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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122605
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】オリゴデンドロサイト分化促進剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20240902BHJP
   A61K 31/216 20060101ALI20240902BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20240902BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240902BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240902BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K31/216
A61K31/19
A61P43/00 121
A61P43/00 105
C12N15/12 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030235
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福光 聡
(72)【発明者】
【氏名】桑田 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】礒田 博子
【テーマコード(参考)】
4B018
4C206
【Fターム(参考)】
4B018MD08
4B018MD10
4B018MD66
4B018ME14
4B018MF01
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA13
4C206DB20
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZC01
(57)【要約】
【課題】オリゴデンドロサイト分化誘導促進剤を提供することを目的とする。
【解決手段】ロスマリン酸(A)とカルノシン酸(B)とを含有し、その含有比率B/Aが1.0~1.5であるローズマリー含水エタノール抽出物を有効成分として含む、オリゴデンドロサイトの分化に関わる遺伝子の発現促進用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロスマリン酸(A)とカルノシン酸(B)とを含有し、その含有比率B/Aが1.0~1.5であるローズマリー含水エタノール抽出物を有効成分として含む、オリゴデンドロサイトの分化に関わる遺伝子の発現促進用組成物。
【請求項2】
オリゴデンドロサイトの分化に関わる遺伝子が、OLIG1及び/又はOLIG2である、請求項1記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばオリゴデンドロサイト分化促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
オリゴデンドロサイトは、アストロサイト、マイクログリア及び上衣細胞と並び、中枢神経系を構成するグリア細胞の一つである。オリゴデンドロサイトの主要機能は、(1)ニューロンの軸索周囲にミエリン鞘(髄鞘)と呼ばれる幾重にも巻き付いた分厚い絶縁層を形成することにより神経電気信号を跳躍伝導させて神経電位をニューロンの軸索末端へ迅速に伝達させること、(2)ニューロンの軸索を強固に保護すること、(3)神経栄養因子の産生を通じてニューロンに栄養を補給することである。このようなオリゴデンドロサイトは、グリア芽細胞からオリゴデンドロサイト前駆細胞を経て分化される。ミエリン形成を踏まえ、より具体的には、グリア芽細胞がニューロン軸索上で遊走ないし増殖する第一過程、グリア芽細胞の突起が伸長し始める第二過程、ニューロン軸索の周囲に幾重もの層を形成していくミエリン成熟する第三過程において、第一過程と第二過程の初期とにある状態がオリゴデンドロサイト前駆細胞と称されている。なお、条件によっては、グリア芽細胞はアストロサイトに分化することもある。
【0003】
