(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123964
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】空気分離装置及び空気分離方法
(51)【国際特許分類】
F25J 3/04 20060101AFI20240905BHJP
F25J 3/08 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
F25J3/04 103
F25J3/08
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031817
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】長澤 祐介
(72)【発明者】
【氏名】善方 孝行
【テーマコード(参考)】
4D047
【Fターム(参考)】
4D047AA08
4D047AB02
4D047BA03
4D047BA07
4D047BB05
4D047CA04
4D047CA17
4D047DA04
4D047DA05
4D047EA00
(57)【要約】
【課題】空気分離装置の減量運転中に、原料空気温度の上昇に伴って前処理吸着器が過負荷状態となることを予防できる空気分離装置を提供する。
【解決手段】この空気分離装置1は、製品窒素ガス流量検出器22、前処理吸着器12へのガス導入経路の温度検出器51、温度検出器51で検出した温度から発生可能な最大製品窒素ガス流量を演算する演算器52、原料空気圧縮機11に設けられて製品窒素ガス圧力検出器20で検出した圧力測定値に基づいて原料空気圧縮機11の吐出流量を制御するガイドベーン24、及び、製品窒素ガス流量検出器22の計測値が演算器52で演算した最大製品窒素ガス流量よりも大きくなった場合、製品窒素ガス流量制御弁25に製品窒素ガス流量制御弁25に製品窒素ガス流量を演算器52で演算した最大製品窒素ガス流量に調節するよう指示する製品窒素ガス流量指示調節計53を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料空気を圧縮する原料空気圧縮機と、前記原料空気圧縮機で圧縮した原料空気中の不純物を除去する前処理吸着器と、前記前処理吸着器で不純物を除去した原料空気を冷却する主熱交換器と、前記主熱交換器で冷却した原料空気を精留して製品窒素ガスを分離する精留塔と、前記精留塔で分離した製品窒素ガスを前記主熱交換器で原料空気と熱交換させて昇温後に導出する製品窒素ガス導出経路と、を有する空気分離装置において、
前記前処理吸着器へのガス導入経路の温度を検出する温度検出器と、
前記温度検出器で検出した温度から発生可能な最大製品窒素ガス流量を演算する演算器と、
前記製品窒素ガス導出経路に設けられ、前記製品窒素ガス導出経路における圧力を検出する製品窒素ガス圧力検出器と、
前記製品窒素ガス導出経路に設けられ、製品窒素ガスの流量を検出する製品窒素ガス流量検出器と、
前記製品窒素ガス導出経路に設けられ、前記製品窒素ガス流量検出器で検出された流量に基づいて製品窒素ガスの流量を変更するように制御される製品窒素ガス流量制御弁と、
前記原料空気圧縮機に設けられ、前記製品窒素ガス圧力検出器で検出した圧力測定値に基づいて当該原料空気圧縮機の吐出流量を制御するガイドベーンと、
前記製品窒素ガス流量検出器の計測値が前記演算器で演算した最大製品窒素ガス流量よりも大きくなった場合、前記製品窒素ガス流量制御弁に製品窒素ガス流量を当該演算器で演算した最大製品窒素ガス流量に調節するよう指示する製品窒素ガス流量指示調節計と、を備えることを特徴とする空気分離装置。
【請求項2】
前記製品窒素ガス導出経路における前記製品窒素ガス圧力検出器より後段位置に設けられ、製品窒素ガスを圧縮する製品窒素ガス圧縮機をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の空気分離装置。
【請求項3】
前記精留塔は、単精留または複数の単精留であることを特徴とする請求項1記載の空気分離装置。
【請求項4】
前記ガイドベーンは、インバータまたは調節弁であることを特徴とする請求項1記載の空気分離装置。
【請求項5】
前記前処理吸着器から導出されたガスの流量を検出する前処理吸着器流量検出器をさらに備え、
