(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123614
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】水処理設備の状況診断支援システム
(51)【国際特許分類】
C02F 1/00 20230101AFI20240905BHJP
G06Q 50/06 20240101ALI20240905BHJP
【FI】
C02F1/00 D
G06Q50/06
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031183
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】山本 愛美
(72)【発明者】
【氏名】大月 孝之
(72)【発明者】
【氏名】小塚 泉
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC06
5L050CC06
(57)【要約】
【課題】異常要因と推定される複数の状況の対応優先順位を決定する。
【解決手段】本実施形態による水処理設備の状況診断支援システムは、水処理設備内の水処理機器について、複数の状況と観察情報との関係性をベイジアンネットワークにより表現した確率モデルと、前記複数の状況の各々に設定された影響度の情報とを記憶する記憶部21と、前記確率モデルと、前記水処理設備から取得した観察情報とを用いて、前記複数の状況の各々の発生確率を示す確信度を算出する確率分布算出部201と、前記複数の状況の各々について、前記確信度及び前記影響度に基づいてリスク評価点を算出するリスク評価点算出部202と、前記リスク評価点に基づいて、前記複数の状況の対応優先順位を決定する優先順位決定部203と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水処理機器を有する水処理設備の状況診断支援システムであって、
前記水処理機器について、複数の状況と観察情報との関係性をベイジアンネットワークにより表現した確率モデルと、前記複数の状況の各々に設定された影響度の情報とを記憶する記憶部と、
前記確率モデルと、前記水処理設備から取得した観察情報とを用いて、前記複数の状況の各々の発生確率を示す確信度を算出する確率分布算出部と、
前記複数の状況の各々について、前記確信度及び前記影響度に基づいてリスク評価点を算出するリスク評価点算出部と、
前記リスク評価点に基づいて、前記複数の状況の対応優先順位を決定する優先順位決定部と、
を備える状況診断支援システム。
【請求項2】
前記リスク評価点算出部は、前記確信度に前記影響度を乗じて前記リスク評価点を算出する、請求項1に記載の状況診断支援システム。
【請求項3】
前記リスク評価点算出部は、前記確信度に、水処理機器毎の影響度と状況毎の影響度とを乗じて前記リスク評価点を算出する、請求項1に記載の状況診断支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理設備の状況診断支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水処理設備では、センサにより水質や流量等が監視されており、センサ測定値が閾値を超過した場合、対応策を実行すべき異常が生じていると判断される。
【0003】
水処理設備は、多数の機器が連結して構成されており、あるセンサの測定値が閾値を超えた場合、その要因となる状況が複数推定される。従来、要因と推定される複数の状況のうち、どの状況への対応策から実行していくかは、現場の運転員が判断していた。
【0004】
そのため、運転員の知識や経験によって対応レベルが変わり、迅速に適切な対応をとることが困難な場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、異常要因と推定される複数の状況の対応優先順位を決定する水処理設備の状況診断支援システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] 水処理機器を有する水処理設備の状況診断支援システムであって、
前記水処理機器について複数の状況と観察情報との関係性をベイジアンネットワークにより表現した確率モデルと前記複数の状況の各々に設定された影響度の情報とを記憶する記憶部と、
前記確率モデルと前記水処理設備から取得した観察情報とを用いて、前記複数の状況の各々の発生確率を示す確信度を算出する確率分布算出部と、
前記複数の状況の各々について前記確信度及び前記影響度に基づいてリスク評価点を算出するリスク評価点算出部と、
前記リスク評価点に基づいて前記複数の状況の対応優先順位を決定する優先順位決定部と、
を備える状況診断支援システム。
【0008】
