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特開2024-122826演算装置、流体発生器、演算方法、及び、演算プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122826
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】演算装置、流体発生器、演算方法、及び、演算プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 13/02 20060101AFI20240902BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240902BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240902BHJP
   C25B 15/02 20210101ALI20240902BHJP
   G01N 30/68 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
G05B13/02 A
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B15/02
G01N30/68 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098975
(22)【出願日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2023029876
(32)【優先日】2023-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000127961
【氏名又は名称】株式会社堀場エステック
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(74)【代理人】
【識別番号】100231038
【弁理士】
【氏名又は名称】正村 智彦
(72)【発明者】
【氏名】濱田 千寛
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 七菜子
【テーマコード(参考)】
4K021
5H004
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BB05
4K021BC04
4K021BC09
4K021CA06
4K021CA11
4K021CA13
4K021DC03
4K021EA06
5H004GA02
5H004GB01
5H004HA02
5H004HB02
5H004JB23
(57)【要約】
【課題】発生させる流体の状態量をカルマンフィルタにより推定してモニタできるようにしつつ、その流体の状態量が大きく変動する場合にも、カルマンフィルタからの出力値を速やかに実際の状態量に追従させる。
【解決手段】入力値をカルマンフィルタ処理するフィルタリング部43と、入力値又は入力値と連動するパラメータ値であるモニタ値の変動量が閾値を超えた場合に、フィルタリング部により用いられる演算式を、変動量が閾値を下回っている場合に用いられる第1演算式から、より追従性の高い第2演算式に切り替える変更部45とを備えるようにした。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力値をカルマンフィルタ処理するフィルタリング部と、
前記入力値又は前記入力値と連動するパラメータ値であるモニタ値の変動量が閾値を超えた場合に、前記フィルタリング部により用いられる演算式を、前記変動量が前記閾値を下回っている場合に用いられる第1演算式から、より追従性の高い第2演算式に切り替える変更部とを備える、演算装置。
【請求項2】
前記変更部が、前記変動量が前記閾値を超えた場合に、前記カルマンフィルタ処理のカルマンゲインを大きくするゲイン変更部である、請求項1記載の演算装置。
【請求項3】
所定の流体を発生させる流体発生器であって、
請求項2に記載の演算装置を備え、
前記入力値が、前記流体の状態量を示す値又はその状態量と相関するパラメータの値である、流体発生器。
【請求項4】
前記ゲイン変更部が、最新のモニタ値と、その1つ前のタイミングのモニタ値との差又は比率を前記変動量として算出する、請求項3記載の流体発生器。
【請求項5】
前記モニタ値の前記変動量が閾値を超えた場合に、前記ゲイン変更部が、前記カルマンゲインを予め設定されている初期値に戻す、請求項3又は4記載の流体発生器。
【請求項6】
前記モニタ値の前記変動量が閾値を超えた場合に、前記ゲイン変更部が、前記変動量と閾値との差が大きいほど、前記カルマンゲインをより大きな値に変更する、請求項3又は4記載の流体発生器。
【請求項7】
前記ゲイン変更部が、前記変動量と前記閾値との差を変数に持ち、その差が大きくなるにつれて1以下の値に収束する関数を用いて、前記カルマンゲインを変更する、請求項6記載の流体発生器。
【請求項8】
前記フィルタリング部から出力される出力値を表示する表示部を備える、請求項3乃至7のうち何れか一項に記載の流体発生器。
【請求項9】
前記フィルタリング部から出力される出力値が、前記流体の流量である、請求項3乃至8のうち何れか一項に記載の流体発生器。
【請求項10】
前記流体が水素ガスであり、
水を電気分解して水素ガスを生成する電気分解手段を備える、請求項3乃至9のうち何れか一項に記載の流体発生器。
【請求項11】
前記電気分解手段に供給される電流が、パルス電流である、請求項10記載の流体発生器。
