(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123413
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】光触媒及びその製造方法、並びに前記光触媒を用いた水の分解方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/22 20060101AFI20240905BHJP
B01J 35/39 20240101ALI20240905BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20240905BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240905BHJP
B01J 23/652 20060101ALI20240905BHJP
C01B 3/04 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
B01J23/22 M
B01J35/02 J
B01J37/04 101
B01J37/08
B01J23/652 M
C01B3/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030812
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】中倉 修平
(72)【発明者】
【氏名】田山 真由
(72)【発明者】
【氏名】久富 隆史
(72)【発明者】
【氏名】堂免 一成
(72)【発明者】
【氏名】高田 剛
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA48A
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC12A
4G169BC12B
4G169BC54A
4G169BC54B
4G169BC58A
4G169BC58B
4G169BC71A
4G169BC71B
4G169CC33
4G169DA05
4G169EC25
4G169FB07
4G169FB13
4G169FB27
4G169FB30
4G169FC04
4G169FC07
4G169FC08
4G169HA01
4G169HB06
4G169HC02
4G169HC29
4G169HD04
4G169HE09
4G169HF02
(57)【要約】
【課題】水を分解して水素と酸素とを生成し得る新規な酸化バナジウム系光触媒を提供すること。
【解決手段】正方晶系結晶構造を有するScVO
4を主成分化合物として含む複合酸化物粒子を備える光触媒。
【選択図】
図21
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正方晶系結晶構造を有するScVO4を主成分化合物として含む複合酸化物粒子を備える光触媒。
【請求項2】
前記複合酸化物粒子は、そのスカンジウム(Sc)含有量に対するバナジウム(V)含有量の原子比(V/Sc)が0.90以上1.00以下である、請求項1に記載の光触媒。
【請求項3】
前記複合酸化物粒子の表面に担持された助触媒をさらに含む、請求項1又は2に記載の光触媒。
【請求項4】
前記助触媒が、ロジウム(Rh)-クロム酸化物(Cr2O3)を含む、請求項3に記載の光触媒。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の光触媒の製造方法であって、
スカンジウム(Sc)原料とバナジウム(V)原料を混合して原料混合物を得る工程と、
前記原料混合物を580℃以上の温度で焼成して反応生成物を得る工程と、を備える方法。
【請求項6】
前記原料混合物は、そのスカンジウム(Sc)含有量に対するバナジウム(V)含有量の原子比(V/Sc)が1.05以上1.20以下である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記反応生成物をアルカリ性水溶液で洗浄処理する工程をさらに備える、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記反応生成物に助触媒を担持する工程をさらに備える、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記原料混合物を焼成する温度が680℃以上1300℃以下である、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の光触媒と水とを含む懸濁液に紫外光を照射し、それにより、前記水を分解して水素と酸素を発生させる、水の分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒及びその製造方法、並びに前記光触媒を用いた水の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温鈍化や化石資源枯渇の問題から、光触媒を用いた水の分解反応に関する技術開発が注目を集めている。水の分解反応を利用することで、太陽光エネルギーを水素などの化学エネルギーに変換して有効活用することができる。
【0003】
光触媒を用いた水の光分解では、微粒子状の半導体粒子を水中に分散させ、これに光照射することで水素と酸素が生成する。半導体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーをもつ光を半導体粒子が吸収すると、価電子帯の電子が伝導帯に励起される。それに伴い、負の電荷をもつ自由電子が伝導帯に生じるとともに、正の電荷をもつ正孔が価電子帯に生成する。これらは半導体粒子の表面に移動し、そこで正孔が水を酸化して酸素を発生させ、自由電子が水素イオンを還元して水素を発生させる。
【0004】
水分解反応を起こす上で、半導体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーをもつ光を照射する必要がある。言い換えれば、半導体粒子は、そのバンドギャップよりも大きいエネルギーをもつ光しか吸収できない。
【0005】
従来から、酸化チタンが光触媒材料として知られている。しかしながら、酸化チタンはバンドギャップが3.0eV以上と大きく、アナターゼ型の場合は酸素生成速度が低い。非特許文献1によると、ルチル型の場合はRh、Pt、Pdを助触媒とした場合に、水分解を可能とするとされているが、Rh-Cr2O3触媒を担持した場合に水分解活性を示さず、逆反応を防止しにくい。したがって、高効率化に適さない。
【0006】
