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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123416
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】希土類遷移金属合金粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/20 20060101AFI20240905BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20240905BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240905BHJP
【FI】
B22F9/20 A
B22F1/14 100
B22F1/00 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030815
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】石川 尚
(72)【発明者】
【氏名】兵頭 一茂
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA06
4K017BB12
4K017CA07
4K017DA04
4K017EH01
4K017EH18
4K017FB01
4K017FB03
4K017FB08
4K018AA27
4K018BA18
4K018BC19
4K018BC35
4K018BD01
(57)【要約】
【課題】酸素量が低く、保磁力(HcJ)の高い高品質な希土類遷移金属合金粉末の製造方法を提供すること。
【解決手段】希土類遷移金属合金粉末の製造方法であって、以下の工程;少なくとも、希土類金属、遷移金属及び酸素を含む合金原料、並びに還元剤を含む混合物に非酸化性雰囲気下で加熱処理を施して、希土類遷移金属合金と還元剤由来の副生物とを含む反応生成物を得る還元工程と、前記反応生成物を加熱しながら、窒素を含有する混合気流を前記反応生成物に流し、それにより前記反応生成物中の希土類遷移金属合金成分を窒化して窒化物を得る窒化工程と、前記窒化物に洗浄処理を施して希土類遷移金属合金粉末を得る湿式処理工程と、を含み、前記湿式処理工程で、前記窒化物を洗浄液に投入して合金粉末スラリーを得、得られた合金粉末スラリーにキレート形成剤を加え、前記合金粉末スラリーのpHを4.0以上7.0以下の範囲内に維持した状態で前記合金粉末スラリー中の合金粉末を酸洗浄する、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類遷移金属合金粉末の製造方法であって、以下の工程;
少なくとも、希土類金属、遷移金属及び酸素を含む合金原料、並びに還元剤を含む混合物に非酸化性雰囲気下で加熱処理を施して、希土類遷移金属合金と還元剤由来の副生物とを含む反応生成物を得る還元工程と、
前記反応生成物を加熱しながら、窒素を含有する混合気流を前記反応生成物に流し、それにより前記反応生成物中の希土類遷移金属合金成分を窒化して窒化物を得る窒化工程と、
前記窒化物に洗浄処理を施して希土類遷移金属合金粉末を得る湿式処理工程と、を含み、
前記湿式処理工程で、前記窒化物を洗浄液に投入して合金粉末スラリーを得、得られた合金粉末スラリーにキレート形成剤を加え、前記合金粉末スラリーのpHを4.0以上7.0以下の範囲内に維持した状態で前記合金粉末スラリー中の合金粉末を酸洗浄する、方法。
【請求項2】
前記キレート形成剤が、クエン酸、グルコン酸、クエン酸及び/又はグルコン酸のアルカリ金属塩、並びにクエン酸及び/又はグルコン酸のアルカリ土類金属塩からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記キレート形成剤が、
(a)クエン酸及びグルコン酸からなる群から選択される少なくとも一種の酸と、
(b)クエン酸及び/又はグルコン酸のアルカリ金属塩、並びにクエン酸及び/又はグルコン酸のアルカリ土類金属塩からなる群から選択される少なくとも一種の金属塩と、
の両方を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記キレート形成剤に含まれる前記酸(a)と前記金属塩(b)の質量比が、酸:金属塩=1:10~10:1の範囲内にある、請求項3に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類遷移金属合金粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類遷移金属合金粉末は、希土類金属と遷移金属とを主として含む合金粉末である。希土類遷移金属合金粉末、特に金属間化合物粉末は、永久磁石材料など様々な用途で多用されている。例えば、SmFe17系合金粉末は、磁化及び一軸磁気異方性が大きく、永久磁石用材料として有用である。希土類遷移金属合金粉末は、例えば、樹脂バインダーと混錬して作製した複合体の形態で使用される。
【0003】
希土類遷移金属合金粉末の製造方法として、溶解鋳造法や還元拡散法などの手法が従来から知られている。このうち、溶解鋳造法は、希土類金属と遷移金属を原料とし、これら原料を調合した後に不活性ガス雰囲気中で溶解し、得られた合金インゴットを熱処理して均一化した後に粉砕する手法である。
【0004】
一方で、還元拡散法は、例えば、希土類酸化物と遷移金属を原料とし、これら原料を、金属カルシウムなどの還元剤とともに混合した後に非酸化性ガス雰囲気中で加熱処理して希土類遷移金属合金を得る手法である。加熱処理の際に、希土類酸化物が還元されて希土類金属になり、この希土類金属が遷移金属中に拡散して合金(金属間化合物)を形成する。加熱処理により得られた塊状反応生成物には、目的とする合金とともに、還元剤由来の副生物が残留する。そのため反応生成物を水中に投入して、還元剤由来副生物を除去するとともに、反応生成物を崩壊させて粉化する。そして、粉化して得た合金粉末を酸洗浄及び水洗浄して余剰副生物や未反応物を除去し、さらに乾燥して、目的とする合金粉末を得る。
【0005】
還元拡散法は、安価な希土類酸化物等を原料に用いることができるとともに工程が簡易であり、溶解鋳造法に比べて低コストで合金粉末を製造可能という利点がある。さらに還元拡散法により得られた合金粉末を窒化することで、窒化物たる希土類遷移金属合金粉末を得ることが可能である。
【0006】
特許文献1は、還元拡散法による希土類遷移金属合金粉末の製造方法を開示している。具体的には、希土類酸化物粉末と、他の金属の粉末と、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびこれらの水素化物から選ばれる少なくとも1種との混合物を、不活性ガス雰囲気中または真空下で加熱した後、反応生成混合物を湿式処理して副生したCaOおよび残留Caを除去することからなる希土類金属を含む合金粉末の製造方法が開示されている(特許文献1の請求項1)。
【0007】
