(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122799
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】メレンゲ、及び該メレンゲを使用した加熱食品
(51)【国際特許分類】
A21D 2/14 20060101AFI20240902BHJP
A23G 3/34 20060101ALI20240902BHJP
A21D 13/80 20170101ALI20240902BHJP
A21D 13/50 20170101ALI20240902BHJP
A23G 9/32 20060101ALI20240902BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20240902BHJP
【FI】
A21D2/14
A23G3/34
A21D13/80
A21D13/50
A23G9/32
A23L5/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030558
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】村山 典子
(72)【発明者】
【氏名】戸田 徹
【テーマコード(参考)】
4B014
4B032
4B035
【Fターム(参考)】
4B014GB11
4B014GG01
4B014GG02
4B014GG10
4B014GG14
4B014GL10
4B014GP04
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4B035LG33
4B035LG34
4B035LG43
4B035LP02
4B035LP21
(57)【要約】
【課題】 本発明の課題は、シフォンケーキ等の加熱食品の原料に使用することで、得られる加熱食品の体積を大きくすることができるメレンゲを提供すること、また、メレンゲを使用したシフォンケーキ等の加熱食品の体積を大きくすることができ、また、食味及び食感の良い加熱食品の製造方法を提供することである。
【解決手段】 平均粒径が50μm以下で、かつ融点が55℃以上である油脂粉末と卵白とを含有するメレンゲ、及び該メレンゲと、穀粉、でん粉、及びナッツ粉末から選ばれる1種又は2種以上の粉とを混合後、加熱処理をすることを特徴とする加熱食品の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が50μm以下で、かつ融点が55℃以上である油脂粉末と卵白とを含有するメレンゲ。
【請求項2】
さらに、糖類を含有することを特徴とする請求項1に記載のメレンゲ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のメレンゲと、穀粉、でん粉、及びナッツ粉末から選ばれる1種又は2種以上の粉とを使用した加熱食品。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のメレンゲと、穀粉、でん粉、及びナッツ粉末から選ばれる1種又は2種以上の粉とを混合後、加熱処理をすることを特徴とする加熱食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メレンゲ、及び該メレンゲを使用した加熱食品に関する。
【背景技術】
【0002】
シフォンケーキ、スフレ、マカロン、ダックワーズ等の原料にメレンゲを使用した加熱食品の特有の食感や風味は、嗜好性が高く、消費者に好まれている。
これら加熱食品に使用されるメレンゲについては、配合飼料の内容による養鶏状態がもたらす生卵成分のばらつきや卵そのものの鮮度などにより、卵中の卵白より作られるメレンゲにおいて、起泡力が異なり、これら成分のばらつきや鮮度などは、製品ボリュームや食感に影響を及ぼすという問題があった(特許文献1、2)。
そこで、起泡性のある安定したメレンゲを得るために、増粘剤とpH調整剤が含まれた卵白気泡安定剤や、コンニャクマンナンとpH調整剤が含まれた卵白気泡安定剤等が開発されていた(特許文献1、2)。