ミエリン鞘は、炎症や外傷等により損傷を受け、時に脱落し(このような状態を脱髄という)、その機能低下ないしは機能不全が起こることは広く知られており、多発性硬化症がその典型例である。健全であれば、ミエリン鞘が損傷を受けても、すぐさまオリゴデンドロサイト前駆細胞の分化が誘導され、ミエリン鞘が修復され、その機能が再度発揮されるようになる。しかしながら、加齢や神経変性疾患等においては、オリゴデンドロサイト前駆細胞の分化能が低下し、あるいは適切に分化誘導されなくなり、損傷を受けたミエリン鞘が修復されない状態に陥ることとなる。その結果、脱髄したニューロンの軸索における神経電位の伝達速度が極端に遅くなり、様々な脳機能ないしは神経機能の障害が引き起こされる。近年では、アルツハイマー病や筋委縮性側索硬化症等の神経変性疾患、統合失調症等の精神疾患にもミエリン鞘の損傷(脱落を含む)が関与していることが示唆されている。各種方面から研究が重ねられているが、損傷を受けたミエリン鞘を修復させる効果的な治療薬は未だ見出されていないのが現状である。
【0004】
一方、OLIG1及びOLIG2遺伝子は、オリゴデンドロサイトの分化誘導に関与しており、特に、OLIG2においては遺伝子発現の亢進によりオリゴデンドロサイトの細胞数が増幅することが知られている(非特許文献1~4)。このようなOLIG1及びOLIG2等のオリゴデンドロサイトの分化誘導に関わる遺伝子群の発現を亢進させることにより脱髄に起因する各種の疾病を改善できることが期待されており、従来において、そのような遺伝子発現を亢進させる組成物が求められていた。
【0005】
他方、ローズマリーを用いた各種の生理機能に関する研究が為されている。地中海沿岸地方原産のローズマリーは、シソ科に属する常緑性低木であり、ハーブティー等の原料として広く親しまれている栽培作物の一つである。また、水蒸気蒸留法により得られるローズマリー精油は、伝統療法における治療薬としても利用されている。このようなローズマリーにはロスマリン酸やカルノシン酸が含有されており、特にロスマリン酸はアミロイドβの凝集(認知症の原因の一つ)を抑制し(非特許文献5)、認知症の改善又は治療に使用する薬剤として期待されている。しかしながら、ロスマリン酸やカルノシン酸が、OLIG1及びOLIG2遺伝子等のオリゴデンドロサイトの分化誘導に関わる遺伝子群に対する作用については知られていなかった。
【0006】
また、ニューロンやアストロサイトを新生する化合物について種々検討されており、カテキン(特許文献1)やDHA(非特許文献6)、オーラプテン(非特許文献7)がその作用を有していることが知られている。しかしながら、オリゴデンドロサイトの分化誘導に作用する食品ないしは食品素材由来の成分は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-161606号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Richard Luら, Cell, 2002年, 第109巻, pp. 75-86
【非特許文献2】Qiao Zhouら, Neuron, 2000年, 第25巻, pp. 331-343
【非特許文献3】Hirohide Takebayashiら, Current Biology, 2002年, 第12巻, pp. 1157-1163
【非特許文献4】Amelie Wegenerら, Brain, 2015年, 第138巻, 第1号, pp. 120-135
【非特許文献5】T. HASEら, Scientific Reports, 2019年, 第9巻, 8711
【非特許文献6】E. KAWAKITAら, Neuroscience, 2006年, 第139巻, pp. 991-997
【非特許文献7】日薬理誌, 155巻, pp. 214-219 (2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の実情に鑑み、オリゴデンドロサイトの分化を誘導するために用いることができる、オリゴデンドロサイト分化誘導促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、特定のローズマリー抽出物がオリゴデンドロサイトの分化に関わる遺伝子の発現を促進することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下を包含する。
[1]ロスマリン酸(A)とカルノシン酸(B)とを含有し、その含有比率B/Aが1.0~1.5であるローズマリー含水エタノール抽出物を有効成分として含む、オリゴデンドロサイトの分化に関わる遺伝子の発現促進用組成物。
