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特開2024-122774治療計画装置、方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122774
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】治療計画装置、方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20240902BHJP
【FI】
A61N5/10 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030506
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高柳 泰介
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴啓
(72)【発明者】
【氏名】平山 嵩祐
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 康一
(72)【発明者】
【氏名】小橋 啓司
(72)【発明者】
【氏名】青山 英史
(72)【発明者】
【氏名】橋本 孝之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 徳雄
(72)【発明者】
【氏名】田口 大志
(72)【発明者】
【氏名】安田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 康仁
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AC02
4C082AC04
4C082AN01
4C082AN05
4C082AR11
(57)【要約】
【課題】複数の計算モデルに基づく治療計画の作成を可能にする技術を提供する。
【解決手段】放射線治療の治療計画を作成するための治療計画装置は、処理装置とメモリとを有して構成される。メモリは、複数の計算モデルを記憶し、処理装置は、複数の計算モデルの少なくとも2つを用いて、放射線治療の条件に対しての、放射線治療の効果を表す生物効果指標の計算値を算出し、算出される少なくとも2つの計算値が所定の目標値に近づくように条件を探索する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理装置とメモリとを有して構成される放射線治療の治療計画を作成するための治療計画装置であって、
前記メモリは、複数の計算モデルを記憶し、
前記処理装置は、
前記複数の計算モデルの少なくとも2つを用いて、放射線治療の条件に対しての、放射線治療の効果を表す生物効果指標の計算値を算出し、
算出される少なくとも2つの前記計算値が所定の目標値に近づくように前記条件を探索する、
治療計画装置。
【請求項2】
前記処理装置は、前記計算値と前記目標値との差に基づく目的関数を用いて前記条件を探索する、
請求項1に記載の治療計画装置。
【請求項3】
前記目的関数は、前記少なくとも2つの計算モデルに対して指定された重みによって前記計算値と前記目標値との差を重み付けして加算する関数である、
請求項2に記載の治療計画装置。
【請求項4】
前記処理装置は、前記目的関数の値を最小化するように前記条件を探索する、
請求項3に記載の治療計画装置。
【請求項5】
前記処理装置は、放射線治療において放射線を照射すべき標的領域および/または前記放射線を照射すべきでないリスク領域を対象として前記生物効果指標を算出する、
請求項1に記載の治療計画装置。
【請求項6】
前記生物効果指標が前記標的領域の腫瘍制御確率と前記リスク領域の正常組織障害発生確率である、
請求項5に記載の治療計画装置。
【請求項7】
前記条件は、照射分割回数と、スポットスキャニング照射におけるスポット毎の照射線量とを含む、
請求項1に記載の治療計画装置。
【請求項8】
表示装置を更に有し、
前記処理装置は、前記生物効果指標の計算に用いる前記少なくとも2つの計算モデルの情報を示す管理画面を前記表示装置に表示する、
請求項1に記載の治療計画装置。
【請求項9】
前記処理装置は、前記メモリに記憶された前記複数の計算モデルのうち、前記生物効果指標の計算に用いるものを選択可能にする選択画面を前記表示装置に表示する、
請求項8に記載の治療計画装置。
【請求項10】
表示装置を更に有し、
