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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122900
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20240902BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20240902BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
C08L67/00
B32B27/36
C08K5/521
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024024170
(22)【出願日】2024-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2023029740
(32)【優先日】2023-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千田 凌我
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AH10A
4F100AH10C
4F100AK41A
4F100AK41B
4F100AK41C
4F100AK42A
4F100AK42B
4F100AK42C
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100EJ37
4F100JJ07
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
4J002CF051
4J002CF061
4J002CF071
4J002CF081
4J002EW046
4J002EW126
4J002EW136
4J002EW156
4J002FD066
4J002FD136
4J002FD206
4J002GM00
4J002GP00
4J002GR00
4J002GS00
(57)【要約】
【課題】透明性、表面性状、機械的強度、寸法安定性などの基本特性への影響が少なく、焼却時の二酸化炭素発生量を削減することができるポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】ポリエステル樹脂(X)及び芳香環を有するリン化合物(Y)を含むA層を有し、ポリエステルフィルムにおける前記芳香環を有するリン化合物(Y)の含有量は、ポリエステルフィルムにおけるリン元素含有量として、50~10000質量ppmであり、疑似空気雰囲気下、昇温速度10℃/分で25℃から1000℃まで加熱したときの二酸化炭素発生量が、2500mg/g以下である、ポリエステルフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂(X)及び芳香環を有するリン化合物(Y)を含むA層を有し、
ポリエステルフィルムにおける前記芳香環を有するリン化合物(Y)の含有量は、ポリエステルフィルムにおけるリン元素含有量として、50~10000質量ppmであり、
疑似空気雰囲気下、昇温速度10℃/分で25℃から1000℃まで加熱したときの二酸化炭素発生量が、2500mg/g以下である、ポリエステルフィルム。
【請求項2】
ポリエステル樹脂(X)及び芳香環を有するリン化合物(Y)を含むA層を有し、
ポリエステルフィルムにおける前記芳香環を有するリン化合物(Y)の含有量は、ポリエステルフィルムにおけるリン元素含有量として、50~10000質量ppmであり、
前記芳香環を有するリン化合物(Y)が難燃剤及びP=O結合を有する化合物から選ばれる1種以上である、ポリエステルフィルム。
【請求項3】
疑似空気雰囲気下、昇温速度10℃/分で25℃から1000℃まで加熱したときの二酸化炭素発生量が、2500mg/g以下である、請求項2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
下記に示す<二酸化炭素発生量の測定・算出方法>及び<二酸化炭素発生量削減率の算出方法>に基づく二酸化炭素発生量削減率が1%以上である、請求項1又は2に記載のポリエステルフィルム。
<二酸化炭素発生量の測定・算出方法>
下記条件にてポリエステルフィルムから発生する二酸化炭素を示差熱天秤-質量分析装置を用いて測定し、m/z=44のイオンクロマトグラムピーク面積と標品から作成した検量線から二酸化炭素発生量を算出する。
・加熱条件: 温度25℃~1000℃、速度10℃/min
・雰囲気: 疑似空気(He+O、He:80vol%、O:20vol%)
・ガス流量: 300mL/min
・容器: Ptカップ
・MS設定: EMS 1mA、SEM 1200V、m/z≒10~410(EI)
・標品: シュウ酸カルシウム一水和物
・検量線: 標品のイオンクロマトグラムピーク面積(m/z=44)対理論二酸化炭素発生量から2点校正にて作成する。
<二酸化炭素発生量削減率の算出方法>
前記<二酸化炭素発生量の測定・算出方法>で算出した、請求項1又は2に記載のポリエステルフィルムから発生する二酸化炭素発生量(p1)及び前記芳香環を有するリン化合物(Y)を含まないこと以外は該ポリエステルフィルムと同じ構成のポリエステルフィルムから発生する二酸化炭素発生量(p0)より、下記式により二酸化炭素発生量削減率(%)を求める。
二酸化炭素発生量削減率(%)={1-(p1÷p0)}×100
【請求項5】
前記芳香環を有するリン化合物(Y)がP=O結合を有する化合物である、請求項1又は2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項6】
ASTM D4804に準拠したUL94垂直燃焼試験における厚み38μmの難燃性がVTM-1以下である、請求項1又は2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項7】
前記芳香環を有するリン化合物(Y)が、下記式(1)で表される芳香族縮合リン酸エステル及び下記式(2)で表される芳香族リン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載のポリエステルフィルム。
【化1】

[式(1)及び(2)中、Arは、下記式(3)で表される二価の基又は下記式(4)で表される二価の基であり、Arは、独立して、下記式(5)で表される一価の基である。]
【化2】

[式(5)中、Rは、独立して水素原子又はアルキル基を表す。]
【請求項8】
前記芳香環を有するリン化合物(Y)が、下記式(1-1)で表される芳香族縮合リン酸エステル(化合物A)、下記式(2-1)で表される芳香族リン酸エステル(化合物B)、及び下記式(9-1)の構造単位を有する化合物(化合物C)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載のポリエステルフィルム。
【化3】

[式(9-1)中、nは2~40の整数である。]
【請求項9】
前記芳香族縮合リン酸エステル(化合物A)と前記芳香族リン酸エステル(化合物B)との質量比(化合物A:化合物B)が、80:20~99:1である、請求項8に記載のポリエステルフィルム。
【請求項10】
総厚みが500μm相当になるようにフィルムを複数枚重ね合わせたときのL値が、96.6以下である、請求項1又は2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項11】
前記ポリエステル樹脂(X)が、ポリエチレンテレフタレートを含む、請求項1又は2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項12】
少なくとも一方向に延伸してなる、請求項1又は2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項13】
表層、中間層、及び表層を有する少なくとも3層の積層構成である、請求項1又は2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項14】
前記両表層が共に前記A層である、請求項13に記載のポリエステルフィルム。
【請求項15】
前記表層における前記芳香環を有するリン化合物(Y)の含有量は、前記表層におけるリン元素含有量として、30~8000質量ppmである、請求項13に記載のポリエステルフィルム。
【請求項16】
請求項1又は2に記載のポリエステルフィルムを用いる、焼却時の二酸化炭素発生量の削減方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、機械的強度、寸法安定性、平坦性、耐熱性、耐薬品性、光学特性等に優れた特性を有し、コストパフォーマンスに優れるため、各種用途に使用されている。
【0003】
しかしながら、ポリエステルフィルム等の廃プラスチックは、埋め立て、海洋投棄等の処理がなされていたが、埋め立て場所の確保が困難になりつつあり、海洋投棄はプラスチックが分解しないために環境面で問題になっている。
また、廃プラスチックを焼却して、その熱を発電や暖房として再利用するサーマルリサイクルも行われているが、二酸化炭素の排出により、地球温暖化につながるという問題がある。
【0004】
そこで、焼却時の二酸化炭素の発生を抑える技術が開発されている。
例えば、特許文献1には、二酸化炭素吸収剤と分散剤との混合物を分散処理後、樹脂に添加することにより、樹脂との相溶性が悪い二酸化炭素吸収剤を凝集させずに樹脂に対して分散させることができ、高い二酸化炭素の吸収効果を有する二酸化炭素排出量削減樹脂組成物が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、カード用樹脂フィルム、及び樹脂フィルムを複数有するために厚みの大きいカード用積層体等において、焼却時の二酸化炭素の発生を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-14157号公報
