、全体量に対して58質量%以上となり、ZPLによって発光する割合がさらに多くなるため好ましい。フッ化物蛍光体中、4価のMnのモル比が0.159以上であると、フッ化物蛍光体中に含まれる六方晶系の母体結晶の含有量は、全体量に対して97質量%以上となり、ZPLによって発光する割合がさらに多くなるため、より好ましい。フッ化物蛍光体中に含まれる六方晶系の母体結晶の含有量を多くするために、フッ化物蛍光体の組成において、4価のMnのモル比は0.25以下であることが好ましく、0.248以下であることがより好ましい。フッ化物蛍光体中のMn含有量(mol%)は、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置(例えばPS3500DD-II、株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて、フッ化物蛍光体中のMn含有量(質量%)を測定し、得られたフッ化物蛍光体の元素組成比からMn含有量(mol%)を算出することができる。
【0018】
六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体は、ZPLによっても発光するため、励起光を照射したときの残光時間を短くすることができる。六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体は、励起光を照射したときの発光強度を基準強度100%とし、励起光の照射を遮断した時点を基準時とし、時間変化に対する発光強度変化を、一次の指数関数的減衰曲線でカーブフィッティング解析して導き出された半減期(t1/2)を発光寿命(t1/2)(msec)として算出した。発光寿命(t1/2)が短いほど、残光時間が短くなる。フッ化物蛍光体の発光寿命(t1/2)は8.5msec以下であることが好ましく、残光時間が8.0msec以下であることがより好ましい。発光寿命(t1/2)は、1.0msec以上でもよく、2.0msec以上でもよい。
【0019】
フッ化物蛍光体の母体結晶の結晶構造は、空間群P63mcに属することが好ましい。空間群は、国際結晶学連合が編集した「International Tables for Crystallography」に記載されている。六方晶系の母体結晶を有するフッ化物として、K2MnF6が挙げられる。フッ化物蛍光体は、K2MnF6(空間群P63mc)で表される無機化合物の結晶構造と同一の結晶構造を母体結晶として有することが好ましい。フッ化物蛍光体を構成する母体結晶が、例えばK2SiF6の場合は、立方晶系の母体結晶を有するが、組成1モルにおけるモル比で0.083を超えて0.25未満の範囲内となるように、発光中心となる4価のマンガンを含む場合、フッ化物蛍光体は、六方晶系の結晶構造を有するK2MnF6の結晶構造と同一の六方晶系の結晶構造が含まれる。六方晶系の結晶構造を有するK2MnF6の結晶構造と同一の六方晶系の結晶構造中で発光イオンとなるMn4+の八面体構造は、立方晶系の結晶構造を有するK2SiF6の結晶構造と同一の立方晶系の結晶構造中で発光イオンとなるMn4+の八面体構造と比べて対称性が低いので、フォノンの吸放出による遷移の促進を必要としないZPLによっても発光し、残光時間を短くすることができる。フッ化物蛍光体中の六方晶系の母体結晶の含有量(P63mcの比率)は、全体量に対して25質量%以上であることが好ましく、27質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましく、70質量%以上でもよく、80質量%以上でもよく、90質量%以上でもよい。フッ化物蛍光体中の六方晶系の母体結晶は、全体量に対して100質量%でもよいが、全て母体結晶として算出することは難しいため、フッ化物蛍光体中の六方晶系の母体結晶は、全体量に対して99質量%以下含まれることが好ましく、98質量%以下含まれることが好ましく、97質量%以下含まれることが好ましい。フッ化物蛍光体中の六方晶系の母体結晶の含有量(P63mcの比率)は、フッ化物蛍光体について測定したX線回折(XRD)スペクトルの測定結果から、参照強度比(Reference Intensity Ratio,RIR)法により測定することができる。参照するRIR値として、国際回折データセンター(International Center for Diffraction Data,ICDD)に登録されている立方晶系のc-K2SiF6(No.01-081-2264)と、六方晶系のh-K2SiF6(No.01-076-2927)を使用することができる。
【0020】
フッ化物蛍光体の母体結晶は、六方晶系の結晶であり、単位格子の軸の長さを示す格子定数a、b及びcが下記の数値を満たすことが好ましい。単位格子の軸間の角度を示すα、βは、それぞれ90度であり(α=β=90°)、γは120度(γ=120°)である。
a=5.65±0.01Å
b=5.65±0.01Å
c=9.25±0.02Å
フッ化物蛍光体の母体結晶が六方晶系の結晶であり、空間群P63mcに属する結晶構造を有し、格子定数a、b及びcが前記数値を満たすことにより、結晶構造の対称性が低いので、発光においてフォノンの吸放出による遷移の促進を必要としないZPLによって発光し、発光特性を高くすることができ、残光時間を短くすることができる。
【0021】
フッ化物蛍光体は、下記式(I)で表される組成を有することが好ましい。
Aw[M1-vMn4+
vF6] (I)
前記式(I)中、Aは、アルカリ金属及びNH4
+からなる群から選択される少なくとも1種のイオンであり、Mは、第14族元素及び第4族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、vは、0.083≦v≦0.25を満たす数であり、wは、[M1-vMn4+
vF6]で表される錯イオンの電荷の絶対値である。
【0022】
イオンAは、Rb+を除くアルカリ金属及びNH4
+からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、K+、Na+、Li+、Cs+及びNH4
+からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、K+、Na+、及びNH4
+からなる群から選択される少なくとも1種であってもよく、K+及びNa+からなる群から選択される少なくとも1種であってもよく、K+であってもよい。前記式(I)において、変数wは、[M1-vMn4+
vF6]で表される錯イオンの電荷の絶対値であり、好ましくは2である(w=2)。
【0023】
元素Mは、Geを除く第14族元素及び第4族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素であることが好ましく、Si、Ti、Zr、Hf、Sn及びPbからなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、Si、Ti、Zr、Hf及びSnからなる群から選択される少なくとも1種であってもよく、Si、Ti、Zr及びSnからなる群から選択される少なくとも1種であってもよく、Si、Ti及びSnからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。
【0024】
前記式(I)において、Mn4+は、賦活元素であるMnの4価のイオンであり、フッ化物蛍光体において発光中心となる発光イオンである。前記式(I)において、変数vは、Mn4+のモル比を表し、変数vは、0.083以上0.25以下(0.083≦v≦0.25)であり、好ましくは0.083以上0.248以下の範囲内(0.083≦v≦0.248)であり、0.121以上(0.121≦v)でもよく、0.159以上(0.159≦v)でもよく、0.185以上(0.185≦v)でもよい。
【0025】
