(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122944
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】ポリイミド系フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/34 20060101AFI20240902BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20240902BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20240902BHJP
B32B 15/088 20060101ALI20240902BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20240902BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
B32B27/34
B32B7/023
B32B7/025
B32B15/088
C08G73/10
H05K1/03 670
H05K1/03 610N
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024076357
(22)【出願日】2024-05-09
(62)【分割の表示】P 2023106159の分割
【原出願日】2023-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2023030018
(32)【優先日】2023-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100162710
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 真理奈
(72)【発明者】
【氏名】高岡 裕太
(72)【発明者】
【氏名】小沼 勇輔
(72)【発明者】
【氏名】西岡 宏司
【テーマコード(参考)】
4F100
4J043
【Fターム(参考)】
4F100AB17D
4F100AB33D
4F100AK49A
4F100AK49B
4F100AK49C
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100BA10D
4F100BA16
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4F100GB43
4F100JA02
4F100JG05
4F100JK01
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4F100JN01A
4F100JN01B
4F100JN01C
4J043PA06
4J043PB08
4J043QB26
4J043QB31
4J043RA05
4J043RA37
4J043SA06
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4J043SB03
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4J043TA71
4J043TB03
4J043UA122
4J043UA131
4J043UA132
4J043UA141
4J043UA152
4J043UB131
4J043UB172
4J043UB402
4J043VA021
4J043VA022
4J043VA031
4J043VA032
4J043XA16
4J043XB03
4J043ZB11
(57)【要約】
【課題】高い突刺強度を有するポリイミド系積層フィルム、及び該積層フィルムを含む積層シート、並びにフレキシブルプリント回路基板を提供すること。
【解決手段】ポリイミド系樹脂含有層を3層以上含む積層フィルムであって、
前記積層フィルムを構成するポリイミド系樹脂含有層のうち、互いに最も離れた位置関係にある2つのポリイミド系樹脂含有層と、前記2つのポリイミド系樹脂含有層の間に位置する層とからなる積層体(L)の厚みをT(μm)、前記積層体(L)の全光線透過率をTt(%)、及び、前記積層体(L)の拡散光線透過率をTd(%)としたとき、式(I):
Tt/(T×(Td)1/2) (I)
の値が0.300未満である、積層フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド系樹脂含有層を3層以上含む積層フィルムであって、
前記積層フィルムを構成するポリイミド系樹脂含有層のうち、互いに最も離れた位置関係にある2つのポリイミド系樹脂含有層と、前記2つのポリイミド系樹脂含有層の間に位置する層とからなる積層体(L)の厚みをT(μm)、前記積層体(L)の全光線透過率をTt(%)、及び、前記積層体(L)の拡散光線透過率をTd(%)としたとき、式(I):
Tt/(T×(Td)1/2) (I)
の値が0.300未満である、積層フィルム。
【請求項2】
前記積層体(L)の全光線透過率Ttは70%以下である、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
少なくとも1層のポリイミド系樹脂含有層はテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A)を有するポリイミド系樹脂を含み、
前記構成単位(A)は、式(A1):
【化1】
[式(A1)中、R
a1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
kは、0~2の整数を表す]
で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A1)、及び/又は、式(A2):
【化2】
[式(A2)中、R
a2は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、lは、互いに独立に、0~3の整数である]
で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A2)を含む、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項4】
少なくとも1層のポリイミド系樹脂含有層はジアミン由来の構成単位(B)を有するポリイミド系樹脂を含み、
前記構成単位(B)は、式(B1):
【化3】
[式(B1)中、R
b1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
Wは、互いに独立に、-O-、-CH
2-、-CH
2-CH
2-、-CH(CH
3)-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-、-COO-、-OOC-、-SO-、-SO
2-、-S-、-CO-、-N(R
c)-及び-CONH-からなる群から選択される2価の連結基、又は、単結合(但し、mは2以上であり、少なくとも1つのWは前記2価の連結基である)を表し、R
cは水素原子、又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の一価の炭化水素基を表し、
mは1~4の整数を表し、
qは互いに独立に、0~4の整数を表す]
で表されるジアミン由来の構成単位(B1)を含む、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記積層体(L)が、ポリイミド系樹脂含有層(PI-2)、ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)及びポリイミド系樹脂含有層(PI-3)をこの順に含み、前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)、ポリイミド系樹脂含有層(PI-2)及びポリイミド系樹脂含有層(PI-3)が、それぞれ、式(A1):
【化4】
[式(A1)中、R
a1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
kは、0~2の整数を表す]
で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A1)、及び/又は、式(A2):
【化5】
[式(A2)中、R
a2は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、lは、互いに独立に、0~3の整数である]
で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A2)と、ジアミン由来の構成単位(B)とを有するポリイミド系樹脂を含む、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記積層体(L)は、ポリイミド系樹脂含有層(PI-2)、ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)及びポリイミド系樹脂含有層(PI-3)からなる積層体(L1)である、請求項5に記載の積層フィルム。
【請求項7】
前記積層体(L1)の厚みが20~100μmであり、かつ、前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-2)及び前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-3)の厚みが、それぞれ、前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)の厚みの0.05~0.3倍である、請求項6に記載の積層フィルム。
【請求項8】
前記構成単位(B)は、式(B1):
【化6】
[式(B1)中、R
b1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
Wは、互いに独立に、-O-、-CH
2-、-CH
2-CH
2-、-CH(CH
3)-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-、-COO-、-OOC-、-SO-、-SO
2-、-S-、-CO-、-N(R
c)-及び-CONH-からなる群から選択される2価の連結基、又は、単結合(但し、mは2以上であり、少なくとも1つのWは前記2価の連結基である)を表し、R
cは水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の一価の炭化水素基を表し、
mは1~4の整数を表し、
qは互いに独立に、0~4の整数を表す]
で表されるジアミン由来の構成単位(B1)を含む、請求項5に記載の積層フィルム。
【請求項9】
前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)に含まれるポリイミド系樹脂は、式(A3):
【化7】
[式(A3)中、Zは2価の有機基を表し、
R
a3は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
sは互いに独立に、0~3の整数を表す]
で表されるエステル結合含有テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A3)をさらに含む、請求項5に記載の積層フィルム。
【請求項10】
前記構成単位(B)は、式(B2):
【化8】
[式(B2)中、R
b2は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
pは0~4の整数を表す]
で表されるビフェニル骨格含有ジアミン由来の構成単位(B2)を含む、請求項5に記載の積層フィルム。
【請求項11】
10GHzにおける誘電正接は0.0040以下である、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項12】
請求項1に記載の積層フィルムの片面又は両面に金属箔層を含む、積層シート。
【請求項13】
請求項12に記載の積層シートを含む、フレキシブルプリント回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド系樹脂含有層を含む積層フィルム、特に、高周波帯域用のプリント回路基板やアンテナ基板に対応可能な基板材料などに利用できる積層フィルム、前記積層フィルムを含む積層シート及びフレキシブルプリント回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルプリント回路基板(以下、FPCと記載することがある)は、薄く軽量で可撓性を有するため、立体的、高密度な実装が可能であり、携帯電話、ハードディスク等の多くの電子機器に使用され、その小型化、軽量化に寄与している。従来、FPCには、耐熱性、機械物性、電気絶縁性に優れるポリイミド樹脂が広く用いられており、例えば、FPCに使用される銅張積層板(以下、CCLと略すことがある)等の金属張積層板として、ポリイミド系フィルムの片面または両面に銅箔層を有する積層体が知られている。
近年、5Gと称される第5世代移動通信システムが本格的に普及しつつあり(例えば特許文献1)、5G以降の高速通信用途に適したポリイミド系フィルムが検討されている。
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
FPCにおいて使用されるポリイミド系フィルムには、加工時等にフィルムの厚み方向に衝撃が加わる可能性があり、これに耐え得る突刺強度が求められる。しかし、誘電特性を適切な範囲に制御しながら機械物性を高めることは難しい。このため、突刺強度が高く、5G以降の高速通信用途に用い得るポリイミド系フィルムの開発が必要とされている。
【0005】
本発明の目的は、高い突刺強度を有するポリイミド系積層フィルム、及び該積層フィルムを含む積層シート、並びにフレキシブルプリント回路基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、積層フィルムを構成するポリイミド系樹脂含有層の厚み及び透過率が特定の関係になるよう制御することで上記課題を解決し得ることを見出し、本発明に到達した。すなわち本発明は、以下の好適な態様を提供するものである。
【0007】
[1]ポリイミド系樹脂含有層を3層以上含む積層フィルムであって、
前記積層フィルムを構成するポリイミド系樹脂含有層のうち、互いに最も離れた位置関係にある2つのポリイミド系樹脂含有層と、前記2つのポリイミド系樹脂含有層の間に位置する層とからなる積層体(L)の厚みをT(μm)、前記積層体(L)の全光線透過率をTt(%)、及び、前記積層体(L)の拡散光線透過率をTd(%)としたとき、式(I):
Tt/(T×(Td)
1/2) (I)
の値が0.300未満である、積層フィルム。
[2]前記積層体(L)の全光線透過率Ttは70%以下である、前記[1]に記載の積層フィルム。
[3]少なくとも1層のポリイミド系樹脂含有層はテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A)を有するポリイミド系樹脂を含み、前記構成単位(A)が、式(A1):
【化1】
[式(A1)中、R
a1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
kは、0~2の整数を表す]
で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A1)、及び/又は、式(A2):
【化2】
[式(A2)中、R
a2は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、lは、互いに独立に、0~3の整数である]
で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A2)を含む、前記[1]又は[2]に記載の積層フィルム。
[4]少なくとも1層のポリイミド系樹脂含有層はジアミン由来の構成単位(B)を有するポリイミド系樹脂を含み、前記構成単位(B)が、式(B1):
【化3】
[式(B1)中、R
b1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
Wは、互いに独立に、-O-、-CH
2-、-CH
2-CH
2-、-CH(CH
3)-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-、-COO-、-OOC-、-SO-、-SO
2-、-S-、-CO-、-N(R
c)-及び-CONH-からなる群から選択される2価の連結基、又は、単結合(但し、mは2以上であり、少なくとも1つのWは前記2価の連結基である)を表し、R
cは水素原子、又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の一価の炭化水素基を表し、
mは1~4の整数を表し、
qは互いに独立に、0~4の整数を表す]
で表されるジアミン由来の構成単位(B1)を含む、前記[1]~[3]のいずれかに記載の積層フィルム。
[5]前記積層体(L)が、ポリイミド系樹脂含有層(PI-2)、ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)及びポリイミド系樹脂含有層(PI-3)をこの順に含み、前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)、ポリイミド系樹脂含有層(PI-2)及びポリイミド系樹脂含有層(PI-3)が、それぞれ、式(A1):
【化4】
[式(A1)中、R
a1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
kは、0~2の整数を表す]
で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A1)、及び/又は、式(A2):
【化5】
[式(A2)中、R
a2は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、lは、互いに独立に、0~3の整数である]
で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A2)と、ジアミン由来の構成単位(B)とを有するポリイミド系樹脂を含む、前記[1]~[4]のいずれかに記載の積層フィルム。
[6]前記積層体(L)は、ポリイミド系樹脂含有層(PI-2)、ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)及びポリイミド系樹脂含有層(PI-3)からなる積層体(L1)である、前記[5]に記載の積層フィルム。
[7]前記積層体(L1)の厚みが20~100μmであり、かつ、前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-2)及び前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-3)の厚みが、それぞれ、前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)の厚みの0.05~0.3倍である、前記[6]に記載の積層フィルム。
[8]前記構成単位(B)は、式(B1):
【化6】
[式(B1)中、R
b1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
Wは、互いに独立に、-O-、-CH
2-、-CH
2-CH
2-、-CH(CH
3)-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-、-COO-、-OOC-、-SO-、-SO
2-、-S-、-CO-、-N(R
c)-及び-CONH-からなる群から選択される2価の連結基、又は、単結合(但し、mは2以上であり、少なくとも1つのWは前記2価の連結基である)を表し、R
cは水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の一価の炭化水素基を表し、
mは1~4の整数を表し、
qは互いに独立に、0~4の整数を表す]
で表されるジアミン由来の構成単位(B1)を含む、前記[5]~[7]のいずれかに記載の積層フィルム。
[9]前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)に含まれるポリイミド系樹脂は、式(A3):
【化7】
[式(A3)中、Zは2価の有機基を表し、
R
a3は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
sは互いに独立に、0~3の整数を表す]
で表されるエステル結合含有テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A3)をさらに含む、前記[5]~[8]のいずれかに記載の積層フィルム。
[10]前記構成単位(B)は、式(B2):
【化8】
[式(B2)中、R
b2は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
pは0~4の整数を表す]
で表されるビフェニル骨格含有ジアミン由来の構成単位(B2)を含む、前記[5]~[9]のいずれかに記載の積層フィルム。
[11]10GHzにおける誘電正接は0.0040以下である、前記[1]~[10]のいずれかに記載の積層フィルム。
[12]前記[1]~[11]のいずれかに記載の積層フィルムの片面又は両面に金属箔層を含む、積層シート。
[13]前記[12]に記載の積層シートを含む、フレキシブルプリント回路基板。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高い突刺強度を有するポリイミド系積層フィルム、及び該積層フィルムを含む積層シート、並びにフレキシブルプリント回路基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の積層フィルムの層構成の一例を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の積層フィルムの層構成の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0011】
[積層フィルム]
