(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123795
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】光学材料用組成物、光学材料、光導波路およびそれらを用いた光配線素子
(51)【国際特許分類】
C08L 83/04 20060101AFI20240905BHJP
G02B 6/13 20060101ALI20240905BHJP
G02B 6/12 20060101ALI20240905BHJP
C08K 5/5415 20060101ALI20240905BHJP
C08L 83/06 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C08L83/04
G02B6/13
G02B6/12 371
C08K5/5415
C08L83/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031481
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田村 典央
【テーマコード(参考)】
2H147
4J002
【Fターム(参考)】
2H147EA18A
2H147FA17
2H147FB04
2H147FE00
2H147FF06
2H147GA06
2H147GA17
2H147GA19
4J002CP031
4J002CP052
4J002CP061
4J002CP081
4J002CP101
4J002CP121
4J002CP131
4J002CP141
4J002EX036
4J002FD010
4J002FD202
4J002FD206
4J002GJ01
4J002GP00
4J002GP01
4J002GQ05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】光導波路の光学材料において、高透明性(低伝搬損失)、耐熱性、はんだリフロー耐性、および基板に対する高い密着性などに優れた光学材料を提供する。
【解決手段】式(Q)で表されるシルセスキオキサン骨格をポリマー主鎖中に有し、ポリマー主鎖がシリコーンであるポリマーを含有する、光学材料用組成物。
(式(Q)中、R
0は独立して、炭素数1~40の有機基であり、R
1は独立して、炭素数1~16の炭化水素基であり、*はポリマーとして連結する結合部位を表す。)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(Q)で表されるシルセスキオキサン骨格をポリマー主鎖中に有し、ポリマー主鎖がシリコーンであるポリマーを含有する、光学材料用組成物。
(式(Q)中、R
0は独立して、炭素数1~40の有機基であり、R
1は独立して、炭素数1~16の炭化水素基であり、*はポリマーとして連結する結合部位を表す。)
【請求項2】
シルセスキオキサン骨格をポリマー主鎖中に有するポリマーが、式(1)で表される構造から成るポリマーである、請求項1に記載の光学材料用組成物。
(式(1)中、R
1およびR
2は独立して、炭素数1~16の炭化水素基であり、mは、5~10000の整数であり、nは独立して、0~30の整数である。)
【請求項3】
有機金属化合物および縮合触媒を含有する、請求項1に記載の光学材料用組成物。
【請求項4】
有機金属化合物が、式(2)で表されるシリコーン化合物である、請求項3に記載の光学材料用組成物。
(式(2)中、R
3は独立して、炭素数1~4のアルキルであり、qは、1~100の整数である。)
【請求項5】
請求項1に記載の光学材料用組成物を加熱硬化させて得られる、光学材料。
【請求項6】
請求項1に記載の光学材料用組成物を加熱硬化させて得られる、光導波路。
【請求項7】
請求項1に記載の光学材料用組成物を基板上に塗布したのち、加熱硬化させコアとし、必要に応じて他の材料をクラッドとして積層させた、光導波路。
【請求項8】
請求項5に記載の光学材料または請求項6もしくは7に記載の光導波路を用いた、光配線素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学材料用組成物、光学材料、光導波路およびそれらを用いた光配線素子に関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットやLAN(Local Area Network)での情報容量増大、高速化、およびこれらに伴う消費電力や発熱増加を抑えるため、ルータやサーバ装置内のボード間またはボード内の短距離信号伝送に光信号を用いる、光インターコネクション技術の開発が進められている。このような電気配線板に光伝送路を複合した光電気混載基板、いわゆるコ・パッケージ(Co-pakage)化された基板における光伝送路としては、ポリマー材料が好適に用いられている。当該材料が好適に用いられるのは無機材料に比べ加工性に優れるので、自由度が高く、かつ、高密度化した光導波路の配線が可能なためである。
