(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123751
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】カキの品質判定方法及びその品質判定システム
(51)【国際特許分類】
G06T 7/00 20170101AFI20240905BHJP
G06V 10/77 20220101ALI20240905BHJP
G06V 20/68 20220101ALI20240905BHJP
A01K 61/90 20170101ALI20240905BHJP
G06Q 50/02 20240101ALI20240905BHJP
【FI】
G06T7/00 300F
G06V10/77
G06V20/68
A01K61/90
G06Q50/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031400
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161355
【弁理士】
【氏名又は名称】野崎 俊剛
(72)【発明者】
【氏名】袁 春紅
(72)【発明者】
【氏名】盧 忻
(72)【発明者】
【氏名】高木 浩一
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏一郎
(72)【発明者】
【氏名】今野 晃市
(72)【発明者】
【氏名】高橋 克幸
(72)【発明者】
【氏名】董 師良
(72)【発明者】
【氏名】備前 椋介
(72)【発明者】
【氏名】林 蒼太
【テーマコード(参考)】
2B104
5L049
5L050
5L096
【Fターム(参考)】
2B104AA26
2B104GA01
5L049CC01
5L050CC01
5L096AA09
5L096CA18
5L096FA32
5L096FA62
5L096FA67
5L096FA68
5L096JA11
5L096KA04
(57)【要約】
【課題】現場で迅速に殻を開けることなく、カキの得率、活力、鮮度に関する品質判定を非侵襲で即時判定できるカキの品質判定技術を提供すること。
【解決手段】カキの品質判定方法は、二枚の貝殻付きのカキ50の品質を判定するものである。学習用のカキの外形を3次元スキャナー25で測定して作成した3次元モデルデータから外形の特徴値である3次元外形特徴を取得し、学習用のカキを計測して生化学指標を取得することでデータベースを構築し、教師データとしての3次元外形特徴から主成分分析方法を用いた機械学習により3次元外形特徴の特徴量を抽出し生化学指標に関連付けて選別モデルを学習し、品質判定の対象となるカキを3次元スキャナーで測定して作成した3次元モデルデータから3次元外形特徴を取得し、最も近い選別モデルに基づく外形特徴から品質判定の対象となるカキの活力・鮮度を推定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二枚の貝殻付きのカキの品質を判定するカキの品質判定方法であって、
学習用の前記カキの外形を3次元スキャナーで測定して作成した3次元モデルデータから外形の特徴値である3次元外形特徴を取得し、学習用の前記カキを計測して生化学指標を取得することでデータベースを構築する3次元外形特徴・生化学指標データベース構築工程と、
前記データベースの教師データとしての前記3次元外形特徴から主成分分析方法を用いた機械学習により前記3次元外形特徴の特徴量を抽出し前記生化学指標に関連付けて選別モデルを学習する選別モデル学習工程と、
品質判定の対象となる前記カキを3次元スキャナーで測定して作成した3次元モデルデータから3次元外形特徴を取得し、最も近い前記選別モデルに基づく外形特徴から品質判定の対象となる前記カキの活力・鮮度を推定するカキの品質判定工程とを有することを特徴とするカキの品質判定方法。
【請求項2】
請求項1記載のカキの品質判定方法であって、
前記3次元外形特徴・生化学指標データベース構築工程では、前記3次元外形特徴は、殻高/殻長、平均扁平率、前後平均扁平率の差の絶対値、中心軸の曲率、中心軸の回転角を使用し、
前記殻高/殻長は、前記カキの殻高と殻長から求められ、
前記平均扁平率は、前記カキの外形から近似曲線に基づいて中心軸を推定し、この中心軸に垂直な任意の枚数の断面を等間隔で生成し、前記カキの外形を表す点から最も近い前記断面に投影点を求め、各前記断面の前記投影点に楕円を当てはめて各楕円の扁平率を計算し、任意の個数の前記扁平率から平均を計算することで求められ、
前記前後平均扁平率の差の絶対値は、前後に隣り合う任意の組の前記楕円に対して前記平均扁平率の差の絶対値を計算することで求められ、
前記中心軸の曲率は、前記中心軸から求められ、
前記中心軸の回転角は、前記カキの外形を3次元スキャナーで測定した点群データに楕円体を当てはめ、前記楕円体に直交した軸で定義した平面により前記中心軸の回転角を計算することで求められることを特徴とするカキの品質判定方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のカキの品質判定方法であって、
前記3次元外形特徴・生化学指標データベース構築工程では、生化学指標は、ATP関連化合物の組成である鮮度指標としてのK値、ATP関連化合物の組成値である活力指標としてのA.E.C.値、アルギニンリン酸の含有量、pH値、グリコーゲンの含有量のいずれか又はその組み合わせを使用することを特徴とするカキの品質判定方法。
【請求項4】
二枚の貝殻付きのカキの品質を判定するカキの品質判定システムであって、