このように、これまではメレンゲ自体の起泡安定性を高めるという検討は行われていたが、メレンゲへの添加剤を検討することで、メレンゲを使用したシフォンケーキ等の加熱食品の体積を大きくするという検討はあまり行われていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-194519号公報
【特許文献2】特開2006-296383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、シフォンケーキ等の加熱食品の原料に使用することで、得られる加熱食品の体積を大きくすることができるメレンゲを提供することである。
また、本発明の目的は、メレンゲを使用したシフォンケーキ等の加熱食品の体積を大きくすることができ、また、食味及び食感の良い加熱食品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、加熱食品の原料に、平均粒径が50μm以下で融点が55℃以上である油脂粉末を添加したメレンゲを使用することにより、加熱後の膨らみが大きくなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下に関するものである。
〔1〕平均粒径が50μm以下で、かつ融点が55℃以上である油脂粉末と卵白とを含有するメレンゲ。
〔2〕さらに、糖類を含有することを特徴とする〔1〕に記載のメレンゲ。
〔3〕〔1〕又は〔2〕に記載のメレンゲと、穀粉、でん粉、及びナッツ粉末から選ばれる1種又は2種以上の粉とを使用した加熱食品。
〔4〕〔1〕又は〔2〕に記載のメレンゲと、穀粉、でん粉、及びナッツ粉末から選ばれる1種又は2種以上の粉とを混合後、加熱処理をすることを特徴とする加熱食品の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、シフォンケーキ等の加熱食品の原料に使用することで、得られる加熱食品の体積を大きくすることができるメレンゲを提供することができる。
また、本発明によれば、メレンゲを使用したシフォンケーキ等の加熱食品の体積を大きくでき、また、食味及び食感の良い加熱食品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】参考例、実施例、及び比較例のシフォンケーキの体積のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0010】
本発明は、平均粒径が50μm以下で、融点が55℃以上である油脂粉末と卵白とを含有するメレンゲである。
また、本発明は、前記メレンゲと、穀粉、でん粉、及びナッツ粉末から選ばれる1種又は2種以上の粉とを混合後、加熱処理をする加熱食品の製造方法である。
【0011】
〔メレンゲ〕
一般に、メレンゲは、卵白、又は卵白に糖類を添加したものを泡立てた食材で、主にケーキ、菓子等の食品の原料に用いられるものである。
本発明のメレンゲは、平均粒径が50μm以下で、かつ融点が55℃以上である油脂粉末と卵白とを含有するメレンゲである。
また、本発明のメレンゲには、グラニュー糖、上白糖、シロップ等の糖類を添加することもできる。
【0012】
〔油脂粉末〕
まず、本発明に使用する油脂粉末について説明をする。
本発明の油脂粉末の原料には、例えば、油脂を構成する脂肪酸の80質量%以上が炭素数16以上の飽和脂肪酸からなる、パームステアリン、極度硬化パーム油、極度硬化菜種油、極度硬化高エルシン酸菜種油、極度硬化大豆油、極度硬化ひまわり油、極度硬化紅花油等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
油脂粉末の融点は、55℃以上であり、好ましくは58℃以上であり、さらに好ましくは61℃以上で、融点の上限は、好ましくは90℃以下であり、より好ましくは80℃以下であり、さらに好ましくは75℃以下である。
