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特開2024-123994組換えFc結合性タンパク質抽出試薬
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  • 特開-組換えFc結合性タンパク質抽出試薬 図1
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  • 特開-組換えFc結合性タンパク質抽出試薬 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123994
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】組換えFc結合性タンパク質抽出試薬
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/735 20060101AFI20240905BHJP
   C07K 1/14 20060101ALI20240905BHJP
   C12P 21/00 20060101ALI20240905BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20240905BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240905BHJP
【FI】
C07K14/735 ZNA
C07K1/14
C12P21/00 B
C12P21/02 C
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031861
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井上 成彰
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 遼子
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 陽介
【テーマコード(参考)】
4B064
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA02
4B064CC15
4B064CE02
4B064CE08
4H045AA10
4H045AA20
4H045BA10
4H045DA50
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA01
(57)【要約】
【課題】 ヒト新生児Fcレセプター(FcRn)をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを用いて大腸菌を形質転換して得られる形質転換体を培養し、当該培養した形質転換体内から前記ヒトFcRnを抽出する際、当該ヒトFcRnを効率的に抽出可能な試薬、および前記試薬を用いたヒトFcRnの製造方法を提供すること。
【解決の手段】 前記抽出に用いる試薬のpHをpH6.8以上pH10.5以下とすることで、前記課題を解決する。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子組換えタンパク質を発現可能な大腸菌の菌体内に発現した前記タンパク質を抽出する試薬であって、
前記遺伝子組換えタンパク質が以下の(i)から(iii)のいずれかから選択されるFc結合性タンパク質であり、前記試薬のpHがpH6.8以上pH10.5以下である、前記試薬;
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまでのアミノ酸残基および配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまでのアミノ酸残基および配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただしこれらアミノ酸残基において1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上生じ、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまでのアミノ酸残基および配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまで、および配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド。
【請求項2】
非イオン界面活性剤、糖質分解酵素、および核酸分解酵素のうち、いずれか1つ以上をさらに含む、請求項1に記載の抽出試薬。
【請求項3】
遺伝子組換えタンパク質を発現可能な大腸菌を培養する工程と、抽出試薬を用いて前記培養した大腸菌の菌体内に発現した前記タンパク質を抽出する工程と、前記タンパク質を単離する工程とを含む、遺伝子組換えタンパク質の製造方法であって、
