(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123431
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】時計遺伝子の発現調節剤、時計遺伝子の発現調節用経口組成物、及び時計遺伝子の発現調節用外用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/192 20060101AFI20240905BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240905BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240905BHJP
A61K 8/36 20060101ALI20240905BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240905BHJP
A61Q 5/00 20060101ALI20240905BHJP
A61Q 5/02 20060101ALI20240905BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20240905BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20240905BHJP
A23F 5/24 20060101ALN20240905BHJP
【FI】
A61K31/192
A61P43/00 111
A61K48/00
A61K8/36
A61Q19/00
A61Q5/00
A61Q5/02
A23L33/10
A23L2/00 F
A23L2/52
A23F5/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030835
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】河本 美幸
【テーマコード(参考)】
4B018
4B027
4B117
4C083
4C084
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LE01
4B018LE02
4B018MD03
4B018MD04
4B018MD08
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4B018ME14
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4C083AA082
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4C084NA14
4C084ZC021
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4C206AA01
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4C206MA72
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4C206NA14
4C206ZC02
(57)【要約】
【課題】Bmal1遺伝子及びPer1遺伝子の少なくともいずれかの時計遺伝子の優れた発現調節作用を有し、かつ安全性が高い時計遺伝子の発現調節剤、時計遺伝子の発現調節用経口組成物、及び時計遺伝子の発現調節用外用組成物の提供。
【解決手段】時計遺伝子の発現調節剤であって、構造式(1)で表される化合物及び構造式(2)で表される化合物の少なくともいずれかを含み、前記時計遺伝子が、Bmal1遺伝子及びPer1遺伝子の少なくともいずれかである時計遺伝子の発現調節剤、前記時計遺伝子の発現調節剤を含む時計遺伝子の発現調節用経口組成物、及び前記時計遺伝子の発現調節剤を含む時計遺伝子の発現調節用外用組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計遺伝子の発現調節剤であって、
下記構造式(1)で表される化合物及び下記構造式(2)で表される化合物の少なくともいずれかを含み、
【化1】
【化2】
前記時計遺伝子が、Bmal1遺伝子及びPer1遺伝子の少なくともいずれかであることを特徴とする時計遺伝子の発現調節剤。
【請求項2】
肝臓における前記時計遺伝子の発現を調節する請求項1に記載の時計遺伝子の発現調節剤。
【請求項3】
前記時計遺伝子の発現を逆位相に調節する請求項1から2のいずれかに記載の時計遺伝子の発現調節剤。
【請求項4】
請求項1から2のいずれかに記載の時計遺伝子の発現調節剤を含むことを特徴とする時計遺伝子の発現調節用経口組成物。
【請求項5】
請求項1から2のいずれかに記載の時計遺伝子の発現調節剤を含むことを特徴とする時計遺伝子の発現調節用外用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計遺伝子の発現調節剤、時計遺伝子の発現調節用経口組成物、及び時計遺伝子の発現調節用外用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
