(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123191
(43)【公開日】2024-09-10
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240903BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
H01M4/525
C01G53/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024101609
(22)【出願日】2024-06-25
(62)【分割の表示】P 2021502048の分割
【原出願日】2020-02-18
(31)【優先権主張番号】P 2019029870
(32)【優先日】2019-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】322003798
【氏名又は名称】パナソニックエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高容量とともに高出力が得られるリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法を提供する。
【解決手段】出発原料であるリチウムニッケル複合酸化物と、リチウムを含有しないタングステン化合物粉末と、を加熱しながら混合してタングステン混合物を得る混合工程と、タングステン混合物を熱処理する熱処理工程とを有し、リチウムニッケル複合酸化物は、Liと、Niと、元素Mと、を含有し、出発原料中の、リチウムニッケル複合酸化物に含まれるニッケル、および前記元素Mの原子数の合計に対する、タングステンの原子数の割合が0.05原子%以上3.00原子%以下、出発原料中の水と、リチウムニッケル複合酸化物とに占める、水の割合である水分率が3.0質量%以上、混合工程の温度が30℃以上65℃以下であるリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
出発原料であるリチウムニッケル複合酸化物と、リチウムを含有しないタングステン化合物粉末と、を加熱しながら混合してタングステン混合物を得る混合工程と、
前記タングステン混合物を熱処理する熱処理工程と、を有し、
前記リチウムニッケル複合酸化物は、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)と、元素M(M)と、を含有し(ただし、元素MはMn、V、Mg、Mo、Nb、Ti、Co及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素)、
前記出発原料中の、前記リチウムニッケル複合酸化物に含まれるニッケル、および前記元素Mの原子数の合計に対する、タングステンの原子数の割合が0.05原子%以上3.00原子%以下であり、
前記出発原料中の水と、前記リチウムニッケル複合酸化物とに占める、前記水の割合である水分率が、3.0質量%以上であり、
前記混合工程の温度が30℃以上65℃以下であるリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の電池として高出力の二次電池の開発も強く望まれている。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。このリチウムイオン二次電池は、負極と正極と電解質等で構成され、負極および正極の活物質は、リチウムを脱離および挿入することの可能な材料が用いられている。
【0004】
このようなリチウムイオン二次電池は、現在研究、開発が盛んに行われているところであるが、中でも、層状またはスピネル型のリチウムニッケル複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0005】
これまで主に提案されている材料としては、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2O4)などを挙げることができる。
【0006】
このうちリチウムニッケル複合酸化物は、サイクル特性が良く、低抵抗で高出力が得られる材料として注目されている。そして、リチウムイオン二次電池用正極活物質に関して、近年ではリチウムイオン二次電池とした際の高出力化に必要な低抵抗化が重要視されている。
【0007】
上記低抵抗化を実現する方法として異元素の添加が用いられており、とりわけW、Mo、Nb、Ta、Reなどの高価数をとることができる遷移金属が有用とされている。
【0008】
例えば、特許文献1には、所定の組成式を満たし、Mo、W、Nb、TaおよびReから選ばれる1種以上の元素が、上記組成式におけるMn、Ni及びCoの合計モル量に対して0.1モル%以上、5モル%以下の割合で含有されているリチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体が提案されている。また、特許文献1では、炭酸リチウムと、Ni化合物、Mn化合物、Co化合物と、Mo、W、Nb、Ta及びReから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む金属化合物とを、液体媒体中で粉砕し、これらを均一に分散させたスラリーを噴霧乾燥する噴霧乾燥工程と、得られた噴霧乾燥体を焼成する焼成工程とを含むリチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体の製造方法が開示されている。
【0009】
特許文献1によれば、リチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体の低コスト化および高安全性化と高負荷特性、粉体取り扱い性向上の両立を図ることができるとされている。
【0010】
しかし、特許文献1に開示された上記製造方法によれば、上記リチウム遷移金属系化合物粉体は、原料を液体媒体中で粉砕し、これらを均一に分散させたスラリーを噴霧乾燥し、得られた噴霧乾燥体を焼成することで得ている。そのため、Mo、W、Nb、TaおよびReなどの異元素の一部が層状に配置されているNiと置換してしまい、電池の容量やサイクル特性などの電池特性が低下してしまう問題があった。
【0011】
また、特許文献2には、少なくとも層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、そのリチウム遷移金属複合酸化物は、一次粒子及びその凝集体である二次粒子の一方または両方からなる粒子の形態で存在し、その粒子の少なくとも表面に、モリブデン、バナジウム、タングステン、ホウ素およびフッ素からなる群から選ばれる少なくとも1種を備える化合物を有する非水電解質二次電池用正極活物質が提案されている。また、特許文献2には、上記非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法として、モリブデン化合物等の添加元素の化合物と、リチウム化合物と、コバルト等を共沈させた後熱処理して得られた化合物との混合物である原料混合物を焼成、粉砕する方法が開示されている。
【0012】
特許文献2に開示された非水系電解質二次電池用正極活物質によれば、特に、粒子の表面にモリブデン、バナジウム、タングステン、ホウ素およびフッ素からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する化合物を有することにより、熱安定性、負荷特性および出力特性の向上を損なうことなく、初期特性が向上するとされている。
【0013】
しかしながら、特許文献2においては、モリブデン、バナジウム、タングステン、ホウ素およびフッ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の添加元素による効果は、初期特性、すなわち初期放電容量および初期効率の向上にあるとされ、出力特性を向上させるものではなかった。また、特許文献2に開示された製造方法によれば、モリブデン化合物等の添加元素の化合物と、リチウム化合物と、コバルト等を共沈させた後熱処理して得られた化合物との混合物である原料混合物を焼成するため、添加元素の一部が層状に配置されているニッケルと置換してしまい電池特性の低下を招く問題があった。
【0014】
また、特許文献3には、所定の組成を有する複合酸化物粒子にタングステン酸化合物を被着させて加熱処理を行ったもので、炭酸イオンの含有量が0.15質量%以下である正極活物質が提案されている。また、特許文献3には、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)とを含む複合酸化物粒子に、タングステン酸化合物を被着させる被着工程と、上記タングステン酸化合物を被着させた上記複合酸化物粒子を加熱処理する加熱工程とを有する正極活物質の製造方法が開示されている。
【0015】
特許文献3によれば、非水電解液等の分解によるガス発生を抑制することができるとされている。または、正極活物質中自身からのガス発生を抑制することができるとされている。しかしながら、出力特性を向上させるものではなかった。
【0016】
また、リチウムニッケル複合酸化物の高出力化に関する改善も行われている。
【0017】
例えば特許文献4には、一次粒子および、その一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウム金属複合酸化物であって、そのリチウム金属複合酸化物の表面に、Li2WO4、Li4WO5、Li6W2O9のいずれかで表されるタングステン酸リチウムを含む微粒子を有する非水系電解質二次電池用正極活物質が提案され、高容量とともに高出力が得られるとされている。
【0018】
しかしながら、高容量が維持されながら高出力化されているものの、更なる高容量化が要求されている。
【0019】
特許文献5には、リチウムニッケル複合酸化物粒子と、リチウムを含有しないタングステン化合物粉末および水を混合してタングステン混合物を得る混合工程と、前記タングステン混合物を熱処理する熱処理工程を有し、前記熱処理工程が、前記タングステン混合物を熱処理することにより、リチウムニッケル複合酸化物粒子の一次粒子表面に存在するリチウム化合物とタングステン化合物粒子を反応させて前記タングステン化合物粒子を溶解して、一次粒子表面にタングステンを分散させたリチウムニッケル複合酸化物粒子を形成する第1熱処理工程と、前記第1熱処理工程の次に行う前記第1熱処理工程より高い温度で熱処理することにより、前記リチウムニッケル複合酸化物粒子の一次粒子表面にタングステンおよびリチウムを含む化合物を設けたリチウムニッケル複合酸化物粒子を形成する第2熱処理工程を有する非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】日本国特開2009-289726号公報
【特許文献2】日本国特開2005-251716号公報
【特許文献3】日本国特開2010-40383号公報
【特許文献4】日本国特開2013-125732号公報
【特許文献5】日本国特開2017-063003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、特許文献5の実施例においては、第1熱処理工程でタングステン混合物の混合粉末をアルミ製袋に入れ窒素ガスパージをした例が開示されているのみであり、係る方法を量産に適用した場合に非常に高コストになるという問題がある。
【0022】
