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特開2024-123953塩素バイパス設備、セメントクリンカの製造装置、セメントクリンカの製造方法、及び塩素バイパス設備の運転方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123953
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】塩素バイパス設備、セメントクリンカの製造装置、セメントクリンカの製造方法、及び塩素バイパス設備の運転方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/60 20060101AFI20240905BHJP
   C04B 7/43 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C04B7/60
C04B7/43
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031802
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100212026
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真生
(72)【発明者】
【氏名】末益 猛
(72)【発明者】
【氏名】藤永 祐太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祥介
(57)【要約】
【課題】抽気されたガスの冷却に伴うコーチングの発生を抑制する。
【解決手段】本開示の一側面に係る塩素バイパス設備は、セメント原料を焼成するセメントキルンからの排ガスの一部を抽気する抽気口と、抽気口から抽気された抽気ガスに由来する導入ガスを旋回させつつ、導入ガスから粉体を分離するように構成されており、導入ガスを冷却する冷却用サイクロンと、を備える。冷却用サイクロンは、導入ガスの旋回流が形成される本体部に対して導入ガスを導入する第1ガス導入口と、導入ガスよりも温度が低い冷却用ガスを、導入ガスの旋回流の外側において旋回するように本体部に対して導入する第2ガス導入口と、導入ガスと冷却用ガスとが混合されて得られるガスを本体部から排出するガス排出口と、を有する。
【選択図】図4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント原料を焼成するセメントキルンからの排ガスの一部を抽気する抽気口と、
前記抽気口から抽気された抽気ガスに由来する導入ガスを旋回させつつ、前記導入ガスから粉体を分離するように構成されており、前記導入ガスを冷却する冷却用サイクロンと、を備え、
前記冷却用サイクロンは、
前記導入ガスの旋回流が形成される本体部に対して前記導入ガスを導入する第1ガス導入口と、
前記導入ガスよりも温度が低い冷却用ガスを、前記導入ガスの旋回流の外側において旋回するように前記本体部に対して導入する第2ガス導入口と、
前記導入ガスと前記冷却用ガスとが混合されて得られるガスを前記本体部から排出するガス排出口と、を有する、塩素バイパス設備。
【請求項2】
前記抽気ガスの温度を770℃以上に維持した状態で、前記抽気ガスに含まれる原料ダストの粗粉を前記抽気ガスから分離して原料ダストの微粉を含む分級後ガスを生成する分級用サイクロンを更に備え、
前記冷却用サイクロンには、前記分級後ガスが前記導入ガスとして導入される、請求項1に記載の塩素バイパス設備。
【請求項3】
前記第1ガス導入口及び前記第2ガス導入口は、互いに一致する角度から、前記本体部に対してガスをそれぞれ導入し、
前記冷却用サイクロンは、前記第1ガス導入口から導入された前記導入ガスをガイドする部分と、前記第2ガス導入口から導入された前記冷却用ガスをガイドする部分との境界部分に配置され、当該境界部分を加熱する加熱部を更に有する、請求項1又は2に記載の塩素バイパス設備。
【請求項4】
前記第1ガス導入口及び前記第2ガス導入口は、互いに異なる角度から、前記本体部に対してガスをそれぞれ導入する、請求項1又は2に記載の塩素バイパス設備。
【請求項5】
前記冷却用サイクロンは、前記第1ガス導入口から導入された前記導入ガスをガイドする部分の外壁のうち、前記第2ガス導入口から導入された前記冷却用ガスをガイドする部分に対向する部分を加熱する加熱部を更に有する、請求項4に記載の塩素バイパス設備。
【請求項6】
前記冷却用サイクロンは、前記本体部の外壁の少なくとも一部を加熱する加熱部を更に有する、請求項1又は2に記載の塩素バイパス設備。
【請求項7】
前記加熱部は、前記冷却用ガスよりも温度が高い加熱用ガスを、前記本体部の外壁に沿って流通させることで、前記本体部の外壁の少なくとも一部を加熱し、
前記加熱部は、前記導入ガス及び前記冷却用ガスとは反対向きに、前記加熱用ガスを流通させる、請求項6に記載の塩素バイパス設備。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の塩素バイパス設備と、
前記セメントキルンと、を備える、セメントクリンカの製造装置。
【請求項9】
請求項8に記載の製造装置を用いてセメントクリンカを製造する、セメントクリンカの製造方法。
【請求項10】
セメント原料を焼成するセメントキルンからの排ガスの一部を抽気して抽気ガスを得る抽気工程と、
導入されたガスを旋回させつつ、当該ガスから粉体を分離するように構成された冷却用サイクロンを用いて、前記抽気ガスに由来する導入ガスを冷却する冷却工程と、を含み、
前記冷却工程は、
前記冷却用サイクロンの本体部において前記導入ガスの旋回流が形成されるように、前記本体部に対して前記導入ガスを導入する第1導入工程と、
前記導入ガスよりも温度が低い冷却用ガスを、前記導入ガスの旋回流の外側において旋回するように前記本体部に対して導入する第2導入工程と、