【請求項12】
前記水素ガスの圧力を検出する圧力センサをさらに備え、
前記圧力センサによる検出圧力が上限値に達した場合に、前記電気分解手段への電流供給が停止し、前記検出圧力が下限値に達した場合に、前記電気分解手段への電流供給が開始されるように構成されている、請求項11記載の流体発生器。
【請求項13】
前記モニタ値が、前記水素ガスの流量、前記水素ガスの圧力、前記パルス電流のデューティ比、前記検出圧力が上限値から下限値に到るまでの経過時間、前記電気分解手段に送られる水の残量或いは水位、前記電気分解手段から水素ガスとともに流出する水を分離するための水分離手段の動作速度、又は、前記水素ガスが通過する除湿ユニットに用いられている除湿剤の破過状態の少なくとも1つである、請求項12記載の流体発生器。
【請求項14】
入力値をカルマンフィルタ処理するフィルタリングステップと、
前記入力値又は前記入力値と連動するパラメータ値であるモニタ値の変動量が閾値を超えた場合に、前記フィルタリングステップにより用いられる演算式を、前記変動量が前記閾値を下回っている場合に用いられる第1演算式から、より追従性の高い第2演算式に切り替える変更ステップとを備える、演算方法。
【請求項15】
入力値をカルマンフィルタ処理するフィルタリング部と、
前記入力値又は前記入力値と連動するパラメータ値であるモニタ値の変動量が閾値を超えた場合に、前記フィルタリング部により用いられる演算式を、前記変動量が前記閾値を下回っている場合に用いられる第1演算式から、より追従性の高い第2演算式に切り替える変更部としての機能をコンピュータに発揮させる、演算プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、演算装置、流体発生器、演算方法、及び、演算プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、ガスクロマトグラフなどの機器に用いられる水素ガスを水素発生器で発生させる環境(特許文献1)などにおいて、水素ガスが可燃性であることから、漏れなどの異常を検知できるようにするべく、水素ガスの発生流量をモニタしたいという要望がある。
【0003】
水素ガスの発生流量は、水素ガスを発生させる電解セルへの供給電流に基づいて理論的には算出できるものの、算出される発生流量のデータには電流値のサンプリングタイムなどに依存するノイズによってばらつきが生じる。
【0004】
そこで、従来は、生データに移動平均をかけて平滑化処理してから出力するようにはしているものの、ばらつきを要望されるレベルまで抑えるためには、移動平均の回数を増やす必要があり、その結果、応答速度が低下するという課題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-196357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような中で、本願発明者は、応答速度の向上を図るべく、カルマンフィルタを用いて水素ガスの推定流量を出力することを検討したところ、従来の移動平均を用いた平滑化処理に比べれば、応答速度の向上が見込まれる結果を得た。
【0007】
しかしながら、例えば水素発生器の動作モードが、水素ガスを溜めておく準備モードから、その溜めた水素ガスをガスクロマトグラフなどの機器に供給する供給モードに切り替わる際など、水素ガスの発生流量が大きく変動する場合には、単にカルマンフィルタを用いた平滑化処理では、カルマンフィルタからの出力値である推定流量が実際の流量に追従するまでに時間を要してしまう。
【0008】
その結果、推定流量が実際の流量に追従できていない間は、水素ガスの漏れなどの異常を検知することができず、上述した要望に十分に応えることができない。
【0009】
なお、かかる問題は、水素発生器やガスクロマトグラフを使う環境に限らず、カルマンフィルタを用いて種々の流体の状態量又はこれに連動するパラメータの値を推定する場合において、共通して生じ得るものである。また、上述した発生流量が大きく変動する現象は、モードの切り替え時のみならず、例えば供給先の設定流量が変更される場合にも生じ得る。
【0010】
そこで本発明は、上記問題点を解決すべくなされたものであって、発生させる流体の状態量をカルマンフィルタにより推定してモニタできるようにしつつ、その流体の状態量が大きく変動する場合にも、カルマンフィルタからの出力値を速やかに実際の状態量に追従させることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明に係る演算装置は、入力値をカルマンフィルタ処理するフィルタリング部と、前記入力値又は前記入力値と連動するパラメータ値であるモニタ値の変動量が閾値を超えた場合に、前記フィルタリング部により用いられる演算式を、前記変動量が前記閾値を下回っている場合に用いられる第1演算式から、より追従性の高い第2演算式に切り替える変更部とを備えることを特徴とするものである。
【0012】
このように構成された演算装置によれば、流体の観測された状態量を入力値とすることで、カルマンフィルタ処理により流体の状態量を推定してモニタすることができるうえ、流体の状態量が大きく変動して、モニタ値の変動量が閾値を超えた場合には、フィルタリング部により用いられる演算式を追従性の高いものに切り替えるので、フィルタリング部からの出力値を速やかに実際の状態量に追従させることができる。
【0013】
前記変更部が、前記変動量が前記閾値を超えた場合に、前記カルマンフィルタ処理のカルマンゲインを大きくするゲイン変更部であることが好ましい。