前記処理装置は、前記生物効果指標を計算する対象の関心領域に対応づけて、該生物効果指標の計算に用いる前記少なくとも2つの計算モデルの情報を示す管理画面を前記表示装置に表示する、
請求項5に記載の治療計画装置。
【請求項11】
処理装置とメモリとを有して構成される治療計画装置によって放射線治療の治療計画を作成するための治療計画方法であって、
前記処理装置が、
前記メモリに、複数の計算モデルを記録し、
前記複数の計算モデルの少なくとも2つを用いて、放射線治療の条件に対しての、放射線治療の効果を表す生物効果指標の計算値を算出し、
算出される少なくとも2つの前記計算値が所定の目標値に近づくように前記条件を探索する、
治療計画方法。
【請求項12】
処理装置とメモリとを有して構成される治療計画装置によって放射線治療の治療計画を作成するための治療計画プログラムであって、
前記メモリに、複数の計算モデルを記録し、
前記複数の計算モデルの少なくとも2つを用いて、放射線治療の条件に対しての、放射線治療の効果を表す生物効果指標の計算値を算出し、
算出される少なくとも2つの前記計算値が所定の目標値に近づくように前記条件を探索する、
ことを前記処理装置に実行させるための治療計画プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、放射線治療の治療計画を作成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療では、治療予後の予測指標である生物効果指標が用いられる。生物効果指標として、腫瘍制御確率(Tumor control probability, TCP)と、正常組織障害発生確率(Normal tissue complication probability, NTCP)とがしばしば用いられる。
【0003】
特許文献1には、処方(総線量、フラクション数等)を入力として計算モデルに基づいてTCPとNTCPを計算し、TCPとNTCPを目標値に近づけるように処方を最適化する治療計画の手法が開示されている。ここで、TCPは1に近いほど、NTCPはゼロに近いほど良い処方と判断される。
【0004】
非特許文献1には、TCPを算出する複数の計算モデルが提案されている。ここではその中から一例としてポアソン統計モデルを説明する。一般的に、放射線による細胞死は、ポアソン統計に従うことが知られている。治療開始前に腫瘍(標的)内に含まれるがん細胞の数をnとし、放射線治療に伴うがん細胞の生存確率をλとすると、治療終了後に標的内のがん細胞数χをゼロとする確率P(χ=0)、即ちTCPは式(1)に示される。
【0005】
【数1】
【0006】
このとき、放射線治療に伴う腫瘍細胞の生存確率λは、線形-二次曲線モデル(LQモデル)によって式(2)のように表される。
【0007】
【数2】
【0008】
ここで、Dは標的への総照射線量、Nは放射線の分割照射回数である。α、βはがん細胞の放射線感受性を示すパラメータである。α、βは、in vitroでの放射線照射実験などによって求めることができる。このα、βは、一意に定まるものでなく類似の症例であっても、文献や施設によって異なる数値が採用されている場合がある。
【0009】
また、上述したポアソン統計モデルと異なる計算モデル(例えば、等価均一線量モデルなど)では、このα、βではなく、他のパラメータが用いられることがある。他のパラメータは、例えば、縦軸を過去の治療実績(例えば、無増悪を1、増悪を0とする)、横軸を標的の等価均一線量(Equivalent uniform dose, EUD)等としたグラフに対して計算モデルをフィッティングすることにより決定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開WO2018/116354A1号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】J. H. Chang et al., RADBIOMOD: A simple program for utilising biological modelling in radiotherapy plan evaluation, Physica Medica 32, 248-254, 2016