前記導入ガスと前記冷却用ガスとが混合されて得られるガスを前記本体部から排出する排出工程と、を含む、塩素バイパス設備の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塩素バイパス設備、セメントクリンカの製造装置、セメントクリンカの製造方法、及び塩素バイパス設備の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントクリンカの製造装置では、各種廃棄物を原料及び燃料として用いることの取り組みが進められている。このような事情から、セメントキルンに持ち込まれる塩素量は増加する傾向にある。多くのセメントクリンカの製造装置にはセメントキルン内の塩素を低減するために塩素バイパス設備が設置されており、この塩素バイパス設備で抽気された抽気ガスから効率的に塩素を除去する技術が検討されている。特許文献1では、キルン排ガス流路から抽気した抽気ガスの温度を770℃以上に維持した状態で抽気ガスから粗粉を分離し、その後、600℃以下に冷却して塩素バイパスダストを分離する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-55900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、抽気されたガスの冷却に伴うコーチングの発生を抑制するのに有用な塩素バイパス設備、セメントクリンカの製造装置、セメントクリンカの製造方法、及び塩素バイパス設備の運転方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]セメント原料を焼成するセメントキルンからの排ガスの一部を抽気する抽気口と、前記抽気口から抽気された抽気ガスに由来する導入ガスを旋回させつつ、前記導入ガスから粉体を分離するように構成されており、前記導入ガスを冷却する冷却用サイクロンと、を備え、前記冷却用サイクロンは、前記導入ガスの旋回流が形成される本体部に対して前記導入ガスを導入する第1ガス導入口と、前記導入ガスよりも温度が低い冷却用ガスを、前記導入ガスの旋回流の外側において旋回するように前記本体部に対して導入する第2ガス導入口と、前記導入ガスと前記冷却用ガスとが混合されて得られるガスを前記本体部から排出するガス排出口と、を有する、塩素バイパス設備。
【0006】
[2]前記抽気ガスの温度を770℃以上に維持した状態で、前記抽気ガスに含まれる原料ダストの粗粉を前記抽気ガスから分離して原料ダストの微粉を含む分級後ガスを生成する分級用サイクロンを更に備え、前記冷却用サイクロンには、前記分級後ガスが前記導入ガスとして導入される、上記[1]に記載の塩素バイパス設備。
【0007】
[3]前記第1ガス導入口及び前記第2ガス導入口は、互いに一致する角度から、前記本体部に対してガスをそれぞれ導入し、前記冷却用サイクロンは、前記第1ガス導入口から導入された前記導入ガスをガイドする部分と、前記第2ガス導入口から導入された前記冷却用ガスをガイドする部分との境界部分に配置され、当該境界部分を加熱する加熱部を更に有する、上記[1]又は[2]に記載の塩素バイパス設備。
【0008】
[4]前記第1ガス導入口及び前記第2ガス導入口は、互いに異なる角度から、前記本体部に対してガスをそれぞれ導入する、上記[1]又は[2]に記載の塩素バイパス設備。
【0009】
[5]前記冷却用サイクロンは、前記第1ガス導入口から導入された前記導入ガスをガイドする部分の外壁のうち、前記第2ガス導入口から導入された前記冷却用ガスをガイドする部分に対向する部分を加熱する加熱部を更に有する、上記[4]に記載の塩素バイパス設備。
【0010】
[6]前記冷却用サイクロンは、前記本体部の外壁の少なくとも一部を加熱する加熱部を更に有する、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の塩素バイパス設備。
【0011】
[7]前記加熱部は、前記冷却用ガスよりも温度が高い加熱用ガスを、前記本体部の外壁に沿って流通させることで、前記本体部の外壁の少なくとも一部を加熱し、前記加熱部は、前記導入ガス及び前記冷却用ガスとは反対向きに、前記加熱用ガスを流通させる、上記[6]に記載の塩素バイパス設備。
【0012】
[8]上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の塩素バイパス設備と、前記セメントキルンと、を備える、セメントクリンカの製造装置。
【0013】
[9]上記[8]に記載の製造装置を用いてセメントクリンカを製造する、セメントクリンカの製造方法。
【0014】
[10]セメント原料を焼成するセメントキルンからの排ガスの一部を抽気して抽気ガスを得る抽気工程と、導入されたガスを旋回させつつ、当該ガスから粉体を分離するように構成された冷却用サイクロンを用いて、前記抽気ガスに由来する導入ガスを冷却する冷却工程と、を含み、前記冷却工程は、前記冷却用サイクロンの本体部において前記導入ガスの旋回流が形成されるように、前記本体部に対して前記導入ガスを導入する第1導入工程と、前記導入ガスよりも温度が低い冷却用ガスを、前記導入ガスの旋回流の外側において旋回するように前記本体部に対して導入する第2導入工程と、前記導入ガスと前記冷却用ガスとが混合されて得られるガスを前記本体部から排出する排出工程と、を含む、塩素バイパス設備の運転方法。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、抽気されたガスの冷却に伴うコーチングの発生を抑制するのに有用な塩素バイパス設備、セメントクリンカの製造装置、セメントクリンカの製造方法、及び塩素バイパス設備の運転方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、セメントクリンカの製造装置の一例を示す模式図である。
図2図2は、塩素バイパス設備のシステム構成の一例を示す模式図である。
図3図3は、冷却用サイクロンの一例を模式的に示す側面図である。
図4図4は、冷却用サイクロンの一例を模式的に示す上面図である。
図5図5は、冷却用サイクロンの一例を模式的に示す上面図である。
図6図6は、冷却用サイクロンの一例を模式的に示す側面図である。