上記のように、ポリマー材料から成る光導波路(以下、ポリマー光導波路ということがある。)は電気配線板と共存する構造となるため、光導波路のコア材料は比較的高い屈折率に加え、高透明性(低伝搬損失)、はんだリフロー耐性、および基板に対する高い密着性などが求められる。
このような特性を改善する目的で、光導波路材料として、特許文献1のようなアクリル系材料、特許文献2のようなチオール系材料、および特許文献3のようなシルセスキオキサン骨格を有するポリイミドなどが報告されている。また特許文献4のような、高屈折率を有する接着剤も、光学部品用途で提案されている。しかしながら、特許文献1および特許文献2に開示された光導波路材料や特許文献4に開示された接着剤は、これを該用途で使用する際、耐熱性が十分でなかった。また特許文献3に開示された光導波路材料は、透明性が十分でないため、これを改良することが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-86697号公報
【特許文献2】国際公開第2015/029996号
【特許文献3】特開2006-265243号公報
【特許文献4】国際公開第2016/194618号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ポリマー光導波路などの光学材料において、上記した高透明性(低伝搬損失)、耐熱性、はんだリフロー耐性、および基板に対する高い密着性などに優れた光学材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者は鋭意検討を重ねた結果、特定のシルセスキオキサン骨格をポリマー主鎖中に有するシリコーン(silicone)材料が、所望の特性wo満たすことを見出し、発明を完成させた。すなわち本発明は以下のとおりである。
【0006】
[1] 式(Q)で表されるシルセスキオキサン骨格をポリマー主鎖中に有し、ポリマー主鎖がシリコーンであるポリマーを含有する、光学材料用組成物。
(式(Q)中、R
0は独立して、炭素数1~40の有機基であり、R
1は独立して、炭素数1~16の炭化水素基であり、*はポリマーとして連結する結合部位を表す。)
【0007】
[2] シルセスキオキサン骨格をポリマー主鎖中に有するポリマーが、式(1)で表される構造から成るポリマーである、[1]に記載の光学材料用組成物。
(式(1)中、R
1およびR
2は独立して、炭素数1~16の炭化水素基であり、mは、5~10000の整数であり、nは独立して、0~30の整数である。)
【0008】
[3] 有機金属化合物および縮合触媒を含有する、[1]または[2]に記載の光学材料用組成物。
【0009】
[4] 有機金属化合物が、式(2)で表されるシリコーン化合物である、[3]に記載の光学材料用組成物。
(式(2)中、R
3は独立して、炭素数1~4のアルキルであり、qは、1~100の整数である。)
【0010】
[5] [1]~[4]のいずれか1項に記載の光学材料用組成物を加熱硬化させて得られる、光学材料。
【0011】
[6] [1]~[4]のいずれか1項に記載の光学材料用組成物を加熱硬化させて得られる、光導波路。
【0012】
[7] [1]~[4]のいずれか1項に記載の光学材料用組成物を基板上に塗布したのち、加熱硬化させコアとし、必要に応じて他の材料をクラッドとして積層させた、光導波路。
【0013】
[8] [5]に記載の光学材料または[6]もしくは[7]に記載の光導波路を用いた、光配線素子。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ポリマー光導波路などの光学材料において、上記した高透明性(低伝搬損失)、耐熱性、はんだリフロー耐性、および基板に対する高い密着性などの特性の少なくとも2つに優れた特性を有する光学材料を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、[実施例]および[比較例]において測定した光学材料の吸収スペクトル図であり、黒色線は実施例5の光学材料(1)、灰色線は比較例1の光学材料(比較1)の各サンプルの吸収スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容になんら限定されない。また、本発明の実施態様は適宜組み合わせることもできる。
<シルセスキオキサン骨格をポリマー主鎖中に有し、ポリマー主鎖がシリコーンであるポリマー>