特許文献5では、混合工程、第1熱処理工程、第2熱処理工程が必要で有り、工程数が多く、この点も製造コストを引き上げてしまう。さらに、アルミ製袋や真空乾燥機を使用することで、混合、熱処理の連続処理ができず、この点からもコスト面で不利である。
【0023】
そこで上記従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、低コストで、リチウムイオン二次電池の正極に用いられた場合に、高容量とともに高出力が得られるリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
出発原料であるリチウムニッケル複合酸化物と、リチウムを含有しないタングステン化合物粉末と、を加熱しながら混合してタングステン混合物を得る混合工程と、
前記タングステン混合物を熱処理する熱処理工程と、を有し、
前記リチウムニッケル複合酸化物は、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)と、元素M(M)と、を含有し(ただし、元素MはMn、V、Mg、Mo、Nb、Ti、Co及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素)、
前記出発原料中の、前記リチウムニッケル複合酸化物に含まれるニッケル、および前記元素Mの原子数の合計に対する、タングステンの原子数の割合が0.05原子%以上3.00原子%以下であり、
前記出発原料中の水と、前記リチウムニッケル複合酸化物とに占める、前記水の割合である水分率が、3.0質量%以上であり、
前記混合工程の温度が30℃以上65℃以下であるリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の一態様によれば、低コストで、リチウムイオン二次電池の正極に用いられた場合に、高容量とともに高出力が得られるリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】偏析粒子を測定する際のSEM像の例である。
【
図4】実施例、比較例において作製したコイン型電池の断面構成の説明図である。
【
図5B】解析に使用した等価回路の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法(以下、単に「正極活物質の製造方法」とも記載する)は、以下の工程を有することができる。
【0028】
出発原料であるリチウムニッケル複合酸化物と、リチウムを含有しないタングステン化合物粉末と、を加熱しながら混合してタングステン混合物を得る混合工程。
タングステン混合物を熱処理する熱処理工程。
そして、リチウムニッケル複合酸化物は、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)と、元素M(M)と、を含有することができる。元素MはMn、V、Mg、Mo、Nb、Ti、Co及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素であることが好ましい。
【0029】
出発原料中の、リチウムニッケル複合酸化物に含まれるニッケル、および元素Mの原子数の合計に対する、タングステンの原子数の割合を0.05原子%以上3.00原子%以下とすることができる。また、出発原料中の水と、リチウムニッケル複合酸化物とに占める、水の割合である水分率が3.0質量%以上であり、混合工程の温度が30℃以上65℃以下であることが好ましい。
【0030】
以下、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法を工程ごとに詳細に説明する。
(混合工程)
混合工程では、出発原料である、リチウムニッケル複合酸化物と、リチウムを含有しないタングステン化合物(以下、単に「タングステン化合物」とも記載する)と、を加熱しながら混合することができる。そして、混合工程では、リチウムニッケル複合酸化物とリチウムを含有しないタングステン化合物との混合物であるタングステン混合物を得られる。なお、後述するように、混合工程においてタングステン化合物の少なくとも一部は、リチウムニッケル複合酸化物の一次粒子表面に存在する余剰のリチウム化合物と反応し、タングステンおよびリチウムを含む化合物を生成すると考えられる。このため、タングステン混合物は、タングステン化合物に替えて、もしくはタングステン化合物に加えてさらに、タングステンおよびリチウムを含む化合物を含むこともできる。
【0031】
混合工程に供する出発原料は水分を含有していることが好ましく、例えば出発原料であるリチウムニッケル複合酸化物、およびリチウムを含有しないタングステン化合物のいずれもが水分を含有しない場合には、混合工程において水を添加することもできる。また、リチウムニッケル複合酸化物、およびリチウムを含有しないタングステン化合物の少なくとも一方が十分な水分を含有する場合には、混合工程において別途水を添加しなくても良い。
【0032】
出発原料が水分を含有することで、リチウムニッケル複合酸化物の一次粒子表面に存在する余剰のリチウム化合物が溶出するため、水溶性あるいはアルカリ性溶液において溶解可能なタングステン化合物を用いた場合には、混合工程においてタングステン化合物の溶解とタングステン成分の分散を進行させることができる。
【0033】
混合工程はアルミニウムパウチ等の閉鎖された容器内に入れることなく実施することが好ましい。
【0034】
リチウムニッケル複合酸化物と、タングステン化合物と、を加熱しながら混合することで、リチウムニッケル複合酸化物の一次粒子表面に存在する余剰のリチウム化合物とタングステン化合物とを反応させることができる。そして、リチウムニッケル複合酸化物の一次粒子表面に存在する余剰のリチウム化合物とタングステン化合物とを反応させて得られたタングステンおよびリチウムを含む化合物を水に溶解させ、リチウムニッケル複合酸化物の一次粒子表面にタングステンおよびリチウムを含む化合物を分散させることができる。
【0035】
混合工程に供するリチウムニッケル複合酸化物の組成は特に限定されないが、例えばリチウム(Li)と、ニッケル(Ni)と、元素M(M)と、を物質量の比でLi:Ni:M=y:1-x:x(ただし、0≦x≦0.70、0.95≦y≦1.20)の割合で含有することが好ましい。なお、元素MとしてはMn、V、Mg、Mo、Nb、Ti、Co及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素とすることができる。また、上記yは0.97≦y≦1.15であることがより好ましい。リチウムニッケル複合酸化物は層状構造を有する化合物、すなわち層状化合物であることが好ましい。
【0036】
リチウムニッケル複合酸化物は、例えば一般式LiyNi1-xMxO2+αで表すことができる。なお、x、y、および元素Mについては既に説明したたため、ここでは説明を省略する。αは、例えば-0.2≦α≦0.2であることが好ましい。
【0037】
リチウムニッケル複合酸化物は、例えば一次粒子と、一次粒子が凝集した二次粒子とを有する粉末の形態を有することができる。
【0038】
混合工程に供するリチウムニッケル複合酸化物は、例えばニッケル複合酸化物や、ニッケル複合水酸化物等のニッケル複合化合物と、リチウム化合物との混合物を焼成することで調製することができる。また、例えば焼成後に得られたリチウムニッケル複合酸化物をさらに水洗し、リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に付着した余剰なリチウム成分等を低減した洗浄ケーキとしてから混合工程に供することもできる。なお、リチウムニッケル複合酸化物を洗浄ケーキとしてから混合工程に供する場合、該洗浄ケーキは水分を含有することから、その水分の含有の程度等によっては、既述の様に混合工程では水分を添加しなくても良い。
【0039】
ただし、混合工程に供するリチウムニッケル複合酸化物は、焼成した状態のまま、すなわち水洗を行わずに添加することが好ましい。焼成状態の、すなわち水洗を行っていないリチウムニッケル複合酸化物は、その一次粒子表面に、タングステン化合物と反応するのに特に十分な量のリチウム化合物を有している。このため、焼成状態のリチウムニッケル複合酸化物を用いることで、混合工程等で、タングステン化合物と反応する際にリチウムニッケル複合酸化物の粒子内部から引き抜かれるリチウムを低減して、リチウムニッケル複合酸化物の一次粒子表面への劣化層の形成を抑制できる。
【0040】
使用するタングステン化合物は、リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子内部の一次粒子表面まで浸透させるため、出発原料に含有される水分に溶解する水溶性であることが好ましい。また、出発原料中の水分はリチウムの溶出によってアルカリ性となるため、タングステン化合物は、アルカリ性において溶解可能な化合物であってもよい。また、出発原料は、混合工程で加熱されるため、タングステン化合物は、常温では水に溶解させることが困難であっても、混合工程時の加温で水に溶解する、もしくはリチウムニッケル複合酸化物の粒子表面のリチウム化合物と反応してタングステンおよびリチウムを含む化合物を形成して水に溶解するものであれば好適に用いることができる。
【0041】
さらに、溶解したタングステン化合物は、リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子内部の一次粒子表面まで浸透できる量があればよいため、例えばタングステン化合物を過剰に添加した場合等には、混合後、さらには加熱後に一部は固体の状態となっていてもよい。
【0042】
このように、タングステン化合物は、リチウムを含まず、かつ混合工程等の加熱の際に、水に溶解可能な状態となっていることが好ましい。混合工程に供するリチウムを含有しないタングステン化合物としては特に限定されないが、例えば酸化タングステン、タングステン酸、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウム等から選択された1種類以上が好ましく、不純物混入の可能性が低い酸化タングステン(WO3)、およびタングステン酸(WO3・H2O)から選択された1種類以上をより好ましく用いることができる。
【0043】
出発原料に含まれるタングステン量は特に限定されないが、例えば出発原料中のリチウムニッケル複合酸化物に含まれるニッケル、および元素Mの原子数の合計に対して、タングステンの原子数が0.05原子%以上3.00原子%以下となるようにタングステン化合物を添加することが好ましく、0.05原子%以上2.00原子%以下となるように添加することがより好ましく、0.10原子%以上1.00原子%以下となるように添加することがさらに好ましく、0.10原子%以上0.50原子%以下となるように添加することが特に好ましい。
【0044】
出発原料中のタングステン量が上記範囲となるようにタングステン化合物を添加することで、得られる正極活物質中におけるリチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に形成された、タングステンおよびリチウムを含む化合物に含まれるタングステン量を好ましい範囲とすることができる。このため、正極活物質をリチウムイオン二次電池の正極の材料に用いた場合に充放電容量と出力特性とを特に向上し、かつ両立することができる。
【0045】