なお、本発明の油脂粉末は、油脂と賦形剤、乳化剤等を含有する水溶液を乳化したものを噴霧乾燥して得られる粉末状の油脂とは異なる。
【0013】
本発明に使用する油脂粉末の融点は、DSC(示差走査熱量計)測定で求めることができ、例えば、DSC(メトラー・トレド社製 DSC1)を使用して、試料を、10℃/分の昇温速度で加熱し、吸熱曲線を測定した。融点は、加熱により吸熱が開始する前のベースラインと、吸熱ピークの下降ラインとの交点の温度を融点として求めることができる。
【0014】
本発明に使用する油脂粉末の平均粒径(有効径)は、50μm以下であり、好ましくは0.5~50μmであり、より好ましくは0.5~40μmであり、さらに好ましくは1~30μmであり、最も好ましくは1~20μmであり、さらに最も好ましくは5~15μmである。
平均粒径が50μmより大きい油脂粉末を添加したメレンゲを使用したシフォンケーキは、加熱後の体積が大きくならないからである。
ここで、当該平均粒径(有効径)は、体積平均径〔MV〕を言い、粒度分布測定装置(例えば、株式会社島津製作所製、装置名:SALD-2300)でレーザ回折散乱法(ISO13320,JIS Z 8825-1)に基づいて、乾式測定により体積基準粒度分布を測定して体積平均径〔MV〕を求め、得られた体積平均径〔MV〕を平均粒径とした。体積平均径〔MV〕は、粒子の粒径、粒子の体積、及び粒子の体積の総和の各値を使って以下の式から求めることができる。
体積平均径〔MV〕=(粒径×その粒子の体積)の総和/粒子の体積の総和
なお、有効径とは、測定対象となる結晶の実測回折パターンが、球形と仮定して得られる理論的回折パターンに適合する場合の、当該球形の粒径を意味する。このように、レーザ回折散乱法の場合、球形と仮定して得られる理論的回折パターンと、実測回折パターンを適合させて有効径を算出しているので、測定対象が板状形状であっても球状形状であっても同じ原理で測定することができる。
【0015】
本発明に使用する油脂粉末の製造方法は特に限定されない。例えば、55℃以上の融点を有する油脂粉末の原料を、サイクロンミル、ハンマーミル等の粉砕機による粉砕、流動層式ジェットミル、カウンター式ジェットミル等による気流式粉砕、凍結粉砕、押出造粒、噴霧冷却等の従来公知の方法で粉砕することにより製造することができる。
【0016】
本発明に使用する油脂粉末は、油脂成分を含有する。当該油脂成分は、少なくともXXX型トリグリセリドを含み、任意にその他のトリグリセリドを含む。
油脂成分は、グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含む。当該XXX型トリグリセリドは、グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有するトリグリセリドであり、各脂肪酸残基Xは互いに同一である。ここで、当該炭素数xは16~20から選択される整数であり、好ましくは16~18から選択される整数、より好ましくは18である。
脂肪酸残基Xは、飽和あるいは不飽和の脂肪酸残基であってもよい。具体的な脂肪酸残基Xとしては、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸等の残基が挙げられるがこれに限定するものではない。脂肪酸としてより好ましくは、パルミチン酸及びステアリン酸であり、さらに好ましくは、ステアリン酸である。
当該XXX型トリグリセリドの含有量は、油脂粉末又は油脂成分の全質量を100質量%とした場合、例えば、50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは、70質量%以上、さらに好ましくは、80質量%以上を下限とし、例えば、100質量%以下、好ましくは、99質量%以下、より好ましくは、95質量%以下を上限とする範囲である。XXX型トリグリセリドは1種類又は2種類以上用いることができ、好ましくは1種類又は2種類であり、より好ましくは1種類が用いられる。XXX型トリグリセリドが2種類以上の場合は、その合計値がXXX型トリグリセリドの含有量となる。
【0017】