【特許文献2】特開2019-214633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、焼却時の二酸化炭素発生量を削減できる物質を含むことによって、ポリエステルフィルムの基本特性が低下しては困ることから、基本特性への影響が少ないことが求められており、更なる改善が求められている。
【0008】
そこで、本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、透明性、表面性状、機械的強度、寸法安定性などの基本特性への影響が少なく、焼却時の二酸化炭素発生量を削減することができるポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討の結果、所定量の芳香環を有するリン化合物(Y)をポリエステルフィルムに配合することで上記課題を解決できることを見出した。具体的には次の構成を有することで、上記課題を解決できることを見出した。
本発明は、以下の態様を有する。
【0010】
〔1〕ポリエステル樹脂(X)及び芳香環を有するリン化合物(Y)を含むA層を有し、
ポリエステルフィルムにおける前記芳香環を有するリン化合物(Y)の含有量は、ポリエステルフィルムにおけるリン元素含有量として、50~10000質量ppmであり、
疑似空気雰囲気下、昇温速度10℃/分で25℃から1000℃まで加熱したときの二酸化炭素発生量が、2500mg/g以下である、ポリエステルフィルム。
〔2〕ポリエステル樹脂(X)及び芳香環を有するリン化合物(Y)を含むA層を有し、
ポリエステルフィルムにおける前記芳香環を有するリン化合物(Y)の含有量は、ポリエステルフィルムにおけるリン元素含有量として、50~10000質量ppmであり、
前記芳香環を有するリン化合物(Y)が難燃剤及びP=O結合を有する化合物から選ばれる1種以上である、ポリエステルフィルム。
〔3〕疑似空気雰囲気下、昇温速度10℃/分で25℃から1000℃まで加熱したときの二酸化炭素発生量が、2500mg/g以下である、〔2〕に記載のポリエステルフィルム。
〔4〕下記に示す<二酸化炭素発生量の測定・算出方法>及び<二酸化炭素発生量削減率の算出方法>に基づく二酸化炭素発生量削減率が1%以上である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
<二酸化炭素発生量の測定・算出方法>
下記条件にてポリエステルフィルムから発生する二酸化炭素を示差熱天秤-質量分析装置を用いて測定し、m/z=44のイオンクロマトグラムピーク面積と標品から作成した検量線から二酸化炭素発生量を算出する。
・加熱条件: 温度25℃~1000℃、速度10℃/min
・雰囲気: 疑似空気(He+O、He:80vol%、O:20vol%)
・ガス流量: 300mL/min
・容器: Ptカップ
・MS設定: EMS 1mA、SEM 1200V、m/z≒10~410(EI)
・標品: シュウ酸カルシウム一水和物
・検量線: 標品のイオンクロマトグラムピーク面積(m/z=44)対理論二酸化炭素発生量から2点校正にて作成する。
<二酸化炭素発生量削減率の算出方法>
前記<二酸化炭素発生量の測定・算出方法>で算出した、請求項1又は2に記載のポリエステルフィルムから発生する二酸化炭素発生量(p1)及び前記芳香環を有するリン化合物(Y)を含まないこと以外は該ポリエステルフィルムと同じ構成のポリエステルフィルムから発生する二酸化炭素発生量(p0)より、下記式により二酸化炭素発生量削減率(%)を求める。
二酸化炭素発生量削減率(%)={1-(p1÷p0)}×100
〔5〕前記芳香環を有するリン化合物(Y)がP=O結合を有する化合物である〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
〔6〕ASTM D4804に準拠したUL94垂直燃焼試験における厚み38μmの難燃性がVTM-1以下である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
〔7〕前記芳香環を有するリン化合物(Y)が、下記式(1)で表される芳香族縮合リン酸エステル及び下記式(2)で表される芳香族リン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
【化1】

[式(1)及び(2)中、Arは、下記式(3)で表される二価の基又は下記式(4)で表される二価の基であり、Arは、独立して、下記式(5)で表される一価の基である。]
【化2】

[式(5)中、Rは、独立して水素原子又はアルキル基を表す。]
〔8〕前記芳香環を有するリン化合物(Y)が、下記式(1-1)で表される芳香族縮合リン酸エステル(化合物A)、下記式(2-1)で表される芳香族リン酸エステル(化合物B)、及び下記式(9-1)の構造単位を有する化合物(化合物C)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
【化3】

[式(9-1)中、nは2~40の整数である。]
〔9〕 前記芳香族縮合リン酸エステル(化合物A)と前記芳香族リン酸エステル(化合物B)との質量比(化合物A:化合物B)が、80:20~99:1である、〔8〕に記載のポリエステルフィルム。
〔10〕総厚みが500μm相当になるようにフィルムを複数枚重ね合わせたときのL値が、96.6以下である、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
〔11〕前記ポリエステル樹脂(X)が、ポリエチレンテレフタレートを含む、〔1〕~〔10〕のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
〔12〕少なくとも一方向に延伸してなる、〔1〕~〔11〕のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
〔13〕表層、中間層、及び表層を有する少なくとも3層の積層構成である、〔1〕~〔12〕のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
〔14〕前記両表層が共に前記A層である、〔13〕に記載のポリエステルフィルム。
〔15〕前記表層における前記芳香環を有するリン化合物(Y)の含有量は、前記表層におけるリン元素含有量として、30~8000質量ppmである、〔13〕又は〔14〕に記載のポリエステルフィルム。
〔16〕〔1〕~〔15〕のいずれかに記載のポリエステルフィルムを用いる、焼却時の二酸化炭素発生量の削減方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、透明性、表面性状、機械的強度、寸法安定性などの基本特性への影響が少なく、焼却時の二酸化炭素発生量を削減することができるポリエステルフィルムが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態の一例について説明する。ただし、本発明は、次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0013】
<<<ポリエステルフィルム>>>
本発明のポリエステルフィルム(以下、「本フィルム」とも称する)は、ポリエステル樹脂(X)及び芳香環を有するリン化合物(Y)を含むA層を有し、ポリエステルフィルムにおける前記芳香環を有するリン化合物(Y)の含有量は、ポリエステルフィルムにおけるリン元素含有量として、50~10000質量ppmである。本フィルムは、疑似空気雰囲気下、昇温速度10℃/分で25℃から1000℃まで加熱したときの二酸化炭素発生量が、2500mg/g以下であること、及び芳香環を有するリン化合物(Y)が難燃剤及びP=O結合を有する化合物から選ばれる1種以上であることのいずれか一方、又は両方を満たす。
【0014】
本フィルムは、A層のみの単層構造であっても、A層を少なくとも有する多層構造(すなわち、積層フィルム)であってもよい。本フィルムが多層構造の場合、2層構造、3層構造などでもよいし、本発明の要旨を逸脱しない限り、4層又はそれ以上の多層であってもよく、層数は特に限定されない。
ただし、薄膜化対応や製造工程数低減の観点からは、単層構造又は3層以下の多層構造であることが好ましい。
なお、A層を複数有する場合、A層を構成する成分やその含有量は同一であっても互いに異なっていてもよい。
【0015】
また、本フィルムは、無延伸フィルム(シート)であっても延伸フィルムであってもよい。中でも、一軸方向又は二軸方向に延伸された、少なくとも一方向に延伸してなる延伸フィルムであることが好ましい。その中でも、力学特性のバランスや平面性に優れる点で、二軸延伸フィルムであることがより好ましい。
【0016】
<<A層>>
本フィルムは、ポリエステル樹脂(X)及び芳香環を有するリン化合物(Y)を含むA層を有する。
【0017】
<ポリエステル樹脂(X)>
A層は、主成分樹脂としてポリエステル樹脂(X)を含むことが好ましい。ポリエステル樹脂(X)としては、脂肪族ポリエステル樹脂でも、芳香族ポリエステル樹脂でもよい。また、ポリエステル樹脂(X)としては、1種を単独で、又は2種以上を併用してもよいし、脂肪族ポリエステル樹脂と芳香族ポリエステル樹脂を併用してもよいが、芳香族ポリエステル樹脂を含むことが好ましく、芳香族ポリエステル樹脂のみであることがより好ましい。すなわち、A層は、主成分樹脂として芳香族ポリエステル樹脂を含むことがより好ましい。ここで、芳香族ポリエステル樹脂とは、ポリエステル樹脂(X)を構成する多価カルボン酸単位と多価アルコール単位の少なくともいずれかに芳香族を有するポリエステル樹脂をいう。