[2]オリゴデンドロサイトの分化に関わる遺伝子が、OLIG1及び/又はOLIG2である、[1]記載の組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るオリゴデンドロサイト分化促進剤を摂取することにより、オリゴデンドロサイトの分化に関わる遺伝子の発現が亢進され、その結果としてオリゴデンドロサイトの分化を促進することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る組成物は、ロスマリン酸(A)とカルノシン酸(B)とを含有し、その含有比率B/Aが1.0~1.5であるローズマリー含水エタノール抽出物を有効成分として含む、オリゴデンドロサイトの分化に関わる遺伝子の発現促進用組成物である。
【0014】
ローズマリーは、肉の臭い消し、茶、アロマテラピー等飲食等の生活に利用する素材として古くから知られている。このようなローズマリーは、その生育条件(土壌や気候等)により含まれる芳香性成分が多様であることが知られており、その特徴的な芳香性成分を併記してローズマリー・カンファー、ローズマリー・ベルベノン、ローズマリー・シネオール等と呼称されることがある。本発明に用いるローズマリーは、特に限定されるものではなく、それらの何れであってもよい。
【0015】
本発明において有効成分として含有するローズマリー抽出物は、ロスマリン酸(A)とカルノシン酸(B)とを含有し、その含有比率B/Aが1.0~1.5であるローズマリー含水エタノール抽出物である。
【0016】
本発明において、このようなローズマリー抽出物を得るための出発原料は、それ自身を乾燥させた乾燥物、あるいはその粉砕物でも良く、ローズマリーの部位は特に問わないが、葉が好ましい。あるいは、水蒸気蒸留法による精油の副産物(残渣)又はその乾燥物を用いてもよい。乾燥手段は、特に限定されず、例えば天日干し又は乾燥機を用いる手段等公知の手段であってよい。なお、水蒸気蒸留法とは、植物から精油を得る為の手段として古くから知られている(藤巻正生ら「香料の事典」p366.1980年8月27日発行/朝倉書店;亀高徳平ら「理論応用有機化学/第21版」p13.昭和26年4月5日発行/丸善出版)。具体的には、蒸気抜け口を有する密閉函体中にローズマリー原料を投入し、密閉函体内に加熱した水蒸気を連続的に供給し、蒸気抜け口に接続した配管に過熱水蒸気を誘導し、配管内で加熱水蒸気を冷却することによりローズマリー精油を水蒸気と共に冷却捕集し、捕集容器内で水と分離する方法である。分離した上清がローズマリー精油原液であり、下層がフローラルウォーターである。フローラルウォーターは、植物の芳香成分がわずかに溶け込んでおり、化粧水等のスキンケア等にも使用されている。水蒸気蒸留による函体内残存物がローズマリー水蒸気蒸留副産物(残渣)である。
【0017】
本発明において使用するローズマリー抽出物は、前記出発原料を含水エタノールにより抽出した液相のことであり、その液相の濃縮物ないしは濃縮乾固物であってもよい。含水エタノールの最終エタノール濃度は特に限定されるものではないが、エタノール濃度(v/v)が50~90%であることが好ましい。
【0018】
具体的な抽出方法としては、例えば、ローズマリー又はそのエッセンシャルオイル抽出残渣を前記抽出溶媒とを混合し、室温で1~5時間攪拌又は抽出溶媒を加温して、1~5時間還流して抽出を行った後、ろ過や遠心分離等により抽出液から試料残渣を取り除き、減圧又は限外ろ過により抽出物を濃縮する方法が挙げられる。また必要に応じて酸若しくはアルカリによる加水分解を行う。さらに、抽出液を乾固、減圧乾燥、凍結乾燥、スプレードライ等の一般的な方法により乾燥させることも出来る。
【0019】
このようにして得られたローズマリー含水エタノール抽出物は、ロスマリン酸(A)及びカルノシン酸(B)を含み、その含有比率B/Aが1.0~1.5である。
【0020】
一方、本発明において、オリゴデンドロサイトの分化に関わる遺伝子とは、既知の文献や実際の実験結果によりDAVIDのデータベースに登録された遺伝子群を指し、2022年11月8日現在で登録されている遺伝子の一例を、下記の一覧表1に示す。従って、オリゴデンドロサイトの分化に関わる遺伝子としては、一覧表1に列挙された遺伝子群から選択される1以上の遺伝子が挙げられる。本発明に係る組成物は、老化促進モデルマウスの海馬領域においてオリゴデンドロサイトの分化に関わる遺伝子群の発現を有意に増加させることができる。これにより、オリゴデンドロサイトの分化が効果的に誘導され、脱髄や損傷を受けたミエリン鞘の修復を促進することが期待できる。