前記ガイドベーンは、前記前処理吸着器流量検出器で検出されたガスの流量に基づいて前記原料空気圧縮機の吐出流量を制御することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の空気分離装置。
【請求項6】
原料空気を圧縮する原料空気圧縮機と、前記原料空気圧縮機で圧縮した原料空気中の不純物を除去する前処理吸着器と、前記前処理吸着器で不純物を除去した原料空気を冷却する主熱交換器と、前記主熱交換器で冷却した原料空気を精留して製品窒素ガスを分離する精留塔と、前記精留塔で分離した製品窒素ガスを前記主熱交換器で原料空気と熱交換させて昇温後に導出する製品窒素ガス導出経路と、前記製品窒素ガス導出経路に設けられて製品窒素ガスの流量を変更するように制御される製品窒素ガス流量制御弁と、を備えた空気分離装置を用いて、原料空気から製品窒素ガスを分離させる空気分離方法であって、
前記製品窒素ガス導出経路から導出する製品窒素ガスの流量変化に伴う当該製品窒素ガス導出経路の圧力変化を検出することと、
検出した前記製品窒素ガス導出経路の圧力変化に基づいて製品窒素ガスを所定の圧力に保つように前記原料空気圧縮機の吐出流量を制御することと、
前記前処理吸着器へのガス導入経路の温度を検出することと、
検出された前記ガス導入経路の温度から前記空気分離装置で発生可能な最大製品窒素ガス流量を演算し流量設定値として出力することと、
出力された前記流量設定値によって製品窒素ガスの流量を制限するよう前記製品窒素ガス流量制御弁を制御することで、製品窒素ガスの圧力を上昇させ、それにより前記前処理吸着器の空気処理量を減ずることで当該前処理吸着器が過負荷となることを回避することと、を含むことを特徴とする空気分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気分離装置及び空気分離方法に関し、詳しくは、精留塔を使用して原料空気の精留分離を行い、製品窒素ガスを製造する空気分離装置の構成及びその装置を用いての空気分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、単精留塔を使用して、原料空気から製品窒素ガスを分離・製造する空気分離装置においては、求められる製品窒素ガスの流量が定格の流量よりも低下した場合、いわゆる減量運転が行われ、製品窒素ガス流量を需要に合わせて低減させるために原料空気流量を減少させていた。その結果、原料空気圧縮機から製品窒素取り出し口間の圧力損失が減少し、製品窒素ガス圧力が上昇してしまう。これによって、動力の改善が求められており、それを改善した空気分離装置およびその制御方法が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1に記載の空気分離装置およびその制御方法では、求められる製品窒素ガスの流量が減少した場合、原料空気流量を減少させるとともに、製品窒素ガス圧力が所定の圧力となるよう、原料空気の圧力(原料空気圧縮機の吐出圧力)を調整(特に低減)する。特許文献1に記載の空気分離装置によれば、製品窒素ガスの流量が減少しても、原料空気に対し最適な原料空気の流量と圧力とを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の原料空気圧縮機およびその制御方法では次の課題が残り、さらなる改善が求められている。
【0006】
すなわち、所定の圧力まで昇圧された原料空気は、アフタークーラーで冷却水によって冷却され、前処理吸着器に導入されて、内部の水蒸気や二酸化炭素等が吸着除去される。原料空気に含まれる水蒸気量は、アフタークーラー出口の原料空気温度によって決定される。例えば、アフタークーラー出口の原料空気温度が40℃であれば、その温度における飽和水蒸気が原料空気に含まれることになる。原料空気温度が上昇すると、原料空気に含まれる水蒸気の量が相対的に増加し、前処理吸着器で水蒸気を吸着除去する吸着剤の負荷が増加する。そして、空気分離装置では、前処理吸着器の吸着剤に負荷が超過した状態で長時間運転を続けると、前処理吸着器の吸着剤で吸着できる水分量が超過(過負荷状態)となり、除去されるべき水分が前処理吸着器を通過して下流の熱交換器を閉塞させてしまうため、運転が継続できなくなってしまう。また、前処理吸着器の二酸化炭素を吸着する吸着剤層は、吸湿してしまうと加熱による再生が出来なくなり交換が必要となってしまう。