教師データ作成部と、生化学指標測定部と、解析部と、品質判定対象撮影表示部とを備え、
前記教師データ作成部は、前記カキの外形を測定する3次元スキャナーと、この3次元スキャナーで測定した前記カキの外形を座標値からなる点群データとして表すCAD部とを備え、
学習用の前記カキの外形を前記3次元スキャナーで測定し、作成した3次元モデルデータから外形の特徴値である3次元外形特徴として、殻高/殻長、平均扁平率、前後平均扁平率の差の絶対値、中心軸の曲率、中心軸の回転角を取得し、
前記殻高/殻長は、前記カキの殻高と殻長から求められ、
前記平均扁平率は、前記カキの外形から近似曲線に基づいて中心軸を推定し、この中心軸に垂直な任意の枚数の断面を等間隔で生成し、前記カキの外形を表す点から最も近い前記断面に投影点を求め、各前記断面の前記投影点に楕円を当てはめて各楕円の扁平率を計算し、任意の個数の前記扁平率から平均を計算することで求められ、
前記前後平均扁平率の差の絶対値は、前後に隣り合う任意の組の前記楕円に対して前記平均扁平率の差の絶対値を計算することで求められ、
前記中心軸の曲率は、前記中心軸から求められ、
前記中心軸の回転角は、前記カキの外形を3次元スキャナーで測定した点群データに楕円体を当てはめ、前記楕円体に直交した軸で定義した平面により前記中心軸の回転角を計算することで求められるものであり、
前記生化学指標測定部は、少なくともATP関連化合物の組成である鮮度指標としてのK値、ATP関連化合物の組成値である活力指標としてのA.E.C.値、アルギニンリン酸の含有量、pH値、グリコーゲンの含有量のいずれか又はその組み合わせを含む生化学指標を計測する計測機器であり、
前記解析部は、学習用の前記3次元モデルデータ及び前記3次元外形特徴と、これらの3次元外形特徴に関連した前記生化学指標とを含み構成されたデータベースを備え、
前記データベースの教師データとしての前記3次元外形特徴から主成分分析方法を用いた機械学習により前記3次元外形特徴の特徴量を抽出し前記生化学指標に関連付けて選別モデルを学習するものであり、
前記品質判定対象撮影表示部は、品質判定の対象となる前記カキを3次元スキャナーで測定して作成した3次元モデルデータを用い、前記解析部で判定用の前記3次元モデルデータと最も近い前記選別モデルを推定することにより品質判定の対象となる前記カキの品質を判定し、前記生化学指標を表示するものであることを特徴とするカキの品質判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貝殻付きのカキの品質を判定するカキの品質判定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カキ(牡蠣)出荷における生食用の割合は増加しており、カキの安全性および鮮度評価がますます重要になっている。カキはイタボガキ科の二枚貝の総称で、世界各地で食され、とくに欧米でも生食される数少ない魚介類の1つである。マガキ Crassostrea gigas が最重要品種であり、市場に流通しているほとんどは養殖されたマガキと言う。日本のカキ養殖は、17世紀に広島で始められ、1930年頃から垂下式養殖法が開発されて全国的に普及し、養殖量が増加した。令和2年のカキ類の養殖収穫量は全国で161,646トンあり、主要な産地は広島県(99,144トン)を中心とした瀬戸内海水域、宮城県(21,406トン)、岩手県(6,341トン)を主とした三陸沿岸および岡山県(12,166トン)となっている。
【0003】
今までカキの販売に最も重要な経済指標は得率(収率)であり、カキの性質として、得率の定義は軟体重量と総重量の比、すなわちカキの軟体部の貝殻中の充満度である。カキは水揚げから販売まで分離、洗浄、選別などの段階を経なければならない。選別はその重要な一環として,現在市場では主に重量範囲によって選別されており、同じ重量範囲のカキは同じ箱の中に入る。実際の販売段階では、重量が大きいほど価格が高くなる。このように、カキの重量を考慮したカキの選別技術が知られている(特許文献1)。
【0004】
特許文献1の夏季の選別技術は、従来のカキの選別方法は重量感応方式が多いことに着目し、重量はカキ殻の大きさに比例することから、殻の体積の大きさに応じてカキを選別する選別機を提供している。
【0005】
しかし、殻の部分がカキの重量の大きな割合を占めているため、この選別方式は同じ重量範囲で得率の低いカキが大量に混入している問題を引き起こし、カキの販売価格もそれによって大幅に割引され、経済損失をもたらし、これはカキの輸出販売にも一定の影響を与えている。また、カキ殻の大きさだけでは、鮮度(品質)による選別ができない。
【0006】
さらに、近年、生食用生鮮殻付きカキを食する機会が増えている。生カキは産地によって出荷期間が限られ、且つ出荷に際して安全性の確認が重要であるので、カキの活力・鮮度はもう一つの重要な経済指標として認識されている。しかし、カキの活力・鮮度判定は技術的に容易ではなく、現在も熟練者の経験や勘により鮮度が判定されて取引されている。最近、熟練者の減少とともに、鮮度の良悪に関係なく殻が閉じていれば生きていると判断して出荷する可能性があり、活性が低く低鮮度で品質の悪いカキが出回ることで、消費者のカキ離れを引き起こしていると言われている。一方、カキの活力・鮮度測定において、生化学分析法であるグリコーゲンまたはATPの含量の測定方法がよく使用されているが、いずれも閉殻筋からの抽出を伴う必要がある。しかし、貝柱である閉殻筋を採取するためにカキの殻を開けることでそのカキは死んでしまい商品にはならない。したがって、科学的かつ客観的にカキの活力・鮮度判定および非侵襲即時選別ができる手法の開発が望まれている。