【0021】
特に、オリゴデンドロサイトの分化に関わる遺伝子は、OLIG1及び/又はOLIG2である。これら遺伝子は、オリゴデンドロサイトの分化において特に重要なイベントを担っている。本発明に係る組成物は、老化促進モデルマウスの海馬領域におけるOLIG1及びOLIG2のmRNA発現量を増加させることができる。これにより、オリゴデンドロサイトの分化が効果的に誘導され、脱髄や損傷を受けたミエリン鞘の修復を促進することが期待される。
【0022】
Oligodendrocyte transcription factor 1(OLIG1)は、オリゴデンドロサイト及びその前駆細胞で発現する、塩基性へリックスループヘリックス構造を持つ転写因子である。OLIG1は、オリゴデンドロサイトの仕様及び分化に重要な役割を果たしているだけでなく、ミエリン鞘の修復にも不可欠である。また、オリゴデンドロサイト前駆細胞の分化方向性の決定、分化、及びその後のミエリン鞘の形成を促進する役割を担っている。特に、オリゴデンドロサイトの発達や成熟において重要な役割を担っている(Richard Luら, Cell, 2002年, 第109巻, pp. 75-86;及びJinxiang Daiら, The Journal of Neuroscience, 2015年, 第35巻, 第10号, pp. 4386-4402)。
【0023】
Oligodendrocyte transcription factor 2(OLIG2)は、オリゴデンドロサイト及びその前駆細胞で発現する、塩基性へリックスループヘリックス構造を持つ転写因子である。OLIG2は、オリゴデンドロサイトの仕様及び分化に重要な役割を果たしているだけでなく、ミエリン鞘の修復にも不可欠である。特に前駆細胞においては分化を引き起こす起因となる重要な役割を担っており、前駆細胞のオリゴデンドロサイトへの分化に不可欠なものである(Richard Luら, Cell, 2002年, 第109巻, pp. 75-86;Jinxiang Daiら, The Journal of Neuroscience, 2015年, 第35巻, 第10号, pp. 4386-4402;及びMiki Furushoら, Developmental Biology, 2006年, 第293巻, 第2号, pp. 348-357)。
【0024】
本発明に係る飲食品又は医薬品は、本発明に係る組成物を含むものであり、効果に実質的な影響を及ぼさない限り、当業者に公知のその他の各種成分が含まれていても良い。上記の諸効果を有する各種剤を含有する本発明に係る飲食品又は医薬品の種類、形態、及びその他の含有成分等に特に制約にはなく、当業者に公知の任意の各種方法で容易に調製することが出来る。例えば、本発明に係る医薬品は、例えば錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などの固形剤、又は、注射剤などの液剤等いずれの形態にも公知の方法により適宜調製することができる。これらの医薬品には通常用いられる結合剤、崩壊剤、増粘剤、分散剤、再吸収促進剤、矯味剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤やpH調製剤等の賦形剤を適宜使用してもよい。本発明に係る医薬品は、経口的にあるいは非経口的に適宜に使用される。すなわち、経口、静脈、腹腔内の投与等によって所望の効果を表すものである。本発明に係る医薬品における有効成分の投与量は、その種類、その剤型、又患者の年令、体重、適応症状等によって異なるが、例えば経口投与の場合は、成人一日1回又は数回投与され、1日当たり1~1000mg、好ましくは20~500mg程度の本発明におけるローズマリー含水エタノール抽出物を投与するのがよい。また、本発明に係る飲食品の形態としては、例えば、顆粒状、粒状、ペースト状、ゲル状、固形状、又は、液体状に任意に成形することが出来る。これらには、食品中に含有することが認められている当業者に公知の各種物質、例えば、結合剤、崩壊剤、増粘剤、分散剤、再吸収促進剤、矯味剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤やpH調製剤等の賦形剤を適宜含有させることが出来る。
【0025】
