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特開2024-122717水素発生用電極、水素発生用電極の製造方法、水素発生用電極の再生方法、及び、水素の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122717
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】水素発生用電極、水素発生用電極の製造方法、水素発生用電極の再生方法、及び、水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/061 20210101AFI20240902BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240902BHJP
   C25B 11/04 20210101ALI20240902BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20240902BHJP
   C25B 11/077 20210101ALI20240902BHJP
【FI】
C25B11/061
C25B1/04
C25B11/04
C25B11/052
C25B11/077
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030410
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】中野 博昭
(72)【発明者】
【氏名】谷ノ内 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】石橋 孟士
(72)【発明者】
【氏名】大原 秀樹
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA06
4K011AA27
4K011AA50
4K011BA02
4K011BA08
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021BB01
4K021BB05
4K021DC03
(57)【要約】
【課題】電解処理による水素の製造において、電気エネルギーを水素の有する物質のエネルギーに高効率に変換することに寄与し得る水素発生用電極を、従来よりも、低コストで製造できるようにすることを目的とする。
【解決手段】金属板からなる基材と、前記基材の表面に形成されている複合膜と、からなり、前記複合膜は、金属と、前記金属の金属化合物と、が接する界面を含んで構成されている、水素発生用電極とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板からなる基材と、前記基材の表面に形成されている複合膜と、からなり、
前記複合膜は、金属と、前記金属の金属化合物と、が接する界面を含んで構成されている、
水素発生用電極。
【請求項2】
前記金属がニッケルであり、前記金属化合物が水酸化ニッケル又は酸化ニッケルである、
請求項1に記載の水素発生用電極。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水素発生用電極の製造方法であって、
前記基材を陰極として電解浴に浸漬して電解処理を行うことによって、前記基材の表面に、前記複合膜を形成する工程を含んでなる、
水素発生用電極の製造方法。
【請求項4】
前記金属がニッケルであって、前記電解浴の電解液のニッケル濃度が、0.1mol/L以上0.5mol/L以下である、
請求項3に記載の水素発生用電極の製造方法。
【請求項5】
前記電解浴の電解液のpHが、2.0以上5.0以下である、
請求項3に記載の水素発生用電極の製造方法。
【請求項6】
前記電解処理を行う時の陰極電流密度が、100A/m以上1000A/m以下である、
請求項3に記載の水素発生用電極の製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の水素発生用電極の再生方法であって、
素の発生に寄与する活性が劣化或いは喪失した前記水素発生用電極を、電解浴に浸漬して電解処理を行うことによって、前記基材に前記複合膜を形成する工程を含んでなる、
水素発生用電極の再生方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の水素発生用電極を、アルカリ性の電解浴に浸漬して電解処理を行うことによって、水素を発生させる、