地球上の生物には、約24時間周期で繰り返される概日リズム(体内時計)が存在することが知られている。そして、体内時計によって、睡眠や覚醒、ホルモンの分泌、血圧や体温の調節などが制御されている。
【0003】
時計遺伝子は概日リズムを調整する一群の遺伝子であり、Bmal遺伝子(Bmal1、Bmal2、Bmal3)、Per遺伝子(Per1、Per2、Per3)、Clock遺伝子、Cry遺伝子(Cry1、Cry2)などが報告されている。哺乳類では、Bmal遺伝子とPer遺伝子は、ほぼ12時間ずれた位相でそれぞれ概日リズムを刻んで発現されており、Bmal遺伝子の発現は夜中に増加し、Per遺伝子の発現は昼間に増加することが報告されている。
【0004】
現代社会においては、シフトワーク等の不規則な生活パターン、移動によって起きる時差、睡眠障害などにより、24時間周期のリズムを逸脱する生活習慣となってしまうことがある。
【0005】
概日リズムの異常は、時差ボケや睡眠障害を引き起こす以外にも、がん、生活習慣病、精神疾患、老化などにも関与するとされている。そのため、乱れた概日リズムを回復することができれば、時差ボケ、睡眠障害、がん、生活習慣病、及び精神疾患の予防、治療又は改善や、抗老化、生活の質の向上などに有効であると考えられる。
【0006】
これまでに、ピペリン等を含有する、時計遺伝子Period2の発現リズムの振幅増強作用を有する組成物(例えば、特許文献1参照)、黒生姜を含有する概日リズム調整用組成物(例えば、特許文献2参照)、オレウロペイン等を含む時計遺伝子の発現量調整剤(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
【0007】
しかしながら、時計遺伝子の発現調節作用を有し、医薬品、医薬部外品、飲食品等の経口組成物、化粧品等の外用組成物、研究用試薬などの成分として広く利用が可能な新たな素材に対する要望は依然として強く、その速やかな開発が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-031570号公報
【特許文献2】特開2019-094357号公報
【特許文献3】国際公開第2015/029968号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、Bmal1遺伝子及びPer1遺伝子の少なくともいずれかの時計遺伝子の優れた発現調節作用を有し、かつ安全性が高い時計遺伝子の発現調節剤、時計遺伝子の発現調節用経口組成物、及び時計遺伝子の発現調節用外用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、下記構造式(1)で表される化合物及び下記構造式(2)で表される化合物が、Bmal1遺伝子及びPer1遺伝子の少なくともいずれかの時計遺伝子の優れた発現調節作用を有し、かつ安全性が高く、前記時計遺伝子の発現の調節に有用であることを知見し、本発明を完成した。
【化1】
【化2】
【0011】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 時計遺伝子の発現調節剤であって、
下記構造式(1)で表される化合物及び下記構造式(2)で表される化合物の少なくともいずれかを含み、
【化3】
【化4】
前記時計遺伝子が、Bmal1遺伝子及びPer1遺伝子の少なくともいずれかであることを特徴とする時計遺伝子の発現調節剤である。
<2> 肝臓における前記時計遺伝子の発現を調節する前記<1>に記載の時計遺伝子の発現調節剤である。
<3> 前記時計遺伝子の発現を逆位相に調節する前記<1>から<2>のいずれかに記載の時計遺伝子の発現調節剤である。
<4> 前記<1>から<3>のいずれかに記載の時計遺伝子の発現調節剤を含むことを特徴とする時計遺伝子の発現調節用経口組成物である。
<5> 前記<1>から<3>のいずれかに記載の時計遺伝子の発現調節剤を含むことを特徴とする時計遺伝子の発現調節用外用組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の時計遺伝子の発現調節剤及び時計遺伝子の発現調節用経口組成物によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、Bmal1遺伝子及びPer1遺伝子の少なくともいずれかの時計遺伝子の優れた発現調節作用を有し、かつ安全性が高い時計遺伝子の発現調節剤、時計遺伝子の発現調節用経口組成物、及び時計遺伝子の発現調節用外用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(時計遺伝子の発現調節剤)
本実施形態の時計遺伝子の発現調節剤は、下記構造式(1)で表される化合物及び下記構造式(2)で表される化合物の少なくともいずれかを有効成分として含み、更に必要に応じてその他の成分を含む。
【化5】
【化6】
【0014】
前記時計遺伝子は、Bmal1遺伝子及びPer1遺伝子の少なくともいずれかである。前記Bmal1遺伝子の発現は夜中に増加し、前記Per1遺伝子の発現は昼間に増加することが知られている。
【0015】