前記遺伝子組換えタンパク質が以下の(i)から(iii)のいずれかから選択されるFc結合性タンパク質であり、前記抽出試薬が請求項1または2に記載の試薬である、前記方法;
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまでのアミノ酸残基および配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまでのアミノ酸残基および配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただしこれらアミノ酸残基において1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上生じ、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまでのアミノ酸残基および配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまで、および配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Fc結合性タンパク質を発現可能な大腸菌の菌体内に発現した前記タンパク質を効率的に抽出可能な試薬、および前記試薬を用いたFc結合性タンパク質の製造方法に関する。特に本発明はFc結合性タンパク質がヒト新生児Fcレセプター(FcRn)である場合に、特に効率的な抽出が可能な試薬、および前記試薬を用いたヒトFcRnの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを用いて大腸菌を形質転換して得られる形質転換体を培養し、当該培養した形質転換体内から前記タンパク質を抽出する方法として、従来より超音波破砕処理やフレンチプレス処理等の物理的破砕による方法や、市販の抽出試薬を用いた化学的処理による方法が知られている。しかしながら、これらの方法を用いて、前記タンパク質を工業的に抽出しようとすると、物理的破砕による方法では超音波破砕装置やフレンチプレス等の破砕装置の設置に莫大な費用がかかる問題があり、化学的処理による方法では高価な抽出試薬を大量に用いる問題がある。
【0003】
前記タンパク質を抽出する方法としては、前述した方法以外にも、種々の界面活性剤を用いた方法が知られており、例えば非イオン界面活性剤と陰イオン界面活性剤であるデオキシコール酸ナトリウムとを含んだ試薬で抽出する方法(特許文献1)や、陽イオン界面活性剤を含む試薬で抽出する方法(特許文献2)や、非イオン界面活性剤と陽イオン界面活性剤とを含む試薬で抽出する方法(特許文献3)が知られている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の抽出試薬は、陰イオン界面活性剤であるデオキシコール酸ナトリウムを含んでいるため、タンパク質の精製工程で一般的に用いられるイオン交換樹脂での精製が困難な場合がある、界面活性剤が除去しにくいという問題点があった。また、動物由来のデオキシコール酸ナトリウムを使用する場合、同一ロット確保の問題があるため、当該抽出試薬を用いることは、タンパク質の工業的生産に不向きである。
【0005】
また、特許文献2および3に記載の抽出試薬は、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)に代表される、陽イオン界面活性剤を含んでいるが、水生生物への毒性があることから、当該抽出試薬を用いることは、安全性の面でタンパク質の工業的生産に不向きである。
【0006】
さらに、前記タンパク質がFc結合性タンパク質である場合、pHがpH5.5以上pH6.5以下の抽出試薬を用いることで効率的に抽出できることが知られている(特許文献4)。しかしながら前記タンパク質がヒト新生児Fcレセプター(FcRn)である場合、特許文献4に記載の方法では効率的な抽出ができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-051943号公報
【特許文献2】特開2006-320313号公報
【特許文献3】特開2013-252099号公報
【特許文献4】特開2022-099244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ヒト新生児Fcレセプター(FcRn)をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを用いて大腸菌を形質転換して得られる形質転換体を培養し、当該培養した形質転換体内から前記ヒトFcRnを抽出する際、当該ヒトFcRnを効率的に抽出可能な試薬、および前記試薬を用いたヒトFcRnの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、抽出試薬のpHを中性または弱塩基性にすることで、形質転換体内からヒト新生児Fcレセプター(FcRn)を効率的に抽出できることを見出した。
【0010】
すなわち本発明の第一の態様は、