本発明に用いられるシルセスキオキサン骨格をポリマー主鎖中に有し、ポリマー主鎖がシリコーンであるポリマーは、好ましくは以下の式(Q)で表される構成単位(Q)および式(S)で表される構成単位(S)を含む。ここで、構成単位(Q)がシルセスキオキサン骨格に相当し、構成単位(S)がポリマー主鎖のシリコーンを構成する構成単位に相当する。このとき、ポリマー鎖の末端にSiOH(シラノール)基が存在する。
該ポリマーを含む本発明の光学材料は、特に、高温環境下の耐クラック性に優れ、機械的強度等の熱劣化が生じ難い。また、高温環境下での耐着色性にも優れ、透光性の熱劣化も生じ難い。
(式(Q)中、R
0は独立して、炭素数1~40の有機基であり、R
1は独立して、炭素数1~16の炭化水素基であり、*はポリマーとして連結する結合部位を表す。)
(式(S)中、R
2は独立して、炭素数1~16の炭化水素基であり、*はポリマーとして連結する結合部位を表す。)
【0017】
R0で表される有機基としては、炭素数1~40のアルキル、炭素数4~8のシクロアルキル、炭素数6~16のアリール、または炭素数7~16のアリールアルキルが挙げられる。炭素数1~40のアルキルにおいて、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH2-は-O-、-S-または-CH=CH-で置き換えられてもよく;炭素数6~16のアリールおよび炭素数7~16のアリールアルキル中のベンゼン環において、少なくとも1つの水素はハロゲンまたは炭素数1~10のアルキルで置き換えられてもよく;この炭素数1~10のアルキルにおいて、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして少なくとも1つの-CH2-は-O-、-S-または-CH=CH-で置き換えられてもよく;炭素数7~16のアリールアルキル中のアルキレンにおいて、炭素数は1~10であり、そして少なくとも1つの-CH2-は-O-または-S-で置き換えられてもよい。式(Q)で表されるシルセスキオキサン骨格において、本発明の光学材料の屈折率を増大させるために、R0はフェニル、ナフチル、ビフェニル、フルオレニルなどの芳香環であることが好ましい。また該芳香環上の水素は、短鎖長のアルキル、アルコキシ、またはチオアルキルなどで置換されていてもよい。これらの芳香環において、安価に製造できることから、R0としてフェニルを選択することがより好ましい。
【0018】
R1で表される炭化水素基としては、脂肪族鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基、および芳香族炭化水素基が挙げられる。脂肪族鎖状炭化水素基としては、メチル、エチル、プロピル等のアルキル、ビニル、プロペニル等のアルケニル、エチニル、プロピニル等のアルキニル等を挙げることができる。脂環式炭化水素基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロヘキシル、シクロヘキセニル等を挙げることができる。芳香族炭化水素基としては、フェニル、トリル、ナフチル等を挙げることができる。このとき、原料の入手が容易であることから、R1として、アルキルがより好ましく、メチルがさらに好ましい。一方、材料の屈折率を増大させる必要がある場合、R1は芳香環であることが好ましい。このとき、原料の入手が容易であることから、R1としてフェニルやナフチルを選択することがより好ましい。
【0019】
式(S)で表される構成単位におけるR2は、原料入手が容易で安価に製造できることから、短鎖長のアルキルが好ましく、メチルまたはエチルが最も好ましい。一方、材料の屈折率を向上させるためには、R2として芳香環を有する基を選択することが好ましい。このような芳香環のうち、比較的安価に製造できることからフェニルやナフチルを選択することがより好ましい。
【0020】
本発明に用いられるシルセスキオキサン骨格をポリマー主鎖中に有し、ポリマー主鎖がシリコーンであるポリマーは、1または複数の構成単位(Q)および1または複数の構成単位(S)から形成されるポリマーである。このポリマーは鎖の末端が、それぞれ、水素またはヒドロキシル基(OH)であってよい。このとき、材料の耐久性を向上させるため、鎖の両末端がヒドロキシル基であることが好ましい。
また構成単位(Q)および構成単位(S)等の構成単位の配置は、O(酸素)同士が隣り合って結合しない限り、特に限定されない。また、構成単位(Q)および構成単位(S)以外に、他の構成単位をさらに有していてもよい。
【0021】
上記したような光学材料として優れた物性を得るために、本発明の光学材料用組成物の成分となる主鎖中にシルセスキオキサン骨格を有するポリマーとしては、例えば、上記式(1)で表される構造から成るポリマーを選択することが好ましい。このようなポリマーは、熱や光に対する耐性が高い。またガラスやポリマー材料に対する密着性も高い。
【0022】