また、ここでいう主成分樹脂とは、本フィルムのA層を構成する樹脂の中で最も質量割合の大きい樹脂の意味であり、本フィルムのA層を構成する樹脂の50質量%以上、好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上を意味する。
【0018】
前記芳香族ポリエステル樹脂は、ホモポリエステルであっても、共重合ポリエステルであってもよい。
【0019】
ホモポリエステルとしては、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものが好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等が挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なホモポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレン-2,6-ナフタレート(PEN)等が例示される。本発明においては、汎用性の観点から、PETがより好ましい。
【0020】
一方、共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸等の1種又は2種以上が挙げられ、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、4-シクロヘキサンジメタノール及びネオペンチルグリコール等の1種又は2種以上が挙げられる。
なお、前記共重合ポリエステルは、ジカルボン酸成分及び/又はグリコール成分に、芳香族化合物を含有する。
前記芳香族ポリエステル樹脂が、共重合ポリエステルの場合は、30モル%以下の第3成分を含有した共重合体であることが好ましい。中でも、60モル%以上、好ましくは80モル%以上がエチレンテレフタレート単位又はエチレン-2,6-ナフタレート単位であることがより好ましく、汎用性の観点からは、60モル%以上、好ましくは80モル%以上がエチレンテレフタレート単位であることがさらに好ましい。
【0021】
本発明に係る芳香族ポリエステル樹脂としては、1種を単独で、又は異なる種類のポリエステル樹脂を複数種含んでいてもよく、PETを含むことが好ましく、PETのみであることがより好ましい。
すなわち、本発明に係るポリエステル樹脂(X)としては、PETを含むことが好ましく、PETのみであることがより好ましい。
なお、PETとしては、ホモポリエステルであることが好ましい。
【0022】
ポリエステル樹脂(X)の重合触媒としては、特に制限はなく、従来公知の化合物を使用することができ、例えばチタン化合物、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、マンガン化合物、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物及びカルシウム化合物等が挙げられる。これらの中でも、チタン化合物及びアンチモン化合物の少なくともいずれかが好ましい。
【0023】
オリゴマー成分の析出量を抑えるために、オリゴマー成分の含有量が少ないポリエステル樹脂(X)を原料としてフィルムを製造してもよい。オリゴマー成分の含有量が少ないポリエステル樹脂の製造方法としては、種々公知の方法を用いることができ、例えばポリエステル樹脂製造後に固相重合する方法等が挙げられる。
【0024】
ポリエステル樹脂(X)の中には、易滑性の付与及び各工程での傷発生防止を主たる目的として、粒子を含有させることも可能である。粒子の種類は、易滑性の付与が可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の無機粒子、アクリル樹脂、スチレン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等の有機粒子等が挙げられる。
さらに、ポリエステル樹脂(X)の製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
【0025】
一方、使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。
また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、1種単独で使用してもよいし、必要に応じて2種以上を併用してもよい。
【0026】
用いる粒子の平均粒径は、通常5μm以下が好ましく、さらに好ましくは0.01~3μmの範囲である。平均粒径が上記範囲であることにより、本フィルムに適度な表面粗度を与え、良好な滑り性と平滑性が確保できる。
【0027】
粒子を含有させる場合、粒子含有量は、通常5質量%未満であることが好ましく、さらに好ましくは0.0003~3質量%の範囲である。粒子含有量がかかる範囲であることにより、フィルムの透明性及び滑り性が良好なものとなる。
【0028】
粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、ポリエステル樹脂(X)を製造する任意の段階において添加することができるが、エステル化又はエステル交換反応終了後、添加するのが好ましい。
【0029】
なお、上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の紫外線吸収剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
【0030】
<芳香環を有するリン化合物(Y)>
A層は、芳香環を有するリン化合物(Y)を含み、前記芳香環を有するリン化合物(Y)としては、焼却時の二酸化炭素発生量の削減効果が高く、フィルムの基本特性への影響が少ない観点から、難燃剤及びP=O結合を有する化合物から選ばれる1種以上を含むことが好ましく、P=O結合を有する化合物を含むことがより好ましい。
【0031】
前記P=O結合を有する化合物は、フェノール性水酸基を有しそれ以外の置換基をさらに有していてもよい芳香族化合物とリン酸とのエステル反応生成物の構造を有する芳香族リン酸エステルである。前記P=O結合を有する化合物は、本発明の効果が得られれば、リン酸モノエステルであってもよいし、リン酸ジエステルであってもよいし、リン酸トリエステルであってもよい。
【0032】
前記フェノール性水酸基を有する芳香族化合物としては、例えば、フェノール及びナフトールが挙げられる。前記芳香族化合物が有していてもよい置換基としては、例えばメチル基などの低級アルキル基が挙げられる。前記P=O結合を有する化合物中の前記置換基は、単数でも複数でもよいし、複数存在する場合は互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。前記P=O結合を有する化合物は、例えば、オキシ塩化リンと、置換基を有していてもよいフェノールとを反応させることによって得ることが可能であり、また、市販品としても入手可能である。
【0033】
前記P=O結合を有する化合物としては、例えば、二つのリン酸エステルが縮合した構造を有する式(1)で表される芳香族縮合リン酸エステル及び式(2)で表される芳香族リン酸エステルが挙げられる。
【0034】
【化4】
【0035】
上記式(1)及び(2)中、Arは、下記式(3)又は下記式(4)で表される二価の基が好ましく、Arは、独立して、下記式(5)で表される一価の基であることが好ましい。なお、式(5)中、Rは、独立して水素原子又はアルキル基を表し、Rがアルキル基である場合は、炭素原子数1~4のアルキル基であることが好ましく、炭素原子数1~2のアルキル基であることがより好ましく、メチル基であることがさらに好ましい。
【0036】
【化5】
【0037】
式(1)で表される芳香族縮合リン酸エステル及び式(2)で表される芳香族リン酸エステル中のArは、本発明の効果が得られる範囲において、すべて同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0038】
上記式(3)で表されるフェニレン基は、本発明の効果が得られる範囲において、о-フェニレン基、m-フェニレン基及びp-フェニレン基のいずれであってもよく、上記芳香族縮合リン酸エステルにおいて、全て同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0039】
上記式(4)で表される二価の基のフェニレン基の、リン酸部のリン原子と結合する位置は、本発明の効果が得られる範囲において、中央の炭化水素基に対して、オルト、メタ及びパラのいずれであってもよい。
【0040】
上記式(5)で表されるフェニレン基の、リン酸部の酸素原子と結合する位置は、本発明が得られる範囲において、Rの位置を1位及び3位としたときに、2、4及び5位のいずれであってもよい。
【0041】
前記芳香族縮合リン酸エステルは、例えば、オキシ塩化リンと、二価のフェノール化合物と、フェノール、メチルフェノール又はジメチルフェノールとを反応させることによって得ることが可能であり、また、市販品としても入手可能である。
【0042】
式(1)で表される芳香族縮合リン酸エステルの好ましい具体例としては、例えば、下記式(1-1)~式(1-3)で表される化合物が挙げられ、前記式(2)で表される芳香族リン酸エステルの好ましい具体例としては、例えば、下記式(2-1)~(2-3)で表される化合物が挙げられる。
【0043】
【化6】
【0044】
【化7】
【0045】
市販品の芳香族縮合リン酸エステル及び芳香族リン酸エステルとしては、例えば、大八化学工業株式会社製の、TPP:トリフェニルホスフェート、TXP:トリキシレニルホスフェート、CDP:クレジルフェニルホスフェート、TCP:トリクレジルホスフェート、PX-110:クレジルジ2,6-キシレニルホスフェート、CR-733S:レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、CR-741:ビスフェノールAビスジフェニルホスフェート、PX200:1,3-フェニレン-テスラキス(2,6-ジメチルフェニル)リン酸エステル、PX201:1,4-フェニレン-テトラキス(2,6-ジメチルフェニル)リン酸エステル、PX202:4,4’-ビフェニレン-テトラキス(2,6-ジメチルフェニル)リン酸エステル等を挙げることができる。