水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素発生用電極、水素発生用電極の製造方法、水素発生用電極の再生方法、及び、水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球規模の気候変動対策として、温室効果ガス(CHG)、特に二酸化炭素(CO)の排出量の削減により低炭素社会の実現を目指す世界的な動きが加速しており、エネルギー基盤についても、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換が求められている。この流れの中で、例えば、鉄鋼製造に用いられるコークスの水素による代替や自動車のガソリンの水素による代替等、水素エネルギーをエネルギー基盤として利用する技術が注目を集めている。
【0003】
水素は、水というありふれた物質を電気分解することによって製造することができるので、低炭素社会におけるエネルギー基盤として極めて有望である。但し、水素を、広くエネルギー基盤として利用するためには、電気エネルギーを水素の有する物質のエネルギーに高効率に変換できる技術が必要である。
【0004】
電気エネルギーを水素の有する物質のエネルギーに高効率に変換することを企図した技術として、例えば、特許文献1には、第一層に酸化ニッケル又は酸化コバルトを有する活性陰極が開示されている。しかしながら、この活性陰極を製造するためには、酸化ニッケルや酸化コバルトの粉末を予め準備しなければならず製造コストが嵩む点に問題があった。
【0005】
又、同様の技術として、特許文献2には、水素発生用電極の製造方法と電気分解方法が開示されている。しかしながら、この水素発生用電極は、高価な白金を使用するものである。電極は使用により次第に消耗するのでランニングコストを大きく圧迫することになる。このように、この水素発生用電極も製造コストが嵩む点に問題があった。
【0006】
又、特許文献3には、低水素過電圧で且つ被膜強度に優れた電解用陰極が開示されている。しかしながら、この電解用陰極を製造するためには、プラズマ溶射や塗布焼結の加熱処理等、高温条件が必要なプロセスが必要であり、酸化ニッケルの作製は別途実施しなければならず、製造に複数の工程が必要である等、製造コストが嵩む点に問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平08-296079号公報
【特許文献2】特開2019-210541号公報
【特許文献3】特開2001-234379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、電解処理による水素の製造において、電気エネルギーを水素の有する物質のエネルギーに高効率に変換することに寄与し得る水素発生用電極を、従来よりも、低コストで製造できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、効率的な水素発生用の陰極板を研究する過程において電析ニッケルの気泡痕を調査しているときに、ニッケル(Ni)と、酸素を含むニッケル化合物(水酸化物又は酸化物)とが接する界面には、水素発生触媒作用があること、及び、電解法を用いることで、金属板からなる基材の表面にそのような界面を含む複合膜を生成できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は、以下のものを提供する。
【0010】
(1) 金属板からなる基材と、前記基材の表面に形成されている複合膜と、からなり、前記複合膜は、金属と、前記金属の金属化合物とが接する界面を含んで構成されている、水素発生用電極。
【0011】
(1)の水素発生用電極は、水素製造のための電解処理における過電圧を抑制し、水素発生時のエネルギーロスを削減することができる。そして、この水素発生用電極は、水素製造用の電極として従来品と同等若しくはそれ以上の好ましい上記性能を有するものでありながら、従来品とは異なり、常温において簡易なプロセスによって、低コストで製造することができる。又、(1)の水素発生用電極は、酸性の電解浴のみならず、アルカリ性の電解浴での使用時にも、電極の消耗の進行を抑制しながら、効率よく水素を発生させることができる。更に、(1)の水素発生用電極は、長期の使用継続により電極の消耗が進んだ場合であっても、簡易なプロセスによって低コストで再生することができる。このように、(1)の水素発生用電極は、近年需要が拡大しつつある水素の製造において、製造コストの削減に様々な面で寄与することができる。