六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体は、フッ化物蛍光体の全体量中に六方晶系の母体結晶を25質量%以上含有していることが好ましく、27質量%以上含有していることがより好ましく、90質量%以上含有していてもよく、100質量%含有してもよく、99質量%以下含有してもよく、98質量%以下含有してもよく、97質量%以下含有してもよい。フッ化物蛍光体中の六方晶系の母体結晶の含有量が100質量%である場合、フッ化物蛍光体が全て六方晶系の母体結晶からなる結晶構造であることを意味する。フッ化物蛍光体中の六方晶系の母体結晶の含有量は、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)に於いて、RIR法による定量分析により測定することができる。
【0026】
六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体が、フッ化物蛍光体の製造に使用される水溶液等によって、水酸化物イオン(OH-)又は水を含む場合、発光中心となる4価のマンガンイオン(Mn4+)が、水酸化物イオン(OH-)によって3価のマンガンイオン(Mn3+)に還元され、発光特性が低下する場合がある。六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体は、水酸化物イオン(OH-)の含有量が少ない方が好ましく、フッ化物蛍光体に含まれる水酸化物イオン(OH-)が、フッ化物イオン(F-)に置き換えられていることが好ましい。
【0027】
フッ化物蛍光体の製造方法は、アルカリ金属及びNH4
+からなる群から選択される少なくとも1種のイオンAと、第14族元素及び第4族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素Mと、Mnと、フッ化水素の含有量が20質量%以上100質量%以下の範囲内である非水系フッ化水素含有液体と、を含む、非水系溶液を準備することと、前記非水系溶液と、フッ化水素の含有量が20質量%未満である非水系有機液体と、を接触させて、六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体を析出させることと、を含む。イオンAは、Rbを除くアルカリ金属及びNH4
+からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。元素Mは、Geを除く第14族元素及び第4族元素からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0028】
図1は、フッ化物蛍光体の製造方法の一例を示すフローチャートである。フッ化物蛍光体の製造方法は、非水系溶液を準備(S101)することと、非水系溶液と非水系有機液体を接触させ、フッ化物蛍光体を析出(S102)させることを含む。フッ化物蛍光体の製造方法は、得られた六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体の分離処理、洗浄処理、乾燥処理などの後処理を含んでいてもよい。
【0029】
イオンAは、フッ化物蛍光体を構成するイオンであることが好ましい。イオンAは、Rbを除くアルカリ金属及びNH4
+からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、K+、Na+、Li+、Cs+及びNH4
+からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、K+、Na+、及びNH4
+からなる群から選択される少なくとも1種であってもよく、K+、Na+及びNH4
+からなる群から選択される少なくとも1種であってもよく、K+及びNa+からなる群から選択される少なくとも1種であってもよく、K+であってもよい。非水系溶液を準備することにおいて、非水系溶液に含まれるイオンAの原料としては、アルカリ金属及びNH4
+からなる群から選択される少なくとも1種を含むフッ化物、フッ素水素化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、酢酸塩、炭酸塩等の化合物を用いることができる。原料として用いる化合物は、アルカリ金属及びNH4
+からなる群から選択される少なくとも2種以上を含むものであってもよく、アルカリ金属及びNH4
+からなる群から選択される少なくとも1種のイオンAの他に、Mn、又は第14族元素及び第4族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素Mを含むものであってもよい。
【0030】
元素Mは、フッ化物蛍光体を構成する元素であることが好ましい。元素Mは、Geを除く第14族元素及び第4族元素からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、Si、Ti、Zr、Hf、Sn及びPbからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、Si、Ti、Zr、Hf及びSnからなる群から選択される少なくとも1種であってもよく、Si、Ti、Zr及びSnからなる群から選択される少なくとも1種であってもよく、Si、Ti及びSnからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。非水系溶液を準備することにおいて、非水系溶液に含まれる元素Mの原料としては、元素Mを含むフッ化物、フッ素水素化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、酢酸塩、炭酸塩、硫酸塩等の元素Mを含む化合物が挙げられる。元素Mの原料が、元素Mを含むフッ化物の場合は、元素Mとフッ素の他に、アルカリ金属及びNH4
+からなる群から選択される少なくとも1種のイオンAを含んでいてもよい。非水系溶液に含まれる元素Mは、錯イオンとなっていてもよく、元素Mとフッ素を含むフッ化物錯イオンとなっていてもよい。元素Mを含む錯イオンを第1錯イオンともいう。元素Mとフッ素を含むフッ化物錯イオンを、第1フッ化物錯イオンともいう。第1フッ化物錯イオンとなる原料としては、例えばヘキサフルオロケイ酸又はヘキサフルオロケイ酸塩、ヘキサフルオロチタニウム酸塩、ヘキサフルオロジルコン酸塩、ヘキサフルオロスズ酸塩、等が挙げられる。
【0031】
非水系溶液を準備することにおいて、非水系溶液に含まれるMnの原料としては、Mnを含むフッ化物、フッ素水素化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、酢酸塩、炭酸塩、硫酸塩等のMnを含む化合物が挙げられる。Mnの原料が、Mnを含むフッ化物の場合は、Mnとフッ素の他に、アルカリ金属及びNH4
+からなる群から選択される少なくとも1種のイオンAを含んでいてもよい。非水系溶液に含まれるMnは、Mnを含む錯イオンとなっていてもよく、Mnを含むフッ化物錯イオン(MnF6
2-)となっていてもよい。Mnを含む錯イオンを第2錯イオンともいう。Mnを含むフッ化物錯イオンを第2フッ化物錯イオンともいう。第2フッ化物錯イオンとなる原料としては、例えばヘキサフルオロマンガン酸又はヘキサフルオロマンガン酸塩等が挙げられる。
【0032】