【0046】
中でも、焼却時の二酸化炭素発生量の削減効果が高く、フィルムの基本特性への影響が少ない観点から、前記芳香族リン酸エステルとして、下記式(1-1)で表される芳香族縮合リン酸エステル(化合物A)を含むことが好ましい。
【0047】
【化8】
【0048】
なお、上記式(1-1)で表される芳香族縮合リン酸エステル(化合物A)の縮合反応時に、上記式(2-1)で表される芳香族リン酸エステル(化合物B)が生じる場合がある。かかる場合の、前記芳香族縮合リン酸エステル(化合物A)と前記芳香族リン酸エステル(化合物B)の質量比(化合物A:化合物B)は、80:20~99:1程度であってもよく、90:10~99:1であってもよく、95:5~99:1であってもよい。
【0049】
また、上述のとおりA層が芳香環を有するリン化合物(Y)を含むが、本フィルムにおける芳香環を有するリン化合物(Y)の含有量は、本フィルムにおけるリン元素含有量として、50~10000質量ppmであり、好ましくは60~9000質量ppm、より好ましくは70~8000質量ppmであり、よりさらに好ましくは80~7000質量ppm、よりさらに好ましくは90~6500質量ppmである。当該含有量が、50質量ppm以上であれば、焼却時の二酸化炭素削減効果が十分に発揮される。一方、当該含有量が、10000質量ppm以下であれば、フィルムの焼却性を損なうことなく二酸化炭素削減効果が発揮される。
本フィルム中の芳香環を有するリン化合物(Y)の含有量は、フィルムを切り出してサンプルとし、ICP-OES等を用いてリン元素含有量を測定することができる。
【0050】
芳香環を有するリン化合物(Y)は、一般的に難燃剤として知られている化合物であってもよい。難燃性効果を発揮する観点から、難燃剤は樹脂100質量部に対してリン元素含有量として1質量部以上配合されることが多い。しかしながら、本発明で一般的に難燃剤として知られている化合物を芳香環を有するリン化合物(Y)として用いる場合、芳香環を有するリン化合物(Y)の含有量は、ポリエステルフィルムにおけるリン元素含有量として50~10000質量ppmであり、難燃剤として一般的に使用される量よりも少ない。すなわち、本発明は、ポリエステルフィルムに難燃性が付与されるのではなく、フィルムの焼却性を損なうことなく焼却時の二酸化炭素削減効果を発揮するものである。
【0051】
難燃剤として知られている芳香環を有するリン化合物(Y)としては、上記式(1)で表される芳香族縮合リン酸エステル及び式(2)で表される芳香族リン酸エステル以外には、例えば、縮合亜リン酸エステル、ホスファゼン化合物等が挙げられる。
【0052】
縮合亜リン酸エステルは、下記の式(6)で表される化合物が好ましい。
【0053】
【化9】
【0054】
上記式(6)中、Rは、独立して、芳香環を有する基を表し、Rは、独立して、有機基を表し、Xは2価の有機基を表す。
【0055】
上記式(6)において、Rとしての芳香環を有する基とは、例えば、アリール基、又はアリール基が置換したアルキル基若しくはシクロアルキル基が挙げられる。アリール基、又はアリール基が置換したアルキル基若しくはシクロアルキル基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、ハロゲン原子、ハロゲン化アリール基等が挙げられる。またこれらの置換基を組み合わせた基、あるいはこれらの置換基を酸素原子、イオウ原子、窒素原子などにより結合して組み合わせた基などでもよい。
【0056】
上記式(6)において、Rとしての有機基とは、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、及びアリール基が挙げられる。アルキル基、シクロアルキル基、及びアリール基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、ハロゲン原子、ハロゲン化アリール基等が挙げられる。またこれらの置換基を組み合わせた基、あるいはこれらの置換基を酸素原子、イオウ原子、窒素原子などにより結合して組み合わせた基などでもよい。
【0057】
上記式(6)において、Xとしての2価の有機基とは、上記のRとしての有機基から水素原子1個を除いてできる2価以上の基をいう。例えば、アルキレン基、フェニレン基、置換フェニレン基、ビスフェノール類から誘導されるような多核フェニレン基などが挙げられる。
【0058】
上記式(6)において、1又は2のRと、Xとが一緒に環構造を形成していてもよい。このような環構造としては、シクロアルキル構造、アリール構造等が挙げられる。また、環構造は、2つのRとXとが、それぞれが酸素原子を介して結合したリン原子を含むスピロ環構造であってもよい。
【0059】
市販の縮合亜リン酸エステルとしては、例えば、帝人(株)より「ファイヤーガード(登録商標)FCX-210」といった商品名で販売されており、容易に入手可能である。
【0060】
ホスファゼン化合物は、分子中に-P=N-結合を有する有機化合物であり、好ましくは、下記式(7)で表される環状ホスファゼン化合物、下記式(8)で表される鎖状ホスファゼン化合物、ならびに、下記式(7)及び下記式(8)からなる群より選択される少なくとも一種のホスファゼン化合物が架橋基によって架橋されてなる架橋ホスファゼン化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である。
【0061】
【化10】

式(7)中、aは3~25の整数であり、Rは、独立して、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリロキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、アリール基又はアルキルアリール基を表し、少なくとも1つはアリール基又はアルキルアリール基である。
【0062】
【化11】
【0063】
式(8)中、bは3~10000の整数であり、Rは、独立して、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリロキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、アリール基又はアルキルアリール基を示し、少なくとも1つはアリール基である。
は、-N=P(OR基、-N=P(O)OR基から選ばれる少なくとも1種を示す。
【0064】
上記式(7)及び式(8)中、アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基等が挙げられ、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1~6のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1~4のアルキル基が特に好ましい。
【0065】
上記式(7)及び式(8)中、シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数5~14のシクロアルキル基が挙げられ、炭素数5~8のシクロアルキル基が好ましい。
【0066】
上記式(7)及び式(8)中、アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基等の炭素数2~8のアルケニル基が挙げられる。シクロアルケニル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数5~12のシクロアルケニル基が挙げられる。
【0067】
上記式(7)及び式(8)中、アルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基等の炭素数2~8のアルキニル基やエチニルベンゼン基等のアリール基を置換基として有するアルキニル基等も挙げられる。
【0068】
上記式(7)及び式(8)中、アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、トリメチルフェニル基、ナフチル基等の炭素数6~20のアリール基が挙げられるが、なかでも炭素数6~10のアリール基が好ましく、フェニル基が特に好ましい。
【0069】
上記式(7)及び式(8)中、アルキルアリール基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等の炭素数6~20のアラルキル基が挙げられるが、なかでも炭素数7~10のアラルキル基が好ましく、ベンジル基が特に好ましい。
【0070】
なかでも、上記式(7)におけるR、上記式(8)におけるRが、アリール基、アリールアルキル基であるものが好ましい。このような芳香族ホスファゼンを用いることで、熱可塑性樹脂組成物の熱安定性を効果的に高めることができる。このような観点より、上記R及びRは、アリール基であることがより好ましく、フェニル基であることが特に好ましい。
【0071】
式(7)及び式(8)で表される環状及び/又は鎖状ホスファゼン化合物としては、例えば、フェノキシホスファゼン;o-トリルオキシホスファゼン、m-トリルオキシホスファゼン、p-トリルオキシホスファゼン等の(ポリ)トリルオキシホスファゼン;o,m-キシリルオキシホスファゼン、o,p-キシリルオキシホスファゼン、m,p-キシリルオキシホスファゼン等の(ポリ)キシリルオキシホスファゼン;o,m,p-トリメチルフェニルオキシホスファゼン;フェノキシo-トリルオキシホスファゼン、フェノキシm-トリルオキシホスファゼン、フェノキシp-トリルオキシホスファゼン等の(ポリ)フェノキシトリルオキシホスファゼン;フェノキシo,m-キシリルオキシホスファゼン、フェノキシo,p-キシリルオキシホスファゼン、フェノキシm,p-キシリルオキシホスファゼン等の(ポリ)フェノキシキシリルオキシホスファゼン;フェノキシo,m,p-トリメチルフェニルオキシホスファゼン等が例示でき、好ましくは環状及び/又は鎖状フェノキシホスファゼン等である。