本明細書において、「時計遺伝子の発現調節」とは、前記時計遺伝子の発現調節剤が適用されない対象(コントロール)における時計遺伝子の発現量と比較して、時計遺伝子の発現量を増加させたり、時計遺伝子の発現量を低下させたりすることをいう。時計遺伝子の発現の調節の程度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記時計遺伝子の発現の調節を確認する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、定量的RT-PCR法、マイクロアレイ法、ノーザンブロット法等により、前記時計遺伝子の発現量を確認する方法などが挙げられる。
【0016】
本明細書において、「遺伝子の発現」とは、前記遺伝子から遺伝子産物が生じることをいう。前記遺伝子産物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、mRNA、タンパク質などが挙げられる。
【0017】
前記時計遺伝子の発現調節剤は、前記時計遺伝子の発現を逆位相に調節するために好適に用いることができる。前記時計遺伝子の発現を逆位相に調節することで、概日リズムを正常化することができる。前記「正常化する」とは、少なくとも正常な状態に近づけることができればよく、完全に正常化した状態にまでなっていなくてもよい。
【0018】
<構造式(1)で表される化合物>
下記構造式(1)で表される化合物の名称は、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸(英名:3-(4-Hydroxy-3-methoxyphenyl)propionic acid)(以下、「HMPA」と称することがある。)である。
【化7】
【0019】
下記構造式(2)で表される化合物の名称は、3,4-ジヒドロキシヒドロ桂皮酸(英名:3,4-Dihydroxyhydrocinnamic acid)である。
【化8】
【0020】
前記構造式(1)で表される化合物及び前記構造式(2)で表される化合物は公知の化合物であり、市販品を用いてもよいし、植物等から抽出したものを用いることもできる。
【0021】
前記構造式(1)で表される化合物及び前記構造式(2)で表される化合物が、優れた時計遺伝子の発現調節作用を有し、時計遺伝子の発現調節剤として有用であることは、従来は全く知られておらず、本発明者らによる新たな知見である。
【0022】
前記時計遺伝子の発現調節剤は、前記構造式(1)で表される化合物及び前記構造式(2)で表される化合物の少なくともいずれかのみからなるものであってもよいし、前記構造式(1)で表される化合物及び前記構造式(2)で表される化合物の少なくともいずれかを製剤化したものであってもよい。
前記時計遺伝子の発現調節剤は、前記構造式(1)で表される化合物及び前記構造式(2)で表される化合物のいずれか一方を用いてもよいし、両者を併用してもよい。また、両者を併用する場合における前記構造式(1)で表される化合物及び前記構造式(2)で表される化合物の質量比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0023】
前記構造式(1)で表される化合物及び前記構造式(2)で表される化合物の少なくともいずれかは、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味・矯臭剤等を用いることができる。
前記時計遺伝子の発現調節剤は、他の組成物(例えば、後述する時計遺伝子の発現調節用経口組成物、時計遺伝子の発現調節用外用組成物等)に配合して使用することができるほか、錠剤、粉剤、カプセル剤、顆粒剤、エキス剤、シロップ剤等の経口投与剤;注射剤、点滴剤、坐剤等の非経口投与剤;軟膏剤、点眼剤、外用液剤、貼付剤などとして使用することもできる。
【0024】
製剤化した時計遺伝子の発現調節剤における前記構造式(1)で表される化合物及び前記構造式(2)で表される化合物の合計含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0025】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、前記時計遺伝子の発現調節剤の利用形態に応じて適宜選択することができ、例えば、賦形剤、防湿剤、防腐剤、強化剤、増粘剤、乳化剤、酸化防止剤、甘味料、酸味料、調味料、着色料、香料、美白剤、保湿剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色剤、水性成分、水、皮膚栄養剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
前記その他の成分の前記時計遺伝子の発現調節剤における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0027】
前記時計遺伝子の発現調節剤の用法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、経口、非経口、外用などの用法が挙げられる。
【0028】
前記時計遺伝子の発現調節剤の剤形としては、特に制限はなく、公知の剤形を目的に応じて適宜選択することができる。
