(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123261
(43)【公開日】2024-09-10
(54)【発明の名称】電磁波反射装置、電磁波反射フェンス、及び電磁波反射装置の組み立て方法
(51)【国際特許分類】
H01Q 15/14 20060101AFI20240903BHJP
【FI】
H01Q15/14 Z
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024104872
(22)【出願日】2024-06-28
(62)【分割の表示】P 2022511522の分割
【原出願日】2020-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2020064577
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020173308
(32)【優先日】2020-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.3GPP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】神原 久美子
(72)【発明者】
【氏名】井川 耕司
(57)【要約】
【課題】工場、プラントなどの生産施設内での移動体通信の電波伝搬を改善する。
【解決手段】電磁波反射装置は、1GHz~170GHzの周波数帯から選択される所望の帯域の電波を反射する反射面を有するパネルと、前記パネルを支持する支持体とを備え、前記支持体は、前記反射面に電気的に接続される接続部を有し、前記接続部は、前記反射面における反射現象の基準電位を伝達する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1GHz~170GHzの周波数帯から選択される所望の帯域の電波を反射する反射面を有する複数のパネルと、
前記複数のパネルを連結するとともに支持する支持体と、
を備え、
前記支持体は、
前記複数のパネルを連結するとともに支持するフレームと、
前記フレームに設けられ、前記複数のパネルの反射面を電気的に接続する接続部と
を有する、電磁波反射装置。
【請求項2】
前記接続部は、前記複数のパネルの反射面を電気的に接続する導電性材料部分を有する、請求項1に記載の電磁波反射装置。
【請求項3】
前記パネルの前記反射面は、導体の表面であり、
前記接続部は、前記複数のパネルの前記導体を電気的に接続する、請求項1に記載の電磁波反射装置。
【請求項4】
前記接続部は、
隣り合う前記複数のパネルの各々のエッジを把持する導電性のエッジジャケットと、
前記隣り合う前記複数のパネルの各々のエッジを把持する前記導電性のエッジジャケットを電気的に接続するブリッジ電極と
を有する、請求項1又は2に記載の電磁波反射装置。
【請求項5】
前記接続部は、隣り合う前記複数のパネルの各々のエッジを把持する導電性のエッジジャケットを有し、
前記フレームは、導体で構成され、前記隣り合う前記複数のパネルの各々のエッジを把持する前記導電性のエッジジャケットを電気的に接続する、請求項1又は2に記載の電磁波反射装置。
【請求項6】
前記反射面は、入射電波を入射角と同じ反射角で反射する対称反射領域と、前記入射角と異なる反射角で反射する非対称反射領域とを有する
請求項1~5のいずれか1項に記載の電磁波反射装置。
【請求項7】
前記非対称反射領域は、前記入射電波を所定の角度分布で反射する拡散領域を含む、
請求項6に記載の電磁波反射装置。
【請求項8】
前記非対称反射領域の面積は、少なくとも、前記電波の周波数で決まる第1フレネルゾーンをカバーする、請求項6または7に記載の電磁波反射装置。
【請求項9】
前記非対称反射領域は、前記パネルの表面を移動可能な移動部材に取り付けられている、
請求項6~8のいずれか1項に記載の電磁波反射装置。
【請求項10】
前記反射面は、前記帯域の電波を反射する密度に形成されたメッシュ、格子、または孔配列を有し、前記密度に形成された前記メッシュ、前記格子、または前記孔配列の平均的な周期は、前記帯域の自由空間波長の1/5以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載の電磁波反射装置。
【請求項11】
前記パネルの少なくとも一部は可視光に対して透明である、
請求項1~10のいずれか1項に記載の電磁波反射装置。
【請求項12】
前記支持体は、前記パネルを設置面に対して起立させるベースを有する、
請求項1~11のいずれか1項に記載の電磁波反射装置。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の電磁波反射装置を複数、前記支持体で連結した電磁波反射フェンス。
【請求項14】
隣接する前記電磁波反射装置の間で前記接続部による電気的な接続を補強する補強機構、
をさらに有する、
請求項13に記載の電磁波反射フェンス。
【請求項15】
1GHz~170GHzの周波数帯から選択される所望の帯域の電波を反射する第1の反射面を有する第1パネルと、前記帯域の電波を反射する第2の反射面を有する第2パネルを、支持体で機械的に接続し、
前記支持体に設けられた電気的接続部で、前記第1の反射面と前記第2の反射面とを電気的に接続する、
電磁波反射装置の組み立て方法。
【請求項16】
前記第1パネルと前記第2パネルの少なくとも一方は、前記第1の反射面または前記第2の反射面に反射特性が制御されたメタサーフェイスを有し、
前記電磁波反射装置の設置現場でパネル上の前記メタサーフェイスの位置決めを行う、
請求項15に記載の電磁波反射装置の組み立て方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電磁波反射装置、電磁波反射フェンス、及び電磁波反射装置の組み立て方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製造プロセスを自動化し、高度な生産・工程管理や予防メンテナンス(Predictive Maintenance)を製造現場に導入するインダストリアルIoT(Internet of Things)が進展している。インダストリアルIoTのうち、「スマートファクトリー」は工場内の装置、機器、管理システムなどをクラウドやエッジAI(Artificial Intelligence)に接続し、製造プロセスを効率化する。大量のデータを扱うインダストリアルIoTの通信ネットワークに、5Gのような高速大容量、低遅延、かつ、多数同時接続が可能な移動体通信技術を導入することが期待されている。移動体通信技術が本来有するモビリティと柔軟性に加えて、5Gの低遅延特性がインダストリアルIoTに好適であるといわれている。