なお、混合工程や、熱処理工程の後においても、その生成物に含まれるニッケル、および元素Mの原子数の合計に対するタングステンの原子数の割合は変化しない。このため、混合工程後に得られるタングステン混合物や、熱処理工程後に得られる正極活物質中のニッケル、および元素Mの原子数の合計に対するタングステンの原子数の割合についても上記出発原料の場合と同じ範囲を充足することが好ましい。
【0046】
出発原料中の水と、リチウムニッケル複合酸化物とに占める、水の割合である水分率、すなわち含有水分率は特に限定されないが、例えば3.0質量%以上であることが好ましく、3.0質量%以上7.0質量%以下であることがより好ましく、4.0質量%以上6.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
上記水分率を3.0質量%以上にすることにより、出発原料に十分な量の水分を含有させ、リチウムニッケル複合酸化物の一次粒子表面にタングステン化合物を十分に分散させることができる。このため、タングステン化合物とリチウムニッケル複合酸化物粒子の表面のリチウム化合物とを十分に反応させることができる。また、上記水分率を7.0質量%以下とすることで、リチウムニッケル複合酸化物からのリチウムの過剰な溶出を抑制することができる。
【0048】
混合工程では、リチウムニッケル複合酸化物の一次粒子表面に存在する余剰のリチウム化合物とタングステン化合物とを反応させるため、加熱しながら混合することが好ましい。なお、加熱しながら混合することで、リチウムニッケル複合酸化物の一次粒子表面にタングステン化合物や、タングステンおよびリチウムを含む化合物を十分に分散させることもできる。
【0049】
混合工程において加熱する温度、すなわち混合温度は特に限定されない。混合工程の混合温度は例えば30℃以上65℃以下とすることが好ましく、45℃以上60℃以下とすることがより好ましく、50℃以上60℃以下とすることがさらに好ましい。
【0050】
混合中のリチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に存在するリチウム化合物とタングステン化合物との反応により、タングステン混合物の温度が若干上昇することがあるが、混合温度を65℃以下とすることで、混合工程の間のタングステン混合物中の水分量の減少を抑制しながら、タングステン化合物をリチウムニッケル複合酸化物の粒子中に均一に分散できる。また、タングステン化合物を均一に分散することで、リチウムニッケル複合酸化物の一次粒子の表面に存在する余剰のリチウム化合物をタングステン化合物と十分に反応させることができる。ただし、混合温度を65℃を超える温度とすると、タングステン混合物の乾燥により、リチウム化合物とタングステン化合物との反応を促進させるために必要な水分量が得られないことがある。
【0051】
混合温度を30℃以上とすることで、タングステン化合物の分散を特に促進することができ、タングステン化合物と余剰のリチウム化合物の反応も特に促進することができる。
【0052】
混合工程を実施する時間は特に限定されず、混合温度等に応じて任意に選択することができる。混合工程を実施する時間、すなわち混合時間は、例えば15分以上60分以下が好ましく、25分以上45分以下がより好ましい。混合時間を15分以上とすることで、タングステン化合物の分散や、タングステン化合物と余剰のリチウム化合物との反応を特に促進することができる。また、混合時間を過度に長くしてもタングステン化合物の分散や、タングステン化合物と余剰のリチウム化合物との反応の程度には大きな差異はないため、生産性を高め、コストを低減する観点から、混合時間は60分以下とすることが好ましい。
【0053】
混合工程の雰囲気は特に限定されないが、雰囲気中の二酸化炭素とリチウムニッケル複合酸化物粒子表面のリチウム成分との反応を避けるため、混合工程の雰囲気は、脱炭酸空気、不活性ガスのいずれかであることが好ましい。なお、脱炭酸空気とは、空気中の炭酸、すなわち二酸化炭素を低減した空気による雰囲気を意味する。不活性ガスとは、希ガス、窒素ガスから選択された1種類以上のガスによる雰囲気を意味する。
【0054】
また、混合工程の雰囲気は、リチウムニッケル複合酸化物から出る水分を排出するため、排気することが望ましい。排気の速度は特に限定されないが、混合工程へのリチウムニッケル複合酸化物の投入速度(投入量)1kg/分に対して、0.15m3/分以上0.30m3/分以下の速度で混合雰囲気の雰囲気を排気することが好ましい。混合工程の雰囲気を排気する場合、混合工程の雰囲気が負圧にならない範囲で脱炭酸空気、または不活性ガスを供給する、すなわち脱炭酸空気、または不活性ガスの流量を調整することが好ましい。混合工程の雰囲気が負圧になった場合は、混合工程の雰囲気に大気が流入してリチウム成分と二酸化炭素とが反応する恐れがある。一方、上述のように混合工程の雰囲気を負圧にならないように制御することで、リチウム成分と二酸化炭素との反応を抑制し、最終的に生成される正極活物質の特性の低下を特に防止できる。
【0055】
リチウムニッケル複合酸化物とリチウムを含まないタングステン化合物との混合には、一般的な混合機を用いることができる。例えば、シェーカーミキサーやレーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダーなどを用いてリチウムニッケル複合酸化物の形骸が破壊されない程度で十分に混合すればよい。
(熱処理工程)
熱処理工程では、タングステン混合物を熱処理することができる。熱処理工程では、タングステン混合物中の水分を十分に蒸発させ、リチウムニッケル複合酸化物粒子の一次粒子表面にタングステンおよびリチウムを含む化合物を定着、すなわち固定することができる。
【0056】
熱処理工程における熱処理温度は特に限定されないが、100℃以上200℃以下であることが好ましい。これは、熱処理温度を100℃以上とすることで、タングステン混合物中の水分を十分蒸発させることができ、タングステンおよびリチウムを含む化合物を、リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に十分に定着することができるからである。
【0057】
また、熱処理温度を200℃以下とすることで、タングステンおよびリチウムを含む化合物を介してリチウムニッケル複合酸化物の粒子同士がネッキングを形成したり、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の比表面積が低下することを抑制できる。このため、得られた正極活物質をリチウムイオン二次電池の正極の材料に用いた場合に、電池特性を特に高めることができる。
【0058】
熱処理工程の熱処理時間は、特に限定されないが、水分を十分に蒸発させてタングステンおよびリチウムを含む化合物を定着させるために1時間以上5時間以下とすることが好ましい。
【0059】
熱処理工程における雰囲気は、雰囲気中の二酸化炭素と、リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面のリチウムとの反応を避けるため、脱炭酸空気、不活性ガスのいずれかであることが好ましい。
【0060】
以上に説明した本実施形態の正極活物質の製造方法によれば、混合工程において加熱しながら混合を行うことで、タングステン化合物をリチウムニッケル複合酸化物の粒子中に均一に分散できる。また、リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に存在する余剰のリチウム化合物とタングステン化合物とを反応させ、タングステンおよびリチウムを含む化合物を形成し、均一に分散できる。そして、熱処理工程において水分を十分に蒸発させることで、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面にタングステンおよびリチウムを含む化合物、例えばタングステン酸リチウムを均一に定着させることができる。このため、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に他の粒子よりもタングステンおよびリチウムを含む化合物が多く析出した偏析粒子の割合を抑制できる。偏析粒子の割合を抑制することで、サイクル特性を高め、正極抵抗を抑制することができる。
【0061】
また、混合工程で形成するタングステン混合物中のタングステン量を所定の範囲とすることで、得られる正極活物質中におけるリチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に形成された、タングステンおよびリチウムを含む化合物に含まれるタングステン量を好ましい範囲とすることができる。このため、本実施形態の正極活物質の製造方法により得られた正極活物質をリチウムイオン二次電池の正極の材料に用いた場合に充放電容量と出力特性とを特に向上し、かつ両立することができる。すなわち高容量とともに高出力が得られる。
【0062】
さらに、本実施形態の正極活物質の製造方法によれば、アルミ製の容器等に密封する等の作業を要することなく、既述の混合工程と熱処理工程により所望の正極活物質を製造できる。このため、低コストで、既述の様に高容量とともに高出力の正極活物質を得ることができる。
[リチウムイオン二次電池用正極活物質]
次に、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質(以下、「正極活物質」とも記載する)の構成例について説明する。なお、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、例えば既述の正極活物質の製造方法により製造することができるため、既に説明した事項の一部は説明を省略する。
【0063】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)と、元素M(M)と、を物質量の比でLi:Ni:M=y:1-x:xの割合で含有するリチウムニッケル複合酸化物の粒子と、係るリチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に配置されたタングステンおよびリチウムを含む化合物とを有する複合粒子を複数個含むことができる。
【0064】
なお、上記x、yは、0≦x≦0.70、0.95≦y≦1.20を満たすことが好ましい、また、元素MはMn、V、Mg、Mo、Nb、Ti、Co及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素とすることができる。上記yは0.97≦y≦1.15であることがより好ましい。
【0065】
そして、複数の複合粒子のうち、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面にタングステンおよびリチウムを含む化合物が、他の複合粒子よりも多く配置された偏析粒子の割合を個数割合で0.1%以下とすることができる。また、リチウムニッケル複合酸化物に含まれるニッケル、および元素Mの原子数の合計に対する、タングステンおよびリチウムを含む化合物に含まれるタングステンの原子数の割合が、0.05原子%以上3.0原子%以下であることが好ましい。
【0066】
本実施形態の正極活物質は、上述のリチウムニッケル複合酸化物の粒子と、係るリチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に配置されたタングステンおよびリチウムを含む化合物とを有する複合粒子を複数個有することができる。なお、本実施形態の正極活物質は上記複合粒子から構成することもできる。
【0067】