上記式(1)のmは5~10000の整数であり、所望の粘度等の材料物性によりこの範囲内で自由に選択できる。このとき、光学材料の耐熱性などを維持するためには、mは10以上が好ましく、15以上がより好ましく、40以上が最も好ましい。一方材料の塗布性を維持するためには、mは5,000以下が好ましく、1,000以下がさらに好ましく、500以下が最も好ましい。
【0023】
上記式(1)のnは独立して、0~30の整数である。全てのnが同時に0であることはない。このとき、基板に対する密着性を向上させるためには、nは2以上が好ましく、3以上がより好ましい。同様な理由から、nは15以下が好ましく、10以下がより好ましい。
上記式(1)で表されるポリマーの具体的構造は、構成単位(Q)および構成単位(S)を用い、m=5、n=5とした場合、以下の通りとなる。
【0024】
H-(S)5-(Q)-(S)5-(Q)-(S)5-(Q)-(S)5-(Q)-(S)5-(Q)-(S)5-OH
本発明の光学材料用組成物において、上記式(1)で表される構造から成るポリマーは、mおよびnが上記した範囲の混合物として、通常使用される。
【0025】
上記式(1)で表される構造から成るポリマーの製造方法は特に限定されないが、特開2010-116464号公報および特開2020-090572号公報等に開示された平衡重合法により、製造できる。
【0026】
<有機金属化合物>
本発明の光学材料用組成物に使用される有機金属化合物は、3以上の縮合反応性基またはその前駆体となる官能基を有する、有機金属化合物である。
縮合反応性基としては、OHやハライド等が挙げられる。またOHの前駆体となる基として、アルコキシ、アセトキシ、オキシム(-O-N=CR2:Rは炭化水素基)等が挙げられる。これらの縮合反応性基またはその前駆体となる官能基は、金属原子に結合していることが好ましい。組成物のハンドリング性の観点から、縮合反応性基としては、アルコキシが好ましい。化合物の入手が容易なことから、具体的にはメトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ等の炭素数1~4のアルキルを有するアルコキシを挙げることができる。これらの中でも、メトキシおよびエトキシがより好ましく、メトキシが最も好ましい。
【0027】
有機金属化合物の金属種としては、ケイ素、チタン、アルミニウム、ジルコニウム等の元素を挙げることができる。このとき、組成物のハンドリング性や入手の観点から、ケイ素であることが好ましい。なお本明細書では、ケイ素やゲルマニウム等の半金属も金属に含む。
【0028】
3つの縮合反応性基を有するケイ素化合物としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、グリシジルトリメトキシシラン、メルカプトトリメトキシシラン、メルカプトトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
【0029】
有機金属化合物としては、架橋性、得られる光学材料の耐熱性、機械的特性等の点から、4以上の縮合反応性基を有する化合物が好ましい。また、これらの化合物の加水分解縮合物、およびこれらの組み合わせも好ましい。加水分解縮合物は、直鎖状の化合物であることが好ましい。
このような4以上の縮合反応性基を有する化合物としては、式(2)で表されるシリコーン化合物、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート等を挙げることができる。
【0030】
【0031】
式(2)中、R3は独立して、炭素数1~4のアルキルであり、qは、1~100の整数である。
【0032】
上記R3で表されるアルキルとしては、メチル、エチル、プロピル、およびブチルが挙げられ、入手容易なことからメチルおよびエチルが好ましく、メチルがより好ましい。
【0033】
上記qは1~100の整数であり、本発明の光学材料を製作する上でこの値に関する制限はない。一方組成物のハンドリング性の観点から、上記qは10以下が好ましい。また光学材料の耐久性の観点から、qは2以上が好ましい。
【0034】
上記式(2)で表されるシリコーン化合物の具体例として、4つの縮合反応性基を有する化合物であるテトラメトキシシラン、テトラエトキシシランを挙げることができる。また5つ以上の縮合反応性基を有する化合物としては、上記各化合物の部分加水分解縮合物を挙げることができる。さらに、市販品として、三菱ケミカル(株)製MKC(登録商標)シリケートMS57、MKC(登録商標)シリケートMS51(テトラメトキシシラン平均5量体)、MKC(登録商標)シリケートMS56、MKC(登録商標)シリケートMS56S、コルコート(株)製のメチルシリケート51(テトラメトキシシラン4量体)、メチルシリケート53(テトラメトキシシラン7量体)、エチルシリケート40(テトラエトキシシラン5量体)、エチルシリケート48(テトラエトキシシラン10量体)(いずれも商標)等を挙げることができる。
