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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123224
(43)【公開日】2024-09-10
(54)【発明の名称】基地局及び端末
(51)【国際特許分類】
   H04W 52/02 20090101AFI20240903BHJP
   H04W 72/0457 20230101ALI20240903BHJP
   H04W 84/12 20090101ALI20240903BHJP
【FI】
H04W52/02
H04W72/0457 110
H04W84/12
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024102928
(22)【出願日】2024-06-26
(62)【分割の表示】P 2022539797の分割
【原出願日】2020-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸田 朗
(72)【発明者】
【氏名】永田 健悟
(72)【発明者】
【氏名】井上 保彦
(72)【発明者】
【氏名】淺井 裕介
(72)【発明者】
【氏名】鷹取 泰司
(57)【要約】      (修正有)
【課題】無線端末の消費電力の抑制が可能な基地局を提供する。
【解決手段】無線システムにおいて、基地局(10)に含まれる第1の無線信号処理部(130)は、第1のチャネルを用いて無線信号を送受信可能であり、第2の無線信号処理部(140)は、第1のチャネルと異なる第2のチャネルを用いて無線信号を送受信可能である。リンクマネジメント部(120)は、第1の無線信号処理部と第2の無線信号処理部とを用いて端末とのマルチリンクを確立し、マルチリンクを第1の状態又は第2の状態に設定する。第1の状態では、第1の無線信号処理部を用いた第1のリンクと、第2の無線信号処理部を用いた第2のリンクとのそれぞれが通信可能なアクティブモードであり、第2の状態では、第1のリンクがアクティブモード又は間欠的に動作する間欠動作モードであり、第2のリンクが間欠動作モードよりも消費電力が低い動作休止モードである。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のチャネルを用いて無線信号を送受信可能に構成された第1の無線信号処理部と、
前記第1のチャネルと異なる第2のチャネルを用いて無線信号を送受信可能に構成された第2の無線信号処理部と、
前記第1の無線信号処理部と前記第2の無線信号処理部とを用いて端末とのマルチリンクを確立するリンクマネジメント部と、を備え、
前記リンクマネジメント部は、前記マルチリンクを第1の状態又は第2の状態に設定し、
前記第1の状態では、前記第1の無線信号処理部を用いた第1のリンクと、前記第2の無線信号処理部を用いた第2のリンクとのそれぞれが通信可能なアクティブモードであり、
前記第2の状態では、前記第1のリンクが、前記アクティブモード又は間欠的に動作する間欠動作モードであり、前記第2のリンクが、前記間欠動作モードよりも消費電力が低い動作休止モードである、基地局。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、基地局及び端末に関する。
【背景技術】
【0002】
基地局と端末との間を無線で接続する無線システムとして、無線LAN(Local Area Network)が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】IEEE Std 802.11-2016,“9.3.3.3 Beacon frame format”and“11.1 Synchronization”, 7 December 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
課題は、無線端末の消費電力を抑制すること。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の基地局は、第1の無線信号処理部、第2の無線信号処理部、及びリンクマネジメント部を含む。第1の無線信号処理部は、第1のチャネルを用いて無線信号を送受信可能に構成される。第2の無線信号処理部は、第1のチャネルと異なる第2のチャネルを用いて無線信号を送受信可能に構成される。リンクマネジメント部は、第1の無線信号処理部と第2の無線信号処理部とを用いて端末とのマルチリンクを確立する。リンクマネジメント部は、マルチリンクを第1の状態又は第2の状態に設定する。第1の状態では、第1の無線信号処理部を用いた第1のリンクと、第2の無線信号処理部を用いた第2のリンクとのそれぞれが通信可能なアクティブモードである。第2の状態では、第1のリンクがアクティブモード又は間欠的に動作する間欠動作モードであり、第2のリンクが間欠動作モードよりも消費電力が低い動作休止モードである。
【発明の効果】
【0006】
実施形態の基地局は、無線端末の消費電力を抑制させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施形態に係る無線システムの全体構成の一例を示す概念図である。
図2図2は、実施形態に係る無線システムにおける無線通信に使用される周波数帯の一例を示す概念図である。
図3図3は、実施形態に係る無線システムにおける無線フレームのフォーマットの一例を示す概念図である。
図4図4は、実施形態に係る無線システムの備える基地局の構成の一例を示すブロック図である。
図5図5は、実施形態に係る無線システムの備える基地局の機能の一例を示すブロック図である。
図6図6は、実施形態に係る無線システムの備える端末の構成の一例を示すブロック図である。
図7図7は、実施形態に係る無線システムの備える端末の機能の一例を示すブロック図である。
図8図8は、実施形態に係る無線システムの備える基地局のリンクマネジメント部の詳細な機能の一例を示すブロック図である。
図9図9は、実施形態に係る無線システムにおけるリンク管理情報の一例を示すテーブルである。
図10図10は、実施形態に係る無線システムにおけるマルチリンク処理の一例を示すフローチャートである。
図11図11は、実施形態に係る無線システムの備える基地局におけるビーコン信号の出力方法の一例を示す概念図である。
図12図12は、実施形態に係る無線システムにおけるマルチリンクケイパビリティ情報を含むビーコン信号の一例を示す概念図である。
図13図13は、実施形態に係る無線システムにおけるマルチリンク時のデータ送信方法の一例を示すフローチャートである。
図14図14は、実施形態に係る無線システムにおけるマルチリンクパワーセーブの適用時のリンク管理情報の変化の一例を示すテーブルである。
図15図15は、実施形態に係る無線システムの備える基地局のマルチリンク時の動作の一例を示すフローチャートである。
図16図16は、実施形態に係る無線システムにおけるPVB(Partial Virtual Bitmap)を含むビーコン信号の一例を示す概念図である。
図17図17は、実施形態に係る無線システムの備える端末のマルチリンクパワーセーブ時の動作の一例を示すフローチャートである。
図18図18は、実施形態に係る無線システムにおけるマルチリンクパワーセーブの開始動作の一例を示すフローチャートである。
図19図19は、実施形態に係る無線システムにおけるマルチリンクパワーセーブの終了動作の一例を示すフローチャートである。
図20図20は、実施形態に係る無線システムにおけるマルチリンクパワーセーブ時の通信方法の一例を示すフローチャートである。
図21図21は、実施形態に係る無線システムにおけるマルチリンクパワーセーブ時の通信方法の一例を示すフローチャートである。
図22図22は、実施形態に係る無線システムにおけるPVB(Partial Virtual Bitmap)を含むビーコン信号の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、実施形態に係る無線システム1について、図面を参照して説明する。実施形態は、発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示している。図面は模式的又は、概念的なものである。各図面の寸法及び比率等は、必ずしも現実のものと同一とは限らない。本発明の技術的思想は、構成要素の形状、構造、配置等によって特定されるものではない。また、以下の説明では、略同一の機能及び構成を有する構成要素に、同一の符号が付されている。
【0009】
<1>無線システム1の構成
<1-1>無線システム1の全体構成
図1は、実施形態に係る無線システム1の構成の一例を示している。図1に示すように、無線システム1は、例えば基地局10、端末20、及びサーバ30を備えている。
【0010】
基地局10は、ネットワークNWに接続され、無線LANのアクセスポイントとして使用される。例えば、基地局10は、ネットワークNWから受信したデータを、無線で端末20に配信することができる。また、基地局10は、一種類の帯域又は複数種類の帯域を用いて、端末20に接続され得る。本明細書では、基地局10と端末20との間における複数種類の帯域を用いた無線接続のことを、“マルチリンク”と呼ぶ。基地局10と端末20との間の通信は、例えばIEEE802.11規格に基づいている。
【0011】