【0007】
そこで本発明は、空気分離装置において、減量運転中に、原料空気温度の上昇に伴って前処理吸着器が過負荷状態となることを予防できる空気分離装置及び空気分離方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の空気分離装置は、原料空気を圧縮する原料空気圧縮機と、前記原料空気圧縮機で圧縮した原料空気中の不純物を除去する前処理吸着器と、前記前処理吸着器で不純物を除去した原料空気を冷却する主熱交換器と、前記主熱交換器で冷却した原料空気を精留して製品窒素ガスを分離する精留塔と、前記精留塔で分離した製品窒素ガスを前記主熱交換器で原料空気と熱交換させて昇温後に導出する製品窒素ガス導出経路と、を有する空気分離装置において、前記前処理吸着器へのガス導入経路の温度を検出する温度検出器と、前記温度検出器で検出した温度から発生可能な最大製品窒素ガス流量を演算する演算器と、前記製品窒素ガス導出経路に設けられ、前記製品窒素ガス導出経路における圧力を検出する製品窒素ガス圧力検出器と、前記製品窒素ガス導出経路に設けられ、製品窒素ガスの流量を検出する製品窒素ガス流量検出器と、前記製品窒素ガス導出経路に設けられ、前記製品窒素ガス流量検出器で検出された流量に基づいて製品窒素ガスの流量を変更するように制御される製品窒素ガス流量制御弁と、前記原料空気圧縮機に設けられ、前記製品窒素ガス圧力検出器で検出した圧力測定値に基づいて当該原料空気圧縮機の吐出流量を制御するガイドベーンと、前記製品窒素ガス流量検出器の計測値が前記演算器で演算した最大製品窒素ガス流量よりも大きくなった場合、前記製品窒素ガス流量制御弁に製品窒素ガス流量を当該演算器で演算した最大製品窒素ガス流量に調節するよう指示する製品窒素ガス流量指示調節計と、を備えることを特徴としている。
【0009】
さらに、本発明の空気分離装置においては、前記製品窒素ガス導出経路における前記製品窒素ガス圧力検出器より後段位置に設けられ、製品窒素ガスを圧縮する製品窒素ガス圧縮機をさらに備えていることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明の空気分離装置においては、前記精留塔は、単精留または複数の単精留であることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明の空気分離装置においては、前記ガイドベーンは、インバータまたは調節弁であることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明の空気分離装置においては、前記前処理吸着器から導出されたガスの流量を検出する前処理吸着器流量検出器をさらに備え、前記ガイドベーンは、前記前処理吸着器流量検出器で検出されたガスの流量にさらに基づいて前記原料空気圧縮機の吐出流量を制御してもよい。
【0013】
本発明の空気分離方法は、原料空気を圧縮する原料空気圧縮機と、前記原料空気圧縮機で圧縮した原料空気中の不純物を除去する前処理吸着器と、前記前処理吸着器で不純物を除去した原料空気を冷却する主熱交換器と、前記主熱交換器で冷却した原料空気を精留して製品窒素ガスを分離する精留塔と、前記精留塔で分離した製品窒素ガスを前記主熱交換器で原料空気と熱交換させて昇温後に導出する製品窒素ガス導出経路と、前記製品窒素ガス導出経路に設けられて製品窒素ガスの流量を変更するように制御される製品窒素ガス流量制御弁と、を備えた空気分離装置を用いて、原料空気から製品窒素ガスを分離させる空気分離方法であって、前記製品窒素ガス導出経路から導出する製品窒素ガスの流量変化に伴う当該製品窒素ガス導出経路の圧力変化を検出することと、検出した前記製品窒素ガス導出経路の圧力変化に基づいて製品窒素ガスを所定の圧力に保つように前記原料空気圧縮機の吐出流量を制御することと、前記前処理吸着器へのガス導入経路の温度を検出することと、検出された前記ガス導入経路の温度から前記空気分離装置で発生可能な最大製品窒素ガス流量を演算し流量設定値として出力することと、出力された前記流量設定値によって製品窒素ガスの流量を制限するよう前記製品窒素ガス流量制御弁を制御することで、製品窒素ガスの圧力を上昇させ、それにより前記前処理吸着器の空気処理量を減ずることで当該前処理吸着器が過負荷となることを回避することと、を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、前処理吸着器へのガス導入経路の温度を検出する温度検出器の検出温度が上昇した場合に、製品窒素ガス流量及び原料空気圧縮機処理量を低減させることで、前処理吸着器が過負荷にならないようにしつつ原料空気圧縮機の動力を削減することができる。