非水系溶液を準備することにおいて、非水系溶液100質量%に対して、イオンAの含有量が3.01質量%以上3.09質量%以下の範囲内であり、元素Mの含有量が0.76質量%以上1.00質量%の範囲内であり、Mnの含有量が0.21質量%以上0.63質量%以下の範囲内であり、残部がフッ化水素の含有量が20質量%以上100質量%以下の範囲内である非水系フッ化水素含有液体であることが好ましい。本明細書において、フッ化水素の含有量が20質量%以上100質量%以下の非水系フッ化水素含有液体を、「非水系フッ化水素含有液体」とも記載する。非水系溶液100質量%中のMnの含有量が0.21質量%以上0.63質量%以下の範囲内であれば、非水系溶液と後述する非水系有機液体に接触させることによって、六方晶の母体結晶を有するフッ化物蛍光体を得ることができる。非水系溶液を準備することにおいて、非水系溶液100質量%に対して、イオンAの含有量が3.01質量%以上3.05質量%以下の範囲内であり、元素Mの含有量が0.76質量%以上0.88質量%以下の範囲内であり、Mnの含有量が0.42質量%以上0.63質量%以下の範囲内であり、残部がフッ化水素含有液体であってもよい。また、非水系溶液100質量%に対して、イオンAの含有量が3.01質量%以上3.03質量%以下の範囲内であり、元素Mの含有量が0.76質量%以上0.82質量%以下の範囲内であり、Mnの含有量が0.53質量%以上0.63質量%以下の範囲内であり、残部が非水系フッ化水素含有液体であってもよい。非水系溶液は、後述する非水系フッ化水素含有液体中に、より多くのMn4+を溶解させることができる。非水系溶液中に含まれるマンガンの量が比較的多いため、六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体を析出させることができる。
【0033】
非水系溶液を準備することにおいて、非水系溶液中で元素Mが第1錯イオンとなっている場合には、非水系溶液100質量%に対して、第1錯イオンの下限値が3.83質量%以上でもよい。また、非水系溶液100質量%に対して、第1錯イオンの上限値は、5.06質量%以下でもよく、4.45質量%以下でもよい。非水系溶液を準備することにおいて、非水系溶液中で元素Mが第1錯イオンとなっている場合に、第1錯イオンの含有量が3.83質量%以上、4.14質量%以下であれば、六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体が得られやすい。
【0034】
非水系溶液を準備することにおいて、非水系溶液中でMnが第2錯イオンとなっている場合には、非水系溶液100質量%に対して、第2錯イオンの下限値が0.65質量%以上でもよく、1.30質量%以上でもよい。また、非水系溶液100質量%に対して、第2錯イオンの上限値は、1.95質量%以下でもよい。非水系溶液を準備することにおいて、非水系溶液中でMnが第2錯イオンとなっている場合に、第2錯イオンの含有量が1.63質量%以上、1.95質量%以下であれば、六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体が得られやすい。
【0035】
非水系フッ化水素含有液体は、フッ化水素の含有量が20質量%以上100質量%以下の範囲内である。非水系フッ化水素含有液体は、アルカリ金属及びNH4
+からなる群から選択される少なくとも1種のイオンAとなり得る元素又は分子を含む化合物、元素Mを含む化合物、Mnを含む化合物を溶解し得る量のフッ化水素が含まれていればよい。イオンAとなり得る元素又は分子を含む化合物、元素Mを含む化合物、及びMnを含む化合物を、溶解し得る非水系フッ化水素含有液体中のフッ化水素の含有量は、20質量%以上100質量%以下の範囲内である。非水系フッ化水素含有液体は、標準状態(25℃、1気圧)において、液体のフッ化水素100質量%であってもよい。非水系フッ化水素含有液体中のフッ化水素の含有量は、20質量%以上30質量%以下の範囲内であってもよく、60質量%以上80質量%以下であってもよい。
【0036】
非水系フッ化水素含有液体は、フッ化水素の他に、標準状態(25℃、1気圧)において、液体であり、沸点が120℃以上である化合物を含んでいてもよい。非水系フッ化水素含有液体は、窒素含有複素環化合物類、アミン類、尿素類、アミド類、カルバミン酸類、トリアルキルホスフィン類、エーテル類、エステル類、アルコール類、及び第4級アンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。非水系フッ化水素含有液体に含まれる化合物は、窒素含有複素環化合物類、アミン類、尿素類、アミド類、カルバミン酸類、トリアルキルホスフィン類、エーテル類、エステル類、アルコール類、及び第4級アンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。市販の非水系フッ化水素含有液体として、例えば、70質量%のフッ化水素とピリジンを含むピリジン-HF錯体である、Olah試薬が挙げられる。また、非水系フッ化水素含有液体として、28質量%のフッ化水素とトリエチルアミンを含むトリエチルアミン-HF錯体が挙げられる。その他、非水系フッ化水素含有液体として、65-75質量%のフッ化水素と尿素を含む尿素-HF錯体、65%質量のフッ化水素とN,N’-ジメチルプロピレン尿素を含むDMPU-HF錯体が挙げられる。
【0037】
窒素含有複素環化合物類としては、ピロリジン及びピぺリジンから選択される環を有する脂環式化合物、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、イソキサゾール、チアゾール、チアジアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、インドール、ベンズイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、キナゾリン、アクリジン及びフェナントロリンから選択される環を有する複素環式芳香族化合物が挙げられる。窒素含有複素環化合物は、フッ素、塩素、臭素を化合物中に含むものであってもよい。
【0038】
窒素含有複素環化合物としてイミダゾールと、フッ素を含む化合物は、下記式(1)で表されるイミダゾリウム塩が挙げられる。
【0039】
【0040】
前記式(1)中、R1及びR3は、それぞれ独立して炭素数1から4のアルキル基を表し、R2、R4、及びR5は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1から4のアルキル基を示す。またR1からR5の一部又は全てが相互に結合して環を形成してもよい。炭素数1から4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基等が挙げられる。R2、R4、及びR5は、水素原子、メチル基、又はエチル基であってもよく、水素原子であってもよい。前記式(1)中、nは1から4の数値であり、必ずしも整数でなくてもよい。nの数値は化合物の元素分析値から算出することができる。
【0041】
前記式(1)で表される化合物の具体例としては、1,3-ジメチルイミダゾリウム塩、1,3,4-トリメチルイミダゾリウム塩、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム塩等が挙げられ、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム塩は常温で溶融する塩である。また、前記式(1)において、R1からR5の一部又は全ては相互に結合して環を形成していてもよい。具体例としては1,3-ジメチルベンズイミダゾリウム塩、1-エチル-3-メチルベンズイミダゾリウム塩等が挙げられる。
【0042】
