(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123104
(43)【公開日】2024-09-10
(54)【発明の名称】海産魚類に寄生する微胞子虫及び粘液胞子虫による疾患の治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/27 20060101AFI20240903BHJP
A61P 33/02 20060101ALI20240903BHJP
A61K 31/4184 20060101ALI20240903BHJP
A01K 61/13 20170101ALI20240903BHJP
【FI】
A61K31/27
A61P33/02 171
A61K31/4184
A01K61/13
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024097535
(22)【出願日】2024-06-17
(62)【分割の表示】P 2022170577の分割
【原出願日】2017-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2016187723
(32)【優先日】2016-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】株式会社ニッスイ
(71)【出願人】
【識別番号】514149727
【氏名又は名称】黒瀬水産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【弁理士】
【氏名又は名称】寺地 拓己
(72)【発明者】
【氏名】平澤 徳高
(72)【発明者】
【氏名】秋山 孝介
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は海産魚類(特に、養殖魚)における微胞子虫又は粘液胞子虫の経口投与薬剤による駆除方法を提供する。
【解決手段】本発明によりアルベンダゾール、フェバンテル、フルベンダゾール、フェンベンダゾール、オクスフェンダゾール、メベンダゾールのいずれかを有効成分として含有する海産魚類に寄生する微胞子虫によるべこ病又は粘液胞子虫症の駆除剤が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載された発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海産魚類の寄生虫の駆除剤及び寄生虫駆除方法に関する。詳細には、海産魚類に寄生する微胞子虫により発症するべこ病又は粘液胞子虫症を経口投与により駆除する薬剤及び駆除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブリのべこ病の原因寄生虫は、ミクロスポリジウム・セリオレ(Microsporidium seriolae)である。微胞子虫においては、新種であることが明らかで属レベル以上の分類学的
位置の特定が困難な場合、Microsporidiumという集合的な属に置くことができ、ブリ類のべこ病の原因寄生虫の場合にもこのことが当てはまる。本虫のブリへの寄生は1982年に報告され、その後、ヒラマサ、カンパチにも寄生が認められている。本症の特徴は、罹病魚の体側筋に白色不整形の数mmから1cm程の寄生体の小シスト集塊が形成されることである
。シスト内で胞子形成が完了し、シストが崩壊すると周辺の筋肉は融解するため、その部位の体表が陥没したように見える。このため、外観的に体表に凹凸が生じることがべこ病と呼ばれる所以である。寄生部位が躯幹の広範囲に及び、時には魚は著しく痩せて死亡する。患部が限局されており、しかも二次的な細菌などの感染がなければ、シストが融解し、微胞子虫が体外へ脱出した後の傷口は自然治癒する。しかし、全てのシストが融解して本虫が体外に脱出する訳ではなく、出荷までの長い期間を経ても躯幹にシストが存在することが分かっており、商品価値を下げる原因の一つになっている。本症に対する治療薬は開発されていないのが現状であり、その被害は続いている。
【0003】
ブリ以外の魚種においても、マダイ、クロマグロ等において、微胞子虫によるべこ病が知られている。
【0004】
ブリの脳粘液胞子虫症の原因寄生虫は、クドア・ヤスナガイ(Kudoa yasunagai)であ