油脂成分は、本発明の効果を損なわない限り、上記XXX型トリグリセリド以外の、その他のトリグリセリドを含んでいてもよい。その他のトリグリセリドは、複数の種類のトリグリセリドであってもよく、合成油脂であっても天然油脂であってもよい。合成油脂としては、トリカプリル酸グリセリル、トリカプリン酸グリセリル等が挙げられる。天然油脂としては、例えば、ココアバター、ヒマワリ油、菜種油、大豆油、綿実油等が挙げられる。油脂粉末又は油脂成分中の全トリグリセリドを100質量%とした場合、その他のトリグリセリドは、油脂粉末又は油脂成分の全質量を100質量%とした場合、例えば1質量%以上、あるいは5~50質量%程度含まれていても問題はない。その他のトリグリセリドの含有量は、油脂粉末又は油脂成分の全質量を100質量%とした場合、例えば、0~50質量%、好ましくは5~40質量%、より好ましくは10~30質量%、更に好ましくは15~25質量%である。
【0018】
油脂粉末は、実質的に上記油脂成分のみからなることが好ましく、かつ、油脂成分は、実質的にトリグリセリドのみからなることが好ましい。また、「実質的に」とは、油脂粉末中に含まれる油脂成分以外の成分又は油脂成分中に含まれるトリグリセリド以外の成分が、油脂粉末又は油脂成分を100質量%とした場合、例えば、0~15質量%、好ましくは1~10質量%、より好ましくは2~5質量%であることを意味する。
【0019】
メレンゲ中の油脂粉末の含量は、0.5~8質量%であることが好ましく、1~7質量%であることがより好ましく、2~5質量%であることがさらにより好ましく、3~5質量%であることが最も好ましい。
メレンゲ中の油脂粉末の含量が、かかる範囲であると、メレンゲを使用した加熱食品の体積がより大きくでき、また、食味及び食感の良い加熱食品が得られるからである。
【0020】
〔卵白〕
次に、卵白について説明をする。
本発明に使用する卵白は、生卵から卵黄を分離したものを使用できるが、市販の殺菌凍結卵白を解凍したものを使用することもできる。
メレンゲ中の卵白の含量は、60~100質量%であることが好ましく、65~90質量%であることがより好ましく、70~80質量%であることがさらにより好ましい。
メレンゲ中の卵白の含量が、かかる範囲であると、メレンゲを使用した加熱食品の体積がより大きくなるからである
【0021】
〔糖類〕
次に、糖類について説明をする。
本発明に使用する糖類は、グラニュー糖、上白糖、シロップ等が挙げられ、これらは市販品を使用することができる。
メレンゲ中の糖類の含量は、0~39.5質量%であることが好ましく、18~35質量%であることがより好ましく、20~28質量%であることがさらにより好ましい。
【0022】
〔メレンゲの製造方法〕
次に、メレンゲの製造方法について説明をする。
本発明のメレンゲは、卵白及び油脂粉末を撹拌機で撹拌混合することにより製造することができる。
撹拌機としては、例えば、ケンミックス社製の撹拌機(装置名「KPL9000S卓上型ミキサー ケンミックス アイコー シェフPRO」)を使用することができる。
また、大きなスケールでの製造を行う場合には、例えば、(株)愛工舎製作所製の撹拌機(装置名「MS-140」、「MS-300LAS」)等を使用することができる。
また、グラニュー糖等の糖類を添加する場合には、糖類を数回に分けて添加し、添加後に撹拌混合するのが好ましい。
【0023】
〔加熱食品〕
次に、上述したメレンゲと、穀粉、でん粉、及びナッツ粉から選ばれる1種又は2種以上の粉とを使用した加熱食品について説明をする。
加熱食品の種類として、具体的には、シフォンケーキ、ダックワーズ、マカロン、ガトーショコラ、ブッセ等が挙げられる。
穀粉とは、穀物を挽いて粉状にしたものであり、具体的には、小麦粉(強力粉、中力粉、薄力粉等)、大麦粉、米粉、とうもろこし粉、ライ麦粉、そば粉、大豆粉、ピーナッツパウダー等が挙げられ、これらは市販品を使用することができる。
でん粉としては、コーンスターチ、馬鈴薯でん粉、甘藷でん粉、タピオカでん粉、コメでん粉等が挙げられ、これらは市販品を使用することができる。