フッ素、塩素又は臭素を化合物中に含む窒素含有複素環化合物類中、主に、塩素又は臭素を含む窒素含有複素環化合物としては、2-トリクロロメチルピロール、2-トリブロモメチルピロール、4-クロロ-3-トリクロロメチルピラゾール、4-クロロ-3,5-ビス[トリクロロメチル]ピラゾール、4-クロロ-3-トリブロモメチルピラゾール、4-クロロ-3,5-ビス[トリブロモメチル]ピラゾール、1-メチル-3-トリクロロメチルピラゾール-4-カルボン酸エチル、1,2-ビス[トリクロロメチル]イミダゾール、1,3-ビス[トリクロロメチル]イミダゾール、1,5-ビス[トリクロロメチル]イミダゾール、2,5-ビス[トリクロロメチル]イミダゾール、4,5-ビス[トリクロロメチル]イミダゾール、1,2,5-トリス[トリクロロメチル]イミダゾール、2,3,4-トリス[トリクロロメチル]イミダゾール、1,2-ビス[トリブロモメチル]イミダゾール、1,3-ビス[トリブロモメチル]イミダゾール、1,5-ビス[トリブロモメチル]イミダゾール、2,5-ビス[トリブロモメチル]イミダゾール、4,5-ビス[トリブロモメチル]イミダゾール、1,2,5-トリス[トリブロモメチル]イミダゾール、2,3,4-トリス[トリブロモメチル]イミダゾール、2-トリクロロメチルピリジン、3-トリクロロメチルピリジン、4-トリクロロメチルピリジン、2,3-2,5-ビス[トリクロロメチル]ピリジン、2,6-ビス[トリクロロメチル]ピリジン、3,5-ビス[トリクロロメチル]ピリジン、2-トリブロモメチルピリジン、3-トリブロモメチルピリジン、4-トリブロモメチルピリジン、2,3-2,5-ビス[トリブロモメチル]ピリジン、2,6-ビス[トリブロモメチル]ピリジン、3,5-ビス[トリブロモメチル]ピリジン、3-トリクロロメチルピリダジン、3-トリブロモメチルピリダジン、4-トリクロロメチルピリダジン、4-トリブロモメチルピリダジン、2,4-ビス[トリクロロメチル]ピリミジン、2,6-ビス[トリクロロメチル]ピリミジン、2,4-ビス[トリブロモメチル]ピリミジン、2,6-ビス[トリブロモメチル]ピリミジン、2,4-ジクロロ-5-トリクロロメチルピリミジン、2-トリクロロメチルピラジン、2-トリブロモメチルピラジン、1,3,5-トリスビス[トリクロロメチル]トリアジン、1,3,5-トリスビス[トリブロモメチル]トリアジン、4-トリクロロメチルインドール、5-トリクロロメチルインドール、4-トリブロモメチルインドール、5-トリブロモメチルインドール、2-トリクロロメチルベンズイミダゾール、2-トリブロモメチルベンズイミダゾール、5-トリクロロメチル-1H-ベンゾトリアゾール、5-トリブロモメチル-1H-ベンゾトリアゾール、6-トリクロロメチルプリン、6-トリブロモメチルプリン、3-トリクロロメチルキノリン、4-トリクロロメチルキノリン、3-トリブロモメチルキノリン、4-トリブロモメチルキノリン、3-トリクロロメチルイソキノリン、3-トリブロモメチルイソキノリン、4-トリクロロメチルチノリン、4-トリブロモメチルチノリン、2-トリクロロメチルキノキサリン、2-トリブロモメチルキノキサリン、5-トリクロロメチルキノキサリン、5-トリブロモメチルキノキサリン、9-トリクロロメチルアクリジン、9-トリブロモメチルアクリジン、4-トリクロロメチル-1,10-フェナントロリン、4-トリブロモメチル-1,10-フェナントロリン、5-トリクロロメチル-1,10-フェナントロリン、5-トリブロモメチル-1,10-フェナントロリンが挙げられる。
【0043】
フッ素、塩素又は臭素を含む酸素及び窒素含有複素環化合物類中、主に、塩素又は臭素を含む酸素及び窒素含有複素環化合物としては、3,5-ビス[トリクロロメチル]イソキサゾール、3,5-ビス[トリブロモメチル]イソキサゾール、2-トリクロロメチルベンゾキサゾール、2-トリブロモメチルベンゾキサゾールが挙げられる。
【0044】
フッ素、塩素又は臭素を含む硫黄及び窒素含有複素環化合物類中、主に、塩素又は臭素を含む硫黄及び窒素含有複素環化合物としては、4,5-ビス[トリクロロメチル]チアゾール、4,5-ビス[トリブロモメチル]チアゾール、5-トリクロロメチル-チアジアゾール、5-トリブロモメチル-チアジアゾール、2-トリクロロメチルベンゾチアゾール、2-トリブロモメチルベンゾチアゾールが挙げられる。
【0045】
アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、n-ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ジエチレントリアミン、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、1,2-プロピレンジアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、o-トルイジン、p-ニトロトルエン、N-(2-アミノエチル)エタノールアミン、アニリン、ピペラジン、トリエチレンテトラミン等が挙げられる。
【0046】
尿素類としては、尿素、1,1,3,3-テトラメチルウレア、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジエチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジ(n-プロピル)-2-イミダゾリジノン、1,3-ジ(n-ブチル)-2-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2(1H)-ピリミジノン、N,N’-ジメチルプロピルウレア、N,N’-ジエチルプロピルウレア、N,N’-ジ(n-プロピル)プロピルウレア、N,N’-ジ(n-ブチル)プロピルウレア等が挙げられる。
【0047】
アミド類としては、N,N’-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジエチルホルムアミド、N,N’-ジメチルアセトアミド、1-メチル-2-ピロリドン等が挙げられる。
【0048】
カルバミン酸類としては、カルバミン酸、カルバミン酸エチル等が挙げられる。
【0049】
トリアルキルホスフィン類としては、ヘキサメチルホスホルアミド等が挙げられる。
【0050】
エーテル類としては、n-ブチルエーテル、n-ヘキシルエーテル、アニソール、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、アミルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等が挙げられる。
【0051】
エステル類としては、酢酸-n-ブチル、酢酸-n-ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸シクロヘキシル、酢酸ベンジル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソペンチル、安息香酸メチル、フタル酸ジメチル、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。
【0052】
アルコール類としては、炭素数が4以上の炭化水素基を有するアルコールであり、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール、ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、2-メチル-2-ペンタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、1-オクタノール、1-ノナノ―ル、1-デカノール、1-ウンデカノール、1-ドデカノール等が挙げられる。
【0053】
第4級アンモニウム塩としては、下記式(2)で表される第4級アンモニウム塩が挙げられる。
【0054】
【0055】
前記式(2)中、R6は、炭素数1から4のアルキル基、R7は、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基を示す。nは、1から4の数値を示す。
【0056】
前記式(2)で表される第4級アンモニウム塩は、第4級アンモニウムカチオンとフルオロハイドロジェネートアニオンとから構成される。第4級アンモニウムカチオンのR6としては、直鎖状或いは、分岐鎖状の炭素数1から4のアルキル基を挙げることができる。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基等を挙げることができる。第4級アンモニウムカチオンのR7としては、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基を挙げることができる。フルオロハイドロジェネートアニオンとしては、nが1から4の数値を示すF(HF)n-で表されるフルオロハイドロジェネートアニオンを挙げることができる。nは必ずしも整数でなくても良く、好ましくは1.5以上3以下の数値であり、より好ましくは、2以上2.5以下の数値である。