このような構成であれば、カルマンゲインを大きくすることで、フィルタリング部により用いられる演算式を追従性の高いものに切り替えることができる。
【0014】
また、本発明に係る流体発生器は、所定の流体を発生させる流体発生器であって、上述した演算装置を備え、前記入力値が、前記流体の状態量を示す値又はその状態量と相関するパラメータの値であることを特徴とするものである。
このように構成された流体発生器によれば、上述した演算装置を備えているので、カルマンフィルタ処理により流体の状態量を推定してモニタすることができるうえ、流体の状態量が大きく変動した場合にも、フィルタリング部からの出力値を速やかに実際の状態量に追従させることができる。
【0015】
前記ゲイン変更部が、最新のモニタ値と、その1つ前のタイミングのモニタ値との差又は比率を前記変動量として算出することが好ましい。
これならば、流体の状態量が大きく変動した後、フィルタリング部からの出力値をより速やかに安定させることができる。
【0016】
カルマンゲインの具体的な変更の仕方としては、前記モニタ値の前記変動量が閾値を超えた場合に、前記ゲイン変更部が、前記カルマンゲインを予め設定されている初期値に戻す態様を挙げることができる。
これならば、プログラムを煩雑にすることなく、カルマンゲインを確実に大きな値に戻すことができる。
【0017】
また、別の変更の仕方としては、前記モニタ値の前記変動量が閾値を超えた場合に、前記ゲイン変更部が、前記変動量と閾値との差が大きいほど、前記カルマンゲインをより大きな値に変更する態様を挙げることができる。
これならば、変動量に応じてカルマンゲインの戻し方に重み付けすることができ、フィルタリング部からの出力値をより速く安定させることができる。
【0018】
このようにカルマンゲインの戻し方に重み付けするための実施態様としては、前記ゲイン変更部が、前記変動量と前記閾値との差を変数に持ち、その差が大きくなるにつれて1以下の値に収束する関数を用いて、前記カルマンゲインを変更する態様を挙げることができる。
【0019】
前記フィルタリング部から出力される出力値を表示する表示部を備えることが好ましい。
これならば、この表示された出力値と、例えば流体の供給先の機器に設定されている設定流量とを比較することで、機器が正常に動作しているかなどを把握することができる。
【0020】
前記フィルタリング部から出力される出力値が、前記流体の流量であることが好ましい。
これならば、流体の発生流量をモニタしたいという要望に応じることができる。
【0021】
流体発生器としてのより具体的な実施態様としては、前記流体が水素ガスであり、水を電気分解して水素ガスを生成する電気分解手段を備える態様が挙げられる。
【0022】
具体的な実施態様としては、前記電気分解手段に供給される電流が、パルス電流である態様が挙げられる。
これならば、供給電流から算出される発生流量には、供給電流のサンプリングタイムによるばらつきが生じやすくなるものの、本発明の作用効果がより顕著に発揮されて、水素ガスの発生流量をカルマンフィルタ処理により推定してモニタできるようにしつつ、水素ガスの発生流量が大きく変動する場合にも、フィルタリング部からの出力値を速やかに安定させることができる。
【0023】
前記水素ガスの圧力を検出する圧力センサをさらに備え、前記圧力センサによる検出圧力が上限値に達した場合に、前記電気分解手段への電流供給が停止し、前記検出圧力が下限値に達した場合に、前記電気分解手段への電流供給が開始されることが好ましい。
このような構成であれば、水素ガスの圧力を所定範囲に保つことができ、その結果、電気分解手段への供給電流がパルス電流になるも、上述した通り、水素ガスの発生流量をカルマンフィルタ処理により推定してモニタできるようにしつつ、水素ガスの発生流量が大きく変動した場合においても、フィルタリング部からの出力値を速やかに安定させることができる。
【0024】
前記モニタ値が、前記水素ガスの流量、前記水素ガスの圧力、前記パルス電流のデューティ比、前記検出圧力が上限値から下限値に到るまでの経過時間、前記電気分解手段に送られる水の残量或いは水位、又は、前記電気分解手段から水素ガスとともに流出する水を分離するための水分離手段の動作速度、又は、前記水素ガスが通過する除湿ユニットに用いられている除湿剤の破過状態の少なくとも1つである。
これならば、水素ガスの発生流量が大きく変動したことを契機に、カルマンゲインを大きくすることができる。
【0025】
本発明に係る演算方法は、入力値をカルマンフィルタ処理するフィルタリングステップと、前記入力値又は前記入力値と連動するパラメータ値であるモニタ値の変動量が閾値を超えた場合に、前記フィルタリングステップにより用いられる演算式を、前記変動量が前記閾値を下回っている場合に用いられる第1演算式から、より追従性の高い第2演算式に切り替える変更ステップとを備えることを特徴とする方法である。
【0026】
本発明に係る演算プログラムは、入力値をカルマンフィルタ処理するフィルタリング部と、前記入力値又は前記入力値と連動するパラメータ値であるモニタ値の変動量が閾値を超えた場合に、前記フィルタリング部により用いられる演算式を、前記変動量が前記閾値を下回っている場合に用いられる第1演算式から、より追従性の高い第2演算式に切り替える変更部としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とするものである。
【0027】
このような演算方法及び演算プログラムによれば、上述した演算蔵置と同様の作用効果を奏し得る。
【発明の効果】
【0028】