[2] 前記リスク評価点算出部は、前記確信度に前記影響度を乗じて前記リスク評価点を算出する、[1]に記載の状況診断支援システム。
【0009】
[3] 前記リスク評価点算出部は、前記確信度に、水処理機器毎の影響度と状況毎の影響度とを乗じて前記リスク評価点を算出する、[1]に記載の状況診断支援システム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、異常要因と推定される複数の状況の対応優先順位を決定できるため、運転員の知識・経験に依存せずに、迅速に適切な対応策を実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る水処理設備状況診断支援システムの概略構成図である。
【
図2】ベイジアンネットワークを用いた水処理機器の検知対象シチュエーションの確率モデルの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明について詳細に説明する。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係る状況診断支援システム2は、複数の水処理機器を有する水処理設備1の状況診断支援を行うものである。水処理設備1の構成は特に限定されないが、例えば、順に連結された凝集槽11、除濁膜装置12、MF膜(精密濾過膜)分離装置13、RO膜(逆浸透膜)分離装置14等の水処理機器を備える。
【0014】
水処理設備1を構成する複数の水処理機器には、薬注量、給水量、処理水量、処理水質などを測定する様々なセンサが設置されている。
【0015】
状況診断支援システム2は、演算装置20、記憶部21及び表示部22を備える。演算装置20は例えばコンピュータであり、確率分布算出部201、リスク評価点算出部202、及び優先順位決定部203を有する。確率分布算出部201、リスク評価点算出部202、及び優先順位決定部203はハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。例えば、確率分布算出部201、リスク評価点算出部202、及び優先順位決定部203の機能は、コンピュータのCPU、RAM、ROMなどで構成され、RAMやROM、ハードディスクや半導体メモリ等からなる記憶部21に記憶されたプログラムを実行することにより実現される。
【0016】
状況診断支援システム2は、水処理設備1のセンサと通信を行う通信部を備えていてもよい。状況診断支援システム2は、通信部を用いて、センサ測定値をリアルタイムに取得することができる。
【0017】
記憶部21には、水処理設備1の状況と観察情報との定性的な因果関係をグラフ構造で表現するモデル(因果関係モデル)が記憶されている。例えば、ベイジアンネットワークを用いて、検知したいシチュエーション(状況)と観察情報との関係性を水処理機器毎にモデリングする。観察情報とは、水処理機器に設置されたセンサで測定された値や、サンプリング水を分析装置で分析した結果等である。
【0018】
図2に、水処理設備1の凝集槽11における因果関係モデルの一例を示す。ベイジアンネットワークにおけるノードとして、シチュエーションノード、オブザベーションノード及びロジックノードの3種類のノードを定義した。
【0019】
シチュエーションノード(
図2のSTA1~STA7)は、検知対象の状況を表すノードである。
【0020】
オブザベーションノード(
図2のOBS1~OBS5)は、観察情報を表すノードである。
【0021】
ロジックノードは、ノードを接続する論理ノードである。
図2では、ROOT、OR、MUL及びNEGの4種類のノードがある。ROOTノード(
図2のROOT1~ROOT4)は、入力情報そのものを表現し、他のノードからの入力が無いノードであり、モデルの入力境界を規定する。ORノード(
図2のOR1、OR2)は、2入力の論理和を確率分布として表現したノードである。NEGノード(
図2のNEG1)は、1入力の反転を確率分布として表現したノードである。MULノード(
図2のMUL1、MUL2)は、2入力の乗算を確率分布として表現したノードである。その他、2入力の和を確率分布として表現するADDノード、2入力の差を確率分布として表現するSUBノードがある。
【0022】
ベイジアンネットワークは、数値の離散化に基づく頻度分布により、確率分布を表現する。本実施形態では、離散化は、LL、L、D、H、HHの5段階の状態変数で表現した。数値情報を表現する場合、LLは非常に低い、Lは低い、Dは設計想定、Hは高い、HHは非常に高い、という工学的意味合いを持つ。
【0023】
状態発生を表現する場合、LLは設計想定と比較して発生している可能性は非常に低い、Lは発生している可能性は低い、Dは設計想定レベルの発生、Hは設計想定に対して発生している可能性が高い、HHは発生している可能が非常に高い、という工学的意味合いを持つ。