よって、原料空気圧縮機のクーラー性能の劣化や冷却水温度上昇等の異常によって前処理吸着器に導入される空気の温度が上昇したとしても、自動的に原料空気圧縮機の処理量を減少させ、前処理吸着器の吸着剤を損傷することなく、空気分離装置の継続運転することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1形態例を示す空気分離装置の系統図である。
【
図2】本発明の第2形態例を示す空気分離装置の系統図である。
【
図3】実施例の空気分離装置における前処理吸着器入口の原料空気温度と前処理吸着器処理量及び製品窒素ガス流量との関係を示すグラフである。
【
図4】実施例の空気分離装置で本発明が採用されている場合のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図5】実施例の空気分離装置で本発明が採用されていない場合のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の第1形態例を示す空気分離装置1の系統図である。
図1に示す空気分離装置1は、いわゆる単精留塔式の窒素製造装置であり、原料空気を分離・精製させて製品窒素ガスを製造することができる。
【0017】
この空気分離装置1は、原料空気を圧縮する原料空気圧縮機11と、原料空気圧縮機11で圧縮した原料空気中の水分や二酸化炭素等の不純物を除去する前処理吸着器12と、前処理吸着器12で不純物を除去した原料空気を冷却する主熱交換器13と、主熱交換器13で冷却した原料空気を精留分離する単精留塔14と、精留塔還流液を生成する凝縮器15と、装置の運転に必要な寒冷を発生する膨張タービン16と、単精留塔14で分離した製品窒素ガスを主熱交換器13で原料空気と熱交換させて昇温後に導出する製品窒素ガス導出経路17を備えている。
【0018】
またさらに、空気分離装置1は、使用先に供給する製品窒素ガスの圧力及び流量を制御するための機器として製品窒素ガス導出経路17に設けられて、製品窒素ガス導出経路17における圧力を検出する製品窒素ガス圧力検出器20と、製品窒素ガスの流量を検出する製品窒素ガス流量検出器22と、製品窒素ガス流量検出器22で検出された流量に基づいて製品窒素ガスの流量を変更するように制御される製品窒素ガス流量制御弁25とを備えている。また、単精留塔14の底部と凝縮器15とを接続する液化空気経路18には、酸素富化液化空気の流量を制御するための流量指示調節計26及び流量調節弁27が設けられている。
【0019】
また、空気分離装置1は、前処理吸着器12へのガス導入経路の温度を検出する温度検出器51(TI1)と、温度検出器51(TI1)で検出した温度から発生可能な最大製品窒素ガス流量を演算する演算器52(TX1)とを備えている。さらに、原料空気圧縮機11には、製品窒素ガス圧力検出器20で検出した圧力測定値に基づいて原料空気圧縮機11の吐出流量を制御するガイドベーン24が設置され、製品窒素ガス流量検出器22の計測値が演算器52(TX1)で演算した最大製品窒素ガス流量よりも大きくなった場合、製品窒素ガス流量を演算器52(TX1)で演算した最大製品窒素ガス流量となる様に製品窒素ガス流量制御弁25を制御する製品窒素ガス流量指示調節計53とを備えている。
【0020】
空気分離装置1は、その他の構成も備えるが、その他の構成については、
図1と以下に詳述する空気分離装置1を用いての原料空気から製品窒素ガスを製造する過程の説明とを照らし合わせて理解いただきたい。
【0021】
フィルター11aから吸入された原料空気は、原料空気圧縮機11で所定の圧力まで昇圧されて、圧縮熱によって約100℃となる。高温の原料空気はアフタークーラー11bにおいて冷却水との熱交換が行われ、約40℃まで冷却される。その後、原料空気は、前処理吸着器12に導入され、原料空気中の水蒸気、二酸化炭素等の不純物が吸着除去され、コールドボックス19内に導入される。コールドボックス19内に導入された原料空気は、主熱交換器13で製品窒素ガスや廃ガスとの熱交換が行われ、その液化温度付近まで冷却されて単精留塔14の下部に導入される。