このように構成した本発明によれば、発生させる流体の状態量をカルマンフィルタにより推定してモニタできるようにしつつ、その流体の状態量が大きく変動する場合にも、カルマンフィルタからの出力値を速やかに実際の状態量に追従させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の一実施形態における流体発生器の構成を示す模式図。
図2】同実施形態の制御装置の機能を示す機能ブロック図。
図3】同実施形態の電解セルへの供給電流を説明する模式図。
図4】同実施形態の供給電流のサンプリングタイミングを説明する模式図。
図5】同実施形態の観測流量の生データ。
図6】同実施形態の制御装置の動作を示すフローチャート。
図7】同実施形態のカルマンフィルタを示す数式。
図8】同実施形態のカルマンフィルタを示すブロック線図。
図9】同実施形態の作用効果を説明するデータ。
図10】その他の実施形態のフィルタリング処理を説明する演算式。
図11】その他の実施形態の推定装置を説明する模式図。
図12】その他の実施形態の流体発生器を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
<第1実施形態>
以下に、本発明に係る流体発生器の第1実施形態について、図面を参照して説明する。
【0031】
本実施形態の流体発生器100は、図1に示すように、所定の流体を発生させるとともに、その流体を別の機器200に供給するものである。
【0032】
より具体的に説明すると、この流体発生器100は、供給先の機器200への供給を停止しつつ流体を発生させる準備モードと、流体を発生させつつ供給先の機器200に流体を供給する供給モードとに切り替わるように構成されている。
【0033】
なお、供給先の機器200は、予め設定流量が設定されており、供給モードにおいては、機器200に流れる実流量が設定流量に近づくように、流体発生器100から供給先の機器200に流体が供給されることになる。
【0034】
そして、この流体発生器100は、準備モード及び供給モードのそれぞれにおいて、発生させた流体が流れる流路Lの圧力が所定の設定圧力に維持されるよう、流体の発生流量が制御されるように構成されている。
【0035】
以下では、流体発生器100として、水を電気分解して水素ガスを発生させる水素発生器を取り上げるとともに、その水素ガスの供給先となる機器200として、例えば水素炎イオン化検出器(FID)の燃料用ガスとして水素ガスが用いられるガスクロマトグラフを取り上げて説明する。
ただし、流体発生器100や供給先の機器200は、これに限らず、種々のものとすることができるし、以下に述べる水素ガスについても、種々の気体或いは液体として構わない。
【0036】
具体的に流体発生器100は、図1に示すように、水を収容する貯留タンク10と、水を電気分解して水素ガスを発生させる電気分解手段たる電解セル20と、電解セル20で発生した水素ガスが流れるガス流路Lに設けられて水素ガスの圧力を検出する圧力センサ30と、圧力センサ30の検出圧力が設定圧力となるように流体の発生流量を制御する制御装置40とを備えている。
【0037】
さらに、本実施形態の流体発生器100は、図1に示すように、ガス流路Lに設けられた水分離手段50及び開閉弁60を備えており、これらの水分離手段50及び開閉弁60の間に圧力センサ30が設けられている。
【0038】
水分離手段50は、電解セル20から水素ガスとともに流出する水を水素ガスから分離するためのものである。なお、水分離手段50の一例としては、図1に示すように、水と水素ガスとが流れ込む容器51と、容器51内で上下動するフロート52とを有し、そのフロート52の上下動を利用して容器51内の水を排出するように構成されたものなどを挙げることができる。
【0039】
開閉弁60は、水素ガスの供給とその停止とを切り替えるためのものであり、ここでは上述した制御装置40からの開閉信号に応じて開閉動作するものである。具体的には、流体発生器100の準備モードにおいては、開閉弁60が閉じられており、流体発生器100の供給モードにおいては、開閉弁60が開かれる。
【0040】
制御装置40は、CPU、メモリ、入出力インターフェースなどを備えたコンピュータであり、前記メモリに格納されているプログラムに従って、CPU及びその周辺機器が協働することにより、図2に示すように、発生流量制御部41及び発生流量算出部42としての機能を備えている。
【0041】
発生流量制御部41は、圧力センサ30の検出圧力が設定圧力となるように、電解セル20に供給する電流値を調整して水素ガスの発生流量を制御するものであり、具体的には、電解セル20に電流を供給する電源70を制御する。
【0042】
より具体的に説明すると、この発生流量制御部41は、図3に示すように、圧力センサ30による検出圧力が上限値に達した場合に、電解セル20への電流供給を停止し、検出圧力が下限値に達した場合に、電解セル20への電流供給を開始する。
【0043】
かかる制御により、電解セル20に供給される電流は、ゼロ又は所定値に切り替えられることとなり、言いかえれば、電解セル20に供給される電流は、オンとオフとの期間が繰り返されるパルス電流になる。
【0044】
なお、図3に示すように、水素ガスの流量が大きい場合と小さい場合とを比較すると、大きい場合の方が、電解セル20への電流供給を停止してから検出圧力が低下する傾きが急になるので、電解セル20への電流供給を停止している時間が短くなり、言い換えれば、オン時間の割合が大きく(オフ時間の割合が小さく)なる。
【0045】
発生流量算出部42は、発生される流体の観測可能な状態量を算出するものであり、ここでは電解セル20に供給される電流のデューティ比に基づいて算出可能な水素ガスの単位時間当たりの発生流量(以下、観測流量という)を算出するものである。