本発明の積層フィルムは、ポリイミド系樹脂含有層を3層以上含み、該積層フィルムを構成する全てのポリイミド系樹脂含有層のうち、互いに最も離れた位置関係にある2つのポリイミド系樹脂含有層と、前記2つのポリイミド系樹脂含有層の間に位置する全ての層とからなる積層体(L)の厚みをT(μm)、前記積層体(L)の全光線透過率をTt(%)、及び、前記積層体(L)の拡散光線透過率をTd(%)としたとき、下記式(I): Tt/(T×(Td)1/2) (I)
の値が0.300未満である。
【0012】
本発明において、ポリイミド系樹脂含有層とはポリイミド系樹脂(以下、PI系樹脂ともいう)を含んで構成される層を意味し、本発明の積層フィルムはPI系樹脂含有層を3層以上含む。本発明の積層フィルムは、3層以上のPI系樹脂含有層のみから構成されていてもよく、また、PI系樹脂含有層に加えて、PI系樹脂含有層以外の他の層を含んでいてもよい。他の層としては、例えばPI系樹脂含有層同士、又は、PI系樹脂含有層を金属箔層に貼合するための粘接着剤層などが挙げられる。プリント回路基板等の用途において好適な本発明の積層フィルムは、通常、3層以上のPI系樹脂含有層のみからなるか、3層以上のPI系樹脂含有層とこれらを貼合するための粘接着剤層とからなり、好適な一実施形態において、本発明の積層フィルムは3層以上の、より好ましくは3層のPI系樹脂含有層のみからなる。
【0013】
上記式(I)において、厚み、全光線透過率及び拡散光線透過率を算出するための基準となる積層体(L)は、積層フィルムを構成する全てのポリイミド系樹脂含有層のうち、互いに最も離れた位置関係にある2つのポリイミド系樹脂含有層と、前記2つのポリイミド系樹脂含有層の間に位置する全ての層とからなる。具体的に
図1及び
図2に示す層構成に基づき説明すると、例えば、
図1に示すように積層フィルム1が3層の隣接するPI系樹脂含有層11、PI系樹脂含有層12及びPI系樹脂含有層13から構成される場合、積層体(L)は前記3層の隣接するPI系樹脂含有層11、PI系樹脂含有層12及びPI系樹脂含有層13からなる。かかる積層フィルムにおいて、積層フィルム1は積層体(L)からなる。また、例えば、
図2に示すように、積層フィルム1が互いに粘接着剤層14を介して貼合された3層のPI系樹脂含有層11、PI系樹脂含有層12及びPI系樹脂含有層13を含んで構成される場合、積層体(L)は、積層フィルム1を構成する全てのPI系樹脂含有層11、PI系樹脂含有層12及びPI系樹脂含有層13のうち、互いに最も離れた位置関係にある2つのPI系樹脂含有層11及びPI系樹脂含有層13と、前記2つのPI系樹脂含有層の間に位置するPI系樹脂含有層12及び2つの粘接着剤層14とからなる。かかる積層フィルムにおいて、積層フィルム1は積層体(L)からなる。本発明の一実施形態において、本発明の積層フィルムは積層体(L)からなる。なお、
図1および
図2に示す積層フィルム1は、それぞれ、金属箔層21上に積層されて積層シート2を構成し得る。
【0014】
積層体(L)の厚みをT(μm)、前記積層体(L)の全光線透過率をTt(%)、及び、前記積層体(L)の拡散光線透過率をTd(%)としたとき、式(I):Tt/(T×(Td)1/2)の値が0.300未満である本発明の積層フィルムは、高い突刺強度を有する。また、式(I)の値が0.300未満である場合、誘電特性にも優れ、誘電正接(以下、Dfと記載することがある)や比誘電率(以下、Dkと記載することがある)が低い積層フィルムを得ることができる。これにより、本発明の積層フィルムは、高周波信号を伝送する高周波帯域であっても伝送損失が低いことが求められる5G等の高速通信用途に適するポリイミド系積層フィルムとなり得る。これらの効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推測できる。例えば、式(I)において積層体(L)の厚み(T)が同じである場合、積層体(L)の全光線透過率(Tt)が低くなるほど、また、拡散光線透過率(Td)が高くなるほど、式(I)の値は小さくなる傾向がある。積層体(L)には積層フィルムを構成する全てのPI系樹脂含有層が含まれており、該積層体(L)の全光線透過率や拡散光線透過率は、各PI系樹脂含有層におけるPI系樹脂の結晶化度や配向性、樹脂の分岐の有無や分岐量の影響を受けると考えられる。また、積層体(L)においてPI系樹脂含有層同士が密着している場合等の積層体(L)においては、その界面において隣接する両PI系樹脂層を構成するPI系樹脂間の相互作用の影響も受けると考えられる。積層体(L)の全光線透過率が低く、かつ、拡散光線透過率が高い場合には、例えば積層体(L)を構成するPI系樹脂含有層に含まれるPI系樹脂の分子間の相互作用が強まり、樹脂分子間距離が近くなることでPI系樹脂の結晶化度や分子配向性が適度に高まった高次構造を形成しやすくなる。各PI系樹脂含有層が結晶化度や分子配向性が適度に高まった高次構造を有するPI系樹脂で形成されると、PI系樹脂含有層の厚み方向にかかる衝撃に対する強度が向上してこれを含む積層フィルムの突刺強度が向上すると考えられる。また、PI系樹脂は、結晶化度や配向性が高まった高次構造を有することにより、PI系樹脂中の極性基が回転運動すること等による電気エネルギーの消失を低減できるゆえ、Dfが低くなり、誘電特性が向上すると考えられる。さらに、PI系樹脂が分岐構造を有することでも積層体(L)の全光線透過率が低く、かつ、拡散光線透過率が高い傾向になる。PI系樹脂が最適な分岐構造を有すると、樹脂分子間の相互作用が強まるため、突刺強度を高くすることができる上、樹脂の配向を阻害せず、Dfを低減できる。また、PI系樹脂含有層間において、各樹脂層のPI系樹脂が絡み合い、相互作用が強まることで、全光線透過率は低く、かつ、拡散光線透過率は高くなりやすく、これによっても突刺強度を高くすることができ、さらにDfを低減することができる。また、積層体(L)の厚みを制御することは積層フィルムの機械物性の制御につながり、突刺強度の向上に寄与する。本発明の積層フィルムは、複数のPI系樹脂含有層を含んで構成されるため、該PI系樹脂含有層を全て含む積層体(L)の厚み(T)と全光線透過率(Tt)と拡散光線透過率(Td)とを特定の関係に保つ、すなわち式(I)の値を0.300未満に制御することが、積層フィルムの突刺強度の向上やDfの低減につながるものと考えられる。
【0015】
積層フィルムのDf低減の観点から、式(I)の値は、好ましくは0.280以下、より好ましくは0.250以下、さらに好ましくは0.230以下、特に好ましくは0.200以下である。また、式(I)の値は、通常0.005以上であり、好ましくは0.010以上、より好ましくは0.050以上、さらに好ましくは0.080以上、特に好ましくは0.090以上であり、例えば0.100以上であってもよい。式(I)の値が前記下限以上である積層フィルムにおいては、積層フィルムの突刺強度を高めることができる。また、積層フィルムのDfを低減することができ、優れた誘電特性と高い突刺強度とのバランスに優れる積層フィルムとなる。より一層高い突刺強度を得る観点からは、式(I)の値は、好ましくは0.105以上、より好ましくは0.120以上、さらに好ましくは0.150以上、さらにより好ましくは0.160以上、特に好ましくは0.170以上である。積層フィルムが高い突刺強度を有すると、フィルムの厚み方向に対する耐衝撃性が高まる。これにより、積層フィルムの加工時の取扱性が良好になり、プリント回路基板として利用する際などの作業時に不良が生じ難くなる点等において有利である。
【0016】
式(I)の値は、積層体(L)の厚み、全光線透過率及び拡散光線透過率をそれぞれ調整することで所望の範囲に制御することができる。例えば、積層体(L)の全光線透過率を低くする、拡散光線透過率を高くする、及び/又は、厚みを大きくすることによって式(I)の値を小さくできる。逆に、積層体(L)の全光線透過率を高くする、拡散光線透過率を低くする、及び/又は、厚みを小さくすることによって式(I)の値を大きくすることができる。本発明においては、積層体(L)の厚み、全光線透過率及び拡散光線透過率を総合的に制御することによって、積層フィルムにおいて必要とされる突刺強度を確保できる。また、積層フィルムのDfの十分な低減も可能になるため、突刺強度に優れる、5G等の高速通信用途に適した積層フィルムを得ることができる。
【0017】
積層体(L)の全光線透過率(Tt)は、好ましくは70%以下、より好ましくは60%以下、さらに好ましくは50%以下、特に好ましくは40%以下であり、例えば40%未満又は35%以下であってもよい。積層体(L)の全光線透過率が前記上限以下であると、積層フィルムを構成するPI系樹脂含有層におけるPI系樹脂の結晶化度や分子配向性が高まったり、樹脂の分岐が生じやすく、また、樹脂層間の樹脂分子の相互作用が高まる傾向にあり、積層フィルムの突刺強度を効果的に高めることができる。また、全光線透過率が前記上限以下である場合、誘電特性が向上する傾向にあるため、誘電特性と突刺強度とのバランスに優れる積層フィルムを得ることができる。積層体(L)の全光線透過率の下限は、特に限定されるものではないが、突刺強度を高める観点から、好ましくは10%より高く、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%以上、さらにより好ましくは25%以上、特に好ましくは26%以上、特により好ましくは29%以上である。
全光線透過率は、JIS K 7361に準拠して、ヘーズメーターを用いて測定でき、具体的には、例えば後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0018】
積層体(L)の拡散光線透過率(Td)は、好ましくは5%以上、より好ましくは8%以上、さらに好ましくは9%以上、特に好ましくは10%以上である。また、積層体(L)の拡散光線透過率は、好ましくは50%以下であり、より好ましくは40%以下、さらに好ましくは35%以下、特に好ましくは30%以下であり、場合によっては20%以下、さらには15%以下であってもよい。積層体(L)の拡散光線透過率が前記下限上限の範囲内にあると、積層フィルムを構成するPI系樹脂含有層におけるPI系樹脂の結晶化度や分子配向性が高まったり、樹脂の分岐が生じやすく、また、樹脂層間の樹脂分子の相互作用が高まる傾向にあり、積層フィルムの突刺強度を効果的に高めることができる。また、拡散光線透過率が前記上限下限の範囲内であると、誘電特性が向上する傾向にあるため、誘電特性と突刺強度とのバランスに優れる積層フィルムを得ることができる。
拡散光線透過率は、JIS K 7136に準拠して、ヘーズメーターを用いて測定でき、具体的には、例えば後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0019】
本発明において積層体(L)の厚み(T)は、積層体(L)の全光線透過率や拡散光線透過率との関係、積層フィルムの構成や用途等に応じて適宜決定し得る。本発明の一実施形態において、積層体(L)の厚みは、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上であり、例えば35μm以上又は40μm以上であってもよく、また、好ましくは100μm以下、より好ましくは90μm以下であり、例えば85μm以下又は80μm以下であってもよい。積層体(L)の厚みが前記下限以上であると、積層フィルムにおいて必要とされる突刺強度を確保しやすい。また、積層体(L)の厚みが前記上限下限の範囲内であるとDfを低減するとともに、突刺強度、耐屈曲性や柔軟性を向上させ得るため、フレキシブルプリント回路基板に適する機械物性と5G等の高速通信用途に適する誘電特性とをバランスよく備えた積層フィルムを得ることができる。
積層体(L)の厚みは、例えば、測定対象とする積層体部分の断面をレーザー顕微鏡や膜厚計等を用いて測定することにより求めることができ、具体的には、例えば後述する実施例に記載の方法により測定できる。以下、積層フィルム及び積層シート等を構成する各層の厚みの測定において同じである。
【0020】
式(I)の値は、それぞれ、各PI系樹脂含有層に含まれるPI系樹脂を構成する構成単位の種類及びそれらの構成、PI系樹脂の分子量、積層体(L)における各PI系樹脂含有層の構成及びその組み合わせ、及び/又は、成膜における塗工条件、イミド化条件等の製造方法などを適宜調整することによって制御し得る。例えば、後述する突刺強度の向上やDfの低減等に有利な好ましい態様、例えば、後述の好ましいPI系樹脂の構成単位及びその含有量、後述の好ましいPI系樹脂前駆体溶液に含まれる溶媒、後述の好ましいイミド化条件等に基づいて、積層体(L)の厚み、全光線透過率及び拡散光線透過率を適宜調整することができる。特に、イミド化における塗膜の乾燥条件を後述のイミド化における条件通りに行うことで、式(I)の値を上記所望の範囲に制御できる。また、イミド化条件に加えて、PI系樹脂が強直すぎず、ある程度自由度がある柔軟な構造を含んでいると、イミド化する際の加熱時に樹脂の配向や分岐を生じさせやすく、式(I)値が上記の範囲になりやすい傾向がある。
【0021】
本発明の一実施形態において、突刺強度や誘電特性向上の観点から、全光線透過率と拡散光線透過率とが、それぞれ、先に記載の上限下限の範囲内にあることが好ましく、また、全光線透過率及び/又は拡散光線透過率と厚みとが、それぞれ、先に記載の上限下限の範囲内にあることが好ましい。また、本発明の一実施形態において、積層体(L)でTd/Tt×100によって算出される散乱光割合(%)は30%より高いことが好ましく、より好ましくは31%以上、さらに好ましくは32%以上である。前記散乱光割合は、例えば90%以上でもあり得るが、高い突刺強度を実現する観点、さらにはDfを十分に低減しながら、高い突刺強度や低い線膨張係数(以下、CTEと記載することがある)を実現し、誘電特性、突刺強度や熱物性とのバランスに優れうる積層フィルムを得る観点から、場合によっては、例えば30%を超え85%以下であることが好ましく、より好ましくは30%を超え80%以下、さらに好ましくは31%以上75%以下、さらにより好ましくは32%以上70%以下、特に好ましくは32%以上62%以下である。
【0022】
以下、積層体(L)における式(I)の値を上記特定の範囲に制御し、高い突刺強度を有する積層フィルム、特に好ましくは高い突刺強度を有しながら、5G等の高速通信用途に適する誘電特性を有する積層フィルムを得るために好適な構成について説明する。
なお、本明細書において、誘電特性とは、Df、Dk等の誘電に関する特性を意味し、誘電特性が高まる又は向上するとは、Df及び/又はDkが低減することをいう。さらに、熱物性には、CTE、ガラス転移温度(以下、Tgと記載することがある)、熱による変性や劣化の程度等が含まれ得、熱物性が高まる又は向上するとは、例えば、CTEが低くなること、Tgが高くなること、及び/又は、熱による変性や劣化が少ないこと等を意味する。
【0023】
本発明の一実施形態において、積層フィルムを構成する積層体(L)は、ポリイミド系樹脂含有層(PI-2)、ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)及びポリイミド系樹脂含有層(PI-3)をこの順に含む(以下、ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)、ポリイミド系樹脂含有層(PI-2)及びポリイミド系樹脂含有層(PI-3)を、それぞれ、単に層(PI-1)、層(PI-2)及び層(PI-3)と省略することがある)。例えば、かかる態様を
図1及び
図2において説明すると、PI系樹脂含有層11が層(PI-2)に、PI系樹脂含有層12が層(PI-1)に、PI系樹脂含有層13が層(PI-3)に相当する。本発明において、積層体(L)は、層(PI-1)、層(PI-2)及び層(PI-3)以外の層(以下、他の層と記載することがある)を含んでいてもよいが、積層体(L)における式(I)の値を所望の範囲に制御しやすく、より一層高い突刺強度や誘電特性を実現し得るため、この順に互いに隣接してなる層(PI-2)、層(PI-1)及び層(PI-3)からなることが好ましく、本発明の積層フィルムは該層(PI-2)、層(PI-1)及び層(PI-3)からなる積層体(L)のみからなることが好ましい。なお、層(PI-1)、層(PI-2)及び層(PI-3)以外の層としては、例えば、層(PI-2)と層(PI-1)との間及び/又は層(PI-1)と層(PI-3)との間に位置する、PI系樹脂以外のアクリル系樹脂などの高分子材料等から形成される粘接着剤層などが挙げられる。層(PI-1)、層(PI-2)及び層(PI-3)以外の層が含まれる場合、他の層は、積層体(L)が該他の層を除いた層(PI-2)、層(PI-1)及び層(PI-3)からなると仮定した場合の全光線透過率、拡散光線透過率及び厚みに影響を及ぼさない構成であることが好ましく、具体的には、膜厚が1μm以下であるか、透明であることが好ましい。以下、層(PI-2)、層(PI-1)及び層(PI-3)をこの順に含み、これらの層が互いに隣接してなる積層体(L)を積層体(L1)と記載する場合がある。積層体(L1)は積層体(L)の好適な一実施形態であり、他に明確に記載しない限り、積層体(L)として記載する事項は積層体(L1)にも当てはまる。
【0024】
積層体(L)が積層体(L1)である場合、その厚みは積層フィルムの構成や用途等に応じて適宜決定し得るが、本発明の一実施形態においては、20~100μmであることが好ましい。積層体(L1)の厚みが上記範囲内である場合、積層フィルムは、高い突刺強度やフレキシブルプリント回路基板等に適する柔軟性などの機械物性を備えることができる。また、積層フィルムのDfを低減するとともに、突刺強度を向上させ得るため、フレキシブルプリント回路基板に適する機械物性と5G等の高速通信用途に適する誘電特性とをバランスよく備えた積層フィルムを得ることができる。積層体(L1)の厚みは、より好ましくは25μm以上、さらに好ましくは30μm以上、さらにより好ましくは35μm以上、特に好ましくは40μm以上であり、より好ましくは90μm以下、さらにま好ましくは85μm以下、特に好ましくは80μm以下である。
【0025】
本発明の一実施形態において、層(PI-2)及び層(PI-3)の厚みは、それぞれ、層(PI-1)の厚みの0.05~0.3倍であることが好ましい。積層体(L1)における前記3つの層の厚みが前記関係にある場合、積層フィルムは、高い突刺強度やフレキシブルプリント回路基板に適する柔軟性などの機械物性を備えることができる。また、積層フィルムのDfを低減するとともに、突刺強度を向上させ得るため、フレキシブルプリント回路基板に適する機械物性と5G等の高速通信用途に適する誘電特性とをバランスよく備えた積層フィルムを得ることができる。特に、積層体(L1)の厚みが20~100μmであり、かつ、層(PI-2)及び層(PI-3)の厚みが、それぞれ、層(PI-1)の厚みの0.05~0.3倍である場合に前記本発明の効果はより得られやすくなる。層(PI-2)及び層(PI-3)の厚みは、それぞれ層(PI-1)の厚みに対し、より好ましくは0.08倍以上、さらに好ましくは0.10倍以上、特に好ましくは0.12倍以上であり、より好ましくは0.25倍以下、さらに好ましくは0.23倍以下、特に好ましくは0.20倍以下である。
【0026】
本発明の一実施形態において、積層体(L)に含まれる各PI系樹脂含有層の厚みは、それぞれ、通常、0.5~100μmの範囲であり、各PI系樹脂含有層の機能や用途等に応じて適宜決定すればよい。例えば、本発明の一実施形態において、層(PI-1)の厚みは、通常5μm以上であり、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上であり、また、好ましくは60μm以下、より好ましくは55μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。また、層(PI-2)及び層(PI-3)の厚みは、それぞれ、通常0.5μm以上であり、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、さらに好ましくは3μm以上、さらにより好ましくは4μm以上であり、また、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下、さらに好ましくは10μm以下、さらにより好ましくは8.5μm以下である。層(PI-2)の厚みと層(PI-3)の厚みとは、互いに同じであっても、異なっていてもよいが、積層フィルムの反りを抑制する観点からは、好ましくは一方の値が他方の値の±25%の範囲内、より好ましくは±20%の範囲内である。
【0027】
積層体(L)又は積層体(L1)において、少なくとも3層含まれるPI系樹脂含有層のうちの少なくとも1層は非熱可塑性の変性ポリイミド系樹脂含有層(以下、mPI層と記載することがある)であることが好ましい。mPI層は、一般に、フレキシブルプリント回路基板用途の積層フィルムにおいて主となるPI系樹脂含有層となる。また、少なくとも3層含まれるPI系樹脂含有層のうちの少なくとも1層、好ましくは少なくとも2層はPI系樹脂含有層が熱可塑性ポリイミド系樹脂含有層(以下、TPI層と記載することがある)であることが好ましい。TPI層は、積層フィルムを金属箔(銅箔)と接着する接着層としても機能し得る層であり、積層フィルムにおいて金属箔と接し得る最外層に位置することが好ましく、3層以上含まれるPI系樹脂含有層の配置としてはTPI層、mPI層、TPI層をこの順に備えることが好ましい。したがって、積層体(L1)において、層(PI-1)はmPI層であることが好ましく、層(PI-2)及び層(PI-3)はそれぞれTPI層であることが好ましい。積層体(L)又は積層体(L1)がこのような層構成であると、mPI層において向上した熱物性を確保して、熱変性や劣化を抑制し、積層フィルムの寸法安定性を確保し得るとともに、TPI層によって金属箔(銅箔)との接着性を高めることができる。その上で、mPI層やTPI層におけるPI系樹脂の分子構造を選択し、積層フィルムの製造におけるイミド化条件等を制御して、積層体(L)における式(I)の値を小さくする(すなわち、0.300未満の範囲とする)ことにより、誘電特性や突刺強度に優れた積層フィルムを得ることができる。
積層体(L)に複数層のTPI層又はmPI層が含まれる場合、複数層含まれるTPI層又はmPI層の構成はそれぞれ同じであっても、異なっていてもよい。また、積層体(L1)において、通常、層(PI-1)と、層(PI-2)及び層(PI-3)の構成は異なるが、層(PI-2)と層(PI-3)との構成は同じであっても、異なっていてもよい。
【0028】