る。本虫は、1980年に長崎県の養殖スズキと養殖イシダイで異常遊泳を伴う病魚の脳から見つかった。胞子が通常7個の胞子殻と極嚢を持つことから、新種のSeptemcapsula yasunagaiとして記載された。しかし、その後の分子系統学的解析によってSeptemcapsulidae科およびSeptemcapsula属は削除され、本種はKudoa属に転属された。罹病魚は体を屈曲させ、旋回するような特徴ある遊泳を示す。ブリの場合、体躯が湾曲する場合もある。脳周囲に小球状の白色シストが見られる。本疾病を防除するのに有効な対策はない。
【0005】
ブリ以外の魚種においても、マグロ、ヒラメ等において、クドア属の粘液胞子虫によるクドア症とも呼ばれる粘液胞子虫症が知られており、フグでは、エンテロミクサム属又はレプトセカ属の粘液胞子虫による腸管粘液胞子虫症(フグ痩せ病とも呼ばれる)が知られている。
【0006】
ベンゾイミダゾール系薬剤は、抗寄生虫薬として知られており、日本では、メベンダゾールが蟯虫症治療薬として、アルベンダゾールが包虫症治療薬として、フルベンダゾールが円虫目、回虫目線虫用の動物用医薬品として、フェバンテル、フェンベンダゾールが線虫や条虫に対する動物用医薬品として認可されている。水産用では、フェバンテルがフグ用に認可されている。
【0007】
ニジマスに寄生する微胞子虫であるLoma salmonaeに対するアルベンダゾールの効果を
試験した報告がある(非特許文献1)。ニジマスに寄生する単生類の寄生虫Gyrodactylus sp.に対するFlubendazole, Mebendazole, Oxibendazole, Parbendazole, Triclabendazoleの効果を試験した報告がある(非特許文献2)。ターボットやシーバスに寄生する繊毛虫
であるPhilasterides dicentrarchiに対するFlubendazole, Mebendazole, Oxibendazole,
Parbendazole, Triclabendazoleの効果をin vitroで試験した報告がある(非特許文献3)。イトヨに寄生する微胞子虫であるGlugea anomalaに対するAlbendazole, Mebendazole, Fenbendazoleの効果を試験した報告がある(非特許文献4)。トラフグに寄生する単生虫であるヘテロボツリウム・オカモトイに対してベンゾイミダゾール系薬剤が有効であるという報告がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】D.J. Speare, et al., J.Comp. Path. 121, 241-248, 1999. “A Preliminary Investigation of Alternatives to Fumagillin for the Treatment of Loma salmonae Infection in Rainbow Trout”.
【非特許文献2】J. L. Tojo, M. T. Santamarina, Disease of Aquatic Organisms, 33, 187-193, 1998. “Oral pharmacological treatments for parasitic diseases of rainbow trout Oncorhynchus mykiss. II: Gyrodactylus sp.”.
【非特許文献3】R. Iglesias, et al., Disease of Aquatic Organisms, 49, 191-197, 2002. “Antiprotozoals effective in vitro against the scuticociliate fish pathogen Philasterides dicentrarchi”.
【非特許文献4】Schmahl G., Benini J., Parasitol Res., 84(1), 41-49, 1998. “Treatment of fish parasites. 11. Effects of different benzimidazole derivatives (albendazole, mebendazole, fenbendazole) on Glugea anomala, Monies, 1887 (Microsporidia): ltrastructural aspects and efficacy studies.”.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、海産魚類(特に、養殖魚)におけるべこ病又は粘液胞子虫症の経口投与薬剤、当該薬剤による駆除方法などを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、ブリ類の養殖において重要な問題となっているべこ病に有効な経口投与薬剤を求めて、既存の動物用各種抗寄生虫薬や天然物由来物質等を探索した。その結果、動物用抗寄生虫薬として販売されているベンゾイミダゾール系薬剤のうち、一部の薬剤が有効であることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
