(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122634
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】イタコン酸ジエステル共重合体、樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
C08F 222/14 20060101AFI20240902BHJP
【FI】
C08F222/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030292
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 優也
(72)【発明者】
【氏名】摺出寺 浩成
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AL44Q
4J100AL46P
4J100BC08P
4J100CA04
4J100DA01
4J100DA04
4J100JA32
(57)【要約】 (修正有)
【課題】耐熱性、透明性が高く、且つフレキシブル性の高い成形体とすることができ、光学フィルムへの使用に適しており、且つ環境負荷が低い材料、及びその用途を提供する。
【解決手段】下記式(A1-1)で表される単位、及び下記式(A1-2)で表される単位を有する、イタコン酸ジエステル共重合体である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(A1-1)で表される単位(A1-1)、及び下記式(A1-2)で表される単位(A1-2)を有する、イタコン酸ジエステル共重合体であって:
【化1】
式(A1-1)中、-R
1は-R
X又は-R
Yであり、-R
2は-R
X又は-R
Yであり、但し-R
1及び-R
2の一方又は両方は-R
Xであり、
-R
Xは、ノルボルニル基又は置換基を備えるノルボルニル基であり、
-R
Yは、炭素数1~6の炭化水素基であり、
式(A1-2)中、-R
3及び-R
4は、独立して、炭素数1~10の直鎖又は分枝鎖のアルキル基である、
イタコン酸ジエステル共重合体。
【請求項2】
式(A1-1)中、-R1及び-R2の両方が-RXである、請求項1に記載のイタコン酸ジエステル共重合体。
【請求項3】
単位(A1-1)と単位(A1-2)との重量比(A1-1)/(A1-2)が、5/90以上、60/40以下である、請求項1に記載のイタコン酸ジエステル共重合体。
【請求項4】
重量平均分子量Mwが9,000以上260,000以下であり、数平均分子量Mnが4,000以上96,000以下である、請求項1に記載のイタコン酸ジエステル共重合体。
【請求項5】
分子量分布Mw/Mnが1.05以上10以下である、請求項1に記載のイタコン酸ジエステル共重合体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のイタコン酸ジエステル共重合体を含む樹脂。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載のイタコン酸ジエステル共重合体を含む成形体。
【請求項8】
フィルム状の形状を有する、請求項7に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なイタコン酸ジエステル共重合体、及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂材料の一種として、イタコン酸ジエステルの重合体が知られている(例えば、特許文献1~3)。イタコン酸ジエステルの重合体は、高屈折率、透明性等の特性を生かし、光学フィルム等のフィルムを構成する材料として用いられている。イタコン酸は、トウモロコシなどの生物由来の材料からの合成が可能であるため、イタコン酸ジエステルの重合体は、化石資源のみから製造される材料に比べて、環境負荷が低く且つ持続可能性の高い材料としうる可能性があるという利点をも有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2015-507047号公報
【特許文献2】特開昭62-222201号公報
【特許文献3】特開平10-279528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液晶表示装置等の画像表示装置に適用するための光学フィルムには、耐熱性が高く、且つ透明性が高いことが求められる。また、搬送、保存及び取り扱いの便宜のために、光学フィルムは、そのフレキシブル性が高く、曲げても容易に破断しないものであることが求められる。