【0007】
カキの外形に対して、殻長(L)、殻幅(W)、殻高(H)は、カキの主な外形特徴として認識されている。この3つの外形特徴を用いて漁師の経験により、理想的なカキの外形は涙の粒に似ていると考えられている。逆に、専門家や漁師は、長くて痩せたカキは市場での販売には適していないと認識している。しかし、絶対測定値を単独で使用する場合、カキの分類を過大評価したり、過小評価したりするため、慎重にしなければならない。そして、殻高/殻長(H/L)または殻幅/殻長(W/L)の比率も外形特徴として考えられている。マカキについて、理想的な殻特徴比は、殻高/殻長が1:3またはH/L>0.25であり、殻幅/殻長さ比は2:3(0.67)またはW/L>0.63であると言われている。この2つの外形特徴は良好な形状の決定要素として重要であるが、以前の研究では、H/LとW/Lの比率はカキの品質分類に同時に使用され、正確に分配された割合は30.0%にすぎなかったが、H/LまたはW/Lの比率を単独で使用した場合、正確な分配割合はそれぞれ85.6%と70.6%であった。現在、多くの地域では、漁師らの目標はL:W:H=3:2:1の割合を最適なカキの外形としている。
【0008】
しかし、このような選別方法により、殻の外形上、涙の粒に似ているカキを容易に区別することができるが、殻の外観だけでカキの得率や活力・鮮度に関する種内品質等級を推定・選別するのは、いまだ困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】中国実用新案第215940687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上の点に鑑み、現場で迅速に殻を開けることなく、カキの得率、活力、鮮度に関する品質判定を非侵襲的に即時判定できるカキの品質判定技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
二枚の貝殻付きのカキの品質を判定するカキの品質判定方法であって、
学習用の前記カキの外形を3次元スキャナーで測定して作成した3次元モデルデータから外形の特徴値である3次元外形特徴を取得し、学習用の前記カキを計測して生化学指標を取得することでデータベースを構築する3次元外形特徴・生化学指標データベース構築工程と、
前記データベースの教師データとしての前記3次元外形特徴から主成分分析方法を用いた機械学習により前記3次元外形特徴の特徴量を抽出し前記生化学指標に関連付けて選別モデルを学習する選別モデル学習工程と、
品質判定の対象となる前記カキを3次元スキャナーで測定して作成した3次元モデルデータから3次元外形特徴を取得し、最も近い前記選別モデルに基づく外形特徴から品質判定の対象となる前記カキの活力・鮮度を推定するカキの品質判定工程とを有することを特徴とする。
【0012】
かかる構成によれば、3次元外形特徴・生化学指標データベース構築工程と、選別モデル学習工程と、カキの品質判定工程を有する。学習用のカキの外形を3次元スキャナーで測定して作成した3次元モデルデータから外形の特徴値である3次元外形特徴を取得し、学習用のカキを計測して生化学指標を取得することでデータベースを構築し、主成分分析方法を用いた機械学習により3次元外形特徴の特徴量を抽出し生化学指標に関連付けて選別モデルを学習するので、人の感覚による選別ではなく、カキの外形の特徴と生化学指標を関連付けることができる。そして、対象となるカキの品質を判定する際は、品質判定の対象となるカキを3次元スキャナーで測定して作成した3次元モデルデータから3次元外形特徴を取得し、最も近い学習済みの選別モデルと比較して品質判定の対象となるカキの活力・鮮度を推定する。これにより、目利き職人による感覚ではなく、現場で迅速に殻を開けずに、カキの得率、活力、鮮度に関する品質判定を非侵襲的に即時判定できるカキの品質判定技術を提供することができる。
【0013】
好ましくは、前記3次元外形特徴・生化学指標データベース構築工程では、前記3次元外形特徴は、殻高/殻長、平均扁平率、前後平均扁平率の差の絶対値、中心軸の曲率、中心軸の回転角を使用し、
前記殻高/殻長は、前記カキの殻高と殻長から求められ、
前記平均扁平率は、前記カキの外形から近似曲線に基づいて中心軸を推定し、この中心軸に垂直な任意の枚数(例えば50枚)の断面を等間隔で生成し、前記カキの外形を表す点から最も近い前記断面に投影点を求め、各前記断面の前記投影点に楕円を当てはめて各楕円の扁平率を計算し、任意の個数(例えば50個)の前記扁平率から平均を計算することで求められ、
前記前後平均扁平率の差の絶対値は、前後に隣り合う任意の組(例えば25組)の前記楕円に対して前記平均扁平率の差の絶対値を計算することで求められ、
前記中心軸の曲率は、前記中心軸から求められ、
前記中心軸の回転角は、前記カキの外形を3次元スキャナーで測定した点群データに楕円体を当てはめ、任意の枚数(例えば50個)の前記楕円を繋いだ楕円体に直交した軸で定義した平面により前記中心軸の回転角を計算することで求められる。
【0014】
従来技術では、例えば漁師らの目標は、カキの外形に対して殻長(L)、殻幅(W)、殻高(H)としたときに、L:W:H=3:2:1の割合で最適なカキの外形をとするところ、このような選別方法により涙の粒に似ているカキを容易に区別することができるが、殻の外観だけでカキの得率や活力・鮮度に関する種内品質等級を選別するのは困難であり、外形と鮮度等の関係を解明することができない。この点、本発明のかかる構成によれば、3次元外形特徴・生化学指標データベース構築工程では、カキの外形を3次元スキャナーで測定した点群データからモデリング方法を用い、より客観的かつ精密にカキの外形を表現して今までにない3次元外形特徴である、殻高/殻長、平均扁平率、前後平均扁平率の差の絶対値、中心軸の曲率、中心軸の回転角を使用する。これにより、現場で迅速に殻を開けることなく、カキの得率、活力、鮮度に関する品質判定を非侵襲的に精度よく行うことができる。
