(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122871
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】樹脂積層体及び樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20240902BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240902BHJP
A47K 3/02 20060101ALI20240902BHJP
A47K 1/04 20060101ALI20240902BHJP
E03C 1/18 20060101ALI20240902BHJP
A47B 77/06 20060101ALI20240902BHJP
C08J 7/04 20200101ALI20240902BHJP
【FI】
B32B27/00 E
B32B27/30 A
A47K3/02
A47K1/04 H
E03C1/18
A47B77/06
C08J7/04 Z CEY
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024002022
(22)【出願日】2024-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2023029981
(32)【優先日】2023-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】京田 浩平
(72)【発明者】
【氏名】永井 祐太
【テーマコード(参考)】
2D061
2D132
3B260
4F006
4F100
【Fターム(参考)】
2D061BA01
2D061BA04
2D061BC03
2D061BC09
2D132AB02
3B260FA00
4F006AA22
4F006AB34
4F006AB64
4F006AB72
4F006BA15
4F006CA00
4F006DA04
4F100AA37C
4F100AK01A
4F100AK04B
4F100AK25A
4F100AT00B
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100CA13C
4F100EH31
4F100GB71
4F100HB00
4F100HB31C
4F100JB16A
4F100YY00A
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】熱可塑性樹脂板の一方の面にマスキング層が設けられ、その上に印字部を備える樹脂積層体において、加熱による熱可塑性樹脂板への印字部の転写現像を防止する。
【解決手段】熱可塑性樹脂板と、前記熱可塑性樹脂板の一方の面に設けられたマスキング層と、前記マスキング層の表面に、インク組成物により形成された印字部とを備える樹脂積層体であって、前記インク組成物が顔料を含有する樹脂積層体。この樹脂積層体を成形してなる樹脂成形体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂板と、
前記熱可塑性樹脂板の一方の面に設けられたマスキング層と、
前記マスキング層の表面に、インク組成物により形成された印字部とを備える樹脂積層体であって、
前記インク組成物が顔料を含有する、樹脂積層体。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂板を構成する熱可塑性樹脂がアクリル系樹脂を含有する、請求項1に記載の樹脂積層体。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂の総質量に対する前記アクリル系樹脂の含有量が70質量%以上である、請求項2に記載の樹脂積層体。
【請求項4】
深絞り加工用樹脂積層体である、請求項1に記載の樹脂積層体。
【請求項5】
前記顔料が黒色顔料である、請求項1に記載の樹脂積層体。
【請求項6】
前記顔料がカーボンブラック及び/又はチタンブラックである、請求項5に記載の樹脂積層体。
【請求項7】
前記顔料がカーボンブラックである、請求項6に記載の樹脂積層体。
【請求項8】
前記インク組成物が溶媒を含有する、請求項1に記載の樹脂積層体。
【請求項9】
前記溶媒が、水、3-メチル-2-ブタノン、m,p-クレジルグリシジルエーテル、及びエタノールから選ばれる1種又は2種以上を含む、請求項8に記載の樹脂積層体。