リチウムニッケル複合酸化物は、例えば一般式LiyNi1-xMxO2+αで表すことができる。x、y、及び元素Mについては既に説明したたため、ここでは説明を省略する。αは、例えば-0.2≦α≦0.2であることが好ましい。リチウムニッケル複合酸化物は例えば層状構造を有することができる。すなわち層状化合物とすることができる。
【0068】
また、リチウムニッケル複合酸化物の粒子は、一次粒子、及び該一次粒子が凝集した二次粒子を有することができる。
【0069】
係るリチウムニッケル複合酸化物を用いることにより高い充放電容量を得ることができる。
【0070】
そして、リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に、上述のようにタングステンおよびリチウムを含む化合物、例えばタングステン酸リチウムを配置した構成を有することができる。
【0071】
一般的に、正極活物質の表面が異種化合物により完全に被覆されてしまうと、リチウムイオンの移動(インターカレーション)が大きく制限されるため、結果的にリチウムニッケル複合酸化物のもつ高容量という長所が消されてしまうとも考えられる。しかしながら、本実施形態の正極活物質においては、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面にタングステンおよびリチウムを含む化合物を形成させているが、係るタングステンおよびリチウムを含む化合物は、リチウムイオン伝導性に優れ、リチウムイオンの移動を促す効果がある。このため、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面にタングステンおよびリチウムを含む化合物を配置することで、電解質との界面でリチウムの伝導パスを形成でき、正極活物質の反応抵抗(以下、「正極抵抗」と記載する場合もある)を低減して出力特性を向上させることができる。
【0072】
すなわち、正極抵抗が低減されることで、電池内で損失される電圧が減少し、実際に負荷側に印加される電圧が相対的に高くなるため、高出力が得られる。また、負荷側への印加電圧が高くなることで、正極でのリチウムの挿抜が十分に行われるため、電池容量も向上するものである。さらに、反応抵抗の低減により、充放電時における活物質の負荷も低減することから、サイクル特性も向上させることができる。
【0073】
このようなタングステンおよびリチウムを含む化合物は、タングステンおよびリチウムを含むことで、リチウムイオン伝導性に優れ、リチウムイオンの移動を促す効果を有することができ、その具体的な組成は特に限定されない。ただし、タングステン酸リチウムであることが好ましく、例えば原子数の割合において、このタングステンおよびリチウムを含む化合物中に含有されるタングステンの50%以上が、Li4WO5の形態で存在することが好ましい。
【0074】
これは、Li4WO5は、タングステンおよびリチウムを含む化合物の中でもリチウムイオンの導電パスが多く、リチウムイオンの移動を促す効果が高いため、原子数割合でWの50%以上がLi4WO5の形態で存在することで、さらに高い反応抵抗の低減効果が得られる。
【0075】
ここで、電解質とリチウムニッケル複合酸化物との接触は、リチウムニッケル複合酸化物の一次粒子表面で起こるため、リチウムニッケル複合酸化物の一次粒子表面に、タングステンおよびリチウムを含む化合物が形成されていることが好ましい。
【0076】
本実施形態におけるリチウムニッケル複合酸化物の一次粒子表面とは、リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子の外面で露出している上記一次粒子表面と上記二次粒子外部と通じて電解質が浸透可能な上記二次粒子の表面近傍および内部の空隙に露出している上記一次粒子表面を含むものである。さらに、上記一次粒子間の粒界であっても上記一次粒子の結合が不完全で電解質が浸透可能な状態となっていれば上記一次粒子表面に含まれるものである。
【0077】
すなわち、リチウムニッケル複合酸化物と電解質との接触は、リチウムニッケル複合酸化物の一次粒子が凝集して構成された二次粒子の外面のみでなく、上記二次粒子の表面近傍および内部の空隙、さらには上記不完全な粒界でも生じる。このため、上記一次粒子表面にもタングステンおよびリチウムを含む化合物を形成、配置させ、リチウムイオンの移動を促すことが好ましい。
【0078】
したがって、電解質との接触が可能なリチウムニッケル複合酸化物の一次粒子表面の多くにタングステンおよびリチウムを含む化合物を形成させることで、リチウムニッケル複合酸化物粒子の反応抵抗をより一層低減させることが可能となる。
【0079】
ここで、タングステンおよびリチウムを含む化合物は完全に電解質との接触が可能な一次粒子の全表面において形成されている必要はなく、部分的に被覆した状態や点在している状態でもよい。部分的に被覆や点在の状態でも、電解質との接触が可能な一次粒子表面にタングステンおよびリチウムを含む化合物が形成されていれば、正極抵抗の低減効果が得られる。
【0080】
本実施形態の正極活物質に含まれるリチウムニッケル複合酸化物の粒子は、その表面に均一にタングステンおよびリチウムを含む化合物が形成されていることが好ましい。
【0081】
ここで、正極活物質は、リチウムニッケル複合酸化物の粒子と、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に配置されたタングステンおよびリチウムを含む化合物とを有する複合粒子を複数個含んでいる。なお、リチウムニッケル複合酸化物の粒子としては、リチウムニッケル複合酸化物を含む一次粒子や、該一次粒子が凝集した二次粒子を有することができる。
【0082】
そして、上記複合粒子間でリチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に不均一にタングステンおよびリチウムを含む化合物が形成された場合は、複合粒子間でのリチウムイオンの移動が不均一となるため、特定の複合粒子に負荷がかかり、長期におけるサイクル特性の悪化や正極抵抗の上昇を招く恐れがある。
【0083】
本実施形態の正極活物質が、偏析粒子を含む場合、正極活物質を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で観察した場合、他の複合粒子は灰色(グレー色)であるのに対して、係る偏析粒子は白色となる。なお、偏析粒子とは、リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に、他の複合粒子よりも多く、偏ってタングステンおよびリチウムを含む化合物が析出、配置された粒子を意味する。
【0084】
このため、本実施形態の正極活物質を走査型電子顕微鏡で観察することで、偏析粒子の有無や、偏析粒子の個数割合等を算出することができる。
【0085】
そして、本実施形態の正極活物質では既述の様に、複数の複合粒子のうち、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面にタングステンおよびリチウムを含む化合物が他の複合粒子よりも多く配置された偏析粒子の割合が個数割合で0.1%以下であることが好ましく、0.01%以下であることがより好ましい。複数の複合粒子のうちの偏析粒子の割合を0.1%以下とすることで、サイクル特性を高め、正極抵抗を抑制できる。
【0086】
複数の複合粒子のうち、偏析粒子の割合の下限値は特に限定されないが、偏析粒子は存在しないことが好ましいことから、0%以上とすることができる。
【0087】
本実施形態の正極活物質が有する複数の複合粒子のうちの、偏析粒子の割合の算出方法は特に限定されないが、例えば走査型電子顕微鏡により、正極活物質を10倍以上1000倍以下の倍率で、3視野以上20視野以下観察し、得られた複数の視野での画像内の複合粒子のうちの偏析粒子の割合を算出できる。走査型電子顕微鏡の観察条件は特に限定されないが、例えば加速電圧を1kV以上20kV以下とすることが好ましい。
【0088】
得られた複合粒子におけるタングステンおよびリチウムを含む化合物の均一性は、例えば、正極活物質から複数回、複合粒子をサンプリングしてタングステン含有量を分析した際のタングステン含有量の変動によって評価、確認することもできる。
【0089】
また、リチウムニッケル複合酸化物に含まれるニッケル、および元素Mの原子数の合計に対する、タングステンおよびリチウムを含む化合物に含まれるタングステンの原子数の割合(以下、「タングステン量」とも記載する)は、0.05原子%以上3.00原子%以下とすることが好ましく、0.05原子%以上2.00原子%以下とすることがより好ましく、0.10原子%以上1.00原子%以下とすることがさらに好ましく、0.10原子%以上0.50原子%以下とすることが特に好ましい。上記タングステン量を上記範囲とすることにより、正極活物質をリチウムイオン二次電池の正極材料に用いた場合に、高い充放電容量と出力特性を両立することができる。
【0090】
なお、本実施形態の正極活物質においては、例えばタングステンはリチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に配置したタングステンおよびリチウムを含む化合物に、ニッケル、元素Mはリチウムニッケル複合酸化物に由来する。このため、上記タングステン量に関して、本実施形態の正極活物質が含有する、ニッケルおよび元素Mの原子数の合計に対する、タングステンの原子数の割合が、上述のように0.05原子%以上3.00原子%以下であることが好ましいと言い換えることもできる。
【0091】
上述のタングステン量を0.05原子%以上とすることで、出力特性を特に高めることができるため好ましい。
【0092】
また、上述のタングステン量を3.00原子%以下とすることで、偏析粒子の発生を特に抑制できる。そして、タングステン量を3.00原子%以下とすることで、リチウムニッケル複合酸化物と電解質との間のリチウム伝導性を高め、充放電容量を高めることができる。
【0093】
リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に配置されたタングステンおよびリチウムを含む化合物の形態は特に限定されない。ただし、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面をタングステンおよびリチウムを含む化合物の厚膜である層状物で被覆した場合には、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の粒界に係る厚膜が充填され、比表面積の低下が起こる恐れがある。また、タングステンおよびリチウムを含む化合物の厚膜である層状物を形成した場合、係るタングステンおよびリチウムを含む化合物が、特定のリチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に集中して形成され、他の多くのリチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に形成されない場合がある。このため、タングステンおよびリチウムを含む化合物を介した、リチウムニッケル複合酸化物と電解質との接触面積が小さくなる恐れがある。
【0094】
したがって、より高い効果を得るため、タングステンおよびリチウムを含む化合物は、粒子径が1nm以上300nm以下の粒子としてリチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面に存在することが好ましい。