【0012】
(2) 前記金属がニッケルであり、前記金属化合物が水酸化ニッケル又は酸化ニッケルである、(1)に記載の水素発生用電極。
【0013】
(2)の水素発生用電極は、広くニッケル製錬プロセスにおいて用いられている陰極板と同様に、ニッケル板を基材とした陰極板によって、(1)に記載の水素発生用電極の奏する上記効果をより安定的に享受することができる。
【0014】
(3) (1)又は(2)に記載の水素発生用電極の製造方法であって、前記基材を陰極として電解浴に浸漬して電解処理を行うことによって、前記基材の表面に、前記複合膜を形成する工程を含んでなる、水素発生用電極の製造方法。
【0015】
(3)の水素発生用電極の製造方法によれば、水素製造のための電解処理における過電圧を抑制し、水素発生時のエネルギーロスを削減することができるという点において、従来品と同等若しくはそれ以上の好ましい性能を有する水素発生用電極を、従来品とは異なり、常温において簡易なプロセスによって、低コストで製造することができる。更に、この水素発生用電極は、長期の使用継続により電極の消耗が進んだ場合であっても、簡易なプロセスによって低コストで再生することもできる。このように、(3)の水素発生用電極の製造方法によれば、近年需要が拡大しつつある水素の製造におけるコストの削減に様々な面で寄与することができる。
【0016】
(4) 前記金属がニッケルであって、前記電解浴の電解液のニッケル濃度が、0.1mol/L以上0.5mol/L以下である、(3)に記載の水素発生用電極の製造方法。
【0017】
(4)の水素発生用電極の製造方法によれば、このような電解条件の最適化調整によって、水素発生触媒作用を有する上記の界面を、より確実に、より多く形成することができる。
【0018】
(5) 前記電解浴の電解液のpHが、2.0以上5.0以下である、(3)に記載の水素発生用電極の製造方法。
【0019】
(5)の水素発生用電極の製造方法によれば、このような電解条件の最適化調整によって、水素発生触媒作用を有する上記の界面を、より確実に、より多く形成することができる。
【0020】
(6) 前記電解処理を行う時の陰極電流密度が、100A/m以上1000A/m以下である、(3)に記載の水素発生用電極の製造方法。
【0021】
(6)の水素発生用電極の製造方法によれば、このような電解条件の最適化調整によって、水素発生触媒作用を有する上記の界面を、より確実に、より多く形成することができる。
【0022】
(7) (1)又は(2)に記載の水素発生用電極の再生方法であって、水素の発生に寄与する活性が劣化或いは喪失した前記水素発生用電極を、電解浴に浸漬して電解処理を行うことによって、前記基材に前記複合膜を形成する工程を含んでなる、水素発生用電極の再生方法。
【0023】
(7)の水素発生用電極の再生方法によれば、(1)又は(2)に記載の水素発生用電極であって、水素の発生に寄与する活性が劣化或いは喪失したものについて、常温において簡易なプロセスによって、再活性化することができる。これにより、(1)又は(2)に記載の水素発生用電極を、小さな再生コストで長期に亘って繰り返し使用することができる。このように、(8)の水素発生用電極の再生方法によれば、近年需要が拡大しつつある水素の製造におけるコストの削減に寄与することができる。
【0024】
(8) (1)又は(2)に記載の水素発生用電極を、アルカリ性の電解浴に浸漬して電解処理を行うことによって、水素を発生させる、水素の製造方法。
【0025】
(8)の水素の製造方法によれば、既存の電極の一部においては、電極の消耗が激しく水素の製造方法として選択することができなかったアルカリ性の電解浴による電解処理を行う場合においても、電極の消耗の進行を抑制しながら、効率よく水素を発生させることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、電解処理による水素の製造において、電気エネルギーを水素の有する物質のエネルギーに高効率に変換することに寄与し得る水素発生用電極を、従来よりも、低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の水素発生用電極を用いて行う水素の製造方法を酸性の電解浴で行った場合における電位と電流の関係を示すグラフ図である。