【0072】
式(7)で表される環状ホスファゼン化合物としては、Rがフェニル基である環状フェノキシホスファゼンが特に好ましい。このような環状フェノキシホスファゼン化合物としては、例えば、塩化アンモニウムと五塩化リンとを120~130℃の温度で反応させて得られる環状及び直鎖状のクロロホスファゼン混合物から、ヘキサクロロシクロトリホスファゼン、オクタクロロシクロテトラホスファゼン、デカクロロシクロペンタホスファゼン等の環状のクロロホスファゼンを取り出した後にフェノキシ基で置換して得られる、フェノキシシクロトリホスファゼン、オクタフェノキシシクロテトラホスファゼン、デカフェノキシシクロペンタホスファゼン等の化合物が挙げられる。また、前記環状フェノキシホスファゼン化合物は、式(7)中のaが3~8の整数である化合物が好ましく、aの異なる化合物の混合物であってもよい。
【0073】
上記aの平均は、3~5であることが好ましく、3~4であることがより好ましい。また、なかでも、a=3のものが50質量%以上、a=4のものが10~40質量%、a=5以上のものが合わせて30質量%以下である化合物の混合物が好ましい。
【0074】
式(8)で表される鎖状ホスファゼン化合物としては、Rがフェニル基である鎖状フェノキシホスファゼンが特に好ましい。このような鎖状フェノキシホスファゼン化合物は、例えば、上記の方法で得られるヘキサクロロシクロトリホスファゼンを220~250℃の温度で開還重合し、得られた重合度3~10000の直鎖状ジクロロホスファゼンをフェノキシ基で置換することにより得られる化合物が挙げられる。前記直鎖状フェノキシホスファゼン化合物の、式(8)中のbは、好ましくは3~1000、より好ましくは3~100、さらに好ましくは3~25である。
【0075】
架橋ホスファゼン化合物としては、例えば、4,4’-スルホニルジフェニレン(すなわち、ビスフェノールS残基)の架橋構造を有する化合物、2,2-(4,4’-ジフェニレン)イソプロピリデン基の架橋構造を有する化合物、4,4’-オキシジフェニレン基の架橋構造を有する化合物、4,4’-チオジフェニレン基の架橋構造を有する化合物等の、4,4’-ジフェニレン基の架橋構造を有する化合物等が挙げられる。
【0076】
また、架橋ホスファゼン化合物としては、式(7)においてRがフェニル基である環状フェノキシホスファゼン化合物が上記架橋基によって架橋されてなる架橋フェノキシホスファゼン化合物、又は、上記式(8)においてRがフェニル基である鎖状フェノキシホスファゼン化合物が上記架橋基によって架橋されてなる架橋フェノキシホスファゼン化合物が難燃性の点から好ましく、環状フェノキシホスファゼン化合物が上記架橋基によって架橋されてなる架橋フェノキシホスファゼン化合物がより好ましい。
また、架橋フェノキシホスファゼン化合物中のフェニレン基の含有量は、式(7)で表される環状ホスファゼン化合物及び/又は式(8)で表される鎖状フェノキシホスファゼン化合物中の全フェニル基及びフェニレン基数を基準として、通常50~99.9%、好ましくは70~90%である。また、前記架橋フェノキシホスファゼン化合物は、その分子内にフリーの水酸基を有しない化合物であることが特に好ましい。
【0077】
本発明においては、ホスファゼン化合物は、上記式(7)で表される環状フェノキシホスファゼン化合物、及び、上記式(7)で表される環状フェノキシホスファゼン化合物が架橋基によって架橋されてなる架橋フェノキシホスファゼン化合物よる成る群から選択される少なくとも1種であることが、熱可塑性樹脂組成物の難燃性及び機械的特性の点から好ましい。
市販品のホスファゼン化合物としては、例えば、伏見製薬社製のFP-110が例示される。
【0078】
難燃剤として知られている芳香環を有するリン化合物(Y)は、下記式(9)で表される化合物であってもよい。
【0079】
【化12】
【0080】
式(9)中、Aは、二価の有機基が好ましく、Q及びQは、二価の芳香族基が好ましく、Zはエステル形成官能基を有する基であることが好ましい。
【0081】
式(9)中、Aで表される二価の有機基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、1,2-プロピレン基、1,3-プロピレン基等の低級アルキレン基、1,3-フェニレン基、1,4フェニレン基等のアリーレン基、1,3-キシリレン、1,4-キシリレン等の置換アリーレン基等が挙げられる。
【0082】
式(9)中、Q及びQで表される二価の芳香族基としては、例えば、式(3)及び下記式(4)で表される二価の基が挙げられる。Q及びQは、本発明の効果が得られる範囲において、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0083】
式(9)中、Zで表されるエステル形成官能基を有する基としては、例えば、炭素数2~7のヒドロキシカルボン酸由来の基、炭素数2~7のジカルボン酸と炭素数2~7のジオールとのモノエステル由来の基等が挙げられる。Zが炭素数2~7のジカルボン酸と炭素数2~7のジオールとのモノエステル由来の基である場合、Aは、ジカルボン酸由来の部位に結合していてもよく、ジオール由来の部位に結合していてもよい。
【0084】
式(9)で表される化合物は、Zで表されるエステル形成官能基を有する基がポリエステル構造を形成する、すなわち式(9)で表される構造単位が複数繰り返される構造を有する化合物が好ましい。このような化合物としては、例えば、下記式(9-1)で表される構造単位を有する化合物(化合物C)が挙げられる。
【0085】
【化13】
【0086】
上記式(9-1)中、nは2~40の整数であり、10~30の整数であることが好ましく、15~25の整数であることがより好ましい。
【0087】
上記式(9-1)の構造単位を有する化合物(化合物C)を用いると、成形時に黒変を抑えられフィルム外観が優れる点や、加熱時の臭気の発生しにくさの観点から好ましい。この理由は定かではないが、加水分解反応の影響が少ないことが関係していると推定している。すなわち、このような構造単位を有する化合物であれば、加水分解を受けた場合でも分解物(例えば、フェノール系の分解物)がその構造中に固定化されているため揮散しにくいことに加え、再脱水反応で再スピロ環化が可能で安定していることが考えられる。これにより、黒みのより抑えられた外観に優れる、分解物の昇華や揮散による臭気の問題も発生しにくいフィルムとすることがより容易となる。
【0088】
本フィルムのA層が含む芳香環を有するリン化合物(Y)は、上記式(1-1)で表される芳香族縮合リン酸エステル(化合物A)、上記式(2-1)で表される芳香族縮合リン酸エステル(化合物B)、及び上記式(9-1)の構造単位を有する化合物(化合物C)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
芳香環を有するリン化合物(Y)が、式(1-1)で表される芳香族縮合リン酸エステル(化合物A)及び式(2-1)で表される芳香族縮合リン酸エステル(化合物B)より選ばれる少なくとも1種を含む場合、本フィルムの焼却時の二酸化炭素発生量の削減効果が高く、フィルムの基本特性への影響が少ない。
芳香環を有するリン化合物(Y)が、式(9-1)の構造単位を有する化合物(化合物C)を含む場合、本フィルムの成形時に黒変を抑えられ優れた外観が得られ、また本フィルムの加熱時の臭気の発生が抑制できる。
【0089】
本発明においては、芳香環を有するリン化合物(Y)とポリエステル樹脂(X)とを予め混合したものを溶融混練してもよく、あるいは、溶融させたポリエステル樹脂(X)に芳香環を有するリン化合物(Y)を添加して混練してもよい。
また、これらのいずれかの方法で、一旦、マスターバッチ等の樹脂コンパウンドを調製したものとポリエステル樹脂(X)とを溶融混練してもよい。
【0090】
<一次酸化防止剤(Z)>
A層は、さらに一次酸化防止剤(Z)を含んでもよい。一次酸化防止剤(Z)としては、例えばフェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、キノン系酸化防止剤、ニトロソ系酸化防止剤等が挙げられ、従来公知のものを使用することができる。
【0091】
本発明においては、一次酸化防止剤(Z)とポリエステル樹脂(X)とを予め混合したものを溶融混練してもよく、あるいは、溶融させたポリエステル樹脂(X)に一次酸化防止剤(Z)を添加して混練してもよい。
また、これらのいずれかの方法で、一旦、マスターバッチ等の樹脂コンパウンドを調製したものとポリエステル樹脂(X)とを溶融混練してもよい。
【0092】
<反応機構>
本フィルムが、芳香環を有するリン化合物(Y)を含むA層を有することで、焼却時の二酸化炭素発生量を削減できる機構は定かではないが、以下と推定している。
通常の場合、ポリエステル樹脂の熱分解はその主鎖の熱的開裂から始まる。熱的開裂時にはラジカル状態を経ることで連鎖的に反応が進行することが知られている。また、焼却時においては空気中の酸素と容易に反応する。これらの反応によってポリエステル樹脂の焼却時には分解物中の酸素原子量が増加しつつ主鎖の分解が進行する。
芳香環を有するリン化合物(Y)はラジカルトラップ効果と自身の酸化分解による脱水炭化促進効果を有する。芳香環を有するリン化合物(Y)はこれらの作用によりポリエステル樹脂と空気中酸素との反応を抑制する。すなわち芳香環を有するリン化合物(Y)を含むA層を有することで、焼却時における分解物中の酸素原子量の増加を抑制しつつ主鎖の分解、炭化が進行する。その結果、焼却時に発生する二酸化炭素量が削減される。