【0057】
具体例としては、N-メトキシメチル-N-メチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-メトキシメチル-N-エチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-メトキシメチル-N-n-プロピルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-メトキシメチル-N-iso-プロピルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-メトキシメチル-N-n-ブチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-メトキシメチル-N-iso-ブチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-メトキシメチル-N-tert-ブチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-メトキシエチル-N-メチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-メトキシエチル-N-エチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-メトキシエチル-N-n-プロピルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-メトキシエチル-N-iso-プロピルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-メトキシエチル-N-n-ブチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-メトキシエチル-N-iso-ブチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-メトキシエチル-N-tert-ブチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-エトキシメチル-N-メチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-エトキシメチル-N-エチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-エトキシメチル-N-n-プロピルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-エトキシメチル-N-iso-プロピルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-エトキシメチル-N-n-ブチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-エトキシメチル-N-iso-ブチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート、N-エトキシメチル-N-tert-ブチルピロリジニウムフルオロハイドロジェネート等を挙げることができる。
【0058】
非水系溶液は、非水系フッ化水素含有液体に、イオンA、元素M及びMnの原料となる化合物を接触させて得ることができる。具体的には、非水系フッ化水素含有液体を撹拌しながら、イオンA、元素M及びMnの原料となる化合物を、非水系フッ化水素含有液体に添加して、非水系溶液を得てもよい。
【0059】
非水系溶液中のイオンAと、元素Mと、Mnと、Fを含むフッ化物蛍光体を析出させる液媒体として、フッ化水素の含有量が20質量%未満である非水系有機液体を準備する。以下、フッ化水素の含有量が20質量%未満である非水系有機液体を、「非水系有機液体」とも記載する。また、非水系溶液と、非水系有機液体の混合物を、非水系液体混合物ともいう。非水系有機液体中のフッ化水素の含有量は、非水系液体混合物中でフッ化物蛍光体が析出される量であればよい。非水系液体混合物中でフッ化物蛍光体を析出させることができる非水系有機液体中のフッ化水素の含有量は、20質量%未満である。非水系有機液体中のフッ化水素の含有量は20質量%未満であればよく、10質量%以下であってもよく、5質量%以下であってもよく、3質量%以下であってもよく、1質量%以下であってもよく、フッ化水素の含有量が0質量%であり、非水系有機液体にフッ化水素を実質的に含んでいなくてもよい。フッ化水素を実質的に含んでいない非水系有機液体は、フッ素の含有量が1質量%未満の非水系有機液体をいう。非水系有機液体は、ニトリル類、ケトン類、アミン類、アミド類、窒素含有複素環系化合物類、フルオロ化合物類、エーテル類、エステル類、アルコール類及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。非水系有機液体は、ニトリル類、ケトン類、アミン類、アミド類、窒素含有複素環系化合物類、フルオロ化合物類、エーテル類、エステル類、アルコール類及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。
【0060】
ニトリル類としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。
【0061】
ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサンノン等が挙げられる。官能基に水酸基(アルコール)を有するケトン系化合物として、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
【0062】
フルオロ化合物類としては、1,1,2,2-テトラフルオロエチレン、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、パーフルオロカーボン、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル等が挙げられる。
【0063】
アミン類、アミド類、窒素含有複素環化合物類、エーテル類、エステル類、及びアルコール類としては、それぞれ非水系フッ化水素含有液体に用いる各化合物として例示した化合物が挙げられる。アミン類、アミド類、窒素含有複素環化合物類、エーテル類、エステル類、及びアルコール類の各化合物は、それぞれ非水系フッ化水素含有液体に用いる各化合物と同種又は異種の化合物を用いてもよい。
【0064】
フッ化物蛍光体を析出させることにおいて、非水系溶液と、非水系有機液体を接触させて、混合し、六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体を析出させることができる。非水系溶液と、非水系有機液体は、バッチ式の反応器を用いて接触させてもよい。非水系有機液体を非水系溶液に滴下して混合してもよく、非水系溶液を非水系有機液体に滴下して混合してもよい。フッ化物蛍光体を析出させることにおいて、非水系溶液を連続的に撹拌しながら、非水系有機液体を滴下して、フッ化物蛍光体を析出させることが好ましい。非水系溶液を連続的に撹拌しながら、非水系有機液体を滴下させると、六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体を析出させやすい。
【0065】