【請求項10】
前記インク組成物中の前記顔料の含有量が0.5質量%以上15質量%以下である、請求項1に記載の樹脂積層体。
【請求項11】
前記マスキング層がポリエチレンを含有する、請求項1に記載の樹脂積層体。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の樹脂積層体を成形してなる、樹脂成形体。
【請求項13】
バスタブ、サニタリー用品又はキッチン用品である、請求項12に記載の樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂板の表面にマスキング層と印字部とを備える樹脂積層体と、この樹脂積層体を成形してなる樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
バスタブや洗面ボール等のサニタリー用品、キッチン用品として、樹脂成形体の裏面側を繊維強化樹脂(FRP)層で補強したものが上市されている。
製品の表面側を構成する樹脂成形体としては、耐加水分解性、外観等に優れたアクリル系樹脂よりなるものが多く用いられている。アクリル系樹脂成形体等の樹脂成形体は、通常、真空成形、圧空成形、プレス成形等により製造され、その後FRP層が裏打ちされる(例えば、特許文献1)。
【0003】
樹脂成形体の製造のために、これらの成形法による成形に供される熱可塑性樹脂板は、製品番号(ロットNoやグレード、製造工場等)等を表示して識別する目的で、印字が施されている。印字は、熱可塑性樹脂板の表面に積層されたマスキング層の表面に施されており、製品として出荷され、施工現場に施工された後は、印字部はマスキング層と共に剥離除去され、下層の熱可塑性樹脂板が表出する。
即ち、マスキング層は、施工までに印字部を保持すると共に、下層の熱可塑性樹脂板を埃や汚れから保護する保護層として機能する。
【0004】
従来、この印字のためのインクとしては、インクジェット印字性に優れた染料系のインクが用いられている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-142651号公報
【特許文献2】特開2003-154748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者の検討により、染料系のインクでは、真空成形、圧空成形、プレス成形等で成形する際に加熱されると、マスキング層に浸透して下層の熱可塑性樹脂板に到り、熱可塑性樹脂板に印字痕を形成してしまう(本発明においては、これを「熱可塑性樹脂板への印字部の転写現像」と称す場合がある。)問題があることが確認された。この熱可塑性樹脂板への印字部の転写現像は、160℃以上の高温に加熱されたときに顕著であった。
熱可塑性樹脂板への印字部の転写現像が発生すると、マスキング層を剥離除去した後、製品としての外観が著しく損なわれ、製品歩留りを大きく低減する原因となる。
【0007】
本発明は、熱可塑性樹脂板の一方の面にマスキング層が設けられ、その上に印字部を備える樹脂積層体において、加熱による熱可塑性樹脂板への印字部の転写現像を防止した樹脂積層体と、この樹脂積層体を用いた樹脂成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため検討を重ねた結果、従来の染料系インクに代えて顔料系インクを用いることにより上記課題を解決し得ることを知見した。
本発明は以下を要旨とする。
【0009】
[1] 熱可塑性樹脂板と、前記熱可塑性樹脂板の一方の面に設けられたマスキング層と、前記マスキング層の表面に、インク組成物により形成された印字部とを備える樹脂積層体であって、前記インク組成物が顔料を含有する、樹脂積層体。
【0010】
[2] 前記熱可塑性樹脂板を構成する熱可塑性樹脂がアクリル系樹脂を含有する、[1]に記載の樹脂積層体。
【0011】
[3] 前記熱可塑性樹脂の総質量に対する前記アクリル系樹脂の含有量が70質量%以上である、[2]に記載の樹脂積層体。
【0012】
[4] 深絞り加工用樹脂積層体である、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂積層体。
【0013】
[5] 前記顔料が黒色顔料である、[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂積層体。
【0014】