【0005】
したがって本発明の目的は、耐熱性が高く、透明性が高く、且つフレキシブル性の高い成形体とすることができ、光学フィルムへの使用に適しており、且つ環境負荷が低い材料、及びその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記の課題を解決するべく検討した。その結果、本発明者は、新規なイタコン酸ジエステル共重合体により前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、下記の通りである。
【0007】
(1) 下記式(A1-1)で表される単位(A1-1)、及び下記式(A1-2)で表される単位(A1-2)を有する、イタコン酸ジエステル共重合体であって:
【化1】
式(A1-1)中、-R
1は-R
X又は-R
Yであり、-R
2は-R
X又は-R
Yであり、但し-R
1及び-R
2の一方又は両方は-R
Xであり、
-R
Xは、ノルボルニル基又は置換基を備えるノルボルニル基であり、
-R
Yは、炭素数1~6の炭化水素基であり、
式(A1-2)中、-R
3及び-R
4は、独立して、炭素数1~10の直鎖又は分枝鎖のアルキル基である、
イタコン酸ジエステル共重合体。
(2) 式(A1-1)中、-R
1及び-R
2の両方が-R
Xである、(1)に記載のイタコン酸ジエステル共重合体。
(3) 単位(A1-1)と単位(A1-2)との重量比(A1-1)/(A1-2)が、5/90以上、60/40以下である、(1)又は(2)に記載のイタコン酸ジエステル共重合体。
(4) 重量平均分子量Mwが9,000以上260,000以下であり、数平均分子量Mnが4,000以上96,000以下である、(1)~(3)のいずれか1項に記載のイタコン酸ジエステル共重合体。
(5) 分子量分布Mw/Mnが1.05以上10以下である、(1)~(4)のいずれか1項に記載のイタコン酸ジエステル共重合体。
(6) (1)~(5)のいずれか1項に記載のイタコン酸ジエステル共重合体を含む樹脂。
(7) (1)~(5)のいずれか1項に記載のイタコン酸ジエステル共重合体を含む成形体。
(8) フィルム状の形状を有する、(7)に記載の成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐熱性が高く、透明性が高く、且つフレキシブル性の高い成形体とすることができ、光学フィルムへの使用に適しており、且つ環境負荷が低い重合体及び樹脂、並びに耐熱性が高く、透明性が高く、且つフレキシブル性が高く、光学フィルムへの使用に適しており、且つ環境負荷が低い成形体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について、実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0010】
(イタコン酸ジエステル共重合体)
本発明の共重合体は、下記式(A1-1)で表される単位(A1-1)、及び下記式(A1-2)で表される単位(A1-2)を有する、イタコン酸ジエステル共重合体である。
【0011】
【0012】
式(A1-1)中、-R1は-RX又は-RYであり、-R2は-RX又は-RYであり、但し-R1及び-R2の一方又は両方は-RXである。即ち、単位(A1-1)において、-R1及び-R2の一方又は両方は-RXであり、-R1及び-R2のうちの一方のみが-RXである場合、他方は-RYである。
式(A1-1)中、-R1及び-R2の両方が-RXであることが好ましい。-R1及び-R2の両方が-RXであることにより、耐熱性を特に向上させることができる。単位(A1-1)が2つの-RXを含む場合、それらは同一であっても異なってもよい。
【0013】
式(A1-1)中、-RXは、ノルボルニル基又は置換基を備えるノルボルニル基である。具体的には、-RXは、下記式(A2)で表される、ノルボルナン環を骨格とした基としうる。
【0014】
【0015】
式(A2)中、*-はノルボルナン環とカルボン酸部分COOとを結合する結合手である。-RXXはノルボルナン環に結合する置換基であり、nは0~11の整数である。即ち、-RXは、イタコン酸のカルボン酸部分に結合するノルボルナン環からなる基であるか、またはイタコン酸のカルボン酸部分に結合するノルボルナン環と、当該環の炭素原子に結合する置換基とからなる基である。結合手*-及び置換基-RXXは、ノルボルナン環の1位~7位の任意の位置の炭素原子に結合しうる。一つの基-RXに置換基-RXXが複数存在する場合、それらは同一でもよく異なっていてもよい。また、複数の基-RXXが結合して、ノルボルナン環と縮合した状態の縮合環を構成してもよい。