そのため、酸化チタン以外の光触媒材料の開発が進んでおり、そのうち、酸化バナジウム系化合物が注目を集めている。例えば、酸化バナジウム(V2O5)や単斜晶バナジン酸ビスマス(BiVO4)は酸化物でありながら適切なバンドギャップ(2.3eVもしくは2.4eV)を有し、優れた酸素生成型光触媒として知られる。しかしながら、伝導帯の下端が水素生成準位より貴なために、水分解触媒ではなく、水素発生触媒と組み合わせたZスキーム型光触媒として利用されることが多い。
【0007】
酸化バナジウム系化合物に関する文献として、特許文献1には、BiVO4からなる光触媒粒子が開示されている。具体的には、水素発生用可視光応答型光触媒粒子と、酸素発生用可視光応答型光触媒粒子とを含む複合光触媒について、酸素発生用可視光応答型光触媒粒子がBiVO4等であること、及び可視光による水の光分解反応に複合触媒を用いることが記載されている(特許文献1の請求項1及び9)。
【0008】
水の分解反応とは異なる用途に用いられるものではあるが、特許文献2にはバナジン酸ビスマス(BiVO4)のBiサイトの一部にランタン(La)がドープされてなる可視光応答型光触媒が開示されている(特許文献2の請求項1)。特許文献2には、当該光触媒に関して、Laドープにより、BiVO4の価電子帯上端位置が下がり、酸化力が高まり、その結果、有機物の分解能を高めることが可能になると記載されている(特許文献2の[0008])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2014/046305号
【特許文献2】特開2020-040830号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Maeda, Kazuhiko. Photocatalytic properties of rutile TiO2 powder for overall water splitting. Catalysis Science & Technology 4.7 (2014): 1949-1953.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように、酸化バナジウム系化合物からなる光触媒材料が提案されるものの、従来の材料には改良の余地があった。すなわち、水を分解して水素を発生させるためには、光触媒材料の伝導帯下端の電位が水素生成電位よりも卑である必要がある。また、水を分解して酸素を発生させるためには、価電子帯上端の電位が酸素発生電位よりも貴であることが必要である。ここで、水素生成電位とは、水中のプロトンを還元して水素ガスを生成させる電位である。また酸素発生電位とは、水を酸化させて酸素を発生させる電位である。
【0012】
そのため、光触媒材料が光を吸収して水を分解し、それにより水素と酸素の両方を発生させるためには、光触媒材料のバンドギャップが光エネルギーよりも小さく、さらに伝導帯下端電位が水素発生電位よりも卑であり、且つ価電子帯上端電位が酸素発生電位よりも貴であることが必要である。
【0013】
この点、酸化バナジウム(V2O5)は、バンドギャップ(2.7eV)がアナターゼ型酸化チタンよりも小さいものの、伝導帯下端が水素発生電位よりも貴な電位側にあるため、励起された電子を水素発生に利用できない。またV2O5は水に対する溶解させるとコロイド状に変質するために、水中で安定して利用することができない。
【0014】
単斜晶BiVO4も、バンドギャップ(2.4eV)がアナターゼ型酸化チタンよりも小さいものの、V2O5と同様に伝導帯の下端が水素発生電位より貴なため、電子を水素発生に利用できない。特許文献1で提案される複合光触媒は、BiVO4等の酸素発生用光触媒粒子の他に、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム等の水素発生用光触媒粒子を必要とする(特許文献1の請求項1及び5)。
【0015】
さらに、特許文献2ではLaドープBiVO
4からなる光触媒が提案されるものの、この光触媒は有機物分解用であり、水分解用ではない。実際、特許文献2にはLaドープBiVO
4の伝導帯下端の電子エネルギー準位が従来のBiVO
4と一致していることが示されている(特許文献2の[0044]及び
図4)。そのため、この文献で提案される光触媒(LaドープBiVO
4)は、従来のBiVO
4と同様、水素イオンを還元して水素を発生させることはできないと考えられる。
【0016】
このような状況のもと、水分解反応に優れ、水素と酸素を効率的に生成することができる光触媒材料の探索が進められているものの、十分な水分解活性を示す材料は未だ見つかっていない。
【0017】
本発明者らは、今般、正方晶系結晶構造を有するScVO4を主成分として含む新規な酸化バナジウム系光触媒は、バンドギャップが比較的小さいことに加えて、水分解活性が良好との知見を得た。
【0018】
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、水を分解して水素と酸素とを生成し得る新規な酸化バナジウム系光触媒の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、下記(1)~(10)の態様を包含する。なお本明細書において「~」なる表現は、その両端の値を含む。すなわち、「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0020】
(1)正方晶系結晶構造を有するScVO4を主成分化合物として含む複合酸化物粒子を備える光触媒。
【0021】
(2)前記複合酸化物粒子は、そのスカンジウム(Sc)含有量に対するバナジウム(V)含有量の原子比(V/Sc)が0.90以上1.00以下である、上記(1)の光触媒。
【0022】
(3)前記複合酸化物粒子の表面に担持された助触媒をさらに含む、上記(1)又は(2)の光触媒。
【0023】
(4)前記助触媒が、ロジウム(Rh)-クロム酸化物(Cr2O3)を含む、上記(3)の光触媒。
【0024】
(5)上記(1)~(4)のいずれかの光触媒の製造方法であって、
スカンジウム(Sc)原料とバナジウム(V)原料を混合して原料混合物を得る工程と、
前記原料混合物を580℃以上の温度で焼成して反応生成物を得る工程と、を備える方法。
【0025】
(6)前記原料混合物は、そのスカンジウム(Sc)含有量に対するバナジウム(V)含有量の原子比(V/Sc)が1.05以上1.20以下である、上記(5)の方法。
【0026】
(7)前記反応生成物をアルカリ性水溶液で洗浄処理する工程をさらに備える、上記(5)又は(6)の方法。
【0027】
(8)前記反応生成物に助触媒を担持する工程をさらに備える、上記(5)~(7)のいずれかの方法。
【0028】