端末20は、例えばスマートフォンやタブレットPC等の無線端末である。端末20は、無線で接続された基地局10を介して、ネットワークNW上のサーバ30との間でデータを送受信することができる。尚、端末20は、デスクトップコンピュータやラップトップコンピュータ等、その他の電子機器であってもよい。端末20は、少なくとも基地局10と通信可能であり、且つ後述する動作を実行可能な機器であればよい。
【0012】
サーバ30は、様々な情報を保持することが可能であり、例えば端末20を対象としたコンテンツのデータを保持している。サーバ30は、例えばネットワークNWに有線で接続され、ネットワークNWを介して基地局10と通信可能に構成される。尚、サーバ30は、少なくとも基地局10と通信可能であればよい。つまり、基地局10とサーバ30との間の通信は、有線であっても無線であってもよい。
【0013】
実施形態に係る無線システム1において、基地局10及び端末20間のデータ通信は、OSI(Open Systems Interconnection)参照モデルに基づいている。OSI参照モデルでは、通信機能が7階層(第1層:物理層、第2層:データリンク層、第3層:ネットワーク層、第4層:トランスポート層、第5層:セッション層、第6層:プレゼンテーション層、第7層:アプリケーション層)に分割される。
【0014】
データリンク層は、例えばLLC(Logical Link Control)層と、MAC(Media Access Control)層とを含んでいる。LLC層は、例えば上位のアプリケーションから入力されたデータに、DSAP(Destination Service Access Point)ヘッダやSSAP(Source Service Access Point)ヘッダ等を付加し、LLCパケットを形成する。MAC層は、例えばLLCパケットにMACヘッダを付加し、MACフレームを形成する。
【0015】
(無線通信に使用される周波数帯について)
図2は、実施形態に係る無線システム1における無線通信に使用される周波数帯の一例を示している。図2に示すように、無線通信では、例えば2.4GHz帯、5GHz帯、6GHz帯が使用される。そして、各周波数帯は、それぞれ複数のチャネルを含んでいる。本例では、2.4GHz帯、5GHz帯、6GHz帯のそれぞれが、少なくとも3つのチャネルCH1、CH2及びCH3を含んでいる。各チャネルCHを用いた通信は、後述されるSTA機能によって実現される。
【0016】
尚、無線システム1は、2.4GHz帯、5GHz帯、6GHz帯以外の周波数帯を無線通信に使用してもよい。各周波数帯には、少なくとも1つのチャネルCHが設定されていればよい。マルチリンクには、同じ周波数帯のチャネルCHが使用されてもよいし、異なる周波数帯のチャネルCHが使用されてもよい。
【0017】
(無線フレームのフォーマットについて)
図3は、実施形態に係る無線システム1において、基地局10及び端末20間の通信で使用される無線フレームのフォーマットの具体例を示している。図3に示すように、無線フレームは、例えばFrame Controlフィールド、Durationフィールド、Address1フィールド、Address2フィールド、Address3フィールド、Sequence Controlフィールド、その他の制御情報フィールド、Frame Bodyフィールド、及びFCS(Frame Check Sequence)フィールドを含んでいる。
【0018】
Frame Controlフィールド~その他の制御情報フィールドは、例えばMACフレームに含まれたMACヘッダに対応している。Frame Bodyフィールドは、例えばMACフレームに含まれたMACペイロードに対応している。FCSフィールドは、MACヘッダとFrame Bodyフィールドとの誤り検出符号を格納し、当該無線フレームにおけるエラーの有無の判定に使用される。
【0019】
Frame Controlフィールドは、様々な制御情報を示し、例えばType値、Subtype値、To DS(To Distribution System)値、及びFrom DS値を含んでいる。Type値は、当該無線フレームのフレームタイプを示している。例えば、Type値“00”は、当該無線フレームがマネージメントフレームであることを示している。Type値“01”は、当該無線フレームが制御フレームであることを示している。Type値“10”は、当該無線フレームがデータフレームであることを示している。
【0020】
無線フレームの内容は、Type値及びSubtype値の組み合わせによって変化する。例えば、“00/1000(Type値/Subtype値)”は、当該無線フレームがビーコン信号であることを示している。To DS値及びFrom DS値の意味は、その組み合わせにより異なっている。例えば、“00(To DS/From DS)”は、同じIBSS(Independent Basic Service Set)内の端末間におけるデータであることを示している。“10”は、データフレームが外部から当該DS(Distribution System)に向けられたものであることを示している。“01”は、データフレームが当該DSの外へ向かうことを示している。“11”は、メッシュネットワークを構成する場合に使用される。
【0021】
Durationフィールドは、無線回線を使用する予定期間を示している。複数のAddressフィールドは、BSSID、送信元アドレス、あて先アドレス、送信者端末のアドレス、受信者端末のアドレス等を示している。Sequence Controlフィールドは、MACフレームのシーケンス番号と、フラグメントのためのフラグメント番号とを示している。その他の制御情報フィールドは、例えばトラヒック種別(TID)情報を含んでいる。TID情報は、無線フレーム内のその他の位置に挿入されてもよい。Frame Bodyフィールドは、フレームの種類に応じた情報を含んでいる。例えば、Frame Bodyフィールドは、データフレームに対応する場合に、データを格納する。
【0022】
<1-2>基地局10の構成
図4は、実施形態に係る無線システム1の備える基地局10の構成の一例を示している。図4に示すように、基地局10は、例えばCPU(Central Processing Unit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13、無線通信モジュール14、及び有線通信モジュール15を備えている。
【0023】
CPU11は、様々なプログラムを実行することが可能な回路であり、基地局10の全体の動作を制御する。ROM12は、不揮発性の半導体メモリであり、基地局10を制御するためのプログラムや制御データ等を保持している。RAM13は、例えば揮発性の半導体メモリであり、CPU11の作業領域として使用される。無線通信モジュール14は、無線信号によるデータの送受信に使用される回路であり、アンテナに接続される。また、無線通信モジュール14は、例えば複数の周波数帯にそれぞれ対応する複数の通信モジュールを含んでいる。有線通信モジュール15は、有線信号によるデータの送受信に使用される回路であり、ネットワークNWに接続される。
【0024】
図5は、実施形態に係る無線システム1の備える基地局10の機能構成の一例を示している。図5に示すように、基地局10は、例えばデータ処理部110、リンクマネジメント部120、並びに無線信号処理部130、140及び150を備える。データ処理部110、リンクマネジメント部120、並びに無線信号処理部130、140及び150の処理は、例えばCPU11及び無線通信モジュール14によって実現される。
【0025】
データ処理部110は、入力されたデータに対して、LLC層の処理と上位層(第3層~第7層)の処理とを実行し得る。例えば、データ処理部110は、ネットワークNWを介してサーバ30から入力されたデータを、リンクマネジメント部120に出力する。また、データ処理部110は、リンクマネジメント部120から入力されたデータを、ネットワークNWを介してサーバ30に送信する。
【0026】
リンクマネジメント部120は、入力されたデータに対して、例えばMAC層の処理の一部を実行する。また、リンクマネジメント部120は、無線信号処理部130、140及び150からの通知に基づいて、端末20とのリンクを管理する。リンクマネジメント部120は、リンク管理情報121を含んでいる。リンク管理情報121は、例えばRAM13に格納され、当該基地局10に無線接続されている端末20の情報を含んでいる。また、リンクマネジメント部120は、アソシエーション処理部122、及び認証処理部123を含んでいる。アソシエーション処理部122は、無線信号処理部130、140及び150のいずれかを介して端末20の接続要求を受信した場合に、アソシエーションに関するプロトコルを実行する。認証処理部123は、接続要求に続いて、認証に関するプロトコルを実行する。
【0027】
無線信号処理部130、140及び150のそれぞれは、無線通信を用いて基地局10と端末20との間のデータの送受信を行う。例えば、無線信号処理部130、140及び150のそれぞれは、リンクマネジメント部120から入力されたデータにプリアンブルやPHYヘッダ等を付加して、無線フレームを作成する。そして、無線信号処理部130、140及び150のそれぞれは、当該無線フレームを無線信号に変換して、基地局10のアンテナを介して当該無線信号を配信する。また、無線信号処理部130、140及び150のそれぞれは、基地局10のアンテナを介して受信した無線信号を無線フレームに変換する。そして、無線信号処理部130、140及び150のそれぞれは、当該無線フレームに含まれたデータを、リンクマネジメント部120に出力する。
【0028】