【0016】
置換基-RXXの例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロキル基等のアルキル基;アルキリデン基;アルケニル基;及び極性基が挙げられる。
極性基の例としては、ヘテロ原子、及びヘテロ原子を有する原子団が挙げられる。ヘテロ原子の例としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、及びハロゲン原子が挙げられる。
極性基のより具体的な例としては、フルオロ基、クロル基、ブロモ基、ヨード基等のハロゲン基;カルボキシル基;カルボニルオキシカルボニル基;エポキシ基;ヒドロキシ基;オキシ基;アルコキシ基;エステル基;シラノール基;シリル基;アミノ基;ニトリル基;スルホン基;シアノ基;アミド基;及びイミド基が挙げられる。
【0017】
飽和吸水率が低く耐湿性に優れるイタコン酸ジエステル共重合体を得る観点からは、基-RXは、置換基-RXXとして有する極性基の数が少ないことが好ましく、極性基を有さないことがより好ましい。
【0018】
-RYが存在する場合、-RYは、炭素数1~6の炭化水素基である。-RYの具体例としては、炭素数1~6の直鎖又は分枝のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、及びフェニル基が挙げられる。
【0019】
好ましくは、-R1及び-R2は、両方が-RXである。より好ましくは、-R1及び-R2の両方が-RXであり、-RXのそれぞれにおいて、n=0であり、且つ結合手*-はノルボルナン環の2位に結合する。即ち、単位(A1-1)は、好ましくは下記式(A1-1-1)で表される単位(A1-1-1)である。単位(A1-1-1)は、容易に合成することができ、且つ、本発明の効果を良好に得ることができるため特に好ましい。
【0020】
【0021】
単位(A1-1-1)は、イタコン酸ジノルボルニルを重合させることにより得られる単位である。即ち、単位(A1-1-1)は、イタコン酸ジノルボルニルを重合させて重合体を得た場合に、当該重合体を構成する単位である。
【0022】
式(A1-2)中、-R3及び-R4は、独立して、炭素数1~10の直鎖又は分枝鎖のアルキル基である。-R3及び-R4は、同一であっても異なってもよい。製造の容易性の観点からは、-R3及び-R4は同一の基であることが好ましい。-R3及び-R4の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基及びオクチル基が挙げられる。これらのうちプロピル基~オクチル基については、直鎖のものであっても分枝鎖のものであってもよい。-R3及び-R4のより具体的な例としては、メチル基、ブチル基、及び分枝鎖のオクチル基である2-エチルヘキシル基が、材料の入手の容易性、及び得られる共重合体に容易に所望の物性を付与しうる特性等の観点から好ましい。
【0023】
さらに具体的な例として、-R3及び-R4は、両方が-メチル基であるか、両方がn-ブチル基であるか、又は両方が2-エチルヘキシル基であるものとしうる。これらはそれぞれ、イタコン酸ジメチルを重合させることにより得られる単位、イタコン酸ジn-ブチルを重合させることにより得られる単位、及びイタコン酸ジ(2-エチルヘキシル)を重合させることにより得られる単位である。
【0024】
本発明の共重合体における、単位(A1-1)及び(A1-2)の共重合の形式は、ランダム共重合、ブロック共重合等の任意の形式としうる。製造が容易で、且つ所望の物性を容易に得ることができるという観点からは、ランダム共重合であることが好ましい。
【0025】
本発明の共重合体における、単位(A1-1)及び(A1-2)の比率は、所望の物性を得ることができるよう適宜調整しうる。具体的には、単位(A1-1)と単位(A1-2)との重量比(A1-1)/(A1-2)は、好ましくは5/90以上、より好ましくは10/80以上であり、一方好ましくは60/40以下、より好ましくは50/50以下である。
【0026】