【0046】
本実施形態の発生流量算出部42は、電源70から電解セル20への供給電流のデューティ比を取得するとともに、このデューティ比を用いて水素ガスの観測流量を算出するものであり、より具体的には、取得したデューティ比に最大流量を掛け合わせて観測流量を算出している。
【0047】
ただし、観測流量の算出方法はこれに限らず、例えば、供給電流の電流値に基づいて電解セル20に供給される単位時間当たりの電気量を算出し、その電気量を、1モルの水の電気分解に必要な電気量で除することにより観測流量を算出しても構わない。
【0048】
この観測流量は、上述した通り、電解セル20への供給電流の電流値を取得して算出されるところ、その電流値のサンプリングタイミングに起因して観測流量にノイズが含まれる。
【0049】
より詳細に説明すると、本実施形態では、図4に示すように、電解セル20にはパルス電流が供給されており、発生流量算出部42は電流値を所定の時間間隔でサンプリングするので、パルス電流が供給されるタイミングと、電流値のサンプリングタイミングとが多少なりともずれてしまい、これに起因したノイズが生じる。
【0050】
その結果、図5に示すように、発生流量算出部42により算出された観測流量の生データにはばらつきが生じて不安定な挙動となる。なお、同図5に示すように、観測流量の生データに平均移動をかけることによってばらつきを抑えることはできるが、ばらつきを十分に抑えるためには、移動平均の回数を例えば5000回程度に増やす必要があり、そうすると応答速度が低下してしまう。
【0051】
そこで、本実施形態の流体発生器100は、図2に示すように、カルマンフィルタを用いてノイズを含む観測流量から水素ガスの実際の発生流量を推定するように構成されており、具体的には、制御装置40が、前記メモリに格納されている推定プログラムに従って、CPU及びその周辺機器が協働することにより、フィルタリング部43、モニタ部44、及び、変更部45としての機能を発揮する。
以下、各部の機能について、図6のフローチャートを参照しながら説明する。
【0052】
フィルタリング部43は、入力値をカルマンフィルタ処理するとともに、カルマン処理された値を出力値として出力するものである。
【0053】
具体的にこのフィルタリング部43は、図7の演算式及び図8のブロック線図により表されるものであり、時刻kにおける状態量を、時刻k-1までのデータを用いて推定した時刻kにおける事前推定値と、時刻kにおける観測値とを用いて推定するカルマンフィルタとしての機能を発揮するものである。
【0054】
すなわち、本実施形態のフィルタリング部43は、時刻kにおける水素ガスの単位時間当たりの発生量の推定値(以下、推定流量という)を、時刻k-1までのデータを用いて推定した時刻kにおける事前推定流量と、時刻kにおける観測流量とを用いて出力するものである。つまり、本実施形態のフィルタリング部43は、上述した推定流量を出力値として出力するものである。
【0055】
より具体的に説明すると、このフィルタリング部43は、時刻kにおける水素ガスの観測流量が入力されて、時刻kにおける水素ガスの推定流量を出力するものであり、図8に示すように、時刻kにおける事前推定量を出力する推定モデル431と、時刻kにおける観測流量と事前推定流量との偏差に乗じられるカルマンゲインgとにより構成されている。
【0056】
すなわち、カルマンゲインgは、状態量の更新に現在の時刻kでの観測値をどの程度反映させるかを決める値であり、その性質上、予め設定された初期値から動的に(経時的に)変化する値である。なお、カルマンゲインgの初期値は適宜設定することができるが、この実施形態では初期値を1としており、フィルタリング部43からの出力値(推定流量)が安定すればするほど、このカルマンゲインgは小さい値(例えば0.01程度)になる。
【0057】
より具体的に説明すると、カルマンゲインgは、図7に示すように、状態の予測誤差の分散と観測方程式のノイズの分散との和に対する状態の予測誤差の分散の比率であり、共分散行列により表現される。
【0058】
モニタ部44は、観測流量又は観測流量と連動するパラメータの値であるモニタ値をサンプリングするものである(図6のS1)。なお、ここでいう連動するとは、ここでの入力値である観測流量の変化を追えることを意味しており、観測流量と連動するパラメータとは、観測流量に追従して変化するパラメータである。
【0059】
本実施形態のモニタ部44は、上述した発生流量算出部により算出される観測流量をモニタ値としてリアルタイムでサンプリングするものであり、サンプリングしたモニタ値を逐次ゲイン変更部45に出力する。すなわち、ゲイン変更部45は、モニタ部44からのモニタ値を受け付けるモニタ値受付部を含む。
【0060】
変更部45は、モニタ値の変動量が閾値を超えた場合に、フィルタリング部43により用いられる演算式を、変動量が閾値を下回っている場合に用いられる第1演算式から、より追従性の高い第2演算式に切り替えるものである。
【0061】
ここで、演算式の安定性及び追従性に着目すると、第1演算式は、第2演算式よりも安定性が高く、逆に第2演算式よりも追従性が低い式であり、言い換えれば、第2演算式は、第1演算式よりも追従性が高く、逆に第1演算式よりも安定性が低い式である。
【0062】
演算式の安定性は、入力値が安定している際の出力値の安定さを示す指標であり、演算式の追従性は、入力値が変動している際の出力値の応答速度を示す指標である。なお、入力値が安定している際とは、例えば種々の設定に変更がなく、入力値の変動量又は変動率が所定値を下回っている場合であり、逆に、入力値が変動している際とは、例えば種々の設定の少なくとも1つに変更があるなどして、入力値の変動量又は変動率が所定値を上回っている場合である。