このように、無線信号処理部130、140及び150のそれぞれは、入力されたデータ又は無線信号に対して、例えばMAC層の処理の一部と第1層の処理とを実行し得る。例えば、無線信号処理部130は、2.4GHz帯の無線信号を取り扱う。無線信号処理部140は、5GHz帯の無線信号を取り扱う。無線信号処理部150は、6GHz帯の無線信号を取り扱う。無線信号処理部130、140及び150は、基地局10のアンテナを共有していてもよいし、共有していなくてもよい。
【0029】
<1-3>端末20の構成
図6は、実施形態に係る無線システム1の備える端末20の構成の一例を示している。図6に示すように、端末20は、例えばCPU21、ROM22、RAM23、無線通信モジュール24、ディスプレイ25、及びストレージ26を備えている。
【0030】
CPU21は、様々なプログラムを実行することが可能な回路であり、端末20の全体の動作を制御する。ROM22は、不揮発性の半導体メモリであり、端末20を制御するためのプログラムや制御データ等を保持している。RAM23は、例えば揮発性の半導体メモリであり、CPU21の作業領域として使用される。無線通信モジュール24は、無線信号によるデータの送受信に使用される回路であり、アンテナに接続される。また、無線通信モジュール24は、例えば複数の周波数帯にそれぞれ対応する複数の通信モジュールを含んでいる。ディスプレイ25は、例えばアプリケーションソフトに対応するGUI(Graphical User Interface)等を表示する。ディスプレイ25は、端末20の入力インタフェースとしての機能を有していてもよい。ストレージ26は、不揮発性の記憶装置であり、例えば端末20のシステムソフトウェア等を保持する。尚、端末20は、ディスプレイを備えていなくてもよい。例えば、IoT端末では、ディスプレイ25が省略され得る。
【0031】
図7は、実施形態に係る無線システム1の備える端末20の機能構成の一例を示している。図7に示すように、端末20は、例えばデータ処理部210、リンクマネジメント部220、無線信号処理部230、240及び250、並びにアプリケーション実行部260を備える。データ処理部210、リンクマネジメント部220、並びに無線信号処理部230、240及び250の処理は、例えばCPU21及び無線通信モジュール24によって実現される。
【0032】
データ処理部210は、入力されたデータに対して、LLC層の処理と上位層(第3層~第7層)の処理とを実行し得る。例えば、データ処理部210は、アプリケーション実行部260から入力されたデータを、リンクマネジメント部220に出力する。また、データ処理部210は、リンクマネジメント部220から入力されたデータを、アプリケーション実行部260に出力する。
【0033】
リンクマネジメント部220は、入力されたデータに対して、例えばMAC層の処理の一部を実行する。また、リンクマネジメント部220は、無線信号処理部230、240及び250からの通知に基づいて、基地局10とのリンクを管理する。リンクマネジメント部220は、リンク管理情報221を含んでいる。リンク管理情報221は、例えばRAM23に格納され、当該端末20に無線接続されている基地局10の情報を含んでいる。また、リンクマネジメント部220は、アソシエーション処理部222、及び認証処理部223を含んでいる。アソシエーション処理部222は、無線信号処理部230、240及び250のいずれかを介して基地局10の接続応答を受信した場合に、アソシエーションに関するプロトコルを実行する。認証処理部223は、接続応答に続いて、認証に関するプロトコルを実行する。
【0034】
無線信号処理部230、240及び250のそれぞれは、無線通信を用いて基地局10と端末20との間のデータの送受信を行う。例えば、無線信号処理部230、240及び250のそれぞれは、リンクマネジメント部220から入力されたデータにプリアンブルやPHYヘッダ等を付加して、無線フレームを作成する。そして、無線信号処理部230、240及び250のそれぞれは、当該無線フレームを無線信号に変換して、端末20のアンテナを介して当該無線信号を配信する。また、無線信号処理部230、240及び250のそれぞれは、端末20のアンテナを介して受信した無線信号を無線フレームに変換する。そして、無線信号処理部230、240及び250のそれぞれは、当該無線フレームに含まれたデータを、リンクマネジメント部220に出力する。
【0035】
このように、無線信号処理部230、240及び250のそれぞれは、入力されたデータ又は無線信号に対して、例えばMAC層の処理の一部と第1層の処理とを実行し得る。例えば、無線信号処理部230は、2.4GHz帯の無線信号を取り扱う。無線信号処理部240は、5GHz帯の無線信号を取り扱う。無線信号処理部250は、6GHz帯の無線信号を取り扱う。無線信号処理部230、240及び250は、端末20のアンテナを共有していてもよいし、共有していなくてもよい。
【0036】
アプリケーション実行部260は、データ処理部210から入力されたデータを利用することが可能なアプリケーションを実行する。例えば、アプリケーション実行部260は、アプリケーションの情報をディスプレイ25に表示することができる。また、アプリケーション実行部260は、入力インタフェースの操作に基づいて動作し得る。
【0037】
以上で説明された実施形態に係る無線システム1では、基地局10の無線信号処理部130、140及び150が、それぞれ端末20の無線信号処理部230、240及び250と接続可能に構成される。つまり、無線信号処理部130及び230間は、2.4GHz帯を用いて無線接続され得る。無線信号処理部140及び240間は、5GHz帯を用いて無線接続され得る。無線信号処理部150及び250間は、6GHz帯を用いて無線接続され得る。本明細書において、各無線信号処理部は、“STA機能”と呼ばれてもよい。すなわち、実施形態に係る無線システム1は、複数のSTA機能を備えている。
【0038】
<1-4>リンクマネジメント部120について
図8は、実施形態に係る無線システム1の備える基地局10のリンクマネジメント部120におけるチャネルアクセス機能の詳細を示している。尚、端末20のリンクマネジメント部220の機能は、例えば基地局10のリンクマネジメント部120と同様のため、説明を省略する。図8に示すように、リンクマネジメント部120は、例えばデータカテゴライズ部124、送信キュー125A、125B、125C、125D及び125E、CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)実行部126A、126B、126C、126D及び126E、及びデータ衝突管理部127を含んでいる。
【0039】
データカテゴライズ部124は、データ処理部110から入力されたデータをカテゴライズする。データのカテゴリとしては、例えば“LL(Low Latency)”、“VO(Voice)”、“VI(Video)”、“BE(Best Effort)”、及び“BK(Background)”が設定される。LLは、低遅延が求められるデータに適用される。このため、LLのデータは、VO、VI、BE及びBKのいずれのデータよりも優先して処理されることが好ましい。
【0040】
そして、データカテゴライズ部124は、カテゴライズしたデータを、送信キュー125A、125B、125C、125D及び125Eのいずれかに入力する。具体的には、LLのデータが、送信キュー125Aに入力される。VOのデータが、送信キュー125Bに入力される。VIのデータが、送信キュー125Cに入力される。BEのデータが、送信キュー125Dに入力される。BKのデータが、送信キュー125Eに入力される。そして、入力された各カテゴリのデータは、対応する送信キュー125A~Eのいずれかに蓄積される。
【0041】
CSMA/CA実行部126A、126B、126C、126D及び126Eのそれぞれは、CSMA/CAにおいて、キャリアセンスにより他の端末等による無線信号の送信がないことを確認しつつ、予め設定されたアクセスパラメータにより規定された時間だけ送信を待つ。そして、CSMA/CA実行部126A、126B、126C、126D及び126Eは、それぞれ送信キュー125A、125B、125C、125D及び125Eからデータを取り出し、取り出したデータをデータ衝突管理部127を介して無線信号処理部130、140及び150の少なくともいずれかに出力する。すると、当該データを含む無線信号が、CSMA/CAによって送信権が獲得された無線信号処理部(STA機能)によって送信される。
【0042】
CSMA/CA実行部126Aは、送信キュー125Aに保持されたLLのデータに対するCSMA/CAを実行する。CSMA/CA実行部126Bは、送信キュー125Bに保持されたVOのデータに対するCSMA/CAを実行する。CSMA/CA実行部126Cは、送信キュー125Cに保持されたVIのデータに対するCSMA/CAを実行する。CSMA/CA実行部126Dは、送信キュー125Dに保持されたBEのデータに対するCSMA/CAを実行する。CSMA/CA実行部126Eは、送信キュー125Eに保持されたBKのデータに対するCSMA/CAを実行する。
【0043】