図7図7は、冷却用サイクロンの一例を模式的に示す上面図である。
図8図8は、冷却用サイクロンの一例を模式的に示す上面図である。
図9図9は、冷却用サイクロンの一例を模式的に示す側面図である。
図10図10は、冷却用サイクロンの一例を模式的に示す側面図である。
図11図11は、冷却用サイクロンの一例を模式的に示す上面図である。
図12図12(a)及び図12(b)は、冷却用サイクロンの一例を模式的に示す側面図である。
図13図13(a)及び図13(b)は、冷却用サイクロンの一例を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。一部の図面には、XYZ直交座標系が示される。以下の説明では、Z軸が上下方向に対応し、X軸及びY軸が水平方向に対応する。
【0018】
[セメントクリンカの製造装置]
図1には、一実施形態に係るセメントクリンカの製造装置が模式的に示されている。図1に示される製造装置1(セメントクリンカの製造装置)は、セメント原料を焼成してセメントクリンカを製造する装置である。製造装置1は、プレヒータ10と、セメントキルン20と、クリンカクーラ30と、塩素バイパス設備50と、を備える。
【0019】
プレヒータ10は、セメント原料を予熱する装置である。プレヒータ10は、セメント原料の予熱に加えて、セメント原料を仮焼してもよい。プレヒータ10は、例えば、サイクロンC1,C2,C3,C4と、仮焼炉12と、を有する。プレヒータ10では、セメントキルン20からの排ガス(以下、「キルン排ガス」という。)が、仮焼炉12、サイクロンC4、サイクロンC3、サイクロンC2、及びサイクロンC1を流通する。プレヒータ10では、サイクロンC1とサイクロンC2との接続部に対して、セメント原料が導入される。
【0020】
プレヒータ10に導入されたセメント原料は、サイクロンC1、サイクロンC2、サイクロンC3、仮焼炉12、及びサイクロンC4を流通しつつ、キルン排ガス等との熱交換により加熱されて、セメントキルン20の窯尻22に導入される。プレヒータ10は、セメントキルン20の窯尻22と仮焼炉12とを接続するライジングダクト14を有する。仮焼炉12には、ライジングダクト14を介してキルン排ガスが導入される。キルン排ガスには、セメントキルン20での燃焼排ガスが含まれる。仮焼炉12には、キルン排ガスに加えて熱エネルギー原料が導入され、仮焼炉12は、セメント原料を仮焼する。
【0021】
セメントキルン20は、セメント原料を焼成してセメントクリンカを生成する装置である。セメントキルン20は、プレヒータ10で予熱及び仮焼された後のセメント原料を焼成してもよい。セメントキルン20は、バーナ24と、本体部26とを有する。バーナ24は、本体部26のうちの窯尻22とは反対側の端部に設けられている。本体部26は、円筒状に形成されており、その中心軸まわりに回転可能に設けられている。セメントキルン20は、ロータリキルンとも称される。
【0022】
本体部26内において、バーナ24の燃焼によってセメント原料が焼成される。セメントキルン20は、セメント原料から得られたセメントクリンカをクリンカクーラ30に排出する。クリンカクーラ30は、セメントクリンカを冷却する装置である。クリンカクーラ30によって冷却された後のセメントクリンカが、製造装置1から排出される。
【0023】
(塩素バイパス設備)
塩素バイパス設備50は、セメントキルン20で発生するキルン排ガスの一部を抽気して、製造装置1内の塩素分等の揮発成分をダストとして回収する設備(装置)である。製造装置1において、塩素バイパス設備50が設置されることで、製造装置1内の塩素分を低減することができる。塩素バイパス設備50は、例えば、ライジングダクト14に接続されている。この場合、塩素バイパス設備50は、ライジングダクト14からキルン排ガスを抽気する。
【0024】
図2には、塩素バイパス設備50のシステム構成の一例が模式的に示されている。塩素バイパス設備50は、例えば、抽気口52と、ダクト54と、第1サイクロン60と、ダクト62と、第2サイクロン70と、ダクト98と、回収部92と、吸引部94と、ダスト処理部96と、を備える。以下の説明では、ガスの流れを基準にして「上流」及び「下流」の用語を用いる。また、塩素バイパス設備50において抽気された直後のガス(抽気後に何ら処理が施されていないガス)を「ガスG1」と称する。
【0025】
抽気口52は、キルン排ガスの一部を抽気する開口である。抽気口52は、ライジングダクト14に設けられてもよい。なお、抽気口52は、ライジングダクト14に代えて、又は加えて、窯尻22に設けられてもよく、窯尻22とライジングダクト14との間(境界部分)に設けられてもよい。ダクト54は、その一端に抽気口52が形成され、抽気口52から抽気されて得られるガスG1(抽気ガス)を第1サイクロン60まで流通させる管である。ダクト54は、抽気プローブとも称される。
【0026】
ガスG1は、原料ダスト、並びにKCl及びNaCl等の揮発した塩素分を含む。ガスG1に含有される原料ダストには、原料ダストの粗粉と、粗粉よりも小さい粒径を有する微粉とが含まれる。ガスG1は、770℃以上の温度を有する。ガスG1の温度は、1000℃~1100℃程度であってもよい。ガスG1は、ダクト54を流通して、第1サイクロン60に導入される。
【0027】
第1サイクロン60(分級用サイクロン)は、ガスG1の温度を770℃以上に維持した状態で、ガスG1に含まれる原料ダストの粗粉をガスG1から分離して、原料ダストの微粉を含むガス(分級後ガス)を生成する装置である。以下、第1サイクロン60において原料ダストの粗粉が分離された後のガス(第1サイクロン60が生成するガス)を「ガスG2」と称する。
【0028】
原料ダストの粗粉の粒径は、18μm以上であってもよい。原料ダストの粗粉の粒径は、好ましくは16μm以上であってもよく、さらに好ましくは14μm以上であってよい。原料ダストの微粉の粒径は、上述の粗粉の粒径よりも小さい。原料ダスト(クリンカダスト)の塩素濃度は粒径によって異なっており、原料ダストの粗粉では、微粉に比べて塩素濃度が低い。そのため、第1サイクロン60において、塩素濃度の低い原料ダストの粗粉を分離し、分離した原料ダストの粗粉をセメントキルン20に戻すことで、セメントキルン20への塩素の導入量を低減しつつ、塩素バイパス設備50において処理すべきダストの量の増加を抑制することができる。