図2】本発明の水素発生用電極を用いて行う水素の製造方法をアルカリ性の電解浴で行った場合における電位と電流の関係を示すグラフ図である。
図3】本発明の水素発生用電極を用いて行う水素の製造方法について、実施例3、比較例2及び参考例のカソード分極曲線を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下において、本発明の水素発生用電極、その製造方法、その再生方法、及び、本発明の水素発生用電極を用いた水素の製造方法の実施形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0029】
<水素発生用電極>
本発明の水素発生用電極(以下、単に「水素発生用電極」とも言う)は、水素を製造するために行われる電解処理に用いる陰極板である。そして、この「水素発生用電極」は、水素の発生を促進する触媒としての機能を発揮する特定構造の複合膜、即ち、金属と、当該金属の金属化合物(好ましくは、金属水酸化物又は金属酸化物)とが接する界面を含んで構成されている複合膜(以下、「特定構造の複合膜」とも言う。)を、基材の表面に備えることを主たる特徴とする。尚、本明細書において「金属」という場合には特段の断りのない限り、「純金属」又はこれに準ずる実質的に単一元素からなる金属(例えば0.1%以下の不純物を有するものも含む)のことを言うものとする。又、一例としてニッケルについて、「純金属」又はこれに準ずるものを、「金属ニッケル」と称する。
【0030】
「水素発生用電極」の基材を構成する金属としては、ニッケルを好ましく用いることができるが、これに限らず、その他の金属、例えば、鉄、銅、クロム、アンチモン、モリブデン、タングステン等を用いることもできる。そして、本発明の水素発生用電極は、これらの各種の金属と当該金属の水酸化物等によって上述の「特定構造の複合膜」が形成されているものとすることもできる。
【0031】
又、「水素発生用電極」における特徴的な構成部分である「特定構造の複合膜」を構成する「金属(一例としてNi)」は基材と同一の金属(Ni)であることが好ましい。又、「特定構造の複合膜」を構成する「金属化合物」は、上記「金属(Ni)」の水酸化物(Ni(OH))又は酸化物(NiO)であることが好ましいが、その他の化合物(例えば、硫化物、塩化物等)であってもよい。
【0032】
そして、「水素発生用電極」は、以下に詳細を説明する本発明の水素発生用電極の製造方法を用いることによって、低コストで製造することができること、及び、同じく詳細を後述する本発明の水素発生用電極の再生方法によって、低コストで再生して、繰り返し再利用することができることを、従来品に対する有利な効果として奏し得るものである。
【0033】
<水素発生用電極の製造方法>
本発明の水素発生用電極の製造方法(以下、単に「水素発生用電極の製造方法」とも言う)は、上述した本発明の水素発生用電極の製造方法として最適な製造方法である。この「水素発生用電極の製造方法」においては、金属板からなる基材を、金属イオンを含有した電解浴に浸漬して、陰極として電解処理に付し、「金属」と「金属化合物」とを電析させる工程が行われる。この工程を経ることによって、陰極上に「金属」を電析させると共に、金属水酸化物や金属酸化物等の「金属化合物」も共析させ、電極の基材の表面に上記の「特定構造の複合膜」を形成して、本発明の水素発生用電極を製造することができる。
【0034】
「水素発生用電極の製造方法」の実施態様の一例として、ニッケルイオンを含有した電解浴から電解操作により、「金属ニッケル」と、水酸化ニッケル又は酸化ニッケル等の「ニッケル化合物」と、を基材の表面に同時に形成し、上記の「特定構造の複合膜」を基材の表面に形成する実施態様を挙げることができる。この場合において、水素の発生効率を向上させるためには、「金属ニッケル」と、「ニッケル化合物」とが接する界面をできるだけ多く形成させることが重要である。電析法においては、「金属ニッケル」と水酸化ニッケル又は酸化ニッケルが同時に析出するので、電析膜(複合膜)の中にこのような界面を多数形成することができる。
【0035】
そして、「水素発生用電極」においては、「金属ニッケル」と「ニッケル化合物」とが接する界面で水素発生が促進されるので、このような界面が、より確実に、より多く形成されるように電解条件やマスキング箇所を調整することが好ましい。
【0036】