目的とする剤形の前記時計遺伝子の発現調節剤の製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。
【0029】
前記時計遺伝子の発現調節剤の投与方法、投与量、投与部位、投与期間、投与間隔などとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0030】
前記時計遺伝子の発現調節剤は、前記構造式(1)で表される化合物又は前記構造式(2)で表される化合物が有する時計遺伝子の発現調節作用を通じて、時計遺伝子の発現を調節することができ、これにより、乱れた概日リズムを回復させることができる。そのため、体内時計機能の低下に起因する様々な状態を予防、治療、又は改善することができる。
前記体内時計機能の低下に起因する様々な状態としては、例えば、肥満、メタボリックシンドローム、虚血性心疾患、脂質代謝異常、糖代謝異常、高血圧、脳梗塞、脳溢血、冠攣縮性狭心症、糖尿病、自律神経失調症、躁うつ病、季節性うつ病、睡眠相後退症候群(DSPS)、睡眠相前進症候群(ASPS)、非24時間睡眠覚醒障害、行動の昼夜逆転、体温リズムの振幅の平坦化、記憶想起障害、入眠障害、中途覚醒、早期覚醒、熟眠障害等の睡眠時に関連する不定愁訴、寝起き不良、起床時の疲労及びだるさ、起床時の憂鬱な気分、起床時の意欲及びやる気低減等の起床時に関連する不定愁訴、時差ボケ、社会的時差ボケ、認知機能障害、気分障害、生活習慣病、食欲不振や便秘等を含む消化管機能障害、頻尿や夜間頻尿を含む排尿機能障害、がん、老化;保湿力、柔軟性、シミ、皮脂分泌、皮膚血流、皮膚バリア機能、肌荒れ、しわ、毛髪・爪の状態、等を含む皮膚機能の低下などが挙げられる。
ただし、本実施形態の時計遺伝子の発現調節剤は、これらの用途以外にも時計遺伝子の発現調節作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0031】
前記時計遺伝子の発現調節剤は、例えば、肝臓における前記時計遺伝子の発現の調節に好適に用いることができる。
肝細胞のターンオーバーに伴う多倍体化は、老化や肝炎、肝硬変などで加速することが知られている。また、肝細胞の分裂と増殖の正常な進行には時計遺伝子であるPer遺伝子が必要であるとの報告もある。そのため、肝細胞における時計遺伝子の発現を調節することで、老化や肥満に伴う肝疾患の予防や改善に有効であると考えられる。
【0032】
前記時計遺伝子の発現調節剤は、優れた時計遺伝子の発現調節作用を有し、安全性が高いので、医薬品、医薬部外品、飲食品、化粧料などの幅広い用途に用いることができ、例えば、後述する時計遺伝子の発現調節用経口組成物、時計遺伝子の発現調節用外用組成物の有効成分として好適に用いることができる。この場合、前記構造式(1)で表される化合物及び前記構造式(2)で表される化合物の少なくともいずれかをそのまま配合してもよいし、前記構造式(1)で表される化合物及び前記構造式(2)で表される化合物の少なくともいずれかを製剤化したものを配合してもよい。
【0033】
なお、前記時計遺伝子の発現調節剤は、必要に応じて、時計遺伝子の発現調節作用を有する他の成分を前記構造式(1)で表される化合物及び前記構造式(2)で表される化合物の少なくともいずれかと共に配合して有効成分として用いることもできる。
【0034】
本発明の時計遺伝子の発現調節剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、その作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、サルなど)に対して適用することもできる。
【0035】
また、本発明の時計遺伝子の発現調節剤は、時計遺伝子の発現調節作用の作用機構に関する研究のための試薬としても用いることができる。
【0036】
(時計遺伝子の発現調節用経口組成物)
本実施形態の時計遺伝子の発現調節用経口組成物は、本実施形態の時計遺伝子の発現調節剤を含み、更に必要に応じてその他の成分を含む。
【0037】
<時計遺伝子の発現調節剤>
前記時計遺伝子の発現調節剤は、上述した本実施形態の時計遺伝子の発現調節剤である。
【0038】
前記時計遺伝子の発現調節用経口組成物における前記時計遺伝子の発現調節剤の含有量としては、特に制限はなく、前記時計遺伝子の発現調節用経口組成物の形態などによって適宜調整することができるが、前記構造式(1)で表される化合物及び前記構造式(2)で表される化合物の合計量に換算して、0.0001質量%~30質量%が好ましく、0.0001質量%~10質量%がより好ましい。前記時計遺伝子の発現調節用経口組成物は、前記時計遺伝子の発現調節剤のみからなるものであってもよい。
【0039】
<その他の成分>
前記時計遺伝子の発現調節用経口組成物におけるその他の成分としては、特に制限はなく、前記時計遺伝子の発現調節用経口組成物の形態に応じて適宜選択することができ、例えば、上記した時計遺伝子の発現調節剤の項目に記載したその他の成分と同様のものなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
前記その他の成分の前記時計遺伝子の発現調節用経口組成物における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0041】