<PI系樹脂>
本発明の積層フィルムにおいて各PI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂は、積層体(L)における式(I)の値が上記特定の範囲になるようPI系樹脂含有層を構成し得るものであれば、当該分野で公知のPI系樹脂を用いることができる。本発明の積層フィルムにおいて、PI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂は、イミド基を含む繰返し構造単位を含有する樹脂であり、イミド基及びアミド基の両方を含む繰り返し構造単位を含んでいてもよい。
なお、本発明において「非熱可塑性」のポリイミドとは、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定した40℃における貯蔵弾性率が1.0×109Pa以上であり、かつ、300℃における貯蔵弾性率が1.0×108Pa以上であるポリイミドを意味し、「熱可塑性」のポリイミドとは、40℃における貯蔵弾性率が1.0×109Pa以上であり、かつ、300℃における貯蔵弾性率が1.0×108Pa未満であるポリイミドを意味する。
【0029】
本発明において各PI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂は、積層フィルムの突刺強度や誘電特性を高める観点から、テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A)とジアミン由来の構成単位(B)とを含むことが好ましい。なお、本発明において「由来の構成単位」とは、「由来する構成単位」を意味し、例えば「テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A)」は「テトラカルボン酸無水物に由来する構成単位(A)」を意味する。また、「PI系樹脂含有層が構成単位(A)を含む」とは、該「PI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂が構成単位(A)を含む」ことを意味し、他の構成単位においても同様である。
【0030】
(テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A))
テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A)(以下、単に、構成単位(A)と略すことがある)は、例えば、式(1):
【化9】
[式(1)中、Yは4価の有機基を表す]
で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位であることが好ましい。
【0031】
式(1)において、Yは、互いに独立に4価の有機基を表し、好ましくは炭素数4~40の4価の有機基を表し、より好ましくは環状構造を有する炭素数4~40の4価の有機基を表す。環状構造としては、脂環、芳香環、ヘテロ環構造が挙げられる。前記有機基は、有機基中の水素原子がハロゲン原子、炭化水素基、アルコキシ基又はハロゲン化炭化水素基で置換されていてもよく、その場合、これらの基の炭素数は好ましくは1~8である。本発明においてPI系樹脂は、複数種のYを含み得、複数種のYは、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。Yとしては、式(31)~式(40)で表される基又は構造;式(31)~式(40)で表される基中の水素原子がメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基で置換された基;4価の炭素数1~8の鎖式炭化水素基などが挙げられる。
【0032】
【化10】
[式(31)~式(33)中、R
19~R
26及びR
23’~R
26’は、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表し、R
19~R
26及びR
23’~R
26’に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、
V
1及びV
2は、互いに独立に、単結合(ただし、e+d=1のときを除く)、-O-、-CH
2-、-CH
2-CH
2-、-CH(CH
3)-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-、-SO
2-、-S-、-CO-、-N(R
j)-、又は式(a):
【化11】
(式(a)中、R
27~R
30は、互いに独立に、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、
Dは互いに独立に、単結合、-C(CH
3)
2-又は-C(CF
3)
2を表し、
iは1~3の整数を表し、
*は結合手を表す)
を表し、
R
jは、水素原子、又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の一価の炭化水素基を表し、
e及びdは、互いに独立に、0~2の整数を表し(ただし、e+dは0ではない)、
fは0~3の整数を表し、
g及びhは、互いに独立に、0~4の整数を表し、
式(39)中、Zは2価の有機基を表し、
R
a3は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
sは互いに独立に、0~3の整数を表し、
式(40)中、R
a2は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
lは、互いに独立に、0~3の整数を表し、
*は結合手を表す]。
【0033】
本発明において各PI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂は、それぞれ、積層フィルムの突刺強度、誘電特性や熱物性等を高める観点から、式(1)中のYとして、式(31)、式(32)、式(33)、式(39)及び式(40)で表される構造からなる群から選択される少なくとも1つの構造を含むことが好ましく、ベンゼン骨格を含有する構造からなる群から選択される少なくとも1つの構造を含むことがより好ましく、式(32)、式(39)及び式(40)で表される構造からなる群より選択される少なくとも1つの構造を含むことがさらに好ましい。
【0034】
式(31)~式(33)において、R19~R26及びR23’~R26’は、互いに独立に、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基が好ましく、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基がより好ましく、水素原子がさらに好ましい。
【0035】
式(31)において、V1及びV2は、互いに独立に、好ましくは単結合(ただし、e+d=1のときを除く)、-O-、-CH2-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-又は-CO-を表し、より好ましくは単結合(ただし、e+d=1のときを除く)、-O-、-C(CH3)2-又は-C(CF3)2-を表す。
【0036】
式(31)において、e及びdは、互いに独立に、好ましくは0又は1(ただし、e+dは0ではない)を表す。また、e+dは好ましくは1を表す。なお、式(31)において、eが0のときは、2つのベンゼン環はV1で結合していないことを示し、dが0のときは、2つのベンゼン環はV2で結合していないことを示す。
【0037】
式(32)及び式(33)において、fは、好ましくは0又は1、より好ましくは0を表す。
【0038】
式(33)において、g及びhは、互いに独立に、好ましくは0~2の整数、より好ましくは0又は1を表す。また、g+hは好ましくは0~2の整数を表す。なお、fが1以上の場合、複数のg及びhは、互いに独立に、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0039】
式(a)において、R27~R30は、互いに独立に、好ましくは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表し、より好ましくは水素原子を表す。iは、好ましくは1又は2であり、iが2以上の場合、複数のD及びR27~R30は、互いに独立に、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0040】
式(39)において、Zは、好ましくは炭素数4~40の2価の有機基を表し、より好ましくは環状構造を有する炭素数4~40の2価の有機基を表し、さらに好ましくは芳香環を有する炭素数4~40の2価の有機基を表し、特に好ましくは式(z1)、式(z2)及び式(z3):
【化12】
[式(z1)~式(z3)中、R
z11~R
z14は、互いに独立に、水素原子、又はハロゲン原子を有してもよい1価の炭化水素基を表し、R
z2は、互いに独立に、ハロゲン原子を有してもよい1価の炭化水素基を表し、nは1~4の整数を表し、jは、互いに独立に、0~3の整数を表し、*は結合手を表す]
からなる群より選択される2価の有機基を表し、特により好ましくは式(z1)で表される2価の有機基を表す。
【0041】
式(z1)において、Rz11~Rz14は、互いに独立に、好ましくは水素原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、より好ましくは水素原子、又はハロゲン原子を有してもよい炭素数1~6のアルキル基、さらに好ましくは水素原子、又はハロゲン原子を有してもよい炭素数1~3のアルキル基、とりわけ好ましくは水素原子を表す。式(z1)におけるRz11~Rz14を有するベンゼン環において、Rz11~Rz14の少なくとも1つがハロゲン原子を有してもよい1価の炭化水素基であってもよいが、Rz11~Rz14が全て水素原子であることが特に好ましい。
【0042】
式(z1)において、nは、好ましくは1~3の整数、より好ましくは1又は2、とりわけ好ましくは2を表す。
【0043】
式(z2)において、Rz2は、互いに独立に、好ましくはハロゲン原子を有してもよいアルキル基、より好ましくはハロゲン原子を有してもよい炭素数1~6のアルキル基、さらに好ましくはハロゲン原子を有してもよい炭素数1~3のアルキル基を表す。
【0044】
式(z2)において、jは、好ましくは互いに独立に0又は1、より好ましくは0であり、さらに好ましくは、jは全て0である。
【0045】
式(39)において、Ra3は、好ましくは互いに独立に、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表す。
Ra3に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、これらの中でも、Ra3は、互いに独立に、好ましくは炭素数1~6のアルキル基、より好ましくは炭素数1~3のアルキル基を表す。
【0046】
式(39)において、sは、好ましくは互いに独立に0~2の整数、より好ましくは0又は1を表す。
【0047】
式(40)において、Ra2は、好ましくは互いに独立に、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表す。
Ra2に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、これらの中でも、Ra2としては、互いに独立に、好ましくは炭素数1~6のアルキル基、より好ましくは炭素数1~3のアルキル基が挙げられる。
【0048】
式(40)において、lは、好ましくは互いに独立に0~2の整数、より好ましくは0又は1を表す。
【0049】
式(31)~式(33)、式(39)及び式(40)で表される構造の具体例としては、式(41)~式(56)で表される構造が挙げられる。なお、これらの式中、*は結合手を表す。
【0050】
【0051】
本発明の一実施形態において、PI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂が式(1)中のYとして、式(31)~式(33)、式(39)及び式(40)で表される構造からなる群より選択される少なくとも1つを含む場合、式(1)中のYが式(31)~式(33)、式(39)及び式(40)で表される構造からなる群から選択される少なくとも1つで表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位の割合、特に式(1)中のYが式(32)、式(39)及び式(40)で表される構造からなる群から選択される少なくとも1つで表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位の割合は、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、特に好ましくは90モル%以上であり、好ましくは100モル%以下である。前記割合が上記範囲であると、積層フィルムの突刺強度や誘電特性等の向上において有利である。
前記構成単位の割合は、例えば1H-NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。以下、PI系樹脂の構成単位の割合の算出において同じである。また、本明細書において、構成単位の「総量」とは、該構成単位が1つの単位からなる場合はその単位の量を表し、該構成単位が2以上の単位からなる場合はそれらの単位の合計量を表す。
【0052】
<構成単位(A1)及び構成単位(A2)>
本発明の一実施形態において、少なくとも1層のPI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂が構成単位(A)を含み、該構成単位(A)が式(A1):
【化14】
[式(A1)中、R
a1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
kは、0~2の整数を表す]
で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A1)(以下、単に構成単位(A1)と略すことがある)、及び/又は、式(A2):
【化15】
[式(A2)中、R
a2は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、lは、互いに独立に、0~3の整数である]
で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A2)(以下、単に構成単位(A2)と略すことがある)を含むことが好ましい。
【0053】
PI系樹脂が構成単位(A)として、構成単位(A1)及び/又は構成単位(A2)を含むと、該PI系樹脂を含むPI系樹脂含有層や積層体(L)における全光線透過率や拡散光線透過率を所望の範囲に制御しやすくなり、積層フィルムの突刺強度や誘電特性を高めることができる。また、積層フィルムのCTEが低減する傾向にあり、積層フィルムの寸法安定性の向上が期待できる。
【0054】
突刺強度、誘電特性やCTE等の向上の観点から、式(A1)及び式(A2)において、Ra1及びRa2は、好ましくは互いに独立に、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基である。
炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、2-メチル-ブチル基、3-メチルブチル基、2-エチル-プロピル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。
炭素数1~6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基及びシクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
炭素数6~12のアリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基及びビフェニル基等が挙げられる。
Ra1及びRa2に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。これらの中でも、Ra1及びRa2は、互いに独立に、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。
【0055】
式(A1)におけるベンゼン環に結合する2つのカルボン酸無水物の結合位置は特に制限されないが、突刺強度、誘電特性やCTE等の向上の観点から、1,2-位と4,5-位、又は、1,2-位と3,4位であることが好ましく、1,2-位と4,5-位であることがより好ましい。kは、好ましくは0又は1であり、より好ましくは0である。
【0056】
式(A2)におけるビフェニル骨格を構成するベンゼン環に結合する2つのカルボン酸無水物の結合位置は特に制限されず、2つのベンゼン環を結合する単結合を基準に、互いに独立に、3,4-、又は、2,3-であってもよく、突刺強度、誘電特性やCTE等の向上の観点から、3,4-であることが好ましい。
式(A2)におけるlは互いに独立に、好ましくは0~2の整数、より好ましくは0又は1、さらに好ましくは0である。
【0057】
本発明の好適な一実施形態において、式(A1)は、式(A1-1):
【化16】
で表される構成単位(A1-1)である。また、本発明の別の好適な一実施形態において、式(A2)は、式式(A2-1):
【化17】
で表される構成単位(A2-1)である。PI系樹脂が構成単位(A)として、構成単位(A1-1)及び/又は構成単位(A2-1)を含むと、該PI系樹脂を含むPI系樹脂含有層や積層体(L)の全光線透過率や拡散光線透過率を所望の範囲に制御しやすくなり、積層フィルムの突刺強度や誘電特性の向上において有利になる。さらに、積層フィルムのCTEが低減する傾向にあり、積層フィルムの寸法安定性の向上が期待できる。
【0058】
本発明の一実施形態において、積層フィルムを構成するPI系樹脂含有層が以下のいずれかの又は複数の構成を含むことが好ましい。
・積層フィルム中の全てのPI系樹脂含有層においてPI系樹脂が、それぞれ構成単位(A1)及び構成単位(A2)の少なくとも一方を含む;
・積層フィルム中の全てのPI系樹脂含有層においてPI系樹脂が、それぞれ構成単位(A1)を含む;
・積層フィルム中の少なくとも1層のPI系樹脂含有層、好ましくはTPI層においてPI系樹脂が構成単位(A1)と構成単位(A2)とを含む;
・積層フィルム中の少なくとも1層のPI系樹脂含有層、好ましくはTPI層においてPI系樹脂が構成単位(A1)と構成単位(A2)とを含み、かつ、別の少なくとも1層のPI系樹脂含有層、好ましくはmPI層においてPI系樹脂が構成単位(A1)及び/又は構成単位(A2)を含む
・積層フィルム中の少なくとも1層のPI系樹脂含有層、好ましくはTPI層においてPI系樹脂が構成単位(A1)と構成単位(A2)とを含み、かつ、別の少なくとも1層のPI系樹脂含有層、好ましくはmPI層においてPI系樹脂が構成単位(A1)を含むが構成単位(A2)を実質的に含まない。
なお、本明細書において「実質的に含まない」とは、PI系樹脂を構成する全構成単位の総量に対して0.5モル%以下であることを意味する。以下、他に明確に記載しない限り、他の構成単位に関しても同様である。
【0059】
本発明の一実施形態において、PI系樹脂が構成単位(A1)及び/又は構成単位(A2)を含む場合、その含有量はそれぞれ、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは10モル%以上、より好ましくは15モル%以上、さらに好ましくは20モル%以上、特に好ましくは25%以上、とりわけ好ましくは30モル%以上であり、また、好ましくは90モル%以下、より好ましくは85モル%以下、さらに好ましくは80モル%以下、特に好ましくは75モル%以下、とりわけ好ましくは70モル%以下である。構成単位(A1)及び構成単位(A2)の含有量がそれぞれ上記範囲であると、該PI系樹脂を含むPI系樹脂含有層や積層体(L)の全光線透過率や拡散光線透過率を所望の範囲に制御しやすくなり、積層フィルムの突刺強度や誘電特性の向上において有利になる。さらに、積層フィルムのCTEが低減する傾向にあり、積層フィルムの寸法安定性の向上が期待できる。
【0060】
また、本発明の一実施形態において、PI系樹脂が構成単位(A1)と構成単位(A2)とを含む場合、その含有量比(モル比、(A1):(A2))は、好ましくは10:90~90:10、より好ましくは20:80~80:20、さらに好ましくは25:75~50:50である。構成単位(A1)と構成単位(A2)との含有量比が上記範囲であると、PI系樹脂が構成単位(A1)及び/又は構成単位(A2)を有することにより期待される本発明の上記効果が得られやすくなり、また、該効果をより一層高めることができる。
【0061】
<構成単位(A3)>
本発明の一実施形態において、本発明の積層フィルムを構成する少なくとも1層のPI系樹脂含有層に含まれるPI系樹脂は、構成単位(A)として、式(A3):
【化18】
[式(A3)中、Zは2価の有機基を表し、
R
a3は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
sは互いに独立に、0~3の整数を表す]
で表されるエステル結合含有テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A3)(以下、単に、構成単位(A3)と略すことがある)を含んでいてもよい。
【0062】
PI系樹脂が、構成単位(A)として構成単位(A3)を含むと、該PI系樹脂を含むPI系樹脂含有層や積層体(L)の全光線透過率や拡散光線透過率を所望の範囲に制御しやすくなり、積層フィルムの突刺強度や誘電特性の向上において有利になり得る。また、積層フィルムのCTEが低減する傾向にあり、積層フィルムの寸法安定性の向上が期待できる。さらに、比較的低温(例えば360℃以下)のイミド化温度においても突刺強度や誘電特性を高めることができるため、金属箔(例えば銅箔)との積層構成でPI系樹脂前駆体塗膜を熱イミド化することにより積層シートを製造しても金属箔表面の劣化を抑制して、高い突刺強度を有しながら高周波特性にも優れる積層シートを得ることができる。
【0063】
式(A3)におけるRa3としては、先に記載の式(39)におけるRa3として例示したのと同様の基が挙げられ、好適な態様も同じである。
式(A3)におけるsは、互いに独立に、好ましくは0又は1、より好ましくは0を表す。
【0064】