尚、アクセスパラメータは、例えばLL、VO、VI、BE、BKの順に無線信号の送信が優先されるように割り当てられる。アクセスパラメータは、例えばCWmin、CWmax、AIFS、TXOPLimitを含んでいる。CWmin及びCWmaxは、衝突回避のための送信待ちの時間であるコンテンションウインドウ(Contention Window)の最小値及び最大値をそれぞれ示している。AIFS(Arbitration Inter Frame Space)は、優先制御機能を備える衝突回避制御のためにアクセスカテゴリごとに設定された固定の送信待ちの時間を示している。TXOPLimitは、チャネルの占有時間に対応するTXOP(Transmission Opportunity)の上限値を示している。例えば、送信キュー125は、CWmin及びCWmaxが短いほど、送信権を得やすくなる。送信キュー125の優先度は、AIFSが小さいほど高くなる。一度の送信権で送信されるデータの量は、TXOPLimitの値が大きいほど多くなる。
【0044】
データ衝突管理部127は、複数のCSMA/CA実行部126が同一のSTA機能で送信権を獲得した場合に、データの衝突を防止する。具体的には、データ衝突管理部127は、カテゴリが異なり且つ同一のSTA機能で送信権が獲得されたデータの送信タイミングを調整し、優先度の高いカテゴリのデータからSTA機能に送信する。例えば、LLの送信キュー125AのCSMA/CAによって送信権を獲得したSTA機能が、その他の送信キュー125B~125EのいずれかのCSMA/CAによって送信権を獲得したSTA機能と同一になる場合がある。この場合、データ衝突管理部127は、送信キュー125Aに格納されたデータを優先してSTA機能に送信する。その他の送信キュー125の組み合わせにおいても同様に、カテゴリに設定された優先度に基づいた順番でデータが送信される。これにより、同一のSTA機能に送信が割り当てられたデータ同士の衝突が防止される。
【0045】
実施形態では、リンクマネジメント部がチャネルアクセス機能を実装する形態について記載しているが、各STA機能がチャネルアクセス機能を実装してもよい。リンクマネジメント部がチャネルアクセス機能を実装する場合、各STA機能が、対応するリンクにおける無線チャネルの状態(アイドル/ビジー)を検出して、リンクマネジメント部が、データの送信可否を判断する(どのリンクを使って送信する等)。一方で、各STA機能がチャネルアクセス機能を実装する場合、各STA機能が独立してキャリアセンスを実行して、データを送信すればよい。このとき、複数のリンクが同時に使用された場合のチャネルアクセスは、複数のSTA機能間のやりとりによってアクセスパラメータが共通化されることによって実行されてもよく、リンクマネジメント部によってアクセスパラメータが共通化されることによって実行されてもよい。基地局10及び端末20は、データを複数のSTA機能間で共通のアクセスパラメータに基づいて送信することによって、複数のリンクを同時に使うことができる。
【0046】
<1-5>リンク管理情報121について
図9は、実施形態に係る無線システム1におけるリンク管理情報121の一例を示している。尚、端末20のリンク管理情報221は、基地局10のリンク管理情報121と類似した情報を有するため、説明を省略する。図9に示すように、リンク管理情報121は、例えばSTA機能、周波数帯、チャネルID、リンク先ID、マルチリンク、TIDのそれぞれの情報を含んでいる。
【0047】
本例において“STA1”は、6GHzの周波数帯を使用するSTA機能、すなわち無線信号処理部150又は250に対応している。“STA2”は、5GHzの周波数帯を使用するSTA機能、すなわち無線信号処理部140又は240に対応している。“STA3”は、2.4GHzの周波数帯を使用するSTA機能、すなわち無線信号処理部130又は230に対応している。以下では、STA1、STA2及びSTA3を、それぞれリンク#1、リンク#2及びリンク#3とも呼ぶ。
【0048】
チャネルIDは、設定された周波数帯で使用しているチャネルの識別子に対応している。リンク先IDは、リンク管理情報121では端末20の識別子に対応し、リンク管理情報221では基地局10の識別子に対応している。本例では、STA1、STA2及びSTA3を用いたマルチリンクが確立されている。マルチリンクが確立されている場合、リンクマネジメント部120及び220のそれぞれは、上位層から入力されたデータを、マルチリンクに関連付けられた少なくとも1つのSTA機能のリンクを用いて送信する。
【0049】
基地局10は、複数のSTA機能のうち一つのSTA機能をアンカーリンクとして設定する。本例では、STA1がアンカーリンクに設定されている。アンカーリンクは、基地局10のリンクマネジメント部120によって設定される。アンカーリンクは、割り当てられたデータの送受信の他に、マルチリンクの動作に関連する制御情報を送受信する。尚、各々が基地局10とマルチリンクを確立している複数の端末20間では、マルチリンクを構成するリンクの組み合わせが異なっていてもよい。
【0050】
リンク管理情報121内の“TID”は、STA機能とTID情報との関連付けを示している。各STA機能は、割り当てられたTID情報に対応するデータを送受信する。例えば、TID#1~4のそれぞれは、LL、VO、VI、BE、BKのいずれかに対応している。1つのトラヒック、すなわち1つのTID情報に対して、1つのSTA機能が関連付けられてもよいし、複数のSTA機能が関連付けられてもよい。本例では、TID#1が、STA1及びSTA2の両方に割り当てられている。TID#2が、STA1に割り当てられている。TID#3が、STA2に割り当てられている。TID#4が、STA3に割り当てられている。
【0051】
このようなトラヒックとSTA機能との関連付けに対応するトラヒックフローは、基地局10と端末20との間のマルチリンクのセットアップ時に予め設定される。例えば、端末20のリンクマネジメント部220が、トラヒックとSTA機能との対応付けを決定し、基地局10のリンクマネジメント部120にリクエストする。そして、基地局10が、当該リクエストに対してレスポンスすることによって、トラヒックとSTA機能との対応付けが確定する。
【0052】
尚、トラヒックは、例えばマルチリンクを構成する複数のリンク間で均等になるように設定される。これに限定されず、互いに類似する種類(優先/非優先等)のトラヒックが、マルチリンクを構成する一方のリンクに集められてもよい。また、STA機能とトラヒックとの関連付けとしては、例えば音声が2.4GHzの周波数帯に関連付けられ、映像が5Gに関連付けられる。このように、取り扱う情報の種類やデータ容量に応じて、送受信に使用される周波数が割り当てられることが好ましい。
【0053】
<2>無線システム1の動作
以下に、実施形態に係る無線システム1のマルチリンクに関連する様々な動作の一例について説明する。以下の説明では、説明を簡潔にするために、基地局10のSTA1、STA2及びSTA3のことを“アクセスポイントAP”とも呼ぶ。端末20のSTA1、STA2及びSTA3がアクセスポイントAPに無線信号を送信することは、それぞれ基地局10のSTA1、STA2及びSTA3に無線信号を送信することに対応している。STA1、STA2及びSTA3がそれぞれ単独で記載された場合に、これらは端末20のSTA機能のことを示している。
【0054】
<2-1>マルチリンク処理
図10は、実施形態に係る無線システム1におけるマルチリンク処理の流れの一例を示している。図10に示すように、マルチリンク処理では、例えばステップS10~S16の処理が順に実行される。以下に、ステップS10~S16の処理について、3つのSTA機能を用いたマルチリンクが形成される場合を例に説明する。
【0055】
ステップS10の処理において、端末20は、基地局10にプローブリクエストを送信する。プローブリクエストは、端末20の周辺に基地局10が存在するか否かを確認する信号である。プローブリクエストのFrame Controlフィールドは、例えば“00/0100(Type値/Subtype値)”を含んでいる。基地局10は、プローブリクエストを受信すると、ステップS11の処理を実行する。
【0056】
ステップS11の処理において、基地局10は、端末20にプローブレスポンスを送信する。プローブレスポンスは、基地局10が端末20からのプローブリクエストに対する応答に使用する信号である。プローブレスポンスのFrame Controlフィールドは、例えば“00/0101(Type値/Subtype値)”を含んでいる。端末20は、プローブリクエストを受信すると、ステップS12の処理を実行する。
【0057】
ステップS12の処理において、端末20は、少なくとも1つのSTA機能を介して、基地局10にマルチリンクアソシエーションリクエストを送信する。マルチリンクアソシエーションリクエストは、基地局10にマルチリンクの確立を要求するための信号である。例えば、マルチリンクアソシエーションリクエストは、端末20のリンクマネジメント部220によって生成される。マルチリンクアソシエーションリクエストのFrame Controlフィールドは、例えば“00/xxxx(Type値/Subtype値(xxxxは所定の数値))”を含んでいる。基地局10のリンクマネジメント部120は、マルチリンクアソシエーションリクエストを受信すると、ステップS13の処理を実行する。
【0058】
ステップS13の処理において、基地局10のリンクマネジメント部120は、1つのSTA機能を使用したマルチリンクアソシエーション処理を実行する。具体的には、まず基地局10は、端末20との間で、1つ目のSTA機能のアソシエーション処理を実行する。そして、1つ目のSTA機能において無線接続(リンク)が確立されると、基地局10のリンクマネジメント部120は、リンクが確立されている1つ目のSTA機能を用いて、2つ目のSTA機能のアソシエーション処理と3つ目のSTA機能のアソシエーション処理とを実行する。つまり、リンクが確立されていないSTA機能のアソシエーション処理に、リンクが確立されているSTA機能が使用される。少なくとも2つのSTA機能のアソシエーション処理が完了すると、基地局10は、マルチリンクを確立し、ステップS14の処理を実行する。