【0022】
単精留塔14に導入された原料空気は、精留操作によって塔上部の窒素ガスと塔底部の酸素富化液化空気とに分離する。酸素富化液化空気は、塔底部から液化空気経路18に抜き出されて凝縮器15に導入され、塔上部から経路31に抜き出されて凝縮器15に導入される窒素ガスとの熱交換が行われ、全量が気化して廃ガスとなる。この廃ガスは、経路32から主熱交換器13に導入されて中間温度まで昇温し、経路33に抜き出されて膨張タービン16に導入され、断熱膨張により寒冷を発生させる。膨張後の廃ガスは、経路34から再び主熱交換器13に導入され、常温に昇温して経路35から排出される。
【0023】
凝縮器15に導入された窒素ガスは、全量が液化して液化窒素となり、経路36から単精留塔14の上部に導入されて還流液となる。そして、経路31に抜き出された窒素ガスの一部が経路37に分岐し、主熱交換器13に導入されて常温に昇温し、製品窒素ガス導出経路17を通って製品窒素ガス流量制御弁25を介して使用先に供給される。
【0024】
そして、使用先の窒素ガス消費量が定常運転時に比べて減少すると、これに伴って製品窒素ガス導出経路17の圧力が上昇するので、この圧力上昇を製品窒素ガス圧力検出器20が検出し、検出した圧力値に応じて圧力指示調節計21(PIC_C)によりガイドベーン24を制御し、原料空気圧縮機11の吸入空気量を調節する。このとき、ガイドベーン24は、製品窒素ガス導出経路17に導出されて使用先に供給される製品窒素ガスの圧力が所定の圧力となるように制御される。
【0025】
ここで、前処理吸着器12には吸着剤が充填されており、原料空気中の水分(水蒸気)、二酸化炭素等の不純物が吸着除去される。この吸着剤は水分を吸着する層と二酸化炭素を吸着する層とに分かれているが、水分を吸着する層が過負荷となった場合、水分が二酸化炭素を吸着する層に到達し、二酸化炭素を吸着する吸着剤を不可逆的に損傷してしまい、吸着剤を交換する必要が生じる。吸着剤は処理できる原料空気量/吸着時間の上限があるが、前処理吸着器12の処理量が同一であっても、吸着温度が設計温度よりも高くなった場合や吸着圧力が設計圧力よりも低くなった場合、吸着剤への負荷が大きくなり(過負荷)、設計された吸着時間内であっても所定の原料空気量を処理することはできない。この結果、前処理吸着器12から主熱交換器13に導入される原料空気には、水蒸気、二酸化炭素等が混入する。この場合、前処理吸着器12の再生、吸着剤の交換又は後段の精留塔等の全加熱(空気分離装置の低温部を昇温し、水分、二酸化炭素を除去する操作)が必要となり、空気分離装置の運用上、大きな問題となるおそれがあった。
【0026】
これを対策すべく、空気分離装置1においては、温度検出器51(TI1)にて前処理吸着器12に導入される原料空気の温度が測定され、演算器52(TX1)にて原料空気温度から前処理吸着器12で処理できる最大空気量及びその空気量に対応した製品窒素ガス流量の最大値が算出され、この製品窒素ガス流量の最大値が製品窒素ガス流量指示調節計53(FIC_C)の流量設定値SPとして設定される。製品窒素ガス流量指示調節計53(FIC_C)からは、製品窒素ガス流量が流量設定値SPとなる様に製品窒素ガス流量制御弁25に対して制御信号がローセレクタ54(FY-A)を経由して出される。
【0027】
一方、製品窒素ガスを所定の圧力とすべく圧力調節計23(PIC_A)が圧力指示調節計21(PIC_C)に併設されており、製品窒素ガスの圧力が設定値となる様に製品窒素ガス流量制御弁25に対して制御信号がローセレクタ54(FY-A)を経由して出される。
【0028】
そして、ローセレクタ54(FY-A)によって、製品窒素ガス流量指示調節計53(FIC_C)からの制御信号と圧力調節計23(PIC_A)からの制御信号とが比較されて、より値の小さい方の信号が選択され、その選択された信号によって製品窒素ガス流量制御弁25が制御される。
【0029】
つまり、従来の特許文献1に記載の空気分離装置においては、必要な製品窒素ガス流量が減少し、それに対応して原料空気圧縮機の減量運転を行う際、基本的には原料空気圧縮機から製品窒素ガス流量制御弁までの圧力損失、流量のみから原料空気圧縮機11の圧力・流量を制御、すなわち圧力指示調節計21(PIC_C)でガイドベーン24を制御することによって原料空気圧縮機11の動力を最小限とする運転が行われてきたが、本形態例における空気分離装置1では、前処理吸着器12に導入される原料空気の温度上昇によって前処理吸着器12が過負荷状態となる懸念がある場合には、直ちに前処理吸着器12の過負荷運転の回避を優先するための制御、すなわち製品窒素ガス流量指示調節計53(FIC_C)による製品窒素ガス流量制御弁25の制御に切り替わる制御を可能としている。
