(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123543
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】品質管理装置、品質管理システム、品質管理プログラムおよび品質管理方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/04 20060101AFI20240905BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20240905BHJP
【FI】
H01M10/04 Z
H01M10/058
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031049
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】尼崎 新平
(72)【発明者】
【氏名】高原 稔幸
(72)【発明者】
【氏名】篠原 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】竹崎 泰一
(72)【発明者】
【氏名】田尻 力也
【テーマコード(参考)】
5H028
5H029
【Fターム(参考)】
5H028AA05
5H028BB11
5H028BB17
5H029AJ14
5H029CJ30
(57)【要約】
【課題】
電池材料や仕掛品の異物検査データから電池検査工程における歩留りを予測して製造ロスコストを低減できる品質管理装置を提供する。
【解決手段】
品質管理装置10が、電池製造工程(電極製造工程31、セル製造工程32)において電池材料あるいは仕掛品に不純物として混入する異物を計測する異物検査装置21からの異物検査データと、電池検査工程33において電池製造工程で製造された電池の電気的特性を検査する電池検査装置22からの電池検査データとの関係を定式化した関係式を格納したモデル格納部11と、異物検査データを入力としてモデル格納部11の関係式を用いて電池検査工程における歩留り予測値を計算する歩留り予測値計算部12と、歩留り予測値を表示装置23に表示させる歩留り予測値表示部13と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池製造工程において電池材料あるいは仕掛品に不純物として混入する異物を計測する異物検査装置からの異物検査データと、電池検査工程において前記電池製造工程で製造された電池の電気的特性を検査する電池検査装置からの電池検査データとの関係を定式化した関係式を格納したモデル格納部と、
前記異物検査データを入力として前記関係式を用いて前記電池検査工程における歩留り予測値を計算する歩留り予測値計算部と、
前記歩留り予測値を表示装置に表示させる歩留り予測値表示部と、を有することを特徴とする品質管理装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記関係式は、前記異物検査データに基づいて計算された異物特徴量と、前記電池検査データに基づいて計算された電池特徴量との関係を定式化した関係式であることを特徴とする品質管理装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記異物特徴量は、異物体積、異物面積、異物厚み、異物短径、異物長径、異物のアスペクト比、画像データ、異物混入数・確率、異物の元素組成、これらと相関のある異物検査データ、これらの統計量、これらの組み合わせ、のうち少なくとも1つ以上を含み、
前記電池特徴量は、前記電池検査工程における歩留り、充電容量、放電容量、充電容量と放電容量の比、電圧低下率、内部抵抗、自己放電電流、これらの統計量、これらの組み合わせ、のうち少なくとも一つ以上を含む、ことを特徴とする品質管理装置。
【請求項4】
請求項2において、
前記異物検査装置が、X線を測定原理とした装置であることを特徴とする品質管理装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記異物特徴量は、X線による異物計測情報をマッピングした画像データを含むことを特徴とする品質管理装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記電池材料の廃棄コスト原単位、前記仕掛品の廃棄コスト原単位、電池セルの廃棄コスト原単位、生産停止コスト原単位、のうち少なくとも1つ以上の情報を含む廃棄コスト情報を格納する廃棄コスト情報格納部と、
前記歩留り予測値および前記廃棄コスト情報から、予め設定された対策方法毎の製造ロスコストを計算し、前記製造ロスコストの小さい順に対策方法の推奨度を順位付けする対策方法計算部と、