本発明の共重合体は、単位(A1-1)及び(A1-2)以外の単位を含んでいてもよいが、好ましくは、単位(A1-1)及び(A1-2)のみを単位とする共重合体である。即ち、本発明の共重合体は、好ましくは、連結する単位(A1-1)及び単位(A1-2)の鎖と、当該鎖の末端に位置する末端基のみからなる。末端基は特に限定されず、重合反応の結果生じた、水素原子などの任意の基としうる。本発明の共重合体が単位(A1-1)及び(A1-2)以外の単位を含む場合、共重合体に占める単位(A1-1)及び(A1-2)の比率は、好ましくは95重量%以上、より好ましくは99重量%以上である。
【0027】
1分子の共重合体中に存在する単位(A1-1)は、1種類のみであってもよく、又は複数種類の単位(A1-1)が共存していてもよい。1分子の共重合体中に存在する単位(A1-2)も、1種類のみであってもよく、又は複数種類の単位(A1-2)が共存していてもよい。製造が容易で、且つ所望の物性を容易に得ることができるという観点からは、単位(A1-1)及び(A1-2)がいずれも1種類ずつのみであることが好ましい。
【0028】
本発明の共重合体は、ランダム共重合体である場合、明確なガラス転移温度Tgが観測されない場合がある。本発明の共重合体がガラス転移温度Tgを有する場合、Tgは特定の範囲内であることが好ましい。Tgは、好ましくは110℃以上、より好ましくは140℃以上であり、一方好ましくは300℃以下、より好ましくは280℃以下である。かかる範囲内のTgを有することにより、耐熱性が高いフィルムの材料として、特に有用に用いることができる。ガラス転移温度Tgは、示差走査熱量分析計(例えば株式会社日立ハイテクサイエンス社製「DSC7000X」)を用いて、JIS K 6911に基づき、昇温速度10℃/分の条件で測定しうる。
【0029】
本発明の共重合体は、その重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnが特定の範囲内であることが好ましい。Mwは、好ましくは9,000以上、より好ましくは10,000以上、さらにより好ましくは50,000以上であり、一方好ましくは260,000以下、より好ましくは255,000以下、さらにより好ましくは250,000である。Mnは、好ましくは4,000以上、より好ましくは20,000以上、さらにより好ましくは40,000以上であり、一方好ましくは96,000以下、より好ましくは90,000以下、さらにより好ましくは85,000である。分子量が前記下限以上であることにより、耐熱性が高いフィルムの材料として、特に有用に用いることができる。分子量が前記上限以下であることにより、良好な加工性を得ることができる。
共重合体の分子量(重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mn)は、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定し、標準ポリスチレン換算値として求めうる。
【0030】
本発明の共重合体は、その分子量分布、即ち重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnが特定の範囲内であることが好ましい。Mw/Mnは、好ましくは1.05以上、より好ましくは1.1以上、さらにより好ましくは1.2以上であり、一方好ましくは10以下、より好ましくは8以下、さらにより好ましくは4.5以下である。Mw/Mnが前記下限以上であることにより、耐熱性が高いフィルムの材料として、特に有用に用いることができる。特に、85℃といった光学フィルムが耐久することが求められる高い温度においての耐熱性を特に向上させることができる。Mw/Mnが前記上限以下であることにより、高い柔軟性を得ることができる。
【0031】
本発明の共重合体は、下記工程(I)及び(II)を含む製造方法により製造しうる。
工程(I):単位(A1-1)に対応するイタコン酸ジエステル単量体(A1-1)を合成する工程。
工程(II):工程(I)で得たイタコン酸ジエステル単量体(A1-1)と、単位(A1-2)に対応するイタコン酸ジエステル単量体(A1-2)とを含む単量体組成物を重合させる工程。
【0032】
工程(I)は、イタコン酸を、基-R1及び基-R2に対応する構造を有する化合物(即ち、基-RXに対応する構造を有する化合物、又は基-RXに対応する構造を有する化合物及び基-RYに対応する構造を有する化合物の組み合わせ)によりエステル化することにより行いうる。
【0033】
