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特開2024-123532乳酸菌を用いた有用腸内細菌の生育改善
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  • 特開-乳酸菌を用いた有用腸内細菌の生育改善 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123532
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】乳酸菌を用いた有用腸内細菌の生育改善
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20240905BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20240905BHJP
【FI】
C12N1/20 A ZNA
A23L33/135
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031034
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 祐子
(72)【発明者】
【氏名】萩 達朗
(72)【発明者】
【氏名】野村 将
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
【Fターム(参考)】
4B018MD86
4B018ME02
4B018ME03
4B018ME11
4B065AA01X
4B065CA41
(57)【要約】
【課題】本発明は、腸内における腸内細菌A.muciniphilaの生育環境を簡便に改善し得る乳酸菌の提供を課題としている。
【解決手段】乳酸菌ラクチプランチバチルス・プランタルム(Lactiplantibacillus plantarum)A40株(受領番号:NITE AP-03831)。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌ラクチプランチバチルス・プランタルム(Lactiplantibacillus plantarum)A40株(受領番号:NITE AP-03831)。
【請求項2】
請求項1に記載の乳酸菌を含有することを特徴とする、飲食物。
【請求項3】
請求項1に記載の乳酸菌を含有することを特徴とする、サプリメント。
【請求項4】
請求項1に記載の乳酸菌を用いることを特徴とする、腸内細菌アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)の生育改善方法。




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規乳酸菌株、当該乳酸菌を含有する飲食物やサプリメント及び、当該乳酸菌を用いた腸内細菌アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)の生育改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界的に肥満人口が増え続け、世界肥満連合によると将来は世界の5人に1人が肥満になると予測されている。肥満は、II型糖尿病やその他疾病の原因にもなるため、改善することが求められている。このような背景のもと、肥満と腸内細菌の関連を明らかにするための研究が世界各国で実施され、腸内細菌の1つであるアッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)(以下「腸内細菌A.muciniphila」という。)について、ヒト投与試験において、肥満II型糖尿病改善効果が報告されている。しかし、腸内細菌は偏性嫌気性細菌で特殊な栄養培地を必要とするなど、大量培養には多くの費用が必要であり、その培養・保存は困難である。そのため、腸内細菌A.muciniphilaを外部から投与するのではなく、腸内で活性化させる食素材や食品の開発が望まれている。
【0003】
腸内細菌A.muciniphilaは、胆汁酸の1種であるグリコデオキシコール酸(抱合胆汁酸であり、以下、「抱合胆汁酸GDCA」という。)により生育阻害を受け、デオキシコール酸(脱抱合胆汁酸であり、以下「脱抱合胆汁酸DCA」という。)により生育が促進される(非特許文献1)ことが、また、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)現ラクチプランチバチルス・プランタルム(Lactiplantibacillus plantarum)の乳酸菌数株が、抱合胆汁酸GDCAから脱抱合胆汁酸DCAへの変換能を有すること(非特許文献2)が報告されている。
しかしながら、これら乳酸菌が有する胆汁酸変換能に関する研究報告では、胆汁酸に対する耐性や、胆汁酸を変換してコレステロールを低減するという報告のみ(特許文献1、2等)で、腸内細菌A.muciniphilaに関しては未だ報告がない。
さらに、腸内細菌A.muciniphilaの至適生育pHは6.5であり、乳酸菌の増加によるpHの低下は、逆に腸内細菌A.muciniphilaを阻害してしまうため、胆汁酸耐性の強い乳酸菌と腸内細菌A.muciniphilaの共培養では、乳酸菌が生産する乳酸によってpHが低下してしまい、腸内細菌A.muciniphilaの生育に悪影響を及ぼすことが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-189973号公報
【特許文献2】特開2017-066086号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hagi T. et al., Applied Microbiology and Biotechnology, vol.104, No.24, p.10641-10653, 2020.