式(A3)におけるZとしては、先に記載の式(39)におけるZとして例示したのと同様の2価の有機基が挙げられ、好適な態様も同じである。
【0065】
本発明の好適な一実施形態において、式(A3)は、式(A3-1)で表される構成単位(A3-1)又は式(A3-2)で表される構成単位(A3-2)であることが好ましい。
【化19】
【0066】
積層フィルムを構成する少なくとも1層のPI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂が、構成単位(A)として、構成単位(A3-1)及び/又は構成単位(A3-2)を含むと、該PI系樹脂を含むPI系樹脂含有層や積層体(L)の全光線透過率や拡散光線透過率を所望の範囲に制御しやすくなり、積層フィルムの突刺強度や誘電特性の向上において有利になり得る。また、積層フィルムのCTEが低減する傾向にあり、積層フィルムの寸法安定性の向上が期待できる。さらに、比較的低温(例えば360℃以下)のイミド化温度においても突刺強度や誘電特性を高めることができるため、金属箔(例えば銅箔)との積層構成でPI系樹脂前駆体塗膜を熱イミド化することにより積層シートを製造しても金属箔表面の劣化を抑制して、高い突刺強度を有しながら高周波特性にも優れる積層シートを得ることができる。
【0067】
本発明の一実施形態において、少なくとも1層のPI系樹脂含有層、好ましくはmPI層を構成するPI系樹脂が、構成単位(A)として構成単位(A3)、特に構成単位(A3-1)及び/又は構成単位(A3-2)を含むと、PI系樹脂が強直すぎず、ある程度自由度がある柔軟な構造となり得るため、イミド化時に加熱により分岐構造を形成しやすく、積層フィルムの突刺強度をより向上できる。また、積層フィルムのDfがより一層低減しやすくなるとともに、CTEを低減し、積層フィルムの寸法安定性が高まる傾向にある。
【0068】
本発明の一実施形態において、PI系樹脂が構成単位(A3)を含む場合、その含有量は、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは3モル%以上、より好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは7モル%以上、さらにより好ましくは10モル%以上、特に好ましくは20モル%以上、特により好ましくは30モル%以上、特にさらに好ましくは40モル%以上であり、また、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下、さらに好ましくは65モル%以下、特に好ましくは60モル%以下である。構成単位(A3)の含有量が上記範囲であると、PI系樹脂が構成単位(A3)を有することにより期待される本発明の上記効果が得られやすくなり、また、該効果をより一層高めることができる。
【0069】
本発明の別の実施形態では、PI系樹脂、特に少なくともPI系樹脂含有層(PI-1)に含まれるPI系樹脂が有する構成単位(A)における構成単位(A3)の含有量は、構成単位(A)の総量に対して好ましくは45モル%以下(0~45モル%)であってもよい。すなわち、かかる実施形態では、該PI系樹脂が有する構成単位(A)は構成単位(A3)を含んでいなくても含んでいてもよく、構成単位(A3)を含む場合、その量は45モル%以下であることが好ましい。さらに構成単位(A3)の含有量は、構成単位(A)の総量に対して、より好ましくは35モル%以下、さらに好ましくは25モル%以下、さらにより好ましくは15モル%以下、特に好ましくは5モル%以下、特により好ましくは1モル%以下であり、下限は0モル%であってよい。PI系樹脂中の構成単位(A3)、特に構成単位(A3-1)及び/又は構成単位(A3-2)の含有量が前記上限以下であると、特に積層フィルムのCTEが低減する傾向にあり、積層フィルムの寸法安定性の向上が期待できる。
【0070】
本発明の一実施形態において、積層フィルムを構成する少なくとも1層のPI系樹脂含有層、好ましくはTPI層においてPI系樹脂が構成単位(A1)と構成単位(A2)とを含み、かつ、別の少なくとも1層のPI系樹脂含有層、好ましくはmPI層においてPI系樹脂が構成単位(A1)、構成単位(A2)及び構成単位(A3)から選択される少なくとも2種の構成単位を含むことが好ましく、構成単位(A1)と構成単位(A2)及び/又は構成単位(A3)とを含むことがより好ましく、前記構成単位(A1)と構成単位(A3)とを含むことがさらに好ましい。PI系樹脂含有層、例えばmPI層が構成単位(A1)と構成単位(A3)とを含む場合、構成単位(A2)を実質的に含まなくてもよい。
【0071】
本発明の好適な一実施形態において、積層体(L1)中、層(PI-2)及び層(PI-3)の少なくとも一方、好ましくはその両方においてPI系樹脂が、構成単位(A1)と構成単位(A2)とを含むことが好ましい。また、積層体(L1)中、層(PI-1)においてPI系樹脂が構成単位(A1)、構成単位(A2)及び構成単位(A3)から選択される少なくとも2種の構成単位を含むことが好ましく、構成単位(A1)と構成単位(A2)及び/又は構成単位(A3)とを含むことがより好ましく、構成単位(A1)と構成単位(A3)とを含むことがさらに好ましい。層(PI-1)が構成単位(A1)と構成単位(A3)とを含む場合、構成単位(A2)を実質的に含まなくてもよい。
【0072】
<構成単位(A4)>
本発明の一実施形態において、PI系樹脂は構成単位(A)として、構成単位(A1)、構成単位(A2)及び構成単位(A3)以外のテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A4)(以下、単に構成単位(A4)と略すことがある)を含んでいてもよい。
なお、本明細書において、「構成単位(A1)、構成単位(A2)及び構成単位(A3)以外のテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A4)」とは、構成単位(A1)、構成単位(A2)及び構成単位(A3)の何れにも該当しないテトラカルボン酸無水物由来の構成単位を意味し、「構成単位(A4)の含有量」とは、構成単位(A4)が複数存在する場合、構成単位(A4)の総量を意味する。
【0073】
本発明の一実施形態において、構成単位(A4)としては、例えば、式(1)中のYが式(31)、式(33)~式(38)で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位が挙げられる。積層フィルムの突刺強度や誘電特性を向上する観点から、好ましくは式(1)中のYが式(42)、式(44)~式(49)又は式(53)で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位、より好ましくは式(1)中のYが式(42)、式(46)、式(49)、又は式(53)で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位であり、さらに好ましくは式(1)中のYが式(42)、式(46)、式(49)又は式(53)で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位である。
【0074】
本発明の一実施形態において、PI系樹脂が構成単位(A4)を含む場合、その含有量は、構成単位(A)の総量に対して、例えば0.01~55モル%、もしくは0.01~40モル%であってよく、好ましくは40モル%以下、より好ましくは35モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下、特に好ましくは25モル%以下であり、また、通常0.01モル%以上、好ましくは10モル%以上である。
【0075】
(ジアミン由来の構成単位(B))
各PI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂は、通常、ジアミン由来の構成単位(B)(以下、単に、構成単位(B)と略すことがある)を含有する。構成単位(B)は、例えば、式(2):
【化20】
[式(2)中、Xは2価の有機基を表す]
で表されるジアミン由来の構成単位であることが好ましい。
【0076】
式(2)において、Xは、2価の有機基を表し、好ましくは炭素数2~100の2価の有機基を表す。2価の有機基としては、例えば2価の芳香族基、2価の脂肪族基等が挙げられ、2価の脂肪族基としては、例えば2価の非環式脂肪族基又は2価の環式脂肪族基が挙げられる。これらの中でも、積層フィルムの突刺強度や誘電特性を高める観点から、2価の環式脂肪族基及び2価の芳香族基が好ましく、2価の芳香族基がより好ましい。2価の有機基は、有機基中の水素原子がハロゲン原子、炭化水素基、アルコキシ基又はハロゲン化炭化水素基で置換されていてもよく、その場合、これらの基の炭素数は好ましくは1~8である。なお、本明細書において、2価の芳香族基は芳香族基を有する2価の有機基であり、その構造の一部に脂肪族基又はその他の置換基を含んでいてもよい。また、2価の脂肪族基は脂肪族基を有する2価の有機基であり、その構造の一部にその他の置換基を含んでいてもよいが、芳香族基は含まない。
【0077】
本発明の一実施形態において、PI系樹脂は、複数種のXを含み得、複数種のXは、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。式(2)中のXとしては、例えば式(60)~式(65)で表される基(構造);式(60)~式(65)で表される基中の水素原子がメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基で置換された基などが挙げられる。
【0078】
【化21】
[式(60)及び式(61)中、R
a及びR
bは、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、R
a及びR
bに含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、
Wは、互いに独立に、単結合、-O-、-CH
2-、-CH
2-CH
2-、-CH(CH
3)-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-、-COO-、-OOC-、-SO-、-SO
2-、-S-、-CO-、-N(R
c)-又は-CONH-を表し、R
cは水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の一価の炭化水素基を表し、
t’は0~4の整数を表し、uは0~4の整数を表し、nは0~4の整数を表し、
式(62)中、環Aは炭素数3~8のシクロアルカン環を表し、
R
dは炭素数1~20のアルキル基を表し、
rは0以上であって、(環Aの炭素数-2)以下の整数を表し、
S1及びS2は、互いに独立に、0~20の整数を表し、
式(60)~式(65)中、*は結合手を表す]。
【0079】
式(2)中のXの他の例としては、例えば、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、プロピレン基、1,2-ブタンジイル基、1,3-ブタンジイル基、1,12-ドデカンジイル基、2-メチル-1,2-プロパンジイル基、2-メチル-1,3-プロパンジイル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基などの2価の非環式脂肪族基が挙げられる。2価の非環式脂肪族基中の水素原子は、ハロゲン原子で置換されていてもよく、炭素原子はヘテロ原子、例えば酸素原子、窒素原子等で置換されていてもよい。
【0080】
これらの中でも、積層フィルムの突刺強度や誘電特性を高める観点から、本発明におけるPI系樹脂は、式(2)中のXとして、式(60)及び式(61)で表される構造を含むことが好ましく、式(60)で表される構造を含むことがより好ましい。
【0081】
式(60)及び式(61)において、各ベンゼン環又は各シクロヘキサン環の結合手は、-W-又は各ベンゼン環又は各シクロヘキサン環を結ぶ単結合を基準に、それぞれ、オルト位、メタ位、若しくはパラ位、又は、α位、β位、若しくはγ位のいずれに結合していてもよく、積層フィルムの突刺強度や誘電特性を高める観点から、好ましくはメタ位若しくはパラ位、又は、β位若しくはγ位、より好ましくはパラ位、又はγ位に結合することができる。ベンゼン環に直結するアミノ基と2価の連結基-W-とがメタ位にあると、ポリイミド分子鎖の柔軟性が向上する傾向にある。
【0082】
式(60)及び式(61)において、Ra及びRbは、互いに独立に、好ましくはハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基若しくはアリール基、より好ましくはハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基である。炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、及び炭素数6~12のアリール基としては、先に例示したものが挙げられる。Ra及びRbに含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、該ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。Ra及びRbは、互いに独立に、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のフッ化アルキル基であることが好ましく、金属箔等との接着性の観点からは、フッ素を含有しない炭素数1~6のアルキル基であることがより好ましく、フッ素を含有しない炭素数1~3のアルキル基であることがさらに好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
【0083】
式(60)及び式(61)において、t’及びuは、互いに独立に、好ましくは0~2の整数、より好ましくは0又は1である。
【0084】
式(60)及び式(61)において、Wは、互いに独立に、好ましくは単結合、-O-、-CH2-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-SO2-、-S-、-COO-、-OOC-又は-CO-であり、より好ましくは、単結合、-O-、-CH2-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-COO-、-OOC-又は-CO-であり、さらに好ましくは単結合、-O-、-CH2-又は-C(CH3)2-であり、特に好ましくは-O-又は-C(CH3)2-である。
【0085】
式(60)及び式(61)において、nは、好ましくは0~3の整数、より好ましくは1~3である。nが2以上の場合、複数のW、Ra、及びt’は互いに同一であってもよく、異なっていてもよく、-W-を基準とした各ベンゼン環の結合手の位置も同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0086】
本発明におけるPI系樹脂が、式(2)中のXとして、式(60)及び式(61)のいずれかで表される構造を2つ以上含む場合、一方の式(60)及び式(61)におけるW、n、Ra、Rb、t’及びuは、互いに独立に、他方の式(60)及び式(61)におけるW、n、Ra、Rb、t’及びuと同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0087】
式(62)において、環Aで表される炭素数3~8のシクロアルカン環としては、例えばシクロプロパン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環が挙げられ、好ましくは炭素数4~6のシクロアルカン環が挙げられる。環Aにおいて、各結合手は、互いに隣接していてもよいし、隣接していなくてもよい。例えば、環Aがシクロヘキサン環である場合、2つの結合手はα位、β位又はγ位の位置関係にあってもよく、好ましくはβ位又はγ位の位置関係にあってもよい。
【0088】
式(62)中のRdは、好ましくは炭素数1~10のアルキル基である。式(62)中のrは、好ましくは0以上であり、好ましくは4以下である。式(62)中のS1及びS2は、互いに独立に、好ましくは0以上、より好ましくは2以上であり、好ましくは15以下である。
【0089】
式(60)~式(62)で表される構造の具体例としては、例えば式(71)~式(92)で表される構造が挙げられる。なお、これらの式中、*は結合手を表す。
【0090】
【0091】
本発明の一実施形態において、PI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂が式(2)中のXとして、式(60)及び式(61)で表されるジアミン由来の構成単位を少なくとも1つ含む場合、式(2)中のXが、式(60)及び式(61)で表されるジアミン由来の構成単位の割合は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%超、さらに好ましくは70モル%以上、特に好ましくは90モル%以上であり、好ましくは100モル%以下である。式(2)中のXが式(60)及び式(61)で表されるジアミン由来の構成単位の割合が上記の範囲であると、該PI系樹脂を含むPI系樹脂含有層や積層体(L)における全光線透過率や拡散光線透過率を所望の範囲に制御しやすくなり、積層フィルムの突刺強度や誘電特性を高めることができる。また、積層フィルムのCTEが低減する傾向にあり、積層フィルムの寸法安定性の向上が期待できる。
【0092】
<構成単位(B1)>
本発明の一実施形態において、少なくとも1層のPI系樹脂含有層がジアミン由来の構成単位(B)を含み、該構成単位(B)が式(B1):
【化23】
[式(B1)中、R
b1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
Wは、互いに独立に、-O-、-CH
2-、-CH
2-CH
2-、-CH(CH
3)-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-、-COO-、-OOC-、-SO-、-SO
2-、-S-、-CO-、-N(R
c)-及び-CONH-からなる群から選択される2価の連結基、又は、単結合(但し、mは2以上であり、少なくとも1つのWは前記2価の連結基である)を表し、R
cは水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の一価の炭化水素基を表し、
mは1~4の整数を表し、
qは互いに独立に、0~4の整数を表す]
で表されるジアミン由来の構成単位(B1)(以下、単に、構成単位(B1)と略すことがある)を含むことが好ましい。
【0093】
PI系樹脂が、構成単位(B)として構成単位(B1)を含むと、該PI系樹脂を含むPI系樹脂含有層や積層体(L)における全光線透過率や拡散光線透過率を所望の範囲に制御しやすくなり、積層フィルムの突刺強度や誘電特性を高めることができる。また、CTEを低減することができ、積層フィルムの寸法安定性の向上が期待できるとともに、金属箔との接着性の向上にも寄与し得る。さらに、比較的低温(例えば360℃以下)のイミド化温度においても得られる積層フィルムの突刺強度や誘電特性を高めることができるため、金属箔(例えば銅箔)との積層構成でPI系樹脂前駆体塗膜を熱イミド化することにより積層シートを製造しても金属箔表面の劣化を抑制して、高い突刺強度を有しながら高周波特性にも優れる積層シートを得ることができる。
【0094】
式(B1)中のRb1としては、先に記載の式(60)におけるRa及びRbとして例示したのと同様の基が挙げられる。式(B1)中のqは、互いに独立に、好ましくは0~2の整数、より好ましくは0又は1である。また、式(B1)中のmは、積層フィルムの突刺強度、誘電特性やCTE等の向上の観点から、好ましくは1~3の整数、より好ましくは2又は3である。式(b2)において、複数のW、Rb2、及びqは、互いに同一であってもよく、異なっていてもよく、各ベンゼン環の-NH2を基準とした-W-の位置も同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0095】
式(B1)において、-W-は、互いに独立に、各ベンゼン環の-NH2を基準に、それぞれ、オルト位、メタ位、若しくはパラ位、又は、α位、β位、若しくはγ位のいずれに結合していてもよく、好ましくはメタ位若しくはパラ位、又は、β位若しくはγ位、より好ましくはパラ位、又はγ位に結合することができる。mが2以上である場合、2つのWが結合するベンゼン環において、2つのWの結合位置は、互いにオルト位、メタ位、若しくはパラ位の関係、又は、α位、β位、若しくはγ位の関係であってもよく、好ましくはメタ位若しくはパラ位の関係、又は、β位若しくはγ位の関係であってもよい。
【0096】
式(B1)で表される構造の具体例としては、例えば式(B1-1)~式(B1-6)で表される構造が挙げられる。
【化24】
式(B1-1)~式(B1-6)中のR
b1及びqは、式(B1)中のR
b1及びqと同じに定義され、W
1~W
6は、互いに独立に、-O-、-CH
2-、-CH
2-CH
2-、-CH(CH
3)-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-、-COO-、-OOC-、-SO-、-SO
2-、-S-、-CO-、-N(R
c)-及び-CONH-からなる群から選択される2価の連結基を表し、R
cは水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の一価の炭化水素基を表す。なお、式(B1-4)において式(B1-3)と重複するものは式(B1-3)の化合物として扱う。
【0097】
式(B1-1)~式(B1-6)中のRb1及びqとしては、式(B1)中のRb1及びqとして例示したものと同じ態様が例示され、好適な態様も同じである。
【0098】
式(B1-1)~式(B1-6)中のW1~W6は、互いに独立に、-O-、-CH2-、-CH2-CH2-、-CH(CH3)-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-COO-、-OOC-、-SO2-、-S-、-CO-又は-CONH-であることが好ましい。式(B1-1)中のW1は、好ましくは-O-、-CH2-、-C(CH3)2-、-SO2-、-S-又は-CO-である。式(B1-2)、式(B1-4)及び式(B1-6)中のW2、W4及びW6は、それぞれ好ましくは-O-である。式(B1-3)中のW3は、好ましくは-O-、-CH2-、-C(CH3)2-、-SO2-、-CO-又は-CONH-であり、式(B1-5)中のW5は、好ましくは-C(CH3)2-、-O-、-SO2-又は-CO-である。