【0059】
ステップS14の処理において、基地局10のリンクマネジメント部120は、リンク管理情報121を更新する。尚、本例では2つのリンクが確立された後にステップS14の処理が実行されているが、リンク管理情報121は、リンク状態が更新する度に更新されてもよいし、マルチリンクが確立された際に更新されてもよい。マルチリンクが確立され、リンク管理情報が更新されると、基地局10は、ステップS15の処理を実行する。
【0060】
ステップS15の処理において、基地局10は、端末20にマルチリンク確立レスポンスを送信する。マルチリンク確立レスポンスは、基地局10が端末20からのマルチリンクリクエストに対する応答に使用する信号である。マルチリンクアソシエーションリクエストのFrame Controlフィールドは、例えば“00/0001(Type値/Subtype値)”を含んでいる。端末20のリンクマネジメント部220は、マルチリンク確立レスポンスを受信したことに基づいて、基地局10との間のマルチリンクが確立されたことを認識する。端末20は、マルチリンク確立レスポンスを受信すると、ステップS16の処理を実行する。
【0061】
ステップS16の処理において、端末20のリンクマネジメント部220は、リンク管理情報221を更新する。つまり、端末20は、基地局10とのマルチリンクが確立されたことを、リンク管理情報221に記録する。これにより、実施形態に係る無線システム1におけるマルチリンク処理が完了し、マルチリンクを用いたデータ通信が、基地局10と端末20との間において可能となる。
【0062】
尚、実施形態に係る無線システム1は、1つ目のSTA機能においてリンクを確立する際に、マルチリンクを確立してもよい。この場合、端末20が、ステップS12のマルチリンクアソシエーションリクエストの前に、マルチリンクに関するビーコン信号を基地局10から受信する。以下に、本動作について、図11及び図12を用いて説明する。
【0063】
図11は、実施形態に係る無線システム1の備える基地局10におけるビーコン信号の出力方法の一例を示している。本例では、リンク#1~#3のうちリンク#1がアンカーリンクに設定されている。図11に示すように、基地局10は、アンカーリンクに設定されているリンク#1を用いて、ビーコン信号を間欠的に送信する。一方で、アンカーリンクに設定されていないリンク#2及び#3によるビーコン信号の送信が、省略されている。ビーコン信号は、アンカーリンクに設定されていないリンクを用いて送信されてもよく、少なくともアンカーリンクを用いて送信されていればよい。
【0064】
図12は、実施形態に係る無線システム1におけるマルチリンクケイパビリティ情報を含むビーコン信号の具体例を示している。図12に示すように、ビーコン信号は、例えば、マルチリンクケイパビリティ情報と、リンク#1の運用情報と、リンク#2の運用情報と、リンク#3の運用情報とを含んでいる。これらの情報は、基地局10のリンクマネジメント部120によって生成される。
【0065】
マルチリンクケイパビリティ情報は、基地局10がマルチリンク可能であるかどうかを示している。例えば、マルチリンクケイパビリティ情報が“0”である場合、マルチリンクが不可能であることを示している。マルチリンクケイパビリティ情報が“1”である場合、マルチリンクが可能であることを示している。リンクの運用情報(オペレーショナルパラメータ)は、マルチリンクで使用され得るリンクにおけるデータ伝送等を行うためのパラメータを示している。例えば、リンク#1の運用情報は、当該リンクにおける送信制御を行うためのEDCA(Enhanced Distributed Channel Access)のアクセスパラメータ等を示している。
【0066】
端末20は、図12を用いて説明されたビーコン信号を受信すると、当該ビーコン信号から、マルチリンクケイパビリティ情報や、マルチリンクの対象となる各リンクの運用情報を確認する。そして、端末20のリンクマネジメント部220が、マルチリンクアソシエーションリクエストの際に、マルチリンクの対象とするリンク等の情報を、基地局10のリンクマネジメント部120に通知する。これにより、基地局10のリンクマネジメント部120が、端末20のリンクマネジメント部220により指定された複数のリンクのアソシエーションを一括で実行し、端末20とのマルチリンクを確立することができる。
【0067】
尚、上述されたビーコン信号がアンカーリンクのみで送信される場合には、ビーコン信号がアンカーリンクを示すフィールドを有していなくてもよい。一方で、ビーコン信号がアンカーリンク及びその他のリンクで送信される場合には、ビーコン信号がアンカーリンクを示すフィールドや、その他のリンクを示すフィールドを有し得る。また、基地局10は、上述されたビーコン信号に含まれた情報を、プローブレスポンスに付加してもよい。この場合、端末20のリンクマネジメント部220は、ビーコン信号を受信することなく、使用するリンクを指定したマルチリンクアソシエーションリクエストを基地局10に送信することができる。また、基地局10及び端末20は、マルチリンクの確立の際に、認証プロセスを実行してもよい。
【0068】
<2-2>マルチリンク時のデータ転送
図13は、実施形態に係る無線システム1の備える基地局10におけるマルチリンク時のデータの送信方法の一例を示している。図13に示すように、基地局10は、上位層からデータを取得すると、ステップS20~S22の処理を順に実行する。以下に、ステップS20~S22の処理について説明する。
【0069】
ステップS20の処理において、リンクマネジメント部120が、当該データに対応するTID情報を取得する。言い換えると、リンクマネジメント部120が、例えば、上位層から取得したデータに付加されたヘッダ等の制御情報を参照して、当該データとTIDとを対応づける。
【0070】
ステップS21の処理において、リンクマネジメント部120が、確認されたTID情報に対応するSTA機能を取得する。この際に、リンクマネジメント部120は、リンク管理情報121を参照することによって、TID情報とSTA機能との関連付けを確認する。尚、ステップS21の処理において、リンクマネジメント部120により取得されるSTA機能の数は、1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0071】
ステップS22の処理において、リンクマネジメント部120が、取得したSTA機能にデータを出力する。出力されるデータ(トラヒック)に1つのSTA機能が関連付けられている場合、当該データは1つのSTA機能を用いてシリアルに送信される。一方で、トラヒックに複数のSTA機能が関連付けられている場合、当該データは複数のSTA機能を用いてパラレルに送信される。
【0072】
尚、1つのトラヒックがパラレルに送信される場合、基地局10のリンクマネジメント部120と端末20のリンクマネジメント部220との間で、データの振り分けと並び替えが実行される。データの振り分けは、送信側のリンクマネジメント部によって実行され、データの並び替えは、受信側のリンクマネジメント部によって実行される。例えば、送信側のリンクマネジメント部は、無線フレームにマルチリンクであることを示すフラグと識別番号とを付加する。受信側のリンクマネジメント部は、付加されたフラグと識別番号とに基づいて、データの並び替えを実行する。
【0073】
また、実施形態に係る無線システム1において、リンクマネジメント部は、上位層から複数のデータを受信した場合に、受信した複数のデータを結合することによりアグリゲーションを実行してもよい。マルチリンクにおけるアグリゲーションは、ユーザによって実行の有無が選択可能なオプション機能として使用されてもよい。
【0074】
<2-3>マルチリンクパワーセーブ
実施形態に係る無線システム1では、複数種類の動作モードが各STA機能に用意される。STA機能の動作モードとしては、例えばアクティブモード、間欠動作モード、及び動作休止モードが挙げられる。アクティブモードは、端末20のSTA機能がAwake状態を維持することにより、無線信号を随時送受信可能である状態に対応している。間欠動作モードは、端末20のSTA機能がAwake状態とDoze状態を繰り返すことにより、間欠的に動作している状態に対応している。動作休止モードは、端末20のSTA機能がDoze状態を維持することにより、無線信号の送受信が不可能である状態に対応している。
【0075】
尚、本明細書において、“Awake状態”は、無線信号を送受信可能な状態に対応している。Dose状態は、無線信号を送受信不可能な状態に対応している。“Doze状態”では、当該STA機能に関する回路への電源の供給が適宜遮断される。このため、STA機能の消費電力は、アクティブモード、間欠動作モード、動作休止モードの順に小さくなる。尚、基地局10又は端末20が通信に使うことができるが、これらの間のマルチリンクのリンクセットに含まれないリンクも存在し得る(Disabledリンク)。以下では、説明を簡潔にするために、アクティブモード又は間欠動作モードのリンク、すなわち通信可能なリンクのことを“Awake状態のSTA機能(リンク)”と呼ぶ。動作休止モードのリンク、すなわち通信不可能な省電力状態のリンクのことを“Dose状態のSTA機能(リンク)”と呼ぶ。