【非特許文献2】CM. van Leeuwen, et al., The alfa and beta of tumours: a review of parameters of the linear-quadratic model, derived from clinical radiotherapy studies. Radiat Oncol. 13, 96, 2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、同じ症例に対して採用し得る計算モデルおよびパラメータセットは複数存在する。当然のことながら、計算モデルおよびパラメータセットによって算出される、TCPあるいはNTCPといった生物効果指標の値は異なる。従って、医療従事者には、生物効果指標に基づいて治療計画を立案する際に、個々の患者に対してどの計算モデルおよびパラメータセットを用いるか検討し選択することが求められる。また、医療従事者は、計算モデルおよびパラメータセットを一意に決めかねる場合がある。しかし、そのような場合であっても、医療従事者は、複数の計算モデルおよびパラメータセットの折衷案を見出すことは困難である。
【0013】
本開示に含まれるひとつの目的は、複数の計算モデルに基づく治療計画の作成を可能にする技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示に含まれるひとつの態様による治療計画装置は、処理装置とメモリとを有して構成される放射線治療の治療計画を作成するための治療計画装置である。メモリは、複数の計算モデルを記憶し、処理装置は、複数の計算モデルの少なくとも2つを用いて、放射線治療の条件に対しての、放射線治療の効果を表す生物効果指標の計算値を算出し、算出される少なくとも2つの計算値が所定の目標値に近づくように条件を探索する。
【発明の効果】
【0015】
本開示に含まれるひとつの態様によれば、複数の計算モデルに基づく治療計画の作成が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係る治療計画装置の構成例を示す概略構成図である。
図2】治療計画装置による治療計画立案処理の一例を説明するためのフローチャートである。
図3】標的領域及び除外領域を入力するためのGUIの一例を示す図である。
図4】標的領域に対して用いる目標腫瘍制御確率、計算モデル、モデルの重み、及びパラメータセットを入力するためのGUIの一例を示す図である。
図5】計算モデルの選択を行うためのGUIの一例である。
図6】パラメータセットの選択を行うためのGUIの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を、添付図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、本実施形態に係る治療計画装置100の構成例を示す概略構成図である。治療計画装置100は、種々の情報処理が可能な装置、例えば、コンピュータ装置などの情報処理装置にて構成される。
【0019】
図1の例では、治療計画装置100は、演算処理装置101と、入力装置102と、表示装置103と、メモリ104と、データベース105と、通信装置106とを有する。演算処理装置101は、入力装置102、表示装置103、メモリ104、データベース105及び通信装置106と接続される。この接続方式は、特に限定されず、LAN(Local Area Network)又はインターネットなどのWAN(Wide Area Network)を介した接続方式でもよい。
【0020】
演算処理装置101は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphic Processing Unit)及びFPGA(Field-Programmable Gate Array)などのプロセッサであり、治療計画装置100全体を制御する制御部を構成する。
【0021】
入力装置102は、治療計画装置100を操作する操作者から種々の情報を受け付ける装置であり、例えば、マウス及びキーボードなどである。表示装置103は、治療計画などの種々の情報を表示する装置であり、例えば、ディスプレイなどである。
【0022】
メモリ104及びデータベース105は、同一又は異なる記録媒体で構成され、演算処理装置101の動作を規定するプログラム(コンピュータプログラム)、及び、演算処理装置101にて使用及び生成される種々の情報(例えば、後述する計算モデル)を記録する。記録媒体は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)のような磁気記憶媒体、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)及びSSD(Solid State Drive)のような半導体記憶媒体、DVD(Digital Versatile Disk)のような光ディスク及び光ディスクドライブの組み合わせなどである。なお、治療計画装置100の動作開始時(例えば、電源投入時)に演算処理装置101が記録媒体からプログラムを読み出し、その読み出しプログラムを実行して、治療計画に関する種々の処理を実行することで、治療計画装置100全体を制御する。