【非特許文献2】Prete R. et al., Scientific Reports, vol.10, p.1165, 2020.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、腸内における腸内細菌A.muciniphilaの生育環境を簡便に改善し得る乳酸菌の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述のとおり、腸内細菌A.muciniphilaは、肥満II型糖尿病改善効果を有するものの、腸内細菌の大量培養や菌体保存は難しく、また、腸内で抱合胆汁酸によりその生育が阻害されるという課題を有する。その課題を解決するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、新規乳酸菌ラクチプランチバチルス・プランタルム(Lactiplantibacillus plantarum)A40株(以下、「乳酸菌A40株」という。)が、抱合胆汁酸が存在する腸内において、腸内細菌A.muciniphilaの生育環境を改善し得ることを見出し、上記課題を解決するに至ったものである。
【0008】
本発明は、具体的には次の事項を要旨とする。
1.乳酸菌ラクチプランチバチルス・プランタルム(Lactiplantibacillus plantarum)A40株(受領番号:NITE AP-03831)。
2.1.に記載の乳酸菌を含有することを特徴とする、飲食物。
3.1.に記載の乳酸菌を含有することを特徴とする、サプリメント。
4.1.に記載の乳酸菌を用いることを特徴とする、腸内細菌アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)の生育改善方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の新規乳酸菌A40株は、抱合胆汁酸の存在下においても、腸内細菌A.muciniphilaの生育環境を改善し得ることができる。
本発明の新規乳酸菌A40株の摂取により、腸内で腸内細菌A.muciniphilaを増殖させて、例えば、肥満II型糖尿病を改善させるなどの疾病改善効果が期待でき有用である。
また、本発明の新規乳酸菌A40株は、飲食物やサプリメントに含有させて使用することもできるため、腸内で腸内細菌A.muciniphilaの生育環境を簡便に改善する手段として非常に有用である。
乳酸菌の増加は腸内pHを低下させるため、腸内細菌A.muciniphilaの生育が悪化する懸念があったが、本発明の新規乳酸菌A40株は、抱合胆汁酸が存在する腸内で、腸内細菌A.muciniphilaとの共存により腸内細菌A.muciniphilaの生育環境を改善した後に、乳酸菌A40株の菌数が大きく減少するため、腸内細菌A.muciniphilaの増殖に影響しないという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の新規乳酸菌A40株の16s rRNA遺伝子の塩基配列を示す図である。
図2】本発明の新規乳酸菌A40株を含む乳酸菌16株と腸内細菌A.muciniphilaの共培養の結果を示すグラフである。
図3】本発明の新規乳酸菌A40株と、腸内細菌A.muciniphilaを、抱合胆汁酸GDCAを含む培地で共培養した際の、培養液中の腸内細菌A.muciniphilaの菌数を示すグラフである。
図4】本発明の新規乳酸菌A40株、腸内細菌A.muciniphila及び基準株JCM1149株、それぞれを単独培養、あるいは共培養した際の培養液中の菌数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
<本発明の新規乳酸菌株の選抜>
本発明は、腸内における腸内細菌A.muciniphilaの生育環境を簡便に改善し得る乳酸菌の提供を目的とするものであるが、腸内細菌A.muciniphilaは、抱合胆汁酸GDCAでは強い生育阻害を受け、タウロデオキシコール酸(以下、「抱合胆汁酸TDCA」という。)など他の抱合胆汁酸でもやや強い生育阻害を受ける一方、これら抱合胆汁酸からグリシン及びタウリンを脱抱合した脱抱合胆汁酸DCAは、腸内細菌A.muciniphilaの生育を阻害せず、逆に増殖に良い影響を及ぼすことが知られている。
そこで、本発明者らは、まず、抱合胆汁酸GDCAの存在下で、分離源や属種が異なる乳酸菌16株と腸内細菌A.muciniphilaの共培養を行い、その中から、図2に示すとおり腸内細菌A.muciniphilaの生育が1番良いことが確認された「菌株5」を選抜し、乳酸菌A40株と命名した。