[6] 前記顔料がカーボンブラック及び/又はチタンブラックである、[5]に記載の樹脂積層体。
【0015】
[7] 前記顔料がカーボンブラックである、[6]に記載の樹脂積層体。
【0016】
[8] 前記インク組成物が溶媒を含有する、[1]~[7]のいずれかに記載の樹脂積層体。
【0017】
[9] 前記溶媒が、水、3-メチル-2-ブタノン、m,p-クレジルグリシジルエーテル、及びエタノールから選ばれる1種又は2種以上を含む、[8]に記載の樹脂積層体。
【0018】
[10] 前記インク組成物中の前記顔料の含有量が0.5質量%以上15質量%以下である、[1]~[9]のいずれかに記載の樹脂積層体。
【0019】
[11] 前記マスキング層がポリエチレンを含有する、[1]~[10]のいずれかに記載の樹脂積層体。
【0020】
[12] [1]~[11]のいずれかに記載の樹脂積層体を成形してなる、樹脂成形体。
【0021】
[13] バスタブ、サニタリー用品又はキッチン用品である、[12]に記載の樹脂成形体。
【発明の効果】
【0022】
本発明の樹脂積層体は、加熱による熱可塑性樹脂板への印字部の転写現像が防止され、真空成形、圧空成形、プレス成形等により加熱成形して樹脂成形体とする際の熱可塑性樹脂板への印字部の転写現像による外観不良を抑制することができるため、本発明の樹脂積層体によれば、外観に優れた高品質の樹脂成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施例1の樹脂積層体サンプル(200℃加熱)の印字部の転写の有無を確認した際の写真である。
【
図2】実施例1の樹脂積層体サンプル(180℃加熱)の印字部の転写の有無を確認した際の写真である。
【
図3】実施例1の樹脂成形体サンプル(180℃加熱)の印字部の転写の有無を確認した際の写真である。
【
図4】比較例1の樹脂積層体サンプル(200℃加熱)の印字部の転写の有無を確認した際の写真である。
【
図5】比較例1の樹脂積層体サンプル(180℃加熱)の印字部の転写の有無を確認した際の写真である。
【
図6】比較例1の樹脂積層体サンプル(160℃加熱)の印字部の転写の有無を確認した際の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。
特に断らない限り、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0025】
[樹脂積層体]
本発明の樹脂積層体は、熱可塑性樹脂板と、前記熱可塑性樹脂板の一方の面に設けられたマスキング層と、前記マスキング層の表面に、インク組成物により形成された印字部とを備える樹脂積層体であって、前記インク組成物が顔料を含有する、樹脂積層体である。
【0026】
<メカニズム>
本発明の樹脂積層体により、熱可塑性樹脂板への印字部の転写現像が防止されるメカニズムについては、以下のように考えられる。
従来用いられている染料系のインク組成物の場合、着色成分である染料は、インク組成物中の溶媒に溶解しているため、加熱されると溶媒と共に染料成分がマスキング層を浸透し、下層の熱可塑性樹脂板に到り、その表面に印字部を転写してしまう。
これに対して、顔料系インク組成物であれば、着色成分の顔料は溶媒に溶解しておらず、単に分散しているのみであるため、加熱されても溶媒のみがマスキング層を浸透し、顔料はマスキング層を透過せず、浸透しないため、熱可塑性樹脂板への印字部の転写現像は防止される。
【0027】
<熱可塑性樹脂板>
本発明の樹脂積層体の熱可塑性樹脂板を構成する熱可塑性樹脂としては特に制限はなく、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ABS樹脂、ポリプロピレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等が挙げられるが、ABS樹脂、アクリル樹脂がより好ましく、優れた外観、耐加水分解性、耐薬品性の観点から特にアクリル系樹脂が好ましい。
熱可塑性樹脂板を構成する熱可塑性樹脂は、上記した熱可塑性樹脂の1種のみを含むものであってもよく、2種以上を含むものであってもよい。2種以上の熱可塑樹脂を併用する場合には熱可塑性樹脂板を構成する熱可塑性樹脂の10質量%以上、特に20質量%以上、とりわけ30~90質量%はアクリル系樹脂であることが好ましく、アクリル系樹脂1種のみを用いる場合には、上述の効果を有効に得る観点から、熱可塑性樹脂板を構成する熱可塑性樹脂の70質量%以上、特に80質量%以上、とりわけ90~100質量%はアクリル系樹脂であることが好ましい。