【0035】
<縮合触媒>
本発明の光学材料用組成物は、光学材料とした際の耐熱性などを向上させるため、シルセスキオキサン骨格をポリマー主鎖中に有し、ポリマー主鎖がシリコーンであるポリマー、および有機金属化合物に加え、縮合触媒を含むことが好ましい。該縮合触媒は、該ポリマーと有機金属化合物との縮合反応を促進する触媒であれば、特に限定されない。錫系、チタン系、ビスマス系、ジルコニウム系等が挙げられるが、錫系、チタン系、およびジルコニウム系が好ましく、錫系およびジルコニウム系がより好ましい。
【0036】
錫系触媒としては、ジラウリン酸ジブチル錫、ジラウリン酸ジオクチル錫、二酢酸ジブチル錫、二酢酸ジオクチル錫、マレイン酸ジブチル錫、マレイン酸ジオクチル錫、2-エチルヘキサン酸錫等の有機錫化合物を挙げることができる。
【0037】
有機金属化合物が有機ケイ素化合物である場合、縮合触媒として、チタンテトラ-2-エチルヘキソキシド、チタンテトラn-ブトキシド、チタンテトライソプロポキシド等の有機チタン化合物、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート等の有機ジルコニウム化合物も好適な触媒として用いることができる。
【0038】
有機金属化合物が有機ケイ素化合物である場合、縮合触媒として、熱酸発生剤や光酸発生剤なども使用することが出来る。このような酸発生剤としては、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、アンチモン系などがある。なかでも高活性で安全性が高いことから、スルホニウム塩系が好ましい。
【0039】
<光学材料用組成物>
本発明の光学材料用組成物において、有機金属化合物の含有量は、材料の特性が所望の値を示す限り特に制限はない。しかしながら材料の耐久性を向上させるため、有機金属化合物の含有量は、シルセスキオキサン骨格をポリマー主鎖中に有し、ポリマー主鎖がシリコーンであるポリマーおよび有機金属化合物の合計100重量部に対し、0.1重量部以上が好ましく、0.5重量部以上がより好ましい。また基板への密着性を向上させるため、この化合物の含有量は10重量部以下が好ましく、5重量部以下がより好ましい。
【0040】
また、本発明の光学材料用組成物において、式(1)で表される構造から成るポリマーと有機金属化合物の混合割合は、以下の式(I)におけるα値が1を超える数値であることも好ましい。このとき材料の耐久性を向上させるため、α値は、1.5以上が好ましく、2以上がより好ましい。また基板への密着性を向上させるため、α値は15以下であることが好ましく、5以下がより好ましい。
α=有機金属化合物の縮合反応性基のモル数/式(1)で表される構造から成るポリマーのシラノール基のモル数 (I)
【0041】
本発明の光学材料用組成物において、縮合触媒の含有量は特に制限はないが、例えば、シルセスキオキサン骨格をポリマー主鎖中に有し、ポリマー主鎖がシリコーンであるポリマーおよび有機金属化合物の合計100重量部に対し、1×10-7~1重量部とすることが好適である。
【0042】
<その他の成分>
本発明の光学材料用組成物は、シルセスキオキサン骨格をポリマー主鎖中に有し、ポリマー主鎖がシリコーンであるポリマー、必要に応じて添加される有機金属化合物および縮合触媒を含有する。このとき、材料物性を改善するため、透明性などの所望の材料特性を損なわない限り、有機および無機化合物から成るその他の成分をさらに含有してもよい。材料の屈折率を増加させる目的では、酸化チタンや酸化ジルコニウム等のフィラーを好適に使用することが出来る。また難燃剤、イオン吸着体、酸化防止剤、硬化遅延剤、硬化禁止剤、紫外線吸収剤等を含有させることもできる。
【0043】
その他の成分の含有量は、用途等に応じて適宜設定することができる。しかしながら、本発明の特長である、高透明性、耐熱性、および基板に対する高い密着性などを維持するために、その他の成分は少ない方が好ましい。例えば、シルセスキオキサン骨格をポリマー主鎖中に有し、ポリマー主鎖がシリコーンであるポリマーおよび有機金属化合物の合計100重量部に対し、その他の成分の含有量は、10重量%以下が好ましく、1重量%以下がさらに好ましい。その他の成分の含有量の好ましい下限値は、0.01重量%である。
【0044】
<溶媒>
本発明の光学材料用組成物は溶媒を含んでもよい。このとき溶媒は、シルセスキオキサン骨格をポリマー主鎖中に有し、ポリマー主鎖がシリコーンであるポリマーおよび有機金属化合物等の成分を溶解可能であって、該成分に対して反応性を有さない溶媒であることが好ましい。
【0045】