【0095】
タングステンおよびリチウムを含む化合物の粒子径を1nm以上とすることで、特に十分なリチウムイオン伝導性を発揮することができる。また、タングステンおよびリチウムを含む化合物の粒子径を300nm以下とすることで、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面にタングステンおよびリチウムを含む化合物の粒子を特に均一に形成することができ、反応抵抗を特に低減することができる。
【0096】
タングステンおよびリチウムを含む化合物の粒子が上記形態を採ることにより、電解質との接触面積を十分なものとして、リチウムイオン伝導性を効果的に向上できるため、充放電容量を特に向上させるとともに反応抵抗をより効果的に低減させることができる。
【0097】
ただし、タングステンおよびリチウムを含む化合物の粒子は、全てが粒子径1nm以上300nm以下の粒子として存在する必要はない。例えば、リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に形成されたタングステンおよびリチウムを含む化合物の粒子の個数で50%以上が、上記範囲を満たしていることが、特に高い効果を得る観点から好ましい。
【0098】
一方、リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面をタングステンおよびリチウムを含む化合物の薄膜で被覆すると、比表面積の低下を抑制しながら、電解質との界面でLiの伝導パスを形成させることができ、より高い充放電容量の向上、反応抵抗の低減という効果が得られる。このような薄膜状のタングステンおよびリチウムを含む化合物により一次粒子表面を被覆する場合、タングステンおよびリチウムを含む化合物は、膜厚1nm以上200nm以下の被膜としてリチウムニッケル複合酸化物の一次粒子表面に存在することが好ましい。
【0099】
タングステンおよびリチウムを含む化合物の薄膜の膜厚を1nm以上とすることで、該薄膜が特に十分なリチウムイオン伝導性を有することができる。また、タングステンおよびリチウムを含む化合物の薄膜の膜厚を200nm以下とすることで、リチウムイオン伝導性を特に高め、反応抵抗を特に低減することができるため、好ましい。
【0100】
タングステンおよびリチウムを含む化合物の薄膜は、リチウムニッケル複合酸化物の粒子全体に形成されている必要はなく、例えばリチウムニッケル複合酸化物の粒子表面上で部分的に形成されていてもよく、全ての被膜の膜厚範囲が1nm以上200nm以下でなくてもよい。一次粒子表面に少なくとも部分的に膜厚が1nm以上200nm以下のタングステンおよびリチウムを含む化合物の薄膜が形成されていれば、上述の高い効果が得られる。なお、例えば被膜としてタングステンおよびリチウムを含む化合物が形成される場合には、該化合物中に含有されるタングステン量を既述の範囲に制御することで、効果を得るために十分な量の膜厚1nm以上200nm以下の被膜を形成することもできる。
【0101】
さらに、粒子形態と薄膜の形態が混在してリチウムニッケル複合酸化物の粒子表面にタングステンおよびリチウムを含む化合物が形成されている場合にも、電池特性に関して高い効果が得られる。
【0102】
また、正極活物質全体のリチウム量は特に限定されないが、正極活物質中のニッケルおよび元素Mの原子数の和(Me)とリチウムの原子数(Li)との比「Li/Me比」が、0.95以上1.20以下であることが好ましく、0.97以上1.15以下であることがより好ましい。
【0103】
Li/Me比を0.95以上とすることで、得られた正極活物質をリチウムイオン二次電池の正極の材料に用いた場合に、特に正極の反応抵抗を抑制し、電池の出力を高めることができるからである。また、Li/Me比を1.20以下とすることで、リチウムニッケル複合酸化物の粒子表面の余剰リチウム成分を抑制することができるため、正極活物質をリチウムイオン二次電池の正極の材料に用いた場合に、特に初期放電容量を高め、かつ正極の反応抵抗を抑制することができる。
【0104】
なお、タングステンおよびリチウムを含む化合物に含まれるリチウム分は、母材となるリチウムニッケル複合酸化物から供給されるため、タングステンおよびリチウムを含む化合物の形成前後において正極活物質全体のリチウム量は変化しない。
【0105】
すなわち、タングステンおよびリチウムを含む化合物の形成後において、母材(芯材)としてのリチウムニッケル複合酸化物粒子のLi/Me比は、形成前より減少する。このため、上述のLi/Me比を0.97以上とすることで、より良好な充放電容量と反応抵抗を得ることができる。
【0106】
したがって、正極活物質全体のLi/Me比は、0.97以上1.15以下であることがより好ましい。
【0107】
本実施形態の正極活物質は、リチウムニッケル複合酸化物粒子の二次粒子の表面および一次粒子表面にタングステンおよびリチウムを含む化合物を設け、出力特性およびサイクル特性を改善するもので、正極活物質としての粒径、タップ密度などの粉体特性は、特に限定されず、例えば通常用いられる正極活物質の範囲内であればよい。
【0108】
また、リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子の表面および一次粒子表面に、タングステンおよびリチウムを含む化合物を設けることによる効果は、例えば、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物などの粉末、さらに本発明で掲げた正極活物質だけでなく一般的に使用されるリチウム二次電池用正極活物質にも適用できる。
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態のリチウムイオン二次電池(以下、「二次電池」ともいう。)は、既述の正極活物質を含む正極を有することができる。
【0109】
以下、本実施形態の二次電池の一構成例について、構成要素ごとにそれぞれ説明する。本実施形態の二次電池は、例えば正極、負極及び非水系電解質を含み、一般のリチウムイオン二次電池と同様の構成要素から構成される。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、下記実施形態をはじめとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
(正極)
本実施形態の二次電池が有する正極は、既述の正極活物質を含むことができる。
【0110】
以下に正極の製造方法の一例を説明する。まず、既述の正極活物質(粉末状)、導電材および結着剤(バインダー)を混合して正極合材とし、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを作製することができる。
【0111】
正極合材中のそれぞれの材料の混合比は、リチウムイオン二次電池の性能を決定する要素となるため、用途に応じて、調整することができる。材料の混合比は、公知のリチウムイオン二次電池の正極と同様とすることができ、例えば、溶剤を除いた正極合材の固形分の全質量を100質量%とした場合、正極活物質を60質量%以上95質量%以下、導電材を1質量%以上20質量%以下、結着剤を1質量%以上20質量%以下の割合で含有することができる。
【0112】
得られた正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して溶剤を飛散させ、シート状の正極が作製される。必要に応じ、電極密度を高めるべくロールプレス等により加圧することもできる。このようにして得られたシート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等し、電池の作製に供することができる。
【0113】
導電材としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラック(登録商標)などのカーボンブラック系材料などを用いることができる。
【0114】
結着剤(バインダー)としては、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂およびポリアクリル酸等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0115】
必要に応じ、正極活物質、導電材等を分散させて、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加することもできる。溶剤としては、具体的には、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することもできる。
【0116】
正極の作製方法は、上述した例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。例えば正極合材をプレス成形した後、真空雰囲気下で乾燥することで製造することもできる。
(負極)
負極は、金属リチウム、リチウム合金等を用いることができる。また、負極は、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる負極活物質に結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを用いてもよい。
【0117】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
(セパレータ)
正極と負極との間には、必要に応じてセパレータを挟み込んで配置することができる。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、公知のものを用いることができ、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
(非水系電解質)
非水系電解質としては、例えば非水系電解液を用いることができる。
【0118】
非水系電解液としては、例えば支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものを用いることができる。また、非水系電解液として、イオン液体にリチウム塩が溶解したものを用いてもよい。なお、イオン液体とは、リチウムイオン以外のカチオンおよびアニオンから構成され、常温でも液体状の塩をいう。
【0119】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネートや、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらにテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチルなどのリン化合物等から選ばれる1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いることもできる。
【0120】
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2、およびそれらの複合塩などを用いることができる。さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
【0121】
また、非水系電解質としては、固体電解質を用いてもよい。固体電解質は、高電圧に耐えうる性質を有する。固体電解質としては、無機固体電解質、有機固体電解質が挙げられる。
【0122】