【0028】
熱可塑性樹脂板の厚さは、用途によっても異なるが、通常2~15mm程度である。
【0029】
<マスキング層>
マスキング層としては、各種の樹脂フィルムや剥離紙等を用いることができるが、マスキング層としての機械的強度、取り扱い性、加熱成形性に優れる観点から、ポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂、特にポリエチレンを含む樹脂フィルムが好ましい。
【0030】
マスキング層の厚みについては特に制限はないが、樹脂積層体の取り扱い時には剥れ難く、熱可塑性樹脂板への傷付きを防止し、インク組成物吐出圧力に耐え、また、不要となった時の剥離性の観点から、30~100μm、特に50~80μm程度であることが好ましい。
【0031】
なお、熱可塑性樹脂板に対してマスキング層の貼着目的で粘着剤を塗布してもよい。したがって、マスキング層と熱可塑性樹脂板との間には、粘着剤層や糊層を設けてもよい。
【0032】
<インク組成物>
本発明の樹脂積層体の印字部は、着色成分として顔料を含むインク組成物により形成される。
【0033】
顔料としては、特に制限はなく、天然顔料であってもよく、合成顔料であってもよい。また、無機顔料であってもよく、有機顔料であってもよい。
無機顔料としては、色別に例えば次のようなものが挙げられる。
白色顔料:二酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、リトポン、鉛白、アンチモン白
体質顔料:沈降性硫酸バリウム、バライト粉、炭酸カルシウム、アルミナホワイト、ホワイトカーボン、クレー
黒色顔料:カーボンブラック、チタンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、ボーンブラック、黒鉛、アニリンブラック、シアニンブラック、ペリレンブラック、鉄黒、クロム黒、クロム酸銅
赤色顔料:べんがら、モリブデンレッド、カドミウムレッド、鉛丹
橙色顔料:モリブデンオレンジ、カドミウムオレンジ、黄鉛(赤口)
茶色顔料:アンバー
黄色顔料:黄鉛、カドミウムエロー、チタンエロー、クロムチタン黄、黄色酸化鉄
緑色顔料:酸化クロム、コバルトグリーン、ビリジアン、ピーコック
青色顔料:群青、紺青、コバルトブルー、セルリアン、マンガン青
紫色顔料:マルス紫、コバルトバイオレット、マンガンバイオレット
金属粉顔料:アルミニウム粉、銅および銅合金粉、ステンレス粉、亜鉛粉、金粉
真珠光沢顔料:雲母チタン(鱗片状チタン)、酸塩化蒼鉛
蛍光顔料:ZnS-Cu(緑)、ZnS-Mn(黄)、ZnS-Ag(紫)、ZnS-Bi(赤)
【0034】
これらの顔料は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
これらの顔料のうち、印字部の視認性の観点から、顔料は黒色顔料であることが好ましく、黒色顔料の中でも、カーボンブラック、チタンブラックが良好な発色性であり好ましく、カーボンブラックがより好ましい。
【0036】
本発明で用いるインク組成物は、顔料と溶媒を含み、顔料が溶媒中に分散しているものが好ましい。
インク組成物に用いられる溶媒としては特に制限はなく、水、或いはエタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、m,p-クレジルグリシジルエーテル等のエーテル系溶媒、3-メチル-2-ブタノン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒が挙げられる。
溶媒としては、安全性と顔料の分散性の観点から、少なくとも水、3-メチル-2-ブタノン、m,p-クレジルグリシジルエーテル、エタノールの1種又は2種以上を含むものが好ましい。
【0037】
インク組成物中の顔料の含有量については特に制限はないが、印字性能と、インク組成物としての顔料分散性の観点から、0.5質量%以上、特に1質量%以上であることが好ましく、15質量%以下、特に10質量%以下であることが好ましい。
【0038】
インク組成物は、顔料及び溶媒の他、必要に応じて、増感剤、重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、溶剤、消泡剤、分散剤、レベリング剤、界面活性剤等を含むことができる。一方で、本発明の目的である熱可塑性樹脂板への印字部の転写現像の防止の観点から、染料は実質的に含まないことが好ましい。ここで、インク組成物が染料を実質的に含まないとは、インク組成物中の染料の含有量が5質量%以下、特に0~1質量%であることを言う。