本発明は、以下の(1)~(24)の魚類に寄生する微胞子虫又は粘液胞子虫による疾患の治療剤などを要旨とする。
(1)アルベンダゾール、フェバンテル、フェンベンダゾール、オクスフェンダゾール、メベンダゾール、及びフルベンダゾールのいずれかを有効成分とする、海産魚類のべこ病又は粘液胞子虫症の治療剤。
(2)べこ病の原因寄生虫が、ミクロスポリジウム属(Microsporidium)、又はスプラグエラ属(Spraguera)に属する微胞子虫である、(1)のべこ病の治療剤。
(3)粘液胞子虫症の原因寄生虫が、クドア属(Kudoa)、エンテロミクサム属(Enteromyxum)、及びレプトセカ属(Leptotheca)のいずれかに属する粘液胞子虫である、(1)の粘液胞子虫症の治療剤。
(4)海産魚類が、スズキ目、カレイ目又はフグ目の魚類である、(1)ないし(3)の治療剤。
(5)スズキ目の魚類がブリ属、タイ科又はマグロ属に属する魚類であり、カレイ目の魚
類がヒラメ科に属する魚類であり、フグ目に属する魚類がフグ科に属する魚類である、(4)の治療剤。
(6)ブリ属に属する魚類がブリ(Seriola quinqueradiata)、カンパチ(Seriola dumerili)、ヒラマサ(Seriola lalandi)、ヒレナガカンパチ(Seriola rivoliana)、Seriola carpenteri、Seriola fasciata、ミナミカンパチ(Seriola hippos)、Seriola peruana、及びSeriola zonataのいずれかであり、タイ科に属する魚類が、ミナミクロダイ(Acanthopagrus sivicolus)、タイワンダイ(Argyrops bleekeri Oshima)、キダイ(Dentex tumifrons)、チダイ(Evynnis tumifrons)、マダイ(Pagrus major)、クロダイ(Acanthopagrus schlegelii)、及びヘダイ(Rhabdosargus sarba、Sparus sarba)のいずれかであり
、マグロ属に属する魚類が、クロマグロ(Thunnus orientalis)、タイセイヨウクロマグロ(Thunnus thynnus)、ミナミマグロ(Thunnus maccoyii)、メバチマグロ(Thunnus obesus)、ビンナガマグロ(Thunnus alalunga)、キハダマグロ(Thunnus albacares)、コシナガマグロ(Thunnus tonggol)、及びタイセイヨウマグロ(Thunnus atlanticus)
のいずれかであり、ヒラメ科に属する魚類が、ヒラメ(Paralichthys olivaceus)、カリフォルニアハリバット(Paralichthys californicus)、ナツヒラメ(Paralichthys dentatus)、タマガンゾウビラメ(Pseudorhombus pentophthalmus)、ガンゾウヒラメ(Pseudorhombus cinnamoneus)、メガレイ(Pseudorhombus dupliciocellatus)、テンジクガ
レイ(Pseudorhombus arsius)、及びアラメガレイ(Tarphops oligolepis)のいずれか
であり、フグ科に属する魚類がトラフグ(Takifugu rubripes)又はマフグ(Takifugu porphyreus)である、(5)の治療剤。
(7)1日当たり、有効成分を5~100mg/kg魚体重経口投与するための(1)ないし(6)いずれかの治療剤。
(8)アルベンダゾール、フェバンテル、フェンベンダゾール、オクスフェンダゾール、及びメベンダゾールのいずれかを有効成分とする、海産魚類のべこ病の治療剤。
(9)アルベンダゾールを有効成分とする、海産魚類のべこ病又は粘液胞子虫症の治療剤。
(10)アルベンダゾール又はフルベンダゾールを有効成分とする、粘液胞子虫症の治療剤。
(11)海産魚類のベこ病又は粘液胞子虫症の治療方法であって、有効量のアルベンダゾール、フェバンテル、フェンベンダゾール、オクスフェンダゾール、メベンダゾール、及びフルベンダゾールのいずれかを海産魚類に経口投与することを特徴とする、前記方法。(12)べこ病の原因寄生虫が、ミクロスポリジウム属(Microsporidium)、又はスプラグエラ属(Spraguera)に属する微胞子虫である、(11)のべこ病の治療方法。