溶媒としては、ヘキサンやヘプタン等の脂肪族炭化水素系、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、アニソール等のエーテル系、塩化メチレン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素系、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系等が挙げられる。
【0046】
本発明の光学材料用組成物における溶媒の含有量は特に限定されない。このとき、光学材料の作製時間を短縮するため、組成物全体の重量において、1~80重量%とすることが好ましく、1~60重量%とすることがより好ましい。
【0047】
<光学材料用組成物の調製方法>
本発明の光学材料用組成物の調製方法は特に限定されるものでは無く、公知の混合機を用いて各成分を混合および分散する方法などを採ることができる。本発明の光学材料用組成物は、各成分をそれぞれ使用直前に混合および分散してもよい。また該各成分は、2種または3種以上を混ぜ合わせて調製してもよい。本発明の光学材料用組成物は、各成分が均一に混合および分散されていることが好ましい。これを確認する方法として、公知の物理的および化学的方法を使うことが出来る。なかでも組成物の粘度を経時で測定する方法が、最も簡便で好ましい。
【0048】
<光学材料>
本発明の光学材料は、上述した光学材料用組成物を硬化してなる硬化物である。本発明の光学材料は、好ましくは光学材料用組成物を公知の方法により加熱することにより硬化して得ることができる。このときの加熱条件に特に制限はないが、温度は60~300℃が好ましく、時間は10分~24時間が好ましい。
【0049】
ここでいう硬化物とは、本発明の光学材料用組成物中の各成分の少なくとも一部において架橋反応が生じ、流動性が低下しているものであればよく、完全に硬化しているものに限定されるものでは無い。すなわち、当該硬化物には、弾性や粘性を有するものや、加熱することにより軟化または溶融するものなども含まれる。当該硬化物は、本発明の光学材料用組成物を硬化して得られるため、高温環境下の脆化が生じ難く、耐クラック性に優れ、機械的強度等の熱劣化が生じ難い。また当該硬化物は、高温環境下での耐着色性にも優れ、透光性の熱劣化も生じ難い。
【0050】
上述の通り、本発明の光学材料は完全に硬化しているものに限定されない。しかしながら、光学材料の屈折率温度変化を抑制する、および耐久性を向上させるためには、該材料中で十分な架橋が起こり、完全に硬化した硬化物を使用することが好ましい。このような硬化物とするため、加熱は250~300℃で30分以上行うことがより好ましい。またこの条件での加熱は、硬化物とする際に一度行えばよい。硬化物の形状を調整するなどのため、上述した加熱の前または後で、より低い温度で段階的に加熱してもよい。
【0051】
本発明の光学材料は、光学材料用組成物をガラスや樹脂基板上に塗布し、上記した硬化により成形することで得ることが出来る。塗布方法としては、ディスペンサーを用いた塗布法や、スピンコート法、ロールコート法、カーテンコート法、フローコート法、プリント法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、ワイヤーバーコート法、デップコート法、スプレーコート法、メニスカスコート法などが挙げられる。
【0052】
<用途>
本発明の光学材料は、近赤外から可視光領域において、高い透明性を有する。したがって、光に対する低伝搬損失が求められる、光学用接着剤、光学レンズ、光学材料用樹脂フィルム、および光導波路などの用途に、好適に用いられる。しかしながら、本発明の光学材料は上記用途に限られることなく、幅広く使用することが出来る。
【0053】
本発明の光学材料を光導波路として使用する場合、光導波路の下部クラッド、コアおよび上部クラッドの少なくとも1つの部材に本発明の光学材料を用いることが出来る。このとき、光に対する低伝搬損失という本発明の光学材料の特長から、コア材料とすることが好ましい。
【0054】
以下、本発明の光学材料用組成物から光導波路を作製する方法について説明する。上記した印刷法等を用いて基板上に光学材料用組成物を塗布し、加熱等によって溶媒を除去した後、加熱または活性光線の照射により、好ましくは加熱により光学材料用組成物を硬化する。得られた光学材料は、クラッド層を構成するものである。次いで、同様の塗布方法により、先に形成したクラッド層より屈折率の高い光学材料用組成物を塗布し、溶媒除去後、硬化してコア層とする。続いて、ネガまたはポジ型のマスクパターンを通し活性光線を照射後、ウェット現像、ドライ現像等で未露光部を除去して現像し、同様の方法にてコアパターンを作製する。または、ディスペンサーを用いた塗布により、同様の方法にて直接コアパターンを作製する。この後、コア層より屈折率の低い光学材料用組成物を、同様の方法にて塗布、製膜し、光導波路を作製する。
【0055】