【0099】
本発明の一実施形態において、本発明の積層フィルム中の少なくとも1層のPI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂が、構成単位(B)として、式(B1)中のmが1又は2であるジアミン由来の構成単位、例えば前記構成単位(B1-1)及び/又は構成単位(B1-2)を含むことが好ましい。mが2であるジアミン由来の構成単位としては、例えば、前記構成単位(B1-2)を含むことが好ましい。このような構成単位を含むと、該PI系樹脂を含むPI系樹脂含有層や積層体(L)における全光線透過率や拡散光線透過率を所望の範囲に制御しやすくなり、積層フィルムの突刺強度や誘電特性を高めることができる。また、積層フィルムのCTEが低減する傾向にあり、積層フィルムの寸法安定性の向上が期待できる。さらに、これらの構成単位の含有は、積層フィルムと金属箔との接着性の向上にも寄与し得る。
【0100】
本発明の別の実施形態において、本発明の積層フィルムを構成する少なくとも1層のPI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂が、構成単位(B)として、mが3又は4であるジアミン由来の構成単位、例えば前記構成単位(B1-3)~構成単位(B1-6)を含むことが好ましく、mが3であるジアミン由来の構成単位を含むことがより好ましい。mが3であるジアミン由来の構成単位としては、例えば、前記構成単位(B1-5)を含むことが好ましい。このような構成単位を含むと、該PI系樹脂を含むPI系樹脂含有層や積層体(L)における全光線透過率や拡散光線透過率を所望の範囲に制御しやすくなり、積層フィルムの突刺強度や誘電特性を高めることができる。また、積層フィルムのCTEが低減する傾向にあり、積層フィルムの寸法安定性の向上が期待できる。さらに、これらの構成単位の含有は、積層フィルムと金属箔との接着性の向上にも寄与し得る。
【0101】
本発明の一実施形態において、構成単位(B1)は構成単位(B1-2)であることが好ましく、構成単位(B1-2)は、式(B1-2’)及び/又は式(B1-2’’)で表される構成単位であることがより好ましい。
【化25】
式(B1-2’)及び式(B1-2’’)中のR
b1、W
2、及びqは、式(B1-2)中のR
b1、W
2、及びqと同じに定義される。
【0102】
本発明の一実施形態において、式(B1-2’)又は式(B1-2’’)で表される構成単位は、それぞれ、式(B1-2’a)又は式(B1-2’’a)で表される構成単位であることが好ましい。
【化26】
構成単位(B)として、上記構成単位を含むと、該PI系樹脂を含むPI系樹脂含有層や積層体(L)における全光線透過率や拡散光線透過率を所望の範囲に制御しやすくなり、積層フィルムの突刺強度や誘電特性を高めることができる。また、積層フィルムのCTEが低減する傾向にあり、積層フィルムの寸法安定性の向上が期待できる。さらに、これらの構成単位の含有は、積層フィルムと金属箔との接着性の向上にも寄与し得る。
【0103】
本発明の別の一実施形態において、構成単位(B1)は構成単位(B1-5)であることが好ましく、構成単位(B1-5)は、式(B1-5a)で表される構成単位であることがより好ましい。
【化27】
構成単位(B)として、前記構成単位を含むと、該PI系樹脂を含むPI系樹脂含有層や積層体(L)における全光線透過率や拡散光線透過率を所望の範囲に制御しやすくなり、積層フィルムの突刺強度や誘電特性の向上、CTEの低減等において有利になる。
【0104】
本発明の一実施形態において、PI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂が構成単位(B1)を含む場合、その含有量は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは3モル%以上、より好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは7モル%以上、さらにより好ましくは10モル%以上、特に好ましくは20モル%以上、特により好ましくは30モル%以上、特にさらに好ましくは40モル%以上である。構成単位(B1)の含有量が上記下限以上であると、積層体(L)の全光線透過率や拡散光線透過率を所望の範囲に制御しやすくなり、積層フィルムの突刺強度や誘電特性の向上、CTEの低減等において有利になる。また、構成単位(B1)の総量が高くなると金属箔との接着性が高まる傾向にあるため、かかる観点からは、構成単位(B1)の含有量は、構成単位(B)の総量に対して、例えば50モル%以上、60モル%以上又は70モル%以上であってもよい。構成単位(B1)の含有量は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは99モル%以下、より好ましくは95モル%以下、さらに好ましくは90モル%以下である。
【0105】
<構成単位(B2)>
本発明の一実施形態において、本発明の積層フィルム中の少なくとも1層のPI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂が、構成単位(B)として、式(B2):
【化28】
[式(B2)中、R
b2は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
pは0~4の整数を表す]
で表されるビフェニル骨格含有ジアミン由来の構成単位(B2)(以下、単に、構成単位(B2)と略すことがある)を含むことが好ましい。構成単位(B)が前記構成単位(B2)を含むと、PI系樹脂が強直すぎず、ある程度自由度がある柔軟な構造となり得るため、イミド化時の加熱により分岐構造を形成しやすく、また、配向性が高まる傾向があるため、該PI系樹脂を含むPI系樹脂含有層や積層体(L)の全光線透過率や拡散光線透過率を所望の範囲に制御しやすくなり、積層フィルムの突刺強度や誘電特性の向上、CTEの低減等において有利になる。
【0106】
式(B2)において、Rb2は、好ましくは互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基若しくはアリール基を表し、より好ましくはハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基を表す。炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、及び炭素数6~12のアリール基としては、上記に例示したものが挙げられる。Rb2に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、該ハロゲン原子としては、上記と同様のものが挙げられる。Rb2は互いに独立に、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のフッ化アルキル基であることが好ましく、さらに金属箔等との接着性の観点からは、フッ素を含有しない炭素数1~6のアルキル基であることがより好ましく、フッ素を含有しない炭素数1~3のアルキル基であることがさらに好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
【0107】
式(B2)において、pは、互いに独立に、好ましくは0~2の整数、より好ましくは0又は1である。
【0108】
式(B2)において、各ベンゼン環に結合する-NH2基は、各ベンゼン環を結ぶ単結合を基準に、それぞれ、オルト位、メタ位、若しくはパラ位、又は、α位、β位、若しくはγ位のいずれに結合していてもよく、積層フィルムの誘電特性、突刺強度向上やCTEの低減の観点から、好ましくはメタ位若しくはパラ位、又は、β位若しくはγ位、より好ましくはパラ位、又はγ位に結合することができる。
【0109】
本発明の好適な一実施形態において、式(B2)は、式(B2’):
【化29】
で表されることが好ましい。少なくとも1層のPI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂が、構成単位(B)として、構成単位(B2)、特に式(B2’)で表されるジアミン由来の構成単位を有するPI系樹脂を含むと、PI系樹脂が強直すぎず、ある程度自由度がある柔軟な構造となり得るため、イミド化時の加熱により分岐構造を形成しやすく、また、配向性が高まる傾向があるため、該PI系樹脂を含むPI系樹脂含有層や積層体(L)の全光線透過率や拡散光線透過率を所望の範囲に制御しやすくなり、積層フィルムの突刺強度や誘電特性の向上、CTEの低減等において有利になる。さらに、比較的低温(例えば360℃以下)のイミド化温度においても前記効果が得られるため、金属箔(例えば銅箔)との積層構成でPI系樹脂前駆体塗膜を熱イミド化することにより積層シートを製造しても金属箔表面の劣化を抑制して、高い突刺強度を有しながら、高周波特性にも優れる積層シートを得ることができる。
【0110】
本発明の一実施形態において、PI系樹脂が構成単位(B2)を含む場合、その含有量は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは1モル%以上、より好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは10モル%以上であり、さらに、例えば30モル%以上、35モル%以上、40モル%以上、又は50モル%以上であってもよい。構成単位(B2)の含有量が上記下限以上であると、該PI系樹脂を含むPI系樹脂含有層や積層体(L)の全光線透過率や拡散光線透過率を所望の範囲に制御しやすくなり、積層フィルムの突刺強度や誘電特性の向上、CTEの低減等において有利になる。また、構成単位(B1)は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは95モル%以下、より好ましくは92モル%以下、さらに好ましくは90モル%以下、さらにより好ましくは80モル%以下、特に好ましくは70モル%以下である。
【0111】
本発明の一実施形態において、PI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂が構成単位(B1)と構成単位(B2)とを含む場合、それらの合計含有量は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは40モル%以上、さらに好ましくは60モル%以上、特に好ましくは70モル%以上、特により好ましくは80モル%以上、特にさらに好ましくは90モル%以上、特にさらにより好ましくは95モル%以上であり、好ましくは100モル%以下である。構成単位(B1)と構成単位(B2)との合計含有量が上記下限以上であると、PI系樹脂が構成単位(B1)及び構成単位(B2)を有することにより期待される本発明の上記効果が得られやすくなり、また、該効果をより一層高めることができる。
【0112】
また、本発明の一実施形態において、PI系樹脂が構成単位(B1)と構成単位(B2)とを含む場合、その含有量比(モル比、(B1):(B2))は、好ましくは95:5~5:95、より好ましくは92:8~8:92、さらに好ましくは90:10~10:90、さらにより好ましくは80:20~20:80、特に好ましくは75:25~50:50である。構成単位(B1)と構成単位(B2)との含有量比が上記範囲であると、PI系樹脂が構成単位(B1)及び構成単位(B2)を有することにより期待される本発明の上記効果が得られやすくなり、また、該効果をより一層高めることができる。
【0113】
<構成単位(B3)>
本発明の一実施形態において、構成単位(B)は、構成単位(B1)及び構成単位(B2)以外のジアミン由来の構成単位(B3)(以下、単に構成単位(B3)と略すことがある)を含んでいてもよい。構成単位(B3)としては、例えば、式(B1)中のmが0であるジアミン由来の構成単位、式(2)中のXが式(61)~式(64)で表されるジアミン由来の構成単位等が挙げられ、これらの中でも、式(2)中のXが式(74)で表されるジアミン由来の構成単位(p-フェニレンジアミン由来の構成単位)が好ましい。本明細書において、「構成単位(B1)及び構成単位(B2)以外のジアミン由来の構成単位(B3)」とは、構成単位(B1)及び構成単位(B2)の何れとも異なるジアミン由来の構成単位を意味する。
【0114】
本発明の一実施形態において、構成単位(B)が構成単位(B3)を含む場合、構成単位(B3)の含有量は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは25モル%以下、より好ましくは20モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下であり、通常、0.01モル%以上である。
【0115】
本発明の一実施形態において、積層フィルムを構成するPI系樹脂含有層が以下のいずれかの又は複数の構成を含むことが好ましい。
・積層フィルム中の全てのPI系樹脂含有層においてPI系樹脂が、構成単位(B1)及び構成単位(B2)の少なくとも一方を含む;
・積層フィルム中の全てのPI系樹脂含有層においてPI系樹脂が、構成単位(B1)を含む;
・積層フィルム中の少なくとも1層のPI系樹脂含有層においてPI系樹脂が、構成単位(B1)と構成単位(B2)とを含む;
・積層フィルム中の全てのPI系樹脂含有層においてPI系樹脂が、構成単位(B1)と構成単位(B2)とを含む。
【0116】
本発明の一実施形態において、積層フィルムを構成する少なくとも3層のPI系樹脂含有層、好ましくはmPI層及びTPI層においてPI系樹脂が、構成単位(A)として構成単位(A1)及び/又は構成単位(A2)と、構成単位(B)とを含むことが好ましい。また、積層フィルムを構成する少なくとも3層のPI系樹脂含有層、好ましくはmPI層及びTPI層においてPI系樹脂が、構成単位(A)として構成単位(A1)及び/又は構成単位(A2)と、構成単位(B)として構成単位(B1)、好ましくは構成単位(B1)と構成単位(B2)とを含むことが好ましい。
【0117】
本発明の好適な一実施形態において、積層フィルムを構成する少なくとも1層のPI系樹脂含有層、好ましくはmPI層に含まれるPI系樹脂が構成単位(A)として構成単位(A1)、構成単位(A2)及び構成単位(A3)から選択される少なくとも2種の構成単位(好ましくは構成単位(A1)と構成単位(A2)及び/又は構成単位(A3)と)を含み、少なくとも1層、好ましくは少なくとも2層のPI系樹脂含有層、好ましくはTPI層に含まれるPI系樹脂が構成単位(A)として構成単位(A1)及び構成単位(A2)を含み、かつ、前記全ての層を構成するPI系樹脂がそれぞれ構成単位(B)を、好ましくは構成単位(B1)を、より好ましくは構成単位(B1)と構成単位(B2)とを含む。
【0118】
本発明の一実施形態において、積層体(L1)中の層(PI-1)~層(PI-3)は、それぞれ、構成単位(A1)及び/又は構成単位(A2)と構成単位(B)とを含む。さらに本発明の好適な一実施形態において、積層体(L1)中の層(PI-2)及び層(PI-3)においてPI系樹脂が、構成単位(A1)及び構成単位(A2)と構成単位(B)とを含み、層(PI-1)においてPI系樹脂が構成単位(A1)と構成単位(A2)及び/又は構成単位(A3)と構成単位(B)とを含む。また、前記実施形態における層(PI-1)~層(PI-3)のいずれにおいても、構成単位(B)として、好ましくは構成単位(B1)を、より好ましくは構成単位(B1)と構成単位(B2)とを含む。
mPI層、TPI層、層(PI-1)、層(PI-2)及び層(PI-3)が、それぞれ、上記構成単位を組み合わせて含んで構成されると、各層のPI系樹脂が強直すぎず、ある程度自由度がある柔軟な構造となり得るため、イミド化時の加熱により分岐構造を形成しやすく、また、配向性が高まる傾向がある。さらに、隣接する2つの層間の相互作用を高めることができる。それゆえに、これらの層から構成される積層体(L)又は積層体(L1)における全光線透過率や拡散光線透過率を所望の範囲に制御しやすくなり、PI系樹脂が各構成単位を有することにより期待される本発明の上記各効果が得られやすくなり、また、該効果をより一層高めることができる。
【0119】
<層(PI-1)>
本発明の一実施形態において、層(PI-1)を構成するPI系樹脂は、構成単位(A)として、構成単位(A1)及び/又は構成単位(A2)を含み、好ましくは構成単位(A1)、構成単位(A2)及び構成単位(A3)から選択される少なくとも2種の構成単位を含み、より好ましくは構成単位(A1)と構成単位(A2)及び/又は構成単位(A3)とを含み、さらに好ましくは構成単位(A1)と構成単位(A3)とを含む。層(PI-1)がこれらの構成単位を含む場合、構成単位(A1)の含有量は、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは35モル%以上、特に好ましくは40モル%以上であり、好ましくは80モル%以下、より好ましくは75モル%以下、さらに好ましくは70モル%以下、特に好ましくは65モル%以下である。構成単位(A2)の含有量は、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは35モル%以上、特に好ましくは40モル%以上であり、好ましくは80モル%以下、より好ましくは75モル%以下、さらに好ましくは70モル%以下、特に好ましくは65モル%以下である。また、構成単位(A3)の含有量は、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは3モル%以上、より好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは7モル%以上、さらにより好ましくは10モル%以上、特に好ましくは20モル%以上、特により好ましくは30モル%以上、特にさらに好ましくは35モル%以上、特にさらにより好ましくは40モル%以上であり、好ましくは75モル%以下、より好ましくは70モル%以下、さらに好ましくは65モル%以下、特に好ましくは60モル%以下である。また、別の実施形態では、構成単位(A3)の含有量は、好ましくは45モル%以下、より好ましくは35モル%以下、さらに好ましくは25モル%以下、さらにより好ましくは15モル%以下、特に好ましくは5モル%以下、特により好ましくは1モル%以下であり、下限は0モル%であってよい。
構成単位(A1)、構成単位(A2)及び/又は構成単位(A3)の含有量がそれぞれ上記範囲にあると、PI系樹脂が強直すぎず、ある程度自由度がある柔軟な構造となり得るため、イミド化時の加熱により分岐構造を形成しやすく、また、配向性が高まる傾向がある。これにより、層(PI-1)における全光線透過率や拡散光線透過率を所望の範囲に制御しやすくなり、突刺強度、誘電特性や熱物性に優れた積層フィルムを得ることができる。
【0120】
一方、本発明の別の一実施形態において、層(PI-1)を構成するPI系樹脂における構成単位(A2)の含有量は、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは30モル%未満、より好ましくは25モル%以下、さらに好ましくは20モル%以下、特に好ましくは10モル%以下である。本発明の一実施形態においては、層(PI-1)は構成単位(A2)を実質的に含まなくてもよく、構成単位(A2)の含有量の下限は0モル%であり得る。
【0121】
本発明の一実施形態において、層(PI-1)を構成するPI系樹脂は、構成単位(B)として、構成単位(B1)を含むことが好ましい。構成単位(B1)としては、構成単位(B1-2)及び構成単位(B1-5)を含むことが好ましく、構成単位(B1-2)を含むことがより好ましく、(B1-2’’)を含むことがさらに好ましい。層(PI-1)を構成するPI系樹脂における構成単位(B1)の含有量は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは3モル%以上、より好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは7モル%以上、さらにより好ましくは10モル%以上、特に好ましくは20モル%以上、特により好ましくは30モル%以上、特にさらに好ましくは35モル%以上、とりわけ好ましくは40モル%以上であり、好ましくは80モル%以下、より好ましくは75モル%以下、さらに好ましくは70モル%以下、特に好ましくは65モル%以下である。また、層(PI-1)を構成するPI系樹脂は、構成単位(B)として、構成単位(B2)をさらに含むことが好ましく、その含有量は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、さらに好ましくは30モル%以上又は30モル%超、さらにより好ましくは35モル%以上、特に好ましくは40モル%以上であり、好ましくは75モル%以下、より好ましくは70モル%以下、さらに好ましくは65モル%以下、特に好ましくは60モル%以下である。
構成単位(B1)及び/又は構成単位(B2)の含有量がそれぞれ上記範囲にあると、PI系樹脂が強直すぎず、ある程度自由度がある柔軟な構造となり得るため、イミド化時の加熱により分岐構造を形成しやすく、また、配向性が高まる傾向がある。これにより、層(PI-1)の突刺強度の向上やDfの低減が可能であり、さらにCTEも効果的に低減することができるため、優れた突刺強度、誘電特性や熱物性を有する積層フィルムを得ることができる。
【0122】
<層(PI-2)及び層(PI-3)>
本発明の一実施形態において、層(PI-2)及び層(PI-3)を構成するPI系樹脂は、それぞれ、構成単位(A)として構成単位(A1)を含み、好ましくは構成単位(A1)と構成単位(A2)とを含む。これらの構成単位を含む場合、構成単位(A1)の含有量は、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは10モル%以上、より好ましくは15モル%以上、さらに好ましくは20モル%以上であり、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下、さらに好ましくは60モル%以下である。また、構成単位(A2)の含有量は、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは40モル%以上、特に好ましくは50モル%以上であり、好ましくは90モル%以下、より好ましくは85モル%以下、さらに好ましくは80モル%以下、特に好ましくは75モル%以下である。