(9)前記原料混合物を焼成する温度が680℃以上1300℃以下である、上記(5)~(8)のいずれかの方法。
【0029】
(10)上記(1)~(4)のいずれかの光触媒と水とを含む懸濁液に紫外光を照射し、それにより、前記水を分解して水素と酸素を発生させる、水の分解方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、水を分解して水素と酸素とを生成し得る新規な酸化バナジウム系光触媒が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】光触媒(複合酸化物粒子)のX線回折プロファイルを示す。
【
図2】光触媒(複合酸化物粒子)のX線回折プロファイルを示す。
【
図3】光触媒(複合酸化物粒子)のX線回折プロファイルを示す。
【
図4】光触媒(複合酸化物粒子)の拡散反射スペクトルを示す。
【
図5】光触媒(複合酸化物粒子)の拡散反射スペクトルを示す。
【
図6】光触媒(複合酸化物粒子)の拡散反射スペクトルを示す。
【
図7】光触媒(複合酸化物粒子)の拡散反射スペクトルを示す。
【
図8】光触媒(複合酸化物粒子)の拡散反射スペクトルを示す。
【
図9】光触媒(複合酸化物粒子)のSEM二次電子像を示す。
【
図10】光触媒(複合酸化物粒子)のSEM反射電子像を示す。
【
図11】光触媒(複合酸化物粒子)のSEM二次電子像を示す。
【
図12】光触媒(複合酸化物粒子)のSEM反射電子像を示す。
【
図13】光触媒(複合酸化物粒子)のSEM二次電子像を示す。
【
図14】光触媒(複合酸化物粒子)のSEM反射電子像を示す。
【
図15】光触媒(助触媒担持複合酸化物粒子)のTEM像を示す。
【
図16】光触媒(助触媒担持複合酸化物粒子)のTEM-EDSマッピング像を示す。
【
図17】光触媒(複合酸化物粒子)のTEM像、電子回折像、及びEDSマッピング像を示す。
【
図18】光触媒(助触媒担持複合酸化物粒子)の光触媒性能試験結果を示す。
【
図19】光触媒(助触媒担持複合酸化物粒子)の光触媒性能試験結果を示す。
【
図20】光触媒(複合酸化物粒子)の光触媒性能試験結果を示す。
【
図21】光触媒(助触媒担持複合酸化物粒子)の光触媒性能試験結果を示す。
【
図22】光触媒(助触媒担持複合酸化物粒子)の光触媒性能試験結果を示す。
【
図23】光触媒(助触媒担持複合酸化物粒子)の光触媒性能試験結果を示す。
【
図24】光触媒(助触媒担持複合酸化物粒子)の光触媒性能試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について、以下に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0033】
<<1.光触媒>>
本実施形態の光触媒は複合酸化物粒子を含む、この複合酸化物粒子は、アナターゼ型の正方晶系結晶構造(ジルコン構造)を有するバナジン酸スカンジウム(ScVO4)を主成分化合物として含む。なお、主成分とは、複合酸化物粒子中で50質量%以上の割合を示す成分を指す。ScVO4は半導体的性質をもち、第一原理計算により求められるバンドギャップが2.6eVと比較的小さい。また、バンド構造における伝導帯下端電位が水素発生電位より卑な電位にあるとともに、価電子帯上端電位が酸素発生電位よりも黄な電位にある。したがって、波長480nm以下の光を吸収して水を水素と酸素とに分解することができると考えられる。
【0034】
複合酸化物粒子は、ScVO4以外の成分の含有を排除しない。そのような成分として、酸化スカンジウム(Sc2O3)や酸化バナジウム(V2O5)などの異相が挙げられる。しかしながら、酸化スカンジウムは触媒性能に劣る。また酸化バナジウムは水中安定性に欠ける。水の分解反応に光触媒を用いる場合には、光触媒を水と接触させる必要があり、水中安定性に優れることが望まれる。
【0035】
優れた触媒性能及び水中安定性を確保する観点から、異相(ScVO4以外の成分)含有量は少ない方が好ましい。異相含有量は30質量以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が特に好ましい。なお、異相含有量は、複合酸化物粒子をX線回折(XRD)法で分析、得られたXRDプロファイルを解析することで求められる。
【0036】
複合酸化物粒子は、ScVO4を主成分として含むことを前提として、スカンジウム(Sc)とバナジウム(V)の含有割合は限定されない。しかしながら、スカンジウム量が過剰に多い粒子は、触媒性能に劣る酸化スカンジウム等の異相の含有量が多くなる。またバナジウム量が過剰に多いと、水に対する溶解度が高く、水中安定性に欠ける酸化バナジウム等の異相の含有量が多くなる。優れた触媒性能及び水中安定性を確保する観点から、原子比(V/Sc)は0.90以上1.00以下が好ましく、0.93以上1.00以下がより好ましい。
【0037】
複合酸化物粒子の原子比(V/Sc)は、光触媒製造時の条件を調整することで制御できる。例えば、原料混合工程でのバナジウム原料とスカンジウム原料の配合量を調整することで、最終的に得られる複合酸化物粒子の原子比を制御できる。また、焼成により得られた反応生成物にアルカリ洗浄処理を施すことで、余剰V2O5を除去できる。
【0038】
好適には、光触媒は、上述した複合酸化物粒子の表面に担持された助触媒をさらに含む。助触媒には、水素発生助触媒及び酸素発生助触媒などに分類される。水素発生助触媒は、電子による水素イオンの還元を促す作用を主として有しており、酸素発生助触媒は、正孔による水の酸化を促す作用を主として有する。特に、半導体粒子からなる光触媒の表面に水素発生助触媒を担持させることで、水分解性能を飛躍的に改善させることが可能となる。
【0039】
助触媒の材料として、公知の金属や化合物等の材料を選択すればよい。そのような材料として、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、鉄(Fe)からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属あるいは、酸化ルテニウム、酸化ニッケル等の酸化物粒子からなる群から選択される1種以上、あるいは、これらの金属粒子あるいは酸化物粒子を混合させたもの、あるいは、ロジウム(Rh)およびクロム(Cr)を含む複合水酸化物もしくは複合酸化物を好ましく用いることがでる。より好ましくは、白金、ルテニウムの金属粒子、あるいはロジウムおよびクロムを含む複合水酸化物もしくは複合酸化物を用いることができる。
【0040】
特に好適な助触媒は、ロジウム(Rh)-クロム酸化物(Cr2O3)を含む。Rh-Cr2O3は、水の還元による水素生成には高い活性を有する一方で、酸素還元には活性を示さない。そのため、酸素が還元して水に戻る逆反応を抑制しながら、水素生成を高めることが可能であり、それ故、水分解反応を効率的に進める上で有効である。