【0029】
第1サイクロン60においてガスG1から分離される原料ダストの粗粉の表面にKCl及びNaCl等の揮発した塩素分が析出することを抑制する観点から、第1サイクロン60において原料ダストの粗粉を分離する際のガスG1の温度は、好ましくは820℃以上、より好ましくは860℃以上に維持される。第1サイクロン60の出口におけるガスG2が、上記温度を有することが好ましい。ガスG2は十分に高い温度を有しているため、ガスG2内において、KCl及びNaCl等の塩素分は気相状態で含まれている。
【0030】
図1に示されるように、塩素バイパス設備50は、循環ライン58を備える。循環ライン58は、第1サイクロン60から分離された原料ダストの粗粉をセメントキルン20の窯尻22まで運搬して窯尻22に戻す装置である。抽気口52から抽気された原料ダストの粗粉を窯尻22に戻すことによって、ガスG1に含まれる原料ダストの粗粉をセメントクリンカの製造に用いることができる。なお、循環ライン58は、窯尻22に代えて、又は加えて、原料ダストの粗粉を、ライジングダクト14、仮焼炉12、及び、セメントキルン20の本体部26のうちの1箇所以上に戻してもよい。
【0031】
図2に戻り、ダクト62は、第1サイクロン60で得られるガスG2を第2サイクロン70まで流通させる管である。ガスG2は、770℃以上の温度を有する。ガスG2は、抽気口52においてキルン排ガスが抽気されて得られる抽気ガス(ガスG1)に由来するガスである。ガスG2は、ダクト62を流通して、第2サイクロン70に導入される。
【0032】
第2サイクロン70(冷却用サイクロン)は、導入されたガスを旋回させつつ、当該ガスから粉体を分離するように構成された装置である。第2サイクロン70は、冷却用ガスGcを用いてガスG2を冷却する機能を有する。第2サイクロン70には、ガスG2と冷却用ガスGcとが導入され、第2サイクロン70は、ガスG2と冷却用ガスGcとを混合させることで、ガスG2よりも温度が低いガスを生成する。以下、第2サイクロン70において生成される、ガスG2よりも温度が低いガスを「ガスG3」と称する。第2サイクロン70において生成されたガスG3(第2サイクロン70において冷却された後のガス)の温度は、例えば、260℃未満であり、好ましくは200℃未満である。第2サイクロン70の詳細については、後述する。
【0033】
ダクト98は、ガスG3を第2サイクロン70から回収部92まで流通させる管である。回収部92には、ダクト98からガスG3が導入される。回収部92は、ガスG3に含まれるクリンカダスト(塩素バイパスダスト)をガスG3から回収する装置である。回収部92は、バグフィルタであってもよく、湿式スクラバ等の湿式集塵器であってもよい。吸引部94は、ガスG3を吸引する。吸引部94は、シロッコファン及びターボファンなどの通常の吸引ファンであってもよい。
【0034】
ダスト処理部96は、回収部92により回収されて得られるクリンカダストに対して水洗処理を行う装置である。ダスト処理部96において水洗処理が行われた後のクリンカダストは、セメント組成物に配合されてもよく、セメント原料として用いられてもよい。
【0035】
(冷却用サイクロン)
図3には、第2サイクロン70の側面図が模式的に示されており、図4には、第2サイクロン70の上面図が模式的に示されている。図3には、第2サイクロン70の側方を外から見た図が示されているが、その内部でのガスの流れが矢印によって示されている。図4には、ガスの導入口を通る水平な平面で切断した際の横断面が示されている。第2サイクロン70は、上方から下方に向かってガスG2を旋回させつつ、当該ガスから粉体を分離するように構成されている。
【0036】
第2サイクロン70には、ガスG2に加えて、冷却用ガスGcが導入される。第2サイクロン70は、ガスG2及び冷却用ガスGcを旋回させつつ、ガスG2から原料ダストの微粉を分離する機能と、ガスG2及び冷却用ガスGcとを混合させることで、ガスG2の温度を低下させる機能とを有する。第2サイクロン70は、ガスG2及び冷却用ガスGcを混合して得られるガスG3をダクト98に排出する。図3及び図4に示されるように、第2サイクロン70は、本体部71と、ガス導入口72と、ガス導入口74と、粉体排出口78と、ガス排出口82と、を有する。
【0037】
本体部71は、サイクロンの本体部分であり、その内部の空間にガスの旋回流を形成する部分である。本体部71は、鉛直な軸線Ax1に沿って延びるように形成されてもよい。軸線Ax1は、上下方向に沿って延びる仮想的なラインである。本体部71では、例えば、上部及び下部の2つの部分に区画することができる。本体部71の上部は、ガスの導入部分を除いて、径が略一定の円筒状に形成され、本体部71の下部は、下方に向かうにつれて径が細くなる切頭円錐状に形成されている。軸線Ax1に直交する面で切断した際の本体部71の断面では、本体部71を構成する周壁が、軸線Ax1まわりに延びている。
【0038】
第2サイクロン70は、本体部71において、上方から下方に向かってガスG2及び冷却用ガスGcを流通させる。この際、第2サイクロン70は、ガスG2及び冷却用ガスGcを軸線Ax1まわりに旋回させつつ、本体部71の周壁に沿って流通させる。本体部71の内部には、ガスG2の旋回流と冷却用ガスGcの旋回流とが形成される。また、第2サイクロン70は、本体部71の下端部(下端部及びその近傍)において、ガスG2及び冷却用ガスGcを混合させたうえで、その混合ガスを、軸線Ax1が通る中央部を上昇させる。本体部71の中央部には、ガスG2に含まれる塩素分の凝縮に起因したコーチングの形成を抑制する観点から、上記混合ガスをガイドするための筒部材が設けられなくてもよい。
【0039】