経口剤の態様とする場合は、有効成分(本発明におけるローズマリー含水エタノール抽出物)に、例えば賦形剤(例えば、乳糖、白糖、デンプン、マンニトール)、崩壊剤(例えば、炭酸カルシウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム)、結合剤(例えば、α化デンプン、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニールピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース)又は滑沢剤(例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール6000)を添加して圧縮成形し、次いで必要により、味のマスキング、腸溶性あるいは持続性の目的のため自体公知の方法でコーティングすることにより製造することができる。コーティング剤としては、例えばエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリオキシエチレングリコール、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート及びオイドラギット(登録商標、ローム社製、ドイツ、メタアクリル酸・アクリル酸共重合物)等を用いることができる。
【0026】
注射剤の態様とする場合は、有効成分(本発明におけるローズマリー含水エタノール抽出物)を分散剤(例えば、ツイーン(Tween)80(登録商標、アトラスパウダー社製、米国)、HCO60(登録商標、日光ケミカルズ製)、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等)、保存剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、ベンジルアルコール、クロロブタノール、フェノール)、等張化剤(例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、ソルビトール、ブドウ糖、転化糖)等と共に水性溶剤(例えば、蒸留水、生理的食塩水、リンゲル液等)あるいは油性溶剤(例えば、オリーブ油、ゴマ油、綿実油、コーン油等の植物油、プロピレングリコール)等に溶解、懸濁あるいは乳化することにより製造することができる。この際、所望により溶解補助剤(例えば、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウム)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカイン)等の添加物を添加してもよい。
【0027】
外用剤の態様とする場合は、有効成分(本発明におけるローズマリー含水エタノール抽出物)を固状、半固状又は液状の組成物とすることにより製造することができる。例えば、上記固状の組成物は、有効成分をそのまま、あるいは賦形剤(例えば、ラクトース、マンニトール、デンプン、微結晶セルロース、白糖)、増粘剤(例えば、天然ガム類、セルロース誘導体、アクリル酸重合体)等を添加、混合して粉状とすることにより製造できる。上記液状の組成物は、注射剤の場合とほとんど同様にして製造できる。半固状の組成物は、水性又は油性のゲル剤、あるいは軟骨状のものがよい。また、これらの組成物は、いずれもpH調節剤(例えば、炭酸、リン酸、クエン酸、塩酸、水酸化ナトリウム)、防腐剤(例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、塩化ベンザルコニウム)等を含んでいてもよい。坐剤は、有効成分を油性又は水性の固状、半固状あるいは液状の組成物とすることにより製造できる。該組成物に用いる油性基剤としては、高級脂肪酸のグリセリド〔例えば、カカオ脂、ウイテプゾル類(ダイナマイトノーベル社製)〕、中級脂肪酸〔例えば、ミグリオール類(ダイナマイトノーベル社製)〕、あるいは植物油(例えば、ゴマ油、大豆油、綿実油)が挙げられる。水性基剤としては、ポリエチレングリコール類、プロピレングリコールが挙げられる。また、水性ゲル基剤としては、天然ガム類、セルロース誘導体、ビニール重合体、アクリル酸重合体が挙げられる。
【0028】