【0003】
インテリジェントビル等の建築物で用いられる透光性電磁波シールド板の接合構造が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
工場、プラントなどの生産施設内の通信環境は、公衆移動体通信の環境と異なる。生産施設内では、通信用電波の伝搬障害となる様々な機械や構造物が存在し、高い通信品質を実現するのが難しい。
【0006】
本発明は、生産施設内の移動体通信の電波伝搬を改善する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様では、電磁波反射装置は、
1GHz~170GHzの周波数帯から選択される所望の帯域の電波を反射する反射面を有するパネルと、
前記パネルを支持する支持体と、
を備え、
前記支持体は、前記反射面と電気的に接続される接続部を有し、前記接続部は、前記第1の反射面で生じる反射現象の基準電位を伝達する。
【発明の効果】
【0008】
上記構成の電磁波反射装置により、工場、プラントなどの生産施設内で移動体通信の電波伝搬が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示が適用され得る工場内のプロセスラインの模式図である。
【
図2】実施形態の電磁波反射装置を用いた無線伝達システムの平面模式図である。
【
図3A】入射角と同じ反射角での反射を説明する図である。
【
図3B】入射角と異なる反射角での反射を説明する図である。
【
図4】実施形態の電磁波反射装置の基本概念を説明する図である。
【
図7】電磁波反射装置を接続した例を示す図である。
【
図9B】パネルのエッジ処理の別の例を示す図である。
【
図10H】参考例として一般的な接続構成を示す図である。
【
図11B】連結前の電磁波反射装置の状態を示す図である。
【
図11C】連結後の電磁波反射装置の状態を示す図である。
【
図12】連結した電磁波反射装置の補強例を示す図である。
【
図14】フレームとブリッジ電極の適切なサイズを評価するモデルの模式図である。
【
図15】入射角が0°のときのフレームの幅及び厚さと反射特性の関係を示す図である。
【
図16】入射角が45°のときのフレームの幅及び厚さと反射特性の関係を示す図である。
【
図17】入射角が0°のときのブリッジ電極の幅、厚さ、及び材質と反射特性の関係を示す図である。
【
図18】入射角が45°のときのブリッジ電極の幅、厚さ、及び材質と反射特性の関係を示す図である。
【
図20A】反射特性の解析空間を説明する図である。
【
図20B】反射特性の解析空間を説明する図である。
【
図21】実施例及び比較例で用いるシミュレーションモデルの図である。
【
図22】実施例3のシミュレーションモデルの図である。
【
図23】実施例4のシミュレーションモデルの図である。
【
図24】参考例1のシミュレーションモデルの図である。
【
図25】参考例2のシミュレーションモデルの図である。
【
図26】パネル間の接続の有無に応じた反射特性を示す図である。
【
図27】ブリッジ電極とフレームの組み立て手法の例を示す図である。
【
図28】メタリフレクタのサイズを説明する図である。
【
図29】動作周波数と送受信の位置関係に応じたゾーンサイズを検討する図である。
【
図30A】無線伝達システムの配置関係を説明する図である。
【
図30B】無線伝達システムの配置関係を説明する図である。
【
図31A】反射パターン1の基準ロバスト性を示す図である。
【
図31B】反射パターン2の基準ロバスト性を示す図である。
【
図32】基準ロバスト性の定量化法を説明する図である。
【
図33A】反射パターン1の位相ジャンプの変化を示す図である。
【
図33B】反射パターン2の位相ジャンプの変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<システムの全体像>
図1は、本開示が適用され得る工場内のプロセスラインの模式図である。プロセスラインは、組み立てや生産のための設備機器などを一連の流れとして配置したベルト状の生産サイトである。インダストリアルIoTでは、プロセスラインで用いられる産業用の装置、機器、管理システムなどをネットワークにつなげることで、生産効率を向上し、現場の安全性を確保する。
【0011】
プロセスラインの機器等をネットワークに接続するために、基地局BS1、BS2が配置されている。プロセスラインで使用される機器M1、M2は、それぞれ無線通信部WT1、WT2を有し、基地局BS1、BS2の少なくとも一方と通信してネットワークに接続される。
【0012】
プロセスラインの機器とネットワークとの無線接続を実現するために、基地局BS1、及びBS2(以下、適宜「BS」と総称する)は、水平方向に長い長方形のサービスエリアを提供する。移動体通信の標準化団体である3GPP(3rd Generation Partnership Project)の技術仕様書(TS22.104)では、システム要求事項として、水平な面内での長方形エリアのアスペクト比が、3~5倍のサービスエリアが示されている。たとえば、「Motion Control」と呼ばれるユースケースのエリアサイズは、長さ×幅×高さで、50m×10m×10mと規定されている。
【0013】
基地局BS1、BS2が提供するサービスエリアで、プロセスラインをカバーしてプロセスライン内に存在する機器M1、M2のネットワーク接続を実現するには、基地局BS1、BS2をプロセスラインの長手方向の端部に配置するのが、カバレッジの点で有効である。通信品質とカバレッジを向上するために、基地局BS1、BS2を協調、連携させてもよい。プロセスラインに対する基地局BSの配置関係の詳細は、後述する。
【0014】
図2は、実施形態の電磁波反射装置10を用いた無線伝達システム1の平面模式図である。無線伝達システム1は、電波の送受信が可能な生産機器が配置されるプロセスライン3と、プロセスライン3上の機器と無線通信を行う基地局BSと、プロセスライン3に沿って配置される電磁波反射装置10を含む。電磁波反射装置10は、電波を反射する反射面105を有する。プロセスラインの配置面をX-Y面とし、X-Y面に垂直な高さ方向をZ方向とする。
【0015】
プロセスライン3内の機器には、センサ、アクチュエータ等の微小デバイス、組み立て装置、製造機械、管理システムなど、生産にかかわるあらゆる機器が含まれる。プロセスライン3で用いられる機器は、固定の装置や機械に限られず、プロセスライン3内を自由に移動する機器であってもよい。