非水系溶液に非水系有機液体を滴下する場合、非水系溶液の撹拌速度は、20rpmから1000rpmの範囲であることが好ましい。非水系溶液の撹拌速度は、30rpmから800rpmの範囲内でもよく、50rpmから500rpmの範囲内でもよく、80rpm以上400rpm以下の範囲内でもよい。非水系溶液の撹拌速度が20rpmから1000rpmの範囲内であれば、非水系溶液と非水系有機液体が十分接触し、六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体を析出させやすい。非水系溶液を撹拌する方法は、非水系溶液に含まれる各成分の濃度勾配を緩和可能とする方法であればよい。撹拌方法としては、撹拌子を一定速度で回転させる方法、非水系溶液をポンプで加圧して流れを発生させることで撹拌する方法、メカニカルスターラを使用する方法が挙げられる。
【0066】
フッ化物蛍光体を析出させることにおいて、非水系溶液に滴下する非水系有機液体の滴下速度は、0.1mL/分以上10mL/分以下の範囲内であることが好ましい。非水系有機液体の滴下速度が0.1mL/分以上10mL/分以下の範囲内であれば、六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体を析出させやすい。非水系溶液に滴下する非水系有機液体の滴下速度は、0.5mL/分以上でもよく、1mL/分以上でもよく、2mL/分以上でもよく、3mL/分以上でもよい。また、非水系溶液に滴下する非水系有機液体の滴下速度は、9mL/分以下でもよく、8mL/分以下でもよく、7mL/分以下でもよい。
【0067】
フッ化物蛍光体を析出させることにおいて、非水系溶液と非水系有機液体の体積比率は、9:1以上1:9以下の範囲内であることが好ましく、8:2以上2:8以下の範囲内でもよく、7:3以上3:7以下の範囲内でもよく、6:4以上4:6以下であることがより好ましい。フッ化物蛍光体を析出させることにおいて、非水系溶液と非水系有機液体の体積比率が9:1以上1:9以下の範囲内であれば、六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体を析出させることができる。
【0068】
フッ化物蛍光体を析出させることにおいて、非水系有機液体を接触させるときの非水系溶液の温度が10℃以上40℃以下の範囲内であり、非水系溶液と接触させる前の非水系有機液体の温度が10℃以上40℃以下の温度範囲内であり、非水系溶液の温度と非水系有機液体の温度の温度差が10℃未満であることが好ましい。非水系溶液及び非水系有機液体の温度が、10℃以上40℃以下の範囲内であれば、析出するフッ化物蛍光体に有機不純物が付着する量が低減され、有機不純物の付着量の少ないフッ化物蛍光体を析出させやすい。非水系溶液の温度は、15℃以上35℃以下の範囲内であってもよく、室温と同程度の温度であってもよい。非水系有機液体の温度は、15℃以上35℃以下の範囲内であってもよく、室温度等程度の温度であってもよい。非水系溶液の温度と非水系有機液体の温度の温度差は、10℃未満であればよく、5℃以下であってもよく、1℃以下であってもよく、0℃、すなわち同じ温度であってもよい。
【0069】
フッ化物蛍光体を析出させることにおいて、フッ化物蛍光体は、非水系溶液及び非水系有機液体を混合した非水系液体混合物中に析出されるため、得られるフッ化物蛍光体は、水酸基(OH-)又は水の含有量が低減され、水酸基(OH-)又は水を殆ど含んでおらず、発光中心となるMn4+が水酸化物イオン(OH-)又は水によって、還元されて発光特性が低下することなく、優れた発光特性を有する六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体を得ることができる。
【0070】
フッ化物蛍光体の製造方法は、フッ化物蛍光体を析出させた後に、析出されたフッ化物蛍光体を、非水系液体混合物から分離処理、洗浄処理、乾燥処理等を行う、後処理を含んでいてもよい。洗浄処理は、非水系有機液体を用いて行うことができる。乾燥処理は、真空乾燥機、加熱乾燥機、コニカルドライヤー、ロータリーエバポレーターなどの工業的に通常用いられる装置や方法によって行うことができる。加熱乾燥処理における乾燥温度は、フッ化物蛍光体に付着した液分が蒸発する温度であればよく、通常40℃以上、好ましくは50℃以上、また、通常100℃以下、好ましくは70℃以下である。乾燥時間としては、フッ化物蛍光体に付着した液分が蒸発する時間であればよく、例えば、8時間程度である。
【0071】
フッ化物蛍光体を析出させることにおいて、析出されたフッ化物蛍光体は、六方晶系の母体結晶を有し、この母体結晶の結晶構造が、空間群P63mcに属し、前記式(I)で表される組成を有することが好ましい。得られるフッ化物蛍光体は、六方晶系の母体結晶を有し、フォノンの吸放出による遷移の促進を必要としないZPLによって発光するため、発光特性を向上することができ、励起光を照射したとき残光時間を短くすることができる。
【0072】
六方晶系の母体結晶を有し、好ましくは前記式(I)で表される組成を有するフッ化物蛍光体は、例えばLEDやLDなどの励起光源と組み合わせて、照明装置、液晶表示装置のバックライトなどに用いる発光装置に用いることができる。
【0073】
発光装置に用いる励起光源は、400nm以上570nm以下の波長範囲内の光を発する励起光源を用いることができる。当該波長範囲内の励起光源を用いることにより、発光強度の高い発光装置を提供することができる。発光装置の励起光源として用いる発光素子は、発光ピーク波長が、好ましくは420nm以上500nm以下の範囲内であり、より好ましくは420nm以上460nm以下の範囲内である。
【0074】
発光素子として、窒化物系半導体(InXAlYGa1-X-YN、0≦X、0≦Y、X+Y≦1)を用いた半導体発光素子を用いることが好ましい。発光装置の励起光源として半導体発光素子を用いることによって、高効率で入力に対する出力のリニアリティが高く、機械的衝撃にも強い安定した発光装置を得ることができる。発光素子の発光スペクトルの半値幅は、例えば、30nm以下であることが好ましい。半値幅は、発光スペクトルにおける発光ピークの半値全幅(Full Width at Half Maximum,FWHM)をいい、発光スペクトルにおける発光ピークの最大値の50%の値を示す発光ピークの波長幅をいう。
【0075】
発光装置は、六方晶系の母体結晶を有し、好ましくは前記式(I)で表される組成を有するフッ化物蛍光体を用いることができる。六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体を第1蛍光体として用いて、第1蛍光体とは異なる発光ピーク波長を有する第2蛍光体を用いてもよい。第1蛍光体は、1種の蛍光体を単独で用いてもよく、2種以上の蛍光体を併用してもよい。第2蛍光体は、1種の蛍光体を単独で用いてもよく、2種以上の蛍光体を併用してもよい。
【0076】
発光装置の一例を図面に基づいて説明する。
図2は、発光装置の一例を示す概略断面図である。この発光装置は、表面実装型発光装置の一例である。
【0077】
発光装置100は、リード電極20、30と成形体42により形成された凹部を有するパッケージ40と、発光素子10と、発光素子10を被覆する封止部材50とを備える。発光素子10は、パッケージ40の凹部内に配置されており、パッケージ40に備えられた正負一対のリード電極20、30に導電性のワイヤ60によって電気的に接続されている。封止部材50は、凹部内に充填されており、発光素子10を被覆し、凹部を封止している。封止部材50は、例えば、発光素子10からの光を波長変換する蛍光体70と樹脂を含む。さらに蛍光体70は、第1蛍光体71と第2蛍光体72とを含む。正負一対のリード電極20、30は、その一部がパッケージ40の外側面に露出されている。これらのリード電極20、30を介して、外部から電力の供給を受けて発光装置100が発光する。
【0078】
封止部材50は、樹脂と蛍光体70とを含み、発光装置100の凹部内に載置された発光素子10を覆うように形成される。