【0039】
<印字部>
本発明の樹脂積層体において、マスキング層上に形成される印字部は、通常、前述のインク組成物を用いて、熱可塑性樹脂板の一方の面に設けられたマスキング層の表面に対して、インクジェット法、スタンプ法等により形成される。
印字部は、具体的には、ロット番号、製品グレード、生産元などの製品情報を表示するための文字、数字、記号よりなるが、その他の図形等であってもよい。また、印字部は、2種以上のインク組成物を用いて形成されたものであってもよい。
【0040】
<樹脂積層体の製造方法>
本発明の樹脂積層体は、前述の熱可塑性樹脂板に、粘着層を有するマスキングフィルムを圧着することによりマスキング層としてのマスキングフィルムを積層し、その上に、上述の方法でインク組成物を用いて印字を行うことにより製造される。
【0041】
<用途>
本発明の樹脂積層体は、加熱による熱可塑性樹脂板への印字部の転写現像が防止されており、加熱後、マスキング層を剥離除去することで、インク汚れのない、熱可塑性樹脂板を表出させることができることから、真空成形、圧空成形、プレス成形等の加熱成形に供される樹脂積層体として有効であり、特に真空成形、圧空成形等で深絞り加工に供される樹脂積層体として好適に用いることができる。
【0042】
[樹脂積層体]
本発明の樹脂成形体は、本発明の樹脂積層体を成形することにより賦形して製造されるものである。
【0043】
樹脂積層体の成形方法としては、真空成形、圧空成形、プレス成形等が挙げられるが、このうち、前述の通り、本発明の樹脂積層体は深絞り加工に好適であり、例えば、空洞部の深さが30cm以上の深絞り加工に好適である。
【0044】
樹脂積層体を成形する際の温度は、熱可塑性樹脂板を構成する熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜決定されるが、好ましくは120℃以上、より好ましくは140℃以上、さらに好ましくは160℃以上で、好ましくは240℃以下、より好ましくは220℃以下であり、さらに好ましくは200℃以下である。成形温度が上記下限を下回ると十分に賦形することができず、上記上限を上回ると熱可塑性樹脂が熱劣化するおそれがある。
【0045】
本発明の樹脂成形体は、バスタブ等の浴室用品、洗面ボール、化粧棚等のサニタリー用品、シンク等のキッチン用品として好適であるが、これらに限らず、看板や建材用途、小ボート用船体、電気器具本体部品、自動車本体部品などにも適用することができる。
【0046】
なお、前述の通り、本発明の樹脂成形体は、その使用時にあっては、表面のマスキング層は剥離除去される。
【実施例0047】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
[実施例1]
熱可塑性樹脂板として(三菱ケミカル株式会社製、商品名「アクリライト」、厚さ5mm)を用い、厚さ70μmの粘着層付きのマスキングフィルム(ポリエチレンを主成分とするフィルム)を使用して、熱可塑性樹脂板に対しマスキングフィルムをかぶせ、マスキングフィルム、粘着層、熱可塑性樹脂板の順になるように設置し、ローラーにてプレスすることにより、熱可塑性樹脂板の表面に貼り付けた。その後、マスキングフィルム表面に、以下のインク組成物を用いて印字を行った。印字は、帯電制御方式のインクジェットプリンタでマスキングフィルム上にインク組成物を吐出させることにより行った。
<インク組成物>
紀州技研社製 商品名「CP263」
着色成分としてカーボンブラックを、溶媒成分として3-メチル-2-ブタノン及びm,p-クレジルグリシジルエーテルの混合液を、表1に示す配合で含む顔料系インク組成物
【0049】
得られた樹脂積層体サンプルについて、以下の評価を行った。
【0050】
<樹脂積層体サンプルの加熱時の印字部転写性の評価>
得られた樹脂積層体サンプルを熱風乾燥機(佐竹化学機械工業(株)製、型式:41-S5)によって、160℃、180℃又は200℃で30分加熱した後、取り出して室温まで冷却し、マスキングフィルムを剥がして、熱可塑性樹脂板への印字部の転写の有無を確認した。
印字部の転写の有無は、熱可塑性樹脂板サンプルに対して、蛍光灯(Panasonic社製、商品名「FHF32EX-N-H」)の光を当てて目視にて観察し、以下の基準に沿って評価した。