ナッツ粉末としては、アーモンドパウダー、ヘーゼルナッツパウダー、クルミパウダー、ココナッツパウダー、カシューナッツパウダー等が挙げられ、これらは市販品を使用することができる。
【0024】
また、加熱食品の原料に添加するメレンゲの使用量は、特に限定されないが、原料全体の量を100質量%とした場合、例えば、シフォンケーキでは、30~50質量%であることが好ましく、35~45質量%であることがより好ましい。
また、加熱食品の原料に添加するメレンゲの使用量は、原料全体の量を100質量%とした場合、ダックワーズの場合30~50質量%であることが好ましく、マカロンの場合、30~35質量%であることが好ましく、ガトーショコラの場合、25~30質量%であることが好ましく、ブッセの場合、30~40質量%であることが好ましい。
【0025】
本発明の加熱食品は、原料として油脂粉末を添加したメレンゲを使用する以外は、各加熱食品の公知の方法により製造することができる。
加熱処理の方法としては、焼き(焼成)、蒸し、電子レンジ加熱等を挙げることができる。
加熱処理の条件(温度、時間)は、特に限定されず、その食品を製造する通常の加熱処理の条件で行うことができる。
例えば、シフォンケーキの場合、穀粉、メレンゲ等の原料を混合することにより製造した生地を、好ましくは上火170~180℃、好ましくは下火150~160℃の加熱条件で、オーブンにより25~40分焼成することにより製造することができる。
【実施例0026】
次に本発明を、実施例により詳細に説明する。しかし、本発明はこれらの実施に何ら制限されるものではない。また。以下において「%」は、特別な記載がない限り、質量%を示す。
【0027】
〔メレンゲの製造に使用した原材料〕
メレンゲの製造に使用した原材料を表1に示す。
【0028】
【0029】
ここで、油脂粉末Aは、日清オイリオグループ(株)販売の油脂粉末(商品名「コナファット#2」)で、平均粒径10.0μm、融点68.2℃、油脂粉末の全質量を100質量%とした場合のグリセリンの1位~3位に炭素数18の脂肪酸残基X(ステアリン酸残基)を有するXXX型トリグリセリドの含有量は、79.6質量%である。
なお、コナファット#2は、植物由来の食用油脂を原料とする白色の油脂粉末である。
また、油脂粉末Bは、理研ビタミン(株)販売の油脂粉末(商品名「スプレーファットNR-100」)で、融点70.2℃、平均粒径77.2μmである。
【0030】
以下に、油脂粉末の分析方法を記載する。
・油脂粉末の平均粒径
平均粒径は、粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製、装置名:SALD-2300)を用い、レーザ回折散乱法(ISO13320、JIS Z 8825-1)に基づいて、乾式測定により体積基準粒度分布を測定して体積平均径〔MV〕を求め、得られた体積平均径〔MV〕を平均粒径とした。体積平均径〔MV〕は、粒子の粒径、粒子の体積、及び粒子の体積の総和の各値を使って以下の式から求めた。
体積平均径〔MV〕=(粒径×その粒子の体積)の総和/粒子の体積の総和
・油脂粉末の融点
DSC(メトラー・トレド社製 DSC1)を使用して、試料を、10℃/分の昇温速度で加熱し、吸熱曲線を測定した。融点は、加熱により吸熱が開始する前のベースラインと、吸熱ピークの下降ラインとの交点の温度を融点として求めた。
・トリグリセリド組成
トリグリセリド組成は、ガスクロマトグラフィー分析により行った。ガスクロマトグラフィー分析条件を以下に示す。
DB1-ht(0.32mm×0.1μm×5m)Agilent Technologies社(123-1131)
注入量 :1.0μL
注入口 :370℃
検出器 :370℃
スプリット比 :50/1 35.1kPa コンスタントプレッシャー
カラムCT :200℃(0min hold)~(15℃/min)~370℃(4min hold)
【0031】
〔メレンゲの製造(参考例1)〕
表2に示す配合、すなわち、卵白125gをベースとするメレンゲを製造した。