【0079】
本開示は、以下の態様を包含してよい。
[項1]
アルカリ金属及びNH4
+からなる群から選択される少なくとも1種のイオンAと、第14族元素及び第4族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素Mと、Mnと、Fと、を含み、前記元素M、前記Mnの4価のイオン及び前記Fが錯イオンを形成し、Fのモル比を6としたときに、前記イオンAのモル比が、前記錯イオンの電荷の絶対値であり、4価の前記Mnのモル比が0.083以上0.25以下である組成を有し、六方晶系の母体結晶を有する、フッ化物蛍光体。
[項2]
前記母体結晶の結晶構造が、空間群P63mcに属する、項1に記載のフッ化物蛍光体。
[項3]
K2MnF6(空間群P63mc)で表される無機化合物の結晶構造と同一の結晶構造を母体結晶として有する、項1又は2に記載のフッ化物蛍光体。
[項4]
前記母体結晶が、格子定数a、b、cが、以下の数値を満たす、項1から3のいずれか1項に記載のフッ化物蛍光体。
a=5.65±0.01Å
b=5.65±0.01Å
c=9.25±0.02Å
[項5]
下記式(I)で表される組成を有する、項1から4のいずれか1項に記載のフッ化物蛍光体。
Aw[M1-vMn4+
vF6] (I)
(前記式(I)中、Aは、アルカリ金属及びNH4
+からなる群から選択される少なくとも1種のイオンであり、Mは、第14族元素及び第4族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、vは、0.083≦v≦0.25を満たす数であり、wは、[M1-vMn4+
vF6]で表される錯イオンの電荷の絶対値である。)
[項6]
ゼロフォノン線に対応する波長に発光ピークを有する、項1から5のいずれか1項に記載のフッ化物蛍光体。
[項7]
発光スペクトルにおいて、622nmに発光ピーク波長を有する、項1から6のいずれか1項に記載のフッ化物蛍光体。
[項8]
アルカリ金属及びNH4
+からなる群から選択される少なくとも1種のイオンAと、第14族元素及び第4族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素Mと、Mnと、フッ化水素の含有量が20質量%以上100質量%以下の範囲内である非水系フッ化水素含有液体と、を含む、非水系溶液を準備することと、
前記非水系溶液と、フッ化水素の含有量が20質量%未満である非水系有機液体と、を接触させて、六方晶系の母体結晶を有するフッ化物蛍光体を析出させることと、を含む、フッ化物蛍光体の製造方法。
[項9]
前記非水系溶液を準備することにおいて、前記非水系溶液100質量%に対して、前記イオンAの含有量が3.01質量%以上3.09質量%以下の範囲内であり、前記元素Mの含有量が0.76質量%以上1.00質量%以下の範囲内であり、前記Mnの含有量が0.21質量%以上0.63質量%以下の範囲内であり、残部が前記非水系フッ化水素含有液体である、項8に記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
[項10]
前記非水系溶液を準備することにおいて、前記非水系フッ化水素含有液体が、窒素含有複素環化合物類、アミン類、尿素類、アミド類、カルバミン酸類、トリアルキルホスフィン類、エーテル類、エステル類、アルコール類及び第4級アンモニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項8又は9に記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
[項11]
前記フッ化物蛍光体を析出させることにおいて、前記非水系有機液体が、ニトリル類、ケトン類、アミド類、エーテル類、窒素含有複素環化合物類、アミン類、フルオロ化合物類、エステル類、及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、項8から10のいずれか1項に記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
[項12]
前記フッ化物蛍光体を析出させることにおいて、前記非水系容液を連続的に撹拌しながら、前記非水系有機液体を滴下して、前記フッ化物蛍光体を析出させる、項8から11のいずれか1項に記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
[項13]
前記フッ化物蛍光体を析出させることにおいて、前記非水系溶液の撹拌速度が20rpmから1000rpmの範囲である、項12に記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
[項14]
前記フッ化物蛍光体を析出させることにおいて、前記非水系有機液体の滴下速度が、0.1mL/分以上10mL/分以下の範囲内である、項12又は13に記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
[項15]
前記フッ化物蛍光体を析出させることにおいて、前記非水系溶液と前記非水系有機液体との体積比が9:1から1:9の範囲である、項8から14のいずれか1項に記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
[項16]
前記フッ化物蛍光体を析出させることにおいて、前記非水系有機液体を接触させるときの前記第非水系溶液の温度が10℃以上40℃以下の範囲内であり、前記非水系溶液と接触させる前の前記非水系有機液体の温度が10℃以上40℃以下の範囲内であり、前記非水系溶液の温度と、前記非水系有機液体の温度の温度差が10℃未満である、項8から15のいずれか1項に記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
[項17]
析出された前記フッ化物蛍光体が六方晶系の母体結晶を有し、前記フッ化物蛍光体の母体結晶の結晶構造が、空間群P63mcに属し、前記フッ化物蛍光体が、下記式(I)で表される組成を有する、項8から16のいずれか1項に記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
Aw[M1-vMn4+
vF6] (I)
(前記式(I)中、Aは、アルカリ金属及びNH4
+からなる群から選ばれる少なくとも1種の第1イオンであり、Mは、第14族元素及び第4族元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の第1元素であり、vは、0.083≦v≦0.25を満たす数であり、wは、[M1-vMn4+
vF6]で表される錯イオンの電荷の絶対値である。)
【実施例0080】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0081】
実施例1
ヘキサフルオロケイ酸カリウム(K2SiF6)を7.14gと、ヘキサフルオロマンガン酸カリウム(K2MnF6)を3.43gと、を秤量し、それらを非水系フッ化水素含有液体90mLに溶解させて、非水系溶液を得る。非水系フッ化水素含有液体は、70質量%のフッ化水素と30質量%のピリジンを含むピリジン-HF錯体溶液を用いた。非水系溶液の100質量%に対して、イオンAであるK+の含有量、元素MであるSiの含有量、Mnの含有量は、表1に示すとおりである。
バッチ式の反応容器中の前述の非水系溶液を25℃に調整し、メカニカルスターラを用いて、30rpmで連続的に撹拌し、チューブ式の定量ポンプ(Pump33、HARVARD社製)を用いて、非水系有機液体として、約25℃のアセトニトリルの100mLを、1mL/分の速度で、100分間、連続的に滴下し、非水系液体混合物を得る。非水系有機液体として用いたアセトニトリルは、フッ化水素を実質的に含んでおらず、フッ化水素の含有量が実質的に0質量%である。非水系溶液と非水系有機液体の体積比は1:1であった。非水系液体混合物中に沈殿物が析出する。析出した沈殿物を固液分離後、アセトニトリルで洗浄し、次いでイソプロパノールで洗浄し、8時間、25℃で真空乾燥することで、K2[Si0.752Mn4+