遺伝子組換えタンパク質を発現可能な大腸菌の菌体内に発現した前記タンパク質を抽出する試薬であって、
前記遺伝子組換えタンパク質が以下の(i)から(iii)のいずれかから選択されるFc結合性タンパク質であり、前記試薬のpHがpH6.8以上pH10.5以下である、前記試薬である;
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまでのアミノ酸残基および配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまでのアミノ酸残基および配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただしこれらアミノ酸残基において1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上生じ、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまでのアミノ酸残基および配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまで、および配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド。
【0011】
また本発明の第二の態様は、
非イオン界面活性剤、糖質分解酵素、および核酸分解酵素のうち、いずれか1つ以上をさらに含む、前記第一の態様に記載の抽出試薬である。
【0012】
さらに本発明の第三の態様は、
遺伝子組換えタンパク質を発現可能な大腸菌を培養する工程と、抽出試薬を用いて前記培養した大腸菌の菌体内に発現した前記タンパク質を抽出する工程と、前記タンパク質を単離する工程とを含む、遺伝子組換えタンパク質の製造方法であって、
前記遺伝子組換えタンパク質が以下の(i)から(iii)のいずれかから選択されるFc結合性タンパク質であり、前記抽出試薬が前記第一または第二の態様に記載の試薬である、前記方法である;
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまでのアミノ酸残基および配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまでのアミノ酸残基および配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただしこれらアミノ酸残基において1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上生じ、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまでのアミノ酸残基および配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまで、および配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド。
【発明の効果】
【0013】
本発明の抽出試薬は、ヒト新生児Fcレセプター(FcRn)を発現可能な大腸菌の菌体内に発現した前記レセプターを抽出する試薬であって、当該試薬のpHがpH6.8以上pH10.5以下であることを特徴としている。本発明の抽出試薬により、ヒトFcRnをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを用いて大腸菌を形質転換して得られる形質転換体内に発現したヒトFcRnを効率的に抽出できる。
【0014】
また本発明の抽出試薬を用いたヒトFcRnの抽出方法は、物理的破砕による方法や市販の抽出試薬を用いた方法と比較し、安価かつ効率的にヒトFcRnを抽出可能であることから、ヒトFcRnの工業的な製造において有用といえる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ヒトFcRnのα鎖の概略図である。図中の数字は配列番号1に記載のアミノ酸配列の番号を示している。図中のSはシグナル配列、ECは細胞外領域、TMは細胞膜貫通領域、Cは細胞内領域を示している。
図2】ヒトFcRnのβ鎖の概略図である。図中の数字は配列番号2に記載のアミノ酸配列の番号を示している。図中のSはシグナル配列、B2Mはβ2ミクログロブリンを示している。
図3】抽出試薬のpHを検討した結果を示している。なお菌体当たりのFc結合性タンパク質(FcRn)収量は、抽出試薬のpHをpH6.0としたときの収量を100%とした相対値で示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0017】
本発明の抽出試薬で抽出するヒトFcRnの一例として、以下の(I)および(II)に示すアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチドがあげられる。
(I)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるヒトFcRnα鎖の細胞外領域(図1のECの領域)に相当する、24番目のアラニン(A)から297番目のセリン(S)までのアミノ酸残基