ガス導入口72(第1ガス導入口)は、本体部71に対してガスG2を導入する開口である。ガス導入口72は、本体部71の上部に対してガスG2が導入され、ガスG2の導入方向が水平となるように形成されている。ガス導入口74(第2ガス導入口)は、本体部71に対して冷却用ガスGcを導入する開口である。冷却用ガスGcは、常温の空気であってよく、工場等で発生する排気ガスを含むガスであってもよい。ガス導入口74は、本体部71の上部に対して冷却用ガスGcが導入され、冷却用ガスGcの導入方向が水平となるように形成されている。
【0040】
ガス導入口74は、冷却用ガスGcが、ガスG2の旋回流の外側において旋回するように、本体部71に対して冷却用ガスGcを導入する。冷却用ガスGcの旋回流は、ガスG1の旋回流と本体部71の周壁の内面(内壁)との間にエアーカーテンを形成し、高温のガスG2が本体部71の内壁に接触して冷却されることに起因して、内壁に塩素分が凝縮するのを抑制する。
【0041】
ガス導入口72及びガス導入口74は、互いに一致する角度から、本体部71に対してガスをそれぞれ導入する。すなわち、ガス導入口72からのガスG2の導入方向と、ガス導入口74からの冷却用ガスGcの導入方向とは、互いに一致してもよい。ガスG2が導入される角度(ガス導入口72のガスG2の導入方向)は、ガス導入口72に対して直交するラインの角度(方向)で規定される。冷却用ガスGcが導入される角度(ガス導入口74の冷却用ガスGcの導入方向)は、ガス導入口74に対して直交するラインの角度(方向)で規定される。なお、角度が一致することには、実質的に角度が一致する場合も含まれる。
【0042】
本体部71は、その上部において、ガス導入口から導入されたガスを円筒状の部分までガイドするガイド部71aを含む。ガイド部71aは、例えば断面が四角形の流路を形成し、本体部71(ガイド部71aを除いた部分)においてガスの旋回流が形成させるように、ガスの流れを調節する。ガイド部71a内の流路は、ガイド板75によって2つの領域に仕切られている。これにより、ガイド部71a内の流路が、ガスG2が流通する領域と、冷却用ガスGcが流通する領域とに区画されている。
【0043】
ガイド部71aの端部にガスを導入するための開口が設けられており、その開口が、ガイド板75の一端によって、左右に並ぶガス導入口72とガス導入口74とに仕切られている。ガイド部71aにおいて、ガス導入口72から導入されたガスG2が流通する領域は、ガス導入口74から導入された冷却用ガスGcが流通する領域に比べて、軸線Ax1に近い位置に設けられている。
【0044】
粉体排出口78は、本体部71の下端部に設けられており、ガスG2から分離された原料ダストの微粉を排出する開口である。粉体排出口78から排出される原料ダストの微粉には、塩素分が含まれている。粉体排出口78から排出される原料ダストの微粉は、循環ライン58を介して、セメントキルン20の窯尻22に戻されてもよい。粉体排出口78から排出される原料ダストの微粉は、窯尻22に戻すことに代えて、ダスト処理部96において処理されてもよい。
【0045】
ガス排出口82は、本体部71の上端部に設けられており、ガスG2と冷却用ガスGcとが混合されて得られるガスG3を、本体部71から排出する開口である。ガス排出口82には、ダクト98の上流側の端部が接続されており、ガス排出口82から本体部71の外に放出されたガスG3は、ダクト98内に導入される。
【0046】
第2サイクロン70では、上面視において、ガス導入口74から導入された後の冷却用ガスGcは、軸線Ax1まわりを1周旋回した後に、ガイド部71aのうちのガスG2が流通する部分に重なる(図4の「A」で指す部分を参照)。しかしながら、冷却用ガスGcは本体部71において旋回しつつ下方に流通するので、冷却用ガスGcに起因して、ガイド部71aのうちのガスG2が流通する部分を形成する壁部分の温度が低下するのを抑制できる。また、本体部71の下端部にガスG2が到達した後、ガス排出口82に向かって上昇する際に、ガスG2の全部又は大部分が、冷却用ガスGcと混合し得るので、本体部71の内壁において、冷却用ガスGcとの混合に伴う塩素分の凝縮が発生し難い。
【0047】
[セメントクリンカの製造方法]
続いて、セメントクリンカの製造方法の一例として、製造装置1において実行されるセメントクリンカの製造過程について説明する。製造装置1において実行される製造過程は、例えば、予熱仮焼工程と、焼成工程と、クリンカ冷却工程と、回収工程と、を含む。これらの工程は、少なくとも部分的に重複した期間において、それぞれ実行される。予熱仮焼工程は、プレヒータ10において、セメントキルン20からのキルン排ガス等を含む高温のガスにより、セメント原料を予熱及び仮焼する工程である。
【0048】
焼成工程は、セメントキルン20において、バーナ24からの燃焼ガスにより、セメント原料の焼成を行う工程である。クリンカ冷却工程は、クリンカクーラ30において、セメントキルン20で生成されたセメントクリンカを冷却する工程である。回収工程は、塩素バイパス設備50において、キルン排ガスの一部を抽気して、製造装置1内の塩素分等の揮発成分をダストとして回収する工程である。回収工程では塩素バイパス設備50が運転されるので、回収工程は、塩素バイパス設備の運転方法でもある。
【0049】
(塩素バイパス設備の運転方法)
塩素バイパス設備50を運転する方法(塩素バイパス設備の運転方法)は、抽気工程と、分級工程と、ガス冷却工程(冷却工程)と、循環工程と、処理工程と、を含む。抽気工程は、セメントキルン20からの排ガスの一部を抽気口52から抽気して、抽気ガスであるガスG1を得る工程である。分級工程は、分級用サイクロンである第1サイクロン60を用いて、ガスG1の温度を770℃以上に維持した状態で、ガスG1に含まれる原料ダストの粗粉をガスG1から分離してガスG2を生成する工程である。
【0050】
ガス冷却工程は、冷却用サイクロンである第2サイクロン70を用いて、ガスG1に由来するガスG2を冷却する工程である。ガス冷却工程は、第1導入工程と、第2導入工程と、排出工程と、を含む。第1導入工程は、ガスG2の旋回流が形成されるように本体部71に対してガス導入口72からガスG2を導入する工程である。第2導入工程は、ガスG2よりも温度が低い冷却用ガスGcを、ガスG2の旋回流の外側において旋回するように本体部71に対してガス導入口74から導入する工程である。排出工程は、ガスG2と冷却用ガスGcとが混合されて得られるガスG3を、ガス排出口82を介して本体部71から排出する工程である。