また、本発明は、本発明に係る組成物を含有する食品に関する。本発明に係る組成物は、健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品、栄養補助食品、栄養機能食品等の保健機能食品、特別用途食品(例えば、病者用食品)、疾病リスク低減表示を付した食品、健康補助食品、サプリメント等として調製されてもよい。サプリメントとして、例えば、一般的なサプリメントの製造に用いられる種々の添加剤と共に錠剤、丸状、カプセル(ハードカプセル、ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)状、粉末状、顆粒状、細粒状、トローチ状、液状(シロップ状、乳状、懸濁状を含む)等の形状とすることができる。また液状、半液体状もしくは固体状にしたもの、ペースト状にしたもの、又は、一般の飲食品へ添加したものであってもよい。
【0029】
本発明に係る食品は、本発明におけるローズマリー含水エタノール抽出物を有効量含んでなるものである。食品には、本発明におけるローズマリー含水エタノール抽出物をそのまま、又はそれらを含む組成物の形態で、配合することができる。
【0030】
本発明に係る組成物の効果については、例えば本発明に係る組成物を老化促進モデルマウスに経口投与し、飼育した後、摘出した当該マウスの脳の海馬領域におけるオリゴデンドロサイトの分化に関わる遺伝子のmRNAレベルの発現量を測定し、当該組成物を与えていないマウスから摘出した脳の海馬領域における同遺伝子のmRNAレベルの発現量等の陰性対照と比較して、発現量が有意に高い場合には、本発明に係る組成物は、有用な効果を有するものと判断することができる。
【0031】
本発明に係る組成物は、オリゴデンドロサイト分化関連遺伝子の発現を促進することにより、オリゴデンドロサイト分化関連遺伝子を介した症状又は疾患の予防、緩和、又は治療等に使用することができる。そのような症状又は疾患としては、以下に限定されるものではないが、例えば、多発性硬化症や異染性白質ジストロフィーの改善、麻痺や感覚障害、失明や認知機能の改善、アルツハイマー病、筋委縮性側索硬化症等の精神疾患や統合失調症や躁うつ病等の精神疾患が挙げられる。
【実施例0032】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0033】
〔実施例1〕ローズマリー抽出物の調製
水蒸気蒸留によりエッセンシャルオイル成分を除去したローズマリー葉乾燥物を得た。このローズマリー葉乾燥物50gに80%含水エタノール(v/v)500mLを加えて50℃で攪拌しながら3時間加熱した後、固液分離により得られた液体部分をエバポレーターで減圧留去して濃縮物(ローズマリー抽出物)を得た。ロットの異なるローズマリー葉乾燥物を用い、同様に濃縮物を4点調製した。各ロットの濃縮物におけるロスマリン酸とカルノシン酸の含有率と含有比率を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて測定した(表1)。その結果、ロスマリン酸:カルノシン酸の含有比率が1:1.0~1.5の濃縮物が得られることが示された。
【0034】
〈HPLC分析条件〉
・装置:Shimadzu Nexera HPLC system
・分析カラム:kinetex C18 100A (2.6 μm, 100 x 4.6 mm、Phenomenex Inc. USA)
・移動相:
移動相A, アセトニトリル
移動相B, 3 mM ギ酸 + 0.05% アセトニトリル
・分析プログラム:
0-3分, 100% B; 3-10分, 40% B; 10-15分, 40% B; 15-16分, 0% B; 16-17分, 0% B; 17-18分, 100% B; 18-20分, 100% B
・移動相の流速:1.0 ml/min
・インジェクション量:5 μL
・カラムオーブンの温度:30 ℃
・検出吸収波長:ロスマリン酸328 nm, カルノシン酸284 nm
【0035】
【表1】
【0036】
〔実施例2〕マウスの飼育条件及び試料投与
実施例1のロット(4)のローズマリー抽出物を表2に記載のマウス(いずれも日本チャールス・リバー株式会社)に対し、表3の投与量になるように経口投与した。各群のマウス10匹を個別ケージで飼育し、通常食及び水の摂取が自由に行える環境下で飼育した。1週間の飼育環境への馴化後、水及び上記ローズマリー抽出物を水に懸濁した溶液の経口投与をゾンデ及びシリンジを用いて実施した(1日1回を30日間)。
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
〔実施例3〕定量的RT-PCRによるOlig1及びOlig2のmRNA発現レベルの測定