【0016】
基地局BSと、無線通信機能付きの機器M1、M2(
図1参照)は、たとえば、1GHz~170GHzの範囲で、特定の周波数帯の電波を送受信する。プロセスラインの構成要素や周辺の構造物(例えばダクト、パイプなど)は金属製であることが多く、それにより電波は反射され、遮蔽される。またミリ波帯など高い周波数の電波は直進性が強く、回折が少ないため電波が届きにくい。プロセスライン3の中央部に位置する機器にとって、周辺の機器や、加工中の金属製品などからの反射が障害となって、通信環境が悪化する場合がある。
【0017】
プロセスライン3の長手方向に沿って多数の基地局BSを配置すれば通信品質は維持されるが、作業空間の効率的な使用が妨げられ、設備コストも高くなる。無線伝達システム1では、プロセスライン3の長手方向に沿って電磁波反射装置10を配置し、プロセスライン3の長手方向の端部に基地局BSを配置する。電磁波反射装置10により、生産施設内に設置される基地局BSの数を抑制し、基地局BSとプロセスライン3内の機器との無線通信環境を改善する。
【0018】
電磁波反射装置10は、プロセスライン3の少なくとも一部に対して、プロセスライン3の長軸とほぼ平行に設置されていてもよい。「ほぼ平行に」というのは、厳密にプロセスライン3の長軸と平行に電磁波反射装置10が配置される必要はないことを意味する。基地局BSとプロセスライン3内の機器の間での効率的な電波の送受信が行われる範囲内で、電磁波反射装置10はプロセスライン3の長軸に対して多少傾いていてもよい。
【0019】
電磁波反射装置10の反射面105は、1GHz~170GHzの帯域の電波を反射する。反射面105は、入射角と反射角が等しい正規反射を与えるノーマルリフレクタ101と、入射した電磁波の反射特性を制御する人工的な表面を有するメタリフレクタ102の少なくとも一方で形成される。「メタリフレクタ」とは、入射電磁波の透過特性や反射特性を制御する人工表面を意味する「メタサーフェイス」の一種である。メタリフレクタでは、波長に比べて十分に小さな散乱体を多数配置して、反射位相分布と振幅分布を制御することで、正規反射の方向以外の所定の方向へ電波を反射する。メタリフレクタ102によって、正規反射以外の方向への反射に加えて、所定の角度分布をもつ拡散、及び波面の形成が実現されてもよい。
【0020】
図3A~
図3Cは、電磁波反射装置10の反射面105での反射の態様を示す。
図3Aでは、ノーマルリフレクタ101に入射した電磁波は、入射角θinと同じ反射角θrefで反射される。
【0021】
図3Bで、メタリフレクタ102aに入射した電磁波は、入射角θinと異なる反射角θrefで反射される。メタリフレクタ102による反射角θrefと、正規反射による反射角との差の絶対値を、異常角θabnと呼んでもよい。上述のように、メタリフレクタ102aの表面に、使用波長よりも十分に小さい金属パッチ等を配置して表面インピーダンスを形成することで、反射位相分布を制御して、所望の方向に入射電磁波を反射する。詳細は後述するが、縦長のプロセスライン3に電磁波反射装置10を用いる場合は、
図3Bのように、基地局BSから入射する電磁波の入射角θinよりも小さい反射角θrefで、電磁波をプロセスライン3内の機器の無線通信部WTに導くことが望ましい。
【0022】
メタリフレクタが反射する電磁波は反射角が単一な平面波でなくともよい。メタリフレクタ102bの表面に形成する表面インピーダンスを工夫することにより、
図3Cに示すように、入射した電磁波は、複数の異なる反射角θrefで複数の方向に拡散される。
図3Cの反射を実現する手法として、例えば、PHYSICAL REVIEW B 97, "ARBITRARY BEAM CONTROL USING LOSSLESS METASURFACES ENABLED BY ORTHOGONALLY POLARIZED CUSTOM SURFACE WAVES"に記載される方法がある。拡散される電磁波の強度は均一であってもよいし、反射方向に応じて所定の強度分布を有していてもよい。
【0023】
複数の電磁波反射装置10をプロセスライン3に沿って配置してもよい。基地局BSとプロセスライン3内の機器との間の通信品質が保たれるかぎり、電磁波反射装置を安全のためのガードフェンスとして用いてもよい。プロセスライン3に対する基地局BSの最適な配置を説明する前に、以下で電磁波反射装置10の構成の詳細を説明する。
【0024】
<電磁波反射装置の構成>
図4は、実施形態の電磁波反射装置10の基本概念を説明する図である。電磁波反射装置10は、プロセスラインが設けられているX-Y面に起立して配置される。電磁波反射装置10の高さ方向がZ方向になる。電磁波反射装置10は、1GHz~170GHzの周波数帯から選択される所望の帯域の電波を反射する反射面105を有するパネル13と、パネル13を支持する支持体11を有する。
【0025】
パネル13の反射面105は、電磁波を所望の方向へ反射する。反射面105は、正規反射するノーマルリフレクタ101と、入射した電磁波の反射特性を制御する人工的な面をもつメタリフレクタ102の少なくとも一方で形成される。ノーマルリフレクタ101は、無機導電材料や、導電性高分子材料で形成される反射面を含んでもよい。
【0026】
メタリフレクタ102は、入射電磁波を所望の方向に反射し、または、所望の角度分布で拡散できるのであれば、その材質、表面形状、作製方法などは問わない。一般的には、金属などの導体の表面に、誘電体層を介して使用波長よりも十分に小さい金属パッチを形成することでメタサーフェイスが得られる。メタリフレクタ102は、電磁波の反射方向の設計に合わせて、反射面105の任意の位置に配置される。
【0027】
パネル13のサイズは、用いられる環境に応じて適切に設計され得る。一例として、パネル13の幅は0.5m~3.0m、高さは1.0m~2.5m、厚さは3.0mm~9.0mmである。工場内への搬送と、設置・組み立ての容易性を考えると、パネル13のサイズは、1.4m×1.8m×5.0mm程度であってもよい。パネル13の一部は可視光に対して透明であってもよい。
【0028】
パネル13は、電磁波反射装置10が独立して起立可能となるように、支持体11によって支持される。支持体11の機械的な構造は、パネル13を設置面(たとえばX-Y面)に対して安定して起立させることができれば、どのような構造であってもよい。後述するように、複数の電磁波反射装置10を連結して用いてもよい。パネル13と支持体11を含めた電磁波反射装置10の全体の高さは、一例として、1.5m~2.5mであり、設置面から2.0m程度の高さに設定されてもよい。
【0029】