【0015】
好ましくは、前記3次元外形特徴・生化学指標データベース構築工程では、生化学指標は、ATP関連化合物の組成である鮮度指標としてのK値、ATP関連化合物の組成値である活力指標としてのA.E.C.値、アルギニンリン酸の含有量、pH値、グリコーゲンの含有量のいずれか又はその組み合わせを使用する。
【0016】
かかる構成によれば、3次元外形特徴・生化学指標データベース構築工程では、生化学指標は、ATP関連化合物の組成である鮮度指標としてのK値、ATP関連化合物の組成値である活力指標としてのA.E.C.値、アルギニンリン酸の含有量、pH値、グリコーゲンの含有量のいずれか又はその組み合わせを使用するので、得率、鮮度に活力も加えてカキの品質判定を行うことができる。これにより、官能試験のように個人差が生じず、だれがカキの品質判定をしても同じ判定結果を得ることができ、品質判定を安定して高精度にすることができる。
【0017】
好ましくは、二枚の貝殻付きのカキの品質を判定するカキの品質判定システムであって、
教師データ作成部と、生化学指標測定部と、解析部と、品質判定対象撮影表示部とを備え、
前記教師データ作成部は、前記カキの外形を測定する3次元スキャナーと、この3次元スキャナーで測定した前記カキの外形を座標値からなる点群データとして表すCAD部とを備え、
学習用の前記カキの外形を前記3次元スキャナーで測定し、作成した3次元モデルデータから外形の特徴値である3次元外形特徴として、殻高/殻長、平均扁平率、前後平均扁平率の差の絶対値、中心軸の曲率、中心軸の回転角を取得し、
前記殻高/殻長は、前記カキの殻高と殻長から求められ、
前記平均扁平率は、前記カキの外形から近似曲線に基づいて中心軸を推定し、この中心軸に垂直な任意の枚数(例えば50枚)の断面を等間隔で生成し、前記カキの外形を表す点から最も近い前記断面に投影点を求め、各前記断面の前記投影点に楕円を当てはめて各楕円の扁平率を計算し、任意の個数(例えば50個)の前記扁平率から平均を計算することで求められ、
前記前後平均扁平率の差の絶対値は、前後に隣り合う任意の組(例えば25組)の前記楕円に対して前記平均扁平率の差の絶対値を計算することで求められ、
前記中心軸の曲率は、前記中心軸から求められ、
前記中心軸の回転角は、前記カキの外形を3次元スキャナーで測定した点群データに楕円体を当てはめ、任意の個数(例えば50個)の前記楕円を繋いだ楕円体に直交した軸で定義した平面により前記中心軸の回転角を計算することで求められるものであり、
前記生化学指標測定部は、少なくともATP関連化合物の組成である鮮度指標としてのK値、ATP関連化合物の組成値である活力指標としてのA.E.C.値、アルギニンリン酸の含有量、pH値、グリコーゲンの含有量のいずれか又はその組み合わせを含む生化学指標を計測する計測機器であり、
前記解析部は、学習用の前記3次元モデルデータ及び前記3次元外形特徴と、これらの3次元外形特徴に関連した前記生化学指標とを含み構成されたデータベースを備え、
前記データベースの教師データとしての前記3次元外形特徴から主成分分析方法を用いた機械学習により前記3次元外形特徴の特徴量を抽出し前記生化学指標に関連付けて選別モデルを学習するものであり、
前記品質判定対象撮影表示部は、品質判定の対象となる前記カキを3次元スキャナーで測定して作成した3次元モデルデータを用い、前記解析部で判定用の前記3次元モデルデータと最も近い前記選別モデルを推定することにより品質判定の対象となる前記カキの品質を判定し、前記生化学指標を表示するものである。
【0018】
かかる構成によれば、教師データ作成部と、生化学指標測定部と、解析部と、品質判定対象撮影表示部とを備えている。教師データ作成部は、カキの外形を測定する3次元スキャナーと、この3次元スキャナーで測定したカキの外形を座標値からなる点群データとして表すCAD部とから構成されるので、接触式の3次元測定器のようなスペースを取るうえに計測時間がかかるものではなく、スペースを取らず短時間でカキの外形を計測して精度よくカキの品質判定を行うことできる。さらに、教師データ作成部で学習用のカキの外形を3次元スキャナーで測定して作成した3次元モデルデータから外形の特徴値である3次元外形特徴を取得し、生化学指標測定部で学習用のカキを計測して生化学指標を取得しし、解析部でデータベースを構築し、主成分分析方法を用いた機械学習により3次元外形特徴の特徴量を抽出し生化学指標に関連付けて選別モデルを学習するので、人の感覚による選別ではなく、カキの外形の特徴と生化学指標を関連付けることができる。そして、対象となるカキの品質を判定する際は、品質判定の対象となるカキを3次元スキャナーで測定して作成した3次元モデルデータから3次元外形特徴を取得し、最も近い学習済みの選別モデルと比較して品質判定の対象となるカキの活力・鮮度を推定して品質判定対象撮影表示部に表示する。これにより、目利き職人による感覚ではなく、現場で迅速に殻を開けずに、カキの得率、活力、鮮度に関する品質判定を非侵襲的に即時判定できるカキの品質判定技術を提供することができる。
【発明の効果】
【0019】