【0076】
実施形態に係る無線システム1におけるマルチリンクでは、アンカーリンクは、例えばアクティブモードと間欠動作モードとのいずれかに設定される。一方で、アンカーリンク以外のリンクは、アクティブモード、間欠動作モード、及び動作休止モードのいずれかに設定される。例えば、端末20は、マルチリンク時にアンカーリンク以外のリンクを動作休止モードに設定することによって、省電力に動作し得る。
【0077】
以下では、アンカーリンクが間欠動作モードに設定され、且つアンカーリンク以外のリンクが動作休止モードに設定されているマルチリンクの状態のことを、“マルチリンクパワーセーブ”と呼ぶ。尚、マルチリンクパワーセーブ時に、アンカーリンクに加えてアンカーリンク以外のリンクもビーコン信号を受信する場合には、当該リンクが、アクティブモード又は間欠動作モードに設定される。
【0078】
図14は、実施形態に係る無線システム1におけるマルチリンクパワーセーブの適用時のリンク管理情報121の変化の一例を示している。図14の上側及び下側のテーブルが、それぞれマルチリンクパワーセーブの非適用時及び適用時に対応している。図14に示すように、リンク管理情報121は、動作モードの情報をさらに含んでいる。
【0079】
図14の上側に示すように、マルチリンクパワーセーブの非適用時には、例えばSTA1、STA2及びSTA3のそれぞれの動作モードが、アクティブモードに設定されている。本例におけるマルチリンクパワーセーブの非適用時のリンク管理情報121のその他のパラメータは、図9に示されたリンク管理情報121と同様である。
【0080】
図14の下側に示すように、マルチリンクパワーセーブの適用時には、例えばSTA1、STA2及びSTA3の動作モードが、間欠動作モード、動作休止モード、及び動作休止モードにそれぞれ設定されている。マルチリンクパワーセーブの適用時のリンク管理情報121のその他のパラメータは、マルチリンクパワーセーブの非適用時と同様である。
【0081】
マルチリンクパワーセーブのオン/オフは、それぞれDoze移行通知信号(“disable”)とAwake移行要求信号(“enable”)とによって適用される。例えば、マルチリンクが設定された後に、端末20が基地局10にDoze移行通知信号を送信すると、端末20がマルチリンクパワーセーブに設定される。端末20がマルチリンクパワーセーブに設定された状態で、基地局10が端末20にAwake移行要求信号を送信すると、端末20のマルチリンクパワーセーブの設定が解除される。
【0082】
尚、Awake移行要求信号及びDoze移行通知信号は、基地局10及び端末20のどちらから送信されてもよい。Awake移行要求信号の送信は、アンカーリンク、又はその他の起動しているリンクを用いて実行される。Doze移行通知信号の送信は、アンカーリンク、又は停止するリンク(動作休止モードに移行するリンク)を用いて実行される。また、マルチリンクパワーセーブは、マルチリンクが確立された際に適用されてもよい。マルチリンクパワーセーブは、少なくともマルチリンクパワーセーブが適用されない場合よりも省電力であればよい。例えば、マルチリンクパワーセーブにおいて、アンカーリンクがアクティブモードに設定され、その他のリンクが動作休止モードに設定されてもよい。
【0083】
(マルチリンクパワーセーブ時の基地局10の動作)
図15は、実施形態に係る無線システム1の備える基地局10のマルチリンク時の動作の一例を示している。図15に示すように、基地局10のリンクマネジメント部120は、バッファデータがある場合に、マルチリンクの状態を確認する(ステップS30)。バッファデータは、基地局10がネットワークNWを介して受信したデータであり、例えば送信キュー125に蓄積されたデータのことを示している。そして、基地局10のリンクマネジメント部120は、バッファデータに関連付けられたリンクが間欠動作モード又は動作休止モードであるか否かを確認する(ステップS31)。
【0084】
バッファデータに関連付けられたリンクが間欠動作モード又は動作休止モードである場合(ステップS31、YES)、基地局10のリンクマネジメント部120は、TID毎のPVB(Partial Virtual Bitmap)を含むビーコン信号を、端末20に送信する(ステップS32)。当該ビーコン信号の作成は、リンクマネジメント部120によって実行されてもよいし、アンカーリンクのSTA機能によって実行されてもよい。バッファデータに関連付けられたリンクが間欠動作モード又は動作休止モードでない場合(ステップS31、NO)、基地局10のリンクマネジメント部120は、データを、宛先の端末20に送信する(ステップS33)。
【0085】
図16は、実施形態に係る無線システム1におけるPVBを含むビーコン信号の具体例を示している。図16に示すように、ビーコン信号は、例えば、端末識別子と、複数のTIDのPVBとを含んでいる。
【0086】
端末識別子は、例えば基地局10及び端末20間のアソシエーション識別子AID(Association Identifier)を含んでいる。複数のTIDのPVBは、例えばTID#1のPVBと、TID#2のPVBと、TID#3のPVBと、TID#4のPVBとを含んでいる。例えば、TID#1のPVBが“0”である場合、TID#1のトラヒックが蓄積されていないことを示している。TID#1のPVBが“1”である場合、TID#1のトラヒックが蓄積されていることを示している。尚、PVBに割り当てられたビットとトラヒックの蓄積の有無との組み合わせは、任意に変更され得る。また、ビーコン信号に含まれる複数のTIDのPVBの数は、設定されたTIDの数に基づいて変更され得る。
【0087】
(マルチリンクパワーセーブ時の端末20の動作)
図17は、実施形態に係る無線システム1の備える端末20のマルチリンクパワーセーブ時の動作の一例を示している。図17に示すように、マルチリンクパワーセーブ時に、例えば間欠動作モードである端末20のアンカーリンクが、ビーコン信号を受信する(ステップS40)。そして、端末20のリンクマネジメント部220は、ビーコン信号に含まれたAIDと、各TIDのPVBとを確認して、自局宛のバッファデータがあるか否かを確認する(ステップS41)。
【0088】
自局宛のバッファデータがない場合(ステップS41、NO)、端末20は、本動作を終了する。自局宛のバッファデータがある場合(ステップS41、YES)、端末20のリンクマネジメント部220は、バッファデータに関連付けられたリンクがAwake状態であるか否か、すなわちアクティブモード又は間欠動作モードであるか否かを確認する(ステップS42)。
【0089】
バッファデータに関連付けられたリンクがAwake状態である場合(ステップS42、YES)、端末20のリンクマネジメント部220は、基地局10に対してデータの送信を要求する(ステップS43)。バッファデータに関連付けられたリンクがAwake状態でない場合(ステップS42、NO)、端末20のリンクマネジメント部220は、まずバッファデータに関連付けられたリンクをウェイクアップさせる、すなわちDoze状態からAwake状態に遷移させる。その後、端末20のリンクマネジメント部220は、基地局10に対してデータの送信を要求する(ステップS43)。
【0090】
端末20は、以上で説明された動作を、アンカーリンクがビーコン信号を受信する度に実行する。端末20のリンクマネジメント部220は、ウェイクアップさせたリンク宛のバッファデータが無くなった場合に、当該リンクを再びDoze状態に遷移させる。尚、端末20のリンクマネジメント部220が、ウェイクアップさせたリンクをDoze状態に遷移させるタイミングは、任意のタイミングに設定され得る。例えば、端末20のリンクマネジメント部220がウェイクアップさせたリンクをDoze状態に遷移させるタイミングは、当該リンク宛のバッファデータが無くなったタイミングであってもよいし、当該リンク宛のバッファデータが無くなってから所定の時間が経過したタイミングであってもよい。
【0091】
(マルチリンクパワーセーブの開始動作の具体例)
図18は、実施形態に係る無線システム1におけるマルチリンクパワーセーブの開始動作の流れの一例を示している。図18に示すように、本動作の開始時において、STA1、STA2及びSTA3のそれぞれは、アクティブ状態である。アクセスポイントAPは、端末20のSTA1、すなわちアンカーリンクに対してビーコン信号を送信する(ステップS50)。このビーコン信号は、例えばSTA1、STA2及びSTA3のそれぞれのトラヒックが空であることを示す情報を含んでいる。
【0092】
端末20のSTA1は、例えばトラヒックが空であることに応じて、マルチリンクパワーセーブの開始を通知する無線信号をアクセスポイントAPに送信する(ステップS51)。マルチリンクパワーセーブの開始を通知する無線信号のデータフレーム(Data Frame)は、例えば“1”が格納されたPM(Power Management)ビットを含んでいる。“PM=1”の信号を受信したアクセスポイントAPは、当該信号を受信したことを端末20に通知する無線信号(Data ACK)を端末20のSTA1に送信する(ステップS52)。
【0093】