【0041】
助触媒の担持量の総量は、複合酸化物粒子に対して0.01質量%以上0.3質量%以下が好ましい。担持量をある程度に多くすることで、助触媒による還元及び/又は酸化を促進する効果を十分に発揮させることが可能となる。また、担持量をある程度に抑えることで、複合酸化物粒子表面の活性点が不足化するのを抑えることができる。
【0042】
本実施形態の光触媒を水の分解反応に利用することができる。水に接している光触媒に紫外光を照射すると、水が分解して水素と酸素とが発生する。そのため、光触媒はクリーエネルギー創出に寄与する。また、本実施形態の光触媒を環境浄化材料として利用することもできる。光触媒に紫外光を照射すると、その表面に強い酸化力が生じ、これに接触している有機化合物や細菌などの有害物質を分解除去することができる。
【0043】
<<2.光触媒の製造方法>>
本実施形態の光触媒は、上述した要件を満足する限り、製造方法は限定されない。例えば、固相反応法(固相合成法)、液相合成法、又は気相合成法などの手法で製造すればよい。しかしながら、原料が比較的安価で且つ製造工程が簡易な固相反応法で作製することが好ましい。
【0044】
固相反応法による好適な製造方法は、スカンジウム(Sc)原料とバナジウム(V)原料を混合して原料混合物を得る工程(原料混合工程)と、得られた原料混合物を580℃以上の温度で焼成して反応生成物を得る工程(焼成工程)と、を備える。また反応生成物をアルカリ性水溶液で洗浄処理する工程(アルカリ洗浄工程)や反応生成物に助触媒を担持する工程(助触媒担持工程)をさらに設けてもよい。各工程の詳細について以下に説明する。
【0045】
<原料混合工程>
原料混合工程では、スカンジウム(Sc)原料とバナジウム(V)原料を混合して原料混合物を得る。スカンジウム原料として、スカンジウム単体又はスカンジウム含有化合物を用いることができる。具体的には、限定される訳ではないが、金属スカンジウム(Sc)や酸化スカンジウム(Sc2O3)が例示される。Sc2O3は粉末として市場で容易に入手できる。バナジウム原料として、限定される訳ではないが、メタバナジン酸アンモニウムなどのバナジン酸化合物や酸化バナジウム(V2O5)が例示される。V2O5は粉末として市場で容易に入手できる。また、バナジン酸化合物は、後続する焼成工程で分解してV2O5に変化する。
【0046】
ScVO4を主成分化合物として含む光触媒が得られる限り、原料配合割合は特に限定されない。しかしながら、バナジウム原料が若干過剰となるように配合することが好ましい。具体的には、原料混合物のスカンジウム(Sc)含有量に対するバナジウム(V)含有量の原子比(V/Sc)が1.05以上1.20以下となるように、バナジウム原料とスカンジウム原料を混合することが好ましい。
【0047】
一般的に、スカンジウム原料の融点は高く、バナジウム原料の融点は低い。例えば、Sc2O3の融点は2485℃であるのに対し、V2O5の融点は690℃である。そのため、後続する焼成工程で、バナジウム原料(V2O5粉末等)が溶融して、スカンジウム原料(Sc2O3粉末等)の粒子内に拡散し、そこでバナジン酸スカンジウム(ScVO4等)が形成されると考えられる。この際、バナジウム原料の割合が少なすぎると、スカンジウム原料粒子内への浸透及び拡散が不十分となり、ScVO4の生成が阻害される恐れがある。ScVO4の生成を促す観点から、バナジウム原料を化学量論組成より過剰に配合することが好ましい。また、過剰に配合したバナジウム原料はフラックス剤として作用して、生成したScVO4の結晶性を向上させる働きもある。ScVO4の結晶性向上は、これを含む光触媒の水素発生量及び触媒活性向上につながると期待される。一方で、バナジウム原料を必要以上に過剰に配合しても、未反応バナジウム原料が増えるだけで、それ以上の効果は期待できず、経済性(材料コスト)を損なう恐れがある。経済性を損なうことなく、ScVO4の生成促進及び結晶性向上を図る観点から、原料混合物の原子比(V/Sc)は1.05以上1.20以下が好ましく、1.08以上1.15以下がより好ましい。
【0048】
原料(スカンジウム原料、バナジウム原料)の混合は、公知の手法で行えばよい。例えば、乳鉢、らいかい機、ヘンシェルミキサー、V型ミキサー、ボールミル、アトライター、ビーズミル、及び/又は振動ミルなどの混合装置や粉砕混合装置を用いて行えばよい。混合は乾式で行ってもよく、あるいは湿式で行ってもよい。しかしながら、V2O5は水に対する溶解度が高いため、水中で混合すると、組成ずれや成分偏析が生じる恐れがある。したがって、バナジウム原料としてV2O5を用いて湿式混合する場合には非水媒体を用いることが好ましい。また、湿式で混合した場合には、得られた混合物を乾燥することが好ましい。
【0049】
<焼成工程>
焼成工程では、得られた原料混合物を580℃以上の温度で焼成して反応生成物を得る。先述したように、焼成工程で、バナジウム原料は溶融して、スカンジウム原料の粒子内に拡散し、そこでバナジン酸スカンジウム(ScVO4)を形成する。また、バナジウム原料を過剰に配合した場合には、過剰バナジウム原料はScVO4の生成促進及び結晶性向上の働きをする。
【0050】
焼成工程で形成されるバナジン酸スカンジウムの結晶構造は焼成温度に依存する。焼成温度が580℃未満であると、所望のScVO4が得られず、bixbyte型ScVO3+x(x:0~0.5)が生成する恐れがある。焼成温度を580℃以上に高めることで、所望のアナターゼ型正方晶(ジルコン型)ScVO4を合成することができる。ScVO4の生成促進及び結晶性向上を図る観点から、焼成温度はある程度に高い方が好ましい。一方で、焼成温度が過度に高いと、バナジウム原料が揮発して、最終的に得られる生成物の組成がずれる恐れがあるとともに、生成物の粒成長が過度に進行する恐れがある。その上、多量のエネルギーが必要になるとともに、設備劣化が進行して製造コスト増大につながる恐れがある。原料混合物を焼成する温度は680℃以上1300℃以下が好ましい。
【0051】
なお、スカンジウム原料及びバナジウム原料のそれぞれとして、酸化スカンジウム(Sc2O3)と酸化バナジウム(V2O5)を用いて580℃以上の温度で焼成を行った場合には、下記(1)式に示す反応が右方向に進む。
【0052】
Sc2O3 +V2O5 → 2ScVO4 ・・・(1)
【0053】