前記対策方法計算部の計算結果に基づいて、前記対策方法とその推奨度を前記表示装置に表示させる対策方法表示部と、を有することを特徴とする品質管理装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記対策方法計算部は、前記製造ロスコストが最小となる対策方法を実行させる制御信号を製造設備に送信することを特徴とする品質管理装置。
【請求項8】
請求項1において、
前記歩留り予測値が予め設定した管理値の範囲から逸脱した場合に発報指令を発報装置に送信する発報部を有することを特徴とする品質管理装置。
【請求項9】
請求項1に記載の前記品質管理装置と、
請求項1に記載の前記異物検査装置と、を有することを特徴とする品質管理システム。
【請求項10】
請求項9において、
前記異物検査装置が、前記電池製造工程に用いられる製造設備に組み込まれていることを特徴とする品質管理システム。
【請求項11】
請求項9において、
前記異物検査装置が、前記電池製造工程の中の2つの工程の間において前記異物を計測する装置であることを特徴とする品質管理システム。
【請求項12】
計算機システムを、請求項1に記載の前記モデル格納部、前記歩留り予測値計算部、前記歩留り予測値表示部として機能させることを特徴とする品質管理プログラム。
【請求項13】
電池製造工程において電池材料あるいは仕掛品に不純物として混入する異物を計測した異物検査データと、電池検査工程において前記電池製造工程で製造された電池の電気的特性を検査した電池検査データとの関係を予め定式化した関係式と、前記異物検査データとを用いて、前記電池検査工程における歩留り予測値を計算し、前記歩留り予測値を表示することを特徴とする品質管理方法。
【請求項14】
請求項13において、
前記電池材料の廃棄コスト原単位、前記仕掛品の廃棄コスト原単位、電池セルの廃棄コスト原単位、生産停止コスト原単位、のうち少なくとも1つ以上の情報を含む廃棄コスト情報と、前記歩留り予測値から、予め設定された対策方法毎の製造ロスコストを計算し、前記製造ロスコストの小さい順に対策方法の推奨度を順位付けして、前記対策方法とその推奨度を表示することを特徴とする品質管理方法。
【請求項15】
請求項13において、
前記電池材料の廃棄コスト原単位、前記仕掛品の廃棄コスト原単位、電池セルの廃棄コスト原単位、生産停止コスト原単位、のうち少なくとも1つ以上の情報を含む廃棄コスト情報と、前記歩留り予測値から、予め設定された対策方法毎の製造ロスコストを計算し、前記製造ロスコストが最小となる対策方法を実行させる制御信号を製造設備に送信することを特徴とする品質管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、品質管理装置、品質管理システム、品質管理プログラムおよび品質管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の要約には、「二次電池の製造方法であって、組み立てに使用する電極材料の識別情報、および組み立てに使用する電極材料中の使用予定の部分の位置を取得する位置情報取得ステップと、取得した識別情報および位置に基づいて、電極材料中の使用予定の部分の品質情報を取得する品質情報取得ステップと、取得した品質情報に基づいて、電極材料において実際に組み立てに使用する部分を決定する使用部分決定ステップと、を含む。」との記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リチウムイオン電池に代表される二次電池は、電気エネルギーを貯蔵することができ、車載用途等に使用され充放電が繰り返される。例えば、電池製造の過程で材料や雰囲気中に存在する異物や製造設備から発生した異物が電池内部に混入すると、電池内部で微小短絡が発生して自己放電を招き、電気エネルギーを貯蔵する等の電池性能が低下する。そのため、電池の検査工程(エージング工程)で、自己放電量を測定するなどして微小短絡が発生した電池を選別している。電池の選別は歩留り低下を引き起こすため、電池製造の過程で、異物が混入した材料や仕掛品を検知し、廃棄するなどして後工程への流出防止を図ることが好ましい。
【0005】
ところが、異物状態(例えば、元素組成や体積、混入量など)によって電池の自己放電を引き起こす場合と起こさない場合があり、異物が混入した材料や仕掛品をすべて廃棄する対応方法では、過剰に歩留り低下を引き起こし製造ロスコストが増加する要因となる場合があった。製造ロスコストを低減する観点では、異物状態に応じて電池の検査工程における歩留りを予測する必要がある。
【0006】