【0051】
循環工程は、分級工程で得られた原料ダストの粗粉を、循環ライン58を介してセメントキルン20に戻す工程である。循環工程において、ガス冷却工程で得られた原料ダストの微粉が、循環ライン58を介してセメントキルン20に戻されてもよい。処理工程は、回収部92によりガスG3からクリンカダストを回収し、そのクリンカダストに対して水洗処理を行う工程である。
【0052】
[変形例)
以上に説明した冷却用サイクロンは、一例であり、適宜変更可能である。塩素バイパス設備50は、第2サイクロン70に代えて、図5に示される第2サイクロン70A(冷却用サイクロン)を備えてもよい。第2サイクロン70Aは、ガス導入口72及びガス導入口74が、互いに異なる角度から本体部71に対してガスをそれぞれ導入する点において、第2サイクロン70と相違する。第2サイクロン70Aでは、ガスG2が導入される角度(ガス導入口72のガスG2の導入方向)が、冷却用ガスGcが導入される角度(ガス導入口74の冷却用ガスGcの導入方向)と異なっている。すなわち、ガス導入口72に対して直交するラインの角度(方向)が、ガス導入口74に対して直交するラインの角度(方向)と異なっている。
【0053】
第2サイクロン70Aの本体部71は、その上部において、ガス導入口72から導入されたガスG2を円筒状の部分までガイドするガイド部71bと、ガス導入口74から導入された冷却用ガスGcを円筒状の部分までガイドするガイド部71cと、を含む。ガイド部71bとガイド部71cとの間には、空間Sが形成されている。空間Sが形成されることで、ガイド部71cの流路を流通している冷却用ガスGcに起因して、ガイド部71bの流路を流通しているガスG2が冷却され難くなる。
【0054】
塩素バイパス設備50は、第2サイクロン70に代えて、図6に示される第2サイクロン70B(冷却用サイクロン)を備えてもよい。第2サイクロン70Bは、本体部71に代えて、本体部71Bを有する点において、第2サイクロン70と相違する。本体部71Bは、直動部77aと、錐部77bとを含む。直動部77aは、本体部71Bの上部に対応しており、ガスの導入部分を除いて、径が略一定の円筒状に形成されている。錐部77bは、本体部71Bの下部に対応しており、下方に向かうにつれて径が細くなる切頭円錐状に形成されている。
【0055】
直動部77aの天板部87aは、ガスの導入口を起点として、軸線Ax1まわりに旋回が進むにつれて下方に傾斜するように(螺旋状に)形成されている。第2サイクロン70Bは、所謂ヘリカルトップ型のサイクロンである。サイクロンの上部において、螺旋状の天板部87aが形成されることで、天板部87aが形成されない場合に比べて、ガス導入口74から導入された冷却用ガスGcが、より下方に向かってガイドされる。そのため、ガス導入口74から導入された冷却用ガスGcが、1周旋回した後において、旋回部分に導入される直前のガスG2(図4のAで指す部分も参照)に対して影響を与え難い。
【0056】
塩素バイパス設備50は、第2サイクロン70に代えて、図7に示される第2サイクロン70C(冷却用サイクロン)を備えてもよい。第2サイクロン70Cは、ガイド板75に代えて、ガイド板75Cが設けられる点において、第2サイクロン70と相違する。ガイド板75Cには、加熱部84Cが設けられている。加熱部84Cは、例えば、ガイド板75Cの内部に設けられている。ガイド板75Cは、ガス導入口72から導入されたガスG2をガイドする部分と、ガス導入口74から導入された冷却用ガスGcをガイドする部分との境界部分に相当する。加熱部84Cは、上記境界部分を加熱する。
【0057】
加熱部84Cは、複数の棒状のヒータを有してもよい。複数の棒状のヒータが、ガイド板75Cの延在方向に沿って、所定の間隔で並んでいてもよい。ガイド板75Cに加熱部84Cが設けられることで、ガス導入口74から導入された冷却用ガスGcに起因して、ガイド板75Cの温度が低下することが抑制される。この場合、ガイド板75Cの温度低下に起因して、ガス導入口72から導入されたガスG2が冷却されるのが抑制される。
【0058】
塩素バイパス設備50は、第2サイクロン70に代えて、図8に示される第2サイクロン70D(冷却用サイクロン)を備えてもよい。第2サイクロン70Dは、加熱部84Dを更に有する点において、第2サイクロン70Aと相違する。加熱部84Dは、ガイド部71bとガイド部71cとの間の空間Sに配置されている。加熱部84Dは、ガイド部71bの外壁のうちの、ガイド部71cに対向する部分を加熱する。
【0059】
加熱部84Dは、ガイド部71bの外壁のうちの、ガイド部71cに対向する部分に設けられてもよい。加熱部84Dは、パネル状のヒータであってもよい。ガイド部71bの外壁のうちの、ガイド部71cに対向する部分が加熱されることで、ガス導入口74から導入され、ガイド部71cの流路を流通している冷却用ガスGcに起因して、ガイド部71bの外壁の温度が低下することが抑制される。この場合、ガイド部71bの温度低下に起因して、ガス導入口72から導入され、ガイド部71bの流路を流通しているガスG2が冷却されるのが抑制される。
【0060】
塩素バイパス設備50は、第2サイクロン70に代えて、図9に示される第2サイクロン70E(冷却用サイクロン)を備えてもよい。第2サイクロン70Eは、加熱部84Eを更に有する点において第2サイクロン70Bと相違する。加熱部84Eは、本体部71Bの外壁の少なくとも一部を加熱する。加熱部84Eは、例えば、本体部71B全体のうち本体部71Bの下端を含む1/3以上の領域、又は1/2以上の領域を加熱する。
【0061】