(II)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるヒトFcRnβ鎖のβ2ミクログロブリン領域(図2のB2Mの領域)に相当する、21番目のイソロイシン(I)から119番目のメチオニン(M)までのアミノ酸残基
したがって、本発明のFc結合性タンパク質は、ヒトFcRnα鎖の細胞外領域(図1のEC領域)やヒトFcRnβ鎖のβ2ミクログロブリン領域(図2のB2Mの領域)のN末端側にあるシグナルペプチド領域(図1および図2のSの領域)の全てまたは一部を含んでもよいし、ヒトFcRnα鎖の細胞外領域(図1のEC領域)のC末端側にある細胞膜貫通領域(図1のTMの領域)および細胞外領域(図1のCの領域)の全てまたは一部を含んでもよい。
【0018】
本明細書において、前記(I)および前記(II)に示すアミノ酸残基を少なくとも含むFc結合性タンパク質とは、当該タンパク質のアミノ酸配列に前記(I)に示すアミノ酸配列および前記(II)に示すアミノ酸配列を少なくとも含んでいればよく、前記(I)に示すアミノ酸残基と前記(II)に示すアミノ酸残基との順番は問わない。すなわち前記(II)に示すアミノ酸残基が、前記(I)に示すアミノ酸残基のN末端側にあってもよく、C末端側にあってもよい。また前記(I)に示すアミノ酸残基と前記(II)に示すアミノ酸残基とが直結した態様であってもよく、GSリンカー(グリシン4残基とセリン1残基の単位の繰り返しからなるリンカー)など公知のリンカーを介して結合した態様であってもよい。
【0019】
本明細書におけるヒトFcRnは、抗体結合活性を有する限り、アミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上を有してもよい。前記態様の具体例として、以下の(i)から(iii)に示す、抗体結合活性を有したFc結合性タンパク質があげられる。
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまでのアミノ酸残基および配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまでのアミノ酸残基および配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまでのアミノ酸残基および配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸残基において、さらに1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および付加のうち、いずれか1つ以上(以下、これらを合わせて「改変」とも表記する)を含むアミノ酸配列を有し、かつFc結合活性を有するポリペプチド、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまでのアミノ酸残基および配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち24番目のアラニンから297番目のセリンまでのアミノ酸残基および配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち21番目のイソロイシンから119番目のメチオニンまでのアミノ酸残基に対して70%以上の相同性を有し、かつFc結合活性を有するポリペプチド。
【0020】
前記(ii)において「1もしくは数個」とは、タンパク質の立体構造におけるアミノ酸残基の位置やアミノ酸残基の種類によっても異なるが、例えば、1から50個、1から40個、1から30個、1から20個、1から10個、1から5個、1から3個のいずれかを意味する。「1もしくは数個」のアミノ酸残基の改変は、例えば、免疫グロブリン結合活性を有する限り、特開2018-183087号公報、特開2021-073883号公報、特開2021-136967号公報および特開2022-076998号で開示の改変以外の位置に生じてよい。
【0021】
また前記(ii)における「1もしくは数個のアミノ酸残基の改変(置換、欠失、挿入、および付加のうち、いずれか1つ以上)」には、前述した特定位置におけるアミノ酸置換の他に、物理的性質および/または化学的性質が類似したアミノ酸間で置換が生じる保守的置換が生じてもよい。保守的置換は、一般に、置換が生じているものと置換が生じていないものとの間でタンパク質の機能が維持されることが当業者において知られている。保守的置換の一例としては、グリシンとアラニン間、セリンとプロリン間、またはグルタミン酸とアラニン間での置換があげられる(タンパク質の構造と機能,メディカル・サイエンス・インターナショナル社,9,2005)。また前記(ii)における「1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、または付加」には、Fc結合性タンパク質の由来の違いや、種の違いなどに基づく、天然にも存在する変異(mutantまたはvariant)も含まれる。