単量体(A1-1)として、上に述べた単位(A1-1-1)に対応する単量体を製造する場合を例にとり説明すると、工程(I)ではイタコン酸ジノルボルニルを合成する。かかる合成の反応の例としては、下記式(A3)で表される反応、及び下記式(A4)で表される反応が挙げられる。
【0034】
【0035】
【0036】
式(A3)の反応は、ノルボルネンを大過剰にすることにより、円滑に進行させることができる。式(A3)の反応における酸触媒としては、酸基を有するイオン交換樹脂(例えば、オルガノ株式会社製、商品名「アンバーリスト15dry」)を使用しうる。式(A4)の反応における酸触媒としては、上に述べたもの等の酸基を有するイオン交換樹脂、又は酢酸を用いうる。反応の条件は、一般的なエステル化及びエステル交換の条件に適合したものを適宜選択しうる。
【0037】
工程(II)において使用する、単位(A1-2)に対応するイタコン酸ジエステル単量体(A1-2)は、既知の合成方法で合成しうる。具体的には、イタコン酸と、-R3を有する化合物及び-R4を有する化合物(例えばR3-OH及びR4-OH又はその誘導体等)とのエステル化反応により、単量体(A1-2)を得うる。または、単量体(A1-2)としては、市販品を利用しうる。
【0038】
単量体組成物は、単量体(A1-1)及び単量体(A1-2)に加えて、任意の成分を含みうる。具体的には、単量体(A1-1)及び単量体(A1-2)以外の任意の単量体が挙げられる。
【0039】
単量体組成物における単量体(A1-1)及び単量体(A1-2)の比率は、所望の単位の比率を有する共重合体が得られるよう適宜調整することができる。具体的には、上に述べた、共重合体における単位(A1-1)及び(A1-2)の比率と同じ比率としうる。単量体組成物が任意の単量体を含む場合、単量体組成物中の全ての単量体における単量体(A1-1)及び単量体(A1-2)の比率は、上に述べた、共重合体に占める単位(A1-1)及び(A1-2)の比率と同じ比率としうる。
【0040】
単量体組成物は、重合開始剤等の重合反応のための成分を含みうる。重合開始剤としては、既知の、イタコン酸エステル等の重合に用いることが知られている重合開始剤を適宜選択して使用しうる。重合開始剤の例としては、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロオニトリル)が挙げられる。重合開始剤の使用量は、好ましい使用量として知られている範囲の量となるよう適宜調整しうる。
【0041】
工程(II)における、単量体組成物の重合は、窒素置換環境下等の適切な環境下において、単量体組成物を加熱する等して反応させることにより行いうる。反応の条件は、好ましい条件として知られる既知の条件を採用しうる。反応終了後必要に応じて精製等の処理を行い、目的の共重合体を得ることができる。
【0042】
本発明の共重合体は、上に述べた通りイタコン酸を主な原料として製造することができ、且つイタコン酸は、トウモロコシなどの生物由来の材料からの合成が可能である。したがって、本発明の共重合体、及びそれを元に製造した本発明の樹脂及び成形体は、化石資源のみから製造される材料に比べて、環境負荷が低く且つ持続可能性の高い材料とすることができる。本発明の共重合体のバイオ化率(材料全体の重量に占める、生物由来としうる材料の重量の割合)は、30%以上であることが好ましい。本発明の共重合体の分子のうち、イタコン酸由来の分子部分は、バイオ化率の計数において、「生物由来としうる材料」としうる。例えば、-R1及び-R2がノルボルニル基である単位(A1-1)と、-R3及び-R4がメチル基である単位(A1-2)との、重量比50/50の共重合体の場合、そのバイオ化率は61%となる。バイオ化率の上限は、特に限定されないが例えば100%以下としうる。
【0043】
(樹脂)
本発明の樹脂は、上に述べた本発明の共重合体を含む。本発明の樹脂は、本発明の共重合体のみからなってもよく、本発明の共重合体に加えて、任意の成分を含んでいてもよい。かかる任意の成分の例としては、紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、帯電防止剤、分散剤、塩素捕捉剤、難燃剤、結晶化核剤、強化剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、離型剤、顔料、有機又は無機の充填剤、中和剤、滑剤、分解剤、金属不活性化剤、汚染防止剤、抗菌剤などが挙げられる。本発明の樹脂は、任意の成分として、1種類のみを含んでも良く、2種類以上を任意の比率で含んでもよい。但し、本発明の効果を有効に発現する観点から、本発明の樹脂における本発明の共重合体の含有割合は大きな値であることが好ましい。具体的には、本発明の樹脂における本発明の共重合体の含有割合は、好ましくは80重量%~100重量%、より好ましくは90重量%~100重量%、特に好ましくは95重量%~100重量%としうる。