現場で迅速に殻を開けずに、カキの得率、活力、鮮度に関する品質判定を非侵襲的に即時判定できるカキの品質判定技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】(A)はカキのサイズや形状を説明する図である。(B)はカキの殻長(L)、殻幅(W)を説明する正面図である。(C)はカキの殻高(H)を説明する右側面図である。
【
図2】本発明のカキの品質判定方法及びその品質判定システムの概要を説明する図である。
【
図3】カキの品質判定方法のフローを説明する図である。
【
図4】カキを3次元スキャナーで測定して作成した3次元モデルデータ(点群データ)を説明する図である。
【
図5】(A)はカキの中心軸の推定を説明する図である。(B)はカキの外形の断面上への投影とスイープ形状表現について説明する図である。
【
図6】(A)~(F)は中心軸の任意の位置におけるカキの外形の各断面上への投影した説明図である。
【
図7】カキの外形をスイープ形状表見した説明図である。カキである。
【
図8】(A)~(F)は各断面におけるカキの外形の投影点への楕円の当てはめを説明する図である。
【
図9】点群データへの楕円体の当てはめを説明する図である。
【
図10】複数の3次元モデルと外形特徴データベースを説明する図である。
【
図11】生化学指標を計測する工程を説明する図である。
【
図12】主成分分析方法による選別式の作成を説明する図である。
【
図13】(A)は富山産のカキの選別結果(品質判定結果)を説明する図である。(B)は岩手県山田町産のカキの選別結果(品質判定結果)を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は、カキの品質判定システムの各装置等は概念的(模式的)に示すものとする。
【実施例0022】
図1(A)に示されるように、牡蠣(以下、カキという)50は、イタボガキ科の二枚貝である。市場における最重要品種はマガキ(Crassostrea gigas)であり、ほとんどが養殖されたマガキが流通している。カキ50は、サイズ、形状、重量等が個体により異なり、官能評価法により品質を判定する場合、カキ50の外観、匂い、色の変化等から総合的な判断が必要となり、評価者の個人差が大きい。
【0023】
図1(B)、(C)に示されるように、カキ50の外形に対して、殻長をL、殻幅をW、殻高をHとする。カキ50の外形に対して、殻長(L)、殻幅(W)、殻高(H)は、カキ50の主な外形特徴として認識される。一般的に、この3つの外形特徴を用いて漁師の経験により、理想的なカキ50の外形は涙の粒に似ているとされ、逆に専門家や漁師は、長くて痩せたカキ50は市場での販売には適していないと認識している。
【0024】
図2、
図11、
図12に示されるように、カキの品質判定システム10は、カキ50の外形を3次元スキャナー25で測定して作成した3次元モデルデータ(
図4参照)から外形の特徴値である3次元外形特徴を取得して生化学指標と関連付け、判定用である二枚の殻付きのカキ50の品質を判定するシステムであり、教師データ作成部20と、生化学指標測定部(生化学指標)40と、解析部30と、品質判定対象撮影表示部(不図示)とを備えている。
【0025】
次に、教師データ作成部20のハード面を説明する。
教師データ作成部20は、前記カキの外形を測定する3次元スキャナー25と、この3次元スキャナー25で測定したカキ50の外形を座標値からなる点群データ52(
図4参照)として表すCAD部26(
図4参照)とを備えている。
【0026】
図1~
図10に示されるように、教師データ作成部20は、学習用のカキ50a(50)の外形を3次元スキャナー25で測定し、作成した3次元モデルデータ(点群データ)52から外形の特徴値である3次元外形特徴51として、殻高/殻長、平均扁平率、前後平均扁平率の差の絶対値、中心軸の曲率、中心軸の回転角を取得するものである。
【0027】
また、殻高/殻長は、カキ50の殻高と殻長から求められ、平均扁平率は、カキ50の外形から近似曲線に基づいて中心軸を推定し、この中心軸に垂直な任意の枚数(例えば50枚)の断面を等間隔で生成し、カキ50の外形を表す点から最も近い断面に投影点を求め、各断面の投影点に楕円を当てはめて各楕円の扁平率を計算し、任意の個数(例えば50個)の扁平率から平均を計算することで求められるものである。また、前後平均扁平率の差の絶対値は、前後に隣り合う任意の組(例えば25組)の楕円に対して平均扁平率の差の絶対値を計算することで求められ、中心軸の曲率は、中心軸から求められ、中心軸の回転角は、カキの外形を3次元スキャナーで測定した点群データに楕円を当てはめ、任意の個数(例えば50個)の楕円を繋いだ楕円体に直交した軸で定義した平面により中心軸の回転角を計算することで求められるものである。
【0028】
次に、生化学指標測定部40について説明する。
生化学指標測定部40は、少なくともATP関連化合物の組成である鮮度指標としてのK値、ATP関連化合物の組成値である活力指標としてのA.E.C.値、アルギニンリン酸の含有量、pH値、グリコーゲンの含有量のいずれか又はその組み合わせを含む生化学指標を計測する計測機器である。なお、生化学指標測定部40を計測機器そのものだけでなく、計測機器による計測によって得られる生化学指標の各計測値と定義してもよい。
【0029】
次に、解析部30について説明する。
解析部30は、学習用の3次元モデルデータ52及び3次元外形特徴51と、これらの3次元外形特徴51に関連した生化学指標40とを含み構成されたデータベースを備えている。データベースの教師データとしての3次元外形特徴51から主成分分析方法を用いた機械学習により3次元外形特徴51の特徴量を抽出し生化学指標40に関連付けて選別モデルを学習するものである。