<態様>
前記時計遺伝子の発現調節用経口組成物の態様としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、医薬品、医薬部外品、飲食品などが挙げられる。
本発明の時計遺伝子の発現調節用経口組成物は、日常的に使用することが可能であり、有効成分である前記構造式(1)で表される化合物及び前記構造式(2)で表される化合物の少なくともいずれかの働きによって、時計遺伝子の発現調節作用をはじめとする様々な生理活性作用を極めて効果的に発揮させることができる。
【0042】
本発明の時計遺伝子の発現調節用経口組成物は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、サルなど)に対して適用することもできる。
【0043】
前記経口組成物としては、特に制限はなく、目的応じて適宜選択することができ、例えば、経口投与剤や飲食品などが挙げられる。ここで、飲食品とは、人の健康に危害を加えるおそれが少なく、通常の社会生活において、経口又は消化管投与により摂取されるものをいい、行政区分上の食品、医薬品、医薬部外品などの区分に制限されるものではない。したがって、前記飲食品は、経口的に摂取される一般食品、健康食品(機能性飲食品)、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)、医薬部外品、医薬品等を構成する飲食品を幅広く含むものを意味する。
【0044】
前記経口組成物の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、茶飲料、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料、アルコール飲料、コーヒー飲料、コーヒー入り清涼飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む);アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子、パン等の菓子類;カニ、サケ、アサリ、マグロ、イワシ、エビ、カツオ、サバ、クジラ、カキ、サンマ、イカ、アカガイ、ホタテ、アワビ、ウニ、イクラ、トコブシ等の水産物;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;カレー、シチュー、親子丼、お粥、雑炊、中華丼、かつ丼、天丼、うな丼、ハヤシライス、おでん、マーボードーフ、牛丼、ミートソース、玉子スープ、オムライス、餃子、シューマイ、ハンバーグ、ミートボール等のレトルトパウチ食品;サラダ、漬物等の惣菜;種々の形態の健康・美容・栄養補助食品;錠剤、粉剤、カプセル剤、顆粒剤、エキス剤、シロップ剤、ドリンク剤、トローチ、うがい薬等の医薬品、医薬部外品;口中清涼剤、口臭防止剤等の口腔内で使用する口腔清涼剤、歯磨剤などが挙げられる。
【0045】
前記時計遺伝子の発現調節用経口組成物の製造方法としては、特に制限はなく、前記時計遺伝子の発現調節用経口組成物の形態などに応じて適宜選択することができる。
【0046】
前記時計遺伝子の発現調節用経口組成物の使用量、使用期間、使用間隔等としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0047】
(時計遺伝子の発現調節用外用組成物)
本実施形態の時計遺伝子の発現調節用外用組成物は、本実施形態の時計遺伝子の発現調節剤を含み、更に必要に応じてその他の成分を含む。
【0048】
<時計遺伝子の発現調節剤>
前記時計遺伝子の発現調節剤は、上述した本実施形態の時計遺伝子の発現調節剤である。
【0049】
前記時計遺伝子の発現調節用外用組成物における前記時計遺伝子の発現調節剤の含有量としては、特に制限はなく、前記時計遺伝子の発現調節用外用組成物の形態などによって適宜調整することができるが、前記構造式(1)で表される化合物及び前記構造式(2)で表される化合物の合計量に換算して、0.0001質量%~30質量%が好ましく、0.0001質量%~10質量%がより好ましい。前記時計遺伝子の発現調節用外用組成物は、前記時計遺伝子の発現調節剤のみからなるものであってもよい。
【0050】
<その他の成分>
前記時計遺伝子の発現調節用外用組成物におけるその他の成分としては、特に制限はなく、前記時計遺伝子の発現調節用外用組成物の形態に応じて適宜選択することができ、例えば、通常化粧料の製造に用いられる主剤、助剤又はその他の成分などが挙げられる。前記通常化粧料の製造に用いられる主剤、助剤又はその他の成分としては、例えば、収斂剤、殺菌・抗菌剤、美白剤、紫外線吸収剤、保湿剤、細胞賦活剤、消炎・抗アレルギー剤、抗酸化・活性酸素除去剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0051】
前記その他の成分の前記時計遺伝子の発現調節用外用組成物における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0052】
<態様>