所望の光触媒が得られる限り、焼成保持時間は限定されない。しかしながら、ScVO4の生成促進及び結晶性向上を図る観点から、焼成保持時間はある程度に長いことが好ましい。一方で、焼成保持時間が過度に長いと、サイクルタイムが長くなり、製造コスト増大につながる。焼成保持時間は6時間以上が好ましく、8時間以上15時間以下がより好ましい。また、所望の光触媒が得られる限り、焼成雰囲気は限定されない。しかしながら、大気などの酸素含有雰囲気が好ましい。
【0054】
<アルカリ洗浄工程>
必要に応じて、焼成工程で得られた反応生成物をアルカリ性水溶液で洗浄処理する工程(アルカリ洗浄工程)を設けてもよい。アルカリ洗浄工程を設けることで、反応生成物が残留V2O5を含む場合に、この残留V2O5を除去でき、その結果、水中安定性の点でより一層優れた光触媒を得ることが可能となる。
【0055】
この点について説明するに、粉末状のスカンジウム原料(Sc2O3粉末等)とバナジウム原料(V2O5粉末等)を混合及び焼成して得られた反応生成物は、1μm以上の粒径をもつミクロンサイズの粒子から構成される。また、このミクロンサイズの粒子表面にサブミクロンサイズの粒子が付着している場合がある。このサブミクロンサイズの粒子はV2O5からなると推定される。特にScVO4の生成促進及び結晶性向上の効果を得るためにバナジウム原料を過剰に配合した場合には、過剰配合したバナジウム原料が、焼成工程後にV2O5となって反応生成物(光触媒)中に残留する傾向にある。
【0056】
一方で、先述したように、酸化バナジウム(V2O5)は水中安定性に劣る。そのため、残留V2O5を含む光触媒は、これを水分解に適用した場合に安定性が損なわれる恐れがある。したがって、反応生成物中の残留V2O5が存在する場合には、これを極力除去することが望ましい。この点、V2O5はアルカリ性水溶液で容易に除去できる。そのため、アルカリ性水溶液を用いたアルカリ洗浄を反応生成物に施すことで、残留V2O5が効率的に除去されて、水中安定性に優れた光触媒を得ることができる。
【0057】
アルカリ洗浄に用いるアルカリ水溶液として、酸化バナジウム(V2O5)を溶解除去できるものであれば、特に限定されない。例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化カルシウム(CaOH)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、アンモニア(NH3)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)を含む水溶液が挙げられる。水溶液の濃度も、V2O5を溶解除去できる限り、特に限定されない。例えば、NaOH水溶液を用いた場合には、その濃度は0.01M以上が好適である。またアルカリ洗浄の際は、常温のアルカリ性水溶液を用いてもよく、加熱したアルカリ性水溶液を用いてもよい。
【0058】
アルカリ洗浄後に反応生成物を水洗浄して、アルカリ成分を除去することが好ましい。また、水洗浄後に反応生成物を乾燥させることが好ましい。
【0059】
<助触媒担持工程>
必要に応じて、反応生成物に助触媒を担持する工程(助触媒担持工程)をさらに設けてもよい。助触媒担持工程は、焼成工程の後であればいずれのタイミングで行ってもよい。焼成工程で得られた反応性生物に助触媒を担持してもよく、あるいはアルカリ洗浄工程で洗浄を施された反応生成物であってもよい。
【0060】
助触媒の担持は、含浸法や光電着法などの公知の手法で行えばよい。含浸法は、金属塩などの助触媒原料を含む溶液を主触媒粒子と混合した後に、乾燥及び熱処理して、助触媒を担持する手法である。光電着法は、助触媒原料を含む溶液を主触媒粒子とともに撹拌し、これに光を照射して助触媒を担持する手法である。
【0061】
ロジウム(Rh)-クロム酸化物(Cr2O3)からなる助触媒を含浸法で担持する場合には、例えば、Rh原料とCr原料を含む水溶液を反応生成物に添加及び混合した後に乾燥し、得られた乾燥物を酸素含有雰囲気中で焼成する手法が挙げられる。Rh原料として、限定される訳ではないが、ヘキサクロロジウム(III)酸ナトリウムやその水和物などが挙げられる。またCr原料として、限定される訳ではないが、硝酸クロムやその水和物が挙げられる。焼成は、大気などの酸素含有雰囲気中で300℃以上400℃以下の温度で行えばよい。
【0062】
このようにして、本実施形態の光触媒を得ることができる。本実施形態の光触媒は、特に水の分解反応や有害物質の分解除去に有用である。
【0063】
<<3.水の分解方法>>
本実施形態の水の分解方法は、上述した光触媒と水とを含む懸濁液に紫外光を照射し、それにより、水を分解して水素と酸素を発生させる。具体的には、光触媒と水とを混合して懸濁液を作製する。次いで、得られた懸濁液に紫外光を照射する。
【0064】
照射する紫外光の光源として、300nm以上500nm以下の波長域に十分な強度を有するものを用いることが好ましい。紫外光照射により懸濁液中の光触媒の表面で水の分解反応が起こり、水素と酸素とが発生する。紫外光照射は、懸濁液を閉鎖循環系内に配置し、その状態で行ってもよい。また、照射の際に懸濁液を撹拌してもよい。
【実施例0065】
本実施形態を、以下の例によってさらに具体的に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例に限定される訳ではない。
【0066】
(1)光触媒の評価
光触媒(複合酸化物粒子)をサンプルに用いて、各種特性の評価を以下のとおり行った。
【0067】
<XRD>
サンプルを粉末X線回折法(XRD)で分析して、結晶相を同定した。XRD分析は、以下の条件で行った。
【0068】
‐X線回折装置:株式会社リガク、Mini Flex
‐線源:CuKα
‐管電圧:30kV
‐管電流:10mA
‐スキャン速度:1.25°/分
‐スキャン範囲(2θ):15~55°
【0069】
<拡散反射スペクトル>
サンプルの拡散反射特性を評価した。具体的には、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光株式会社(Jasco),V-670)を用いてサンプルの反射率を測定し、得られたデータをKubleka-Munk変換して、拡散反射スペクトルを求め、それを評価した。
【0070】
<組成分析>
サンプルの組成をICP発光分光法で分析した。分析は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(Agilent Technologies社,ICP-OES,5900 SVDV)を用いて行った。
【0071】
<SEM観察>
走査型電子顕微鏡(SEM;Carl Zeiss社,ULTRA55)を用いてサンプルの二次電子像を求め、サンプル粒子の形状を調べた。また、断面試料作製装置(日本電子株式会社(JEOL),クロスセクションポリシャ,SM-09010)を用いて、サンプル粒子の断面加工を行い、得られた断面についてSEMを用いて反射電子像を求めた。さらに、SEM付属のエネルギー分散型X線分析装置(EDX;BRUKER社,Quan Tax)を用いて、断面における元素局所分析を行った。