特許文献2には、希土類酸化物を含む原料粉末を還元拡散及び窒化を行い合金ブロックを得、該合金ブロックを水に浸漬して崩壊し、その後水洗及び酸処理を行う希土類鉄窒素系磁性粉末の製造方法において、該酸処理は、弱酸による処理と、その後に5B族元素と酸素からなる酸を含む酸による処理からなることを特徴とする希土類鉄窒素系磁性粉末の製造方法が開示されている(特許文献2の請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61-295308号公報
【特許文献2】特開2000-38608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
還元拡散法では、粉化して得た合金粉末をスラリー中で酸洗浄して余剰成分を除去する。酸洗浄では希酢酸や希塩酸が使用され、合金粉末を含むスラリーのpHを下げることで、残留した還元剤由来副生物(カルシウム化合物等)を十分に除去するとともに、目的とする合金(金属間化合物)以外の希土類リッチな副相(異相)を溶解除去する。例えば、永久磁石材料であるSmFe17合金粉末製造の場合には、還元拡散処理後の塊状反応生成物には、目的とする合金粉末の母合金(主相合金)たるSmFe17相以外に、SmFe相やSmFe相などのSmリッチな副相が含まれる。これらの副相は磁石特性を劣化させるため、酸洗浄処理での除去を図っている。
【0010】
ところで酸洗浄中に合金粉末に含まれる希土類金属や遷移金属は、その一部が希土類イオン(Smイオン)や遷移金属イオン(Feイオン)となってスラリー中に溶出し、その一部は酸洗浄後にも残存する。残存したこれらのイオンは後続する処理(水洗処理、乾燥処理等)で酸化及び水酸化して希土類金属や遷移金属の水酸化物となる。生成した希土類金属や遷移金属の水酸化物は、母合金(SmFe17等)粒子の表面に析出し、その酸素濃度を高めてしまう。酸素濃度が高められると、合金粉末の特性が劣化するため望ましくない。例えば、SmFe17合金粉末を窒化してSmFe17合金粉末を製造する場合には、酸素濃度の高いSmFe17合金粉末に窒化処理を施しても、窒素の拡散が不均一となり、高品質なSmFe17を得ることが困難になる。したがって溶出した希土類イオンや遷移金属イオンによる水酸化物生成を抑制することが望まれる。
【0011】
本発明者らは、このような問題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、溶出した希土類イオンや遷移金属イオンを酸洗浄後にキレート化することで水酸化物の生成を抑制でき、その結果、酸素量が低い希土類遷移金属合金粉末を得ることが可能になるとの知見を得た。また得られた希土類遷移金属合金粉末は、酸素量が低いが故に、保磁力(HcJ)が高く高品質であるとの知見を得た。そして、この知見に基づき、酸洗浄後の合金粉末スラリーにキレート化処理を施すことを特徴とする発明を完成させて、特許出願した(特願2023-016361号)。
【0012】
本発明者らは、さらに検討を進め、酸洗浄の際にキレート化処理することでも、高品質な希土類遷移金属合金粉末を得られるのではないかとの考えに至った。しかしながら、実際に検討を行ったところ、酸洗浄の際にキレート化処理を行う場合には、適切な条件下で処理する必要があるとの知見を得た。
【0013】
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、酸素量が低く、保磁力(HcJ)の高い高品質な希土類遷移金属合金粉末の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、下記(1)~(4)の態様を包含する。なお本明細書において「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0015】
(1)希土類遷移金属合金粉末の製造方法であって、以下の工程;
少なくとも、希土類金属、遷移金属及び酸素を含む合金原料、並びに還元剤を含む混合物に非酸化性雰囲気下で加熱処理を施して、希土類遷移金属合金と還元剤由来の副生物とを含む反応生成物を得る還元工程と、
前記反応生成物を加熱しながら、窒素を含有する混合気流を前記反応生成物に流し、それにより前記反応生成物中の希土類遷移金属合金成分を窒化して窒化物を得る窒化工程と、
前記窒化物に洗浄処理を施して希土類遷移金属合金粉末を得る湿式処理工程と、を含み、
前記湿式処理工程で、前記窒化物を洗浄液に投入して合金粉末スラリーを得、得られた合金粉末スラリーにキレート形成剤を加えて、前記合金粉末スラリーのpHを4.0以上7.0以下の範囲内に維持した状態で前記合金粉末スラリー中の合金粉末を酸洗浄する、方法。
【0016】
(2)前記キレート形成剤が、クエン酸、グルコン酸、クエン酸及び/又はグルコン酸のアルカリ金属塩、並びにクエン酸及び/又はグルコン酸のアルカリ土類金属塩からなる群から選択される少なくとも一種である、上記(1)の方法。
【0017】
(3)前記キレート形成剤が、
(a)クエン酸及びグルコン酸からなる群から選択される少なくとも一種の酸と、
(b)クエン酸及び/又はグルコン酸のアルカリ金属塩、並びにクエン酸及び/又はグルコン酸のアルカリ土類金属塩からなる群から選択される少なくとも一種の金属塩と、
の両方を含む、上記(1)又は(2)の方法。
【0018】
(4)前記キレート形成剤に含まれる前記酸(a)と前記金属塩(b)の質量比が、酸:金属塩=1:10~10:1の範囲内にある、上記(3)の方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、酸素量が低く、保磁力(HcJ)の高い高品質な希土類遷移金属合金粉末の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0021】
<<希土類遷移金属合金粉末の製造方法>>
本実施形態の希土類遷移金属合金粉末(以下、単に「合金粉末」と呼ぶ場合がある)の製造方法は、以下の工程;少なくとも、希土類金属、遷移金属及び酸素を含む合金原料、並びに還元剤を含む混合物に非酸化性雰囲気下で加熱処理を施して、希土類遷移金属合金と還元剤由来の副生物とを含む反応生成物を得る還元工程と、得られた反応生成物を加熱しながら、窒素を含有する混合気流を反応生成物に流し、それにより反応生成物中の希土類遷移金属合金成分を窒化して窒化物を得る窒化工程と、得られた窒化物に洗浄処理を施して希土類遷移金属合金粉末を得る湿式処理工程と、を含む。また、湿式処理工程で、窒化物を洗浄液に投入して合金粉末スラリーを得、得られた合金粉末スラリーにキレート形成剤を加え、合金粉末スラリーのpHを4.0以上7.0以下の範囲内に維持した状態で合金粉末スラリー中の合金粉末を酸洗浄する。各工程について以下に詳細に説明する。
【0022】
<希土類遷移金属合金粉末>
本実施形態の希土類遷移金属合金粉末は、希土類金属(R)と遷移金属(TM)とを含む合金で構成される粉末である。ここで希土類金属(R)は、周期律表において原子番号21のスカンジウム(Sc)、原子番号39のイットリウム(Y)、及び原子番号57のランタン(La)~原子番号71のルテチウム(Lu)からなる群を構成する金属(元素)の総称である。また遷移金属(TM)は、周期律表第3族元素から第11族元素の間にある金属(元素)の総称である。さらに合金は、固溶体のみならず共晶体や金属間化合物を含む概念である。金属間化合物として、CaCu型、ThZn17型、ThNi17型、TbCu型、ThMn12型、NaZn13型、NdFe14B型、MgCu型などの結晶構造を有する化合物が例示される。