具体的には、メレンゲを3回分散法で製造し、撹拌には、ケンミックス社製の撹拌機(装置名「KPL9000S卓上型ミキサー ケンミックス アイコー シェフPRO」、無負荷時回転数150~676rpm)を用いて行った。
(1)凍結殺菌卵白を流水で解凍した。
(2)ミキサーボウルに解凍した卵白を入れ、撹拌機を用いて、4速の回転数で1分30秒攪拌混合し、配合する特細目グラニュー糖の約1/3量の特細目グラニュー糖を加えた。
(3)撹拌機4速の回転数で2分攪拌混合し、配合する特細目グラニュー糖の約1/3量の特細目グラニュー糖を加えた。
(4)撹拌機4速の回転数で1分~1分30秒攪拌混合後、残りの特細目グラニュー糖(配合する特細目グラニュー糖の約1/3量)を加え、4速の回転数で30秒~45秒攪拌混合した。
(5)メレンゲの状態を確認後、さらに撹拌機2.5速の回転数で20秒~30秒撹拌混合することで、メレンゲを製造した。
【0032】
〔メレンゲの製造(実施例1、比較例1~5)〕
表2、表3に示す配合、すなわち、卵白125gをベースとするメレンゲを製造した。
油脂粉末A,油脂粉末B、ゲル化剤、又は乾燥卵白を用いたメレンゲは、予め特細目グラニュー糖と、油脂粉末A,油脂粉末B、ゲル化剤、又は乾燥卵白とを混合したものを調製後、参考例1の製造方法と同様の方法(3回分散法)でメレンゲを製造した(実施例1、比較例1、3、5)。
油脂粉末A、及び油脂粉末Bは、凍結殺菌卵白と特細目グラニュー糖の合計量の4質量%に相当する量を配合した。ゲル化剤は、メレンゲの保形性を高めるために良く使用される添加剤で、乾燥卵白は、水分を除去した卵白を生卵白に添加することで濃厚卵白となり、安定性を付与するために使用される添加剤で、それぞれ、メレンゲでの推奨添加量を配合量とした。
また、植物油を用いたメレンゲを、参考例1の製造方法と同様の方法(3回分散法)でメレンゲの製造を行ったが、起泡せず、メレンゲを製造することはできなかった(比較例2)。植物油は、凍結殺菌卵白と特細目グラニュー糖の合計量の4質量%に相当する量を配合した。
また、酒石酸水素カリウムを用いたメレンゲは、特細目グラニュー糖を添加する前の解凍した卵白に酒石酸水素カリウムを添加し、参考例1の製造方法と同様の方法(3回分散法)でメレンゲを製造した(比較例4)。酒石酸水素カリウムは、メレンゲのphを下げることにより卵白中のたんぱく質を等電点に近づけることで、起泡性を向上させるために良く使用される添加剤で、メレンゲでの酒石酸水素カリウムの推奨添加量を配合量とした。また、酒石酸水素カリウムは、今回実施したように、通常、卵白に添加して用いられるものである。
【0033】
【0034】
【0035】
〔メレンゲの外観〕
参考例1、実施例1、比較例1、及び比較例3~5のメレンゲは、外観の違いはほとんどなかった。
なお、比較例2の配合は、起泡しなかったので、メレンゲは製造できなかった。
〔メレンゲの経時の離水量の測定〕
メレンゲは、製造してすぐに使用する場合には離水はほとんど問題にならないが、大スケールで製造する場合には、製造から時間が経過して離水を生じ、その機能を十分発揮できないことがあり、経時の離水量が少ないものが望まれている。
そこで、今回、通常のメレンゲ(添加材無添加)よりも、経時の離水量が多くならないことを確認するために、以下の実験を行った。
製造により得られた参考例1のメレンゲを、フラスコを受け皿にした漏斗(口径9cm)の上に20g入れ、20℃で静置した。開始から60分までは5分間隔、60分以降120分までは20分間隔でビーカーに滴下した水分の質量を測定した。同様にして、実施例1、比較例1、及び比較例3~5の、メレンゲについても離水量を測定した。結果を表4に示す。
なお、メレンゲ配合がよく分かるように、表の最初の行に、添加材を記載した。
【0036】
【0037】
表4の結果から、油脂粉末Bを添加したメレンゲ(比較例1)の経時の離水量は、添加材なしのメレンゲ(参考例)の離水量とほぼ同じで、油脂粉末Aを添加したメレンゲ(実施例1)、酒石酸水素カリウムを添加したメレンゲ(比較例4)、及び乾燥卵白を添加したメレンゲ(比較例5)の経時の離水量は、添加材なしのメレンゲ(参考例)の離水量より少し少なくなっていた。