【0072】
<TEM観察>
透過型電子顕微鏡(TEM;日本電子株式会社,JEM―ARM200F)を用いてサンプルを観察した。また電子線回折像を求めるとともに、得られたTEM像の所定箇所について、TEM付属のEDS装置(EDS;日本電子株式会社,JED―2300T)を用いて半定量組成分析を行った。
【0073】
<水分解光触媒性能>
ガス閉鎖循環系内でサンプルに紫外(UV)光を照射する水分解光触媒性能試験を行った。具体的には、0.1gのサンプルを100mlの蒸留水に投入した後、30秒間超音波分散を行って懸濁液を調整した。調整した懸濁液を反応容器に入れ、反応容器ごと閉鎖循環系内に配置した。懸濁液中の溶存ガス除去と閉鎖循環系内の脱気を十分に行った後、閉鎖循環系内にアルゴン(Ar)キャリアーガスを封入し、系内を10kPaに保った。次いで、波長300~500nmの紫外(UV)光のみを反射するハーフミラーCM2を搭載した300Wキセノンランプを用いて光触媒性能を評価した。その際、光照射による懸濁液の加熱を防ぐため、15℃に設定した冷却水で反応容器の周囲を冷却し、懸濁液の撹拌を続けながら光触媒反応により発生したガスを分析し、その発生量を測定した。発生ガスの分析及び測定は、5Aカラムのモレキュラーシーブを搭載したガスクロマトグラフ(株式会社島津製作所,GC-8A)を用いて行った。
【0074】
(2)光触媒の作製及び評価結果
[実施例1]
実施例1では、複合酸化物粒子を固相反応法で作製し、その評価を行った。具体的には、酸化スカンジウム(Sc2O3)粉末(住友金属鉱山株式会社製、純度99.99%)と酸化バナジウム(V2O5)粉末(和光純薬株式会社製、特級、純度99%)を、0.03モルのScVO4が得られるように秤量した。この際、仕込み組成がモル比(原子比)でV/Sc=1.00となるように、原料(Sc2O3粉末、V2O5粉末)を秤量した。次いで、秤量した原料をメノウ乳鉢で30分間混合して原料混合物を作製した。得られた原料混合物をアルミナ坩堝に入れて、大気中960℃で12時間焼成して、複合酸化物粒子を光触媒サンプルとして作製した。
【0075】
得られたサンプル(複合酸化物粒子)のXRDスペクトルを
図1(a)及び(b)に示す。ここで、
図1(a)は2θ=15~55°におけるスペクトルを示し、
図1(b)は、2θ=18~40°における拡大スペクトルを示す。
【0076】
XRDスペクトルにおける回折ピークは、正方晶系ScVO
4の標準回折ピーク(JCPDSカード01-079-7028;ScVO
4、I41/amd、tetragonal)と殆ど一致した(
図1(a)及び(b))。このことから、ScVO
4が生成していることが分かった。また、拡大スペクトルには微量のV
2O
5及びSc
2O
3が確認された(
図1(b))。
【0077】
サンプルの拡散反射スペクトルを
図4に示す。なお
図4にはV
2O
5の拡散反射スペクトルを併せて示す。サンプルスペクトルにおける吸収端は550nm近傍にあった。また長波長側に不純物準位が形成されていた。この不純物準位はV
2O
5に由来する可能性があると考えられた。
【0078】
[実施例2]
実施例1で作製した複合酸化物粒子には拡散反射スペクトルで不純物準位が確認されたため、実施例2では、実施例1の複合酸化物粒子をアルカリ洗浄し、さらに水洗浄した。アルカリ洗浄は、濃度0.1MのNaOH水溶液を用いて、40℃で1時間行った。水洗浄は、純水を用いた15分間の洗浄を2回行い、それによりアルカリ成分を除去した。洗浄後の複合酸化物粒子をろ過により回収し、さらに40℃の真空乾燥機を用いて乾燥した。このようにして、アルカリ洗浄した複合酸化物粒子を光触媒サンプルとして得た。
【0079】
得られたサンプルのXRDスペクトルを
図1(a)及び(b)に示す。実施例1で確認された微量V
2O
5に由来するピークは消失した。一方でSc
2O
3に由来するピークは残っていた。
【0080】
サンプルの拡散反射スペクトルを
図4に示す。スペクトルにおける吸収端は350nm近傍にあった。また長波長側に向かって棚引くように吸収が減衰していた。
【0081】
ICP発光分光法による組成分析の結果、サンプルのV/Sc原子比は0.9665であった。このことは、組成中のバナジウム(V)が若干欠損していたことを示す。
【0082】
サンプルのSEM二次電子像を
図9(a)及び(b)に示す。部分的に連結した数ミクロンサイズの丸みを帯びた粒子が観察された。また、丸みを帯びた粒子の表面に数百ナノメートルサイズの粒子が付着していた。別に行ったTEM分析は、数百ナノメートルサイズの粒子がV
2O
5である可能性の高いことを示した。
【0083】
サンプル粒子断面のSEM反射電子像を
図10に示す。断面における大部分の領域は灰色を呈した一方で、明度の高い白色領域が粒子内部に確認された。灰色領域中の一部分(図中A)でEDS半定量分析を行ったところ、V/Sc原子比は0.96であった。この結果は、ICPで得られた結果とほぼ一致した。これに対して、明度の高い白色領域中の一部分(図中B)でのV/Sc原子比は0.05であった。このことは、バナジウム(V)が大きく欠損していること、つまり、白色領域ではスカンジウム(Sc)が過剰であることを示す。固相反応の際に、融点が690℃程度と低いV
2O
5が溶融し、融点の高いSc
2O
3粒子に粒内拡散してScVO
4結晶を形成したと考えられる。しかしながら、Sc
2O
3粒子の中心部までV
2O
5が拡散できなかった一部の領域でSc過剰領域が形成され、それが残留したと推測される。
【0084】
[実施例2P]
実施例2Pでは、実施例2で作製した複合酸化物粒子にRhCr酸化物(Rh-Cr2O3)を助触媒として含浸法で担持した。具体的には、ヘキサクロロジウム(III)酸ナトリウムn水和物(Na3[RhCl6]・nH2O)を純水に溶解させて、Rh濃度17.4質量%のRh水溶液を作製した。その後、得られたRh水溶液に硝酸クロム水和物(Cr(NO3)3・H2O)をRhに対して当モルとなるように溶解させて、RhイオンとCrイオンを含む水溶液(Rh-Cr水溶液)を作製した。
【0085】
次いで、実施例2で作製した複合酸化物粒子をRh-Cr水溶液に添加し、ガラス棒を用いて均一に混合しながら70℃で乾燥して溶媒(水)を除去した。この際、0.21gの複合酸化物粒子に対して、0.1質量%のRh及び0.1質量%のCrが担持されるように、複合酸化物粒子の添加量を調整した。乾燥後に得られた乾燥物を大気中350℃で1時間焼成して、RhCr酸化物(助触媒)を担持した複合酸化物粒子を光触媒サンプルとして作製した。