【0023】
通信装置106は、外部の装置と通信可能に接続する通信インタフェースである。図1の例では、通信装置106は、放射線治療装置200と接続されている。
【0024】
本実施形態では、スポットスキャニング方式の粒子線治療に対応した治療計画装置に本発明を適用した例について説明する。ただし、本発明は、X線治療あるいはスポットスキャニング方式以外の粒子線治療にも同様に適用でき、同等の効果を得ることができる。スポットスキャニング方式とは、患者体内、特に腫瘍などの放射線を照射すべき標的領域の内部及び周辺に対し3次元的に点(スポット)を配置し、各スポットに細径ビームを照射していく。各スポットには照射すべき規定の線量が定められており、あるスポットに対し規定の線量が照射されると、次のスポットにビームを偏向し、順次ビームを照射していく。全てのスポットに対して規定の線量が照射されることで、標的領域に所望の照射線量分布が形成される。
【0025】
スポットスキャニング方式以外の治療の例として、X線を用いた強度変調放射線治療(IMRT、Intensity Modulated Radiation Therapy)、及び強度変調回転照射(VMAT、Volumetric Modulated Arc Therapy)に対応した治療計画装置があり、本発明はそれらの治療にも適用可能である。IMRTやVMATといった強度変調を行うX線治療装置では、標的に対して複数の方向からX線が照射される。各々の方向から照射されたX線が標的内に形成する線量分布は不均一となっているが、全方向からの寄与を重ね合わせることで標的の3次元形状に合致した均一な線量分布が患者体内に付与される。このとき、各方向から照射されるべきX線のフルエンス分布は、治療計画装置を用いて逆問題を解くことで得られる。また、X線の任意のフルエンス分布を実現するために、マルチリーフコリメータをX線源とアイソセンタの間に設置しいてもよい。このような放射線治療装置に対応した治療計画装置でも本発明は本実施形態における効果と同等の効果を得ることができる。
【0026】
図2は、治療計画装置100による治療計画立案処理の一例を説明するためのフローチャートである。なお、以下では、粒子ビームを放射線と呼ぶこともある。
【0027】
治療計画立案処理では、先ず、演算処理装置101は、放射線を照射する標的領域と、放射線の照射を避ける除外領域とを受け付ける(ステップS1)。例えば、演算処理装置101は、患者のCT画像の各スライス画像を表示装置103に表示し、操作者から入力装置102を介してスライス画像ごとに標的領域及び除外領域を受け付ける。標的領域は、例えば、腫瘍などの領域である。除外領域は、例えば、重要臓器(Organ at Risk:OAR)の領域である。以下、リスク領域である除外領域をOARと記載することもある。また、標的領域とOARの両方を指して関心領域と記載することもある。
【0028】
図3は、操作者が標的領域及び除外領域を入力するためのGUI(Graphical User Interface)の一例を示す図である。操作者が、あるスライス画像上でマウスあるいはスタイラスペン等で標的領域301とOAR302を入力すると、標的領域301とOAR302は、図3に示すように、表示装置103上のGUI(Graphical User Interface)に描画される。図3に示したように、本実施形態では標的領域が1つ、OARが1つの例を示すが、標的領域とOARはそれぞれ2つ以上あってもよい。
【0029】
図2の説明に戻る。演算処理装置101は、受け付けた標的領域及び除外領域を3次元の位置情報としてメモリ104又はデータベース105に記録する(ステップS2)。
【0030】
次に、演算処理装置101は、標的領域301に対して、治療効果の目標値である目標腫瘍制御確率TCPobjを受け付ける(ステップS3)。また、演算処理装置101は、OAR302に対して、治療効果の目標値である目標正常組織障害発生確率NTCPobjを受け付ける。さらに、演算処理装置101は、標的領域301とOAR302に対してそれぞれ重みwTCP、wNTCPを受け付ける。重みが大きく設定された関心領域ほど処方の最適化において優先的に考慮される。
【0031】