支持体11は、パネル13を独立して起立させるための機械的な設計に加えて、パネル13の反射面105で起きる反射の電位面を連続させる電気的な接続部15を有する。複数の電磁波反射装置10を連結して用いるときに、隣接する電磁波反射装置10のパネル13の間で、入射した電磁波によって流れる電流(これを反射電流と呼ぶ)が遮られると、反射する電磁波のエネルギーは減衰し、また、不要な方向に輻射されて、通信品質が劣化する。
【0030】
隣接する2つのパネルにおいて、反射電流の連続性を担保するには、反射の基準となる電位が、支持体11によって一方のパネルから他方のパネルに高周波的に伝達され、隣接する2つのパネルの間で基準電位が高周波的に共有されることが望ましい。反射電流の連続性は、支持体11の接続領域で可能な限り一様であることが望ましい。支持体がパネルの反射面で生じる反射の基準電位を伝達する構成を、基準電位を「参照」する構成と呼んでもよい。
【0031】
支持体11の電気的な接続部15で、一方のパネルで基準電位を伝達可能とし、他方のパネルで基準電位を共有可能とするには、パネル13のエッジの処理、反射特性に対する影響の抑制などの工夫がされていることが望ましい。パネル13の「エッジ」とは、2つの対向する主面と主面の間をつなぐ端部を意味する。電気的な接続部の具体的な構成は、
図7~
図9D を参照して後述する。
【0032】
図5A~
図5DEは、電磁波反射装置10の変形例を示す。電磁波反射装置10の設置面を面Pとする。
図5Aの電磁波反射装置10Aでは、メタリフレクタ102が移動可能に設けられている。反射面105でのメタリフレクタ102の位置を可変にする構成は、メタリフレクタ102と反射面105の干渉が抑制される限り、どのような構成をとってもよい。一例として、メタリフレクタ102を保持するロッド16を、パネル13の水平方向にスライド可能に取り付け、かつ、ロッド16上でメタリフレクタ102の位置を垂直方向に移動可能に保持してもよい。
【0033】
ロッド16は、ノーマルリフレクタ101またはメタリフレクタ102の反射特性を妨げないような非金属かつ低誘電率な材料で構成されてもよい。ロッド16は、パネル界面での光学的、及び機械的な干渉がゼロまたは最小になるように設計されていてもよい。メタリフレクタ102は、電磁波反射装置10が配置される現場の環境、基地局BSとの位置関係等に応じて、パネル13上の最適な位置へ移動され得る。支持体11は、
図4と同様に、内部に電気的な接続部15を有している。
【0034】
図5Bは、電磁波反射装置10Bを示す。電磁波反射装置10Bでは、電磁波反射装置10Bのパネル13の剛性を高めるための補強として、パネル13の反射面105と反対側の面に、筋交い19が設けられてもよい。筋交い19は、たとえば、パネル13の両端を保持する支持体11と支持体11の間にかけ渡されてもよい。
【0035】
図5Cの電磁波反射装置10Cでは、パネル13の上下に補強ビーム21aと21bが設けられている。補強ビーム21aと21bは、パネル13の両側を支持する支持体11の間に挿入され得る。
【0036】
図5Dの電磁波反射装置10Dでは、補強ビーム21aまたは21bと支持体11の間に筋交い19が設けられている。これらの補強機構により、パネル13の振動モードを抑制し、工場フロアの振動に対して電磁波反射の安定化を図るとともに、大面積パネルの軽量化を実現できる。
図5B~
図5Dで、支持体11の内部に反射の基準電位を参照する電気的な接続部15が設けられていることは、
図4と同様である。
【0037】
図5A~
図5Dの変形例は、相互に組み合わせが可能である。たとえば、
図5Aの構成のパネル13を用いる場合に、反射面105側でメタリフレクタ102を移動可能に保持し、反射面105と反対側の面に筋交い19を入れてもよい。
【0038】
<反射面の構成>
図6A~
図6Dは、反射面105の構成例を示す。反射面105は、1GHz~170GHzの電磁波を反射する面であれば、どのような構成であってもよい。一例として、1GHz~170GHzの範囲から選ばれる任意の周波数帯の電磁波を反射するメッシュ導体、導電膜、透明樹脂と導体膜の組み合わせ、などによって反射面105は形成され得る。
【0039】
反射面105を1GHz~170GHzのうちの所望の周波数帯の電波を反射可能に設計することで、現状の日本の移動体通信で用いられている主要な周波数帯域である1.5GHz帯、2.5GHz帯などをカバーできる。次世代の5G通信網では、4.5GHz帯域、28GHz帯などが予定されている。外国では、5Gの周波数帯として、2.5GHz帯、3.5GHz帯、4.5GHz帯、24-28GHz帯、39GHz帯等が予定されている。5G規格のミリ波帯周波数帯の上限である52.6HGzにも対応可能である。
【0040】
一方、170GHzを超える周波数は、現段階ではスマートファクトリー用途として現実的に利用される可能性は少ない。将来的に、屋内でのテラヘルツ帯域の移動体通信が実現する場合は、フォトニック結晶技術を適用するなどして、反射面105の反射帯域をテラヘルツ帯まで拡張してもよい。
【0041】
図6Aで、パネル13Aは、導体131の反射面105を有する。導体131は、1GHz~170GHzの電波を30%以上反射できれば、均質な導体膜でなくともよい。例えば、上記の周波数帯の電磁波を反射する密度に形成されたメッシュ、格子でもよく、あるいは孔配列でも良い。上記密度を形成する繰り返しピッチは、均一な周期でもよく、あるいは不均一でも良い。この周期、あるいは平均的な周期は、上記周波数の波長の1/5以下が望ましく、1/10以下がより好ましい。
【0042】
一般に工場や倉庫で用いられている金網フェンスの開口径は、3.2cm、4cm、5cmなどであり、1GHz~170GHzの電磁波の大部分はフェンスを透過する。1GHz~数GHzの近傍で、電磁波が金網フェンスでわずかに反射されることがあっても、それ以上の周波数帯では透過成分が支配的であり通信環境の改善につながるような安定した反射は得られないとみなしてよい。
【0043】
図6Bで、パネル13Bはノーマルリフレクタであり、導体131と、動作周波数に対して透明な誘電体132の積層構造を有する。導体131のいずれかの表面が反射面105となる。導体131の側から電磁波が入射するときは、導体131と空気との界面が反射面105となる。誘電体132の側から電磁波が入射するときは、導体131と誘電体132の界面が反射面105となる。
【0044】