構成単位(A1)及び/又は構成単位(A2)の含有量がそれぞれ上記範囲にあると、PI系樹脂が強直すぎず、ある程度自由度がある柔軟な構造となり得るため、イミド化時の加熱により分岐構造を形成しやすく、また、配向性が高まる傾向がある。これにより、層(PI-2)及び層(PI-3)の突刺強度の向上やDfの低減が可能であり、さらにCTEも効果的に低減することができるため、優れた突刺強度、誘電特性や熱物性を有する積層フィルムを得ることができる。また、金属箔との接着性の向上効果を期待できる。
【0123】
本発明の一実施態様において、層(PI-2)及び層(PI-3)を構成するPI系樹脂は構成単位(A3)を実質的に含まないことが好ましい。これらの層において構成単位(A3)の含有量は、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは8モル%以下、さらに好ましくは5モル%以下、特に好ましくは1モル%以下である。本発明の一実施形態においては、層(PI-2)及び層(PI-3)は構成単位(A3)を実質的に含まなくてもよく、構成単位(A3)の含有量の下限は0モル%であり得る。
【0124】
本発明の一実施形態において、層(PI-2)及び層(PI-3)を構成するPI系樹脂は、構成単位(B)として、構成単位(B1)を含むことが好ましい。構成単位(B1)としては、構成単位(B1-2)を含むことが好ましく、PI系樹脂の柔軟性を高める構成単位(B1-2’)を含むことがより好ましい。これらの層を構成するPI系樹脂における構成単位(B1)の含有量は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは35モル%以上、特に好ましくは40モル%以上であり、好ましくは80モル%以下、より好ましくは75モル%以下、さらに好ましくは70モル%以下、特に好ましくは65モル%以下である。また、構成単位(B)として、構成単位(B2)をさらに含むことが好ましく、その含有量は、好ましくは1モル%以上、より好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは10モル%以上であり、例えば20モル%以上、30モル%以上または30モル%超、さらには40モル%以上であってもよく、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下、さらに好ましくは65モル%以下、特に好ましくは60モル%以下である。
層(PI-2)及び層(PI-3)を構成するPI系樹脂において、構成単位(B1)及び/又は構成単位(B2)の含有量がそれぞれ上記範囲にあると、PI系樹脂が強直すぎず、ある程度自由度がある柔軟な構造となり得るため、イミド化時の加熱により分岐構造を形成しやすく、また、配向性が高まる傾向がある。これにより、層(PI-2)及び層(PI-3)の突刺強度の向上やDfの低減が可能であり、CTEも効果的に低減しうるのでより一層優れた突刺強度、誘電特性や熱物性を有する積層フィルムを得ることができる。また、金属箔との接着性の向上効果を期待できる。
【0125】
上記構成単位(A)及び/又は構成単位(B)を含んで構成されるPI系樹脂の各種物性(分子量、ガラス転移温度など)は、積層フィルムにおける各PI系樹脂含有層の役割や用途等に応じて、例えば以下の好適な範囲等に基づき適宜決定すればよい。
【0126】
本発明の一実施形態において、各PI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂は、例えば上記の含ハロゲン原子置換基等によって導入することができる、ハロゲン原子、好ましくはフッ素原子を含有していてもよい。PI系樹脂がフッ素原子を含有する場合、得られるPI系樹脂含有層の比誘電率を低減しやすく、積層フィルムの誘電特性の向上につながる。PI系樹脂にフッ素原子を含有させるために好ましい含フッ素置換基としては、例えばフルオロ基及びトリフルオロメチル基が挙げられる。
また、本発明の別の一実施形態において、PI系樹脂は、得られるPI系樹脂含有層の金属箔に対する接着性を高める観点からは、フッ素原子を含有していないことが好ましい。このため、例えば、金属箔に接するPI系樹脂含有層、好ましくはTPI層、特に積層体(L1)中の層(PI-2)及び層(PI-3)を構成するPI系樹脂は、フッ素原子を含有していないことが好ましい。また、PI系樹脂がフッ素を含有すると分子鎖間の相互作用を弱める傾向があるため、PI系樹脂がフッ素原子を含有していない場合、PI系フィルムのDfが低減される傾向がある。
【0127】
PI系樹脂がハロゲン原子を含有する場合、PI系樹脂におけるハロゲン原子、特にフッ素原子の含有量は、PI系樹脂の質量を基準として、好ましくは0.1~35質量%、より好ましくは0.1~30質量%、さらに好ましくは0.1~20質量%、とりわけ好ましくは0.1~10質量%である。ハロゲン原子の含有量が上記の下限以上であると、得られるPI系樹脂含有層の耐熱性及び誘電特性が高まりやすく、積層フィルムの誘電特性や熱物性の向上につながる。ハロゲン原子の含有量が上記の上限以下であると、コスト面で有利であり、CTEを低減しやすく、またPI系樹脂の合成が容易となる。
【0128】
本発明の一実施形態において、PI系樹脂のイミド化率は、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上であり、通常100%以下である。積層フィルムの突刺強度、誘電特性や熱物性を向上する観点から、イミド化率が上記の下限以上であることが好ましい。イミド化率は、PI系樹脂中のテトラカルボン酸化合物に由来する構成単位のモル量の2倍の値に対する、PI系樹脂中のイミド結合のモル量の割合を示す。なお、PI系樹脂がトリカルボン酸化合物を含む場合には、PI系樹脂中のテトラカルボン酸化合物に由来する構成単位のモル量の2倍の値と、トリカルボン酸化合物に由来する構成単位のモル量との合計に対する、PI系樹脂中のイミド結合のモル量の割合を示す。また、イミド化率は、IR法、NMR法などにより求めることができる。
【0129】
本発明の一実施形態において、PI系樹脂のポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、突刺強度を高める観点から、好ましくは5000以上、より好ましくは10000以上、さらに好ましくは15000以上、特に好ましくは20000以上である。また、ワニスの製造容易性や製膜性の観点から、好ましくは1200000以下、より好ましくは1000000以下、さらに好ましくは800000以下、特に好ましくは700000以下である。例えば、mPI層、特に、積層体(L1)中の層(PI-1)のMwは、好ましくは5000~800000であり、より好ましくは10000~700000である。また、TPI層、特に積層体(L1)中の層(PI-2)及び層(PI-3)のMwは、それぞれ、好ましくは10000~1000000であり、より好ましくは20000~900000である。
【0130】
本発明の一実施形態において、本発明のPI系樹脂の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、突刺強度及び金属箔との接着性の観点から、好ましくは1.1以上、より好ましくは1.3以上、さらに好ましくは1.5以上、特に好ましくは1.7以上であり、好ましくは15以下、より好ましくは12以下、さらに好ましくは11以下、特に好ましくは10以下である。例えば、mPI層、特に、積層体(L1)中の層(PI-1)のMw/Mnは、好ましくは1.1~15であり、より好ましくは1.5~10である。また、TPI層、特に積層体(L1)中の層(PI-2)及び層(PI-3)のMw/Mnは、それぞれ、好ましくは1.1~15であり、より好ましくは1.5~10である。なお、Mw及びMnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと記載することがある)測定を行い、標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0131】
本発明の一実施形態において、PI系樹脂のTgは、得られる積層フィルムの突刺強度の向上やDfの低減の観点から、好ましくは350℃以下、より好ましくは330℃以下、さらに好ましくは310℃以下、特に好ましくは300℃以下である。また、PI系樹脂のTgは、積層フィルムの突刺強度を高める観点、Dfの低減や熱物性の向上の観点から、好ましくは200℃以上、より好ましくは205℃以上、さらに好ましくは210℃以上、特に好ましくは220℃以上である。PI系樹脂含有層としてmPI層とTPI層を含む場合、mPI層を構成するPI系樹脂のTgは、好ましくは350℃以下、より好ましくは330℃以下、さらに好ましくは310℃以下、特に好ましくは295℃以下であり、好ましくは220℃以上、より好ましくは230℃以上、さらに好ましくは250℃以上、さらにより好ましくは260℃以上、特に好ましくは270℃以上である。mPI層を構成するPI系樹脂のTgが上記範囲であると、積層フィルムの突刺強度を高めることができ、また誘電特性や熱物性を高めることができる。TPI層を構成するPI系樹脂のTgは、好ましくは310℃以下、より好ましくは300℃以下、さらに好ましくは290℃以下、さらにより好ましくは270℃以下、特に好ましくは250℃以下であり、好ましくは200℃以上、より好ましくは210℃以上、さらに好ましくは220℃以上、特に好ましくは230℃以上である。TPI層を構成するPI系樹脂のTgが上記範囲であると、積層フィルムの突刺強度を高めることができ、またDfの低減や熱物性の向上の他、金属箔との接着性を高めることができる。PI系樹脂のTgは、動的粘弾性測定により測定できる。例えば、動的粘弾性測定装置を用いて得られる、貯蔵弾性率(Storage modulus、E’)と損失弾性率(Loss modulus、E”)の値の比であるtanδ曲線のピークに基づき算出できる。
【0132】
PI系樹脂含有層としてmPI層とTPI層を含む一実施形態において、mPI層を構成するPI系樹脂のTgが、上記範囲内、好ましくは250~330℃であり、またTPI層を構成するPI系樹脂のTgが、上記範囲内、好ましくは220~300℃であると、各PI系樹脂は、回転運動の抑制された好ましい高次構造を形成しやすい傾向がある。このため、当該実施形態にある場合、高い配向性を維持した高次構造を有するPI系樹脂によって各PI系樹脂含有層を形成することができ、PI系樹脂含有層の厚み方向にかかる衝撃に対する強度が増し、積層フィルムの突刺強度が向上すると考えられる。また、各PI系樹脂中の極性基の回転が抑制され、電気エネルギーが熱運動として失われることが低減されると推定されるゆえに、Tgが上記範囲内にあるPI系樹脂を用いることにより、Dfが低い積層フィルムが得られると考えられる。さらに、このようなPI系樹脂を用いることにより、イミド化温度が例えば360℃以下の低温であっても、得られる積層フィルムの突刺強度や誘電特性を高めることができるため、金属箔(銅箔)との積層構成でPI系樹脂前駆体塗膜を熱イミド化することにより積層シートを製造しても金属箔表面の劣化を抑制でき、高い突刺強度を有しながら高周波特性にも優れる積層シート(CCL)を得ることができる。
【0133】
PI系樹脂のTgは、PI系樹脂を構成する構成単位の種類やそれらの構成、PI系樹脂の分子量や製造方法、特にイミド化条件等を、適宜調整することによって調整し得、例えば本明細書内に好ましい態様として記載されている範囲内に調整することによって、上記範囲内に調整し得る。
【0134】
(積層フィルムの製造方法)
本発明の積層フィルムは、例えば、積層フィルムに含まれる各PI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂の構成に応じてそれぞれ適宜選択した、テトラカルボン酸無水物とジアミンとを反応させてPI系樹脂前駆体を得る工程、及び、得られたPI系樹脂前駆体をイミド化する工程を含む方法により製造することができる。
本発明の一実施形態において、積層フィルムを構成する各PI系樹脂含有層は、例えば、
・支持基材に対応するPI系樹脂前駆体の溶液を塗布し、これを乾燥した後支持基材上でイミド化する方法、又は、
・支持基材に対応するPI系樹脂前駆体の溶液を塗布し、これを乾燥させた乾燥膜を支持基材から剥離した後、剥離された該乾燥膜をイミド化する方法
等によって調製できる。
また、本発明の積層フィルムは複数層のPI系樹脂含有層を含む多層フィルムであり、その製造方法の態様としては、例えば、
・支持基材に、対応するPI系樹脂前駆体の溶液を塗布・乾燥することを複数回繰り返した後、イミド化を行う方法、又は
・多層押出により、同時に各層に対応するPI系樹脂前駆体の溶液を多層に積層した状態で塗布・乾燥した後、イミド化を行う方法
などが挙げられる。
【0135】
<PI系樹脂前駆体の調製>
PI系樹脂前駆体の合成に用いられるテトラカルボン酸無水物としては、例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸化合物;及び脂肪族テトラカルボン酸二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸化合物等が挙げられる。テトラカルボン酸化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。テトラカルボン酸化合物は、二無水物の他、酸クロリド化合物等のテトラカルボン酸化合物類縁体であってもよい。
【0136】
テトラカルボン酸化合物としては、例えば、式(A1)で表されるテトラカルボン酸無水物、式(A2)で表されるテトラカルボン酸無水物、式(A3)で表されるテトラカルボン酸無水物、が挙げられ、当該分野で公知のテトラカルボン酸化合物を適宜選択して用いることができる。
そのようなテトラカルボン酸化合物としては、例えば、無水ピロメリット酸(以下、PMDAと記載することがある)、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸無水物(以下、BPADAと記載することがある)、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAと記載することがある)、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(以下、6FDAと記載することがある)、4,4’-オキシジフタル酸二無水物(以下、ODPAと記載することがある)、2,2’,3,3’-、2,3,3’,4’-又は3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸二無水物)(以下、TAHQと記載することがある)、無水トリメリット酸と2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチル-4,4’-ビフェノールとのエステル化物(以下、TMPBPと記載することがある)、4,4’-ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-イルカルボニルオキシ)ビフェニル(以下、BP-TMEと記載することがある)、2,3’,3,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3”,4,4”-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3”,4”-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2”,3,3”-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2,7,8-、1,2,6,7-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、1,2,9,10-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(以下、HPMDAと記載することがある)、2,3,5,6-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(以下、CBDAと記載することがある)、ノルボルナン-2-スピロ-α’-スピロ-2”-ノルボルナン-5,5’,6,6’-テトラカルボン酸無水物、p-フェニレンビス(トリメリテート無水物)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,6-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-テトラクロロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-テトラクロロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、4,5,10,11-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、5,6,11,12-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物などが挙げられる。中でも、得られる積層フィルムの突刺強度の向上、DfやCTEの低減等の観点から、BPDA、PMDA、TAHQ及び/又はBP-TMEを組み合わせて用いることが好ましい。これらのテトラカルボン酸化合物は単独又は二種以上組合せて使用できる。
【0137】
PI系樹脂前駆体の合成に用いられるジアミン化合物としては、例えば、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン及びこれらの混合物が挙げられる。なお、本実施形態において「芳香族ジアミン」とは、芳香環を有するジアミンを表し、その構造の一部に脂肪族基又はその他の置換基を含んでいてもよい。この芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環及びフルオレン環等が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはベンゼン環である。また「脂肪族ジアミン」とは、脂肪族基を有するジアミンを表し、その構造の一部にその他の置換基を含んでいてもよいが、芳香環は有しない。
【0138】
ジアミン化合物としては、例えば、式(B1)で表されるジアミン、式(B2)で表されるジアミン、式(2)で表されるジアミン等が挙げられ、当該分野で公知のジアミン化合物を適宜選択して用いることができる。
そのようなジアミン化合物としては、例えば、1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニル(以下、m-Tbと記載することがある)、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル(以下、TFMBと記載することがある)、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(以下、1,3-APBと記載することがある)、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(以下、TPE-Qと記載することがある)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(以下、TPE-Rと記載することがある)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(以下、BAPPと記載することがある)、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[1-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、2,2-ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、4,4’-メチレンジアニリン、3,3’-メチレンジアニリン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、ベンジジン、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシベンジジン、4,4”-ジアミノ-p-テルフェニル、3,3”-ジアミノ-p-テルフェニル、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン(以下、p-PDAと記載することがある)、レゾルシノール-ビス(3-アミノフェニル)エーテル、4,4’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4’-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-tert-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-tert-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、ピペラジン、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビシクロヘキサン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4”-ジアミノ-p-ターフェニル、ビス(4-アミノフェニル)テレフタレート、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)-2,5-ジ-tert-ブチルベンゼン、4,4’-(1,3-フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、2,4-ジアミノ-3,5-ジエチルトルエン、2,6-ジアミノ-3,5-ジエチルトルエン、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-(ヘキサフルオロプロピリデン)ジアニリン、1,2-ジアミノエタン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,2-ジアミノプロパン、1,2-ジアミノブタン、1,3-ジアミノブタン、2-メチル-1,2-ジアミノプロパン、2-メチル-1,3-ジアミノプロパン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ノルボルナンジアミン、2’-メトキシ-4,4’-ジアミノベンズアニリド、4,4’-ジアミノベンズアニリド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、9,9-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ビス[4,4’-(4-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、ビス[4,4’-(3-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジンなどが挙げられる。中でも、得られる積層フィルムの突刺強度の向上、DfやCTEの低減等の観点から、m-Tb、BAPP、TPE-Q、TPE-Rを組み合わせて用いることが好ましい。ジアミン化合物は単独又は二種以上組合せて使用できる。