再び、図2の説明に戻る。演算処理装置101は受け付けた標腫瘍制御確率TCPobj、目標正常組織障害発生確率NTCPobjと、それぞれの重みwTCP、wNTCPとをメモリ104又はデータベース105に記録する(ステップS4)
【0032】
さらに、演算処理装置101は、標的領域301及びOAR302に対して、TCP又はNTCPを算出するための計算モデルと、計算モデルの重みwmodelと、計算モデルのパラメータセットとを受け付ける(ステップS5)。演算処理装置101は受け付けた計算モデルと、重みwmodelと、パラメータセットとをメモリ104又はデータベース105に記録する(ステップS6)。重みwTCP、wNTCPと同様に、複数の計算モデルを設定した場合は、重みwmodelが大きく設定された計算モデルほど処方の最適化において優先的に考慮される。
【0033】
図4は、操作者が標的領域301に対して用いる目標腫瘍制御確率TCPobj、TCPの計算モデル、モデルの重みwmodel、及びパラメータセットを入力するためのGUIの一例を示す図である。操作者は、図3に示した標的領域の設定画面呼び出しボタン303を、入力装置102を用いて選択することで、関心領域ごとに図4に示すGUIを呼び出すことができる。図4に示すように、計算モデルは、1つの関心領域に対して複数設定することができる。なお、本実施形態では、同じ計算モデルに対して異なる複数のパラメータセットを組み合わせて別個の計算モデルとして治療計画装置100に登録することもできる。
【0034】
計算モデル及びパラメータセットは、データベース105に事前に保存されたものの一覧から操作者が選択することができる。操作者が、図4に示すモデル追加ボタン401を選択すると、後述のモデル選択画面(図5)が呼び出される。一度追加した計算モデルは、モデル削除ボタン402を選択することで削除することができる。
【0035】
図5は、計算モデルの選択を行うためのGUIの一例である。データベース105に事前に保存された、指定された関心領域の種類(標的、OAR)に合致する計算モデルの一覧が示される。モデル選択ボタン501を選択することで、操作者は新たに追加する計算モデルを選択することができる。操作者は、モデル選択キャンセルボタン(戻るボタン)502を選択すると、計算モデルの選択をキャンセルし、図4に示した設定画面に戻ることができる。図5において計算モデルが選択されると、パラメータセットを選択するための画面が呼び出される。
【0036】
図6は、パラメータセットの選択を行うためのGUIの一例である。このGUIでは、データベース105に事前に保存されたパラメータセットのうち、図5に示すモデル選択画面で選択した計算モデルに対応したもの一覧が示される。パラメータセット選択ボタン601を選択することで、操作者は選択した計算モデルに用いるパラメータセットを選択することができる。パラメータセット選択キャンセルボタン(戻るボタン)602を選択すると、パラメータセット選択をキャンセルし、図5に示すモデル選択画面に戻ることができる。
【0037】
以上、図4図6を用いて、操作者が標的領域301に対して用いる目標腫瘍制御確率TCPobj、TCPの計算モデル、モデルの重みwmodel、及びパラメータセットを入力する手順について説明したが、OAR302の目標正常組織障害発生確率NTCPobj、NTCPの計算モデル、計算モデルの重みwmodel、及び計算モデルのパラメータセットを入力する手順もこれと同様である。図3に示したOARの設定画面呼び出しボタン305を選択することにより、操作者が標的領域301に対して用いる目標腫瘍制御確率TCPobj、TCPの計算モデル、モデルの重みwmodel、及びパラメータセットを入力するためのGUIが呼び出される。このGUIは図4のGUIと同様であり、以下図4図6と同様のGUIからOAR302の目標正常組織障害発生確率NTCPobj、NTCPの計算モデル、計算モデルの重みwmodel、及び計算モデルのパラメータセットを入力することができる。
【0038】
全ての関心領域に対してモデル設定が完了すると、操作者は図3に示す最適化開始ボタン304を選択する。最適化開始ボタン304が選択されると、設定された生物効果指標、計算モデル、モデルの重み、及びパラメータセットを用いた最適な処方の探索が開始される。
再び、図2の説明に戻る。
【0039】
演算処理装置101はメモリ104又はデータベース105に記録された情報に基づき、処方探索のための目的関数を設定する(ステップS7)。目的関数を式(3)に示す。
【0040】
【数3】
【0041】