(13)粘液胞子虫症の原因寄生虫が、クドア属(Kudoa)、エンテロミクサム属(Enteromyxum)、及びレプトセカ属(Leptotheca)のいずれかに属する粘液胞子虫である、(11)の粘液胞子虫症の治療方法。
(14)海産魚類が、スズキ目、カレイ目又はフグ目の魚類である、(11)ないし(13)の方法。
(15)スズキ目の魚類が、ブリ属、タイ科又はマグロ属に属する魚類であり、カレイ目の魚類がヒラメ科に属する魚類であり、フグ目に属する魚類がフグ科に属する魚類である、(14)の方法。
(16)ブリ属に属する魚類がブリ(Seriola quinqueradiata)、カンパチ(Seriola dumerili)、ヒラマサ(Seriola lalandi)、ヒレナガカンパチ(Seriola rivoliana)、Seriola carpenteri、Seriola fasciata、ミナミカンパチ(Seriola hippos)、Seriola peruana、及
びSeriola zonataのいずれかであり、タイ科に属する魚類が、ミナミクロダイ(Acanthopagrus sivicolus)、タイワンダイ(Argyrops bleekeri Oshima)、キダイ(Dentex tumifrons)、チダイ(Evynnis tumifrons)、マダイ(Pagrus major)、クロダイ(Acanthopagrus schlegelii)、及びヘダイ(Rhabdosargus sarba、Sparus sarba)のいずれかであり、マグロ属に属する魚類が、クロマグロ(Thunnus orientalis)、タイセイヨウクロマグロ(Thunnus thynnus)、ミナミマグロ(Thunnus maccoyii)、メバチマグロ(Thunnus
obesus)、ビンナガマグロ(Thunnus alalunga)、キハダマグロ(Thunnus albacares)、コシナガマグロ(Thunnus tonggol)、及びタイセイヨウマグロ(Thunnus atlanticus
)のいずれかであり、ヒラメ科に属する魚類が、ヒラメ(Paralichthys olivaceus)、カリフォルニアハリバット(Paralichthys californicus)、ナツヒラメ(Paralichthys dentatus)、タマガンゾウビラメ(Pseudorhombus pentophthalmus)、ガンゾウヒラメ(Pseudorhombus cinnamoneus)、メガレイ(Pseudorhombus dupliciocellatus)、テンジク
ガレイ(Pseudorhombus arsius)、及びアラメガレイ(Tarphops oligolepis)のいずれ
かであり、フグ科に属する魚類がトラフグ(Takifugu rubripes)又はマフグ(Takifugu porphyreus)である、(15)の方法。
(17)アルベンダゾール、フェバンテル、フェンベンダゾール、オクスフェンダゾール、メベンダゾール、及びフルベンダゾールのいずれかを1日当たり5~100mg/kg魚体重経口投与する、(11)ないし(16)いずれかの方法。
(18)海産魚類のベこ病又は粘液胞子虫症の治療のための医薬の製造におけるアルベンダゾール、フェバンテル、フェンベンダゾール、オクスフェンダゾール、メベンダゾール、及びフルベンダゾールのいずれかの使用。
(19)べこ病の原因寄生虫が、ミクロスポリジウム属(Microsporidium)、又はスプラグエラ属(Spraguera)に属する微胞子虫である、(18)の使用。
(20)粘液胞子虫症の原因寄生虫が、クドア属(Kudoa)、エンテロミクサム属(Enteromyxum)、及びレプトセカ属(Leptotheca)のいずれかに属する粘液胞子虫である、(18)の使用。
(21)海産魚類が、スズキ目、カレイ目又はフグ目の魚類である、(18)ないし(20)の使用。
(22)スズキ目の魚類が、ブリ属、タイ科又はマグロ属に属する魚類であり、カレイ目の魚類がヒラメ科に属する魚類であり、フグ目に属する魚類がフグ科に属する魚類である、(21)の使用。
(23)ブリ属に属する魚類がブリ(Seriola quinqueradiata)、カンパチ(Seriola dumerili)、ヒラマサ(Seriola lalandi)、ヒレナガカンパチ(Seriola rivoliana)、Seriola carpenteri、Seriola fasciata、ミナミカンパチ(Seriola hippos)、Seriola peruana、及