加熱部84Eは、本体部71Bの下部に相当する錐部77bの外壁を加熱してもよい。加熱部84Eは、パネル状のヒータ(パネルヒータ)であってもよい。本体部71Bの内部において、ガスG2の旋回流の外側では、冷却用ガスGcの旋回流が形成されているが、本体部71Bの内壁の一部において、ガスG2が、本体部71Bの内壁に接触してしまう可能性がある。加熱部84Eが設けられることで、ガスG2が本体部71Bの内壁に接触してしまうことに起因して、ガスG2が、冷却用ガスGcと混合する前に冷却されるのが抑制される。
【0062】
塩素バイパス設備50は、第2サイクロン70に代えて、図10及び図11に示される第2サイクロン70F(冷却用サイクロン)を備えてもよい。第2サイクロン70Fは、加熱部84Eに代えて加熱部84Fを有する点において第2サイクロン70Eと相違する。加熱部84Fは、冷却用ガスGcよりも温度が高い加熱用ガスGhを、本体部71Bの外壁に沿って流通させることで、本体部71Bの外壁の少なくとも一部を加熱する。
【0063】
加熱部84Fは、本体部71Bの外壁の周囲において、軸線Ax1まわりに旋回しつつ上昇するように、加熱用ガスGhを流通させてもよい。この場合、ガスG2及び冷却用ガスGcは、上方から下方に向かって移動するのに対して、加熱用ガスGhは、下方から上方に向かって移動する。このように、加熱部84Fは、ガスG2及び冷却用ガスGcとは反対向きに、加熱用ガスGhを流通させてもよい。この場合、ガスG2は、下方に移動するに従って、温度がより低下しているので、冷却用ガスGcと混合する前でのガスG2の冷却を効率よく抑制できる。
【0064】
塩素バイパス設備50は、第2サイクロン70に代えて、図12(a)及び図12(b)に示される第2サイクロン70G(冷却用サイクロン)を備えてもよい。第2サイクロン70Gは、ガス導入口72及びガス導入口74を介して、下方からガスG2及び冷却用ガスGcを本体部71Gの内部に導入する。第2サイクロン70Gのガス導入口72及びガス導入口74は、下方を向く開口である。
【0065】
第2サイクロン70Gは、その本体部71Gの内部において、水平な軸線Ax2まわりに、ガスG2及び冷却用ガスGcを旋回させる。軸線Ax2は、水平な方向に延びる仮想的なラインである。本体部71Gの内部では、ガスG2の旋回流の外側において、冷却用ガスGcが旋回する。第2サイクロン70Gでは、軸線Ax2が通り、水平な向きの開口であるガス排出口82Gから、ガスG2及び冷却用ガスGcが混合して得られるガスG3が排出される。第2サイクロン70Gでは、下方を向く開口である粉体排出口78から、原料ダストの微粉が排出される。
【0066】
塩素バイパス設備50は、第2サイクロン70に代えて、図13(a)に示される第2サイクロン70H(冷却用サイクロン)を備えてもよい。第2サイクロン70Hは、ガス導入口72及びガス導入口74が互いに異なる角度からガスをそれぞれ導入する点において、第2サイクロン70Gと相違する。第2サイクロン70Hでは、ガスを導入する部分に関して、図5に示される第2サイクロン70Aと同様の構成が採用されている。
【0067】
塩素バイパス設備50は、第2サイクロン70に代えて、図13(b)に示される第2サイクロン70I(冷却用サイクロン)を備えてもよい。第2サイクロン70Iは、本体部71Gの外壁を加熱する加熱部84Iを更に有する点において、第2サイクロン70Hと相違する。加熱部84Iは、本体部71Gの外壁の少なくとも一部を加熱する。加熱部84Iは、図9に示される加熱部84Eと同様に、パネル状のヒータであってもよく、図10及び図11に示される加熱部84Fと同様に、本体部71Gの外壁に沿って加熱用ガスGhを流通させてもよい。
【0068】
以上に説明した第2サイクロン70では、第1サイクロン60で分級が行われた後の抽気ガスであるガスG2が冷却されたが、第2サイクロン70は、ガスG2に代えて、ガスG1を冷却してもよい。この場合、第2サイクロン70には、抽気ガスであるガスG1そのものが、抽気ガスに由来する導入ガスとして導入される。また、塩素バイパス設備50は、第1サイクロン60を備えていなくてもよい。
【0069】
第2サイクロン70は、導入されるガス(例えば、ガスG2)の旋回流の外側において、冷却用ガスGcの旋回流を形成したうえで、導入されるガスを冷却できる限り、どのように構成されてもよい。以上に説明した種々の例のうちの1つの例において、他の例で説明した事項の少なくとも一部が組み合わせられてもよい。
【0070】
[本開示のまとめ]
以上に説明した塩素バイパス設備50は、セメント原料を焼成するセメントキルン20からの排ガスの一部を抽気する抽気口52と、抽気口52から抽気された抽気ガスに由来する導入ガス(G1,G2)を旋回させつつ、導入ガス(G1,G2)から粉体を分離するように構成されており、導入ガス(G1,G2)を冷却する冷却用サイクロン(70,70A~70I)と、を備える。冷却用サイクロン(70,70A~70I)は、導入ガス(G1,G2)の旋回流が形成される本体部71,71B,71Gに対して導入ガス(G1,G2)を導入するガス導入口72と、導入ガス(G1,G2)よりも温度が低い冷却用ガスGcを、導入ガス(G1,G2)の旋回流の外側において旋回するように本体部71,71B,71Gに対して導入するガス導入口74と、導入ガス(G1,G2)と冷却用ガスGcとが混合されて得られるガス(G3)を本体部71,71B,71Gから排出するガス排出口82と、を有する。
【0071】
セメントキルン20からの排ガスを抽気して得られる抽気ガスに由来するガスを冷却するために、当該ガスが流通するダクトの途中に、冷却用ガスを導入する方法が考えられる。この方法が採用される場合、上記ダクトのうちの冷却用ガスの導入部分よりも上流に位置する部分が保温部を構成し、保温部よりも下流に位置する部分が冷却部を構成する。この場合、保温部のうちの下流に位置する端部では、冷却用ガスにより温度が低下する。そして、上記端部の温度が低下すると、上記端部において抽気ガスに由来するガスが冷却されて、塩素分の凝縮によりコーチングが発生し得る。
これに対して、上記塩素バイパス設備50では、抽気ガスに由来する導入ガス(G1,G2)が、冷却用サイクロンの内部において、冷却用ガスGcと混合されることで冷却される。冷却用サイクロンの内部では、上述したように、導入ガス(G1,G2)が流通する流路を形成する部分が、冷却用ガスGcによって冷却され難い。従って、上記塩素バイパス設備50は、抽気されたガス(G1,G2)の冷却に伴うコーチングの発生を抑制するのに有用である。