また、一次酸化防止剤(Z)はラジカル連鎖を停止する作用により酸化を抑制することで知られていることから、一次酸化防止剤(Z)も焼却時における分解物中の酸素原子量の増加を抑制することで二酸化炭素発生量を削減可能である。
【0093】
<<A層以外の層>>
本フィルムは、上記A層以外の層を有していてもよく、当該A層以外の層は、ポリエステル樹脂を主成分樹脂として含むことが好ましい。
ここでいう主成分樹脂とは、本フィルムのA層以外の層を構成する樹脂の中で最も質量割合の大きい樹脂の意味であり、本フィルムのA層以外の層を構成する樹脂の50質量%以上、好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上を意味する。
【0094】
A層以外の層に含まれるポリエステル樹脂の具体的な態様及び好ましい態様は、前述のA層に含まれるポリエステル樹脂(X)と同じであり、これらを全て援用することができる。すなわち、A層以外の層に含まれるポリエステル樹脂や、当該ポリエステル樹脂に関する重合触媒、粒子及びその他添加剤として例示されるものは、A層中のポリエステル樹脂(X)や、当該ポリエステル樹脂(X)に関する重合触媒、粒子及びその他添加剤として例示されるものと同じである。
【0095】
<<好ましい態様>>
本フィルムは、表層、中間層及び表層を有する少なくとも3層の積層構成であることが好ましい。中でも、本フィルムをかかる積層構成とした上で、少なくとも一方の表層のみがA層であることがより好ましく、両表層が共にA層であることがさらに好ましく、A層である表層/A層でない中間層/A層である表層の3層構成であることが特に好ましい。
本フィルムを少なくとも3層の積層構成とし、少なくとも一方の表層のみ、好ましくは両表層を共にA層とすることで、焼却時の二酸化炭素発生量を効果的に削減することができる。かかる機構は定かではないが、以下と推定している。
燃焼は表層から進行する。そのため焼却初期において、A層でない中間層は二酸化炭素削減効果を発揮できない。一方で芳香環を有するリン化合物(Y)が表層に偏っている場合、前述の反応機構により焼却時における初期酸化分解反応を効率的に抑制し炭化層を形成する。
さらに、表層が炭化層の時、空気中酸素は中間層に当たるポリエステル樹脂との反応を抑制され、燃焼が軽減される。その結果、本フィルムを少なくとも3層の積層構成とし、少なくとも一方の表層のみ、好ましくは両表層を共にA層とすることで、焼却時の二酸化炭素発生量を効果的に削減することができる。
【0096】
本フィルムを少なくとも3層の積層構成とし、少なくとも一方の表層のみ、好ましくは両表層を共にA層とした場合に、前記表層における芳香環を有するリン化合物(Y)の含有量は、前記表層におけるリン元素含有量として30~8000質量ppmであることが好ましく、50~7000質量ppmであることがより好ましく、さらに好ましくは60~6000質量ppm、よりさらに好ましくは70~5500質量ppmである。当該含有量が、30質量ppm以上であれば、表層に芳香環を有するリン化合物(Y)を含有させる効果を十分発揮することができ、本フィルムの焼却時の二酸化炭素削減効果が十分に発揮される。一方、当該含有量が、8000質量ppm以下であれば、フィルムの焼却性を損なうことなく二酸化炭素削減効果が発揮される。
表層における芳香環を有するリン化合物(Y)の含有量は、ミクロトーム等で分離した表層から切り出したサンプルを、上記の本フィルム中の芳香環を有するリン化合物(Y)の含有量と同様の方法で測定することができる。
また、中間層における芳香環を有するリン化合物(Y)の含有量も同様に測定することができる。
【0097】
また、両表層が共にA層であり、かつ、各表層における芳香環を有するリン化合物(Y)の含有量が上記を満足することが特に好ましい。
なお、かかる場合、各表層における芳香族を有するリン化合物(Y)の種類や含有量は、上記を満たせばよく、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0098】
<<<ポリエステルフィルムの製造方法>>>
次に、本フィルムの製造方法について具体的に説明するが、以下の製造例に何ら限定されるものではない。本フィルムは、まず未延伸シートを製造し、その後、二方向に延伸させて二軸延伸ポリエステルフィルムを得ることが好ましい。
【0099】
未延伸シートは、先に述べたポリエステル樹脂(X)と、必要に応じて配合される、粒子、その他の添加剤とを押出機に供給して適宜混合して、押出機を用いてダイから溶融シートとして押し出し、回転冷却ドラムで冷却固化して得ることが好ましい。この場合、シートの平面性を向上させるためシートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、静電印加密着法及び/又は液体塗布密着法が好ましくは採用される。
また、本フィルムが、多層構造である場合には、共押出し法によって複数層を共押出して、多層構造を有する未延伸シートとするとよい。
【0100】
また、原料となるポリエステル樹脂(X)は、ペレットなどとして、適宜乾燥されたうえで押出機に供給されるとよく、粒子、その他の添加剤などは、適宜ペレットに配合されてもよい。
なお、芳香環を有するリン化合物(Y)や一次酸化防止剤(Z)は、前述のとおりに用いることができ、例えば、ポリエステル樹脂と予め混合したものを溶融混練してもよく、溶融されたポリエステル樹脂(X)に芳香環を有するリン化合物(Y)や一次酸化防止剤(Z)を添加して混練してもよく、一旦マスターバッチ等の樹脂コンパウンドとしてもよい。
【0101】
得られた未延伸シートは、次に一軸方向に、さらには二軸方向に延伸される。具体的には、まず未延伸シートを一方向にロール又はテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70~120℃、好ましくは80~110℃であり、延伸倍率は通常2.5~7倍、好ましくは2.8~6倍、より好ましくは3~5.5倍である。
次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に延伸するが、その場合、延伸温度は通常70~170℃であり、延伸倍率は通常2.5~7倍、好ましくは3.0~6倍、より好ましくは3.6~5.5倍である。
【0102】
そして、引き続き180~270℃の温度で緊張下又は30%以内、好ましくは10%以内、より好ましくは7%以内の弛緩下で熱固定処理を行い、二軸延伸ポリエステルフィルムを得ることが好ましい。熱固定温度は、190℃以上が好ましく、195℃以上がより好ましく、200℃以上がさらに好ましい。熱固定温度は、特に限定されないが、240℃以下が好ましく、230℃以下がより好ましく、225℃以下がさらに好ましく、220℃以下がよりさらに好ましい。熱固定時間としては、3秒以上15秒以下が好ましく、4秒以上14秒以下がより好ましく、5秒以上13秒以下がさらに好ましい。
また、熱固定処理工程後において、冷却ゾーンにて、0~20%、0.5~15%、好ましくは1~10%、より好ましくは1.5~7%の弛緩下で、冷却処理を行ってもよい。冷却温度としては、例えば120~160℃程度が好ましく、より好ましくは130~150℃程度である。上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
【0103】
また、本フィルムの製造には、同時二軸延伸法を採用することもできる。同時二軸延伸法は、前記の未延伸シートを通常70~120℃、好ましくは80~110℃で温度コントロールされた状態で長手方向及び幅方向に同時に延伸し配向させる方法であり、延伸倍率としては、面積倍率で4~50倍、好ましくは7~35倍、さらに好ましくは10~25倍である。
そして、引き続き、170~250℃の温度で緊張下又は30%以内の弛緩下で熱固定処理を行い、延伸配向フィルムを得ることが好ましい。好ましい熱固定処理の条件は上述した通りである。上述の延伸方式を採用する同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式及びリニアー駆動方式等、従来公知の延伸方式を採用することができる。
【0104】
なお、フィルムの長手方向とは、フィルムの製造工程でフィルムが進行する方向、すなわちフィルムロールの巻き方向をいう。幅方向とは、フィルム面に平行かつ長手方向と直交する方向をいい、すなわち、フィルムロール状としたときロールの中心軸と平行な方向である。
【0105】
<<<ポリエステルフィルムの物性>>>
本フィルムの疑似空気雰囲気下、昇温速度10℃/分で25℃から1000℃まで加熱したときの二酸化炭素発生量は、2500mg/g以下である。当該二酸化炭素発生量が、2500mg/gを超えると、焼却時の二酸化炭素削減効果が不十分な場合がある。
焼却時の二酸化炭素削減効果を優れたものとする観点から、当該二酸化炭素発生量は、好ましくは2400mg/g以下、より好ましくは2100mg/g以下、さらに好ましくは1600mg/g以下である。なお、当該二酸化炭素発生量の下限値は、小さければ小さいほどよく、0mg/g以上であればよいが、例えば500mg/g以上であっても、1000mg/g以上であっても効果は十分といえる。
なお、当該二酸化炭素発生量は、実施例に記載の方法で測定できる。
【0106】
本フィルムの疑似空気雰囲気下、昇温速度10℃/分で25℃から1000℃まで加熱したときの二酸化炭素発生量削減率は、1%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、25%以上であることがさらに好ましく、45%以上であることがよりさらに好ましく、60%以上であることがよりさらに好ましく、75%以上であることがよりさらに好ましい。当該二酸化炭素発生量削減率が上記下限値以上であれば、焼却時の十分な二酸化炭素削減効果が得られる。