次に、演算処理装置101によるTCPの計算方法の一例として、モデルの一例をポアソン統計モデルを説明する。放射線照射を受けたがん細胞の確率は、ポアソン統計に従うことが知られている。したがって、治療終了時に標的領域301内のボクセルkに含まれるがん細胞の数がゼロとなる確率P(χ=0)は式(4)で表される。
【0042】
【数4】
【0043】
このとき、放射線治療に伴うボクセルkのがん細胞の生存確率λは、線形-二次曲線モデル(LQモデル)によって、式(5)のように表される。
【0044】
【数5】
【0045】
Dkはボクセルkに対する総照射線量、Nは分割回数である。α、βははがん細胞の放射線感受性を示す、モデルiのパラメータである。
【0046】
TCPは、治療終了後に標的領域301内に含まれるのがん細胞の数をゼロとなる確率であるため、式(6)のように、標的領域301に含まれる全てのボクセルに対する確率P(χ=0)の積を演算することで計算される。
【0047】
【数6】
【0048】
なお、本実施形態では、ポアソン統計モデルによるTCPの計算方法を例示したが、等価均一線量モデルといった別のモデルを用いることも可能であり、その場合にも本実施形態と同等の効果が得られる。
【0049】
次に、演算処理装置101によるNTCPの計算方法の一例を説明する。ある代表的なモデルに従えば、OARのNTCPは式(7)に従って計算される。
【0050】
【数7】
ここで、tは式(8)に表される。
【0051】
【数8】
【0052】
さらに、Dmaxnpは式(9)で表される。
【0053】
【数9】
【0054】
ここで、Vは、OAR全体の体積、vは、ボクセルあたりの体積を示す。kはOARに含まれるボクセルの番号である。n、m及びTD50は、過去の臨床データ等に基づいて定まるパラメータであり、操作者にてデータベース105に予め保存されている。
【0055】
’は、ボクセルkにおける換算総照射線量であり、1回の照射線量をdref=2Gyとした場合に、総照射線量をDとしかつ分割回数をNとした照射と同等の生物学的効果を得るための総照射線量を示す。前述のように、総照射線量をDとしかつ分割回数をNとした照射により、ボクセルkに含まれる正常組織が生き残る確率λは、式(10)により表すことができる。
【0056】
【数10】
【0057】
ここで、α、βは正常組織細胞の放射線感受性を示す、計算モデルjのパラメータである。従って、換算総照射線量D’は式(11)~(12)のようにして求めることができる。
【0058】
【数11】
【0059】
なお、本実施形態に示したNTCPの計算方法は一例であり、別のモデル式を用いてNTCPを計算することも可能であり、その場合にも本実施形態と同等の効果が得られる。
【0060】
TCPとNTCPの計算に求められるボクセル毎の線量Dは、標的領域301及びOAR302に含まれる各ボクセルの吸収線量を要素とするベクトル(以下、吸収線量ベクトルとも称する)と、スポット毎のビーム照射量を要素とするベクトル(以下、スポット線量ベクトルとも称する)との関係を示す式(13)に基づいて計算される。
【0061】
【数12】
【0062】
行列Aは、各スポットへ照射した放射線が各ボクセルkに与える線量を表す行列であり、操作者によって事前に設定された照射方向、及び、CT画像による体内情報に基づいて計算される。
【0063】
再び、図2の説明に戻る。ステップS7にて目的関数を生成すると、演算処理装置101は、その目的関数を最小化するスポット毎照射線量および分割回数を繰り返し探索によって求める(ステップS8)。終了条件は、特に限定されないが、繰り返し探索における反復計算の全体の計算時間、繰り返し探索において計算を反復した回数、又は、1回に反復計算あたりの目的関数の変化量などを指標とし、指標に応じた条件を設定すればよい。
【0064】
式(13)の左辺に示された吸収線量ベクトルは、式(13)の右辺に含まれるスポット線量ベクトルが不明な状態でも、標的領域301内の線量はDmeanで一様に分布し、標的外では標的領域301からの距離に従って等方的に減少する、との仮定に基づいて推定することができる。この仮定の下では、スポット線量ベクトルの替わりに線量Dmeanを探索パラメータとすることができる。これにより探索パラメータの数が減少するため、速い収束が期待できる。ただし、分割回数Nと中心線量Dmeanの探索が完了した後、式(14)に示す目的関数F’に基づき、改めてスポット線量ベクトルを決定する手順が必要となる。
【0065】
【数13】
【0066】
ただし、吸収線量ベクトルとスポット線量ベクトルの関係は式(13)に示した通りである。
【0067】