前記時計遺伝子の発現調節用外用組成物の態様としては、その区分に制限はなく、経皮的に使用される皮膚化粧料、医薬部外品、医薬品などを幅広く含むものである。
本発明の時計遺伝子の発現調節用外用組成物は、日常的に使用することが可能であり、有効成分である前記構造式(1)で表される化合物及び前記構造式(2)で表される化合物の少なくともいずれかの働きによって、時計遺伝子の発現調節作用をはじめとする様々な生理活性作用を極めて効果的に発揮させることができる。
【0053】
本発明の時計遺伝子の発現調節用外用組成物は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、サルなど)に対して適用することもできる。
【0054】
前記外用組成物としては、特に制限はなく、目的応じて適宜選択することができ、例えば、化粧水、乳液、クリーム、軟膏、美容液、ローション、ジェル、美容オイル、パック、ゼリー、リップクリーム、口紅、ファンデーション、入浴剤、石鹸、ボディーソープ、アストリンゼント、ヘアトニック、ヘアローション、ヘアクリーム、ヘアリキッド、ポマード、シャンプー、リンス、コンディショナーなどが挙げられる。
【0055】
前記時計遺伝子の発現調節用外用組成物の製造方法としては、特に制限はなく、前記時計遺伝子の発現調節用外用組成物の形態などに応じて適宜選択することができる。
【0056】
前記時計遺伝子の発現調節用外用組成物の使用量、使用期間、使用間隔等としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0057】
上述したように、本発明の時計遺伝子の発現調節剤、時計遺伝子の発現調節用経口組成物、及び時計遺伝子の発現調節用外用組成物は、優れた時計遺伝子の発現調節作用を有する。
したがって、本発明は、個体に前記時計遺伝子の発現調節剤、時計遺伝子の発現調節用経口組成物、及び時計遺伝子の発現調節用外用組成物の少なくともいずれかを投与することを特徴とする時計遺伝子の発現を調節する方法にも関する。
【実施例0058】
以下、本発明の試験例及び配合例を説明するが、本発明は、これらの試験例及び配合例に何ら限定されるものではない。
【0059】
(試験例1:時計遺伝子の発現調節作用試験)
前記構造式(1)で表される化合物(東京化成工業製)及び前記構造式(2)で表される化合物(SIGMA製)(以下、「被験試料」と称することがある。)について、下記の方法により、時計遺伝子(Bmal1及びPer1)mRNA発現調節作用の試験を実施した。
【0060】
<試験方法>
正常ヒト肝細胞(Hepatocyte)を、10%FBS含有ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)を用いて培養した後、トリプシン処理により回収した。回収した細胞を1.5×105cells/mLの濃度になるように10%FBS含有DMEMで希釈した後、35mmディッシュに2mLずつ播種し、37℃、5%CO2下で24時間培養した。
培養後、100nmol/Lデキサメタゾンを含む10%FBS含有DMEMに交換して1時間培養した後、10%FBS含有DMEMに交換し、さらに24時間培養した。
その後、10%FBS含有DMEMで必要濃度の10倍に溶解した被験試料を各ディッシュに200μLずつ添加し(最終濃度は下記表1~2を参照)、37℃、5%CO2下で4時間培養した。なお、コントロールとして、被験試料無添加の10%FBS含有DMEMを用いて同様に培養した。
培養後、培養液を捨て、ISOGEN II(ニッポンジーン製)にて総RNAを抽出し、それぞれのRNA量を分光光度計にて測定し、200ng/μLになるように総RNAを調製した。
この総RNAを鋳型とし、時計遺伝子(Bmal1及びPer1)及び内部標準であるGAPDHについて、mRNAの発現量を測定した。検出は、リアルタイムPCR装置Thermal Cycler Dice(登録商標) Real Time System III(タカラバイオ製)を用いて、PrimeScriptTM RT Master Mix(Perfect Real Time)(タカラバイオ製)及びTB Green(登録商標) Fast qPCR Mix(タカラバイオ製)による2ステップリアルタイムRT-PCR反応により行った。時計遺伝子のmRNAの発現量は、GAPDHのmRNAの発現量で補正し、算出した。
得られた結果から、下記式により時計遺伝子(Bmal1及びPer1)mRNA発現率を算出した。結果を表1~2に示す。なお、下記式において、被験試料無添加の場合の時計遺伝子 mRNA発現促進率は100%となる。
時計遺伝子 mRNA発現率(%)=A/B×100
上記式中のA~Bは、それぞれ以下を表す。
A : 被験試料添加時の補正値
B : 被験試料無添加時の補正値
【0061】
【0062】
【0063】
表1~2に示すように、構造式(1)で表される化合物又は構造式(2)で表される化合物を添加した場合に、Bmal1 mRNAの発現率は低下し、Per1 mRNAの発現率は上昇していた。そのため、構造式(1)で表される化合物及び構造式(2)で表される化合物は、時計遺伝子の発現を調節する作用を有することが確認された。
【0064】
(配合例1)
常法により、以下の組成を有する錠剤を製造した。