【0044】
本発明の樹脂に占める本発明の共重合体の割合が95重量%以上といった大きな割合であると、本発明の樹脂の物性は、通常その主成分である本発明の共重合体のそれと同様となり、その好ましい範囲も、本発明の共重合体のそれと同様となる。例えば本発明の共重合体がガラス転移温度を有する場合は、樹脂全体としてのガラス転移温度は、上に述べた本発明の共重合体のガラス転移温度Tgと同じであることが好ましい。
【0045】
(成形体)
本発明の成形体は、上に述べた本発明の共重合体を含む。具体的には、上に述べた本発明の樹脂を、所望の形状に成形し、当該樹脂からなる成形体を構成し、これを本発明の成形体として使用しうる。より具体的な例として、本発明の成形体は、フィルム状の形状とし、光学フィルム等の用途に使用しうる。さらに具体的な例として、本発明の成形体は、液晶表示装置、エレクトロルミネッセンス表示装置などの表示装置において、保護フィルム、位相差フィルム等の光学フィルムとして用いうる。本発明の成形体は、上に述べた本発明の共重合体を含むことにより、耐熱性が高く、透明性が高く、且つフレキシブル性の高い光学フィルムの材料として、特に有用に用いることができる。加えて、イタコン酸ジエステルの共重合体の有用な特性(高屈折率、透明性、生物学的材料からの合成が可能であり環境負荷が低い、等)を有利に享受しうる光学フィルムとして用いることができる。
【実施例0046】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。以下の操作は、別に断らない限り、常温常圧大気中にて行った。
【0047】
(評価方法)
(共重合体の分子量の測定方法)
共重合体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定し、標準ポリスチレン換算値として求めた。
標準ポリスチレンとしては、東ソー社製標準ポリスチレン(Mw=500、1010、2550、5970、10200、18100、37900、106000、190000、427000、706000)を用いた。
測定は、東ソー社製カラム(東ソー製 TSKgel SuperH5000、TSKgel SuperH4000及びTSKgel SuperH2000)を3本直列に繋いで用い、流速0.6mL/分、サンプル注入量20μL、カラム温度40℃の条件で行った。
【0048】
(ガラス転移温度Tgの測定方法)
試料のガラス転移温度Tgは、示差走査熱量分析計(株式会社日立ハイテクサイエンス社製「DSC7000X」)を用いて、JIS K 6911に基づき、昇温速度10℃/分の条件で測定した。明確なピークが検出されなかった場合はTg無しとした。
【0049】
(フィルム耐熱性の評価方法:85℃1h)
試料である樹脂を、200℃、2MPaでプレスし、直径3cm程度、厚み150μm程度の円盤状のフィルムを評価サンプルとして作製した。評価サンプルを、ポリイミドフィルムの上に載置し、85℃の加熱オーブンの中に1時間静置し、加熱を行った。加熱終了後の評価サンプルの状態を観察し、下記の評価基準に基づいて評価した。
◎:加熱前から変化なし。
○:加熱終了後に評価サンプル内に気泡が発生した。但し、評価サンプルのポリイミドフィルムへの付着は発生しなかった。
△:加熱終了後に評価サンプル内に気泡が発生し、且つ、評価サンプルがポリイミドフィルムに若干付着した。
×:評価サンプルが融解し、ポリイミドフィルムに付着した。
【0050】
(フィルム耐熱性の測定方法:60℃1h)
オーブン温度を60℃に変更した他は、上に述べた85℃1hの耐熱性の測定と同じ操作を行い測定した。
【0051】
(フレキシブル性の評価方法)
試料である樹脂を、200℃、2MPaでプレスし、直径3cm程度、厚み50~100μm程度の円盤状のフィルムを調製した。このフィルムを手で折り曲げて、下記の評価基準に基づいて評価した。
○:90°以上曲がる。
△:45°以上曲がるが、90℃以上は曲がらない。
×:45°以上は曲がらない。
【0052】
(透明性の評価方法)
試料である樹脂を、200℃、2MPaでプレスし、直径3cm程度、厚み150μm程度の円盤状のフィルムを評価サンプルとして作製した。透明性の評価として、この評価サンプルのヘイズをJIS K7361-1997に準拠して、「NDH-7000」(日本電色工業社製)を用いて測定した。下記の基準に従って評価した。