【0023】
希土類金属(R)は、特に限定されるものではないが、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、及びイッテルビウム(Yb)からなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましく、サマリウム(Sm)を含むことが特に好ましい。また希土類遷移金属合金粉末は、希土類金属及び遷移金属のみを含んでもよく、あるいは結晶構造安定化や特性向上を目的とする他の成分を含んでもよい。例えば、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、銅(Cu)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、リン(P)、イオウ(S)、ほう素(B)、炭素(C)、窒素(N)、及び/又は水素(H)を含んでもよい。さらに還元剤として使用されるアルカリ金属、アルカリ土類金属、またはそれらの水素化物に起因する成分、例えばカルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg)が合金粉末中に残留することがある。所望の特性が得られる限り、これらの残留は許容される。
【0024】
希土類遷移金属合金粉末は、希土類金属と遷移金属を主として含む合金である限り、その組成は限定されない。例えば、SmFe17などの永久磁石用材料が挙げられる。ここで、SmFe17系合金粉末は、SmFe17のみならず、この化合物(SmFe17)の一部の金属をマンガン(Mn)やコバルト(Co)などの他の金属で置換した粉末を包含する。これらの合金粉末は、高特性の永久磁石材料として有用である。なお希土類遷移金属合金粉末中の希土類金属の含有量は、限定される訳ではないが、典型的には10質量%以上60質量%以下である。また希土類遷移金属合金粉末の平均粒径は、限定される訳ではないが、典型的には1.0μm以上100μm以下である。
【0025】
<還元工程>
還元工程では、少なくとも、希土類金属、遷移金属及び酸素を含む合金原料、並びに還元剤を含む混合物に非酸化性雰囲気下で加熱処理を施す。合金原料は、少なくとも希土類金属、遷移金属及び酸素を構成元素として含んでいればよい。合金原料として、希土類酸化物粉末と遷移金属粉末の混合物、希土類金属と遷移金属を含む酸化物及び/又は部分還元酸化物(部分酸化物)、希土類金属と遷移金属と酸素を含む合金(例えば、酸素含有SmFe合金)、並びに希土類金属と遷移金属を含む合金及び希土類酸化物の混合物(例えば、SmFe合金とSm酸化物の混合物)が例示される。加熱処理の際、還元剤の作用により、合金原料中の酸素が除去され、それに伴い、希土類金属が遷移金属に拡散して合金化する。その結果、希土類遷移金属合金と還元剤由来の副生物とを含む反応生成物が得られる。
【0026】
好ましくは、合金原料は、希土類酸化物粉末と遷移金属粉末の混合物である。すなわち、還元工程が、少なくとも希土類酸化物粉末、遷移金属粉末、及び還元剤を混合して混合物を得る工程(原料混合工程)、及び非酸化性雰囲気下で混合物に加熱処理を施して、希土類酸化物粉末を還元するとともに遷移金属粉末に拡散させて合金化し、それにより希土類遷移金属合金成分と還元剤由来の副生物とを含む反応生成物を得る工程(還元拡散工程)である。合金原料が希土類酸化物粉末と遷移金属粉末の混合物である場合についての製造手順を、以下に詳細に説明する。
【0027】
(希土類酸化物粉末)
希土類酸化物粉末は、目的とする合金粉末を構成する希土類元素の原料である。限定されるものではないが、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、及びイッテルビウム(Yb)からなる群から選ばれる少なくとも一種の希土類金属の酸化物粉末が好ましく、サマリウム(Sm)の酸化物が特に好ましい。希土類酸化物粉末として、1種類の粉末を単独で用いてもよく、あるいは2種類以上の粉末を混合して用いてもよい。
【0028】
希土類酸化物粉末は、目的とする合金粉末の組成に応じて選択すればよい。例えば、サマリウム鉄窒素(SmFe17)系合金粉末を製造する場合には、酸化サマリウム(Sm)を選択すればよい。
【0029】
希土類酸化物粉末の粒径は、得られる合金粉末の組成及び用途に応じて決めればよい。しかしながら、得られる混合物において遷移金属粒子の近傍に均一分布するように希土類酸化物粉末の粒径を決めることが望ましい。希土類酸化物粉末の平均粒径は50μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。特に粒径0.1~10μmの粒子が全体の80質量%以上占める粉末が好ましい。これにより、原料混合性が向上するとともに、原料粉末や反応生成物の取り扱い性が向上する。また後続する還元拡散工程での希土類金属の拡散を十分に進行させることが可能になる。希土類酸化物粉末は水分や有機物を不純物として含む場合がある。これらの不純物は、最終的に得られる合金粉末の酸素量を増大させることがある。したがって希土類酸化物粉末に含まれる不純物量は少ない方が好ましい。例えば、1000℃に加熱した後の加熱減量は2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0030】
希土類酸化物粉末の配合量は、目的組成の合金粉末を形成する上で必要とされる量(当量)の1.0~1.5倍が好ましく、1.05~1.2倍がより好ましい。例えば、サマリウム鉄窒素(SmFe17)系合金粉末を製造する場合、酸化サマリウム(Sm)の配合量は、化学量論組成(SmFe17)で必要とされる量の1.0~1.5倍が好ましい。希土類酸化物の配合量を、当量の1.0倍以上とすることで、遷移金属粉末への希土類金属(希土類元素)の拡散が十分となり、最終的に得られる合金粉末に求められる特性を十分に付与することが可能になる。一方で当量の1.5倍以下とすることで、希土類リッチな副相(異相)形成を抑制することができる。
【0031】
(遷移金属粉末)
遷移金属粉末は、目的とする合金粉末を構成する遷移金属の原料である。限定されるものではないが、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、及びタングステン(W)からなる群から選択される1種以上が好ましく、鉄(Fe)が特に好ましい。遷移金属粉末として、1種類の粉末を単独で用いてもよく、あるいは2種類以上の粉末を混合して用いてもよい。
【0032】
遷移金属粉末は、目的とする合金粉末の組成に応じて選択すればよい。例えば、サマリウム鉄窒素(SmFe17)系合金粉末を製造する場合には、鉄(Fe)粉を選択すればよい。鉄粉として、還元鉄粉、ガスアトマイズ粉、水アトマイズ粉及び/又は電解鉄粉などを使用できる。
【0033】