【0022】
前記(ii)の一例として、
特開2018-183087号公報で開示のFc結合性タンパク質、
特開2021-073883号公報で開示のFc結合性タンパク質、
特開2021-136967号公報で開示のFc結合性タンパク質、および
特開2022-076998号で開示のFc結合性タンパク質、
があげられる。
【0023】
前記(iii)におけるアミノ酸配列の相同性は70%以上あればよく、それ以上の相同性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上または95%以上)を有してもよい。なお本明細書において「相同性」とは、類似性(similarity)または同一性(identity)を意味してよく、特に同一性を意味してもよい。「アミノ酸配列の相同性」とは、アミノ酸配列全体に対する相同性を意味する。アミノ酸配列間の「同一性」とは、それらアミノ酸配列における種類が同一であるアミノ酸残基の比率を意味する(実験医学,31(3),羊土社)。アミノ酸配列間の「類似性」とは、それらアミノ酸配列における種類が同一であるアミノ酸残基の比率と側鎖の性質が類似したアミノ酸残基の比率の合計を意味する(実験医学,31(3),羊土社)。アミノ酸配列の相同性は、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)やFASTA等のアラインメントプログラム(alignment program)を利用して決定できる。
【0024】
本発明の抽出試薬は、ヒトFcRnをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを用いて大腸菌を形質転換して得られた形質転換体の細胞壁を溶かすことで、当該形質転換体内に発現したヒトFcRnを機械的な破砕処理をせずに抽出可能な試薬であり、当該試薬のpHが中性から弱塩基性、具体的にはpH6.8以上10.5以下であることを特徴としている。なお前記pHをpH8.5以上pH10.2以下の範囲に設定すると、より好ましい。
【0025】
本発明の抽出試薬には、前記pH条件を満たす限り、非イオン界面活性剤、糖質分解酵素、核酸分解酵素などの添加剤をさらに含んでもよい。これら添加剤は、いずれか1つ以上含むと好ましく、いずれか2つ、または3つすべて含んでもよい。
【0026】
本発明の抽出試薬に非イオン界面活性剤をさらに含ませる場合は、膜タンパク質可溶化剤として通常用いられる中から適宜選択することができ、Triton X-100(商品名)、Triton X-114(商品名)、Brij 58(商品名)、Brij 35(商品名)、Tween 20(商品名)、Tween 80(商品名)、1-O-n-オクチル-β-D-グルコピラノシド、n-オクチル-β-D-チオグルコピラノシド、n-ドデシル-β-D-マルトピラノシド、n-ドデシル-α-D-マルトピラノシド、n-ドデシル-N,N-ジメチルアミン-N-オキシド、イソプロピル-β-D-チオガラクトシド、スクロースモノドデカン酸、n-オクチル-β-D-グルコピラノシド、n-ドデシル-β-D-マルトピラノシド、n-トリデシル-β-D-マルトピラノシド等があげられる。本発明の抽出試薬に含ませる非イオン界面活性剤の濃度は、使用する界面活性剤の臨界ミセル濃度、細胞破砕物などの培養液中の夾雑物の性質や濃度などを考慮し、適宜設定すればよい。一例として、非イオン界面活性剤としてTriton X-100を用いる場合は、終濃度0.2%(w/v)以上2%(w/v)以下の範囲に設定すると好ましく、終濃度0.3%(w/v)以上1%(w/v)以下の範囲に設定すると、より好ましい。
【0027】
本発明の抽出試薬に糖質分解酵素をさらに含ませると、形質転換体(大腸菌)の溶菌が促進されるため好ましい。本発明の抽出試薬に含ませてよい糖質分解酵素としては、膜タンパク質可溶化剤として通常用いられる中から適宜選択することができ、リゾチーム、セルラーゼ、ペクチナーゼおよびそれらの塩等があげられる。糖質分解酵素の濃度は、細胞破砕物などの培養液中の夾雑物の性質や濃度などを考慮し、適宜設定すればよい。一例として、糖質分解酵素としてヒト由来リゾチームを用いる場合は、終濃度0.0001%(w/v)以上0.01%(w/v)以下の範囲に設定すると好ましく、終濃度0.003%(w/v)以上0.008%(w/v)以下の範囲に設定すると、より好ましい。
【0028】
本発明の抽出試薬に核酸分解酵素、特にBenzonase(メルク社製)等のエンドヌクレアーゼ(核酸分解酵素)をさらに含ませると、形質転換体内から、前述した抽出試薬によりタンパク質とともに抽出される、核酸による粘度上昇が抑制できるため好ましい。なお、本発明の抽出試薬に核酸分解酵素をさらに含ませる場合、助剤として終濃度2mmol/L程度の硫酸マグネシウムを含むとよい。
【0029】