【0030】
解析部30は、学習用の画像データ51とこれらの画像データ51に対応してセットにして入力・保存された生化学指標40とを含み構成されたデータベースを備えている。また、解析部30は人工知能(AI:Artificial Intelligence )も備えており、この人工知能により、データベースの教師データとしての画像データ51から機械学習を用いてカキ50の色、反射した光量及び表面形状を表現する特徴量を抽出し生化学指標に関連付けて判定モデルを学習するものである。
【0031】
また、解析部30の人工知能は一般的なものでもよい。一般的には、機械学習とは、データから規則性や判断基準を学習し、学習した規則性や判断基準に基づき未知のものを予測、判断する技術と、人工知能に関わる分析技術をいう。機械学習に包含される関係にあるディープラーニング(深層学習手法)を用いてもよく、ディープラーニングはより基礎的で広範な機械学習の手法であるニューラルネットワークの分析手法を拡張したものであり、高精度の分析や活用を可能する手法である。本発明の一実施例では、いわゆる教師あり学習といわれる正解にあたる教師データが与えられる機械学習を用いている。なお、教師あり学習の分析手法として、回帰分析や決定木などある。
【0032】
また、ニューラルネットワークは、画像認識の分野にも応用されており、中間層(隠れ層)を2層以上に多層化したニューラルネットワークがディープラーニングと言われている。ディープラーニングは、与えられたデータのどこに着目すればよいか、具体的な特徴量を人間が指示せずとも自らそのデータの特徴づける特徴量を抽出し、データに含まれるルールや規則性を学習する手法である。
【0033】
なお、本発明の解析部30の人工知能は、一般的のものだけでなく、例えば、本発明者の発明でもある特開2022-52171に開示された「統計的距離行列の計算方法、統計的距離行列の可視化方法及び装置及びプログラム」による深層学習手法を用いてもよい。統計的距離行列を用いてディープラーニングの畳み込み層の構造を最適化し,ディープラーニングの精度を向上させることができる。
【0034】
次に、品質判定対象撮影表示部について説明する。
品質判定対象撮影表示部は、品質判定の対象となるカキ50b(50)を3次元スキャナー25で測定して作成した3次元モデルデータ52を用い、解析部30で判定用の3次元モデルデータ52と最も近い選別モデルを推定することにより品質判定の対象となるカキ50b(50)の品質を判定し、生化学指標40を表示するものである。
【0035】
品質判定対象撮影表示部は、教師データ作成部20を利用してPCなどを接続したものでもよいが、教師データ作成部20とは異なる外部の3次元スキャナー25とPCの組み合せでもよく、さらには立体をスキャンする機能を有すれば一般的なスマートフォンやタブレットであってもよい。インターネットなどのネットワークを介してカキの品質室判定システム10(解析部30)に接続して、スマートフォンからカキの品質室判定システム10(解析部30)へ品質判定の対象となるカキ50をスキャンした判定用のスキャンデータを送信し、解析部30での判定結果をスマートフォンに返して判定結果を表示するものとしてもよい。
【0036】
次に、カキの品質判定方法について説明する。
図3に示されるように、二枚の貝殻付きのカキ50の品質を判定するカキの品質判定方法は、3次元外形特徴・生化学指標データベース構築工程STEP1(S1、図面ではSTEPをSと示す)と、選別モデル学習工程STEP2と、カキの品質判定工程STEP3とを有する。
【0037】
図1~
図12に示されるように、3次元外形特徴・生化学指標データベース構築工程STEP1は、学習用のカキ50a(50)の外形を3次元スキャナー25で測定して作成した3次元モデルデータ52から外形の特徴値である3次元外形特徴51を取得し、学習用のカキ50a(50)を計測して生化学指標40を取得することでデータベースを構築する。
【0038】
詳細には、3次元外形特徴・生化学指標データベース構築工程STEP1では、3次元外形特徴51は、殻高/殻長、平均扁平率、前後平均扁平率の差の絶対値、中心軸の曲率、中心軸の回転角を使用する。殻高/殻長は、カキ50の殻高と殻長から求められ(
図1参照)、平均扁平率は、カキ50の外形から最小二乗法により計算された近似曲線に基づいて中心軸を推定し(
図5(A)参照)、この中心軸に垂直な任意の枚数(例えば50枚)の断面を等間隔で生成し(
図5(B)参照)、カキ50の外形を表す点から最も近い断面に投影点を求め(
図6、
図7参照)、各断面の投影点に楕円を当てはめて各楕円の扁平率を計算し(
図8参照)、任意の個数(例えば50個)の前記扁平率から平均を計算することで求められる。
【0039】
また、前後平均扁平率の差の絶対値は、前後に隣り合う任意の組(例えば25組)の楕円に対して平均扁平率の差の絶対値を計算することで求められ(
図6、
図7参照)、中心軸の曲率は、中心軸から求められ、中心軸の回転角は、カキの外形を3次元スキャナーで測定した点群データに楕円体を当てはめ、楕円体に直交した軸で定義した平面により中心軸の回転角を計算することで求められる(
図9、
図10参照)。
【0040】
また、3次元外形特徴・生化学指標データベース構築工程STEP1では、生化学指標40は、ATP関連化合物の組成である鮮度指標としてのK値、ATP関連化合物の組成値である活力指標としてのA.E.C.値、アルギニンリン酸の含有量、pH値、グリコーゲンの含有量のいずれか又はその組み合わせを使用する
【0041】