遷移金属粉末の粒径は、得られる合金粉末の組成及び用途に応じて決めればよい。しかしながら、遷移金属粉末の粒径が過度に大きいと、後続する還元拡散工程で希土類金属の拡散が内部にまで十分に進行せず、未合金化相が残存することがある。遷移金属粉末の平均粒径は100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、60μm以下がさらに好ましく、50μm以下が特に好ましい。また粒径1~100μmの粒子が全体の70質量%以上を占める粉末が好ましい。これにより原料粉末や反応生成物の取り扱い性が向上する。また後続する還元拡散工程での希土類金属の拡散を十分に進行させることが可能になる。さらに遷移金属粉末に含まれる不純物量は少ない方が好ましい。例えば、1000℃に加熱した後の加熱減量は2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0034】
遷移金属粉末の20質量%までを、遷移金属の酸化物粉末で置き換えてもよい。これにより、後続する還元拡散反応の発熱量を調整することもできる。また遷移金属粉末は合金粉末であってもよい。
【0035】
さらに遷移金属粉末の他に、結晶構造の安定化や特性向上を目的とする添加成分を加えてもよい。添加成分は、それ単独、または酸化物など化合物の形態で加えてもよい。あるいは、予め、鉄(Fe)、コバルト(Co)及びニッケル(Ni)などの遷移金属と合金化した粉末として加えてもよい。単独の金属粉末または酸化物粉末を用いる場合には、粒径20μm以下の粒子が全体の80質量%以上を占める粉末を用いることが好ましく、粒径10μm以下の粒子が全体の80質量%以上を占める粉末を用いることがより好ましい。酸化物粉末を用いる場合には、後続する還元拡散加熱処理時での昇温過程で分解しない粉末を選択するのが好ましい。昇温中に分解すると還元剤を失活させて還元拡散反応が起こりにくくなるからである。予め遷移金属と合金化した粉末を用いる場合には、粒径0.1~10μmの粒子が全体の80%以上を占める粉末を用いることが好ましい。また希土類金属と遷移金属、必要に応じて混合する添加成分の混合酸化物粉末を用いてもよい。この混合酸化物粉末は、塩を出発原料とした共沈生成物を大気焼成した後に機械粉砕し、得られた粉末を水素あるいは炭素還元して作製することができる。
【0036】
(還元剤)
還元剤は、後続する還元拡散工程で、希土類酸化物粉末などの酸化物成分を還元して合金形成を促すために加えられる。還元剤として、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びこれらの水素化物から選ばれる少なくとも1種を使用する。具体的には、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、及びこれらの水素化物からなる群から選択される1種以上が好ましい。取り扱い時の安全性及びコストの観点から、リチウム(Li)及び/又はカルシウム(Ca)がより好ましく、カルシウム(Ca)が特に好ましい。この中でも、目開き4.00mm以下に篩分級した粒状金属カルシウム(Ca)が最も好ましい。
【0037】
還元剤は他の原料粉末と混合して使用してもよい。あるいは、還元剤(Ca等)の蒸気が他の原料粉末と接触しうるよう分離しておいてもよい。還元剤を他の原料粉末と混合して用いれば、還元拡散反応後に多孔質状の反応生成物を得ることができる。還元剤の添加量は、混合物中の酸化物を還元するのに必要な量(当量)に対して1.05~2.0倍量が好ましく、1.1~1.5倍量がより好ましい。還元剤量がこの範囲内であれば、得られる反応生成物中の未反応物や副生成物量を最小限に留めつつ、還元反応を十分に進行させることが可能になる。
【0038】
(その他の成分)
必要に応じて、希土類酸化物粉末、遷移金属粉末、及び還元剤以外の他の成分を加えてもよい。例えば希土類金属粉末及び/又は遷移金属酸化物粉末を加えてもよい。また希土類金属と遷移金属の合金粉末やその酸化物粉末を加えてもよい。さらに希土類金属と遷移金属以外の成分を含む合金粉末を製造する場合には、他の成分の原料を加えてもよい。
【0039】
さらに合金粉末製造を容易にするための補助添加剤を加えてもよい。補助添加剤として、後の湿式処理工程で、反応生成物の崩壊を促進させる崩壊促進剤が例示される。崩壊促進剤として、塩化カルシウム(CaCl)や酸化カルシウム(CaO)などのアルカリ土類金属塩やアルカリ土類金属酸化物を用いることができる。崩壊促進剤はその他の原料粉末と同時に均一に混合することが望ましい。これにより、反応生成物の合金結晶の粒界に崩壊促進剤由来の成分(カルシウム化合物等)を均一に存在させることができる。そのため、後続する湿式処理工程でスラリー化する際に崩壊促進剤由来成分が水溶液中に溶出して、崩壊が効果的に促進される。崩壊促進剤の添加量は、混合物中の酸化物の合計量に対して3~30質量%が好ましく、7~20質量%がより好ましい。崩壊促進剤量をこの範囲内とすることで、反応生成物中の未反応物や副生成物量を最小限に留めつつ、反応生成物の崩壊を十分に進行させることが可能になる。
【0040】
(混合)
原料の混合は、希土類酸化物粉末、遷移金属粉末、還元剤、及び必要に加えられる他の成分を均一に混合する。混合には、リボンブレンダー、タンブラー、S字ブレンダー、V字ブレンダー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、ハイスピードミキサー、ボールミル、振動ミル、アトライター、ジェットミルなどの公知の混合機を使用すればよい。
【0041】
混合は、還元剤が大気中の酸素や水蒸気と接触しないように、真空中または不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。ここでの不活性ガスとしては、窒素(N)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)などが挙げられる。混合により得られた混合物を熱処理炉に装入して、不活性ガスを供給し炉内から空気を置換する。不活性ガスとしては、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)などが挙げられるが、通常はアルゴンが用いられる。また真空引きと不活性ガス置換を繰り返すと残留酸素が低減するため好ましい。
【0042】
次いで、混合物に還元拡散処理を施す。還元拡散工程では、非酸化性雰囲気下で混合物に加熱処理を施して、反応生成物を得る。ここで、非酸化性雰囲気とは、酸素を実質的に含まない雰囲気である。雰囲気ガスとして、不活性ガス、例えば、アルゴン(Ar)ガス及び/又はヘリウム(He)ガスが好ましい。また雰囲気中の酸素量は5%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。
【0043】
非酸化性雰囲気下で混合物を加熱すると、還元剤の作用により希土類酸化物粉末が還元されて希土類金属が生成する。生成した希土類金属は遷移金属粉末中に拡散して合金化し、希土類遷移金属合金を形成する。また混合物中に希土類酸化物粉末以外の他の成分の酸化物が含まれる場合には、他の成分の酸化物も還元及び拡散し、合金に組み込まれる。一方で還元剤は酸化されて酸化物に変化する。
【0044】