なお、当該二酸化炭素発生量削減率の上限値は、大きければ大きいほどよく、100%であればよいが、例えば95%以下、90%以下、85%以下、80%以下であっても効果は十分といえる。
なお、当該二酸化炭素発生量削減率は、実施例に記載の方法で測定・算出できる。
【0107】
本フィルムの長手方向(MD)の引張破断強度は、120MPa以上が好ましく、150MPa以上がより好ましく、170MPa以上がさらに好ましく、190MPa以上がよりさらに好ましく、210MPa以上がよりさらに好ましい。なお、MDの引張破断強度の上限値は大きければよいが、例えば、340MPa以下、320MPa以下、300MPa以下であってもよい。
本フィルムの幅方向(TD)の引張破断強度は、180MPa以上が好ましく、200MPa以上がより好ましく、220MPa以上がさらに好ましく、240MPa以上がよりさらに好ましく、260MPa以上がよりさらに好ましい。なお、TDの引張破断強度の上限値は大きければよいが、例えば、400MPa以下、380MPa以下、360MPa以下であってもよい。
引張破断強度が上記範囲であれば、本フィルムが耐久力に優れると言え、さまざまな分野で採用しやすい傾向となり好ましい。
なお、当該引張破断強度は、実施例に記載の方法で測定できる。
【0108】
本フィルムの長手方向(MD)の引張破断伸度は、120%以上が好ましく、130%以上がより好ましく、140%以上がさらに好ましく、150%以上がよりさらに好ましく、160%以上がよりさらに好ましい。なお、MDの引張破断伸度の上限値は大きければよいが、例えば、280%以下、260%以下、240%以下であってもよい。
本フィルムの幅方向(TD)の引張破断伸度は、70%以上が好ましく、0%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましく、100%以上がよりさらに好ましく、110%以上がよりさらに好ましい。なお、TDの引張破断伸度の上限値は大きければよいが、例えば、240%以下、220%以下、200%以下であってもよい。
引張破断伸度が上記範囲であれば、本フィルムが耐久力に優れると言え、さまざまな分野で採用しやすい傾向となり好ましい。
なお、当該引張破断伸度は、実施例に記載の方法で測定できる。
【0109】
本フィルムの長手方向(MD)のヤング率は、2GPa以上が好ましく、3GPa以上がより好ましく、3.5GPa以上がさらに好ましく、4GPa以上がよりさらに好ましく、4.5GPa以上がよりさらに好ましい。なお、MDのヤング率の上限値は大きければよいが、例えば、15GPa以下、10GPa以下、8GPa以下であってもよい。
本フィルムの幅方向(TD)のヤング率は、3GPa以上が好ましく、4GPa以上がより好ましく、4.5GPa以上がさらに好ましく、5GPa以上がよりさらに好ましく、5.5GPa以上がよりさらに好ましい。なお、MDのヤング率の上限値は大きければよいが、例えば、15GPa以下、10GPa以下、8GPa以下であってもよい。
ヤング率が上記範囲であれば、本フィルムが十分な強度であり、さまざまな分野で採用しやすい傾向となり好ましい。
なお、当該ヤング率は、実施例に記載の方法で測定できる。
【0110】
本フィルムの150℃、30分間熱処理したときの長手方向(MD)の熱収縮率は、5%以下が好ましく、4%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましく、2.5%以下がよりさらに好ましく、2%以下がよりさらに好ましい。なお、150℃、30分間熱処理したときのMDの熱収縮率の下限値は小さいほどよいが、例えば、0.3%以上、0.6%以上、0.8%以上であってもよい。
本フィルムの150℃、30分間熱処理したときの幅方向(TD)の熱収縮率は、4%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましく、1.5%以下がよりさらに好ましく、1%以下がよりさらに好ましい。なお、150℃、30分間熱処理したときのMDの熱収縮率の下限値は小さいほどよいが、例えば、0.1%以上、0.3%以上、0.5%以上であってもよい。
150℃、30分間熱処理したときの熱収縮率が上記範囲であれば、本フィルムが耐熱性に優れたフィルムと言え、高温にさらされる可能性のある用途でも使用しやすい傾向となり好ましい。
なお、当該熱収縮率は、実施例に記載の方法で測定できる。
【0111】
本フィルムの、ASTM D4804に準拠したUL94垂直燃焼試験における厚み38μmの難燃性はVTM-1以下であることが好ましく、VTM-2以下であることがより好ましい。
厚み38μmにおける難燃性が上記範囲であれば、本フィルムの廃棄処理時にエネルギー効率が高く焼却処理しやすく、好ましい。
なお、当該難燃性は、実施例に記載の方法で測定できる。
【0112】
総厚みが500μm相当になるように本フィルムを複数枚重ね合わせたときのL値は、96.6以下であることが好ましく、より好ましくは96.0以下、さらに好ましくは95.5以下である。L値は、明るさを表し、0から100までで数値が大きいほど明るくなる。L値がかかる範囲であれば、本フィルムが芳香環を有するリン化合物(Y)を含有していると推定され、焼却時の二酸化炭素削減効果に優れたフィルムということができる。なお、L値の下限値は特に制限されないが、通常は、90.0程度である。
なお、フィルムの「総厚みが500μm相当」とは、測定に供するフィルムを重ねた際に500μmに一番近い厚みであり、厳密に500μmであることを意味しない。当該L値は、実施例に記載の方法で測定できる。
【0113】
本フィルムのヘーズは、10%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、6%以下がさらに好ましく、4%以下がよりさらに好ましく、3.5%以下がよりさらに好ましい。なお、ヘーズの下限値は小さければよいが、例えば、0.3%以上、0.7%以上、1%以上であってもよい。
ヘーズが上記範囲であれば、本フィルムが透明性に優れると言え、外観維持を要求される用途でも使用しやすい傾向となり好ましい。
なお、当該ヘーズは、実施例に記載の方法で測定できる。
【0114】
本フィルムの算術平均粗さ(Ra)は、10nm以上が好ましく、15nm以上がより好ましく、20nm以上がさらに好ましい。また、本フィルムの算術平均粗さ(Ra)は、50nm以下が好ましく、40nm以下がより好ましく、35nm以下が更に好ましい。
算術平均粗さ(Ra)が上記範囲であれば、本フィルムが滑り性に優れると言え、さまざまな分野で採用しやすい傾向となり好ましい。
なお、当算術平均粗さ(Ra)は、実施例に記載の方法で測定できる。
【0115】
<<<二酸化炭素発生量の削減方法>>>
本フィルムは、上記の通り焼却時の二酸化炭素発生量を削減することができる。そのため、本フィルムは、芳香環を有するリン化合物(Y)を含まないこと以外は本フィルムと同じ構成のポリエステルフィルムに代えて用いることで、焼却時の二酸化炭素発生量を削減する方法を提供することができる。
【0116】
<<<ポリエステルフィルムの用途>>>
本フィルムは、透明性、表面性状、機械的強度、寸法安定性などの基本特性への影響が少なく、焼却時の二酸化炭素発生量を削減することができるものである。したがって、本フィルムは、さまざまな分野で使用することができ、具体的には、包装材料、磁気記録材料、太陽電池用途、液晶偏光板のセパレータ、ドライフィルムレジスト用基材、積層セラミックコンデンサのグリーンシートを成形するための離型フィルムの他、反射防止フィルム、拡散シート、プリズムシート等の光学フィルム、ラベル印刷用フィルムなど幅広く使用することができる。
【0117】
<<<語句の説明>>>
本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
本発明において「疑似空気」とは、ヘリウム(He)と酸素(O)とを、He:Oが80vol%:20vol%となるように混合した気体である。
本発明において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」あるいは「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【実施例0118】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
ただし、本発明は、その要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0119】
<評価方法>
(1)ポリエステルの固有粘度(IV)
ポリエステルに非相溶な成分を除去したポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(質量比)の混合溶媒100mLを加えて溶解させ、粘度測定装置「VMS-022UPC・F10」(株式会社離合社製)を用いて、30℃で測定した。
【0120】
(2)粒子の平均粒径
株式会社島津製作所製の遠心沈降式粒度分布測定装置(SA-CP3型)を用いて測定した等価球形分布における積算体積分率50%の粒径を平均粒径d50とした。
【0121】
(3)ポリエステルフィルムの二酸化炭素発生量と二酸化炭素発生量削減率
リガク製熱天秤質量分析装置ThermoMASSを用いて測定を行った。二酸化炭素発生量は、m/z=44のイオンクロマトグラムピーク面積と標品から作成した検量線から算出した。検量線は、標品のイオンクロマトグラムピーク面積(m/z=44)対理論二酸化炭素発生量から2点校正にて作成した。
なお、測定条件は以下のとおりである。
加熱条件 : 温度25℃~1000℃、速度10℃/min
雰囲気 : 疑似空気(He+O、He:80vol%、O:20vol%)
ガス流量 : 300mL/min
容器 : Ptカップ
MS設定 : EMS 1mA,SEM 1200V,m/z≒10~410(EI)
標品 : シュウ酸カルシウム一水和物
【0122】