無機固体電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質等が挙げられる。
【0123】
酸化物系固体電解質としては、特に限定されず、例えば酸素(O)を含有し、かつリチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものを好適に用いることができる。酸化物系固体電解質としては、例えば、リン酸リチウム(Li3PO4)、Li3PO4NX、LiBO2NX、LiNbO3、LiTaO3、Li2SiO3、Li4SiO4-Li3PO4、Li4SiO4-Li3VO4、Li2O-B2O3-P2O5、Li2O-SiO2、Li2O-B2O3-ZnO、Li1+XAlXTi2-X(PO4)3(0≦X≦1)、Li1+XAlXGe2-X(PO4)3(0≦X≦1)、LiTi2(PO4)3、Li3XLa2/3-XTiO3(0≦X≦2/3)、Li5La3Ta2O12、Li7La3Zr2O12、Li6BaLa2Ta2O12、Li3.6Si0.6P0.4O4等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0124】
硫化物系固体電解質としては、特に限定されず、例えば硫黄(S)を含有し、かつリチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものを好適に用いることができる。硫化物系固体電解質としては、例えば、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-B2S3、Li3PO4-Li2S-Si2S、Li3PO4-Li2S-SiS2、LiPO4-Li2S-SiS、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0125】
なお、無機固体電解質としては、上記以外のものを用いてよく、例えば、Li3N、LiI、Li3N-LiI-LiOH等を用いてもよい。
【0126】
有機固体電解質としては、イオン伝導性を示す高分子化合物であれば、特に限定されず、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、これらの共重合体などを用いることができる。また、有機固体電解質は、支持塩(リチウム塩)を含んでいてもよい。
(二次電池の形状、構成)
以上のように説明してきた本実施形態のリチウムイオン二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、本実施形態の二次電池が非水系電解質として非水系電解液を用いる場合であれば、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉した構造とすることができる。
【0127】
なお、既述の様に本実施形態の二次電池は非水系電解質として非水系電解液を用いた形態に限定されるものではなく、例えば固体の非水系電解質を用いた二次電池、すなわち全固体電池とすることもできる。全固体電池とする場合、正極活物質以外の構成は必要に応じて変更することができる。
【0128】
本実施形態の二次電池では、正極の材料として、既述の正極活物質を用いているため、高容量で高出力となる。
【0129】
特に、既述の正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、例えば、2032型コイン電池の正極に用いた場合、組成にもよるが、例えば210mAh/g以上の高い初期放電容量、すなわち高容量と低い正極抵抗が得られ、さらに高出力である。また、熱安定性が高く、安全性においても優れているといえる。
【0130】
そして、本実施形態の二次電池は、各種用途に用いることができるが、高容量、高出力な二次電池とすることができるため、例えば常に高容量を要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末など)の電源に好適であり、高出力が要求される電気自動車用電源にも好適である。
【0131】
また、本実施形態の二次電池は、小型化、高出力化が可能であることから、搭載スペースに制約を受ける電気自動車用電源として好適である。なお、本実施形態の二次電池は、純粋に電気エネルギーで駆動する電気自動車用の電源のみならず、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃焼機関と併用するいわゆるハイブリッド車用の電源としても用いることができる。
【実施例0132】
以下に、実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における正極活物質及び電池の各種評価方法は、以下の通りである。
(正極活物質の評価)
(a)偏析粒子の割合
正極活物質中の複合粒子に含まれる偏析粒子の割合を算出するに当って、まず正極活物質の粉末の任意の10か所を走査型電子顕微鏡にて印加電圧5kV、倍率100倍で撮像した。すなわち10視野で観察を行った。この際、1つの視野において、例えば
図1に示すような走査型電子顕微鏡写真が得られる。そして、その10枚のSEM写真に写っている白色の粒子である偏析粒子の数をカウントし、10枚のSEM写真に含まれる複合粒子の内、偏析粒子の割合を算出するという方法で測定した。
【0133】
なお、
図2、
図3に示すように偏析粒子Aは白色の粒子として観察でき、他の複合粒子Bは灰色の粒子として観察できる。
(電池の製造及び評価)
(a)電池の製造
正極活物質の評価には、
図4に示す2032型コイン電池11(以下、コイン型電池と称す)を使用した。
【0134】
図4に示すように、コイン型電池11は、ケース12と、このケース12内に収容された電極13とから構成されている。
【0135】
ケース12は、中空かつ一端が開口された正極缶12aと、この正極缶12aの開口部に配置される負極缶12bとを有しており、負極缶12bを正極缶12aの開口部に配置すると、負極缶12bと正極缶12aとの間に電極13を収容する空間が形成されるように構成されている。
【0136】
電極13は、正極13a、セパレータ13c及び負極13bとからなり、この順で並ぶように積層されており、正極13aが正極缶12aの内面に集電体14を介して接触し、負極13bが負極缶12bの内面に集電体14を介して接触するようにケース12に収容されている。正極13aとセパレータ13cとの間にも集電体14が配置されている。
【0137】
なお、ケース12はガスケット12cを備えており、このガスケット12cによって、正極缶12aと負極缶12bとの間が非接触の状態を維持するように相対的な移動が固定されている。また、ガスケット12cは、正極缶12aと負極缶12bとの隙間を密封してケース12内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
【0138】
上記の
図4に示すコイン型電池11は、以下のようにして製作した。
【0139】
まず、各実施例、比較例で作製したリチウムイオン二次電池用正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、及びポリテトラフッ化エチレン(PTFE)樹脂7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形して、正極13aを作製した。作製した正極13aを真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。
【0140】
この正極13aと、負極13b、セパレータ13c及び電解液とを用いて、上述したコイン型電池11を、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
【0141】
なお、負極13bには、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた平均粒径20μm程度の黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンが銅箔に塗布された負極シートを用いた。
【0142】
セパレータ13cには膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。電解液には、1MのLiClO
4を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。
(b)評価
製造したコイン型電池11の性能を示す初期放電容量、正極抵抗、サイクル特性は、以下のように評価した。
(b1)初期放電容量
初期放電容量は、コイン型電池11を製作してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm
2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
(b2)正極抵抗
正極抵抗は、コイン型電池11を充電電位4.1Vで充電して、周波数応答アナライザ及びポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製、1255B)を使用して交流インピーダンス法により測定すると、
図5Aに示すナイキストプロットが得られる。
【0143】
このナイキストプロットは、溶液抵抗、負極抵抗とその容量、および正極抵抗とその容量を示す特性曲線の和として表している。
【0144】
電極における電池反応は、電荷移動に伴う抵抗成分と電気二重層による容量成分とからなり、これらを電気回路で表すと抵抗と容量の並列回路となり、電池全体としては溶液抵抗と負極、正極の並列回路を直列に接続した等価回路で表される。
【0145】
このため、
図5Aに示したナイキストプロットに基づき
図5Bに示した等価回路を用いてフィッティング計算を行い、正極抵抗の値を算出した。なお、表1にはサイクル前正極抵抗として結果を示している。
(b3)サイクル特性
サイクル特性の評価は、サイクル試験後の容量維持率により行った。サイクル試験は、初期放電容量測定後、10分間休止し、初期放電容量測定と同様に充放電サイクルを、初期放電容量測定も含めて500サイクル(充放電)繰り返した。500サイクル目の放電容量を測定して、1サイクル目の放電容量(初期放電容量)に対する500サイクル目の放電容量の百分率を容量維持率(%)として求めた。
(b4)炭素含有量
炭素含有量は、炭素硫黄分析装置(LECO社製、型番:CS-600)より測定した。
【0146】
なお、本実施例では、正極活物質及び二次電池の作製には、特に断らない限り和光純薬工業株式会社製試薬特級の各試料を使用した。
[実施例1]
以下の手順に従い、正極活物質、リチウムイオン二次電池を作製し、評価を行った。
(混合工程)
Niを主成分とする酸化物と水酸化リチウムを用いて公知技術で得られたLi0.98Ni0.91Co0.06Al0.03O2で表される、層状化合物であるリチウムニッケル複合酸化物粒子の粉末を母材とした。なお、以下の他の実施例、比較例でも母材として層状化合物のリチウムニッケル複合酸化物を用いている。そして、母材に水を添加し、混合工程に供する出発原料中のリチウムニッケル複合酸化物と水とに占める、水の割合である水分率(以下、単に「水分率」とも記載する。また、表1でも同様に表記する。)を3.2質量%とした。
【0147】
水を添加した母材をパドル型混合装置に投入し、母材のNi、Co、Alの原子数の合計に対してWの原子数の割合が0.12原子%になるように酸化タングステン(WO3)を母材上に投入して、これらの出発原料を60℃で30分混合し、タングステン混合物を得た。