【0030】
すなわち、本形態例における空気分離装置1は、前処理吸着器12が過負荷状態とならない様、製品窒素ガス流量制御弁25によって製品窒素ガスの流量が制限される。その結果、製品窒素ガス圧力検出器20の検出値が上昇するので、製品窒素ガスを所定の圧力に保持するため圧力指示調節計21(PIC_C)からは圧力を低下させる方向の信号が出力され、原料空気圧縮機11のガイドベーン24が制御され、原料空気量が減量される。
【0031】
上述のように、空気分離装置1を用いて、原料空気から製品窒素ガスを分離させる空気分離方法は、製品窒素ガス導出経路17から導出する製品窒素ガスの流量変化に伴う製品窒素ガス導出経路17の圧力変化を検出することと、検出した製品窒素ガス導出経路17の圧力変化に基づいて製品窒素ガスを所定の圧力に保つように原料空気圧縮機の吐出流量を制御することと、前処理吸着器12へのガス導入経路の温度を検出することと、検出された前記ガス導入経路の温度から空気分離装置1で発生可能な最大製品窒素ガス流量を演算し流量設定値として出力することと、出力された流量設定値によって製品窒素ガスの流量を制限するよう製品窒素ガス流量制御弁25を制御することで、製品窒素ガスの圧力を上昇させ、それにより前処理吸着器12の空気処理量を減ずることで前処理吸着器12が過負荷となることを回避することと、を含むものである。
【0032】
本形態例の空気分離装置1は、製品窒素ガスの流量を検出する製品窒素ガス流量検出器22と、前処理吸着器12へのガス導入経路の温度を検出する温度検出器51(TI1)と、温度検出器51(TI1)で検出した温度から発生可能な最大製品窒素ガス流量を演算する演算器52(TX1)と、原料空気圧縮機11に設けられて製品窒素ガス圧力検出器20で検出した圧力測定値に基づいて原料空気圧縮機11の吐出流量を制御するガイドベーン24と、製品窒素ガス流量制御弁25にガス流量を調節するよう指示する製品窒素ガス流量指示調節計53とを備えている。そして、空気分離装置1では、製品窒素ガス流量検出器22の計測値が演算器52(TX1)で演算した最大製品窒素ガス流量よりも大きくなった場合、製品窒素ガス流量指示調節計53は、製品窒素ガス流量が演算器52(TX1)で演算した最大製品窒素ガス流量となる様に製品窒素ガス流量制御弁25を調節することから、前処理吸着器12に導入される原料空気の温度上昇によって前処理吸着器12が過負荷状態となる懸念がある場合には、直ちに前処理吸着器12の過負荷運転の回避を優先するための制御に切り替わるようになる。したがって、空気分離装置1のように構成された空気分離装置によれば、減量運転中に、原料空気温度の上昇に伴って前処理吸着器12が過負荷状態となることを予防することができる。
【0033】
また、上記空気分離方法では、製品窒素ガス導出経路17から導出する製品窒素ガスの流量変化に伴う製品窒素ガス導出経路17の圧力変化を検出し、検出した製品窒素ガス導出経路17の圧力変化に基づいて製品窒素ガスを所定の圧力に保つように原料空気圧縮機の吐出流量を制御し、前処理吸着器12へのガス導入経路の温度を検出し、検出された前記ガス導入経路の温度から空気分離装置1で発生可能な最大製品窒素ガス流量を演算し流量設定値として出力し、出力された流量設定値によって製品窒素ガスの流量を制限するよう製品窒素ガス流量制御弁25を制御し、製品窒素ガスの圧力を上昇させ、それにより前処理吸着器12の空気処理量を減ずることで前処理吸着器12が過負荷となることを回避している。したがって、上記空気分離方法によれば、空気分離装置1の減量運転中に、原料空気温度の上昇に伴って前処理吸着器12が過負荷状態となることを予防することができる。
【0034】
本形態例における空気分離装置1及び空気分離方法によれば、原料空気圧縮機11のクーラー性能の劣化や冷却水温度上昇等の異常によって前処理吸着器12に導入される空気の温度が上昇した場合でも、自動的に原料空気圧縮機11の処理量を減少させ、前処理吸着器12の吸着剤を損傷することなく継続運転することも可能となる。