また、表2に記載のポリエステルフィルムの二酸化炭素発生量削減率は、実施例のポリエステルフィルムから発生する二酸化炭素発生量(p1)及び芳香環を有するリン化合物(Y)を含まないこと以外は実施例のポリエステルフィルムと同じ構成の比較例のポリエステルフィルムから発生する二酸化炭素発生量(p0)より、下記式より求めた。
二酸化炭素発生量削減率(%)={1-(p1÷p0)}×100
【0123】
(4)ポリエステルフィルムのL
ポリエステルフィルムのL値を、コニカミノルタジャパン株式会社製の分光測色計「CM-3700d」を用いて次のようにして求めた。
所定の場所からφ約60mmの丸型ホルダー刃でサンプルを打ち抜いてサンプリングした。試験枚数は、重ね厚み(測定時の総厚み)が500μmに一番近い枚数とした。例えば、25μmのフィルムの場合はフィルムを20枚、38μmのフィルムの場合はフィルムを13枚重ね合わせればよい。測定条件は反射条件とした。なお、L値の測定は、23℃の環境で行った。
【0124】
(5)ポリエステルフィルムのヘーズ
JIS K7136に準拠し、日本電色工業(株)製ヘーズメーター DH-2000を用いて測定した。
【0125】
(6)ポリエステルフィルムの算術平均粗さ(Ra)
ポリエステルフィルム表面の算術平均粗さを、株式会社小坂研究所製表面粗さ測定器(SE-3500)を用いて次のようにして求めた。
すなわち、測定によって得られたフィルム断面曲線からその中心線の方向に基準長さL(2.5mm)の部分を抜き取り、この抜き取り部分の中心線をx軸、縦倍率の方向をy軸として、粗さ曲線y=f(x)で表した時、算術平均粗さは、次の式で与えられた値を〔nm〕で表したものである。算術平均粗さは、試料フィルム表面から10本の粗さ曲線を求め、これらの粗さ曲線から求めた抜き取り部分の算術平均粗さの平均値で表した。なお、触針の先端半径は2μm、荷重は30mgとし、カットオフ値は0.08mmとした。
【0126】
【数1】
【0127】
(7)ポリエステルフィルムの引張破断強度及び引張破断伸度
ポリエステルフィルムの所定の場所から、幅15mm、長さ150mmのサイズの試料片を採取し、株式会社島津製作所製のオートグラフAGX-Vを用いて引張破断強度及び引張破断伸度を測定した。引張試験機を用いて、試料フィルムを長手方向(MD)又は幅方向(TD)に速度200mm/minで引張試験を実施した。
試料が切断(破断)したときの強度(引張荷重値を試験片の断面積で除した値)を破断強度(MPa)とした。また、試料が切断(破断)したときの伸度(切断時の標点間距離と試験前標点間距離の差を試験前の標点間距離で除した値の百分率)を破断伸度(%)とした。
【0128】
(8)ポリエステルフィルムのヤング率
ポリエステルフィルムの所定の場所から、幅20mm、長さ170mmのサイズの試料フィルムを採取し、温度23℃、湿度50%RHに調節された室内において、島津製作所社製のオートグラフAGX-Vを用いてヤング率を測定した。チャック間距離120mm、引張速度10mm/minの条件にて試料フィルムの長手方向(MD)及び幅方向について引張測定を実施した。
E=Δσ/Δε
(前記式中、Eはヤング率(GPa)、Δσは直線の2点間の元の平均断面積による応力差(GPa)、Δεは同一2点間の歪み差/初期長さである)
フィルムの長手方向(MD)と幅方向(TD)に5点ずつ測定し、それぞれについて平均値を求めた。
【0129】
(9)ポリエステルフィルムの熱収縮率
1.5cm×15cmの試料フィルムを無張力状態で所定の温度(150℃)に保った熱風式オーブン中、30分間熱処理を施し、その前後の試料フィルムの長さを測定して下記式にて算出した。なお、フィルムの長手方向(MD)と幅方向(TD)のそれぞれについて測定した。
熱収縮率(%)={(熱処理前のサンプル長)-(熱処理後のサンプル長)}÷(熱処理前のサンプル長)×100
【0130】
(10)ポリエステルフィルムの難燃性
ASTM D4804に準拠したUL94垂直燃焼試験における難燃性を評価した。具体的には、200mm×50mmの試料フィルムを円筒状に巻き、クランプに垂直に取付け、20mm炎による3秒間接炎を3回行い、その燃焼挙動によりVTM-0、VTM-1、VTM-2、Notの判定を行った。なお、試料フィルムの長辺側がMDとなるように燃焼試験を行った。
【0131】
(11)ポリエステルフィルム中及び表層中の芳香環を有するリン化合物の含有量
原料C及び原料Dそれぞれについて、ICP-OES(Thermo Fisher Scientific社製 iCAP6500DUO)を用いて、リン元素の含有量を測定した。
標準溶液として、SPEX社製のXSTC-8(リン含有量10質量ppm)を使用し、500倍希釈(同0.02質量ppm)、200倍希釈(同0.05質量ppm)、100倍希釈(同0.1質量ppm)、33.3倍希釈(同0.3質量ppm)を調液し、検量線を作成した。
試料はケルダールフラスコに秤量し(約1g)、硫酸・硝酸・過酸化水素による湿式分解によって分解し、酸溶液とした。放冷後、50mlのメスフラスコに定容し、これを測定溶液とした。なお、使用した波長は177.440nmである。
得られた結果から、ポリエステルフィルム中の原料C及びDの配合割合に基づき、ポリエステルフィルムにおける芳香環を有するリン化合物の含有量をリン元素含有量として算出した。また、ポリエステルフィルム中の原料C及びDの配合割合とポリエステルフィルムを製造する際の各層吐出量の比に基づき、表層における芳香環を有するリン化合物の含有量をリン元素含有量として算出した。なお、本実施例で得られたリン元素含有量の値と、フィルム中や表層中の実際のリン元素含有量は同じとみなすことができる。
【0132】
<使用した材料>
原料A:ポリエチレンテレフタレート(固有粘度=0.65dL/g)
原料B:ポリエチレンテレフタレートに、平均粒径2.2μmのシリカ粒子を0.55質量%配合したマスターバッチ(固有粘度=0.61dL/g)
原料C:ポリエチレンテレフタレートに、芳香環を有するリン化合物を、リン元素含有量として7700μg/g配合したマスターバッチ。芳香環を有するリン化合物として、下記式(1-1)で表される芳香族縮合リン酸エステル(化合物A)と下記式(2-1)で表される芳香族リン酸エステル(化合物B)からなり、化合物Aと化合物Bの質量比(化合物A:化合物B)は98:2である。なお、化合物Bは、化合物Aの副生成物である。
【0133】
【化14】
【0134】
原料D:ポリエチレンテレフタレートに、芳香環を有するリン化合物を、リン元素含有量として28000μg/g配合したマスターバッチ。芳香環を有するリン化合物は、下記式(9-1)の構造単位を有する化合物(化合物C)である。なお、下記式(9-1)中nは18である。(固有粘度=0.43dL/g)
【0135】
【化15】
【0136】
(実施例1)
原料A、原料B及び原料Cをそれぞれ74質量%、25質量%、1質量%の割合で混合した混合原料を両表層の原料とし、原料A及び原料Cをそれぞれ99質量%、1質量%の割合で混合した混合原料を中間層の原料とした。両表層及び中間層の原料の各々を2台の押出機に供給し、各々285℃で溶融した後、25℃に設定した冷却ロール上に、2種3層(表層/中間層/表層=4/40/4の吐出量)の層構成で共押出し冷却固化させて未延伸シートを得た。
次いで、得られた未延伸シートをロール延伸機で長手方向(MD)に86℃で3.2倍に延伸した。さらに、テンター内にて100℃で予熱した後、幅方向(TD)に115℃で4.2倍に延伸した。最後に230℃で熱固定処理を施し、幅方向(TD)に2%の弛緩下で140℃の冷却処理を行って、厚み38μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。評価結果を表2に示す。
【0137】
(実施例2~8、比較例1)
下記表1に記載の組成で行った以外は、実施例1と同様に行った。評価結果を表2に示す。なお、表1において原料A~Dの配合割合の数値は、小数第1位を四捨五入した値である。
【0138】
【表1】
【0139】
【表2】
【0140】
表2の結果から分かるように、実施例1~8のポリエステルフィルムは、ポリエステル樹脂(X)及び芳香環を有するリン化合物(Y)を含むA層を有することで、焼却時の二酸化炭素発生量を削減できていることが分かる。
また、実施例1~8のポリエステルフィルムは、比較例1のポリエステルフィルムと比較して、透明性、表面性状、機械的強度、寸法安定性などの基本特性が大きく変化していないことから、芳香環を有するリン化合物(Y)がフィルムの基本特性へ与える影響は少ないことが分かる。
【0141】
さらに、実施例2のポリエステルフィルムと実施例4のポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムにおける芳香環を有するリン化合物(Y)の含有量が同一であるが、表層のみが芳香環を有するリン化合物(Y)を含む実施例4の方が焼却時の二酸化炭素発生量が少ないことが分かる。実施例6のポリエステルフィルムと実施例7のポリエステルフィルムの二酸化炭素発生量削減率の結果からも同様のことが分かる。
したがって、少なくとも一方の表層に芳香環を有するリン化合物(Y)を含むことで、効果的に二酸化炭素発生量を削減できるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明のポリエステルフィルムは、透明性、表面性状、機械的強度、寸法安定性などの基本特性への影響が少なく、焼却時の二酸化炭素発生量を削減することができるものである。
したがって、本発明のポリエステルフィルムは、さまざまな分野で使用することができ、具体的には、磁気記録材料、包装材料、太陽電池用途、液晶偏光板のセパレータ、ドライフィルムレジスト用基材、積層セラミックコンデンサのグリーンシートを成形するための離型フィルムの他、反射防止フィルム、拡散シート、プリズムシート等の光学フィルム、ラベル印刷用フィルムなど幅広く使用することができる。