導体131を保持し、または導体131の表面を覆う誘電体132は、振動に耐え得る剛性があり、ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)のISO014120の安全性要求を満たすものが望ましい。工場内で使用されることから、部品や製造機器の一部がぶつかっても衝撃に耐え、かつ、防御できるものがよく、更に、可視光域で透明であるものが好ましい。一例として、所定以上の強度を持つ光学プラスチック、強化プラスチック、強化ガラスなどが用いられる。光学プラスチックとして、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)などを用いてもよい。
【0045】
図6Cで、パネル13Cは、誘電体132と誘電体133の間に挟まれる導体131を有する。電磁波の入射方向に応じて、いずれかの誘電体との界面が反射面105となる。誘電体132及び133に求められる剛性は、
図6Bの構成と同様である。
【0046】
図6Dで、パネル13Dは、
図6Bの積層体の一部にメタリフレクタ102を有していてもよい。導体131と誘電体132の積層体は、ノーマルリフレクタ101として用いられ得る。ノーマルリフレクタ101の誘電体132の表面に、貼り合わせ等により、メタリフレクタ102が固定されてもよい。導体131、誘電体132、及びメタリフレクタ102の三層構造の領域が、メタサーフェイスを形成する非対称反射領域ASとなり得る。メタリフレクタ102のない、導体131と誘電体132の二層構造の領域が、正規反射を与える対称反射領域SYとなり得る。
【0047】
図6Dの例では、メタリフレクタ102は、
図4のように、ノーマルリフレクタ101と一体的にパネル13Dに組み込まれているが、ノーマルリフレクタ101と分離可能に用いられてもよい。分離可能な構成として、
図5Aのように、位置可変のメタリフレクタ102を用いてもよい。現場の環境に応じてパネル13上のメタリフレクタ102の位置を選択することで、非対称反射領域の位置を調整できる。
【0048】
<支持体の接続構造>
図7のように、複数の電磁波反射装置10を支持体11で連結して面Pに配置してもよい。たとえば、電磁波反射装置10-1と10-2を連結する場合、パネル13-1とパネル13-2は支持体11の電気的な接続部15で、反射の電位面が連続するように接続される。上述したように、支持体11は、パネル13間を連結する機械的強度と、パネル13間で反射の基準電位を連続させる電気的な接続性能を備える。以下では、電気的な接続部15の構成例を示す。
【0049】
図8は、支持体11の電気的な接続部15の一例を、電磁波反射装置10を面P(
図7参照)に立てたときの水平断面図で示す。接続部15は、隣接するパネル13間で反射現象の基準電位が共有されるように一方のパネルの反射の基準電位を、隣接するパネルに伝達可能に設計されている。
【0050】
支持体11は、フレーム111と、このフレーム111に設けられてパネル13間の反射の電位面を共通にする電気的な接続部15を有する。接続部15は、隣接するパネル13-1と13-2(以下、適宜「パネル13」と総称する)の間で反射の基準電位を安定して伝達し、または共有させることができれば、どのような構成であってもよい。フレーム111は、電気的な接続部15を安定して保持できる強度を有するならば、どのような構成であってもよい。
図8の構成で、フレーム111は電気絶縁性の材料で形成されていてもよい。
【0051】
図8の例では、接続部15は、パネル13のエッジを把持する導電性のエッジジャケット17-1、及び17-2(以下、適宜「エッジジャケット17」と総称する)と、エッジジャケット17を隣接パネルへと電気的に接続するブリッジ電極112とを有する。ブリッジ電極112は、パネル13-1とパネル13-2の電位面を架け渡す導電ブリッジの一例である。パネル13-1のエッジを把持するエッジジャケット17-1と、パネル13-2のエッジを把持するエッジジャケット17-1は、ブリッジ電極112によって電気的に接続される。ブリッジ電極112は、エッジジャケット17-1及び17-2と面接触して、電気的な接続を確実にしている。パネル13-1で反射電流が生じると、反射電流はエッジジャケット17-1からブリッジ電極112を通ってエッジジャケット17-2に流れ、パネル13-1の導体131に流れ込む。反射電流は短い電流パスで流れ、電流の回り込みが少なく、反射性能が良好である。
【0052】
フレーム111の幅WFRMは、パネル13での反射とパネル13間で反射の電位面を共通にしつつパネル同士を連結する観点から、150mm以下が好ましく、20mm以上、60mm以下がさらに好ましい。フレーム111の厚さは、同様の観点から15mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましく、2mm以上かつ7.5mm以下の範囲がさらに好ましい。
【0053】
導電ブリッジとしてのブリッジ電極112の幅WBRGは、できるだけ小さいサイズでパネル13間の反射の電位面を共通にする観点から100mm以下が好ましく、10mm以上かつ50mm以下がさらに好ましい。ブリッジ電極112の厚さは、同様の観点から20mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましく、1mm以上かつ5mm以下がさらに好ましい。フレーム111とブリッジ電極112の幅及び厚さの根拠については、
図14以降を参照して後述する。
【0054】
フレーム111とブリッジ電極112の適切なサイズは、
図19を参照して後述するように、汎用の3次元電磁界シミュレーションソフトウェアで、定めることができる。3次元電磁界シミュレーションの解法としては、例えば、FDTD法、有限要素法、モーメント法などが利用できる。
【0055】
また、接続部15における導電性材料部分、すなわちブリッジ電極112や、下記の変形例で説明する金属層121等の角部を所定の曲率Rで面取りをすることで、導体のエッジでの散乱を安定化させてもよい。面取り部における曲率半径Rは、少なくともR=1mm以上、好ましくは2mm以上、より好ましくは4mm以上、更に好ましくは8mm以上である。これについても後述する。
【0056】
フレーム111は、支持体11の強度を確保するよう設けられ、フレーム111を、絶縁性の弾性体、樹脂等で形成することで、反射電流の分流が発生せず、好ましい。なお、上記好ましい範囲は、以下で述べる変形例においても適用できる。
【0057】
図9Aと
図9Bは、パネル13のエッジ処理の例を示す。
図9Aでは、パネル13は、誘電体132と誘電体133に挟まれた導体131を反射面105として有する。エッジジャケット17は、一例として、断面形状がオープンスクエア、またはU字型の導電性のレールであり、一組の外側面171と、外側面171を接続する底面172を有してもよい。エッジジャケット17の内面に、あらかじめ銀ペーストなどの導電性の接着材18が塗布されていてもよい。