〇:ヘイズが1%以下である。
×:ヘイズが1%超である。
【0053】
(製造例1.イタコン酸ジノルボルニル)
内部をアルゴン置換した反応容器に、室温にて下記の材料を入れて混合し、混合物とした。
【0054】
イタコン酸 100重量部
ヒドロキノン 5.5重量部
トルエン 4523重量部
アンバーリスト15dry(商品名、オルガノ株式会社製、酸触媒としてのイオン交換樹脂) 2重量部
80%ノルボルネン/トルエン溶液 394重量部
【0055】
混合物9400gを80℃に保ち、終夜撹拌し、材料を反応させた。その後、混合物から固体をろ別し、ろ液を回収した。ろ液を蒸留水1.8Lで1回、5%NaOH水溶液3.6Lで1回、飽和食塩水3.6Lで1回、分液洗浄した。得られた有機層に硫酸ナトリウムを加えて乾燥させた。乾燥後の有機層から固体をろ別し、ろ液を回収し濃縮した。この操作により粗生成物を得た。
【0056】
粗生成物をシリカゲルカラム精製(SiO2 2.8kg、ヘプタン/トルエン=1/1→ヘプタン/酢酸エチル=10/1)にて精製した後、40℃高減圧下で溶媒を除去し、目的のイタコン酸ジノルボルニルを得た。
【0057】
[実施例1]
(1-1)イタコン酸ジエステル共重合体の製造:
ガラス製反応容器に、下記の材料を入れて混合し、重合反応混合物とした。
【0058】
(重合反応混合物)
イタコン酸ジノルボルニル(単量体、製造例1で製造したもの) 50重量部
イタコン酸ジメチル(単量体、市販品) 50重量部
2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロオニトリル) 1.30重量部
【0059】
重合反応混合物を、窒素で15分間バブリングし、反応容器内を窒素置換した。混合物を30℃で60時間加温し、重合反応させた。加温を停止し重合反応を停止させ、ランダム共重合したイタコン酸ジエステル共重合体を含む、共重合体溶液を得た。得られたイタコン酸ジエステル共重合体の重量平均分子量Mwは221,026であり、重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnから求めた分子量分布は2.56であった。また、単量体の共重合体への転化率をガスクロマトグラフィーにより測定した(重合反応混合物1gを取り出し、これに内部標準としてドデカンを0.2g添加し、さらに貧溶媒を加えて重合体を析出させ、未反応の単量体をガスクロマトグラフィーで定量化した)ところ、80%であった。
【0060】
共重合体溶液を、THFで50%に希釈し、大量の貧溶媒(メタノール/アセトン/水=2/1/1)中に注ぎ、共重合体を沈殿させた。沈殿した共重合体を濾取した後に、共重合体と同重量のTHFで希釈し再度、大量の貧溶媒(メタノール/アセトン/水=2/1/1)中に注ぎ、共重合体を沈殿させた。沈殿した共重合体を濾取した後に、真空乾燥機(70℃、1Torr)で18時間乾燥させて、イタコン酸ジエステル共重合体樹脂を得た。得られたイタコン酸ジエステル共重合体樹脂を試料として、イタコン酸ジエステル共重合体のガラス転移温度Tgを測定したところ、明確なガラス転移温度が観測されなかった。
【0061】
(1-2)評価:
(1-1)で得られた共重合体樹脂について、耐熱性(85℃1時間)、耐熱性(60℃1時間)、透明性及びフレキシブル性を評価した。
【0062】
[実施例2~7及び比較例1~5]
(1-1)のイタコン酸ジエステル共重合体の製造において、重合反応混合物における単量体の割合を、表1~表2に示す通り変更した他は、実施例1と同じ操作を行い、ランダム共重合体又は単独重合体の樹脂を得て評価した。比較例3については、樹脂をフィルム化することができず、耐熱性、透明性及びフレキシブル性の評価を行うことができなかった。
【0063】
実施例及び比較例の結果を、表1~表2に示す。
【0064】
【0065】
【0066】
DNI:イタコン酸ジノルボルニル(製造例1にて製造したもの)
DMI:イタコン酸ジメチル(市販品)
DBI:イタコン酸ジn-ブチル(市販品)
DOI:イタコン酸ジ(2-エチルヘキシル)(市販品)
BA:アクリル酸ブチル(市販品)
Tgの「-」は、明確なTgが観測されなかったことを示す。
【0067】
実施例及び比較例の結果より、本発明の共重合体を含む樹脂を成形したフィルムは、耐熱性、透明性及びフレキシブル性のいずれにも優れることが分かる。