その他、本発明の抽出試薬にさらに含ませてもよい成分としては、緩衝液成分、塩類があげられる。緩衝液成分としては、前述したpH範囲で緩衝能を有する成分であれば特に限定はなく、濃度10mM以上200mM以下のクエン酸-リン酸緩衝液、リン酸緩衝液、グリシン-NaOH緩衝液、MES(2-Morpholinoethanesulfonic acid)緩衝液、ADA(N-(2-Acetamido)iminodiacetic acid)緩衝液、PIPES(Piperazine-1,4-bis(2-ethanesulfonic acid))緩衝液、ACES(N-(2-Acetamido)-2-aminoethanesulfonic acid)緩衝液、コラミン-HCl緩衝液、BES(N,N-Bis(2-hydroxyethyl)-2-aminoethanesulfonic acid)緩衝液、TES(N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2-aminoethanesulfonic acid)緩衝液、HEPES(2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid)緩衝液、アセトアミドグリシン緩衝液、Tricine(N-[Tris(hydroxymethyl)methyl]glycine)緩衝液、グリシンアミド緩衝液、Bicine(N,N-Bis(2-hydroxyethyl)glycine)緩衝液、Tris(2-Amino-2-hydroxymethyl-1,3-propanediol)緩衝液、CAPS(N-Cyclohexyl-3-aminopropanesulfonic acid)緩衝液等があげられる。好ましい緩衝液の一例として、濃度50mM以上150mM以下、かつpH8.5以上10.2以下のCAPS緩衝液があげられる。塩類としては、終濃度10mMから1000mMの硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、炭酸塩、ナトリウム塩等があげられる。
【0030】
本発明の抽出試薬を用いて形質転換体内のタンパク質を抽出した後は、当該技術分野における公知の方法を用いて抽出残渣(細胞破砕物など)を除去する精製操作を行なうことで、前記タンパク質を純度高く製造できる。前記精製操作の一例として、液体クロマトグラフィーを用いた分離・精製があげられる。液体クロマトグラフィーとしては、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどがあげられる。これらのクロマトグラフィーを組み合わせて精製操作を行なうことによって、純度の高い前記タンパク質を製造できる。
なお液体クロマトグラフィーを用いた精製操作を行なう際、抽出工程で得られたタンパク質溶液の濁度が高い(すなわち清澄度が低い)と、クロマトグラフィーにおけるタンパク質の分離能の悪化や、カラム性能の再現性が低下するなどの問題が生じるため、抽出工程で得られたタンパク質溶液の清澄度は高いほど好ましい。そのため、あらかじめ遠心やろ過によりタンパク質溶液の清澄度を高めた上でクロマトグラフィーを用いた精製操作を行なうとよい。遠心によりタンパク質溶液の清澄度を高める方法としては、専用ボトルを用いたバッチ式の遠心や、円筒式型、分離版式型などの連続式の遠心がある。ろ過によりタンパク質溶液の清澄度を高める方法としては、精密ろ過膜および/または限外ろ過膜を用いた方法や、ろ過助剤を併用した加圧ろ過による方法があげられる。ろ過に用いる膜の種類(材質、細孔径、分画分子量など)は、不溶物を効率よく除去できるものであれば特に限定はない。
【実施例0031】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら例に限定されるものではない。
【0032】
実施例1 抽出pHの検討(pH10.0)
(1)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド(配列番号4)を含む発現ベクターを用いて大腸菌BL21株(DE3)を形質転換して組換え大腸菌(形質転換体)を得た。なお配列番号3において、1番目のメチオニン(M)からから21番目のアラニン(A)までがOmpAシグナルペプチド(UniProt No.P0A910の1番目から21番目までの領域)のアミノ酸配列であり、22番目のイソロイシン(I)から120番目のメチオニン(M)までがヒトFcRnβ鎖のβ2ミクログロブリン領域に相当するアミノ酸配列(配列番号2に記載のアミノ酸配列の21番目から119番目までの領域)であり、121番目のグリシン(G)から145番目のセリン(S)までがGSリンカー配列であり、146番目のアラニン(A)から419番目のセリン(S)までがヒトFcRnα鎖の細胞外領域に相当するアミノ酸配列(配列番号1に記載のアミノ酸配列の24番目から297番目までの領域であり、420番目から425番目までのヒスチジン(H)がヒスチジンタグ配列であり、426番目のシステイン(C)から432番目のグリシン(G)までがシステインタグ配列(配列番号5)であり、さらに前記ヒトFcRnα鎖の細胞外領域において、以下に示す7箇所のアミノ酸置換が導入されている;