【0148】
混合工程の間、混合装置内を排気しながら、脱炭酸空気を供給した。具体的には、水を添加した母材の投入速度1kg/分あたり0.20m3/分の速度で排気し、同じ流速で脱炭酸空気を供給することで、混合装置内が負圧にならないように制御した。
【0149】
なお、出発原料中の、母材のNi、元素Mの原子数の合計に対する、Wの原子数の割合を表1において「W量」と記載する。
(熱処理工程)
その後、スチームチューブ式乾燥機を用いて190℃で120分間熱処理をし、その後炉冷した。
【0150】
なお、混合工程および熱処理工程の雰囲気は脱炭酸空気とした。
【0151】
最後に解砕し、目開き38μmの篩にかけることにより、リチウムニッケル複合酸化物の一次粒子表面にタングステンおよびリチウムを含む化合物の粒子を有する正極活物質を得た。
【0152】
得られた正極活物質について、偏析粒子の割合を算出した。
【0153】
得られた正極活物質について、Ni、Co、Alの原子数の合計に対する、Wの原子数の割合であるタングステン量をICPを用いて評価した。その結果、得られた正極活物質のタングステン量は、混合工程に供した出発原料中の、母材のNi、Co、Alの合計の原子数に対するWの原子数の割合である上記W量と等しくなることが確認できた。
【0154】
以下の他の実施例、比較例においても、得られた正極活物質の、Ni、および元素Mの原子数の合計に対する、Wの原子数の割合であるタングステン量は、出発原料における母材のNi、および元素Mの原子数の合計に対するWの原子数の割合(W量)と等しくなることが確認できた。
【0155】
なお、得られた正極活物質が含有するタングステンはリチウムニッケル複合酸化物の粒子表面に配置したタングステンおよびリチウムを含む化合物に、ニッケル、元素Mはリチウムニッケル複合酸化物に由来する。このため、上記正極活物質のタングステン量は、正極活物質中のリチウムニッケル複合酸化物に含まれるニッケル、および元素Mの原子数の合計に対する、タングステンおよびリチウムを含む化合物に含まれるタングステンの原子数の割合に相当する。
【0156】
得られた正極活物質を使用して作製された正極を有する
図4に示すコイン型電池11の電池特性を評価した。なお、サイクル試験前の正極抵抗(サイクル前正極抵抗)は実施例1を1.00とした相対値を評価値とした。
【0157】
また、炭素含有量は、前述の測定方法で測定した。
【0158】
試験条件と評価結果を表1に示す。
[実施例2]
水分率を3.4質量%とし、混合時の温度を55℃としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
【0159】
試験条件と評価結果を表1に示す。
[実施例3]
水分率を5.7質量%とし、母材のNi、Co、Alの原子数の合計に対するWの原子数の割合が0.24原子%となるようにWO3を添加し、混合時の温度を50℃、熱処理の温度を150℃、熱処理時間を180分とした。以上の点以外は、実施例1と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
【0160】
試験条件と評価結果を表1に示す。
[実施例4]
母材の組成をLi0.97Ni0.91Co0.04Al0.05O2とし、水分率を6.9質量%とし、母材のNi、Co、Alの原子数の合計に対するWの原子数の割合が0.06原子%となるようにWO3を添加した。また、混合工程の間、混合装置内を排気しながら、脱炭酸空気を供給した。具体的には、水を添加した母材の投入速度1kg/分あたり0.15m3/分の速度で排気し、同じ流速で脱炭酸空気を供給することで、混合装置内が負圧にならないように制御した。以上の点以外は、実施例1と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
【0161】
試験条件と評価結果を表1に示す。
[実施例5]
母材の組成をLi0.97Ni0.91Co0.04Al0.05O2とし、水分率を4.1質量%とし、母材のNi、Co、Alの原子数の合計に対するWの原子数の割合が0.27原子%となるようにWO3を添加した。また、混合工程の間、混合装置内を排気しながら、脱炭酸空気を供給した。具体的には、水を添加した母材の投入速度1kg/分あたり0.15m3/分の速度で排気し、同じ流速で脱炭酸空気を供給することで、混合装置内が負圧にならないように制御した。以上の点以外は、実施例1と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
【0162】
試験条件と評価結果を表1に示す。
[実施例6]
母材の組成をLi0.97Ni0.91Co0.04Al0.05O2とし、水分率を5.5質量%とし、母材のNi、Co、Alの原子数の合計に対するWの原子数の割合が0.15原子%となるようにWO3を添加し、混合時の温度を45℃、混合時間を45分とした。混合工程の間、混合装置内を排気しながら、脱炭酸空気を供給した。具体的には、水を添加した母材の投入速度1kg/分あたり0.25m3/分の速度で排気し、同じ流速で脱炭酸空気を供給することで、混合装置内が負圧にならないように制御した。以上の点以外は、実施例1と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
【0163】
試験条件と評価結果を表1に示す。
[実施例7]
母材の組成をLi0.97Ni0.91Co0.04Al0.05O2とし、水分率を4.9質量%とし、母材のNi、Co、Alの原子数の合計に対するWの原子数の割合が0.18原子%となるようにWO3を添加し、混合時の温度を30℃、混合時間を60分、熱処理の温度を175℃、熱処理時間を150分とした。混合工程の間、混合装置内を排気しながら、脱炭酸空気を供給した。具体的には、水を添加した母材の投入速度1kg/分あたり0.30m3/分の速度で排気し、同じ流速で脱炭酸空気を供給することで、混合装置内が負圧にならないように制御した。以上の点以外は、実施例1と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
【0164】
試験条件と評価結果を表1に示す。
[実施例8]
母材の組成をLi0.98Ni0.88Co0.09Al0.03O2とし、水分率を4.3質量%とし、母材のNi、Co、Alの原子数の合計に対するWの原子数の割合が0.18原子%となるようにWO3を添加した。以上の点以外は、実施例1と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
【0165】
試験条件と評価結果を表1に示す。
[実施例9]
母材の組成をLi0.98Ni0.88Co0.09Al0.03O2とし、水分率を3.6質量%とし、母材のNi、Co、Alの原子数の合計に対するWの原子数の割合が0.30原子%となるようにWO3を添加した。以上の点以外は、実施例1と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
【0166】
試験条件と評価結果を表1に示す。
[実施例10]
母材の組成をLi0.97Ni0.88Co0.07Al0.05O2とし、水分率を6.4質量%とし、母材のNi、Co、Alの原子数の合計に対するWの原子数の割合が0.15原子%となるようにWO3を添加した。以上の点以外は、実施例1と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
【0167】
試験条件と評価結果を表1に示す。
[実施例11]
母材の組成をLi0.97Ni0.88Co0.07Al0.05O2とし、水分率を5.8質量%とし、母材のNi、Co、Alの原子数の合計に対するWの原子数の割合が0.30原子%となるようにWO3を添加した。混合工程の間、混合装置内を排気しながら、脱炭酸空気を供給した。具体的には、水を添加した母材の投入速度1kg/分あたり0.15m3/分の速度で排気し、同じ流速で脱炭酸空気を供給することで、混合装置内が負圧にならないように制御した。以上の点以外は、実施例1と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
【0168】
試験条件と評価結果を表1に示す。
[実施例12]
母材の組成をLi0.97Ni0.91Co0.04Al0.05O2とし、水分率を8.6質量%とし、母材のNi、Co、Alの原子数の合計に対するWの原子数の割合が0.18原子%となるようにWO3を添加した。以上の点以外は、実施例1と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
【0169】
試験条件と評価結果を表1に示す。
[実施例13]
母材の組成をLi0.98Ni0.88Co0.09Al0.03O2とし、水分率を7.9質量%とし、母材のNi、Co、Alの原子数の合計に対するWの原子数の割合が0.15原子%となるようにWO3を添加した。以上の点以外は、実施例1と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
【0170】
試験条件と評価結果を表1に示す。
[実施例14]
水を添加した母材とWO3とを連続式パドル型混合装置に連続的に投入し、連続式パドル型混合装置から混合物を連続式スチーム式乾燥機に連続供給し、連続式スチーム式乾燥機から乾燥された混合物を連続排出した。すなわち、混合工程と、熱処理工程とを連続して実施した。以上の点以外は、実施例1と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
【0171】
試験条件と評価結果を表1に示す。
[実施例15]
水を添加した母材とWO3とを連続式パドル型混合装置に連続的に投入し、連続式パドル型混合装置から混合物を連続式スチーム式乾燥機に連続供給し、連続式スチーム式乾燥機から乾燥された混合物を連続排出した。すなわち、混合工程と、熱処理工程とを連続して実施した。以上の点以外は、実施例5と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
【0172】
試験条件と評価結果を表1に示す。
[実施例16]
母材の組成をLi0.98Ni0.55Co0.20Mn0.25O2としたこと以外は実施例1と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
【0173】
試験条件と評価結果を表1に示す。
[実施例17]
水分率を4.9質量%とし、母材のNi、Co、Mnの原子数の合計に対するWの原子数の割合が0.18原子%となるようにWO3を添加し、混合時の温度を55℃としたこと以外は実施例16と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
【0174】
試験条件と評価結果を表1に示す。
[実施例18]
母材の組成をLi0.97Ni0.91Co0.04Al0.05O2とし、水分率を5.2質量%とし、母材のNi、Co、Alの原子数の合計に対するWの原子数の割合が0.15原子%となるようにWO3を添加した。混合工程の間、混合装置内を排気しながら、脱炭酸空気を供給した。具体的には、水を添加した母材の投入速度1kg/分あたり0.10m3/分の速度で排気し、同じ流速で脱炭酸空気を供給することで、混合装置内が負圧にならないように制御した。以上の点以外は、実施例1と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