【0072】
以上に説明した塩素バイパス設備50は、抽気ガス(G1)の温度を770℃以上に維持した状態で、抽気ガス(G1)に含まれる原料ダストの粗粉を抽気ガス(G1)から分離して原料ダストの微粉を含む分級後ガスを生成する分級用サイクロン(60)を更に備える。冷却用サイクロン(70,70A~70I)には、上記分級後ガスが導入ガス(G2)として導入されてもよい。この場合、塩素濃度が低い原料ダストの粗粉をセメントキルン20に戻すことで、セメントキルン20への塩素の導入量を低減しつつ、塩素バイパス設備50において処理すべきダストの量の増加を抑制することができる。
【0073】
以上に説明した塩素バイパス設備50において、ガス導入口72及びガス導入口74は、互いに一致する角度から、本体部71に対してガスをそれぞれ導入し、冷却用サイクロン(70C)は、ガス導入口72から導入された導入ガス(G1,G2)をガイドする部分と、ガス導入口74から導入された冷却用ガスGcをガイドする部分との境界部分(75C)に配置され、当該境界部分(75C)を加熱する加熱部84Cを更に有してもよい。この場合、2種類のガスを導入するための部分の構造を簡素化しつつ、ガス導入口74から導入された冷却用ガスGcに起因して、ガス導入口72から導入された導入ガス(G1,G2)の温度が、冷却用ガスGcと混合される前に低下するのを抑制できる。
【0074】
以上に説明した塩素バイパス設備50において、ガス導入口72及びガス導入口74は、互いに異なる角度から、本体部71に対してガスをそれぞれ導入してもよい。この場合、ガス導入口74から導入された冷却用ガスGcに起因して、ガス導入口72から導入された導入ガス(G1,G2)の温度が、冷却用ガスGcと混合される前に低下するのを抑制できる。
【0075】
以上に説明した塩素バイパス設備50において、冷却用サイクロン(70D)は、ガス導入口72から導入された導入ガス(G1,G2)をガイドする部分(71b)の外壁のうち、ガス導入口74から導入された冷却用ガスGcをガイドする部分(71c)に対向する部分を加熱する加熱部84Dを更に有してもよい。この場合、ガス導入口74から導入された冷却用ガスGcに起因して、ガス導入口72から導入された導入ガス(G1,G2)の温度が、冷却用ガスGcと混合される前に低下するのを更に抑制できる。
【0076】
以上に説明した塩素バイパス設備50において、冷却用サイクロン(70E,70F,70I)は、本体部71B,71Gの外壁の少なくとも一部を加熱する加熱部84E,84F,84Iを更に有してもよい。本体部71B,71Gの内壁において、導入ガス(G1,G2)が、本体部71B,71Gの内壁に局所的に接触してしまう可能性がある。上記構成では、加熱部84E,84F,84Iが設けられることで、導入ガス(G1,G2)が本体部71B,71Gの内壁に接触してしまうことに起因して、導入ガス(G1,G2)が、冷却用ガスGcと混合する前に冷却されるのが抑制される。
【0077】
以上に説明した塩素バイパス設備50において、加熱部84Fは、冷却用ガスGcよりも温度が高い加熱用ガスGhを、本体部71Bの外壁に沿って流通させることで、本体部71Bの外壁の少なくとも一部を加熱してもよい。加熱部84Fは、導入ガス(G1,G2)及び冷却用ガスGcとは反対向きに、加熱用ガスGhを流通させてもよい。導入ガス(G1,G2)は、冷却用サイクロン内を移動するに従って、温度がより低下しているので、上記構成により、冷却用ガスGcと混合する前での導入ガス(G1,G2)の冷却を効率よく抑制できる。
【0078】
以上に説明した製造装置1は、塩素バイパス設備50と、セメントキルン20と、を備える。製造装置1は、塩素バイパス設備50を備えるので、抽気されたガス(G1,G2)の冷却に伴うコーチングの発生を抑制するのに有用である。
【0079】
以上に説明したセメントクリンカの製造方法は、製造装置1を用いてセメントクリンカを製造する。この製造方法では、塩素バイパス設備50を備えた製造装置1が用いられるので、抽気されたガス(G1,G2)の冷却に伴うコーチングの発生を抑制するのに有用である。
【0080】
以上に説明した塩素バイパス設備50の運転方法は、セメント原料を焼成するセメントキルン20からの排ガスの一部を抽気して抽気ガスを得る抽気工程と、導入されたガスを旋回させつつ、当該ガスから粉体を分離するように構成された冷却用サイクロン(70,70A~70I)を用いて、抽気ガスに由来する導入ガス(G1,G2)を冷却する冷却工程と、を含み、冷却工程は、冷却用サイクロン(70,70A~70I)の本体部71,71B,71Gにおいて導入ガス(G1,G2)の旋回流が形成されるように、本体部71,71B,71Gに対して導入ガス(G1,G2)を導入する第1導入工程と、導入ガス(G1,G2)よりも温度が低い冷却用ガスGcを、導入ガス(G1,G2)の旋回流の外側において旋回するように本体部71,71B,71Gに対して導入する第2導入工程と、導入ガス(G1,G2)と冷却用ガスGcとが混合されて得られるガス(G3)を本体部71,71B,71Gから排出する排出工程と、を含む。この運転方法は、上記塩素バイパス設備50と同様に、抽気されたガス(G1,G2)の冷却に伴うコーチングの発生を抑制するのに有用である。
【符号の説明】
【0081】
1…セメントクリンカの製造装置、10…プレヒータ、12…仮焼炉、14…ライジングダクト、20…セメントキルン、50…塩素バイパス設備、60…第1サイクロン、70,70A~70I…第2サイクロン、71,71B,71G…本体部、71a,71b,71c…ガイド部、72,74…ガス導入口、75,75C…ガイド板、82,82G…ガス排出口、84C,84D,84E,84F,84I…加熱部、G1,G2,G3…ガス、Gc…冷却用ガス、Gh…加熱用ガス。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13