電解条件の最適化調整の一例として、「水素発生用電極の製造方法」を、ニッケル化合物の析出を目的とした電解浴で行う場合においては、電解液のニッケル濃度を0.1mol/L以上0.5mol/L以下とすることが好ましい。このニッケル濃度が、0.5mol/Lを超える場合、ニッケル化合物の析出が過剰に優先されてしまい、一方で、ニッケル濃度が、0.1mol/L未満であると、水素発生に多くの電流を消費してしまうため、ニッケル化合物析出の効率が悪化するからである。
【0037】
又、上記電解浴の電解液のpHは、2.0以上5.0以下とすることが好ましい。電解浴中で水素発生に電力が過剰に消費されることを回避して「水素発生用電極」上でのニッケルの加水分解反応を適切に促進させるためには、電解液のpHを2.0以上とすることが好ましく、一方で、電解液のpHを、5.0以下とすることで、電解浴中で本発明の「複合膜」の形成には寄与しない水酸化物が発生する問題を回避することができる。
【0038】
電解処理を行う時の陰極電流密度は、100A/m以上1000A/m以下とすることが好ましい。電流密度を100A/m以上とすることで、ニッケルや「ニッケル化合物」の過剰な析出を回避することができ、一方で、電流密度を1000A/m以下とすることで、ニッケルや「ニッケル化合物」の電析よりも水素の発生の方が過剰に増加してしまうことを回避することができる。
【0039】
又、「水素発生用電極の製造方法」においては、「水素発生用電極」における、水素発生箇所を人為的に制御することができる。一例として、基材をニッケルの金属板とし、当該基材の表面に、防水性と非導電性を有するシール等によってマスキング処理を施し、ニッケルイオンを含有する電解浴から「金属ニッケル」と、「ニッケル化合物」と、を析出させ、電解処理の終了後にマスキング処理に用いたシール等を除去することで、「金属ニッケル」と「ニッケル化合物」とが接する界面が特定部分にのみ形成されている水素発生用電極(陰極)を製造することもできる。
【0040】
尚、上記において例示した電解条件の調整による他、「金属ニッケル」上でのニッケル化合物の生成量については、電界処理通電時間を適宜変動させることによって任意の生成量に制御することができる。
【0041】
<水素発生用電極の再生方法>
本発明の「水素発生用電極」について、例えば、一定期間以上の使用の継続により、水素の発生に寄与する活性が劣化或いは喪失した場合に、当該水素発生用電極を電解浴に浸漬して電解処理を行うことによって、水素の発生を促進する触媒としての機能を発揮する特定構造の複合膜を基材の表面に再度形成することができる。「水素発生用電極」の基材の表面に存在するのは同一元素の金属とその金属化合物である限り、そのまま電解液に浸漬し、上述のように、電界処理に付すことによって、上述の「特定構造の複合膜」を基材の表面に再生することができる。この工程では、基材の表面の電析物を除去したりする手間が不要であり、容易に、且つ低コストで、「水素発生用電極」を再生することができる。
【0042】
<水素の製造方法>
本発明の水素の製造方法は、上記において詳細を説明した「水素発生用電極」を陰極として用いた電界処理を行うことにより実施することができる。この「水素の製造方法」によれば、「水素発生用電極」の備える「金属」と「金属化合物」との界面で、水素発生が良好に促進され、高い効率で水素を発生させることができる。
【実施例0043】
以下、実施例、比較例及び参考例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0044】
<実施例1>
[水素発生用電極の製造(陰極板前処理)]
以下の方法により、実施例1の「水素発生用電極」を製造した。
先ず、有効電析面積が10mm×20mmサイズの純度99.99%の電気ニッケル板を2枚準備し、それぞれ端部に導線を接続し、電極として使用できるようにした。裏面は絶縁テープで全面をマスキングした。
次に、試薬塩化ニッケル六水和物の結晶をニッケル濃度が、0.5mol/Lになるように純水に溶解し、塩酸を添加してpHを4に調整した塩化ニッケル溶液を得た。上記の塩化ニッケル水溶液200mlを分取し、容量300mlのビーカーに入れ、上記の電極2枚を30mmの間隔でマスキングのない面が対面するように液に浸漬して固定した。
次に、上記のビーカーをウォーターバスに入れ浴温が60℃になるように維持した。
次に、電流密度が500A/mとなる電流で1分間若しくは10分間通電した。
通電終了後、陰極板(カソード)を取り出し、「金属ニッケル」と「ニッケル化合物」との界面をランダムな配置で有する電極、即ち、本発明の「水素発生用電極(実施例1)」を得た。