0.248F6]で表される組成を有する実施例1のフッ化物蛍光体を作製する。
【0082】
実施例2から5
ヘキサフルオロケイ酸カリウム(K2SiF6)と、ヘキサフルオロマンガン酸カリウム(K2MnF6)を表1に示す量で用いたこと以外は、実施例1と同様にして、フッ化物蛍光体を作製する。非水系溶液の100質量%に対して、イオンAであるK+の含有量、元素MであるSiの含有量、Mnの含有量は、表1に示すとおりである。
【0083】
比較例1
ヘキサフルオロケイ酸(K2SiF6)を10.0gと、ヘキサフルオロマンガン酸カリウム(K2MnF6)を0.570gと、を秤量し、それらを非水系フッ化水素含有液体90mLに溶解させて、非水系溶液を得る。非水系フッ化水素含有液体は、70質量%のフッ化水素と30質量%のピリジンを含むピリジン-HF錯体溶液を用いた。非水系溶液の100質量%に対して、イオンAであるK+の含有量、元素MであるSiの含有量、Mnの含有量は、表1に示すとおりである。
バッチ式の反応容器中の非水系溶液を25℃に調整し、メカニカルスターラを用いて、30rpmで連続的に撹拌し、チューブ式の定量ポンプ(Pump33、HARVARD社製)を用いて、非水系有機液体として、約25℃のアセトニトリルを、1mL/分の速度で、100分間、連続的に滴下する。非水系有機液体として用いたアセトニトリルは、フッ化水素を実質的に含んでおらず、フッ化水素の含有量が実質的に0質量%である。非水系溶液と非水系有機液体の体積比は1:1である。非水系液体混合物中に沈殿物が析出した。析出した沈殿物を固液分離後、アセトニトリルで洗浄し、次いでイソプロパノールで洗浄し、8時間、25℃で真空乾燥することで、フッ化物蛍光体として、K2[Si0.962Mn4+
0.038F6]で表される組成を有する比較例1のフッ化物蛍光体を作製する。
【0084】
【0085】
実施例1から5及び比較例1の各フッ化物蛍光体について、以下の評価を行った。結果を表2に示す。
【0086】
Mn含有量(mol%)
各フッ化物蛍光体について、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置(PS3500DD-II、株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて、Mn含有量(質量%)を測定し、得られた各フッ化物蛍光体の元素組成比からMn含有量(mol%)を算出した。
【0087】
P6
3mc比率(質量%)
各フッ化物蛍光体について、X線回折スペクトル(XRD)を測定した。測定は、全自動水平型多目的X線回折装置(SmartLab、株式会社リガク製)にて、CuKα線を用いて行った。実施例及び比較例の各フッ化物蛍光体の回折角度(2Theta[度])に対する強度(任意単位)を表すX線回折パターンを
図3に示す。得られた各フッ化物蛍光体のX線回折(XRD)の測定結果から、RIR法を用いてフッ化物蛍光体の全体量中の六方晶系のP6
3mcの比率(質量%)を求めた。RIR値として、ICDDに登録されている立方晶系のc-K
2SiF
6(No.01-081-2264)と、六方晶系のh-K
2SiF
6(No.01-076-2927)を使用した。
【0088】
発光寿命t1/2(msec)(残光時間)
発光寿命は、発光ピーク波長が460nmである励起光を各フッ化物蛍光体に照射し、分光蛍光光度計(FP-8500DS、日本分光株式会社製)を用いて、励起光の照射を遮断した時点を基準時とし、基準時から各フッ化物蛍光体から発せられる発光強度の経時変化を測定し、励起光を照射したときの発光強度を基準強度100%とし、時間変化に対する発光強度変化を、一次の指数関数的減衰曲線でカーブフィッティング解析して導き出された半減期(t1/2)を発光寿命(t1/2)(msec)として算出した。発光寿命が短いほど、残光時間が短時間であることを表す。
【0089】
発光スペクトル及び強度比(I
622nm/I
631nm)
各フッ化物蛍光体について、分光蛍光光度計(FP-8500DS、日本分光株式会社製)を用いて、発光ピーク波長が460nmである励起光により励起させた各フッ化物蛍光体から発せられる発光の550nm以上700nm以下の範囲内の発光スペクトルを測定した。
図4は、実施例1に係るフッ化物蛍光体の発光スペクトルを示す。
図5は、比較例1に係るフッ化物蛍光体の発光スペクトルを示す。フッ化物蛍光体の発光スペクトルにおいて、ゼロフォノン線(ZPL)の1.993eVを基準とし、フォノン遷移に伴う-29meVの変異に相当する波長である631nmにおける発光強度
I631nmに対する、ZPLに相当する波長である622nmにおける発光強度I
622nmの強度比I
622nm/I
631nmを算出した。
【0090】
【0091】
表2に示すように、フッ化物蛍光体の組成において、4価のMnのモル比が0.083以上であると、フッ化物蛍光体中に六方晶系の母体結晶が、全体量に対して27質量%以上含まれ、全体量に対して六方晶系の母体結晶の含有割合が4分の1(25質量%)以上と大きくなり、ZPLによって発光する割合が多くなり、残光時間を8msec以下に短くすることができる。また、フッ化物蛍光体の組成において、4価のMnのモル比が0.083以上であると、発光スペクトルにおける強度比I622nm/I631nmが0.1を超えて、強度比I622nm/I631nmが0.371以上と大きくなり、ZPLによって発光する割合が多くなり、残光時間を8msec以下に短くすることができる。
【0092】
図3に示すように、実施例1から5に係るフッ化物蛍光体のXRDスペクトルは、六方晶系のK
2SiF
6のXRDスペクトルの回折角度(2Theta[度])とほぼ同位置にピークを有し、六方晶系の母体結晶を有することが確認できた。
一方、比較例1に係るフッ化物蛍光体のXRDスペクトルは、立方晶系のK
2SiF
6のXRDスペクトルの回折角度(2Theta[度])とほぼ同位置にピークを有し、立方晶系の母体結晶を有することが確認できた。
【0093】
図4は、実施例1に係るフッ化物蛍光体の発光スペクトルを示す。実施例1に係るフッ化物蛍光体は、発光スペクトルにおいて、複数の発光ピークを有する。実施例1に係るフッ化物蛍光体の発光スペクトルにおいて、最大のピークトップを有する発光ピークに対して最大のピークトップの高さの50%以上の高さのピークトップを有する発光ピークのうち、1つの発光ピークのピークトップの波長が622nmにあり、622nmに発光ピーク波長を有する。フッ化物蛍光体の発光スペクトルにおいて、622nmの発光ピーク波長は、フッ化物蛍光体のZPLに対応する波長である。実施例1に係るフッ化物蛍光体は、発光スペクトルにおいて、622nmに発光ピーク波長を有し、ZPLによって発光する。
【0094】
図5は、比較例1に係るフッ化物蛍光体の発光スペクトルを示す。比較例1に係るフッ化物蛍光体は、発光スペクトルにおいて、複数の発光ピークを有し、最大のピークトップを有する発光ピークに対して、最大のピークトップの高さの50%以上の高さのピークトップを有する発光ピークのうち、ピークトップが622nmにある発光ピークを有していない。比較例1に係るフッ化物蛍光体は、発光スペクトルにおいて、622nmに発光ピーク波長を有しておらず、ZPLによって発光しない。
本開示のフッ化物蛍光体は、発光ダイオードを励起光源とする液晶バックライト用途のみならず、照明用光源、プロジェクター用途等の光源、LEDディスプレイ、信号機、照明式スイッチ、各種センサ、各種インジケータ、及び小型ストロボ等に好適に利用できる。
10:発光素子、20、30:リード電極、40:パッケージ、42:成形体、50:封止部材、60:ワイヤ、70:蛍光体、71:第1蛍光体、72:第2蛍光体、100:発光装置。