配列番号1の71番目(配列番号3では193番目)のシステイン(C)がアルギニン(R)に置換
配列番号1の78番目(配列番号3では200番目)のアスパラギン(N)がアスパラギン酸(D)に置換
配列番号1の151番目(配列番号3では273番目)のグリシン(G)がアスパラギン酸(D)に置換
配列番号1の192番目(配列番号3では314番目)のアルギニン(R)がロイシン(L)に置換
配列番号1の196番目(配列番号3では318番目)のアスパラギン(N)がアスパラギン酸(D)に置換
配列番号1の232番目(配列番号3では354番目)のグルタミン(Q)がロイシン(L)に置換
配列番号1の295番目(配列番号3では417番目)のリジン(K)がグルタミン酸(E)に置換。
【0033】
(2)(1)で得られたFc結合性タンパク質を発現可能な形質転換体を、50μg/mLのカナマイシンを含む100mLのTB(Terrific Broth)液体培地に接種し、37℃で一晩、好気的に振とう培養することで前培養を行なった。
【0034】
(3)5Lのバッフルフラスコに50μg/mLのカナマイシンを添加した1LのTB液体培地に(2)の前培養液を60mL接種し、37℃で好気的に振とう培養を行なった。
【0035】
(4)培養開始2時間後、氷上にて冷却し、終濃度0.05mMとなるようIPTG(IsoPropyl β-D-1-ThioGalactopyranoside)を添加し、引き続き20℃で一晩、好気的に振とう培養した。
【0036】
(5)培養終了後、培養液を4℃、8000rpmで20分間遠心分離することで菌体を回収した。
【0037】
(6)組換え大腸菌の培養液より菌体を回収後、抽出試薬(150mMの塩化ナトリウム、2.4mMの硫酸マグネシウム、5000Unit/LのBenzonase(メルク社製)、0.006%(w/v)のリゾチーム、および0.6%(w/v)のTriton X-100(商品名)を含む、100mMのCAPS緩衝液(pH10.0))を用いて、室温で2時間の抽出を行なった後、菌体抽出液について4℃で20分間、15000rpmの遠心分離を行なうことで、Fc結合性タンパク質を含むタンパク質抽出液を得た。
【0038】
(7)(6)で得たFc結合性タンパク質を含むタンパク質抽出液を、あらかじめ平衡化液(150mMの塩化ナトリウムを含む100mMのCAPS緩衝液(pH10.0))で平衡化した5mLのNi-NTAアガロース(富士フイルム和光純薬社製)を充填したエコノパックカラム(バイオラッド社製)にアプライした。洗浄液(20mMのイミダゾールおよび150mMの塩化ナトリウムを含む100mMのCAPS緩衝液(pH10.0))で洗浄後、溶出液(300mMのイミダゾールおよび150mMの塩化ナトリウムを含む100mMのCAPS緩衝液(pH10.0))で溶出することでFc結合性タンパク質を含むタンパク質粗精製液を得た(粗精製工程)。
【0039】
(8)(7)で得たFc結合性タンパク質を含むタンパク質粗精製液を1mol/L塩酸(富士フイルム和光純薬社製)を用いてpH6.0に調整した。
【0040】
(9)(8)で得たpH調整後のFc結合性タンパク質を含むタンパク質粗精製液を、あらかじめ150mMの塩化ナトリウムを含む50mMのMES緩衝液(pH6.0)で平衡化した1mLのIgG-Sepharose(Cytiva社製)を充填したポリプレップカラム(バイオラッド社製)にアプライした。平衡化に使用した緩衝液で洗浄後、150mMの塩化ナトリウムを含む50mMのTris緩衝液(pH8.0)で溶出することでFc結合性タンパク質を得た。
【0041】
(10)(9)で得られたタンパク質精製液について280nmの波長における吸光度を測定し精製収量を算出した。
【0042】
実施例2 抽出pHの検討(pH7.0)
実施例1(6)の抽出試薬、実施例1(7)の粗精製工程の平衡化液、洗浄液および溶出液として、下記に示す溶液を用いた他は、実施例1の記載と同様な方法で、形質転換体からのFc結合性タンパク質の抽出、および当該タンパク質の精製を行なった。
抽出試薬:150mMの塩化ナトリウム、2.4mMの硫酸マグネシウム、5000Unit/LのBenzonase(メルク社製)、0.006%(w/v)のリゾチーム、および0.6%(w/v)のTriton X-100(商品名)を含む100mMのTris緩衝液(pH7.0)
平衡化液:150mMの塩化ナトリウムを含む100mMのTris緩衝液(pH7.0)
洗浄液:20mMのイミダゾールおよび150mMの塩化ナトリウムを含む100mMのTris緩衝液(pH7.0)
溶出液:300mMのイミダゾールおよび150mMの塩化ナトリウムを含む100mMのTris緩衝液(pH7.0)
実施例3 抽出pHの検討(pH8.0)
実施例1(6)の抽出試薬、実施例1(7)の粗精製工程の平衡化液、洗浄液および溶出液として、下記に示す溶液を用いた他は、実施例1の記載と同様な方法で、形質転換体からのFc結合性タンパク質の抽出、および当該タンパク質の精製を行なった。