特許文献1では、電極材料中の欠陥情報を計測し、組立に使用する部分、逆に言うと廃棄する部分、を決定する方法が開示されているが、異物に関しては考慮されておらず、また、異物状態に応じて電池の検査工程における歩留りを予測することについても記載がない。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、電池材料や仕掛品の異物検査データから電池検査工程における歩留りを予測して製造ロスコストを低減できる品質管理装置、品質管理システム、品質管理プログラムおよび品質管理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するために、本発明の品質管理装置は、電池製造工程において電池材料あるいは仕掛品に不純物として混入する異物を計測する異物検査装置からの異物検査データと、電池検査工程において前記電池製造工程で製造された電池の電気的特性を検査する電池検査装置からの電池検査データとの関係を定式化した関係式を格納したモデル格納部と、前記異物検査データを入力として前記関係式を用いて前記電池検査工程における歩留り予測値を計算する歩留り予測値計算部と、前記歩留り予測値を表示装置に表示させる歩留り予測値表示部と、を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の品質管理システムは、前記品質管理装置と、前記異物検査装置と、を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の品質管理プログラムは、計算機システムを、前記モデル格納部、前記歩留り予測値計算部、前記歩留り予測値表示部として機能させることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の品質管理方法は、電池製造工程において電池材料あるいは仕掛品に不純物として混入する異物を計測した異物検査データと、電池検査工程において前記電池製造工程で製造された電池の電気的特性を検査した電池検査データとの関係を予め定式化した関係式と、前記異物検査データとを用いて、前記電池検査工程における歩留り予測値を計算し、前記歩留り予測値を表示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電池材料や仕掛品の異物検査データから電池検査工程における歩留りを予測して製造ロスコストを低減できる。
【0013】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の発明を実施するための形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1の品質管理装置および品質管理システムの一例を示す機能ブロック図。
【
図2】実施例1の品質管理装置のハードウェア構成の一例を説明する図。
【
図3】実施例1の品質管理システムを適用する二次電池製造工程の一例を示す図。
【
図4】実施例1の品質管理装置のモデル格納部に格納する関係式を構築する一例を説明するフローチャート。
【
図5】実施例1の品質管理システムの動作の一例を説明するフローチャート。
【
図6】実施例5の品質管理装置および品質管理システムの一例を示す機能ブロック図。
【
図7】実施例5の品質管理システムの動作の一例を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。実施例は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施することが可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
【0016】
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0017】
各種情報の例として、「テーブル」、「リスト」、「キュー」等の表現にて説明することがあるが、各種情報はこれら以外のデータ構造で表現されてもよい。例えば、「XXテーブル」、「XXリスト」、「XXキュー」等の各種情報は、「XX情報」としてもよい。識別情報について説明する際に、「識別情報」、「識別子」、「名」、「ID」、「番号」等の表現を用いるが、これらについてはお互いに置換が可能である。
【0018】
同一あるいは同様の機能を有する構成要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。また、これらの複数の構成要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【0019】