【0063】
本実施形態の変更部45は、モニタ値の変動量が閾値を超えた場合に、カルマンフィルタのカルマンゲインgを大きくするゲイン変更部45である。なお、モニタ値の変動量が大きくなるケース、言い換えれば、観測流量の変動量が大きくなるケースは、水素ガスの発生流量が大きく変動する場合に生じ、具体的には、例えば流体発生器100が上述した準備モード及び供給モードの一方から他方に切り替わった場合や、水素ガスの供給先のガスクロマトグラフ200に設定される設定流量が変更された場合などに生じる。
【0064】
本実施形態のゲイン変更部45は、最新のモニタ値と、その1つ前のタイミングのモニタ値との差又は比率を変動量として算出するものであり、具体的には、モニタ部44によりサンプリングされた最新のモニタ値と、その1つ前のタイミングでサンプリングされたモニタ値との差又は比率を変動量として算出する(図6のS2)。すなわち、ゲイン変更部45は、変動量を算出する変動量算出部を含む。
【0065】
次いで、ゲイン変更部45は、算出した変動量と閾値とを比較して、変動量が閾値を超えているか否かを判断する(図6のS3)。すなわち、ゲイン変更部45は、閾値が記憶されている閾値記憶部を含み、その閾値記憶部から閾値を読み出して変動量が閾値を超えているか否かを判断する判断部を含む。
【0066】
そして、モニタ値の変動量が閾値を超えた場合、すなわち前記判断部が閾値を超えたと判断した場合、ゲイン変更部45は、カルマンゲインgを、少なくとも1つ前に用いられたカルマンゲインよりも大きくするように構成されており、具体的には、予め定められている戻し値に戻す(図6のS4)。すなわち、ゲイン変更部45は、カルマンゲインを切り替えるゲイン切替部を含む。
【0067】
より具体的に説明すると、図2に示すように、本実施形態の制御装置40は、前記戻し値を記憶する戻しゲイン記憶部46を備えており、モニタ値の変動量が閾値を超えた場合に、ゲイン変更部45が戻しゲイン記憶部46から戻し値を取得して、そのときのカルマンゲインgを戻し値に戻す。
【0068】
本実施形態では、上述したカルマンゲインgの初期値を戻し値として用いている。すなわち、戻しゲイン記憶部46は、前記初期値である1を記憶しており、ゲイン変更部45は、モニタ値の変動量が閾値を超えた場合に、カルマンゲインgを初期値である1に戻すように構成されている。
【0069】
カルマンゲインgを変更した後は、図6に示すように、S1のモニタ部44によるモニタ値のサンプリングに戻る。
【0070】
なお、S3の判断において、モニタ値の変動量が閾値を超えていない場合においても、ゲイン変更部45によるカルマンゲインgの変更はなく、S1のモニタ部44によるモニタ値のサンプリングに戻る。
【0071】
本実施形態の制御装置40は、図2に示すように、フィルタリング部43から出力される出力値たる推定流量をディスプレイ80等に表示する表示部47をさらに備える。
【0072】
この表示部47としては、フィルタリング部43から出力される推定流量とともに、流体の供給先のガスクロマトグラフ200に設定されている設定流量を比較可能に表示するように構成されていても良い。
【0073】
<第1実施形態の流体発生器100による作用効果>
このように構成された流体発生器100によれば、フィルタリング部43から出力される水素ガスの推定流量をモニタすることができるうえ、水素ガスの発生流量が大きく変動して、モニタ値の変動量が閾値を超えた場合には、カルマンゲインgを大きくするので、水素ガスの発生流量が大きく変動した後、速やかに推定流量を安定させることができる。
【0074】
より具体的には、図9に示すように、例えば水素ガスの供給先の設定流量が変更された場合に、フィルタリング部43から出力される推定流量が速やかに安定しており、ここでは、生データ(観測流量)に5000回の移動平均をかける平滑処理と同等或いはそれよりも速やかに安定している。
【0075】
また、ゲイン変更部45が、モニタ部44によりサンプリングされた最新のモニタ値と、その1つ前のタイミングでサンプリングされたモニタ値との差又は比率を変動量として算出するので、水素ガスの発生流量が大きく変動した後、より速やかに推定流量を安定させることができる。
【0076】
さらに、モニタ値の変動量が閾値を超えた場合に、カルマンゲインgを予め設定されている初期値に戻るので、プログラムを煩雑にすることなく、カルマンゲインgを確実に大きな値に戻すことができる。
【0077】
加えて、表示部47がフィルタリング部43から出力される推定流量を表示するので、この推定流量と、例えば水素ガスの供給先のガスクロマトグラフ200に設定されている設定流量とを比較することで、ガスクロマトグラフ200が正常に動作しているかなどを把握することができる。
【0078】
そのうえ、本実施形態の流体発生器100は、圧力センサ30による検出圧力が上限値に達した場合に、電解セル20への電流供給が停止し、検出圧力が下限値に達した場合に、電解セル20への電流供給が開始されるので、水素ガスの圧力を所定範囲に保つことができる。
【0079】
その結果、電解セル20にパルス電流が供給されることになり、供給電流から算出される観測流量には、供給電流のサンプリングタイムによるばらつきが生じやすくなるものの、上述した作用効果がより顕著に発揮されて、水素ガスの発生流量をフィルタリング部43により推定してモニタできるようにしつつ、水素ガスの発生流量が大きく変動した場合においても、推定流量を速やかに安定させることができる。