端末20のSTA1が、“PM=1”を含むデータフレームを送信したことに対するData ACKを受信すると、端末20のリンクマネジメント部220は、STA1(アンカーリンク)を間欠動作モード(Awake状態)に遷移させ、STA2及びSTA3を動作休止モード(Doze状態)に遷移させる(ステップS53)。これにより、マルチリンクを構成するSTA1、STA2及びSTA3の合計の消費電力が、マルチリンクパワーセーブの利用前よりも低くなる。尚、ステップS53の処理では、マルチリンクを構成する複数のSTA機能内で、Doze状態に設定されるSTA機能が少なくとも1つ存在していればよい。
【0094】
“PM=1”を受信したことに対するData ACKを送信した後に、アクセスポイントAPは、PVBを含むビーコン信号を端末20のSTA1(アンカーリンク)に対して送信する(ステップS54)。このとき、Awake状態のSTA1は、当該ビーコン信号を受信することができる。一方で、Doze状態のSTA2及びSTA3は、ビーコン信号を受信せずに、STA1よりも低消費電力な状態を保っている。
【0095】
以上で説明されたように、実施形態に係る無線システム1における端末20は、トラヒックの状態に応じてマルチリンクパワーセーブに遷移し、マルチリンクの消費電力を抑制する。そして、基地局10が、端末20がマルチリンクパワーセーブに遷移したことに基づいて、データのバッファ状況を通知するためのPVBを含むビーコン信号を、Awake状態であるアンカーリンクを用いて間欠的に送信する。マルチリンクパワーセーブ中の基地局10及び端末20間の通信方法の詳細については後述する。
【0096】
(マルチリンクパワーセーブの終了動作の具体例)
図19は、実施形態に係る無線システム1におけるマルチリンクパワーセーブの終了動作の流れの一例を示している。図19に示すように、本動作の開始時において、STA1はAwake状態であり、STA2及びSTA3はDoze状態である。アクセスポイントAPは、端末20のSTA1、すなわちアンカーリンクに対してビーコン信号を送信する(ステップS60)。このビーコン信号は、例えば端末20にマルチリンクパワーセーブの終了を要求する情報を含んでいる。
【0097】
端末20のSTA1は、当該ビーコン信号を受信したことに応じて、マルチリンクパワーセーブの終了を通知する無線信号をアクセスポイントAPに送信する(ステップS61)。マルチリンクパワーセーブの終了を通知する無線信号のデータフレームは、例えば“0”が格納されたPMビットを含んでいる。“PM=0”の信号を受信したアクセスポイントAPは、当該信号を受信したことを端末20に通知する無線信号(Data ACK)を端末20のSTA1に送信する(ステップS62)。
【0098】
端末20のSTA1が、“PM=0”を含むデータフレームを送信したことに対するData ACKを受信すると、端末20のリンクマネジメント部220は、STA1を間欠動作モード(Awake状態)からアクティブモードに遷移させ、STA2及びSTA3を動作休止モード(Doze状態)からアクティブモードに遷移させる(ステップS53)。これにより、マルチリンクを構成するSTA1、STA2及びSTA3のそれぞれが、基地局10からの無線信号を受信可能な状態になる。
【0099】
“PM=0”を受信したことに対するData ACKを送信した後に、アクセスポイントAPは、ビーコン信号を端末20のSTA1(アンカーリンク)に対して送信する(ステップS54)。このビーコン信号は、通信に必要な様々な情報要素を含んでいる。
【0100】
以上で説明されたように、実施形態に係る無線システム1における基地局10は、マルチリンク内で間欠動作モード又は動作休止モードに設定されたSTA機能をアクティブモードに遷移させ、マルチリンクを構成する複数のSTA機能を通信可能な状態に設定することができる。尚、以上の説明では、基地局10のビーコン信号に基づいてマルチリンクパワーセーブが終了する場合について例示したが、これに限定されない。例えば、端末20のリンクマネジメント部220が、ユーザの操作やアプリケーションの制御に基づいて、マルチリンクパワーセーブの終了を基地局10のリンクマネジメント部120に通知してもよい。
【0101】
(マルチリンクパワーセーブ中の動作の具体例)
図20及び図21は、実施形態に係る無線システム1におけるマルチリンクパワーセーブ中の動作の流れの一例を示している。図20は、TID#2のデータをアクセスポイントAPが受信した場合の動作に対応している。図21は、TID#3のデータをアクセスポイントAPが受信した場合の動作に対応している。本例で各リンクに割り当てられたTIDは、図14を用いて説明されたリンク管理情報121と同様である。
【0102】
まず、図20を用いて、マルチリンクパワーセーブ中にSTA1(アンカーリンク)に割り当てられたTID#2のデータをアクセスポイントAPが受信した場合の動作について説明する。図21に示すように、アクセスポイントAPが、ネットワークNWからTID#2のデータを受信すると、例えば当該データをリンクマネジメント部120の送信キュー125に蓄積する。すると、アクセスポイントAPが、TID#2のデータのバッファ状況が“1”であることを示すPVBを含むビーコン信号を、STA1に送信する(ステップS70)。
【0103】
そして、端末20のSTA1によって受信されたビーコン信号は、リンクマネジメント部220に転送される。すると、リンクマネジメント部220は、当該ビーコン信号を参照して、各TIDのバッファデータの有無を確認する。ここで、リンクマネジメント部220は、TID#2のデータがバッファされていることと、TID#2のデータが関連付けられたSTA1がAwake状態であることを確認する。この確認結果に基づいて、リンクマネジメント部220は、データの送信を要求するPS-Poll(Power Save-Poll)フレームを、STA1を介してアクセスポイントAPに送信する(ステップS71)。
【0104】
アクセスポイントAPは、端末20のSTA1からPS-Pollフレームを受信すると、TID#2のデータを含むData ACKを、端末20のSTA1に送信する(ステップS72)。これにより、端末20のSTA1は、アクセスポイントAPに蓄積された自局向けのデータを受信することができる。
【0105】
TID#2のデータの送信が完了し、送信キュー125におけるTID#2のデータの蓄積が解消されると、アクセスポイントAPは、TID#2のデータのバッファ状況が“0”であることを示すPVBを含むビーコン信号を、端末20のSTA1に送信する(ステップS73)。つまり、アクセスポイントAPは、TID#2のデータの送信が完了したことをSTA1を介して端末20のリンクマネジメント部220に通知する。
【0106】
次に、図21を用いて、マルチリンクパワーセーブ中にSTA2に割り当てられたTID#3のデータをアクセスポイントAPが受信した場合の動作について説明する。図21に示すように、アクセスポイントAPが、ネットワークNWからTID#3のデータを受信すると、例えば当該データをリンクマネジメント部120の送信キュー125に蓄積する。すると、アクセスポイントAPが、TID#3のデータのバッファ状況が“1”であることを示すPVBを含むビーコン信号を、STA1に送信する(ステップS80)。
【0107】
そして、端末20のSTA1によって受信されたビーコン信号は、リンクマネジメント部220に転送される。すると、リンクマネジメント部220は、当該ビーコン信号を参照して、各TIDのバッファデータの有無を確認する。ここで、リンクマネジメント部220は、TID#3のデータがバッファされていることと、TID#3のデータが関連付けられているSTA2がDoze状態であることを確認する。この確認結果に基づいて、リンクマネジメント部220は、STA2をウェイクアップ、すなわちDoze状態からAwake状態に遷移させる(ステップS81)。
【0108】
その後、リンクマネジメント部220は、TID#3のデータの送信を要求するPS-Poll(Power Save-Poll)フレームを、STA2を介してアクセスポイントAPに送信する(ステップS82)。アクセスポイントAPは、端末20のSTA2からPS-Pollフレームを受信すると、TID#3のデータを含むData ACKを、端末20のSTA2に送信する(ステップS83)。これにより、端末20のSTA2は、アクセスポイントAPに蓄積された自局向けのデータを受信することができる。
【0109】
TID#3のデータの送信が完了し、送信キュー125におけるTID#3のデータの蓄積が解消されると、アクセスポイントAPは、TID#3のデータのバッファ状況が“0”であることを示すPVBを含むビーコン信号を、端末20のSTA1に送信する(ステップS84)。つまり、アクセスポイントAPは、TID#3のデータの送信が完了したことをSTA1を介して端末20のリンクマネジメント部220に通知する。このビーコン信号は、STA2によって受信されてもよい。
【0110】
すると、リンクマネジメント部220は、受信したビーコン信号に基づいて、STA2をAwake状態からDoze状態に遷移させる(ステップS85)。つまり、マルチリンクパワーセーブ中に、マルチリンクを構成する複数のリンクのうちアンカーリンク以外のリンクは、データの送信が完了したことに基づいて、Doze状態に再び設定される。
【0111】
以上で説明されたように、実施形態に係る無線システム1における基地局10は、マルチリンクパワーセーブを利用した端末20に対してデータを送信することができる。尚、以上の説明では、マルチリンクパワーセーブ中に、基地局10がSTA2に割り当てられたTIDのデータを受信する場合について説明したが、これに限定されない。STA3も、STA2と同様に、Doze状態からウェイクアップしてデータを受信することができる。
【0112】