例えば、希土類酸化物粉末として酸化サマリウム(Sm)を、遷移金属粉末として鉄(Fe)粉末を、還元剤として金属カルシウム(Ca)を用いて、サマリウム鉄窒素(SmFe17)系合金粉末を製造する場合には、還元剤(Ca)の作用により酸化サマリウム(Sm)は還元されてサマリウム(Sm)となる。そして、還元されたサマリウム(Sm)は鉄(Fe)粉末に拡散して、ThZn17型結晶構造を有するサマリウム鉄合金(SmFe17)が生成する。一方で、還元剤である金属カルシウム(Ca)は酸化されて、酸化カルシウム(CaO)になる。金属カルシウムを当量以上に配合した場合には、余剰カルシウム(Ca)が残留する。この酸化カルシウム(CaO)及び余剰カルシウム(Ca)が副生物を構成する。さらに、場合によっては、サマリウム鉄化合物(SmFe等)などの副相が生成することもある。したがって、熱処理後の反応生成物は、希土類遷移金属合金成分(SmFe17等)と還元剤由来の副生物(CaO、Ca等)を含み、場合によってはさらに副相(SmFe等)を含む。通常、この熱処理後の生成物は多孔質インゴットである。
【0045】
熱処理は、還元剤が溶融する温度以上且つ得られる希土類遷移金属合金成分が溶融しない温度で行う。具体的には、熱処理温度は850~1200℃が好ましい。850℃以上であれば、希土類金属の遷移金属粉末への拡散が均一なものとなり、最終的に得られる合金粉末の特性を高めることができる。また1200℃以下であれば、反応生成物中の合金成分が強固に焼結することを抑制し、その結果、後続する湿式処理工程での崩壊及び粉化が容易になる。また熱処理は、原料の粒度を考慮して、還元及び拡散反応が十分に進むまで行うことが好ましい。加熱時間は、典型的には1~10時間であり、2~8時間が好ましい。
【0046】
<水素処理工程>
本実施形態の製造方法には、必要に応じて、水素処理工程を設けてもよい。水素処理工程は、還元工程で得られた反応生成物を水素雰囲気に暴露し、それにより水素を吸収させて解砕して解砕物(解砕した反応生成物)を得る工程である。
【0047】
希土類遷移金属合金(金属間化合物)は、その多くが水素を吸収して体積膨張する。例えばSmFeは水素吸収により体積が19%膨張する。同様にSmFe17は3.4%体積膨張する。金属間化合物が水素を吸収する温度は化合物の種類やその表面性などによって様々である。しかしながら水素吸収反応はいずれも発熱反応である。そのため希土類遷移金属合金が複数の金属間化合物を含む場合には、連鎖反応が起こることがある。すなわち低温で水素吸収する化合物から吸収が始まり、これにより発熱し、発熱することで合金の温度が上昇し、次の化合物が水素吸収する。
【0048】
水素処理は、水素含有ガスを用いて水素雰囲気中で行う。水素含有ガスとして、水素(H)ガスを単独で用いてもよく、あるいはアルゴン(Ar)又はヘリウム(He)などの不活性ガスと水素(H)ガスとの混合ガスを用いてもよい。しかしながら水素ガスを単独で用いることが好ましい。このとき、酸素(O)の残留を防ぐため、水素ガスを導入する前にアルゴンなどの不活性ガスで炉内雰囲気を置換することが好ましい。またこの場合には不活性ガス置換後に炉内を一旦排気し、その後に水素ガスを導入することが好ましい。水素処理が終了したら、アルゴンなどの不活性ガスに切り替えて反応生成物(解砕物)を回収する。
【0049】
<窒化処理工程>
窒化処理工程では、得られた反応生成物(または解砕した反応生成物)を加熱しながら、窒素を含有する混合気流を反応生成物に流し、それにより反応生成物中の希土類遷移金属合金成分を窒化して窒化物(窒化した反応生成物)を得る。この工程を設けることで、サマリウム鉄窒素(SmFe17)などの窒化物系合金粉末を得ることができる。水素処理工程を設けない場合には、還元工程で得られた反応生成物に窒化処理を施せばよい。水素処理工程を設けた場合には、水素処理工程で解砕した反応生成物(窒化物)に窒化処理を施せばよい。
【0050】
窒化処理では、反応生成物を、好ましくは350~500℃、より好ましくは400~480℃に加熱しながら、窒素を含有する混合気流を流す。これにより希土類遷移金属合金成分が窒化する。加熱温度を350℃以上にすると、窒化反応が短時間に行われ、効率が向上する。一方で、加熱温度が過度に高いと、主相が分解することがある。例えば、サマリウム鉄(SmFe17)からなる希土類遷移金属合金成分を窒化してサマリウム鉄窒素(SmFe17)系合金粉末を製造する場合、窒化処理温度が高すぎると、主相であるサマリウム鉄(SmFe17)が分解してαFeが生成することがある。αFeは磁石粉末の減磁曲線の角形性を低下させるため、その生成は好ましくない。窒化処理温度を500℃以下とすることで、このような主相の分解を抑制することができる。
【0051】
窒化処理時に流通させる窒化ガスは、少なくとも窒素原子を含有していればよく、窒素ガスやアンモニアガスが好適である。また、反応をコントロールするために、さらに水素、アルゴンなどを含有してもよい。アンモニアと水素の混合気流を用いる場合、その混合比(ガス流量比)は、アンモニア:水素=10~95:5~90が好ましく、30~90:10~70がより好ましい。この範囲内で、アンモニアの流通量が十分なものとなり、窒化効率がより向上する。
【0052】
<湿式処理工程>
湿式処理工程では、得られた窒化物(窒化した反応生成物)に洗浄処理を施して希土類遷移金属合金粉末を得る。この際、窒化物を洗浄液に投入して合金粉末スラリーを得る。そして、得られた合金粉末スラリーにキレート形成剤を加え、合金粉末スラリーのpHを4.0以上7.0以下の範囲内に維持した状態で合金粉末スラリー中の合金粉末を酸洗浄する。
【0053】
湿式処理では、まずは窒化物を洗浄液に投入して合金粉末スラリーを得る。具体的には、窒化物を洗浄液中に投入及び撹拌する。洗浄液中に投入された窒化物は、崩壊してスラリー状になる。このとき、還元剤由来の副生物は水と反応して、水酸化物からなる固体状副生物由来成分に変化する。そのため固体状副生物由来成分はアルカリ金属及び/アルカリ土類金属の水酸化物を含む。例えば、還元剤として金属カルシウム(Ca)を用いた場合には、還元工程後の生成物は、希土類遷移金属合金成分と副生物(CaO、Ca)とを含む。水洗浄の際に、この副生物(CaO、Ca)は水と反応して水酸化カルシウム(Ca(OH))に変化する。水酸化カルシウムは水への溶解度が低いため、大部分が懸濁物となり、水に浮遊する。水洗浄により得られたスラリーは、希土類遷移金属合金成分と固体状副生物由来成分(Ca(OH))の懸濁液である。スラリー中の固体状副生物由来成分を希土類遷移金属合金成分から分離することで、高純度な高特性合金粉末を得ることができる。
【0054】
洗浄液として、水、グリコール、または水とグリコールの混合溶液を用いることができる。水としてイオン交換水が好ましい。グリコールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、及びトリプロピレングリコールからなる群から選択される一種以上が好ましい。
【0055】
固体状副生物由来成分の分離は、デカンテーションにより行うことができる。デカンテーションは、1回又は複数回行ってもよい。例えば、窒化物を洗浄液中に投入、撹拌、及び静置した後に上澄み液を除去し、得られた残留物に更に洗浄液を加え、撹拌及び静置した後に上澄み液を除去する操作を繰り返してよい。希土類遷移金属合金成分は、比重が比較的大きいのに対して、固体状副生成物由来成分は比重が小さい。したがってデカンテーションにより、比重の小さい固体状副生性物由来成分を上澄み液とともに分離除去することができる。あるいはデカンテーションを行う代わりに又はデカンテーションとともに、液体サイクロンや遠心分離機などの比重分離機を用いて固体状副生成物由来成分の分離除去を行ってもよい。これにより、固体状副生物由来成分が分離除去された合金粉末スラリーが得られる。