びSeriola zonataのいずれかであり、タイ科に属する魚類が、ミナミクロダイ(Acanthopagrus sivicolus)、タイワンダイ(Argyrops bleekeri Oshima)、キダイ(Dentex tumifrons)、チダイ(Evynnis tumifrons)、マダイ(Pagrus major)、クロダイ(Acanthopagrus schlegelii)、及びヘダイ(Rhabdosargus sarba、Sparus sarba)のいずれかであり、マグロ属に属する魚類が、クロマグロ(Thunnus orientalis)、タイセイヨウクロマグロ(Thunnus thynnus)、ミナミマグロ(Thunnus maccoyii)、メバチマグロ(Thunnus
obesus)、ビンナガマグロ(Thunnus alalunga)、キハダマグロ(Thunnus albacares)、コシナガマグロ(Thunnus tonggol)、及びタイセイヨウマグロ(Thunnus atlanticus
)のいずれかであり、ヒラメ科に属する魚類が、ヒラメ(Paralichthys olivaceus)、カリフォルニアハリバット(Paralichthys californicus)、ナツヒラメ(Paralichthys dentatus)、タマガンゾウビラメ(Pseudorhombus pentophthalmus)、ガンゾウヒラメ(Pseudorhombus cinnamoneus)、メガレイ(Pseudorhombus dupliciocellatus)、テンジク
ガレイ(Pseudorhombus arsius)、及びアラメガレイ(Tarphops oligolepis)のいずれ
かであり、フグ科に属する魚類がトラフグ(Takifugu rubripes)又はマフグ(Takifugu porphyreus)である、(22)の使用。
(24)該医薬は、アルベンダゾール、フェバンテル、フェンベンダゾール、オクスフェンダゾール、メベンダゾール、及びフルベンダゾールのいずれかを1日当たり5~100mg/kg魚体重経口投与するために用いられる、(18)ないし(23)いずれかの使用。
【0013】
また本発明は、以下の(A1)~(A5)のブリ属(Seriola)の魚類に寄生する微胞
子虫又は粘液胞子虫の駆除剤を要旨とする。
(A1)ベンゾイミダゾール系薬剤を有効成分として含有するブリ属(Seriola)の魚類
に寄生する微胞子虫又は粘液胞子虫の駆除剤。
(A2)微胞子虫又は粘液胞子虫がミクロスポリジウム・セリオレ(Microsporidium seriolae)、スプラグエラ属(Spraguera)に属する微胞子虫、クドア・ヤスナガイ(Kudoa yasunagai)、ミクソボラス・アカンソゴビイ(Myxobolus acanthogobii)、クドア・シオミ
ツイ(Kudoa shiomitsui)、クドア・ペリカルディアリス(Kudoa pericardialis)、ク
ドア・アマミエンシス(Kudoa amamiensis)のいずれかである(A1)の駆除剤。
(A3)ベンゾイミダゾール系薬剤がアルベンダゾール、フェバンテル、フルベンダゾール、トリクラベンダゾール、フェンベンダゾール、オクスフェンダゾール、チアベンダゾールのいずれかである(A1)又は(A2)の駆除剤。
(A4)ブリ属の魚類がブリ(Seriola quinqueradiata)、カンパチ(Seriola dumerili)、ヒラマサ(Seriola lalandi)、ヒレナガカンパチ(Seriola rivoliana)、Seriola carpenteri、Seriola fasciata、ミナミカンパチ(Seriola hippos)、Seriola peruana、Seriola zonataのいずれかである(A1)~(A3)のいずれかの駆除剤。
(A5)1日当たり、ベンゾイミダゾール系薬剤を0.5~500mg/kg魚体重経口
投与するための(A1)~(A4)いずれかの駆除剤。
【0014】
また本発明は、(A6)~(A10)の寄生虫駆除方法を要旨とする。
(A6)ベンゾイミダゾール系薬剤を投与することを特徴とするブリ属(Seriola)の魚
類に寄生する微胞子虫又は粘液胞子虫の駆除方法。
(A7)微胞子虫又は粘液胞子虫がミクロスポリジウム・セリオレ(Microsporidium seriolae)、スプラグエラ属(Spraguera)微胞子虫、クドア・ヤスナガイ(Kudoa yasunagai)