【0012】
<乳酸菌A40株>
図2に示すとおり、本発明における新規の乳酸菌A40株は、抱合胆汁酸の存在下においても、腸内細菌A.muciniphilaの生育環境を改善し得るものである。
この乳酸菌ラクチプランチバチルス・プランタルム(Lactiplantibacillus plantarum)A40株は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに令和 5年 2月16日付にて寄託されており、その受領番号は、NITE AP-03831である。
乳酸菌A40株の菌学的性質は以下のとおりである。
形態:楕円
生育温度:15~37℃の範囲で増殖。MRS液体培地での培養後の濁度測定では、ヒトの体温を想定した37℃において、基準株JCM1149株よりも概略2倍程度の増殖能を有することが確認された。
運動性:なし
糖資化性:D-マンニトール、D-ソルビトール、D-トレハロース、D-ラフィノース
グルコースを炭素源としたガス産生:―(マイナス)
【0013】
本発明における新規の乳酸菌A40株は、Lactiplantibacillus plantarum subsp. plantarum JCM1149(配列Accession No. LC064896)を、基準株(以下、「基準株JCM1149株」という)として16s rRNA遺伝子の相同性は99%であり、同種である。本発明における新規の乳酸菌A40株の16s rRNA遺伝子の塩基配列を図1に示す。
【0014】
<飲食物・サプリメント>
本発明の新規乳酸菌A40株は、その腸内細菌A.muciniphilaの生育環境の改善能を利用して活用することができ、その1つの態様として飲食物としての利用が挙げられる。
本発明における飲食物としては、例えば、乳酸菌A40株を含有する乳飲料などの飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調製用粉末を含む)、加工乳、発酵乳、ヨーグルト、バター、チーズ等の乳製品、キムチやぬか漬け、豆乳等の植物素材乳酸菌発酵食品などが挙げられる。
また、乳酸菌A40株を含有するサプリメント(医薬部外品)とすることもでき、例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁剤、液剤、乳剤等の製剤として使用することができる。
【0015】
<腸内細菌A.muciniphila生育改善方法>
本発明の新規乳酸菌A40株は、腸内の抱合胆汁酸の存在下においても、腸内細菌A.muciniphilaの生育環境を改善することができるという、優れた効果を発揮するものである。
従来、乳酸菌の増加は腸内pHを低下させるため、腸内細菌A.muciniphilaの生育が悪化する懸念があったものの、本発明の新規乳酸菌A40株は、抱合胆汁酸が存在する腸内での腸内細菌A.muciniphilaとの共存により腸内細菌A.muciniphilaの生育環境を改善した後に、乳酸菌A40株の菌数が大きく減少するため、腸内細菌A.muciniphilaの増殖に影響しないという利点を有する。
本発明における腸内細菌A.muciniphilaの生育改善方法においては、乳酸菌A40株を含有する飲食物やサプリメント等を、腸内細菌A.muciniphilaを腸内に有するヒトが摂取する方法が例として挙げられる。
また、糞便移植を行う際に、その補助として乳酸菌A40株を添加する方法を採用することもできる。
さらに、ヒト以外にチンパンジー、テナガザル、マウス、ブタ、ウマ、ゾウなどの糞便にも腸内細菌A.muciniphilaは存在するため、これらの動物に対して乳酸菌A40株を摂取させることも有用である。
【実施例0016】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の技術範囲はこれらにより限定されるものではない。
<実施例1:乳酸菌候補株の選抜>
培地:血清ボトルに9.5mLのBHI(Brain-Heart-Infusion(BD DIFCO社製))培地あるいはMRS培地(BD DIFCO社製)を入れてブチル栓(神田ゴム化学社製)とアルミシール(508500、Supleco社製)で閉じ、ガス置換装置(GR-808NSO、三紳工業社製)でボトル内のガスを嫌気性ガス(75%窒素、20%二酸化炭素、5%水素)に置換し、オートクレーブ処理(121℃、15分間)をして滅菌した。