【0175】
試験条件と評価結果を表1に示す。
[実施例19]
母材の組成をLi0.97Ni0.91Co0.04Al0.05O2とし、水分率を5.5質量%とし、母材のNi、Co、Alの原子数の合計に対するWの原子数の割合が0.19原子%となるようにWO3を添加した。混合工程の間、混合装置内を排気しながら、脱炭酸空気を供給した。具体的には、水を添加した母材の投入速度1kg/分あたり0.35m3/分の速度で排気し、同じ流速で脱炭酸空気を供給することで、混合装置内が負圧にならないように制御した。以上の点以外は、実施例1と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
【0176】
試験条件と評価結果を表1に示す。
[実施例20]
母材の組成をLi0.97Ni0.88Co0.07Al0.05O2とし、水分率を4.9質量%とし、母材のNi、Co、Alの原子数の合計に対するWの原子数の割合が0.18原子%となるようにWO3を添加した。混合工程の間、混合装置内を排気しながら、脱炭酸空気を供給した。具体的には、水を添加した母材の投入速度1kg/分あたり0.10m3/分の速度で排気し、同じ流速で脱炭酸空気を供給することで、混合装置内が負圧にならないように制御した。以上の点以外は、実施例1と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
[実施例21]
母材の組成をLi0.97Ni0.88Co0.07Al0.05O2とし、水分率を5.3質量%とし、母材のNi、Co、Alの原子数の合計に対するWの原子数の割合が0.18原子%となるようにWO3を添加した。混合工程の間、混合装置内を排気しながら、脱炭酸空気を供給した。具体的には、水を添加した母材の投入速度1kg/分あたり0.35m3/分の速度で排気し、同じ流速で脱炭酸空気を供給することで、混合装置内が負圧にならないように制御した。以上の点以外は、実施例1と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
[実施例22]
母材の組成をLi0.98Ni0.55Co0.20Mn0.25O2とし、水分率を5.3質量%とし、母材のNi、Co、Alの原子数の合計に対するWの原子数の割合が0.19原子%となるようにWO3を添加した。混合工程の間、混合装置内を排気しながら、脱炭酸空気を供給した。具体的には、水を添加した母材の投入速度1kg/分あたり0.10m3/分の速度で排気し、同じ流速で脱炭酸空気を供給することで、混合装置内が負圧にならないように制御した。以上の点以外は、実施例1と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
【0177】
試験条件と評価結果を表1に示す。
[実施例23]
母材の組成をLi0.98Ni0.55Co0.20Mn0.25O2とし、水分率を4.8質量%とし、母材のNi、Co、Alの原子数の合計に対するWの原子数の割合が0.17原子%となるようにWO3を添加した。混合工程の間、混合装置内を排気しながら、脱炭酸空気を供給した。具体的には、水を添加した母材の投入速度1kg/分あたり0.35m3/分の速度で排気し、同じ流速で脱炭酸空気を供給することで、混合装置内が負圧にならないように制御した。以上の点以外は、実施例1と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
【0178】
試験条件と評価結果を表1に示す。
[比較例1]
母材の組成をLi0.97Ni0.91Co0.04Al0.05O2とし、水分率を5.2質量%とし、母材のNi、Co、Alの原子数の合計に対するWの原子数の割合が0.03原子%となるようにWO3を添加したこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
【0179】
試験条件と評価結果を表1に示す。
[比較例2]
水分率を2.7質量%とし、母材のNi、Co、Alの原子数の合計に対するWの原子数の割合が0.15原子%となるようにWO3を添加したこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
【0180】
試験条件と評価結果を表1に示す。
[比較例3]
母材の組成をLi0.97Ni0.88Co0.07Al0.05O2とし、水分率を2.8質量%とし、母材のNi、Co、Alの原子数の合計に対するWの原子数の割合が0.15原子%となるようにWO3を添加した。以上の点以外は、実施例1と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
【0181】
試験条件と評価結果を表1に示す。
[比較例4]
母材の組成をLi0.98Ni0.91Co0.06Al0.03O2とし、水分率を4.5質量%とし、母材のNi、Co、Alの原子数の合計に対するWの原子数の割合が0.18原子%となるようにWO3を添加し、混合時の温度を25℃、混合時間を90分、とした。以上の点以外は、実施例1と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
【0182】
試験条件と評価結果を表1に示す。
[比較例5]
母材の組成をLi0.98Ni0.91Co0.06Al0.03O2とし、水分率を4.4質量%とし、母材のNi、Co、Alの原子数の合計に対するWの原子数の割合を0.15原子%、混合時の温度を70℃、混合時間を30分、とした。以上の点以外は、実施例1と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
【0183】
試験条件と評価結果を表1に示す。
[比較例6]
母材の組成をLi0.98Ni0.88Co0.09Al0.03O2とし、水分率を4.5質量%とし、母材のNi、Co、Alの原子数の合計に対するWの原子数の割合を0.18原子%、混合時の温度を70℃、混合時間を30分、とした。以上の点以外は、実施例1と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
【0184】
試験条件と評価結果を表1に示す。
[比較例7]
母材の組成をLi0.97Ni0.88Co0.07Al0.05O2とし、水分率を4.2質量%とし、母材のNi、Co、Alの原子数の合計に対するWの原子数の割合を0.18原子%、混合時の温度を75℃、混合時間を30分、とした。以上の点以外は、実施例1と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
【0185】
試験条件と評価結果を表1に示す。
[比較例8]
水分率を3.4質量%とし、母材のNi、Co、Mnの原子数の合計に対するWの原子数の割合を0.13原子%、混合時の温度を70℃とした。以上の点以外は実施例16と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
【0186】
試験条件と評価結果を表1に示す。
[比較例9]
水分率を3.9質量%とし、母材のNi、Co、Mnの原子数の合計に対するWの原子数の割合を0.14原子%、混合時の温度を25℃、混合時間を90分とした。以上の点以外は実施例16と同様にして正極活物質、二次電池を作製し、評価を行った。
【0187】
試験条件と評価結果を表1に示す。
【0188】
【表1】
[評価]
表1から明らかなように、実施例1~実施例17の正極活物質は、母材の組成が対応する比較例に比べて初期放電容量が高く、正極抵抗も低く、容量維持率も高いものとなっており、また、偏析粒子の割合も少なく、優れた特性を有した電池となっている。
【0189】
実施例1、2、9、14、16は、混合工程に供した、出発原料中の水と、リチウムニッケル複合酸化物とに占める、水の割合である水分率が4.0質量%未満と低めだったため、WO3がわずかに分散しきれず、未反応のWO3が残りやすかった。このため、偏析粒子の割合が他の実施例と比較すると多少多めになり、他の実施例に比べると電池特性が多少劣ったと考えられる。
【0190】
実施例4、12、13は、水分率が6.0%を大幅に超えていたため、余剰の水分にリチウムニッケル複合酸化物中のリチウムが溶け出し、局所的にリチウムが多くなった部分でタングステンとの反応が多くなり、結果的に偏析粒子が生成されてしまった。このため、偏析粒子数が他の実施例と比較して多めになり、他の実施例に比べると電池特性が多少劣ったと考えられる。
【0191】
実施例6、7は、混合時の温度が低かったため、他の実施例より混合時間を長めにする必要があったが、評価結果は良好であった。
【0192】
実施例18、20、22は、問題無いレベルではあるが他の実施例と比較して炭素含有量が多めになった。これは、排気速度、及び脱炭酸空気の流量が少なめだったことで混合工程の雰囲気の炭酸ガス濃度が高めになり、リチウムニッケル複合酸化物中のリチウム成分の炭酸化が促進されたためである。この炭酸分は、電池内でガスとなり特性を低下させる恐れがある。このため、炭酸化は極力少ない方が好ましい。
【0193】
実施例19、21、23は、排気速度、及び脱炭酸空気の流量が多めだったため、リチウムニッケル複合酸化物のリチウム成分の炭酸化は少なかったが、気流により多少乾燥が促進されたため、問題無いレベルではあるが未反応のWO3が多めになった。
【0194】
これに対して、比較例1は、母材のNi、Co、Alの原子数の合計に対するWの原子数の割合が0.05原子%を下回ったため、十分にタングステンおよびリチウムを含む化合物が形成されず、電池特性が大きく劣る結果となったと考えられる。
【0195】
比較例2、3は、水分率が低かったため、十分にWO3を分散することができず、未反応のWO3が多く残ってしまい、また、それにより余剰のリチウム成分も多く残ったため、電池特性を悪化させてしまったと考えられる。
【0196】
比較例4、9は、混合の温度が30℃を下回ったため、十分にWO3を分散することができず、未反応のWO3が多く残ってしまい、また、それにより余剰のリチウム成分も多く残ったため、電池特性を悪化させてしまったと考えられる。
【0197】
比較例5~8は、混合の温度が65℃を超えていたため、タングステン混合物からの水分の減少が速く、WO3の分散に必要な水分を維持することができず、未反応のWO3が多く残ってしまい、また、それにより余剰のリチウム成分も多く残ってしまったので、電池特性を悪化させてしまったと考えられる。
【0198】
また、比較例2~9では、上述のようにWO3を十分に分散することができなかったため、偏析粒子割合が高くなり、電池特性が悪化することを確認できた。
【0199】
このように、本実施形態の正極活物質は、低コストでありながら、高容量で高出力であることが明らかになった。なお、実施例14と15では、連続処理で行ったが、評価結果は良好で、生産性も高く、さらに大きなコストダウンが見込めることが明らかになった。
【0200】
以上にリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池を、実施形態および実施例等で説明したが、本発明は上記実施形態および実施例等に限定されない。特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【0201】
本出願は、2019年 2月21日に日本国特許庁に出願された特願2019-029870号に基づく優先権を主張するものであり、特願2019-029870号の全内容を本国際出願に援用する。