【0139】
なお、前記PI系樹脂前駆体は、得られるPI系フィルムの各種物性を損なわない範囲で、上記のPI系樹脂前駆体合成に用いられるテトラカルボン酸化合物に加えて、他のテトラカルボン酸、ジカルボン酸及びトリカルボン酸並びにそれらの無水物及び誘導体をさらに反応させたものであってもよい。
【0140】
他のテトラカルボン酸としては、上記テトラカルボン酸化合物の無水物の水付加体が挙げられる。
【0141】
ジカルボン酸化合物としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロリド化合物、酸無水物等が挙げられ、2種以上を組合せて用いてもよい。具体例としては、テレフタル酸;イソフタル酸;ナフタレンジカルボン酸;4,4’-ビフェニルジカルボン酸;3,3’-ビフェニルジカルボン酸;炭素数8以下である鎖式炭化水素、のジカルボン酸化合物及び2つの安息香酸が単結合、-O-、-CH2-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-SO2-又はフェニレン基で連結された化合物並びに、それらの酸クロリド化合物が挙げられる。
【0142】
トリカルボン酸化合物としては、芳香族トリカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロリド化合物、酸無水物等が挙げられ、2種以上を組合せて用いてもよい。具体例としては、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸の無水物;2,3,6-ナフタレントリカルボン酸-2,3-無水物;フタル酸無水物と安息香酸とが単結合、-O-、-CH2-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-SO2-又はフェニレン基で連結された化合物が挙げられる。
【0143】
PI系樹脂前駆体の製造において、ジアミン化合物、テトラカルボン酸化合物、ジカルボン酸化合物及びトリカルボン酸化合物の使用量は、所望とするPI系樹脂前駆体の各構成単位の比率に応じて適宜選択できる。
本発明において、テトラカルボン酸化合物の総量1モルに対するジアミン化合物の総使用モル数をアミン比として定義する。本発明の好適な一実施形態においては、アミン比は、テトラカルボン酸化合物の総量1モルに対して、好ましくは0.90モル以上であり、好ましくは0.999モル以下である。また、別の一実施形態においては、アミン比は、テトラカルボン酸化合物の総量1モルに対して、好ましくは1.001モル以上であり、好ましくは1.10モル以下である。
本発明の一実施形態において、アミン比が1以下である場合、アミン比は好ましくは0.90モル以上0.999モル以下、より好ましくは0.95モル以上0.997モル以下、さらに好ましくは0.97モル以上0.995モル以下である。
本発明の一実施形態において、アミン比が1以上である場合、アミン比は好ましくは1.001モル以上1.10モル以下、より好ましくは1.002モル以上1.06モル以下、さらに好ましくは1.003モル以上1.05モル以下である
アミン比が1.0モルに近いと、合成時に急激に分子量が増大する傾向があり、1.0モルから大きく離れると得られるPI系樹脂の分子量が低下しやすい傾向がある。分子量が急激に増大すると、合成マスの中で不均一に成長して、PI系樹脂前駆体から得られるPI系樹脂の物性が安定しにくい傾向がある。一方、分子量が低すぎると機械物性が低下する傾向がある。
【0144】
ジアミン化合物とテトラカルボン酸化合物との反応温度は、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下、さらに好ましくは30℃以下である。また、ジアミン化合物とテトラカルボン酸化合物との反応温度は、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは15℃以上である。反応温度が上記の上限下限の範囲内であると、本発明の効果を得やすく、また、反応速度を高め、重合時間を短くできる傾向にある。反応時間は特に限定されず、例えば0.5~36時間程度、好ましくは1~24時間であってもよい。
【0145】
ジアミン化合物とテトラカルボン酸化合物との反応は、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、反応に影響を与えない限り特に限定されないが、例えば、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶媒;フェノール、クレゾール等のフェノール系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、乳酸エチル等のエステル系溶媒;γ-ブチロラクトン(以下、GBLと記載することがある)、γ-バレロラクトン等のラクトン系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;テトラヒドロフラン及びジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;クロロホルム及びクロロベンゼン等の塩素含有溶媒;N,N-ジメチルアセトアミド(以下、DMAcと記載することがある)、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFと記載することがある)等のアミド系溶媒;ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;N-メチルピロリドン(以下、NMPと記載することがある)等のピロリドン系溶媒;及びそれらの組合せなどが挙げられる。これらの中でも、溶解性の観点から、好ましくはフェノール系溶媒、ラクトン系溶媒、アミド系溶媒、ピロリドン系溶媒、より好ましくはアミド系溶媒を好適に使用できる。
【0146】
本発明の一実施形態において、ジアミン化合物とテトラカルボン酸化合物との反応に用いる溶媒の沸点は、積層体(L)における式(I)の値を所望の範囲に制御するためのイミド化条件に適していることが好ましく、好ましくは230℃以下、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは180℃以下であり、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上である。
【0147】
ジアミン化合物とテトラカルボン酸化合物との反応は、必要に応じて、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の不活性雰囲気下又は減圧の条件下において行ってもよく、不活性雰囲気、例えば、窒素雰囲気又はアルゴン雰囲気等の下、厳密に制御された脱水溶媒中で撹拌しながら行うことが好ましい。
【0148】
得られるPI系樹脂前駆体は、慣用の方法により一旦単離してもよいが、単離することなく、PI系樹脂前駆体の合成により得られたPI系樹脂前駆体を含む反応液を、必要に応じて溶媒で適宜希釈し、PI系樹脂前駆体溶液として用いてもよい。
【0149】
<ポリイミド系樹脂前駆体溶液の塗工>
PI系樹脂前駆体溶液の塗工工程は、前記PI系樹脂前駆体と溶媒とを含むPI系樹脂前駆体溶液を支持基材上に塗工し、塗膜を形成する工程である。
【0150】
PI系樹脂前駆体溶液に含まれる溶媒は、PI系樹脂前駆体の製造におけるジアミン化合物とテトラカルボン酸化合物との反応に用いる溶媒として例示のものが挙げられ、好ましくはラクトン系溶媒、アミド系溶媒、ピロリドン系溶媒、より好ましくはアミド系溶媒である。また、本発明の一実施形態において、PI系樹脂前駆体溶液に含まれる溶媒の沸点は、積層体(L)における式(I)の値を所望の範囲に制御するためのイミド化条件に適していることが好ましく、好ましくは230℃以下、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは180℃以下、特に好ましくは170℃以下であり、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上である。
【0151】
PI系樹脂前駆体溶液に含まれるPI系樹脂前駆体の含有量は、PI系樹脂前駆体溶液の総量に対して、好ましくは8質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは12質量%以上、特に好ましくは13質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは23質量%以下、特に好ましくは20質量%以下である。PI系樹脂前駆体の含有量が上記の範囲内であると、製膜時の加工性に優れる。
【0152】
PI系樹脂前駆体溶液の塗膜は、公知の塗工方法又は塗布方法により、支持基材上にPI系樹脂前駆体溶液を塗工することで形成できる。公知の塗工方法としては、例えばワイヤーバーコーティング法、リバースコーティング、グラビアコーティング等のロールコーティング法、ダイコート法、カンマコート法、リップコート法、スピンコーティング法、スクリーン印刷コーティング法、ファウンテンコーティング法、ディッピング法、スプレー法、カーテンコート法、スロットコート法、流涎成形法等が挙げられる。支持基材上に1層ずつ又は複数回に分けてPI系樹脂前駆体溶液を塗工して複数層のPI系樹脂前駆体溶液の塗膜を形成してもよいし、同時に複数層のPI系樹脂前駆体溶液の積層塗膜を形成してもよい。同時に複数層の塗膜を形成する方法としては、例えば、共押出加工法、多層カーテン塗工法等を採用できる。
【0153】
支持基材の例としては、金属箔(例えば銅箔)等の金属板(例えば銅板等)、SUS箔、SUSベルト等のSUS板、ガラス基板、PETフィルム、PENフィルム、本発明におけるPI系樹脂含有層以外の他のPI系樹脂フィルム、ポリアミド系樹脂フィルム等が挙げられる。中でも、耐熱性に優れる観点から、好ましくは銅板、SUS板、ガラス基板、PETフィルム、PENフィルム等が挙げられ、密着性及びコストの観点から、より好ましくは銅板、SUS板、ガラス基板又はPETフィルム等が挙げられる。本発明の一実施形態において、金属箔を構成する金属としては、例えば、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、クロム、チタン、タンタル、ステンレス及びこれらの合金等が挙げられる。これらの中でも、金属箔は、銅箔、銅合金箔、SUS箔、アルミニウム箔等が好ましく、導電性及び金属加工性の観点からは、銅箔又は銅合金箔がより好ましく、銅箔が特に好ましい。
【0154】
<イミド化工程>
イミド化工程は、例えば200℃以上500℃以下の熱処理によって、基材上に塗工されたPI系樹脂前駆体をイミド化する工程である。
本発明の好適な実施形態において、イミド化工程は、PI系樹脂前駆体のイミド化の前に、支持基材上に塗工されたPI系樹脂前駆体溶液を例えば300℃未満、好ましくは60℃以上200℃以下、より好ましくは80℃以上150℃以下の比較的低い温度で加熱して乾燥(予備乾燥ということがある)し、得られたPI系樹脂前駆体の乾燥膜を、200℃以上500℃以下の熱処理によって、イミド化する工程であることが好ましい。
【0155】
本発明の一実施形態において、イミド化工程は、好ましくは支持基材上に塗工されたPI系樹脂前駆体を予備乾燥した後、比較的速い速度で低温(第1温度という)から高温(第2温度という)まで昇温し、該高温下で保持する工程を含むことが好ましい。比較的速い速度で、好ましくは急速に昇温させてイミド化を進め、高温に到達させた後該温度で一定時間保持してイミド化を完了することで、積層体(L)における式(I)の値を上記特定の範囲に調整しやすい。また、平滑なフィルムを得る観点や、Dfを低減する観点からも、上記のように段階的に加熱を行うことが好ましい。
【0156】
本発明の一実施形態において、第1温度は、好ましくは20℃以上50℃以下、より好ましくは25℃以上35℃以下であり、第2温度は、好ましくは220℃以上450℃以下、より好ましくは250℃以上400℃以下、さらに好ましくは300℃以上380℃以下、特に好ましくは330℃以上360℃以下である。PI系樹脂の構成単位を適宜選択することにより、例えば360℃程度の比較的低温でイミド化を行っても、得られるPI系樹脂含有層や積層フィルムの十分に高い突刺強度を発現したりDfの低減が可能になる。さらに、イミド化温度が360℃以下であると、支持基材として銅箔を使用した場合においても、銅箔の熱劣化を抑制し得るため、高周波特性に優れた積層シートを得やすい。また、イミド化温度は、十分にイミド化率を向上する観点、突刺強度の向上やDfの低減の観点からは、好ましくは200℃以上、より好ましくは210℃以上、さらに好ましくは220℃以上である。
【0157】
本発明の一実施形態において、第1温度から第2温度までの昇温は、一段階の昇温速度で行ってもよく、二段階以上の多段階の昇温速度で行ってもよい。本発明の一実施形態において、第1温度から第2温度までの昇温を一段階で行う場合、その昇温速度は、好ましくは3.5℃/分以上、より好ましくは5℃/分以上、さらに好ましくは7℃/分以上、特に好ましくは10℃/分以上であり、好ましくは25℃/分以下、より好ましくは20℃/分以下、さらに好ましくは18℃/分以下、特に好ましくは15℃/以下である。また、本発明の一実施形態において、第1温度から第2温度までの昇温を二段階以上で行う場合、その昇温速度は、好ましくは一段階目の昇温速度が3.5℃/分以上であり、さらに一段階目より二段階目以降の方が速いことが好ましい。例えば、第1温度から第2温度までの昇温を二段階で行う場合、二段階目の昇温速度は一段階目の昇温速度の好ましくは1.2倍以上、より好ましくは1.5倍以上、さらに好ましくは1.8倍以上であってよく、通常10倍以下である。例えば、第1温度から第2温度までの昇温を二段階で行う場合、一段階目の昇温速度は、好ましくは1℃/分以上、より好ましくは2℃/分以上、さらに好ましくは3℃/分以上、特に好ましくは3.5℃/分以上であり、好ましくは18℃/分以下、より好ましくは15℃/分以下、特に好ましくは12℃/以下である。また、二段階目の昇温速度は、好ましくは3℃/分以上、より好ましくは5℃/分以上、さらに好ましくは8℃/分以上であり、場合によっては例えば10℃/分以上であってもよく、好ましくは35℃/分以下、より好ましくは30℃/分以下、さらに好ましくは25℃/以下である。第1温度から第2温度までの昇温を二段階で行う場合、例えば、第1温度と第2温度の中間くらいの温度までの昇温を一段階目の昇温速度で、前記中間温度から第2温度までの昇温を二段階目の昇温速度で行い得る。このような昇温速度を採用すると、PI系樹脂の配向性が高まる、PI系樹脂が高次構造を形成しやすくなる、又はPI系樹脂の分岐が生じやすくなるなどにより、積層体(L)における式(I)の値を上記特定の範囲に調整しやすい。
【0158】
本発明の一実施形態において、第1温度から第2温度までの昇温時間は、これらの温度や昇温速度に応じて適宜選択でき、好ましくは5時間以下、より好ましくは3時間以下、さらに好ましくは2時間以下、特に好ましくは1時間以下であり、場合によっては50分以下であってもよく、また、好ましくは10分以上、より好ましくは15分以上、さらに好ましくは20分以上である。第1温度から第2温度までの昇温時間が上記の範囲であると、積層体(L)における式(I)の値を上記特定の範囲に調整しやすい。
【0159】
本発明の一実施形態において、第2温度における保持時間は、好ましくは1分以上、より好ましくは3分以上であり、好ましくは30分以下、より好ましくは20分以下、さらに好ましくは10分以下である。第1温度から第2温度までの昇温速度が上記範囲であり、さらに第2温度における保持時間が上記範囲にあると、PI系樹脂の配向性が高まる、PI系樹脂が高次構造を形成しやすくなる、PI系樹脂の分岐が生じやすくなるなどにより、積層体(L)における式(I)の値を上記特定の範囲に調整しやすい。
【0160】
イミド化後、支持基材上に形成された積層塗膜を基材から剥離することによって、積層フィルムを得ることができる。本発明の一実施形態において、支持基材が金属箔(例えば銅箔)の場合には、塗膜を金属箔から剥離することなく、金属箔上に積層フィルムが積層された積層シートを得ることもできる。
【0161】
(積層フィルムの物性)
本発明の一実施形態において、積層フィルムを構成する各PI系樹脂含有層中のPI系樹脂の含有量は、それぞれ、該PI系樹脂含有層の質量に対して、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。また、PI系樹脂の含有量の上限は特に制限されず、PI系樹脂含有層の質量に対して、例えば100質量%以下、99質量%以下、又は95質量%以下であってもよい。PI系樹脂の含有量が上記範囲であると、突刺強度、誘電特性や熱物性の向上した積層フィルムを得ることができる。
【0162】
本発明の積層フィルムにおいて、各PI系樹脂含有層は、必要に応じて、フィラーを含むことができる。フィラーとしては、シリカ、アルミナ等の金属酸化物粒子、炭酸カルシウム等の無機塩、フッ素樹脂、シクロオレフィンポリマー等のポリマー粒子等が挙げられる。フィラーは単独又は2種以上を組合せて使用することができる。フィラーを含む場合、その含有量は、該PI系樹脂含有層の質量に対して、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下であり、好ましくは0.01質量%以上である。
【0163】
また、本発明の一実施形態において、本発明の積層フィルムを構成する各PI系樹脂含有層は、それぞれ必要に応じて、添加剤を含むことができる。添加剤としては、例えば酸化防止剤、難燃剤、架橋剤、界面活性剤、相溶化剤、イミド化触媒、耐候剤、滑剤、抗ブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、無滴剤、顔料などが挙げられる。添加剤は単独又は二種以上組合せて使用できる。各種添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択でき、各種添加剤を含む場合、その合計含有量は、各PI系樹脂含有層の質量に対して、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは4質量%以下、特に好ましくは1質量%以下であり、好ましくは0.001質量%以上である。
【0164】
本発明の一実施形態において、積層フィルムの線膨張係数(CTE)は、好ましくは45ppm/K未満、より好ましくは40ppm/K以下、さらに好ましくは35ppm/K以下、さらにより好ましくは32ppm/K以下である。積層フィルムのCTEが上記の上限以下であると、熱物性に優れ、高い寸法安定性を有することが期待できる。また、積層フィルムのCTEは、好ましくは0ppm/K以上、より好ましくは5ppm/K以上、さらに好ましくは8ppm/K以上、特に好ましくは10ppm/K以上である。積層フィルムのCTEが、上記上限下限の範囲にあると、金属箔(特に銅箔)と積層フィルムのPI系樹脂含有層のCTEが近くなるため、金属箔からの積層フィルムの剥がれを抑制する効果が得られる。なお、CTEは、例えば熱機械分析装置(以下、「TMA」と記載することがある)により測定でき、実施例に記載の方法により求められる。
【0165】
プリント回路には、伝送損失が小さくなることが求められる。伝送損失は、誘電体で生じる電界によって発生する損失である誘電損失と、導体を流れる電流に起因して発生する損失である導体損失との和で表される。そして、誘電損失は、近似的に式(i)で表される指標Eに比例することが知られている。
E=Df×(Dk)1/2 (i)
[式(i)中、Dfは誘電正接を表し、Dkは比誘電率を表す]
5G等の高速通信用FPCで用いられる高周波数域では、誘電損失が大きくなる傾向にあるため、前記指標Eの値が小さく、誘電損失を抑制できる材料が特に求められている。
一方、高周波信号は導体のごく表面に電流が集中する。したがって、導体損失は接する誘電体の誘電特性に関連し、近似的に(Dk)1/2に比例することが知られている。
【0166】
本発明の積層フィルムは、Df及びDkが小さく、誘電損失の指標E及び導体損失も小さくなるため、該積層フィルムを含む回路では伝送損失が低減できる。
【0167】
本発明の一実施形態において、積層フィルムの10GHzにおける誘電損失の指標Eは、好ましくは0.0080以下、より好ましくは0.0075以下、さらに好ましくは0.0070以下、さらにより好ましくは0.0065以下、特に好ましくは0.0060以下、とりわけ好ましくは0.0058以下である。前記指標Eが小さければ小さいほど該積層フィルムを含んでなる電子回路の伝送損失は低くなるため、前記指標Eの下限は特に制限されず、例えば0以上であってよい。
【0168】
本発明の一実施形態において、積層フィルムの10GHzにおけるDfは、積層フィルムを電子回路に組み込んだ際に該電子回路の伝送損失を低減する観点から、好ましくは0.0040以下、より好ましくは0.0035以下、さらに好ましくは0.0033以下、特に好ましくは0.0032以下、とりわけ好ましくは0.0030以下である。前記Dfが小さければ小さいほど該積層フィルムを含んでなる電子回路の伝送損失は低くなるため、前記Dfの下限は特に制限されず、例えば0以上であってよい。