実施例において、プログラムを実行して行う処理について説明する場合がある。ここで、計算機は、プロセッサ(例えばCPU、GPU)によりプログラムを実行し、記憶資源(例えばメモリ)やインターフェースデバイス(例えば通信ポート)等を用いながら、プログラムで定められた処理を行う。そのため、プログラムを実行して行う処理の主体を、プロセッサとしてもよい。同様に、プログラムを実行して行う処理の主体が、プロセッサを有するコントローラ、装置、システム、計算機、ノードであってもよい。プログラムを実行して行う処理の主体は、演算部であれば良く、特定の処理を行う専用回路を含んでいてもよい。ここで、専用回路とは、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)等である。
【0020】
プログラムは、プログラムソースから計算機にインストールされてもよい。プログラムソースは、例えば、プログラム配布サーバまたは計算機が読み取り可能な記憶メディアであってもよい。プログラムソースがプログラム配布サーバの場合、プログラム配布サーバはプロセッサと配布対象のプログラムを記憶する記憶資源を含み、プログラム配布サーバのプロセッサが配布対象のプログラムを他の計算機に配布してもよい。また、実施例において、2以上のプログラムが1つのプログラムとして実現されてもよいし、1つのプログラムが2以上のプログラムとして実現されてもよい。
【実施例0021】
<品質管理システム20の構成>
図1は、実施例1の品質管理装置および品質管理システムの一例を示す機能ブロック図である。
【0022】
本実施例では、品質管理装置10および品質管理システム20をリチウムイオン電池の製造工程に適用する例を用いて説明する。なお、これに限られず、本実施例の品質管理装置10および品質管理システム20は、リチウムイオン電池以外の二次電池や、一次電池など、電池の製造工程に適用してもよい。
【0023】
電池の製造工程は、大きく分けて、電池製造工程(電極製造工程31およびセル製造工程32)と、電池検査工程33とを有する。各工程の詳細は後述する。
【0024】
実施例1の品質管理システム20は、品質管理装置10と、異物検査装置21と、電池検査装置22と、表示装置23とを有する。品質管理装置10は、モデル格納部11と、歩留り予測値計算部12と、歩留り予測値表示部13と、モデル学習部14とを有する。
【0025】
異物検査装置21は、電池製造工程において電池材料あるいは仕掛品に不純物として混入する異物を計測する装置である。異物検査装置21で計測した異物検査データは、品質管理装置10に送信される。
【0026】
異物検査装置21で計測するデータとしては、例えば、透過X線計測装置や蛍光X線計測装置に代表されるX線、電子顕微鏡に代表される電子線、光学顕微鏡に代表される可視光線、分光分析装置に代表される赤外線、可視光線、紫外線、磁気センサに代表される磁気、などを測定原理とした計測データや、この計測データを画像として再構成したデータなどを用いることができる。
【0027】
異物は、電極やセパレータなどの部材表面だけでなく内部に埋没している場合があるため、異物の計測方法としては部材内部まで透過して計測できる観点から、測定原理としてX線を用いることが望ましい。異物検査装置21は、電極製造工程31とセル製造工程32の少なくとも一つ以上の工程から電池材料や仕掛品に不純物として混入する異物を計測する。電極製造工程31およびセル製造工程32は、後述するようにそれぞれさらに細分化された工程を有するが、異物検査装置21は、この細分化された各工程の前、中、後のいずれかのタイミングで、いずれの材料、仕掛品を計測してもよい。
【0028】
電池検査装置22は、電池検査工程33において、電池製造工程で製造された電池の電気的特性を検査する装置である。具体的には、電池検査装置22は、電池の電気的特性を計測し、電池の自己放電の有無やその程度を計測する。電池検査装置22で計測した電池検査データは、品質管理装置10に送信される。
【0029】
電池検査装置22で計測するデータとしては、例えば、充電容量、放電容量、充電容量と放電容量の比、電圧低下率、内部抵抗、自己放電電流、これらの組み合わせなどである。自己放電が生じた場合、電気エネルギーが消費されるため、充電が完了するのに必要な見かけの充電容量が増加し、放電が完了するのに必要な見かけの放電容量が低下するため、充電容量や放電容量、それらの比から自己放電の有無や程度を判別できる。また、自己放電により電気エネルギーが消費され電池の電圧が減少するため、電圧低下率から自己放電の有無や程度を判別できる。自己放電原因となる正極と負極との間に内部短絡が生じると電池内部の電気抵抗である内部抵抗が減少するため、内部抵抗から自己放電の有無や程度を判別できる。自己放電が生じた場合、電池に一定電圧を印加し続けると自己放電電流を観測できるため、自己放電電流から自己放電の有無や程度を判別できる。更に、ある製造単位(例えば製造ロットや製造日)において、これらの電池検査データの単一の項目あるいは組み合わせが規格内にある確率を、電池検査工程33における歩留りとして扱うことができる。