【0045】
[水素の製造(水素発生処理)]
以下の方法により、実施例1の「水素発生用電極」を用いた水素の製造を行った。
先ず、上記の「水素発生用電極(実施例1)」と、白金電極(10mm×20mm)を準備した。
次に、硫酸ナトリウム結晶を純水に溶解し、硫酸でpHを2に調整し、0.1mol/Lの硫酸ナトリウム水溶液を得た。
次に、硫酸ナトリウム水溶液200mlを300mlビーカーに入れ、「水素発生用電極(実施例1)」を陰極に設置し、上記の白金電極を陽極に設置した。
次に、浴温が60℃になるようウォーターバスで加熱し、リニアスイープボルタンメトリー(LSV)法を用いて陰極を、浸漬電位(自然電位)から-0.01V/secの速度で電位掃引してカソード分極曲線を測定した。尚、図1~3において示されている電流密度は、マイナス表示になっているが、電流の流れる方向の定義からの差であり、絶対値で読替えて評価することができる。
併せて、陰極の表面を動画撮影し、水素が発生する様子を観察した。その結果、通電時間が1分間の電極、及び通電時間が10分間の電極のうち、何れの電極を用いた場合にも、-0.2Vvs.NHE(標準水素電極)より卑な陰極電位において水素が発生する様子が観察された。
【0046】
<比較例1>
[水素の製造(水素発生処理)]
以下の方法により、比較例1の水素の製造を行った。
先ず、面積10mm×20mmの純度99.99%の電気ニッケルの板(上記の陰極板前処理を行っていない物)と、実施例1で用いた物と同一の白金電極(10mm×20mm)を準備した。
次に、硫酸ナトリウム結晶を純水に溶解し、硫酸でpHを2に調整し、0.1mol/Lの硫酸ナトリウム水溶液を得た。この硫酸ナトリウム水溶液200mlを分取して容量300mlのビーカーに入れ、上記の電気ニッケル板を陰極に設置し、上記の白金電極を陽極に設置した。
次に、浴温が60℃になるようウォーターバスで加熱し、LSV法を用いて陰極を、浸漬電位から-0.01V/secの速度で電位掃引した。
実施例1と同様に、陰極の表面を動画撮影したが、-0.3V vs.NHE付近に達するまで水素の発生は観察されなかった。
【0047】
<実施例1及び比較例1の観察結果比較>
実施例1及び比較例1のカソード分極曲線を図1に示す。比較例1の電気ニッケル板では、カソード分極時、-0.3V vs.NHE付近まで電流密度の絶対値が増加しないが、1分間若しくは10分間500A/mで通電して製造した「金属ニッケル」と「ニッケル化合物」との界面を有する実施例1の電極では、-0.2V vs.NHE付近の比較的貴な電位から電流密度の絶対値が増加し、動画撮影においても水素発生に伴う気泡発生の様子が観察された。
【0048】
<実施例2>
[水素発生用電極の製造(陰極板前処理)]
以下の方法により、実施例2の「水素発生用電極」を製造した。
電極面積10mm×20mmのニッケル板を1枚準備し、一方には、直径2mmの穴を格子状に1mm間隔で開けたマスキングテープを張り付けた。2枚のニッケル板には、導線を接続し電極とした。尚、両方のニッケル板の裏面はマスキングテープで全面を覆った。
次に、塩化ニッケル六水和物の結晶をニッケル濃度が、0.5mol/Lになるように純水に溶解し、塩酸を用いてpHを4に調整した。この塩化ニッケル水溶液200mlを容量300mlのビーカーに入れ、格子状テープを貼った方を陰極として設置し、格子状テープを貼っていない方を陽極として設置した。
次に、ウォーターバスで浴温を60℃に維持し、格子部を除いた通電可能な部分の電流密度が500A/mとなるように10分間通電した。陰極を取り出し、格子状のテープを除去し、「金属ニッケル」と「ニッケル化合物」との界面を格子状の規則的な配置で有する電極、即ち、本発明の「水素発生用電極(実施例2)」を得た。
【0049】
[水素の製造(水素発生処理)]
以下の方法により、実施例2の「水素発生用電極」を用いた水素の製造を行った。
先ず、上記の「水素発生用電極(実施例2)」と、実施例1で用いた物と同一の白金電極(10mm×20mm)を準備した。
次に、硫酸ナトリウム結晶を純水に溶解し、硫酸でpHを2に調整し0.1mol/Lの硫酸ナトリウム水溶液を得た。硫酸ナトリウム水溶液200mlを300mlビーカーに入れ、「水素発生用電極(実施例2)」を陰極に設置し、上記の白金電極を陽極に設置した。
次に、浴温が60℃になるようウォーターバスで加熱し、LSV法を用いて陰極を、浸漬電位から-0.01V/secの速度で電位掃引した。