ゲル化剤を添加したメレンゲ(比較例3)の経時の離水量は、非常に少なかった。
これらの結果から、油脂粉末Aをメレンゲに使用した場合、参考例1の通常のメレンゲ(添加材無添加)よりも経時の離水量が多くならないことが確認できた。
【0038】
〔メレンゲを使用したシフォンケーキの製造(参考例2、実施例2、比較例6~8)〕
表5、表6に示す配合のメレンゲを使用したシフォンケーキを、以下の方法で製造した。
撹拌には、ケンミックス社製の撹拌機(装置名「KPL9000S卓上型ミキサー ケンミックス アイコー シェフPRO」、無負荷時回転数150~676rpm)を用いて行った。
(1)ボウルに、卵黄生地の原料である卵黄とグラニュー糖を入れ、撹拌機の中速4速の回転数で5分間撹拌混合した。
(2)植物油を加え、撹拌機の中速4速の回転数で3分間攪拌混合した。
(3)水を1速、30秒で加え、撹拌機の中速4速の回転数で3分30秒間攪拌混合した。
(4)篩でふるった薄力粉(日清製粉(株)製、商品名「バイオレット」)を加え、撹拌機の1速の回転数で30秒攪拌混合後、卵黄生地を一度かきとり、撹拌機の3速の回転数で30秒撹拌混合後、撹拌機の1速の回転数で20秒攪拌混合し、最後はヘラではたくように生地を混合し、卵黄生地を得た。
(5)得られた卵黄生地に、上述した参考例1のメレンゲの1/3量を添加し、混合した。
(6)残りのメレンゲを2回に分けて添加し、その都度気泡を潰さないように混合した。
(7)直径13cmの紙製シフォン型に、得られた生地を120g充填した。
(8)上火175℃、下火160℃の加熱条件で、オーブンにより32分間焼成した。
(9)焼成後、網の上で焼成したシフォンケーキが型に入ったままの状態で放冷し、3時間後に型紙を除去した。
(10)シフォンケーキをビニール袋に入れ、蓋付きの番重の中で20℃で1晩静置し、シフォンケーキを製造した(参考例2)。
実施例1、比較例1、及び比較例3~5のメレンゲを使用した実施例2、比較例6~9のシフォンケーキも、参考例2の製造方法と同様の方法で製造した。
【0039】
【0040】
【0041】
〔メレンゲを使用したシフォンケーキの製造(比較例9)〕
表7に示す配合の、メレンゲを使用したシフォンケーキを、以下の方法で製造した。
撹拌には、ケンミックス社製の撹拌機(装置名「KPL9000S卓上型ミキサー ケンミックス アイコー シェフPRO」、無負荷時回転数150~676rpm)を用いて行った。
(1)ボウルに、油脂粉末Aとグラニュー糖を入れて混合し、そこへ卵黄入れ、撹拌機の中速4速の回転数で5分間撹拌混合した。
(2)植物油を加え、撹拌機の中速4速の回転数で3分間攪拌混合した。
(3)水を1速、30秒で加え、撹拌機の中速4速の回転数で3分30秒間攪拌混合した。
(4)篩でふるった薄力粉(日清製粉(株)製、商品名「バイオレット」)を加え、撹拌機の1速の回転数で30秒攪拌混合後、卵黄生地を一度かきとり、撹拌機の3速の回転数で30秒撹拌混合後、撹拌機の1速の回転数で20秒攪拌混合し、最後はヘラではたくように生地を混合し、卵黄生地を得た。
(5)得られた卵黄生地に、上述した参考例1のメレンゲの1/3量を添加し、混合した。
(6)残りのメレンゲを2回に分けて添加し、その都度気泡を潰さないように混合した。
(7)直径13cmの紙製シフォン型に、得られた生地を120g充填した。
(8)上火175℃、下火160℃の加熱条件で、オーブンにより32分間焼成した。
(9)焼成後、網の上で焼成したシフォンケーキが型に入ったままの状態で放冷し、3時間後に型紙を除去した。
(10)シフォンケーキをビニール袋に入れ、蓋付きの番重の中で20℃で1晩静置し、シフォンケーキを製造した。
【0042】
【0043】
〔シフォンケーキの体積測定〕
製造したシフォンケーキの体積を、(株)アステックス製の体積計「3D Laser Volume Measurement Selnac-WinVM2100」を用いて、以下の条件で測定した。
測定条件:精密CCD