【0030】
表示装置23は、例えばディスプレイなどであり、品質管理装置10に接続され、品質管理装置10から送信された表示データを表示する装置である。
【0031】
<品質管理装置10の構成>
次に、品質管理装置10における各機能の詳細を説明する。品質管理装置10の各機能は、後述するように計算機システム40においてプログラムを実行することで実現できる。
【0032】
モデル格納部11は、異物検査装置21で計測した異物検査データと電池検査装置22で計測した電池検査データとの関係を定式化した関係式を格納する。この関係式は、後述する歩留り予測値計算部12で使用されるため、それよりも前に、モデル格納部11にこの関係式を予め一つ以上格納しておく。
【0033】
モデル格納部11に格納する関係式は、少なくとも一つ以上の異物検査データから計算した異物特徴量(X1,X2,…)から、少なくとも一つ以上の電池検査データから計算した電池特徴量Yjを予測するための関係式であり、例えばYj=f(X1,X2,…)のような式で表現される。関係式としては、例えば、異物特徴量を説明変数とし電池特徴量を目的変数とした回帰式や分類器を用いることができる。
【0034】
異物特徴量は、異物検査データを変換したものであり、異物体積、異物面積、異物厚み、異物短径、異物長径、異物のアスペクト比、画像データ、異物混入数・確率、異物の元素組成、これらと相関のある異物検査データ、これらの統計量(平均値、中央値、最大値、最小値、標準偏差、分散等)、これらの組み合わせ等のうち少なくとも1つ以上を用いることができる。
【0035】
電池特徴量としては、電池検査工程33における歩留り、充電容量、放電容量、充電容量と放電容量の比、電圧低下率、内部抵抗、自己放電電流、これらの統計量(平均値、中央値、最大値、最小値、標準偏差、分散等)、これらの組み合わせ等のうち少なくとも1つ以上を用いることができる。1つの電池特徴量に対してそれぞれ異物特徴量と電池特徴量との関係を定式化した1つの関係式を構築することができ、モデル格納部11には1つ以上の関係式を格納する。
【0036】
歩留り予測値計算部12は、異物検査装置21で計測した異物検査データを入力として、モデル格納部11に格納された関係式を用いて、電池検査工程33における歩留り予測値を計算する。歩留り予測値計算部12は、歩留り予測値とともに、歩留り予測値以外の電池特徴量の予測値も計算するようにしてもよい。
【0037】
具体的には、歩留り予測値計算部12は、異物検査データから異物特徴量を計算し、関係式を用いて、電池特徴量の予測値を計算する。例えば、電池特徴量の1つである歩留りと異物特徴量との関係を定式化した関係式を用いる場合、歩留り予測値を直接的に計算できる。また、電池特徴量である充電容量、放電容量、充電容量と放電容量の比、電圧低下率、内部抵抗、自己放電電流のうちの1つと異物特徴量との関係を定式化した関係式を用いる場合、その関係式に対応した電池特徴量の予測値を計算でき、その計算結果に基づいて自己放電の程度の予測値を計算できる。そして、自己放電の程度の予測値に基づいて、歩留り予測値を間接的に計算できる。
【0038】
歩留り予測値計算部12は、計算結果を歩留り予測値表示部13に出力する。また、歩留り予測値計算部12は、歩留り予測値だけでなく、計算に用いた異物特徴量や歩留り予測値以外の電池特徴量の予測値を歩留り予測値表示部13に出力してもよい。
【0039】
歩留り予測値表示部13は、歩留り予測値計算部12で計算した歩留り予測値を表示装置23に表示させる。このとき、歩留り予測値以外のデータ、例えば、自己放電の程度の予測値、その他の電池特徴量の予測値、異物特徴量の少なくとも一つ以上を表示するようにしてもよい。各値は、ある製造単位(例えば製造ロットや製造日)ごとに表示してもよい。ここでは、表示装置23に表示させる表示データとして、横軸が製造ロット(Lot.)、縦軸が歩留り予測値を示すグラフと、このグラフ上の各点における詳細として横軸が自己放電の程度の予測値である自己放電度合、縦軸が頻度を示すグラフと、横軸が製造ロット(Lot.)、縦軸が異物特徴量を示すグラフを表示させる例を示している。
【0040】
また、歩留り予測値表示部13は、歩留り予測値が予め設定した管理値の範囲から逸脱した場合には、表示装置23に警告を表示させることで、作業者に警告する機能を有してもよい。
【0041】