【0056】
次に、固体状副生物由来成分を分離除去した合金粉末スラリーにキレート形成剤を加えて、スラリー中の合金粉末を酸洗浄する。酸洗浄により、固体状副生物由来成分や副相をより効果的に除去することができる。例えば、生成物中の副相(SmFe等)とともに、洗浄液での処理で取り除き切れなかった固体状副生物由来成分(Ca(OH)等)を溶解除去することができる。酸洗処理は、例えば、合金粉末スラリーを撹拌しながら、これにキレート形成剤を加えて行う。
【0057】
また酸洗浄の際にキレート形成剤を用いることで、酸素量が少なく、保磁力の高い合金粉末を得ることが可能になる。すなわち、酸洗浄の際に、合金粉末から希土類イオンや遷移金属イオンが洗浄液中に溶出する。これらのイオンは、これ単体あるいは複合体を形成した状態で水酸化物となり、合金粉末の表面に付着し、合金粉末の酸素量を増加させてしまう。酸洗浄後に水洗処理を設けることで希土類イオンや遷移金属イオンの除去をある程度は可能であるものの、水洗処理のみで水酸化物の形成及びその付着を完全に防ぐことは困難である。これに対して、キレート形成剤を用いると、希土類イオンや遷移金属イオンがキレート化されて安定な錯体を形成する。そのため水酸化物の生成及び付着を防ぐことが可能となる。そして、その結果、酸素量が少なく保磁力の高い合金粉末を得ることが可能になる。
【0058】
キレート形成剤は、希土類イオン及び/又は遷移金属イオンをキレート化できるものであれば、限定されない。例えば、クエン酸、グルコン酸、クエン酸及び/又はグルコン酸のアルカリ金属塩、クエン酸及び/又はグルコン酸のアルカリ土類金属塩、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸、フェナントロリン、並びにビピリジンが挙げられる。好ましくは、キレート形成剤は、クエン酸、グルコン酸、クエン酸及び/又はグルコン酸のアルカリ金属塩、並びにクエン酸及び/又はグルコン酸のアルカリ土類金属塩からなる群から選択される少なくとも一種である。
【0059】
酸洗浄の際に、合金粉末スラリーのpHを4.0以上7.0以下の範囲内に維持する。これにより、不要な固体状副生物由来成分や副相を除去できるとともに、保磁力の高い合金粉末を得ることが可能になる。スラリーpHが7.0超であると、酸洗浄が不十分となり、固体状副生物由来成分や副相の溶解除去が不完全となる。また、キレート形成剤由来のクエン酸カルシウムなどの難溶性化合物がスラリー中に生じるという問題がある。難溶性化合物が生じると、これが、最終的に得られる希土類遷移金属合金粉末に残留し、磁気特性低下をもたらす恐れがある。合金粉末スラリーのpHは、好ましくは6.5以下、より好ましくは6.0以下に維持される。一方で、pHが4.0未満であると、酸洗浄が過剰となるため、合金成分がダメージを受ける恐れがある。合金成分がダメージを受けると、最終的に得られる合金粉末の磁気特性(保磁力等)が低下する。合金粉末スラリーのpHは、好ましくは4.5以上、より好ましくは5.0以上に維持される。
【0060】
上述したように、キレート形成剤は、希土類イオン及び/又は遷移金属イオンをキレート化できるものであれば、限定されない。しかしながら、特に好ましいキレート形成剤は、(a)クエン酸及びグルコン酸からなる群から選択される少なくとも一種の酸と、(b)クエン酸及び/又はグルコン酸のアルカリ金属塩、並びにクエン酸及び/又はグルコン酸のアルカリ土類金属塩からなる群から選択される少なくとも一種の金属塩と、の両方を含む。上述した酸(a)と金属塩(b)の両方をキレート形成剤として用いることで、合金粉末スラリーのpHを4.0以上7.0以下の範囲内に容易に維持することができ、過剰な酸洗浄を抑制し安定した品質の合金粉末を得ることができる。
【0061】
キレート形成剤が、上述した酸(a)と金属塩(b)の両方を含む場合、キレート形成剤に含まれる酸(a)と金属塩(b)の質量比は、酸:金属塩=1:10~10:1の範囲内にあることが好ましい。このように酸(a)と金属塩(b)の割合比を限定することで、合金粉末スラリーのpH制御が特に容易になる。
【0062】
合金粉末スラリーのpHは、上述のキレート形成剤の組み合わせに加えて、キレート形成剤の種類、添加量、及び/又は添加速度を調整することでも制御できる。例えば、キレート形成剤の添加速度が小さいと、pHの変化は小さい。これに対して、添加速度が大きいと、pHが一時的に大きく変化する。またpHを調整するために、スラリーにキレート形成剤のみを加えてもよく、あるいは酸やアルカリなどの他の成分を加えてもよい。酸として、塩酸、酢酸、硝酸及び/又は硫酸等の無機酸や有機酸が挙げられる。アルカリとして、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び/又はアンモニア等のアルカリ水溶液が挙げられる。
【0063】
合金粉末とキレート形成剤を含むスラリーを所定pHの下で処理できる限り、酸洗浄の手法は限定されない。例えば、合金粉末スラリーを撹拌しながら、このスラリーにキレート形成剤を添加する手法が挙げられる。キレート形成剤の添加量は、スラリー中の希土類イオンと遷移金属イオン全てをキレート化するのに十分な量とすることが望ましい。具体的には、スラリー中のキレート形成剤の含有量を、スラリーに含まれる希土類イオンと遷移金属イオンの全てをキレート化するのに必要な量(当量)の1.0倍~5.0倍とすることが好ましい。
【0064】
酸洗浄は、一回のみ行ってもよく、あるいは複数回行ってもよい。また酸洗浄の前や後に合金粉末を水洗浄する工程を設けてもよい。特に酸洗浄した合金粉末スラリーに更に水洗浄処理を施すことが好ましい。これによりキレート化した希土類イオンや遷移金属イオンを十分に除去することが可能となる。水洗浄は、合金粉末スラリーの上澄みを捨てた後に水を加えて撹拌する操作を1回又は複数回行えばよい。
【0065】
洗浄処理を経た合金粉末を回収及び乾燥して、希土類遷移金属合金粉末を得ることができる。合金粉末の回収は、合金粉末を含むスラリー又はケーキにろ過又は遠心分離などの固液分離処理を施して行うことができる。またこの際、スラリーやケーキに含まれる水分を、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコールで溶媒置換すると、後続する乾燥工程での処理時間が短くなる。乾燥は、好ましくは30~250℃、より好ましくは40~100℃で行う。ただし、洗浄処理によって、合金粉末が水素を吸収する場合がある。この場合には、残留水素を低減する観点から200℃以下の温度で真空乾燥することが好ましい。
【0066】
<熱処理工程>
必要に応じて、湿式処理で得られた処理物(合金粉末)に不活性ガス雰囲気中での熱処理をさらに施してもよい。不活性ガスは、例えば、水素ガス、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどである。このような熱処理を施すことで、得られる合金粉末を構成する個々の結晶セル内の窒素分布が均一になり、合金粉末の特性をより一層高めることが可能になる。熱処理温度は350~500℃が好ましく、400~480℃がより好ましい。保持時間は20~200分が好ましく、30~150分がより好ましい。