シフォンケーキは中空の形状をしているため、1/4にカットして体積を測定した。得られた4ピースの体積の合計値を1個のシフォンケーキの体積とした。測定はN=6で行い、その平均値をそのサンプルの体積の値とした。結果を表8、表9、及び
図1に示す。
【0044】
〔シフォンケーキの官能評価〕
味覚テストに合格したパネリスト6名に、得られた各種シフォンケーキを食してもらい、表8~10に示す評価基準で食味及び食感を評価した。評価結果を表11、表12に示す。
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
表11、表12、
図1の結果から以下のことがわかった。
実施例2の油脂粉末Aを添加したメレンゲを使用して製造したシフォンケーキは、添加材無添加の参考例2のシフォンケーキよりも体積が大きく、食味及び食感が良好であることがわかった。
実施例2のシフォンケーキは、比較例6~8のシフォンケーキよりも少し体積が大きくなり、食味及び食感も良好であることがわかった。
比較例9の乾燥卵白を添加したメレンゲを使用して製造したシフォンケーキは、実施例2のシフォンケーキよりも少し体積が大きくなったが、パサつきがあり、食味及び食感があまり良いものではなかった。
また、表4の結果で、メレンゲの経時の離水量が非常に少なかった比較例3のメレンゲを使用した比較例7のシフォンケーキは、メレンゲの離水量は少なかったものの、得られたシフォンケーキの食味及び食感は、参考例2及び実施例2のシフォンケーキより良好なものではなかった。
これらのことから、油脂粉末Aを添加したメレンゲをシフォンケーキに使用することで、シフォンケーキの体積を増大させ、また、食感及び食味を向上させられることがわかった。
さらに、実施例2と同じ添加材である油脂粉末Aを、メレンゲに添加するのではなく、卵黄生地に添加して製造した比較例10のシフォンケーキは、目が詰まっていて、体積が著しく小さく、また、食味及び食感も、参考例2及び実施例2のシフォンケーキより劣っているものであった。
このことから、シフォンケーキに油脂粉末Aを添加する場合、卵黄生地に添加するのではなく、メレンゲに添加して製造することで、得られるシフォンケーキの体積が大きくなり、食味及び食感が良好になることがわかった。
【0051】
〔メレンゲの製造(実施例1(再)3、4)〕
表13に示す配合、すなわち、卵白125gをベースとするメレンゲを製造した。
メレンゲの製造は、実施例1のメレンゲの油脂粉末の添加量を変えた以外は、実施例1と同様の方法で製造した。
なお、シフォンケーキの食感を比較するために、実施例1と同じ配合でメレンゲを製造した(実施例1(再))。
【0052】
【0053】
〔シフォンケーキの製造(実施例2(再)、5、6)〕
表14に示す油脂粉末Aの添加量を変えた配合のシフォンケーキを製造した。
シフォンケーキの製造は、実施例2のシフォンケーキの油脂粉末の添加量を変えた以外は、実施例2と同様の方法で製造した。
なお、シフォンケーキの食感を比較するために、実施例2と同じ配合でシフォンケーキを製造した(実施例2(再))。
【0054】
〔シフォンケーキの体積〕
実施例5及び6のシフォンケーキの体積を、(株)アステックス製の体積計「3D Laser Volume Measurement Selnac-WinVM2100」を用いて、上述した測定方法と同じ方法で測定した。結果を表14、及び
図1に示す。
【0055】
〔シフォンケーキの食感〕
味覚テストに合格したパネリストに、得られたシフォンケーキを食して食感を確認したところ、実施例2(再)よりも油脂粉末Aの添加量が少ない実施例5、及び実施例2(再)よりも油脂粉末Aの添加量が多い実施例6のシフォンケーキは、実施例2(再)のシフォンケーキと同等の食感であった。
【0056】
【0057】
表14、
図1の結果から以下のことがわかった。
油脂粉末Aは、メレンゲへの添加量が多いほどシフォンケーキの体積も大きくなる傾向があることがわかった。また、油脂粉末Aの添加量を変えた実施例3、4メレンゲのいずれを使用した場合でも、食感及び食味を損なうことはなかった。