コア層より屈折率の低い基板を選択することにより、基板を光導波路の下部クラッドとすることが出来る。また同様に、上部クラッドを空気層とすることで、樹脂層を省略できる。
【0056】
本発明の光学材料用組成物は、上記の方法により、光導波路とすることが出来る。このとき、該材料は熱硬化性であるため、これをコア層とする場合、コアパターン作製はディスペンサーを用いた塗布により行うことが好ましい。コア層の厚みは特に限定されないが、通常、1~100μmである。1μm以上であると、光導波路形成後の受発光素子または光ファイバーを接合する際、これらの部材の位置合わせが容易となる。また100μm以下であると、光導波路形成後の受発光素子または光ファイバーを接合する際、結合効率が向上する。同様な観点から、該フィルムの厚みは、30~70μmであることがより好ましい。また光導波路をシングルモードで使用する場合、伝搬損失を低減するため、コア層の厚みは、1~10μmであることが好ましい。
【実施例0057】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0058】
<ポリマーの重量平均分子量(Mw)測定>
特開2020-090572号公報に記載の方法と同様に、高速液体クロマトグラフシステムを用いて求めた。
【0059】
<ポリマーの平均ポリシロキサン鎖長(上記式(1)における2つのn)測定>
特開2020-090572号公報に記載の方法と同様に、核磁気共鳴スペクトル(NMR)を用いて決定した。
【0060】
<膜厚測定>
サンプルをガラス基板に塗布し硬化させた膜の一部を、カッターで削り、その段差を接触段差計KLA Tencor P+16(KLA Tencor社製)を用いて測定した。値は、測定場所を変えた5点の平均値を採った。
【0061】
<屈折率測定>
アッベの屈折率計(エルマアッベ屈折計ER-7MW、エルマ販売株式会社製)を用い、d線光源(587.6nm)で測定した。
【0062】
<吸収スペクトル測定>
JASVO V-670紫外可視近赤外分光光度計(日本分光株式会社製)を用いて測定した。
【0063】
<耐熱性評価>
150℃で1週間オーブン中に静置し、耐熱性評価前後の膜の透明性および色相を目視で確認した。また上記の方法で耐熱性評価前後の膜厚も測定した。
【0064】
<伝搬損失測定>
作製した光導波路の伝搬損失は、OPTICAL REVIEW,Vol.7,No.6,505(2000).に記載の方法と同様に、プリズムカップリング法を用いて測定した。光源は、He-Neレーザー(波長632.8nm)を用いた。この測定方法および条件で、プリズム間の距離を変えたときの光強度(dBm)を測定し、直線の傾きから伝搬損失(dB/cm)を導出した。
【0065】
<式(1)で表されるポリマー>
式(1)で表されるポリマーは、特開2020-090572号公報の合成例に記載の方法と同様に合成した。合成したポリマーの分析値を以下の表1に示す。なお、表にはポリマーの括弧内の数値等のみを表記した。
表1
【0066】
<有機金属化合物、縮合触媒および溶媒>
有機金属化合物として、メチルシリケートオリゴマー(MKC(登録商標)シリケートMS51、三菱ケミカル株式会社製商品名)を、縮合触媒として、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート(オルガチックスZC-150、マツモトファインケミカル株式会社製商品名)および酸発生剤(サンエイドSI-2BA、三新化学工業株式会社製商品名)をそれぞれ用いた。溶媒のアニソールは、市販の試薬を精製せずにそのまま用いた。
【0067】
[実施例1] 光学材料用組成物の調製
表1に掲げたポリマー(1-1):2.0g、MS51:0.14g、およびZC-150:0.0018gをガラス瓶に計り取り、アニソール:2.15gを加え、室温で一晩放置し固形分を溶解させることで、固形分濃度50重量%のサンプル溶液1(光学材料用組成物)を得た。
【0068】
[実施例2]~[実施例4] 光学材料用組成物の調製
上記実施例1と同様にして、固形分濃度約50重量%のサンプル溶液2~サンプル溶液4を得た。表2には実施例1も再掲する。なお、表にはポリマーの括弧内の数値等のみを表記した。
表2
【0069】
[実施例5] 光学材料(1)の作製
ガラス基板として40mm角、0.5mm厚みのイーグル(Eagle)XG(登録商標)(CORNING社製)ガラスに、サンプル溶液1をスピンコートした。このとき、スピンコート法の回転数は、700rpmであった。このサンプルを200℃で30分、その後300℃で30分加熱して硬化させることにより、光学材料(1)を得た。光学材料(1)の膜厚は、14.6μmであった。また屈折率は1.54であった。このサンプルの吸収スペクトルを
図1に示す。
【0070】
[実施例6]~[実施例8] 光学材料(2)~光学材料(4)の作製