再び、図2に戻る。最後に、演算処理装置101は、求めたスポット毎のビーム照射量に基づいて、3次元の線量分布を計算し、その計算結果を表示装置103に表示すると共に、メモリ104又はデータベース105に記録し、治療計画を完了する(ステップS9)。
【0068】
以上説明した実施形態は、本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本発明の範囲を逸脱することなしに、他の様々な態様で本発明を実施することができる。また、上述した実施形態には以下に示す事項が含まれている。ただし、本実施形態に含まれる事項が以下に示すものだけに限定されることはない。
(事項1)
【0069】
処理装置とメモリとを有して構成される放射線治療の治療計画を作成するための治療計画装置であって、前記メモリは、複数の計算モデルを記憶し、前記処理装置は、前記複数の計算モデルの少なくとも2つを用いて、放射線治療の条件に対しての、放射線治療の効果を表す生物効果指標の計算値を算出し、算出される少なくとも2つの前記計算値が所定の目標値に近づくように前記条件を探索する。これによれば、2つ以上の計算モデルを用いて算出される生物効果指標の計算値を目標値に近づけるように条件を探索するので、1つの計算モデルおよびパラメータセットに依存しないロバストな治療計画を作成することができる。
(事項2)
【0070】
事項1に記載の治療計画装置において、前記処理装置は、前記計算値と前記目標値との差に基づく目的関数を用いて前記条件を探索する。これによれば、目的関数の最適化により条件を探索することができる。
(事項3)
【0071】
事項2に記載の治療計画装置において、前記目的関数は、前記少なくとも2つの計算モデルに対して指定された重みによって前記計算値と前記目標値との差を重み付けして加算する関数である。これによれば、各計算モデルに優先度を与えて処方の最適化を行うことができる。
(事項4)
【0072】
事項3に記載の治療計画装置において、前記処理装置は、前記目的関数の値を最小化するように前記条件を探索する。
(事項5)
【0073】
事項1に記載の治療計画装置において、前記処理装置は、放射線治療において放射線を照射すべき標的領域および/または前記放射線を照射すべきでないリスク領域を対象として前記生物効果指標を算出する。
(事項6)
【0074】
事項5に記載の治療計画装置において、前記生物効果指標が前記標的領域の腫瘍制御確率と前記リスク領域の正常組織障害発生確率である。これによれば、腫瘍制御確率と正常組織障害発生確率とを最適化する処方を探索することができる。
(事項7)
【0075】
事項1に記載の治療計画装置において、前記条件は、照射分割回数と、スポットスキャニング照射におけるスポット毎の照射線量とを含む。これによれば、最適な照射分割回数とスポット毎の照射線量とを探索することができる。
(事項8)
【0076】
事項1に記載の治療計画装置において、表示装置を更に有し、前記処理装置は、前記生物効果指標の計算に用いる前記少なくとも2つの計算モデルの情報を示す管理画面を前記表示装置に表示する。これによれば、治療計画作成者は、どの計算モデルを用いるかを確認しながら治療計画を作成することができる。
(事項9)
【0077】
事項8に記載の治療計画装置において、前記処理装置は、前記メモリに記憶された前記複数の計算モデルのうち、前記生物効果指標の計算に用いるものを選択可能にする選択画面を前記表示装置に表示する。これによれば、治療計画作成者は、選択画面上で計算モデルを選択して治療計画の作成を行うことができる。
(事項10)
【0078】
請求項5に記載の治療計画装置において、表示装置を更に有し、前記処理装置は、前記生物効果指標を計算する対象の関心領域に対応づけて、該生物効果指標の計算に用いる前記少なくとも2つの計算モデルの情報を示す管理画面を前記表示装置に表示する。これによれば、治療計画作成者は、関心領域と計算モデルを画面で確認しながら治療計画を作成することができる。
【符号の説明】
【0079】
100…治療計画装置、101…演算処理装置、102…入力装置、103…表示装置、104…メモリ、105…データベース、106…通信装置、200…放射線治療装置、301…標的領域、302…OAR、303、305…設定画面呼び出しボタン、304…最適化開始ボタン、401…モデル追加ボタン、402…モデル削除ボタン、501…モデル選択ボタン、502…モデル選択キャンセルボタン、601…パラメータセット選択ボタン、602…パラメータセット選択キャンセルボタン
図1
図2
図3
図4
図5
図6