【0080】
<第2実施形態>
続いて、本発明に係る流体発生器の第2実施形態について、図面を参照して説明する。
【0081】
本実施形態の流体発生器100は、制御装置40の機能や動作が、第1実施形態とは異なるので、この差異点について詳述する。
【0082】
まず、本実施形態の制御装置40におけるフィルタリング部43は、入力値をカルマンフィルタ処理する点においては、前記第1実施形態と共通しており、時刻kにおける入力値の推定値を、時刻k-1までのデータを用いて推定した時刻kにおける事前推定値と、時刻kにおける入力値とを用いて出力するものである。
【0083】
より具体的に説明すると、このフィルタリング部43は、時刻kにおける入力値の推定値を算出する過程(すなわち、時刻kにおける入力値をカルマン処理する過程)で、図10に示す演算式を用いて上述した時刻kにおける事前推定値を算出し、この事前推定値やカルマンゲイン等を用いて時刻kにおける入力値の推定値を出力する。
【0084】
この事前推定値xは、図10の演算式からも分かるように、フィルタリング部43から出力された前回の出力値x(すなわち、フィルタリング部43のカルマンフィルタ処理により得られた前回の出力値x)に、フィルタリング部43に入力される今回の入力値とフィルタリング部43から出力された前回の出力値との差分uを足し合わせた値xである。
【0085】
なお、差分uは、今回の入力値と前回の出力値との差分に限らず、例えば、今回の入力値と前々回或いはそれよりも前の出力との差分であっても良く、フィルタリング部43に入力される入力値と、その入力よりも前にフィルタリング部43から出力される出力値との差分であれば良い。
【0086】
本実施形態の演算式には、前回の出力値xに重み付けする重み付け係数Aと、今回の入力値と前回の出力値との差分uに重み付けする重み付け係数Bとが含まれており、前回の出力値xに重み付け係数Aを乗じた値と、今回の入力値と前回の出力値との差分uに重み付け係数Bを乗じた値との和が出力値として出力される。なお、重み付け係数A、Bは、0以上1以下の値である。
【0087】
かかる構成において、変更部45は、モニタ値の変動量が閾値を超えた場合に、フィルタリング部43により用いられる演算式を、変動量が閾値を下回っている場合に用いられる第1演算式から、より追従性に高い第2演算式に切り替えるものである点においては、前記第1実施形態と共通する。
【0088】
一方、本実施形態の変更部35は、その具体的な実施態様が前記第1実施形態とは異なり、モニタ値の変動量が閾値を超えた場合に、第1演算式に含まれる係数を補正することで、フィルタリング部43に用いられる演算式を第1演算式から第2演算式に変更する式変更部35である。
【0089】
この式変更部35は、フィルタリング部43に入力される入力値と、その入力よりも前にフィルタリング部43から出力される出力値との差分uに掛け合わされる重み付け係数Bを補正することで、フィルタリング部43に用いられる演算式を第1演算式又は第2演算式の何れかに変更する。
【0090】
具体的に式変更部35は、モニタ値の変動量が閾値を超えた場合に、第1演算式に含まれる重み付け係数Bを、その変動量に応じた別の値に補正することで、第1演算式から第2演算式に変更するように構成されている。
【0091】
つまり、変動量が閾値を下回っている場合は、重み付け係数Bが予め決められた固定値として含まれる演算式が第1演算式として用いられ、変動量が閾値を超えた場合には、変動量が大きいほど、重み付け係数Bを前記固定値よりも大きな値に補正した演算式が第2演算式として用いられる。なお、上述した通り、重み付け係数Bは0以上1以下の値である。
【0092】
その後、フィルタリング部43が、式変更部35により選択された第1演算式、又は、式変更部35により切り替えられた第2演算式を用いて入力値を平滑化処理し、その平滑化処理後の値を表示部47が出力値としてディスプレイ等に表示出力する。
【0093】
このように構成された流体発生器100によれば、モニタ値の変動量が閾値を超えた場合に、フィルタリング部43により用いられる演算式を、変動量が閾値を下回っている場合に用いられる第1演算式から、より追従性の高い第2演算式に変更するので、入力値の変動が緩やかであったり、入力値の変動量がわずかであったりする場合であっても、その変動を捉えながら、入力値を平滑化処理した出力値の安定性及び追従性の双方の向上を図れる。
【0094】
また、モニタ値の変動量が閾値を超えた場合に、式変更部35が、演算式に含まれる係数を補正することで、第1演算式から第2演算式に変更するので、これらの演算式として、互いに関連のないものを用いる場合よりも演算処理を簡素にすることができる。
【0095】
加えて、式変更部35が、フィルタリング部43に入力される入力値と、その入力よりも前に当該フィルタリング部43から出力される出力値との差分に掛け合わされる重み付け係数を補正するように構成されているので、カルマンフィルタ処理に用いられる例えばカルマンゲイン等を変えることなく、追従性を向上させることができる。
【0096】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0097】
例えば、ゲイン変更部45は、モニタ値の変動量が閾値を超えた場合に、前記実施形態では、カルマンゲインgを初期値に戻すものであったが、モニタ値と閾値との差が大きいほど、カルマンゲインgをより大きな値に変更するものであっても良い。
【0098】