【0058】
導体131は、パネル13のエッジで折り返されて、少なくとも一方の誘電体の表面に引き出されてもよい。パネル13のエッジが、エッジジャケット17に挿入されると、導体131の折り返し部131aは、エッジジャケット17の内壁と面接触する。導体131を折り返し部131aでパネル13の表面に引き出すことで、導体131とエッジジャケット17との接触面積が増大し、電気的な接続が安定する。
【0059】
図9Bに示すように、パネル13のエッジに沿って、誘電体132、及び133の厚さを低減して、切り欠き134を形成してもよい。切り欠き134により薄化されたエッジ領域が、エッジジャケット17と嵌合する構成としてもよい。この構成では、エッジジャケットの外側面171がパネル13の表面位置とそろって、パネル13が扱いやすい。
【0060】
図10A~
図10Gは、支持体11の接続部15の変形例を示す。
図10Aで、支持体11Aは、絶縁性のフレーム111に変えて、カーボン含有材料で形成されたフレーム111Aを有する。フレーム111Aとエッジジャケット17-1、及び17-2で、電気的な接続部15Aが形成される。カーボン含有材料としては、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics:炭素繊維強化プラスチック)を用いることができる。カーボン繊維と樹脂を組み合わせることで、連続式引き抜き成形といった製造方法で導電体であるカーボン繊維と、絶縁体である樹脂を一体成型でき、高い強度が実現される。
【0061】
エッジジャケット17-1と17-2を保持するCFRP自体が電気的な接続部15Aとなる。ブリッジ電極112を用いずに、エッジジャケット17-1と17-2の間を電気的に接続できる。反射の点からは、カーボン繊維は金属バルクと比較して反射性能が良好であり、フレーム111A自体の反射特性も優れる。反射性能と強度を両立するためには、CFRPのカーボン繊維含有比率は50%以上60%以上、70%以上、80%、90%以上であることが好ましい。一方、CFRPの樹脂含有比率は50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下であることが好ましい。
【0062】
図10Bで、支持体11Bは、金属層121と樹脂層122の積層のフレーム111Bを有する。金属層121は、エッジジャケット17-1と17-2を覆う形でパネル13-1と13-2を連結する。エッジジャケット17-1及び17-2と接触する金属層121が、電気的な接続部15Bとなる。樹脂層122は、金属層121によるパネル間の連結を外側から補強する。補強(すなわち樹脂層122)には接着剤を使用してもよい。接着剤は、アクリル系接着剤でもエポキシ系接着剤でもよい。この構成は、電流の回り込みが少ない。金属層121と樹脂層122の組み合わせた構成は、フレーム111Bの設計と加工が容易である。積層方向でみたときに、金属層121を樹脂層122で挟みこむことでフレーム111Bの強度も確保されている。
【0063】
図10Cは、
図8Bのエッジ処理がされたパネル13同士を接続する。パネル13の表面とエッジジャケット17の外側壁がそろっているので、あらかじめパネル13のエッジにエッジジャケット17をはめ込んだ状態で、パネル13をフレーム111Cに挿入すればよい。フレーム111Cは、たとえば、絶縁性のプラスチックで形成されている。電気的な接続部15Cにおいて、反射電流は、エッジジャケット17からブリッジ電極112Cを通って、短い電流経路で隣接するパネルの導体131に流れ込む。ブリッジ電極112Cは、エッジジャケット17-1、及び17-2の外側面の全面と面接触するように、も幅広に形成されてもよい。パネル13-1で電磁波が反射されるときに、白矢印で示すように、高周波電流がブリッジ電極112Cの少なくとも一部を通って、パネル13-2の導体131へと流れるので、電流の回り込みが少ない。
【0064】
図10Dは、支持体11Dの接続部15Dの構成例を示す。接続部15Dは、エッジジャケット17-1と17-2を電気的に接続するブリッジ電極114を有する。ブリッジ電極114は、エッジジャケット17-1と17-2の底面172同士を電気的に接続している。
図10Dの構成は、導体131-1から、エッジジャケット17-1、ブリッジ電極114、エッジジャケット17-2、導体131-2へと、最短経路で高周波が流れる点で有利である。
【0065】
図10Dの例では、ブリッジ電極114はエッジジャケット17-1と17-2の底面172の一部を接続しているが、ブリッジ電極114の厚さを増して、エッジジャケット17-1と17-2の底面172の全面で接続してもよい。ブリッジ電極114を厚くすることで、電気的及び物理的な接続がより安定する。ブリッジ電極114の周囲を絶縁性のフレーム111Dで囲い込むことで電気的な接続部15Dの機械的強度と、電気接続の確実性を担保している。
【0066】
図10Eは、支持体11Eの接続部15Eの構成例を示す。接続部15Eは、対向する一対のブリッジ電極112aと112bをブリッジ電極114で接続した、水平断面がH字型の形状を有する。ブリッジ電極114によって、エッジジャケット17-1と17-2の底面172の全体で電気的な接続が確保され、電気接続の安定性と、機械的強度の双方が得られる。ブリッジ電極114とブリッジ電極112a及び112bは、一体的に形成されていてもよい。接続部15Eを覆うフレーム111Eは、樹脂等の絶縁材料で形成されていてもよいし、CFRPで形成されていてもよい。樹脂として、硬化型の接着剤を用いてもよい。
【0067】
図10Fは、金属と樹脂の複合型のフレーム111Fを用いる例を示す。フレーム111Fは、金属のコネクタ141とコネクタを覆う樹脂補強部142を有する。コネクタ141は、押出し成型などで容易に作製され、電気的接続を担保しつつ、コネクタ自体もある程度の強度を備えている。この周囲を樹脂補強部142で覆うことで、コネクタ141と樹脂補強部142の両者で支持材としての強度を確保する。樹脂補強部142は接着剤であってもよい。接着剤は、アクリル系接着材でもエポキシ系接着剤でもよい。これにより、コネクタ141の厚みを薄くし、電流の迂回による残留インダクタンスの発生を抑制する。さらに端部をラウンドさせることで、角部での回折を防いでいる。
【0068】
図10Gは、支持体11Gの接続部15Gの構成例を示す。接続部15Gは、
図10Eと同様に、水平断面がH字型のブリッジ電極173を有する。