モデル学習部14は、異物検査装置21で計測した異物検査データと電池検査装置22で計測した電池検査データとの関係を定式化した関係式を構築し、構築した関係式をモデル格納部11に格納する。モデル学習部14は、モデル格納部11に格納された関係式を読み出し、追加の異物検査データと追加の電池検査データとに基づいて関係式を更新し、更新した関係式をモデル格納部11に格納する機能を有していてもよい。
【0042】
具体的には、モデル学習部14は、異物検査データから異物特徴量を計算し、電池検査データから電池特徴量を計算し、異物特徴量と電池特徴量とに基づいて、統計や機械学習の手法などを用いて関係式を構築または更新する。
【0043】
なお、モデル学習部14の機能を予め品質管理装置10の外部で実現し、予め構築された関係式をモデル格納部11に格納しておく場合は、モデル学習部14を省略してもよい。この場合、電池検査装置22からの電池検査データを品質管理装置10に入力する必要はないので、電池検査装置22を品質管理システム20に含めないようにしてもよい。
【0044】
<品質管理装置10のハードウェア構成>
図2は、実施例1の品質管理装置のハードウェア構成の一例を説明する図である。
【0045】
品質管理装置10の各機能は、計算機システム40においてプログラムを実行することで実現できる。計算機システム40は、プロセッサ41と、メモリ42と、記憶装置43と、入力装置44と、出力装置45と、インターフェース46とを有する。
【0046】
インターフェース46には、異物検査装置21と、電池検査装置22と、表示装置23が接続される。なお、異物検査装置21の代わりに異物検査データを格納したデバイス、電池検査装置22の代わりに電池検査データを格納したデバイスを接続してもよい。また、表示装置23の代わりに計算機システム40が有する出力装置45の表示装置を用いてもよい。
【0047】
入力装置44は図示しないキーボードやマウスやタッチパネルで構成される。出力装置45は図示しない表示装置(ディスプレイ)やスピーカで構成される。記憶装置43は、不揮発性の記憶媒体で構成されて、モデル格納部11等のデータを保持する。
【0048】
メモリ42には、モデル格納部11と、歩留り予測値計算部12と、歩留り予測値表示部13と、モデル学習部14とを実現する品質管理プログラムがロードされてプロセッサ41によって実行される。
【0049】
プロセッサ41は、各機能部のプログラムに従って処理することによって、所定の機能を提供する機能部として稼働する。例えば、プロセッサ41は、歩留り予測値計算プログラムに従って処理することで歩留り予測値計算部12として機能する。他のプログラムについても同様である。なお、モデル格納部11に格納されるデータは、メモリ42または記憶装置43に格納される。さらに、プロセッサ41は、各プログラムが実行する複数の処理のそれぞれの機能を提供する機能部としても稼働する。計算機システム40は、これらの機能部を含むシステムである。
【0050】
<二次電池製造工程の説明>
図3は、実施例1の品質管理システムを適用する二次電池製造工程の一例を示す図である。
【0051】
電極製造工程31では、正極と負極を製造する。正極を構成する材料である活物質、導電助剤、結着材等の一つ以上を調合、混練し、正極スラリーを作成する。スラリーを集電箔である金属箔に塗工し、乾燥、プレスすることで、正極シートを得る。更に正極シートは所定の形状に加工する。このようにして正極を製造することができる。負極も正極と同様の方法で製造することができる。なお、スラリーを集電箔に塗工した後、乾燥、プレスする方法を例に説明したが、例えば固体系(固体、半固体、準固体、疑似固体など様々な名称がある)電池などの電池を構成する材料に応じて、乾燥工程やプレス工程は省略できる場合がある。
【0052】
セル製造工程32の一形態としては、電極製造工程31で製造した正極と負極との間に、後述するセパレータを配置して捲回する工程をへて捲回体を製造する。セル製造工程32の別の形態としては、電極製造工程31で作成した正極と負極との間に、セパレータを配置して積層する工程をへて積層体を製造する。セパレータとは、正極と負極との物理接触を防止しつつLiイオンの移動を可能にする部材である。後述する電解液を使用する場合は、セパレータは電解液を保液するため多孔質材料を含み構成される。また固体系の電池の場合は、セパレータとして、正極と負極との物理接触を防止しつつLiイオンの移動を可能にする材料である固体系の電解質を含み構成することができる。捲回体もしくは積層体(以降では、まとめて電極群と呼ぶ場合がある)は、タブ溶接工程において、電極(正極または負極)に形成されたタブを電気を取り出すための集電部材と溶接する。更に、外装組立工程において、電極群を電池の外装体(例えば電池缶やラミネートシートなど)に入れ、溶接や熱圧着などで外装体を密閉する。その後、注液工程において、電解液を注液し、封止工程において注液孔を封止する。このようにして電池セルを製造することができる。なお、捲回もしくは積層する方法を例に説明したが、本方法に限定する意図はなく、二次電池の製造方法であれば広く適用することができる。また、例えば固体系電池などの電池を構成する材料に応じて、注液工程は省略できる場合がある。