、ミクソボラス・アカンソゴビイ(Myxobolus acanthogobii)、クドア・シオミツイ(Kudoa shiomitsui)、クドア・ペリカルディアリス(Kudoa pericardialis)、クドア・ア
マミエンシス(Kudoa amamiensis)のいずれかである(A6)の方法。
(A8)ベンゾイミダゾール系薬剤がアルベンダゾール、フェバンテル、フルベンダゾール、トリクラベンダゾール、フェンベンダゾール、オクスフェンダゾール、チアベンダゾールのいずれかである(A6)又は(A7)の方法。
(A9)ブリ属の魚類がブリ(Seriola quinqueradiata)、カンパチ(Seriola dumerili)、ヒラマサ(Seriola lalandi)、ヒレナガカンパチ(Seriola rivoliana)、Seriola carpenteri、Seriola fasciata、ミナミカンパチ(Seriola hippos)、Seriola peruana、Seriola zonataのいずれかである(A6)~(A8)のいずれかの方法。
(A10)1日当たり、ベンゾイミダゾール系薬剤を0.5~500mg/kg魚体重経
口投与することを特徴とする(A6)~(A9)いずれかの方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、広く養殖されている海産魚類、特にブリ属、タイ科、マグロ属、ヒラメ科、又はフグ科に属する魚に寄生し重要な問題となっている寄生虫症であるべこ病又は粘液胞子虫症を経口投与で効果的に治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例7における、飼育期間中の試験飼料投与を2サイクルとした、試験スケジュールを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の治療剤又は寄生虫駆除剤の有効成分は、ベンゾイミダゾール系薬剤に分類される薬剤のうち、べこ病又は粘液胞子虫症に有効なものである。ベンゾイミダゾール系薬剤とは、ベンゾイミダゾールを基本骨格として有する薬剤であって、寄生虫駆除剤や殺菌剤として知られている薬剤である。べこ病に有効なベンゾイミダゾール系薬剤としては、アルベンダゾール(Albendazole;methyl N-(5-propylsulfanyl-1H-benzimidazol-2-yl)car
bamate)、フェバンテル(Febantel;methyl (NE)-N-[[2-[(2-methoxyacetyl)amino]-4-phenylsulfanylanilino]-(methoxycarbonylamino)methylidene]carbamate)、フェンベン
ダゾール(Fenbendazole;methyl N-(5-phenylsulfanyl-1H-benzimidazol-2-yl)carbamate)、オクスフェンダゾール(Oxfendazole;methyl N-[5-(benzenesulfinyl)-1H-benzimidazol-2-yl]carbamate)、メベンダゾール(Mebendazole;methyl [5-(Benzoyl)benzimidazol-2-yl]carbamate)などが挙げられる。フェバンテルはプロドラッグであることが知
られており、その活性成分は、フェンベンダゾール及びオクスフェンダゾールである。また粘液胞子虫症に有効なベンゾイミダゾール系薬剤としては、アルベンダゾール、フルベンダゾール(Flubendazole;methyl N-[5-(4-fluorobenzoyl)-1H-benzimidazol-2-yl]carbamate)などが挙げられる。
【0018】
一態様において、本発明の治療剤又は寄生虫駆除剤は、アルベンダゾール、フェバンテル、フェンベンダゾール、オクスフェンダゾール、及びメベンダゾールのいずれかを有効成分とし、海産魚類のべこ病を治療対象とする。好ましい態様において、本発明の治療剤又は寄生虫駆除剤は、アルベンダゾールを有効成分とし、海産魚類のべこ病を治療対象とする。
【0019】
また別の態様において、本発明の治療剤又は寄生虫駆除剤は、アルベンダゾール又はフルベンダゾールを有効成分とし、粘液胞子虫症を治療対象とする。
【0020】
べこ病に有効なベンゾイミダゾール系薬剤、特にアルベンダゾールは、シスト形成前のべこ病原因寄生虫を駆除し、シスト形成阻害効果があるだけでなく、シスト形成に至った発症魚にも治療効果を有する。
【0021】