【0024】
上記の離散化は、工学的意味合いを踏まえた数値の離散化であるため、順序関係があり、正規化した数値区間の離散化を行う実装が可能である。本実装では、0.0~2.0の数値範囲を正規化した数値範囲とし、この数値範囲を5区間に分割して実装した。LLは0.0~0.4、Lは0.4~0.8、Dは0.8~1.2、Hは1.2~1.6、HHは1.6~2.0に対応させた。
【0025】
モデル構築では、入力情報そのものを表現する、自身への他のノードからの入力がないノード(「入力ノード」と呼ぶ)の確率分布(「事前確率分布」と呼ぶ)を設定する。また、自身への他のノードからの入力があり、他のノードの状態に応じた特定の状態を表現するノード(「中間ノード」と呼ぶ)に対して、入力ノードとの確率的関係を表現する条件付き確率分布を設定する。
【0026】
事前確率分布及び条件付き確率分布は、専門家の経験・主観的な見解を含む知見の聞き取りに基づく値でもよいし、多数の実データの頻度情報に基づく値でもよい。
【0027】
演算装置20の確率分布算出部201は、記憶部21から因果関係モデルを取り出し、観察情報が得られる毎に、事前確率分布と新たな観察情報とに基づいて、確率分布を修正し、事後確率分布を求める。
【0028】
また、確率分布算出部201は、入力情報の確率分布と各ノードの条件付き確率分布とに基づく、ベイズ定理を利用した各ノードの確率分布(推論による「事後確率分布」と呼ぶ)を計算する。
【0029】
確率分布算出部201は、事後確率の平均値を確信度として算出する。確信度は、後述するリスク評価点の算出に使用される。
【0030】
記憶部21には、ベイジアンネットワークのシチュエーションノードで表された状況毎の影響度の情報が記憶されている。影響度は、状況が生じた場合の水処理への影響の大きさを表すものであり、水処理機器毎の影響度、及び状況毎の影響度を含む。例えば、影響度は、専門家の経験・主観的な見解を含む知見の聞き取りに基づいて決定することができ、1~10の点数が割り当てられる。影響度の一例を以下の表1に示す。
【0031】
【0032】
リスク評価点算出部202は、下記のような確信度と影響度との乗算により、状況毎のリスク評価点を算出する。
リスク評価点=設備毎の影響度×状況毎の影響度×確信度
【0033】
取得した観察情報により、
図2のオブザベーションノードOBS2の給水水量と、オブザベーションノードOBS5の処理水MFFがHH(非常に高い)となった場合に算出される各シチュエーションノードの確信度とリスク評価点の例を以下の表2に示す。
【0034】
【0035】
優先順位決定部203は、リスク評価点の高い順に対応優先順位を決定し、表示部22に表示する。表2に示す例では、リスク評価点が最も高いシチュエーションノードSTA7に対応する凝集不良への対応を最初に実行するように運転員に提示する。
【0036】
このように、本実施形態によれば、水処理設備を構成する各水処理機器をベイジアンネットワークでモデル化し、観察情報を入力する毎に動的に変化する確信度(発生確率)と、事前に設定された影響度とに基づいて状況毎のリスク評価点を算出し、対応優先順位を決定し、運転員に提示するため、運転員の知識・経験に依存せずに、迅速に適切な対応策を実行できる。
【0037】
上記実施形態では、影響度と確信度との乗算によりリスク評価点を算出する例について説明したが、確率分布の数値範囲を変えて乗算以外の計算手法でリスク評価点を求められるようにしてもよい。
【0038】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 水処理設備
2 状況診断支援システム
201 確率分布算出部
202 リスク評価点算出部
203 優先順位決定部
【手続補正書】
【提出日】2024-05-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水処理機器を有する水処理設備の状況診断支援システムであって、
前記水処理機器について、複数の状況と観察情報との関係性をベイジアンネットワークにより表現した確率モデルと、前記複数の状況の各々に設定された影響度である状況毎の影響度及び水処理機器毎の影響度の情報とを記憶する記憶部と、
前記確率モデルと、前記水処理設備から取得した観察情報とを用いて、前記複数の状況の各々の発生確率を示す確信度を算出する確率分布算出部と、
前記複数の状況の各々について、前記確信度、前記状況毎の影響度及び水処理機器毎の影響度に基づいてリスク評価点を算出するリスク評価点算出部と、
前記リスク評価点に基づいて、前記複数の状況の対応優先順位を決定する優先順位決定部と、
を備える状況診断支援システム。
【請求項2】
前記リスク評価点算出部は、前記確信度に、水処理機器毎の影響度と状況毎の影響度とを乗じて前記リスク評価点を算出する、請求項1に記載の状況診断支援システム。