【0053】
電池検査工程33では、セル製造工程32で製造した電池セルの電気的な特性を検査する。例えば、電池を1回以上充放電し電池容量を検査する工程や、電池の自己放電の有無やその程度を検査する工程を含む。電池の自己放電の有無やその程度を検査する方法としては、充放電検査、電圧低下検査、内部抵抗検査、自己放電電流検査等があり、これらの検査を一つあるいは組み合わせることで、電池の自己放電の有無やその程度を検査することができる。
【0054】
このような電池製造の過程では、電池材料に異物が混入している場合や、作業者に付着した異物や雰囲気中に存在する異物が材料や仕掛品に混入する場合や、製造設備や配管が削れる等して発生した異物が仕掛品に混入する場合や、電池部材を加工する際の削り屑等が異物として仕掛品に混入する場合などがある。
【0055】
電池材料や仕掛品に不純物として混入しうる異物としては、純金属や合金等の金属粒子、金属酸化物やガラス等のセラミクス粒子、炭素粒子、有機物、これらの複合物等、がある。便宜上、粒子と表現したが、その形状として球体のみを意図するものではなく、削り屑やバリ、箔状、繊維状等の歪な形状も含むこと意図するものである。また、異物の元素としては、電池の正極材料や負極材料に用いられない元素組成で構成される粒子だけではなく、電池の正極材料や負極材料に用いられる元素組成であっても規格外の形状やサイズの粒子は異物として扱う。異物が混入すると、電池として動作する際に、異物が起点となって正極と負極との間のセパレータを破損・破断させるなどして正極と負極を接触させて内部短絡を引き起こす場合や、正極で異物が溶解し負極で析出しセパレータ内を析出物が貫通することで析出物を介して正極と負極が接触して内部短絡を引き起こす場合等がある。内部短絡は電池の過剰な自己放電を招くため、電池の性能を低下させる。
【0056】
特に、金属粒子を含む異物は、数十μm程度の微小サイズであっても正極で異物が溶解し負極で析出しセパレータ内を析出物が貫通することにより内部短絡を引き起こす場合がある。微小のため管理が難しく、より高度な品質管理が必要である。
【0057】
そこで、本実施例の品質管理システム20を適用することにより、電池検査工程33よりも前に歩留りを予測することができるので、高度な品質管理が可能となる。
【0058】
<関係式構築フローの一例>
図4は、実施例1の品質管理装置のモデル格納部に格納する関係式を構築する一例を説明するフローチャートである。
【0059】
ステップS11では、モデル学習部14が、異物検査装置21で計測した異物検査データを取得する。ステップS12では、モデル学習部14が、取得した異物検査データを異物特徴量に変換する。
【0060】
ステップS13では、モデル学習部14が、異物検査装置21で計測した電池材料や仕掛品を用いて製造した電池について電池検査装置22で計測した電池検査データを取得する。ステップS14では、モデル学習部14が、取得した電池検査データを電池特徴量に変換する。
【0061】
ステップS15では、モデル学習部14が、1つ以上の異物特徴量と任意の電池特徴量との関係を定式化した関係式を構築する。より具体的には、異物特徴量を説明変数とし電池特徴量を目的変数とした回帰式や分類器を関係式として構築する。ステップS16では、モデル学習部14が、構築した関係式をモデル格納部11に格納する。ステップS17では、別の電池特徴量に対しても関係式を構築する場合(yes)はステップS15に戻り、これ以上関係式を構築しない場合(no)は終了する。
【0062】
<品質管理システム20の動作の一例>
図5は、実施例1の品質管理システムの動作の一例を説明するフローチャートである。
【0063】