5%ムチンストック液:ムチン ブタ胃由来(M1778、SIGMA社製)を蒸留水に溶解して遠心後、上清を1N塩酸でpH7.2に調製し、上記のBHI培地と同様に血清ボトルに入れてガス置換後、オートクレーブ処理(121℃、15分間)をして滅菌した。
抱合胆汁酸GDCA:100mMとなるように蒸留水に溶解し、孔径0.20μmのメンブレンフィルター(DISMIC、ADVANTEC社製)を付けた注射針を用いてオートクレーブ処理したボトル(上記と同様にガス置換装置で嫌気性ガスを封入)に注入し、ストックとした。
(1)嫌気チャンバー(ANX-1、ヒラサワ社製)内で、調製した5%ムチン500μLと100mM抱合胆汁酸GDCA100μLを、注射針を用いてそれぞれBHI培地に加え、0.25%ムチンおよび1mM抱合胆汁酸GDCAを含むBHI培地を調製した。
(2)分離源や属種が異なる乳酸菌16株各々と腸内細菌A.muciniphilaを各々MRS培地およびBHI培地(0.25%ムチン含有)で37℃24時間前培養した。
なお、候補となる乳酸菌は、農研機構の有する数千株の乳酸菌から、食品由来であることと属種や分離源が異なることを基準として選抜したものである。16株の内訳は、Pediococcus属、Leuconostoc属、Weissella属、Loigolactobacillus属、Lactocaseibacillus属、Lactococcus属が各1株、Levilactobacillus属が2株、Lactiplantibacillus属、Latilactobacillus属が各3株である。
(3)前培養した腸内細菌A.muciniphilaについて、その培養液100μLを5mLのBHI培地(0.25%ムチン、1mM抱合胆汁酸GDCA)に懸濁し、96-well-マイクロプレートに200μLずつ接種し、共培養する乳酸菌は、BHI培地で10%に希釈し、2μLずつ各ウェルに接種した。
(4)37℃、48時間嫌気培養した後、マイクロプレートリーダー(GloMax DiscoverGM3000、Promega社製)で濁度を測定した。
【0017】
GDCAの存在下では、試験に供した乳酸菌の増殖が弱いことが確認されたため、この実験においては、各乳酸菌と腸内細菌A.muciniphilaが混合状態での濁度を測定し、「濁度≒腸内細菌A.muciniphilaの生育」と判断した。
結果を図2に示す。
図2に示したように、グラフ中の「菌株5」との共培養では、他の菌株と比較して濁度が顕著に高く、腸内細菌A.muciniphilaの生育が良いと判断された。そこで、この「菌株5」を候補株として選抜し、乳酸菌A40株と命名した。
【0018】
<実施例2:抱合胆汁酸GDCA存在下での培養試験>
使用した培地および調整方法は実施例1と同じである。
(1)BHI培地(0.25%ムチン含有)で前培養した腸内細菌A.muciniphilaと乳酸菌A40株を、各々100μLおよび200μLずつ、1mM抱合胆汁酸GDCAを含有する、あるいは含有しないBHI培地(0.25%ムチン含有)に接種し、37℃、48時間培養した。培養は、嫌気性ガス(75%窒素、20%二酸化炭素、5%水素)でガス置換された血清ボトル(ブチル栓で密閉)を用いて行った。
(2)培養後、リン酸バッファーで各段階希釈し、以下に示す寒天培地にプレーティングし、生菌数を測定した。(寒天培地は、1.2%の精製寒天末(微生物培養用、ナカライテスク社製)を使用した。)
乳酸菌数測定培地:MRS寒天培地(好気培養)
腸内細菌A.muciniphila数測定培地:BHI寒天培地にリチウムピロシン栄養補助剤(69872、Millipore社製)を加えたもの。
【0019】
結果を図3に示す。
図3のグラフの左側は、抱合胆汁酸GDCAを添加していない培地で培養した場合の菌数で、右側が抱合胆汁酸GDCAを添加した培地で培養した場合の菌数である。グラフ横軸の「Akm単独」は腸内細菌A.muciniphila単独培養時の菌数を、「Akm」は腸内細菌A.muciniphilaの菌数を、「A40」は乳酸菌A40株の菌数を示す。
図3に示すとおり、乳酸菌A40株と腸内細菌A.muciniphilaを、抱合胆汁酸GDCAを含む培地で共培養すると、腸内細菌A.muciniphila単独で培養した場合と比べて、腸内細菌A.muciniphilaの菌数が増加したことが確認できた。菌数の増加、すなわち、腸内細菌A.muciniphilaの増殖が確認されたことから、腸内細菌A.muciniphilaの生育が改善されたことを意味するものと理解できる。