上記実施例5と同様にして、光学材料(2)~光学材料(4)を得た。表3には実施例5の光学材料(1)も再掲する。なお、表には光学材料の括弧内の数値等のみを表記した。以下同様。
表3
【0071】
[比較例1] 式(Q)で表される構成単位を有するポリイミドから成る光学材料(比較1)の作製
特開2006-265243号公報の実施例8において、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物に代え、ピロメリト酸二無水物を用いた以外は、該実施例8と同様にして、濃度約20重量%のポリアミック酸ワニスを得た。このワニスを、本願実施例5と同様にして、ガラス基板にスピンコートした。その後、80℃/30分、150℃/15分、および300℃/1時間の順に焼成し、光学材料(比較1)を得た。この光学材料(比較1)の膜厚は6.0μmであった。このサンプルの吸収スペクトルを
図1に示す。
図1に示すように、本発明の光学材料(1)は、光学材料(比較1)に比べ、厚膜にも関わらず光線透過率が高いことが分かる。
【0072】
[比較例2] アクリル系光学材料(比較2)の作製
特開2007-86697号公報の実施例1に従い、シリコンウエハをガラス基板に代えた以外は本願実施例5と同様な方法で、光学材料(比較2)を作製した。この光学材料(比較2)の膜厚は15.0μmであり、屈折率は1.62であった。また透明性は本願の光学材料(1)と同様であった。
【0073】
[比較例3] チオール系光学材料1(比較3)の作製
国際公開第2015/029996号の実施例7に従い、樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物をガラス基板にスピンコート(回転数2000rpm)した。その後、超高圧水銀灯(マルチライト-250、ウシオ電機(株)製)を用い、窒素気流中、露光量30J/cm2(照射強度70mW/cm2)の硬化条件に代えた以外は本願実施例5と同様な方法で、サンプルを硬化させた。この光学材料(比較3)の膜厚は14.6μmであり、屈折率は1.59であった。また透明性は本願の光学材料(1)と同様であった。
【0074】
[比較例4] チオール系光学材料2(比較4)の作製
国際公開第2016/194618号の実施例4に従い、樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物をガラス基板にスピンコート(回転数2500rpm)した。その後、上記超高圧水銀灯を用い、窒素気流中、露光量2J/cm2の硬化条件に代えた以外は本願比較例3と同様な方法で、サンプルを硬化させた。この光学材料(比較4)の膜厚は15.4μmであり、屈折率は1.64であった。また透明性は本願の光学材料(1)と同様であった。
【0075】
[実施例9]~[実施例12]、[比較例5]~[比較例7]
本発明の光学材料(1)~光学材料(4)および光学材料(比較2)~光学材料(比較4)に関して、耐熱性評価を実施した。結果を表4に示す。
表4 光学材料の耐熱性評価結果
【0076】
上記実施例9~実施例12および比較例5~比較例7を比べることで、本発明の光学材料は、耐熱性評価後も光の透過率が高く、着色もないこと、すなわち耐着色性にも優れ、透光性の熱劣化も生じ難いことから耐熱性に優れることが分かる。このことから、本発明の光学材料をCo-pakage化素子のポリマー光導波路に使用すれば、実用時の耐久性だけでなく、素子製造時の耐はんだリフロー等にも優れた材料になると考えられる。
【0077】
実施例5~実施例8で作製したサンプル、および実施例9~実施例12で評価した耐熱性評価後のサンプルに関し、その両方のいずれもの実施例において光学材料の基板からの剥離などは無かった。すなわち、本発明の光学材料は基板に対する密着性も高いことになる。
【0078】
[実施例13] 光学材料(1)の伝搬損失
実施例5で作製した上記サンプルを用い、光学材料(1)の伝搬損失を測定した。その結果、4.53dB/cmであった。
【0079】
[比較例8]~[比較例10]
実施例13と同様にして、比較例2~比較例4で作製した光学材料(比較2)~光学材料(比較4)の伝搬損失を測定した。結果を表5に示す。
表5 公知材料の伝搬損失
【0080】
実施例13および比較例8~比較例10を比べることで、本発明の光学材料は、光導波路として実用に耐える低伝搬損失特性を有することが分かる。
このように、本発明の光学材料は高透明性(低伝搬損失)であり、該特性はこれを高温で使用したときも維持できることが分かる。
本発明の光学材料は、高透明性(低伝搬損失)で高耐熱性であり、基板に対する密着性も高いなど、優れた特性を有する。そのため、光導波路をはじめとする光学材料に好適に用いることが出来る。特に、自動車などの高温環境下で使用される素子用途の材料として、産業上非常に有用である。