【0067】
<微粉砕工程>
必要に応じて、湿式処理または熱処理工程で得られた処理物(合金粉末)を微粉砕してもよい。微粉砕工程では、媒体ととともに粉砕物を粉砕機に入れ、平均粒径が1~3μmになるまで粉砕する。媒体として、イソプロピルアルコール、エタノール、トルエン、メタノール、ヘキサン等を使用することができる。また粉砕溶媒に表面処理剤を加えることで、合金粉末の表面処理を粉砕と同時に行うことが可能になる。表面処理剤として、オルトリン酸、リン酸水素二ナトリウム、ピロリン酸、メタリン酸、リン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウムなどのリン酸化合物が挙げられる。
【0068】
このようにして、本実施形態の希土類遷移金属合金粉末を製造することができる。本実施形態の製造方法によれば、酸素量が少なく、保磁力(HcJ)の高い高品質な希土類遷移金属合金粉末を得ることができる。希土類遷移金属合金粉末中の酸素量は、好ましくは0.30質量%以下、より好ましくは0.25質量%以下、さらに好ましくは0.20質量%以下である。この希土類遷移金属合金粉末は、保磁力が高い故に、永久磁石材料として特に好適である。
【0069】
このような特有の効果を有する本実施形態の製造方法は、従来から知られていない。 例えば、特許文献2では、希土類鉄窒素系磁性粉末の製造に関して、還元拡散及び窒化後に行われる酸処理は、弱酸による処理と、5B族元素と酸素からなる酸による処理とからなること、弱酸は、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、クエン酸の内の少なくとも一種であることなどが記載されている(特許文献2の請求項1及び2)。しかしながら、特許文献2は、本願のように酸洗浄時のキレート化処理を目的としたものでない。実際、特許文献2の実施例では酢酸を用いた弱酸処理しか行われておらず、キレート化作用のあるクエン酸は用いられていない。また、特許文献2は、酸洗浄時のスラリーpH調整の必要性及びその効果に関して何ら認識するものでない。
【実施例0070】
本発明を、以下の実施例を用いて更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
(1)合金粉末の作製と評価
下記に説明する実施例1~4、比較例1及び2でSmFe17合金粉末を作製し、得られた合金粉末について、各種特性の評価を以下のとおり行った。
【0072】
<XRD>
合金粉末の結晶構造を粉末X線回折(XRD)法で評価した。X線回折測定は、Cuターゲットを用いて加速電圧45kV、電流40mAの条件下、2θを2分/deg.の速度でスキャンして行った。その後、得られたX線回折(XRD)パターンを解析して結晶構造を同定した。
【0073】
<平均粒径>
合金粉末の粒度をレーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社日本レーザー、HELOS&RODOS)で測定し、体積粒度分布における累積50%径(x50)を平均粒径として求めた。
【0074】
<組成分析>
合金粉末のサマリウム(Sm)及びカルシウム(Ca)量をICP発光分光分析法で測定した。また窒素(N)量を不活性ガス融解熱伝導法で、酸素(O)量を不活性ガス融解赤外吸収法で測定した。
【0075】
<XPS>
合金粉末表面に存在する酸化物層の厚みをX線光電子分光法(XPS)で評価した。具体的には、X線光電子分光装置を用いてFe 2p3/2スペクトルについて深さ方向分析を行った。深さ方向に対してアルゴン(Ar)イオンエッチングを行いながら測定を繰り返し、メインピークがFe酸化物ピーク(710ev付近)からメタルピーク(706eV付近)に変化するまでにかかったエッチング時間を求めた。得られたエッチング時間を用いて、SiO換算での酸化物層厚みを算出した。またXPS分析で粉末表面のカルシウム(Ca)量を測定した。
【0076】
<磁気特性>
合金粉末にステアリン酸を添加し、脱水エタノールを溶媒として用い、平均粒径が2.5μmになるまで振動ボールミルで粉砕した。次いで、粉砕粉の磁気特性を、日本ボンド磁性材料協会のボンド磁石試験方法ガイドブックBMG-2005に準拠して振動試料型磁力計(VSM)を用いて測定した。そして測定結果に基づき、残留磁化σr、保磁力Hc、及び角形性Hkを求めた。なお角形性Hkは、第二象限における磁化曲線(減磁曲線)上の、残留磁化σrの90%に相当する減磁界の強度である。
【0077】
[実施例1]
実施例1ではSmFe17合金粉末の作製及び評価を行った。合金粉末の作製は以下の手順で行った。
【0078】
<混合工程>
平均粒径(D50)が3.2μmの酸化サマリウム(Sm)粉末625g、平均粒径(D50)が37μmの鉄(Fe)粉1550g、及び粒度2.0mm以下の粒状金属カルシウム(Ca)250gをミキサー混合して混合物を得た。
【0079】
<還元拡散工程>
得られた混合物を鉄るつぼに入れて、アルゴン(Ar)ガス雰囲気下1060℃×8時間の条件で加熱処理し、室温まで冷却した。これにより反応生成物を得た。
【0080】
<水素処理>
冷却後に取り出した反応生成物を密封容器内に装入し、密閉容器内で水素ガス中に放置して水素を吸収させた。これにより反応生成物は解砕され、粒度10mm以下の解砕物を得た。
【0081】
<窒化処理>
解砕した反応生成物(解砕物)を管状炉内に装入し、アンモニアと水素の混合ガス(アンモニア分圧0.75気圧)中で430℃×9時間の熱処理を施した。その後、ガスを窒素ガスに切り替えてさらに1時間熱処理して冷却した。これにより窒化物を得た。
【0082】
<湿式処理>
窒化後の反応生成物(窒化物)1250gを4Lの水中に投入してスラリー化した。このスラリーに対して水4Lを用いたデカンテーションを7回繰り返してCa(OH)懸濁液を分離した。
【0083】
次に、Ca(OH)分離後の処理物(解砕物)に水3Lを加えた。次いで、得られたスラリーを撹拌しながら、グルコン酸を1038g添加した水溶液1Lを10g/分の速度で加え、さらに30分間撹拌した。この間にスラリーのpHは5.0~7.0の間を推移した。その後、スラリーから上澄みを捨てた(酸洗処理)。
【0084】
酸洗処理(酸洗浄処理)後の処理物(解砕物)に再び水4Lを加えて撹拌し、上澄みを捨てた。この操作を4回繰り返した。4回目の水洗浄処理終了後、処理液の上澄みを捨ててエタノールで溶媒置換し、さらにろ過して合金粉末ケーキを得た。得られた合金粉末ケーキをミキサーで減圧しながら60℃で乾燥して合金粉末を得た。
【0085】
得られた粉末は、ThZn17型結晶構造をもつSmFe17合金粉末であった。合金粉末は、その50%粒子径(x50)が19μmであり、Sm:23.3質量%、N:3.3質量%、O:0.19質量%の組成を有していた。粉末表面のXPS分析を行ったところ、Ca量は0.01原子%以下であった。また、酸化物層厚みは20nmであることが確認された。
【0086】