選別モデル学習工程STEP2は、データベースの教師データとしての3次元外形特徴51から主成分分析方法を用いた機械学習により3次元外形特徴51の特徴量を抽出し生化学指標40に関連付けて選別モデルを学習する。
【0042】
カキの品質判定工程STEP3は、品質判定の対象となるカキ50b(50)を3次元スキャナー25で測定して作成した3次元モデルデータ52から3次元外形特徴51を取得し、最も近い選別モデルに基づく3次元外形特徴51から品質判定の対象となるカキ50b(50)の活力・鮮度を推定する。
【0043】
次に本発明の有効性について説明する。
図12に示されるように、本発明では、主成分分析方法による5次元特徴空間を1次元まで次元削減し、この1次元特徴空間から、カキの丸型と平型の選別式55を生成する。実験に使った供試のカキ50は、海洋深層水による浄化された富山県産40体と岩手県山田町産50個体の計90個体とした。
【0044】
図13(A)に示されるように、本発明で提案した選別法で富山産のカキ50に対して、丸型(20個体)と平型(20個体)の選別精度は70.0%となった。また、
図13(B)に示されるように、岩手県山田町産のカキに対して、丸型(25個体)と平型(25個体)の選別精度76.0%となった。海域の異なる主要なマカキ生産地2区において採取した着生期と成長時期の異なる2種類であるので、本発明で提案した選別手法の有効性を示した。
【0045】
次に以上に述べたことをまとめて説明する。
また、発明者らの先行研究では、漁師で選別した丸型のカキ50は平型のカキ50により活力が長く維持されている結果が得られた。これまでカキ50の活力・鮮度判定に用いた生化学指標の中で、ATP関連化合物の量から算出されるA.E.C.値は、本発明におけるカキ50の活力・鮮度の指標として用いられる。カキ50の場合、A.E.C.値が40%以上で鮮度が良いと評価される。また、蓄養することで3日目に50%に超え個体も多く、逆に蓄養がなければ、ATP関連化合物の分解により、A.E.C.値が大幅に減少していく。さらに、発明者らの行った大量的な実験から得られた結果によって、丸型のカキのA.E.C.値が平型のカキのA.E.C.値より高いことが示唆された。以上の結果は、A.E.C.値がカキの活力・鮮度の判定指標として用いられる根拠を示すものである。
【0046】
A.E.C値 (%) = 1/2(2ATP+ADP)/(ATP+ADP+AMP) × 100
(ただし、ATP:アデノシン三リン酸、ADP:アデノシン二リン酸、AMP:アデニル酸)
【0047】
さらに、発明者らは3D形態測定技術を用いて、カキ50の外形の点群データ52からより精密な特徴を求めた。カキ50の外形は左右対称とは言えない、バナナのような形を持つカキ50は沢山存在すると考えた上で、まず最小二乗法により計算された近似曲線に基づいて色んな外形を持つカキの中心軸の推定を成功させた。そして中心軸に最初から最後まで任意(例えば49)等分し、各等分点から中心軸と垂直する任意の枚数(例えば50枚)の断面を生成した上で、カキ50の外形を表す全ての点から最も近い断面上への投影点を求めた。得られた中心軸と断面にある投影点は、元の点群データ52の代わりとして、コンピュータ・グラフィックス(CG)にあるスイープ形状生成技術(曲線や面を移動させ,その軌跡を用いて立体的な形状をつくるモデリング方法)で構成した立体的な形状と似っているカキの外形を初めって表現した。さらに、各断面上の投影点に楕円を当てはめて各扁平率を計算した。50個の楕円の扁平率から、平均扁平率を求め、また前後25個の楕円に対して平均扁平率の差の絶対値も得た。最後に、点群データに楕円体を当てはめて、楕円体の直交した1,2主軸で定義した平面により中心軸の回転角を計算した。以上のモデリング方法を用いて、より客観的かつ精密にカキ50の外形を述べることができ、以下の今までのない全新な3次元外形特徴51を手に入れた。
【0048】
3次元外形特徴51は、平均扁平率、前後平均扁平率の差の絶対値、中心軸の曲率、中心軸の回転角、これに殻高/殻長(H/L)を加え、これらの5つの特徴は本発明に利用されたカキ50の3次元外形特徴とする。
【0049】
また、カキ50の活力・鮮度の判定指標であるA.E.C.値とカ50キの外形特徴(3次元外形特徴)51の関係を明らかにするために、A.E.C.値の大きい順にカキ50を並べ、上位のカキ50(丸型)に関する外形特徴51の相関関係と下位のカキ50(平型)に関する外形特徴51の相関関係をそれぞれ調べて、多変量解析の一手法である主成分分析方法(Principal Component Analysis; PCA)を用い、5次元特徴空間を1次元まで次元削減し、この1次元特徴空間から、カキ50の丸型と平型の選別式55を生成した。
【0050】
本発明は、職人の後継者が不足する中、勘と経験に基づく目利きの技術を後世に残す狙いのみではなく、高精度かつ使用不便な化学的鮮度判定法の代わりに、カキの3D形態測定技術を用いて今までにない、実時間性を保証できる、高いパフォーマンスを持つカキ50の非侵襲即時選別法及びカキの選別装置を提案する。この技術の社会実装化により、産地・消費地の卸売市場や輸送中のカキを活力・鮮度により非侵襲即時選別することが可能になり、カキ50のブランド化・高品質化に貢献することができると考えられる。さらに、漁業従事者の所得向上、水産資源管理、新たな販路開拓など、三陸産水産への支援ができるようになる。
【0051】
次に以上に述べたカキの品質判定方法及びその品質判定システムの作用、効果について説明する。
【0052】