実施例2におけるローズマリー抽出物の経口投与によるOlig1とOlig2のmRNA発現への影響を評価するため、経口投与完了後の各群全マウスの脳の海馬領域におけるそれぞれの発現量を測定した。
【0040】
実施例2における試料投与終了後の各群のマウスの脳組織の海馬領域を摘出し、ISOGEN KIT(ニッポンジーン社)を用いてマニュアルに従ってTotal RNAを抽出した。Total RNAはNanoDrop 2000分光光度計(Thermo Scientific社)で定量した。Applied Biosystems(登録商標) 7500リアルタイムPCRシステム(Thermo Scientific社)を用い、下記作業表1,2に従いリアルタイムRT-PCRを行った。定量解析にあたり、試験群2~4のOLIG1及びOLIG2の遺伝子発現量は、ΔΔCT法に基づき、試験群1(SAMR1水投与群)におけるOLIG1及びOLIG2の遺伝子発現量を100%とした時の相対値で示した(GAPDHをリファレンス遺伝子とした)。
【0041】
表4に結果を示す。水を投与した老化モデルマウスSAMP8(試験群2)におけるOLIG1とOLIG2の発現量は、水を投与した標準マウスSAMR1(試験群1)よりもかなり低かった。ローズマリー抽出物を投与した老化モデルマウスSAMP8では、そのローズマリー抽出物の投与量に依存してOLIG1とOLIG2の遺伝子発現量が増加した。この結果から、ローズマリー抽出物の投与は、オリゴデンドロサイトの分化の中心的役割を担うOLIG1及びOLIG2の遺伝子発現を促進することが分った。
【0042】
【表4】
【0043】
作業表1:逆転写反応
【0044】
作業表2:PCR反応
【0045】
〔実施例4〕DNAマイクロアレイ法によるオリゴデンドロサイト関連遺伝子群の発現解析
実施例3において、試験群1~4のマウスから調製したTotal RNA 100ngを用い、表5に記載の組合せになるように、作業表3に従ってDNAマイクロアレイによる遺伝子発現解析を行った。当該解析の一連の操作は、作業表3中に記載のキット、装置並びにソフトウェアの付属マニュアルに従った。なお、DAVIDは、DNAマイクロアレイでシグナル強度に差異のあった遺伝子を、生物学的機能に基づいて分類されたグループに紐づけることにより、どのような生物学的機能に影響があったかを評価することができる(Journal of Oral Health and Biosciences 29(2):55~62,2017, P.57「V.DAVID」)。また、本解析ではFold changeが1.1以上、且つP<0.05の遺伝子のみを選出して実施した。
【0046】
oligodendrocyte differentiationグループ(一覧表1参照)に着目した結果を表5に示す。試験群2(老化促進マウスSAMP8の水投与群)に対し、試験群3(老化促進マウスSAMP8のローズマリー抽出物20mg投与群)及び試験群4(老化促進マウスSAMP8のローズマリー抽出物50mg投与群)におけるオリゴデンドロサイトの分化に関わる遺伝子群のシグナルがローズマリー抽出物の投与量の増加に従って有意に強くなることが認められた。一方、試験群1(対照マウスSAMR1の水投与群)に対し、試験群2(老化促進マウスSAMP8の水投与群)におけるオリゴデンドロサイトの分化に関わる遺伝子群のシグナルに差異はあったものの、優位ではなかった。以上のことから、老化促進マウスへローズマリー抽出物を投与することにより、オリゴデンドロサイトの分化に関わる遺伝子群の発現が促進され、オリゴデンドロサイトの分化に伴ってニューロン軸索周囲へのミエリン鞘形成、ニューロン軸索の保護及びニューロンへの栄養補給がなされ、神経機能(シグナル伝達等)を正常に行えるようにすることが推察された。
【0047】
【表5】
【0048】
作業表3:DNAマイクロアレイによる遺伝子発現解析
【0049】
一覧表1:oligodendrocyte differentiationにグループ化された遺伝子の一覧
【産業上の利用可能性】
【0050】
オリゴデンドロサイトの分化促進は、神経細胞間の神経伝達の活性化を促すため、認知機能のみならずうつ病、統合失調症等の神経変性疾患に対する予防や改善が期待される。本発明に係るローズマリー抽出物を含む経口組成物及び医薬は、医薬品、食品等様々な分野や適用可能であり、本発明は産業上きわめて有用である。
【配列表】
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