こうしたゲイン変更部45の実施態様としては、変動量と閾値との差を変数に持ち、その差が大きくなるにつれて1以下の値に収束する関数を用いて、カルマンゲインgを変更する態様を挙げることができ、より具体的には、例えばシグモイド関数やランプ関数などを、共分散行列に掛け合わせることでカルマゲインを変更する態様を挙げることができる。
このような構成であれば、モニタ値の変動量に応じてカルマンゲインgの戻し方に重み付けすることができ、フィルタリング部43の出力値である推定流量をより速く安定させることができる。
【0099】
また、モニタ値の変動量が閾値を超えた場合に、前記実施形態では、カルマンゲインgを初期値に戻す態様であったが、カルマンゲインgを初期値とは異なる戻し値に戻しても良い。
【0100】
さらに、前記実施形態では、カルマンゲインgの初期値を1としていたが、1未満であっても構わない。
【0101】
加えて、モニタ部44は、前記実施形態では、観測流量をモニタ値としてサンプリングするものであったが、観測流量と連動するパラメータの値をモニタ値としてサンプリングするものであっても良い。
【0102】
より詳細に説明すると、モニタ部44がサンプリングするモニタ値は、前記実施形態ではフィルタリング部43に入力されるパラメータと同じ観測流量であったが、必ずしもこれに限るものではなく、フィルタリング部43に入力されるパラメータとは別のパラメータであっても良い。
【0103】
このパラメータは、流体発生器100から取得可能な物理量であって、観測流量の変動に伴って増減する物理量であり、具体的には、電解セル20に供給されるパルス電流のデューティ比(オン時間の割合又はオフ時間の割合)、検出圧力が上限値から下限値に到るまでの経過時間、電解セル20に送られる水の残量或いは水位、又は、水分離手段50の動作速度等を挙げることができる。また、水分離手段50の下流に水素ガスが通過する除湿ユニットが設けられている構成においては、その除湿ユニットに用いられている除湿剤の破過状態をパラメータとして用いることができる。この場合、除湿ユニットの下流に露点計を設けておくことで、この露点計の計測値を破過状態を表す指標として用いることができる。
【0104】
さらに加えて、ゲイン変更部45としては、モニタ値の変動量が閾値を超え、且つ、その超えている時間が所定時間継続した場合にカルマンゲインgを大きくするように構成されていても良い。
【0105】
前記実施形態では、流体発生器100が、フィルタリング部43、モニタ部44、及び、ゲイン変更部45を備えていたが、図11に示すように、流体発生器100とは別の推定装置300が、フィルタリング部43、モニタ部44、及び、ゲイン変更部45の一部又は全部を備えていても良い。
【0106】
そのうえ、流体発生器100としては、前記実施形態では水素を発生させる水素発生器として説明したが、水素以外のガスを生成するものや、ガスに限らず液体を発生させるものなど、種々の流体を発生せるものであって良いし、例えばガスボンベなどのように収容する流体を下流に供給するための流体源であっても良い。
【0107】
また、流体発生器100により発生させた流体の供給先は、前記実施形態ではガスクロマトグラフであったが、それ以外の種々の機器として構わない。
【0108】
フィルタリング部43は、前記実施形態では観測流量が入力されて、推定流量を出力するものであったが、必ずしもこれに限るものではなく、流体の観測された状態量又はこれに相関するパラメータの値である観測状態量が入力されて、流体の推定された状態量又はこれに相関するパラメータの値である推定状態量を出力しても良い。なお、ここでいう相関するとは、1対1の関係にあることを意味しており、流体の状態量に相関するパラメータとは、流体の状態量に応じてある値に定まるパラメータである。
かかる観測状態量及び推定状態量としては、前記実施形態で説明した流体の流量に限らず、流体の圧力、電解セル20に供給される供給電流のデューティ比、又は、その供給電流の電流値などを挙げることができる。
【0109】
より具体的な態様を説明すると、前記実施形態では、流体の状態量として流量を観測して推定する態様を説明したが、観測及び推定される状態量は流量に限らず圧力であっても良く、言い換えれば、流体発生器100及び推定装置300としては、流体の観測圧力が入力されて、流体の推定圧力を出力するフィルタリング部43を備えるものであっても良い。
この場合、制御装置40としては、図12に示すように、前記実施形態で述べた発生流量算出部42としての機能は必ずしも備えている必要はなく、モニタ部44としては、図11に示すように、圧力センサ30により観測される観測圧力、又は、その観測圧力と連動するパラメータの値であるモニタ値をモニタするものであっても良い。
【0110】
さらには、入力値が流体の状態量と相関するパラメータであり、モニタ値が入力値と連動するパラメータ値であっても良く、この場合の一例としては、入力値が電解セル20への供給電流のデューティ比であり、モニタ値が水分離手段50の動作速度である態様を挙げることができる。
【0111】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0112】
100・・・流体発生器
200・・・機器
L ・・・流路
10 ・・・貯留タンク
20 ・・・電解セル
30 ・・・圧力センサ
40 ・・・制御装置
41 ・・・発生流量制御部
42 ・・・発生流量算出部
43 ・・・フィルタリング部
431・・・推定モデル
g ・・・カルマンゲイン
44 ・・・モニタ部
45 ・・・ゲイン変更部
46 ・・・戻しゲイン記憶部
47 ・・・表示部
50 ・・・水分離手段
60 ・・・開閉弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12