抽出試薬:150mMの塩化ナトリウム、2.4mMの硫酸マグネシウム、5000Unit/LのBenzonase(メルク社製)、0.006%(w/v)のリゾチーム、および0.6%(w/v)のTriton X-100(商品名)を含む100mMのTris緩衝液(pH8.0)
平衡化液:150mMの塩化ナトリウムを含む100mMのTris緩衝液(pH8.0)
洗浄液:20mMのイミダゾールおよび150mMの塩化ナトリウムを含む100mMのTris緩衝液(pH8.0)
溶出液:300mMのイミダゾールおよび150mMの塩化ナトリウムを含む100mMのTris緩衝液(pH8.0)
実施例4 抽出pHの検討(pH9.0)
実施例1(6)の抽出試薬、実施例1(7)の粗精製工程の平衡化液、洗浄液および溶出液として、下記に示す溶液を用いた他は、実施例1の記載と同様な方法で、形質転換体からのFc結合性タンパク質の抽出、および当該タンパク質の精製を行なった。
抽出試薬:150mMの塩化ナトリウム、2.4mMの硫酸マグネシウム、5000Unit/LのBenzonase(メルク社製)、0.006%(w/v)のリゾチーム、および0.6%(w/v)のTriton X-100(商品名)を含む100mMのTris緩衝液(pH9.0)
平衡化液:150mMの塩化ナトリウムを含む100mMのTris緩衝液(pH9.0)
洗浄液:20mMのイミダゾールおよび150mMの塩化ナトリウムを含む100mMのTris緩衝液(pH9.0)
溶出液:300mMのイミダゾールおよび150mMの塩化ナトリウムを含む100mMのTris緩衝液(pH9.0)
比較例1 抽出pHの検討(pH6.0)
実施例1(6)の抽出試薬、実施例1(7)の粗精製工程の平衡化液、洗浄液および溶出液として、下記に示す溶液を用いた他は、実施例1の記載と同様な方法で、形質転換体からのFc結合性タンパク質の抽出、および当該タンパク質の精製を行なった。
抽出試薬:150mMの塩化ナトリウム、2.4mMの硫酸マグネシウム、5000Unit/LのBenzonase(メルク社製)、0.006%(w/v)のリゾチーム、および0.6%(w/v)のTriton X-100(商品名)を含む100mMのMES緩衝液(pH6.0)
平衡化液:150mMの塩化ナトリウムを含む100mMのMES緩衝液(pH6.0)
洗浄液:20mMのイミダゾールおよび150mMの塩化ナトリウムを含む100mMのMES緩衝液(pH6.0)
溶出液:300mMのイミダゾールおよび150mMの塩化ナトリウムを含む100mMのMES緩衝液(pH6.0)
比較例2 抽出pHの検討(pH11.0)
実施例1(6)の抽出試薬、実施例1(7)の粗精製工程の平衡化液、洗浄液および溶出液として、下記に示す溶液を用いた他は、実施例1の記載と同様な方法で、形質転換体からのFc結合性タンパク質の抽出、および当該タンパク質の精製を行なった。
抽出試薬:150mMの塩化ナトリウム、2.4mMの硫酸マグネシウム、5000Unit/LのBenzonase(メルク社製)、0.006%(w/v)のリゾチーム、および0.6%(w/v)のTriton X-100(商品名)を含む100mMのCAPS緩衝液(pH11.0)
平衡化液:150mMの塩化ナトリウムを含む100mMのCAPS緩衝液(pH11.0)
洗浄液:20mMのイミダゾールおよび150mMの塩化ナトリウムを含む100mMのCAPS緩衝液(pH11.0)
溶出液:300mMのイミダゾールおよび150mMの塩化ナトリウムを含む100mMのCAPS緩衝液(pH11.0)
実施例1から4ならびに比較例1から2の結果を合わせて図3に示す。なお図3において、菌体当たりのFc結合性タンパク質(FcRn)収量は、抽出試薬のpHをpH6.0としたとき(比較例1)の収量を100%とした相対値で示している。抽出試薬のpHをpH7.0(実施例2)、pH8.0(実施例3)、pH9.0(実施例4)およびpH10.0(実施例1)のいずれかとすることで、抽出試薬のpHがpH6.0(比較例1)としたときと比較し、菌体当たりのFc結合性タンパク質(FcRn)収量が著しく増大していることがわかる。中でも抽出試薬のpHがpH9.0(実施例4)およびpH10.0(実施例1)のときに、菌体当たりのFc結合性タンパク質(FcRn)収量が特に増大していることがわかる。一方、抽出試薬のpHがpH11.0(比較例2)としたときは、抽出試薬のpHがpH6.0(比較例1)としたときと比較し、菌体当たりのFc結合性タンパク質(FcRn)収量が減少した。
【0043】
以上の結果から、Fc結合性タンパク質(ヒトFcRn)を発現可能な大腸菌の菌体内に発現した前記タンパク質を抽出する試薬のpHをpH6.8以上pH10.5以下とすることで、前記タンパク質を効率的に抽出でき、より好ましくは前記pHをpH8.5以上pH10.2以下とすると、前記タンパク質の抽出をさらに効率的に行なえることがわかる。
図1
図2
図3
【配列表】
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