【0086】
得られたサンプル(助触媒を担持した複合酸化物粒子)のTEM像を
図15(a)及び(b)に示す。またEDSマッピング像を
図16に示す。助触媒担持前の粉末(実施例2)と外観において大きな違いは見られなかった。しかしながら、EDSマッピング像(
図16)から、粒子表面にCrとRhが確認された。
【0087】
光触媒性能試験の結果、サンプルから水素と酸素が発生することを確認した。UV光照射を開始してからの水素(H
2)、酸素(O
2)及び窒素(N
2)の検出量を
図18に示す。
【0088】
経過時間に対する発生量の傾きから発生速度を求めたところ、H2発生速度は1.03μmol/時間、O2発生速度は0.53μmol/時間であり、両者の比はおよそ2:1であった。このことから、水が水素と酸素に分解する光触媒反応が進んだことが確認された。
【0089】
[実施例3]
実施例3では、複合酸化物粒子を固相反応法で作製した。具体的には、Sc2O3粉末とV2O5粉末を、0.03モルのScVO4が得られるように秤量した。この際、仕込み組成がモル比(原子比)でV/Sc=1.05となるように原料を秤量した。それ以外は実施例1と同様の手順で複合酸化物粒子を光触媒サンプルとして作製した。
【0090】
得られたサンプル(複合酸化物粒子)のXRDスペクトルを
図2(a)及び(b)に示す。サンプルの回折ピークは、正方晶系ScVO
4の標準回折ピーク(JCPDSカード01-079-7028)と殆ど一致した(
図2(a)及び(b))。このことから、ScVO
4が生成していることが分かった。また、拡大スペクトルには微量のV
2O
5及びSc
2O
3が確認された(
図2(b))。
【0091】
サンプルの拡散反射スペクトルを
図5に示す。サンプルスペクトルにおける吸収端は550nm近傍にあった。また長波長側に不純物準位が形成されていた。この不純物準位はV
2O
5に由来する可能性があると考えられた。
【0092】
サンプルのTEM像、電子回折像、及びTEM-EDSマッピング像のそれぞれを
図17(a)~(c)に示す。TEM像における明るい(白に近い灰色)箇所(
図17(a)中□部)ではV/Sc原子比が0.29であった。このことは、バナジウム(V)が大きく欠損していることを示す。これに対して、暗い(黒に近い灰色)場所(
図17(c)中□部)ではV/Sc原子比が0.94であり、バナジウム(V)の欠損量は僅かであった。また、TEM像及びEDSマッピング像の視野右下部には、数百ナノメートルサイズの粒子が観察された(
図17(a)及び(c))。この粒子でバナジウム(V)の存在は確認されるものの、スカンジウム(Sc)は確認されなかった。そのため、この粒子は酸化バナジウム(V
2O
5)からなる可能性が高いと考えられた。さらに、電子回折像における輝点パターンは、ScVO
4のパターン(JCPDSカード01-079-8028)と一致した(
図17(b))。
【0093】
[実施例4]
実施例3で作製した複合酸化物粒子には拡散反射スペクトルで不純物準位が確認されたため、実施例4では、実施例3の複合酸化物粒子をアルカリ洗浄し、さらに水洗浄及び乾燥した。アルカリ洗浄、水洗浄、及び乾燥は実施例2と同様の手順で行った。
【0094】
得られたサンプルのXRDスペクトルを
図2(a)及び(b)に示す。実施例3で確認された微量V
2O
5に由来するピークは消失した。一方でSc
2O
3に由来するピークは残っていた。
【0095】
サンプルの拡散反射スペクトルを
図5に示す。スペクトルにおける吸収端は350nm近傍にあった。また長波長側に向かって棚引くように吸収が減衰していた。
【0096】
ICP発光分光法による組成分析の結果、サンプルのV/Sc原子比は0.9631であった。このことは、組成中のバナジウム(V)が若干欠損していたことを示す。
【0097】
サンプルのSEM二次電子像を
図11に示す。部分的に連結した数ミクロンサイズの丸みを帯びた粒子が観察された。また、丸みを帯びた粒子の表面に数百ナノメートルサイズの粒子が付着していた。別に行ったTEM分析は、数百ナノメートルサイズの粒子がV
2O
5である可能性の高いことを示した。
【0098】
サンプル粒子断面の反射電子像を
図12に示す。断面における大部分の領域は灰色を呈した一方で、明度の高い白色領域が粒子内部に確認された。灰色領域中の一部分(図中A)でEDS半定量分析を行ったところ、V/Sc原子比は0.93であった。この結果は、ICPで得られた結果とほぼ一致した。これに対して、明度の高い白色領域中の一部分(図中B)でのV/Sc原子比は0.05であった。このことは、バナジウム(V)が大きく欠損していること、つまり、白色領域ではスカンジウム(Sc)が過剰であることを示す。固相反応の際に、融点が690℃程度と低いV
2O
5が溶融し、融点の高いSc
2O
3粒子に粒内拡散してScVO
4結晶を形成したと考えられる。しかしながら、Sc
2O
3粒子の中心部までV
2O
5が拡散できなかった一部の箇所でSc過剰領域が形成され、それが残留したと推測される。
【0099】
[実施例4P]
実施例4Pでは、実施例4で作製した複合酸化物粒子にRhCr酸化物(Rh-Cr2O3)を助触媒として担持した。この際、複合酸化物粒子に対して0.1質量%のRh及び0.1質量%のCrとなるように担持量を調整した。また、助触媒の担持は、実施例4の複合酸化物粒子を用いた以外は実施例2Pと同様の手順で行った。
【0100】
光触媒性能試験の結果、サンプルから水素と酸素が発生することを確認した。UV光照射を開始してからの水素(H
2)、酸素(O
2)及び窒素(N
2)の検出量を
図19に示す。
【0101】
経過時間に対する発生量の傾きから発生速度を求めたところ、H2発生速度は1.44μmol/時間、O2発生速度は0.695μmol/時間であり、両者の比はおよそ2:1であった。このことから、水が水素と酸素に分解する光触媒反応が進んだことが確認された。
【0102】
[実施例5]
実施例5では、複合酸化物粒子を固相反応法で作製した。具体的には、Sc2O3粉末とV2O5粉末を、0.03モルのScVO4が得られるように秤量した。この際、仕込み組成がモル比(原子比)でV/Sc=1.10となるように原料を秤量した。それ以外は実施例1と同様の手順で複合酸化物粒子を光触媒サンプルとして作製した。
【0103】
得られたサンプル(複合酸化物粒子)のXRDスペクトルを
図3(a)及び(b)に示す。サンプルの回折ピークは、正方晶系ScVO
4の標準回折ピーク(JCPDSカード01-079-7028)と殆ど一致した(
図3(a)及び(b))。このことから、ScVO
4が生成していることが分かった。また、拡大スペクトルには微量のV
2O