ステップS21では、歩留り予測値計算部12が、異物検査装置21で計測した異物検査データを取得する。ステップS22では、歩留り予測値計算部12が、取得した異物検査データを異物特徴量に変換する。ステップS23では、歩留り予測値計算部12が、異物特徴量から任意の電池特徴量を予測する関係式をモデル格納部11から読み出す。ステップS24では、異物特徴量と関係式を用いて電池特徴量の予測値を計算する。ステップS26では、別の電池特徴量を計算する場合(yes)はステップS23に戻り、これ以上電池特徴量を計算しない場合(no)は次のステップS26へ進む。なお、歩留り予測値を直接計算する場合は、ステップS23からステップS25の間のループの中で、電池特徴量の予測値の中に歩留り予測値を含めるようにする。また、歩留り予測値を間接的に計算する場合は、ステップS25とステップS26の間に、歩留り予測値計算部12が、ステップS23からステップS25の間のループで計算した電池特徴量の予測値に基づいて歩留り予測値を計算するステップを追加すればよい。ステップS26では、歩留り予測値表示部13が、歩留り予測値を含む計算結果を表示装置に出力する。
【0064】
<効果>
実施例1によれば、電池材料や仕掛品の異物検査データから電池検査工程33における歩留りを予測して製造ロスコストを低減できる。具体的には、電極製造工程31やセル製造工程32といった上流の電池製造工程の段階で、下流の電池検査工程33を行う前に、電池検査工程33における歩留りを予測することができるので、歩留り予測値を見てから異物が混入した材料や仕掛品を廃棄すべきか否かを判断できる。したがって、例えば歩留り予測値が高い場合には、異物が混入した材料や仕掛品を廃棄せずに生産を継続するとの判断も可能になる。これにより、異物が混入した材料や仕掛品をすべて廃棄するという過剰廃棄が減るので、製造ロスコストを低減できる。
【0065】
また、歩留り予測値を予め知ることができるので、歩留り予測値が予め設定した管理値の範囲から逸脱した場合には、作業者に警告するという対応を取ることも可能になる。
電極製造工程31で製造される正極や負極といった電極は、塗工工程で電極箔に電極スラリーを塗布し、数十μmから数百μmの厚みのシート状の電極部材となる場合がある。また、セパレータは数十μmの厚みのシート状の部材である場合がある。このように厚みのある電極やセパレータでは、異物は必ずしも電極やセパレータの表面に露出しておらず、内部に埋没して混入している場合がある。電極やセパレータに埋没した異物を計測するためには、部材を透過する測定原理の異物検査装置で計測することが好ましい。例えば、透過X線や蛍光X線は、電極やセパレータを透過して計測することができる。
透過X線計測装置では、電極やセパレータにX線を照射し、透過したX線の強度(輝度と称する場合がある)を測定する。X線が電極やセパレータを透過すると、X線が吸収され、透過X線の輝度が低下する。異物が存在する場合、異物と電極やセパレータとでX線の吸収量が異なるために、異物がない部分と比べ透過X線の輝度が低下、あるいは増加する。したがって、透過X線の輝度変化量をマッピングすることで、異物の有無や異物の大きさと関係のある情報等を異物検査データとして計測できる。
透過X線計測装置で計測できる異物検査データとしては、透過X線の輝度あるいは輝度変化量などの異物計測情報、透過X線の輝度あるいは輝度変化量などの異物計測情報をマッピングした画像データ、検出された異物の個数などがある。異物特徴量として、異物検査データを用いることができる。また、異物特徴量として、異物検査データを変換し、異物体積、異物面積、異物厚み、異物短径、異物長径、異物のアスペクト比、画像データ、異物混入数・確率、これらと相関のある異物検査データ、これらの統計量(平均値、中央値、最大値、最小値、標準偏差、分散等)、これらの組み合わせ等を用いることができる。
蛍光X線測定装置では、電極やセパレータにX線を照射し、蛍光X線のエネルギーを測定する。蛍光X線のエネルギーは元素固有の値をとるため、蛍光X線のエネルギーから元素組成を特定できる。異物が存在する場合、異物と電極やセパレータとで元素組成が異なるために、エネルギーの異なる蛍光X線が計測される。蛍光X線のエネルギーをマッピングすることで、異物の有無や異物の大きさ、異物の元素組成と関係のある情報等を異物検査データとして計測できる。
蛍光X線計測装置で計測できる異物検査データとしては、蛍光X線のエネルギーなどの異物計測情報、蛍光X線のエネルギーなどの異物計測情報をマッピングした画像データ、検出された異物の個数などがある。異物特徴量として、異物検査データを用いることができる。また、異物特徴量として、異物検査データを変換し、異物体積、異物面積、異物厚み、異物短径、異物長径、異物のアスペクト比、画像データ、異物混入数・確率、異物の元素組成、これらと相関のある異物検査データ、これらの統計量(平均値、中央値、最大値、最小値、標準偏差、分散等)、これらの組み合わせ等を用いることができる。
X線を測定原理とした異物検査装置を用いる場合、異物特徴量は、X線による異物計測情報をマッピングした画像データを含むことが望ましい。これにより、機械学習を用いた高精度な予測が可能となる。