【0169】
本発明の一実施形態において、積層フィルムの10GHzにおけるDkは、好ましくは3.500以下、より好ましくは3.450以下、さらに好ましくは3.400以下である。
【0170】
積層フィルムのDf及びDkは、ベクトルネットワークアナライザ及び共振器を用いて測定でき、例えば実施例に記載の方法で測定できる。
【0171】
本発明の積層フィルムには、通常工業的に採用されている方法によって、コロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0172】
本発明の積層フィルムの突刺強度は、好ましくは2.0N以上、より好ましくは3.0N以上であり、さらに好ましくは5.0N以上、特に好ましくは8.0N以上、とりわけ好ましくは9.0N、とりわけより好ましくは10.0N以上である。言い換えると、本発明の積層フィルムの単位厚み当たりの突刺強度は、好ましくは0.05N/μm以上、より好ましくは0.07N/μm以上、さらに好ましくは0.10N/μm以上、さらにより好ましくは0.12N/μm以上、特に好ましくは0.18N/μm以上、特により好ましくは0.22N/μmである。積層フィルムの突刺強度が上記の下限以上であると、フィルムの厚み方向に衝撃を受けた際の破損を有効に抑制できる。積層フィルムの突刺強度の上限は、限定されず、例えば30N以下であってもよい。突刺強度は、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、JIS Z 1707に準拠して小型卓上試験機を用いて測定できる。具体的には、例えば後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0173】
本発明の積層フィルムは、突刺強度が高いため、プリント回路基板やアンテナ基板に対応可能な基板材料などに好適に利用できる。また、本発明の積層フィルムは、Dfが低いため、高周波信号を伝送する高周波帯域であっても低い伝送損失を実現できるため、特に5G等の高速通信用途のプリント回路基板やアンテナ基板に対応可能な基板材料として好適である。
【0174】
〔積層シート〕
本発明の積層フィルムは、十分に高い突刺強度を有しながら、Dfを低減することが可能であるため、FPCに用いられる金属張積層板の形成に好適に使用し得る。したがって、本発明は、本発明の積層フィルムと金属箔層とを含む積層シートを包含する。本発明の一実施形態において、本発明の積層シートは、金属箔層を本発明の積層フィルムの片面のみに含んでいてもよく、両面に含んでいてもよい。
【0175】
本発明の一実施形態において、金属箔層を構成する金属としては、上記に記載の金属が挙げられる。これらの中でも、金属箔層は、銅箔層、銅合金箔層、SUS箔層、アルミニウム箔層等が好ましく、導電性及び金属加工性の観点からは、銅箔層又は銅合金箔層がより好ましく、銅箔層が特に好ましい。
【0176】
本発明の一実施形態において、金属箔層、特に銅箔層の厚さは、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上であり、また、回路の微細化をしやすく、屈曲耐性を向上しやすい観点から、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは30μm以下、特に好ましくは20μm以下である。金属箔層、特に銅箔層の厚さは、膜厚計等を用いて測定できる。なお、積層フィルムの両面に金属箔層、特に銅箔層を含む場合、各金属箔層、特に各銅箔層の厚さは互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0177】
本発明の積層シートは、本発明の積層フィルム及び金属箔層、特に銅箔層に加えて、機能層等の他の層を含んでいてもよい。機能層としては、例えば、接着層などが挙げられる。機能層は単独又は二種以上組合せて使用できる。
【0178】
本発明の一実施形態において、本発明の積層シートは、金属箔層及び3層以上のPI系樹脂含有層からなる積層フィルムから構成される金属張積層板であってもよく、金属箔層、3層以上のPI系樹脂含有層と接着層とからなる積層フィルムから構成される金属張積層板であってもよいが、耐熱性、寸法安定性及び軽量化の観点からは、接着層を含まない金属張積層板であることが好ましい。
また、本発明の積層フィルムは、比較的低いイミド化温度で成膜可能であり、銅箔上でPI系樹脂前駆体塗膜の熱イミド化を行うことによって金属箔が銅箔である積層シートを製造しても、銅箔表面の劣化を抑制しながら十分に高い突刺強度や低いDfを実現できる。したがって、本発明の積層シートは、接着層を含んでいなくとも、優れた高周波特性を有する。
【0179】
また、本発明の一実施形態において、本発明の積層フィルムと金属箔層、特に銅箔層とは直接接していてもよく、積層フィルムと金属箔層、特に銅箔層との間に機能層が挿入され、これらが機能層を介して接していてもよいが、突刺強度や熱物性を向上する観点からは、積層フィルムと金属箔層、特に銅箔層とが直接接していることが好ましい。
【0180】
<積層シートの製造方法>
本発明の積層シートは、例えば、以下の工程:
PI系樹脂前駆体溶液を金属箔上に塗工する工程、及び
200℃以上500℃以下の熱処理によって、PI系樹脂前駆体をイミド化して、本発明の積層フィルムを金属箔上に形成する工程
を含む方法により製造できる。
【0181】
上記製造方法においては、先に記載の本発明の積層フィルムの製造方法における各工程の記載が同様に当てはまり、好適な態様等も同様である。
【0182】
本発明の積層シートは、上記方法以外の方法、例えば、積層シートに含まれる金属箔以外の別の支持基材上にPI系樹脂前駆体溶液を塗工及び乾燥することにより得られるPI系樹脂前駆体の乾燥膜を、前記基材から剥離し、剥離された前記PI系樹脂前駆体の乾燥膜を金属箔に貼合せる方法により製造してもよい。PI系樹脂前駆体の乾燥膜と金属箔とを貼合せる方法としては、プレスによる方法、熱ロールを使用したラミネート方法等を採用してよく、貼合せる工程において、PI系樹脂前駆体のイミド化を同時に行ってもよい。しかし、本発明の積層フィルムは、比較的低いイミド化温度で成膜可能であり、銅箔上でPI系樹脂前駆体塗膜の熱イミド化を行うことによって金属箔が銅箔である積層シートを製造しても、銅箔表面の劣化を抑制しながら高い突刺強度や低いDfを実現できる。したがって、本発明の積層シートは、上記のような貼合工程を経ることなく製造しても、優れた高周波特性を有する。
【0183】
(フレキシブルプリント回路基板)
本発明の積層フィルムは、突刺強度に優れるため、FPC基板材料として好適に利用できる。また、本発明の積層フィルムは、低いDfを有し得るため、該積層フィルムを組み込んでなる電気回路の伝送損失を低減することができる。さらに、本発明の積層フィルムは、CTEも低く、熱物性にも優れるため、FPC基板材料、特に5G等の高速通信用途のFPC基板材料として好適に利用できる。したがって、本発明は本発明の積層フィルム又は積層シートを含むフレキシブルプリント回路基板も包含する。
【実施例0184】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0185】
実施例及び比較例で使用した略号は、以下の化合物を示す。
BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
BP-TME:4,4’―ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-イルカルボニルオキシ)ビフェニル
PMDA:無水ピロメリット酸
m-Tb:4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニル
TPE-Q:1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン
TPER:1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン
【0186】
1.ポリイミド系樹脂前駆体溶液の調製
(1)ポリイミド系樹脂前駆体溶液1
m-Tb 48.61g(228.9mmol)、及びTPE-Q 66.92g(228.9mmol)をDMAc 1598gに溶解させた後、BP-TME 118.22g(221.2mmol)を加えて窒素雰囲気下20℃で1時間撹拌した。その後、PMDA 48.25g(221.2mmol)を加えて窒素雰囲気下20℃で3時間撹拌し、PI系樹脂前駆体溶液1を得た。用いた酸二無水物モノマーに対するジアミンモノマーのモル比(アミン比)は1.04であった。
【0187】
(2)ポリイミド系樹脂前駆体溶液2
m-Tb 9.87g(46.5mmol)、及びTPE―R 122.35g(418.5mmol)をDMAc 1890gに溶解させた後、PMDA 30.26g(138.7mmol)、及びBPDA 95.25g(323.7mmol)を順に加えて窒素雰囲気下20℃で3時間撹拌し、PI系樹脂前駆体溶液2を得た。用いた酸二無水物モノマーに対するジアミンモノマーのモル比(アミン比)は1.01であった。
【0188】
(3)ポリイミド系樹脂前駆体溶液3
m-Tb 44.34g(208.8mmol)、及びTPE―R 61.06g(208.8mmol)をDMAc 1598gに溶解させた後、BPDA 85.39g(290.2mmol)、及びPMDA 27.13g(124.4mmol)を順に加えて窒素雰囲気下20℃で3時間撹拌し、PI系樹脂前駆体溶液3を得た。用いた酸二無水物モノマーに対するジアミンモノマーのモル比(アミン比)は1.01であった。
【0189】
(4)ポリイミド系樹脂前駆体溶液4
m-Tb 57.72g(271.9mmol)、及びTPE-Q 8.83g(30.2mmol)をDMAc 810gに溶解させた後、PMDA 32.53g(149.1mmol)とBPDA 43.87g(149.1mmol)を加えて窒素雰囲気下20℃で3時間撹拌し、PI系樹脂前駆体溶液4を得た。用いた酸二無水物モノマーに対するジアミンモノマーのモル比は1.01であった。
【0190】
<貯蔵弾性率の測定>
上記PI系樹脂前駆体溶液1~4に含まれるPI系樹脂の貯蔵弾性率は、以下の方法で作製したPI系樹脂フィルムを測定することにより求めた。
それぞれのPI系樹脂前駆体溶液を、乾燥厚みが30μmとなるようにガラス基板上に流涎成形し、PI系樹脂前駆体溶液の塗膜を成形した。前記塗膜を120℃で30分間加熱し、得られたフィルムをガラス基板から剥離した後、金枠にフィルムを固定した。金枠に固定したフィルムを酸素濃度1%雰囲気下で、320℃で5分間維持し、PI系樹脂フィルムを得た。
動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御(株)製、DVA-220)を用い、次のような試料及び条件下で測定して、貯蔵弾性率(Storage modulus、E’)を得た。
試験片:長さ40mm、幅5mm、厚さ30μmの直方体
実験モード:単一周波数、定速昇温
実験様式:引張
サンプルつかみ間長:15mm
測定開始温度:室温~342℃
昇温速度:5℃/分
周波数:10Hz
静/動応力比:1.8
上記方法により測定した結果、PI系樹脂前駆体溶液1から形成されたPI系樹脂は、40℃における貯蔵弾性率が2.3×109Pa、300℃における貯蔵弾性率が2.8×108Paであり、PI系樹脂前駆体溶液2から形成されたPI系樹脂は、40℃における貯蔵弾性率が2.4×109Pa、300℃における貯蔵弾性率が1.1×107Paであり、PI系樹脂前駆体溶液3から形成されたPI系樹脂は、40℃における貯蔵弾性率が2.3×109Pa、300℃における貯蔵弾性率が1.2×107Paであり、PI系樹脂前駆体溶液4から形成されたPI系樹脂フィルムは、40℃における貯蔵弾性率が7.5×109Pa、300℃における貯蔵弾性率が4.8×108Paであった。
【0191】
2.積層フィルムの作製
(1)実施例1
電解銅箔(厚さ12μm)の粗化面側(表面粗さ;Rz=0.6μm)に、上層/中層/下層として、上記で調製したPI系樹脂前駆体溶液2/PI系樹脂前駆体溶液1/PI系樹脂前駆体溶液2を、それぞれ乾燥厚みで7.0μm/37.1μm/6.0μmとなるように同時に塗工して、PI系前駆体溶液の塗膜の積層体を成形した。次いで、前記塗膜の積層体を100℃で10分間加熱して乾燥させた後、この銅箔とPI系樹脂前駆体とからなる積層体を金枠に固定した。酸素濃度1%雰囲気下で、30分間かけて30℃から360℃まで昇温した後、360℃で5分間保持した。得られたPI系樹脂含有層と銅箔とからなる銅箔付き積層フィルムを大容量の濃度40質量%の塩化第二鉄水溶液に室温で10分間浸漬した後、塩化第二鉄水溶液を純水で洗浄した。目視で銅の残存がないことを確認した後、80℃で1時間乾燥して、3層のPI系樹脂含有層(積層体(L)に相当)からなる積層フィルム1を得た。該積層フィルム1の厚みは50.1μmであった。
【0192】
(2)実施例2
上層/中層/下層の各乾燥厚みが7.1μm/37.8μm/6.1μmとなるように塗工した以外は実施例1と同様にして、PI系前駆体溶液の塗膜の積層体を成形した。次いで、前記塗膜の積層体を100℃で10分間加熱して乾燥させた後、この銅箔とPI系樹脂前駆体とからなる積層体を金枠に固定した。酸素濃度1%雰囲気下で、20分間かけて30℃から200℃まで昇温した後、10分間かけて200℃から360℃まで更に昇温し、その後360℃で5分間加熱保持した。得られたPI系樹脂含有層と銅箔とからなる銅箔付き積層フィルムを大容量の濃度40質量%の塩化第二鉄水溶液に室温で10分間浸漬した後、塩化第二鉄水溶液を純水で洗浄した。目視で銅の残存がないことを確認した後、80℃で1時間乾燥して、3層のPI系樹脂含有層(積層体(L)に相当)からなる積層フィルム2を得た。該積層フィルム2の厚みは51.0μmであった。
【0193】
(3)実施例3
電解銅箔(厚さ12μm)の粗化面側(表面粗さ;Rz=0.6μm)に、上層/中層/下層として、上記で調製したPI系樹脂前駆体溶液3/PI系樹脂前駆体溶液1/PI系樹脂前駆体溶液3を、それぞれ乾燥厚みで6.6μm/36.8μm/7.3μmとなるように同時に塗工して、PI系前駆体溶液の塗膜の積層体を成形した。次いで、前記塗膜の積層体を100℃で10分間加熱して乾燥させた後、この銅箔とPI系樹脂前駆体とからなる積層体を金枠に固定した。酸素濃度1%雰囲気下で、40分間かけて30℃から200℃まで昇温した後、20分間かけて200℃から360℃まで更に昇温し、その後360℃で5分間加熱保持した。得られたPI系樹脂含有層と銅箔とからなる銅箔付き積層フィルムを大容量の濃度40質量%の塩化第二鉄水溶液に室温で10分間浸漬した後、塩化第二鉄水溶液を純水で洗浄した。目視で銅の残存がないことを確認した後、80℃で1時間乾燥して、3層のPI系樹脂含有層(積層体(L)に相当)からなる積層フィルム3を得た。該積層フィルム3の厚みは50.7μmであった。
【0194】
(4)実施例4
上層/中層/下層の各乾燥厚みが6.4μm/35.5μm/7.0μmとなるように塗工した以外は実施例3と同様にして、PI系樹脂前駆体溶液の塗膜の積層体を成形した。前記塗膜の積層体を100℃で10分間加熱して乾燥させた後、この銅箔とPI系樹脂前駆体とからなる積層体を金枠に固定した。酸素濃度1%雰囲気下で、52分間かけて30℃から200℃まで昇温した後、8分間かけて200℃から360℃まで更に昇温し、その後360℃で5分間加熱保持した。得られたPI系樹脂含有層と銅箔とからなる銅箔付き積層フィルムを大容量の濃度40質量%の塩化第二鉄水溶液に室温で10分間浸漬した後、塩化第二鉄水溶液を純水で洗浄した。目視で銅の残存がないことを確認した後、80℃で1時間乾燥して、3層のPI系樹脂含有層(積層体(L)に相当)からなる積層フィルム4を得た。該積層フィルム4の厚みは48.9μmであった。
【0195】
(5)実施例5
上層/中層/下層の各乾燥厚みが6.6μm/36.6μm/7.3μmとなるように塗工した以外は実施例3と同様にして、PI系樹脂前駆体溶液の塗膜の積層体を成形した。前記塗膜の積層体を100℃で10分間加熱して乾燥させた後、この銅箔とPI系樹脂前駆体とからなる積層体を金枠に固定した。酸素濃度1%雰囲気下で、20分間かけて30℃から200℃まで昇温した後、10分間かけて200℃から360℃まで更に昇温し、その後360℃で5分間加熱保持した。得られたPI系樹脂含有層と銅箔とからなる銅箔付き積層フィルムを大容量の濃度40質量%の塩化第二鉄水溶液に室温で10分間浸漬した後、塩化第二鉄水溶液を純水で洗浄した。目視で銅の残存がないことを確認した後、80℃で1時間乾燥して、3層のPI系樹脂含有層(積層体(L)に相当)からなる積層フィルム5を得た。該積層フィルム5の厚みは50.5μmであった。
【0196】
(6)比較例1
上層/中層/下層の各乾燥厚みが7.1μm/37.8μm/6.1μmとなるように塗工した以外は実施例1と同様にして、PI系樹脂前駆体溶液の塗膜の積層体を成形した。前記塗膜の積層体を100℃で10分間加熱して乾燥させた後、この銅箔とPI系樹脂前駆体とからなる積層体を金枠に固定した。酸素濃度1%雰囲気下で、40分間かけて30℃から160℃まで昇温した後、20分間かけて160℃から320℃まで更に昇温し、その後320℃で5分間加熱保持した。得られたPI系樹脂含有層と銅箔とからなる銅箔付き積層フィルムを大容量の濃度40質量%の塩化第二鉄水溶液に室温で10分間浸漬した後、塩化第二鉄水溶液を純水で洗浄した。その後、目視で銅の残存がないことを確認した後、80℃で1時間乾燥して、3層のPI系樹脂含有層(積層体(L)に相当)からなる積層フィルム6を得た。該積層フィルム6の厚みは51.0μmであった。
【0197】
(7)実施例6
電解銅箔(厚さ12μm)の粗化面側(表面粗さ;Rz=0.6μm)に、PI系樹脂前駆体溶液2を乾燥厚みが5.0μmとなるように塗工し、塗膜を得た。前記塗膜を120℃で10分間加熱して乾燥させ、その乾燥させた塗膜上にPI系樹脂前駆体溶液4を乾燥厚みが36.0μmとなるように塗工して2層積層塗膜を得た。前記2層積層塗膜を120℃で30分間加熱して乾燥させ、乾燥させた2層積層塗膜上にPI系樹脂前駆体溶液2を乾燥厚みが5.0μmとなるように塗工し、3層積層塗膜を得た。前記3層積層塗膜を120℃で30分間加熱して乾燥後、この銅箔とPI系樹脂前駆体とからなる積層体を金枠に固定した。酸素濃度1%雰囲気下で、20分間かけて30℃から200℃まで昇温した後、10分間かけて200℃から360℃まで更に昇温し、その後360℃で5分間加熱保持した。得られたPI系樹脂含有層と銅箔とからなる銅箔付き積層フィルムを大容量の濃度40質量%の塩化第二鉄水溶液に室温で10分間浸漬した後、塩化第二鉄水溶液を純水で洗浄した。目視で銅の残存がないことを確認した後、80℃で1時間乾燥して、3層のPI系樹脂含有層(積層体(L)に相当)からなる積層フィルム7を得た。該積層フィルム7の厚みは46.0μmであった。
【0198】
実施例及び比較例で得られた積層フィルム1~7について、各測定及び評価を行った。以下に測定及び評価方法を説明する。
【0199】
<膜厚測定>
実施例及び比較例で得られた積層フィルム1~7から、それぞれ、5mm×5mmで任意の箇所を切り出し、樹脂で包埋することで膜厚測定用サンプルを作成した。作成した膜厚測定用サンプルにおいて、ミクロトームにより切削することで測定断面を作製し、レーザー顕微鏡を用いて、下記条件にて3層のPI系樹脂含有層の各厚み及び積層フィルムの厚み(3層の合計厚みT:積層体(L)の厚みに相当)を測定した。
装置:オリンパス(株)製 LEXT OLS4100
観察倍率:100倍
【0200】
<Df及びDkの測定>
実施例及び比較例で得られた積層フィルム1~7から、それぞれ、50mm×50mmの測定サンプルを切り出し、Df及びDkを以下の条件で測定した。なお、測定は、測定サンプルを23℃/50%RHで24時間調湿した後に行った。
装置:アンリツ(株)製 コンパクトUSBベクトルネットワークアナライザ(製品名:MS46122B)
(株)エーイーティー製空洞共振器(TEモード 10GHzタイプ)
測定周波数:10GHz
測定雰囲気:23℃/50%RH
【0201】
<誘電損失の指標Eの評価>
実施例及び比較例で得られた積層フィルム1~7の誘電損失の指標Eは、下記式に基づき算出した。
E=Df×(Dk)1/2 (i)
Df:誘電正接
Dk:比誘電率
【0202】
<線熱膨張係数(CTE)の測定>
実施例及び比較例で得られた積層フィルム1~7のCTEは、熱機械分析装置TMAを用いて、下記条件で測定を行い、50℃から100℃におけるCTEを算出した。
装置:(株)日立ハイテクサイエンス製 TMA/SS7100
荷重:50.0mN
温度プログラム:20℃から130℃まで5℃/分の速度で昇温
試験片:長さ40mm、幅5mm
【0203】
<突刺強度の測定>
実施例及び比較例で得られた積層フィルム1~7の突刺強度は、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、JIS Z 1707に準拠して株式会社島津製作所社製 小型卓上試験機 EZ-LXを用いて測定した。具体的には、幅50mm、長さ50mmの試験片を用いて、Φ2.5mmかつ先端形状直径0.5mm半円形の針の加圧子をロードセル50N、試験速度200mm/分の条件で試験を行い、破断点変位を測定し、その際の最大荷重を突刺強度とした。
【0204】
<全光線透過率、及び拡散光線透過率の測定>
実施例及び比較例で得られた積層フィルム1~7の全光線透過率Tt及び拡散光線透過率Tdは、それぞれJIS K 7361及びJIS K 7136に準拠して、幅50mm、長さ50mmの試験片において、株式会社村上色彩技術研究所製 ヘーズメーター HM―150を用いて測定した。
また、得られたTt、Tdおよびフィルムの厚みTの値から、下記式(I):
Tt/((T×(Td)1/2)の値を算出した。
【0205】
上記各測定を行った結果を表1に示す。表1において、「PI系樹脂前駆体種類」の欄に記載の番号は、使用したPI系樹脂前駆体溶液の番号を表す。
【0206】
【0207】
表1に示されるように、実施例1~6で得られた積層フィルムは、比較例1の積層フィルムと比べて、突刺強度が十分に高いことが確認された。さらに、実施例1~6で得られた積層フィルムは、比較例1の積層フィルムと比べて、Dfが低く、誘電損失の指標Eも低いことが確認された。