エタノールを溶媒として用いて、得られた粉末をx50が2.5μmとなるまで微粉砕し、得られた微粉砕粉について、振動試料型磁力計を用いて磁気特性を評価した。その結果、保磁力(HcJ)は867kA/mであった。
【0087】
[実施例2]
湿式処理工程における酸洗処理の際、Ca(OH)分離後の処理物(解砕物)に水3Lを加えた。次いで、得られたスラリーを撹拌しながら、クエン酸200gとクエン酸三ナトリウム100gを添加した水溶液1Lを10g/分の速度で加え、さらに30分間撹拌した。この間にスラリーのpHは4.5~6.0の間を推移した。その後、スラリーから上澄みを捨てた(酸洗処理)。それ以外は、実施例1と同様の手順で合金粉末を作製した。
【0088】
得られた粉末は、ThZn17型結晶構造をもつSmFe17合金粉末であった。合金粉末は、その50%粒子径(x50)が20μmであり、Sm:23.4質量%、N:3.5質量%、O:0.18質量%の組成を有していた。粉末表面のXPS分析を行ったところ、Ca量は0.01原子%以下であった。また、酸化物層厚みは20nmであった。
【0089】
エタノールを溶媒として用いて、得られた粉末をx50が2.5μmとなるまで微粉砕し、得られた微粉砕粉について、振動試料型磁力計を用いて磁気特性を評価した。その結果、保磁力(HcJ)は883kA/mであった。
【0090】
[実施例3]
湿式処理工程における酸洗処理の際、Ca(OH)分離後の処理物(解砕物)に水3Lを加えた。次いで、得られたスラリーを撹拌しながら、グルコン酸80gとグルコン酸ナトリウム800gを添加した水溶液1Lを10g/分の速度で加え、さらに30分間撹拌した。この間にスラリーのpHは4.5~6.0の間を推移した。その後、スラリーから上澄みを捨てた(酸洗処理)。それ以外は、実施例1と同様の手順で合金粉末を作製した。
【0091】
得られた粉末は、ThZn17型結晶構造をもつSmFe17合金粉末であった。合金粉末は、その50%粒子径(x50)が21μmであり、Sm:23.4質量%、N:3.4質量%、O:0.16質量%の組成を有していた。粉末表面のXPS分析を行ったところ、粉末表面におけるCa量は0.01原子%以下であった。また、酸化物層厚みは20nmであった。
【0092】
エタノールを溶媒として用いて、得られた粉末をx50が2.5μmとなるまで微粉砕し、得られた微粉砕粉について、振動試料型磁力計を用いて磁気特性を評価した。その結果、保磁力(HcJ)は840kA/mであった。
【0093】
[実施例4]
湿式処理工程における酸洗処理の際、Ca(OH)分離後の処理物(解砕物)に水2.5Lを加えた。次いで、得られたスラリーを撹拌しながら、クエン酸250gとクエン酸三カリウム25gを添加した水溶液500mLを10g/分の速度で加え、さらに30分間撹拌した。この間にスラリーのpHは4.5~6.0の間を推移した。その後、スラリーから上澄みを捨てた(酸洗処理)。それ以外は、実施例1と同様の手順で合金粉末を作製した。
【0094】
得られた粉末は、ThZn17型結晶構造をもつSmFe17合金粉末であった。合金粉末は、その50%粒子径(x50)が18μmであり、Sm:23.2質量%、N:3.3質量%、O:0.17質量%の組成を有していた。粉末表面のXPS分析を行ったところ、Ca量は0.01原子%以下であった。また、酸化物層厚みは20nmであった。
【0095】
エタノールを溶媒として用いて、得られた粉末をx50が2.5μmとなるまで微粉砕し、得られた微粉砕粉について、振動試料型磁力計を用いて磁気特性を評価した。その結果、保磁力(HcJ)は798kA/mであった。
【0096】
[比較例1]
湿式処理工程における酸洗処理の際、Ca(OH)分離後の処理物(解砕物)に水3Lを加えた。次いで、得られたスラリーを撹拌しながら、グルコン酸1038gを添加した水溶液1Lを100g/分の速度で加え、さらに30分間撹拌した。この間にスラリーのpHは2.7~4.0の間を推移した。その後、スラリーから上澄みを捨てた(酸洗処理)。それ以外は、実施例1と同様の手順で合金粉末を作製した。
【0097】
得られた粉末は、ThZn17型結晶構造をもつSmFe17合金粉末であった。合金粉末は、その50%粒子径(x50)が16μmであり、Sm:22.8質量%、N:3.1質量%、O:0.31質量%の組成を有していた。粉末表面のXPS分析を行ったところ、Ca量は0.01原子%以下であったが、酸化物層厚みは30nmであった。
【0098】
エタノールを溶媒として用いて、得られた粉末をx50が2.5μmとなるまで微粉砕し、得られた微粉砕粉について、振動試料型磁力計を用いて磁気特性を評価した。その結果、保磁力(HcJ)は581kA/mであった。
【0099】
[比較例2]
湿式処理工程における酸洗処理の際、Ca(OH)分離後の処理物(解砕物)に水3Lを加えた。次いで、得られたスラリーを撹拌しながら、グルコン酸1038gを添加した水溶液1Lを1g/分の速度で加え、さらに30分間撹拌した。この間にスラリーのpHは7.1~8.4の間を推移した。その後、スラリーから上澄みを捨てた(酸洗処理)。それ以外は、実施例1と同様の手順で合金粉末を作製した。
【0100】
得られた粉末は、ThZn17型結晶構造をもつSmFe17合金粉末であった。合金粉末は、その50%粒子径(x50)が25μmであり、Sm:24.1質量%、N:3.6質量%、O:0.35質量%の組成を有していた。粉末表面のXPS分析を行ったところ、Ca量は0.02原子%程度であるとともに、酸化物層厚みは40nmであった。
【0101】
エタノールを溶媒として用いて、得られた粉末をx50が2.5μmとなるまで微粉砕し、得られた微粉砕粉について、振動試料型磁力計を用いて磁気特性を評価した。その結果、保磁力(HcJ)は672kA/mであった。
【0102】
実施例1~4、比較例1及び2の希土類遷移金属合金粉末の製造時に用いたキレート形成剤の種類と添加条件を下記表1にまとめて示す。
【0103】
【表1】
【0104】
(2)評価結果
実施例1~4、比較例1及び2で得られた希土類遷移金属合金粉末の組成と成分分析結果を表2にまとめて示す。
【0105】
いずれの合金粉末もSmFe17組成を有していた。また、酸洗浄時のスラリーpHが4.0以上7.0以下の範囲内に維持された実施例1~4の合金粉末は、酸素(O)量が0.19質量%以下と比較的少なく、保磁力(HcJ)が798kA/m以上と大きかった。
【0106】
これに対して、酸洗浄時のスラリーpHが2.7~4.0であった比較例1の合金粉末は、酸素量が0.31質量%以上と多く、保磁力が581kA/m以下と小さかった。また、酸洗浄時のスラリーpHが7.1~8.4であった比較例2の合金粉末は、酸素量が0.35質量%、粉末表面のカルシウム量が0.02原子%程度と比較的多く、保磁力が672kA/mと小さかった。
【0107】
比較例1では、スラリーpHが低すぎたため、酸洗浄が過剰に行われ、その結果、合金粉末がダメージを受けたと推測される。また、比較例2では、酸洗浄が不十分になるとともに、キレート形成剤由来の難溶性化合物が合金粉末中に残留し、その結果、合金粉末の保磁力が低下したと考えられる。
【0108】
以上の結果から、本実施形態によれば、酸素量が低く、保磁力(HcJ)の高い高品質な希土類遷移金属合金粉末の製造方法が提供されることが理解される。
【0109】
【表2】