本発明の治療剤又は寄生虫駆除剤の抗寄生虫効果が認められる寄生虫は、海産魚に属する魚類に寄生するべこ病の原因となる微胞子虫、又は粘液胞子虫症の原因となる粘液胞子虫である。べこ病の原因となる微胞子虫としては、ミクロスポリジウム属(Microsporidium sp.)又はスプラグエラ属(Spraguera)に属する微胞子虫が挙げられる。具体的には
、ブリに寄生するミクロスポリジウム・セリオレ(Microsporidium seriolae)、微胞子虫
性脳脊髄炎症の原因であるスプラグエラ属(Spraguera)の微胞子虫が挙げられる。また
粘液胞子虫症の原因となる粘液胞子虫としては、クドア症の原因となるクドア属(Kudoa
)に属する粘液胞子虫、及び腸管粘液胞子虫症の原因となるエンテロミクサム属(Enteromyxum)又はレプトセカ属(Leptotheca)に属する粘液胞子虫が挙げられる。具体的には
、脳粘液胞子虫症の原因であるクドア・ヤスナガイ(Kudoa yasunagai)、粘液胞子虫性側
弯症の原因であるミクソボラス・ブリ(Myxobolus buri)、心臓クドア症の原因であるクドア・シオミツイ(Kudoa shiomitsui)及びクドア・ペリカルディアリス(Kudoa pericardialis)、奄美クドア症の原因であるクドア・アマミエンシス(Kudoa amamiensis)、
マグロに寄生することが知られているクドア・ヘクサプンクタータ(Kudoa hexapunctata)、ヒラメに寄生することが知られているクドア・セプテンプンクタータ(Kudoa septempunctata)、フグに寄生することが知られているエンテロミクサム・レーイ(Enteromyxum leei)、エンテロミクサム・フグ(Enteromyxum fugu)、レプトセカ・フグ(Leptotheca fugu)が挙げられる。
【0022】
本発明の対象となる海産魚類は、上記の寄生虫が寄生する魚類である。そのような海産魚類としては、スズキ目に属する魚類が挙げられ、例えば、スズキ目アジ科ブリ属、スズキ目タイ科、又はスズキ目サバ科マグロ属に属する魚類である。
【0023】
ブリ属に属する魚種としては、ブリ(Seriola quinqueradiata)、カンパチ(Seriola dumerili)、ヒラマサ(Seriola lalandi)、ヒレナガカンパチ(Seriola rivoliana)、Seriola carpenteri、Seriola fasciata、ミナミカンパチ(Seriola hippos)、Seriola peruana、S
eriola zonataが例示される。好ましい態様において、本発明の治療剤又は寄生虫駆除剤
は、特に多く養殖されているブリ、カンパチ、ヒラマサ、ヒレナガカンパチなどの養殖魚に用いられる。
【0024】
タイ科に属する魚種としては、ミナミクロダイ(Acanthopagrus sivicolus)、タイワ
ンダイ(Argyrops bleekeri Oshima)、キダイ(Dentex tumifrons)、チダイ(Evynnis tumifrons)、マダイ(Pagrus major)、クロダイ(Acanthopagrus schlegelii)、及び
ヘダイ(Rhabdosargus sarba、Sparus sarba)が例示される。
【0025】
マグロ属に属する魚種としては、クロマグロ(Thunnus orientalis)、タイセイヨウクロマグロ(Thunnus thynnus)、ミナミマグロ(Thunnus maccoyii)、メバチマグロ(Thunnus obesus)、ビンナガマグロ(Thunnus alalunga)、キハダマグロ(Thunnus albacares)、コシナガマグロ(Thunnus tonggol)、及びタイセイヨウマグロ(Thunnus atlanticus)が例示される。
【0026】
ヒラメ科に属する魚類としては、ヒラメ(Paralichthys olivaceus)、カリフォルニアハリバット(Paralichthys californicus)、ナツヒラメ(Paralichthys dentatus)、タマガンゾウビラメ(Pseudorhombus pentophthalmus)、ガンゾウヒラメ(Pseudorhombus cinnamoneus)、メガレイ(Pseudorhombus dupliciocellatus)、テンジクガレイ(Pseudorhombus arsius)、アラメガレイ(Tarphops oligolepis)が例示される。
【0027】
フグ科に属する魚類としては、トラフグ(Takifugu rubripes)、マフグ(Takifugu porphyreus)が例示される。
【0028】