本発明の実施例によれば、3次元外形特徴・生化学指標データベース構築工程STEP1と、選別モデル学習工程STEP2と、カキの品質判定工STEP3程を有する。学習用のカキ50の外形を3次元スキャナー25で測定して作成した3次元モデルデータ52から外形の特徴値である3次元外形特徴51を取得し、学習用のカキ50を計測して生化学指標40を取得することでデータベースを構築し、主成分分析方法を用いた機械学習により3次元外形特徴51の特徴量を抽出し生化学指標に関連付けて選別モデルを学習するので、人の感覚による選別ではなく、カキ50の外形の特徴と生化学指標40を関連付けることができる。そして、対象となるカキの品質を判定する際は、品質判定の対象となるカキ50を3次元スキャナー25で測定して作成した3次元モデルデータ52から3次元外形特徴51を取得し、最も近い学習済みの選別モデルと比較して品質判定の対象となるカキ50の活力・鮮度を推定する。これにより、目利き職人による感覚ではなく、現場で迅速に殻を開けずに、カキ50の得率、活力、鮮度に関する品質判定を非破壊で即時判定できるカキの品質判定技術を提供することができる。
【0053】
さらに、本発明のかかる構成によれば、3次元外形特徴・生化学指標データベース構築工程では、カキ50の外形を3次元スキャナー25で測定した点群データ52からモデリング方法を用い、より客観的かつ精密にカキ50の外形を表現して今までにない3次元外形特徴である、殻高/殻長、平均扁平率、前後平均扁平率の差の絶対値、中心軸の曲率、中心軸の回転角を使用する。これにより、現場で迅速に殻を開けることなく、カキ50の得率、活力、鮮度に関する品質判定を精度よく行うことができる。
【0054】
さらに、3次元外形特徴・生化学指標データベース構築工程では、生化学指標40は、ATP関連化合物の組成である鮮度指標としてのK値、ATP関連化合物の組成値である活力指標としてのA.E.C.値、アルギニンリン酸の含有量、pH値、グリコーゲンの含有量のいずれか又はその組み合わせを使用するので、得率、鮮度に活力も加えてカキの品質判定を行うことができる。これにより、官能試験のように個人差が生じず、だれがカキ50の品質判定をしても同じ判定結果を得ることができ、品質判定を安定して高精度にすることができる。
【0055】
さらに、教師データ作成部20と、生化学指標測定部40と、解析部30と、品質判定対象撮影表示部とを備えている。教師データ作成部20は、カキ50の外形を測定する3次元スキャナー25と、この3次元スキャナー25で測定したカキ50の外形を座標値からなる点群データ52として表すCAD部26とから構成されるので、接触式の3次元測定器のようなスペースを取るうえに計測時間がかかるものではなく、スペースを取らず短時間でカキ50の外形を計測して精度よくカキ50の品質判定を行うことできる。さらに、教師データ作成部20で学習用のカキ50の外形を3次元スキャナー25で測定して作成した3次元モデルデータ52から外形の特徴値である3次元外形特徴51を取得し、生化学指標測定部40で学習用のカキ50を計測して生化学指標40を取得しし、解析部30でデータベースを構築し、主成分分析方法を用いた機械学習により3次元外形特徴51の特徴量を抽出し生化学指標に関連付けて選別モデルを学習するので、人の感覚による選別ではなく、カキ50の外形の特徴と生化学指標40を関連付けることができる。そして、対象となるカキ50の品質を判定する際は、品質判定の対象となるカキ50を3次元スキャナー25で測定して作成した3次元モデルデータ52から3次元外形特徴51を取得し、最も近い学習済みの選別モデルと比較して品質判定の対象となるカキ50の活力・鮮度を推定して品質判定対象撮影表示部に表示する。これにより、目利き職人による感覚ではなく、現場で迅速に殻を開けずに、カキ50の得率、活力、鮮度に関する品質判定を非破壊で即時判定できるカキの品質判定技術を提供することができる。
【0056】
尚、実施例では、3次元スキャナー25をハンディタイプのカメラ型ものとしたが、これに限定されず、設置型や、キャスター付きの移動型、スマートフォンなどカキ50の外形をスキャンできればいずれの形式であってもより。また、実施例では、CAD部26、解析部30は、3次元スキャナー25の近傍に設置するものとしたが、これに限定されず、次元スキャナー25でスキャンしたデータを社内LANやインターネット等のネットワークを通じて遠隔地にあるCAD部26、解析部30でデータ処理を行い、近傍の品質判定対象撮影表示部に表示するものとしてもよい。即ち、本発明の作用及び効果を奏する限りにおいて、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0057】
また、実施例では、生化学指標をATP関連化合物の組成である鮮度指標としてのK値、ATP関連化合物の組成値である活力指標としてのA.E.C.値、アルギニンリン酸の含有量、pH値、グリコーゲンの含有量のいずれか又はその組み合わせを使用するとしたが、これに限定されず、品質に関連すれば他の指標を用いてもよい。
10…カキの品質判定システム、20…教師データ作成部、25…3次元スキャナー、26…CAD部、30…解析部(データベース、ライブラリ、人工知能)、40…生化学指標測定部(生化学指標、K値、A.E.C.値、pH値、アルギニンリン酸の含有量、pH値、グリコーゲンの含有量)、50…カキ(牡蠣、二枚の殻付きカキ)、50a…学習用のカキ、50b…判定用のカキ、51…3次元外形特徴(外形特徴、殻高/殻長、平均扁平率、前後平均扁平率の差の絶対値、中心軸の曲率、中心軸の回転角)、52…点群データ(3次元モデルデータ)、55…カキの丸型と平型の選別式。