併せて、陰極の表面を動画撮影し、「金属ニッケル」と「ニッケル化合物」との界面において水素が発生する様子を観察した。その結果、-0.2V vs.NHE(標準水素電極)より卑な陰極電位において水素が発生する様子が観察された。
【0050】
<実施例1、2及び比較例1の観察結果比較>
実施例2、比較例1及び実施例1の10分間電析して製造した電極におけるカソード分極曲線を図2に示す。「金属ニッケル」と「ニッケル化合物」との界面を格子状の規則的な配置で有する実施例2の電極でも電極全面に形成させた実施例1と同様に-0.2V vs.NHE付近の比較的貴な電位から電流密度の絶対値が増加し水素発生する様子が観察された。又、10分間通電した際の通電部と非通電部の界面からも優先的に水素が発生する様子が観察された。
【0051】
<実施例3>
[水素の製造(水素発生処理)]
以下の方法により、実施例1の「水素発生用電極」を用いた水素の製造を、実施例3の水素の製造(アルカリ性の電解浴による実施例)として行った。
先ず、上記実施例1で製造した「水素発生用電極(実施例1)」と、実施例1で用いた物と同一の白金電極(10mm×20mm)を準備した。
次に、水酸化ナトリウムの顆粒を純水に溶解し、0.01mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を得た。水酸化ナトリウム水溶液200mlを300mlビーカーに入れ、水素発生用電極(実施例1)」を陰極に設置し、上記の白金電極を陽極に設置した。
次に、浴温が30℃になるようウォーターバスで加熱し、LSV法を用いて陰極を、浸漬電位から-0.01V/secの速度で電位掃引した。
併せて、陰極の表面を動画撮影し、水素発生する様子を観察した。その結果、通電時間が1分間の電極、及び通電時間が10分間の電極のうち、何れの電極を用いた場合にも、-0.6 vs.NHEより卑な陰極電位において水素発生する様子が観察された。
【0052】
<比較例2>
[水素の製造(水素発生処理)]
以下の方法により、比較例2の水素の製造(アルカリ性の電解浴による比較例)を行った。
先ず、面積10mm×20mmの純度99.99%の電気ニッケルの板(上記の陰極板前処理を行っていない物)と、実施例1で用いた物と同一の白金電極(10mm×20mm)を準備した。
次に、実施例3と同一の水酸化ナトリウム水溶液200mlを300mlビーカーに入れ、上記のニッケル板を陰極に設置し、上記の白金電極を陽極に設置した。
次に、実施例3と同条件で、ウォーターバスで加熱し、LSV法を用いて陰極を浸漬電位から-0.01V/secの速度で電位掃引した。
併せて、陰極の表面を動画撮影した。その結果、-0.9V vs.NHE付近まで水素が発生する様子は観察されなかった。
【0053】
<参考例>
[水素の製造(水素発生処理)]
以下の方法により、参考例3の水素の製造(アルカリ性の電解浴による比較例)を行った。
先ず、面積10mm×20mmの板状とメッシュ状の白金を1枚ずつ計2枚を準備した。
次に、実施例3と同一の水酸化ナトリウム水溶液200mlを300mlビーカーに入れ、上記の白金電極(板状)を陰極に設置し、上記の白金電極(メッシュ状)を陽極に設置した。
次に、実施例3と同条件で、ウォーターバスで加熱し、LSV法を用いて陰極を浸漬電位から-0.01V/secの速度で電位掃引した。
併せて、陰極の表面を動画撮影した。その結果、-0.7V vs.NHEより卑な陰極電位において水素が発生する様子が観察された。
【0054】
<実施例3、比較例2及び参考例の観察結果比較>
実施例3、比較例2及び参考例のカソード分極曲線を図3に示す。比較例2のニッケル板では、カソード分極時に、-0.9V vs.NHE付近まで電流密度の絶対値が増加しないが、1分間若しくは10分間500A/mで通電して製造した「金属ニッケル」と「ニッケル化合物」との界面を有する実施例3の電極では、参考例の白金電極(板状)と同様に-0.7V vs.NHE付近の比較的貴な電位から電流密度の絶対値が増加し動画撮影においても水素発生に伴う気泡発生の様子が観察された。
【0055】
以上より、本願発明の水素発生用電極が、従来のニッケル製の陰極板よりも、より高いエネルギー変換効率で水素を製造できるようにすることができる物であること。及び、本願発明の水素発生用電極が、低コストで製造可能な物でありながら、高価な白金性の陰極板に対しても、アルカリ性の電解浴での使用を含めて、水素発生用電極として同等の性能を発揮し得るものであることが確認された。
図1
図2
図3