・ 構造式(1)で表される化合物 50.0mg
・ ブドウ抽出物 100.0mg
・ β‐ニコチンアミドモノヌクレオチド 5.0mg
・ ドロマイト 23.4mg
(カルシウム20%、マグネシウム10%含有)
・ ビタミンC 13.4mg
・ マルチトール 96.2mg
・ ショ糖脂肪酸エステル 12.0mg
【0065】
(配合例2)
常法により、以下の組成を有する経口液状製剤を製造した。
<1アンプル(1本100mL)中の組成>
・ 構造式(2)で表される化合物 0.3質量%
・ ソルビット 12.0質量%
・ 安息香酸ナトリウム 0.1質量%
・ 香料 1.0質量%
・ 硫酸カルシウム 0.5質量%
・ 精製水 残部
【0066】
(配合例3)
常法により、以下の組成を有するコーヒー飲料を製造した。
・ 構造式(1)で表される化合物 0.1質量%
・ コーヒー抽出液(L(明度)=20、Brix=3) 40質量%
・ マルチトール 2質量%
・ 香料 適量
・ 水 残部
【0067】
(配合例4)
常法により、以下の組成を有するカプセル剤を製造した。なお、カプセルとしては、1号ハードゼラチンカプセルを使用した。
<1カプセル(1錠200mg)中の組成>
・ 構造式(2)で表される化合物 30.0mg
・ コーンスターチ 70.0mg
・ 乳糖 80.0mg
・ 乳酸カルシウム 10.0mg
・ ヒドロキシプロピルセルロース(HPC-L) 10.0mg
【0068】
(配合例5)
下記組成の乳液を常法により製造した。
・ 構造式(1)で表される化合物 0.20g
・ ホホバオイル 4.00g
・ 1,3-ブチレングリコール 3.00g
・ アルブチン 3.00g
・ ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 2.50g
・ オリーブオイル 2.00g
・ スクワラン 2.00g
・ セタノール 2.00g
・ モノステアリン酸グリセリル 2.00g
・ オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.) 2.00g
・ パラオキシ安息香酸メチル 0.15g
・ 黄杞エキス 0.10g
・ グリチルリチン酸ジカリウム 0.10g
・ イチョウ葉エキス 0.10g
・ コンキオリン 0.10g
・ オウバクエキス 0.10g
・ カミツレエキス 0.10g
・ 香料 0.05g
・ 精製水 残部(全量を100gとする)
【0069】
(配合例6)
下記組成のクリームを常法により製造した。
・ 構造式(2)で表される化合物 0.1g
・ クジンエキス 0.1g
・ オウゴンエキス 0.1g
・ 流動パラフィン 5.0g
・ サラシミツロウ 4.0g
・ スクワラン 10.0g
・ セタノール 3.0g
・ ラノリン 2.0g
・ ステアリン酸 1.0g
・ オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.) 1.5g
・ モノステアリン酸グリセリル 3.0g
・ 1,3-ブチレングリコール 6.0g
・ パラオキシ安息香酸メチル 1.5g
・ 香料 0.1g
・ 精製水 残部(全量を100gとする)
【0070】
(配合例7)
下記組成の美容液を常法により製造した。
・ 構造式(1)で表される化合物 0.3g
・ カミツレエキス 0.1g
・ ニンジンエキス 0.1g
・ キサンタンガム 0.3g
・ ヒドロキシエチルセルロース 0.1g
・ カルボキシビニルポリマー 0.1g
・ 1,3-ブチレングリコール 4.0g
・ グリチルリチン酸ジカリウム 0.1g
・ グリセリン 2.0g
・ 水酸化カリウム 0.25g
・ 香料 0.01g
・ 防腐剤(パラオキシ安息香酸メチル) 0.15g
・ エタノール 2.0g
・ 精製水 残部(全量を100gとする)
【0071】
(配合例8)
下記組成のヘアトニックを常法により製造した。
・ 構造式(2)で表される化合物 0.1g
・ 酢酸トコフェロール 適量
・ セファランチン 0.002g
・ イソプロピルメチルフェノール 0.1g
・ ヒアルロン酸ナトリウム 0.15g
・ グリセリン 15.0g
・ エタノール 15.0g
・ 香料 適量
・ キレート剤(エデト酸ナトリウム) 適量
・ 防腐剤(ヒノキチオール) 適量
・ 可溶化剤(ポリオキシエチレンセチルエーテル) 適量
・ 精製水 残部(全量を100gとする)
【0072】
(配合例9)
下記組成のシャンプーを常法により製造した。
・ 構造式(1)で表される化合物 0.20g
・ マジョラム抽出物 1.0g
・ ウメ果実部抽出物 0.2g
・ ヤシ油脂肪酸メチルタウリンナトリウム 10.0g
・ ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン 10.0g
・ ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム 20.0g
・ ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド 4.0g
・ プロピレングリコール 2.0g
・ 香料 適量
・ 精製水 残部(全量を100gとする)