【0035】
図2は、本発明の第2形態例を示す空気分離装置101の系統図である。なお、以下の説明において、前記第1形態例に示した空気分離装置の構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
図2に示す第2形態例の空気分離装置101は、基本的には
図1に示す第1形態例の空気分離装置1と同様の構成を備え、同様の制御による空気分離方法が適用されるが、次の点で異なる。
【0036】
すなわち、第1形態例の空気分離装置1に対し、第2形態例を示す空気分離装置101では、前処理吸着器12から導出されたガスの流量を検出する前処理吸着器流量検出器60をさらに備え、製品窒素ガス圧力検出器20で検出した圧力測定値と前処理吸着器流量検出器60で検出されたガスの流量とに基づいて、ガイドベーン24が調整され、その結果、原料空気圧縮機の吐出流量を制御している点で異なる。
【0037】
空気分離装置101では、圧力指示調節計21(PIC_C)の出力値を基に、演算器(FX_2)62で演算し、前処理吸着器出口流量指示調節計61(FIC_2)の設定値を変更することができる。つまり、前処理吸着器12が過負荷とならない様に、前処理吸着器12に導入される原料空気の流量を制御することができる。
【0038】
前処理吸着器12の入口空気温度上昇時に前処理吸着器出口流量指示調節計61(FIC_2)の設定値を直接変更しても、製品窒素ガスの使用量に変動が無ければ製品窒素ガス圧力が低下してしまうことになるが、空気分離装置101では、前処理吸着器12の入口温度の計測により製品窒素ガス流量を制限し、これによる圧力上昇を前処理吸着器12の入口流量の設定値調整に使用し、製品窒素ガスの流量及び圧力を介してガイドベーン24を間接的に操作する制御構成によりそれを回避している。
【0039】
本形態例の空気分離装置101によれば、上述のように、前処理吸着器12に導入される原料空気の流量を直接制御することにより、前処理吸着器12が過負荷状態となることを予防することができる。
【0040】
なお、上述の第1形態例及び第2形態例では、原料空気圧縮機11の吐出流量を制御する流量制御器としてガイドベーン24を備えているが、ガイドベーン24としては、インバータまたは調節弁を採用することができる。この他にも、吸入弁であってもよく、圧縮機駆動用電動機の回転数を制御して流量を調節する方式、その他の各種流量制御手段を採用することができる。また、圧力検出器として圧力指示調節計を例示したが、圧力検出と吐出流量制御とは任意の機器を使用して行うことが可能である。また、単精留塔を使用して精留分離を行う例を挙げたが、単精留塔を複数用いて製品収率を改善した空気分離装置等でも同様の制御を行うことが可能である。また、製品窒素のみを製造する空気分離装置を例に挙げたが、さらに酸素を併産する空気分離装置であってもよい。さらに、製品窒素ガス導出経路17の製品窒素ガス圧力検出器20より後段位置に製品窒素ガス圧縮機41を設け、必要に応じて製品窒素ガスを圧送することもできる。このとき、製品窒素ガス導出経路17の圧力が一定に保たれているため、製品窒素ガス圧縮機41への外乱を少なくすることができ、製品窒素ガスを所定圧力で安定して供給することができる。
【0041】
なお、上述の第1形態例及び第2形態例で示した空気分離装置(窒素製造装置)は一例であり、また、各図面は必ずしも全ての構成を反映したものではない。例えば、各形態例では、膨張タービンによって装置の運転に必要な寒冷を発生させているが、液化窒素を外部から注入することで、装置の運転に必要な寒冷を得るプロセスの空気分離装置であってもよい。また、上述の圧力・温度は一例であり、装置仕様によって異なった値をとり得る。
【実施例0042】
800kPaGの窒素ガスを3500Nm
3/h製造する
図1の空気分離装置1と同様の構成の空気分離装置(以降「シミュレーションに用いる空気分離装置」又は単に「空気分離装置」と記載する。)を例としたシミュレーションを行った。以降においては、
図1の符号を付して説明する。
【0043】
このシミュレーションに用いる空気分離装置1においては、空気圧縮機必要処理量は6190Nm3/h、その吐出圧力は875kPaGである。この空気分離装置1では、製品窒素ガス使用量が2584Nm3/h(定格の約74%運転)まで減少した場合には、原料空気圧縮機11の必要処理量が5270Nm3/h、その吐出圧力は860kPaGとなり、約94kWの動力が削減する。