×:インクの転写が観察された
〇:インクの転写は観察されなかった
【0051】
<樹脂成形体サンプルの印字部転写性の評価>
得られた樹脂積層体サンプルを真空成形機(布施真空(株)製、型式:CSVF1015)のヒーターで樹脂積層体の温度が160℃、180℃、200℃に達するまで加熱した後、上面に開口部を有する有底円筒状の金型(内径200mm、深さ80mm)の上に、マスキングフィルム側を上にして載せ、樹脂積層体サンプルの全周をクランプで把持した。この状態で型を押し上げた後、真空ポンプを用いて型と樹脂積層体サンプルとの間の空間内の空気を抜くことで、樹脂積層体サンプルを金型の内形状に沿わせ、ハット状に成形した。これを送風機によって室温まで冷却し、冷えて固まった樹脂成形体を型から取り外した。
以上のようにして、直径200mm、高さ80mmの有底円筒形状のハット状の樹脂成形体サンプルを得た。
この樹脂成形体サンプルからマスキングフィルムを剥がし取り、上記樹脂積層体サンプルの加熱時の印字部転写性の評価におけると同様の方法で熱可塑性樹脂板へのインクの転写の有無を確認した。
【0052】
上記樹脂積層体サンプルの評価結果を表1に示す。
樹脂積層体サンプルについては、いずれの加熱温度でも印字部の転写の問題はないことが確認された。
200℃加熱時及び180℃加熱時の樹脂積層体サンプルの印字部転写性の評価におけるマスキングフィルムを剥した後の熱可塑性樹脂板の表面の写真をそれぞれ
図1,2に示す。
また、180℃加熱時の樹脂成形体サンプルの印字部転写性の評価におけるマスキングフィルムを剥した後の熱可塑性樹脂板表面の写真を
図3に示す。
表1及び
図1~3より、顔料系インク組成物を用いた本実施例1では、加熱による印字部の転写が防止されており、成形時の印字部の転写の問題もないことが分かる。
【0053】
[実施例2]
インク組成物として、以下のインク組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして樹脂積層体サンプルを製造し、同様に評価を行って、結果を表1に示した。
<インク組成物>
紀州技研社製 商品名「CP209」
着色成分としてカーボンブラックを、溶媒成分として水と極少量のアンモニア水とを表1に示す配合で含む顔料系インク組成物
【0054】
[比較例1]
インク組成物として、以下のインク組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして樹脂積層体サンプルを製造し、同様に評価を行って、結果を表1に示した。
また、200℃加熱時、180℃加熱時及び160℃加熱時の樹脂積層体サンプルの印字部転写性の評価におけるマスキングフィルムを剥した後の熱可塑性樹脂板の表面の写真をそれぞれ
図4~6に示す。
<インク組成物>
紀州技研社製 商品名「CN335」
着色成分としてクロム(III)錯塩染料を、溶媒成分として3-メチル-2-ブタノン及びm,p-クレジルグリシジルエーテルの混合液(ごくわずかにイソプロピルアルコールを含む)を、表1に示す配合で含む染料系インク組成物
【0055】
[比較例2]
インク組成物として、以下のインク組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして樹脂積層体サンプルを製造し、同様に評価を行って、結果を表1に示した。
<インク組成物>
紀州技研社製 商品名「CN326」
着色成分としてクロム(III)錯塩染料を、溶媒成分としてエタノールとn-プロピルアルコールの混合液(ごくわずかにイソプロピルアルコールを含む)を、表1に示す配合で含む染料系インク組成物
【0056】
[比較例3]
インク組成物として、以下のインク組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして樹脂積層体サンプルを製造し、同様に評価を行って、結果を表1に示した。
<インク組成物>
紀州技研社製 商品名「CN334」
着色成分としてクロム(III)錯塩染料を、溶媒成分としてエタノールと3-メチル2-ブタノンの混合液を、表1に示す配合で含む染料系インク組成物
【0057】
【0058】
以上の評価から、従来の染料系インク組成物を用いた場合には、加熱による印字部の転写が顕著であるが、顔料系インク組成物を用いる本発明によれば、加熱時ないしは加熱成形時の印字部の転写を防止することができることが分かる。