図10Gでは、パネル13-1と13-2は、エッジジャケットを用いずにブリッジ電極173に嵌め込まれ、端部が折り返された導体131が直接、ブリッジ電極173と電気的に接続されている。フレーム111Gは、ブリッジ電極173の外側の面173aを覆っている。
図10Gでは、ブリッジ電極の幅WBRGは、フレーム111Gの幅よりも短く設定され、パネル13-1とパネル13-2が嵌め込みやすい構成を採用しているが、この例に限定されず、フレーム111Gとブリッジ電極173の幅を揃えてもよい。なお、
図8、及び
図10A~
図10Gの接続構成で、ブリッジ電極の表面は絶縁コーティングされていてもよい。
【0069】
図10Hは、参考例として、アルミニウムの押出成形で形成される既存のフレーム1100を用いた構造を示す。複雑な断面形状を有するフレーム1100では、様々な方向に電流が流れ、複雑な電流迂回経路による残留インダクタンスや浮遊容量が発生する。入射電磁波によってその応答が複雑に変化するため、基準電位の参照または伝達に悪影響を及ぼす。これらの点から、支持体11の接続部15として、
図8、及び
図10A~
図10Gに示した構成を採用するのが望ましい。
【0070】
<パネルの連結>
図11Aは、電磁波反射装置10-1と10-2の連結を説明する図である。パネル13-1の両側のエッジに、エッジジャケット17-1が設けられている。パネル13-2の両側のエッジに、エッジジャケット17-2が設けられている。あらかじめエッジジャケット17-1、及び17-2が嵌められたパネル13-1とパネル13-2は、支持体11によって連結される。
【0071】
支持体11は、電気的な接続部15を有するフレーム111と、フレーム111を受け取るガイドビーム118を有していてもよい。
図11Aの構成例のように、フレーム111とガイドビーム118が別体として形成されていてもよいし、一体に構成されていてもよい。フレーム111が両側からパネル13-1とパネル13-2を受け取ると、接続部15のブリッジ電極112は、パネル13-1のエッジジャケット17-1の外側面と、パネル13-2のエッジジャケット17-1の外側面の両方に面接触する。これにより、電磁波反射装置10-1の反射面105-1と、電磁波反射装置10-2の反射面105-2の間に電気的な接続が確立される。
【0072】
パネル13-1とパネル13-2を連結するフレーム111をガイドビーム118に嵌めることで、フレーム111とガイドビーム118が一体となって、支持体11となる。
【0073】
図11Bは、連結前の電磁波反射装置10の状態を示す。電磁波反射装置10-1~10-3の各々で、パネル13の一方のサイドエッジに、電気的な接続部15を有するフレーム111があらかじめ取り付けられ、他方のサイドエッジに、ガイドビーム118が取り付けられている。電磁波反射装置10-1~10-3の反射面105は、
図6A~
図6Dのいずれの構成であってもよい。
【0074】
フレーム111は、他の電磁波反射装置10に設けられているガイドビーム118に嵌め込み可能に形成されている。ガイドビーム118は、他の電磁波反射装置10に設けられたフレーム111を受け取り可能に形成されている。たとえば、電磁波反射装置10-1のガイドビーム118は、電磁波反射装置10-2のフレーム111を受け取る。電磁波反射装置10-2のガイドビーム118は、電磁波反射装置10-3のフレーム111を受け取る。定型サイズの電磁波反射装置10を組み合わせて一体化することで、プロセスラインの長さに対応することができる。組み立て作業は、工場内の現場を行えばよい。個々の電磁波反射装置10-1~10-3は、構成が単純で、搬送が容易である。
【0075】
図11Cは、連結後の電磁波反射装置10の状態を示す。フレーム111とガイドビーム118が一体となって、支持体11が形成される。支持体11によって、複数の電磁波反射装置10-1、10-2、及び10-3が連結されて、電磁波反射フェンス100が形成されてもよい。フレーム111の電気的な接続部15により、パネル13間の連結部での反射電流の不連続性が抑制されている。
【0076】
ガイドビーム118とフレーム111の少なくとも一方に、あらかじめベース119を設けておくことで、連結された電磁波反射装置10-1~10-3は、支持体11のベース119によって設置面に独立して起立する。最も端に位置する電磁波反射装置10-3のパネル13のエッジにカバー29をかぶせて、エッジジャケット17とガイドビーム118を保護してもよい。
【0077】
図12と
図13は、複数の電磁波反射装置10-1、10-2を連結する際の接続を補強する機構を示す。
図12の(A)は、電磁波反射フェンス100の正面図、
図12の(B)は、補強機構125の締め付け前の状態を示す側面図、
図12の(C)は、補強機構125の締め付け後の状態を示す側面図である。
図13は、補強機構125のひとつの構成例である。
図13は、補強機構125で用いられるカバー127のパネル13への取り付け面127aに形成されたガイド溝129の正面図と、断面Aと断面Bの状態を示す。
【0078】
連結強度の向上、および電気的接続性の向上のために、反射特性を悪化させない程度に適宜、
図12、及び
図13に示す補強機構125を用いてもよい。パネル13に孔126形成し、その孔にピン128を通し、パネル13の反射面と反対側の面にカバー127を装着する。カバー127の取り付け面127aに形成されたガイド溝129にそってピン128を移動させることで(断面Aから断面Bへの遷移)、支持体11に対して両側からパネル13を圧接させることができる。補強機構125の締め付けによって、パネル13に形成された孔126の位置はわずかに支持体11の方向にシフトする。パネル13の弾性力によって、パネル13のエッジと支持体11の接続部15(
図17参照)との接続が確実になる。
【0079】
複数の電磁波反射装置10の連結を強化する機構は
図12、
図13に示した例に限定されず、電磁波の反射特性を阻害しない範囲で、適切なファスナー機構、ラチェットなどを用いてもよい。このような圧接工程を想定してエッジジャケット17、および接続部15の設計が適宜調整されてもよい。
【0080】
<支持体の評価>
以下で、支持体11のサイズと特性を評価する。
図14は、フレーム111とブリッジ電極112の適切なサイズを評価するモデルの模式図である。このモデルでは、2枚のパネル13を電気的に接続する接続部15を設けたときの反射特性に基づいて、フレームの幅WFRMと厚さTFRM、及びブリッジ電極の幅WBRGと厚さTBRGの好ましい範囲を評価する。
【0081】