本発明の治療剤又は寄生虫駆除剤は経口投与で効果を発現することができる。また、薬剤を溶解した液に魚を漬ける薬浴による投与や注射による投与も可能である。
【0029】
本発明の治療剤又は寄生虫駆除剤の投与量は、例えば、いずれの魚においても1日当たり魚体重1kgに対して5mg~100mgであり、好ましくは10~50mg、10~40mgの範囲で経口投与する。投与期間は1~20日間、好ましくは3~10日間とする。
【0030】
本発明の治療剤又は寄生虫駆除剤は、有効成分である前記化合物を単独で用いる他、必要に応じて他の物質、例えば担体、安定剤、溶媒、賦形剤、希釈剤などの補助的成分と組み合わせて用いることができる。また、形態も粉末、顆粒、錠剤、カプセルなど、通常これらの化合物に使用されている形態のいずれでもよい。化合物の味や臭いに敏感な魚の場合は、コーティングなどの方法により、飼料の嗜好性の低下を防止し、化合物が漏出しにくくすることができる。
【0031】
魚類の場合、経口投与の薬剤は飼料に添加して用いるのが通常である。本発明の治療剤又は寄生虫駆除剤を飼料に添加する場合、それぞれの魚種用に必要とする栄養成分や物性が考慮された飼料を用いるのが好ましい。通常、魚粉、糟糠類、でんぷん、ミネラル、ビタミン、魚油などを混合してペレット状にしたもの、もしくは、イワシなどの冷凍魚と魚粉にビタミンなどを添加した粉末飼料(マッシュ)とを混合してペレット状にしたものなどが使用されている。魚の種類、サイズによって、1日の摂餌量はほぼ決まっているので、上記の用法用量となるよう換算した量の本発明の治療剤又は寄生虫駆除剤を飼料に添加する。本発明の治療剤又は寄生虫駆除剤は1日量を1回で投与しても、数回に分けて投与してもかまわない。本発明の治療剤は、魚の飼料に添加して用いるため、魚が1日当たりに摂取する飼料に適切な濃度を添加するのに適した製剤とするのが好ましい。具体的には、製剤中に有効成分が1~50重量%、好ましくは5~30重量%、さらに好ましくは1
0~20重量%含有するように製剤化して用いるのが好ましい。
【0032】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例0033】
<べこ病に対するアルベンダゾールの駆虫効果>
陸上飼育施設で、砂ろ過・紫外線殺菌海水を用いてブリ受精卵から稚魚を生産した。生産した稚魚を海面生簀に沖出しし、数日間飼育して再び陸上施設に搬入した。この海面生簀飼育によりブリ稚魚をべこ病の原因寄生虫に自然感染させた。再度陸上施設に搬入したブリ稚魚を対照区とアルベンダゾール経口投与区の2群に分け、それぞれを200リットル水槽に収容した。砂ろ過・紫外線殺菌海水を2.4リットル/分の条件で各区の水槽に注水し
た。馴致最終日に魚体重を測定した。馴致後に10日間連続で試験飼料を給餌した。アルベンダゾールの投与条件は40mg/kg魚体重/日とし、投与は一日一回とした。アルベンダゾール添加飼料の調製は、ポリエチレン袋に所定量の市販飼料およびアルベンダゾールを入れ、そこに2倍希釈した展着剤エスイー30(低糖化還元水飴、物産フードサイエンス株式
会社)を飼料重量の4%量加え撹拌することで行った。対照区の飼料の調製は、希釈した
エスイー30のみを飼料重量の4%量加え撹拌することで行った。10日間の試験飼料投与後
は、市販飼料を給餌し、給餌量は魚体重の2%とした。試験は4回実施し、それぞれの海面生簀飼育日数、生簀飼育時の水温、施設搬入後の馴致期間、試験開始時の供試魚体重、薬剤経口投与時の給餌率、飼育試験の期間、試験中の水温および供試尾数を表1に示した。
なお、第4回の対照区のみ500リットル水槽に収容し、砂ろ過・紫外線殺菌海水を4.8リットル/分の条件で注水して飼育した。
【0034】
飼育試験終了時に、両区から全魚を取り上げ、剖検により体側筋のシスト有無を観察し、シストが観察された魚を発症魚とした。評価は、対照区とアルベンダゾール経口投与区の発症率(発症魚尾数/供試尾数×100)を比較することで行った。
【0035】
【0036】
結果と考察
対照区では、4回の全ての試験で発症魚が観察された。一方、アルベンダゾール経口投
与区では全ての試験においてシストを形成した魚が観察されず、べこ病発症率は0%であ
った(表2)。従って、アルベンダゾールの経口投与は魚体内に侵入した本虫を駆虫し、
本虫のシスト形成を阻害することが確認された。
【0037】
飼育試験終了時に、全区から全魚を取り上げ、剖検により体側筋のシスト有無を観察し、シストが観察された魚を発症魚とした。評価は、対照区とベンゾイミダゾール系薬剤投与区の発症率(発症魚尾数/供試尾数×100)、発症魚のシスト数およびシスト長を比較
することで行った。