【0044】
図3は、シミュレーションに用いる空気分離装置における前処理吸着器12入口の原料空気温度と前処理吸着器処理量及び製品窒素ガス流量との関係を示すグラフである。
図4は、シミュレーションに用いる空気分離装置で本発明が採用されている場合のシミュレーション結果を示すグラフである。
図5は、特許文献1のように本発明が採用されていない場合の空気分離装置のシミュレーション結果を示すグラフである。
【0045】
図3に示すように、この空気分離装置では、前処理吸着器12の入口の原料空気温度が上昇すると、同伴される水蒸気量が上昇するので、その同伴された水蒸気を除去するために、前処理吸着器12で処理が可能な処理量は減少する。また、前処理吸着器12で処理が可能な処理量の減少に伴い製品窒素量が減少する。
【0046】
上述したように、演算器52(TX1)は、温度検出器51(TI1)にて測定された前処理吸着器12に導入される原料空気の温度によって、前処理吸着器12で処理できる最大空気量及びその空気量に対応した製品窒素ガス流量の最大値を算出し、製品窒素ガス流量指示調節計53(FIC_C)の流量設定値SPとして出力する。
【0047】
この空気分離装置を用い、本発明が採用されている場合と本発明が採用されていない場合について、時間経過に伴って原料空気流量、前処理吸着器12の出口におけるCO
2濃度、前処理吸着器12の入口の原料空気温度、及び、前処理吸着器12に同伴される水分量(持込水分量)がどのように変化するかをシミュレーションした。なお、シミュレーションをするにあたって、前処理吸着器12は、2塔で構成され120分切り替え方式、導入される原料空気温度が38℃の吸着器を想定した。また、前処理吸着器12の吸着運転開始後、40分経過した時点で、何らかの原因で、原料空気温度が2~3℃上昇した場合(
図4のA、
図5のA)を想定した。これに伴い、原料空気と共に前処理吸着器12に同伴される水蒸気は11~17%増加する。したがって、増加した水蒸気量、及び温度上昇に伴う吸着性能の低下を考慮して原料空気量を減量する必要がある。
【0048】
本発明が採用されている場合、前処理吸着器12の入口の原料空気温度が上昇するのに伴い、製品窒素ガス流量調節計53(FIC_C)における製品窒素ガス流量設定値を、演算器52(TX1)で演算した最大製品窒素ガス流量が下回ると、製品窒素ガス流量調節計53(FIC_C)における製品窒素ガス流量設定値が、演算器52(TX1)で演算された値に書き換えられる。その結果、本発明が採用されている場合では、
図4に示されるように、前処理吸着器12の入口の原料空気温度が2~3℃上昇した場合(
図4のA)に、原料空気流量が減量され(
図4のB)、前処理吸着器12に同伴される水分量(持込水分量)が一定となる(
図4のC)。その結果、本発明が採用されている場合では、前処理吸着器12の吸着運転終了時まで、二酸化炭素及び水蒸気の破過がみられない(
図4のD)。
【0049】
一方、本発明が採用されていない場合、
図5に示されるように、前処理吸着器12の入口の原料空気温度が上昇しても(
図5のA)、減量運転されず(
図5のE)、前処理吸着器12に同伴される水分量(持込水分量)が増加する(
図5のF)。その結果、運転終了直前に、二酸化炭素の破過がみられる(
図5のG)。
【0050】
このようなシミュレーション結果からも、空気分離装置は、本発明が採用されることにより、原料空気圧縮機11のクーラー性能の劣化や冷却水温度上昇等の異常があった場合でも、前処理吸着器12の入口空気温度に応じて自動的に空気処理量を減少させ損傷することなく継続運転することが可能となることがわかる。
1,101…空気分離装置、11…原料空気圧縮機、11a…フィルター、11b…アフタークーラー、12…前処理吸着器、13…主熱交換器、14…単精留塔、15…凝縮器、16…膨張タービン、17…製品窒素ガス導出経路、18…液化空気経路、19…コールドボックス、20…製品窒素ガス圧力検出器、21…圧力指示調節計、22…製品窒素ガス流量検出器、23…圧力調節計、24…ガイドベーン、25…製品窒素ガス流量制御弁、31-37…経路、41…製品窒素ガス圧縮機、51…温度検出器、52…演算器 53…製品窒素ガス流量指示調節計、54…ローセレクタ、60…前処理吸着器流量検出器、61…前処理吸着器出口流量指示調節計