また、腸内細菌A.muciniphila単独培養よりも共培養で腸内細菌A.muciniphilaの菌数が多いという結果は、乳酸菌A40株は腸内細菌A.muciniphilaと競合しないことを示すものである。原因は不明であるが、抱合胆汁酸GDCA存在下で乳酸菌A40株の菌数が著しく減少していることも、競合しない結果を反映するものと考える。栄養面で制限のあるIn vitro試験において競合しない結果から、栄養分が供給され恒常的な環境が維持される実際の腸内でも競合することはないと考えられる。
【0020】
<実施例3:抱合胆汁酸GDCA・抱合胆汁酸TDCA存在下での培養試験>
次に、実際のヒトの腸内においては、抱合胆汁酸TDCAと抱合胆汁酸GDCAが混在しているため、その2つの抱合胆汁酸を共に添加した培地を用いて、乳酸菌A40株及び、基準株JCM1149株の、腸内細菌A.muciniphilaに対する増殖改善効果を比較する試験を実施した。
基準株JCM1149株は、抱合胆汁酸を脱抱合する活性が強いことが知られており(非特許文献2)、プロバイオティクスとしても利用されている乳酸菌である。
実施例2の方法と同様に、BHI培地(0.25%ムチン)に抱合胆汁酸GDCAおよび抱合胆汁酸TDCA(T0875、SIGMA社製)を各1mMとなるように添加し、37℃、48時間培養後、菌数測定を行った。
【0021】
結果を図4に示す。
図4のグラフにおいて、横軸の「+(プラス)」は抱合胆汁酸TDCA及びGDCAを含む培地で培養したことを、「-(マイナス)」は抱合胆汁酸を含まない培地で培養したことを示す。また、黒色棒グラフは腸内細菌A.muciniphilaの菌数、横縞模様の棒グラフは乳酸菌A40株又は基準株JCM1149株の菌数を示す。
その結果、図4に示すように、2つの抱合胆汁酸を添加した培養液中で、腸内細菌A.muciniphilaと、乳酸菌A40株又は基準株JCM1149株を共培養した場合、矢印2で示した乳酸菌A40株と共培養した方が、矢印3で示した基準株JCM1149株と共培養したものよりも腸内細菌A.muciniphilaの菌数が増加することが確認された。
また、腸内細菌A.muciniphilaを、2つの抱合胆汁酸を添加した培養液中で単独培養した場合(矢印1)と比較しても、乳酸菌A40株と共培養した方(矢印2)が腸内細菌A.muciniphilaの菌数が高い傾向にあることが確認された。すなわち、抱合胆汁酸GDCAと抱合胆汁酸TDCAが両方存在しても乳酸菌A40株の効果は維持される。乳酸菌A40株による腸内細菌A.muciniphilaの胆汁酸ストレス緩和作用は、基準株JCM1149株よりも優れていると考えられる。
また、胆汁酸存在下での乳酸菌A40株の挙動をみると、単独培養よりも共培養でその菌数は著しく減少していることが確認された。すなわち、腸内細菌A.muciniphilaから何らかの生育阻害を受けている可能性があり、腸内細菌A.muciniphilaに対して劣勢の立場になりつつ、腸内細菌A.muciniphilaの生育環境を改善する有用な菌であると示唆された。
一方、基準株JCM1149株では単独培養と共培養では菌数に変化はなく、単純に抱合胆汁酸から生育阻害を受けていると考えられる。加えて、基準株JCM1149株が生成する乳酸により、腸内細菌A.muciniphilaの生育環境は、共培養を継続すると悪化することが予想される。
【0022】
実施例2、3の結果をまとめると、本発明の乳酸菌A40株は、基準株JCM1149株よりも、共培養時に腸内細菌A.muciniphilaの胆汁酸ストレスを緩和できることが明らかとなった。
また、本発明の乳酸菌A40株自体は、図4に示すとおり、共培養により腸内細菌A.muciniphilaの生育環境を改善した後に著しく減少するため、乳酸生成によるpH低下が小さく、炭素源や窒素源、ビタミン類等の栄養源の競合も少なく、腸内細菌A.muciniphilaの増殖に影響を与えることがない点において、基準株JCM1149株と大きく相違し、この点において顕著な効果を発揮するものである。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の新規乳酸菌A40株の摂取により、腸内で腸内細菌A.muciniphilaの生育環境を改善させて、例えば、肥満II型糖尿病を改善させるなどの疾病改善効果が期待でき有用である。
また、本発明の新規乳酸菌A40株は、飲食物やサプリメントに含有させて使用することもできるため、腸内で腸内細菌A.muciniphilaの生育環境を簡便に改善させる手段として非常に有用である。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
2024123532000001.xml