図15は、電磁波の入射角が0°のときのフレームの幅及び厚さと反射特性の関係を示す。反射特性は、縦軸のピーク比で示されている。ピーク比は、電気的な接続部15を用いない一枚パネルの散乱断面積のピーク強度に対する、接続部15を設けたときの散乱断面積のピーク強度の比で表される。入射角0°は、接続部15への垂直入射に相当する。
【0082】
図19に示すように、入射電磁波を反射させる能力は、レーダ反射断面積(RCS:Rader Cross Section)、すなわち散乱断面積で評価される。RCSの単位は平方メートル(sm:square meter)である。2枚のパネルを電気的な接続部15で接続することで、一枚パネルと比較してRCSのメインピーク強度が低下する。低下の度合が小さいほど、すなわち接続部15がないときのRCSのメインピーク強度に対する接続部15を設けたときのRCSのメインピーク強度の比率が高いほど、反射特性が良好である。
【0083】
評価では、汎用の3次元電磁界シミュレーションソフトウェアを用い、3.8GHzの平面波を反射させ、散乱断面積を解析する。
【0084】
図15の(A)で、フレームの厚さTFRMを1mmに固定し、幅WFRMを0~150mmの範囲で変えながら、散乱断面積のピーク比を計算する。
図15のB(B)で、フレームの幅WFRMを50mmに固定し、厚さTFRMを0~15mmの範囲で変えながら、散乱断面積のピーク強度比(以下、単に「ピーク比」と呼ぶ)を計算する。ピーク比1.0は、電気的な接続部15のない1枚パネルの反射特性である。参考として、厚さ10mm、幅50mmのアルミニウムフレームを用いたときのピーク比を破線で示す。
【0085】
図15の(A)では、フレーム111の幅WFRMが150mm以下で、ピーク比は0.85以上であり、60mm以下でピーク比は0.9以上となる。ここから、フレーム111の幅WFRMは好ましくは150mm、より好ましくは20mm以上、60mm以下である。
【0086】
図15の(B)で、フレーム111の厚さTFRMが15mm以下で、アルミフレームよりも高いピーク比を示す。厚さ10mm以下でピーク比は0.9以上となり、7.5mmでピーク比は最大になる。ここから、フレーム111の厚さTFRMは、好ましくは15mm以下、より好ましくは10mm以下、さらに好ましくは、2mm以上、7.5mm以下である。
【0087】
図16は、電磁波の入射角が45°のときのフレームの幅及び厚さと反射特性の関係を示す。シミュレーションの条件は、入射角を除いて、
図15と同じである。参考として、厚さ10mm、幅50mmのアルミニウムフレームを用いたときのピーク比を破線で示す。
【0088】
入射角が45°では、
図16の(A)に示すように、フレーム111の幅150mm以下で、ピーク比は0.85以上であり、100mm以下でピーク比は0.9以上となる。
図15(A)の結果と合わせると、フレーム111の幅WFRMは好ましくは150mm、より好ましくは20mm以上、60mm以下である。
【0089】
図16の(B)で、フレーム111の厚さ12mm以下で、アルミフレームよりも高いピーク比を示す。厚さ10mm以下でピーク比は0.9以上となり、7.5mmでピーク比は最大になる。
図15(B)の結果と合わせると、フレーム111の厚さTFRMは、好ましくは12mm以下、より好ましくは10mm以下、さらに好ましくは、2mm以上、7.5mm以下である。
【0090】
図17は、入射角が0°のときのブリッジ電極の幅、厚さ、及び材質と反射特性の関係を示す図、
図18は、入射角が45°のときのブリッジ電極の幅、厚さ、及び材質と反射特性の関係を示す図である。
図17の(A)で、ブリッジ電極の幅WFRMを10~100mmの範囲で変えながら、散乱断面積のピーク比を計算する。
図17の(B)で、フレームの厚さTFRMを1~50mmの範囲で変えながら、散乱断面積のピーク比を計算する。
図17の(C)で、ブリッジ電極の材質をアルミニウム(Al)、銅(Cu)、及びSUSと変えながら散乱断面積のピーク比を計算する。
図18の(A)~(C)でも、入射角を45°に変えたことを除いて、
図17と同じ条件でピーク比を計算する。
【0091】
図17と
図18の結果から、ブリッジ電極112の幅WBRGは、100mm以下が好ましく、50mm以下がさらに好ましい。ブリッジ電極の厚さは20mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましく、1mm以上かつ5mm以下がさらに好ましい。ブリッジ電極の材料は、Al、Cu、SUS等の導電体であれば、材質の違いは反射特性にそれほど影響はしない。
【0092】
図17の(B)と
図18の(B)で、ブリッジ電極の厚さが特に40mmのときにピーク比が高くなっているのは、周波数3.8GHzの電磁波の波長は78.9mmであり、ブリッジ電極の厚さが半波長に相当することから反射波が互いに強め合って(共鳴現象)、散乱断面積が大きくなったためと考えられる。
【0093】
図20Aと
図20Bは、以下で述べる実施例1~8と参考例1~4の反射特性の解析空間を説明する図である。
図20Aと
図20Bでは、パネルの厚さ方向をx方向、幅方向をy方向、高さ方向をzとして解析空間を(x方向のサイズ)×(y方向のサイズ)×(z方向のサイズ)で表す。周波数が2~15GHzのときの解析空間のサイズは、150mm×500mm×500mmとする。周波数が28GHzのときの解析空間のサイズは、100mm×200mm×200mmとする。高周波で解析空間を小さくするのは、波長が短くなるからである。
図20Bに示すように、境界条件は、解析空間の周囲に電磁波吸収体を配置した設計とする。
【0094】
図21は、実施例及び参考例で用いるシミュレーションモデルの図である。パネル13は、導体131を2枚の誘電体132、及び133に挟んで接着した構成とする。誘電体132、及び133として、厚さ2mmのガラスまたはポリカーボネートを用いる。導体131として、厚さ1mmのSUSを用いる。パネル13のトータルの厚さは5mmである。2枚のパネル13の間に10mmの間隙を設ける。パネル13の構成と配置は、実施例1~8、及び参考例1~4を通じて共通である。
【実施例0095】
図21の構成で、接続部15のブリッジ電極(図中、「BRG」と表記)として、厚さ1mm、幅50mmのアルミプレートを用いる。アルミプレートの外側に、厚さ5mm、幅50mmのFRPのフレームを設ける。フレームの角部の曲率半径Rは2mmである。入射電磁波の周波数は3.8GHzである。150mm×500mm×500mmの解析空間を設定する。入射角を0°から60°まで、10°刻みで変え、散乱断面積のメインピークの強度比を計算する。計算結果を表1に示す。
【0096】