5及びSc
2O
3が確認された(
図3(b))。
【0104】
サンプルの拡散反射スペクトルを
図6に示す。サンプルスペクトルにおける吸収端は550nm近傍にあった。また長波長側に不純物準位が形成されていた。この不純物準位はV
2O
5に由来する可能性があると考えられた。
【0105】
[実施例6]
実施例5で作製した複合酸化物粒子には拡散反射スペクトルで不純物準位が確認されたため、実施例6では、実施例5の複合酸化物粒子をアルカリ洗浄し、さらに水洗浄及び乾燥した。アルカリ洗浄、水洗浄、及び乾燥は実施例2と同様の手順で行った。
【0106】
得られたサンプルのXRDスペクトルを
図3(a)及び(b)に示す。実施例5で確認された微量V
2O
5に由来するピークは消失した。一方でSc
2O
3に由来するピークは残っていた。
【0107】
サンプルの拡散反射スペクトルを
図6に示す。スペクトルにおける吸収端は350nm近傍にあった。また長波長側に向かって棚引くように吸収が減衰していた。
【0108】
ICP発光分光法による組成分析の結果、サンプルのV/Sc原子比は0.9631であった。このことは、組成中のバナジウム(V)が若干欠損していたことを示す。
【0109】
サンプルのSEM二次電子像を
図13に示す。部分的に連結した数ミクロンサイズの丸みを帯びた粒子が観察された。また、丸みを帯びた粒子の表面に数百ナノメートルサイズの粒子が付着していた。別に行ったTEM分析は、数百ナノメートルサイズの粒子がV
2O
5である可能性の高いことを示した。
【0110】
サンプル粒子断面の反射電子像を
図14に示す。断面における大部分の領域は灰色を呈した一方で、明度の高い領域が粒子内部に確認された。白色領域中の一部分(
図14中A)でEDS半定量分析を行ったところ、V/Sc原子比は0.97であった。この結果は、ICPで得られた結果とほぼ一致した。これに対して、明度の高い白色領域中の一部分(
図14中B)でのV/Sc原子比は0.13であった。このことは、バナジウム(V)が大きく欠損していること、つまり、白色領域ではスカンジウム(Sc)が過剰であることを示す。固相反応の際に、融点が690℃程度と低いV
2O
5が溶融し、融点の高いSc
2O
3粒子に粒内拡散してScVO
4結晶を形成したと考えられる。しかしながら、Sc
2O
3粒子の中心部までV
2O
5が拡散できなかった一部の箇所でSc過剰領域が形成され、それが残留したと推測される。
【0111】
実施例6で作製した複合酸化物粒子に助触媒を担持することなく光触媒性能を評価した。助触媒を担持していない実施例6で作製した複合酸化物粒子0.1gのサンプルを100mlの蒸留水に投入した後、30秒間超音波分散を行って懸濁液を調整した以外は、実施例2Pと同様の手順で行った。
【0112】
光触媒性能試験の結果を
図20に示す。4時間以降にわずかな酸素およびN
2が確認された。大気リークによる影響も考えられるが、確認された酸素とN
2の割合は、大気よりも酸素が多いことが分かる。そのため、RhCr酸化物(Rh-Cr
2O
3)を担持せずとも酸素生成触媒としての可能性が示唆される。
【0113】
[実施例6P1]
実施例6P1では、実施例6で作製した複合酸化物粒子にRhCr酸化物(Rh-Cr2O3)を助触媒として担持した。この際、複合酸化物粒子に対して0.1質量%のRh及び0.1質量%のCrとなるように担持量を調整した。また、助触媒の担持は、実施例6の複合酸化物粒子を用いた以外は実施例2Pと同様の手順で行った。
【0114】
光触媒性能試験の結果、サンプルから水素と酸素が発生することを確認した。UV光照射を開始してからの水素(H
2)、酸素(O
2)及び窒素(N
2)の検出量を
図21に示す。
【0115】
経過時間に対する発生量の傾きから発生速度を求めたところ、H2発生速度は2.02μmol/時間、O2発生速度は0.948μmol/時間であり、両者の比はおよそ2:1であった。このことから、水が水素と酸素に分解する光触媒反応が進んだことが確認された。
【0116】
仕込み組成(V/Sc原子比)を変えた焼成直後のサンプル(実施例1,3及び5)の拡散反射スペクトルを、V
2O
5のスペクトルと併せて
図7にまとめて示す。仕込み組成により、スペクトル形状は大きく変化し、仕込み組成が大きくなるほど、吸収端が高波長側にシフトしていた。バナジウム(V)過剰の仕込み組成では、サンプル中残留V
2O
5量が多くなったためと考えられる。
【0117】
仕込み組成(V/Sc原子比)を変えたアルカリ洗浄後のサンプル(実施例2、4及び6)の拡散反射スペクトルを
図8にまとめて示す。仕込み組成によらずスペクトル形状はほぼ同じであり、吸収端もほぼ同一(350nm近傍)であった。アルカリ洗浄処理により、残留V
2O
5が除去されたためと推測される。
【0118】
仕込み組成(V/Sc原子比)を変えた助触媒担持後のサンプル(実施例2P、4P及び6P1)のガス(H
2、O
2)発生速度を
図22にまとめて示す。仕込み組成が大きくなるほどガス発生速度は大きくなった。アルカリ洗浄後のサンプルでは組成(V/Sc原子比)に大きな違いがみられないものの、バナジウム(V)過剰の仕込み組成では、焼成時にV
2O
5がフラックス剤として作用してScVO
4の結晶性を改善し、それが水分解活性向上につながった可能性があると考えられる。
【0119】
以上の結果から、本実施形態によれば、水を水素と酸素とに分解することが可能な新規な酸化バナジウム系光触媒が提供されることが理解される。
【0120】
[実施例6P2]
実施例6P2では、実施例6で作製した複合酸化物粒子にCrのRhCr酸化物(Rh-Cr2O3)を助触媒として担持した。この際、複合酸化物粒子に対して0.01質量%のRh及び0.01質量%のCrとなるように担持量を調整した。また、助触媒の担持は、実施例6の複合酸化物粒子を用いた以外は実施例2Pと同様の手順で行った。
【0121】
光触媒性能試験の結果を
図23に示す。実施例6P1と比較して水素および酸素の生成量が低下している。これは、助触媒量が複合酸化物粒子量に対して少量であっため、助触媒量が律速となって水素および酸素の生成量が減少したと考えられる。
【0122】
[実施例6P3]
実施例6P3では、実施例6で作製した複合酸化物粒子にRhCr酸化物(Rh-Cr2O3)を助触媒として担持した。この際、複合酸化物粒子に対して1質量%のRh及び1質量%のCrとなるように担持量を調整した。また、助触媒の担持は、実施例6の複合酸化物粒子を用いた以外は実施例2Pと同様の手順で行った。
【0123】
光触媒性能試験の結果を
図24に示す。実施例6P1と比較して水素および酸素の生成量はほぼ確認されなかった。これは、助触媒量が複合酸化物粒子量に対して過剰であると考えられる。