また、STA機能毎にデータが送信される場合について例示したが、マルチリンクを構成する複数のSTA機能のそれぞれには、パラレルにデータが送信されてもよい。例えば、STA1及びSTA2のそれぞれのバッファ状況が“1”である場合に、端末20のリンクマネジメント部220は、STA1及びSTA2のそれぞれに、PS-PollフレームのアクセスポイントAPに対する送信を指示してもよい。TIDがDoze状態の複数のリンクに関連付けられている場合、端末20のリンクマネジメント部220は、複数のリンクをウェイクアップさせることができる。つまり、端末20のリンクマネジメント部220は、マルチリンクを構成するリンクの数に依らずに、データのバッファ状況に応じて、Doze状態のリンクをウェイクアップさせて、データを受信することができる。
【0113】
尚、TIDがDoze状態の複数のリンクに関連付けられている場合、アクセスポイントAPは、そのうちの一部のリンクをウェイクアップさせることもできる。このためには、アクセスポイントAPは、AID、TIDに加えて、ウェイクアップさせるリンクを指定して、データのバッファ情報を通知する。図22は、本例においてアクセスポイントAPから送信されるビーコン信号の一例を示している。図22に示すように、複数のリンクが関連付けられたTIDのPVBでは、当該TIDに関連付けられたリンク毎にバッファデータの有無が通知されてもよい。例えば、TID#1のPVBは、TID#1に関連付けられたリンク#1のPVBと、TID#1に関連付けられたリンク#2のPVBとを含んでいてもよい。
【0114】
<3>実施形態の効果
以上で説明された実施形態に係る無線システム1に依れば、マルチリンク時における端末20の消費電力を抑制することができる。以下に、実施形態に係る無線システム1の効果の詳細について説明する。
【0115】
無線LANを使用する基地局及び端末は、例えば2.4GHz、5GHz、6GHzのように、使用する帯域毎に設けられた複数のSTA機能を備える場合がある。このような無線システムでは、例えば複数のSTA機能のうち一つのSTA機能を選択することにより無線接続が確立され、基地局及び端末間のデータ通信が行われる。このとき、無線システムでは、選択されていないSTA機能が、当該STA機能の帯域に対応する基地局が存在したとしても、使用されない状態になる。
【0116】
これに対して、実施形態に係る無線システム1は、基地局10及び端末20の各々が備える複数のSTA機能を活用して、基地局10及び端末20間のマルチリンクを確立する。マルチリンクによるデータ通信は、複数の帯域を併用することができ、無線LAN装置の備える機能を十分に活用することができる。その結果、実施形態に係る無線システム1は、効率的な通信を実現することができ、通信速度を向上させることができる。その一方で、マルチリンクの消費電力は、基地局10と端末20とのそれぞれで複数のSTA機能が利用されるため、シングルリンクよりも高くなる。
【0117】
そこで、実施形態に係る無線システム1は、トラヒックが少ない場合等に、マルチリンクをマルチリンクパワーセーブに設定する。マルチリンクパワーセーブでは、例えばマルチリンクを構成する複数のSTA機能のうち、少なくとも一つのSTA機能が通常状態(Awake状態)に設定され、その他のSTA機能が省電力状態(Doze状態)に設定される。Awake状態のSTA機能は、例えば基地局10のビーコン信号を受信可能である。また、Doze状態のSTA機能は、例えばDisable状態と同様に停止している。このため、Doze状態のSTA機能の消費電力は、Awake状態のSTA機能よりも低くなる。
【0118】
そして、マルチリンクパワーセーブでは、Awake状態のSTA機能が、マルチリンクを構成する複数のSTA機能に対応する情報を含むビーコン信号を受信する。例えば、Doze状態のSTA機能に対するデータがネットワークNWから基地局10に入力された場合、基地局10は、Awake状態のSTA機能(リンク)を介して、データが蓄積されていることを端末20に通知する。それから、端末20のSTA機能が、リンクマネジメント部220に当該通知を転送し、リンクマネジメント部220が、Doze状態のSTA機能をウェイクアップさせる。これにより、ウェイクアップしたSTA機能が、PS-Pollフレームを送信することによって、基地局10からデータを取得することができる。
【0119】
以上で説明されたように、実施形態に係る無線システム1は、マルチリンクパワーセーブを活用することによって、端末20の消費電力を抑制することができる。そして、端末20のリンクマネジメント部220が、マルチリンクパワーセーブ時に、Awake状態のSTA機能が受信したビーコン信号に基づいて、Doze状態のSTA機能を適宜ウェイクアップさせることができる。これにより、基地局10及び端末20間のデータ通信が、マルチリンクパワーセーブ時にも実現され得る。その結果、実施形態に係る無線システム1は、マルチリンクパワーセーブ時におけるレイテンシの遅延を抑制することができる。
【0120】
<4>その他
上記実施形態において、各STA機能は、端末20の移動等によってリンクの維持ができない場合に、対応するリンクマネジメント部に通知してもよい。また、端末20のリンクマネジメント部220は、STA機能からの通知に基づいて、基地局10のリンクマネジメント部120との間でマルチリンクの状態を変更してもよい。具体的には、例えば端末20のリンクマネジメント部220と基地局10のリンクマネジメント部120は、マルチリンクで使用するSTA機能を適宜変更してもよい。マルチリンクの状態が変更された場合、リンクマネジメント部120及び220は、リンク管理情報121及び221をそれぞれ更新する。また、リンクマネジメント部120及び220は、リンク数の増減に応じて、トラヒックとSTA機能との関連付けを更新してもよい。
【0121】
実施形態に係る無線システム1の構成はあくまで一例であり、その他の構成であってもよい。例えば、基地局10及び端末20のそれぞれが3つのSTA機能(無線信号処理部)を備える場合について例示したが、これに限定されない。基地局10は、少なくとも2つの無線信号処理部を備えていればよい。同様に、端末20は、少なくとも2つの無線信号処理部を備えていればよい。また、各STA機能が処理することが可能なチャネルの数は、使用される周波数帯に応じて適宜設定され得る。無線通信モジュール14及び24のそれぞれは、複数の通信モジュールによって複数の周波数帯の無線通信に対応してもよいし、1つの通信モジュールによって複数の周波数帯の無線通信に対応してもよい。
【0122】
また、実施形態に係る無線システム1における基地局10及び端末20の機能構成は、あくまで一例である。基地局10及び端末20の機能構成は、各実施形態で説明された動作を実行することが可能であれば、その他の名称及びグループ分けであってもよい。例えば、基地局10において、データ処理部110とリンクマネジメント部120とは、まとめてデータ処理部と呼ばれてもよい。同様に、端末20において、データ処理部210とリンクマネジメント部220とは、まとめてデータ処理部と呼ばれてもよい。
【0123】
また、実施形態に係る無線システム1において、基地局10及び端末20のそれぞれに含まれたCPUは、その他の回路であってもよい。例えば、CPUの替わりに、MPU(Micro Processing Unit)等が使用されてもよい。また、各実施形態において説明された処理のそれぞれは、専用のハードウェアによって実現されてもよい。各実施形態に係る無線システム1は、ソフトウェアにより実行される処理と、ハードウェアによって実行される処理とが混在していてもよいし、どちらか一方のみであってもよい。
【0124】
各実施形態において、動作の説明に用いたフローチャートは、あくまで一例である。実施形態で説明された各動作は、処理の順番が可能な範囲で入れ替えられてもよいし、その他の処理が追加されてもよい。また、上記実施形態で説明された無線フレームのフォーマットは、あくまで一例である。無線システム1は、各実施形態で説明された動作を実行することが可能であれば、その他の無線フレームのフォーマットを使用してもよい。
【0125】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は、適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。さらに、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0126】
1…無線システム
10…基地局
20…端末
30…サーバ
11,21…CPU
12,22…ROM
13,23…RAM
14,24…無線通信モジュール
15…有線通信モジュール
25…ディスプレイ
26…ストレージ
110,210…データ処理部
120,220…リンクマネジメント部
121,221…リンク管理情報
122,222…アソシエーション処理部
123,223…認証処理部
124…データカテゴライズ部
125…送信キュー
126…CSMA/CA実行部
127…データ衝突管理部
130,140,150,230,240,250…無線信号処理部
図1
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図3
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図5
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図22